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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B |
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管理番号 | 1347299 |
審判番号 | 不服2017-17667 |
総通号数 | 230 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-02-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-11-29 |
確定日 | 2018-12-20 |
事件の表示 | 特願2014- 98584「内臓脂肪量測定装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月 3日出願公開、特開2015-213639〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成26年5月12日の出願であって、平成29年3月16日付けで拒絶理由が通知され、同年5月19日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年8月31日付けで拒絶査定されたところ、同年11月29日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。 第2 本件補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理由] 1 補正後の請求項1に係る発明(下線は補正箇所を示す。) 本件補正により、補正前の特許請求の範囲の請求項1は、 「 【請求項1】 一対の電流供給用電極を有し、被測定者の胴部の体表面にその胴部を挟んで配置される電流供給用電極対と、 一対の測定用電極を有し、前記胴部の体表面であって前記各電流供給用電極の間に配置される測定用電極対と、 前記各測定用電極の間の電位差に基づき前記胴部のインピーダンスを算出するインピーダンス算出部と、 前記胴部の皮下脂肪に関する皮下脂肪値を測定する光学式の皮下脂肪測定部と、 前記インピーダンス算出部によって算出されたインピーダンスと前記皮下脂肪測定部によって測定された皮下脂肪値とに基づいて、内臓脂肪量を算出する内臓脂肪量算出部と、 前記測定用電極対及び前記皮下脂肪測定部が設けられ、前記胴部の体表面に装着される支持部と、を備え、 前記皮下脂肪測定部の正面を通り前記支持部の正面と平行な仮想面に対して、前記測定用電極対が前記支持部の正面寄りに配置された状態、及び前記測定用電極対が前記仮想面上に配置された状態が少なくとも形成できるように、前記各測定用電極及び前記皮下脂肪測定部のうち少なくとも一つが、前記胴部の体表面の形状に合わせて前記胴部の体表面に接近する方向及び前記胴部の体表面から離間する方向に前記支持部に対して移動する 内臓脂肪量測定装置。」 と補正された。 本件補正は、補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「前記皮下脂肪測定部の正面を通り前記支持部の正面と平行な仮想面に対して、前記測定用電極対が前記支持部の正面寄りに配置された状態が少なくとも形成できる」との、「前記測定用電極対が配置された状態」について、「前記測定用電極対が前記仮想面上に配置された状態」を付加して、「内臓脂肪量測定装置」を限定したものである。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。 2 引用刊行物及びその記載事項 (1)本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特許第4723990号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。 (1-ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は、人体の内臓脂肪量を測定する方法及びその装置に関するものである。」 (1-イ)「【発明が解決しようとする課題】 【0011】 本発明は上記の従来の問題点に鑑みて発明したものであって、インピーダンス法により内臓脂肪量を直接測定するに当たって、内臓脂肪量の測定精度を向上できる内臓脂肪量測定方法及び内臓脂肪量測定装置を提供することを課題とするものである。」 (1-ウ)「【発明の効果】 【0024】 本発明は、インピーダンス法により内臓脂肪量を直接測定するに当たって、インピーダンス計測値にインピーダンス測定部の皮下脂肪厚の違いによる影響分を補正して精度よく内臓脂肪量を求めることができる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0025】 以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基いて説明する。 【0026】 本発明の内臓脂肪量測定装置は、一対以上の電流印加用電極2と、一対以上の電圧計測用電極3と、インピーダンス測定手段4と、皮下脂肪厚測定手段1と、内臓脂肪量算出手段5と、表示装置15を備えている。 【0027】 電流印加用電極2は2つが一対となったもので、この対となった電流印加用電極2は被測定者の胴部W外周上の胴部Wを挟んで略対向する位置に配置するようになっており、この対となった電流印加用電極2はそれぞれ定電流回路6に接続してある。なお、図1には一対の電流印加用電極2を設けた例を示しているが、二対以上設けてもよい。 【0028】 電圧計測用電極3は2つで一対となったもので、上記対の電流印加用電極2間の略中間位置に相当する胴部W外周上に配置するようになっており、この対となった電圧計測用電極3は上記対の電流印加用電極2を結ぶ方向(X方向)にずれて配置されるようになっていて、対となった電圧計測用電極3間の電圧を電圧測定回路7で計測するようになっている。 【0029】 インピーダンス測定手段4は上記対となった電圧計測用電極3間のインピーダンス値を測定するためのもので、上記対となった電流印加用電極2と、定電流回路6と、対となった電圧計測用電極3と、電圧測定回路7と、インピーダンス算出回路8とで構成され、対となった電圧計測用電極3間の電圧と、電流印加用電極2間に流れる電流とに基づいてインピーダンス算出回路8により電圧計測用電極3間のインピーダンス値を求めるようになっている。 【0030】 皮下脂肪厚測定手段1は被測定者の胴部Wの外周上に配置されて被測定者の皮下脂肪厚を測定するためのもので、皮下脂肪厚測定手段1として光学式や超音波法やキャリパー法などが採用できる。ここで、超音波法は、測定時に計測用ジェルを塗布する必要があるため、取り扱いがし難く、また、キャリパー法では皮膚を挟んで計測するため、測定者により挟み具合の変動により測定値がばらつきやすい。このため、光学式が好適である。光学式のものは、胴部Wの表面から胴部Wの組織内に光を照射する光照射部9と、胴部W組織からの反射光を受光する光センサ10と、光センサ10での受光情報に基づいて被測定者の胴部Wの皮下脂肪厚を測定する皮下脂肪厚測定回路11とを備えている。光照射部9としては例えば赤外線を照射するもので赤外線発光素子が使用できる。実施形態では光センサ10は光照射部9の傍に位置させてある。 【0031】 内臓脂肪量算出手段5には上記インピーダンス測定手段4で求めたインピーダンス値が入力されると共に、皮下脂肪厚測定手段1の皮下脂肪厚測定回路11で求めた皮下脂肪厚に関するデータが入力され、上記インピーダンス測定手段4により求めたインピーダンスに基づいて内臓脂肪量を算出する演算回路を備えており、内臓脂肪量を演算回路で算出する際に上記前記皮下脂肪厚測定手段1で測定した皮下脂肪厚を用いて内臓脂肪量を補正して、被測定者の内臓脂肪量をより正確に算出するようになっている。 【0032】 内臓脂肪量算出手段5で算出された被測定者の内臓脂肪量は表示装置15で表示されるようになっている。」 (1-エ)「【0038】 また、皮下脂肪厚測定手段1により被測定者の皮下脂肪厚tを計測するのであるが、皮下脂肪厚測定手段1が光学式の場合、前述のように光照射部9と光センサ10とを被測定者の計測対象部位である胴部Wに接触させる。光照射部9から出た光は皮下脂肪12で散乱し、その内側の筋肉13で吸収される。したがって、光照射部9から出た光は皮下脂肪12が薄い場合は、皮膚の表面方向への拡散は少なく、皮膚の表面の方に戻る光は少なくまた広がりも少ない。このため、光センサ10に届く光量は少なくなる。一方、皮下脂肪12が厚い場合は、光照射部9から出た光の散乱が多くなり、皮膚の表面の方に戻る光も多くなりまた広がりも大きい。このため、光センサ10に届く光量は多くなる。 【0039】 上記光センサ10での受光情報に基づき皮下脂肪厚測定手段1で皮下脂肪12の厚みが算出されるもので、このようにすることで被測定者の計測対象部位である胴部Wの皮下脂肪厚tを直接測定することができる。」 (1-オ)「【0046】 図3、図4には本発明の他の実施形態が示してある。 【0047】 本実施形態は基本的構成は上記実施形態と同じであるが、上記実施形態が電圧測定用電極3と、皮下脂肪厚測定手段1の光センサ10、光照射部9とを別体とした例を示したが、本実施形態においては電圧測定用電極3と、皮下脂肪厚測定手段1の光センサ10、光照射部9を一体に構成した点が異なる。図4に示す実施形態では基板16に一対の電圧測定用電極3と、光センサ10、光照射部9とを一体に取付けてある。このように、電圧測定用電極3と、皮下脂肪厚測定手段1の光センサ10、光照射部9を一体に構成することで、電圧測定用電極3と、皮下脂肪厚測定手段1の光センサ10、光照射部9の位置関係が常に一定となり、より精度の良い測定が可能となり、また、一体化していることにより電圧測定用電極3、皮下脂肪厚測定手段1の光センサ10、光照射部9の胴部Wへの装着を容易に行なえる。 【0048】 また、本実施形態では電圧測定用電極3と皮下脂肪厚測定手段1を一体化したが、電流印加用電極2も含めてベルト状の装着体に取付けてもよく、この場合はベルト状の装着体を胴部Wに装着するのみで、電流印加用電極2、電圧測定用電極3、皮下脂肪厚測定手段1を同時に胴部Wに装着することができる。」 (1-カ) (1-キ) (1-ク)「電圧計測用電極3」は、「電圧測定用電極3」と同じ部材を示すことは明らかである。 (2)引用発明 上記(1-ア)?(1-キ)の記載と(1-ク)から、上記引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。 「被測定者の胴部W外周上の胴部Wを挟んで略対向する位置に配置する2つが一対となった電流印加用電極2と、 上記対の電流印加用電極2間の略中間位置に相当する胴部W外周上に配置する2つで一対となった電圧測定用電極3と、 上記対となった電圧測定用電極3間のインピーダンス値を測定するためのインピーダンス測定手段4と、 被測定者の胴部Wの外周上に配置されて被測定者の皮下脂肪厚を測定するための光学式皮下脂肪厚測定手段1であって、胴部Wの表面から胴部Wの組織内に光を照射する光照射部9と、胴部W組織からの反射光を受光する光センサ10と、光センサ10での受光情報に基づいて被測定者の胴部Wの皮下脂肪厚を測定する皮下脂肪厚測定回路11とを備えており、光照射部9と光センサ10とを被測定者の計測対象部位である胴部Wに接触させる光学式皮下脂肪厚測定手段1と、 上記インピーダンス測定手段4で求めたインピーダンス値が入力されると共に、皮下脂肪厚測定手段1の皮下脂肪厚測定回路11で求めた皮下脂肪厚に関するデータが入力され、上記インピーダンス測定手段4により求めたインピーダンスに基づいて内臓脂肪量を算出する演算回路を備えており、内臓脂肪量を演算回路で算出する際に上記前記皮下脂肪厚測定手段1で測定した皮下脂肪厚を用いて内臓脂肪量を補正して、被測定者の内臓脂肪量をより正確に算出する内臓脂肪量算出手段5と、 一対の電圧測定用電極3と、光センサ10、光照射部9とを一体に取付けてある基板16と、 電流印加用電極2も含めて取付けた、胴部Wに装着するのみで、電流印加用電極2、電圧測定用電極3、皮下脂肪厚測定手段1を同時に胴部Wに装着することができるベルト状の装着体と、 表示装置15と、 を備えている内臓脂肪量測定装置。」(以下、「引用発明」という。) (3)本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2005-124914号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 (2-ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は、測定者の体内インピーダンスを測定するインピーダンス測定装置及び体脂肪率等の健康管理に有益な指針情報を提供する健康管理指針アドバイス装置に関する。」 (2-イ)「【発明が解決しようとする課題】 【0003】 しかしながら、これらの従来技術においては、腹部にベルトを装着するため、呼吸をする際に装着部位である腹部の周長が変化し、電極の接触位置が多少移動したり、接触状態が変化したりする可能性がある。これらの電極の位置の変動及び接触状態の変化は、測定するインピーダンス値を変化させ、測定精度に影響を与える可能性がある。 【0004】 本発明は、かかる従来技術の課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、接触状態を安定させる高精度の測定が可能なインピーダンス測定装置及び健康管理指針アドバイス装置を提供することにある。」 (2-ウ)「【0016】 本発明の実施形態に係る健康管理指針アドバイス装置としての内臓脂肪計1は、腹部に装着するベルトに、皮膚に接触する電極を備えた構成を有する。 【0017】 (電極支持部の構成) 図1(a)は腹部に装着するベルト(帯状部材)に取付けられた電極支持部11の外観を示す斜視図であり、図1(b)は電極支持部11の断面斜視図であり、図1(c)は電極支持部11の断面図である。 【0018】 電極支持部11は、主として、ベルトに取付けられるベース12と、ベース12に対して可動する電極部13とを備える。 【0019】 ベース12は、ベルトに沿って扁平な略直方体形状をなす。ベース12のカバー121上面の中央部はドーム状に隆起するとともに、その中央に電極部13を取付けるための孔122が開設されている。 【0020】 ベース12のベルト側は、底板124と板状の取付部材125とを重ねた構造になっている。底板124と板状の取付部材125との間にはベルトを挿通するための間隙126が設けられており、ベルトを間に挟んで取付部材125を底板124に固定している。ベースは、ベルトの所定位置に固定しても良いし、ベルトに沿って適宜移動できるように構成しても良い。 【0021】 カバー121の底板側は、中空となっており、カバー121の端部は底板124及び取付部材125とネジによって固定されている。 【0022】 電極130は略T字形の電極部13の頭部131上面に配置されている。電極130はベルトの延長方向に湾曲し、ベルトに直交する方向に長手となる矩形の曲面形状をなす。電極部130のベース12側には、頭部131に直交して延びる円筒状の柱部132が形成されている。柱部132は、ベース12のカバー121に設けられた孔122に挿入されるとともに、柱部132の外周面と孔122の内周縁との間に設けられた間隙を介して支持される。柱部132の底板側の端部には外径側に延出するフランジ部133が形成されており、このフランジ部133は孔122の内周縁に係合し、電極部13が孔122から抜け出ないようにストッパーとして機能する。また、柱部132は底板側が開口する内部中空の円筒形状をなし、柱部132の中空内部にはつるまきバネ(押圧力発生手段)14の一端が支持されている。つるまきバネ14の他方の端部は底板124に固定されている。また、バネ14の端面部分の荷重を受ける底板124の中央部には感圧素子(押圧力検出手段)15が配置されており、電極部13の頭部131に配置された電極130が押圧される際の押圧力を検出する。また、バネ14の弾性力により、電極部130は、底板124から離間する方向(被測定者の体表面側)に付勢されるが、フランジ部133と孔122の内周縁とが係合することにより、電極部130はカバー121に係止されている。柱部132と孔122との間に間隙が設けられているので、電極部13は、柱部132の軸に直交する方向に揺動することができる。従って、呼吸等により人体表面に直交する方向の相対位置変化が生じても、バネ14が伸縮することにより、電極130が人体表面の動きに追従することができ、電極130と人体との接触状態の変化を抑制することができる。また、人体の運動やベルトの移動により、人体表面に平行な方向の相対位置変化が生じたとしても、柱部132がベース12に対して揺動することにより、電極130が人体表面の動きに追従することができ、電極130と人体との接触状態の変化を抑制することができる。」 (2-エ) 3 対比・判断 (1)対比 補正発明と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「被測定者の胴部W外周上の胴部Wを挟んで略対向する位置に配置する2つが一対となった電流印加用電極2」、「上記対の電流印加用電極2間の略中間位置に相当する胴部W外周上に配置する2つで一対となった電圧測定用電極3」、「上記対となった電圧測定用電極3間のインピーダンス値を測定するためのインピーダンス測定手段4」、「被測定者の胴部Wの外周上に配置されて被測定者の皮下脂肪厚を測定するための光学式皮下脂肪厚測定手段1」及び「内臓脂肪量測定装置」は、それぞれ、補正発明の「一対の電流供給用電極を有し、被測定者の胴部の体表面にその胴部を挟んで配置される電流供給用電極対」、「一対の測定用電極を有し、前記胴部の体表面であって前記各電流供給用電極の間に配置される測定用電極対」、「前記各測定用電極の間の電位差に基づき前記胴部のインピーダンスを算出するインピーダンス算出部」、「前記胴部の皮下脂肪に関する皮下脂肪値を測定する光学式の皮下脂肪測定部」及び「内臓脂肪量測定装置」に相当する。 イ 引用発明の「内臓脂肪量算出手段5」は、「上記インピーダンス測定手段4で求めたインピーダンス値が入力されると共に、皮下脂肪厚測定手段1の皮下脂肪厚測定回路11で求めた皮下脂肪厚に関するデータが入力され、」「内臓脂肪量を演算回路で算出する際に上記前記皮下脂肪厚測定手段1で測定した皮下脂肪厚を用いて内臓脂肪量を補正して、被測定者の内臓脂肪量をより正確に算出する」ものであるから、補正発明の「前記インピーダンス算出部によって算出されたインピーダンスと前記皮下脂肪測定部によって測定された皮下脂肪値とに基づいて、内臓脂肪量を算出する内臓脂肪量算出部」に相当する。 ウ 引用発明の「基板16」は、「一対の電圧測定用電極3と、光センサ10、光照射部9とを一体に取付けてあ」り、「電流印加用電極2も含めて」「胴部Wに装着するのみで、電流印加用電極2、電圧測定用電極3、皮下脂肪厚測定手段1を同時に胴部Wに装着することができるベルト状の装着体」に「取付け」てあるから、補正発明の「前記測定用電極対及び前記皮下脂肪測定部が設けられ、前記胴部の体表面に装着される支持部」に相当する。 エ そうすると、両者は、 (一致点) 「一対の電流供給用電極を有し、被測定者の胴部の体表面にその胴部を挟んで配置される電流供給用電極対と、 一対の測定用電極を有し、前記胴部の体表面であって前記各電流供給用電極の間に配置される測定用電極対と、 前記各測定用電極の間の電位差に基づき前記胴部のインピーダンスを算出するインピーダンス算出部と、 前記胴部の皮下脂肪に関する皮下脂肪値を測定する光学式の皮下脂肪測定部と、 前記インピーダンス算出部によって算出されたインピーダンスと前記皮下脂肪測定部によって測定された皮下脂肪値とに基づいて、内臓脂肪量を算出する内臓脂肪量算出部と、 前記測定用電極対及び前記皮下脂肪測定部が設けられ、前記胴部の体表面に装着される支持部と、を備えた、 内臓脂肪量測定装置。」 で一致し、以下の点で相違する。 (相違点) 補正発明は、「前記皮下脂肪測定部の正面を通り前記支持部の正面と平行な仮想面に対して、前記測定用電極対が前記支持部の正面寄りに配置された状態、及び前記測定用電極対が前記仮想面上に配置された状態が少なくとも形成できるように、前記各測定用電極及び前記皮下脂肪測定部のうち少なくとも一つが、前記胴部の体表面の形状に合わせて前記胴部の体表面に接近する方向及び前記胴部の体表面から離間する方向に前記支持部に対して移動する」のに対して、引用発明は、そのような構成を有していない点。 (2)判断 ア 相違点についての検討 引用文献2の段落【0016】、【0022】には、「腹部に装着するベルトに、皮膚に接触する電極を備えた構成を有する」「内臓脂肪計1」において「バネ14の弾性力により、電極部130は、底板124から離間する方向(被測定者の体表面側)に付勢され」、「呼吸等により人体表面に直交する方向の相対位置変化が生じても、バネ14が伸縮することにより、電極130が人体表面の動きに追従することができ、電極130と人体との接触状態の変化を抑制することができる。」構成が記載されている。 引用文献2に記載された、呼吸等により人体表面に直交する方向の相対位置変化が生じても電極と人体との接触状態の変化を抑制しようとする課題は、引用発明でも当然に有する課題である。 してみると、引用発明の「一対の電圧測定用電極3と、光センサ10、光照射部9とを一体に取付けてある基板16」において、「一対の電圧測定用電極3」に、引用文献2に記載された、バネの弾性力により電極部を被測定者の体表面側に付勢し、バネが伸縮することにより、電極部が人体表面に直交する方向に移動する構成を採用することは、当業者が容易になし得ることである。 そして、その移動範囲を設定する際、人体表面の曲面の形状は呼吸などにより種々変形することのほか、「光センサ10」、「光照射部9」についても、これらを人体表面にある程度の押圧力で密着させる必要があることは当然であること、人体表面の曲面の形状は被測定者により異なること等を考慮すると、「一対の電圧測定用電極3」の移動範囲として、これらの電極の人体側の表面が、「光センサ10」、「光照射部9」の人体側の表面を中心として、人体側に突出する位置と「基板16」側に押し込まれた位置との間の範囲とすること、すなわち、補正発明のように、「前記皮下脂肪測定部の正面を通り前記支持部の正面と平行な仮想面に対して、前記測定用電極対が前記支持部の正面寄りに配置された状態、及び前記測定用電極対が前記仮想面上に配置された状態が少なくとも形成できるように、前記各測定用電極及び前記皮下脂肪測定部のうち少なくとも一つが、前記胴部の体表面の形状に合わせて前記胴部の体表面に接近する方向及び前記胴部の体表面から離間する方向に前記支持部に対して移動する」よう設定することが、最も普通に考え得る設定である。 したがって、引用発明に引用文献2に記載された構成を採用し、上記相違点に係る補正発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到し得ることである。 イ 補正発明の効果について 補正発明の効果は、引用文献2に記載された構成が、呼吸などにより電極部と人体表面との位置変化が生じても、電極部と人体表面との接触状態の変化を抑制するという効果を奏し得ることからみて、格別顕著なものとはいえない。 ウ 小括 したがって、補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 4 本件補正についてのむすび 以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?9に係る発明は、平成29年5月19日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されたものであって、その請求項1に係る発明は、次のとおりであると認める。 「【請求項1】 一対の電流供給用電極を有し、被測定者の胴部の体表面にその胴部を挟んで配置される電流供給用電極対と、 一対の測定用電極を有し、前記胴部の体表面であって前記各電流供給用電極の間に配置される測定用電極対と、 前記各測定用電極の間の電位差に基づき前記胴部のインピーダンスを算出するインピーダンス算出部と、 前記胴部の皮下脂肪に関する皮下脂肪値を測定する光学式の皮下脂肪測定部と、 前記インピーダンス算出部によって算出されたインピーダンスと前記皮下脂肪測定部によって測定された皮下脂肪値とに基づいて、内臓脂肪量を算出する内臓脂肪量算出部と、 前記測定用電極対及び前記皮下脂肪測定部が設けられ、前記胴部の体表面に装着される支持部と、を備え、 前記皮下脂肪測定部の正面を通り前記支持部の正面と平行な仮想面に対して、前記測定用電極対が前記支持部の正面寄りに配置された状態が少なくとも形成できるように、前記各測定用電極及び前記皮下脂肪測定部のうち少なくとも一つが、前記胴部の体表面の形状に合わせて前記胴部の体表面に接近する方向及び前記胴部の体表面から離間する方向に前記支持部に対して移動する 内臓脂肪量測定装置。」(以下、「本願発明」という。) 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明については、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1、2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1:特許第4723990号公報 引用文献2:特開2005-124914号公報 3 引用刊行物及びその記載事項 本願の出願前に頒布された引用文献1、2の記載事項及び引用発明は、上記「第2[理由] 2」に記載したとおりである。 4 当審の判断 補正発明は、本願発明の「前記皮下脂肪測定部の正面を通り前記支持部の正面と平行な仮想面に対して、前記測定用電極対が前記支持部の正面寄りに配置された状態が少なくとも形成できる」との、「前記測定用電極対が配置された状態」について、「前記測定用電極対が前記仮想面上に配置された状態」を付加して、「内臓脂肪量測定装置」を限定したものである。 そうすると、本願発明の構成要件を全て含む補正発明が、上記「第2[理由] 3」において検討したとおり、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その他の請求項について言及するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2018-10-19 |
結審通知日 | 2018-10-23 |
審決日 | 2018-11-05 |
出願番号 | 特願2014-98584(P2014-98584) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松本 隆彦 |
特許庁審判長 |
伊藤 昌哉 |
特許庁審判官 |
三木 隆 信田 昌男 |
発明の名称 | 内臓脂肪量測定装置 |
代理人 | 恩田 誠 |
代理人 | 恩田 博宣 |