• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1346985
審判番号 不服2017-13844  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-09-19 
確定日 2018-12-13 
事件の表示 特願2016-252425「キャリア芯材並びにこれを用いた電子写真現像用キャリア及び電子写真用現像剤」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 7月 5日出願公開、特開2018-106015〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成28年12月27日の出願であって、その手続等の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成29年 2月17日付け:拒絶理由通知書
平成29年 6月23日付け:意見書、手続補正書
平成29年 7月21日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成29年 9月19日付け:審判請求書、手続補正書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年9月19日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「球形粒子が2個?5個の結合した結合粒子が5個数%?20個数%含まれ、
見掛け密度が2.1g/cm^(3)以下であり、
前記結合粒子以外の通常粒子の表面の最大山谷深さRzが2.5μm以上であることを特徴とするフェライト粒子からなるキャリア芯材。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は、当合議体が付したものであり、補正箇所を示す。
「 球形粒子が2個?5個の結合した結合粒子が5個数%?20個数%含まれ、
見掛け密度が2.1g/cm^(3)以下であり、
前記結合粒子以外の通常粒子の表面の最大山谷深さRzが2.6μm以上であることを特徴とするフェライト粒子からなるキャリア芯材。」

2 補正の適否
本件補正は、本件出願の明細書の【0082】の【表1】の記載に基づいて、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である、「最大山谷深さRz」の下限値を「2.5μm」から「2.6μm」に限定するものである。
また、本件出願の明細書の【0001】及び【0010】?【0012】の記載からみて、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
したがって、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に掲げる、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当する。
そこで、本件補正発明が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(2)に記載したとおりのものである。

(2)特許法36条6項2号について
本件補正発明は、「球形粒子が2個?5個の結合した結合粒子が5個数%?20個数%含まれ」るという構成を具備するものである。しかしながら、本件補正発明は、当該結合粒子の個数%の測定方法を特定するものではない。
ここで、測定方法に関して、本件出願の明細書の【0063】には、「結合粒子の含有率は、観測画像により測定可能である。観測画像による全観測粒子数から、結合粒子数との割合により個数%を求めれば良い。
キャリア芯材の形状を走査電子顕微鏡(日本電子社製:JSM-6510LA)を用いて倍率250倍で撮影した。撮影した画像より400粒子中で結合粒子の数をカウントし、上記400粒子中に含まれる結合粒子の個数割合を結合粒子含有率とした。
ただし、当該画像において、粒径(最大長さ)が3μm以下の微小粒子は、粒子としてカウントはしない。これは、微小粒子は、原料粉の状態であるものか、何らかの理由で破損した粉であり、キャリア芯材としての機能が期待できない不純物である。なお、通常は極めて少数であり、無視できる量でなければならない。さらに、粒子の外縁が確認できる粒子をカウントの対象とする。画像は、粒子が単分散しているものを用い、粒子が重なり、結合粒子であるか判別できない場合は、同一粒子を拡大、または視角を変更し、確認することが望ましい。結合粒子であれば、結合粒子の重心点は、母粒子の重心点と異なるため、横転(回転)しやすく、画像では側面からの視野となり、観測しやすい。
なお、結合粒子は、球形粒子が2個?5個結合した粒子とした。そして、結合粒子では球形粒子と球形粒子とが結合部分を共有した形態で存在しているので、それぞれの球形粒の粒径は、キャリア芯材の形状を走査電子顕微鏡(日本電子社製:JSM-6510LA)を用いて倍率250倍で撮影した画像において、結合粒子の結合部分を除いた領域から粒子を球形近似することによりそれぞれ算出した」との記載がなされている。
しかしながら、「球形粒子」には、真球ではないキャリア粒子が結合粒子であるか否か、「球形粒子」として判定する最小限の粒径、結合粒子として計上するものの基準等が、請求項1には特定はされていないなど、「球形粒子」の定義及び「結合粒子」の計数方法等が、例えば、以下のような点において明確であるとはいえない。

ア 「球形粒子」の定義
「結合粒子」を形成する「球形粒子」の球形度等が、本件出願の明細書の【0063】には記載されていない。
ここで、キャリアに含まれるキャリア粒子の形状は、一般に均一にはならず、一定のバラツキがあることから、球形とされるキャリアであっても個々のキャリア粒子についてみるとその球形度には一定のバラツキがあるとえる。
そうしてみると、本件補正発明において、「結合粒子」の個数%の数値を測定するためには、「結合粒子」とする粒子の球形度の数値範囲を定める必要があるといえるが、本件補正発明では、当該数値範囲は定められておらず、「結合粒子」の定義がなされていないといえる。
したがって、どの程度の球形度を有する粒子を「結合粒子」を形成する球形粒子としてカウントするのかの判別基準が理解できない。
また、本件出願の明細書の【0063】には、「粒径(最大長さ)が3μm以下の微小粒子は、粒子としてカウントはしない。」と記載されているから、粒径が3μm程度の粒子についても結合粒子か通常粒子かの判別を行うものと考えられる。
しかしながら、3μmの250倍は750μmでしかなく、この程度の大きさの粒子が結合粒子であるか否かを峻別することは困難であって、観察者によって当該小粒径の粒子が結合粒子であるか否かの判断が異なるものといえる。
加えて、審判請求人は、審判請求書において、「本願発明の結合粒子かどうかの判別や球形粒子の計測は、倍率250倍で撮影されたSEM画像から行う(本願明細書の段落(0063))。したがって、球形粒子として判定する最小限の粒径は当該SEM画像において認識可能な最小粒径であり、本願発明における「結合粒子」の定義や「球形粒子」の計測方法は明確である。」と主張する。しかしながら、子粒子が「認識不能」か否かが観察者の主観等に依存することは明らかであり、この点においても、観察者によって結合粒子か通常粒子かの判断が異なるものといえる。
以上より、本件補正発明では、「球形粒子」の定義がなされておらず、ある粒子が「球形粒子」か否かの判別は、観察者の主観に依存することとなり、同一のキャリア芯材であっても、観察者によって、結合粒子の個数%の数値が「5個数%?20個数%」に入ったり入らなかったりするといえる。

イ 山谷(凸部)と球形粒子の判別
本件補正発明のキャリア芯材は、最大山谷深さRzが2.6μm以上であるから、一定の凹凸を有するものであって、球形状の凸部を有するものも存在すると認められる。そして、このような球形状の凸部は、「結合粒子」を形成する「球状粒子」とは異なることから、撮影画像においては、「球形粒子」と明確に区別する必要があるといえる。
しかしながら、本件出願の明細書の【0063】には、上記区別に関する記載はなされておらず、区別方法が理解できない。
そうしてみると、本件補正発明では、「球形粒子」と球形状の凸部との区別方法が特定されておらず、ある球形状の凸部を「結合粒子」として計上するかどうかの区別は、観察者の主観に依存することとなり、同一のキャリア芯材であっても、観察者によって、結合粒子の個数%の数値が「5個数%?20個数%」に入ったり入らなかったりするといえる。
この点に関して、審判請求人は、審判請求書において、「フェライト粒子表面の微細な凹凸は、粒子がフェライト化する際の結晶成長によって形成されるものであり、通常は板状で角部を有しており、決して球形状ではない。本発明における結合粒子は、球形粒子と球形粒子とが結合部分を共有した形態を有しており(段落(0024,段落(0063))、粒子表面の凹凸とは明確に異なる。」と主張する。
しかしながら、上記アに記載したとおり、どの程度の球形度を有する粒子を「結合粒子」を形成する球形粒子としてカウントするのかの判別基準が理解できず、かつ、3μmの250倍は750μmでしかなく、この程度の大きさの粒子の凸部が球形状であるか否かを判断することは困難であって、観察者によって当該凸部を結合粒子とするか否かの判断が異なるものといえる。

ウ 粒子同士が結合しているか否かの判別
本件出願の明細書の【0063】に記載された結合粒子の個数%の測定方法では、粒子が重なり、結合粒子であるか判別できない場合において、どの程度(画像を)拡大して粒子同士が結合しているのかを確認するのかが理解できない。また、このような場合において、粒子どうしが接している場合において結合しているのか、あるいは分散状態等の影響で単に接触しているにすぎないのか、接触しているものを結合粒子としてカウントするのかといった判別方法や判別基準等も理解できない。こうした確認・判別方法等が異なれば結合粒子の個数%は異なりバラツキが生じるものといえ、同一のキャリア芯材における結合粒子の個数%の数値が「5個数%?20個数%」に入ったり入らなかったりするといえる。
さらに、本件出願の明細書の【0063】には、「・・・粒子が重なり、結合粒子であるか判別できない場合は、同一粒子を拡大、または視角を変更し、確認することが望ましい。」と記載されており、粒子の拡大及び視角を変更する具体的な場合が理解できない。そうしてみると、粒子の拡大及び視角を変更するか否かが観察者の裁量に依存し、同一のキャリア芯材であっても、観察者によって、結合粒子の個数%の数値が「5個数%?20個数%」に入ったり入らなかったりするといえる。

エ 測定方法の信頼度
本件出願の明細書の【0063】には、結合粒子の含有率が5個数%?20個数%であるか否かは、400粒子中に含まれる結合粒子の個数割合に基づいて判定されることが記載されている。
しかしながら、結合粒子の含有率を測定するサンプル数が400粒子では、測定結果に大きな統計誤差を含むこととなる。
すなわち、本件補正発明は、信頼度の高い測定方法に基づいて発明が特定されていない。

オ 結合粒子の含有率
本件補正発明は、結合粒子の含有率の測定方法を定義するものではない。また、本件出願の明細書の【0063】の記載は、その記載ぶりからみて、結合粒子の含有率が、観測画像により測定可能であることや、実施例の測定方法を開示するにとどまるといえる。

カ 粒子の分散
本件出願の明細書の【0063】には、「画像は、粒子が単分散しているものを用い」ることが記載されている。しかしながら、画像測定用のキャリア芯材試料をどのように調整し、粒子が単分散しているものを得たのかが理解できない。ここで、一般に試料の調整方法によって粒子の分散状態は変化するものであって、分散状態に応じて、粒子同士が接したり、接しなかったりするものである。また、上記ウに記載したとおり、接触した粒子どうしを結合粒子とするか否かによって、結合粒子の個数%の数値が「5個数%?20個数%」に入ったり入らなかったりするといえる。
そうしてみると、本件補正発明では、画像測定の際にどのようにキャリア芯材を分散させたのかが特定されておらず、結合粒子の個数%の算出方法が明確であるとはいえない。

以上のとおりであるから,「球形粒子が2個?5個の結合した結合粒子」及びその含有率に関して,本件特許発明1は明確であるということができない。

したがって、本件補正発明は、あるキャリア芯材が本件補正発明の範囲に入るか否かを、当業者が理解できるように記載したものであるとはいえない。
以上のとおり、本件補正発明は明確であるとはいうことができないから、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしておらず、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)特許法29条2項について
ア 引用文献、引用発明等
(ア)引用文献1について
a 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用され、本件出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2006-337828号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当合議体が付したものであり、引用発明の認定に活用した箇所を示す。

(a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、高磁化、低抵抗、かつ組成が均一で、一定の表面性、良好な流動性を有する電子写真用フェライトキャリア芯材、電子写真用フェライトキャリア及びこれらの製造方法、並びに該フェライトキャリアを用いた電子写真用現像剤に関する。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
従って、本発明の目的は、組成が均一で、一定の表面性、良好な流動性を有し、かつ高磁化、低抵抗の電子写真用フェライトキャリア芯材、電子写真用フェライトキャリア及びこれらの製造方法、並びに該フェライトキャリアを用いた、帯電の立ち上がりが速く、経時における安定した帯電量を有する電子写真用現像剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、鋭意検討の結果、組成が均一で、特定の表面性を持っており、結晶子径が一定範囲にあり、かつFeとMnのモル比(Fe/Mn)が特定範囲にあるマンガンフェライトを主成分とするキャリア芯材が上記目的を達成し得ることを知見し、本発明に到達した。」

(b)「【0037】
<本発明に係る電子写真用フェライトキャリア芯材及び電子写真用フェライトキャリア>
本発明に係るキャリア芯材粒子の表面性は内部に至るまでの細孔がほとんど存在しないにもかかわらず表面に多数の凹凸を持っていることを特徴としている。そのためSEM写真で確認できる程度の凹凸が表面に存在するにもかかわらず真密度と流動性が適度に確保され、電子写真用キャリア芯材として好適に用いられるものである。また、直接的にキャリア芯材の表面性がキャリア芯材の流動性に寄与することがないため、キャリア芯材表面に凹凸部が全く無いかわずかに存在するキャリア芯材と同等の流動性を持つだけでなく、粒径の変化による流動性の変化もキャリア芯材表面に凹凸部が全く無いかわずかに存在するキャリア芯材と同程度となる。その結果として本発明に係るキャリアは十分な帯電特性を維持した状態で長寿命化を図ることが可能となる。」

(c)「【実施例】
【0090】
[実施例1]
(Fe-Mn複合酸化物の生成)
60℃の温水にFeSO_(4)とMnSO_(4)をモル比でFe^(2+):Mn^(2+)=8:1となるように溶解した(溶液A)。
【0091】
FeSO_(4)とMnSO_(4)が完全に中和する量のNaOHを水に溶解した(溶液B)。
【0092】
溶液Bに溶液Aに存在するFe^(2+)及びMn^(2+)の総モル数からFe^(2+)及びMn^(2+)がFe_(3)O_(4)及びMnFe_(2)O_(4)になった時の重量を計算し、その合計重量に対して1重量%にあたる酒石酸をあらかじめ温水に溶解させた後、溶液Bに添加し90℃に昇温した(溶液C)。
【0093】
90℃を維持したまま溶液Cに溶液Aを攪拌しながら添加した(スラリーD)。このFe(OH)_(2)及びMn(OH)_(2)を含有するスラリーDのpHをNaOHを加えて10.5にし、圧縮空気をスラリー中で分散させてFe^(2+)及びFe(OH)_(2)がなくなるまでスラリーDを酸化した。Fe^(2+)及びFe(OH)_(2)がなくなったかどうかの確認はスラリーDをサンプリングし硫酸酸性とした後に過マンガン酸カリウムの滴定によって判断した。
【0094】
酸化終了後、pH調整剤(希硫酸)を用いてスラリーDのpHを6まで下げてスラリー中の余分な水酸化物を溶解させた後、フィルタープレス等の固液分離方法により固形物の表面に残った塩分を除去した。さらに固形物と水分を分離し、固形物を乾燥機に入れて水分がなくなるまで乾燥させ、粉砕装置にて粉砕し、Fe-Mn複合酸化物を得た。このFe-Mn複合酸化物は、多面体形状で平均粒径は0.2μmであり、FeとMnのモル比(Fe/Mn)はおよそFe:Mn=8:1であった。
【0095】
(フェライトキャリア芯材の製造)
上記Fe-Mn複合酸化物を固形分45重量%となるように水を加えて攪拌槽型媒体攪拌式粉砕機にて粉砕、混合し、次いで、スプレードライヤーで造粒し、焼成前粒子(平均粒径36μm)を得た。雰囲気制御可能な電気炉にて焼成(焼成温度1250℃、酸素濃度:0体積%)を行い、マンガンフェライトを主成分とする焼成物を得た。X線回折にて結晶構造を確認したところ強いFe_(3)O_(4)及びMnFe_(2)O_(4)のピークが確認されマンガンフェライトが主成分であることが確認された。
【0096】
焼成物を衝撃式粉砕機にて解砕後、分級を行い平均粒径35μmの球状マンガンフェライト芯材粒子を得た。分級を行う際、-16μmが5%以下となるようにした。
【0097】
・・・(中略)・・・
[実施例7]
MgCO_(3)(平均粒径0.8μm)を固形分45重量%となるように水を加え水中で分散装置(IKA社製ULTRA-TURRAX T-50)を使用して分散処理を行った。得られた分散液をFeとMnとMgのモル比が8:1:0.25となるようにMgCO_(3)の分散液を添加した以外は、実施例1と同様にしてキャリア芯材粒子を得た。
【0103】
[実施例8]
MgCO_(3)の代わりにCaCO_(3)の分散液を添加した以外は、実施例9と同様にしてキャリア芯材粒子を得た。
・・・(中略)・・・
【0116】
〔評価試験〕
1.フェライトキャリア芯材の評価
実施例1?10及び比較例1?3のフェライトキャリア芯材の特性を評価した。結果を表1に示す。特性評価は、平均粒径、表面性(10μm四方当たりの領域数、表面性)、X線回折、元素の均一性(結晶子径)、粉体特性(真密度、流動性、見掛け密度)、磁気特性(磁化、残留磁化、保磁力、飛散物磁化)及び電気的特性(体積抵抗)について行い、その結果を表1に示す。また、実施例2及び比較例1のSEM写真を図1及び2に示す。
【0117】
<特性評価>
特性評価は、下記の方法によって測定した。
・・・(中略)・・・
【0123】
(見掛け密度)
JIS-Z2504(金属粉の見掛密度試験法)に従って測定した。
・・・(中略)・・・
【0130】
【表1】


(当合議体注:【0092】における「Fe^(2)+及びMn^(2)+ 」との記載は、「Fe^(2+)及びMn^(2+)」に書き改めた。
また、【0103】における「実施例9」との記載は誤記であって、正しくは「実施例7」であるといえる。)

(d)「【0135】
【図1】図1は、実施例2のSEM写真である。
【図2】図2は、比較例1のSEM写真である。」

(e)「



b 引用文献1に記載された発明
(a)引用発明1-7
上記aより、引用文献1には、実施例7として、次の発明が記載されている(以下、「引用発明1-7」という。)。なお、引用発明1-7の見掛け密度等の数値は【0130】の【表1】に記載されたものである。
「 Fe-Mn-Mg複合酸化物に水を加えて攪拌槽型媒体攪拌式粉砕機にて粉砕、混合し、次いで、スプレードライヤーで造粒し、焼成前粒子(平均粒径36μm)を得、
雰囲気制御可能な電気炉にて焼成(焼成温度1250℃、酸素濃度:0体積%)を行い、マンガンフェライトを主成分とする焼成物を得、
焼成物を衝撃式粉砕機にて解砕後、分級を行って得た球状マンガンフェライト芯材粒子であって、
Fe:Mn:Mg=8:1:0.25、平均粒径35μm、真比重4.8g/cm^(3)、流動性44.8sec/50cc、見掛け密度1.98g/cm^(3)である、
球状マンガンフェライト芯材粒子。」

(b)引用発明1-8
引用文献1には、実施例8として、引用発明1-7において、MgCO_(3)の代わりにCaCO_(3)の分散液を添加した、次の発明が記載されている(以下、「引用発明1-8」といい、「引用発明1-7」と「引用発明1-8」を総称して「引用発明1」という。)。なお、引用発明1-8の見掛け密度等の数値は【0130】の【表1】に記載されたものである。
「 Fe-Mn-Ca複合酸化物に水を加えて攪拌槽型媒体攪拌式粉砕機にて粉砕、混合し、次いで、スプレードライヤーで造粒し、焼成前粒子(平均粒径36μm)を得、
雰囲気制御可能な電気炉にて焼成(焼成温度1250℃、酸素濃度:0体積%)を行い、マンガンフェライトを主成分とする焼成物を得、
焼成物を衝撃式粉砕機にて解砕後、分級を行って得た球状マンガンフェライト芯材粒子であって、
Fe:Mn:Ca=8:1:0.25、平均粒径35μm、真比重4.8g/cm^(3)、流動性45.0sec/50cc、見掛け密度2.01g/cm^(3)である、
球状マンガンフェライト芯材粒子。」

(イ)引用文献4について
a 引用文献4の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献4として引用され、本件出願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された引用文献である特開2016-166974号公報(以下「引用文献4」という。)には、以下の事項が記載されている。

(a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式M_(X)Fe_(3-X)O_(4)(但し、Mは、Mn及び/又はMgであり、XはMnとMgの総計であって、MnとMgとによるFeとの置換数である。0<X≦1)で表されるキャリア芯材であって、
球形粒子が2個?5個結合した結合粒子が5個数%?20個数%含まれ、
粉砕前後での、粉末X線回折パターンにおける面指数(311)のピーク位置から算出される格子定数の差が絶対値で0.005以下である
ことを特徴とするキャリア芯材。

(b)「【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリア芯材並びにこれを用いた電子写真現像用キャリア及び電子写真用現像剤に関するものである。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、キャリア芯材表面を凹凸形状にしただけでは、キャリア芯材表面を樹脂被覆した際に凹部にコート樹脂が厚く成膜されるため、コーティングキャリアの表面凹凸が不十分となりトナー保持性が十分でない。また異形キャリアとして、不等多角形状や塊状のキャリアが提案されているが、球形状を逸脱した極端な異形化によってキャリア芯材の割れや欠けが発生しやすくなる。割れや欠けによるキャリア芯材の破片は、キャリア芯材の本来の電気抵抗よりも低いものが多く、感光体表面に付着して、黒点あるいは白点となって画像に表れる不具合が生じる。
・・・(中略)・・・
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1のキャリア芯材のSEM写真である。
【図2】実施例2のキャリア芯材のSEM写真である。
【図3】実施例3のキャリア芯材のSEM写真である。
【図4】実施例4のキャリア芯材のSEM写真である。
【図5】実施例5のキャリア芯材のSEM写真である。
【図6】比較例1のキャリア芯材のSEM写真である。
【図7】比較例2のキャリア芯材のSEM写真である。
【図8】本発明に係るキャリアを用いた現像装置の一例を示す概説図である。」

(c)「【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者等は、まず、現像領域へのトナー供給量を増加できないか鋭意検討を重ねた結果、数個のフェライト球形粒子が結合した結合粒子を、キャリア芯材中に所定の個数割合含有させればよいことを見出した。球形粒子が2個?5個結合した、球形から大きく外れた異形な結合粒子がキャリア芯材中に所定の個数割合で含まれていると、結合粒子以外の通常粒子と結合粒子との間にトナーが取り込まれる空間が生じ得る。そして、通常粒子と結合粒子との間の空間に取り込まれたトナーは、現像ローラの回転によって現像領域に搬送されると共に、前記空間に取り込まれていたトナーが磁気ブラシの表面に現れ現像に寄与する。加えて、従来の不等多角形状や塊状のキャリアと異なって、本発明で使用する結合粒子は、球形粒子同士が結合した粒子であるため角部がない。このため、感光体表面を磁気ブラシで摺擦しても粒子の角部で感光体表面が傷つくことはない。
【0019】
すなわち、本発明に係るキャリア芯材は、組成式M_(X)Fe_(3-X)O_(4)(但し、Mは、Mn及び/又はMgであり、XはMnとMgの総計であって、MnとMgとによるFeとの置換数である。0<X≦1)で表されるキャリア芯材であって、球形粒子が2個?5個結合した結合粒子が5個数%?20個数%含まれることが大きな特徴の一つである。なお、キャリア芯材は、フェライト粒子からなる粉体であり、ここでは、本発明にかかる結合粒子以外の通常粒子は球形であるのが好ましい。
・・・(中略)・・・
【0025】
キャリア芯材における結合粒子の含有割合は5個数%?20個数%である。結合粒子の含有割合が5個数%未満であると、現像領域へのトナー供給量が不十分となることがある一方、結合粒子の含有割合が20個数%を超えると、キャリア芯材の流動性が悪くなりすぎて磁気ブラシ内でのキャリアの循環移動が十分に行われず、画像形成速度が速くなった場合に十分な画像濃度が得られない。より好ましい結合粒子の含有割合は10個数%?20個数%の範囲である。
・・・(中略)・・・
【0030】
まず、Fe成分原料、Mn成分原料、Mg成分原料、そして必要によりSr成分などの添加剤を秤量する。Fe成分原料としては、Fe_(2)O_(3)等が好適に使用される。M成分原料としては、MnであればMnCO_(3)、Mn_(3)O_(4)等が使用でき、MgであればMgO、Mg(OH)_(2)、MgCO_(3)が好適に使用できる。また、Sr成分原料としては、SrCO_(3)、Sr(NO_(3))_(2)などが好適に使用される。


(d)「



b 引用文献4に記載された発明
上記aより、引用文献4には、次の発明が記載されている(以下、「引用発明4」という。)。
「 組成式M_(X)Fe_(3-X)O_(4)(但し、Mは、Mn及び/又はMgであり、XはMnとMgの総計であって、MnとMgとによるFeとの置換数である。0<X≦1)で表され、
球形粒子が2個?5個結合した結合粒子が5個数%?20個数%含まれる、
キャリア芯材。」

イ 対比・判断
(ア)引用発明1と本件補正発明の対比・判断
a 対比
本件補正発明と引用発明1を対比すると、以下のとおりとなる。

(a)キャリア芯材
引用発明1の「球状マンガンフェライト芯材粒子」は、「平均粒径35μm」の粒子であって、「マンガンフェライト」はフェライトの一種であるといえる。
また、引用文献1の【0001】には、引用文献1にいう本発明は、電子写真用フェライトキャリア芯材に関するものであることが記載されている。そうしてみると、引用発明1の「球状マンガンフェライト芯材粒子」は、キャリア芯材であるといえる。
したがって、引用発明1の「球状マンガンフェライト芯材粒子」は、本件補正発明の「フェライト粒子からなるキャリア芯材」に相当する。

(b)見掛け密度
引用発明1-7及び引用発明1-8における「球状マンガンキャリア芯材粒子」の見掛け密度は、それぞれ、「1.98g/cm^(3)」及び「2.01g/cm^(3)」である。
そうしてみると、引用発明1の「球状マンガンキャリア芯材粒子」は、本件補正発明の「キャリア芯材」における、「見掛け密度が2.1g/cm^(3)以下」であるという要件を満たすものである。

b 一致点及び相違点
(a)本件補正発明と引用発明1は、次の構成で一致する。
(一致点)
「 見掛け密度が2.1g/cm^(3)以下である、
フェライト粒子からなるキャリア芯材。」

(b)本件補正発明と引用発明1は、次の点で相違する。
(相違点1)
本件補正発明の「キャリア芯材」は、「球形粒子が2個?5個の結合した結合粒子が5個数%?20個数%含まれ」るのに対して、引用発明1は、このように特定されたものではない点。
(相違点2)
本件補正発明の「キャリア芯材」は、「結合粒子以外の通常粒子の表面の最大山谷深さRzが2.6μm以上である」のに対して、引用発明1は、このように特定されたものではない点。

c 相違点についての判断
相違点1及び2についての判断は、以下のとおりである。

(a)相違点1について
引用文献1の図1を参照すると、図1のキャリア芯材(引用文献1に記載の実施例2)は、本件補正発明の「球形粒子が2個?5個の結合した結合粒子が5個数%?20個数%含まれ」るという要件を満たすといえる(当合議体中:図1において、粒子全体が写っている粒子は約70個であって、このうち約65個は他の粒子と結合しない球状粒子であって、残りは球形粒子が2個?5個の結合した結合粒子であることが視認できる。)。
そうしてみると、引用文献1における実施例7及び8である引用発明1-7及び引用文献1-8は、実施例2と同様の製造方法によるものであるから、実施例2と同様、本件補正発明の「球形粒子が2個?5個の結合した結合粒子が5個数%?20個数%含まれ」るという要件を満たす蓋然性が高い。
また、上記(1)に記載したとおり、「球形粒子」及び「結合粒子」の計数方法には明確であるとはいえない点があることから、観察者の主観や、サンプル数に起因する誤差によって、あるキャリア芯材が本件補正発明の「球形粒子が2個?5個の結合した結合粒子が5個数%?20個数%含まれ」るという要件を満たし得ると考えられる。
ここで、引用発明1の「球状マンガンフェライト芯材粒子」は、「Fe-Mn-Mg複合酸化物」又は「Fe-Mn-Ca複合酸化物」を「水を加えて攪拌槽型媒体攪拌式粉砕機にて粉砕、混合し、次いで、スプレードライヤーで造粒し、焼成前粒子(平均粒径36μm)を得、雰囲気制御可能な電気炉にて焼成(焼成温度1250℃、酸素濃度:0体積%)を行」ったものであって、造粒後焼成前に分級を行わない(微少粒子を除去しない)ものである。そうしてみると、引用発明1の「球状マンガンフェライト芯材粒子」は「スプレードライヤー」による造粒によって相当程度の子粒子を含むものといえる。そして、この子粒子には、本件補正発明の「結合粒子」に該当するものが存在するといえる。
したがって、引用発明1は、観察者の主観や、サンプル数に起因する誤差によって、本件補正発明の「球形粒子が2個?5個の結合した結合粒子が5個数%?20個数%含まれ」るという要件を満たし得るといえる。
あるいは、現像領域へのトナーの供給量を十分なものとするとともに、キャリヤ芯材の流動性が悪くならないようにするために、球形粒子が2個?5個の結合した結合粒子が5個数%?20個数%含まれるようにすることは周知技術である。例えば、原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用され、本件出願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された特開2016-161741号公報の【0024】には、「キャリア芯材における結合粒子の含有割合は5個数%?20個数%である。結合粒子の含有割合が5個数%未満であると、現像領域へのトナー供給量が不十分となることがある一方、結合粒子の含有割合が20個数%を超えると、キャリア芯材の流動性が悪くなりすぎて磁気ブラシ内でのキャリアの循環移動が十分に行われず、画像形成速度が速くなった場合に十分な画像濃度が得られない。」との記載がある。また、原査定の拒絶の理由に引用文献3-5として引用され、本件出願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された特開2016-80991号公報の【0023】、特開2016-166974号公報の【0025】及び特開2016-71000号公報の【0022】にも同じ記載がある。
そうしてみると、引用発明1において、現像領域へのトナーの供給量を十分なものとするとともに、キャリヤ芯材の流動性が悪くならないようにするために、球形粒子が2個?5個の結合した結合粒子が5個数%?20個数%含まれるものとすることは、優れた特性を有するキャリア芯材を得ようとする当業者における通常の相違工夫の範囲内の事項にすぎない。
また、本件補正発明において、形粒子が2個?5個の結合した結合粒子が5個数%?20個数%含まれるものとすることによって奏される効果が、引用発明1及び周知技術から当業者が予測し得る範囲を超えた格別なものであるとはいえない。

(b)相違点2について
原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用され、本件出願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された特開2016-80991号公報の【0024】には、キャリア芯材における結合粒子以外の通常粒子の表面の最大山谷深さRzの好ましい上限値は2.5μmであることが記載されている。そうしてみると、通常粒子の表面の最大山谷深さRzを2.6μm以上とすることは、「好ましい」とまでは言えないとしても、本件出願前において一般に行われていたことであるといえる。例えば、当該文献の【請求項2】においては、Rzの上限値に制限は設けられていない。そして、キャリア芯材の最大山谷深さRzは、トナーの搬送性や搬送量等に応じて、当業者が発明を具体化する際に検討し得る事項である。
したがって、引用発明1において、最大山谷深さRzを2.6μm以上とすることは、トナーの搬送性や搬送量の向上を図ろうとする当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項にすぎない。
あるいは、優れたトナー帯電量の立ち上がり性や高い帯電安定性を得るするために、最大山谷深さRzを2.6μm以上とすることは周知技術である。例えば、特開2015-151287号公報の【0010】及び【0012】には、 キャリア芯材表面に局所的に大きな凸部を設けると、キャリアが磁気ブラシを形成したときに、キャリア同士の摩擦抵抗が大きくなってトナーへの帯電付与能力が高くなり、優れたトナー帯電量の立ち上がり性及び高い帯電安定性が得られることから、粒子表面に表れているグレイン(結晶粒)の山部分と谷部分との差の指標である最大高さRzを2.2μmより大きくすることが記載されており、【0070】の【表1】には、Rzを2.6μm及び2.8μmとした実施例が記載されている。また、特開2014-164061号公報の【0146】には、形成される結晶の凹凸度Rzが2.6μm以上5.2μm以下であるようなキャリア芯材は、長期間に亘って安定して高い帯電性能を維持できることが記載されている。
そうしてみると、引用発明1において、優れたトナー帯電量の立ち上がり性や高い帯電安定性を得るために、最大山谷深さRzを2.6μm以上とすることは、優れた特性を有するキャリア芯材を得ようとする当業者における通常の相違工夫の範囲内の事項にすぎない。
また、本件補正発明において、最大山谷深さRzを2.6μm以上とするによって奏する効果が、引用発明1及び周知技術から当業者が予測し得る範囲を超えた格別なものであるとはいえない。

d 小括
本件補正発明は、引用発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(イ)引用発明4と本件補正発明の対比・判断
a 対比
本件補正発明と引用発明4を対比すると、以下のとおりとなる。

(a)結合粒子の個数%
引用発明4は、「球形粒子が2個?5個結合した結合粒子が5個数%?20個数%含まれる」ものであるから、その文言どおり、本件補正発明の「球形粒子が2個?5個の結合した結合粒子が5個数%?20個数%含まれ」る、という要件を満たすものである。

(b) フェライト粒子
引用発明4の「キャリア芯材」は、「組成式」が「M_(X)Fe_(3-X)O_(4)」であるから、フェライトであるといえる。また、引用発明4の「キャリア芯材」は、技術的にみて、粒子であるといえる(上記の点については、引用文献4の【0019】における、「キャリア芯材は、フェライト粒子からなる粉体であり」との記載からみても理解できる。)。
そうしてみると、引用発明4の「キャリア芯材」は、本件補正発明の「フェライト粒子からなるキャリア芯材」という要件を満たすものである。

b 一致点及び相違点
(a)本件補正発明と引用発明4は、次の構成で一致する。
(一致点)
「球形粒子が2個?5個の結合した結合粒子が5個数%?20個数%含まれる、フェライト粒子からなるキャリア芯材。」

(b)本件補正発明1と引用発明4は、次の点で相違する。
(相違点3)
本件補正発明の「キャリア芯材」は、「見掛け密度が2.1g/cm^(3)以下」であるのに対して、引用発明4は、このように特定されたものではない点。
(相違点4)
本件補正発明の「キャリア芯材」は、「結合粒子以外の通常粒子の表面の最大山谷深さRzが2.6μm以上である」のに対して、引用発明4は、このように特定されたものではない点。

c 相違点についての判断
相違点3及び4についての判断は、以下のとおりである。

(a)相違点3について
高精細な高画質画像の形成、キャリアの長期間使用や長寿命化のために、キャリア芯材の見掛け密度を2.1g/cm^(3)以下とすることは周知技術である。例えば、原査定の拒絶の理由に引用文献7として引用され、本件出願の出願前に頒布された刊行物である特開2010-250281号公報の【0013】及び【0017】には、かぶりなどの画像欠陥のない高精細な高画質画像を安定して形成できる、見掛け密度が1.6g/cm^(3)以上2.0g/cm^(3)以下であるキャリア芯材と樹脂被覆層を有する樹脂被覆キャリアが記載されている。また、原査定の拒絶の理由に引用文献8として引用され、本件出願の出願前に頒布された刊行物である特開2013-231840号公報の【0020】及び【0024】には、良好な電気特性及び磁気的特性により良好な画質等を保ち、長寿命化を達成でき、見掛け密度の値が2.1g/cm^(3)以下であるキャリア芯材が記載されている。さらに、原査定の拒絶の理由に引用文献9として引用され、本件出願の出願前に頒布された刊行物である特開2012-215624号公報の【0075】には、フェライトキャリアの見掛け密度が望ましくは、1.0g?2.2g/cm^(3)であって、見掛け密度が1.0g/cm^(3)未満では、強度が低くなりキャリアが破壊されやすく、2.2g/cm^(3)を超えると長寿命化が図りにくいことが記載されている。
そうしてみると、引用発明4において、高精細な高画質画像の形成、キャリアの長期間使用や長寿命化のために、キャリア芯材の見掛け密度を2.1g/cm^(3)以下とすることは、優れた特性を有するキャリア芯材を得ようとする当業者における通常の相違工夫の範囲内の事項にすぎない。
また、本件補正発明において、キャリア芯材の見掛け密度を2.1g/cm^(3)以下とするによって奏する効果が、引用発明4及び周知技術から当業者が予測し得る範囲を超えた格別なものであるとはいえない。

(b)相違点4について
原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用され、本件出願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された特開2016-80991号公報の【0024】には、キャリア芯材における結合粒子以外の通常粒子の表面の最大山谷深さRzの好ましい上限値は2.5μmであることが記載されている。そうしてみると、通常粒子の表面の最大山谷深さRzを2.6μm以上とすることは、「好ましい」とまでは言えないとしても、本件出願前において一般に行われていたことであるといえる。例えば、当該文献の【請求項2】においては、Rzの上限値に制限は設けられていない。そして、キャリア芯材の最大山谷深さRzは、トナーの搬送性や搬送量等に応じて、当業者が発明を具体化する際に検討し得る事項である。
したがって、引用発明1において、最大山谷深さRzを2.6μm以上とすることは、トナーの搬送性や搬送量の向上を図ろうとする当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項にすぎない。
あるいは、優れたトナー帯電量の立ち上がり性や高い帯電安定性を得るするために、最大山谷深さRzを2.6μm以上とすることは、上記(ア)c(b)に記載したとおり、周知技術である。
そうしてみると、引用発明4において、優れたトナー帯電量の立ち上がり性や高い帯電安定性を得るするために、最大山谷深さRzを2.6μm以上とすることは、優れた特性を有するキャリア芯材を得ようとする当業者における通常の相違工夫の範囲内の事項にすぎない。
また、本件補正発明において、最大山谷深さRzを2.6μm以上とするによって奏する効果が、引用発明4及び周知技術から当業者が予測し得る範囲を超えた格別なものであるとはいえない。

d 小括
本件補正発明は、引用発明4及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項に係る発明は、平成29年6月23日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は、概略、1)本件出願の請求項1-4に係る発明は、その出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1-6に記載された発明及び引用文献7-11に記載された周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、2)本件出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条6項1号に規定する要件を満たしていない、3)本件出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条6項2号に規定する要件を満たしていない、というものである。

引用文献1:特開2006-337828号公報
引用文献2:特開2016-161741号公報
引用文献3:特開2016-80991号公報
引用文献4:特開2016-166974号公報
引用文献5:特開2016-71000号公報
引用文献6:小林弘道 他2名,2成分系現像剤用キャリアの現状と将来展望,日本画像学会誌,日本,日本画像学会,2004年 9月10日,第43巻第5号,356-364
引用文献7:特開2010-250281号公報
引用文献8:特開2013-231840号公報
引用文献9:特開2012-215624号公報
引用文献10:特開2014-197134号公報
引用文献11:特開2002-214846号公報

3 引用文献の記載及び引用発明等
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1並びに4及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(3)ア(ア)a及び(イ)aに記載したとおりである。
また、引用文献1及び4に記載された引用発明1及び4は、前記第2の[理由]2(3)ア(ア)b及び(イ)bに記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「最大山谷深さRz」が取り得る数値範囲を「2.6μm以上」から「2.5μm以上」に広めたものである。
そうすると、本願発明の構成を限定したものに相当する本件補正発明は、[理由]2(2)に記載したとおり、明確ではなく、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていないところ、本願発明も、「球形粒子が2個?5個の結合した結合粒子が5個数%?20個数%含まれ」るという構成を具備するものであるから、本件補正発明と同じ理由で明確ではなく、特許法36条6項2号に規定する要件を満たさないものである。
また、本願発明の構成を限定したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)イに記載したとおり、引用発明1及び周知技術、又は引用発明4及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明1又は4と周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は明確ではなく、本件出願は特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。また、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
そうしてみると、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-10-09 
結審通知日 2018-10-16 
審決日 2018-10-31 
出願番号 特願2016-252425(P2016-252425)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (G03G)
P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 樋口 祐介福田 由紀  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 関根 洋之
川村 大輔
発明の名称 キャリア芯材並びにこれを用いた電子写真現像用キャリア及び電子写真用現像剤  
代理人 山田 茂樹  
代理人 山田 茂樹  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ