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審決分類 審判 一部無効 1項3号刊行物記載  G06K
管理番号 1347204
審判番号 無効2017-800023  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-02-27 
確定日 2019-01-04 
事件の表示 上記当事者間の特許第3910705号発明「二次元コード、ステルスコード、情報コードの読み取り装置及びステルスコードの読み取り装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3910705号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
本件の特許第3910705号についての手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成 9年11月28日 出願(特願平9-328040号)
平成19年 2月 2日 設定登録
平成29年 2月27日 本件無効審判請求
平成29年 6月 1日 審判事件答弁書
平成29年 7月27日 審理事項通知
平成29年 9月25日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成29年 9月26日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成29年10月10日 口頭審理
平成29年11月28日 審決の予告

第2.本件特許発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
反射又は放射の波長特性が異なる3種以上の表示領域を二次元的な配列で並べて形成され、この配列における表示領域の波長特性の組み合せを情報表示の要素としたことを特徴とする二次元コード。」


第3.請求及び主張の概要
1.請求人
(1)請求の趣旨
特許第3910705号発明の明細書の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする、との審決を求める。

(2)無効理由
本件特許の請求項1に係る発明は、出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるため、その特許は同法第123条第1項第2号により、無効とされるべきである。

(3)証拠方法
甲第1号証:実用新案登録第3013294号公報
甲第2号証:特開平5-233898号公報
甲第3号証:特開平5-258095号公報
甲第4号証:特開平8-329172号公報

2.被請求人
(1)答弁の趣旨
本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人らの負担とする、との審決を求める。

(2)証拠方法
乙第1号証:「知っておきたいバーコードの知識 新改訂版」p3-5,60,61、日本工業出版株式会社 バーコード編集部、平成9年3月31日発行


第4.当審の判断
当審は、請求人らが主張する無効理由のうち、本件特許発明が甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないとする無効理由については成り立たないと判断する。
そして、本件特許発明が甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないとする無効理由については成り立つと判断する。
理由は、以下のとおりである。

1.甲号証に記載された発明
(1)甲第1号証について
本件特許出願の日前に頒布された刊行物である甲第1号証(実用新案登録第3013294号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は当審において付加した。以下、同じ。)

(ア)「【請求項1】 表面の所定領域に情報をコードで印刷して記録したプリペイドカードにおいて、前記コードは4種類以上の色からの1色を有するエリアを組合せてなる集合体であることを特徴とするプリペイドカード。」

(イ)「【0002】
【従来の技術】
近年、表面に情報をコードで印刷して記録する印刷記録のプリペイドカードがよく提案されていた。コードとしては、黒バーと白バー(又はスペース)の組み合わせを一方向に並べてなるバーコードが周知である。また、黒マークと白マークを二次元的に配列し、より多くの情報を持てるようにしたものも提案されている。
【0003】
【考案が解決しようとする課題】
従来のコードは、基本的に黒マークと白マークの配列により所定の情報を持つようにしたものであり、黒と白からなる2値コードある。従って、占有面積の割りに少ない情報しか持てないため、カード表面の情報記録量が制限された。また、バー(又はマーク)をかなり精密に印刷する必要があり、専用の印刷装置を用いなければならない。
【0004】
本考案は、このような不都合を解消し、占有面積に比べてより多くの情報を持てるプリペイドカードを提示することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本考案では、表面の所定領域に情報をコードで印刷して記録したプリペイドカードにおいて、前記コードは4種類以上の色からの1色を有するエリアを組合せてなる集合体であることを特徴とするプリペイドカードを提供する。
【0006】
【作用】
上記本考案のプリペイドカードにおいて、情報を記録するため用いられるコードは、4種類以上の色からの1色を有するエリアを組合せてなる集合体であり、前記一のエリアは4種類以上のパターンが出来る。従って、カード表面の所定の情報領域に、より多くの情報を持たせることができる。
【0007】
【実施例】
図1によると、本考案に係るプリペイドカードCは、表面1に、印刷情報記録領域3を形成し、この記録領域3に図2に示すコード2を用いて、情報データ20が印刷して形成された。
【0008】
図2(a)によると、コード2は方形のエリア21と22を間隔を取らず、一字状に組合せてなるものであり、エリア21又は22は図2(b)に示すようなそれぞれ白、青、赤、黒色のエリアW、S、R、Bのいずれかである。
図2(c)はコード2のパターン図であって、6種類のパターンが示されているが、実際に、コード2は4×4=16種類のパターンが出来る。したがって、同様な記録領域3に、コード2を用いて形成される情報の量は従来の黒白マーク配列コード及びバーコードの情報の量より多くなる。
【0009】
【考案の効果】
以上の説明から容易に理解できるように、本考案プリペイドカードは、印刷密度は従来通りでも、情報の密度を高めることができ、より多くの情報を持たせることができる。」

(ウ)



上記各記載及び図面並びにこの技術分野の技術常識を考慮すると、甲第1号証には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「プリペイドカードにおいて、情報を記録するため用いられるコードであって、方形のエリア21と22を間隔を取らず、一字状に組合せてなるコード2であり、
エリア21又は22をそれぞれ白、青、赤、黒色のエリアW、S、R、Bのいずれかとすることによって、これら4色の組み合わせで4×4=16種類のパターンが出来るコード2。」


(2)甲第2号証について
本件特許出願の日前に頒布された刊行物である甲第2号証(特開平5-233898号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】 記録面に所定の着色領域が形成され、この領域に照射された光の反射光により記録情報の内容が判別される光学式カードにおいて、
上記領域を、一の波長の光に対する反射特性がそれぞれ異なる少なくとも三つの反射特性のうちの一の反射特性を有するようにしたことを特徴とする光学式カード。
【請求項2】 複数の単位領域に区画化された情報記録領域を有し、それぞれの単位領域が少なくとも三色のうちの一色に着色されていることを特徴とする光学式カード。」

(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、カルラコードなどマーク状に情報が記録された光学式カードおよびその読取装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】カルラコードは、図4に示すように、携帯用光学式カード1などの表面の所定領域を白地あるいはこれに近い色に形成した情報記録領域2を、縦方向に等間隔で複数の単位情報記録領域2-1,2-2,2-3,…,2-nに区分けするとともに、これら単位情報記録領域2-1,2-2,2-3,…,2-nをそれぞれ2×2の四つの単位領域a,b,c,dに区分けし、単位領域a,b,c,dのうちの任意の領域に光の反射率の低い黒色のマークMK(マーク有り)を付けあるいは黒色マークMKを付けない白色部(マーク無し)を設ける、これらの組合せでデータの記録または識別を行うものである。
【0003】カルラコードの各単位情報記録領域2-1,2-2,2-3,…,2-nにおける情報量を考察すると、隣接する四つの単位領域a,b,c,d毎に「マーク無し」,「マーク有り」の二つの状態が存在するため、2^(4) =16種類の情報の記録が可能である。」

(ウ)「【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来のカルラコードは、各単位情報記録領域2-1?2-nの一の単位領域に対しては、黒色の一種類のマークMKしか記録せず、読取装置もこれに応じて一種類の光によりマークMKがあるか否かを検出するように構成しているため、記録密度に制約があり、多くの情報を記録する場合などは、情報記録領域2を拡大しなければならない。これでは、携帯用のカードのように大きさに制約があるものに対してカルラコードで情報を記録する場合、記録情報にも制約を受け、光学式カードの汎用性にも問題を生じてしまう。」

(エ)「【0009】本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、限られた広さの中で実質的に記録密度を高めた光学式カードおよびその記録情報を高い信頼性かつ高い再現性を維持し、かつ容易に読み取れる読取装置を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明では、記録面に所定の着色領域が形成され、この領域に照射された光の反射光により記録情報の内容が判別される光学式カードにおいて、上記領域を、一の波長の光に対する反射特性がそれぞれ異なる少なくとも三つの反射特性のうちの一の反射特性を有するようにした。
【0011】また、本発明のカードは、複数の単位領域に区画化された情報記録領域を有し、それぞれの単位領域が少なくとも三色のうちの一色に着色されている。」

(オ)「【0015】
【作用】本発明の光学式カードによれば、単位情報記録領域に記録される情報の種類が多くなり、実質的に一単位記録領域当たりの記録密度が向上する。
【0016】本発明の光学式カードによれば、単位情報記録領域が多色化されているので、記録される情報の種類が多くなり、実質的に一単位記録領域当たりの記録密度が向上する。」

(カ)「【0020】
【実施例】図1は、本発明に係る光学式カードを示す図であって、従来例を示す図2(当審注:図4の誤記と認められる。)と同一構成部分は同一符号をもって表す。すなわち、1は光学式カード、2は情報記録領域、2-1,2-2,2-3,…,2-nは単位情報記録領域、a,b,c,dは単位情報記録領域2-1,2-2,2-3,…,2-nをそれぞれ2×2のマトリクス状に区分けした単位領域、MK1は第1のマーク、MK2は第2のマーク、MK3は第3のマークをそれぞれ示している。
【0021】第1のマークMK1は、たとえば赤色の塗料インクを所定の単位領域a?dに対して印刷することにより形成されている。この赤色の第1のマークMK1は、たとえば波長6500オングストローム(Å)近傍の波長帯の光に対する反射率が高く、他の波長帯の光に対する反射率が低い、すなわち吸収率が高い。
【0022】第2のマークMK2は、たとえば緑色の塗料インクを所定の単位領域a?dに対して印刷することにより形成されている。この緑色の第2のマークMK2は、たとえば波長5200Å近傍の波長帯の光に対する反射率が高く、他の波長帯の光に対する反射率が低い、すなわち吸収率が高い。【0023】第3のマークMK3は、たとえば赤色と緑色との混合である黄色の塗料インクを所定の単位領域a?dに対して印刷することにより形成されている。この黄色の第3のマークMK3は、たとえば波長6500Å近傍の波長帯の光および波長5200Å近傍の波長帯の光に対して、ともに反射率が低い、すなわち両光に対して吸収率が高い。
【0024】このように、本実施例の光学式カード1は、従来のカードのようにマークMKとして黒色の一色ではなく、赤色と緑色と黄色の三色を用いて、いわゆる多色刷りのパターンを有するカードとして構成している。この構成により、一の単位領域に対して2値の情報ではなく、3値の情報を与えることができ、隣接する四つの単位領域から構成される一単位情報記録領域に対して4^(4) =256種類の情報の記録が可能となっている。」

(キ)


(ク)



・上記(イ)、及び図4の記載によれば、従来のカルラコードは、携帯用光学式カード1などの表面の所定領域を白地に形成した情報記録領域2を、縦方向に等間隔で複数の単位情報記録領域2-1、2-2、2-3、…、2-nに区分けし、単位情報記録領域2-1、2-2、2-3、…、2-nそれぞれを2×2の四つの単位領域a、b、c、dに区分けし、単位領域a、b、c、dのうちの任意の単位領域に、光の反射率の低い黒色のマークMK(マーク有り)を付けあるいは黒色マークMKを付けない白色部(マーク無し)を設け、これらの組合せでデータの記録または識別を行うものであって、各単位情報記録領域は、隣接する四つの単位領域a、b、c、d毎に「マーク無し」、「マーク有り」の二つの状態が存在するため、2^(4) =16種類の情報の記録が可能なものである。
・上記(カ)の段落【0020】-【0023】には、光学式カードの、従来と同じ単位情報記録領域2-1を2×2のマトリクス状に区分けした単位領域a、b、c、dに対して、赤色の第1のマークMK1、緑色の第2のマークMK2、黄色の第3のマークMK3のいずれかを印刷することが記載されているといえる。
さらに、上記(カ)の段落【0024】には、赤色と緑色と黄色の三色のマークを用いて、一の単位領域に対して3値の情報を与えることができ、隣接する四つの単位領域から構成される一単位情報記録領域に対して4^(4) =256種類の情報の記録が可能となっていることが記載されており、ここで、3^(4)ではなく4^(4)となっているのは、上記(イ)の従来のコードにおいては黒色マークとマークなしの白色(無色)での組み合わせで情報を識別していることを鑑みれば、赤色と緑色と黄色の三色に白色(無色)を加えた4色を、一の単位領域に対して与えているためと認められる。
してみると、甲第2号証には、従来のカルラコードの各単位情報記録領域2-1、2-2、2-3、…、2-nを、マトリクス状に2×2の四つの単位領域a、b、c、dに区分けし、該単位領域に対して、赤色の第1のマークMK1、緑色の第2のマークMK2、黄色の第3のマークMK3のいずれかを印刷し、赤色と緑色と黄色の三色に加え白色(無色)の4色で4値の情報を一の単位領域に対して与え、2×2のマトリクスを形成する隣接する四つの記録領域からなる一の単位情報記録領域2-1では4^(4) =256種類の情報の記録が可能なこと、が記載されているといえる。

上記各記載及び図面並びにこの技術分野の技術常識を考慮すると、甲第2号証には以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

「携帯用光学式カード1などの表面の所定領域を白地に形成した情報記録領域2を、縦方向に等間隔で複数の単位情報記録領域2-1、2-2、2-3、…、2-nに区分けし、単位情報記録領域2-1、2-2、2-3、…、2-nそれぞれを、マトリクス状に2×2の四つの単位領域a、b、c、dに区分けし、各単位情報記録領域は、隣接する四つの単位領域a、b、c、d毎に「マーク無し」、「マーク有り」の二つの状態を記録するカルラコードにおいて、
隣接する四つの単位領域a、b、c、dに対して、赤色の第1のマークMK1、緑色の第2のマークMK2、黄色の第3のマークMK3のいずれかを印刷し、
赤色と緑色と黄色の三色のマークに加え白色(無色)の4色で4値の情報を一の単位領域に対して与えることで、2×2のマトリクスを形成する隣接する四つの単位領域からなる一の単位情報記録領域2-1では4値の組み合わせで4^(4) =256種類の情報の記録が可能なコード。」


(3)甲第3号証について
本件特許出願の日前に頒布された刊行物である甲第3号証(特開平5-258095号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「【0012】図1に示すように、本発明の一実施例に係る光学式カードの読み取り書き込み装置20は、カード挿入口22を有する。このカード挿入口22から、例えば図2に示すような光学式カード1が挿入される。光学式カード1は、いわゆるカルラコードで情報が記録される情報記録領域2を有する。情報記録領域2は、一定の読み取り方向Aに沿って、複数の単位情報記録領域2-1,2-2,2-3,…,2-nに区分けしてあり、これら単位情報記録領域2-1,2-2,2-3,…,2-nを、それぞれ例えば2×2の四つの単位領域a,b,c,dに区分けし、単位領域a,b,c,dのうちの任意の領域に光の反射率の低い黒色マーク部MBを付け、あるいは黒色マークMBを付けない白色マーク部MWを設け、これらの組合せでデータの記録または識別を行う。黒色のマーク部MBは、例えば黒色インキを用いて所定のパターンにオフセット印刷することなどで構成される。白色マーク部MWは、カード10の表面の地色で構成しても良いが、銀色インキあるいは白色インキを用いて所定のパターンにオフセット印刷することなどで構成される。
【0013】カルラコードの各単位情報記録領域2-1,2-2,2-3,…,2-nにおける情報量を考察すると、隣接する四つの単位領域a,b,c,d毎に「黒色マーク部」,「白色マーク部」の二つの状態が存在するため、単位領域当たり2^(4)=16ビットの情報の記録が可能である。」

(イ)「【0023】なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。例えば、上述した実施例では、カルラコードを構成する単位領域a,b,c,dには、黒色マーク部MKおよび白色マーク部MBの二種類のマークを付するように構成したが、これに限定されず、三色以上のマークを付するように構成することもできる。その場合には、隣接する四つの単位領域から構成される一単位情報記録領域に対して4^(4 )=256種類の情報の記録が可能となる。ただし、この実施例の場合には、マークの色を判別する必要があることから、波長が相違する光を照射してその反射特性を検出するなどの工夫が必要となる。」

(ウ)



・上記(ア)の段落【0012】、上記(イ)、及び図2によれば、カルラコードは、情報記録領域2を、複数の単位情報記録領域2-1、2-2、2-3、…、2-nに区分けし、これら単位情報記録領域2-1、2-2、2-3、…、2-nを、それぞれ2×2の四つの単位領域a、b、c、dに区分けし、単位領域a、b、c、dのうちの任意の領域に光の反射率の低い黒色マーク部MB、あるいは黒色マークMBを付けない白色マーク部MWを設け、これらの組合せでデータの記録または識別を行う、ものであり、カルラコードの単位情報記録領域を構成する2×2の四つの単位領域a、b、c、dがマトリクス状に配置されていることが記載されている。
また、上記(イ)には、カルラコードを構成する単位領域a、b、c、dに、三色以上のマークを付するように構成することもでき、その場合は、隣接する四つの単位領域から構成される一単位情報記録領域に対して4^(4) =256種類の情報の記録が可能であることが記載されており、ここで、単位情報記録領域におけるマーク(色)の組み合わせが個々の情報を表すものであるから、これは、カルラコードといえる。

上記各記載及び図面並びにこの技術分野の技術常識を考慮すると、甲第3号証には以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。

「情報記録領域2を、複数の単位情報記録領域2-1、2-2、2-3、…、2-nに区分けし、これら単位情報記録領域2-1、2-2、2-3、…、2-nを、それぞれ2×2のマトリクス状に四つの単位領域a、b、c、dに区分けし、隣接する四つの単位領域a、b、c、dの任意の領域に「黒色マーク」、「白色マーク」を付け、これらの組合せでデータの記録を行うカルラコードにおいて、
単位領域a、b、c、dに三色以上のマークを付するように構成することで、隣接する四つの単位領域から構成される一単位情報記録領域に対して4^(4) =256種類の情報の記録が可能なカルラコード。」


(4)甲第4号証について
本件特許出願の日前に頒布された刊行物である甲第4号証(特開平8-329172号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、平面状の記録面に、記録すべきデジタル情報を2次元パターンとして記録するデジタル情報記録方法に関する。また、そのようなデジタル情報記録方法によって記録されたデジタル情報を解読するのに適したデジタル情報解読装置に関する。
【0002】
【従来の技術】最近、紙などの平面状の記録面内に設けられた情報記録領域に、ビットに対応する行列状の桝目を仮想的に設定し、上記各桝目に0と1のデータを表す白または黒を付して、記録すべきデジタル情報を2次元パターンとして表現する記録方式が盛んに開発されている。
【0003】本出願人は先に、図7に示すように、記録面20内に設けられた情報記録領域23の内部に位置する枡目の読み取り誤差を少なくするために、情報記録領域23の内部に、枡目の位置を示すための特定パターン22
を配置する方式を提案した(特願平6-325275号)。

・・・中略・・・

【0007】特定パターン22を設けた情報記録領域23に記録情報をマッピングする仕方は図11に示すようなものである。図11は、図7に示した情報記録領域23の一部に相当する横35×縦20の枡目の部分23Aを示している。この情報記録領域23Aには、6個(横方向3個×縦方向2個)の特定パターン22が、横15枡目おき、かつ縦15枡目おきに配置されている。情報記録領域23Aの枡目700個のうち特定パターン22に用いられる枡目の数は150個であり、残り550個の枡目21が本来の記録情報を表すために用いられている。本来の記録情報を表す枡目21にはアドレス番地1,2,…,550(簡単のため一部の番地のみ示す)が付されている。アドレス番地は、左上隅の特定パターン22に接する第1行の左端の枡目から右へ向かって1番地から10番地、さらに最上段中央の特定パターン22を越えて11番地から20番地となっている。第2行?第5行まで同様に番地付けがなされ、第5行の右端の特定パターンに接する枡目が100番地となっている。第6行?第15行までは、各行左端の枡目から右へ向かって1ずつ番地が増加している。第16行から第20行までは、第1行?第5行までと同様に、中央の特定パターン22を越えて番地付けがなされている。このようにして、行の中央に特定パターン22が配置されているときはその特定パターン22を越えて番地付けがなされている。アドレス番地1の枡目に記録情報の1番目のビット情報が対応し、ビット情報の値が“1”の場合は黒、“0”の場合には白がその枡目に付される。以下同様に記録情報が記録され、この結果、情報記録領域23Aの550個の枡目21に550ビットのデジタル情報がマッピングされ得る。」

(イ)「【0014】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、この方式では、情報記録領域23内で、本来の記録情報を表す領域21の隙間に特定パターン22を配置しているため、記録し得る情報量が特定パターン22の分だけ減少するという問題がある。図11を例にとれば、本来の記録情報を表す枡目として、6?15行目では1行当たり35桝目を使用できるが、1?5行目および16?20行目には特定パターン22が配置されているため1行当たり20桝目しか使用できない。また、このように特定パターン22を避けて変則的に本来の情報が記録されているため、読み取り時に行ごとに処理を変えなければならない上、行列を利用した誤り訂正方式やインターリーブ方式を適用しにくいという不便さがある。
【0015】そこで、この発明の目的は、情報記録領域の内部に、枡目の位置を示すための特定パターンを配置する場合に、記録し得る情報量を減少させることなく、また読み取り時の不便さを解消できるデジタル情報記録方法を提供することにある。また、そのようなデジタル情報記録方法によって記録されたデジタル情報を解読するのに適したデジタル情報解読装置を提供することにある。」

(ウ)「【0041】このデジタル情報記録方法では、図1(a)に示すように、記録面20内に設けられた正方形の情報記録領域23に、行列状に複数隙間なく並ぶ正方形の枡目を仮想的に設定する。この例では、情報記録領域23は、簡単のため縦11個×横11個の枡目で構成されるものとしているが、さらに多くの枡目で構成されたものであっても良い。
【0042】図1(a)に示すように、記録すべきデジタル情報に対応して情報記録領域23の各枡目に0又は1を割り当ててなる第1次パターン30を設定する。なお、図1(a),(b)では便宜上、値0をとる枡目を白、値1をとる枡目をハッチングで表している。
【0043】図1(b)に示すように、上記記録面20内での位置を示すための位置情報パターンとして特定パターン22を設定する。この特定パターン22は、値1が割り当ててられた1個の枡目からなる中心部41と、その周囲を環状に取り囲む値0が割り当てられた8個の枡目からなる第1環状部42と、さらにその周囲を環状に取り囲む値1が割り当てられ16個の枡目からなる第2環状部43とで構成されている。全体として5行×5列の合計25個の枡目を含む正方形のブロックとなっている。この例では、特定パターン22を情報記録領域23の中央に配置する。
【0044】図1(c)に示すように、第1次パターン30の特定の位置に特定パターン22を枡目単位で対応させて重ねる。この例では、特定パターン22を図1(b)で情報記録領域23の中央に配置したことに対応して、第1次パターン30の中央の位置に重ねる。そして、第1次パターン30のうち特定パターン22と重ならない位置の枡目に、第1次パターン30のその位置の枡目がとる値に応じて第1のマークM_(1)としての色C_(1)、第2のマークM_(2)としての色C_(2)を付与する。また、第1次パターン30のうち特定パターン22の値0をとる枡目(第1環状部42の枡目)と重なる位置の枡目にも、第1次パターン30のその位置の枡目がとる値に応じて第1のマークM_(1)としての色C_(1)、第2のマークM_(2)としての色C_(2)を付与する。一方、第1次パターン30のうち特定パターン22の値1をとる枡目(中心部41及び第2環状部43の枡目)と重なる位置の枡目に、第1次パターン30のその位置の枡目がとる値に応じて、第1及び第2のマークC_(1),C_(2)と異なる第3のマークM_(3)としての色C_(3)又は第4のマークM_(4)としての色C_(4)を付与する。このようにして第2次パターン31を作成する。
【0045】第1次パターン30の枡目がとる値と、特定パターン22の枡目がとる値とから、第2次パターン31の枡目に付与されるマークを決定する仕方は、表1に示す通りである。
【表1】


このようにして第1次パターン30と特定パターン22とから第2次パターン31を作成し、この第2次パターン31を情報記録領域23に実際に表現する。特に、図7に示したように情報記録領域が大面積である場合には、特定パターン22を所定の間隔で縦横に複数配置し、各特定パターン22の位置で表1に示したルールに従って処理を行って第2次パターンを作成するのが好ましい。
【0046】このようにして記録を行った場合、本来記録すべきデジタル情報を、情報記録領域23の全域にわたって記録することができる。したがって、記録し得る情報量が減少するのを防止でき、本出願人が先に提案した方式(特願平6-325275号)における読み取り時の不便さを解消することができる。すなわち、情報記録領域23を単純な矩形状に設定し、例えば行単位で左から右、上の行から下の行へ順にマッピングを行って第1次パターン30を設定することによって、読み取り時に情報記録領域23の行ごとに同じ読取処理を行うことができる。また、行列を利用した誤り訂正方式やインターリーブ方式を容易に適用することができる。」

(エ)



(オ)


(カ)



上記各記載及び図面並びにこの技術分野の技術常識を考慮すると、甲第4号証には以下の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認める。

「記録面20内に設けられた正方形であって、縦11個×横11個の枡目から構成される情報記録領域23に、記録すべきデジタル情報に対応して情報記録領域23の各枡目に0又は1を割り当ててなる第1次パターン30を設定し、
記録面20内での位置を示すための位置情報パターンとして特定パターン22を設定し、
該特定パターン22は、値1が割り当ててられた1個の枡目からなる中心部41と、その周囲を環状に取り囲む値0が割り当てられた8個の枡目からなる第1環状部42と、さらにその周囲を環状に取り囲む値1が割り当てられ16個の枡目からなる第2環状部43とで構成されており、
第1次パターン30の特定の位置に特定パターン22を枡目単位で対応させて重ね、第1次パターン30のうち特定パターン22と重ならない位置の枡目に、第1次パターン30のその位置の枡目がとる値に応じて第1のマークM_(1)としての色C_(1)、第2のマークM_(2)としての色C_(2)を付与し、第1次パターン30のうち特定パターン22の値0をとる枡目と重なる位置の枡目にも、第1次パターン30のその位置の枡目がとる値に応じて第1のマークM_(1)としての色C_(1)、第2のマークM_(2)としての色C_(2)を付与し、一方、第1次パターン30のうち特定パターン22の値1をとる枡目と重なる位置の枡目に、第1次パターン30のその位置の枡目がとる値に応じて、第1及び第2のマークC_(1)、C_(2)と異なる第3のマークM_(3)としての色C_(3)又は第4のマークM_(4)としての色C_(4)を付与した第2次パターン31。」


2.対比・判断
(1)甲1発明について
(ア)対比・判断
本件特許発明と甲1発明とを対比する。
ア.甲1発明の「方形エリア21と22」は、「白、青、赤、黒色のエリアW、S、R、Bのいずれ」かであり、異なる色では反射の波長特性は異なることから、本件特許発明の「反射又は放射の波長特性が異なる3種以上の表示領域」に相当する。

イ.甲1発明の「コード2」は、「方形のエリア21と22を間隔を取らず、一字状に組合せてなる」ものであり、一次元的ではあるが配列されており、また、「4色の組み合わせで4×4=16種類のパターンが出来る」ものであり、16種類の情報の表示が可能なものと認められることから、甲1発明の「コード2」と、本件特許発明の「反射又は放射の波長特性が異なる3種以上の表示領域を二次元的な配列で並べて形成され、この配列における表示領域の波長特性の組み合せを情報表示の要素とした二次元コード」は、「反射又は放射の波長特性が異なる3種以上の表示領域を配列して並べて形成され、この配列における表示領域の波長特性の組み合せを情報表示の要素としたコード」の点では共通する。

したがって、本件特許発明と甲1発明は以下の点で一致する。

(一致点)
「反射又は放射の波長特性が異なる3種以上の表示領域を配列して並べて形成され、この配列における表示領域の波長特性の組み合せを情報表示の要素としたコード。」

ここで、「二次元コード」とは、本件特許の明細書の段落【0048】にも「二次元コードは二次元に配列した表示領域(黒又は白で塗り分けられる最少表示単位)の組み合せにより情報を表示するもので、PDF417、カルラコード等が知られている。この二次元コードにおいて、各表示領域を、反射又は放射の波長特性が異なる3種以上の表示領域によって形成し、この二次元配列における表示領域の波長特性の組み合せを情報表示の要素とする。」と記載されるように、異なる状態(例えば、白と黒)を取り得る表示領域を二次元に配列し、この一つの二次元配列における各表示領域の状態の違いによる表示領域の組み合わせで、異なる複数の情報を表示するものと認められる。
しかしながら、甲1発明は「コード」が、「方形エリア21と22を間隔を取らず、一字状に組合せてなるもの」であり、本件特許発明の「表示領域を二次元的な配列で並べて形成され」た「二次元コード」の構成を有するものとは認められない。

したがって、本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明に該当しないから、特許法第29条第1項第3号の規定により、特許を受けることができないとはいえない。

(イ)請求人の主張
請求人は、甲第1号証が、本件特許発明の「表示領域を二次元的な配列で並べて形成され」た「二次元コード」の構成を有することについて以下のように主張している。
(a)印刷情報記録領域3を構成する各エリアには、白、青、赤、黒色のいずれか一つの色が付与され、また、隣り合って配置されたエリアのうち2つが、コード2を構成し、印刷情報記録領域3は、情報データ20を形成する情報表示の要素として、コード2のエリアの組合せを用いている(請求書8頁下から1行-9頁13行)。
甲1発明は、「エリア」、すなわち、表示領域を、「水平方向及び垂直方向の配列で並べて形成」し、「エリア(表示領域)の色の組み合せを情報表示の要素」とした「コード」であるため、水平方向及び垂直方向の二次元に配列した表示領域の組合せにより情報を表示するものであるから、本件特許発明の「二次元コード」に相当する(請求書23頁4-14行、陳述要領書12頁11-22行)。
甲第1号証は、【考案の詳細な説明】の段落【0002】、【0003】に記載されるように、従来技術である黒及び白色から成る二次元コードの有する専有面積の割りに少ない情報しか待てず、カード表面の情報記録量が制限される等の問題を解消し、占有面積に比べてより多くの情報を持てるプリペイドカードを提供することを目的とし、これを解決するものであるから、甲1発明を二次元コードに関する発明であると解すること(さらには、本件特許発明の構成要件「表示領域を二次元的な配列で並べて形成され」の構成を有するものであり、また、本件特許発明の構成要件「二次元」コードに相当するものであると解すること)は、極めて妥当である(陳述要領書12頁23行-13頁21行)。

しかしながら、上述したように本件特許発明の「二次元コード」とは、本件特許の明細書の段落【0048】にも記載されるように、異なる状態を取り得る表示領域を二次元に配列し、この一つの二次元配列における各表示領域の状態の違いによる表示領域の組み合わせで、異なる複数の情報を表示するものと認められる。
そして、甲第1号証には、「エリア」、すなわち、表示領域を「水平方向及び垂直方向の配列で並べて形成」することは記載されているといえるが、甲第1号証では「一字状に組合せてなる」「方形エリア21と22」の色の組合せで異なる複数の情報を表示するものであって、二次元に配列される「エリア(表示領域)の色の組み合せを情報表示の要素」とするものではないことから、本件特許発明の「二次元コード」とは認められない。


(2)甲2発明について
(ア)対比
本件特許発明と甲2発明とを対比する。
ア.甲2発明の「単位領域」は、「赤色」、「緑色」、「黄色」、「白色(無色)」のいずれかの色が印刷されており、一の波長の光に対する反射特性がそれぞれ異なるから、本件特許発明の「反射又は放射の波長特性が異なる3種以上の表示領域」に相当する。

イ.甲2発明の「単位情報記録領域」それぞれは、「単位領域a、b、c、d」が「2×2のマトリクス」に配置されたものであり、「2×2のマトリクス」は二次元的な配列であるから、「単位領域」を「二次元的な配列で並べて形成」したものと認められる。
さらに、「単位情報記録領域」を構成する各「単位領域」には、「赤色と緑色と黄色の三色のマークに加え白色(無色)の4色」のうちの一つの色が与えられ、「2×2のマトリクス」における「単位領域」の「色」の組み合わせで「4^(4) =256種類」の「情報」の区別ができ、「256種類」の「情報」の表示が可能なものであるから、甲2発明において「単位情報記録領域」の「単位領域」の「色」の組み合わせにより情報を記録することは、本件特許発明の「この配列における表示領域の波長特性の組み合せを情報表示の要素としたこと」に相当する。

ウ.そして、甲2発明の「コード」は、複数の「単位領域」を「2×2のマトリクス」に二次元的配置したものであり、「単位領域」の「色」の組み合わせにより情報を記録するものであるから、二次元のコードであるといえるから、本件特許発明の「二次元コード」に相当する。

よって、本件特許発明と甲2発明は、

「反射又は放射の波長特性が異なる3種以上の表示領域を二次元的な配列で並べて形成され、この配列における表示領域の波長特性の組み合せを情報表示の要素とした二次元コード。」

の発明である点で一致し、両者に相違するところはない。

したがって、本件特許発明は、甲第2号証に記載された発明に該当するといえるから、特許法第29条第1項際3号の規定により、特許を受けることができない。


(イ)被請求人の主張
被請求人は、答弁書(10頁5行-12頁16行)において、甲2発明が本件特許発明の「反射又は放射の波長特性が異なる3種以上の表示領域を二次元的な配列で並べて形成され」(以下、「構成要件A」という。)及び「ことを特徴とする二次元コード」(以下、「構成要件C」という。)を有していないから、本件特許発明は新規性を有し、無効理由はないと主張する。
その理由としては、以下の(a)、(b)を主張している。
(a)本件特許発明の構成要件A及びCの「二次元」の意義については、縦(垂直)方向及び横(水平)方向の表示領域の組み合わせを情報表示の要素とすることを意味する(答弁書10頁14-16行)。
本件特許発明の構成要件A及びCの「二次元」とは、単に表示領域が縦(垂直)方向及び横(水平)方向に幾何学的に組み合わされていることではなく、この組み合わせにより縦(垂直)方向及び横(水平)方向の二方向に情報表示の要素を有することを意味する(陳述要領書8頁13-16行)。
これに対して、甲2発明のコードは、4つの単位領域を有する単位情報記録領域が2×2の単位領域で構成されているものの、情報記録領域は水平方向のみにしか情報表示の要素を有しない点で、「二次元」コードとはいえないもので、情報の構造という意味では一次元のコードである。甲2発明のコードの情報の読み取り単位である単位情報記録領域は幾何学的には二次元形状であるものの、複数の単位情報記録領域で形成されるコード自体は、複数の単位情報記録領域が水平方向に並べられ、水平方向に順次読み込まれるものであるから、このコードの情報表示の要素は水平方向のみ(一次元)であり、単位情報記録領域の垂直方向及び水平方向の表示領域の組み合わせを情報表示の要素とするものではない(答弁書10頁17行-11頁13行)。

(b)本件特許出願当時において、二次元コードにおける構造情報の重要性が既に認識されており、当業者にとっては、「コード」に関する発明において、コードとは有意情報と構造情報の双方を含む独立コードを意味するのが一般的であった。そして、構造情報となる切り出しシンボルが設けられ、コード自体で上下左右を確定できるQRコードの開発後の平成9年に出願された本件特許発明においても、本件特許発明の構成要件Cに係る「コード」は独立コードを意味するものである(答弁書8頁2-7行)。
本件特許出願当時において、発明としての「コード」が読み取り機器や媒体から独立して単独して有用であるコードを意味することは当業者における技術常識であった。したがって、このような技術常識に照らして、本件特許発明における「コード」が有意情報のみでなく読み取りに必要な取り決めをも有するコードを意味するということは自明の理なのである(陳述要領書6頁6-11行)。
それに対し、「田」の字の単位情報記録領域の連続からなる甲2発明のコードは、有意情報のみを含むものであって、それ自体で上下左右を識別することはできず、当該コードは、光学式カードの記録面に形成されて初めて上下左右が確定し読み取りが可能となるものであって、「光学式カード」に印刷されることを必須の構成とする発明であって、独立コードの発明ではない(答弁書11頁14行-12頁11行)。

(ウ)上記(a)、(b)の主張について判断する
(a)について
上記(a)の主張における「二方向に情報表示の要素を有する」に関して、被請求人は口頭審理において、これは「複数の表示領域が、縦方向及び横方向に二次元的に配列している」ということであると主張している(調書の被請求人の3)。
また、本件特許発明に係る明細書の段落【0048】には「 二次元コードは二次元に配列した表示領域(黒又は白で塗り分けられる最少表示単位)の組み合せにより情報を表示するもので、PDF417、カルラコード等が知られている。この二次元コードにおいて、各表示領域を、反射又は放射の波長特性が異なる3種以上の表示領域によって形成し、この二次元配列における表示領域の波長特性の組み合せを情報表示の要素とする。」と記載されている。
そして、甲2発明においては、1つの単位情報記録領域は、単位領域(「表示領域」に相当。)が2×2のマトリクスに配置されているから、甲2発明においても、二方向に複数の表示領域を有するものであり、二次元コードであるカルラコードと同様の構成を有するものであるから、二次元コードではないとはいえない。
したがって、上記(a)の主張は採用できない。

(b)について
被請求人が主張するように、「一次元コード」の「バーコード」及び「二次元コード」の「QRコード」には、有意情報に加え、読み取りに必要な取り決めを有すると認められるが、被請求人の答弁書7頁にも記載されるように、カルラコードには構造情報を含まないものもあること、また、平成6年に開発されたQRコードにおいて構造情報が含まれるようになったことを鑑みれば、平成6年以前の二次元コードには構造情報を含まないものもあるといえ、このような構造情報を含まない二次元コードが、本件特許の出願時である平成9年当時存在していたものと認められることから、平成9年当時においては、「二次元コード」が読み取りに必要な取り決めの情報を有するものと、有しないものが併存していたことが技術常識であると認められる。
そして、本件特許発明に係る明細書には、本件特許発明の二次元「コード」が読み取りに必要な取り決め(構造情報)を含むことは記載されておらず、本件特許発明における「コード」が有意情報のみでなく、読み取りに必要な取り決め(構造情報)をも有する「コード」を意味することが自明であるとはいえない。
したがって、本件特許発明の「二次元コード」は、甲2発明と同様なコード内に「構造情報」を含まない有意情報のみの「コード」も含むものといえる。
したがって、上記(b)の主張も採用できない。

(3)甲3発明
(ア)対比
本件特許発明と甲3発明とを対比する。
ア.甲3発明の「単位領域」は、「3色以上のマークを付」したものであり、異なる色では反射の波長特性は異なることから、本件特許発明の「反射又は放射の波長特性が異なる3種以上の表示領域」に相当する。

イ.甲3発明の「カルラコード」の「単位情報記録領域」は、「単位領域a、b、c、d」を「2×2のマトリクス状に」「区分けし」たものであり、「2×2のマトリクス」は「二次元」な「配列」であるから、「単位領域」を「二次元な配列で並べて形成」したものと認められる。
さらに、「単位情報記録領域」を構成する各「単位領域」には、「三色以上のマーク」をのうちの一つの色のマークが与えられ、「2×2のマトリクス」における「単位領域」の「色」の組み合わせとして「4^(4) =256種類」が組み合わせがあり、この組み合わせに応じて情報の記録が可能なものであるから、甲3発明の「2×2のマトリクス」における「単位領域」の「色」の組み合わせにより情報を記録することが、本件特許発明の「この配列における表示領域の波長特性の組み合せを情報表示の要素としたこと」に相当する。

ウ.そして、「カルラコード」は、複数の「単位領域」を「2×2のマトリクス」に二次元的配置したものであり、「単位領域」の「色」の組み合わせにより情報を記録するものであるから、二次元コードであるといえるから、本件特許発明の「二次元コード」に相当する。

よって、本件特許発明と甲3発明は、

「反射又は放射の波長特性が異なる3種以上の表示領域を二次元的な配列で並べて形成され、この配列における表示領域の波長特性の組み合せを情報表示の要素とした二次元コード。」

の発明である点で一致し、両者に相違するところはない。

したがって、本件特許発明は、甲第3号証に記載された発明に該当するといえるから、特許法第29条第1項第3号の規定により、特許を受けることができない。

(イ)被請求人の主張
被請求人は、答弁書(12頁17行-15頁3行)において、甲3発明が本件特許発明の構成要件A及び構成要件Cを有していないから、本件特許発明は新規性を有し、無効理由はないと主張する。
その理由としては、上記「(2)甲2発明について」の「(イ)被請求人の主張」の「(a)」及び「(b)」と同様の趣旨の主張であり、上記「(2)甲2発明について」の「(ウ)上記(a)、(b)の主張について判断する」と同様の理由で該主張は採用できない。


(4)甲4発明について
(ア)対比・判断
本件特許発明と甲4発明とを対比する。
ア.甲4発明の「第2次パターン」の「枡目」には、「色C_(1)」、「色C_(2)」、「色C_(3)」、及び「色C_(4)」のいずれかの「色」が付与されるものであり、異なる色では反射の波長特性は異なることから、甲4発明の「枡目」は、本件特許発明の「反射又は放射の波長特性が異なる3種以上の表示領域」に相当する。

イ.甲4発明の「第2次パターン」は、「縦11個×横11個の枡目からで構成される」「第1次パターン30の特定の位置に特定パターン22を枡目単位で対応させて重ね」たものであり、「第2次パターン」も「縦11個×横11個の枡目からで構成される」ものであるから、「第2次パターン」の「枡目」は「二次元的な配列で並べて形成され」ているものと認められる。
さらに、甲4発明の「第2次パターン」の「縦11個×横11個の枡目」には、「第1次パターン30」に記録された「記録すべきデジタル情報」に応じて、「色C_(1)」か「色C_(2)」、又は、「色C_(3)」か「色C_(4)」が付与されるものであり、「枡目」によって情報を表示するものであるから、「二次元」の「コード」と認められる。
しかしながら、甲4発明における「枡目」に付与される「色」は「第1次パターン30」の情報に応じて、「特定パターン22」の値0もしくはないところでは、「色C_(1)」か「色C_(2)」が、「特定パターン22」の値1のところでは、「色C_(3)」か「色C_(4)」が付与されるものであり、「色C_(1)」、「色C_(2)」、「色C_(3)」、「色C_(4)」の組合わせが情報の表示を行うものではない。

したがって、本件特許発明と甲4発明は以下の点で一致する。

(一致点)
「反射又は放射の波長特性が異なる3種以上の表示領域を二次元的な配列で並べて形成された二次元コード。」

しかしながら、甲4発明は「二次元コード」が、縦11個×横11個の枡目に付与される色C_(1)、色C_(2)、色C_(3)、色C_(4)の組合わせが情報の表示を行うものではなく、本件特許発明の「二次元的な」「配列における表示領域の波長特性の組み合せを情報表示の要素と」する構成を有するものとは認められない。

したがって、本件特許発明は、甲第4号証に記載された発明に該当しないから、特許法第29条第1項第3号の規定により、特許を受けることができないとはいえない。

(イ)請求人の主張
請求人は、甲第4号証が、本件特許発明の「二次元的な」「配列における表示領域の波長特性の組み合せを情報表示の要素と」する構成を有することについて以下のように主張している。
(a)甲第4号証の第2次パターン31の枡目の各々には、対応する第1次パターン30及び特定パターン22の枡目に応じて、「色C_(1)」、「色C_(2)」、「色C_(3)」、及び「色C_(4)」 のいずれかが付与され、第2次パターン31は、その枡目の色の組合せを記録すべきデジタル情報の情報表示の要素としている(請求書18頁下から4行-19頁13行)。
甲4発明は、「この配列における枡目の色の組み合せを情報表示の要素とした」ものであるところ、上記のとおり、枡目は、本件特許発明の「表示領域」に相当することからすれば、配列における表示領域の色の組合せを情報表示の要素としたものであるため、本件特許発明の「この配列における表示領域の波長特性の組み合せを情報表示の要素としたこと」に相当する(請求書28頁17-25行)。
本件特許発明の特許請求の範囲には、「波長特性が異なる3種以上の表示領域」について、被請求人が主張するような「有意情報を示す表示領域として」である旨の限定は一切なく、また、本件明細書においても、「有意情報を示す表示領域」に殊更に限定する趣旨の説明は見当たらず、さらに、本件発明の効果の記載を参酌しても、本件特許発明の「波長特性が異なる3種以上の表示領域」を「有意情報を示す表示領域として、波長特性が異なる表示領域が3種以上存在すること」に限定することは到底できない(陳述要領書15頁18行-16頁13行)。

しかしながら、上述した通り、甲第4号証におていは、「枡目」に付与される「色」は、「色」が「色C_(1)」であれば、その「枡目」は、「特定パターン22」の値0もしくは「特定パターン22」が重なっておらず、「第1次パターン30」の情報が「0」であること、「枡目」に付与される「色」が「色C_(2)」であれば、その「枡目」は、「特定パターン22」の値0もしくは「特定パターン22」が重なっておらず、「第1次パターン30」の情報が「1」であること、「枡目」に付与される「色」が「色C_(3)」であれば、その「枡目」は、「特定パターン22」の値1と重なっており、「第1次パターン30」の情報が「0」であること、「枡目」に付与される「色」が「色C_(4)」であれば、その「枡目」は、「特定パターン22」の値1と重なっており、「第1次パターン30」の情報が「1」であることを意味すものであって、各色自体が情報を表すものであって、枡目の色の組合せが情報を表すものではない。
したがって、本件特許発明の「表示領域」が「有意情報」を示しているか否かに関わらず、甲第4号証が、本件特許発明の「二次元的な」「配列における表示領域の波長特性の組み合せを情報表示の要素と」する構成を有するものとは認められない。


3.まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明は、甲第1号証、甲第4号証に記載された発明には該当しないが、甲第2号証、甲第3号証に記載された発明であるから、この特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものある。
したがって、無効すべきものである。


第5.むすび
以上のとおり、請求人らの主張する無効理由には理由があるから、本件特許の請求項1に係る発明は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-01 
結審通知日 2018-03-05 
審決日 2018-03-19 
出願番号 特願平9-328040
審決分類 P 1 123・ 113- Z (G06K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 梅沢 俊  
特許庁審判長 和田 志郎
特許庁審判官 山澤 宏
山田 正文
登録日 2007-02-02 
登録番号 特許第3910705号(P3910705)
発明の名称 二次元コード、ステルスコード、情報コードの読み取り装置及びステルスコードの読み取り装置  
代理人 山口 健司  
代理人 青木 篤  
代理人 手代木 啓  
代理人 山口 健司  
代理人 関口 尚久  
代理人 古庄 俊哉  
代理人 萩尾 保繁  
代理人 萩尾 保繁  
復代理人 伊藤 隆大  
代理人 南山 知広  
代理人 平野 惠稔  
代理人 平野 惠稔  
代理人 鶴田 準一  
代理人 鶴田 準一  
復代理人 伊藤 隆大  
代理人 古庄 俊哉  
復代理人 井上 浩二  
代理人 河合 章  
代理人 河合 章  
復代理人 井上 浩二  
代理人 南山 知広  
代理人 青木 篤  
代理人 手代木 啓  
代理人 関口 尚久  

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