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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1347029
審判番号 不服2017-14957  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-06 
確定日 2018-12-05 
事件の表示 特願2012-250650「コリメートされたステレオディスプレイシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月30日出願公開、特開2013-106355〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年11月14日(パリ条約による優先権主張2011年11月16日、米国)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成28年 7月28日付け:拒絶理由通知書
同年12月19日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年 5月31日付け:拒絶査定
同年10月 6日 :審判請求書、手続補正書の提出
同年11月22日 :手続補正書(請求の理由)の提出

第2 平成29年10月6日にされた手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成29年10月6日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正は、平成28年12月19日にされた手続補正により補正された請求項1(以下、「補正前の請求項1」という。)を、以下の請求項1(以下、「補正後の請求項1」という。)とする補正事項を含むものである。(下線は、補正箇所である。)

(補正前の請求項1)
「【請求項1】
左眼画像及び右眼画像を含む立体画像のストリームを提供可能な画像生成器と、
前記画像生成器からの前記立体画像のストリームを受信可能であり、前記左眼画像及び前記右眼画像各々への光をフィルタする閲覧装置で閲覧するために光で前記立体画像を形成し、それによって、前記閲覧装置を通じて閲覧したときに、前記立体画像の三次元レンダリングを提供する、少なくとも一つの画像変調器と、
凸状スクリーン及び凹状のコリメートミラーを含み、前記少なくとも一つの画像変調器からの前記光を受信及びコリメート可能であり、前記光の線は、前記立体画像が前記閲覧装置で受信されたときに、略平行であり、前記立体画像中の物体は、バージェンス・キュー及び調節キューが前記凸状スクリーンでの左眼画像及び右眼画像に対応する実際の位置に概ね一致するような光学無限遠に見かけ上位置する、コリメート装置と、
を含むシステム。」

(補正後の請求項1)
「【請求項1】
左眼画像及び右眼画像を含む立体画像のストリームを提供可能な画像生成器と、
前記画像生成器からの前記立体画像のストリームを受信可能であり、前記左眼画像及び前記右眼画像各々への光をフィルタする閲覧装置で閲覧するために光で前記立体画像を形成し、それによって、前記閲覧装置を通じて閲覧したときに、前記立体画像の三次元レンダリングを提供する、少なくとも一つの画像変調器と、
凸状スクリーン及び凹状のコリメートミラーを含み、前記少なくとも一つの画像変調器からの前記光を受信及びコリメート可能であり、前記凸状スクリーンの凸面は、後に前記コリメートミラーによって実質的に反射される光を散乱および/または反射することが可能であり、前記光の線は、前記立体画像が前記閲覧装置で受信されたときに、略平行であり、前記立体画像中の物体は、バージェンス・キュー及び調節キューが前記凸状スクリーンでの左眼画像及び右眼画像に対応する実際の位置に概ね一致するような光学無限遠に見かけ上位置する、コリメート装置と、
を含むシステム。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「凸状スクリーン」について、上記「前記凸状スクリーンの凸面は、後に前記コリメートミラーによって実質的に反射される光を散乱および/または反射することが可能であり、」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりであり、以下に再掲する。
なお、各構成の符号(A)ないし(D)は、説明のために当審で付したものであり、以下、構成Aないし構成Dと称する。

(本件補正発明)
(A)左眼画像及び右眼画像を含む立体画像のストリームを提供可能な画像生成器と、
(B)前記画像生成器からの前記立体画像のストリームを受信可能であり、前記左眼画像及び前記右眼画像各々への光をフィルタする閲覧装置で閲覧するために光で前記立体画像を形成し、それによって、前記閲覧装置を通じて閲覧したときに、前記立体画像の三次元レンダリングを提供する、少なくとも一つの画像変調器と、
(C1)凸状スクリーン及び凹状のコリメートミラーを含み、前記少なくとも一つの画像変調器からの前記光を受信及びコリメート可能であり、
(C2)前記凸状スクリーンの凸面は、後に前記コリメートミラーによって実質的に反射される光を散乱および/または反射することが可能であり、
(C3)前記光の線は、前記立体画像が前記閲覧装置で受信されたときに、略平行であり、
(C4)前記立体画像中の物体は、バージェンス・キュー及び調節キューが前記凸状スクリーンでの左眼画像及び右眼画像に対応する実際の位置に概ね一致するような光学無限遠に見かけ上位置する、
(C)コリメート装置と、
を含む
(D)システム。

(2)引用文献、引用発明
(2-1)引用文献1
(2-1-1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開平8-190072号公報(平成8年7月23日公開。以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は強調のため当審で付与した。)

「【0007】
【発明の実施の形態】例として、空間光変調器(SLM)がデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)であるディスプレイシステムについて以下に説明を行う。しかしながら、他種のSLMを使用するディスプレイシステムにも同じ概念が適用される。例えば、ここに記載するシステムを適切に修正することによりDMDアレイの替わりに液晶ピクセルアレイを有する頭部装着ディスプレイシステムを考案することができる。サイズがコンパクトで光路に沿って画面へ投影できる光線として画像を発生する能力がある限り任意のSLMが適切である。
【0008】図1に本発明による頭部装着ディスプレイ10を示す。内部部品しか図示されておらず、実際の応用では、これらの部品はディスプレイ10を装着者の頭部へ固定する手段を有する(図示せぬ)筺体内に収納される。
【0009】ディスプレイ10はデータ入力装置11を含み、それはDMD12へ画像データを送るさまざまな回路を含んでいる。この回路はデータ処理、フォーマット化およびフレームメモリ回路を含むことができ、それらは適切なフォーマットでDMD12へデータを送るのに使用される。この種の回路は、投影ディスプレイシステム等の、他種のDMDベースディスプレイシステムの特許に詳細に記載されている。このような特許の例として米国特許第5,079,544号“標準独立デジタル化ビデオシステム”、および米国特許出願第08/146,385号(アトニーディケット番号第TI-17671号)“DMDディスプレイシステム”がある。これらの各特許はテキサスインスツルメンツ社が譲り受けており、参照としてここに組み入れられている。またデータ入力装置11は単なるデータ入力インターフェイスおよびフレームメモリとすることができ、全ての処理およびフォーマット化はディスプレイ10の外部で行い(図示せぬ)通信リンクを介して画像データをディスプレイ10へ送ることができる。
【0010】光源13からDMD12の反射面へ光が入射される。光源13は小型白熱電球、もしくは発光ダイオードアレイとすることができる。一実施例では、コーラー照光として知られる技術を使用して、DMD12に対して軸を外して光が投影される。カラーディスプレイの場合には、光源13は各画像フレーム期間内で切り替え可能ないくつかの色を提供して、観察者が所望する色へ統合するカラー画像を逐次提供することができる。DMDの替わりに他種のSLMを使用する場合には、他の光源に適切なものは何でも含むように容易にディスプレイ10を修正することができる。
【0011】DMD12はその反射面上に画像を発生して光源13からの光線に載せる。前記したように、DMD12の替わりに、他種のSLMを使用することができる。説明の都合上、SLMが光を反射するか、透過するか、発生するかに無関係に、共通する特徴は光線に載せた画像を発生することである。
【0012】投影レンズ14により画像は折畳鏡15を介して後方投影画面16へ中継される。後記するように、投影レンズ14は画面16のサイズに対応する拡大画像を提供するように構成される。したがって、他の投影レンズ14と同様に投影レンズ14の主な機能は、最小限の収差で、DMD12上の画像を画面16上の実際の遠隔画像へ変換することである。そのためには、図1に示すように、5個1組のレンズが適切であることが実験により判っている。レンズ14は入射光線のテーパ角度に対して適切な開口絞りを有している。レンズ14はプラスチック非球面レンズである。投影レンズ14の特徴は、画面16へ画像を中継するために行われる画像の拡大ににりDMD12における画像のテーパ角度が減少するという事実だけでなく、小さなテーパ角度を調整することである。
【0013】図2は、投影画面16を示す、ディスプレイ10の平面図である。前記したように、画面16は一般的に観察者の水平視野に平行である。その長さは水平視野に関連しており、その幅は垂直視野に関連している。画面16の寸法は反射鏡18により拡大された後で、所望する幅および高さを有する視野を提供するようにされている。後記するように、反射鏡18により画面16を小さくできる点において画面16のサイズは反射鏡18の倍率に関連している。
【0014】再び図1を参照して、投影画面16は透光材で作られ、投影レンズ14から投影される光の画像面に配置されている。投影画面16は拡散材で作られるかもしくは拡散コーティングが施されている。この拡散により遅いfナンバーを有する入射光線は速いfナンバーを有する出射光線へ変換される。すなわち、画面16により画像のテーパ角度が増加されて観察者の目のサイズおよび間隔が調整される。最も単純な実施例では、画面16により画像は水平(観察者の両眼間で画像の水平面に沿って)および垂直に拡散される。しかしながら、画面16は拡散が主に水平(もしくは、水平のみ)となるように設計することができる。
【0015】投影画面16は幾分湾曲しており、投影レンズ14に向かって凹んでいる。この湾曲により収差が補償されそれは投影レンズ14の収束力に関連している。本実施例では、画面16は水平および垂直の両方向に凹んでいるが、それは投影レンズ14の光学系に応じて変えることができる。
【0016】画面16からの画像を載せた光線はビームスプリッタ17へ達し、そこでいくらかの光は反射鏡18へ反射されいくらかは透過される。ビームスプリッタ17は標準強度分割装置であり、画面16から反射鏡18への光路と反射鏡18から目への光路を重畳する。この構成は観察光学系内の最小限の歪みで輝度の損失を調整するように設計される。
【0017】図3は反射鏡18から観察者の目までの光路を示す、ディスプレイ10の平面図である。反射鏡18は(観察者の両眼間で)画像に対して凹面を有し、湾曲の水平中心CH は観察者の両眼間にある。
【0018】再び図1を参照して、反射鏡18は(視野の上下方向で)画像に対する垂直凹面も有している。湾曲の垂直中心CV は観察者の射出瞳にある。
【0019】図1および図3に示すように、反射鏡18からの反射光は実質的に平行光線である。これにより観察者にはある距離にある画像の知覚が与えられる。設計仕様に応じて、画像は無限遠に見えるようにすることができる。したがって、前記したように、反射鏡18により画像を無限遠として観察者の快適さを高めるだけでなく、視野を大きくするように画像が拡大される。ディスプレイ10の代表的な視野は水平方向60゜および垂直方向30゜である。
【0020】接眼レンズ19は幾分発散性のレンズである。この発散力により反射鏡18のサイズを小さくすることができ接眼レンズ19が無い場合よりも反射鏡18と目の距離を短縮することができる。
【0021】図4はディスプレイ10の改善型である、立体的ディスプレイ40を示す。図4は図3と同じ図であるが、“右目”および“左目”画像の供給に同期してオン/オフすることができるシャッター41を有している。左右の画像が高速で連続して交互に表示されシャッター41は一方の目の光景が表示される間他方の目の光景を阻止する。一方向およびもう一方向へ交互に偏光を行うような、さまざまな電子シャッターを使用することができる。
【0022】特定の実施例について本発明を説明してきたが、本明細書は制約的意味合いを有するものではない。当業者であれば他の実施例だけでなく、開示された実施例のさまざまな修正が自明であるものと思われる。したがって、本発明の真の範囲に入る修正は全て特許請求の範囲に入るものとする。」

「【図1】




「【図4】



(2-1-2)引用文献1に記載の技術的事項
上記(2-1-1)に摘記した記載から、引用文献1には、以下(ア)ないし(ウ)の技術的事項が記載されているものと認められる。

(ア)段落0007、0009、0011、0012、0014、0015、0016、0017から、画像データについてデータ処理を行いデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)へ該画像データを送るデータ入力装置と、画像を発生して光源からの光線に載せるDMDと、前記画像を後方投影画面へ中継させる投影レンズと、前記投影レンズから投影される光の画像面に配置され、投影レンズに向かって凹んでおり、画像を拡散する後方投影画面と、前記後方投影画面から反射鏡への光路と反射鏡から目への光路を重畳するビームスプリッタと、画像に対して凹面を有する反射鏡とを備えたディスプレイシステムが記載されている。

(イ)段落0019から、上記反射鏡は、反射光が実質的に平行光線であり、反射鏡による画像を無限遠とするものであることが記載されている。

(ウ)段落0021から、上記ディスプレイシステムにいて、右目及び左目画像の供給に同期してオン/オフすることができるシャッターを有する立体的ディスプレイに改善することが記載されており、当該立体的ディスプレイを備えたディスプレイシステムにおいても、上記(ア)及び(イ)の構成を有するものと認められる。

(2-1-3)引用発明
以上より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
なお、各構成の符号(a)ないし(h)は、説明のために当審で付したものであり、以下、構成aないし構成hと称する。

(a)画像データについてデータ処理を行いデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)へ該画像データを送るデータ入力装置と、
(b)画像を発生して光源からの光線に載せるDMDと、
(c)前記画像を後方投影画面へ中継させる投影レンズと、
(d)前記投影レンズから投影される光の画像面に配置され、投影レンズに向かって凹んでおり、画像を拡散する後方投影画面と、
(e)前記後方投影画面から反射鏡への光路と反射鏡から目への光路を重畳するビームスプリッタと、
(f)画像に対して凹面を有し、反射光が実質的に平行光線であり、反射鏡による画像を無限遠とするものである反射鏡と、
(g)立体的ディスプレイとして機能させるための、右目及び左目画像の供給に同期してオン/オフすることができるシャッターと、
を備えた
(h)ディスプレイシステム。

(2-2)引用文献2の記載事項
同じく原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、米国特許出願公開第2010/0123880号(2010(平成22)年5月20日出願公開。以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は強調のため当審で付与した。)

「BACKGROUND
[0002] Collimated displays systems have long been used in wide-bodied aircraft simulators. The primary components of collimated displays are at least one projector, a projection screen, typically spherical, placed above and in front of the cockpit or cab of the simulator on which the projector projects an image, and a collimating mirror in front of and wrapping around the cockpit or cab for providing a large horizontal field-of-view. The projection screen can be either front or rear projected, and the projected image is viewed via the collimating mirror.」
(仮訳:「概要
[0002] コリメートされたディスプレイシステムは広胴型航空機のシミュレータにおいて用いられてきた。コリメートされたディスプレイの基本的な構成は、少なくとも1つのプロジェクタと、典型的には球状でシミュレータのコクピット又は運転室の上方及び前方に設置され、プロジェクタの画像を投影する投影スクリーンと、水平方向の広い視野を得るためにコクピット又は運転室の前方かつ周りを覆うコリメートミラーとを含む。投影スクリーンは前方又は後方に投影でき、投影された画像はコリメートミラーを用いて見られる。」)

「[0022] Referring now in detail to the drawings and initially to FIGS. 1A and 1B , two exemplary front-projection collimating display systems according to the invention are designated generally by reference numeral 10.(後略)」
(仮訳:「[0022] ここで図面を詳細に参照し、まず図1A及び1Bを参照すると、本発明による前方投影のコリメートディスプレイシステムの2つの典型例が、参照番号10により概して示されている。」)





(3)引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

(3-1)本件補正発明の構成Aについて
引用発明は、構成gのシャッターが右目及び左目画像の供給に同期してオン/オフすることで、立体的ディスプレイとして機能するものであるから、構成bの画像を発生するデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)は、右目画像及び左目画像を発生するものであることは明らかである。そして、構成aの「データ入力装置」は、DMDで右目画像及び左目画像を発生させるために、「画像データについてデータ処理を行いデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)へ該画像データを送る」ものであるから、「右目画像及び左目画像を含む立体画像のストリーム」を生成して提供するものと認められる。
よって、引用発明の構成aの「データ入力装置」は、本件補正発明の構成Aの「左眼画像及び右眼画像を含む立体画像のストリームを提供可能な画像生成器」に相当する。

(3-2)本件補正発明の構成Bについて
上記(3-1)のとおり、引用発明の構成aの「データ入力装置」は、「左眼画像及び右眼画像を含む立体画像のストリーム」を構成bのDMDに送るものであるから、引用発明の構成bの「DMD」は、「前記画像生成器からの前記立体画像のストリームを受信可能」なものである。
引用発明の構成bの「DMD」は、「画像を発生して光源からの光線に載せる」ものであるから、本件補正発明の「少なくとも一つの画像変調器」に相当する。
また、引用発明の構成gの「立体的ディスプレイとして機能させるための、右目及び左目画像の供給に同期してオン/オフすることができるシャッター」は、シャッターにより目に到達する画像の光を選択的に通過させるものであるから、「左眼画像及び右眼画像各々への光をフィルタする閲覧装置」に相当する構成を備えている。
そして、引用発明は、構成gのシャッターが右目及び左目画像の供給に同期してオン/オフすることで、立体的ディスプレイとして機能するものであり、当該画像を構成bのDMDにおいて発生させるものであるから、構成bのDMDは、「前記左眼画像及び前記右眼画像各々への光をフィルタする閲覧装置で閲覧するために光で前記立体画像を形成し、それによって、前記閲覧装置を通じて閲覧したときに、前記立体画像の三次元レンダリングを提供する」ことに相当する構成を備えている。
以上から、引用発明の構成bの「DMD」は、本件補正発明の構成Bの「前記画像生成器からの前記立体画像のストリームを受信可能であり、前記左眼画像及び前記右眼画像各々への光をフィルタする閲覧装置で閲覧するために光で前記立体画像を形成し、それによって、前記閲覧装置を通じて閲覧したときに、前記立体画像の三次元レンダリングを提供する、少なくとも一つの画像変調器」に相当する。

(3-3)本件補正発明の構成Cについて
(3-3-1)本件補正発明の構成C1について
引用発明の構成dの「投影レンズに向かって凹んでいる」「後方投影画面」は、当該画面を実際に目で見るのは画面の後方側からであることは明らかであり、当該実際に目で見る側である画面の後方側からみた形状は凸状となっているから、本件補正発明の構成C1の「凸状スクリーン」に相当する。また、引用発明の構成fの、画像に対して凹面を有し、反射光が実質的に平行光線である「反射鏡」は、本件補正発明の構成C1の「凹状のコリメートミラー」に相当する。そして、構成dの前記「後方投影画面」は、構成bのDMDからの画像の光を構成cの投影レンズを介して受信し、構成fの前記「反射鏡」は、後方投影画面からの光を構成eのビームスプリッタを介して平行光線になるよう反射するものであるから、構成dの前記「後方投影画面」及び構成fの前記「反射鏡」は、本件補正発明における「凸状スクリーン及び凹状のコリメートミラーを含み、前記少なくとも一つの画像変調器からの前記光を受信及びコリメート可能」であることに相当する構成を有する。

(3-3-2)本件補正発明の構成C2について
引用発明の構成dの「後方投影画面」は、後方に画像を投影するものであって、構成fの反射鏡によって反射される「画像の光を拡散する」ものであるのに対し、本件補正発明の構成C2の「凸状スクリーン」は、「凸面は、後に前記コリメートミラーによって実質的に反射される光を散乱および/または反射することが可能であり」との構成を有するものである点で相違する。

(3-3-3)本件補正発明の構成C3について
引用発明の構成fの「反射鏡」は、反射光が実質的に平行光線であり、該反射光が構成eのビームスプリッタ及び構成gのシャッターを介して目に到達するものであるから、本件補正発明の構成C3の「前記光の線は、前記立体画像が前記閲覧装置で受信されたときに、略平行であり」に相当する構成を有する。

(3-3-4)本件補正発明の構成C4について
引用発明は、上記(3-1)のとおり立体的ディスプレイとして機能するものであり、かつ構成fの「反射鏡」は、「反射鏡による画像を無限遠とするものである」から、構成fの「反射鏡」は、本件補正発明の構成C4における「立体画像中の物体」が「光学無限遠に見かけ上位置する」構成を有する点で一致する。そして、本件補正発明の構成C4における「バージェンス・キュー及び調節キューが前記凸状スクリーンでの左眼画像及び右眼画像に対応する実際の位置に概ね一致するような」という事項は、前記「立体画像中の物体」が「光学無限遠に見かけ上位置する」ことを単に説明する表現と認められるから、当該事項も引用発明の構成fと本件補正発明の構成C4との間で相違しない。
したがって、引用発明の構成fの「反射鏡」は、本願補正発明の構成C4の「前記立体画像中の物体は、バージェンス・キュー及び調節キューが前記凸状スクリーンでの左眼画像及び右眼画像に対応する実際の位置に概ね一致するような光学無限遠に見かけ上位置する」に相当する構成を有する。

(3-3-5)本件補正発明の構成Cについてのまとめ
本件補正発明の構成C1?C4を備えた構成Cについて、上記(3-3-1)?(3-3-4)での対比結果に基づきまとめると以下のとおりである。
引用発明の構成dの「後方投影画面」及び構成fの「反射鏡」からなる構成は、DMDからの画像の光を平行光線にするものであるから、本件補正発明の構成Cの「コリメート装置」に相当し、本件補正発明の構成C1、C3、C4を有する点で共通する。
しかしながら、引用発明の「後方投影画面」は、「後方に画像を投影し、反射鏡によって反射される画像の光を拡散する」構成であるのに対し、本件補正発明の「凸状スクリーン」は、「凸面は、後に前記コリメートミラーによって実質的に反射される光を散乱および/または反射することが可能であり」との構成を有するものである点で相違する。

(3-4)本件補正発明の構成Dについて
引用発明の構成hの「ディスプレイシステム」は、本件補正発明の構成Dの「システム」に相当する。

(3-5)一致点、相違点
以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
(A)左眼画像及び右眼画像を含む立体画像のストリームを提供可能な画像生成器と、
(B)前記画像生成器からの前記立体画像のストリームを受信可能であり、前記左眼画像及び前記右眼画像各々への光をフィルタする閲覧装置で閲覧するために光で前記立体画像を形成し、それによって、前記閲覧装置を通じて閲覧したときに、前記立体画像の三次元レンダリングを提供する、少なくとも一つの画像変調器と、
(C1)凸状スクリーン及び凹状のコリメートミラーを含み、前記少なくとも一つの画像変調器からの前記光を受信及びコリメート可能であり、
(C3)前記光の線は、前記立体画像が前記閲覧装置で受信されたときに、略平行であり、
(C4)前記立体画像中の物体は、バージェンス・キュー及び調節キューが前記凸状スクリーンでの左眼画像及び右眼画像に対応する実際の位置に概ね一致するような光学無限遠に見かけ上位置する、
(C)コリメート装置と、
を含む
(D)システム。

(相違点)
引用発明の「後方投影画面」は、「後方に画像を投影し、反射鏡によって反射される画像の光を拡散する」構成であるのに対し、本件補正発明の「凸状スクリーン」は、「凸面は、後に前記コリメートミラーによって実質的に反射される光を散乱および/または反射することが可能であり」との構成を有するものである点。

(4)判断
上記相違点について、以下に検討する。
投影画面を用いたディスプレイシステムにおいて、投影スクリーンとして一般に前方投影及び後方投影のものが存在することは、引用文献2の段落0002に記載されているように周知の事項であり、同文献の段落0022及び図1A、1Bに例示されるように、投影される光を散乱および/または反射する前方投影の投影スクリーンを用いることも周知技術である。
そして、引用発明において、投影画面の投影する方向として「前方投影」を採用することは、上記周知技術に基づいて当業者が適宜採用できる設計的事項であり、引用発明の投影画面に係る構成を当該前方投影の投影画面を用いたものとすること、即ち、「凸状スクリーンの凸面は、後に前記コリメートミラーによって実質的に反射される光を散乱および/または反射することが可能であり」との構成を備えるようにすることは、当業者が当該周知技術を考慮して容易に想到しうるものである。

そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

よって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は、平成30年7月12日に提出された上申書において、本件補正発明が、引用文献1に記載された発明ではなく、新規性を有する旨(上申書「3.(1-2)」)、及び、引用文献2のフライトシミュレータから本件補正発明を当業者が容易に想到し得た、というものではない旨(上申書「3.(2-2)」)の主張をしている。
しかしながら、上記のとおり、本件補正発明は、引用文献1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、当該請求人の主張は本件補正発明と引用文献1に記載の発明との相違点に基づいたものではないから、これを採用することはできない。
また、請求人は、上申書において、請求項5に係る発明も特許性が認められる旨の主張もしているが、請求項5が引用する請求項1に係る発明、即ち、本件補正発明についての判断は上記のとおりであるから、当該主張は、採用することはできない。

したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年10月6日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成28年12月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、明細書及び図面の記載からみて、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2[理由]1(1)において「補正前の請求項1」として記載したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
本願発明に係る原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である特開平8-190072号公報(上記引用文献1)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない、というものである。

3 引用文献、引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項並びに引用発明は、上記第2[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、上記第2[理由]2において検討した本件補正発明の構成C2に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明には、上記第2[理由]2(3-5)における相違点は存在しないから、本願発明は引用文献1に記載された発明である。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-07-09 
結審通知日 2018-07-10 
審決日 2018-07-23 
出願番号 特願2012-250650(P2012-250650)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04N)
P 1 8・ 113- Z (H04N)
P 1 8・ 575- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 益戸 宏  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 坂東 大五郎
樫本 剛
発明の名称 コリメートされたステレオディスプレイシステム  
代理人 藤田 和子  

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