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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03G
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 G03G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G03G
管理番号 1347127
審判番号 不服2017-15684  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-23 
確定日 2019-01-08 
事件の表示 特願2014-215495「定着装置及び画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月16日出願公開、特開2015-129914、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成26年10月22日の出願(優先権主張平成25年12月3日)であって、平成29年1月26日付けで拒絶理由が通知され、同年4月26日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年6月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年10月23日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされ、平成30年8月27日付けで拒絶理由が通知され、同年11月14日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。


第2 原査定の概要

平成29年6月21日付け拒絶査定(以下、「原査定」という。)の概要は次のとおりである(引用文献については、下記の引用文献等一覧を参照。)。

本願請求項1-4に係る発明は、引用文献A及びBに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.特開2012-198341号公報
B.特開2009-186810号公報


第3 当審拒絶理由の概要

平成30年8月27日付け拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は次のとおりである(引用文献については、下記の引用文献等一覧を参照。)。

1 本願は、請求項1,3,4の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

2 本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

3 本願請求項1,2,4に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2010-231094号公報(当審において新たに引用した文献)
2.特開2009-186810号公報(原査定時の引用文献B)


第4 本願発明

本願請求項1-3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明3」という。)は、平成30年11月14日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)で補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1-3は以下のとおりの発明である。

【請求項1】
「磁界を発生させる磁界発生手段と、
発熱層を有し、前記磁界発生手段の内側に配置される回転体と、
前記回転体の内側に配置される第1の感温磁性合金と、
前記第1の感温磁性合金の内側に配置される第2の感温磁性合金と、を備え、
外側から順に、前記磁界発生手段、前記回転体、前記第1の感温磁性合金、及び前記第2の感温磁性合金が配置されており、
前記磁界発生手段と前記回転体とが対向する位置において、前記回転体と前記第1の感温磁性合金と前記第2の感温磁性合金とは、重なり合った状態で互いに接触し、
前記回転体は、前記第1の感温磁性合金及び前記第2の感温磁性合金とは別体として設けられた定着ベルトであり、
前記定着ベルトは、内周面に形成された前記発熱層と、外周面に形成された表面離型層とを備え、
前記第1の感温磁性合金のキュリー点である第1のキュリー点は、前記第2の感温磁性合金のキュリー点である第2のキュリー点よりも高く、
前記第1の感温磁性合金及び前記第2の感温磁性合金の温度が前記第2のキュリー点未満である場合には、前記第1の感温磁性合金及び前記第2の感温磁性合金が共に磁性体として機能し、
前記第1の感温磁性合金及び前記第2の感温磁性合金の温度が前記第2のキュリー点以上且つ前記第1のキュリー点未満である場合には、前記第2の感温磁性合金が非磁性体として機能すると共に、前記定着ベルトと接触する前記第1の感温磁性合金が磁性体として機能し、
前記第1の感温磁性合金と接触している前記第2の感温磁性合金の前記第2のキュリー点は、定着時における前記回転体の温度よりも低く、
前記第2の感温磁性合金の厚さは、前記第1の感温磁性合金の厚さよりも厚い、定着装置。」

【請求項2】
「前記第1のキュリー点は、前記定着時における前記回転体の温度よりも高い、請求項1に記載の定着装置。」

【請求項3】
「請求項1または請求項2に記載の定着装置を備えた画像形成装置。」


第5 引用文献

1 引用文献1
(1)当審拒絶理由において、請求項1,2,4に係る発明の進歩性を否定する主引用文献として引用された引用文献1には、次の記載がある(下線は当審で付した。)。
ア 「【0017】
<定着ユニットの構成の説明>
次に、本実施の形態の定着ユニット60について説明する。
図2及び図3は本実施の形態の定着ユニット60の構成を示す図であり、図2は正面図、図3は図2におけるXX断面図である。
まず、断面図である図3に示すように、定着ユニット60は、交流磁界を生成する磁界生成部材の一例としてのIH(Induction Heating)ヒータ80、IHヒータ80により電磁誘導加熱されてトナー像を定着する定着部材の一例としての定着ベルト61、定着ベルト61に対向するように配置された定着加圧部材の一例としての加圧ロール62、定着ベルト61を介して加圧ロール62から押圧される押圧パッド63を備えている。
さらに、定着ユニット60は、押圧パッド63等の構成部材を支持するフレーム65、IHヒータ80にて生成された交流磁界を誘導して磁路を形成する感温磁性部材64、感温磁性部材64を通過した磁力線を誘導する誘導部材66、磁路がフレーム65の側に漏洩するのを防止する磁路遮蔽部材73、定着ベルト61からの用紙Pの剥離を補助する剥離補助部材70を備えている。」
イ 「【0018】
<定着ベルトの説明>
定着ベルト61は、原形が円筒形状の無端のベルト部材で構成され、例えば原形(円筒形状)時の直径が30mm、幅方向長が370mmに形成されている。また、図4(定着ベルト61の断面層構成図)に示したように、定着ベルト61は、基材層611、基材層611の上に積層された導電発熱層612、トナー像の定着性を向上させる弾性層613、最上層に被覆された表面離型層614からなる多層構造のベルト部材である。」
ウ 「【0027】
<感温磁性部材の説明>
本実施の形態において、透磁率変化開始温度以下の温度範囲において感温磁性部材64は、強磁性体である。そのため電磁誘導加熱により自己発熱する。ここで定着ベルト61は、定着を行なうことで熱を奪われるため、その温度が下がるが、同様に電磁誘導加熱により定着ベルト61から発熱する熱と併せて、この感温磁性部材64により発生した熱により再加熱を行うことができる。そのため定着ベルト61の温度を定着設定温度まで速やかに昇温させることが可能である。
感温磁性部材64は、定着ベルト61の内周面に倣った円弧形状で形成され、定着ベルト61の内周面と接触して配置される。感温磁性部材64を定着ベルト61と接触させて配置するのは、電磁誘導加熱により感温磁性部材64から発生した熱を定着ベルト61に供給しやすくするためである。また感温磁性部材64は、定着ベルト61に熱を供給するため、定着ベルト61に対し、20℃?30℃高い温度に保持される。」
エ 「【0028】
また、感温磁性部材64は、その磁気特性の透磁率が急変する温度である「透磁率変化開始温度」(後段参照)が各色トナー像が溶融する定着設定温度以上であって、定着ベルト61の弾性層613や表面離型層614の耐熱温度よりも低い温度範囲内に設定された材質で構成される。すなわち、感温磁性部材64は、定着設定温度を含む温度領域において強磁性と非磁性(常磁性)との間を可逆的に変化する特性(「感温磁性」)を有する材質で構成される。そして、感温磁性部材64は、強磁性を呈する透磁率変化開始温度以下の温度範囲において磁路形成部材として機能し、IHヒータ80にて生成され定着ベルト61を透過した磁力線を内部に誘導して、感温磁性部材64の内部を通過する交流磁界(磁力線)の磁路を形成する。それにより、感温磁性部材64は、定着ベルト61とIHヒータ80の励磁コイル82(後段の図6参照)とを内部に包み込むような閉磁路を形成する。一方、透磁率変化開始温度を超える温度範囲においては、感温磁性部材64は、IHヒータ80にて生成され定着ベルト61を透過した磁力線を、感温磁性部材64の厚さ方向に横切るように透過させる。それにより、IHヒータ80にて生成され定着ベルト61を透過した磁力線は、感温磁性部材64を透過し、誘導部材66の内部を通過してIHヒータ80に戻る磁路を形成する。
なお、ここでの「透磁率変化開始温度」とは、透磁率(例えば、JIS C2531で測定される透磁率)が連続的に低下を開始する温度であり、例えば感温磁性部材64等の部材を透過する磁束量(磁力線の数)が変化し始める温度点をいう。したがって、透磁率変化開始温度は、物質の磁性が消失する温度であるキュリー点に近い温度となるが、キュリー点とは異なる概念を有するものである。」
オ 「【0029】
感温磁性部材64に用いる材質としては、透磁率変化開始温度が例えば140(定着設定温度)?240℃の範囲内に設定された例えばFe-Ni合金(パーマロイ)等の二元系整磁鋼やFe-Ni-Cr合金等の三元系の整磁鋼等が用いられる。例えば、Fe-Niの二元系整磁鋼においては約Fe64%、Ni36%(原子数比)とすることで225℃前後に透磁率変化開始温度を設定することができる。このようなパーマロイや整磁鋼等の金属合金等は、成型性や加工性に優れ、伝熱性も高く安価である等の理由から、感温磁性部材64に適する。その他の材質としては、Fe,Ni,Si,B,Nb,Cu,Zr,Co,Cr,V,Mn,Mo等からなる金属合金が用いられる。
また、感温磁性部材64は、IHヒータ80により生成された交流磁界(磁力線)に対する表皮深さδ(上記(1)式参照)よりも薄い厚さで形成される。具体的には、例えばFe-Ni合金を用いた場合には50?300μm程度に設定される。」
カ 引用文献1の図3,7より、外側から順に、IHヒータ80、定着ベルト61、感温磁性部材64が配置されること、及び、IHヒータ80と定着ベルト61とが対向する位置において、定着ベルト61と感温磁性部材64とが接触することが看て取れる。

(2)引用発明1の認定
ア 上記(1)アより、「IHヒータ」は「交流磁界を生成する」ものであると認められる。
イ よって、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「交流磁界を生成するIHヒータと、
定着ベルトと、
材質としてFe-Ni合金(パーマロイ)等の二元系整磁鋼やFe-Ni-Cr合金等の三元系の整磁鋼等が用いられた感温磁性部材と、を備え、
外側から順に、前記IHヒータ、前記定着ベルト、前記感温磁性部材が配置されており、
前記IHヒータと前記定着ベルトとが対向する位置において、前記定着ベルトと前記感温磁性部材とは接触し、
前記定着ベルトは、基材層、基材層の上に積層された導電発熱層、トナー像の定着性を向上させる弾性層、最上層に被覆された表面離型層からなる多層構造のベルト部材である、
定着ユニット。」

2 引用文献2
(1)当審拒絶理由において、請求項1,2,4に係る発明の進歩性を否定する副引用文献として引用された引用文献2には、次の記載がある(下線は当審で付した。)。
ア 「【請求項1】
加熱ローラと,加圧ローラと,前記加熱ローラに磁束を印加する励磁コイルとを有する定着装置において,
前記加熱ローラが,前記励磁コイルに近い方から順に,第1導電層と第2導電層と第3導電層とを有し,
前記第2導電層が磁性体で構成され,
前記第1導電層の厚さが,0.01?0.05mmの範囲内であり,
前記第2導電層の厚さが,0.05?0.20mmの範囲内であり,
前記第3導電層の厚さが,0.04?10.0mmの範囲内であることを特徴とする定着装置。」
イ 「【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1つに記載の定着装置において,
前記第2導電層のキュリー温度が,前記第1導電層のキュリー温度よりも低いことを特徴とする誘導加熱装置。」
ウ 「【0008】
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,小サイズの用紙を連続通紙した場合でも,部分的な過昇温が発生せず,安定した定着性能を有するとともに発熱効率のよい定着装置及び画像形成装置を提供することにある。」
エ 「【0024】
加熱ローラ11は,図3に示すように,内側(図中下側)から芯金21,断熱層22,発熱制御層23,主発熱体層24,弾性層25,離型層26の6層構成になっている。このうち,芯金21と断熱層22とは互いに接着されてローラ状となっている。これらを合わせて定着ローラ27という。また,発熱制御層23,主発熱体層24,弾性層25,離型層26は互いに接着されて,無端ベルト状になっている。これらを合わせて定着ベルト28という。定着ローラ27と定着ベルト28とは接着されていない。定着ベルト28の内部に定着ローラ27が挿入されている。」
オ 「【0025】
本形態では,定着ベルト28と定着ローラ27との間には,ほとんど隙間はない。そのため,実質的に,定着ベルト28と定着ローラ27とを合わせた全体で1つのローラ(加熱ローラ11)と見ることができる。ここで,主発熱体層24が第1導電層,発熱制御層23が第2導電層にそれぞれ相当する。」
カ 「【0031】
さらに本形態では,発熱制御層23として定着温度と同程度の温度にキュリー点を有する材質を用いる。例えば,目標とする定着温度が約180℃(170?190℃)の場合には,キュリー温度は,150?220℃,望ましくは180?200℃の範囲内のものとする。本形態では,キュリー温度が190℃のパーマロイを使用している。パーマロイでは,ニッケルの比率が高いほどキュリー温度の高いものを得ることができるので,パーマロイの成分比によって発熱制御層23のキュリー温度を調整する。また,クロム,コバルト,モリブデン等を含む合金とすることによってもキュリー温度の調整が可能である。」
キ 「【0032】
主発熱体層24は,磁束発生部13によって発生される磁束を受けて誘導電流が誘起され,それによって発熱する層である。そのため,比透磁率が高く,芯金21よりも適度に体積抵抗率が大きい磁性材を用いることが好ましい。また,キュリー温度が,発熱制御層23のキュリー温度以上である材質が好ましい。主発熱体層24の比透磁率は,1?500,望ましくは1?200の範囲内とする。主発熱体層24の体積抵抗率は,5?115×10-8Ωmの範囲内であることが望ましい。主発熱体層24の厚さは,10?50μm,望ましくは20?50μmの範囲内とする。」
ク 「【0033】
なお本形態では,主発熱体層24の材質として,インパームを用いるとさらによい。インパームは,鉄-ニッケル合金の1種であり,パーマロイに比較して温度による透磁率の変化が小さいものである。主発熱体層24にインパームを用いれば,温度変化に応じて高周波電力の大きさを変化させる程度が小さくてすみ,電源への負担が軽いものとなる。主発熱体層24の材質としては,インパーム以外にも,例えば,ニッケル,磁性ステンレス,パーマロイ等の磁性体を使用することもできる。」
ケ 「【0043】
次に,磁束発生部13について説明する。磁束発生部13は,加熱ローラ11の外周に対面するとともに,加熱ローラ11の長手方向に沿って,加熱ローラ11に平行に配置されている。磁束発生部13は,図2に示すように,励磁コイル41と磁性体コア42とコイルボビン43とを有している。本形態ではさらに,高周波インバータ44,サーミスタ45,制御部46を有している。」
(2)引用文献2に記載された技術
ア 上記(1)エより、「発熱制御層」と「主発熱体層」とは互いに接着されているから、両者は接触していると認められる。
イ 上記(1)ケより、「磁束発生部13は,加熱ローラ11の外周に対面する」から、「加熱ローラ」は「磁束発生部」に対面すると認められる。
ウ 上記(1)イ、オより、「発熱制御層」は「主発熱体層」よりもキュリー温度が低いと認められる。
エ したがって、引用文献2には次の技術が記載されていると認められる。
「定着装置において、部分的な過昇温が発生せず安定した定着性能を有するとともに発熱効率のよいものとするために、磁束発生部に対面する加熱ローラに、インパームを用いた主発熱体層、及び、その内側に接触して前記主発熱体層よりもキュリー温度が低いパーマロイを使用した発熱制御層を設ける技術。」


第6 対比・判断

1 本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「交流磁界を生成するIHヒータ」は、本願発明の「磁界を発生させる磁界発生手段」に相当する。
イ 引用発明1の「定着ベルト」は、本願発明の「回転体」に相当する。
ウ 引用発明1の「材質としてFe-Ni合金(パーマロイ)等の二元系整磁鋼やFe-Ni-Cr合金等の三元系の整磁鋼等が用いられた感温磁性部材」は、本願発明の「第1の感温磁性合金」に相当する。
エ 引用発明1において、「外側から順に、前記IHヒータ、前記定着ベルト、前記感温磁性部材が配置されて」いるから、「定着ベルト」は「IHヒータ」の内側に配置され、「感温磁性部材」は「定着ベルト」の内側に配置されているといえる。してみると、引用発明1は、本願発明の「回転体」が「磁界発生手段の内側に配置される」及び「第1の感温磁性合金」が「回転体の内側に配置される」との要件を充足すると認められる。
オ 引用発明1の「定着ベルト」と「感温磁性部材」とは「接触」している以上、「重なり合った状態」にあると認められる。
カ 引用発明1において、「定着ベルト」は「感温磁性部材」と「別体」であることは明らかである。
キ 引用発明1の「導電発熱層」は、本願発明の「発熱層」に相当する。
ク 引用発明1の「最上層に被覆された表面離型層」は、本願発明の「外周面に形成された表面離型層」に相当する。
ケ 引用発明1の「定着ユニット」は、本願発明の「定着装置」に相当する。
コ 以上のことから、本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「磁界を発生させる磁界発生手段と、
発熱層を有し、前記磁界発生手段の内側に配置される回転体と、
前記回転体の内側に配置される第1の感温磁性合金と、を備え、
外側から順に、前記磁界発生手段、前記回転体、前記第1の感温磁性合金が配置されており、
前記磁界発生手段と前記回転体とが対向する位置において、前記回転体と前記第1の感温磁性合金とは、重なり合った状態で互いに接触し、
前記回転体は、前記第1の感温磁性合金とは別体として設けられた定着ベルトであり、
前記定着ベルトは、前記発熱層と、外周面に形成された表面離型層とを備える、
定着装置。」
【相違点1】
本願発明においては、「第1の感温磁性合金の内側に配置される第2の感温磁性合金」を備え、「前記第1の感温磁性合金と前記第2の感温磁性合金とは、重なり合った状態で互いに接触し」、「前記第1の感温磁性合金のキュリー点である第1のキュリー点は、前記第2の感温磁性合金のキュリー点である第2のキュリー点よりも高く、前記第1の感温磁性合金及び前記第2の感温磁性合金の温度が前記第2のキュリー点未満である場合には、前記第1の感温磁性合金及び前記第2の感温磁性合金が共に磁性体として機能し、前記第1の感温磁性合金及び前記第2の感温磁性合金の温度が前記第2のキュリー点以上且つ前記第1のキュリー点未満である場合には、前記第2の感温磁性合金が非磁性体として機能すると共に、前記定着ベルトと接触する前記第1の感温磁性合金が磁性体として機能し、前記第1の感温磁性合金と接触している前記第2の感温磁性合金の前記第2のキュリー点は、定着時における前記回転体の温度よりも低く、前記第2の感温磁性合金の厚さは、前記第1の感温磁性合金の厚さよりも厚い」のに対して、引用発明1では「第2の感温磁性合金」を備えていない点。
【相違点2】
本願発明においては「発熱層」が「定着ベルト」の「内周面に形成」されているのに対して、引用発明1では「基材層の上に積層」されている点。

(2)相違点についての判断
上記相違点1について検討する。
ア 上記第5 2(2)エのとおり、引用文献2には「定着装置において、部分的な過昇温が発生せず安定した定着性能を有するとともに発熱効率のよいものとするために、磁束発生部に対面する加熱ローラに、インパームを用いた主発熱体層、及び、その内側に接触して前記主発熱体層よりもキュリー温度が低いパーマロイを使用した発熱制御層を設ける技術。」が記載されていると認められる。ここで、「インパーム」及び「パーマロイ」がいずれも「感温磁性合金」であることは技術常識であり、引用文献2に記載された技術の「主発熱体層」及び「発熱制御層」は、それぞれ、本願発明の「第1の感温磁性合金」及び「第2の感温磁性合金」に相当する。してみると、引用文献2は、相違点1に係る本願発明の構成のうち「第1の感温磁性合金の内側に配置される第2の感温磁性合金」を備え「前記第1の感温磁性合金と前記第2の感温磁性合金とは、重なり合った状態で互いに接触」するとの発明特定事項を開示している。
そして、引用発明1と引用文献2に記載された技術は、いずれも、磁界発生手段からの磁界を受けて発熱する感温磁性合金を備える定着装置の技術である点で共通するとともに、発熱効率をよくしつつ耐熱温度範囲内とする(すなわち、過昇温を防止する)という共通の課題を有する。
よって、引用発明1において、引用文献2に記載された技術を適用して、「感温磁性部材」(本願発明の「第1の感温磁性合金」に相当。)の内側に接触して、これよりキュリー点の低い「第2の感温磁性合金」を設けることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
イ 次に、引用発明1において引用文献2に記載された技術を適用して「第2の感温磁性合金」を設けるに際して、「第2の感温磁性合金」の厚さを「第1の感温磁性合金」の厚さよりも厚くすることが、当業者にとって容易に想到し得たことであるか否かについて検討する。
引用文献2の段落【0068】には「図10は,第1導電層の厚さと過昇温部の発熱率との関係である。これより,第1導電層の厚さは,50μm以下がよい。」と記載されるとともに、図10より、「過昇温部の発熱率」を50%以下とするために、「第1導電層厚み」を50μmより少し厚い厚さ以下とすべきであることが看て取れる。ここで、引用文献2に記載の「第1導電層」は本願発明の「第1の感温磁性合金」に相当する。

そして、引用文献2の段落【0069】には「図13は,第2導電層の厚さと過昇温部の発熱率との関係である。これより,第2導電層の厚さは,50μm以上がよい。」と記載されるとともに、図13より、「過昇温部の発熱率」を50%以下とするために、「第2導電層厚み」を50μm以上とすべきであることが看て取れる。ここで、引用文献2に記載の「第2導電層」は本願発明の「第2の感温磁性合金」に相当する。

このように、引用文献2に記載された技術は、「第1導電層の厚さと過昇温部の発熱率との関係」に基づいて「第1導電層の厚さ」を設定し、「第2導電層の厚さと過昇温部の発熱率との関係」に基づいて「第2導電層の厚さ」を設定するものであって、「第1導電層の厚さ」と「第2導電層の厚さ」とは互いに独立して設定されるものである。そして、引用文献2には「第1導電層の厚さ」と「第2導電層の厚さ」との関係について言及がないとともに、引用文献2に記載された技術が「第1導電層の厚さ」及び「第2導電層の厚さ」をともに50μmとすることを含んでいることからも、引用文献2に「第2導電層の厚さ」を「第1導電層の厚さ」よりも厚くするという技術的思想は見出せない。
よって、引用発明1において、引用文献2に記載された技術を適用して「第2の感温磁性合金」を設ける際に、「第2の感温磁性合金」の厚さを「第1の感温磁性合金」の厚さよりも厚くするという積極的な動機付けはない。
また、引用文献2の段落【0024】には「発熱制御層23,主発熱体層24,弾性層25,離型層26は互いに接着されて,無端ベルト状になっている。」と記載され、段落【0049】には「加熱ローラ11は,加圧ローラ12との摩擦力によって,図中反時計回り方向に従動回転される。」と記載されており、引用文献2に記載の「第1導電層」及び「第2導電層」は「無端ベルト状」であって「従動回転される」ものであると認められるところ、このような引用文献2に記載の「第1導電層」及び「第2導電層」と、引用発明1の「円弧形状」であって「定着ベルト」の内側に配置された「感温磁性部材」(上記第5 1(1)ウを参照。)とでは、構造の違いにより求められる物理的特性(弾性等)が異なることは明らかであるから、厚さが物理的特性に関係することは自明であることに鑑みると、引用文献2に記載された技術の「第1導電層の厚さ」及び「第2導電層の厚さ」の設定をそのまま、引用発明1に適用することはできない。
してみると、「前記第2の感温磁性合金の厚さは、前記第1の感温磁性合金の厚さよりも厚い」という構成を含む、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。そして、本願の発明の詳細な説明の段落【0049】に記載されるとおり、本願発明1は、これにより「温度が第1のキュリー点T1に近づいたときに、非磁性体である第2の感温磁性合金55が昇温をより確実に抑えるので、過昇温を一層確実に抑えることができる」という優れた効果を奏するものである。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2,3について
本願発明2,3も、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第7 特許法第36条に関する当審拒絶理由について

1 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について、当審では、下記の拒絶理由を通知した。

請求項1には「第2の感温磁性合金のキュリー点である第2のキュリー点」について「定着時における前記回転体の温度」との関係を規定する記載がなく、請求項1に係る発明の「第2のキュリー点」には「過昇温」となるような温度も含まれる。
これに対して、発明の詳細な説明の段落【0008】には、本願発明の課題として「昇温効率を高くすること」及び「過昇温を抑えること」が記載されている。しかしながら、請求項1に係る発明において「第2のキュリー点」が「定着時における前記回転体の温度」と比べて高く「過昇温」となるような温度である場合は、「過昇温」となる温度においても「第2の感温磁性合金」が磁性体として機能して発熱するから、請求項1に係る発明は「過昇温を抑える」という本願発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていると認められる。
上述の点について、請求項1を引用する請求項3及び4においても同様である。
したがって、請求項1,3,4の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)の拒絶理由についての判断

本件補正により、請求項1に係る発明に「前記第1の感温磁性合金と接触している前記第2の感温磁性合金の前記第2のキュリー点は、定着時における前記回転体の温度よりも低く、前記第2の感温磁性合金の厚さは、前記第1の感温磁性合金の厚さよりも厚い」との発明特定事項が付加された結果、請求項1に係る発明において「第2のキュリー点」が「定着時における前記回転体の温度」と比べて低いことが特定され、「過昇温」となるような温度が含まれないことが明らかとなったから、請求項1に係る上記1の拒絶理由は解消した。
そして、請求項1を引用する請求項2,3についても、同様に、上記1の拒絶理由は解消した。

3 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について、当審では、下記の拒絶理由を通知した。

請求項1には「第2の感温磁性合金のキュリー点である第2のキュリー点」について「定着時における前記回転体の温度」との関係を規定する記載がなく、請求項1に係る発明の「第2のキュリー点」には「過昇温」となるような温度も含まれる。
そして、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明において「第2のキュリー点」が「定着時における前記回転体の温度」と比べて高く「過昇温」となるような温度である場合について、当業者がどのように実施すればよいかを理解できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
また、同様に、請求項1を引用する請求項3及び4に係る発明についても、発明の詳細な説明は、当業者がどのように実施すればよいかを理解できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

4 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)の拒絶理由についての判断

本件補正により、請求項1に係る発明に「前記第1の感温磁性合金と接触している前記第2の感温磁性合金の前記第2のキュリー点は、定着時における前記回転体の温度よりも低く、前記第2の感温磁性合金の厚さは、前記第1の感温磁性合金の厚さよりも厚い」との発明特定事項が付加された結果、請求項1に係る発明において「第2のキュリー点」が「定着時における前記回転体の温度」と比べて低いことが特定され、「過昇温」となるような温度が含まれないことが明らかとなったから、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明を、当業者がどのように実施すればよいかを理解できる程度に明確かつ十分に記載したものとなった。
また、請求項1を引用する請求項2,3に係る発明についても、同様に、発明の詳細な説明は、当業者がどのように実施すればよいかを理解できる程度に明確かつ十分に記載したものとなった。
したがって、上記3の拒絶理由は解消した。


第8 原査定についての判断

1 原査定において、請求項1-4に係る発明の進歩性を否定する主引用文献として引用された引用文献Aには次の記載がある(下線は当審で付した。)。
「【0035】
図7はキュリー温度と各温度状態における透磁率とが異なる二種類の整磁合金層のインダクタンス透磁率の温度依存性を示すグラフである。略190[℃]のキュリー温度を持つTc=Aの材料と、略240[℃]のキュリー温度を持つTc=Bの材料データである。
第一整磁層31にTc=Aの整磁合金を使用し、第二整磁層32にTc=Bの整磁合金を使用している。」
「【0037】
図9は、発熱部材30の温度(Th)が、第一整磁層31のキュリー温度(A)よりも高く、第二整磁層32のキュリー温度(B)よりも低い状態の説明図である。この状態では、発熱部材30を構成する第一整磁層31の温度(Th)がキュリー温度(A)以上であるため、第一整磁層31を構成する整磁合金が非磁性体となり、誘導磁束が第一整磁層31を透過して第二整磁層32に届いた状態となる。一方、発熱部材30を構成する第二整磁層32の温度(Th)がキュリー温度(B)未満のため、第二整磁層32を構成する整磁合金が磁性体のままである。すなわち第一整磁層31は非磁性体となり、第二整磁層32は磁性体のままである。このため、第一整磁層31は磁束を透過させず、検出されるインダクタンス透磁率は第二整磁層32を構成する整磁合金の透磁率が支配的となり、本実施形態の定着装置20では、1500程度の値を示す。」
「【0039】
このような関係の本実施形態の定着装置20が備える発熱部材30の透磁率の温度依存性を図11のグラフに示す。
二層構造の発熱部材30は、図11に示すように、透磁率として2000から1500への変局点が190[℃]の状態を示し、1500から500への変局点を監視すれば240[℃]の過昇温が検知可能となる。
したがって、整磁層をなす材料のキュリー温度が、この種の定着装置において使用可能上限温度である240[℃]になるように形成した磁性体で構成しておけば、定着ローラ21の異常加熱を検知可能となり、高価な温度センサを用いることなく異常状態のみを検知可能となる。
また、第一整磁層31のキュリー温度(A)を所望の温度(例えば定着下限温度140[℃])にすれば、二種類以上の温度監視が可能となる。」
また、引用文献Aの図1より、「第一整磁層31」の内側に「第二整磁層32」が配置されることが看て取れる。

2 上記1より、引用文献Aには、「二種類以上の温度監視」を可能にするために、「第一整磁層31」の内側の「第二整磁層32のキュリー温度(B)」を「第一整磁層31のキュリー温度(A)」よりも高くすることが記載されていると認められる。

3 そして、仮に、「第一整磁層31」の内側の「第二整磁層32のキュリー温度(B)」を「第一整磁層31のキュリー温度(A)」よりも低くすると、常に「第一整磁層31を構成する整磁合金の透磁率が支配的」になって、「二種類以上の温度監視」を行うことが困難になるといえるから、引用文献Aに記載され発明において、引用文献Bに記載された技術(上記第5 2(2)エを参照。)を適用して、「第一整磁層31」の内側の「第二整磁層32のキュリー温度(B)」を「第一整磁層31のキュリー温度(A)」よりも低くすることには阻害要因があるといえる。

4 したがって、本願発明1-3は、当業者であっても、引用文献Aに記載された発明及び引用文献Bに記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第9 むすび

以上のとおり、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-12-17 
出願番号 特願2014-215495(P2014-215495)
審決分類 P 1 8・ 536- WY (G03G)
P 1 8・ 537- WY (G03G)
P 1 8・ 121- WY (G03G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 三橋 健二  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 畑井 順一
後藤 昌夫
発明の名称 定着装置及び画像形成装置  
代理人 阿部 寛  
代理人 山口 和弘  
代理人 城戸 博兒  
代理人 古谷 聡  
代理人 西山 清春  
代理人 細井 玲  
代理人 大阪 弘一  
代理人 大西 昭広  
代理人 湯本 譲司  
代理人 池田 成人  

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