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審決分類 |
審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する C10M 審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正する C10M 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する C10M |
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管理番号 | 1346949 |
審判番号 | 訂正2018-390153 |
総通号数 | 230 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-02-22 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2018-10-02 |
確定日 | 2018-12-06 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5842434号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第5842434号の明細書、及び、特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書、及び、特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本件訂正審判の請求に係る特許第5842434号は、平成23年7月26日の出願であって、平成27年11月27日にその特許権の設定登録がなされたものであり、その後、平成30年10月2日に本件訂正審判の請求がなされたものである。 第2.請求の要旨 本件訂正審判の請求は、特許第5842434号の明細書、特許請求の範囲を本件訂正審判請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は次のとおりである。 1. 訂正事項1 特許請求の範囲【請求項1】及び【請求項2】を削除する。 2. 訂正事項2 特許請求の範囲【請求項3】に「請求項1または2記載の」とあるうち、請求項1を引用するものについて、下記のように独立項形式に訂正する。 「内輪と外輪との間に、保持器により複数の転動体を回動自在に保持してなり、かつ、 基油と、ゲル化剤と、添加剤とを含有する潤滑剤組成物であって、 前記ゲル化剤が、アミノ酸系ゲル化剤及びベンジリデンソルビトール系ゲル化剤の少なくとも1種であり、 前記添加剤が、1000Hz時の比誘電率が1000以上であるジフェニルハイドロゲンフォスファイト、モノn-オクチルホスフェート及びジエチルホスホノ酢酸から選ばれる少なくとも1種と、1000Hz時の比誘電率が1000未満であるソルビタンモノオレート、オレオイルザルコシン及びポリオキシエチレンラウリルエーテルから選ばれる少なくとも1種との混合物であることを特徴とする潤滑剤組成物を封入したことを特徴とする転がり軸受。」 3. 訂正事項3 特許請求の範囲【請求項3】に「請求項1または2記載の」とあるうち、請求項2を引用するものについて、下記のように独立項形式に訂正し、新たに請求項4とする。 「内輪と外輪との間に、保持器により複数の転動体を回動自在に保持してなり、かつ、基油と、ゲル化剤と、添加剤とを含有する潤滑剤組成物であって、 前記ゲル化剤が、アミノ酸系ゲル化剤及びベンジリデンソルビトール系ゲル化剤の少なくとも1種であり、 前記添加剤が、1000Hz時の比誘電率が1000以上であるジフェニルハイドロゲンフォスファイト、モノn-オクチルホスフェート及びジエチルホスホノ酢酸から選ばれる少なくとも1種と、1000Hz時の比誘電率が1000未満であるソルビタンモノオレート、オレオイルザルコシン及びポリオキシエチレンラウリルエーテルから選ばれる少なくとも1種との混合物であり、下記式で表わされる粘性回復率が98%以上であることを特徴とする潤滑剤組成物を封入したことを特徴とする転がり軸受。 【数1】 (但し、せん断後不混和ちょう度は、自転-公転式攪拌機により自転1370r/min、公転1370r/minにて3分間攪拌した後の不混和ちょう度であり、放置後不混和ちょう度は、自転-公転式攪拌機により自転1370r/min、公転1370r/minにて3分間攪拌した後、40℃で1時開放置した後の不混和ちょう度である。)」 4. 訂正事項4 明細書段落【0015】の「天然油計」との記載を「天然油系」に訂正する。 5. 訂正事項5 明細書の段落【0020】の「低誘電率添加止剤」との記載を「低比誘電率添加剤」に訂正する。 第3.判断 1. 訂正の目的・新規事項の追加及び特許請求の範囲の拡張又は変更の有無について (1)訂正事項1について 訂正事項1は、請求項1及び2を削除するものであるから、特許法第126条第1項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 また、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、訂正事項1は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前請求項3が請求項1または2を引用するところ、請求項2を引用しないことを明記し、請求項1を引用するものについて独立項形式に書き下すものであるから、特許法第126条第1項ただし書き第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。 また、訂正事項2は、請求項1を引用する請求項3を独立項形式に書き下した以外は訂正前の請求項3と同一であるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、訂正事項2は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、訂正前請求項3が請求項1または2を引用するところ、請求項1を引用しないことを明記し、請求項2を引用するものについて独立項形式に書き下すものであるから、特許法第126条第1項ただし書き第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。 また、訂正事項3は、請求項2を引用する請求項3を独立項形式に書き下した以外は訂正前の請求項3と同一であるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、訂正事項3は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (4)訂正事項4について 訂正事項4は、明細書の段落【0015】の「天然油計」との記載を「天然油系」に訂正するものであり、訂正事項4について、訂正前の明細書には以下の記載がある。 「基油は、ゲル化剤を溶解でき、ゲル化剤によりゲル化される潤滑油であれば制限は無く、鉱油系、合成油系または天然油計の潤滑剤を目的に応じて選択することができる。鉱油系潤滑油としては、・・が好ましい。合成油系潤滑油としては、・・が挙げられる。天然油系潤滑油としては、・・が挙げられる。」 そうすると、「天然油計」との記載の前後の記載から、「天然油計」は、「天然油系」の誤記であることが明白である。 したがって、訂正事項4は、誤記を本来の意味に正すものであるから、特許法第126条第1項ただし書き第2号に規定する「誤記の訂正」を目的とするものである。 また、訂正事項4は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、訂正事項4は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (5)訂正事項5について 訂正事項5は、明細書の段落【0020】の「低誘電率添加止剤」との記載を「低比誘電率添加剤」に訂正するものであり、訂正事項5について、訂正前の明細書には以下の記載がある。 「本発明の潤滑剤組成物は、基油をゲル化剤で増ちょうし、更に1000Hz時の比誘電率が1000以上であるジフェニルハイドロゲンフォスファイト、モノn-オクチルホスフェート及びジエチルホスホノ酢酸から選ばれる少なくとも1種(以下、「高比誘電率添加剤」という)と、1000Hz時の比誘電率が1000未満であるソルビタンモノオレート、オレオイルザルコシン及びポリオキシエチレンラウリルエーテルから選ばれる少なくとも1種(以下、「低比誘電率添加剤」という)との混合物を添加したものである。」(段落【0009】) 「(製造方法) 本発明の潤滑剤組成物を製造する方法には、先ず、基油にゲル化剤を所定量添加し、ゲル化剤が完全に溶解するまで加熱攪拌する。次いで、予め水冷したアルミニウム製バットに流し込み、バットを冷水で冷却する。そして、ゲル状に硬化した硬化物に高比誘電率添加剤と、低誘電率添加止剤とを所定量添加し、撹拌後、3本ロールミルにかけて混練して潤滑剤組成物を得る。」(段落【0020】) そうすると、訂正前の明細書の段落【0020】の「ゲル状に硬化した硬化物に高比誘電率添加剤と、低誘電率添加止剤とを所定量添加し」との記載が意味するところは、訂正前の明細書の段落【0009】の記載を勘案すると、「低誘電率添加止剤」が「低比誘電率添加剤」の誤記であることが明白であると理解できる。 したがって、訂正事項5は、誤記を本来の意味に正すものであるから、特許法第126条第1項ただし書き第2号に規定する「誤記の訂正」を目的とするものである。 また、訂正事項5は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、訂正事項5は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 2. 独立特許要件について 訂正事項4、5に係る訂正は、上記(4)、(5)にそれぞれ説示したとおり、誤記の訂正を目的とするものであるが、訂正後における特許請求の範囲の請求項3、4に記載される事項により特定される発明について、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。 したがって、訂正後における特許請求の範囲の請求項3、4に記載されている事項により特定される発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであり、訂正事項4、5に係る訂正は、特許法第126条第7項に適合するものである。 第4.むすび 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第1、2、4号に掲げる事項を目的とするものであって、同条第5項ないし第7項の規定に適合するので、本件訂正を認める。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 潤滑剤組成物及び転がり軸受 【技術分野】 【0001】 本発明は、基油をゲル化剤で増ちょうした潤滑剤組成物、並びに前記潤滑剤組成物を封入した転がり軸受に関する。 【背景技術】 【0002】 例えば、各種機器や装置の回転部位を支持するための転がり軸受では、潤滑のために、基油をゲル化剤で増ちょうした潤滑剤組成物が使用されることがある。ゲル化剤としては、アミノ酸系ゲル化剤やベンジリデンソルビトール系ゲル剤等が使用されている。これらゲル化剤では、ネットワーク形成要因が水素結合力であるが、水素結合力は弱い結合力であるため、せん断力が付与されると容易に結合が切れてゲル化剤が基油中に分散し、粘性が大きく低下する。また、せん断力が無くなると、水素結合が点と点とで形成されて速やかにネットワークを再形成して粘性を回復するようになる。ゲル剤のこのような作用を利用して、本出願人も特許文献1?3等を出願している。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0003】 【特許文献1】特開2011-26432号公報 【特許文献2】特開2010-209129号公報 【特許文献3】特開2010-196727号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 潤滑剤組成物には、各種の添加剤が添加されるのが一般的であるが、添加剤の種類によっては、ゲル化剤によるネットワークの再形成に時間がかかり、粘性が早期に回復せず、適用箇所や軸受から漏洩しやすくなり、安定した潤滑が長期に渡り維持できなくなる場合がある。また、添加剤の効果が十分に発現しないこともある。 【0005】 そこで本発明は、基油をゲル化剤で増ちょうした潤滑剤組成物に添加される添加剤を特定して、ネットワークの再形成を早期に回復させ、更には添加剤の効果も発現して適用箇所における潤滑を長期間良好に維持することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0006】 上記課題を解決するために本発明は、下記の潤滑剤組成物及び転がり軸受を提供する。 (1)基油と、ゲル化剤と、添加剤とを含有する潤滑剤組成物であって、 前記ゲル化剤が、アミノ酸系ゲル化剤及びベンジリデンソルビトール系ゲル化剤の少なくとも1種であり、 前記添加剤が、1000Hz時の比誘電率が1000以上であるジフェニルハイドロゲンフォスファイト、モノn-オクチルホスフェート及びジエチルホスホノ酢酸から選ばれる少なくとも1種と、1000Hz時の比誘電率が1000未満であるソルビタンモノオレート、オレオイルザルコシン及びポリオキシエチレンラウリルエーテルから選ばれる少なくとも1種との混合物であることを特徴とする潤滑剤組成物。 (2)下記式で表わされる粘性回復率が98%以上であることを特徴とする上記(1)記載の潤滑剤組成物。 【数1】 (但し、せん断後不混和ちょう度は、自転-公転式攪拌機により自転1370r/min、公転1370r/minにて3分間攪拌した後の不混和ちょう度であり、放置後不混和ちょう度は、自転-公転式攪拌機により自転1370r/min、公転1370r/minにて3分間攪拌した後、40℃で1時間放置した後の不混和ちょう度である。) (3)内輪と外輪との間に、保持器により複数の転動体を回動自在に保持してなり、かつ、上記(1)または(2)記載の潤滑剤組成物を封入したことを特徴とする転がり軸受。 【発明の効果】 【0007】 本発明の潤滑剤組成物によれば、粘性の早期回復と、防錆効果や摩耗防止効果とがバランスよく得られ、適用箇所における潤滑を長期間良好に維持できる。 【発明を実施するための形態】 【0008】 以下、本発明に関して詳細に説明する。 【0009】 本発明の潤滑剤組成物は、基油をゲル化剤で増ちょうし、更に1000Hz時の比誘電率が1000以上であるジフェニルハイドロゲンフォスファイト、モノn-オクチルホスフェート及びジエチルホスホノ酢酸から選ばれる少なくとも1種(以下、「高比誘電率添加剤」という)と、1000Hz時の比誘電率が1000未満であるソルビタンモノオレート、オレオイルザルコシン及びポリオキシエチレンラウリルエーテルから選ばれる少なくとも1種(以下、「低比誘電率添加剤」という)との混合物を添加したものである。 【0010】 (ゲル化剤) ゲル化剤としては、アミノ酸系ゲル化剤及びベンジリデンソルビトール系ゲル化剤を、それぞれ単独で、もしくは両者を混合して使用する。せん断付与後の回復性を考慮すると、アミノ酸系ゲル化剤とベンジリデンソルビトール系ゲル化剤とを併用することが好ましい。 【0011】 アミノ酸系ゲル化剤としては、基油中に分散させてゲルを形成できるものであれば制限はないが、N-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミド、N-ラウロイル-L-グルタミン酸-α,γ-n-ジブチルアミド等が好適である。また、これらを併用してもよい。 【0012】 ベンジリデンソルビトール系ゲル化剤としては、基油中に分散させてゲルを形成できるものであれば制限はないが、ベンジリデンソルビトール、ジトリリデンソルビトール、非対称のジアルキルベンジリデンソルビトール等が好適である。また、これらを併用してもよい。 【0013】 また、アミノ酸系ゲル化剤とベンジリデンソルビトール系ゲル化剤とを併用する場合は、アミノ酸系ゲル化剤:ベンジリデンソルビトール系ゲル化剤=20?80:80?20の配合比とすることが好ましく、40?60:60?40の配合比とすることがより好ましい。アミノ酸系ゲル化剤とベンジリデンソルビトール系ゲル化剤とを併用することにより相乗効果が得られるが、上記の配合比から外れると相乗効果が低くなり、粘性回復の向上度合が低下する。 【0014】 アミノ酸系ゲル化剤及びベンジリデンソルビトール系ゲル化剤の配合量は、それぞれ単独で使用した場合も、両者を併用した場合も、潤滑剤組成物全量の2?8質量%とすることが好ましく、3?6質量%とすることがより好ましい。ゲル化剤の配合量が2質量%未満では、潤滑剤組成物が初期から柔らかすぎて適用箇所から漏洩しやすくなる。一方、ゲル化剤の配合量が8質量%を超えると、潤滑剤組成物の初期ちょう度が硬くなりすぎるため、ハンドリングが悪くなり、更にはせん断を付与しても油状に流動せず、適用箇所に基油が行き渡らずに潤滑性が悪くなる。 【0015】 (基油) 基油は、ゲル化剤を溶解でき、ゲル化剤によりゲル化される潤滑油であれば制限は無く、鉱油系、合成油系または天然油系の潤滑剤を目的に応じて選択することができる。鉱油系潤滑油としては、減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等を適宜組み合わせて精製したものが好ましい。合成油系潤滑油としては、炭化水素系油、芳香族系油、エステル系油、エーテル系油等が挙げられる。天然油系潤滑油としては、牛脂、豚脂、大豆油、菜種油、米ぬか油、ヤシ油、パーム油、パーム核油等の油脂系油またはこれらの水素化物が挙げられる。これらの基油はそれぞれ単独でも、2種以上を混合して使用することもできる。これらの潤滑油の中でも、せん断付与後の粘性の回復性を考慮すると、エステル系油が最も好適である。 【0016】 また、基油の動粘度は、潤滑性や低トルク等を考慮すると10?400mm^(2)/s(40℃)が好ましく、20?200mm^(2)/s(40℃)がより好ましい。 【0017】 (添加剤) 高比誘電率添加剤として、1000Hz時の比誘電率が1000以上であるジフェニルハイドロゲンフォスファイト、モノn-オクチルホスフェート及びジエチルホスホノ酢酸から選ばれる少なくとも1種を用いる。また、低比誘電率添加剤として、1000Hz時の比誘電率が1000未満であるソルビタンモノオレート、オレオイルザルコシン及びポリオキシエチレンラウリルエーテルから選ばれる少なくとも1種を用いる。尚、これら添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない程度であれば特に限定されるものではない。 【0018】 上記した各添加剤は、防錆剤や摩耗防止剤の一種でもあるが、これらは化学構造的に極性部位と無極性部位とを有しており、ゲル化剤には極性部位をゲル化剤側に向け、無極性部位が基油側を向くように吸着する。そのため、ゲル化剤は、表面を防錆剤や摩耗防止剤の無極性部位で取り囲まれた形となり、水素結合力を形成し難くなり、せん断により分散したゲル化剤がネットワークを再形成するのに時間がかかり、粘性の回復性が低下する。しかし、高比誘電率添加剤は、極性部位を多く有するため、ゲル化剤に吸着しても、吸着していない部位にも極性部位が多数有し、それらが水素結合を形成することでネットワークが再形成され、粘性が早期に回復するようになる。高比誘電率添加剤は、低比誘電添加剤よりも多く極性部分を有するためゲル化剤に優先的に吸着し、ネットワークを再形成しやすくなり、粘性の回復を早くすることができる。 【0019】 一方で、高比誘電率添加剤は、基油中での分散性に劣り、防錆効果や摩耗防止効果が十分に発現しない。そこで、低比誘電率添加剤を併用して防錆効果や摩耗防止効果を補償する。そのため、高比誘電率添加剤と、低比誘電率添加剤とを当量ずつ混合することで、粘性の早期回復と、防錆効果や摩耗防止効果とをバランスよく発現することができる。 【0020】 (製造方法) 本発明の潤滑剤組成物を製造する方法には、先ず、基油にゲル化剤を所定量添加し、ゲル化剤が完全に溶解するまで加熱攪拌する。次いで、予め水冷したアルミニウム製バットに流し込み、バットを冷水で冷却する。そして、ゲル状に硬化した硬化物に高比誘電率添加剤と、低比誘電率添加剤とを所定量添加し、撹拌後、3本ロールミルにかけて混練して潤滑剤組成物を得る。 【0021】 (転がり軸受) 上記した本発明の潤滑剤組成物は、増ちょう性を有し、かつ、早期に粘性を回復するため、転がり軸受に封入して使用することも好適であり、長寿命の転がり軸受となる。尚、転がり軸受自体の構成には制限はない。 【実施例】 【0022】 以下に、実施例及び比較例により本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。 【0023】 (実施例1?4、比較例1?3) 表1に示すように、基油にゲル化剤を表記の量添加し、ゲル化剤が完全に溶解するまで加熱攪拌した後、予め水冷したアルミニウム製バットに流し込み、バットを冷水で冷却してゲル状の硬化物を得た。そして、硬化物に、表記の添加剤を添加し、撹拌後、3本ロールミルにかけて潤滑剤組成物を得た。 【0024】 そして、各潤滑剤組成物について、せん断を付与する前の不混和ちょう度(せん断前不混和ちょう度)を測定した。また、各潤滑剤組成物に、自転-公転式攪拌機により自転1370r/min、公転1370r/minにて3分間攪拌してせん断を加えた後、不混和ちょう度(せん断後不混和ちょう度)を測定した。更に、せん断付与後、40℃で1時間放置した後、不混和ちょう度(放置後不混和ちょう度)を測定した。そして、下記式から、粘性回復率を求めた。この粘性回復率は、せん断付与後1時間経過したときに何%まで粘性が回復したかを示した値であり、この値が高い潤滑剤組成物ほど粘性が回復しやすいことを示している。粘性回復率が100%では、1時間でせん断付与前のちょう度まで回復していることを示す。また、添加剤を添加しない潤滑剤組成物の粘性回復率は100%である。結果を表1に併記する。 【0025】 【数2】 【0026】 【表1】 【0027】 表1の実施例から、高比誘電率添加剤と、低比誘電率添加剤との混合物を添加することにより、粘性回復率がほぼ100%であり、粘性の回復が早いことがわかる。特に、実施例1?3のように、アミノ酸系ゲル化剤とベンジリデンソルビトール系ゲル化剤とを併用することにより、両者の相乗効果により、粘性の回復がより早まることがわかる。 【0028】 これに対し比較例では、低比誘電率添加剤のみを添加しているため、粘性の回復が遅くなっている。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】(削除) 【請求項2】(削除) 【請求項3】 内輪と外輪との間に、保持器により複数の転動体を回動自在に保持してなり、かつ、 基油と、ゲル化剤と、添加剤とを含有する潤滑剤組成物であって、 前記ゲル化剤が、アミノ酸系ゲル化剤及びベンジリデンソルビトール系ゲル化剤の少なくとも1種であり、 前記添加剤が、1000Hz時の比誘電率が1000以上であるジフェニルハイドロゲンフォスファイト、モノn-オクチルホスフェート及びジエチルホスホノ酢酸から選ばれる少なくとも1種と、1000Hz時の比誘電率が1000未満であるソルビタンモノオレート、オレオイルザルコシン及びポリオキシエチレンラウリルエーテルから選ばれる少なくとも1種との混合物であることを特徴とする潤滑剤組成物を封入したことを特徴とする転がり軸受。 【請求項4】 内輪と外輪との間に、保持器により複数の転動体を回動自在に保持してなり、かつ、 基油と、ゲル化剤と、添加剤とを含有する潤滑剤組成物であって、 前記ゲル化剤が、アミノ酸系ゲル化剤及びベンジリデンソルビトール系ゲル化剤の少なくとも1種であり、 前記添加剤が、1000Hz時の比誘電率が1000以上であるジフェニルハイドロゲンフォスファイト、モノn-オクチルホスフェート及びジエチルホスホノ酢酸から選ばれる少なくとも1種と、1000Hz時の比誘電率が1000未満であるソルビタンモノオレート、オレオイルザルコシン及びポリオキシエチレンラウリルエーテルから選ばれる少なくとも1種との混合物であり、下記式で表わされる粘性回復率が98%以上であることを特徴とする潤滑剤組成物を封入したことを特徴とする転がり軸受。 【数1】 (但し、せん断後不混和ちょう度は、自転-公転式攪拌機により自転1370r/min、公転1370r/minにて3分間攪拌した後の不混和ちょう度であり、放置後不混和ちょう度は、自転-公転式攪拌機により自転1370r/min、公転1370r/minにて3分間攪拌した後、40℃で1時間放置した後の不混和ちょう度である。) |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2018-11-12 |
結審通知日 | 2018-11-14 |
審決日 | 2018-11-27 |
出願番号 | 特願2011-163433(P2011-163433) |
審決分類 |
P
1
41・
852-
Y
(C10M)
P 1 41・ 851- Y (C10M) P 1 41・ 854- Y (C10M) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 馬籠 朋広、林 建二 |
特許庁審判長 |
冨士 良宏 |
特許庁審判官 |
蔵野 雅昭 天野 宏樹 |
登録日 | 2015-11-27 |
登録番号 | 特許第5842434号(P5842434) |
発明の名称 | 潤滑剤組成物及び転がり軸受 |
代理人 | 松山 美奈子 |
代理人 | 松山 美奈子 |