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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01B
管理番号 1347399
審判番号 不服2017-19569  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-29 
確定日 2018-12-27 
事件の表示 特願2013- 98481「静電容量型センサシート及び静電容量型センサ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月20日出願公開、特開2014-219263〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年5月8日にされた特許出願であって、平成28年12月15日付けで拒絶理由が通知され、平成29年4月11日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲についての補正がなされたが、同年9月28日付けで拒絶査定がなされ、査定の謄本が同年10月3日に送達された。
これに対して同年12月29日に拒絶査定不服審判が請求された。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし11に係る発明は、平成29年4月11日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるとおりのものである。特に、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
エラストマー組成物からなる誘電層と、前記誘電層の表面に積層された表側電極層と、前記誘電層の裏面に積層された裏側電極層とを備え、
前記表側電極層及び前記裏側電極層は、少なくともカーボンナノチューブとバインダー成分とを含んでなり、
前記表側電極層及び前記裏側電極層の平均厚さは、それぞれ1?10μmであり、
伸縮変形歪み量及び/又は伸縮変形歪み分布を測定するために用いられる
ことを特徴とする静電容量型センサシート。」

第3 原査定における拒絶の理由
この出願の請求項1ないし11に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1.特開2009-20006号公報
引用文献2.国際公開第2013/031958号
引用文献3.特開2012-73150号公報
引用文献4.国際公開第2008/041506号
引用文献5.特開2012-225727号公報

第4 引用文献に記載された発明等
1 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

(1) 段落0006
「【0006】
(1)本発明の静電容量型センサは、エラストマー製の誘電膜と、該誘電膜を介して配置されている一対の電極と、を備えてなり、該一対の電極は、エラストマーと、該エラストマー中に配合されている導電性フィラーと、を有し、該誘電膜の変形に応じて伸縮可能であると共に、伸縮しても導電性の変化が小さく、該一対の電極間の静電容量変化に基づいて変形を検出することを特徴とする(請求項1に対応)。」

(2) 段落0034
「【0034】
エラストマー中に配合されている導電性フィラーは、導電性を有する粒子であればよく、炭素材料や金属等の微粒子を用いればよい。これらのうち、一種を単独で、あるいは二種以上を混合して用いればよい。例えば、比較的安価で、導電パスの形成が容易であるという理由から、炭素材料を用いることが望ましい。炭素材料としては、粒子径が小さく凝集しやすいという理由から、例えば、ケッチェンブラック等の導電性に優れるカーボンブラックが好適である。」

(3) 段落0038
「【0038】
電極の膜厚は、特に限定されるものではないが、誘電膜に対する追従性を考慮し、センサの小型化を図るという観点から、1μm以上100μm以下であることが望ましい。また、誘電膜の変形に対する追従性を高めるため、電極のヤング率を、0.1MPa以上10MPa以下とすることが望ましい。同様に、引張り試験(JIS K6251)における切断時伸びは、200%以上であることが望ましい。」

(4) 段落0043
「【0043】
本発明の静電容量型センサは、例えば、以下のようにして製造することができる。…(略)…その後、エラストマー組成物をシート状に成形し、それを金型に充填し、所定の条件下で架橋させて誘電膜を作製する。次に、電極用のエラストマー、導電性フィラー、および加硫促進剤等の添加剤を、溶剤中にて分散、混合して塗料とした後、該塗料を薄膜状に成形して、未加硫の電極を作製する。次に、作製した誘電膜の一対の表面に、未加硫の電極を配置して、所定の条件下でプレスして加硫接着する。…(略)…」

(5) 段落0072
「【0072】
…(略)…例えば、凸曲げの場合には、誘電膜2に対して圧縮応力が加わるため、撓み量の増加と共に電極間距離が小さくなり、キャパシタンス(C)が大きくなったと考えられる。一方、凹曲げの場合には、誘電膜2に対して引張り応力が加わるため、撓み量の増加と共に膜厚(電極間距離)が大きくなり、キャパシタンス(C)が小さくなったと考えられる。このように、本発明の静電容量型センサによると、キャパシタンスの変化挙動に基づいて曲げ変形の方向および大きさを判別することができる。」

(6) 段落0073
「【0073】
本発明の静電容量型センサは、人工皮膚等のソフトな面圧センサ、人の動きを検出するモーションキャプチャ、キーボード等の情報入力デバイスをはじめ、着座センサ、車両の衝突検知センサ、ベッド用面圧分布センサ等、様々な用途に適用することができる。」

2 引用発明
上記1からみて、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「エラストマー製の誘電膜と、該誘電膜を介して配置されている一対の電極と、を備え、
一対の電極は、エラストマーと、該エラストマー中に配合されている導電性フィラーと、を有し、エラストマー中に配合されている導電性フィラーは炭素材料の微粒子であって、炭素材料としては例えばケッチェンブラック等の導電性に優れるカーボンブラックが好適であり、
一対の電極の膜厚は、特に限定されるものではないが、誘電膜に対する追従性を考慮し、センサの小型化を図るという観点から、1μm以上100μm以下であることが望ましく、
シート状に成形されたエラストマー組成物から作製された誘電膜と、薄膜状に成形された塗料から作製された未加硫の電極を加硫接着して製造されるものであり、
凸曲げの場合には誘電膜に対して圧縮応力が加わることによりキャパシタンスが大きくなり、凹曲げの場合には誘電膜に対して引張り応力が加わることによりキャパシタンスが小さくなり、キャパシタンスの変化挙動に基づいて曲げ変形の方向および大きさを判別することができ、
人工皮膚等のソフトな面圧センサ、人の動きを検出するモーションキャプチャ、キーボード等の情報入力デバイスをはじめ、着座センサ、車両の衝突検知センサ、ベッド用面圧分布センサ等、様々な用途に適用される
静電容量型センサ。」

3 周知例1の記載
本願の出願日より前の2013年(平成25年)3月7日を国際公開日とする国際公開第2013/031958号(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2。以下、「周知例1」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

(1) 段落0002から0004まで
「[0002]炭素原子のみで構成されるカーボンナノチューブは、電気的特性や熱伝導性、機械的性質の優れた材料である。カーボンナノチューブは、非常に軽量、且つ、極めて強靱であり、また、優れた弾性・復元性を有する材料である。このように優れた性質を有するカーボンナノチューブは、工業材料として、極めて魅力的、且つ重要な物質である。
[0003]ポリマーフォームおよびエラストマーに導電性フィラーを配合したカーボンナノチューブ複合材料や導電材料は、各種の用途、たとえば、電子商品、コンピュータ、医用機器などにおいて、電磁遮蔽および/または静電気放散をさせるためのガスケットやシールとして広く用いられている。過去においては、通常、金属やカーボンブラックなどの微粒子をもちいることにより電気導電性を与えていた。電子部品の小型化と、プラスチック部品の利用が進むにつれて、特に民生用電子機器では、より高導電性を有するカーボンナノチューブ複合材料や導電材料が必要とされてきている。そこで、導電性に優れたカーボンナノチューブは、導電性フィラーとして注目されている。
[0004]例えば、中心部位から炭素繊維が三次元的(放射状)に延びているカーボンナノチューブをエラストマー中に配合すると、上記特定のカーボンナノチューブが、その三次元的な形状に由来し、エラストマー中で均一に分散する結果、エラストマー全体に連続的な導電路(導電パス)が形成され、導電性に優れる柔軟電極が実現されている(特許文献1)。」

4 周知例2の記載
本願の出願日より前の2009年(平成21年)8月20日を国際公開日とする国際公開第2009/102077号(合議体が新たに引用するもの。以下、「周知例2」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

(1) 第2頁第16行から第3頁第14行まで
「しかるに、伸長可能なエレクトロニクスデバイスの開発における最も困難な課題の1つは、機械的な耐久性と電気的性能を同時に達成することである。通常、堅固な材料は、優れた電気的性能と、優れた制御性または安定性を示すが、機械的な耐久性は劣る。それに対して柔らかい材料は優れた機械的特性を示すが、電気的性能は劣る。実際、炭素粒子を含む導電性ゴムの導電率の最大値は0.1S/cmである。この値は、集積回路の配線に利用するには小さすぎる。
…(略)…
本発明は、上記の如き従来技術の問題点を解決し、電子回路の構成材料として用いるのに十分な導電性と通常のゴム材料にも劣らない弾性を有し、フレキシブルエレクトロニクスの実現が可能となる伸長可能なエレクトロニクスデバイスを与えることのできるカーボンナノチューブゴム組成物、カーボンナノチューブゴム、カーボンナノチューブゴムペースト、配線、導電性ペースト、及びそれらを備える物品、及び電子回路を提供し、またその製造方法を提供することを課題とする。
本発明は、上記課題を解決するための手段を提供するものであって、下記からなる。
1.カーボンナノチューブ、ゴム、およびイオン性液体からなるカーボンナノチューブゴム組成物であって、
前記ゴムはイオン性液体と混和性を有することを特徴とするカーボンナノチューブゴム組成物。」

(2) 第20頁第21行から第26行まで
「高導電性、高い伸長率を得るためには、カーボンナノチューブが可能な限り長いことが望ましい。これは、カーボンナノチューブゴム組成物中のカーボンナノチューブのネットワーク(編み目構造)が長いカーボンナノチューブにより構成された場合、より電気を通す経路が多く形成でき、かつ伸長した場合においてもネットワークがより破壊されにくいためである。」

5 周知技術
上記3及び4によれば、ゴムなどのエラストマーに導電性フィラーを配合した導電材料において、導電性フィラーとしてカーボンナノチューブを用いることにより、エラストマー全体に導電ネットワークを形成し、カーボンブラックなどの微粒子を用いた場合よりも導電性に優れた柔軟な導電材料を実現するということが、本願の出願前において周知技術であったといえる。

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、以下のとおりである。

引用発明の「エラストマー製の誘電膜」は、本願発明の「エラストマー組成物からなる誘電層」に相当し、引用発明の「誘電膜を介して配置されている一対の電極」は、本願発明の「誘電層の表面に積層された表側電極層」及び「誘電層の裏面に積層された裏側電極層」の対に相当する。
引用発明の「炭素材料の微粒子」である「導電性フィラー」と本願発明の「カーボンナノチューブ」とは、「導電性の炭素材料」であるという点で共通するものである。また、引用発明においては、エラストマー中に炭素材料の微粒子である導電性フィラーを配合することで電極が形成されていることから、「エラストマー」は、炭素材料の微粒子のつなぎ材料として機能していることが明らかであり、本願発明の「バインダー成分」に相当するものである。
本願発明における「伸縮変形歪み量」とは、センサシートの「伸縮」を伴う「変形」の量のことであると理解されるが、引用発明における「曲げ変形」の「大きさ」は、静電容量型センサに対する「圧縮応力」又は「引張り応力」に起因するキャパシタンスの変化挙動に基づいて判別されるものであり、静電容量型センサの「伸縮」を伴う「変形」の量といえるから、本願発明の「伸縮変形歪み量」に相当するものである。また、引用発明が「人工皮膚等のソフトな面圧センサ、人の動きを検出するモーションキャプチャ、キーボード等の情報入力デバイスをはじめ、着座センサ、車両の衝突検知センサ、ベッド用面圧分布センサ等、様々な用途に適用」されるものであるということからすれば、「曲げ変形の方向および大きさを判別することができる」との引用文献1の記載は、「静電容量型センサ」が「曲げ変形の方向および大きさを判別するために用いられる」ということを示唆するものと理解できる。
引用発明の静電容量型センサは「シート状に成形されたエラストマー組成物から作製された誘電膜と、薄膜状に成形された塗料から作製された未加硫の電極を加硫接着して製造されるもの」であるため、製造された静電容量型センサも「シート状」であり、本願発明の「静電容量型センサシート」に相当するといえる。

したがって、本願発明と引用発明とは、

「エラストマー組成物からなる誘電層と、前記誘電層の表面に積層された表側電極層と、前記誘電層の裏面に積層された裏側電極層とを備え、
前記表側電極層及び前記裏側電極層は、少なくとも導電性の炭素材料とバインダー成分とを含んでなり、
伸縮変形歪み量を測定するために用いられる
ことを特徴とする静電容量型センサシート。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
導電性の炭素材料が、本願発明では、「カーボンナノチューブ」であるのに対して、引用発明では、炭素材料の微粒子であって、「ケッチェンブラック等の導電性に優れるカーボンブラック」が例示されており、「カーボンナノチューブ」には限定されていない点。

(相違点2)
本願発明では、表側電極層及び裏側電極層の平均厚さが、それぞれ1?10μmであるのに対して、引用発明では、一対の電極の膜厚は、特に限定されるものではないが、誘電膜に対する追従性を考慮し、センサの小型化を図るという観点から、1μm以上100μm以下であることが望ましいとされている点。

第6 相違点についての判断
1 相違点1について
引用文献1の段落0002から0005までの「例えば、特許文献1には、空隙を挟んで対向する一対の金属製電極を備えた静電容量型触覚センサが紹介されている。…(略)…金属製の電極には伸縮性がないため、例えば電極が曲げ変形した場合には、電極が塑性変形により破壊されやすい。また、金属製の電極間に弾性変形可能な誘電体を介在させて静電容量型センサを構成した場合、誘電体は曲げ変形可能であるが、電極は誘電体の変形に追従することができない。このため、電極と誘電体とが剥離してしまい、繰り返し使用することができない。…(略)…本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、耐久性に優れ、曲げ変形を検出することのできる静電容量型センサを提供することを課題とする。」との記載及び段落0009の「また、一対の電極は、エラストマーを母材とする。このため、柔軟であり、誘電膜と一体となって変形することができる。つまり、曲げ変形した場合でも、誘電膜の変形に追従して変形することができる。」との記載等によれば、引用発明において従来の金属製の電極に代えて「エラストマーと、該エラストマー中に配合されている導電性フィラー」からなる電極を採用したことの目的は、電極に伸縮性を持たせることであると理解できる。また、引用文献1の段落0035から0037までの「例えば、アスペクト比の比較的大きな針状の導電性フィラーを用いると、三次元的な導電ネットワークを形成しやすく、少量で高い導電性が実現できる。加えて、電極伸縮時の導電性変化を抑制することができる。…(略)…但し、電極の伸縮性を確保するという観点から、比較的少量の導電性フィラーを配合して、高い導電性を発現できることが望ましい。…(略)…導電性フィラーの充填率が30vol%を超えると、エラストマーへの混合が困難となり、成形加工性が低下する。加えて、電極の伸縮性が低下する。このため、30vol%以下であることが望ましい。」との記載(下線は合議体が付したものである。)は、電極の伸縮性を確保するために、導電性フィラーとして、三次元的な導電ネットワークを形成しやすく、少量で高い導電性が実現できるものを選択すべきであるということを示唆している。
そして、上記第4の「5 周知技術」で述べたように、ゴムなどのエラストマーに導電性フィラーを配合した導電材料において、導電性フィラーとしてカーボンナノチューブを用いることにより、エラストマー全体に導電ネットワークを形成し、カーボンブラックなどの微粒子を用いた場合よりも導電性に優れた柔軟な導電材料を実現するということが、本願の出願前において周知技術であったことからすれば、引用発明において、三次元的な導電ネットワークを形成しやすい導電性フィラーを選択すべきという示唆に基づき、周知技術のように導電性フィラーとしてカーボンナノチューブを採用することは、当業者であれば容易に想到し得たことということができる。

2 相違点2について
引用発明においては、一対の電極の膜厚は特に限定されるものではないが、誘電膜に対する追従性を考慮し、センサの小型化を図るという観点から、1μm以上100μm以下であることが望ましいとされている。ここで、誘電膜に対する追従性を高めるため又はセンサの小型化を図るためには、電極の膜厚を薄くすべきであることは自明のことであって、誘電膜に対する追従性を一層高めるため又はセンサの小型化を一層図るために、1μm以上100μm以下という数値範囲のうちで下限の1μmに近い値に電極の平均厚さを設定することは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
また、引用発明における電極の膜厚の数値範囲である「1μm以上100μm以下」と比較して、本願発明の電極の平均厚さの数値範囲である「1?10μm」は、数値範囲の上限の値が小さくなっているが、このような上限の値をとることについて本願の明細書では、段落0060に「10μmを超えるとカーボンナノチューブの補強効果やバインダー成分の弾性により静電容量型センサシートが硬くなり、測定対象物への追従性が低下し、伸縮等の変形を阻害するおそれがある。」と記載されているのみであるため、このような上限の値をとることの有利な効果は、引用発明における「誘電膜に対する追従性を考慮」するということと同質のものにすぎず、本願発明における上限の値が臨界的意義を有するといったことも認められない。

3 請求人の主張について
請求人は審判請求書の請求の理由において、引用発明が解決しようとする課題は、引用文献1の段落0003に記載されるように、曲げ変形可能な静電容量型センサにおいて「電極と誘電体とが剥離してしまい、繰り返し使用することができない」というものであるのに対し、周知例1(引用文献2)には、ひずみなどの応力が繰り返されても導電材料自体に構造変化や亀裂、破断などが生じることを防止することができることが記載されているにすぎず、カーボンナノチューブ複合材料(導電材料)がひずみなどの応力が繰り返された際に、他の部材から剥離することを防止できるといったことが記載されているわけではないため、引用発明が解決しようとする課題に基づいて周知例1に示されるような技術を採用することが当業者にとって容易であるとした審査官の判断は誤りであり、引用発明において周知例1に示されるような技術を採用することの動機づけが存在しないという旨の主張をしている。
この主張に関し、確かに引用文献1の段落0003には、金属製の電極を採用した場合に「電極と誘電体とが剥離してしま」うという問題が生じることが記載されている。しかしながら、この問題は同じく段落0003に記載されるように「金属製の電極には伸縮性がない」ことに起因するものであり、この問題を解決するために、引用発明では、伸縮性のある電極として「エラストマーと、該エラストマー中に配合されている導電性フィラー」からなる電極を採用しているということは、上記1で述べたとおりである。すなわち、引用発明においては、段落0003に記載されるような「電極と誘電体とが剥離してしま」うという問題は、「エラストマーと、該エラストマー中に配合されている導電性フィラー」からなる電極を採用することで、金属製の電極を用いた場合よりは改善されているが、さらに電極の伸縮性を確保するために、引用文献1の段落0035から0037では、三次元的な導電ネットワークを形成しやすく、少量で高い導電性が実現できる導電性フィラーを選択すべきであるということが示唆されているのであり、つまり段落0003に記載されていた「電極と誘電体とが剥離してしま」うという問題は、引用発明において、三次元的な導電ネットワークを形成しやすく、少量で高い導電性が実現できる導電性フィラーの選択という問題に転換されているといえる。そして、ゴムなどのエラストマーに導電性フィラーを配合した導電材料において、導電性フィラーとしてカーボンナノチューブを用いることにより、エラストマー全体に導電ネットワークを形成し、カーボンブラックなどの微粒子を用いた場合よりも導電性に優れた柔軟な導電材料を実現するということが、周知例1及び周知例2に記載されるように本願の出願前の周知技術となっており、かかる周知技術は、まさに、三次元的な導電ネットワークを形成しやすく、少量で高い導電性が実現できる導電性フィラーを提供するものであるから、引用発明においてかかる周知技術を採用することの動機づけは十分存在しているといえる。
よって、請求人の主張は採用することができない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-10-19 
結審通知日 2018-10-23 
審決日 2018-11-09 
出願番号 特願2013-98481(P2013-98481)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 眞岩 久恵  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 櫻井 健太
中塚 直樹
発明の名称 静電容量型センサシート及び静電容量型センサ  
代理人 特許業務法人サンクレスト国際特許事務所  

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