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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01B
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  G01B
審判 全部無効 2項進歩性  G01B
管理番号 1346945
審判番号 無効2012-800140  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-08-31 
確定日 2018-12-04 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3438692号「回転角検出装置」の特許無効審判事件についてされた平成27年 1月 8日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成27年(行ケ)第10026号、平成27年11月24日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第3438692号の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第3438692号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
被請求人は,平成12年1月28日,名称を「回転角検出装置」とする発明について特許出願をし,平成15年6月13日に特許権の設定登録を受けた(特許第3438692号,以下「本件特許」という。)。
これに対して,請求人は,平成24年8月31日に本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求めることを請求の趣旨とする審判(以下「本件無効審判」という。)を請求した。
本件無効審判に関する,その後の手続の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成24年11月30日 訂正請求(以下,「訂正請求1」という。)
平成24年11月30日 答弁書
平成24年12月17日 手続補正書(被請求人)
平成25年 1月25日 弁駁書(以下,「弁駁書1」という。)
平成25年 4月 5日 口頭審理陳述要領書(請求人及び被請求人)
平成25年 4月19日 第1回口頭審理
平成25年 5月10日 上申書(被請求人)(差出日:平成25年5月13日)
平成25年 5月24日 上申書(請求人)
平成25年 6月17日 審決(以下,「一次審決」という。)
平成25年 7月22日 出訴(平成25年(行ケ)第10206号)
平成26年 2月26日 判決(以下,「一次判決」という。)
平成26年 3月17日 訂正請求申立
平成26年 5月22日 訂正請求(以下,「訂正請求2」という。)
平成26年 7月 4日 弁駁書(以下,「弁駁書2」という。)
平成27年 1月 8日 審決(以下,「二次審決」という。)
平成27年 2月12日 出訴(平成27年(行ケ)第10026号)
平成27年11月24日 判決(以下,「二次判決」という。)
平成27年12月14日 訂正請求申立
平成28年 1月18日 訂正請求(以下,「訂正請求3」という。)
平成28年 2月 2日 手続補正(方式)
平成28年 6月 3日 無効理由通知
平成28年 6月 3日 職権審理結果通知書
平成28年 7月 6日 訂正請求書
平成28年 7月 6日 意見書
平成28年11月15日 審決の予告

以下,平成28年7月6日付け訂正請求を,「本件訂正請求」といい,当該本件訂正請求に係る本件明細書の訂正を,「本件訂正」といい,本件訂正請求に係る訂正請求書に添付した訂正明細書を「訂正明細書」といい,本件訂正後の請求項1,請求項2,請求項3,請求項4に係る発明を,それぞれ,「本件訂正発明1」,「本件訂正発明2」,「本件訂正発明3」,「本件訂正発明4」といい,これらを総称して「本件訂正発明」ということがある。
また,願書に添付した本件明細書及び図面を「本件明細書等」という。
なお,本件訂正請求がされたので,特許法第134条の2第6項の規定により,訂正請求1,訂正請求2及び訂正請求3は取り下げられたものとみなされる。

第2 訂正の適否について
1 訂正内容
本件訂正請求の訂正事項は,以下のとおりである。なお,訂正による変更部分に下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「本体ハウジング側に設けられて被検出物の回転に応じて回転する磁石と,前記本体ハウジングの開口部を覆う樹脂製のカバー側に固定された磁気検出素子とを備え,前記磁石の回転によって変化する前記磁気検出素子の出力信号に基づいて前記被検出物の回転角を検出する回転角検出装置において,前記磁気検出素子は,その磁気検出方向と前記カバーの長手方向が直交するように配置されていることを特徴とする回転角検出装置。」とあるのを,
「自動車の電子スロットルシステムに用いる回転角検出装置であって,
アルミニウム製の本体ハウジングと,
この本体ハウジングの上側部に軸受を介して回転軸が回転支持され,この回転軸周りの回動に応じて内燃機関の吸入空気量を制御するスロットルバルブと,
前記本体ハウジングの下側部に配置され,前記スロットルバルブを駆動するモータと,
前記回転軸の先端部に固定され,前記回転軸の回転に応じて回転する磁石と,
前記本体ハウジングの開口部を前記スロットルバルブ及び前記モータを一括して覆い前記本体ハウジングより熱膨張率が大きい樹脂製で縦長形状のカバーと,
このカバー側に固定された磁気検出素子とを備え,
前記カバーは,自動車の電子スロットルシステムに使用される樹脂で成形され,

前記カバーは,前記スロットルバルブと前記モータとを長手方向に配置する縦長形状であり,
前記カバーは,前記本体ハウジングにボルトで固定され,
前記磁気検出素子は前記カバーの上部内側に前記磁石と同心状に配置されて,前記磁石と前記磁気検出素子との間にはエアギャップが形成され,
前記磁石の回転によって変化する前記磁気検出素子の出力信号に基づいて前記スロットルバルブの回転角を検出する回転角検出装置において,
前記カバーは,前記本体ハウジングに対して前記カバーの長手方向及び短尺方向の位置ずれ発生が皆無でなく固定され,
前記磁気検出素子は,前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際前記カバーの長手方向の位置ずれが短尺方向の位置ずれより大きい位置に,前記磁気検出素子の磁気検出方向と前記カバーの長手方向が直交するように配置され,前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際の磁気検出方向の位置ずれ量を小さくしていることを特徴とする回転角検出装置。」
と訂正する(下線は,訂正箇所である。以下,同様。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記磁石は,被検出物の回転に応じて回転する円筒状のロータコアに固定され,このロータコアの内周側に同軸状に位置するステータコアが前記樹脂製のカバーにモールド成形され,前記ステータコアに直径方向に貫通するように形成された磁気検出ギャップ部に前記磁気検出素子が固定され,該磁気検出ギャップ部が前記カバーの長手方向に延びていることを特徴とする請求項1に記載の回転角検出装置。」とあるのを,
「前記磁石は,前記スロットルバルブの回転に応じて回転する円筒状のロータコアに固定され,
このロータコアの内周側に同軸状に位置するステータコアが前記樹脂製のカバーにモールド成形され,
前記エアギャップは前記磁石と前記ステータコアとの間に形成され,
前記ステータコアに直径方向に貫通するように形成された磁気検出ギャップ部に前記磁気検出素子が固定され,
該磁気検出ギャップ部が前記カバーの長手方向に延びていることを特徴とする請求項1に記載の回転角検出装置。」と訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に「前記被検出物の基準回転角又はその付近で前記磁気検出素子の出力がゼロとなるように前記磁石と前記磁気検出素子が配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転角検出装置。」とあるのを,
「前記スロットルバルブの基準回転角又はその付近で前記磁気検出素子の出力がゼロとなるように前記磁石と前記磁気検出素子が配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転角検出装置。」と訂正する。

(4)訂正事項4
本件明細書の段落0007に「【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために,本発明の請求項1の回転角検出装置では,樹脂製のカバー側に磁気検出素子を固定する場合に,該磁気検出素子をその磁気検出方向とカバーの長手方向が直交するように配置したものである。このようにすれば,磁気検出素子の磁気検出方向がカバーの短尺方向となり,カバーの熱変形による磁気検出方向の寸法変化を小さくすることができ,磁気検出方向の磁束密度の変化を小さくすることができる。これにより,カバーの熱変形による磁気検出素子の出力変動を小さく抑えることができ,回転角の検出精度を向上できる。」とあるのを,
「【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために,本発明の請求項1の回転角検出装置では,アルミニウム製の本体ハウジングの上側部にスロットルバルブを下側部にこのスロットルバルブを駆動するモータを配置し,この本体ハウジングの開口部をスロットルバルブ及びモータを一括してカバーで覆い,カバーを本体ハウジングより熱膨張率が大きい樹脂製とし,且つ,カバーをスロットルバルブとモータとを長手方向に配置する縦長形状として,カバー側に磁気検出素子を固定する場合に,該磁気検出素子をその磁気検出方向と縦長形状のカバーの長手方向が直交するように配置したものである。且つ,本発明の請求項1の回転角検出装置は,自動車の電子スロットルシステムに用いるものであって,カバーと本体ハウジングとの固定が縦長形状カバーの長手方向及び短尺方向の位置ずれが一切生じないというものではない。そして,カバーに熱変形による位置ずれが生じた際,縦長形状カバーの長手方向の位置ずれが短尺方向の位置ずれより大きくなる位置に磁気検出素子が配置されている。このようにすれば,磁気検出素子の磁気検出方向がカバーの短尺方向となり,カバーの熱変形による磁気検出方向の寸法変化を小さくすることができ,即ち,磁石と磁気検出素子との間に形成されたエアギャップの磁気検出方向の寸法変化を小さくすることができ,磁気検出方向の磁束密度の変化を小さくすることができる。これにより,カバーの熱変形による磁気検出素子の出力変動を小さく抑えることができ,自動車の電子スロットルシステムに用いられるスロットルバルブの回転角の検出精度を向上できる。」 と訂正する。

(5)訂正事項5
本件明細書の段落0008に「【0008】本発明を実施する場合は,被検出物の回転に応じて回転する円筒状のロータコアに磁石を固定し,このロータコアの内周側に同軸状に配置するステータコアを樹脂製のカバーにモールド成形し,ステータコアに直径方向に貫通するように形成された磁気検出ギャップ部に磁気検出素子を固定した構成が考えられる。この場合は,請求項2のように,磁気検出ギャップ部がカバーの長手方向に延びるように構成すると良い。この構成では,磁気検出素子の磁気検出方向がカバーの長手方向と直交し,磁気検出方向がカバーの短尺方向となるため,カバーの熱変形による磁気検出方向の寸法変化を小さくでき,磁気検出ギャップ部のギャップの変化やステータコアと磁石とのギャップの変化を小さくすることができて,磁気検出ギャップ部を通過する磁束密度の変化を小さくすることができる。これにより,カバーの熱変形による磁気検出素子の出力変動を小さく抑えることができ,回転角の検出精度を向上することができる。」とあるのを,
「【0008】本発明を実施する場合は,スロットルバルブの回転軸の回転に応じて回転する円筒状のロータコアに磁石を固定し,このロータコアの内周側に同軸状に配置するステータコアを樹脂製のカバーにモールド成形し,ステータコアに直径方向に貫通するように形成された磁気検出ギャップ部に磁気検出素子を固定した構成が考えられる。この場合は,磁石とステータコアとの間にエアギャップが形成される。そして,請求項2のように,磁気検出ギャップ部がカバーの長手方向に延びるように構成すると良い。この構成では,磁気検出素子の磁気検出方向がカバーの長手方向と直交し,磁気検出方向がカバーの短尺方向となるため,カバーの熱変形による磁気検出方向の寸法変化を小さくでき,磁気検出ギャップ部のギャップの変化やステータコアと磁石とのギャップの変化を小さくすることができて,磁気検出ギャップ部を通過する磁束密度の変化を小さくすることができる。これにより,カバーの熱変形による磁気検出素子の出力変動を小さく抑えることができ,自動車の電子スロットルシステムに用いられるスロットルバルブの回転角の検出精度を向上することができる。」

2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項a-1
訂正事項1のうち,特許請求の範囲の請求項1に「自動車の電子スロットルシステムに用いる回転角検出装置であって,」を加えること(以下,「訂正事項a-1」という。)は,本件訂正前の「回転角検出装置」の用途を限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また,本件明細書の発明の詳細な説明の段落0002には「【0002】【従来の技術】自動車の電子スロットルシステムでは,例えば,図8に示すように,金属製(例えばアルミニウム製)のスロットルボディー1に,スロットルバルブ2の回転軸3を回動自在に支持し,スロットルボディー1の下側部に組み付けたモータ4によって減速機構5を介してスロットルバルブ2を回転駆動する。」と記載されていることから,本件明細書の段落0012の「【0012】【発明の実施の形態】[実施形態(1)]以下,本発明を電子スロットルシステムに適用した実施形態(1)を図1乃至図6に基づいて説明する。」との記載における「電子スロットルシステム」が,「自動車の電子スロットルシステム」を意味することは明らかである。
よって,訂正事項a-1は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

イ 訂正事項a-2
訂正事項1のうち,特許請求の範囲の請求項1における「本体ハウジング」とあるのを,「アルミニウム製の本体ハウジング」とする訂正事項(以下,「訂正事項a-2」という。)は,本件訂正前の「本体ハウジング」の材質を限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
また,本件明細書の発明の詳細な説明の段落0013には「【0013】まず,図1に基づいて電子スロットルシステムの概略構成を説明する。内燃機関の吸入空気量を制御するスロットルバルブ11(被検出物)が回転軸12に固定され,この回転軸12が軸受13,14を介して金属製(例えばアルミニウム製)のスロットルボディー15(本体ハウジング)に回動自在に支持されている。」と記載されているから,訂正事項a-2は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

ウ 訂正事項a-3及び訂正事項a-4
訂正事項1のうち,特許請求の範囲の請求項1に「この本体ハウジングの上側部に軸受を介して回転軸が回転支持され,この回転軸周りの回動に応じて内燃機関の吸入空気量を制御するスロットルバルブと,」を加える訂正事項(以下,「訂正事項a-3」という。),及び「前記本体ハウジングの下側部に配置され,前記スロットルバルブを駆動するモータと,」を加える訂正事項(以下,「訂正事項a-4」という。)は,訂正事項a-3により,本件訂正前の「被検出物」を「回転軸周りの回動に応じて内燃機関の吸入空気量を制御するスロットルバルブ」と限定するとともに,さらに訂正事項a-3と訂正事項a-4とが相まって,本件訂正前の「本体ハウジング」について,その「上側部」に,「軸受を介して」「スロットルバルブ」の「回転軸」が「配置」され,「本体ハウジング」の「下側部」に,「スロットルバルブを駆動するモータ」が「配置」されることを特定することで,本件訂正前の「本体ハウジング」の「本体」が備える構成と,その「本体ハウジング」における配置関係を限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
また,本件明細書の発明の詳細な説明の段落0013には「【0013】まず,図1に基づいて電子スロットルシステムの概略構成を説明する。内燃機関の吸入空気量を制御するスロットルバルブ11(被検出物)が回転軸12に固定され,この回転軸12が軸受13,14を介して金属製(例えばアルミニウム製)のスロットルボディー15(本体ハウジング)に回動自在に支持されている。スロットルボディー15の下側部には,スロットルバルブ11を駆動するモータ16が組み付けられ,このモータ16の回転が複数のギア17?19から構成される減速機構20で減速されて回転軸12に伝達されることで,スロットルバルブ11が回転駆動される。」と記載され,さらに,図1より,「11 スロットルバルブ(被検出物)」の「回転軸12」が,「15 スロットルボディ(本体ハウジング)」の上側部(「モータ16が組み付けられ」る「スロットルボディー15の下側部」(段落0013)とは反対の側)に,「軸受13,14」を介して固定されていることが示されている。
よって,訂正事項a-3及び訂正事項a-4は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

エ 訂正事項a-5
訂正事項1のうち,特許請求の範囲の請求項1を「前記回転軸の先端部に固定され,前記回転軸の回転に応じて回転する磁石と,」と訂正する訂正事項(以下,「訂正事項a-5」という。)は,本件訂正前の「本体ハウジング側に設けられて被検出物の回転に応じて回転する磁石」についての訂正事項である。
そして,訂正事項a-5は,本件訂正前に「本体ハウジング側に設けられて」とあったところを,「前記回転軸」,すなわち,「本体ハウジングの上側部に軸受を介して」「回転支持され」る「回転軸」(前記訂正事項a-3参照。)の「先端部に固定され」と具体的に特定し,さらに本件訂正前に「被検出物の回転に応じて回転する」とあったところを,(被検出物であるスロットルバルブを回動させる)「前記回転軸の回転に応じて回転する」と具体的に特定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
また,本件明細書の発明の詳細な説明の段落0014には,「【0014】スロットルバルブ11の回転軸12に固定されたギア19は,円筒カップ状のロータコア21と磁石22を樹脂によりモールド成形して形成されている。これにより,ギア19とロータコア21と磁石22とが一体化された状態で,回転軸12の先端部にかしめ等で固定されている。」と記載されているから,訂正事項a-5は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

オ 訂正事項a-6
訂正事項1のうち,特許請求の範囲の請求項1を「前記本体ハウジングの開口部を前記スロットルバルブ及び前記モータを一括して覆い前記本体ハウジングより熱膨張率が大きい樹脂製で縦長形状のカバーと,」と訂正する訂正事項(以下,「訂正事項a-6」という。)は,本件訂正前における「前記本体ハウジングの開口部を覆う樹脂製のカバー」について「前記スロットルバルブ及び前記モータを一括して覆い前記本体ハウジングより熱膨張率が大きい樹脂製で縦長形状」と限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
また,本件明細書の発明の詳細な説明の段落0004には,「【0004】【発明が解決しようとする課題】上記従来の回転角検出装置では,ホールIC52を固定するステータコア10をモールド成形した樹脂製のカバー9は,これを取り付ける金属製のスロットルボディー1に比べて熱膨張率が大きい。しかも,このカバー9は,スロットルボディー1の下側部に配置されたモータ4や減速機構5を一括して覆うように縦長の形状に形成されているため,その長手方向の熱変形量が大きくなる。」と記載され,段落0015には,「【0015】一方,スロットルボディー15の右端開口部を覆う樹脂製のカバー24は,スロットルボディー15の下側部に配置されたモータ16や減速機構20を一括して覆うように縦長の形状(図2参照)に形成され,カバー24の上部内側には,ホールIC25が配置されたステータコア26とスペーサ27がモールド成形されている。このカバー24をスロットルボディー15にボルト等で固定することで,ステータコア26,ホールIC25がカバー24の内側に固定された状態で組み付けられている。」と記載されている。さらに,本件明細書の発明の詳細な説明の段落0026には,「【0026】以上説明した本実施形態(1)では,ホールIC25を固定するステータコア26をモールド成形した樹脂製のカバー24は,これを取り付ける金属製のスロットルボディー15に比べて熱膨張率が大きい。しかも,このカバー24は,スロットルボディー15の下側部に配置されたモータ16や減速機構20を一括して覆うように縦長の形状に形成されているため,その長手方向の熱変形量が大きくなる。」と記載されている。
よって,訂正事項a-6は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

カ 訂正事項a-7
訂正事項1のうち,本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「前記本体ハウジングの開口部を覆う樹脂製のカバー側に固定された磁気検出素子とを備え,」を,「このカバー側に固定された磁気検出素子とを備え,」とする訂正事項(以下,「訂正事項a-7」という。)は,訂正事項a-6で,本件訂正前における「前記本体ハウジングの開口部を覆う樹脂製のカバー」が「前記スロットルバルブ及び前記モータを一括して覆い前記本体ハウジングより熱膨張率が大きい樹脂製で縦長形状」と限定されたことに伴う表現上の訂正であるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

キ 訂正事項a-8
訂正事項1のうち,特許請求の範囲の請求項1に「前記カバーは,自動車の電子スロットルシステムに使用される樹脂で成形され,」を加える訂正事項(以下,「訂正事項a-8」という。)は,本件訂正前の「樹脂製のカバー」について,「自動車の電子スロットルシステムに使用される樹脂で成形され」たものであることを特定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
また,本件明細書の発明の詳細な説明の段落0026には,「【0026】以上説明した本実施形態(1)では,ホールIC25を固定するステータコア26をモールド成形した樹脂製のカバー24」と記載されているから,本件明細書の発明の詳細な説明には,「カバー24」が「モールド成形した樹脂製」であることは記載されているものの,該樹脂が「自動車の電子スロットルシステムに使用される樹脂」であることは,明記されていない。
しかし,本件明細書の発明の詳細な説明の段落0002に,「【0002】【従来の技術】自動車の電子スロットルシステムでは,・・・(中略)・・・一方,スロットルボディー1の開口部を覆う樹脂製のカバー9にモールド成形されたステータコア10をロータコア7の内周側に同軸状に位置させ,磁石8の内周面をステータコア10の外周面に対向させると共に,ステータコア10に直径方向に貫通するように形成された磁気検出ギャップ部51にホールIC52を固定している。」と記載されているとおり,「自動車の電子スロットルシステム」において「樹脂製のカバー9」を「モールド成形」のための樹脂で成形することは,従来の技術に属するのであって,訂正事項a-8における「自動車の電子スロットルシステムに使用される樹脂」との特定事項は,上記「従来の技術」を確認のために特定した事項に過ぎないと認められるから,本件明細書等に記載した全ての事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではない。
よって,訂正事項a-8は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

ク 訂正事項a-9
訂正事項1のうち,特許請求の範囲の請求項1に「前記カバーは,前記スロットルバルブと前記モータとを長手方向に配置する縦長形状であり,」を加える訂正事項(以下,「訂正事項a-9」という。)は,本件訂正前の「カバー」について,「前記スロットルバルブと前記モータとを長手方向に配置する縦長形状」であることを特定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
また,本件明細書の発明の詳細な説明の段落0015には,「【0015】一方,スロットルボディー15の右端開口部を覆う樹脂製のカバー24は,スロットルボディー15の下側部に配置されたモータ16や減速機構20を一括して覆うように縦長の形状(図2参照)に形成され,カバー24の上部内側には,ホールIC25が配置されたステータコア26とスペーサ27がモールド成形されている。」と記載され,段落0026には,「【0026】以上説明した本実施形態(1)では,ホールIC25を固定するステータコア26をモールド成形した樹脂製のカバー24は,これを取り付ける金属製のスロットルボディー15に比べて熱膨張率が大きい。しかも,このカバー24は,スロットルボディー15の下側部に配置されたモータ16や減速機構20を一括して覆うように縦長の形状に形成されているため,その長手方向の熱変形量が大きくなる。」と記載されている。
さらに,図1及び図2には,「11 スロットルバルブ(被検出物)」と,「スロットルボディー15の下側部に配置されたモータ16」(段落0015)とが,長手方向の反対の側に配置されることが示されている。
よって,訂正事項a-9は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

ケ 訂正事項a-10
訂正事項1のうち,特許請求の範囲の請求項1に「前記カバーは前記本体ハウジングにボルトで固定され,」を加える訂正事項(以下,「訂正事項a-10」という。)は,本件訂正前の「カバー」について,その「本体ハウジング」への組み付けが,「ボルトで固定され」ていることを限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
また,本件明細書の発明の詳細な説明の段落0015には,「【0015】一方,スロットルボディー15の右端開口部を覆う樹脂製のカバー24は,スロットルボディー15の下側部に配置されたモータ16や減速機構20を一括して覆うように縦長の形状(図2参照)に形成され,カバー24の上部内側には,ホールIC25が配置されたステータコア26とスペーサ27がモールド成形されている。このカバー24をスロットルボディー15にボルト等で固定することで,ステータコア26,ホールIC25がカバー24の内側に固定された状態で組み付けられている。」と記載されている。
よって,訂正事項a-10は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

コ 訂正事項a-11
訂正事項1のうち,特許請求の範囲の請求項1に「前記磁気検出素子は前記カバーの上部内側に前記磁石と同心状に配置されて,前記磁石と前記磁気検出素子との間にはエアギャップが形成され,」を加える訂正事項(以下,「訂正事項a-11」という。)は,
a 本件訂正前の「回転角検出装置」における「磁気検出素子」の配置について「前記磁気検出素子は前記カバーの上部内側に前記磁石と同心状に配置され」と具体的に特定するとともに,

b 本件訂正前の「回転角検出装置」における「回転する磁石」と「磁気検出素子」との関係について,「前記磁石と前記磁気検出素子との間にはエアギャップが形成され」ていることを具体的に特定するものである。
よって,訂正事項a-11は,特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
また,本件明細書の発明の詳細な説明の段落0015には,「【0015】一方,スロットルボディー15の右端開口部を覆う樹脂製のカバー24は,スロットルボディー15の下側部に配置されたモータ16や減速機構20を一括して覆うように縦長の形状(図2参照)に形成され,カバー24の上部内側には,ホールIC25が配置されたステータコア26とスペーサ27がモールド成形されている。」と記載され,段落0016には,「【0016】回転角検出装置28のロータコア21とステータコア26は共に鉄等の磁性材料で形成され,図3に示すように,ロータコア21の内周側にステータコア26が同軸状に配置されている。また,磁石22は,円筒状に形成されてロータコア21の内周面に該ロータコア21と同心状に固定され,磁石22の内周面とステータコア26の外周面との間に均一なエアギャップG1 が形成されている。」と記載されている。
さらに,段落0039には,「【0039】その他,本発明は,ステータコアの無い回転角検出装置にも適用できる等,回転角検出装置の構成を適宜変更しても良く,また,スロットルバルブの回転角検出装置以外の回転角検出装置に適用しても良い。」と記載されている。
よって,訂正事項a-11は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

サ 訂正事項a-12
訂正事項1のうち,本件特許請求の範囲の請求項1に「前記磁石の回転によって変化する前記磁気検出素子の出力信号に基づいて前記被検出物の回転角を検出する回転角検出装置において,」を「前記磁石の回転によって変化する前記磁気検出素子の出力信号に基づいて前記スロットルバルブの回転角を検出する回転角検出装置において,」とする訂正事項(以下,「訂正事項a-12」という。)は,本件訂正前における「回転角を検出する」「被検出物」を「スロットルバルブ」に限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
そして,上記「ウ 訂正事項a-3及び訂正事項a-4」及び「エ 訂正事項a-5」で述べたことより,「回転角を検出する」「被検出物」を「スロットルバルブ」とすることは,本件明細書等に記載されている事項であるから,訂正事項a-12は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

シ 訂正事項a-13
訂正事項1のうち,特許請求の範囲の請求項1に「前記カバーは,前記本体ハウジングに対して前記カバーの長手方向及び短尺方向の位置ずれ発生が皆無でなく固定され,」を加える訂正事項(以下,「訂正事項a-13」という。)について検討する。
この点に関して,二次判決では,「第5 当裁判所の判断」「1」 訂正発明及び訂正明細書の記載について」「(2) 訂正明細書の記載事項について」 にて「通常,熱変形は2次元的に発生するものではなく,3次元的にも生ずるものであると解される」(二次判決の判決書第28頁第14?15行)と判示されている。しかしその一方で,「部材同士がボルトにより固定されていても,ボルト軸線と直角方向の荷重を受けた場合に被締付け物間にすべりが発生する場合があるということが,本件特許出願時点において機械工学における技術常識であったことが認められる。したがって,原告主張するように,できるだけボルトを強く締めてカバーを固定するとしても,熱や振動によっては,ボルトにゆるみが発生し,カバーと本体ハウジングとの間に横滑りが生じる場合があり得ると解され,そのような場合を想定して課題を設定することは問題ない。もっとも,カバーと本体ハウジングとの間の相対的な位置ずれ(横すべり)は,常に生じるものではなく,審決が述べるように,ボルトの固定力がカバーに生じる熱応力との関係において強い場合には,横すべりはそもそも生じず,ボルトの固定力がカバーに生じる熱応力を下回る場合にのみ,横すべりが生じる場合がありうるということになる。」(二次判決の判決書第31頁第16行?第32頁第3行)とも判示されている。
そして,上記「ア 訂正事項a-1」によって「回転角検出装置」が,熱や振動に曝される「自動車の電子スロットルシステムに用いる」ことが特定されたことを踏まえれば,「カバーと,本体ハウジングとが,熱変形によって位置ずれが生じる可能性がある」こと自体は,本件特許出願時点における機械工学の技術常識からみて,本件明細書等に記載されているに等しい事項である。そして,上記訂正事項a-12は,かかる事項を注意的に記載したものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的としたものであって,本件明細書等に記載された全ての事項を参酌することにより導かれる技術的事項との関連において,新たな技術的事項を導入するものではなく,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

ス 訂正事項a-14
訂正事項1のうち,特許請求の範囲の請求項1に,前記磁気検出素子の配置について,「前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際前記カバーの長手方向の位置ずれが短尺方向の位置ずれより大きい位置」を加える訂正事項(以下,「訂正事項a-14」という。)について検討する。
該訂正事項a-14のうち,「前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際」とは,上記「シ 訂正事項a-13」で述べた技術常識,つまり「ボルトの固定力がカバーに生じる熱応力を下回る場合にのみ,横すべりが生じる場合がありうる」(二次判決の判決書第31頁第26行?第32頁第2行)ことの言い換えである。そして,上記「コ 訂正事項a-11」で,「前記磁気検出素子は前記カバーの上部内側に前記磁石と同心状に配置されて」と特定されていることを踏まえれば,磁気検出素子が配置される「前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際前記カバーの長手方向の位置ずれが短尺方向の位置ずれより大きい位置」とは,「前記磁気検出素子は前記カバーの上部内側」であって,「前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際前記カバーの長手方向の位置ずれが短尺方向の位置ずれより大きい位置」を意味することになる。
よって,「訂正事項a-14」は,「前記カバーは,前記本体ハウジングに対して前記カバーの長手方向及び短尺方向の位置ずれ発生が皆無でなく固定され,」「前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際」の「カバーの上部内側」における「磁気検出素子」の配置をさらに限定するものであって,特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
また,上記「シ 訂正事項a-13」で述べたとおり,「前記カバーは,前記本体ハウジングに対して前記カバーの長手方向及び短尺方向の位置ずれ発生が皆無でなく固定され,」ていれば,「ボルトの固定力がカバーに生じる熱応力を下回る場合にのみ,横すべりが生じる場合がありうる」(二次判決の判決書第31頁第16行?第32頁第3行)から,「前記磁気検出素子は前記カバーの上部内側」であって,「前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際前記カバーの長手方向の位置ずれが短尺方向の位置ずれより大きい位置」が存在する可能性も皆無であるとはいえない。よって,「訂正事項a-14」は,本件明細書等に記載された全ての事項を参酌することにより導かれる技術的事項との関連において,新たな技術的事項を導入するものではなく,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

セ 訂正事項a-15
訂正事項1のうち,本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に,「その磁気検出方向と前記カバーの長手方向が直交するように配置され,」とあったところを,「前記磁気検出素子の磁気検出方向と前記カバーの長手方向が直交するように配置され,」とする訂正は,「その」が「前記磁気検出素子」を指示する用語であることを明瞭にすることを目的とするものである。よって,訂正事項a-15は,明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

ソ 訂正事項a-16
訂正事項1のうち,本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に,「前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際の磁気検出方向の位置ずれ量を小さくし」を追加する訂正は,上記「シ 訂正事項a-13」で述べたとおり「前記カバーは,前記本体ハウジングに対して前記カバーの長手方向及び短尺方向の位置ずれ発生が皆無でなく固定され,」ていれば,上記「ス 訂正事項a-14」で述べたとおり,「前記磁気検出素子」が配置された「前記カバーの上部内側」において「前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際前記カバーの長手方向の位置ずれが短尺方向の位置ずれより大きい位置」が存在する可能性も皆無であるとはいえず,そのような可能性に対しては,「前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際の磁気検出方向の位置ずれ量を小さくし」うることを確認的に述べた訂正である。
よって,訂正事項a-16は,上記訂正事項a-13及び訂正事項a-14と一体不可分の訂正であって,特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
また,上記訂正事項a-13及び訂正事項a-14で述べたとおり,「前記カバーは,前記本体ハウジングに対して前記カバーの長手方向及び短尺方向の位置ずれ発生が皆無でなく固定され,」ていれば,「前記磁気検出素子は前記カバーの上部内側」であって,「前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際前記カバーの長手方向の位置ずれが短尺方向の位置ずれより大きい位置」が存在する可能性も皆無であるとはいえないから,訂正事項a-16は,本件明細書等に記載された全ての事項を参酌することにより導かれる技術的事項との関連において,新たな技術的事項を導入するものではなく,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

タ 訂正事項1についてのまとめ
以上のとおり,訂正事項1は,特許請求の範囲の減縮,及び,特許請求の範囲の減縮に伴って付随的に生じた明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
ア 訂正事項b-1
訂正事項2のうち,本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に「前記磁石は,被検出物の回転に応じて回転する円筒状のロータコアに固定され,」とあったところを,「前記磁石は,前記スロットルバルブの回転に応じて回転する円筒状のロータコアに固定され,」とする訂正事項(以下,「訂正事項b-1」という。)は,本件訂正前における「被検出物」を,「前記スロットルバルブ」,つまり,「この本体ハウジングの上側部に軸受を介して回転軸が回転支持され,この回転軸周りの回動に応じて内燃機関の吸入空気量を制御するスロットルバルブ」(訂正事項a-3)と限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また,前記「(1)」「ウ 訂正事項a-3及び訂正事項a-4」及び「エ 訂正事項a-5」にて述べたとおり,訂正事項b-1は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

イ 訂正事項b-2
訂正事項2のうち,特許請求の範囲の請求項2に「前記エアギャップは前記磁石と前記ステータコアとの間に形成され,」を加える訂正事項(以下,「訂正事項b-2」という。)は,本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2における,「円筒状のロータコアに固定され」た「磁石」と,「ロータコアの内周側に同軸状に位置するステータコア」を「直径方向に貫通するように形成された磁気検出ギャップ部」に固定された「磁気検出素子」との関係について,「前記エアギャップは前記磁石と前記ステータコアとの間に形成され,」と具体的に特定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また,本件明細書の段落0016には,「【0016】回転角検出装置28のロータコア21とステータコア26は共に鉄等の磁性材料で形成され,図3に示すように,ロータコア21の内周側にステータコア26が同軸状に配置されている。また,磁石22は,円筒状に形成されてロータコア21の内周面に該ロータコア21と同心状に固定され,磁石22の内周面とステータコア26の外周面との間に均一なエアギャップG1 が形成されている。」と記載されているから,訂正事項b-2は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は,本件訂正前の請求項4に記載された「被検出物」を「スロットルバルブ」と限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また,前記「(1)」「ウ 訂正事項a-3及び訂正事項a-4」及び「エ 訂正事項a-5」にて述べたとおり,訂正事項3は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(4)訂正事項4について
ア 訂正事項4は,本件明細書の発明の詳細な説明の段落0007における記載について,
(ア)本件訂正前の「本発明の請求項1の回転角検出装置では,樹脂製のカバー側に磁気検出素子を固定する場合に,該磁気検出素子をその磁気検出方向とカバーの長手方向が直交するように配置したものである。」との記載を,「アルミニウム製の本体ハウジングの上側部にスロットルバルブを下側部にこのスロットルバルブを駆動するモータを配置し,この本体ハウジングの開口部をスロットルバルブ及びモータを一括してカバーで覆い,カバーを本体ハウジングより熱膨張率が大きい樹脂製とし,且つ,カバーをスロットルバルブとモータとを長手方向に配置する縦長形状として,カバー側に磁気検出素子を固定する場合に,該磁気検出素子をその磁気検出方向と縦長形状のカバーの長手方向が直交するように配置したものである。」と訂正し,
(イ)上記(ア)の訂正に続けて,「且つ,本発明の請求項1の回転角検出装置は,自動車の電子スロットルシステムに用いるものであって,カバーと本体ハウジングとの固定が縦長形状のカバー及び短尺方向の位置ずれが一切生じないというものではない。そして,カバーに熱変形による位置ずれが生じた際,縦長形状カバーの長手方向の位置ずれが短尺方向の位置ずれより大きくなる位置に磁気検出素子が配置されている。」との記載を加え,
(ウ)本件訂正前の「このようにすれば,磁気検出素子の磁気検出方向がカバーの短尺方向となり,カバーの熱変形による磁気検出方向の寸法変化を小さくすることができ,」との記載に続けて,「即ち,磁石と磁気検出素子との間に形成されたエアギャップの磁気検出方向の寸法変化を小さくすることができ,」との記載を加え,
(エ)本件訂正前の「これにより,カバーの熱変形による磁気検出素子の出力変動を小さく抑えることができ,回転角の検出精度を向上できる。」との記載を,「これにより,カバーの熱変形による磁気検出素子の出力変動を小さく抑えることができ,自動車の電子スロットルシステムに用いられるスロットルバルブの回転角の検出精度を向上できる。」と訂正するものである。

イ 上記(ア)ないし(エ)は,訂正事項1に係る訂正に伴って,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との記載の整合を図るためになされた訂正であるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

ウ 本件明細書等の図1及び図2には,「15スロットルボディ(本体ハウジング)」の上側部に「11スロットルバルブ(被検出物)」を配置することが示されているから,前記「(1)」「イ 訂正事項a-2」,「ウ 訂正事項a-3及び訂正事項a-4」,「オ 訂正事項a-6」及び「ク 訂正事項a-9」で述べたことより,訂正事項4のうち,上記「ア」「(ア)」は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

エ 二次判決では,「カバーと,本体ハウジングとが,熱変形によって位置ずれが生じる可能性がある」(二次判決の判決書第31頁第21?22行)旨,判示されているから,「シ 訂正事項a-13」,「ス 訂正事項a-14」及び「ソ 訂正事項a-16」で述べたとおり,訂正事項4のうち,上記「ア」「(イ)」は,本件明細書等に記載された全ての事項を参酌することにより導かれる技術的事項との関連において,新たな技術的事項を導入するものではなく,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

オ また,
a「回転角検出装置」における「回転する磁石」と「磁気検出素子」との関係について,「前記磁石と前記磁気検出素子との間にはエアギャップが形成され」ていることは,上記「(1)」「コ 訂正事項a-11について」にて述べたとおり,本件明細書等に記載されている事項である。
b(本件訂正前の)本件明細書等の段落0008に「【0008】・・・本発明を実施する場合は,・・・(中略)・・・この構成では,磁気検出素子の磁気検出方向がカバーの長手方向と直交し,磁気検出方向がカバーの短尺方向となるため,カバーの熱変形による磁気検出方向の寸法変化を小さくでき,磁気検出ギャップ部のギャップの変化やステータコアと磁石とのギャップの変化を小さくすることができて,磁気検出ギャップ部を通過する磁束密度の変化を小さくすることができる。これにより,カバーの熱変形による磁気検出素子の出力変動を小さく抑えることができ,回転角の検出精度を向上することができる。」と記載され,さらに,段落0039には,「【0039】その他,本発明は,ステータコアの無い回転角検出装置にも適用できる等,回転角検出装置の構成を適宜変更しても良く,また,スロットルバルブの回転角検出装置以外の回転角検出装置に適用しても良い。」と記載されている。
以上を総合して判断すれば,訂正事項4のうち,上記「ア」「(ウ)」及び「(エ)」は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は,本件明細書の発明の詳細な説明の段落0008における記載について,本件明細書の段落0008に「【0008】本発明を実施する場合は,被検出物の回転に応じて回転する円筒状のロータコアに磁石を固定し,このロータコアの内周側に同軸状に配置するステータコアを樹脂製のカバーにモールド成形し,ステータコアに直径方向に貫通するように形成された磁気検出ギャップ部に磁気検出素子を固定した構成が考えられる。この場合は,請求項2のように,磁気検出ギャップ部がカバーの長手方向に延びるように構成すると良い。」,及び「これにより,カバーの熱変形による磁気検出素子の出力変動を小さく抑えることができ,回転角の検出精度を向上することができる。」とあるのを,それぞれ,「 【0008】本発明を実施する場合は,スロットルバルブの回転軸の回転に応じて回転する円筒状のロータコアに磁石を固定し,このロータコアの内周側に同軸状に配置するステータコアを樹脂製のカバーにモールド成形し,ステータコアに直径方向に貫通するように形成された磁気検出ギャップ部に磁気検出素子を固定した構成が考えられる。この場合は,磁石とステータコアとの間にエアギッャプが形成される。そして,請求項2のように,磁気検出ギャップ部がカバーの長手方向に延びるように構成すると良い。」,及び「これにより,カバーの熱変形による磁気検出素子の出力変動を小さく抑えることができ,自動車の電子スロットルシステムに用いられるスロットルバルブの回転角の検出精度を向上することができる。」と訂正するものである。

上記訂正事項5は,訂正事項2に係る訂正に伴って,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との記載の整合を図るためになされた訂正であるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また,上記「(2)訂正事項2について」にて述べたとおり,上記訂正事項5は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

3 訂正の適否についてのまとめ
以上のとおり,本件訂正は,特許法第134条の2第1項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものであり,同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものと認められる。
また,請求項1ないし4は,一群の請求項を構成すると認められる。

第3 本件訂正発明
本件訂正発明1ないし4は,本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次のとおりのものである。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の電子スロットルシステムに用いる回転角検出装置であって,
アルミニウム製の本体ハウジングと,
この本体ハウジングの上側部に軸受を介して回転軸が回転支持され,この回転軸周りの回動に応じて内燃機関の吸入空気量を制御するスロットルバルブと,
前記本体ハウジングの下側部に配置され,前記スロットルバルブを駆動するモータと,
前記回転軸の先端部に固定され,前記回転軸の回転に応じて回転する磁石と,
前記本体ハウジングの開口部を前記スロットルバルブ及び前記モータを一括して覆い前記本体ハウジングより熱膨張率が大きい樹脂製で縦長形状のカバーと,
このカバー側に固定された磁気検出素子とを備え,
前記カバーは,自動車の電子スロットルシステムに使用される樹脂で成形され,
前記カバーは,前記スロットルバルブと前記モータとを長手方向に配置する縦長形状であり,
前記カバーは,前記本体ハウジングにボルトで固定され,
前記磁気検出素子は前記カバーの上部内側に前記磁石と同心状に配置されて,前記磁石と前記磁気検出素子との間にはエアギャップが形成され,
前記磁石の回転によって変化する前記磁気検出素子の出力信号に基づいて前記スロットルバルブの回転角を検出する回転角検出装置において,
前記カバーは,前記本体ハウジングに対して前記カバーの長手方向及び短尺方向の位置ずれ発生が皆無でなく固定され,
前記磁気検出素子は,前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際前記カバーの長手方向の位置ずれが短尺方向の位置ずれより大きい位置に,前記磁気検出素子の磁気検出方向と前記カバーの長手方向が直交するように配置され,前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際の磁気検出方向の位置ずれ量を小さくしていることを特徴とする回転角検出装置。」
【請求項2】
前記磁石は,前記スロットルバルブの回転に応じて回転する円筒状のロータコアに固定され,
このロータコアの内周側に同軸状に位置するステータコアが前記樹脂製のカバーにモールド成形され,
前記エアギャップは前記磁石と前記ステータコアとの間に形成され,
前記ステータコアに直径方向に貫通するように形成された磁気検出ギャップ部に前記磁気検出素子が固定され,
該磁気検出ギャップ部が前記カバーの長手方向に延びていることを特徴とする請求項1に記載の回転角検出装置。
【請求項3】
検出精度が最も要求される回転角又はその付近で前記磁気検出素子の出力がゼロとなるように前記磁石と前記磁気検出素子が配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転角検出装置。
【請求項4】
前記スロットルバルブの基準回転角又はその付近で前記磁気検出素子の出力がゼロとなるように前記磁石と前記磁気検出素子が配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転角検出装置。」

第4 無効理由
1 請求人が主張する無効理由の概要・証拠方法
1-1 無効理由1(新規性,進歩性の欠如)
本件特許の請求項1に係る発明は,甲第1号証,甲第2号証,甲第3号証の発明と実質的に同一の発明である。よって,本件の請求項1に係る発明に係る特許は,特許法第123条第1項第2号の規定に該当し,無効とされるべきものである。
また,本件特許の請求項1に係る発明は,甲第1号証,甲第2号証,甲第3号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるか,甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明とを組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものであるか,甲第1号証から甲第3号証に記載された各発明,又は甲第1号証から甲第4号証に記載された各発明を組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものであるか,または,甲第3号証及び周知・慣用技術(甲第1,2,4号証)から当業者が容易に発明をすることができたものである。よって,本件の請求項1に係る発明に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから,特許法第123条第1項第2号の規定に該当し,無効とすべきものである。
さらに,本件特許の請求項2に係る発明は,甲第1号証?甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証,甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
また,本件特許の請求項3,4に係る発明は,甲第1号証?甲第3号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって,本件の請求項2?4に係る発明に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから,特許法第123条第1項第2号の規定に該当し,無効とすべきものである。

1-2 無効理由2(記載要件違反)
(1)(明確性要件違反)本件特許の請求項1に係る発明は,不明確であるから,本件特許出願は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず,請求項1に係る本件特許は同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。
(2)(サポート要件違反)本件特許の請求項1に係る発明は,発明の詳細な説明に記載されていない発明であるから,本件特許出願は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず,請求項1に係る本件特許は同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。
(3)(実施可能要件違反)明細書の発明の詳細な説明には,当業者が本件特許の請求項1に係る発明を容易に実施できる程度に記載されていないから,本件特許の明細書の記載は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず,請求項1に係る本件特許は同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。
1-3 証拠方法
(1)甲第1号証:特開平9-68403号公報
(2)甲第2号証:特開平10-197209号公報
(3)甲第3号証:特開平5-157506号公報
(4)甲第4号証:特表平8-509296号公報
(5)甲第5号証:特開平8-35809号公報
(6)甲第6号証:特開平9-189508号公報
(7)甲第7号証:株式会社ミクニ作成技術説明書
(8)甲第8号証:特許第3438692号公報(本件特許)
(9)参考資料1:甲第2号証の図11の拡大コピー
(10)参考資料2:各メーカーの製品写真
(11)参考資料3:Crastin(R) and Rynite(R) PET
Thermoplastic Polyester Resins
Design Information
(12)参考資料4:カバーの熱変形量を強調して示す模式図
(13)参考資料5:竹内洋一郎著「材料力学(改訂版)」1983年4月20日初版発行,p38-39

2 請求人が主張する無効理由に対する被請求人の主張の概要・証拠方法
被請求人は,本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め,上記「第4」「1」に記載した無効理由1,2は,いずれも理由がない旨を主張し,下記の参考資料を提出している。
(1)参考資料1:第3版 機械設計便覧(平成4年3月10日発行)
(2)参考資料2:日比科学技術振興財団平成23年度研究報告書
(3)参考資料3:デュポン社ホームページ(クラスティン(登録商標)物性)
(4)参考資料4:JIS規格「JIS H 5302」
(5)参考資料5:ジャノメダイカスト株式会社ホームページ(アルミニウム合金物性)
(6)参考資料6:足立軽金属株式会社ホームページ(アルミニウム合金物性)
(7)参考資料7:JIS規格「JIS B 1051」
(8)参考資料8:東日製作所(標準締付トルクと軸力)
(9)参考資料9:株式会社山辺ホームページ(標準締付トルクと軸力)
(10)参考資料10:新版機械設計便覧(昭和48年1月25日発行)
(11)参考資料11:YAMAHA MOTOR TECHNICAL REVIEW
(12)参考資料12:機械工学便覧 デザイン編β4 機械要素・トライボロジー (2005年10月25日発行)

3 当審が通知した無効理由(以下,「無効理由3」という。)の概要
当審が,平成28年6月3日付けの無効理由通知で通知した無効理由3(特許第36条第6項第1号)についての概要は,以下のとおりである(なお,以下の「ア」?「ウ」における「本件訂正」とは,「訂正請求3」に係る訂正である。)。
「ア 本件訂正後の請求項1について,二次判決で判示されたA?Dの要件が全て満たされているものとはいえない。
よって,本件訂正後の請求項1について,「熱変形により縦長形状のカバーの長手方向が短尺方向に比べて寸法変化(位置ずれ)が大きく」なることは明らかになっておらず,仮に明らかになっているとしても,これにより当業者が「カバーの熱変形によって,ステータコアと磁石とのギャップが変化して,磁気検出ギャップ部を通過する磁束密度が変化しやすい構成となっていたので,カバーの熱変形によってホールICの出力が変動しやすく,回転角の検出精度が低下するという欠点があった。」との課題に直面するか否かは依然として不明であり,結局,訂正後の請求項1が上記課題自体を有するものであるか不明である。
従って,本件訂正後の請求項1は,「磁石と磁気検出素子とのずれが,長手方向に生じ,出力変動が生じ,回転角の検出精度が低下する」との発明の課題を認識し得ない構成を,依然として一般的に含むものであるから,発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えたものであり,サポート要件を充足するものとはいえない。

イ 本件訂正後の請求項2ないし4についても,上記「2」で述べたのと同様の理由により,二次判決で判示されたA?Dの要件が全て満たされているものとはいえない。
よって,本件訂正後の請求項2ないし4の記載は,サポート要件(特許法第36条第6項第1号に規定する要件)を充足するものとはいえない。

ウ よって,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし4の記載は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであるから,本件訂正発明1ないし4についての特許は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものである。」

4 無効理由3に対する被請求人の主張の概要
被請求人は,平成28年7月6日付け意見書にて,本件訂正により,無効理由3は理由がないものとなった旨を主張している。

第5 無効理由についての判断
事案に鑑み,無効理由3,無効理由1(進歩性の欠如)の順で検討していく。なお,無効理由2のうち,「(2)(サポート要件違反)」については,無効理由3に含めて判断する。
1 無効理由3について
1-1 二次判決で判示された事項は,次のとおりである。
ア 特許第36条第6項第1号の判断基準について
二次判決では,「第5 当裁判所の判断」「2 取消事由2(サポート要件意見の判断の誤り)について」 において,「特許第36条第6項第1号は,特許請求の範囲の記載は「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」に適合するものでなければならないと定めている。特許法がこのような要件を定めたのは,発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると,公開されていない発明について独占的,排他的な権利を認めることになり,特許制度の趣旨に反するからである。
特許請求の範囲の記載が上記要件に適合するかどうかについては,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,当業者が,特許請求の範囲に記載された発明について,発明の詳細な説明の記載又はその示唆により,当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるかどうか,また,その記載や示唆がなくとも出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるかどうかを検討して判断すべきものである。
そして,当業者が,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明の記載又は示唆あるいは出願時の技術常識に照らし,当該発明の課題を解決できると認識できるというためには,当業者が,いかなる場合において課題に直面するかを理解できることが前提となるというべきである」(二次判決の判決書第29頁第1?15行)と判示されている。
本件訂正後の訂正特許請求の範囲の記載についても,上記判示事項は,当審を拘束する。

イ 明細書の記載について
二次判決では,「第5 当裁判所の判断」「1 訂正発明及び訂正明細書の記載について」「(2) 訂正明細書の記載事項について」 にて
(ア)「通常,熱変形は2次元的に発生するものではなく,3次元的にも生ずるものであると解される」(二次判決の判決書第28頁第14?15行)
(イ)「ボルト止めの数や位置に関する記載は,明細書本文中にも図面にもない。」(同第28頁第23?24行)
と判示されている。
本件訂正後における訂正明細書の記載事項についても,上記判示事項は,当審を拘束する。

ウ 本件訂正発明1の課題について
二次判決では,「訂正明細書によれば,訂正発明1の課題は,次のとおりである。すなわち,スロットルバルブの回転角(スロットル開度)を検出する従来の回転角検出装置において,ホールIC(ホール素子(磁気検出素子)と信号増幅回路とを一体化したIC)を固定するステータコアをモールド成形した樹脂製のカバーは,これを取り付ける金属製のスロットルボディーに比べて熱膨張率が大きく,縦長形状に形成されているため,その長手方向の熱変形量が大きく,しかも,ホールICの磁気検出方向(磁気検出ギャップ部と直交する方向)とカバーの長手方向が平行になっていたため,カバーの熱変形によって,ステータコアと磁石とのギャップが変化して,磁気検出ギャップ部を通過する磁束密度が変化しやすい構成となっていたので,カバーの熱変形によってホールICの出力が変動しやすく,回転角の検出精度が低下するという欠点があった。そこで,カバーの熱変形による磁気検出素子の出力変動を小さく抑えることができ,回転角の検出精度を向上することができる回転角検出装置を提供することを目的とするものである。
上記によれば,A 樹脂製のカバーは,これを取り付ける金属製の本体ハウジングに比べて熱膨張率が大きいことにより,カバーの熱変形が生じ,本体ハウジングとの間に横(水平)方向の相対的な位置ずれが生じること(以下「横すべり」ともいう。),B カバーが縦長形状に形成されているため,長手方向の熱変形量が大きく,Aの横すべりの長さ(延び)は,短尺方向よりも長手方向が大きいこと,C Bの横すべりの結果,カバーに固定された磁気検出素子の位置がずれ,磁気検出素子と金属製の本体ハウジングに固定された磁石との間のエアギャップが変化すること(以下「磁気検出素子と磁石との位置ずれ」ともいう。),D Cの位置ずれは,短尺方向よりも長手方向が大きいこと,が備われば,当業者は,訂正発明1の上記課題に直面し,これを理解できると解される。」(二次判決の判決書第30頁第8行?第31頁第4行)と判示されている。
そして,行政事件訴訟法第33条第1項の規定により,上記判示事項は,当審を拘束する。

エ カバーと本体ハウジングとの間の相対的な位置ずれ(横すべり)について
二次判決では,
(ア)「部材同士がボルトにより固定されていても,ボルト軸線と直角方向の荷重を受けた場合に被締付け物間にすべりが発生する場合があるということが,本件特許出願時点において機械工学における技術常識であったことが認められる。したがって,原告主張するように,できるだけボルトを強く締めてカバーを固定するとしても,熱や振動によっては,ボルトにゆるみが発生し,カバーと本体ハウジングとの間に横滑りが生じる場合があり得ると解され,そのような場合を想定して課題を設定することは問題ない。
もっとも,カバーと本体ハウジングとの間の相対的な位置ずれ(横すべり)は,常に生じるものではなく,審決が述べるように,ボルトの固定力がカバーに生じる熱応力との関係において強い場合には,横すべりはそもそも生じず,ボルトの固定力がカバーに生じる熱応力を下回る場合にのみ,横すべりが生ずる場合があり得るということになる。
イ また,カバーの熱変形が生じ,本体ハウジングとの間に横方向の相対的な位置ずれ(横すべり)が生ずるとしても,短尺方向よりも長手方向に大きくずれるということ(上記B)が常に生ずるものではない。
すなわち,審決も,「熱膨張率が方向によらず均一であり,カバーが縦長形状であれば,その長手方向が短尺方向より大きい」としているように,カバーが均質組成の平板形状でなかったり,カバー内部の温度分布が均一でなかったり,熱膨張により3次元的に変形したりする場合には,実証実験を行うなどして確認しない限り,縦長形状のカバーにおいて横すべりが生じるものとしたとしても,縦長形状のカバーの長手方向が短尺方向に比べて,熱変形量(延び)が常に大きくなるともいえない。」(二次判決の判決書第31頁第16行?第32頁第13行)

(イ)「ウ これらの点を措いて,カバー内部の温度分布を均一とするとともに,カバー自体が均質組成で,熱膨張により2次元的に変形し,3次元的変形量は無視できるものと仮定したとしても,以下のとおり,横すべりの結果,横すべりが長手方向に大きく生じること(上記B),磁気検出素子の位置がずれ,磁石とのギャップが変化すること(磁気検出素子と磁石との位置ずれ,上記C),及び,その位置ずれは,短尺方向よりも長手方向が大きいこと(上記D)が生じるとは限らない。
すなわち,縦長形状のカバーにおいて,長手方向及び短尺方向の寸法変化(位置ずれ)の大きさは,カバーのボルト等による係止位置とカバー内における磁気検出素子の取付位置との相互の位置関係や,ボルト等の締付力と大いに関係するもので,このことは当業者にとって明らかであり,審決も認めるところである。例えば,長方形のカバーを,その左右の長辺に沿ってそれぞれ均等に3か所,計6か所をボルト等で係止した際に,熱応力とボルト固定力との関係で,カバーの熱応力が勝って熱変形が生じ,かつ,その熱変形量について長手方向が短尺方向よりも大きいとしたとしても,つまり,上記のA及びBを満たすとしても,磁気検出素子をカバーの中心点(対角線の交点)に配置した場合には,磁気検出素子の位置を起点として熱変形が生ずることとなるから,長手方向にも短尺方向にも位置ずれは生じないこととなる。また,左辺側のボルトの締付けが右辺側のボルトに対して相対的に強い場合,右辺側ボルトの近傍の位置においては,短尺方向が長手方向に比べて寸法変化(位置ずれ)が大きくなることは,当業者にとって明らかである。
そうすると,磁気検出素子の位置は,少なくとも,長尺方向の熱変形の影響により,短尺方向よりも大きく動く位置に配置される場合でなければ,訂正発明1の課題に直面することはないといえるが,訂正発明1に係る特許請求の範囲には,前記のとおり,カバーにおける磁気検出素子の位置についての特定はない。
以上によれば,訂正発明1の特許請求の範囲の特定では,訂正発明1の前提とする課題である「熱変形により縦長形状のカバーの長手方向が短尺方向に比べて寸法変化(位置ずれ)が大きくなること」に直面するか否かが不明であり,結局,上記課題自体を有するものであるか不明である。
そして,仮に,磁石と磁気検出素子とのずれが,短尺方向に大きく生じる場合においては,磁石と磁気検出素子との間のエアギャップの磁気検出方向への寸法変化は大きくなってしまうのであるから,訂正発明1の課題解決手段である「磁気検出素子をその磁気検出方向と縦長形状のカバーの長手方向が直交するよう配置」したとしても,出力変動は抑制されず,回転角の検出精度も向上しない。
よって,訂正発明1は,上記課題を認識し得ない構成を一般的に含むものであるから,発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えたものであり,サポート要件を充足するものとはいえない。」(二次判決の判決書第32頁第16行?第33頁第24行)。
と判示されている。
さらに,「この計算式には,ボルトの位置は反映されておらず,当該ボルト付近において横すべりが生ずる可能性の有無を示すにすぎないのであり,熱変形がどの方向に向かって生じるかは明らかではない。また,カバーに熱応力による変形が均一に生じ,固定された磁力検出素子が位置ずれを起こすと仮定しても,磁力検出素子が固定された箇所における位置ずれは,長手方向が短尺方向と比較して大きくなければならないところ,どの部分がどのように変形し,磁気検出素子と磁石との位置ずれに影響するかは,ボルト固定の数や位置,磁気検出素子の位置,ボルトまでの距離などを具体的に検討しなければ,明らかにならない。すなわち,上記計算によっても,訂正発明1の課題は一義的に導かれるものではない。一義的に導かれるものではない」(二次判決第36頁第20行?第37頁第2行)と判示されている。
そして,行政事件訴訟法第33条第1項の規定により,上記判示事項は,当審を拘束する。

1-2 無効理由3(本件訂正後の請求項1の記載が,サポート要件(特許法第36条第6項第1号に規定する要件)を充足するか否か)についての当審の判断
ア 本件訂正請求により,請求項1は次のとおりに訂正された(上記「第3」参照。)。
「【請求項1】
自動車の電子スロットルシステムに用いる回転角検出装置であって,
アルミニウム製の本体ハウジングと,
この本体ハウジングの上側部に軸受を介して回転軸が回転支持され,この回転軸周りの回動に応じて内燃機関の吸入空気量を制御するスロットルバルブと,
前記本体ハウジングの下側部に配置され,前記スロットルバルブを駆動するモータと,
前記回転軸の先端部に固定され,前記回転軸の回転に応じて回転する磁石と,
前記本体ハウジングの開口部を前記スロットルバルブ及び前記モータを一括して覆い前記本体ハウジングより熱膨張率が大きい樹脂製で縦長形状のカバーと,
このカバー側に固定された磁気検出素子とを備え,
前記カバーは,自動車の電子スロットルシステムに使用される樹脂で成形され,
前記カバーは,前記スロットルバルブと前記モータとを長手方向に配置する縦長形状であり,
前記カバーは,前記本体ハウジングにボルトで固定され,
前記磁気検出素子は前記カバーの上部内側に前記磁石と同心状に配置されて,前記磁石と前記磁気検出素子との間にはエアギャップが形成され,
前記磁石の回転によって変化する前記磁気検出素子の出力信号に基づいて前記スロットルバルブの回転角を検出する回転角検出装置において,
前記カバーは,前記本体ハウジングに対して前記カバーの長手方向及び短尺方向の位置ずれ発生が皆無でなく固定され,
前記磁気検出素子は,前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際前記カバーの長手方向の位置ずれが短尺方向の位置ずれより大きい位置に,前記磁気検出素子の磁気検出方向と前記カバーの長手方向が直交するように配置され,前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際の磁気検出方向の位置ずれ量を小さくしていることを特徴とする回転角検出装置。」

イ そこで,本件訂正後の請求項1の記載が,「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えたものであり,サポート要件を充足するもの」であるか否か,上記「1-1」に基づいて判断する。
(ア)課題について
本件訂正後の請求項1に係る発明の課題は,二次判決の「(2) 課題について」欄で「すなわち,スロットルバルブの回転角(スロットル開度)を検出する従来の回転角検出装置において,ホールIC(ホール素子(磁気検出素子)と信号増幅回路とを一体化したIC)を固定するステータコアをモールド成形した樹脂製のカバーは,これを取り付ける金属製のスロットルボディーに比べて熱膨張率が大きく,縦長形状に形成されているため,その長手方向の熱変形量が大きく,しかも,ホールICの磁気検出方向(磁気検出ギャップ部と直交する方向)とカバーの長手方向が平行になっていたため,カバーの熱変形によって,ステータコアと磁石とのギャップが変化して,磁気検出ギャップ部を通過する磁束密度が変化しやすい構成となっていたので,カバーの熱変形によってホールICの出力が変動しやすく,回転角の検出精度が低下するという欠点があった。そこで,カバーの熱変形による磁気検出素子の出力変動を小さく抑えることができ,回転角の検出精度を向上することができる回転角検出装置を提供することを目的とするものである。」(上記「1-1」「ウ」参照。)と判示されたとおりのものである。

(イ)二次判決で判示されたA?Dの要件(上記「1-1」「ウ」参照。)について
次に,本件訂正後の請求項1の記載が,二次判決で判示された,当業者が訂正発明1の上記課題に直面し,これを理解できると解されるための,A?Dの要件(上記「1-1」「ウ」参照。)を満たしているか,判断する。

a 要件「A」及び要件「B」について
まず,「A 樹脂製のカバーは,これを取り付ける金属製の本体ハウジングに比べて熱膨張率が大きいことにより,カバーの熱変形が生じ,本体ハウジングとの間に横(水平)方向の相対的な位置ずれが生じること(以下「横すべり」ともいう。),B カバーが縦長形状に形成されているため,長手方向の熱変形量が大きく,Aの横すべりの長さ(延び)は,短尺方向よりも長手方向が大きいこと」が,本件訂正後の請求項1に備わっているか検討する。
(a)本件訂正請求後の請求項1には,「樹脂製」の「カバー」が「自動車の電子スロットルシステムに使用される樹脂で成形され」,「前記カバーは,前記本体ハウジングにボルトで固定され」,「樹脂製」の「カバー」は,「アルミニウム製」(すなわち「金属製」)の「本体ハウジングより熱膨張率が大きい」ことにより,「カバーの熱変形」が生じることが特定されている。
しかし,本件訂正後の請求項1には,カバーと本体ハウジングとの固定に関しては,「前記カバーは,前記本体ハウジングにボルトで固定され」,と記載されているにすぎない。
そして,二次判決では,
(i)「通常,熱変形は2次元的に発生するものではなく,3次元的にも生ずるものであると解される」(二次判決の判決書第28頁第14?15行,上記「1-1 イ(ア)」参照。)
(ii)「ボルト止めの数や位置に関する記載は,明細書本文中にも図面にもない。」(同第28頁第23?24行,上記「1-1 イ(イ)」参照。)と判示され,
(iii)「もっとも,カバーと本体ハウジングとの間の相対的な位置ずれ(横すべり)は,常に生じるものではなく」,「ボルトの固定力がカバーに生じる熱応力との関係において強い場合には,横すべりはそもそも生じず,ボルトの固定力がカバーに生じる熱応力を下回る場合にのみ,横すべりが生ずる場合があり得るということになる。」(同第31頁第25行?第32頁第3行,上記「1-1 エ(ア)」参照。)
と判示されている。
よって,本件訂正請求後の請求項1に,「樹脂製」の「カバー」が「自動車の電子スロットルシステムに使用される樹脂で成形され」,「前記カバーは,前記本体ハウジングにボルトで固定され」,「樹脂製」の「カバー」は,「アルミニウム製」(すなわち「金属製」)の「本体ハウジングより熱膨張率が大きい」ことにより,「カバーの熱変形」が生じることが特定され,「カバーは,前記本体ハウジングにボルトで固定され」たことで,熱変形により,横すべりが発生する可能性が皆無ではないとしても,逆に,横すべりが発生しない可能性も多分にあるのであるから,当業者が,「熱変形」により「カバーと本体ハウジングとの間の相対的な位置ずれ(横すべり)」が必然的に生じ,そのため磁気検出方向の位置ずれが発生することが「一義的」(二次判決の判決書第37頁第1?2行)に導かれるものとはいえない。
従って,本件訂正請求後の請求項1の記載によっても,「熱変形により縦長形状のカバーの長手方向が短尺方向に比べて寸法変化(位置ずれ)が大きくなる」(二次判決の判決書第33頁第14?15行)という課題が一義的に導かれるものではない(二次判決第37頁第1?2行)から,当業者が,本件訂正発明1の課題に直面するか否かは,依然として不明である。

(b)仮に,「熱変形」により「カバーと本体ハウジングとの間の相対的な位置ずれ(横すべり)」が生じたとしても,二次判決では,「審決も,「熱膨張率が方向によらず均一であり,カバーが縦長形状であれば,その長手方向が短尺方向より大きい」としているように,カバーが均質組成の平板形状でなかったり,カバー内部の温度分布が均一でなかったり,熱膨張により3次元的に変形したりする場合には,実証実験を行うなどして確認しない限り,縦長形状のカバーにおいて横すべりが生じるものとしたとしても,縦長形状のカバーの長手方向が短尺方向に比べて,熱変形量(延び)が常に大きくなるともいえない。」(二次判決の判決書第32頁第7行?第32頁第13行,上記「1-1 エ(ア)」参照。)と判示されている。
これに対し,本件訂正後の請求項1の「前記カバーは,自動車の電子スロットルシステムに使用される樹脂で成形され」との記載は,本件訂正後の請求項1の「カバー」の断面形状がどのような形状であるかを何ら特定するものではない。
また,カバー内部の温度分布に関しては,本件訂正後の請求項1にも,本件訂正明細書等にも,何ら記載されていない。
よって,仮に,「熱変形」により「カバーと本体ハウジングとの間の相対的な位置ずれ(横すべり)」が生じたとしても,本件訂正後の請求項1の記載からは,「熱変形により縦長形状のカバーの長手方向が短尺方向に比べて寸法変化(位置ずれ)が大きくなること」(二次判決の判決書第33頁第14?15行,上記「1-1 エ(イ)」参照。)が一義的に導かれるものではない。

(c)よって,本件訂正後の請求項1において,「A 樹脂製のカバーは,これを取り付ける金属製の本体ハウジングに比べて熱膨張率が大きいことにより,カバーの熱変形が生じ,本体ハウジングとの間に横(水平)方向の相対的な位置ずれが生じる」ための要件が,本件訂正後の請求項1に備わっているとはいえず,仮に上記「A」の要件が本件訂正後の請求項1に備わっているとしても,「B 縦長形状のカバーにおいて横すべりが生じるものとしたとしても,縦長形状のカバーの長手方向が短尺方向に比べて,熱変形量(延び)が常に大きい」ものとなるための要件が,本件訂正後の請求項1に備わっているとはいえない。
したがって,本件訂正後の請求項1の記載から,当業者が,本件訂正発明1の課題に直ちに直面するとはいえない。

b 要件「C」及び要件「D」について
(a)二次判決では
(i)「ボルト止めの数や位置に関する記載は,明細書本文中にも図面にもない。」(二次判決の判決書第28頁第23?24行,上記「1-1 イ(イ)」参照。)
(ii)「これらの点を措いて,カバー内部の温度分布を均一とするとともに,カバー自体が均質組成で,熱膨張により2次元的に変形し,3次元的変形量は無視できるものと仮定したとしても,以下のとおり,横すべりの結果,横すべりが長手方向に大きく生じること(上記B),磁気検出素子の位置がずれ,磁石とのギャップが変化すること(磁気検出素子と磁石との位置ずれ,上記C),及び,その位置ずれは,短尺方向よりも長手方向が大きいこと(上記D)が生じるとは限らない。
すなわち,縦長形状のカバーにおいて,長手方向及び短尺方向の寸法変化(位置ずれ)の大きさは,カバーのボルト等による係止位置とカバー内における磁気検出素子の取付位置との相互の位置関係や,ボルト等の締付力と大いに関係するもので,このことは当業者にとって明らかであり,審決も認めるところである。」(同第32頁第16?25行,上記「1-1 エ(イ)」参照。)と判示されている。
これに対し,本件訂正後の請求項1には,「前記磁気検出素子は前記カバーの上部内側に前記磁石と同心状に配置されて,前記磁石と前記磁気検出素子との間にはエアギャップが形成され」ていること,「カバー」は「本体ハウジングにボルトで固定され」ていること,「磁気検出素子」は「前記カバーの上部内側に前記磁石と同心状に配置されて,前記磁石と前記磁気検出素子との間にはエアギャップが形成され」,「前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際前記カバーの長手方向の位置ずれが短尺方向の位置ずれより大きい位置に,前記磁気検出素子の磁気検出方向と前記カバーの長手方向が直交するように配置され,前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際の磁気検出方向の位置ずれ量を小さくしている」ことが特定された。
しかし,本件訂正後の請求項1には,上記二次判決で指摘された「カバーのボルト等による係止位置とカバー内における磁気検出素子の取付位置との相互の位置関係や,ボルト等の締付力」については何ら特定されていない。

(b)また,二次判決では,「例えば,長方形のカバーを,その左右の長辺に沿ってそれぞれ均等に3か所,計6か所をボルト等で係止した際に,熱応力とボルト固定力との関係で,カバーの熱応力が勝って熱変形が生じ,かつ,その熱変形量について長手方向が短尺方向よりも大きいとしたとしても,つまり,上記のA及びBを満たすとしても,磁気検出素子をカバーの中心点(対角線の交点)に配置した場合には,磁気検出素子の位置を起点として熱変形が生ずることとなるから,長手方向にも短尺方向にも位置ずれは生じないこととなる。また,左辺側のボルトの締付けが右辺側のボルトに対して相対的に強い場合,右辺側ボルトの近傍の位置においては,短尺方向が長手方向に比べて寸法変化(位置ずれ)が大きくなることは,当業者にとって明らかである。
そうすると,磁気検出素子の位置は,少なくとも,長尺方向の熱変形の影響により,短尺方向よりも大きく動く位置に配置される場合でなければ,訂正発明1の課題に直面することはないといえる」(二次判決の判決書第32頁第25?第33頁第11行,上記「1-1 エ(イ)」参照。)と判示されている。
これに対し,本件訂正により,「前記磁気検出素子は前記カバーの上部内側に前記磁石と同心状に配置されて,前記磁石と前記磁気検出素子との間にはエアギャップが形成され」ていること,「磁気検出素子」は,「前記カバーの上部内側に前記磁石と同心状に配置されて,前記磁石と前記磁気検出素子との間にはエアギャップが形成され」,「前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際前記カバーの長手方向の位置ずれが短尺方向の位置ずれより大きい位置に,前記磁気検出素子の磁気検出方向と前記カバーの長手方向が直交するように配置され,前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際の磁気検出方向の位置ずれ量を小さくしている」ことが特定された。
しかし,上記判示事項のうち,「例えば,長方形のカバーを,その左右の長辺に沿ってそれぞれ均等に3か所,計6か所をボルト等で係止した際に,熱応力とボルト固定力との関係で,カバーの熱応力が勝って熱変形が生じ,かつ,その熱変形量について長手方向が短尺方向よりも大きいとしたとしても,つまり,上記のA及びBを満たすとしても」,「左辺側のボルトの締付けが右辺側のボルトに対して相対的に強い場合,右辺側ボルトの近傍の位置においては,短尺方向が長手方向に比べて寸法変化(位置ずれ)が大きくなることは,当業者にとって明らかである。」との判示事項は,本件訂正後の請求項1にボルト止めの数や位置に関する特定がなされていない以上,本件訂正後の請求項1の記載にも依然として妥当する。
よって,本件訂正後の請求項1においても,「カバーの上部」の,磁気検出素子が配置される位置において,「前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際」,「前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際前記カバーの長手方向の位置ずれが短尺方向の位置ずれより大きい」ものとなるための要件は,依然として訂正後の請求項1に備わっていない。

(ウ)以上のとおり,二次判決において判示された「訂正発明1の特許請求の範囲の特定では,訂正発明1の前提とする課題である「熱変形により縦長形状のカバーの長手方向が短尺方向に比べて寸法変化(位置ずれ)が大きくなること」に直面するか否かが不明であり,結局,上記課題自体を有するものであるか不明である。」及び「そして,仮に,磁石と磁気検出素子とのずれが,短尺方向に大きく生じる場合においては,磁石と磁気検出素子との間のエアギャップの磁気検出方向への寸法変化は大きくなってしまうのであるから,訂正発明1の課題解決手段である「磁気検出素子をその磁気検出方向と縦長形状のカバーの長手方向が直交するよう配置」したとしても,出力変動は抑制されず,回転角の検出精度も向上しない。」との判示事項は,本件訂正後の請求項1の記載についても,依然として当審を拘束する。
従って,請求項1に係る本件訂正によっても,二次判決において判示された「A」ないし「D」の要件の全てが満たされることにはならないから,本件訂正後の請求項1の記載からは,当業者が,「カバーの上部」の,磁気検出素子が配置される位置において,「熱変形により縦長形状のカバーの長手方向が短尺方向に比べて寸法変化(位置ずれ)が大きくなること」(二次判決の判決書第33頁第14?15行,上記「1-1 エ(イ)」参照。)に直面するための要件が依然として請求項1に備わっておらず,結局,上記課題自体を有するものであるか不明である。

ウ まとめ
以上のとおり,本件訂正後の請求項1について,「熱変形により縦長形状のカバーの長手方向が短尺方向に比べて寸法変化(位置ずれ)が大きく」なることは明らかになっておらず,また,本件訂正後の請求項1により当業者が,「カバーの上部」の,磁気検出素子が配置される位置において,「カバーの熱変形によって,ステータコアと磁石とのギャップが変化して,磁気検出ギャップ部を通過する磁束密度が変化しやすい構成となっていたので,カバーの熱変形によってホールICの出力が変動しやすく,回転角の検出精度が低下するという欠点があった。」との課題に直面するか否かは依然として不明であり,結局,訂正後の請求項1が上記課題自体を有するものであるか不明である。
従って,本件訂正後の請求項1は,「磁石と磁気検出素子とのずれが,長手方向に生じ,出力変動が生じ,回転角の検出精度が低下する」との発明の課題を認識し得ない構成を,依然として一般的に含むものであるから,発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えたものであり,特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を充足するものとはいえない。

1-3 無効理由3(当審で通知した無効理由)に対する被請求人の主張について
(1)被請求人の主張及び当審の判断
被請求人は,平成28年7月6日付けの意見書において,同日付けの訂正により,本件訂正発明1が回転角度検出装置の用途を自動車の電子スロットルシステム用に限定され,本件訂正により,2次判決の拘束力が遮断されている(意見書第3頁第6行?第7頁第1行)として,次のように主張している。
ア 意見書「(2)本件判決 認定イ(判決32頁)」(意見書第7頁第2行?第8頁第22行)について
(被請求人の主張)
本日付訂正により,回転角度検出装置の用途を自動車の電子スロットルシステム用に限定し,且つ,カバーが本体ハウジングにボルトで固定される事を明らかにしているから,長手方向及び短尺方向の位置ずれの発生は皆無ではなく,さらに,カバーが自動車の電子スロットルシステムに使用される樹脂で成形されることを明らかにしているから,温度分布が略均一となり,短尺方向の位置ずれの方が長手方向の位置ずれより大きくなることはなく,また,位置ずれが発生した場合には,カバーにリブ等を形成したとしても,また,三次元的変形があるとしても,必ず二次元的変形を伴い,更に,カバーが本体ハウジングにボルトで固定される事を明らかにしているから,位置ずれは常に長手方向及び短尺方向の双方に生じ,位置ずれが生じる場合には,縦長形状のカバーは,その長さの大きい長手方向の方が,長さの短い短尺方向より,相対的に位置ずれが大きくなる。
よって,本件訂正発明1では,カバーの熱変形により位置ずれが生じる得ること(発生が皆無ではないこと),そして,熱変形が生じれば,縦長形状のカバーは短尺方向の変形より長手方向の変形が大きいことが明白となっている。

(当審の判断)
本件訂正により,請求項1に「前記カバーは,前記本体ハウジングにボルトで固定され」,「前記カバーは,自動車の電子スロットルシステムに使用される樹脂で成形され」との記載が追加されたからといって,熱変形による「位置ずれ(横すべり)」が「発生しない」可能性も皆無ではなく,「熱変形」により「カバーと本体ハウジングとの間の相対的な位置ずれ(横すべり)」が生じたとしても,縦長形状のカバーの長手方向が短尺方向に比べて,熱変形量(延び)が常に大きくなるとはいえないことは,上記「1-2 無効理由3(本件訂正後の請求項1の記載が,サポート要件(特許法第36条第6項第1号に規定する要件)を充足するか否かについての当審の判断」「イ」「a 要件「A」及び要件「B」について」及び「b 要件「C」及び要件「D」について」で述べたとおりである。
よって,二次判決の拘束力は失われておらず,本件訂正後の請求項1の記載から,当業者が,「熱変形」により「カバーと本体ハウジングとの間の相対的な位置ずれ(横すべり)」が生じ,磁気検出方向の位置ずれが発生する,との課題に直ちに直面するとはいえない。

イ 意見書「(3)「本件判決 認定ウ(判決32,33頁)」(意見書第8頁第23行?第10頁第27行)について
(被請求人の主張)
判決(二次判決)では,カバーに熱変形が生じたとしても,本体ハウジングとの間に位置ずれが生じるとは限らず,位置ずれが生じたとしても,カバーが本体ハウジングに,左右6箇所でボルトで固定されている場合(以下,「仮設事例」という。),磁気検出素子がカバーの中心点(対角線の交点)に配置される場合や,左辺側のボルトの締め付けが右辺側のボルトに対して相対的に強い場合には,短尺方向の位置ずれより長手方向の位置ずれが大きいとは限らない,と判示されたが,
(a)本件訂正により,縦長形状のカバーはスロットルバルブ及びモータを一括して覆うこと,及び,磁気検出素子がカバーの上部内側に配置されていることを明らかにしており,磁気検出素子はカバーの中心点には配置されていない。
(b)本件訂正により,カバーの熱変形による位置ずれが生じた際,磁気検出素子が,カバーの長手方向の位置ずれが短尺方向の位置ずれより大きい位置に配置されていることを明確にした。
(c)本件訂正により,カバーが本体ハウジンクにボルトで固定されること,及び,自動車の電子スロットルシステムに使用されることを明らかにしたから,位置ずれは常に長手方向及び短尺方向の双方に生じ,その結果,位置ずれの量は,長さの大きい長手方向の方が,長さの短い短尺方向より相対的に大きくなる。
このように,本件訂正により,本件判決(二次判決)における仮設事例が想定する場合を含まなくなくなったから,本件判決(二次判決)の拘束力は遮断されている。

(当審の判断)
(ア)上記「1-2 本件訂正後の請求項1の記載が,サポート要件(特許法第36条第6項第1号に規定する要件)を充足するか否かについての当審の判断」「イ」「a 要件「A」及び要件「B」について」及び「b 要件「C」及び要件「D」について」で述べたとおり,本件訂正後の請求項1において,仮に,カバーの熱変形が生じたとしても,「本体ハウジングとの間に横(水平)方向の相対的な位置ずれが生じること」(要件「A」)が,本件訂正後の請求項1に備わっているとはいえず,更に進んで,仮に「B 縦長形状のカバーにおいて横すべりが生じるものとしたとしても,縦長形状のカバーの長手方向が短尺方向に比べて,熱変形量(延び)が常に大きいこと」となるための要件が,本件訂正後の請求項1に備わっているとはいえない。
(イ)また,二次判決は,位置ずれが生じたとしても,長手方向の方が長さが短い短尺方向より大きくなるとは限らないことを具体的に説明するため,「左右6箇所でボルトで固定されている」との仮設事例を用いたのであるから,仮設事例自体を反論の対象としたところで,本件訂正により,「位置ずれが生じたとしても,長手方向の方が長さが短い短尺方向より大きくなるとは限らない」,との判示事項が拘束力を失うことにはならない。
(ウ)なお,被請求人は,「左辺側のボルトの締付け力が右辺側のボルトの締付け力より大きくなることは,通常想定されません。なぜなら,左辺側のボルトの締付け力が右辺側のボルトの締め付け力より大きくなる結果,左辺側のボルトに大きな熱応力が加わり,大きな熱応力により左辺側のボルトの緩みが右辺側のボルトより進行し,結果として,長時間の経過の後には,左辺側のボルトの締付け力と右辺側のボルトの締付け力とが平衡すると考えられるからです。」(意見書第10頁第21?25行)とも主張しているが,ボルトの位置についての被請求人の主張は,本件訂正後の明細書本文中及び図面の記載に基づくものではなく,採用できない(この点については,二次判決で「ボルト止めの数や位置に関する記載は,明細書本文中にも図面にもない。」(二次判決の判決書第28頁第23?24行)と判示もされている。)。

ウ 意見書「(4)本件判決 認定ウ(判決33頁)」(意見書第10頁第28行?第12頁第9行)について
(被請求人の主張)
本件判決は,訂正前本件発明は,磁石と磁気検出素子とのずれが,短尺方向に大きく生じる場合が有り得るものと認定しているが,本日付訂正により磁石と磁気検出素子とのずれが生じた場合には,短尺方向に比べて長手方向の方が大きくなることを明らかにしているから,本件判決の拘束力は遮断されている。

(当審の判断)
本件訂正後の請求項1の「前記カバーは,前記本体ハウジングに対して前記カバーの長手方向及び短尺方向の位置ずれ発生が皆無でなく固定され,前記磁気検出素子は,前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際前記カバーの長手方向の位置ずれが短尺方向の位置ずれより大きい位置に,前記磁気検出素子の磁気検出方向と前記カバーの長手方向が直交するように配置され」とは,「カバーの熱変形」によって惹起される可能性の一つを提示したに過ぎないものである。仮に,「カバーの熱変形」によって「位置ずれ」が発生したとしても,「位置ずれ」の方向は,ボルト止めの数や位置,ボルトの締め付けの程度が特定されて,はじめて予測が可能となるものであるところ,二次判決では「ボルト止めの数や位置に関する記載は,明細書本文中にも図面にもない。」(二次判決の判決書第28頁第23?24行)と判示されているのであるから,カバーの熱変形による位置ずれが生じるか否か,更に進んで,仮にカバーの熱変形による位置ずれが生じたとしても,前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際前記カバーの長手方向の位置ずれが短尺方向の位置ずれより大きいか否かは,偶発的事情に左右されることに変わりはなく,本件訂正発明1の課題は,二次判決で判示されたとおり,依然として「一義的に導かれるものではない」(二次判決第37頁第1?2行)ものである。
なお,二次判決における仮設事例(上記「イ」「(ア)」参照。)自体を反論の対象としたところで,二次判決の判示事項が拘束力を失うことにはならないことは,上記「イ(3)「本件判決 認定ウ(判決32,33頁)」(意見書第8頁第23行?第10頁第27行)について」「(ウ)」にて述べたとおりである。

エ 意見書「(5)本件判決「審決及び被告の主張について ア」(判決34頁)(意見書第12頁第10行?第13頁第17行)について
(被請求人の主張)
被請求人は,本件訂正により,磁気検出素子が,縦長形状のカバーの上部内側に配置され,カバーの中心点には配置されていないことを明らかにし,また,本件訂正により,「回転角検出装置」が「自動車の電子スロットルシステムに用いる」ことを明らかにしたから,前記磁気検出素子の配置位置が,カバーの熱変形による位置ずれが生じた際前記カバーの長手方向の位置ずれが短尺方向の位置ずれよりも大きい事は,当業者が技術常識に基づいて判断することが可能となった,と主張している。

(当審の判断)
二次判決における仮設事例(上記「イ」「(ア)」参照。)自体を反論の対象としたところで,二次判決の判示事項が拘束力を失うことにはならないこと,また,「回転角検出装置」が「自動車の電子スロットルシステムに用いる」ことを明らかにしたからといって,本件訂正発明1の課題が一義的に導かれるものではないことは,上記「イ「(3)「本件判決 認定ウ(判決32,33頁)」(意見書第8頁第23行?第10頁第27行)について」「(当審の判断)」にて述べたとおりである。

オ 意見書「(6)本件判決「審決及び被告の主張に付いて イ」(判決34,35頁)(意見書第13頁第18行?第15頁第4行),意見書「(7)本件判決「審決及び被告の主張に付いて ウ」(判決35,36頁)(意見書第15頁第5行?第16頁第8行),及び,「(8)本件判決「審決及び被告の主張に付いて エ」(判決35,36頁)(意見書第16頁第9行?第18頁第6行)について

被請求人の主張は,上記「ア」から「エ」と同様であって,要するに,本件訂正により,本件判決の拘束力が遮断されている,というものであるが,被請求人の主張に理由がなく,二次判決に拘束力があることは,上記「ア」から「エ」の「(当審の判断)」にて述べたとおりである。

カ 意見書「(10)無効理由通知書における当審の判断について」「[1]ア 滑り量の大きさと,カバーの組成,形状,温度分布について」(意見書第19頁第8行?第20頁第4行),「[2]イ 熱膨張による3次元的な変形について」(意見書第20頁第5?22行),「[3]ウ ボルトの固定力について」(意見書第20頁第23行?第21頁第18行),「[4]-4 位置ずれの方向について」(意見書第21頁第19行?第22頁第17行),「[5] オ 計算式について」(意見書第22頁第18行?第24頁第10行)について(丸数字の1?4を,[1]?[4]と表記した。)

請求人の主張は,上記「ア」から「エ」と同様であって,要するに,本件訂正により,無効理由は回避できたというものである。しかし,本件訂正によっても,二次判決で示された要件「A」ないし要件「D」は依然として満たされていない。

キ 意見書「[5] オ 計算式について」(意見書第22頁第18行?第24頁第10行)(丸数字の5を[5]と表記した。)について
(被請求人の主張)
被請求人は,「仮にボルトが6つあり,そのうちの1つのボルトを起点として熱変形が生じること」を想定し,「即ち,当該1つのボルト位置では位置ずれが発生せず,他の5つのボルトの位置では位置ずれが発生すること」により「上記5つのボルトで位置ずれが生じた場合には,長手方向と短尺方向の双方にずれが発生します。そうであれば,全体として縦長形状のカバーの位置ずれは,長さの大きい長手方向の方が短い短尺方向より大きくな」り,「締付け力の大きなボルトには,締付け力の小さいボルトよりも大きな熱応力が加わる結果,締付け力の大きなボルトであっても,ボルトの緩みは避けられず,長期間の使用の後では,各ボルトの締付け力は平衡するものと考えられます。そうであれば,1つのボルトの位置を視点として他のボルトの位置で長手方向と短尺方向の双方向に位置ずれが生じる可能性の方が高く,その場合も,位置ずれの量は長さの長い長手方向の方が短尺方向より大きくなります。」と主張している。

(当審の判断)
訂正後の本件明細書には,請求人の主張する「長期間の使用の後では,各ボルトの締付け力は平衡する」ことについて何ら開示されていない。
さらに,前記「1-2 本件訂正後の請求項1の記載が,サポート要件(特許法第36条第6項第1号に規定する要件)を充足するか否かについての当審の判断」「イ」「(ア)課題について」に記載したとおり,二次判決では,
(i)「通常,熱変形は2次元的に発生するものではなく,3次元的にも生ずるものであると解される」(二次判決の判決書第28頁第14?15行)
(ii)「ボルト止めの数や位置に関する記載は,明細書本文中にも図面にもない。」(同第28頁第23?24行)と判示され,
(iii)「もっとも,カバーと本体ハウジングとの間の相対的な位置ずれ(横すべり)は,常に生じるものではなく」,「ボルトの固定力がカバーに生じる熱応力との関係において強い場合には,横すべりはそもそも生じず,ボルトの固定力がカバーに生じる熱応力を下回る場合にのみ,横すべりが生ずる場合があり得るということになる。」(同第31頁第25行?第32頁第3行)
と判示されているのであるから,被請求人の上記主張は,二次判決における判示内容を前提としたものでもない。
よって,被請求人の主張は採用できない。

1-4 無効理由3(本件訂正発明1)についてのまとめ
以上のとおり,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであるから,請求項1についての他の記載要件(特許法第36条第6項第2号,特許法第36条第4項)について判断するまでもなく,本件訂正発明1についての特許は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものである。

1-5 無効理由3(本件訂正後の請求項2ないし4の記載が,サポート要件(特許法第36条第6項第1号に規定する要件)を充足するか否か)についての当審の判断
本件訂正により,請求項2ないし4は次のとおりに訂正された(上記「第3」参照。)。
「【請求項2】
前記磁石は,前記スロットルバルブの回転に応じて回転する円筒状のロータコアに固定され,
このロータコアの内周側に同軸状に位置するステータコアが前記樹脂製のカバーにモールド成形され,
前記エアギャップは前記磁石と前記ステータコアとの間に形成され,
前記ステータコアに直径方向に貫通するように形成された磁気検出ギャップ部に前記磁気検出素子が固定され,
該磁気検出ギャップ部が前記カバーの長手方向に延びていることを特徴とする請求項1に記載の回転角検出装置。

【請求項3】
検出精度が最も要求される回転角又はその付近で前記磁気検出素子の出力がゼロとなるように前記磁石と前記磁気検出素子が配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転角検出装置。

【請求項4】
前記スロットルバルブの基準回転角又はその付近で前記磁気検出素子の出力がゼロとなるように前記磁石と前記磁気検出素子が配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転角検出装置。」
本件訂正後の請求項2ないし4は,いずれも請求項1を引用する請求項であるが,上記「1-2」で述べたのと同様の理由により,本件訂正後の請求項2ないし4について,二次判決で判示された要件「A」?要件「D」(上記「1」「イ」参照。)が全て満たされているものとはいえない。
よって,本件訂正後の請求項2ないし4の記載は,サポート要件(特許法第36条第6項第1号に規定する要件)を充足するものとはいえない。

従って,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項2ないし4の記載は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであるから,本件訂正発明2ないし4についての特許は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものである。

1-6 無効理由3のまとめ
以上のとおり,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし4の記載は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであるから,本件訂正発明1ないし4についての特許は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものである。

2 無効理由1について
次に,無効理由1について判断する。
(1)甲第1号証?甲第6号証に記載された事項
ア 甲第1号証
甲第1号証には,【発明の属する技術分野】及び【従来の技術】欄に,次の事項が記載されている(下線は,当審にて付与したものである。甲第2号証?甲第6号証についても同じ。)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は,車載用エンジンの吸気調量バルブであるスロットルバルブの開度を検出するスロットルバルブ開度センサに関し,特にスロットルバルブの開閉を電子制御するシステム等,その開度をモニタする上で高い検出精度が要求されるシステムに採用して好適なセンサ構造の具現に関する。」

「【0002】
【従来の技術】・・・
【0013】図8に,上記スロットルバルブ開度センサ210も含めて,こうした電子式スロットルの具体構造についてその一例を示す。この図8に示される電子スロットルにおいて,スロットルボディー200は,上記吸気管100に対して組み付けられる部分であり,その内部に,上記スロットルバルブ201がスロットルシャフト1によって軸支されている。
【0014】また,このスロットルシャフト1は,上記電子制御装置230によりその駆動が制御されるモータ240の回転軸にギア群241並びに電磁クラッチ242を介して連結されている。
【0015】したがって,上記電磁クラッチ242のオン状態でモータ240が駆動されることにより,その回転が上記ギア群241を介してスロットルシャフト1に伝達され,上記スロットルバルブ201の開閉が行われることとなる。
【0016】一方,上記スロットルシャフト1の一方端にはフランジ部2が設けられ,このフランジ部2に,円筒部を有する金属製のロータ3がビス4によって固定されている。
【0017】ロータ3は,ホール素子10及びその駆動並びに信号処理用の回路基板20と共にスロットルバルブ開度センサ210を構成する部分であり,その円筒部の内部にそれぞれ半円筒形状を有する一対の永久磁石5を有している。そして,この一対の永久磁石5共々,上記スロットルシャフト1の回転に伴って回転する。
【0018】また,ホール素子10は,この回転する一対の永久磁石5の回転中心部に位置するよう,樹脂製のセンサハウジング6内に上記回路基板20と共に固定されている。
【0019】すなわち,同スロットルバルブ開度センサ210にあっては,このホール素子10に対する上記永久磁石5の磁界付与方向に基づいてスロットルシャフト1の回転角度,すなわちスロットルバルブ201の開度を非接触にて検出するようになっている。
【0020】以下,図9及び図10に基づき,こうしたスロットルバルブ開度センサ210による開度検出原理を更に詳述する。同スロットルバルブ開度センサにあっては,図9にその概要を模式的に示すように,スロットルシャフト1に連動して回転するロータ3に対し,その回転軸と直交する方向に着磁されたそれぞれ半円筒形状の一対の永久磁石5が設けられている。そして,該永久磁石5の中空部内に,ロータ3の回転軸に沿った面に平行且つ回転軸を中心に対称に,同永久磁石5の磁界方向を検出するホール素子10が配設されている。
【0021】このため,スロットルシャフト1の回動に伴い永久磁石5がホール素子10の周りを同図9に示される態様で回転すると,該ホール素子10の感磁面に対する磁界方向が変化し,その変化した角度θに対応した電気信号すなわちホール電圧VHが,
VH = KH・B・Rd・I・sinθ
= VA・sinθ …(1)
といったかたちで,同ホール素子10から出力されるようになる。
【0022】ここで,値VAは,値「KH・B・Rd・I」に対応した定数である。図10に示されるように,ロータ3が「-90(=θ)」度から「+90(=θ)」度まで回転する間に,上記ホール電圧VHは,「-VA」から「+VA」へと正弦波上を連続的に変化するようになる。また,同(1)式において,KHはホール素子10の感度であり,Bは磁石5の磁束密度であり,Rdはホール素子10の内部抵抗であり,Iはホール素子10の駆動電流である。」

また,【0014】,【0017】,【0018】及び図8より,「スロットルボディー200」の(図面)上側部に,スロットルシャフト1によって軸支されたスロットルバルブ201と,「スロットルバルブ開度センサ210」を構成する「永久磁石5」及び「ホール素子10」が配置され,「スロットルボディー200」の(図面)下側部に「モータ240」が配置される,との技術的事項を読み取ることができる。

以上より,甲第1号証には,従来の電子式スロットルとして,次の発明が記載されているものと認められる(「甲1発明1」という。)。
「車載用エンジンの吸気調量バルブであるスロットルバルブの開度を検出するスロットルバルブ開度センサ210を含めた電子スロットルにおいて,スロットルボディー200は,その内部に,上記スロットルバルブ201がスロットルシャフト1によって軸支されており,このスロットルシャフト1は,モータ240の回転軸に連結されており,モータ240が駆動されることにより,その回転がスロットルシャフト1に伝達され,上記スロットルバルブ201の開閉が行われることとなり,
スロットルシャフト1の一方端にはフランジ部2が設けられ,このフランジ部2に,円筒部を有する金属製のロータ3が固定されており,ロータ3は,ホール素子10と共にスロットルバルブ開度センサ210を構成し,その円筒部の内部にそれぞれ半円筒形状を有する一対の永久磁石5を有しており,ホール素子10は,この回転する一対の永久磁石5の回転中心部に位置するよう,樹脂製のセンサハウジング6内に固定されており,
スロットルバルブ開度センサ210にあっては,このホール素子10に対する上記永久磁石5の磁界付与方向に基づいてスロットルシャフト1の回転角度,すなわちスロットルバルブ201の開度を非接触にて検出するようになっており,該ホール素子10の感磁面に対する磁界方向が変化し,その変化した角度θに対応した電気信号すなわちホール電圧VHが,同ホール素子10から出力されるようになり,
スロットルボディー200の上側部に,スロットルシャフト1によって軸支されたスロットルバルブ201と,スロットルバルブ開度センサ210を構成する永久磁石5及びホール素子10が配置され,スロットルボディー200の下側部にモータ240が配置される,
電子スロットル。」

次に,甲第1号証には,実施の形態について,次の事項が記載されている。
「【0073】
【発明の実施の形態】図1に,この発明にかかるスロットルバルブ開度センサについてその一実施形態を示す。
【0074】この実施形態のセンサは,開度検出素子としてホール素子を用い,先の図9及び図10に示した原理に基づき,非接触にてスロットルバルブの開度を検出するセンサとして構成されている。
【0075】はじめに,図1を参照して,同実施形態にかかるスロットルバルブ開度センサの構成について説明する。この図1において,スロットルシャフト1は,例えば先の図8に例示したような電子式スロットルにあって,そのスロットルバルブ(図1では図示を割愛)を軸支する金属製のシャフトである。該シャフト1は通常,これも図示を割愛した熱容量の大きいスロットルボディーに熱的に接続されている。
【0076】また,このスロットルシャフト1の先端にはフランジ部2が設けられ,該フランジ部2に対して,当該センサのいわば回転入力部を構成するロータ3がビス4によって装着されている。
【0077】このロータ3は,樹脂等,熱伝導率の低い材料からなるとともに,その周囲に多数の切り欠き3cが設けられて上記フランジ部2に結合される円筒形の結合部3aと,その上部に一体に結合された鉄等の磁性体材料からなるヨーク部3bとを有して構成される。なお結合部3aも,そのフランジ部2と結合される底辺はフランジ状に加工されており,またヨーク部3bには,その内周面に,先の図9に示されるような円筒形状を有して,その回転軸と直交する方向に着磁された一対の永久磁石5が取り付けられている。
【0078】ロータ3のこうした構成により,上記スロットルボディーに熱的に接続されているスロットルシャフト1からの熱伝導は,樹脂等の低熱伝導率材料からなり,しかも上記切り欠き3cによってその経路断面積を縮小する結合部3aによって好適に遮断若しくは減衰されるようになる。
【0079】また,ロータ3の上記構成により,スロットルバルブを開閉すべくスロットルシャフト1が回動されるとき,上記ヨーク部3bに装着された一対の永久磁石5も,同ロータ3共々,その回動に伴って回転されることとなる。そして,この回転に伴う同永久磁石5の磁界方向が,当該センサのいわば回転検出部を構成するホール素子10によって検知される。
【0080】ホール素子10は,図示しないスロットルボディーに対してビス等により装着された樹脂等からなるセンサハウジング6に,同図1に示される態様で,上記回転する永久磁石5の回転中心に位置するよう,一体に固定されている。こうしてホール素子10には,上記一対の永久磁石5によって,先の図9に示されるような平行磁界が印加されるようになる。」

上記記載より,次の技術事項を読み取ることができる。
(ア)甲第1号証段落【0075】の「はじめに,図1を参照して,同実施形態にかかるスロットルバルブ開度センサの構成について説明する。この図1において,スロットルシャフト1は,例えば先の図8に例示したような電子式スロットルにあって,そのスロットルバルブ(図1では図示を割愛)を軸支する金属製のシャフトである。該シャフト1は通常,これも図示を割愛した熱容量の大きいスロットルボディーに熱的に接続されている。」との記載,及び,スロットルボディー200とスロットルシャフト1の軸支に関する図8の記載より,「スロットルバルブはスロットルボディーに軸支されている。」との技術事項を読み取ることができる。

(イ)甲第1号証段落【0074】の「この実施形態のセンサは,開度検出素子としてホール素子を用い,先の図9及び図10に示した原理に基づき,非接触にてスロットルバルブの開度を検出するセンサとして構成されている。」との記載,及び図9及び図10より,「該ホール素子10の感磁面に対する磁界方向が変化し,その変化した角度θに対応した電気信号すなわちホール電圧VHが,同ホール素子10から出力されるようになる。」との技術事項を読み取ることができる。

以上より,甲第1号証には,段落【0001】及び【発明の実施の形態】欄に,次の発明(以下,「甲1発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「車載用エンジンの吸気調量バルブであるスロットルバルブの開度を検出するスロットルバルブ開度センサに関し,開度検出素子としてホール素子を用い,非接触にてスロットルバルブの開度を検出するセンサであって,
スロットルバルブ開度センサの構成であるスロットルシャフト1は,電子式スロットルにあって,そのスロットルバルブをスロットルボディーに軸支する金属製のシャフトであり,このスロットルシャフト1の先端にはフランジ部2が設けられ,該フランジ部2に対して,ロータ3が装着されており,このロータ3は,鉄等の磁性体材料からなるヨーク部3bとを有して構成され,またヨーク部3bには,その内周面に,円筒形状を有して,その回転軸と直交する方向に着磁された一対の永久磁石5が取り付けられており,永久磁石5の磁界方向が,ホール素子10によって検知され,ホール素子10は,スロットルボディーに対してビス等により装着された樹脂等からなるセンサハウジング6に,上記回転する永久磁石5の回転中心に位置するよう,一体に固定されており,
該ホール素子10の感磁面に対する磁界方向が変化し,その変化した角度θに対応した電気信号すなわちホール電圧VHが,同ホール素子10から出力されるようになる,
スロットルバルブ開度センサ。」

イ 甲第2号証
甲第2号証には,【発明の属する技術分野】及び【従来の技術】欄に,次の技術事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は,車載用エンジンの吸気調量バルブであるスロットルバルブの開度を検出するスロットルバルブ開度センサに関し,特にスロットルバルブの開閉を電子制御するシステム等,その開度をモニタする上で高い検出精度が要求されるシステムに採用して好適なセンサ構造の具現に関する。」

「【0002】
【従来の技術】・・・
【0013】図11に,上記スロットルバルブ開度センサ210も含めて,こうした電子式スロットルの具体構造についてその一例を示す。この図11に示される電子スロットルにおいて,スロットルボディー200は,上記吸気管100に対して組み付けられる部分であり,その内部に,上記スロットルバルブ201がスロットルシャフト1によって軸支されている。
【0014】また,このスロットルシャフト1は,上記電子制御装置230によりその駆動が制御されるモータ240の回転軸にギア群241並びに電磁クラッチ242を介して連結されている。
【0015】したがって,上記電磁クラッチ242のオン状態でモータ240が駆動されることにより,その回転が上記ギア群241を介してスロットルシャフト1に伝達され,上記スロットルバルブ201の開閉が行われることとなる。
【0016】一方,上記スロットルシャフト1の一方端にはフランジ部2が設けられ,このフランジ部2に,円筒部を有する金属製のロータ3がビス4によって固定されている。
【0017】ロータ3は,ホール素子10及びその駆動並びに信号処理用の回路基板20と共にスロットルバルブ開度センサ210を構成する部分であり,その円筒部の内部に180°毎にS極,N極に着磁された円筒状の永久磁石5を有している。そして,ロータ3はこの永久磁石5,上記スロットルシャフト1の回転に伴って回転する。
【0018】また,ホール素子10は,この回転する永久磁石5の回転中心部に位置するよう,樹脂製のセンサハウジング6内に上記回路基板20と共に固定されている。すなわち,同スロットルバルブ開度センサ210にあっては,このホール素子10に対する上記永久磁石5の磁界付与方向に基づいてスロットルシャフト1の回転角度,すなわちスロットルバルブ201の開度を非接触にて検出するようになっている。
【0019】以下,図12及び図13に基づき,こうしたスロットルバルブ開度センサ210による開度検出原理を更に詳述する。同スロットルバルブ開度センサにあっては,図12にその概要を模式的に示すように,スロットルシャフト1に連動して回転するロータ3に対し,その回転軸と直交する方向に着磁された円筒形状の永久磁石5が設けられ,円筒形状の永久磁石5において180°毎にS極とN極が着磁されている。そして,該永久磁石5の中空部内に,ロータ3の回転軸に沿った面に平行且つ回転軸を中心に対称に,同永久磁石5の磁界方向を検出するホール素子10が配設されている。
【0020】このため,スロットルシャフト1の回動に伴い永久磁石5がホール素子10の周りを同図12に示される態様で回転すると,該ホール素子10の感磁面に対する磁界方向が変化し,その変化した角度θに対応した電気信号すなわちホール電圧VHが,
VH=KH・B・Rd・I・sinθ
=VA・sinθ …(1)
といったかたちで,同ホール素子10から出力されるようになる。
【0021】ここで,値VAは,値「KH・B・Rd・I」に対応した定数である。図13に示されるように,ロータ3が「-90(=θ)」度から「+90(=θ)」度まで回転する間に,上記ホール電圧VHは,「-VA」から「+VA」へと正弦波上を連続的に変化するようになる。また,同(1)式において,KHはホール素子10の感度であり,Bは永久磁石5の磁束密度であり,Rdはホール素子10の内部抵抗であり,Iはホール素子10の駆動電流である。」

また,【0014】,【0017】,【0018】及び図11より,「スロットルボディー200」の(図面)上側部に,スロットルシャフト1によって軸支されたスロットルバルブ201と,「スロットルバルブ開度センサ210」を構成する「永久磁石5」及び「ホール素子10」が配置され,「スロットルボディー200」の(図面)下側部に「モータ240」が配置される,との技術的事項を読み取ることができる。

以上より,甲第2号証には,従来の電子式スロットルとして,次の発明が記載されているものと認められる(以下,「甲2発明1」という。なお,発明の内容は,甲1発明1と同である。)。
「車載用エンジンの吸気調量バルブであるスロットルバルブの開度を検出するスロットルバルブ開度センサ210を含めた電子スロットルにおいて,スロットルボディー200は,その内部に,上記スロットルバルブ201がスロットルシャフト1によって軸支されており,このスロットルシャフト1は,モータ240の回転軸に連結されており,モータ240が駆動されることにより,その回転がスロットルシャフト1に伝達され,上記スロットルバルブ201の開閉が行われることとなり,
スロットルシャフト1の一方端にはフランジ部2が設けられ,このフランジ部2に,円筒部を有する金属製のロータ3が固定されており,ロータ3は,ホール素子10と共にスロットルバルブ開度センサ210を構成し,その円筒部の内部にそれぞれ半円筒形状を有する一対の永久磁石5を有しており,ホール素子10は,この回転する一対の永久磁石5の回転中心部に位置するよう,樹脂製のセンサハウジング6内に固定されており,
スロットルバルブ開度センサ210にあっては,このホール素子10に対する上記永久磁石5の磁界付与方向に基づいてスロットルシャフト1の回転角度,すなわちスロットルバルブ201の開度を非接触にて検出するようになっており,該ホール素子10の感磁面に対する磁界方向が変化し,その変化した角度θに対応した電気信号すなわちホール電圧VHが,同ホール素子10から出力されるようになり,
スロットルボディー200の上側部に,スロットルシャフト1によって軸支されたスロットルバルブ201と,スロットルバルブ開度センサ210を構成する永久磁石5及びホール素子10が配置され,スロットルボディー200の下側部にモータ240が配置される,
電子スロットル。」

また,甲第2号証には,実施の形態について,次の事項が記載されている。
「【発明の実施の形態】
(第1の実施の形態)以下,この発明を具体化した第1の実施の形態を説明する。
【0043】この実施形態のセンサは,開度検出素子としてホール素子を用い,先の図12及び図13に示した原理に基づき,非接触にてスロットルバルブの開度を検出するセンサとして構成されている。
【0044】はじめに,図1,2を参照して,同実施形態にかかるスロットルバルブ開度センサの構成について説明する。図1は同センサの正面図(図11において右側面から見たB矢視図)であり,図2は図1のA-A線での断面図である。
【0045】図1において符号240で示す部材が図11でのモータであり,符号243にて示す部材は図11のギヤ群241を覆うギヤケースである。図2において,スロットルシャフト1は,例えば先の図11に例示したような電子式スロットルにあって,そのスロットルバルブ(図1では図示を割愛)を軸支する金属製のシャフトである。該シャフト1は通常,これも図示を割愛した熱容量の大きいスロットルボディーに熱的に接続されている。
【0046】また,このスロットルシャフト1の先端にはフランジ部2が設けられ,該フランジ部2に対して,当該センサのいわば回転入力部を構成するロータ3がビス4によって装着されている。
【0047】このロータ3は,樹脂等,熱伝導率の低い材料からなるとともに,上記フランジ部2に結合される円筒形の結合部3aと,その上部に一体に結合された鉄等の磁性体材料からなるヨーク部3bとを有して構成される。なお結合部3aも,そのフランジ部2と結合される底辺はフランジ状に加工されており,またヨーク部3bには,その内周面に,先の図12に示されるような円筒形状を有して,その回転軸と直交する方向に着磁された永久磁石5が取り付けられている。
【0048】また,ロータ3の上記構成により,スロットルバルブを開閉すべくスロットルシャフト1が回動されるとき,上記ヨーク部3bに装着された永久磁石5も,同ロータ3共々,その回動に伴って回転されることとなる。そして,この回転に伴う同永久磁石5の磁界方向が,当該センサのいわば回転検出部を構成するホール素子10によって検知される。
【0049】ホール素子10は,図示しないスロットルボディーに対してビス等により装着された樹脂等からなるセンサハウジング6に,同図1,2に示される態様で,上記回転する永久磁石5の回転中心に位置するよう,一体に固定されている。」

甲第2号証の段落【0044】の「はじめに,図1,2を参照して,同実施形態にかかるスロットルバルブ開度センサの構成について説明する。図1は同センサの正面図(図11において右側面から見たB矢視図)であり,図2は図1のA-A線での断面図である。」との記載,段落【0045】の「図1において符号240で示す部材が図11でのモータであり,符号243にて示す部材は図11のギヤ群241を覆うギヤケースである。」との記載及び図1,2,11より,「スロットルボディーの上側部にスロットルシャフト1が配置され,スロットルボディーの下側部にモータ240が配置される。」との技術事項を読み取ることができる。
また,段落【0043】の「この実施形態のセンサは,開度検出素子としてホール素子を用い,先の図12及び図13に示した原理に基づき,非接触にてスロットルバルブの開度を検出するセンサとして構成されている。」との記載,及び図12,13に関する段落【0019】?【0021】の記載より,「ホール素子10の感磁面に対する磁界方向が変化し,その変化した角度θに対応した電気信号すなわちホール電圧VHが,同ホール素子10から出力されるようになる。」との技術事項を読み取ることができる。

以上より,甲第2号証には,段落【0001】及び【発明の実施の形態】欄に次の発明(以下,「甲2発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「車載用エンジンの吸気調量バルブであるスロットルバルブの開度を検出するスロットルバルブ開度センサに関し,開度検出素子としてホール素子を用い,非接触にてスロットルバルブの開度を検出するセンサであって,
スロットルバルブ開度センサの構成は,
モータとギヤケースとを含み,スロットルボディーの上側部にスロットルシャフト1が配置され,スロットルボディーの下側部にモータ240が配置され,
スロットルシャフト1は,電子式スロットルにあって,そのスロットルバルブを軸支する金属製のシャフトであり,このスロットルシャフト1の先端にはフランジ部2が設けられ,該フランジ部2に対して,ロータ3が装着されており,
このロータ3は,鉄等の磁性体材料からなるヨーク部3bとを有して構成され,またヨーク部3bには,その内周面に,円筒形状を有して,その回転軸と直交する方向に着磁された永久磁石5が取り付けられており,永久磁石5の磁界方向が,当ホール素子10によって検知され,ホール素子10は,スロットルボディーに対してビス等により装着された樹脂等からなるセンサハウジング6に,上記回転する永久磁石5の回転中心に位置するよう,一体に固定されており,
ホール素子10の感磁面に対する磁界方向が変化し,その変化した角度θに対応した電気信号すなわちホール電圧VHが,同ホール素子10から出力されるようになる,
スロットルバルブ開度センサ。」

ウ 甲第3号証
甲第3号証には,次の事項が記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,内燃機関のスロットルバルブの回転軸に取り付けられ,スロットルバルブ開度を検出するスロットルポジションセンサに関する。」
「【0008】
【実施例】以下に本発明の実施例を図面と共に説明する。尚,以下の説明において,図1は本実施例のスロットルポジションセンサの内部構成を表す断面図,図2は図1におけるA-B-C-A線に沿った断面図,図3は図1におけるD-E-C-A線に沿った断面図,図4はスロットルポジションセンサの底面図,図5は図2におけるF-F線に沿った断面図である。
【0009】図1?図4に示す如く,本実施例のスロットルポジションセンサは,樹脂製で中空のハウジング1を備えている。ハウジング1の中心部には,ベアリング3が埋設されており,このベアリング3には,磁性材からなる中空のロータ5が回転自在に設けられている。またロータ5の図1に示す下端部には,スロットルバルブの回転を受けるレバー7が固設されており,このレバー7とハウジング1との間にはコイルバネ9が設けられている。
【0010】図4に示す如く,このコイルバネ9の両端にはフック部9a,9bが形成されており,これら各フック部9a,9bは,夫々,ハウジング1に形成された突起部1a及びレバー7に形成された溝部7aに係止されている。この結果,コイルバネ9は,スロットルバルブに連動して回動するレバー7とロータ5とをスロットルバルブの閉方向(矢印X方向)に付勢する。
【0011】一方,ロータ5の図1における上端外周部にはワッシャ10が固設されており,このワッシャ10とベアリング3の図1における上端外周部との間には,ウェーブ状の弾性のあるワッシャ11が設けられている。つまり,このワッシャ11により,図1に示すZ方向のガタが発生しないようにされている。
【0012】またロータ5の内周部には,同心円筒状で,ロータ5の回転軸と直交する方向に着磁された,Nd-Fe-B系等の希土類からなる永久磁石15が,磁力及び接着により固定されている。次に永久磁石15の図1における上方には,4個の貫通コンデンサ17がはんだ等により電気的に接続固定され,中央に穴部20aが形成され,周囲にハウジング1への取付穴が形成された非磁性の導電材からなるケース20が配設されている。またこのケース20の更に上方には,ホール素子21,22,各種回路素子23,及び4個のターミナル24が実装され,且つホール素子21,22を収納しているホルダ25が固定されたプリント基板27が配設されている。そしてこれらケース20及びプリント基板27は,スクリュ29にてハウジング1に固定されている。
【0013】ここでホルダ25は,ホール素子21,22のプリント基板27への固定及び位置決めを行うためのもので,図5に示す如く,ホール素子21,22は,ホルダ25のラッチ25aにより,ホルダ25の壁に押し付けられて,固定及び位置決めされる。
【0014】またこのようにホール素子21,22は,ホルダ25を介してプリント基板27に位置決め固定されるため,ホール素子21,22の位置は,上記構成により,ハウジング1,プリント基板27及びホルダ25の各々の寸法・精度によって決定されるが,本実施例では,ホール素子21,22がロータ5の回転軸と直交する磁界を感磁して同レベルの検出信号が得られるように,各ホール素子21,22は,永久磁石15の中空部内にて,ロータ5の回転軸に沿った面に平行で,しかも回転軸を中心に対称な位置に配設されている。
【0015】次にハウジング1のコネクタ部31に埋没された4個のコネクタターミナル32は,ケース20に固定された4個の貫通コンデンサ17と,プリント基板27に実装された4個のターミナル24とを夫々接続するためのもので,これにより,プリント基板27に実装された各種回路素子23に外部から電源供給を行ない回路素子23を動作させると共に,この動作によって得られる検出信号を外部に取り出すことが可能となる。
【0016】また上記プリント基板27の図1における上方のハウジング開口部1bには,ゴムパッキン34が設けられ,更にその上に磁性材のカバー35を設けて,ハウジング開口部1bの周縁を熱かしめすることにより,これら各部が固定されている。またプリント基板27の図1における上方には,ヒューミシールのような防湿剤36が充てん又は塗布され,ゴムパッキン34により密閉された内部を湿気から保護するようにされている。また図2,図3に示す如く,ハウジング1の外側の,ロータ5の回転軸を中心として対称な2ヶ所には,ブッシュ38が埋没された相手取付部1cが形成されている。
【0017】このように構成された本実施例のスロットルポジションセンサにおいては,レバー7がスロットルバルブの回転軸に連結され,その回転に伴いロータ5が回転する。するとこの回転に伴い永久磁石15が,ホール素子21,22の周りを回転するため,ホール素子21,22の感磁面に対する磁界方向が図6に示すように変化する。
【0018】この結果,ホール素子21,22からの出力VH は,次式(1) の如く変化し,
VH =VA ・sinθ …(1)
図7に示す如く,ロータ5が-90°から+90°へ回転する間に,-VA から+VA へと正弦波上を連続的に変化する。
【0019】次にこうした出力特性が得られるホール素子21,22を動作させて,検出信号を取り出すためのセンサ回路は,プリント基板27に形成された回路パターンとプリント基板に実装された回路素子23とにより,図8に示す如く構成されている。
【0020】図に示す如く,プリント基板27には,センサ回路として,ホール素子21用センサ回路50とホール素子22用センサ回路60とが各々独立して形成されており,上記4個のターミナル24の内,2つのターミナル24a,24bが,各センサ回路50,60からの検出信号出力端子として使用され,他の2つのターミナル24c,24dが,電源供給用端子,即ち電源電圧(Vcc)供給用の端子及び接地(Gnd)用の端子として使用される。」

「【0024】この結果,上記各センサ回路50,60からは,スロットルバルブ開度に対応した図9に実線で示す如き検出信号V1,V2が出力されることとなり,この検出信号V1,V2からスロットルバルブの開度を知ることができる。尚図9に実線で示す検出信号V1,V2の特性は,スロットルバルブ開度が0度のときの磁界方向に対して各ホール素子21,22の感磁面を-30度オフセットさせたときの出力特性であり,次式(2) の如く記述できる。
【0025】
V1,V2=K・sin(θ-30)+VM …(2)
即ち,本実施例では,このように構成することにより,ホール素子21,22が出力する図7に示す正弦波信号の内,できるだけリニアに変化する領域の信号を検出信号V1,V2として出力できるようにしているのである。尚,上記(2) 式において,Kはセンサ回路50,60の増幅特性に対応した定数であり,VMは基準電圧生成回路55,65によるオフセット電圧(V12,V22)である。」


以上より,甲第3号証には,次の発明(以下,「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。
「内燃機関のスロットルバルブの回転軸に取り付けられ,スロットルバルブ開度を検出するスロットルポジションセンサであって,スロットルポジションセンサは,樹脂製で中空のハウジング1を備えており,ハウジング1の中心部には,ベアリング3が埋設されており,このベアリング3には,磁性材からなる中空のロータ5が回転自在に設けられており,またロータ5の下端部には,スロットルバルブの回転を受けるレバー7が固設されており,このレバー7とハウジング1との間にはコイルバネ9が設けられており,またロータ5の内周部には,同心円筒状で,ロータ5の回転軸と直交する方向に着磁された永久磁石15が,磁力及び接着により固定されており,永久磁石15の(図1における)上方には,周囲にハウジング1への取付穴が形成された非磁性の導電材からなるケース20が配設されており,またこのケース20の更に上方には,ホール素子21,22が実装され,且つホール素子21,22を収納しているホルダ25が固定されたプリント基板27が配設されており,そしてこれらケース20及びプリント基板27は,スクリュ29にてハウジング1に固定されており,
ホール素子21,22がロータ5の回転軸と直交する磁界を感磁して同レベルの検出信号が得られるように,各ホール素子21,22は,永久磁石15の中空部内にて,ロータ5の回転軸に沿った面に平行で,しかも回転軸を中心に対称な位置に配設されており,
ハウジング開口部1bには,ゴムパッキン34が設けられ,更にその上に磁性材のカバー35を設けて,ハウジング開口部1bの周縁を熱かしめすることにより,これら各部が固定され,
スロットルポジションセンサにおいては,レバー7がスロットルバルブの回転軸に連結され,その回転に伴いロータ5が回転すると,この回転に伴い永久磁石15が,ホール素子21,22の周りを回転するため,ホール素子21,22の感磁面に対する磁界方向が変化し,この結果,ホール素子21,22からの出力VH が変化し,検出信号を取り出すためのセンサ回路50,60からは,スロットルバルブ開度に対応した検出信号V1,V2が出力されることとなり,この検出信号V1,V2からスロットルバルブの開度を知ることができるが,検出信号V1,V2の特性は,スロットルバルブ開度が0度のときの磁界方向に対して各ホール素子21,22の感磁面を-30度オフセットさせ,ホール素子21,22が出力する図7に示す正弦波信号の内,できるだけリニアに変化する領域の信号を検出信号V1,V2として出力できるようにしている,スロットルポジションセンサ。」

エ 甲第4号証
甲第4号証には,次の事項が記載されている。
「【要約】
自動車での使用と,正確さの高い測定を可能にすること,簡単で低コストの製造のために,この位置調整装置は,ユニット(1)のケーシング部材(13)中で調整可能に配置されるシャフト部材(12),固定子部材(21)を持つ固定部(20),この固定部(20)に対して動くことができる回転角センサー(2)からなる回転部(20’)を有する。固定子部材(21)は,付勢ユニットにより保持され固定子取付け部材(23)中に配置される2つの丸い半月形の固定子部分部材(21)から構成される。固定子部分部材(21)の間には間隔凹部が存在する。回転部(20’)には,磁石取付けユニット(26,27)により保持されるリング状に形成された磁石部材がある。磁石取付けユニットはシャフト部材(12)と結合し,その結果,磁石部材(24)はエアギャップ(25)の中で固定子部材のまわりを運動できる。」(フロントページ)

「5.固定子部分部材(21.1,21.2)間の隙間凹部(21.2’)中に電磁気部品,例えばホール素子(22)が配置され,その際好ましくは前記隙間凹部(21.2’)中に充填剤が挿入され,その中で前記電磁気部品が保持されることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の装置。」(第3頁第2?6行)

「図1では,スロットルバルブユニット1とバルブと結合した回転角センサー2が示されている。
スロットルバルブユニットは,スロットルバルブシャフト部材12と結合してスロットルバルブケーシング部材13の中に配置されるスロットルバルブ11から構成される。
回転角センサー2は以下のものから構成される。即ち,
-固定部ユニット20,
-回転ユニット20’。
更に,固定部ユニット20の詳細が図2,3,4に示されている。ここで,実質的なことは,磁気の流れの線形挙動を達成するために,固定子部材21が2つの丸味をもった半月形の固定子部分部材21.1,21.2から構成されていて,この固定子部分部材は相対して位置し,隅では斜角面(21.1.1,21.1.2,21.2.1,21.2.2)を示し,斜角面の間に隙間凹部21”が存在する。斜角面(21.1.1,21.1.2,21.2.1,21.2.2)は約45°の角度α中に取り付けられる。ここでは固定子部分部材21.1,21.2は,上から見てオレンジ皮のような凹凸の板の形を維持し,特に斜角面によってマンダリン皮のような凹凸の板の形を維持する。固定子部分部材21.1,21.2の両者は,積層したいくつかの板から組み立てられる。板としては,特にテクスチャー板が使用される。」(第13頁第7?26行)

「いうまでもなく,固定子部分部材21.1,21.2の特別に束ねられた板ユニットを付勢ユニット33と容器部材23,底部材23”あるいはその一部により射出成形過程中で合成樹脂で仕上げることもできる。更に,容器部材23の下側にガイドピンの形の付勢部材23.1,23.2,23.3があり,これらを例えば差込み板60中の固定に用いることができる。更に底部材23”中に,実質的にナットの形の中央凹部21’が取り付けられる。特に,図2,3に示すように,中央凹部21’と隙間凹部21”は,これらが広い断面中に互いに両立し得るような幅を持つ。隙間凹部21”中に,例えばホール素子22のような電磁気部品が導入される。」(第15頁第16?24行)

よって,甲第4号証には,次の技術が記載されている。
「自動車で使用され,スロットルバルブユニット1とバルブと結合した回転角センサー2であって,
スロットルバルブユニットは,スロットルバルブシャフト部材12と結合してスロットルバルブケーシング部材13の中に配置されるスロットルバルブ11から構成され,回転角センサー2は,固定部ユニット20,回転ユニット20’から構成され,
更に,固定部ユニット20の詳細では,磁気の流れの線形挙動を達成するために,固定子部材21が2つの丸味をもった半月形の固定子部分部材21.1,21.2から構成されていて,この固定子部分部材は相対して位置し,隅では斜角面(21.1.1,21.1.2,21.2.1,21.2.2)を示し,斜角面の間に隙間凹部21”が存在し,隙間凹部21”中に,例えばホール素子22のような電磁気部品が導入される,
回転角センサー2。」

オ 甲第5号証
甲第5号証には,次の事項が記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,結合軸と一体化した管状の薄い永久磁石を含むタイプの磁気位置センサーに関する。永久磁石は,軟磁性材料製の2つの部品の間に含まれた主磁極間隙の中で回転運動する。これらの部品のうちの一方は,中にホール素子(ホールセンサ,sonde de Hall,磁気検出手段)が収納される二次磁極間隙を呈する固定子によって形成されている。」

「【0022】図1を参考にして制限的意味のない一例として記述されたセンサーは,角速度の測定を望む駆動軸(1)に結合される。ヨーク(2)がこの軸(1)と一体化されている。ヨークは,軟鉄等の軟磁性材料で造られている。これは,結合軸(1)との結合のため管状部分(3)と前方側板(4)を呈している。ヨーク(2)の管状部分の内部には,永久磁石(5)が接着されている。この磁石(5)は,半径方向に磁化された管状要素によって構成されている。これは,例えば外方に向いた正極と内方に向いた負極を示す一方向で磁化されたかわら状の第1の部分,及び外方に向いた負極と内方に向いた正極を呈する中央平面との関係において反対側にある第2の部分を呈する。
【0023】ヨーク(2)と磁石(5)は,管状磁石(5)の内側に収納され固定された固定子(6,7)との関係において回転運動する。
【0024】記述されている第1の実施態様において,固定子(6,7)は管状を成しており,軸(1)の端部の通過のため中央の穴を呈する。これは,鉄-ニッケル,又は鉄-ケイ素製の積重ねられた薄板の束によって構成されている。
【0025】固定子(6,7)は,図2に表わされているように,半径方向面に沿って拡がる二次磁極間隙(8)を呈する。この二次磁極間隙(8)の中にホール素子(9)が収納される。」

以上より,甲第5号証には,次の技術が記載されている。
「結合軸と一体化した管状の薄い永久磁石を含むタイプの磁気位置センサーであって,
センサーは,角速度の測定を望む駆動軸(1)に結合され,ヨーク(2)がこの軸(1)と一体化されており,ヨーク(2)の管状部分の内部には,永久磁石(5)が接着されており,ヨーク(2)と磁石(5)は,管状磁石(5)の内側に収納され固定された固定子(6,7)との関係において回転運動し,固定子(6,7)は,半径方向面に沿って拡がる二次磁極間隙(8)を呈し,この二次磁極間隙(8)の中にホール素子(9)が収納される,磁気位置センサー。」

カ 甲第6号証
甲第6号証には,次の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,例えば回動軸の回動角等を検出するのに好適に用いられる回動角検出装置に関し,特に自動車用エンジンのスロットルバルブ開度を検出するようにした回動角検出装置に関する。」

「【0023】ここで,マグネット4(シャフト3)の回動角θは図2に示すように,円弧面部4Aの中央部位が一側の磁極片部6の中間部位6Aに対向した状態を零(θ=0°)位置とし,磁極片部6の中間部位6Aから右側にマグネット4の円弧面部4Aが回動したときを正方向,磁極片部6の中間部位6Aから左側にマグネット4の円弧面部4Aが回動したときを負方向とする。また,シャフト3が回動する範囲は±90°の間であり,回動角θが-90°のときはスロットルバルブの閉弁時に対応し,回動角θが90°のときはスロットルバルブの最大開弁時(フルスロットル時)に対応している。」

(1-1)本件訂正発明1の新規性,進歩性について(甲1発明1,甲1発明2を主引用例とした場合)
ア 本件訂正発明1と甲1発明1との対比
本件訂正発明1と甲1発明1とを対比・判断する。
甲1発明1における「スロットルバルブ開度センサ210」は,「車載用エンジンの吸気調量バルブであるスロットルバルブの開度を検出する」ものであって,「電子スロットル」に用いられるから,本件訂正発明1の「自動車の電子スロットルシステム」に相当する。
次に,甲1発明1における「スロットルボディー200」と本件訂正発明1における「アルミニウム製の本体ハウジング」とは,「本体ハウジング」の点で共通する。
次に,甲1発明1における「スロットルバルブ201」は「車載用エンジンの吸気調量バルブ」あって,「スロットルボディー200の上側部に,スロットルシャフト1によって軸支され」ているから,本件訂正発明1における「この本体ハウジングの上側部に軸受を介して回転軸が回転支持され,この回転軸周りの回動に応じて内燃機関の吸入空気量を制御するスロットルバルブ」に相当する。
次に,甲1発明1における「モータ240」は,「スロットルボディー200の下側部」に配置され,「スロットルシャフト1は,モータ240の回転軸に連結されており,モータ240が駆動されることにより,その回転がスロットルシャフト1に伝達され,上記スロットルバルブ201の開閉が行われることとな」るから,本件訂正発明1における「前記本体ハウジングの下側部に配置され,前記スロットルバルブを駆動するモータ」に相当する。
次に,甲1発明1では,「スロットルシャフト1の一方端にはフランジ部2が設けられ,このフランジ部2に,円筒部を有する金属製のロータ3が固定されており,ロータ3は,ホール素子10と共にスロットルバルブ開度センサ210を構成し,その円筒部の内部にそれぞれ半円筒形状を有する一対の永久磁石5を有して」いるから,甲1発明1における,該「それぞれ半円筒形状を有する一対の永久磁石5」が,本件訂正発明1における「前記回転軸の先端部に固定され,前記回転軸の回転に応じて回転する磁石」に相当する。
次に,甲1発明1における「樹脂製のセンサハウジング6」は,甲第1号証の図8の「電子式スロットルの具体的構成例を示す正面及び部分断面図」に記載されているとおり,スロットルバルブ201及びモータ240が配置されるスロットルボディ200(なお,右上から左下へ向いたハッチングの付された箇所は,スロットルボディ200の断面と認められる。)を右端から覆っているから,本件訂正発明1における「前記本体ハウジングの開口部を前記スロットルバルブ及びモータを一括して覆い前記本体ハウジングより熱膨張率が大きい樹脂製で縦長形状のカバー」とは,「前記本体ハウジングの開口部を前記スロットルバルブ及びモータを一括して覆う,樹脂製で縦長形状のカバー」の点で共通する。
次に,甲1発明1における「ホール素子10」は,「樹脂製のセンサハウジング6内に固定されて」いるから,本件訂正発明1における「このカバー側に固定された磁気検出素子」に相当する。
次に,甲1発明1の「樹脂製のセンサハウジング6」は,「電子スロットル」に使用されているから,甲1発明1における「センサハウジング6」が「樹脂製」であることが,本件訂正発明1における「前記カバーは,自動車の電子スロットルシステムに使用される樹脂で成形され」ることに相当する。
次に,甲1発明1では「スロットルボディー200の上側部に,スロットルシャフト1によって軸支されたスロットルバルブ201と,スロットルバルブ開度センサ210を構成する永久磁石5及びホール素子10が配置され,スロットルボディー200の下側部にモータ240が配置される」から,それらを右端から覆う(甲第1号証図8参照。)「センサハウジング6」の形状が,本件訂正発明1における「前記カバーは,前記スロットルバルブと前記モータとを長手方向に配置する縦長形状であ」ることに相当する。
次に,甲1発明1において,「センサハウジング6」が「スロットルボディー200」に固定されていることは明らかであって,甲1発明1は,本件訂正発明1における「前記カバーは前記本体ハウジングにボルトで固定され」ることとは,「前記カバーは前記本体ハウジングに固定され」る点で共通する。
次に,甲1発明1において「ホール素子10は,この回転する一対の永久磁石5の回転中心部に位置するよう,樹脂製のセンサハウジング6内に固定されており」,「このホール素子10に対する上記永久磁石5の磁界付与方向に基づいてスロットルシャフト1の回転角度,すなわちスロットルバルブ201の開度を非接触にて検出するようになって」いるから,甲1発明1の「ホール素子10」と「永久磁石5」との間にエアギャップが形成されていることは明らかである。
よって,甲1発明1において「ホール素子10は,この回転する一対の永久磁石5の回転中心部に位置するよう,樹脂製のセンサハウジング6内に固定されて」おり,「ホール素子10」と「永久磁石5」との間にエアギャップが形成されていることが,本件訂正発明1における「前記磁気検出素子は前記カバーの上部内側に前記磁石と同心状に配置されて,前記磁石と前記磁気検出素子との間にはエアギャップが形成され」ることに相当するといえる。
次に,甲1発明1において「スロットルバルブ開度センサ210」は,「このホール素子10に対する上記永久磁石5の磁界付与方向に基づいてスロットルシャフト1の回転角度,すなわちスロットルバルブ201の開度を非接触にて検出するようになっており,該ホール素子10の感磁面に対する磁界方向が変化し,その変化した角度θに対応した電気信号すなわちホール電圧VHが,同ホール素子10から出力されるようにな」るから,本件訂正発明1における「前記磁石の回転によって変化する前記磁気検出素子の出力信号に基づいて前記スロットルバルブの回転角を検出する回転角検出装置」に相当する。
次に,甲1発明1において「ホール素子10の感磁面」に垂直な方向が,本件訂正発明1における「前記磁気検出素子」の「磁気検出方向」に相当することは明らかである。

よって,本件訂正発明1と甲1発明1との一致点,相違点は次のとおりである。

(一致点)
「自動車の電子スロットルシステムに用いる回転角検出装置であって,
本体ハウジングと,
この本体ハウジングの上側部に軸受を介して回転軸が回転支持され,この回転軸周りの回動に応じて内燃機関の吸入空気量を制御するスロットルバルブと,
前記本体ハウジングの下側部に配置され,前記スロットルバルブを駆動するモータと,
前記回転軸の先端部に固定され,前記回転軸の回転に応じて回転する磁石と,
前記本体ハウジングの開口部を前記スロットルバルブ及びモータを一括して覆う,樹脂製で縦長形状のカバーと,
このカバー側に固定された磁気検出素子とを備え,
前記カバーは,自動車の電子スロットルシステムに使用される樹脂で成形され,
前記カバーは,前記スロットルバルブと前記モータとを長手方向に配置する縦長形状であり,
前記カバーは前記本体ハウジングに固定され,
前記磁気検出素子は前記カバーの上部内側に前記磁石と同心状に配置されて,前記磁石と前記磁気検出素子との間にはエアギャップが形成され,
前記磁石の回転によって変化する前記磁気検出素子の出力信号に基づいて前記スロットルバルブの回転角を検出する回転角検出装置において,
前記磁気検出素子は,磁気検出方向を有する,回転角検出装置。」

(相違点1)
本件訂正発明1では,本体ハウジングは「アルミニウム製」であり,「カバー」は,「本体ハウジングより熱膨張率が大きい」樹脂製であるのに対し,甲1発明1では,「センサハウジング6」(「カバー」)が樹脂製であることは示されているものの,「スロットルボディー200」(本体ハウジング)の材質も,カバーとの熱膨張率の大小関係も示されていない点。

(相違点2)
本件訂正発明1では,カバーは本体ハウジングに「ボルトで固定され」ているのに対し,甲1発明1では,「センサハウジング6」(「カバー」)が「スロットルボディー200」(本体ハウジング)にどのような手段により固定されているか,示されていない点。

(相違点3)
本件訂正発明1では,前記磁気検出素子は,「磁気検出方向と前記カバーの長手方向が直交するように配置されている」のに対し,甲1発明1では,「ホール素子10の感磁面」に垂直な方向が,「磁気検出方向」であることは明らかであるものの,「ホール素子10の感磁面」に垂直な方向がどちらの方向を向いているか,明らかでない点。

(相違点4)
本件訂正発明1では,「前記カバーは,前記本体ハウジングに対して前記カバーの長手方向及び短尺方向の位置ずれ発生が皆無でなく固定され」,前記磁気検出素子の配置は,「前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際前記カバーの長手方向の位置ずれが短尺方向の位置ずれより大きい位置」とされ,「前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際の磁気検出方向の位置ずれ量を小さくしている」のに対し,甲1発明1では,そのようなことは示されていない点。

イ 判断
少なくとも上記相違点1?3は,本件訂正発明1と甲1発明1との実質的な相違点であるから,甲1発明1は,本件訂正発明1ではない。
そこで,上記相違点について検討する。
(ア)まず,(相違点2)について検討すると,甲2発明2には,「スロットルボディーに対してビス等により装着された樹脂等からなるセンサハウジング6」示されているから,甲1発明1において,「センサハウジング6」(「カバー」)を「スロットルボディー200」(本体ハウジング)にビス等により装着し,本件訂正発明1の構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

(イ)次に,(相違点3)について検討する。
まず,甲第1号証の図面(図1,図8)には,センサハウジング6にホール素子10を配置することが記載されているが,甲第1号証の図面(図1,図8)は,設計図と同視し得る程度に正確かつ詳細に記載されているわけではないから,その記載は,甲第1号証に記載された発明の理解を助ける程度のものであって,それ以上のものではないというべきである。
そして,甲第1号証に記載された発明は,「センサハウジング6」(「カバー」)や「スロットルボディー200」(本体ハウジング)に対するホール素子の「磁気検出方向」に着目した発明ではないから,甲第1号証の図面(図1,図8)にホール素子が記載されているとしても,その記載はホール素子の配置位置を示すにとどまり,ホール素子の「磁気検出方向」まで正確に図示されているとみることはできない。
つまり,甲第1号証の図面(図1,図8)から,ホール素子の磁気検出方向ついての技術思想を読み取ることはできない。
よって,(相違点3)は,甲第1号証に記載されていない事項である。
また,甲1発明2にも,上記(相違点3)に相当する構成は示されていない。
次に,甲2発明1は,甲1発明1と同じ発明であって,上記(相違点3)に相当する構成は示されていない。甲2発明2にも,上記(相違点3)に相当する構成は示されていない。さらに,甲第2号証の図面は,設計図と同視し得る程度に正確かつ詳細に記載されているわけではないから,甲第2号証の図面に,ホール素子の「磁気検出方向」まで正確に図示されているとみることはできないことも,上記のとおりである。

ウ 本件訂正発明1と甲1発明2との対比・判断
次に,本件訂正発明1と甲1発明2とを対比すると,両者は少なくとも上記「ア」「(相違点3)」の点で相違する。よって,甲1発明2は,本件訂正発明1と同一ではない。そして,甲1発明1にも,甲2発明1にも,甲2発明2にも,上記「ア」「(相違点3)」に相当する構成は示されていない。また,甲第1号証の図面(図1,図8)から,ホール素子の磁気検出方向についての技術思想を読み取ることはできず,甲第2号証の図面に,ホール素子の「磁気検出方向」まで正確に図示されているとみることができないことも,上記「イ」「(イ)」で述べたとおりである。

エ まとめ
以上のとおり,甲第1号証に記載された発明(甲1発明1,甲1発明2)は,本件訂正発明1と同一ではなく,また,少なくとも上記「ア」「(相違点3)」の点で,本件訂正発明1は,甲第1号証に記載された発明(甲1発明1,甲1発明2)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく,さらに,甲第1号証に記載された発明(甲1発明1,甲1発明2)及び甲第2号証に記載された発明(甲2発明1,甲2発明2)から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(1-2)本件訂正発明1の新規性,進歩性について(甲2発明1,甲2発明2を主引用例とした場合)
ア 甲第2号証に記載された発明と本件訂正発明との対比・判断
甲2発明1に記載された発明は,甲1発明1と同じ発明であるから,本件訂正発明1との一致点,相違点は,上記「(1-1)」「ア」で述べた(一致点),(相違点1)?(相違点4)のとおりである。
まず,(相違点2)について検討すると,甲2発明2には,「スロットルボディーに対してビス等により装着された樹脂等からなるセンサハウジング6」示されているから,甲2発明1において,「センサハウジング6」(「カバー」)を「スロットルボディー200」(本体ハウジング)にビス等により装着し,本件訂正発明1の構成とすることは当業者が容易になし得たことである。
しかし,(相違点3)について,甲第2号証に記載された発明はホール素子の「磁気検出方向」に着目した発明ではなく,また,甲第2号証の図面も,設計図と同視しうる程度に正確かつ詳細に記載されているわけではないから,甲第2号証の図面にホール素子が記載されているとしても,その記載はホール素子の配置位置を示すにとどまり,ホール素子の「磁気検出方向」まで正確に図示されているとみることはできない。
よって,甲第2号証の図面から,ホール素子の磁気検出方向についての技術思想を読み取ることはできない。
したがって,(相違点3)は,甲第2号証に記載されていない事項である。
また,甲第1号証にも,上記(相違点3)に相当する構成は記載されていない。また,甲1発明2にも,上記(相違点3)に相当する構成は示されていない。
さらに,甲第1号証の図面に,ホール素子の「磁気検出方向」まで正確に図示されているとみることはできないことも,上記「(1-1)」「イ」「(イ)」で述べたとおりである。

次に,本件訂正発明1と甲2発明2とを対比すると,両者は少なくとも(相違点3)の点で相違する。よって,甲2発明2は,本件訂正発明1と同一ではない。また,上記(相違点3)に相当する構成は,甲2発明1(甲1発明1に同じ。)にも,甲1発明2にも示されておらず,甲第1号証にも記載されておらず,また,甲第1号証の図面に,ホール素子の「磁気検出方向」まで正確に図示されているとみることはできず,甲第2号証の図面から,ホール素子の磁気検出方向についての技術思想を読み取ることはできないことも,上述したとおりである。

イ まとめ
よって,甲第2号証に記載された発明(甲2発明1,甲2発明2)は,本件訂正発明1と同一ではなく,また,本件訂正発明1は,少なとも(相違点3)の点で,甲第2号証に記載された発明(甲2発明1,甲2発明2)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく,さらに,甲第2号証に記載された発明(甲2発明1,甲2発明2)及び甲第1号証に記載された発明(甲1発明1,甲1発明2)から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(1-3)本件訂正発明1の新規性,進歩性について(甲3発明を主引用例とした場合)
ア 甲3発明と本件訂正発明1との対比
次に,甲3発明と本件訂正発明1とを対比・判断する。
甲3発明における「内燃機関のスロットルバルブの回転軸に取り付けられ,スロットルバルブ開度を検出するスロットルポジションセンサ」が,本件訂正発明1における「自動車の電子スロットルシステムに用いる回転角検出装置」に相当する。
次に,甲3発明における「樹脂製で中空のハウジング1」と,本件訂正発明1における「アルミニウム製の本体ハウジング」とは,「本体ハウジング」の点で共通する。
次に,甲3発明における「スロットルポジションセンサは,樹脂製で中空のハウジング1を備えており,ハウジング1の中心部には,ベアリング3が埋設されており,このベアリング3には,磁性材からなる中空のロータ5が回転自在に設けられており,またロータ5の下端部には,スロットルバルブの回転を受けるレバー7が固設されており,このレバー7とハウジング1との間にはコイルバネ9が設けられており」,「スロットルポジションセンサにおいては,レバー7がスロットルバルブの回転軸に連結され」ているから,甲3発明における「スロットルバルブ」と,本件訂正発明1における「この本体ハウジングの上側部に軸受を介して回転軸が回転支持され,この回転軸周りの回動に応じて内燃機関の吸入空気量を制御するスロットルバルブ」とは,「この本体ハウジングに回転支持され,回転軸周りの回動に応じて内燃機関の吸入空気量を制御するスロットルバルブ」の点で共通する。
次に,甲3発明における「スロットルポジションセンサにおいては,レバー7がスロットルバルブの回転軸に連結され」,「ハウジング1の中心部には,ベアリング3が埋設されており,このベアリング3には,磁性材からなる中空のロータ5が回転自在に設けられており,またロータ5の下端部には,スロットルバルブの回転を受けるレバー7が固設されており,このレバー7とハウジング1との間にはコイルバネ9が設けられており,またロータ5の内周部には,同心円筒状で,ロータ5の回転軸と直交する方向に着磁された永久磁石15が,磁力及び接着により固定されて」いるから,甲3発明において,「永久磁石15」は,「スロットルバルブの回転軸」の先端部に固定されているということができる。よって,甲3発明における「スロットルバルブの回転軸」の先端部に固定されている「永久磁石15」が,本件訂正発明1における「前記回転軸の先端部に固定され,前記回転軸の回転に応じて回転する磁石」に相当するといえる。
次に,甲3発明における「ハウジング開口部1bには,ゴムパッキン34が設けられ,更にその上に磁性材のカバー35を設けて,ハウジング開口部1bの周縁を熱かしめすることにより,これら各部が固定され」ているから,甲3発明における「カバー35」と,本件訂正発明1における「前記本体ハウジングの開口部を前記スロットルバルブ及びモータを一括して覆い前記本体ハウジングより熱膨張率が大きい樹脂製で縦長形状のカバー」とは「前記本体ハウジングの開口部を覆う,カバー」の点で共通する。
次に,甲3発明における「ケース20の更に上方には,ホール素子21,22が実装され,且つホール素子21,22を収納しているホルダ25が固定されたプリント基板27が配設されており,そしてこれらケース20及びプリント基板27は,スクリュ29にてハウジング1に固定されて」いることと,本件訂正発明1における「カバー側に固定された磁気検出素子」とは,「磁気検出素子」の点で共通する。
次に,甲3発明において「カバー35を設けて,ハウジング開口部1bの周縁を熱かしめすることにより,これら各部が固定され」ることと,本件訂正発明1における「前記カバーは前記本体ハウジングにボルトで固定され」ることとは,「前記カバーは前記本体ハウジングに固定され」る点で共通する。
次に,甲3発明において「ホール素子21,22がロータ5の回転軸と直交する磁界を感磁して同レベルの検出信号が得られるように,各ホール素子21,22は,永久磁石15の中空部内にて,ロータ5の回転軸に沿った面に平行で,しかも回転軸を中心に対称な位置に配設されて」いることと,本件訂正発明1における「前記磁気検出素子は前記カバーの上部内側に前記磁石と同心状に配置されて,前記磁石と前記磁気検出素子との間にはエアギャップが形成され」ることは,「前記磁気検出素子は前記磁石と同心状に配置されて,前記磁石と前記磁気検出素子との間にはエアギャップが形成され」る点で共通する。
次に,甲3発明における「スロットルポジションセンサにおいては,レバー7がスロットルバルブの回転軸に連結され,その回転に伴いロータ5が回転すると,この回転に伴い永久磁石15が,ホール素子21,22の周りを回転するため,ホール素子21,22の感磁面に対する磁界方向が変化し,この結果,ホール素子21,22からの出力VH が変化し,検出信号を取り出すためのセンサ回路50,60からは,スロットルバルブ開度に対応した検出信号V1,V2が出力されることとなり,この検出信号V1,V2からスロットルバルブの開度を知ることができる」ことが,本件訂正発明1における「前記磁石の回転によって変化する前記磁気検出素子の出力信号に基づいて前記スロットルバルブの回転角を検出する」ことに相当する。
次に,甲3発明における「ホール素子21,22の感磁面」と垂直な方向が,本件訂正発明1における「磁気検出素子の磁気検出方向」に相当する。

よって,本件訂正発明1と甲3発明とは,次の点で一致し,また相違する。
(一致点)
「自動車の電子スロットルシステムに用いる回転角検出装置であって,
本体ハウジングと,
この本体ハウジングに回転支持され,回転軸周りの回動に応じて内燃機関の吸入空気量を制御するスロットルバルブと,
前記回転軸の先端部に固定され,前記回転軸の回転に応じて回転する磁石と,
前記本体ハウジングの開口部を覆うカバーと,
磁気検出素子とを備え,
前記カバーは前記本体ハウジングに固定され,
前記磁気検出素子は前記磁石と同心状に配置されて,前記磁石と前記磁気検出素子との間にはエアギャップが形成され,
前記磁石の回転によって変化する前記磁気検出素子の出力信号に基づいて前記スロットルバルブの回転角を検出する回転角検出装置であって,
前記磁気検出素子は,磁気検出方向を有する回転角検出装置。」

(相違点1)
本件訂正発明1では,「本体ハウジング」は「アルミニウム製」であり,「カバー」は,「前記本体ハウジングの開口部を前記スロットルバルブ及びモータを一括して覆い前記本体ハウジングより熱膨張率が大きい樹脂製で縦長形状」であって,「自動車の電子スロットルシステムに使用される樹脂で成形され」,「前記スロットルバルブと前記モータとを長手方向に配置」するのに対し,
甲3発明では,ハウジング1が「樹脂製」あって,「アルミニウム製」ではなく,また「カバー35」は,「ハウジング開口部1b」を覆っているものの,スロットルバルブ及びモータを一括して覆うことは示されておらず,また,「カバー35」の組成も,ハウジング1との熱膨張率の大小関係も,形状も明らかでない点。

(相違点2)
本件訂正発明1では,「スロットルバルブ」が「本体ハウジングの上側部に軸受を介して回転軸が回転支持され」ているのに対し,甲3発明では,「スロットルバルブ」は,「ハウジング1」に回転支持されているものの,「ベアリング3」は「ハウジング1」の上側部になく,また,「回転軸に連結され」た「レバー7」を回転支持している点。

(相違点3)
本件訂正発明1では,「前記本体ハウジングの下側部に配置され,前記スロットルバルブを駆動するモータ」を備えているのに対し,甲3発明の「ハウジング1」には,「モータ」が配置されていない点。

(相違点4)
本件訂正発明1では,「磁気検出素子」は「カバー側に固定され」,「前記カバーの上部内側」に配置されているのに対し,甲3発明では,「ホール素子21,22」は,「ケース20の更に上方」に「実装され」ているものの,「ホール素子21,22を収納しているホルダ25が固定されたプリント基板27が配設されており,そしてこれらケース20及びプリント基板27は,スクリュ29にてハウジング1に固定されて」いる,つまり,「カバー35」ではなく「ハウジング1に固定されて」いる点。

(相違点5)
本件訂正発明1では,「前記カバーは,前記本体ハウジングにボルトで固定され」ているのに対し,甲3発明では,「カバー35」は「ハウジング開口部1bの周縁を熱かしめすることにより,これら各部が固定され」ている点。

(相違点6)
本件訂正発明1では,「前記磁気検出素子の磁気検出方向と前記カバーの長手方向が直交するように配置されている」のに対し,甲3発明では,「カバー35」の形状が明らかでなく,「ホール素子21,22の感磁面」と垂直な方向と,「カバー35」の長手方向との関係が明らかでない点。

(相違点7)
本件訂正発明1では,「前記カバーは,前記本体ハウジングに対して前記カバーの長手方向及び短尺方向の位置ずれ発生が皆無でなく固定され」,前記磁気検出素子の配置は,「前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際前記カバーの長手方向の位置ずれが短尺方向の位置ずれより大きい位置」とされ,「前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際の磁気検出方向の位置ずれ量を小さくしている」のに対し,甲3発明では,そのようなことは示されていない点。

イ 判断
(ア)新規性について
少なくとも上記(相違点1)?(相違点6)は実質的な相違点であるから,甲3発明は,本件訂正発明1ではない。
(イ)進歩性について
a 甲第3号証の図面は,設計図と同視し得る程度に正確かつ詳細に記載されているわけではないから,その記載は,甲第3号証に記載された発明の理解を助ける程度のものであって,それ以上のものではないというべきである。
そして,甲第3号証に記載された発明は,カバー35やハウジング1に対するホール素子の「磁気検出方向」に着目した発明ではないから,甲第3号証の図面にホール素子21,22とそれらの「感磁面」が記載されているとしても,甲第3号証の図面の記載から,ホール素子の「磁気検出方向」についての技術思想を読み取ることはできない。
つまり,甲第3号証の図面に記載されたカバー35の形状が,「ホール素子21,22」の「感磁面」との関係において,該「感磁面」と垂直方向に縦長である,との技術思想まで開示しているとみることはできない(相違点6)。
また,甲3発明では,ハウジング1が「樹脂製」あって,「アルミニウム製」ではなく,また「カバー35」の組成も示されていないから,「カバー35」と「ハウジング1」との熱膨張率の大小関係を特定することはできない(相違点1)。
さらに,甲第3号証には,(相違点2)?(相違点5)について何らの示唆もなされていない。
よって,(相違点7)について検討するまでもなく,本件訂正発明1は,甲3発明から,当業者が容易になし得たものではない。

b 次に,甲3発明では,(相違点3)のとおり,「ハウジング1」に「モータ」が配置されておらず,(相違点4)のとおり,「ホール素子21,22」は,「ホール素子21,22を収納しているホルダ25が固定されたプリント基板27が配設されており,そしてこれらケース20及びプリント基板27は,スクリュ29にてハウジング1に固定されて」いる,つまり,「カバー35」ではなく「ハウジング1に固定されて」おり,(相違点5)
のとおり,「カバー35」は「ハウジング開口部1bの周縁を熱かしめすることにより,これら各部が固定され」ているから,甲3発明には,甲第1号証に記載された発明,甲第2号証に記載された発明を適用する前提を備えていない。
また,甲第4号証にも上記(相違点1)?(相違点6)は記載されていない。
よって,甲第1号証に記載された発明,甲第2号証に記載された発明を甲3発明に適用することはできないから,本件訂正発明1は,甲3発明,及び,甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易になし得たものではない。

ウ まとめ
甲3発明は,本件訂正発明1と同一ではない。また,本件訂正発明1は,甲3発明から,当業者が容易になし得たものではなく,甲3発明及び周知・慣用技術(甲第1,2,4号証)から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

同様に,甲第1号証,甲第2号証及び甲第3号証に記載された各発明に基づいて,当業者が容易になし得たものでもない。

(1-4)本件訂正発明1の新規性,進歩性についてのまとめ
以上のとおり,本件訂正発明1は,甲第1号証?甲第3号証の発明と実質的に同一の発明ではなく,特許法第29条第1項第3号の発明ではないから,特許法第123条第1項第2号の規定により,無効とされるべきものではない。
また,本件訂正発明1は,甲第1号証,甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものでも,甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明とを組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものでも,甲第1号証から甲第3号証に記載された各発明,又は甲第1号証から甲第4号証に記載された各発明を組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものでもなく,また,甲第3号証及び周知・慣用技術(甲第1,2,4号証)から当業者が容易に発明をすることができたものないから,特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではないから,特許法第123条第1項第2号の規定に該当せず,無効とされるべきものではない。

よって,本件訂正発明1についての無効理由1には理由がない。

(2)本件訂正発明2の新規性,進歩性について
甲第4号証,甲第5号証には,本件訂正発明1に係る「前記磁気検出素は,その磁気検出方向と前記カバーの長手方向が直交するように配置されている」点(上記「(1-1)」「ア」における(相違点3),上記「(1-2)」「ア」における(相違点3)が記載も示唆もされていない。
また,上記「(1-3)」「ア」で述べた,甲3発明との相違点である,(相違点1)?(相違点4),(相違点6)についても記載されていない。
そして,本件訂正発明2は,本件訂正発明1に対し技術的な限定を付加した発明であるから,本件訂正発明1に対して述べたのと同様の理由により,甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に,甲第4号証又は甲第5号証に記載された構成を組み合わせることにより,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,特許法第29条第2項の規定に該当せず,特許法第123条第1項第2号の規定により,無効とされるべきものではない。

(3)本件訂正発明3,4の新規性,進歩性について
甲第6号証には,本件訂正発明1に係る「前記磁気検出素は,その磁気検出方向と前記カバーの長手方向が直交するように配置されている」点(「(1-1)」「ア」における(相違点3),「(1-2)」「ア」における(相違点3)が記載も示唆もされていない。
また,上記「(1-3)」「ア」で述べた,甲3発明との相違点である,(相違点1)?(相違点4),(相違点6)についても記載されていない。
そして,本件訂正後の請求項3,4に係る発明は,本件訂正発明1に対し技術的な限定を付加した発明であるから,本件訂正発明1に対して述べたのとの同様の理由により,甲第1号証?甲第3号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明から,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず,特許法第29条第2項の規定に該当せず,特許法第123条第1項第2号の規定に該当せず,無効とされるべきものではない。

(4)請求人の主張について
本件訂正発明1についての請求人の主張は,要するに,次のア?ウを論拠とするものである。
ア 甲第1号証の図1において,「センサハウジング6」(「カバー」)の長手方向は紙面に垂直な方向であるから,ホール素子(磁気検出素子)を,その感磁面と垂直な方向(磁気検出方向)と「センサハウジング6」(「カバー」)の長手方向が直交するように配置することが図示されている。また,甲第1号証の図8において,「センサハウジング6」(「カバー」)の長手方向は紙面の上下方向であるから,甲第1号証の図8において,ホール素子(磁気検出素子)を,その感磁面と垂直な方向(磁気検出方向)とセンサハウジング6」(「カバー」)の長手方向が直交するように配置することが図示されている。

イ 甲第2号証の図1は,「図11において右側面から見たB矢視図」(甲第2号証,段落0044)であるから,甲第2号証の図1おいて,「センサハウジング6」(「カバー」)の長手方向は紙面に垂直な方向である。
よって,甲第2号証の図1には,ホール素子(磁気検出素子)を,その感磁面と垂直な方向(磁気検出方向)と「センサハウジング6」(「カバー」)の長手方向が直交するように配置することが図示されている。また,甲第2号証の図2において,「センサハウジング6」(「カバー」)の長手方向は紙面に垂直な方向であるから,甲第2号証の図2には,ホール素子(磁気検出素子)を,その感磁面と垂直な方向(磁気検出方向)を「センサハウジング6」(「カバー」)の長手方向とするように配置することが図示されているから,甲第2号証には,ホール素子(磁気検出素子)を,その感磁面と垂直な方向(磁気検出方向)が「センサハウジング6」(「カバー」)の長手方向となるように配置することも,「センサハウジング6」(「カバー」)の長手方向と直交するように配置することも,共に記載されている。

ウ 甲第3号証のカバー35は,図3より,紙面の左右を長手方向としているから,甲第3号証における「ホール素子21,22」は,その感磁面と垂直な方向(磁気検出方向)が,カバー35の長手方向と直交するように配置することが図示されている。

しかし,上記「(1-1)」?「(1-3)」で述べたとおり,甲第1号証?甲第3号証に記載された図面の記載の正確さは,設計図のように寸法が正確かつ詳細に記載されている等の特別の事情がなければ,甲第1号証?甲第3号証に記載された発明の理解を助ける程度のものであって,それ以上のものではないというべきである。
そして,甲第1号証?甲第3号証に記載された発明は,「センサハウジング6」ないし「カバーの形状とホール素子(磁気検出素子)の感磁面と垂直な方向(磁気検出方向)との配置関係に着目してなされた発明ではなく,甲第1号証?甲第3号証の図面には,設計図と同視しうる程度の寸法の記載等もないことから,甲第1号証?甲第3号証の図面の記載から,上記「ア」?「ウ」の事項を読み取ることはできない。
よって,甲第1号証?甲第3号証の図面の記載についての請求人の主張は採用できない。
また,仮に,甲第3号証の図面から「カバー35」の長手方向が紙面の左右方向であるとしても,甲第3号証と,甲第1号証又は甲第2号証とに基づいて,本件訂正発明1が当業者にとって容易になし得たものでないことは,上記「(1-3)」「イ」「(イ)」にて述べたとおりである。
よって,本件訂正発明2?4についての請求人の主張を検討するまでもなく,無効理由1についての請求人の主張は,採用できない。

(5)無効理由1についてのまとめ
以上のとおり,本件訂正発明1?本件訂正発明4についての無効理由1には,理由がなく,本件訂正発明1?本件訂正発明4についての特許は,特許法第123条第1項第2号の規定に該当せず,無効とされるべきものではない。

第6 無効理由のまとめ
上記のとおり,無効理由1には,理由がない。
しかし,上記「1 無効理由3について」で述べたとおり,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?4の記載は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであるから,無効理由2の「(1)(明確性要件違反)」及び「(3)(実施可能要件違反)」について判断するまでもなく,本件訂正後の請求項1?4に係る発明についての特許は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許に対してなされたものであり,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものである。
審判に関する費用につては,特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
回転角検出装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の電子スロットルシステムに用いる回転角検出装置であって、
アルミニウム製の本体ハウジングと、
この本体ハウジングの上側部に軸受を介して回転軸が回転支持され、この回転軸周りの回動に応じて内燃機関の吸入空気量を制御するスロットルバルブと、
前記本体ハウジングの下側部に配置され、前記スロットルバルブを駆動するモータと、
前記回転軸の先端部に固定され、前記回転軸の回転に応じて回転する磁石と、
前記本体ハウジングの開口部を前記スロットルバルブ及び前記モータを一括して覆い前記本体ハウジングより熱膨張率が大きい樹脂製で縦長形状のカバーと、
このカバー側に固定された磁気検出素子とを備え、
前記カバーは、自動車の電子スロットルシステムに使用される樹脂で成形され、
前記カバーは、前記スロットルバルブと前記モータとを長手方向に配置する縦長形状であり、
前記カバーは前記本体ハウジングにボルトで固定され、
前記磁気検出素子は前記カバーの上部内側に前記磁石と同心状に配置されて、前記磁石と前記磁気検出素子との間にはエアギャップが形成され、
前記磁石の回転によって変化する前記磁気検出素子の出力信号に基づいて前記スロットルバルブの回転角を検出する回転角検出装置において、
前記カバーは、前記本体ハウジングに対して前記カバーの長手方向及び短尺方向の位置ずれ発生が皆無でなく固定され、
前記磁気検出素子は、前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際前記カバーの長手方向の位置ずれが短尺方向の位置ずれより大きい位置に、前記磁気検出素子の磁気検出方向と前記カバーの長手方向が直交するように配置され、前記カバーの熱変形による位置ずれが生じた際の磁気検出方向の位置ずれ量を小さくしていることを特徴とする回転角検出装置。
【請求項2】
前記磁石は、前記スロットルバルブの回転に応じて回転する円筒状のロータコアに固定され、
このロータコアの内周側に同軸状に位置するステータコアが前記樹脂製のカバーにモールド成形され、
前記エアギャップは前記磁石と前記ステータコアとの間に形成され、
前記ステータコアに直径方向に貫通するように形成された磁気検出ギャップ部に前記磁気検出素子が固定され、
該磁気検出ギャップ部が前記カバーの長手方向に延びていることを特徴とする請求項1に記載の回転角検出装置。
【請求項3】
検出精度が最も要求される回転角又はその付近で前記磁気検出素子の出力がゼロとなるように前記磁石と前記磁気検出素子が配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転角検出装置。
【請求項4】
前記スロットルバルブの基準回転角又はその付近で前記磁気検出素子の出力がゼロとなるように前記磁石と前記磁気検出素子が配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転角検出装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、磁気検出素子と磁石を用いて被検出物の回転角を検出する回転角検出装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】自動車の電子スロットルシステムでは、例えば、図8に示すように、金属製(例えばアルミニウム製)のスロットルボディー1に、スロットルバルブ2の回転軸3を回動自在に支持し、スロットルボディー1の下側部に組み付けたモータ4によって減速機構5を介してスロットルバルブ2を回転駆動する。そして、スロットルバルブ2の回転軸3を回転角検出装置6のロータコア7に連結して、ロータコア7の内周面に磁石8を固定している。一方、スロットルボディー1の開口部を覆う樹脂製のカバー9にモールド成形されたステータコア10をロータコア7の内周側に同軸状に位置させ、磁石8の内周面をステータコア10の外周面に対向させると共に、ステータコア10に直径方向に貫通するように形成された磁気検出ギャップ部51にホールIC52を固定している。
【0003】この構成では、磁石8の磁束がステータコア10を通って磁気検出ギャップ部51を通過し、その磁束密度に応じてホールIC52の出力が変化する。磁気検出ギャップ部51を通過する磁束密度は、磁石8(ロータコア7)の回転角に応じて変化するため、ホールIC52の出力信号から磁石8の回転角、ひいてはスロットルバルブ2の回転角(スロットル開度)を検出することができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記従来の回転角検出装置では、ホールIC52を固定するステータコア10をモールド成形した樹脂製のカバー9は、これを取り付ける金属製のスロットルボディー1に比べて熱膨張率が大きい。しかも、このカバー9は、スロットルボディー1の下側部に配置されたモータ4や減速機構5を一括して覆うように縦長の形状に形成されているため、その長手方向の熱変形量が大きくなる。
【0005】ところが、従来構成では、図8(b)に示すように、ホールIC52の磁気検出方向(磁気検出ギャップ部51と直交する方向)とカバー9の長手方向が平行になっていたため、カバー9の熱変形によって、磁気検出ギャップ部51のギャップやステータコア10と磁石8とのギャップが変化して、磁気検出ギャップ部51を通過する磁束密度が変化しやすい構成となっている。このため、カバー9の熱変形によってホールIC52の出力が変動しやすく、回転角の検出精度が低下するという欠点があった。
【0006】本発明はこのような事情を考慮してなされたものであり、従ってその目的は、カバーの熱変形による磁気検出素子の出力変動を小さく抑えることができ、回転角の検出精度を向上することができる回転角検出装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明の請求項1の回転角検出装置では、アルミニウム製の本体ハウジングの上側部にスロットルバルブを下側部にこのスロットルバルブを駆動するモータを配置し、この本体ハウジングの開口部をスロットルバルブ及びモータを一括してカバーで覆い、カバーを本体ハウジングより熱膨張率が大きい樹脂製とし、且つ、カバーをスロットルバルブとモータとを長手方向に配置する縦長形状として、カバー側に磁気検出素子を固定する場合に、該磁気検出素子をその磁気検出方向と縦長形状のカバーの長手方向が直交するように配置したものである。且つ、本発明の請求項1の回転角検出装置は、自動車の電子スロットルシステムに用いるものであって、カバーと本体ハウジングとの固定が縦長形状カバーの長手方向及び短尺方向の位置ずれが一切生じないというものではない。そして、カバーに熱変形による位置ずれが生じた際、縦長形状カバーの長手方向の位置ずれが短尺方向の位置ずれより大きくなる位置に磁気検出素子が配置されている。このようにすれば、磁気検出素子の磁気検出方向がカバーの短尺方向となり、カバーの熱変形による磁気検出方向の寸法変化を小さくすることができ、即ち、磁石と磁気検出素子との間に形成されたエアギャップの磁気検出方向の寸法変化を小さくすることができ、磁気検出方向の磁束密度の変化を小さくすることができる。これにより、カバーの熱変形による磁気検出素子の出力変動を小さく抑えることができ、自動車の電子スロットルシステムに用いられるスロットルバルブの回転角の検出精度を向上できる。
【0008】本発明を実施する場合は、スロットルバルブの回転軸の回転に応じて回転する円筒状のロータコアに磁石を固定し、このロータコアの内周側に同軸状に配置するステータコアを樹脂製のカバーにモールド成形し、ステータコアに直径方向に貫通するように形成された磁気検出ギャップ部に磁気検出素子を固定した構成が考えられる。この場合は、磁石とステータコアとの間にエアギャップが形成される。そして、請求項2のように、磁気検出ギャップ部がカバーの長手方向に延びるように構成すると良い。この構成では、磁気検出素子の磁気検出方向がカバーの長手方向と直交し、磁気検出方向がカバーの短尺方向となるため、カバーの熱変形による磁気検出方向の寸法変化を小さくでき、磁気検出ギャップ部のギャップの変化やステータコアと磁石とのギャップの変化を小さくすることができて、磁気検出ギャップ部を通過する磁束密度の変化を小さくすることができる。これにより、カバーの熱変形による磁気検出素子の出力変動を小さく抑えることができ、自動車の電子スロットルシステムに用いられるスロットルバルブの回転角の検出精度を向上することができる。
【0009】ところで、磁気検出素子を用いた回転角検出装置は、磁気検出素子の出力がゼロとなる付近で検出精度が最も良くなる。この理由は、磁気検出素子の出力がゼロとなる位置は、出力の直線領域の中心点であり、直線性が最も優れ、しかも、磁気検出素子の出力がゼロであれば、磁気検出素子の温度特性の影響が最も小さくなるためである。
【0010】この特性に着目し、請求項3のように、検出精度が最も要求される回転角又はその付近で磁気検出素子の出力がゼロとなるように磁石と磁気検出素子を配置すると良い。このようにすれば、検出精度が最も要求される回転角領域において、磁気検出素子の温度特性の影響を最も小さくすることができ、回転角の検出精度を向上することができる。
【0011】また、請求項4のように、被検出物の基準回転角又はその付近で磁気検出素子の出力がゼロとなるように磁石と磁気検出素子を配置するようにしても良い。このようにすれば、基準回転角又はその付近で、磁気検出素子の温度特性の影響を最も小さくすることができ、基準回転角を精度良く検出することができるため、この基準回転角を基準にして磁気検出素子の出力(検出回転角)を精度良く較正することができ、回転角の検出精度を向上することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】[実施形態(1)]以下、本発明を電子スロットルシステムに適用した実施形態(1)を図1乃至図6に基づいて説明する。
【0013】まず、図1に基づいて電子スロットルシステムの概略構成を説明する。内燃機関の吸入空気量を制御するスロットルバルブ11(被検出物)が回転軸12に固定され、この回転軸12が軸受13,14を介して金属製(例えばアルミニウム製)のスロットルボディー15(本体ハウジング)に回動自在に支持されている。スロットルボディー15の下側部には、スロットルバルブ11を駆動するモータ16が組み付けられ、このモータ16の回転が複数のギア17?19から構成される減速機構20で減速されて回転軸12に伝達されることで、スロットルバルブ11が回転駆動される。
【0014】スロットルバルブ11の回転軸12に固定されたギア19は、円筒カップ状のロータコア21と磁石22を樹脂によりモールド成形して形成されている。これにより、ギア19とロータコア21と磁石22とが一体化された状態で、回転軸12の先端部にかしめ等で固定されている。このギア19は、ねじりコイルばね23によって所定の回転方向に付勢され、その付勢力によってスロットルバルブ11が後述する全閉位置まで自動的に復帰するように付勢されている。
【0015】一方、スロットルボディー15の右端開口部を覆う樹脂製のカバー24は、スロットルボディー15の下側部に配置されたモータ16や減速機構20を一括して覆うように縦長の形状(図2参照)に形成され、カバー24の上部内側には、ホールIC25が配置されたステータコア26とスペーサ27がモールド成形されている。このカバー24をスロットルボディー15にボルト等で固定することで、ステータコア26、ホールIC25がカバー24の内側に固定された状態で組み付けられている。これにより、カバー24の内側の空きスペースに、ロータコア21、磁石22、ステータコア26、ホールIC25等からなる回転角検出装置28が収納されている。尚、カバー24の下部内側には、モータ端子29と接続するためのコネクタハウジング30が一体に形成され、このコネクタハウジング30内のコネクタピン31がモータ端子29に接続されている。
【0016】回転角検出装置28のロータコア21とステータコア26は共に鉄等の磁性材料で形成され、図3に示すように、ロータコア21の内周側にステータコア26が同軸状に配置されている。また、磁石22は、円筒状に形成されてロータコア21の内周面に該ロータコア21と同心状に固定され、磁石22の内周面とステータコア26の外周面との間に均一なエアギャップG1が形成されている。磁石22は、磁石内部の磁力線の向きがラジアル方向(径方向)となるように着磁(ラジアル着磁)され、磁石22の上半部は、内周側がN極、外周側がS極となるように着磁され、磁石22の下半部は、外周側がN極、内周側がS極となるように着磁されている。尚、磁石22は、上半部と下半部を2分割して、2個の磁石で円筒状の磁石を構成しても良い。この磁石22は、磁石内部の磁力線が互いに平行となるように着磁(平行着磁)しても良い。また、ロータコア21の左側面部には、磁束の短絡を防止するための複数の貫通孔32(図1参照)が回転軸12を取り巻くように形成されている。
【0017】一方、ステータコア26は左右に2分割され、両者の間隔が樹脂製のスペーサ27によって規制されることで直径方向に貫通するギャップ部33が形成されている。このギャップ部33の中央部に、平行磁場を形成するための磁気検出ギャップ部34が所定のギャップG2で、カバー24の長手方向(図2参照)に延びるように形成されている。この磁気検出ギャップ部34の両側(図3では上側と下側)には、左右方向に円弧状に窪んだ大ギャップ部35が形成され、各大ギャップ部35のギャップG3が、磁気検出ギャップ部34のギャップG2よりも大きく形成されている。これにより、ステータコア26を流れる磁束が磁気検出ギャップ部34に集中して流れるようになっている。また、大ギャップ部35は、円弧状に形成することで、ステータコア26の外周側のギャップG4が狭くなるように形成され、磁石22からの磁束をより多くステータコア26に流すことができるようになっている。但し、ステータコア26の外周側のギャップG4は、磁石22とステータコア26とのエアギャップG1よりも大きく形成され、該ギャップG4での磁束の短絡が防止されるようになっている。尚、大ギャップ部35を形成しない構成としても良い。
【0018】磁気検出ギャップ部34には、2つのホールIC25が、磁気検出ギャップ部34を通る磁束の方向と直角方向に並べて配置されている。各ホールIC25は、ホール素子(磁気検出素子)と信号増幅回路とを一体化したICであり、磁気検出ギャップ部34を通過する磁束密度(ホールIC25に鎖交する磁束密度)に応じた電圧信号を出力する。各ホールIC25は、その磁気検出方向とカバー24の長手方向が直交するように配置されている(図2参照)。
【0019】各ホールIC25は、磁束密度に対する出力ゲイン調整、オフセット調整、温度特性の補正を電気トリミングで行う機能を有したり、断線、ショートの自己診断機能を有していても良い。ホールIC25は、スペーサ27によって位置決めされ、ホールIC25の端子(図示せず)がスペーサ27内を通してコネクタピン35に溶接等により接続されている。このコネクタピン35を介してホールICが、制御回路(図示せず)に接続される。
【0020】尚、図1に示すように、カバー24の上部周縁には、ステータコア26と同心状に円弧状凹部36が形成され、この円弧状凹部36を、スロットルボディー15の開口上縁部に形成された凸部37に嵌め込むことで、ロータコア21とステータコア26との同軸精度を確保している。
【0021】以上のように構成した回転角検出装置28は、磁石22の磁極の切換部(図3に破線で図示)が磁気検出ギャップ部34と平行になる位置(以下、この位置のロータの回転角を0°とする)では、磁気回路が、磁石22の一方側→ステータコア26の一方側→磁気検出ギャップ部34→ステータコア26の他方側→磁石22の他方側→ロータコア21→磁石22の一方側の経路で形成され、磁石22の磁束が、ステータコア26の一方側から他方側に流れる(以下、この磁束の流れ方向を正方向とする)。そして、スロットルバルブ等の被検出物の回転に伴ってロータコア21が回転すると、磁束の一部がステータコア26の他方側から一方側(反対方向)に流れ、これが磁気検出ギャップ部34で正方向に流れる磁束と打ち消し合うため、磁気検出ギャップ部34では、正方向に流れる磁束量Φ1とその反対方向に流れる磁束量Φ2との差に相当する磁束量(Φ1-Φ2)が流れる。
【0022】この場合、ロータコア21の回転角が0?180°の範囲では、回転角に応じて正方向の磁束量Φ1が減少し、反対方向の磁束量Φ2が増加するため、図5に示すように、回転角が0?180°の範囲では、回転角に応じて磁気検出ギャップ部34を通過する磁束密度が減少する。この際、回転角が90°の位置で、正方向の磁束量Φ1と反対方向の磁束量Φ2とが同じになり、両者が打ち消し合って磁気検出ギャップ部34の磁束密度が0となる。その後、回転角が180°?360°になると、回転角に応じて正方向の磁束量Φ1が増加し、反対方向の磁束量Φ2が減少するため、回転角に対する磁気検出ギャップ部34の磁束密度の変化の勾配が0?180°の場合と反対となる。従って、回転角が270°の位置で、磁気検出ギャップ部34の磁束密度が0となる。
【0023】このように、ロータコア21の回転角に応じてステータコア26の磁気検出ギャップ部34を通過する磁束密度(ホールIC25に鎖交する磁束密度)が変化し、この磁束密度に応じてホールIC25の出力が変化する。制御回路(図示せず)は、ホールIC25の出力を読み込んでロータコア21の回転角(スロットルバルブ11の回転角)を検出する。この際、2つのホールIC25の出力を互いに比較して異常がないか否かを確認しながら回転角を検出する。
【0024】本実施形態(1)では、後述する理由により、検出精度が最も要求されるスロットルバルブ11の全閉位置付近のスロットル開度であるアイドル運転時のスロットル開度(例えば15°)で、ホールIC25の出力がゼロ(ロータコア21の回転角が270°)となるように設定されている。この場合、スロットルバルブ11の全閉位置から全開位置までの回動範囲が例えば85°であるとすると、図5に示すように、スロットルバルブ11の回動範囲がロータコア21の回転角で255°?340°の範囲となり、スロットルバルブ11の全閉位置(ロータコア21の回転角が255°)では、図3に示すように、磁石22の磁極の切換部が、磁気検出ギャップ部34に対して反時計回り方向に105°(時計回り方向に255°)回転した位置にあり、スロットルバルブ11の全開位置(ロータコア21の回転角が340°)では、図4に示すように、磁石22の磁極の切換部が、磁気検出ギャップ部34に対して反時計回り方向に20°(時計回り方向に340°)回転した位置にある。
【0025】尚、スロットルバルブ11の回動範囲を、ロータコア21の回転角で75°?160°の範囲となるように設定して、アイドル運転時のスロットル開度15°でホールIC25の出力がゼロ(ロータコア21の回転角が90°)となるようにしても良い。
【0026】以上説明した本実施形態(1)では、ホールIC25を固定するステータコア26をモールド成形した樹脂製のカバー24は、これを取り付ける金属製のスロットルボディー15に比べて熱膨張率が大きい。しかも、このカバー24は、スロットルボディー15の下側部に配置されたモータ16や減速機構20を一括して覆うように縦長の形状に形成されているため、その長手方向の熱変形量が大きくなる。
【0027】このような事情を考慮して、本実施形態(1)では、ステータコア26の磁気検出ギャップ部34をカバー24の長手方向に延びるように形成して、この磁気検出ギャップ部34に配置したホールIC25の磁気検出方向とカバー24の長手方向が直交するようにしているので、ホールIC25の磁気検出方向がカバー24の短尺方向(図2では左右方向)となり、カバー24の熱変形による磁気検出方向の寸法変化を小さくすることができ、ステータコア26の磁気検出方向の位置ずれ量を小さくすることができる。これにより、カバー24の熱変形による磁気検出ギャップ部34のギャップの変化やステータコア26と磁石22とのギャップの変化を小さくすることができて、磁気検出ギャップ部34を通過する磁束密度の変化を小さくすることができる。このため、カバー24の熱変形によるホールIC25の出力変動を小さく抑えることができ、スロットル開度(回転角)の検出精度を向上することができる。
【0028】本発明者らは、図6(a)に示すように、磁石22(ロータコア21)に対してステータコア26をホールIC25の磁気検出方向と直角方向に位置ずれさせた場合のホールIC25の出力変動と、図6(b)に示すように、磁石22に対してステータコア26を磁気検出方向に位置ずれさせた場合のホールIC25の出力変動を測定した。その結果、ステータコア26が磁気検出方向に位置ずれした場合[図6(b)]に比べて、ステータコア26が磁気検出方向の直角方向に位置ずれした場合[図6(a)]の方がホールIC25の出力変動量が小さいことが確認された。この試験結果から、本実施形態(1)のように、ホールIC25の磁気検出方向とカバー24の長手方向を直交させて、カバー24の熱変形によるステータコア26の磁気検出方向の位置ずれ量を小さくすれば、ホールIC25の出力変動量を小さくできることが確認された。
【0029】ところで、ホール素子等の磁気検出素子を用いた回転角検出装置は、磁気検出素子の出力がゼロとなる付近で検出精度が最も良くなる。この理由は、磁気検出素子の出力がゼロとなる位置は、出力の直線領域の中心点であり、直線性が最も優れ、しかも、磁気検出素子の出力がゼロであれば、磁気検出素子の温度特性の影響が最も小さくなるためである。従来より、磁気検出素子の温度特性による出力誤差を温度補正素子により補償するようにしたものがあるが、磁気検出素子のばらつきや温度補償素子のばらつきによって温度特性による出力誤差を完全には0にすることは非常に困難である。従って、磁気検出素子の出力がゼロとなる位置が全検出角度範囲の中で最も検出精度が良い位置である。
【0030】一般に、検出精度が最も要求されるスロットル開度は、スロットルバルブ11の全閉位置付近に設定されたアイドル運転時のスロットル開度(例えば15°)である。
【0031】このような事情を考慮して、本実施形態(1)では、検出精度が最も要求されるアイドル運転時のスロットル開度15°で、ホールIC25の出力がゼロとなるように設定しているので、検出精度が最も要求されるアイドル運転時のスロットル開度付近において、ホールIC25の温度特性の影響を最も小さくすることができ、前述したカバー24の熱変形によるホールIC25の出力変動量を小さくする効果と相俟って、アイドル運転時のスロットル開度付近の検出精度をかなり向上することができる。尚、アイドル運転時のスロットル開度は15°に限定されず、適宜変更しても良いことは言うまでもない。
【0032】[実施形態(2)]次に、図7を用いて本発明の実施形態(2)を説明する。但し、上記実施形態(1)と実質的に同じ部分には、同一符号を付して説明を省略する。
【0033】本実施形態(2)では、回転角検出装置38は、ロータコア39のうちの直径方向に対向する位置に形成された2個の切欠部40に、それぞれ磁石41が1個ずつ嵌め込まれて接着等により固定されている。各磁石41は、それぞれ平板状に形成され、その両面にN極とS極が平行着磁されている。2個の磁石41は、同じ極性の磁極をロータコア39の半円弧部分を介して磁気的に対向させることで、2個の磁石41の磁界がロータコア39の内部で互いに反発し合うように配置されている。ロータコア39の内周面は、各磁石41の近傍部分を除いて、ステータコア26の外周面に微小なエアギャップを介して対向している。これにより、各磁石41のN極から出た磁束がロータコア39の内部を経由してステータコア26を通過し、ロータコア39の内部を経由して各磁石41のS極に戻る。更に、ロータコア39の内周側のうちの各磁石41の近傍部分には、各磁石41の両極とステータコア26との間の磁束の短絡を防止するための空隙部42が形成されている。
【0034】本実施形態(2)においても、検出精度が最も要求されるアイドル運転時のスロットル開度(例えば15°)で、ホールIC25の出力がゼロ(ロータコア39の回転角が270°)となるように、磁気検出ギャップ部34(ホールIC25)に対する磁石41の回転位置が設定されている。
【0035】以上説明した本実施形態(2)においても、ステータコア26の磁気検出ギャップ部34をカバー24の長手方向に延びるように形成して、この磁気検出ギャップ部34に配置したホールIC25の磁気検出方向とカバー24の長手方向が直交するようにしているので、前記実施形態(1)と同じく、カバー24の熱変形によるホールIC25の出力変動を小さく抑えることができ、スロットル開度(回転角)の検出精度を向上することができる。
【0036】更に、本実施形態(2)では、ロータコア39の直径方向に対向する位置に2個の磁石41を互いに磁界が反発し合うように設け、各磁石41のN極から出た磁束がロータコア39の内部を経由してステータコア26へ流れ、磁気検出ギャップ部34(ホールIC25)を通過するように構成しているので、磁石41の磁極面でステータコア26との間のエアギャップを形成する必要がなくなり、磁石41を製造しやすい形状、着磁しやすい形状である例えば平板状に形成することができる。これにより、磁石41の製造ばらつきに起因するホールIC25の出力誤差を小さくでき、回転角の検出精度を向上できる。しかも、磁石41は、磁束がロータコア39に流れる位置に配置すれば良く、ロータコア39の内周側に磁石41を配置する必要がないため、ロータコア39の径方向寸法を小さくして回転角検出装置38を小型化することが可能になると共に、ロータコア39における磁石41の配置場所を比較的自由に選択でき、設計の自由度も高めることができる。
【0037】以上説明した各実施形態では、検出精度が最も要求されるアイドル運転時のスロットル開度でホールIC25の出力がゼロとなるように構成したが、例えば、スロットル全閉位置等の基準位置(基準回転角)又はその付近でホールIC25の出力がゼロとなるように構成しても良い。この場合は、基準位置(基準回転角)を精度良く検出できるため、この基準位置(基準回転角)を基準にしてホールIC25の出力(検出スロットル開度)を精度良く較正することができ、スロットル開度の検出精度を向上することができる。
【0038】しかしながら、本発明は、適用する電子スロットルシステムのスロットルバルブ回動範囲やホールIC25の出力の直線範囲等を考慮して、ホールIC25の出力がゼロとなるスロットル開度(回転角)を適宜変更しても良い。
【0039】その他、本発明は、ステータコアの無い回転角検出装置にも適用できる等、回転角検出装置の構成を適宜変更しても良く、また、スロットルバルブの回転角検出装置以外の回転角検出装置に適用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態(1)を示す電子スロットルシステムの縦断正面図
【図2】電子スロットルシステムのカバーの内側に設けられた回転角検出装置の縦断側面図
【図3】スロットルバルブが全閉位置のときの状態を示す回転角検出装置の主要部の縦断側面図
【図4】スロットルバルブが全開位置のときの状態を示す回転角検出装置の主要部の縦断側面図
【図5】ロータコア回転角に対する磁気検出ギャップ部の磁束密度の変化特性を示す図
【図6】(a)はステータコアがホールICの磁気検出方向と直角方向に位置ずれした場合のホールICの出力変動特性を示す図、(b)はステータコアがホールICの磁気検出方向に位置ずれした場合のホールICの出力変動特性を示す図
【図7】本発明の実施形態(2)を示す電子スロットルシステムの回転角検出装置の縦断側面図
【図8】(a)は従来の電子スロットルシステムの縦断正面図、(b)は従来の電子スロットルシステムの回転角検出装置の縦断側面図
【符号の説明】
11…スロットルバルブ(被検出物)、12…回転軸、15…スロットルボディー(本体ハウジング)、16…モータ、20…減速機構、21…ロータコア、22…磁石、24…カバー、25…ホールIC(磁気検出素子)、26…ステータコア、28…回転角検出装置、33…ギャップ部、34…磁気検出ギャップ部、35…大ギャップ部、38…回転角検出装置、39…ロータコア、41…磁石、42…空隙部。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2017-02-07 
結審通知日 2017-02-09 
審決日 2017-02-21 
出願番号 特願2000-24724(P2000-24724)
審決分類 P 1 113・ 121- ZAA (G01B)
P 1 113・ 537- ZAA (G01B)
P 1 113・ 113- ZAA (G01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 飯野 茂  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 須原 宏光
清水 稔
登録日 2003-06-13 
登録番号 特許第3438692号(P3438692)
発明の名称 回転角検出装置  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 大須賀 晃  
代理人 佐久間 邦郎  
代理人 小野 亨  
代理人 中村 広希  
代理人 栗川 典幸  
代理人 井口 亮祉  
代理人 小林 幸夫  
代理人 國分 孝悦  
代理人 井口 亮祉  
代理人 坂田 洋一  
代理人 南林 薫  
代理人 関 直方  
代理人 桂巻 徹  
代理人 中村 広希  

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