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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1346986
審判番号 不服2017-14960  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-06 
確定日 2018-12-12 
事件の表示 特願2015- 74756「ビデオ復号処理のためにアダブティブなジオメトリック分割を行う方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 8月 6日出願公開、特開2015-144487〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2007年(平成19年)7月31日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年8月2日、米国)を国際出願日とする出願である特願2009-522842号の一部を平成25年11月1日に新たな特許出願とした特願2013-228049号の一部をさらに、平成27年4月1日に新たな特許出願としたものであって、その手続の概要は以下のとおりである。

手続補正書 :平成27年 4月 6日
拒絶理由通知 :平成28年 2月19日(起案日)
意見書 :平成28年 8月23日
手続補正書 :平成28年 8月23日
拒絶理由通知(最後):平成28年11月16日(起案日)
意見書 :平成29年 5月29日
手続補正書 :平成29年 5月29日
補正の却下の決定 :平成29年 6月 7日(起案日)
拒絶査定 :平成29年 6月 7日(起案日)
拒絶査定不服審判請求:平成29年10月 6日
手続補正書 :平成29年10月 6日
手続補正書(方式) :平成29年11月 9日
前置審査報告 :平成29年11月28日

第2 平成29年10月6日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成29年10月6日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、平成28年8月23日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8を、本件補正による特許請求の範囲の請求項1ないし8に補正するものであるところ、本件補正は、請求項1に係る次の補正事項を含むものである(下線は補正箇所を示す。)。

(補正前の請求項1)
「【請求項1】
メモリと、
現在のピクチャ・ブロックの画素を求めることによって、ピクチャ・ブロックに対応する画像データを復号するように構成された、前記メモリに結合された少なくとも1つのプロセッサであって、前記現在のピクチャ・ブロックは、一次多項式によって定義される曲線にしたがって、第1のパーティションと第2のパーティションとに分割される、前記少なくとも1つのプロセッサと、を備え、
前記曲線のパラメータは、前記画像データよりも前に復号された空間的に近傍するピクチャ・ブロックを分割するために使用された少なくとも別の曲線のパラメータから予測される、装置。」

(補正後の請求項1)
「【請求項1】
メモリと、
現在のピクチャ・ブロックの画素を求めることによって、ピクチャ・ブロックに対応する画像データを復号するように構成された、前記メモリに結合された少なくとも1つのプロセッサであって、前記現在のピクチャ・ブロックは、一次多項式によって定義される曲線にしたがって、第1のパーティションと第2のパーティションとに分割される、前記少なくとも1つのプロセッサと、を備え、
前記曲線のパラメータは、前記画像データよりも前に復号された空間的に近傍するピクチャ・ブロックを分割するために使用された少なくとも別の曲線のパラメータから予測され、
前記少なくとも1つのプロセッサはデブロッキング・フィルタを前記現在のピクチャ・ブロックの境界に適用するようにさらに構成されており、前記デブロッキング・フィルタの強度は前記分割に適応されている、装置。」

2 補正の適合性
(1)補正の目的について
請求項1に係る補正は、補正前の「少なくとも1つのプロセッサ」という発明特定事項について、「前記少なくとも1つのプロセッサはデブロッキング・フィルタを前記現在のピクチャ・ブロックの境界に適用するようにさらに構成されており、前記デブロッキング・フィルタの強度は前記分割に適応されている」と限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正といえる。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は変わるものではなく、同一であるといえるから、請求項1に係る補正は、特許法第17条の2第5項第2号の規定に該当するものである。

(2)補正の範囲及び単一性について
請求項1に係る補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の段落0135?0139、図12の記載に基づくものである。
よって、請求項1に係る補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものである。

また、請求項1に係る補正は、上記のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であるから、本件補正前の請求項1に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記載された発明は、発明の単一性の要件を満たすものといえ、請求項1に係る補正は、特許法第17条の2第4項の規定に適合するものである。

(3)独立特許要件について
以上のように、請求項1に係る補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であるから、本件補正後の請求項1に記載された発明が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

(3-1)本願補正発明
本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)は、次のとおりのものである。
なお、本願補正発明の各構成の符号は、説明のために当審において付与したものであり、以下、構成A?構成Eと称する。

(本願補正発明)
(A)メモリと、
(B)現在のピクチャ・ブロックの画素を求めることによって、ピクチャ・ブロックに対応する画像データを復号するように構成された、前記メモリに結合された少なくとも1つのプロセッサであって、前記現在のピクチャ・ブロックは、一次多項式によって定義される曲線にしたがって、第1のパーティションと第2のパーティションとに分割される、前記少なくとも1つのプロセッサと、を備え、
(C)前記曲線のパラメータは、前記画像データよりも前に復号された空間的に近傍するピクチャ・ブロックを分割するために使用された少なくとも別の曲線のパラメータから予測され、
(D)前記少なくとも1つのプロセッサはデブロッキング・フィルタを前記現在のピクチャ・ブロックの境界に適用するようにさらに構成されており、前記デブロッキング・フィルタの強度は前記分割に適応されている、
(E)装置。

(3-2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1である特開2005-277968号公報には、「画像符号化方法および画像復号化方法」(発明の名称)に関し、図面とともに次に掲げる事項が記載されている。
なお、下線は、強調のために当審で付したものである。

(ア)「【0037】
(実施の形態2)
図9は、本発明の画像復号化方法を用いた画像復号化装置900のブロック図である。画像復号化装置900は、可変長復号化部901、逆量子化部902、逆変換部903、加算部904、分割方法復号化部905、動き補償部906、参照ピクチャ用メモリ907、および分割方法保持部908から構成される。
【0038】
入力符号列BSは、本発明の画像符号化方法を用いた画像符号化装置により生成されたものとする。また、参照ピクチャ用メモリ907には、復号化済みの復号化画像が既に蓄積されており、これが符号列を復号化する際の参照ピクチャとして用いられるものとする。
【0039】
入力符号列BSは、可変長復号化部901に入力される。可変長復号化部901では、量子化された変換係数QC、符号化されたマクロブロックの分割方法DIC、動きベクトルMV等に対して可変長復号化を施す。量子化された変換係数QCは、逆量子化部902に、符号化されたマクロブロックの分割方法DICに分割方法復号化部905に、動きベクトルMVに動き補償部906に対して出力される。
【0040】
量子化された変換係数QCは、逆量子化部902で逆量子化を施され、逆変換部903で逆変換を施されて、復号残差画像DRとなり、加算部904に対して出力される。
分割方法復号化部905では、符号化されたマクロブロックの分割方法DICに対して復号化を行う。ここで、符号化されたマクロブロックの分割方法DICは、図6(a)または図6(b)の符号列フォーマットで符号化(記述)されている。ここで、いずれの符号列フォーマットを用いるかは、符号化装置と復号化装置とで、予め決定しておいても良いし、ヘッダ等にいずれの符号列フォーマットを用いるかを記述しておいても良い。」

(イ)「【0051】
以上のようにして得た分割情報(矩形分割か任意分割かの分割方法、および矩形分割の場合には分割数と分割形状、任意分割の場合には分割点の情報)DIは、動き補償部906に対して出力される。
【0052】
動き補償部906は、分割情報DIと動きベクトルMVとに基づいて、参照ピクチャ用メモリ907から、動き補償画像を取得する。ここで、マクロブロックが分割されている場合には、分割領域毎に動きベクトルが記述されているので、その動きベクトルに従って、分割領域毎に動き補償画像を取得する。例えば図5に示すように、マクロブロック500が任意分割で領域501と領域502とに分割されている場合、参照ピクチャから参照画像503、参照画像504を取得して、動き補償画像MCを生成し、加算部904に対して出力する。
【0053】
加算部904では、復号化残差画像DRと動き補償画像MCとを加算し、復号化画像DCを生成する。復号化画像DCは出力画像であると共に、以降のピクチャの復号化において参照ピクチャとして用いられる場合には、参照ピクチャ用メモリ907で保持される。
【0054】
以上のように、本発明の画像復号化方法においては、本発明の画像符号化方法により生成した符号列を復号化する際に、各マクロブロックの分割情報を取得する。そして、その分割情報および符号列中に記述されている動きベクトルに従って動き補償を施し、復号化画像を生成する。
【0055】
このような動作により、本発明の画像復号化方法を用いることによって、本発明の画像符号化方法により生成した符号列を正しく復号化することができる。
なお、本発明の実施例においては、任意分割の際にマクロブロックを1つの線分で2つに分割されている場合について説明したが、これは2つ以上の線分で3つ以上に分割されていても良い。この場合でも、本実施の形態と同様に復号化することができる。」

(ウ)「【0057】
また、本発明の実施例においては、マクロブロックが任意分割されている場合には、その線分がどの2点を通るかが符号列中に記述されている場合について説明したが、これは線分を直線と考え(y=ax+b)、その傾きaと切片bを記述されていても良い。この場合には、直線の方程式からマクロブロックがどのように分割されているかを判断することができる。」

(エ)「【0058】
(実施の形態3)
さらに、上記各実施の形態で示した画像符号化方法および画像復号化方法を実現するためのプログラムを、フレキシブルディスク等の記録媒体に記録するようにすることにより、上記各実施の形態で示した処理を、独立したコンピュータシステムにおいて簡単に実施することが可能となる。」

(オ)「【図5】



イ 引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2であるSatoshi Kondo, Hisao Sasai,A Motion Compensation Technique Using Sliced Blocks In Hybrid Video Coding,Image Processing, 2005. ICIP 2005. IEEE International Conference on,米国,IEEE,2005年 9月11日,vol.2,pp.305-308には、次に掲げる事項が記載されている。
なお、括弧内に当審で作成した仮訳を添付する。また、下線は、強調のために当審で付したものである。

(ア)「A. Overview
The proposed method divides macroblocks or sub-macroblocks into two regions with one line segment, and performs motion compensation for each segmented region.」
(A.概要
提案された方法は、マクロブロックまたはサブマクロブロックを、1つの線分によって2つの領域に分割し、各分割された領域に対して動き補償を実行する。)

(イ)「C. Shape description of sliced blocks
When describing the shapes of the sliced blocks in the bitstream, information on the slice line is described.」(第II C.欄)
(C.スライスされたブロックの形状の記述
スライスされたブロックの形状をビットストリームに記述する際には、スライスラインの情報が記述される。)

(ウ)「Furthermore, the slice line for the block undergoing encoding is predicted using the region shape information of the neighboring macroblocks. By using this description method, it can be considered that the shapes of the sliced blocks can be represented with relatively small amount of bits.」(第II C.欄)
(さらに、符号化されるブロックのスライスラインは隣接したマクロブロックの領域形状情報を用いて予測される。この記述方法を用いることにより、スライスされたブロックの形状が比較的少ないビット量で表現できると考えられる。)

ウ 引用文献3
補正の却下の決定で引用された引用文献3である特開2005-123732号公報には、「デブロックフィルタ処理装置およびデブロックフィルタ処理方法」(発明の名称)に関し、図面とともに次に掲げる事項が記載されている。
なお、下線は、強調のために当審で付したものである。

(ア)「【0002】
一般に映像圧縮技術において、画質や圧縮率を向上するために様々なフィルタが用いられる。低ビットレートの圧縮映像を復号して得られた画像には、量子化ノイズや動き補償によりブロックアーティファクトが生じることが多い。デブロックフィルタ処理装置(以下「デブロックフィルタ」または単に「フィルタ」と言う)の主な役割の1つは、復号画像におけるブロック境界を平滑化し、ブロックアーティファクトを低減または除去することである。また、デブロックフィルタには、例えばデコーダ側で映像を再生する際にノイズを除去し画質を安定化させることで高画質化を図るポストフィルタと、例えばエンコーダ側で映像を圧縮する際にノイズを除去し圧縮効率を向上させることで高画質化を図るループフィルタとがある。」

(イ)「【0045】
本願発明の特徴部分であるループフィルタ170は、独立した符号化フレームを除いて、ローカル復号化されたフレームに対して後述のデブロックフィルタ処理を施す。デブロックフィルタ処理は、複数の時間分解レベルの各々に対応して実行される。デブロックフィルタ処理を実行する際、ループフィルタ170は、デブロックフィルタ処理を適応的に実行するために、符号化/送信情報を取得する。取得される符号化/送信情報としては、動き推定部120による動き推定に関する動き推定情報、時間フィルタ130による時間ウェーブレット分解に関する時間分解情報、その他には、量子化パラメータ、ビットレート関連情報、色成分、要求される空間解像度、要求される時間解像度等の情報が挙げられる。動き推定情報は、例えば、ME(動き推定)ブロックサイズ、動き予測モード(イントラ(フレーム内予測符号化)モード、順方向予測符号化モード、逆方向予測符号化モードまたは双方向予測符号化モード)、動きベクトル、シーン変更等の情報を含む。時間分解情報は、例えば、使用する分解フィルタ、処理対象の時間分解レベル、GOPサイズ等の情報を含む。」

(ウ)「【0057】
そして、ステップS1500で、デブロックフィルタ処理を適用する際のフィルタ強度を設定する。ノイズの強度がより大きいブロックにより強いフィルタ強度のデブロックフィルタ処理が適用されるように、フィルタ強度は、隣り合う2つのブロックの動き予測モードに応じて設定される。例えば4段階のフィルタ強度が設定可能である場合、次のようにフィルタ強度の設定を行う。両ブロックまたはいずれかのブロックの動き予測モードがイントラのとき、フィルタ強度を最強に(Bs=3)する。両ブロックが異なる参照フレームを参照したものであるとき、両ブロックが異なる数の参照フレームを参照したものであるとき、または、両ブロックが同一の参照フレームを参照したものでありながら動きベクトルが類似していないときは、2番目に大きなフィルタ強度(Bs=2)を採用する。両ブロックが同一の参照フレームを参照したもので動きベクトルが類似しているときは、3番目に大きな(2番目に小さな)フィルタ強度(Bs=1)を採用する。その他のときは、フィルタ強度の設定をオフ(Bs=0)とし、対応する境界にフィルタリングを適用しないようにする。」

(3-3)引用文献に記載された発明及び技術
ア 引用文献1に記載された発明
引用文献1に記載された発明を以下に認定する。

(ア)コンピュータシステムについて
上記(3-2)ア(ア)によると、引用文献1には、「実施の形態2」として、「画像復号化方法を用いた画像復号化装置」が記載されている。
また、(3-2)ア(エ)によると、引用文献1には、「各実施の形態」で示した「画像復号化方法を実現するためのプログラムを、フレキシブルディスク等の記録媒体に記録するようにすることにより、上記各実施の形態で示した処理を、独立したコンピュータシステムにおいて簡単に実施することが可能となる」ことが記載されている。
したがって、引用文献1には、『画像復号化方法を実施するコンピュータシステム』の発明が記載されている。

(イ)復号化について
上記(3-2)ア(イ)、(オ)によると、引用文献1には、「図5に示すように、マクロブロック500が任意分割で領域501と領域502とに分割されている」こと、及び、「任意分割の際にマクロブロックを1つの線分で2つに分割されている」ことが記載されている。
また、(3-2)ア(ウ)によると、引用文献1には、線分をy=ax+bで表される直線と考えることが記載されている。
また、上記(3-2)ア(ア)、(イ)によると、引用文献1には、分割領域毎に記述されている動きベクトルを用いて動き補償を行い、マクロブロック毎に復号化画像を生成することにより、入力符号列を復号化することが記載されている。
したがって、引用文献1には、『マクロブロックが、y=ax+bで表される直線により2つの領域に分割されており、分割領域毎に記述されている動きベクトルを用いて動き補償を行い、マクロブロック毎に復号化画像を生成することにより、入力符号列を復号化する』ことが記載されている。

(ウ)直線の記述について
上記(3-2)ア(ア)、(ウ)によると、引用文献1には、『直線の傾きaと切片bが符号列フォーマットに記述されている』ことが記載されている。

(エ)まとめ
以上によると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。引用発明の各構成については、以下、構成a?構成cと称する。

(引用発明)
(a)マクロブロックが、y=ax+bで表される直線により2つの領域に分割されており、分割領域毎に記述されている動きベクトルを用いて動き補償を行い、マクロブロック毎に復号化画像を生成することにより、入力符号列を復号化し、
(b)前記直線の傾きaと切片bが符号列フォーマットに記述されている
(c)画像復号化方法を実施するコンピュータシステム。

イ 引用文献2に記載された技術
上記(3-2)イ(ア)?(ウ)によると、引用文献2には、以下の技術が記載されていると認められる。

「マクロブロックまたはサブマクロブロックを、1つの線分によって2つの領域に分割し、各分割された領域に対して動き補償を実行する方法において、スライスされたブロックの形状を比較的少ないビット量で表現するために、スライスされたブロックの形状をスライスラインの情報としてビットストリームに記述し、符号化されるスライスラインが、隣接するマクロブロックの領域形状情報を用いて予測される技術」

ウ 引用文献3に記載された技術
上記(3-2)ウ(ア)?(ウ)によると、引用文献3には、以下の技術が記載されていると認められる。

「映像の復号を行う方法において、デブロックフィルタをブロック境界に適用する技術、及び、デブロックフィルタの強度が、隣り合う2つのブロックの参照フレーム及び動きベクトルによって適応的に設定される技術」

(3-4)対比
次に、本願補正発明と、引用発明を対比する。

ア 本願補正発明の構成Eについて
引用発明の構成cの「コンピュータシステム」は本願補正発明の「装置」に相当する。
したがって、本願補正発明と引用発明は、「装置」であるという点で一致する。

イ 本願補正発明の構成Aについて
引用発明の構成cの「コンピュータシステム」がメモリを備えていることは当業者にとって明らかである。
したがって、本願補正発明と引用発明は、「メモリ」を備えるという点で一致する。

ウ 本願補正発明の構成Bについて
引用発明の構成cの「画像復号化方法を実施するコンピュータシステム」が、上記イの「メモリ」に結合された少なくとも1つのプロセッサを備えていることは当業者にとって明らかである。
また、引用発明の構成aの「マクロブロック」は、本願補正発明の「現在のピクチャ・ブロック」、「ピクチャ・ブロック」に相当するから、引用発明の構成aの「マクロブロック毎に復号化画像を生成する」ことは、現在のピクチャ・ブロックの画素を求めることによって、ピクチャ・ブロックに対応する画像データを復号することといえる。
また、引用発明の構成aの「y=ax+bで表される直線」は、本願補正発明の「一次多項式によって定義される曲線」に相当し、引用発明の構成aの「2つの領域」は、本願補正発明の「第1のパーティションと第2のパーティション」に相当する。
したがって、本願補正発明と引用発明は、「現在のピクチャ・ブロックの画素を求めることによって、ピクチャ・ブロックに対応する画像データを復号するように構成された、前記メモリに結合された少なくとも1つのプロセッサであって、前記現在のピクチャ・ブロックは、一次多項式によって定義される曲線にしたがって、第1のパーティションと第2のパーティションとに分割される、前記少なくとも1つのプロセッサ」を備えるという点で一致する。

エ 本願補正発明の構成Cについて
引用発明の構成bの「直線の傾きaと切片b」は、上記ウの「一次多項式によって定義される曲線」についての「曲線のパラメータ」であるといえる。
しかしながら、引用発明では、当該「曲線のパラメータ」は、「画像データよりも前に復号された空間的に近傍するピクチャ・ブロックを分割するために使用された少なくとも別の曲線のパラメータから予測される」ものではない。
したがって、「曲線のパラメータ」に関して、本願補正発明では、「画像データよりも前に復号された空間的に近傍するピクチャ・ブロックを分割するために使用された少なくとも別の曲線のパラメータから予測される」のに対し、引用発明では、予測されるものではない点で、両発明は相違している。

オ 本願補正発明の構成Dについて
引用発明では、デブロッキング・フィルタを有するとは特定されていない。
したがって、「少なくとも1つのプロセッサ」に関して、本願補正発明では、「デブロッキング・フィルタを現在のピクチャ・ブロックの境界に適用するようにさらに構成されており、前記デブロッキング・フィルタの強度は分割に適応されている」のに対し、引用発明では、デブロッキング・フィルタを有するとは特定されていない点で、両発明は相違している。

カ まとめ
以上によると、本願補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

[一致点]
メモリと、
現在のピクチャ・ブロックの画素を求めることによって、ピクチャ・ブロックに対応する画像データを復号するように構成された、前記メモリに結合された少なくとも1つのプロセッサであって、前記現在のピクチャ・ブロックは、一次多項式によって定義される曲線にしたがって、第1のパーティションと第2のパーティションとに分割される、前記少なくとも1つのプロセッサと、を備える、
装置。

[相違点]
(相違点1)「曲線のパラメータ」に関して、本願補正発明では、「画像データよりも前に復号された空間的に近傍するピクチャ・ブロックを分割するために使用された少なくとも別の曲線のパラメータから予測される」のに対し、引用発明では、予測されるものではない点。

(相違点2)「少なくとも1つのプロセッサ」に関して、本願補正発明では、「デブロッキング・フィルタを現在のピクチャ・ブロックの境界に適用するようにさらに構成されており、前記デブロッキング・フィルタの強度は分割に適応されている」のに対し、引用発明では、デブロッキング・フィルタを有するとは特定されていない点。

(3-5)判断
ア 相違点1について
上記(3-3)イで認定したとおり、引用文献2には、「マクロブロックまたはサブマクロブロックを、1つの線分によって2つの領域に分割し、各分割された領域に対して動き補償を実行する方法において、スライスされたブロックの形状を比較的少ないビット量で表現するために、スライスされたブロックの形状をスライスラインの情報としてビットストリームに記述し、符号化されるスライスラインが、隣接するマクロブロックの領域形状情報を用いて予測される技術」が記載されている。

ここで、引用文献2に記載された技術において、スライスラインの情報を正しく復号可能とするためには、「隣接するマクロブロック」は、現在復号化している画像データよりも前に復号されたマクロブロックでなければならないことは、当業者にとって明らかである。

そして、引用発明及び引用文献2に記載された技術は、いずれも、マクロブロックを直線により分割する方法において、直線の情報をビットストリームに記述するものであるという点で共通するものであり、また、動画像符号化の技術分野において、情報のビット量を減らそうとすることは、当業者にとって一般的な課題であるから、引用発明において、曲線のパラメータのビット量を減らすために、引用文献2に記載された技術を採用して、曲線のパラメータを、画像データよりも前に復号された空間的に近傍するピクチャ・ブロックを分割するために使用された少なくとも別の曲線のパラメータから予測されたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

したがって、相違点1に係る構成は、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基いて、当業者が容易に想到し得るものである。

イ 相違点2について
動画像の復号化を行う方法において、デブロッキング・フィルタを現在のピクチャ・ブロックの境界に適用すること、及び、デブロッキング・フィルタの強度が、隣り合う2つのブロックの参照フレーム及び動きベクトルによって適応的に決定されることは、引用文献3に記載のように周知技術に過ぎない。

したがって、引用発明において、少なくとも1つのプロセッサに関して、当該周知技術を採用して、デブロッキング・フィルタを現在のピクチャ・ブロックの境界に適用するように構成し、デブロッキング・フィルタの強度を、隣り合う2つのブロックの参照フレーム及び動きベクトル、すなわち、隣り合う2つの分割領域の参照フレーム及び動きベクトルによって適応的に決定することにより、デブロッキング・フィルタの強度が、分割に適応されているようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

この点について、請求人は、審判請求書において、本願の発明の詳細な説明の段落0135-0139、図12等の記載に基づき、「しかしながら、引用文献3の段落0057には、「そして、ステップS1500で、デブロックフィルタ処理を適用する際のフィルタ強度を設定する。ノイズの強度がより大きいブロックにより強いフィルタ強度のデブロックフィルタ処理が適用されるように、フィルタ強度は、隣り合う2つのブロックの動き予測モードに応じて設定される。」と記載されており、これは、本願発明の「前記少なくとも1つのプロセッサはデブロッキング・フィルタを前記現在のピクチャ・ブロックの境界に適用するようにさらに構成されており、前記デブロッキング・フィルタの強度は前記分割に適応されている」構成と相違しております。したがって引用文献3には、本願発明のように、デブロッキング・フィルタの強度が一次多項式によって定義される曲線の境界であるピクチャ・ブロックの分割に適応されていることについて、何ら記載も示唆もされておりません。この点について、他の引用文献1,2のいずれにおいても何ら記載も示唆もされておりません。」と主張している。

ここで、デブロッキング・フィルタの強度に関して、本願の発明の詳細な説明の段落0135には、「パラメトリック・モデルベースのパーティションを含むブロックは、必ずしも、各4×4ブロック上で一定の動きベクトル値、または、一定の参照フレーム値を有するものではない。実際、パラメトリック・モデルベースのパーティションを用いて任意に分割されたブロックにおいては、所与の動きベクトルによる影響を受ける領域およびブロック境界は、パラメトリック・モデルによって強いられる形状によって定義される。従って、4×4ブロックは、所与の位置で使用される動きベクトルおよび使用される参照フレームに関し、これが有する全体的な影響により、半分が1つのパーティションとなり、他方の半分が別のパーティションとなるように見える。よって、フィルタ強度決定の処理を適応させることによって、インループ・デブロッキング・フィルタ・モジュールが拡張される。この処理は、ここで、内部ブロック・パーティションの特定の形状を考慮してフィルタ強度を決定することが可能となるとよい。フィルタをかけるブロック境界の部分によっては、他のMPEG-4 AVCモードによってなされるように、4×4のブロックに従うのではなく、パーティションの形状に従って、適切な動きベクトルおよび参照フレームを得る必要がある。図12を参照すると、パラメトリック・モデルベースで分割されたマクロブロックが概ね参照符号1200によって示されている。パラメトリック・モデルベースで分割されたマクロブロックは、デブロッキング・フィルタ強度決定のためにどのように情報が選択されるかを示すデブロッキング領域の幾つかの例を含む。フィルタ強度は、各4×4のブロックのデブロッキング・フィルタがかけられる側毎に一度算出される。」との記載がある。当該記載より、本願では、パーティションの形状に従って、適切な動きベクトルおよび参照フレームを得て、デブロッキング・フィルタがかけられる側毎にデブロッキング・フィルタの強度を決定することが、「デブロッキング・フィルタの強度は前記分割に適応されている」ことの一つの実施の形態であることが理解できる。

また、発明の詳細な説明の段落0136には、「フィルタ強度算出のために考慮されるパーティションの選択は、フィルタがかけられるブロック側に大部分が重なっているパーティションを選ぶことによって行われる。しかしながら、第2の代替的な方法では、角部のブロックにおける演算を単純にするために、フィルタがかけられる両方のブロック・エッジの大部分を含むパーティションからの動きおよび参照フレーム情報を有するように全ての変換ブロック全体が考慮される。」との記載はあるものの、本願の請求項1には、「デブロッキング・フィルタの強度は前記分割に適応されている」という記載があるのみである。そして、本願の請求項1では、強度の算出に用いるパーティションを、フィルタがかけられるブロックとの重なりに応じて決定するというような、具体的な決定の手法は何ら特定されていない。

以上によると、本願補正発明の「デブロッキング・フィルタの強度は前記分割に適応されている」という構成には、パーティションの形状に従って、適切な動きベクトルおよび参照フレームを得て、デブロッキング・フィルタがかけられる側毎にデブロッキング・フィルタの強度を決定することが含まれると解され、当該構成は、上述のように、引用発明に引用文献3に記載のような周知技術を適用することにより、当業者が容易に想到し得るものであるから、請求人の主張は採用することができない。

したがって、相違点2に係る構成は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に想到し得るものである。

(3-6)効果等について
本願補正発明の構成は、上記のように当業者が容易に想到できたものであるところ、本願補正発明が奏する効果は、その容易想到である構成から当業者が容易に予測し得る範囲内のものであり、同範囲を超える顕著なものではない。

(3-7)まとめ
以上のように、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年10月6日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成28年8月23日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2の1に示した(補正前の請求項1)に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、以下のとおりである。

この出願の請求項1-8に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項 1-8
・引用文献等 1-2


1.特開2005-277968号公報
2.Satoshi Kondo, Hisao Sasai,A Motion Compensation Technique Using Sliced Blocks In Hybrid Video Coding,Image Processing, 2005. ICIP 2005. IEEE International Conference on,米国,IEEE,2005年 9月11日,vol.2,pp.305-308

3 引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1、及び、その記載事項は、上記第2の2(3-2)アに示したとおりであり、引用文献1に記載された発明(引用発明)は、上記第2の2(3-3)アに認定したとおりである。

4 対比
本願発明は、上記第2の1の(補正後の請求項1)で追加された限定事項を省いたものである。

そうすると、上記第2の2(3-4)の「対比」における検討を援用すると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

[一致点]
メモリと、
現在のピクチャ・ブロックの画素を求めることによって、ピクチャ・ブロックに対応する画像データを復号するように構成された、前記メモリに結合された少なくとも1つのプロセッサであって、前記現在のピクチャ・ブロックは、一次多項式によって定義される曲線にしたがって、第1のパーティションと第2のパーティションとに分割される、前記少なくとも1つのプロセッサと、を備える、
装置。

[相違点]
「曲線のパラメータ」に関して、本願発明では、「画像データよりも前に復号された空間的に近傍するピクチャ・ブロックを分割するために使用された少なくとも別の曲線のパラメータから予測される」のに対し、引用発明では、予測されるものではない点。

5 判断
上記第2の2(3-5)アにおける検討を援用すると、上記相違点は、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基いて、当業者が容易に想到し得るものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-07-10 
結審通知日 2018-07-17 
審決日 2018-07-30 
出願番号 特願2015-74756(P2015-74756)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04N)
P 1 8・ 121- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤穂 州一郎山▲崎▼ 雄介  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 坂東 大五郎
小池 正彦
発明の名称 ビデオ復号処理のためにアダブティブなジオメトリック分割を行う方法および装置  
代理人 伊東 忠重  
代理人 大貫 進介  
代理人 倉持 誠  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 吹田 礼子  

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