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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H02J 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02J 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02J |
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管理番号 | 1347291 |
審判番号 | 不服2017-12192 |
総通号数 | 230 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-02-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-08-16 |
確定日 | 2018-12-20 |
事件の表示 | 特願2013- 75781「受電装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月27日出願公開、特開2014-204452〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成25年4月1日の出願であって、平成28年11月30日付け拒絶理由通知に対して平成29年1月31日付けで手続補正がなされたが、同年5月8日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年8月16日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされたものである。 第2 平成29年8月16日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成29年8月16日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.本件補正 平成29年8月16日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするものであり、請求項1については、 本件補正前に、 「【請求項1】 給電モジュールとの間で共振する共振現象により電力が供給される受電共振コイルと、 前記受電共振コイルから電力を受け取る受電コイルと、 前記受電共振コイルの内周側及び外周側の少なくとも何れか一方側に配置された筒形状の筒部を有しており、 前記内周側のみに前記筒部を配置した配置形態と、前記外周側のみに前記筒部を配置した配置形態と、前記内周側及び前記外周側にそれぞれ前記筒部を配置した配置形態との何れかによって、前記共振時の磁界結合の強度を、前記磁性部材が存在しない場合の磁界結合の強度よりも増減した値に設定した磁性部材と を有していることを特徴とする受電装置。」 とあったところを、 本件補正により、 「【請求項1】 給電モジュールとの間で共振する共振現象により電力が供給される受電共振コイルと、 前記受電共振コイルから電力を受け取る受電コイルと、 前記受電共振コイルの内周側及び外周側の少なくとも何れか一方側に配置された筒形状の筒部を有しており、 前記外周側のみに前記筒部を配置した配置形態と、前記内周側及び前記外周側にそれぞれ前記筒部を配置した配置形態との何れかによって、前記共振時の磁界結合の強度を、磁性部材が存在しない場合の磁界結合の強度よりも減少した値に設定した磁性部材と を有していることを特徴とする受電装置。」 とするものである。なお、下線は補正箇所を示す。 本件補正における請求項1の補正の目的は、以下のとおりのものと認められる。 (1)本件補正前の請求項1において、「前記内周側のみに前記筒部を配置した配置形態と、前記外周側のみに前記筒部を配置した配置形態と、前記内周側及び前記外周側にそれぞれ前記筒部を配置した配置形態との何れか」という択一的記載の、「前記内周側のみに前記筒部を配置した配置形態」という要素を削除することにより減縮し、本件補正前の請求項1において、「増減した値」を「減少した値」に限定したものである。したがって、当該補正は、補正前の請求項に記載された発明を特定するために必要な事項の限定を目的にするものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (2)本件補正前の請求項1において、平成29年5月8日付け拒絶査定において指摘された点を解消するために、「前記磁性部材」を「磁性部材」にしたものである。したがって、当該補正は、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的にしたものである。 よって、本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とした補正事項を含むから、本件補正における請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて以下検討する。 2.引用例 原査定の拒絶の理由で、本件補正前の請求項1ないし5に係る発明が、「外周側のみに筒部を配置した配置形態」又は「前記内周側及び前記外周側にそれぞれ前記筒部を配置した配置形態」とすることを必須の構成とする受電装置であると解した場合について、見解を述べるために引用された特開2011-120382公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。 ア.「【0001】 この発明は、非接触給電設備、非接触受電装置および非接触給電システムに関し、より特定的には、送電側および受電側の間での電磁場を介した共鳴によって非接触給電を行なう非接触給電設備、非接触受電装置および非接触給電システムに関する。」 イ.「【0028】 コイルユニット20は、一次コイル25および一次自己共振コイル30を含む。一次側のコイルユニット20は、「送電用共鳴器」の一実施例を構成する。 【0029】 一次コイル25は、一次自己共振コイル30と概ね同軸上に配設され、電磁誘導により一次自己共振コイル30と磁気的に結合可能に構成される。そして、一次コイル25は、高周波電源装置10から供給される高周波電力を電磁誘導により一次自己共振コイル30へ給電する。 【0030】 一次自己共振コイル30は、両端がオープン(非接続)のLC共振コイルであり、受電装置110の二次自己共振コイル70(後述)と電磁場を介して共鳴することにより受電装置110へ非接触で電力を送電する。なお、容量C1は、一次自己共振コイル30の浮遊容量によって構成可能であるが、容量素子を実際に設けてもよい。」 ウ.「【0033】 受電装置110は、コイルユニット60と、電力計75と、調整機構80とを含む。コイルユニット60は、二次コイル65および二次自己共振コイル70を含む。二次側のコイルユニット60は、「受電用共鳴器」の一実施例を構成する。 【0034】 二次自己共振コイル70も、一次自己共振コイル30と同様に両端がオープンのLC共振コイルであり、一次自己共振コイル30と電磁場を介して共鳴することによって、給電設備100から非接触で電力を受電する。なお、容量C2についても、二次自己共振コイル70の浮遊容量によって構成可能であるが、容量素子を実際に設けてもよい。 【0035】 二次コイル65は、二次自己共振コイル70と概ね同軸上に配設され、電磁誘導により二次自己共振コイル70と磁気的に結合可能に構成される。そして、二次コイル65は、二次自己共振コイル70により受電された電力を電磁誘導により取出すように構成される。」 エ.「【0061】 同様に、二次側(受電装置110)において、二次コイル65および二次自己共振コイル70は、同軸上の円環状に巻回されたコイルによって構成される。さらに、二次コイル65および二次自己共振コイル70を格納するように構成された電磁シールド85が設けられる。電磁シールド85には、コイルユニット20、より特定的には、一次自己共振コイル30へ向けた開口部が設けられる。 【0062】 電磁シールド85は、電磁シールド55と同様に、電磁波を遮蔽可能な材質の部材(たとえば、銅やフェライト)で構成され、かつ、その一部は、外力によって移動可能なシールド板86により構成される。すなわち、シールド板86は「可動部材」に対応する。」 上記アないしエから、引用例1には以下の事項が記載されている。 ・上記アによれば、非接触受電装置に関するものである。 ・上記ウによれば、受電装置110は、コイルユニット60を含むものであり、コイルユニット60は、二次コイル65および二次自己共振コイル70を含むものである。したがって、受電装置110は、二次コイル65および二次自己共振コイル70を含むものである。 ・上記ウによれば、二次自己共振コイル70は、一次自己共振コイル30と電磁場を介して共鳴することによって、非接触で電力を受電するものである。 ・上記イによれば、一次自己共振コイル30は、コイルユニット20に含まれるものである。 ・上記イによれば、一次自己共振コイル30は、非接触で電力を送電するものである。 ・上記ウによれば、二次コイル65は、二次自己共振コイル70により受電された電力を電磁誘導により取出すように構成されるものである。 ・上記エによれば、受電装置110は、二次コイル65および二次自己共振コイル70を格納するように構成された電磁シールド85が設けられるものである。 ・上記エによれば、電磁シールド85は、フェライトで構成されるものである。 ・上記エによれば、電磁シールド85には、一次自己共振コイル30へ向けた開口部が設けられるものである。 ・上記エによれば、二次コイル65および二次自己共振コイル70は、同軸上の円環状に巻回されたコイルによって構成されるものである。 そうすると、上記摘示事項及び図面の記載を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。 「コイルユニット20に含まれて非接触で電力を送電する一次自己共振コイル30と電磁場を介して共鳴することによって、非接触で電力を受電する二次自己共振コイル70と、 二次自己共振コイル70により受電された電力を電磁誘導により取出すように構成される二次コイル65と、 フェライトで構成され、二次コイル65および二次自己共振コイル70を格納するように構成され、一次自己共振コイル30へ向けた開口部が設けられる電磁シールド85と、 を含む受電装置110であって、 二次コイル65および二次自己共振コイル70は、同軸上の円環状に巻回されたコイルによって構成される受電装置110。」 3.対比 そこで、本願補正発明と引用発明1とを対比する。 (1)引用発明1の「コイルユニット20」は、「非接触で電力を送電する一次自己共振コイル30」を含むものであり、電力を送電することにより給電するものであるといえるから、本願補正発明の「給電モジュール」に相当する。また、引用発明1の「非接触で電力を受電する二次自己共振コイル70」は、本願補正発明の「受電共振コイル」に相当する。そして、電磁場を介して共鳴する現象は共振現象であるといえるから、引用発明1の「コイルユニット20に含まれて非接触で電力を送電する一次自己共振コイル30と電磁場を介して共鳴することによって、非接触で電力を受電する二次自己共振コイル70」は、コイルユニット20(本願補正発明の「給電モジュール」に相当)に含まれる一次自己共振コイル30との間で共振する共振現象により電力が供給されることとなり、本願補正発明の「給電モジュールとの間で共振する共振現象により電力が供給される受電共振コイル」に相当する。 (2)引用発明1の「二次自己共振コイル70により受電された電力を電磁誘導により取出すように構成される二次コイル65」は、電力を取出すことにより受電するものであるから受電コイルであり、本願補正発明の「前記受電共振コイルから電力を受け取る受電コイル」に相当する。 (3)フェライトが磁性材料であることは技術常識であるから、引用発明1の「フェライトで構成され、・・・電磁シールド85」は、本願補正発明の「磁性部材」に相当する。 (4)引用発明1の「・・・二次自己共振コイル70と、・・・二次コイル65と、・・・電磁シールド85と、を含む受電装置110」は、本願補正発明の「・・・受電共振コイルと、・・・受電コイルと、・・・磁性部材とを有していることを特徴とする受電装置」に相当する。 (5)引用発明1の「電磁シールド85」は、二次コイル65および二次自己共振コイル70を格納するように構成されるものであるから、二次自己共振コイル70の外周側に存在するものであるといえる。 また、引用発明1の「電磁シールド85」は、二次コイル65および二次自己共振コイル70を格納するように構成され、一次自己共振コイル30へ向けた開口部が設けられたものであるから、中空であり、同軸上の円環状に巻回されたコイルである二次コイル65および二次自己共振コイル70を格納するものであるから、二次コイル65および二次自己共振コイル70の軸方向に細長く延びた形状であると解するのが自然である。したがって、引用発明1の「電磁シールド85」は、細長く延びた形状であり、かつ、中空であるから、筒形状であるといえる。 したがって、引用発明1の「二次コイル65および二次自己共振コイル70を格納するように構成され、一次自己共振コイル30へ向けた開口部が設けられる電磁シールド85」は、二次自己共振コイル70(上記(1)のとおり、本願補正発明の「受電共振コイル」に相当。)の外周側に配置された筒形状の筒部を有しているものであるから、本願補正発明の「前記受電共振コイルの内周側及び外周側の少なくとも何れか一方側に配置された筒形状の筒部を有して」いる「磁性部材」であるといえる。 (6)引用発明1の「電磁シールド85」は、二次コイル65および二次自己共振コイル70を格納するように構成されるものであるから、二次自己共振コイル70の外周側に存在し、二次自己共振コイル70の内周側に存在しないものである。 したがって、引用発明1の「二次コイル65および二次自己共振コイル70を格納するように構成され、一次自己共振コイル30へ向けた開口部が設けられる電磁シールド85」は、本願補正発明の「前記外周側のみに前記筒部を配置した配置形態」の「磁性部材」であるといえる。 ただし、磁性部材について、本願補正発明は、「前記外周側のみに前記筒部を配置した配置形態と、前記内周側及び前記外周側にそれぞれ前記筒部を配置した配置形態との何れかによって、前記共振時の磁界結合の強度を、磁性部材が存在しない場合の磁界結合の強度よりも減少した値に設定した」のに対し、引用発明1ではその旨の特定はされていない。 そうすると、本願補正発明と引用発明1とは、次の点で一致し、以下の点で一応相違している。 <一致点> 「給電モジュールとの間で共振する共振現象により電力が供給される受電共振コイルと、 前記受電共振コイルから電力を受け取る受電コイルと、 前記受電共振コイルの内周側及び外周側の少なくとも何れか一方側に配置された筒形状の筒部を有しており、 前記外周側のみに前記筒部を配置した配置形態の磁性部材と を有していることを特徴とする受電装置。」 <相違点> 磁性部材について、本願補正発明は、「前記外周側のみに前記筒部を配置した配置形態と、前記内周側及び前記外周側にそれぞれ前記筒部を配置した配置形態との何れかによって、前記共振時の磁界結合の強度を、磁性部材が存在しない場合の磁界結合の強度よりも減少した値に設定した」のに対し、引用発明1ではその旨の特定はされていない点。 4.判断 上記相違点について検討する。 本願補正発明において、「前記共振時の磁界結合の強度を、磁性部材が存在しない場合の磁界結合の強度よりも減少した値に設定」することは、磁性部材が有する筒部について、「前記外周側のみに前記筒部を配置した配置形態」にすること(又は「前記内周側及び前記外周側にそれぞれ前記筒部を配置した配置形態」にすること)により行われるものである。 そして、上記「3.(5)」に記載したとおり、引用発明1における「電磁シールド85」は、本願補正発明の「磁性部材」と同様に、「前記外周側のみに前記筒部を配置した配置形態」にするものであるから、「前記共振時の磁界結合の強度を、磁性部材が存在しない場合の磁界結合の強度よりも減少した値に設定」したものとなっていることは、明らかである。 また、以下のとおり、引用発明1において、「フェライトで構成され、二次コイル65および二次自己共振コイル70を格納するように構成され、一次自己共振コイル30へ向けた開口部が設けられる電磁シールド85」が存在すること、すなわち、フェライトで構成される電磁シールド85が二次自己共振コイル70の外周側に存在することにより、共振時の磁界結合の強度が、電磁シールド85が存在しない場合の磁界結合の強度よりも減少した値になることは、当然のことである。 すなわち、磁束は磁気抵抗がより小さい物質を通って閉磁路を形成しようとすること、及び、空気の磁気抵抗よりもフェライトの磁気抵抗の方が小さいことは、技術常識であり、当該技術常識を参酌すれば、引用発明1のように、フェライトで構成される電磁シールド85が二次自己共振コイル70の外周側に存在すると、一次自己共振コイル30から二次自己共振コイル70に向かう磁束は、空気に比べて磁気抵抗の小さいフェライトで構成される電磁シールド85を通って閉磁路を形成しようとすることになる。したがって、電磁シールド85が存在することにより、電磁シールド85が存在しない場合に二次自己共振コイル70の外部に漏洩していた磁束の一部が電磁シールド85の内部を通る(電磁波の外部への漏洩が減少する)とともに、電磁シールド85が存在しない場合に二次自己共振コイル70の内部を通っていた磁束の一部も電磁シールド85の内部を通ることになるから、二次自己共振コイル70の内部を通る磁束は、磁性部材が存在しない場合よりも減少することになる。 そして、二次自己共振コイル70の内部を通る磁束が減少すれば、磁束が二次自己共振コイル70に鎖交する割合が減少することになり、磁界結合の強度(すなわち結合係数)が減少することになる。 したがって、引用発明1のように、フェライトで構成される電磁シールド85が二次自己共振コイル70の外周側に存在することにより、共振時の磁界結合の強度が、電磁シールド85が存在しない場合の磁界結合の強度よりも減少した値になることは、当然のことである。 よって、上記相違点は実質的な相違とはいえず、本願補正発明は、引用発明1と実質的に同一である。 なお、審判請求人は、審判請求書の「(3-4-3)」において、上記引用例1に対応する引用文献4に関して、「段落0048(0063)の記載によりますと、電磁シールド55・85は、効率的に二次自己共振コイル70(一次自己共振コイル30)へ作用させることから、本願補正発明の『外周側に配置された筒部』が『磁界結合を減少させる』という作用とは逆の状態、即ち、『磁界結合を増大させる』ものになっています。このことから、引用文献1と同様に、本願補正発明とは逆の目的で配置された構成(電磁シールド55・85)の引用文献4に基づいて、本願補正発明の配置形態1・2を容易に推考できるものではないと考えます。」との主張をしている。 しかしながら、引用発明1のように電磁場を介する共鳴現象を利用して電力伝送を行う技術(いわゆる共鳴型のワイヤレス電力伝送)において、効率を増加させることと、磁界結合の強度(結合係数)を増加させることとが、必ずしも一致しないことは技術常識である(例えば、特開2010-200563号公報(特に段落[0002]?[0005]参照)や国際公開第2012/035745号(特に段落[0045]参照)には、共鳴型のワイヤレス電力伝送において結合係数を増加させすぎると、逆に効率が低下するという技術常識が示されている。)。 したがって、引用例1に記載された電磁シールド55,58の目的が「効率的に二次自己共振コイル70(一次自己共振コイル30)へ作用させること」であったとしても、「効率的」であることは、必ずしも「磁界結合を増大させる」ことを意味するものではない。 一方、上述したとおり、引用発明1において、フェライトで構成される電磁シールド85が二次自己共振コイル70の外周側に存在すること(すなわち、本願補正発明と同様に「前記外周側のみに前記筒部を配置した配置形態」にすること)により、共振時の磁界結合の強度が、電磁シールド85が存在しない場合の磁界結合の強度よりも減少した値になることは、明らかである。 よって、審判請求人の上記主張は採用できない。 なお、本願補正発明の「筒形状の筒部」は、本件補正における請求項2に記載された発明の「円筒形状」とは異なり、(筒が延びる方向に垂直な方向に切断した場合の)断面が円ではない筒(例えば、断面が四角形の筒)の形状も含む記載であるが、仮に、「筒形状の筒部」とは断面が円である筒の形状の筒部であるとした場合の判断を一応追記する。 その場合、引用発明1には電磁シールド85の断面が円であることが特定されていない点で、本願補正発明と引用発明1とは相違する。 しかし、引用発明1の電磁シールド85は、二次コイル65および二次自己共振コイル70を格納するものであり、二次コイル65および二次自己共振コイル70は、同軸上の円環状に巻回されたコイルである。 したがって、引用発明1において、電磁シールド85及び受電装置110の小型化のために、円環状のコイルである二次コイル65および二次自己共振コイル70を格納するための電磁シールド85を、二次コイル65および二次自己共振コイル70の円環状の外形に沿った形状とすることにより、電磁シールド85の断面を円とすることは、当業者が適宜なし得る設計事項である。 よって、本願補正発明は、引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項3号に該当し、又は、引用例1に記載された発明により当業者が容易になし得たものであるから、同条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 5.むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 平成29年8月16日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成29年1月31日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されたものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2 1.」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。 2.引用例 原査定の拒絶の理由で引用された特開2010-239848号公報(以下「引用例2」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。 ア.「【0001】 本発明は、磁界共鳴によって電力を伝送する電力伝送装置に関する。」 イ.「【0011】 図1は、本実施例にかかる送受電装置の概要構成を示す概要構成図である。図1に示した送受電装置1は、送電装置2と受電装置3とを含むシステムである。送電装置2と受電装置3は、それぞれが電力伝送装置であり、送電装置2から送電装置3に電力が磁界エネルギーとして伝送される。 【0012】 送電装置2は、その内部に送電制御部21、交流電源22、電力供給コイル23、送電コイル24、センサ25、磁性体61を有する。また、受電装置3は、受電コイル31、電力取出コイル32、負荷回路33および磁性体62を有する。 【0013】 送電コイル24と受電コイル31は、それぞれLC共振回路であり磁気共鳴コイルとして機能する。LC共振回路のコンデンサ成分については素子によって実現してもよいし、コイルの両端を開放し、浮遊容量によって実現してもよい。LC共振回路では、インダクタンスをL、コンデンサ容量をCとすると、 【数1】 によって定まるfが共振周波数となる。 【0014】 送電コイル24の共振周波数と受電コイル31の共振周波数とが十分に近く、かつ送電コイル24と受電コイル31との距離が十分に小さい場合、送電コイル24と受電コイル31との間に磁界共鳴を発生させることができる。 【0015】 そのため、送電コイル24が共振した状態で磁界共鳴が発生すると、送電コイル24から受電コイルに31に磁界エネルギーを伝送することができる。」 ウ.「【0017】 電力取出コイル32は、受電コイル31との間で電磁誘導が発生する位置に配置する。受電コイル31が磁界共鳴によって共振すると、受電コイル31から電力取出コイル32に電磁誘導によってエネルギーが移動する。電力取出コイル32は、負荷回路33に電気的に接続されており、電磁誘導によって電力取出コイル32に移動したエネルギーは電力として負荷回路33に提供される。すなわち、電力取出コイル32は、電力送受信部として機能することとなる。負荷回路33としては、任意の回路を用いることができ、例えばバッテリーなどであってもよい。」 エ.「【0022】 上記の式に示されたように、結合効率Кを高めると、磁界共鳴による送電効率を上げることができる。そこで、送電装置2と受電装置3は、磁気共鳴用のコイルの近傍に磁性体を配置し、磁界に指向性を持たせることが有効である。この結果、送電装置内の共鳴コイルが発生する磁界強度は、受電装置内で強くなり、同様に、受電装置内の共鳴コイルが発生する磁界は、送電装置内で強くなって、結合効率Кを高めている。」 オ.「【0039】 図5において、磁性体61は、送電コイル24からみて受電コイル31の反対側に、送電コイル24のコイル面に対して平行に配置される。電磁誘導コイルである電力供給コイル23は、送電コイル24と磁性体61との間に配置される。また、磁性体62は、受電コイル31からみて送電コイル24の反対側に、受電コイル31のコイル面に対して平行に配置される。電磁誘導コイルである電力取出コイル32は、受電コイル31と磁性体62との間に配置される。」 カ.「【0042】 図7は、図5に示した構造にフェライトコアを追加した構造である。磁性体61の開口部、電力供給コイル23、送電コイル24を貫いて、送電コイル24に垂直なフェライトコア63を有する。また、磁性体62の開口部、電力取出コイル32、受電コイル31を貫いて、受電コイル31に垂直なフェライトコア63を有する。」 キ.「【0051】 図14は、フェライトコアの構造の変形例を示す図である。フェライトコア63は、全体を磁性体としても良いが、フェライトコア63a,63bに示すように絶縁部の中に複数の磁性部を設ける構造としても良い。なお、フェライトコア63aは、複数の棒状の磁性部を磁界共鳴コイル面に対して垂直に配置した構造である。また、フェライトコア63bは、複数の板状の磁性部を磁界共鳴コイル面に対して垂直に配置した構造である。」 ク.【図5】 ケ.【図7】 コ.【図14】 上記アないしコから、引用例2には以下の事項が記載されている。 ・上記ア、イによれば、磁界共鳴によって電力を伝送する受電装置3などの電力伝送装置に関するものである。 ・上記イによれば、受電装置3は、受電コイル31、電力取出コイル32、磁性体62を有するものである。 ・上記イによれば、受電コイル31は、LC共振回路であり磁気共鳴コイルとして機能するものである。 ・上記イによれば、送電コイル24と受電コイル31との間に磁界共鳴を発生させ、送電コイル24から受電コイルに31に磁界エネルギーを伝送するものである。 ・上記ウによれば、受電コイル31から電力取出コイル32に電磁誘導によってエネルギーが移動するものである。 ・上記オ、図5によれば、図5に示される構造は、磁性体62は、受電コイル31からみて送電コイル24の反対側に、受電コイル31のコイル面に対して平行に配置されるものである。 ・上記カ、図7によれば、図7に示される構造は、図5に示した構造にフェライトコアを追加した構造であり、受電コイル31を貫いて、受電コイル31に垂直なフェライトコア63を有するものである。また、図7によれば、フェライトコア63は、受電コイル31の内周側を貫くものである。 ・上記キ、図14によれば、フェライトコア63は、フェライトコア63aに示すように絶縁部の中に複数の磁性部を設ける構造としても良く、フェライトコア63aは、複数の棒状の磁性部を磁界共鳴コイル面に対して垂直に配置した構造である。また、図14によれば、フェライトコア63aにおいて、複数の棒状の磁性部は、円筒形状に並べられて配置されるものである。 ・上記エによれば、受電装置3は、磁気共鳴用のコイルの近傍に磁性体を配置し、その結果、受電装置内の共鳴コイルが発生する磁界は、送電装置内で強くなって、結合効率を高めているものである。 そうすると、上記摘示事項及び図面の記載を総合勘案すると、引用例2には、図7に示される構造におけるフェライトコア63を、図14に示される構造のフェライトコア63aに変更した受電装置の発明として、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。 「LC共振回路であり磁気共鳴コイルとして機能する受電コイル31と、 電力取出コイル32と、 受電コイル31からみて送電コイル24の反対側に、受電コイル31のコイル面に対して平行に配置される磁性体62と、 受電コイル31の内周側を貫いて、受電コイル31に垂直なフェライトコア63aと を有している受電装置3であって、 送電コイル24と受電コイル31との間に磁界共鳴を発生させ、送電コイル24から受電コイルに31に磁界エネルギーを伝送し、 受電コイル31から電力取出コイル32に電磁誘導によってエネルギーが移動し、 フェライトコア63aは、複数の棒状の磁性部を磁界共鳴コイル面に対して垂直に、円筒形状に並べて配置した構造であり、 受電装置3は、磁気共鳴用のコイルの近傍に磁性体を配置し、その結果、受電装置内の共鳴コイルが発生する磁界は、送電装置内で強くなって、結合効率を高めている 受電装置3。」 3.対比・判断 そこで、本願発明と引用発明2とを対比する。 (1)引用発明2の「送電コイル24」は、磁界エネルギーを受電コイル31に伝送するものであるから、給電を行うものであり、本願発明の「給電モジュール」に相当する。また、引用発明2の「LC共振回路であり磁気共鳴コイルとして機能する受電コイル31」は、本願発明の「受電共振コイル」に相当する。そして、磁界共鳴は共振現象であるといえるから、引用発明2の「送電コイル24と受電コイル31との間に磁界共鳴を発生させ、送電コイル24から受電コイルに31に磁界エネルギーを伝送」することは、本願発明の「受電共振コイル」に「給電モジュールとの間で共振する共振現象により電力が供給される」ことに相当する。 (2)引用発明2の「電力取出コイル32」は、「受電コイル31から電力取出コイル32に電磁誘導によってエネルギーが移動」するものであるから、移動するエネルギーを受けることにより受電するものであり、本願発明の「前記受電共振コイルから電力を受け取る受電コイル」に相当する。 (3)引用発明2の「磁性体62」及び「フェライトコア63a」を構成する「複数の棒状の磁性部」は、本願発明の「磁性部材」に相当する。 (4)引用発明2の「・・・受電コイル31と、電力取出コイル32と、・・・磁性体62と、・・・フェライトコア63aとを有している受電装置3」は、本願発明の「・・・受電共振コイルと、・・・受電コイルと、・・・磁性部材とを有していることを特徴とする受電装置」に相当する。 (5)引用発明2の「フェライトコア63a」を構成する「複数の棒状の磁性部」は、磁界共鳴コイル面に対して垂直に、円筒形状に並べて配置した構造であるから、本願発明の「筒形状の筒部」に相当する。また、引用発明2の「フェライトコア63a」は、受電コイル31の内周側を貫くものであるから、「フェライトコア63a」を構成する「複数の棒状の磁性部」は、受電共振コイルの内周側に配置されたものであるといえる。したがって、引用発明2の「受電コイル31の内周側を貫いて、受電コイル31に垂直なフェライトコア63a」が、「複数の棒状の磁性部を磁界共鳴コイル面に対して垂直に、円筒形状に並べて配置した構造」であることは、本願発明の「磁性部材」が、「前記受電共振コイルの内周側及び外周側の少なくとも何れか一方側に配置された筒形状の筒部を有して」いることに相当する。 (6)引用発明2の「受電装置3は、磁気共鳴用のコイルの近傍に磁性体を配置」することについて、受電装置3の磁気共鳴用のコイルとは、磁気共鳴コイルとして機能する「受電コイル31」であるから、「磁気共鳴用のコイルの近傍」に配置される「磁性体」には、「受電コイル31からみて送電コイル24の反対側に、受電コイル31のコイル面に対して平行に配置される磁性体62」と、「受電コイル31の内周側を貫いて、受電コイル31に垂直なフェライトコア63a」を構成する「複数の棒状の磁性部」とが含まれると解するのが自然である。 そして、引用発明2の「フェライトコア63a」は、受電コイル31の内周側を貫くものであるから、受電コイル31の内周側に存在し、受電コイル31の外周側に存在しないものである。したがって、引用発明2の「フェライトコア63a」を構成する「複数の棒状の磁性部」は、本願発明の「前記内周側のみに前記筒部を配置した配置形態」のものであるといえる。 そうすると、引用発明2の「受電装置3は、磁気共鳴用のコイルの近傍に磁性体を配置」することは、本願発明の「前記内周側のみに前記筒部を配置した配置形態」に相当する。 また、引用発明2の「受電装置3は、磁気共鳴用のコイルの近傍に磁性体を配置し、その結果、受電装置内の共鳴コイルが発生する磁界は、送電装置内で強くなって、結合効率を高めている」ということが、磁気共鳴用のコイルの近傍に磁性体を配置しない場合と比較して、磁界が強くなり、結合効率が高くなっていることを意味するものであることは、明らかである。 そして、引用発明2の「受電装置内の共鳴コイルが発生する磁界は、送電装置内で強くなって、結合効率を高めている」ことは、共振時の磁界結合を増加した値に設定していることになり、増加した値は増減した値に含まれるものであるから、共振時の磁界結合の強度を増減した値に設定したものであるといえる。 そうすると、引用発明2の「受電装置3は、磁気共鳴用のコイルの近傍に磁性体を配置し、その結果、受電装置内の共鳴コイルが発生する磁界は、送電装置内で強くなって、結合効率を高めている」ことは、本願発明の「前記共振時の磁界結合の強度を、前記磁性部材が存在しない場合の磁界結合の強度よりも増減した値に設定した」ものであるといえる。 したがって、引用発明2の「受電装置3は、磁気共鳴用のコイルの近傍に磁性体を配置し、その結果、受電装置内の共鳴コイルが発生する磁界は、送電装置内で強くなって、結合効率を高めている」ことは、「前記内周側のみに前記筒部を配置した配置形態」によって、「前記共振時の磁界結合の強度を、前記磁性部材が存在しない場合の磁界結合の強度よりも増減した値に設定した」ものといえるから、本願発明の「磁性部材」が「前記内周側のみに前記筒部を配置した配置形態と、前記外周側のみに前記筒部を配置した配置形態と、前記内周側及び前記外周側にそれぞれ前記筒部を配置した配置形態との何れかによって、前記共振時の磁界結合の強度を、前記磁性部材が存在しない場合の磁界結合の強度よりも増減した値に設定した」ことに相当する。 そうすると、本願発明と引用発明2とは、次の点で一致し、相違点はない。 <一致点> 「給電モジュールとの間で共振する共振現象により電力が供給される受電共振コイルと、 前記受電共振コイルから電力を受け取る受電コイルと、 前記受電共振コイルの内周側及び外周側の少なくとも何れか一方側に配置された筒形状の筒部を有しており、 前記内周側のみに前記筒部を配置した配置形態と、前記外周側のみに前記筒部を配置した配置形態と、前記内周側及び前記外周側にそれぞれ前記筒部を配置した配置形態との何れかによって、前記共振時の磁界結合の強度を、前記磁性部材が存在しない場合の磁界結合の強度よりも増減した値に設定した磁性部材と を有していることを特徴とする受電装置。」 4.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用例2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2018-10-18 |
結審通知日 | 2018-10-23 |
審決日 | 2018-11-06 |
出願番号 | 特願2013-75781(P2013-75781) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H02J)
P 1 8・ 575- Z (H02J) P 1 8・ 113- Z (H02J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 宮本 秀一 |
特許庁審判長 |
酒井 朋広 |
特許庁審判官 |
関谷 隆一 東 昌秋 |
発明の名称 | 受電装置 |
代理人 | 特許業務法人梶・須原特許事務所 |