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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1347292
審判番号 不服2017-12323  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-21 
確定日 2018-12-20 
事件の表示 特願2016-206227「偏光フィルムの製造方法および製造装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月 5日出願公開,特開2017-182035〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本件出願」という。)は,平成28年10月20日(優先権主張 平成28年3月28日)の出願であって,平成29年1月31日付けで拒絶理由が通知され,平成29年3月14日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年5月29日付けで拒絶査定がなされたものである。
本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,平成29年8月21日に請求されたものであって,当審において,平成30年7月25日付けで拒絶理由が通知され,同年9月25日に意見書及び手続補正書が提出された。


2 請求項1に係る発明
本件出願の請求項1ないし4に係る発明は,平成30年9月25日提出の手続補正書による補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項によって特定されるものと認められるところ,請求項1の記載は次のとおりである。

「ポリビニルアルコール系フィルムに膨潤処理と染色処理とを順に行って偏光フィルムを製造する方法であって,
前記膨潤処理は,前記ポリビニルアルコール系フィルムをn個(nは2以上の自然数)の膨潤槽に順に通過させることにより行われ,
前記ポリビニルアルコール系フィルムの搬送方向のn番目の膨潤槽の温度は,k番目(1≦k≦(n-1))の膨潤槽の温度以下であり,
前記膨潤槽のTOC濃度を1500ppm以下に維持して,前記膨潤処理を行う,偏光フィルムの製造方法。」(以下,「本件発明」という。)


3 当審において通知された拒絶理由の概要
当審において平成30年7月25日付けで通知された拒絶理由は,概略次のとおりである。
(1)理由1(サポート要件違反)
本件出願の請求項1ないし4に係る発明は,本件出願の明細書(以下,「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明に記載されたものでないから,本件出願は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。

(2)理由2(進歩性欠如)
本件出願の請求項1ないし4に係る発明は,引用文献1(特開2007-51166号公報)に記載された発明及び引用文献2(特開2014-197050号公報)に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同法29条2項の規定により特許を受けることができない。


4 理由1(サポート要件違反)についての判断
(1)本件明細書の発明の詳細な説明の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には,発明が解決しようとする課題やその解決手段に関連して,次の記載がある。(下線は,後述する「(2)発明の詳細な説明の記載から把握される事項」に特に関連する箇所を示す。)
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,偏光フィルムの製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,偏光フィルムの製造方法としては,特開2004-125816号公報(特許文献1)に記載されたものがある。この偏光フィルムの製造方法は,ポリビニルアルコール系フィルムに膨潤処理と染色処理とを順に行って偏光フィルムを製造する。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで,本願発明者は,前記従来のような偏光フィルムの製造方法について,研究を行ってきた。この結果,本願発明者は,膨潤処理に用いられる膨潤槽において泡立ちが発生することに着目した。そして,泡立ちの発生が多くなると,膨潤槽を通過するポリビニルアルコール系フィルムに泡が付着し,泡に起因してポリビニルアルコール系フィルムに汚れが付着して,偏光フィルムに欠陥が発生するおそれがあることを見出した。
【0005】
そこで,本発明の課題は,膨潤槽における泡立ちの発生を効果的に抑制することにより,ポリビニルアルコール系フィルムへの汚れの付着を低減し,汚れに起因する偏光フィルムの欠陥の発生を低減できる偏光フィルムの製造方法および製造装置を提供することにある。」

イ 「【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため,本発明の偏光フィルムの製造方法は,
ポリビニルアルコール系フィルムに膨潤処理と染色処理とを順に行って偏光フィルムを製造する方法であって,
前記膨潤処理は,前記ポリビニルアルコール系フィルムをn個(nは自然数)の膨潤槽に順に通過させることにより行われ,
前記膨潤槽のTOC濃度を10000ppm以下に維持して,前記膨潤処理を行う。
【0007】
本発明の偏光フィルムの製造方法によれば,膨潤槽のTOC濃度を10000ppm以下に維持して膨潤処理を行うので,膨潤槽での泡立ちの発生を効果的に抑制でき,ポリビニルアルコール系フィルムが膨潤槽を通過する際に,ポリビニルアルコール系フィルムに泡が付着することを低減できる。したがって,泡に起因するポリビニルアルコール系フィルムへの汚れの付着も低減でき,汚れに起因する偏光フィルムの欠陥の発生を低減できる。
【0008】
また,偏光フィルムの製造方法の一実施形態では,
nは2以上であり,
前記ポリビニルアルコール系フィルムの搬送方向のn番目の膨潤槽の温度は,k番目(1≦k≦(n-1))の膨潤槽の温度以下である。
【0009】
前記実施形態によれば,n番目の膨潤槽の温度は,k番目の膨潤槽の温度以下であるので,温度の低いn番目の膨潤槽では,ポリビニルアルコール系フィルムから可塑剤が溶出し難くなり,泡立ちの発生を一層確実に抑制できる。」

ウ 「【発明の効果】
【0016】
本発明の偏光フィルムの製造方法および製造装置によれば,膨潤槽における泡立ちの発生を効果的に抑制することにより,ポリビニルアルコール系フィルムへの汚れの付着を低減し,汚れに起因する偏光フィルムの欠陥の発生を低減できる。」

エ 「【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の偏光フィルム製造装置の一実施形態を示す簡略構成図である。」

オ 「【発明を実施するための形態】
【0018】
以下,本発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
・・・(中略)・・・
【0020】
偏光フィルム製造方法は,PVA系フィルム2に膨潤処理と染色処理とを順に行って偏光フィルム3を製造する。膨潤処理は,PVA系フィルム2を2個の膨潤槽11,12に順に通過させることにより行われ,膨潤槽11,12のTOC濃度を10000ppm(mg/L)以下に維持して,膨潤処理を行う。なお,偏光フィルム製造方法は,図1に示す偏光フィルム製造装置5の構成に限定されず,実施することができる。
【0021】
偏光フィルム製造方法5および偏光フィルム製造方法によれば,膨潤槽11,12のTOC濃度を10000ppmに維持して膨潤処理を行うので,膨潤槽11,12での泡立ちの発生を効果的に抑制でき,PVA系フィルム2が膨潤槽11,12を通過する際に,PVA系フィルム2に泡が付着することを低減できる。したがって,泡に起因するPVA系フィルム2への汚れの付着も低減し,汚れに起因する偏光フィルム3の欠陥の発生を低減できる。
【0022】
これに対して,膨潤槽11,12のTOC濃度が10000ppmを超えて膨潤処理を行うと,膨潤槽11,12において泡立ちの発生が多くなり,膨潤槽11,12を通過するPVA系フィルム2に泡が付着するおそれがある。この結果,泡に起因してPVA系フィルム2に汚れが付着して,偏光フィルム3に欠陥が発生しやすくなる。
【0023】
要するに,本願発明者は,膨潤槽11,12のTOC濃度と膨潤槽11,12の泡立ちとの関係,PVA系フィルム2への泡の付着とPVA系フィルム2への汚れの付着との関係,PVA系フィルム2への汚れの付着と偏光フィルム3の欠陥の発生との関係を見出し,本願発明を完成するに至った。
【0024】
好ましくは,膨潤槽は,n個(nは2以上の自然数)であり,PVA系フィルム2の搬送方向のn番目の膨潤槽の温度は,k番目(1≦k≦(n-1))の膨潤槽の温度以下である。つまり,搬送方向の最下流の膨潤槽の温度は,その他の膨潤槽の温度以下である。このように,n番目の膨潤槽の温度は,k番目の膨潤槽の温度以下であるので,温度の低いn番目の膨潤槽では,PVA系フィルム2から可塑剤が溶出し難くなり,泡立ちの発生を一層確実に抑制できる。」

カ 「【実施例】
【0059】
以下,本発明の実施例を説明するが,本発明はこの実施例によって限定されるものではない。
(実施例1)
【0060】
実施例1では,20℃の純水にPVA系フィルムを含浸させて,グリセリン等の可塑剤やポリビニルアルコールを抽出し,含浸させるPVA系フィルムの量を調整することにより,TOC濃度の異なる溶液を複数調整した。TOC濃度の異なる液体を110mlのバイアル瓶に50ml採取して,上下に激しく攪拌した。5分後の泡立ちの高さを記録した。TOC濃度(ppm)と泡立ち高さ(mm)との関係を,表1と図2に示す。TOC濃度の測定には,SHIMADZU社製,TOC-V CPHを使用した。
【0061】
【表1】

【0062】
表1と図2に示すように,700ppmと2100ppmとの間と,8800ppmと10000ppmとの間にて,泡立ち高さに差があることが分かった。つまり,2100ppm以下では,泡立ちの高さが急激に低くなり,2100ppmから8800ppmの間では,泡立ちの高さがほぼ一定となり,10000ppmを超えると,泡立ちの高さが急激に高くなった。
(実施例2)
【0063】
実施例2では,TOC濃度の異なる溶液調整方法については実施例1と同様に行った。TOC濃度の異なる液体サンプルをJIS K 2518の泡立ち試験方法に従って,泡立ち度(ml)および泡安定度(ml)を測定した。ただし,サンプル量については150ml,24℃にて実施した。TOC濃度(ppm)と泡立ち度(ml)および泡安定度(ml)との関係を,表2に示す。
【0064】
泡立ち度とは,規定温度(24℃)で5分間空気吹込み終了直後の泡の体積(ml)である。泡安定度とは,泡立ち度測定後,更に10分間放置した後の泡の体積(ml)である。TOC濃度の異なる溶液のTOC濃度の測定は,JISK010120.1 有機体炭素定量法(燃焼酸化一赤外線式TOC分析法)の方法に従い行った。
【0065】
【表2】

【0066】
表2に示すように,1100ppmと1800ppmとの間と,3600ppmと5500ppmの間に,泡立ち度と泡安定度に差があることが分かった。
【0067】
したがって,実施例1(表1)と実施例2(表2)から分かるように,10000ppm以下では,泡立ちの高さや泡立ち度を抑制できる。この結果,10000ppm以下では,泡立ちの発生を少なくでき,3600ppm以下,2100ppm以下,1800ppm未満とするとさらに泡立ちの発生を抑えられる。PVA系フィルムへの汚れの付着を低減し,偏光フィルムの欠陥の発生を低減できる。これに対して,10000ppmを超えると,泡立ちの高さや泡立ち度が急激に高くなる。この結果,10000ppmを超えると,泡立ちの発生が多くなって,PVA系フィルムに汚れが付着して,偏光フィルムに欠陥が発生するおそれがある。」

キ 「【図1】



(2)発明の詳細な説明の記載から把握される事項
ア 前記(1)アで摘記した記載(特に【0005】)から,本件発明が解決しようとする課題は,汚れに起因する偏光フィルムの欠陥の発生を低減できる偏光フィルムの製造方法を提供することにあると理解される。
また,前記(1)イで摘記した記載や,前記2に示した請求項1の記載から,本件発明は,前記課題を解決するために,専ら,「膨潤槽のTOC濃度を1500ppm以下に維持して,膨潤処理を行う」という手段(以下,「第1解決手段」という。)と,「ポリビニルアルコール系フィルムの搬送方向のn番目の膨潤槽の温度は,k番目(1≦k≦(n-1))の膨潤槽の温度以下である」という手段(以下,「第2解決手段」という。)を採用したものと理解される。
そして,前記(1)アで摘記した【0004】,前記(1)オで摘記した【0023】等には,前記解決課題の「汚れに起因する偏光フィルムの欠陥」が発生する作用機序について,膨潤槽を通過するポリビニルアルコール系フィルムに,膨潤槽において発生した泡が付着し,当該泡に起因して前記ポリビニルアルコール系フィルムに汚れが付着することによって,発生するものであることが説明され,前記(1)イで摘記した【0007】及び前記(1)オで摘記した【0021】には,第1解決手段によって,膨潤槽での泡立ちの発生を効果的に抑制でき,ポリビニルアルコール系フィルムに泡が付着することを低減できることから,課題を解決できる旨の説明がされ,前記(1)イで摘記した【0009】及び前記(1)オで摘記した【0024】には,第2解決手段によって,ポリビニルアルコール系フィルムから可塑剤が溶出し難くなり,泡立ちの発生を一層確実に抑制できるとの説明がされている。
さらに,前記(1)カで摘記した記載では,実施例1及び実施例2として,110mlのバイアル瓶に50ml採取して,上下に激しく攪拌したときの,TOC濃度の異なる複数の液体における5分後の泡立ちの高さ,及び,TOC濃度の異なる複数の液体サンプルにおける規定温度(24℃)で5分間空気吹込み終了直後の泡の体積(ml)である泡立ち度と泡立ち度測定後更に10分間放置した後の泡の体積(ml)である泡安定度が示されている。

イ 第1解決手段に関して,TOC濃度が小さくなると,発生する泡の合計体積が小さくなるであろうことは,技術常識から当業者が理解できることであり,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例1によって確認されたことでもある。また,発生した泡の合計体積が小さくなれば,ポリビニルアルコール系フィルムに付着する泡の合計体積も小さくなることは自明である。
そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明の記載や技術常識から,当業者は,第1解決手段を採用することによって,少なくとも,発生する泡の合計体積を所定程度以下に抑制することができ,ポリビニルアルコール系フィルムに付着する泡の合計体積も抑制できるであろうことを認識できるといえる。
しかしながら,前記実施例1及び実施例2の実験条件が,膨潤処理における泡立ち発生に関係する各種条件とは全く異なるものであることから,本件明細書の発明の詳細な説明の当該実施例1及び実施例2に関する記載から,第1解決手段を採用した偏光フィルムを製造する方法において,膨潤処理での泡の発生をゼロにでき,ポリビニルアルコール系フィルムに泡が完全に付着しないようにできると,認識できるわけではない。また,第1解決手段を採用することで,発生する泡の合計体積を所定程度以下に抑制できることを認識できるとはいっても,発生する泡1個当たりの平均体積やそのばらつき,泡の発生個数等が,具体的にどのようになるのか,また,当該泡に起因して付着する汚れの状態(付着する汚れの数や,汚れ1個当たりの平均面積等)がどのようなものになり,当該汚れに起因して発生する欠陥の数がどの程度になるのかまでは,当該実施例1及び実施例2に関する記載からは,当業者といえども認識することができない。
さらに,本件明細書の発明の詳細な説明には,ポリビニルアルコール系フィルムに付着した泡に起因して,ポリビニルアルコール系フィルムに付着する「偏光フィルムの欠陥を引き起こす汚れ」とは,どのような種類の汚れであるのか,また,どのような作用機序で,そのような汚れが,ポリビニルアルコール系フィルムに付着した泡に起因して,ポリビニルアルコール系フィルムに付着することになり,どのような作用機序で,当該汚れに起因して欠陥が発生するのか等についての具体的な説明は,全く記載されていないし,それらのことが,本件出願の出願当時の技術常識であったとも認められない。そして,それらのことが理解できないことから,発生する欠陥が,専ら付着した泡の合計体積を小さくしさえすれば,減少するものであるのか,それとも,付着した泡の合計体積とは異なるパラメータに大きく依存するものであって,付着した泡の合計体積を小さくしたからといって,必ずしも減少するわけではないのか等について,たとえ当業者といえども理解することができない。したがって,実施例1及び実施例2に関する記載以外の本件明細書の発明の詳細な説明の記載や,技術常識に基づいて,第1解決手段を採用すれば,発明の課題を解決できるであろうと当業者が認識できるというわけでもない。
以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載や本件出願の出願当時の技術常識からは,当業者は,第1解決手段を採用することで,製造される偏光フィルムにおける欠陥の発生を抑制できると,すなわち,発明の課題を解決できると認識することができないというべきである。

ウ 第2解決手段に関しては,第1解決手段と同じ理由によって,たとえ本件明細書の発明の詳細な説明の記載や本件出願の出願当時の技術常識を参酌しても,第2解決手段を採用することによって,発明の課題を解決できると,当業者が認識することはできない。
また,そもそも,本件明細書の発明の詳細な説明には,第2解決手段によって,搬送方向の最終段の膨潤槽において,ポリビニルアルコール系フィルムから可塑剤が溶出し難くなり,泡立ちの発生を一層確実に抑制できる旨の説明がされているが,当該最終段の膨潤槽においても,そのTOC濃度は「1500ppm以下に維持」されているのであって,他の膨潤槽よりTOC濃度が低いというわけではない。したがって,第2解決手段を採用することによって,最終段の膨潤槽において,ポリビニルアルコール系フィルムから可塑剤が溶出し難くなったとしても,当該最終段の膨潤槽における泡立ちの発生を他の膨潤槽より抑制できるわけでないことは,技術的にみて明らかである。(TOC濃度を1500ppm以下にするための新液の供給量を少なくできる,あるいは新液を供給する時間間隔を長くできるだけである。)
したがって,当該理由からも,第2解決手段を採用することによって,発明の課題を解決できると,当業者が認識することはできない。

エ 前記イ及びウのとおりであって,たとえ本件明細書の発明の詳細な説明の記載や本件出願の出願当時の技術常識を参酌しても,第1解決手段又は第2解決手段を採用することによって,発明の課題を解決できると当業者が認識することはできないから,本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではなく,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもない。

(3)請求人の主張について
平成30年9月25日提出の意見書において,請求人は,本件発明の課題は「膨潤槽における泡立ちの発生を効果的に抑制する」ことであり,「汚れに起因する偏光フィルムの欠陥の発生を低減できる」ことは副次的な効果にすぎない旨主張する。
しかしながら,発明が解決しようとする課題の欄の【0005】の記載(前記(1)アを参照。)からは,請求人がいう「膨潤槽における泡立ちの発生を効果的に抑制する」ことは,課題解決に至る作用機序における本件発明の直接的な作用,機能と理解されるのであって,本件発明が解決しようとする課題は,前記(2)アで述べたように,「汚れに起因する偏光フィルムの欠陥の発生を低減できる偏光フィルムの製造方法を提供する」ことにあると解するのが相当である。
前記請求人の主張は採用できない。

(4)小括
以上のとおりであるから,本件発明は,発明の詳細な説明に記載されたものではない。


5 理由2(進歩性欠如)についての判断
(1) 引用例
ア 引用文献1
(ア)引用文献1の記載
当審において通知された理由2で引用された引用文献1(特開2007-51166号公報)は,本件出願の優先権主張の日(以下,「本件優先日」という。)より前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献1には次の記載がある。(下線部は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
a 「【技術分野】
【0001】
この発明は,液晶ディスプレー(LCD)の主要部材である偏光フィルム(偏光子)の製造の際に,第1ステップとして,基材としてのポリビニルアルコールフィルム(以下「PVAフィルム」と略称する)を膨潤水(純水)を介して膨潤するための膨潤方式及び該膨潤方式により膨潤したPVAフィルムによる偏光フィルムの製造方法,並びに前記により製造した偏光フィルムに保護フィルムを貼り付けて形成する偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
PVAフィルムの膨潤は,PVAフィルム中に膨潤水を浸透して,PVAフィルム中の可塑剤(PVAフィルムの成形時に使用)を膨潤水中に溶出除去するとともに,PVAフィルムを易染状態にすること,すなわち染色に適した膨潤状態(水素分子の結合の解離整列を含む)することを主目的にしたもので,従来においては,PVAフィルムを比較的高い張力(例えば10?15kg/m幅)のもとで複数のガイドローラを介して膨潤槽内の膨潤水中を例えば約1.5m/minの速度で搬送(案内)しながら膨潤水を自然浸透させる方式で行っている(例えば,特許文献1参照)。
【0003】
しかしながらこの従来のPVAフィルムの膨潤方式には,内部(中央部)に対する膨潤水の浸透が不完全になりやすく(これには,例えば10?15kg/m幅のように比較的高い張力による延伸に伴う歪み変形等が影響していると考えられる),このため内部の可塑剤の溶出除去が不十分で,表面部と内部の染色性能に差が生じやすいという染色性のムラの問題,すなわち厚さ方向の膨潤状態に差が生じやすいという膨潤ムラの問題が確認されている。このため膨潤に続く二色性物質(ヨウ素,二色性染料等)による染色が,表面部は高濃度,中央部が無染色又は低濃度というように厚さ方向において均一にならないという染色ムラの点から,最近のLCDの一層の特性アップ(高輝度化,高コントラスト化,高精細化等)の点から要求されているより均一な光学特性を有する偏光板を得るために必要な高偏光性能の偏光フィルムを製造することが難しい状況にある。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は,上記のような状況に鑑み,PVAフィルムの膨潤方式として,PVAフィルムの内部に対する膨潤水の浸透,内部の可塑剤の溶出除去が完全に近い状態に行われて,厚さ方向の膨潤状態が均一に近くなり,これにより膨潤に続く染色が厚さ方向においてより均一に行われて,高偏光特性を有する偏光フィルム並びに偏光板を製造可能なものを提供することを主要な課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明によれば,まず,特許請求の範囲の請求項1に記載のように,PVAフィルムを,複数のガイドローラを介して膨潤槽内の膨潤水中を搬送する過程において,膨潤水とともに超音波振動させることを特徴とする,PVAフィルムの膨潤方法を提供する。
・・・(中略)・・・
【0011】
さらにこの発明によれば,請求項7に記載のように,請求項1?3のいずれかに記載のPVAフィルムの膨潤方法を介して膨潤したPVAフィルムを,二色性物質で染色した後,延伸することからなる,偏光フィルムの製造方法を提供する。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0014】
特許請求の範囲の請求項1,2及び4に記載のこの発明に係るPVAフィルムの膨潤方法と装置によれば,PVAフィルムが膨潤槽内の膨潤水中を搬送中に,膨潤水とともに超音波振動を受けるため,膨潤水のPVAフィルム中への浸透が促進され,これによりPVAフィルム中の可塑剤の溶出除去が促進されて,厚さ方向の差が極小の状態の膨潤が迅速に行われる。このような均一に近い膨潤の結果,次の染色過程においては,二色性物質による染色がより均一に行われ,このためより優れた偏光特性を有する偏光フィルム,従って偏光特性が一段と優れた偏光板が得られる。
・・・(中略)・・・
【0017】
さらに請求項7と8に記載の偏光フィルムの製造方法によれば,用いるPVAフィルムの膨潤状態が均一であるので,二色性物質の染色が均一に行われ,より優れた偏光特性を有する偏光フィルムを製造することができる。」

b 「【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下図面に基づいて,この発明に係るPVAフィルムの膨潤方式の好適な実施形態について説明する。
【0020】
図示した形態では,膨潤槽11は,前後方向の中間部に立設したフィルム通行窓16付きの仕切り壁15を介して,PVAフィルム10の導入側の前槽12と,PVAフィルム10の導出側の後槽13に区画されており,前槽12の前部の膨潤水14中には,上方のフィルム導入ローラ17から導入されるPVAフィルム10を後方に向かって転向案内するガイドローラ18が設置されている一方,後槽13の後部の膨潤水14中には,前槽12から仕切り壁15のフィルム通行窓16を通して後槽13に搬送されたPVAフィルム10を,上方のフィルム導出ローラ20に向かって転向案内するためのガイドローラ19が設置されている。
【0021】
また膨潤槽11の前槽12の前後方向の中間部の膨潤水14中には,後槽13に向かって搬送されるPVAフィルム10の上方部と下方部に,超音波振動発生手段としての上下一対の投げ込み型の超音波振動子21,22が設置されている。
【0022】
さらにこれらの各超音波振動子21,22と仕切り壁15の間には,PVAフィルム10に沿って前方に向かう膨潤水流を形成するために,超音波振動子21,22側に開口する多数の吐水孔(図示せず)を有する上下一対の給水管23,24が配設されている。
【0023】
この図示の実施形態においては,フィルム導入ローラ17を介して膨潤槽11内の膨潤水14中に低張力(例えば1.0?1.5kg/m幅)で導入されるPVAフィルム10は各部が,前槽12の前後方向の中間部において,膨潤水14とともに順次超音波振動子21,22による超音波振動(周波数は例えば28KHz,40KHz)を受け,これにより膨潤水14の内部への浸透,内部の可塑剤の膨潤水14中への溶出が促進されて,均一でかつ完全に向かった膨潤が迅速に進行する。
【0024】
ここで膨潤水14中に溶出した可塑剤は,給水管23,24の吐水孔から吐出される膨潤水(矢印参照)に基づいたPVAフィルム10に沿う前方への膨潤水流によって,PVAフィルム10の超音波振動部から前方に流れ,超音波振動部の近傍の膨潤水14の可塑剤の濃度が低くなるので,可塑剤の溶出はより効果的に行われる。
【0025】
上記のようにして,膨潤水14とPVAフィルム10の超音波振動による膨潤水14の浸透と可塑剤の溶出の促進により,迅速に膨潤状態が均一で完全な方向に向かいつつあるPVAフィルム10は,仕切り壁15のフィルム通行窓16を通して,後槽13に入ると,膨潤水14中を後方,そしてガイドローラ18(審決注:「ガイドローラ18」は誤記であり,正しくは「ガイドローラ19」と解される。)を介して上方へ搬送案内される間に,膨潤水14の自然浸透による膨潤作用を受けるが,既に前槽12において相当量の可塑剤が溶出除去されているとともに,後槽13内の膨潤水14は汚染度(可塑剤の溶出濃度)が低いので,膨潤は均一でかつ完全な方向への仕上げの形で進行し,このような良好な膨潤状態でフィルム導出ローラ20を介して膨潤槽11外へ導出される。
【0026】
この後,PVAフィルム10は,二色性物質を収容する染色槽に導入して,染色加工をした後,延伸槽に導入して,延伸処理を施し,さらに定着処理や乾燥処理等を行って,偏光フィルムを製造する。
【0027】
この発明はこのほか,前槽内においてPVAフィルムに沿う膨潤水流を形成するための給水管を,後槽の膨潤水中の仕切り壁のフィルム通行窓近傍部に設けたり,後槽内の膨潤水の汚染度を低く保つために,後槽に新鮮な膨潤水の供給手段を付設するなど,種々の形態で実施することができる。」

c 「【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明に係るPVAフィルムの膨潤方式の一実施形態の構成概要図である。
・・・(中略)・・・
【図1】



(イ)引用文献1に記載された発明
前記(ア)aないしcで摘記した記載を含む引用文献1の全記載から,後槽13に新鮮な膨潤水の供給手段を付設した膨潤槽11を用いて膨潤を行う,偏光フィルムを製造する方法についての発明を把握することができるところ,当該発明の構成は次のとおりである。(なお,便宜上,PVAフィルム10を膨潤する工程を「膨潤工程」といい,膨潤したPVAフィルム10を染色する工程を「染色工程」といい,染色したPVAフィルム10を延伸する工程を「延伸工程」という。)

「基材としてのPVAフィルム10を膨潤槽11中で膨潤水14である純水を介して膨潤する膨潤工程と,膨潤したPVAフィルム10を二色性物質で染色する染色工程と,染色したPVAフィルム10を延伸する延伸工程とを有する,偏光フィルムの製造方法であって,
前記膨潤槽11は,前後方向の中間部に立設したフィルム通行窓16付きの仕切り壁15を介して,PVAフィルム10の導入側の前槽12と,PVAフィルム10の導出側の後槽13に区画され,
前記前槽12の前部の膨潤水14中には,上方のフィルム導入ローラ17から導入されるPVAフィルム10を後方に向かって転向案内するガイドローラ18が設置され,前後方向の中間部の膨潤水14中には,前記後槽13に向かって搬送されるPVAフィルム10の上方部と下方部に,上下一対の投げ込み型の超音波振動子21,22が設置され,各超音波振動子21,22と前記仕切り壁15の間には,PVAフィルム10に沿って前方に向かう膨潤水流を形成するために,前記超音波振動子21,22側に開口する多数の吐水孔を有する上下一対の給水管23,24が配設され,
前記後槽13の後部の膨潤水14中には,前記前槽12から前記仕切り壁15の前記フィルム通行窓16を通して前記後槽13に搬送されたPVAフィルム10を,上方のフィルム導出ローラ20に向かって転向案内するためのガイドローラ19が設置されるとともに,新鮮な膨潤水の供給手段を付設し,
前記膨潤工程は,PVAフィルム中の可塑剤を膨潤水中に溶出除去するとともに,PVAフィルムを易染状態にすること,すなわち染色に適した膨潤状態にすることを主目的にしたものであり,
当該膨潤工程では,
前記フィルム導入ローラ17を介して前記膨潤槽11内の膨潤水14中に1.0?1.5kg/m幅の低張力でPVAフィルム10が導入され,
前記前槽12の前後方向の中間部において,PVAフィルム10が膨潤水14とともに順次前記超音波振動子21,22による28KHz又は40KHzの超音波振動を受け,これにより膨潤水14の内部への浸透,内部の可塑剤の膨潤水14中への溶出が促進されて,均一でかつ完全に向かった膨潤が迅速に進行するようにされているとともに,前記給水管23,24の吐水孔からPVAフィルム10に沿う前方への膨潤水流を吐出することによって,膨潤水14中に溶出した可塑剤を,当該膨潤水流によってPVAフィルム10の超音波振動部から前方に流し,超音波振動部の近傍の膨潤水14の可塑剤の濃度を低くして,可塑剤の溶出をより効果的に行うようにされており,
前記仕切り壁15の前記フィルム通行窓16を通して,PVAフィルム10が前記後槽13に入ると,前記新鮮な膨潤水の供給手段によって汚染度が低く保たれた前記後槽13内の膨潤水14中を後方へ,そして前記ガイドローラ19を介して上方へ搬送案内される間に,汚染度が低く保たれた膨潤水14の自然浸透による膨潤作用を受け,膨潤が均一でかつ完全な方向への仕上げの形で進行し,
PVAフィルム10が良好な膨潤状態で,前記フィルム導出ローラ20を介して前記膨潤槽11外へ導出されるよう構成されている,
偏光フィルムの製造方法。」(以下,「引用発明」という。)

イ 引用文献2
(ア)引用文献2の記載
当審において通知された理由2で引用された引用文献2(特開2014-197050号公報)は,本件優先日より前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献2には次の記載がある。(下線部は,後述する引用文献2技術の認定に特に関係する箇所を示す。)
a 「【技術分野】
【0001】
本発明は,液晶表示装置に使用する偏光フィルムを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
・・・(中略)・・・
【0003】
偏光フィルムは,ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対して膨潤処理,染色処理,延伸処理,ホウ酸処理(架橋処理)及び洗浄処理が施され,最後に乾燥することにより製造される。この延伸処理は,通常,1対のニップロールを用いて,それらニップロールの回転周速を変えることで行われる。
【0004】
近年,市場では液晶表示装置の大型化や薄型化に加え,高い表示品質を求める傾向があり,これに伴い偏光フィルムの幅広化や薄膜化,例えば大型の偏光フィルムの面積全体における優れた光学特性及び面内均一性等の高性能化を達成できる製造方法が求められている。大型の偏光フィルムを製造するためには,幅広の原反フィルムを均一に一軸延伸することが必要となる。・・・(中略)・・・
【0005】
例えば,特許第4229932 号公報(特許文献1)には,膨潤処理槽を複数設け,それらのうちの前段側に位置する膨潤処理槽の浴温を,後方に位置する膨潤処理槽の浴温よりも高く設定することで,色ムラが抑制された高品質の偏光フィルムを短時間に製造できる偏光フィルムの製造方法が開示されている。この製造方法によると,樹脂フィルムの膨張量が短時間で飽和に至るため,続く染色処理においてフィルムが膨潤しにくくなり,これに起因する偏光フィルムの色ムラが抑制される。一方で,特許文献1のように先に位置する膨潤処理槽の浴温を高くしただけでは,高い処理温度によりフィルムが急激に膨潤し,フィルムの厚さが不均一になったり,次の膨潤処理浴の温度によってはフィルムがさらに膨潤し,フィルムにシワが発生して外観が悪化したりするという問題がある。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は,生産性に優れ,ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルムに対して施す各処理,特に膨潤処理におけるフィルムの厚さの不均一化やシワの発生を抑制し,外観に優れる偏光フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は,鋭意検討の結果,ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルムに対し,膨潤処理,染色処理,ホウ酸処理,及び洗浄処理をこの順に施して偏光フィルムを製造するに際し,原反フィルムの厚さが10?60μm であり,この原反フィルムが複数の膨潤処理槽を通過することで膨潤処理が施される場合,原反フィルムが最初に通過する第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率が所定の範囲内であり,この膨張率と続く第二の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率との差が所定の範囲内となるように第一の膨潤処理槽並びに第二の膨潤処理槽の処理温度及び処理槽を通過する時間を調整することで,原反フィルムが薄い場合であっても,フィルムの膨潤ムラやこれに起因するシワの発生を抑制することができ,外観の良好なフィルムを効率良く得られるということを見出した。・・・(中略)・・・本発明は,このような知見に基づいて完成されたものである。
【0009】
すなわち本発明によれば,ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルムに対し,膨潤処理,染色処理,ホウ酸処理,及び洗浄処理をこの順に施して偏光フィルムを製造する方法であって,原反フィルムの厚さが10?60μm であり,上記の膨潤処理が,原反フィルムが入る側から順に少なくとも第一の膨潤処理槽及び第二の膨潤処理槽を含む複数の膨潤処理槽を通過させることにより施され,第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率が,同じ温度の処理液に浸漬したときの飽和膨張率の90%以下であり,第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率と,第二の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率をそれぞれ百分率で表示したときの差が,絶対値で2ポイント以内となるように,第一の膨潤処理槽及び第二の膨潤処理槽の処理温度と処理槽を通過する時間を調整する偏光フィルムの製造方法が提供される。
【0010】
この方法において,第一の膨潤処理槽の処理温度は35?45℃であり,第二の膨潤処理槽の処理温度は,第一の膨潤処理槽の処理温度より低く,25?35℃であることが好ましい。・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0013】
本発明の偏光フィルムの製造方法によれば,偏光フィルムを製造する際に施す各処理,特に膨潤処理において,フィルムの膨潤ムラを抑制し,これに起因するフィルムのシワや破断の発生も抑制できるため,外観に優れた偏光フィルムを効率良く得ることができる。」

b 「【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明では,ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルムに対し,膨潤処理,染色処理,ホウ酸処理及び洗浄処理をこの順に施して偏光フィルムを製造する。そして,洗浄処理の後,乾燥処理を施して得られる偏光フィルムは,シワなどが抑制されたものとなり,偏光板に好適に用いられる。以下,本発明について詳細に説明する。
【0015】
[偏光フィルムの製造方法]
・・・(中略)・・・
【0018】
(膨潤処理)
膨潤処理は,ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルムの表面の異物除去,フィルム中の可塑剤の除去,続く染色処理における易染色性の付与,フィルムの可塑化などの目的で施される。処理条件は,これらの目的が達成できる範囲で,かつポリビニルアルコール系樹脂フィルムの極端な溶解,透明性の失透などの不具合が生じない範囲で決定される。原反フィルムに対して最初に膨潤処理を施す場合は,例えば,温度が約20?50℃,好ましくは25?45℃である処理浴にフィルムを浸漬して行われる。フィルムの浸漬時間は,例えば,約30?300秒,好ましくは40?200秒である。
・・・(中略)・・・
【0023】
本発明の一つの実施形態として,膨潤処理が複数の工程を経て施される形態を挙げることができる。この場合,膨潤処理は,原反フィルムが入る側から順に少なくとも第一の膨潤処理槽及び第二の膨潤処理槽を含む複数の膨潤処理槽を通過することにより施される。第一の膨潤処理槽及び第二の膨潤処理槽における処理温度及びフィルムが通過する時間は各処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率が所定の範囲内となるように,適宜調整される。
【0024】
ここで,上記したフィルムの幅方向の膨張率について説明する。フィルムの幅方向の膨張率とは,膨潤処理により生じたフィルムの幅方向における膨張量を百分率で表したものである。・・・(中略)・・・
【0025】
したがって,本発明でいう第一の膨潤処理槽における膨張率とは,上記のフィルム断片に対し,第一の膨潤処理槽で施すのと同じ処理条件で膨潤処理を施したときの膨張率をさす。・・・(中略)・・・
【0026】
同様に,本発明でいう第二の膨潤処理槽における膨張率とは,上記の第一の膨潤処理槽と同じ処理条件で膨潤処理を施したフィルム断片に対し,さらに第二の膨潤処理槽で施すのと同じ処理条件で膨潤処理を施したときの膨張率をさす。・・・(中略)・・・
【0027】
また,本発明でいう飽和膨張率とは,上記の膨潤処理槽における膨張率の算出に用いたのとは別に長尺方向50mm×幅方向50mmのフィルム断片を原反フィルムから裁断し,これを処理浴に10分間浸漬させたときの膨張率をさす。・・・(中略)・・・
【0028】
本発明では,膨潤処理を複数の工程で施す一つの実施形態において,第一の膨潤処理槽におけるポリビニルアルコール系樹脂フィルムの幅方向の膨張率が,同じ温度の処理液に浸漬したときの飽和膨張率の90%以下となるように処理槽を通過する時間を調整する。飽和膨張率の90%以下とすることで,フィルムの送り速度を速くした場合においても,巨大な製造装置を使用する必要が無く,効率的に膨潤処理を施すことができる。また,第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率は,好ましくは70%以上であることが好ましい。70%より小さいと,膨潤処理において,フィルム面内を均一に膨潤させることが難しく,色ムラやシワが発生しやすくなる。
【0029】
また,上記の第一の膨潤処理槽における膨張率があまりに小さく,第二の膨潤処理槽での膨張率が大きくなる場合は,第二の膨潤処理槽でフィルムが急激に膨潤するため,フィルムの端部と中央部で膨張率に偏りが生じる。その結果,処理槽内部において前記の拡幅装置を経由したとき,この膨張率の偏りによってシワが発生することがある。一方,第一の膨潤処理槽における膨張率が大きすぎる場合,処理槽内部において経由する拡幅装置で,フィルムを十分に拡幅することができず,シワが発生することがある。したがって,上記した第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率及び第二の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率をそれぞれ百分率で表示したときの差が,絶対値で2ポイント以内となるように,第一の膨潤処理槽及び第二の膨潤処理槽の処理温度と処理槽を通過する時間を調整することが重要である。
【0030】
このように第一の膨潤処理槽及び第二の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率をそれぞれ百分率で表示したときの差が,絶対値で2ポイント以内となるように第一の膨潤処理槽及び第二の膨潤処理槽の処理温度と処理槽を通過する時間を調整することで,第一の膨潤処理槽での処理不足を抑制し,第二の膨潤処理槽での好ましくない急激な膨潤を抑制することができる。また,第一の膨潤処理槽及び第二の膨潤処理槽の処理温度と処理槽を通過する時間を組み合わせることによって,膨潤時にフィルムの厚さが不均一になることを抑制できるため,これに起因するシワの発生も抑制され,光学特性や外観のよい偏光フィルムを作製することができる。
【0031】
膨潤処理が複数の膨潤処理槽を通過して施される場合,膨潤処理の時間を短縮する観点から,第一の膨潤処理槽の処理温度は,第二の膨潤処理槽の処理温度より高いことが好ましく,35?45℃であることが好ましい。また,第二の膨潤処理槽の温度は25?35℃であることが好ましい。さらに,第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率が,15?25%となるように第一の膨潤処理槽の処理温度及び処理槽を通過する時間を調整することが好ましい。
【0032】
第一の膨潤処理槽をフィルムが通過する時間は,10?60秒,好ましくは15?50秒である。なお,第二の膨潤処理槽をフィルムが通過する時間も10?60秒,好ましくは15?50秒である。」

c 「【0067】
〔実施例1〕
厚さ60μm の長尺のポリビニルアルコールフィルム〔(株)クラレ製の商品名“クラレポバールフィルムVF-PE#6000”,重合度2400,ケン化度 99.9モル%以上〕を用意し,膨潤処理として,37℃の純水が入った第一の膨潤処理槽に,フィルムが弛まないように緊張状態を保ったまま40秒間浸漬した後,30℃の純水が入った第二の膨潤処理槽に20秒間フィルムを浸漬した。このとき,第一の膨潤処理槽内では,エキスパンダーロールを経由させてフィルムを搬送した。次に,染色処理としてヨウ素とヨウ化カリウムを含む30℃の水溶液が入った染色処理槽に60秒間浸漬しつつ,2.2 倍まで一軸延伸を行い,ヨウ化カリウム/ホウ酸/水が重量比で12/ 4.4/100の55℃の水溶液が入った架橋処理槽に浸漬して耐水化処理しつつ,原反からの積算延伸倍率が5.5 倍になるまで一軸延伸を行った。続いて,40℃のホウ酸水溶液が入った補色処理槽に浸漬した後,12℃の純水が入った洗浄処理槽に浸漬し,その後乾燥炉にて70℃で3分間乾燥して偏光フィルムを作製した。膨潤処理においてシワの発生は見られず,フィルムの破断も見られなかった。
・・・(中略)・・・
【0079】
〔比較例1〕
第一の膨潤処理槽におけるフィルムの浸漬時間を10秒間に変更した以外は実施例1と同様にして偏光フィルムを作製した。第一の膨潤処理槽及び第二の膨潤処理槽においてシワが発生し,延伸時にフィルムの切断が多発した。また,得られた偏光フィルムの外観を確認するとシワが見られた。
・・・(中略)・・・
【0099】
【表1】

【0100】
表1より,本発明の規定をすべて満たす実施例1,及び実施例1と同じ原反フィルムを用いているが本発明の規定を満たさない比較例1を比較すると,実施例1では第一の膨潤処理槽において十分にフィルムが膨潤された結果,製造中に続く第二の膨潤処理槽における膨張率の差に起因するシワが発生することなく,得られた偏光フィルムにもシワが確認されず外観が良好であったのに対し,比較例1では,処理時間が短いため十分に膨潤されなかった結果,製造中にシワやフィルムの破断が発生し,得られた偏光フィルムでもシワが確認された。」

(イ)引用文献2に記載された技術事項
前記(ア)aないしcで摘記した引用文献2の全記載から,引用文献2の次の技術事項が記載されていると認められる。

「偏光フィルムを製造する方法において,
原反フィルムとして,ポリビニルアルコール系樹脂からなる厚さが10?60μmのものを用い,
原反フィルムに対する膨潤処理を,原反フィルムが入る側から順に第一の膨潤処理槽及び第二の膨潤処理槽を通過させることにより施し,
前記第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率が,同じ温度の処理液に浸漬したときの飽和膨張率の70%以上90%以下であって,15?25%となり,かつ,前記第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率と,前記第二の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率をそれぞれ百分率で表示したときの差が,絶対値で2ポイント以内となるように,前記第一の膨潤処理槽及び前記第二の膨潤処理槽の処理温度と処理槽を通過する時間を調整し,
前記第一の膨潤処理槽の処理温度を35?45℃とし,第二の膨潤処理槽の処理温度を第一の膨潤処理槽の処理温度より低く,25?35℃とすることによって,
膨潤ムラが抑制でき,これに起因するフィルムのシワや破断の発生も抑制できるため,外観に優れた偏光フィルムを効率良く得ることができること。」(以下,「引用文献2技術」という。)

(2)対比
ア 引用発明の「PVAフィルム10」,「膨潤」,「染色」,「偏光フィルム」,「偏光フィルムの製造方法」及び「膨潤槽11」は,その作用,機能等からみて,本件発明の「ポリビニルアルコール系フィルム」,「膨潤処理」,「染色処理」,「偏光フィルム」,「偏光フィルムを製造する方法」及び「膨潤槽」にそれぞれ対応する。

イ 引用発明では,膨潤工程の後に染色工程を行うから,膨潤工程で行う「膨潤」(本件発明の「膨潤処理」に対応する。以下,「(2)対比」欄において,「」で囲まれた引用発明の構成に付した()中の文言は,当該引用発明の構成に対応する本件発明の発明特定事項を表す。)と,染色工程で行う「染色」(染色処理)とを,この順に行っている。
したがって,引用発明は,「ポリビニルアルコール系フィルムに膨潤処理と染色処理とを順に行って偏光フィルムを製造する方法であ」る点で,本件発明と一致する。

ウ 引用発明では,膨潤工程で行う「膨潤」(膨潤処理)は,「PVAフィルム10」が,フィルム導入ローラ17を介して膨潤槽11内の膨潤水14中に導入されてから,フィルム導出ローラ20を介して膨潤槽11外へ導出されるまでの間に,「膨潤槽11」内で行われるから,「PVAフィルム10」(ポリビニルアルコール系フィルム)を,「膨潤槽11」(膨潤槽)に通過させることにより行われるものといえる。
したがって,引用発明の「膨潤」は,本件発明の「膨潤処理」と,「ポリビニルアルコール系フィルムを膨潤槽に通過させることにより行われ」る点で共通する。

エ 前記アないしウに照らせば,本件発明と引用発明は,
「ポリビニルアルコール系フィルムに膨潤処理と染色処理とを順に行って偏光フィルムを製造する方法であって,
前記膨潤処理は,前記ポリビニルアルコール系フィルムを膨潤槽に通過させることにより行われる,偏光フィルムの製造方法。」
である点で一致し,次の点で相違する。

相違点1:
本件発明の「膨潤処理」では,「ポリビニルアルコール系フィルム」をn個(nは2以上の自然数)の「膨潤槽」に順に通過させ,前記ポリビニルアルコール系フィルムの搬送方向のn番目の膨潤槽の温度が,k番目(1≦k≦(n-1))の膨潤槽の温度以下であるのに対して,
引用発明の「膨潤」では,「PVAフィルム10」を前槽12と後槽13に通過させるものではあるが,当該前槽12及び後槽13は,仕切り壁15によって区画された膨潤槽11の2つの部位であって,2個の膨潤槽とは言い難く,また,前槽12における温度と後槽13における温度の大小関係は特定されていない点。

相違点2:
本件発明では,膨潤槽のTOC濃度を1500ppm以下に維持して,膨潤処理を行うのに対して,
引用発明では,前槽12及び後槽13のTOC濃度は特定されていない点。

(3)相違点1の容易想到性について
引用発明において,膨潤ムラを抑制し,これに起因するフィルムのシワや破断の発生を抑制して,外観に優れた偏光フィルムを効率良く得るために,前記(1)イ(イ)で認定した引用文献2記載技術を適用すること,すなわち,基材としてのPVAフィルム10として,厚さが10?60μmのものを用い,膨潤工程において,PVAフィルム10を,膨潤槽11の前槽12及び後槽13を通過させるという手段に代えて,PVAフィルム10が入る側から順に第一の膨潤処理槽及び第二の膨潤処理槽を通過させるという手段を採用し,前記第一の膨潤処理層に,前槽12に配設していた超音波振動子21,22及び給水管23,24を設け,前記第二の膨潤処理層に,後槽12に付設していた新鮮な膨潤水の供給手段を設けるとともに,前記第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率が,同じ温度の処理液に浸漬したときの飽和膨張率の70%以上90%以下であって,15?25%となり,かつ,前記第一の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率と,前記第二の膨潤処理槽におけるフィルムの幅方向の膨張率をそれぞれ百分率で表示したときの差が,絶対値で2ポイント以内となるように,前記第一の膨潤処理槽及び前記第二の膨潤処理槽の処理温度と処理槽を通過する時間を調整し,さらに,前記第一の膨潤処理槽の処理温度を35?45℃の範囲に設定し,第二の膨潤処理槽の処理温度を第一の膨潤処理槽の処理温度より低く,25?35℃の範囲に設定することは,当業者が容易になし得たことである。
しかるに,当該構成の変更後の引用発明は,「ポリビニルアルコール系フィルムをn個(nは2以上の自然数)の膨潤槽に順に通過させ,前記ポリビニルアルコール系フィルムの搬送方向のn番目の膨潤槽の温度が,k番目(1≦k≦(n-1))の膨潤槽の温度以下である」という相違点1に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。
したがって,引用発明を,相違点1に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,引用文献2記載技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。

(4)相違点2の容易想到性について
ア 引用発明において,「前槽12」中に,給水管23,24を配設し,当該給水管23,24の吐水孔からPVAフィルム10に沿う前方への膨潤水流を吐出するのは,当該膨潤水流によって,膨潤水14中に溶出した可塑剤をPVAフィルム10の超音波振動部から前方に流し,超音波振動部の近傍の膨潤水14の可塑剤の濃度を低くして,可塑剤の溶出をより効果的に行うためである。したがって,給水管23,24から吐出されるのが,新鮮な膨潤水であることは,当業者に自明である。
しかるに,「前槽12」内の膨潤水14中の可塑剤の濃度があまりにも高くなりすぎると,たとえ給水管23,24から膨潤水流を吐出しても,当該膨潤水流が,給水管23,24の吐水孔からPVAフィルム10に沿って前方へと流れる間に,可塑剤の濃度が高い膨潤水14と混ざってしまい,超音波振動部の近傍の膨潤水14の可塑剤の濃度を低く保つことができなくなるおそれがあることは,当業者が容易に予測できることである。
そうすると,引用発明において,「前槽12」中の膨潤水14の可塑剤の濃度が所定値を超えることがないように,何らかの可塑剤濃度制御手段を設けること,例えば,「前槽12」での膨潤水14の可塑剤の濃度が所定値を超えることがない膨潤水14の供給量を実験的に求め,給水管23,24からの新鮮な膨潤水14の吐出量を当該供給量以上の値に設定したり,あるいは,「後槽13」に付設された「新鮮な膨潤水の供給手段」を,「前槽12」にも設け,当該「新鮮な膨潤水の供給手段」によって,新鮮な膨潤水を,前槽12での膨潤水14の可塑剤の濃度が所定値を超えることがないような量で供給したりすることは,当業者が適宜なし得たことである。

イ また,引用発明において,膨潤工程は,PVAフィルム中の可塑剤を膨潤水中に溶出除去するとともに,PVAフィルムを易染状態にすること,すなわち染色に適した膨潤状態にするための工程であるから,前槽12における膨潤水14の可塑剤の濃度や,後槽13における膨潤水の可塑剤の濃度が変化すると,製造される偏光フィルムの染色の状態が変化し,その品質が変化してしまうことになる。
したがって,引用発明において,高品質の偏光フィルムを,安定して製造するには,製造期間を通じて,膨潤槽中の膨潤水14の可塑剤の濃度が,製造開始直後の膨潤槽中の膨潤水14(純水)の可塑剤の濃度である「ゼロ」に,できるだけ近いほうが好ましいことは,当業者に自明である。
一方,製造期間を通じて,維持する膨潤槽中の膨潤水14の可塑剤の濃度は,それが「ゼロ」に近いほど高コストとなることもまた,当業者に自明である。
そうすると,前記アで述べた構成の変更を行った「前槽12」における膨潤水14の可塑剤の濃度の上限値や,「後槽13」における膨潤水14の可塑剤の濃度の上限値を,どのような値に設定するのかは,製造される偏光フィルムの品質や安定性と,必要とされるコスト等を総合的に勘案して,当業者が適宜決定すれば足りる設計上の事項というべきである。
また,膨潤水14の可塑剤の濃度を,どのようなパラメータを用いて評価するのかもまた,当業者が適宜決定すれば足りる設計上の事項にすぎない。

ウ 前記ア及びイに照らせば,引用発明において,膨潤槽11の前槽12及び後槽13(前記(3)で述べた構成の変更を行った引用発明においては「第一の膨潤処理槽」及び「第二の膨潤処理槽」)におけるTOC濃度を1500ppm以下に維持して,膨潤工程を行うこと,すなわち,引用発明を,相違点2に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が適宜なし得たことである。

(5)効果について
本件発明が有する効果は,引用文献1,2の記載及び技術常識に基づいて,当業者が予測できた程度のものである。

(6)小括
前記(2)ないし(5)のとおり,本件発明は,引用発明及び引用文献2技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。


6 むすび
本件出願は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
また,本件発明は,引用発明及び引用文献2技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は,同法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-10-19 
結審通知日 2018-10-23 
審決日 2018-11-05 
出願番号 特願2016-206227(P2016-206227)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
P 1 8・ 537- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤岡 善行  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 清水 康司
河原 正
発明の名称 偏光フィルムの製造方法および製造装置  
代理人 鮫島 睦  
代理人 吉田 環  

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