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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G10K
管理番号 1347258
審判番号 不服2017-3111  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-02 
確定日 2018-12-21 
事件の表示 特願2012-163857「ノイズ除去音声再生」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月 7日出願公開、特開2013- 29834〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成24年7月24日(パリ条約に基づく優先権主張 平成23年7月26日 欧州特許庁(EP))の出願であって、平成28年4月26日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年6月30日付けで手続補正がなされたが、同年11月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成29年3月2日付けで拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされた。
その後、当審の平成30年3月12日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年5月29日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし13に係る発明は、平成30年5月29日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
ノイズ除去音声再生システムであって、
スピーカ入力経路に連結されているスピーカと、
二次経路伝達特性を有している二次経路を介して前記スピーカに音響結合されておりかつマイクロフォン出力経路に連結されているマイクロフォンと、
前記マイクロフォン出力経路と第1の有用信号経路の下流に連結されている第1の減算器と、
前記第1の減算器の下流に連結されているアクティブノイズ除去フィルタと、
前記アクティブノイズ除去フィルタと前記スピーカ入力経路との間で連結されておりかつ第2の有用信号経路に連結されている第2の減算器と、
を含み、
再生される有用信号が前記有用信号経路の両方に供給され、
前記アクティブノイズ除去フィルタの出力は、前記マイクロフォンから出力された信号と前記第1の有用信号経路に供給された前記有用信号との間のフィルタリングされた差異であり、
前記有用信号経路の少なくとも1つが1つ以上のスペクトル整形フィルタを含み、
前記スペクトル整形フィルタの少なくとも1つは、前記有用信号に関して前記マイクロフォン出力経路上でマイクロフォン信号を線形化する伝達特性を有しており、
前記第2の有用信号経路が、前記二次経路伝達特性の逆数である伝達特性を有している第1のスペクトル整形フィルタを含む、ノイズ除去音声再生システム。」

3.引用例
これに対して、当審による拒絶の理由に引用された特開2009-33309号公報(以下、「引用例」という。)には、「ノイズキャンセリングシステム」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した)。
(1)「【請求項20】
聴取者の耳に対して装着される装着部を有し、上記装着部の内側に対して、音響再生のための振動板を備えた振動板ユニットが設けられた音響再生装置と、上記振動板を駆動するための駆動信号を生成する信号処理装置とを備えて構成されるノイズキャンセリングシステムであって、
上記音響再生装置は、
上記装着部の内側にマイクロフォンを備え、
上記信号処理装置は、
入力オーディオ信号を第1の目標特性に等化して第1等化信号を生成する第1の等化手段と、
上記入力オーディオ信号を第2の目標特性に等化して第2等化信号を生成する第2の等化手段と、
上記マイクロフォンにより得られる収音信号を増幅する増幅手段と、
上記増幅手段により増幅された上記収音信号と上記第1等化信号とを加算して第1加算信号を生成する第1の加算手段と、
上記第1加算信号に対し、上記音響再生装置外部に生じる外部音が低減されて上記聴取者に聴取されるようにして設定されたフィードバック方式に対応する信号特性を与えることで、第1ノイズ低減信号を生成する第1のノイズ低減信号生成手段と、
上記第1ノイズ低減信号と上記第2等化信号とを加算して第2加算信号を生成する第2の加算手段と、
上記第2加算信号に基づき上記振動板を駆動するための駆動信号を生成する駆動信号生成手段とを備える、
ことを特徴とするノイズキャンセリングシステム。」

(2)「【0031】
先ずは図2により、実施の形態としての前後入れ方式によるノイズキャンセリングシステムの構成について説明する。なおこの図2においても、先の図1と同様にノイズキャンセリングシステムを構成する各部を伝達関数ブロック化して表している。
この図に示されるように、実施の形態としての前後入れ方式では、先の図1(a)と同様に伝達関数ブロック2(E1)を介した入力オーディオ信号Sを伝達関数ブロック1(M)と伝達関数ブロック3(-β)との間に加算すると共に、さらに図1(b)と同様に、伝達関数ブロック6(E2)を介した入力オーディオ信号Sを伝達関数ブロック3(-β)と伝達関数ブロック4(A)との間に加算するものである。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0034】
ここで、上記[式16]において、信号特性(-β)を可変とすることを考慮してβの値を変数として考え、両辺の係数を比較してみると、E1については、次の[式17]とすればよいものとなる。

【数17】

また、E2については次の[式18]のようになる。

【数18】

これら[式17][式18]により、この場合のE1、E2はβと無相関(無関連)となることが理解できる。
【0035】
このようにして実施の形態としての前後入れ方式による構成とすれば、音質劣化抑制のために入力オーディオ信号Sに対して行うべきイコライジング処理における目標特性(E1、E2)を、βと無相関なものとすることができる。すなわちこれにより、ノイズキャンセルのためにフィードバックループに対して与えるべきβ特性を可変とする場合に、目標特性E1、E2を変更する必要はないものとできる。
【0036】
ここで確認のために述べておくと、上記による式中、ドライブ回路23による伝達関数A(アンプ特性A)や、マイク・マイクアンプ特性である伝達関数Mは、通常はフラットな特性であることを考えると、これらがイコライジングの特性カーブに直接影響を与えるものとはならいことになる。すなわち、上記目標特性E1に関して言えば、上記伝達関数Mを考慮してほぼフラットな特性、つまりゲイン成分だけで構成することが可能となるものである。
【0037】
図3は、これら目標特性E1、目標特性E2を実現するためのイコライザの構成の具体例を示している。
この図3中の破線により囲うように、入力オーディオ信号Sに対して目標特性E1、目標特性E2を与える構成としては、入力オーディオ信号Sに対し信号特性Kを与える伝達関数ブロック7を共通に設けた上で、当該伝達関数ブロック7からの出力を分岐させて、それぞれ信号特性-Mを与える伝達関数ブロック8と、信号特性1/AHを与える伝達関数ブロック9とに入力させるものとする。
これにより、上記伝達関数ブロック7と伝達関数ブロック8とによりオーディオ信号Sに対し目標特性E1=-KMを与えることができ、一方、伝達関数ブロック7と伝達関数ブロック9とによりオーディオ信号Sに対し目標特性E2=K/AHを与えることができる。・・・・・(以下、略)」

(3)「【0038】
<第1の実施の形態>
以下、上記により説明した実施の形態としての前後入れ方式を採用した、各実施の形態としての信号処理装置の構成について説明していく。
図4は、本発明の第1の実施の形態としての信号処理装置について説明するための図として、第1の実施の形態の信号処理装置を備えて構成されるオーディオプレイヤ15と、当該オーディオプレイヤ15と接続されて音響再生を行うヘッドホン11とを備えて成るノイズキャンセリングシステム10の構成を示している。なお、図4ではオーディオプレイヤ15とヘッドホン11の双方の内部構成をブロック図により示している。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0040】
図4において、先ずヘッドホン11としては、例えば先の図14にて例示したような聴取者の耳全体を密閉するようにして覆うようにされた装着部101を有する、いわゆる密閉型のヘッドホン装置であるものとする。図示するようにヘッドホン11には、音響再生のための振動板を備えた振動板ユニット12と、マイクロフォン13とが備えられている。振動板ユニット12は、装着部101の内側に対して設けられ、後述するドライブ回路23からのドライブ信号(ドライブ電圧)に基づき内部の振動板を振動させて、上記ドライブ信号に応じた音を出力するように構成される。
また、上記マイクロフォン13は、聴取者によって振動板ユニット12からの出力音とヘッドホン11外部の音(外部音)とが聴取される聴取点と近接するような位置関係となるようにして、装着部101の内側に対して設けられる。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0042】
上記マイクロフォン13による収音信号は、図示するマイク入力端子Tminを介してオーディオプレイヤ15側のマイクアンプ16に対して供給され、ここで増幅される。
なお、図示の都合上省略したが、ヘッドホン11側には、実際には上記マイク入力端子Tminと接続されるマイク出力端子が備えられ、上記収音信号は、これらのマイク入/出力端子が接続されて上記マイクアンプ16に対して供給されるものとなる。
【0043】
オーディオプレイヤ15側においては、上記マイクアンプ16により増幅された上記収音信号に基づきFB方式によるノイズキャンセルを行うための構成として、加算器17、イコライザ(EQ)18、第1イコライザ19、第2イコライザ20、FB方式NCフィルタ21、加算器22、ドライブ回路23が備えられている。
先ず、上記イコライザ18、第1イコライザ19、第2イコライザ20は、それぞれ先の図3に示した伝達関数ブロック7、伝達関数ブロック8、伝達関数ブロック9に対応するものであり、イコライザ18は、入力されるオーディオ信号に対して所要の信号特性Kを与えると共に、第1イコライザ19、第2イコライザ20は、先に説明した前後入れ方式に対応する音質劣化抑制のための信号特性-M、信号特性1/HMを与える。
具体的に、上記イコライザ18は、入力されるオーディオ信号に対し上記信号特性Kを目標特性としたイコライジング処理を行って、その結果を第1イコライザ19、第2イコライザ20のぞれぞれに対して供給する。第1イコライザ19は、上記イコライザ18より入力したオーディオ信号に対し、信号特性-Mを目標特性としたイコライジング処理を行い、加算器17に出力する。また、第2イコライザ20は、上記イコライザ18より入力したオーディオ信号に対し、信号特性1/HMを目標特性としたイコライジング処理を行い、加算器22に出力する。
これにより、上記加算器17に対しては、実施の形態としての前後入れ方式による前入れ側の系に対応して目標特性E1=-KMが与えられたオーディオ信号が供給される。また、上記加算器22に対しては、前後入れ方式による後入れ側の系に対応して目標特性E2=K/HMが与えられたオーディオ信号が供給されるものとなる。
なお、以下では便宜上、上記第1イコライザ19から加算器17に供給されるオーディオ信号を第1EQ信号とし、上記第2イコライザ20から加算器22に供給されるオーディオ信号を第2EQ信号とする。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0045】
上記加算器17は、上記第1イコライザ19からのオーディオ信号と、先に述べたマイクアンプ16からの収音信号とが入力され、これらを加算した第1加算信号を生成する。この第1加算信号は、FB方式NCフィルタ21に対して供給される。
【0046】
FB方式NCフィルタ21は、FB方式によるノイズキャンセリングシステムに対応する信号特性(β特性)を与えるフィルタ回路とされる。具体的には、信号特性-βを与える。なお、この信号特性(-β)としては、FB方式によるノイズキャンセリングシステムの系中における各回路や空間の伝達関数を考慮して、外部音がキャンセルされて聴取者に聴取されるようにするために、フィードバックループ内に与えられるべきとして設定された信号特性(周波数-振幅特性や周波数-位相特性)となる。
そしてこの場合、FB方式NCフィルタ21は、上記信号特性(-β)として複数の異なる特性を可変的に設定できるように構成されている。FB方式NCフィルタ21は、このような信号特性(-β)の切り替えを、後述する制御部25からの切替指示に基づき行うようにされる。
【0047】
FB方式NCフィルタ21により信号特性-βが与えられた第1加算信号は、上述した加算器22に供給される。加算器22は、上記FB方式NCフィルタ21を介した上記第1加算信号と、第2イコライザ20から供給される第2EQ信号とを加算し、これを第2加算信号としてドライブ回路23に供給する。
【0048】
ドライブ回路23は、上記加算器22により生成される第2加算信号を入力し、これを増幅して振動板ユニット12内の振動板を駆動するためのドライブ信号を生成する。
ドライブ回路23により生成されたドライブ信号は、信号出力端子Toを介してヘッドホン11の振動板ユニット12に対して供給される。・・・・・(以下、略) 」

・上記引用例に記載の「ノイズキャンセリングシステム」は、上記(1)、(3)の記載事項、及び図4によれば、音響再生装置と信号処理装置とを備えて構成されものであって、振動板ユニット12と、振動板ユニット12からの出力音と外部音とが聴取される聴取点と近接する位置に設けられたマイクロフォン13と、マイクロフォン13により得られる収音信号を増幅するマイクアンプ16と、マイクアンプ16により増幅された収音信号とイコライザ18及び第1イコライザ19を介したオーディオ信号とが入力される加算器17と、加算器17からの加算信号が供給され、信号特性(-β)を与えるFB方式NCフィルタ21と、FB方式NCフィルタ21の出力信号(ノイズ低減信号)とイコライザ18及び第2イコライザ20を介したオーディオ信号とが入力される加算器22と、加算器22からの加算信号が入力され、振動板ユニット12の振動板を駆動するためのドライブ信号を生成するドライブ回路23を備えてなるものである。
・上記(2)、(3)の記載事項、及び図3によれば、イコライザ18の信号特性(伝達特性)をKとし、第1イコライザ19、第2イコライザ20には音質劣化抑制のための信号特性(伝達特性)としてそれぞれ-M、1/AHを与えるようにしてなるものである。
ただし、「伝達特性M」は、マイクロフォンによる伝達特性とマイクアンプによる伝達特性を掛け合わせたものに相当し、「伝達特性A」は、ドライブ回路による伝達特性に相当し、「伝達特性H」は、振動板ユニットによる伝達特性と該振動板ユニットからマイクロフォンまでの空間の伝達特性とを掛け合わせたものに相当する。
〔なお、上記(3)の段落【0043】の記載中、「信号特性1/HM」(2箇所)、「目標特性E2=K/HM」とあるのは、それぞれ「信号特性1/AH」、「目標特性E2=K/AH」の誤記であると認められる。〕

したがって、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「音響再生装置と信号処理装置とを備えて構成されるノイズキャンセリングシステム10であって、
振動板ユニット12と、
前記振動板ユニット12からの出力音と外部音とが聴取される聴取点と近接する位置に設けられたマイクロフォン13と、
前記マイクロフォン13により得られる収音信号を増幅するマイクアンプ16と、
前記マイクアンプ16により増幅された収音信号と、イコライザ18及び第1イコライザ19を介したオーディオ信号とが入力される加算器17と、
前記加算器17からの加算信号が供給され、信号特性(-β)を与えるFB方式NCフィルタ21と、
前記FB方式NCフィルタ21の出力信号(ノイズ低減信号)と、前記イコライザ18及び第2イコライザ20を介した前記オーディオ信号とが入力される加算器22と、
前記加算器22からの加算信号が入力され、前記振動板ユニット12の振動板を駆動するためのドライブ信号を生成するドライブ回路23と、を備え、
前記イコライザ18の信号特性(伝達特性)をKとし、
前記第1イコライザ19及び前記第2イコライザ20には音質劣化抑制のための信号特性(伝達特性)としてそれぞれ-M、1/AHを与えるようにした、ノイズキャンセリングシステム10(ただし、「伝達特性M」は、前記マイクロフォン13による伝達特性と前記マイクアンプ16による伝達特性を掛け合わせたものに相当し、「伝達特性A」は、前記ドライブ回路23による伝達特性に相当し、「伝達特性H」は、前記振動板ユニット12による伝達特性と該振動板ユニット12から前記マイクロフォン13までの空間の伝達特性とを掛け合わせたものに相当。)。」

4.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、
(1)引用発明における「振動板ユニット12」は、本願発明でいう「スピーカ」に相当し、引用発明における「振動板ユニット12」にあっても、本願発明でいう「スピーカ入力経路」に連結されてなるものであることは自明なことであるから、
本願発明と引用発明とは、「スピーカ入力経路に連結されているスピーカと」を含むものである点で一致する。

(2)引用発明における「前記振動板ユニット12からの出力音と外部音とが聴取される聴取点と近接する位置に設けられたマイクロフォン13と」によれば、
引用発明における「マイクロフォン13」は、本願発明における「マイクロフォン」に相当し、
引用発明における「マイクロフォン13」にあっても、振動板ユニット12からの出力音等が聴取される聴取点と近接する位置に設けられてなるものであるから、振動板ユニット12からマイクロフォン13まで空間に本願発明でいう「二次経路」を有し、引用発明の「マイクロフォン13」は、当該「二次経路」を介して、振動板ユニット12に音響結合されてなるものである。なお、二次経路が「二次経路伝達特性」を有することは自明なことであり(後述の「伝達特性H」が、ここでいう「二次経路伝達特性」に相当する)、また、引用発明における「マイクロフォン13」が、本願発明でいう「マイクロフォン出力経路」に連結されてなるものであることも自明なことである。
したがって、本願発明と引用発明とは、「二次経路伝達特性を有している二次経路を介して前記スピーカに音響結合されておりかつマイクロフォン出力経路に連結されているマイクロフォンと」を含むものである点で一致する。

(3)引用発明における「前記マイクロフォン13により得られる収音信号を増幅するマイクアンプ16と、前記マイクアンプ16により増幅された収音信号と、イコライザ18及び第1イコライザ19を介したオーディオ信号とが入力される加算器17と」によれば、
引用発明における「加算器17」は、マイクロフォン13により得られマイクアンプにより増幅された収音信号と、イコライザ18及び第1イコライザ19を介して入力されるオーディオ信号とを加算するものであるが、後述するように、第1イコライザ19の信号特性(伝達特性)は「-M」であるから、加算器17で加算される両信号は極性の異なるものである。一方、本願発明における「第1の減算器」にあっても、本願の図4等から明らかなように、極性の異なる2つの信号(マイクロフォン出力信号y[n]と有用信号x[n])を「加算」して出力するものであるといえることを踏まえると、引用発明における「加算器17」は、本願発明でいう「第1の減算器」に相当するということができる。
なお、引用発明において、オーディオ信号がイコライザ18及び第1イコライザ19を介して加算器17に入力される経路が、本願発明でいう「第1の有用信号経路」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明とは、「前記マイクロフォン出力経路と第1の有用信号経路の下流に連結されている第1の減算器と」を含むものである点で一致する。

(4)引用発明における「前記加算器17からの加算信号が供給され、信号特性(-β)を与えるFB方式NCフィルタ21と」によれば、
引用発明における「FB方式NCフィルタ21」は、本願発明でいう「アクティブノイズ除去フィルタ」に相当し、
引用発明の「FB方式NCフィルタ21」には加算器17の加算信号が供給されるのであるから、当該加算器17の下流に連結されてなるものであることは明らかであり、
本願発明と引用発明とは、「前記第1の減算器の下流に連結されているアクティブノイズ除去フィルタと」を含むものである点で一致する。

さらに、引用発明の「FB方式NCフィルタ21」には、加算器17からの加算信号が供給されるものであるところ、上記(3)で述べたように、当該加算信号は、極性の異なる、マイクロフォン13により得られマイクアンプにより増幅された収音信号と、イコライザ18及び第1イコライザ19を介したオーディオ信号とを加算してなるものであることから、当該「FB方式NCフィルタ21」の出力信号は、収音信号とオーディオ信号との間のフィルタリングされた差異であるということができる。
したがって、本願発明と引用発明とは、「前記アクティブノイズ除去フィルタの出力は、前記マイクロフォンから出力された信号と前記第1の有用信号経路に供給された前記有用信号との間のフィルタリングされた差異」である点でも一致する。

(5)引用発明における「前記FB方式NCフィルタ21の出力信号(ノイズ低減信号)と、前記イコライザ18及び第2イコライザ20を介した前記オーディオ信号とが入力される加算器22と」によれば、
引用発明における「加算器22」は、FB方式NCフィルタ21の出力信号(ノイズ低減信号)と、イコライザ18及び第2イコライザ20を介して入力されるオーディオ信号とを加算するものであるが、FB方式NCフィルタ21の信号特性(伝達特性)は「-β」であるから、加算器22で加算される両信号は極性の異なるものである。一方、本願発明における「第2の減算器」にあっても、本願の図4等から明らかなように、極性の異なる2つの信号(アクティブノイズ除去フィルタの出力信号e[n]と等価フィルタ10を介した有用信号x[n])を「加算」して出力するものであるといえることを踏まえると、引用発明における「加算器22」は、本願発明でいう「第2の減算器」に相当するということができる。
なお、引用発明において、オーディオ信号がイコライザ18及び第2イコライザ20を介して加算器22に入力される経路が、本願発明でいう「第2の有用信号経路」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明とは、「前記アクティブノイズ除去フィルタと前記スピーカ入力経路との間で連結されておりかつ第2の有用信号経路に連結されている第2の減算器と」を含むものである点で一致する。

(6)上記(3)及び(5)によれば、引用発明においても、再生されるオーディオ信号(本願発明でいう「有用信号」に相当)が、本願発明でいう「有用信号経路」の「両方」に供給されてなるものであることは明らかである。

(7)引用発明における「前記イコライザ18の信号特性(伝達特性)をKとし、前記第1イコライザ19及び前記第2イコライザ20には音質劣化抑制のための信号特性(伝達特性)としてそれぞれ-M、1/AHを与えるようにした・・」によれば、
引用発明における、音質劣化抑制のための信号特性(伝達特性)が与えられる「第2イコライザ20」は、本願発明でいう「第2の有用信号経路」に設けられてなるものであり、本願発明でいう、有用信号経路の少なくとも1つが含む「スペクトル整形フィルタ」であって、第2の有用信号経路が含む「第1のスペクトル整形フィルタ」に相当する。
そして、引用発明の「第2イコライザ20」の信号特性(伝達特性)は具体的には「1/AH」であるところ、これは振動板ユニット12の直前に設けられたドライブ回路23による伝達特性Aを考慮したものであり、振動板ユニット12に入力される信号(ドライブ信号)については信号特性(伝達特性)「1/H」(1/AH×A→1/H)、すなわち、本願発明でいう「二次経路伝達特性の逆数」が与えられてなるものであることを踏まえると、引用発明の「第2イコライザ20」にあっても、オーディオ信号に関してマイクロフォン出力経路上でマイクロフォン信号を「線形化する伝達特性」を有しているということができる。
したがって、本願発明と引用発明とは、「前記有用信号経路の少なくとも1つが1つ以上のスペクトル整形フィルタを含み、前記スペクトル整形フィルタの少なくとも1つは、前記有用信号に関して前記マイクロフォン出力経路上でマイクロフォン信号を線形化する伝達特性を有しており、前記第2の有用信号経路が、マイクロフォン信号を線形化する前記伝達特性を有している第1のスペクトル整形フィルタを含む」ものである点では共通するといえる。
ただし、第1のスペクトル整形フィルタが有する、マイクロフォン信号を線形化する伝達特性について、本願発明では、「二次経路伝達特性の逆数」であると特定するのに対し、引用発明では、1/AHである点で相違している。

(8)そして、引用発明における「ノイズキャンセリングシステム10」は、音響再生装置を備え、再生されるオーディオ信号からノイズを低減(除去)するようにしたシステムであり、本願発明でいう「ノイズ除去音声再生システム」に相当するものである。

よって、本願発明と引用発明とは、
「ノイズ除去音声再生システムであって、
スピーカ入力経路に連結されているスピーカと、
二次経路伝達特性を有している二次経路を介して前記スピーカに音響結合されておりかつマイクロフォン出力経路に連結されているマイクロフォンと、
前記マイクロフォン出力経路と第1の有用信号経路の下流に連結されている第1の減算器と、
前記第1の減算器の下流に連結されているアクティブノイズ除去フィルタと、
前記アクティブノイズ除去フィルタと前記スピーカ入力経路との間で連結されておりかつ第2の有用信号経路に連結されている第2の減算器と、
を含み、
再生される有用信号が前記有用信号経路の両方に供給され、
前記アクティブノイズ除去フィルタの出力は、前記マイクロフォンから出力された信号と前記第1の有用信号経路に供給された前記有用信号との間のフィルタリングされた差異であり、
前記有用信号経路の少なくとも1つが1つ以上のスペクトル整形フィルタを含み、
前記スペクトル整形フィルタの少なくとも1つは、前記有用信号に関して前記マイクロフォン出力経路上でマイクロフォン信号を線形化する伝達特性を有しており、
前記第2の有用信号経路が、マイクロフォン信号を線形化する前記伝達特性を有している第1のスペクトル整形フィルタを含む、ノイズ除去音声再生システム。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
第1のスペクトル整形フィルタが有する、マイクロフォン信号を線形化する伝達特性について、本願発明では、「二次経路伝達特性の逆数」であると特定するのに対し、引用発明では、1/AHである点。

5.判断
上記[相違点]について検討する。
上記「4.(7)」でも述べたように、引用発明の「第2イコライザ20」の信号特性(伝達特性)は、振動板ユニット12の直前に設けられたドライブ回路23による伝達特性Aを考慮して「1/AH」としたものであるところ、引用例の段落【0036】(上記「3.(2)」を参照)には、ドライブ回路23の伝達特性(伝達関数)Aは、通常はフラットな特性、つまり周波数特性をもたないゲイン成分のみであることが記載されていることから、伝達特性A=1と簡略化し(この場合、ドライブ回路23による伝達特性による影響を省略した形となる)、第2のイコライザ20の信号特性(伝達特性)を「1/H」として相違点に係る構成とすることも当業者であれば容易に想到し得ることである。

そして、本願発明が奏する効果についてみても、引用発明から当業者が十分に予測できたものであって、格別顕著なものがあるとはいえない。

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-07-30 
結審通知日 2018-07-31 
審決日 2018-08-13 
出願番号 特願2012-163857(P2012-163857)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G10K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邊 正宏  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 山澤 宏
井上 信一
発明の名称 ノイズ除去音声再生  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  

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