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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1347420
審判番号 不服2015-2312  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-02-06 
確定日 2018-12-26 
事件の表示 特願2011-512634「非ウイルスアプローチを用いたiPS細胞の産生のための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年12月10日国際公開、WO2009/149233、平成23年 8月 4日国内公表、特表2011-522540〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2009年(平成21年)6月4日(パリ条約による優先権主張 2008年6月4日、2009年3月16日、いずれも米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成25年11月28日付け 拒絶理由通知書
平成26年 6月12日 意見書・手続補正書
平成26年11月 6日付け 拒絶査定
平成27年 2月 6日 審判請求書・手続補正書
平成28年 4月 8日 上申書
平成28年 9月 7日付け 拒絶理由通知書
平成29年 2月20日 意見書・手続補正書
平成29年 7月28日付け 拒絶理由通知書
平成30年 1月31日 意見書・手続補正書
平成30年 5月 1日 上申書

2.本願発明
本願の請求項1?6に係る発明は、平成30年1月31日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は、次のとおりのものと認める(以下、「本願発明」という。)。
「【請求項1】外因性初期化ベクター要素を本質的に含まないiPS細胞集団を正の選択マーカーを使用せずに作製するための組成物であって、
該組成物は初期化プラスミドベクターを含み、
該初期化プラスミドベクターが、複製起点、および該複製起点に結合して該プラスミドベクターを染色体外で複製するトランス作用因子をコードする1つまたはそれより多い発現カセット、および初期化因子をコードする核酸を含み、該初期化因子は、少なくともSox-2とOct-4とを含み、さらにNanog又はKlf4の何れかを含み、かつ、
該初期化プラスミドベクターが、宿主細胞ゲノム内に組み込まれる能力を有しておらず、
ここで、
該複製起点がエプスタインバーウイルス(EBV)由来のoriPであり、
該トランス作用因子が、
(i) EBVのEBNA-1に対応する、
(ii) EBVのEBNA-1に対応する野生型タンパク質の誘導体であり、該誘導体は、野生型EBNA-1と比較して低い、組み込まれた鋳型からの転写活性能力を有する、
(iii) EBVのEBNA-1に対応する野生型タンパク質の誘導体であり、該誘導体は、該複製起点に結合すると、該対応する野生型タンパク質による転写活性化の少なくとも5%のレベルで染色体外の鋳型からの転写を活性化する、または
(iv) EBVのEBNA-1に対応する野生型タンパク質の誘導体であり、該誘導体は、EBNA-1の残基65-89に対応する残基の欠失および/またはEBNA-1の残基90-328に対応する残基の欠失を有し、そして
該プラスミドベクターが、部位特異的DNA組み換えのためのDNAリコンビナーゼ部位を含まない、
組成物。」

3.当審における拒絶理由
一方、当審において平成29年7月28日付けで通知した拒絶理由の概要は、本願の請求項1?19に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないので、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本願の請求項1?19に係る発明について、発明の詳細な説明が当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められないので、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない、という理由を含むものである。

4.当審の判断
(1)本願明細書の発明の詳細な説明の記載内容
本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明に関して以下の事項が記載されている。

ア.「【0009】
発明の概要
本発明は、分化プログラミングによって、外因性ベクター要素を本質的に含まない誘導多能性幹細胞および他の望ましい細胞型の提供における当技術分野の主な欠点を解消する。第1の実施形態では、人工多能性幹(iPS)細胞集団を提供する方法であって、(a)リプログラミングベクター得るステップであって、このベクターの要素が、複製起点、およびiPSリプログラミング因子をコードする1つまたはそれより多い発現カセットを含む、ステップと、(b)リプログラミングベクターを体細胞の集団の細胞内に導入するステップと、(c)これらの細胞を培養して細胞集団を成長させるステップと、(d)前記成長した集団の子孫細胞を選択するステップであって、前記子孫細胞が、胚性幹細胞の1つまたはそれより多い特質を有する、ステップと、(e)選択した子孫細胞を培養してiPS細胞集団を提供するステップであって、1つまたはそれより多い前記発現カセットが、複製起点に結合して染色体外の鋳型を複製するトランス作用因子をコードするヌクレオチド配列を含み、かつ/または体細胞が、このようなトランス作用因子を発現する、ステップと、を含む、方法を提供する。さらなる態様では、ステップcまたはステップeは、細胞がベクター要素を本質的に含まなくなるまでさらに培養することを含む、またはベクターを含まないiPS細胞の産生を促進するように、後述する追加の選択ステップを含む。」(段落【0009】)

イ.「【0013】
特定のさらなる実施形態では、本発明は、成長した集団の子孫細胞を選択する追加のステップであって、子孫細胞がベクター要素を本質的に含まない、ステップを含む。OriPをベースとしたベクターなどの染色体外で複製されるベクターが、例えば、トランスフェクションから2週間の間に時間と共に細胞から消失し、iPS細胞が、自律多能性状態に入ると、外因性リプログラミング因子を必要としないため、この任意選択の追加の選択ステップは、ベクターを含まない多能性幹細胞の産生の促進に役立ち得る。したがって、追加のステップは、例えば、リプログラミングベクターが細胞内に導入されてから少なくとも約10日から少なくとも約30日などの、子孫細胞が自律多能性状態に入った時点であり得る。ベクター要素を含まないiPS細胞を産生するプロセスを促進するために、リプログラミングベクターは、負の選択マーカーをコードするヌクレオチド配列をさらに含み得、追加のステップは、選択マーカーを含む子孫細胞を選択剤で除去することによって成長した細胞集団の子孫細胞を選択する。例えば、選択マーカーは、単純ヘルペスウイルス-チミジンキナーゼをコードし得、ガンシクロビルなどの選択剤を適用して、キナーゼをコードする残存ベクターを持つ細胞を除去することができる。特定の態様では、この方法によって形成されたiPS細胞集団は、選択マーカーを本質的に含まない。別法または補足的な方法では、RT-PCR、PCR、FISH(蛍光in situハイブリダイゼーション)、遺伝子アレイ、またはハイブリダイゼーション(例えば、サザンブロット法)などの従来の方法を用いて子孫細胞における外因性遺伝子要素の存在を検査する。」(段落【0013】)

ウ.「【0014】
一部の実施形態では、上記の方法で形成されたiPS細胞集団は、組み込まれたリプログラミングベクター遺伝子要素を本質的に含み得ない、またはベクター遺伝子要素を本質的に含み得ない。」(段落【0014】)

エ.「【0018】
さらに、本発明の特定の態様では、正の選択マーカーは、当技術分野で公知であり、自律多能性状態の確立に十分な期間におけるトランスフェクションの効率またはトランスフェクト細胞の濃縮を改善するために本発明の方法および組成物に使用され得る。例えば、一部の態様では、リプログラミングベクターは、抗生物質耐性因子(例えば、ネオマイシンまたはハイグロマイシン耐性マーカー)、または蛍光もしくは発光タンパク質(例えば、GFP、RFP、CFPなど)をコードするヌクレオチド配列などの正の選択マーカーをさらに含み得る。体細胞にリプログラミングベクターが導入されると、正の選択マーカーの使用が、リプログラミングベクターを有する細胞の濃縮に役立ち得る。しかし、このステップは、任意選択であり、トランスフェクションの効率およびベクターの消失率に左右される。トランスフェクションの効率が高く(例えば、90%を超える)、ベクターの消失が、自律多能性状態を確立するのが細胞にとって十分に遅い場合は、この正の選択は必要ないであろう。」(段落【0018】)

オ.「【0026】
さらなる態様では、前述の方法に従って形成されたiPS細胞集団も請求される。なおさらなる態様では、外因性レトロウイルス要素を本質的に含まないiPS細胞集団、または外因性ウイルス要素もしくは任意の外因性核酸要素、例えば、ベクター遺伝子要素を本質的に含まないiPS細胞集団も開示され得る;より具体的には、細胞集団は、選択されたヒト個人のゲノムを含み得る。さらなる態様では、iPS細胞集団は、ゲノムが一次皮膚細胞(例えば、線維芽細胞)などの最終分化したヒト細胞に由来し、かつ外因性レトロウイルス要素または任意の外因性核酸もしくはベクターゲノム要素を本質的に含まない細胞を含み得る。外因性DNA要素を「本質的に含まない」は、iPS細胞集団の1%、0.5%、0.1%、0.05%未満、または任意の中間のパーセンテージが外因性DNA要素を含むことを意味する。」(段落【0026】)

カ.「【0074】
本明細書で使用される場合、細胞は、10%未満の外因性遺伝子要素(複数可)を有する場合、外因性遺伝子要素を「実質的に含んでいない」、そして1%未満の外因性遺伝子要素(複数可)を有する場合、外因性遺伝子要素を「本質的に含んでいない」。しかし、さらに好ましくは、全細胞集団の0.5%未満または0.1%未満が外因性遺伝子要素を含む細胞集団である。したがって、細胞集団の細胞の0.1%?10%(すべての中間のパーセンテージを含む)が望ましくない外因性遺伝子要素を含むiPS細胞集団である。」(段落【0074】)

キ.「【0082】
C.リプログラミング因子
iPS細胞の作製は、誘導のために使用される遺伝子にとって極めて重要である。以下の因子またはそれらの組合せは、本発明に開示されるベクター系に使用され得る。特定の態様では、SoxおよびOct(好ましくはOct3/4)をコードする核酸が、リプログラミングベクターに導入される。例えば、リプログラミングベクターは、Sox-2、Oct-4、Nanog、および任意選択のLin-28をコードする発現カセット、またはSox-2、Oct-4、Klf4、および任意選択のc-mycをコードする発現カセット、またはSox-2、Oct-4、および任意選択のEsrrbをコードする発現カセットを含み得る。これらのリプログラミング因子をコードする核酸は、同じ発現カセット、異なる発現カセット、同じリプログラミングベクター、または異なるリプログラミングベクターの中に含められ得る。
【0083】
Oct3/4および特定の番号のSox遺伝子ファミリー(Sox-1、Sox-2、Sox-3、およびSox-15)は、存在しないと誘導を不可能にする誘導プロセスに関与する極めて重要な転写調節因子として同定された。しかし、特定の番号のKlfファミリー(Klf-1、Klf2、Klf4、およびKlf5)、Mycファミリー(C-myc、L-myc、およびN-myc)、Nanog、およびLIN28を含むさらなる遺伝子が、誘導効率を上げることが確認された。
【0084】
Oct-3/4(Pou5f1)は、八量体(「Oct」)転写因子のファミリーの1つであり、多能性の維持において極めて重要な役割を果たす。割球および胚性幹細胞などのOct-3/4+細胞におけるOct-3/4の非存在は、自然な栄養芽細胞分化をもたらし、したがって、Oct-3/4の存在は、胚性幹細胞の多能性および分化能を生じさせる。Oct-3/4の類縁体、Oct1、およびOct6を含む「Oct」ファミリーの様々な他の遺伝子は、誘導を引き起こすことができないため、誘導プロセスに対するOct-3/4の排他性を実証している。
【0085】
Soxファミリーの遺伝子は、多能性幹細胞だけで発現されるOct-3/4とは対照的な複能および単能幹細胞に関連しているが、Oct-3/4と同様に多能性の維持に関連している。Sox-2は、Yamanakaら、Jaenischら、およびThompsonらによって誘導のために使用された初めの遺伝子であり、Soxファミリーの他の遺伝子は、誘導プロセスでも働くことが確認された。Sox1は、Sox-2と同様の効率でiPS細胞を産生し、遺伝子Sox3、Sox15、およびSox18も、低い効率であるがiPS細胞を産生する。
【0086】
胚性幹細胞では、Nanogは、Oct-3/4およびSox-2と共に、多能性の促進に必要である。したがって、Thomsonらが、因子の1つとしてNanogを用いてiPS細胞を作製することが可能であることを報告していたが、Yamanakaらが、Nanogが誘導に必須ではないことを報告したときは驚きであった。
【0087】
LIN28は、分化および増殖に関連した胚性幹細胞および胚性癌細胞で発現されるmRNA結合タンパク質である。Thomsonらは、LIN28は不要であるが、iPS作製における因子であることを実証した。
【0088】
Klfファミリーの遺伝子のKlf4は、Ymanakaらによって初めに同定され、JaenischらによってマウスiPS細胞の作製のための因子であることが確認され、YmanakaらによってヒトiPS細胞の作製のための因子であることが実証された。しかし、Thompsonらは、Klf4は、ヒトiPS細胞の作製に不要であることを報告し、実際、ヒトiPS細胞を作製できなかった。Klf2およびKlf4は、iPS細胞を作製可能な因子であることが判明し、関連遺伝子Klf1およびKlf5も、低い効率であるが同様であった。
【0089】
Mycファミリーの遺伝子は、癌に関与するプロトオンコジーンである。YamanakaらおよびJaenischらは、c-mycがマウスiPS細胞の作製に関与する因子であることを実証し、Yamanakaらは、c-mycがヒトiPS細胞の作製に関与する因子であることを実証した。しかし、ThomsonらおよびYamanakaらは、c-mycは、ヒトiPS細胞の作製に不要であることを報告した。iPS細胞の導入における「myc」ファミリーの遺伝子の使用は、臨床治療ではiPS細胞の結末に問題があり、c-myc誘導iPS細胞が移植されたマウスの25%が致命的な奇形腫を発症した。N-mycおよびL-mycは、同様の効率でc-mycの代わりに誘導することが確認された。」(段落【0082】?【0089】)

ク.「【0090】
D.組み込み型ベクターを用いた多能性幹細胞の誘導
iPS細胞は、典型的には、成体の線維芽細胞などの非多能性細胞内への特定の幹細胞関連遺伝子のトランスフェクションによって誘導される。トランスフェクションは、典型的には、レトロウイルスなどの現行方式の組み込み型ウイルスベクターによって達成される。移入遺伝子は、他の遺伝子が誘導の効率を高めることが示唆されているが、マスター転写調節因子Oct-3/4(Pouf51)およびSox-2を含む。臨界期後、トランスフェクト細胞の少数が、多能性細胞に形態学的および生化学的に似るようになり始め、典型的には、形態学的選択、倍加時間、またはレポーター遺伝子および抗生物質の感染によって単離される。
【0091】
2007年11月に、2つの別個の研究チームの研究により、成人ヒト細胞からiPS細胞を作製することによってマイルストーンが達成された(Yuら、2007;Yamanakaら、2007)。マウスモデルで以前に使用された同じ原理で、Yamanakaは、同じ4つの重要遺伝子:Oct3/4、Sox-2、Klf4、およびc-Myc(レトロウイルス系であるが、c-Mycは発癌性である)を用いて、ヒト線維芽細胞を多能性幹細胞に形質転換することに成功した。Thomsonおよび同僚らは、c-Mycの使用を回避するレンチウイルス系を用いて、Oct-4、Sox-2、NANOG、および異なる遺伝子LIN28を使用した。
【0092】
しかし、使用されたウイルストランスフェクション系は、宿主ゲノムのランダムな位置に遺伝子を挿入する;これは、作製された細胞が癌を発生しやすくなるため、これらのiPSCの潜在的な治療への適用にとって懸案事項である。したがって、両チームのメンバーは、新規な送達方法を開発する必要があると考えた。
【0093】
他方、異所性リプログラミング因子の強制的な持続的発現は、腫瘍形成の頻度の上昇に関連し得、この問題の最終的な解決策は、導入遺伝子を含まないiPS細胞の作製であろう。ウイルスにより導入される遺伝子一式は、リプログラミングを開始するのに必要であり得るが、細胞自体の内在性多能性遺伝子が徐々に活性化し、ウイルス遺伝子は、確率的再活性化の可能性はあるが沈黙するであろう。近年、細胞が自律した多能性状態に入るためには、外因性因子を最低でも約10?16日必要とし得ることを研究者が実証している(Brambrinkら、2008;Stadtfeldら、2008)。導入遺伝子発現の最小長さの決定により、iPS細胞を誘導する非レトロウイルス送達方法の開発、開示される本方法によって達成される利点、および後述するiPS細胞が可能となる。」(段落【0090】?【0093】)

ケ.「【0094】
IV.ベクターを含まない誘導多能性幹細胞および他の細胞型を作製するための染色体外ベクター
上記のように、ヒト体細胞からの多能性幹細胞の誘導は、リプログラミング遺伝子の異所性発現のためのレトロウイルスまたはレンチウイルスベクターを用いて達成された。モロニーマウス白血病ウイルスなどの組換えレトロウイルスは、宿主ゲノムに安定して組み込む能力を有する。組換えレトロウイルスは、宿主ゲノム内への組込みを可能にする逆転写酵素を含む。レンチウイルスは、レトロウイルスのサブクラスである。レンチウイルスは、分裂細胞はもちろん非分裂細胞のゲノム内に組み込む能力のために、ベクターとして広く採用されている。また、これらのウイルスベクターは、広い文脈:脱分化、分化、および分化転換を含む細胞の分化プログラミングで広く使用されてきた。RNAの形態のウイルスゲノムは、細胞に侵入すると逆転写されてDNAを生成し、次いで、このDNAがウイルスインテグラーゼ酵素によってランダムな位置でゲノム内に挿入される。したがって、成功しているリプログラミングの現行技術は、組込みをベースとするウイルス法に依存している。
【0095】
しかし、現行の技術では、標的組込みは、まだルーチンではなく(Bodeら、2000b)、従来の代替のランダム組込みは、挿入突然変異をもたらし、誘導多能性幹細胞が予測不能な結果となる。同じ理由から、導入遺伝子の発現は、組込み部位のクロマチンの文脈によって決まるため制御できない(Baerら、2000)。高レベル発現は、好都合なゲノム部位でのみ達成できるが、高発現部位への組込みが誘導多能性幹細胞の重大な細胞機能を阻害するというリスクが存在する。
【0096】
加えて、DNAのメチル化を伴うプロセスで導入遺伝子を下方制御することによって機能する、外因性DNAに対する細胞防御機構の存在の証拠が増えている(Bingham、1997、Garrickら、1998)。さらに、ウイルス成分は、他の因子と共に
作用して細胞を形質転換し得る。多数のウイルス遺伝子からの継続的な発現を伴う、細胞内のウイルスゲノムの少なくとも一部の持続が、細胞の形質転換を引き起こし得る。これらの遺伝子は、細胞のシグナル伝達経路を阻害して、細胞の観察される表現型の変化を引き起こし、ウイルスにとって望ましい細胞分裂の増加を示す形質転換細胞をもたらし得る。
【0097】
したがって、特定の実施形態では、本発明は、従来の方法で使用されるレトロウイルスまたはレンチウイルスベクターなどから、外因性遺伝子要素を本質的に含まない人工多能性細胞および他の望ましい細胞型を作製する方法を開発する。これらの方法は、染色体外で複製するベクターまたはエピソーム複製できるベクターを使用する。アデノウイルス、サル空胞ウイルス40(SV40)またはウシパピローマウイルス(BPV)、または出芽酵母ARS(自己複製配列)含有プラスミドなどの多数のDNAウイルスは、哺乳動物細胞内で染色体外またはエピソーム複製する。これらのエピソームプラスミドは、組み込み型ベクターに関連したこれらすべての不都合を本来有していないが(Bodeら、2001)、誘導多能性幹細胞の作製について一度も公表されていない。また、上記定義したエプスタインバーウイルス(EBV)を含め、リンパ球向性ヘルペスウイルスをベースとしたものも、染色体外で複製し、リプログラミング遺伝子の体細胞への送達を助け得る。これらのウイルスまたはARS要素の複製起点は十分に特徴付けられているが、これらは、本開示まで、リプログラミング分化細胞について公衆に知られていない。
【0098】
例えば、本発明に使用されるプラスミドをベースとした方法は、後述する臨床条件でのEBV要素をベースとした系の取り扱いやすさを損なうことなく、この系の正常な複製および維持に必要な強い要素を取り出す。必須のEBV要素は、OriPおよびEBNA-1またはそれらの変異体もしくは機能的等価物である。この系の別の利点は、これらの外因性要素が、細胞内に導入されると時間と共に消失し、これらの要素を本質的に含まない自律したiPS細胞がもたらされることである。
【0099】
A.エプスタインバーウイルス
ヒトヘルペスウイルス4(HHV-4)とも呼ばれるエプスタインバーウイルス(EBV)は、ヘルペスファミリー(単純ヘルペスウイルスおよびサイトメガロウイルスを含む)のウイルスであり、ヒトにおける最も一般的なウイルスの1つである。EBVは、そのゲノムを染色体外に維持し、効率的な複製と維持のために宿主細胞機構と協働し(LindnerおよびSugden、2007)、細胞分裂中の細胞内でのその複製および維持の2つの必須の特徴にのみ依存する(Yatesら、1985;Yatesら、1984)。一般にoriPと呼ばれる1つの要素が、シスに存在し、複製の起点として機能する。もう1つの因子EBNA1が、oriP内の配列に結合してプラスミドDNAの複製および維持を促進することによってトランスで機能する。限定目的ではない例として、発明者らは、これらの2つの特徴を取り出し、これらを、従来のプラスミドに対してこれらの遺伝子の複製および発現の維持を促進する体細胞のリプログラミングに必要な遺伝子を運ぶためにプラスミドの文脈に使用する。
【0100】
B.oriP
oriPは、DNAの複製を開始する部位またはその近傍であり、反復ファミリー(FR)と二分子対称(DS)として知られる約1キロ塩基対離れた2つのシス作用性配列から構成されている。
【0101】
FRは、30塩基対の反復の21の不完全なコピーから構成され、20の高親和性EBNA1結合部位を含む(図1)。FRがEBNA1によって結合されると、FRは、最大10キロ塩基対離れたシスにおけるプロモーターの転写エンハンサーとして機能し(ReismanおよびSugden、1986;Yates、1988;SugdenおよびWarren、1989;WysokenskiおよびYates、1989;GahnおよびSugden、1995;KennedyおよびSugden、2003;Altmannら、2006)、核の保持およびFRを含むプラスミドの忠実な維持に寄与する(Langle-Rouaultら、1998;KirchmaierおよびSugden、1995;Wangら、2006;NanboおよびSugden、2007)。oriPプラスミドの効率的な分割も、FRに寄与する可能性が高い。このウイルスは、FRに20のEBNA1結合部位を維持するように進化したが、効率的なプラスミドの維持には、これらの部位の7つのみが必要であり、合計12のEBNA1結合部位を有する、DSの3つのコピーのポリマーによって再構築することができる(WysokenskiおよびYates、1989)。
【0102】
二分子対称要素(DS)は、EBNA1の存在下でのDNA合成の開始に十分であり(Aiyarら、1998;Yatesら、2000)、開始は、DSまたはその近傍で起こる(GahnおよびSchildkraut、1989;Nillerら、1995)。FRは、EBNA1によって結合されると、2Dゲル電気泳動法によって観察されるように複製フォークの障壁として機能するため、ウイルスDNA合成の停止は、FRで起こると思われる(GahnおよびSchildkraut、1989;Ermakovaら、1996;Wangら、2006)。DSからDNA合成の開始は、1細胞周期に1回許可され(Adams、1987;YatesおよびGuan、1991)、細胞複製系の成分によって調節される(Chaudhuriら、2001;Ritziら、2003;Dharら、2001;Schepersら、2001;Zhouら、2005;Julienら、2004)。DSは、4つのEBNA1結合部位を含むが、RFで見られるものよりも親和性が低い(Reismanら、1985)。DSのトポロジーは、4つの結合部位が、二対の部位として配置され、各対間で中心と中心が21塩基対離隔し、対になっていない2つの内部結合部位間で中心と中心が33塩基対離隔している(図1c)(Baerら、1984;Rawlinsら、1985)。
【0103】
DS内の要素の機能的役割は、非効率的にDSを置換することができる要素として同定された、Rep^(*)と呼ばれる、EBVのゲノムの別の領域の研究によって確認された(KirchmaierおよびSugden、1998)。Rep^(*)を重合させることにより、その複製の支援において、DSと同じ効率で要素が8倍産生された(Wangら、2006)。Rep^(*)の生化学的な分析により、その複製機能に極めて重要である、中心と中心が21塩基対離隔した一対のEBNA1結合部位が同定された(上記)。Rep^(*)の最小のレプリケーターは、ポリマーにおけるすべての隣接配列がラムダファージ由来の配列で置換された後でも、複製機能が維持される一対のEBNA1結合部位であることが分かった。DSとRep^(*)の比較により、共通の機構が明らかになった:これらのレプリケーターは、EBNA1によって曲げられて結合される一対の適切な離隔部位を介して細胞内複製機構を動員することによってDNA合成の開始を支援する。
【0104】
ある点ではEBVのRaji株内の開始のゾーンに類似しているように見える、EBVに関連していない哺乳動物細胞内で複製する他の染色体外の認可プラスミドが存在する。Hans Lippsおよび彼の同僚らは、「核足場/マトリックス付着領域」(S/MAR)および強い転写単位(Piechaczekら、1999;Jenkeら、2004)を含むプラスミドを開発し研究した。それらのS/MARは、ヒトインターフェロン-β遺伝子に由来し、A/Tリッチであり、核マトリックスとのその関連と、低いイオン強度での、またはスーパーコイル状DNAに埋め込まれた時のその優先的な巻き戻しによって機能的に定義される(Bodeら、1992)。これらのプラスミドは、半保存的に複製し、ORCタンパク質に結合し、かつそれらのDNA全体での効率的かつランダムにDNA合成の開始を支援する(Schaarschmidtら、2004)。これらのプラスミドは、薬剤選択なしでも増殖中のハムスター細胞およびヒト細胞内で効率的に維持され、ブタ胎児に導入されると胎児の動物の殆どの組織におけるGFPの発現を支持することができる(Manziniら、2006)。
【0105】
C.EBNA1
エプスタインバー核抗原1(EBNA1)は、oriPまたはRep^(*)のFRおよびDSに結合して、各細胞分裂中の細胞染色体と協調するが独立した娘細胞へのEBVプラスミドの複製および忠実な分割を促進するDNA結合タンパク質である。
【0106】
EBNA1の641のアミノ酸(AA)が、突然変異および欠失分析によって、その様々な機能に関連したドメインに分類された(図2)。AA40?89とAA329?378との間の2つの領域は、EBNA1によって結合されるとシスまたはトランスにおける2つのDNA要素を連結することができ、このため連結領域1および2(LR1、LR2)と命名された(MiddletonおよびSugden、1992;FrappierおよびO’Donnell、1991;Suら、1991;Mackeyら、1995)。EBNA1のこれらのドメインのGFPとの融合により、GFPが有糸分裂染色体に戻る(Marechalら、1999;Kandaら、2001)。LR1およびLR2は、複製のために機能的に重複している;いずれか一方の欠損により、DNAの複製を支持できるEBNA1の誘導体が生じる(MackeyおよびSugden、1999;Searsら、2004)。LR1およびLR2は、アルギニンおよびグリシン残基が豊富であり、A/TリッチDNAに結合するATフックモチーフに類似している(AravindおよびLandsman、1998)、(Searsら、2004)。EBNA1のLR1およびLR2のin vitro分析は、A/TリッチDNAに結合するそれらの能力を実証した(Searsら、2004)。1つのこのようなATフックを含むLR1が、EBNA1のDNA結合および二量体化ドメインに融合されると、野生型EBNA1よりも効率は低いが、oriPプラスミドのDNA複製には十分であることが分かった(上記)。
【0107】
しかし、LR1とLR2は異なっている。LR1のC末端の半分は、N末端の半分の反復Arg-Gly以外のアミノ酸から構成され、固有領域1(UR1)と呼ばれる。UR1は、FRを含むトランスフェクトされ組み込まれたレポーターDNAからの転写を効率的に活性化させるためにEBNA1に必要である(Wuら、2002;KennedyおよびSugden、2003;Altmannら、2006)。また、UR1は、EBVに感染したB細胞の効率的な形質転換にも必須である。このドメインが欠失したEBNA1の誘導体が、全ウイルスの文脈において野生型タンパク質に取って代わると、これらの誘導体ウイルスは、野生型ウイルスの形質転換能の0.1%しか有しない(Altmannら、2006)。
【0108】
LR2は、oriP複製のEBNA1の支持に必須ではない(Shireら、1999;MackeyおよびSugden、1999;Searsら、2004)。加えて、EBNA1のN末端の半分は、HMGA1aなどのATフックモチーフを含む細胞タンパク質で置換することができ、なお複製機能が維持される(Hungら、2001;Searsら、2003;Altmannら、2006)。これらの知見は、LR1およびLR2のATフック活性化がヒトの細胞におけるoriPの維持に必要である可能性が高いことを示唆している。
【0109】
EBNA1の残基(AA91?328)の3分の1は、グリシン-グリシン-アラニン(GGA)反復から構成され、プロテオソーム分解および提示の阻害によって宿主免疫応答を回避するEBNA1の能力に関与している(Levitskayaら、1995;Levitskayaら、1997)。これらの反復は、in vitroおよびin vivoでのEBNA1の転写を阻害することも分かった(Yinら、2003)。しかし、このドメインの大部分の欠失は、細胞培養中のEBNA1の機能に明確な影響を与えないため、このドメインが果たす役割を解明するのは困難である。
【0110】
核局在化シグナル(NLS)は、細胞核輸入機構にも関連するAA379?386によってコードされる(Kimら、1997;Fischerら、1997)。LR1およびLR2のArg-Glyリッチ領域内の配列は、それらの高い塩基含量によってNLSとしても機能し得る。
【0111】
最後に、C末端(AA458?607)は、EBNA1の重複DNA結合および二量体化ドメインをコードする。DNAに結合するこれらのドメインの構造は、X線結晶学によって解明され、パピローマウイルスのE2タンパク質のDNA結合ドメインに類似していることが分かった(Hegdeら、1992;Kimら、2000;Bochkarevら、1996)。
【0112】
本発明の特定の実施形態では、リプログラミングベクターは、oriPと、細胞分裂の際のプラスミドの複製およびその適切な維持を支持する能力を持つEBNA1のある型をコードする短縮配列の両方を含む。野生型ENBNA1のアミノ末端の3分の1以内の反復性の高い配列および様々な細胞で毒性を実証した25のアミノ酸領域の除去は、oriPに関連したEBNA1のトランス作用機能に重要ではない(Yatesら、1985;Kennedyら、2003)。したがって、δUR1(配列番号4によってコードされるタンパク質配列、配列番号3を持つ誘導体)として知られる例示的な誘導体、EBNA1の短縮型は、このプラスミドをベースとした系内のoriPと共に使用され得る。染色体外の鋳型からの転写を活性化できるEBNA1誘導体のさらなる例(例えば、参照により本明細書に組み入れられるKirchmaierおよびSugden、1997、ならびにKennedyおよびSugden、2003を参照)。
【0113】
本発明に使用されるEBNA-1の誘導体は、改変されたアミノ酸配列を有する、対応する野生型ポリペプチドに関連したポリペプチドである。この改変には、EBNA-1におけるLR1(残基約40?約89)の固有領域(残基約65?約89)に対応する領域における少なくとも1つのアミノ酸の欠失、挿入、置換が含まれ、そして、得られる誘導体が、例えば、oriPに対応するoriを含むDNAを二量体化し結合する、核に局在する、非細胞毒性である、および染色体外からの転写は活性化するが組み込まれた鋳型からの転写は実質的に活性化しないなどの望ましい特性を有する場合に限り、EBNA-1の他の残基、例えば、約残基1?約40、残基約90?約328(「Gly-Gly-Ala」反復領域)、残基約329?約377(LR2)、残基約379?約386(NLS)、残基約451?約608(DNA結合および二量体化)、または残基約609?約641に対応する領域における1つまたはそれより多いアミノ酸残基の欠失、挿入、および/または置換が含まれ得る。置換には、L型ではなくD型、ならびに他の周知のアミノ酸類似体、例えば、α-二置換アミノ酸、N-アルキルアミノ酸、および乳酸などの非天然アミノ酸などを利用する置換が含まれる。これらの類似体には、ホスホセリン、ホスホトレオニン、ホスホチロシン、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸;馬尿酸、オクタヒドロインドール-2-カルボン酸、スタチン、1,2,3,4,-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボン酸、ペニシラミン、オルニチン、シトルリン(citruline)、α-メチル-アラニン、パラ-ベンゾイル-フェニルアラニン、フェニルグリシン、プロパルギルリグリシン、サルコシン、ε-N,N,N,-トリメチルリシン、ε-N-アセチルリシン、N-アセチルセリン、N-ホルミルメチオニン、3-メチルヒスチジン、5-ヒドロキシリシン、ω-N-メチルアルギニン、および他の類似のアミノ酸およびイミノ酸、およびt-ブチルグリシンが含まれる。
【0114】
保存的なアミノ酸置換、すなわち、例えば、極性酸性アミノ酸としてアスパラギン酸-グルタミン酸;極性塩基性アミノ酸としてリシン/アルギニン/ヒスチジン;非極性または疎水性アミノ酸としてロイシン/イソロイシン/メチオニン/バリン/アラニン/グリシン/プロリン;極性または非荷電親水性アミノ酸としてセリン/トレオニンが好ましい。保存的なアミノ酸置換には、側鎖に基づいた群化も含まれる。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸群は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシンであり、脂肪族-ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸群は、セリンおよびトレオニンであり;アミドを含む側鎖を有するアミノ酸群は、アスパラギン酸およびグルタミン酸である;芳香族側鎖を有するアミノ酸群は、フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンである;塩基性側鎖を有するアミノ酸群は、リシン、アルギニン、およびヒスチジンである;硫黄を含む側鎖を有するアミノ酸群は、システインおよびメチオニンである。例えば、ロイシンのイソロイシンまたはバリンでの置換、アスパラギン酸のグルタミン酸での置換、トレオニンのセリンでの置換、またはアミノ酸の構造的に関連したアミノ酸での置換が、得られるポリペプチドの特性に大きな影響を与えないと予想するのが妥当である。アミノ酸の変化が機能的なポリペプチドをもたらすか否かは、そのポリペプチドの特定の活性をアッセイすることによって容易に決定され得る。
【0115】
本発明の範囲内のアミノ酸置換は、一般に、(a)置換の領域におけるペプチド主鎖の構造、(b)標的部位の分子の電荷または疎水性、または(c)側鎖の容積の維持に対するアミノ酸置換の影響が著しく異ならない置換を選択することによって達成される。天然の残基は、共通の側鎖の特性:
(1)疎水性:ノルロイシン、met、ala、val、leu、ile;(2)中性親水性:cys、ser、thr;
(3)酸性:asp、glu;
(4)塩基性:asn、gln、his、lys、arg;(5)側鎖の向きに影響を与える残基:gly、pro;および(6)芳香族:trp、tyr、pheに基づいて各群に分けられる。
【0116】
本発明はまた、非保存的に置換されたポリペプチドも企図する。非保存的置換は、上記の1つの分類のあるメンバーを別のメンバーと交換することを伴う。
【0117】
ポリペプチドの酸付加塩またはポリペプチドのアミノ残基の酸付加塩は、ポリペプチドまたはアミンを、望ましい無機酸または有機酸、例えば、塩酸などの1つまたはそれより多い等価物と接触させることによって調製され得る。また、ポリペプチドのカルボキシル基のエステルも、当技術分野で公知の任意の通常の方法によって調製され得る。
【0118】
類似体には、当技術分野で公知であり、それぞれ参照により本明細書に組み入れられるSpatola、1983;Spatola、1983;Morley、1980;Hudsonら、1979(-CH_(2)NH-、CH_(2)CH_(2)-);Spatolaら、1986(-CH_(2)-S);Hann、1982(-CH-CH-、シスおよびトランス);Almquistら、1980(-COCH_(2)-);Jennings-Whiteら、1982(-COCH_(2)-);Szelkeら、欧州特許出願第45665号(-CH(OH)CH_(2)-);Holladayら、1983(-C(OH)CH_(2)-);およびHruby、1982(-CH_(2)S-)にさらに記載されている方法による、-CH_(2)NH-、-CH_(2)S-、-CH_(2)-CH_(2)-、-CH=CH-(シスおよびトランス)、-CH=CF-トランス)、-COCH_(2)?、-CH(OH)CH_(2)-、および-CH_(2)SO-からなる群から選択される連結によって任意選択で置換される1つまたはそれより多いペプチド結合を有する構造が含まれる。特に好ましい非ペプチド結合は、-CH_(2)NH-である。このような類似体は、優れた化学安定性、改善された薬学的特性(半減期、吸収、効力、有効性など)、変更された特異性(例えば、広域の生物学的活性)、軽減された抗原性を有し得、経済的に調製し得る。
【0119】
D.痕跡を残さない特徴
重要なことは、oriPをベースとしたプラスミドの複製および維持が、不完全であり、細胞内に導入されてから初めの2週間以内に細胞から急激に減少する(1回の細胞分裂で25%);しかし、プラスミドを維持する細胞は、その減少が少ない(1回の細胞分裂で3%)(LeightおよびSugden、2001;NanboおよびSugden、2007)。プラスミドを含む細胞の選択が除去されると、プラスミドは、各細胞分裂の際に失われ、時間が経つとすべてのプラスミドが除去され、得られる娘細胞内にプラスミドが以前に存在していたという痕跡が残らない。この痕跡のない特徴は、分化プログラミングを用いてiPS細胞および他の望ましい細胞を作製するために遺伝子を送達する現行のウイルス関連方法の代替としてのoriPをベースとした系のアピールの根拠である。また、他の染色体外ベクターも、宿主細胞の複製および増殖の際に失われ、本発明にも用いられ得る。」(段落【0094】?【0119】)

コ.「【0120】
V.ベクターの構築および送達
特定の実施形態では、リプログラミングまたは分化プログラミングベクターは、上記したリプログラミング因子または分化プログラミング因子を細胞内で発現させるこれらのリプログラミング因子をコードする核酸配列に加えて追加の要素を含むように構築され得る。これらの方法の新規な特徴は、染色体外複製ベクターの使用であり、染色体外複製ベクターは、宿主細胞のゲノム内に組み込まれず、複製の生成の際に失われ得る。これらのベクター成分および送達方法の詳細は以下に開示される。
【0121】
A.ベクター
プラスミドまたはリポソームをベースとした染色体外ベクター、例えば、oriPをベースとしたベクターおよび/またはEBNA-1の誘導体をコードするベクターの使用により、DNAの大きい断片を細胞内に導入して染色体外に維持すること、1回の細胞周期に1回複製すること、娘細胞に効率的に分割すること、および実質的に免疫応答を誘発しないことが可能になる。特に、oriPをベースとした発現ベクターの複製に必要な唯一のウイルスタンパク質であるEBNA-1は、その抗原をMHCクラスI分子に提示するために必要なプロセシングをバイパスする効率的な機構を発達させたため、細胞免疫応答を誘発しない(Levitskayaら、1997)。さらに、EBNA-1は、トランスで作用してクローン化遺伝子の発現を促進することができ、一部の細胞系において最大100倍のクローン化遺伝子の発現を誘導する(Langle-Rouaultら、1998;Evansら、1997)。最後に、このようなoriPをベースとした発現ベクターの製造は安価である。
【0122】
他の染色体外ベクターには、他のリンパ球向性ヘルペスウイルスをベースとしたベクターが含まれる。リンパ球向性ヘルペスウイルスは、リンパ芽球(例えば、ヒトBリンパ芽球)内で複製し、その天然のライフサイクルの一部のためにプラスミドになるヘルペスウイルスである。単純ヘルペスウイルス(HSV)は、「リンパ球向性」ヘルペスウイルスではない。例示的なリンパ球向性ヘルペスウイルスには、限定されるものではないが、EBV、カポジ肉腫ヘルペスウイルス(KSHV);リスザルヘルペスウイルス(HS)およびマレク病ウイルス(MDV)が含まれる。また、酵母ARS、アデノウイルス、SV40、またはBPVなどの、エピソームをベースとしたベクターの他の供給源も企図される。
【0123】
当業者であれば、標準的な組換え技術によってベクターを構築する十分な能力を備えているであろう(例えば、参照により本明細書に組み入れられるManiatisら、1988、およびAusubelら、1994を参照)。
【0124】
ベクターは、遺伝子送達および/または遺伝子発現をさらに調節する、または標的細胞に有利な特性を他の方法で付与する他の成分または機能性も含み得る。このような他の成分には、例えば、細胞への結合または細胞を標的とすることに影響を与える成分(細胞型または組織特異的な結合を媒介する成分を含む);細胞によるベクター核酸の取り込みに影響を与える成分;取り込み後の細胞内のポリヌクレオチドの局在化に影響を与える成分(核局在化を媒介する作用物質など);およびポリヌクレオチドの発現に影響を与える成分が含まれる。
【0125】
また、このような成分には、ベクターによって送達された核酸を取り込んで発現している細胞の検出または選択に使用され得る検出および/または選択マーカーなどのマーカーも含まれ得る。このような成分は、ベクターの天然の特徴として提供され得る(結合および取り込みを媒介する成分または機能性を有する特定のウイルスベクターの使用など)、またはベクターは、このような機能を提供するために改変され得る。様々なこのようなベクターが当技術分野で公知であり、一般的に入手可能である。ベクターが宿主細胞内に維持されている場合、ベクターは、自律構造として有糸分裂の際に細胞によって安定的に複製される、宿主細胞のゲノム内に組み込まれる、または宿主細胞の核または細胞質内に維持されるかのいずれかであり得る。
【0126】
B.調節要素
ベクター内に含められる真核生物発現カセットは、好ましくは、タンパク質コード配列、介在配列を含むスプライスシグナル、および転写停止/ポリアデニル化配列に機能的に連結された真核生物転写プロモーターを含む(5’から3’方向に)。
【0127】
i.プロモーター/エンハンサー
「プロモーター」は、転写の開始および速度が制御される核酸配列の領域である制御配列である。プロモーターは、調節タンパク質および分子がRNAポリメラーゼおよび他の転写因子に結合して核酸配列の特異的な転写を開始し得る遺伝子要素を含み得る。句「機能的に配置された」、「機能的に連結された」、「制御下」、および「転写制御下」は、プロモーターが、核酸配列の転写開始および/または発現を制御するべく、その配列に対して正確な機能位置および/または向きにあることを意味する。
【0128】
本発明のEBNA-1をコードするベクターに使用するのに適したプロモーターは、EBNA-1タンパク質をコードする発現カセットの発現を導いて、十分な定常状態レベルのEBNA-1タンパク質を産生させ、EBV oriPを含むベクターを安定して維持するプロモーターである。また、プロモーターは、リプログラミング因子をコードする発現カセットの効率的な発現にも使用される。
【0129】
プロモーターは、一般に、RNA合成の開始部位の位置を決めるように機能する配列を含む。最もよく知られているこの例は、TATAボックスであるが、TATAボックスを有していない一部のプロモーター、例えば、哺乳動物末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ遺伝子のプロモーターおよびSV40後期遺伝子のプロモーターでは、開始部位自体の上にある別個の要素が、開始位置を固定するのを助ける。追加のプロモーター要素が、転写開始の頻度を調節する。典型的には、これらは、開始部位の30?110塩基対上流の領域に位置するが、多数のプロモーターが、開始部位の下流の機能要素も含むことが示された。コード配列をプロモーター「の制御下」に置くために、選択されたプロモーターが、その下流の(すなわち、3’側の)転写リーディングフレームの転写開始部位の5’末端の位置を決める。「上流」プロモーターは、DNAの転写を刺激し、コードされたRNAの発現を促進する。
【0130】
プロモーター要素間の間隔は、柔軟な場合が多いため、要素が別の要素に対して逆になる、または移動してもプロモーター機能は保全される。tkプロモーターでは、プロモーター要素間の間隔は、活性の低下が始まる前の50塩基対まで間隔を広げられ得る。プロモーターによって、個々の要素は、転写を活性化するために協働して、または独立して機能することができる。プロモーターは、核酸配列の転写活性化に関与するシス作用性調節配列と呼ばれる「エンハンサー」と共に使用されてもよいし、使用されなくてもよい。
【0131】
プロモーターは、コードセグメントおよび/またはエキソンの上流に位置する5’非コード配列を単離することによって得られ得る、核酸配列に自然に結合されたものであり得る。このようなプロモーターは、「内在性」と呼ぶことができる。同様に、エンハンサーは、その配列の下流または上流のいずれかに位置する核酸配列に自然に結合されたものであり得る。あるいは、天然の環境では核酸に通常は結合されていないプロモーターを指す組換えまたは異種プロモーターの制御下にコード核酸セグメントを置くことによって一定の利点が得られる。組換えまたは異種エンハンサーも、天然の環境では核酸に通常は結合していないエンハンサーを指す。このようなプロモーターまたはエンハンサーには、他の遺伝子のプロモーターまたはエンハンサー、および任意の他のウイルスまたは原核細胞もしくは真核細胞から単離されたプロモーターまたはエンハンサー、および「天然」ではない、すなわち異なる転写調節領域の異なる要素および/または発現を変更する突然変異を含むプロモーターまたはエンハンサーが含まれ得る。例えば、組換えDNAの作製に最も一般的に使用されているプロモーターには、β-ラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)、ラクトース、およびトリプトファン(trp)プロモーター系が含まれる。プロモーターおよびエンハンサーの核酸配列を合成的に作製するのに加えて、配列は、本明細書に開示される組成物と共に、組換えクローニングおよび/またはPCR(商標)を含む核酸増幅技術を用いて作製され得る(参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,683,202号および同第5,928,906号を参照)。さらに、ミトコンドリアおよび葉緑体などの非核細胞小器官内での配列の転写および/または発現を導く制御配列も利用され得ることも企図される。
【0132】
当然、発現のために選択される細胞小器官、細胞型、組織、器官、または生物におけるDNA断片の発現を効率的に導くプロモーターおよび/またはエンハンサーを利用することが重要である。分子生物学の分野の技術者は、タンパク質の発現のためのプロモーター、エンハンサー、および細胞型の組合せの使用を知っている(例えば、参照により本明細書に組み入れられるSambrookら、1989を参照)。利用されるプロモーターは、組換えタンパク質および/またはペプチドの大量生産などに有利である、導入されるDNAセグメントの高レベルの発現を導く適切な条件下で、恒常的、組織特異的、誘導性、および/または有用であり得る。プロモーターは、異種性または内在性であり得る。
【0133】
加えて、任意のプロモーター/エンハンサーの組合せ(例えば、ワールドワイドウエブ:epd.isb-sib.ch/にある真核生物プロモーターデータベースEPDBの通り)も発現を駆動するために使用され得る。T3、T7、またはSP6細胞質発現系の使用は、別の可能な実施形態である。適切な最近ポリメラーゼが、送達複合体の一部としてまたは追加の遺伝子発現構築物として提供されると、真核細胞は、特定の細菌プロモーターからの細胞質転写を支持し得る。
【0134】
プロモーターの限定目的ではない例には、初期または後期ウイルスプロモーター、例えば、SV40初期または後期プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)初期プロモーター:真核細胞プロモーター、例えば、βアクチンプロモーター(Ng,S.Y.、Nuc.Acid Res. 17:601-615、1989、Quitscheら、J.Biol.Chem. 264:9539-9545、1989)、GADPHプロモーター(Alexanderら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 85:5092-5096、1988、Ercolaniら、J.Biol.Chem.263:15335-15341、1988)、メタロチオネインプロモーター(Karinら、Cell 36:371-379、1989;Richardsら、Cell 37:263-272、1984);および連結応答要素プロモーター、例えば、サイクリックAMP応答要素プロモーター(cre)、血清応答要素プロモーター(sre)、ホルボールエステルプロモーター(TPA)、および哺乳動物TATAボックス近傍の応答要素プロモーター(tre)が含まれる。また、ヒト成長ホルモンプロモーター配列(例えば、Genbankに記載されているヒト成長ホルモン最小プロモーター、受託番号X05244、ヌクレオチド283-341)またはマウス乳房腫瘍プロモーター(ATCCから入手可能、カタログ番号ATCC45007)を使用することも可能である。具体例として、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーターを挙げることができる。
【0135】
ii.初期シグナルおよび内部リボソーム結合部位
特定の初期シグナルも、コード配列の効率的な翻訳に必要であり得る。これらのシグナルは、ATG開始コドンまたは隣接配列を含む。ATG開始コドンを含む外因性翻訳制御シグナルは、提供される必要があり得る。当業者であれば、容易にこれを決定し、必要なシグナルを提供できるであろう。望ましいコード配列のリーディングフレームが全インサートを確実に翻訳するためには、開始コドンが「インフレーム」でなければならないことは周知である。外因性翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然または合成のいずれかであり得る。発現の効率は、適切な転写エンハンサー要素を含めることによって促進され得る。
【0136】
本発明の特定の実施形態では、内部リボソーム侵入部位(IRES)要素が、多重遺伝子または多シストロン性メッセージを生成するために使用される。IRES要素は、リボソームスキャニングモデルの5’メチル化Cap依存性翻訳を回避して、内部部位で翻訳を開始することができる(PelletierおよびSonenberg、1988)。哺乳動物メッセージ由来のIRES(MacejakおよびSarnow、1991)はもちろん、ピコルナウイルスファミリーの2つのメンバー(ポリオおよび脳心筋炎)由来のIRES要素が記載されている(PelletierおよびSonenberg、1988)。IRES要素は、異種オープンリーディングフレームに連結され得る。複数のオープンリーディングフレームは、一緒に転写され、それぞれがIRESによって分離され、多シストロン性メッセージを生成し得る。IRES要素によって、各オープンリーディングフレームは、効率的な翻訳のためにリボソームに接近可能である。多重遺伝子は、単一のプロモーター/エンハンサーを使用して単一のメッセージを転写することで効率的に発現され得る(それぞれ参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,925,565号および同第5,935,819号を参照)。
【0137】
iii.マルチクローニング部位
ベクターは、マルチクローニング部位(MCS)を含み得、このMCSは、複数の制限酵素部位を含む核酸領域であり、どの制限酵素部位も、ベクターを消化するために標準的な組換え技術とともに使用され得る(例えば、参照により本明細書に組み入れられるCarbonelliら、1999、Levensonら、1998、およびCocea、1997を参照)。「制限酵素消化」は、核酸分子の特定の位置でのみ機能する酵素を用いた核酸分子の触媒的切断を指す。これらの制限酵素の多くは市販されている。このような酵素の使用は、当業者によって広く理解されている。しばしば、ベクターは、MCS内で切断して外因性配列のベクターへのライゲーションを可能にする制限酵素を使用して線状化または断片化される。「ライゲーション」とは、2つの核酸断片間にホスホジエステル結合を形成するプロセスを指し、これらの断片は互いに連続していてもよいし、連続していなくてもよい。制限酵素およびライゲーション反応を伴う技術は、組換え技術の分野の技術者には周知である。
【0138】
iv.スプライシング部位
殆どの転写された真核生物RNA分子は、一次転写物からイントロンを除去するためのRNAスプライシングを受ける。真核生物ゲノム配列を含むベクターは、タンパク質発現のための転写の適切なプロセシングを確実にするためにドナーおよび/またはアクセプタースプライシング部位を必要とし得る(例えば、参照により本明細書に組み入れられるChandlerら、1997を参照)。
【0139】
v.終結シグナル
本発明のベクターまたは構築物は、一般的に、少なくとも1つの終結シグナルを含む。「終結シグナル」または「ターミネーター」は、RNAポリメラーゼによるRNA転写物の特定の終結に関与するDNA配列から構成されている。したがって、特定の実施形態では、RNA転写物の産生を終了させる終結シグナルが企図される。ターミネーターは、望ましいメッセージのレベルを達成するためにin vivoで必要であり得る。
【0140】
真核細胞系では、ターミネーター領域は、ポリアデニル化部位を露出するために、新規な転写物の部位特異的切断を可能にする特異的DNA配列も含み得る。これは、転写物の3’末端に約200A残基(ポリA)のストレッチを付加するために特殊化した内在性ポリメラーゼにシグナルを送る。このポリA尾部で修飾されたRNA分子は、より安定しているようであり、より効率的に翻訳される。したがって、真核生物に関する他の実施形態では、ターミネーターが、RNAの切断のためのシグナルを含むことが好ましく、ターミネーターシグナルが、メッセージのポリアデニル化を促進することがさらに好ましい。ターミネーターおよび/またはポリアデニル化部位の要素は、メッセージのレベルを強めて、カセットから他の配列の通読を最小にするように機能し得る。
【0141】
本発明で使用するように企図されたターミネーターには、本明細書に記載された、または当業者に公知であろう任意の既知の転写のターミネーター、例えば、限定されるものではないが、遺伝子の終結配列、例えば、ウシ成長ホルモンターミネーターなど、またはウイルス終結配列、例えば、SV40ターミネーターなどが含まれる。特定の実施形態では、終結シグナルは、配列の切断などにより、転写可能な配列または翻訳可能な配列がなくてもよい。
【0142】
vi.ポリアデニル化シグナル
発現、特に真核生物発現では、典型的には、転写物の適切なポリアデニル化をもたらすためのポリアデニル化シグナルが含まれる。ポリアデニル化シグナルの性質は、本発明の実施の成功にとって重要であるとは考えられていないが、任意のこのような配列が利用され得る。好ましい実施形態は、様々な標的細胞で十分に機能することが知られている便利なSV40ポリアデニル化シグナルまたはウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナルを含む。ポリアデニル化は、転写物の安定性を向上させ得る、または細胞質輸送を容易にし得る。
【0143】
vii.複製の起点
宿主細胞中でベクターを増殖させるために、ベクターは、複製部位の1つまたはそれより多い起点(しばしば「ori」と呼ばれる)、例えば、上記のEBVのoriPまたは遺伝子組換えoriPに対応する核酸配列を含み得、遺伝子組換えoriPは、分化プログラミングにおける機能が同様または上昇した、複製が開始される特定の核酸配列である。あるいは、上記の他の染色体外複製ウイルスの複製起点または自己複製配列(ARS)が利用され得る。
【0144】
viii.選択マーカーおよびスクリーニングマーカー
本発明の特定の実施形態では、本発明の核酸構築物を含む細胞は、発現ベクター内にマーカーを含めることによって、in vitroまたはin vivoで同定され得る。このようなマーカーは、同定可能な変化を細胞に付与して、発現ベクターを含む細胞の容易な同定を可能にし得る。一般的に、選択マーカーは、選択を可能にする特性を付与するものである。正の選択マーカーは、そのマーカーの存在がその選択を可能にするものであるのに対して、負の選択マーカーは、そのマーカーの存在がその選択を阻止するものである。正の選択マーカーの例は、薬剤耐性マーカーである。
【0145】
通常は、薬物選択マーカーを含めることは、形質転換体のクローニングおよび同定を助け、例えば、ネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシン、およびヒスチジノールに対する耐性を付与する遺伝子が、有用な選択マーカーである。実施の条件に基づいて形質転換体の区別を可能にする表現型を付与するマーカーに加えて、基準が比色分析であるGFPなどのスクリーニング可能なマーカーを含む他の種類のマーカーも企図される。あるいは、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)などの負の選択マーカーとしてスクリーニング可能な酵素が利用され得る。また、当業者であれば、場合によってはFACS分析と共に使用される免疫学的マーカーを利用する方法も知っているであろう。使用されるマーカーは、遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現可能である限り、重要であるとは考えられない。選択マーカーおよびスクリーニングマーカーのさらなる例は、当業者には周知である。本発明の1つの特徴には、選択マーカーおよびスクリーニングマーカーを用いて、分化プログラミング因子がベクターを含まない細胞で望ましい分化状態に変更した後にそれらの細胞を選択することが含まれる。」(段落【0120】?【0145】)

サ.「【0146】
C.ベクター送達
本発明を用いたリプログラミングまたは分化プログラミングベクターの体細胞内への導入は、本明細書に記載された、または当業者に公知であろう細胞の形質転換のための核酸送達の任意の適切な方法を使用し得る。このような方法には、限定されるものではないが、ex vivoトランスフェクション(Wilsonら、1989、Nabelら、1989)、微量注入(HarlanおよびWeintraub、1985;参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,789,215号)を含む注入(それぞれ参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,994,624号、同第5,981,274号、同第5,945,100号、同第5,780,448号、同第5,736,524号、同第5,702,932号、同第5,656,610号、同第5,589,466号、および同第5,580,859号);エレクトロポレーション(参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,384,253号;Tur-Kaspaら、1986;Potterら、1984);リン酸カルシウム沈殿(GrahamおよびVan DerEb、1973;ChenおよびOkayama、1987;Rippeら、1990);DEAE-デキストラン、続くポリエチレングリコールの使用(Gopal、1985);直接超音波負荷(Fechheimerら、1987);リポソーム媒介トランスフェクション(NicolauおよびSene、1982;Fraleyら、1979;Nicolauら、1987;Wongら、1980;Kanedaら、1989;Katoら、1991)、および受容体媒介トランスフェクション(WuおよびWu、1987;WuおよびWu、1988);微粒子銃(それぞれ参照により本明細書に組み入れられる国際出願第94/09699号および同第95/06128号;米国特許第5,610,042号、同第5,322,783号、同第5,563,055号、同第5,550,318号、同第5,538,877号、および同第5,538,880号);炭化ケイ素繊維を用いた攪拌(Kaepplerら、1990;それぞれ参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,302,523号および同第5,464,765号);Agrobacterium媒介形質転換(それぞれ参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,591,616号および同第5,563,055号);プロトプラストのPEG媒介形質転換(Omirullehら、1993;それぞれ参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,684,611および同第4,952,500号);乾燥/阻害媒介DNA取り込み(Potrykusら、1985)、およびこのような方法の任意の組み合わせなどによるDNAの直接送達が含まれる。これらのような技術の適用によって、細胞小器官(複数可)、細胞(複数可)、組織(複数可)、または生物(複数可)が安定的または一過性に形質転換され得る。
【0147】
i.リポソーム媒介トランスフェクション
本発明の特定の実施形態では、核酸は、例えば、リポソームなどの脂質複合体の中に閉じ込められ得る。リポソームは、リン脂質二分子膜および内部の水性媒体によって特徴付けられる小胞構造である。多重膜リポソームは、水性媒体によって分離された複数の脂質層を有する。これらは、リン脂質が過剰の水溶液中で懸濁される際に自然に生じる。脂質成分は、密閉構造が形成される前に自己再構成され、脂質二分子膜間に水および溶解した溶質を閉じ込める(GhoshおよびBachhawat、1991)。また、Lipofectamine(Gibco BRL)またはSuperfect(Qiagen)と複合体を形成した核酸も企図される。使用されるリポソームの量は、使用される細胞はもちろん、リポソームの性質によって様々であり得、例えば、細胞1,000,000?10,000,000に対してベクターDNA約5?約20μgが企図され得る。
【0148】
in vitroでの外因性DNAのリポソーム媒介核酸送達および発現は、大成功であった(NicolauおよびSene、1982;Fraleyら、1979;Nicolauら、1987)。培養されたニワトリ胚、HeLa細胞、および肝細胞腫細胞における外因性DNAのリポソーム媒介送達および発現の実現性もまた実証された(Wongら、1980)。
【0149】
本発明の特定の実施形態では、リポソームは、赤血球凝集ウイルス(HVJ)と複合体を形成し得る。これは、細胞膜との融合を容易にし、かつリポソームカプセル化DNAの細胞侵入を促進することを示している(Kanedaら、1989)。他の実施形態では、リポソームは、核非ヒストン染色体タンパク質(HMG-1)と複合体を形成し得る、またはこのタンパク質と共に利用され得る(Katoら、1991)。別のさらなる実施形態では、リポソームは、HVJおよびHMG-1の両方と複合体を形成し得る、またはこれらと共に利用され得る。他の実施形態では、送達ビヒクルは、リガンドおよびリポソームを含み得る。
【0150】
ii.エレクトロポレーション
本発明の特定の実施形態では、核酸は、エレクトロポレーションによって細胞小器官、細胞、組織、または生物内に導入される。エレクトロポレーションは、細胞およびDNAの懸濁液の高電圧放電への曝露を含む。レシピエント細胞は、機械的創傷によって形質転換しやすくすることができる。また、使用されるベクターの量は、使用される細胞の性質によって様々であり得、例えば、細胞1,000,000?10,000,000に対してベクターDNA約5?約20μgが企図され得る。
【0151】
エレクトロポレーションを使用する真核細胞のトランスフェクションは、かなりの成功であった。この方法で、マウス前Bリンパ球が、ヒトκ免疫グロブリン遺伝子(Potterら、1984)でトランスフェクトされ、ラット肝細胞が、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子(Tur-Kaspaら、1986)でトランスフェクトされた。
【0152】
iii.リン酸カルシウム
本発明の他の実施形態では、核酸が、リン酸カルシウム沈殿を用いて細胞に導入される。ヒトKB細胞が、この技術を用いてアデノウイルス5DNAをトランスフェクトされた(GrahamおよびVan Der Eb、1973)。同様に、この方法で、マウスL(A9)、マウスC127、CHO、CV-1、BHK、NIH3T3、およびHeLa細胞が、ネオマイシンマーカー遺伝子をトランスフェクトされ(ChenおよびOkayama、1987)、そしてラット肝細胞が、様々なマーカー遺伝子をトランスフェクトされた(Rippeら、1990)。
【0153】
iv.DEAE-デキストラン
別の実施形態では、核酸は、DEAE-デキストラン、次いでポリエチレングリコールを用いて細胞内に送達される。この方法で、レポータープラスミドが、マウス骨髄腫細胞および赤白血病細胞内に導入された(Gopal、1985)。
【0154】
v.超音波負荷
本発明のさらなる実施形態は、直接超音波負荷による核酸の導入を含む。LTK線維芽細胞は、超音波負荷によってチミジンキナーゼ遺伝子をトランスフェクトされた(Fechheimerら、1987)。
【0155】
vi.受容体媒介トランスフェクション
なおさらに、核酸は、受容体媒介送達ビヒクルによって標的細胞に送達され得る。これらは、標的細胞中で起こる受容体媒介エンドサイトーシスによる巨大分子の選択的な取り込みを利用している。様々な受容体の細胞型特異的分布から見て、この送達方法は、本発明にさらにある程度の特異性を付け加える。
【0156】
特定の受容体媒介遺伝子標的ビヒクルは、細胞受容体特異的リガンドおよび核酸結合剤を含む。他のビヒクルは、送達される核酸が機能的に付着された細胞受容体特異的リガンドを含む。いくつかのリガンドが、技術の操作性を確立する受容体媒介遺伝子導入(WuおよびWu、1987;Wagnerら、1990;Peralesら、1994;Myers、欧州特許第0273085号)のために使用されてきた。別の哺乳動物細胞型の文脈における特異的送達が記載されている(参照により本明細書に組み入れられるWuおよびWu、1993)。本発明の特定の態様では、リガンドは、標的細胞集団上で特異的に発現される受容体に対応するように選択される。
【0157】
他の実施形態では、細胞特異的核酸標的ビヒクルの核酸送達ビヒクル成分は、リポソームと組み合わせられた特異的結合リガンドを含み得る。送達される核酸(複数可)は、リポソーム内に収容され、特異的結合リガンドが、リポソーム膜内に機能的に取り込まれる。したがって、リポソームは、標的細胞の受容体(複数可)に特異的に結合し、内容物を細胞に送達する。このような系は、例えば、上皮成長因子(EGF)が、EGF受容体のアップレギュレーションを示す細胞への核酸の受容体媒介送達に使用される系を用いて機能的であることが示された。
【0158】
なおさらなる実施形態では、標的送達ビヒクルの核酸送達ビヒクル成分は、好ましくは、細胞特異的な結合を導く1つまたはそれより多い脂質または糖タンパク質を含むリポソーム自体であり得る。例えば、ラクトシル-セラミド、ガラクトース末端アシアルガングリオシドが、リポソーム内に取り込まれ、肝細胞によるインスリン遺伝子の取り込みの増加が観察された(Nicolauら、1987)。本発明の組織特異的形質転換構築物が、同様の方法で標的細胞内に特異的に送達され得ることが企図される。
【0159】
vii.微粒子銃
微粒子銃技術は、少なくとも1つの細胞小器官、細胞、組織、または生物内に核酸を導入するために使用され得る(それぞれ参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,550,318号;同第5,538,880号;同第5,610,042号;および国際出願第94/09699号)。この方法は、細胞を殺傷することなくDNA被覆微粒子を細胞膜に突き通して細胞に侵入することを可能にする高速度までDNA被覆微粒子を加速させる能力に依存する(Kleinら、1987)。当技術分野で公知の様々な微粒子銃技術が存在し、その多くが本発明に適用可能である。
【0160】
この微粒子銃では、1つまたはそれより多い粒子が、少なくとも1つの核酸で被覆され、推進力によって細胞内に送達され得る。小さな粒子を加速するためのいくつかの装置が開発されてきた。1つのこのような装置は、動力を供給する電流を生成する高電圧放電に依存する(Yangら、1990)。使用される微粒子発射体は、タングステンまたは金の粒子やビードなどの生物学的に不活性な物質からなっていた。例示的な粒子には、タングステン、白金、および好ましくは金からなるものが含まれる。場合によっては、金属粒子上へのDNA沈殿が、微粒子銃を使用するレシピエント細胞へのDNA送達に必須ではないことも企図される。しかし、粒子は、DNAで被覆されるのではなく、DNAを含み得ることが企図される。DNA被覆粒子は、粒子銃によるDNA送達のレベルを上昇させ得るが、それ自体は必須ではない。
【0161】
微粒子を撃つために、懸濁液中の細胞が、フィルターまたは固形培養培地上で濃縮される。あるいは、未成熟胚または他の標的細胞が、固形培養培地上に配置され得る。微粒子を撃たれる細胞は、微粒子発射体停止プレートよりも下の適切な距離に配置される。」(段落【0146】?【0161】)

シ.「【0162】
VI.iPS細胞の選択
本発明の特定の態様では、リプログラミングベクターが体細胞内に導入された後、細胞が、増殖のために培養され(任意選択で、トランスフェクト細胞を濃縮するために正の選択またはスクリーニングマーカーのようなベクター要素の存在について選択され)、リプログラミングベクターが、これらの細胞内でリプログラミング因子を発現し、細胞分裂と共に複製および分割する。これらの発現されたリプログラミング因子は、体細胞ゲノムをリプログラミングして、自律多能性状態を確立し、この最中またはベクターの存在の正の選択の除去後に、外因性遺伝子要素が徐々に消失する。これらの誘導多能性幹細胞は、多能性胚性幹細胞と実質的に同一であることが期待されているため、胚性幹細胞の特質に基づいてこれらの体細胞に由来する子孫から選択され得る。追加の負の選択ステップも、リプログラミングベクターDNAの非存在の検査または選択マーカーの使用によって、外因性遺伝子要素を本質的に含まないiPS細胞の選択を促進または助けるために利用され得る。
【0163】
A.胚性幹細胞の特質についての選択
以前の研究で作製に成功したiPSCは、以下に示す点で天然単離多能性幹細胞(マウス胚性幹細胞mESCおよびヒト胚性幹細胞hESCなど)に著しく類似しているため、天然単離多能性幹細胞に対するiPSCの同一性、真正性、および多能性が裏付けられた。したがって、本発明に開示された方法で作製された誘導多能性幹細胞は、1つまたはそれより多い以下の胚性幹細胞の特質に基づいて選択され得る。
【0164】
i.細胞の生物学的特性
形態:iPSCは、ESCに形態学的に類似している。各細胞は、丸い形状、大きい核小体、および少ない細胞質を有し得る。iPSCのコロニーも同様に、ESCのコロニーに類似し得る。ヒトiPSCは、hESCに類似した縁が鋭く平坦な密集したコロニーを形成し、マウスiPSCは、mESCに類似し、hESCよりも平坦ではなく、より塊状のコロニーを形成する。
【0165】
増殖特性:倍加時間および有糸分裂活性は、幹細胞がその定義の一部として自己再生しなければならないため、ESCに重要なものである。iPSCは、分裂期に活性であり、ESCと等しい速度で活発に自己再生し、増殖し、そして分裂し得る。
【0166】
幹細胞マーカー:iPSCは、ESC上に発現される細胞表面抗原マーカーを発現し得る。ヒトiPSCは、限定されるものではないが、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81、TRA-2-49/6E、およびNanogを含め、hESCに特異的なマーカーを発現した。マウスiPSCは、mESCと同様に、SSEA-1を発現したが、SSEA-3もSSEA-4も発現しなかった。
【0167】
幹細胞遺伝子:iPSCは、Oct-3/4、Sox-2、Nanog、GDF3、REX1、FGF4、ESG1、DPPA2、DPPA4、およびhTERTを含め、未分化ESCで発現される遺伝子を発現し得る。
【0168】
テロメラーゼ活性:テロメラーゼは、約50回の細胞分裂のヘイフリック限界によって制限されない細胞分裂を持続させるために必要がある。hESCは、自己再生および増殖を持続させるために高いテロメラーゼ活性を示し、iPSCもまた、高いテロメラーゼ活性を示し、テロメラーゼタンパク質複合体に必要な成分であるhTERT(ヒトテロメラーゼ逆転写酵素)を発現する。
【0169】
多能性:iPSCは、ESCに類似した方式で完全に分化した組織に分化することができる。
【0170】
神経分化:iPSCは、ニューロンに分化して、βIII-チューブリン、チロシンヒドロキシラーゼ、AADC、DAT、ChAT、LMX1B、およびMAP2を発現し得る。カテコールアミン関連酵素の存在は、iPSCが、hESCと同様に、ドーパミン作動性ニューロンに分化し得ることを示唆し得る。幹細胞関連遺伝子は、分化後にダウンレギュレートされる。
【0171】
心臓分化:iPSCは、自然に鼓動を開始する心筋細胞に分化し得る。心筋細胞は、TnTc、MEF2C、MYL2A、MYHCβ、およびNKX2.5.を発現した。幹細胞関連遺伝子は、分化後にダウンレギュレートされる。
【0172】
奇形腫形成:免疫不全マウスに注入されたiPSCは、一定期間、例えば、9週間後に自然に奇形腫を形成し得る。奇形腫は、胚葉、中胚葉、および外胚葉の3つの胚葉に由来する組織を含む多系統の腫瘍であり:これは、典型的には1種類だけの細胞型からなる他の腫瘍とは異なっている。奇形腫形成は、多能性のランドマーク試験である。
【0173】
胚様体:培養下のhESCは、「胚様体」と呼ばれる球状胚様構造を自然に形成し、この胚様体は、分裂期に活性する分化したhESCのコアと3つすべての胚葉から完全に分化した細胞の周辺からなる。iPSCも同様に、胚様体を形成し、周辺の分化細胞を有する。
【0174】
胚盤胞注入:hESCは、胚盤胞の内細胞塊(胚結節)内に自然に存在し、胚結節において、胚盤胞の殻(栄養膜)が胚外組織に分化する間に胚に分化する。中空栄養膜は、生きた胚を形成することができないため、胚盤胞内の胚性幹細胞が分化して胚を形成する必要がある。レシピエントの雌に導入される胚盤胞を形成するために微量ピペットで栄養膜に注入されたiPSCは、生きたキメラ仔マウス:体全体にiPSC誘導体が10?90%組み込まれたキメラのマウスとなり得る。
【0175】
ii.後成的リプログラミング
プロモーターの脱メチル化:メチル化は、メチル基のDNA塩基への転移、典型的には、CpG部位(シトシン/グアニン配列の近傍)のシトシン分子へのメチル基の転移である。遺伝子の広範なメチル化は、発現タンパク質の活性の抑制または発現を阻害する酵素の動員によって発現を阻害する。したがって、遺伝子のメチル化は、転写の抑制によって効率的に遺伝子を沈黙させる。Oct-3/4、Rex1、およびNanogを含む多能性関連遺伝子のプロモーターは、iPSC内で脱メチル化され、それらのプロモーター活性ならびにiPSC内の多能性関連遺伝子の活発な促進および発現を示し得る。
【0176】
ヒストン脱メチル化:ヒストンは、様々なクロマチン関連修飾によってそれらの活性を高めることができるDNA配列に構造的に局在する密集化タンパク質である。Oct-3/4、Sox-2、およびNanogに関連したH3ヒストンは、脱メチル化され、Oct-3/4、Sox-2、およびNanogの発現を活性化し得る。
【0177】
B.痕跡を残さない特徴の選択
本発明のoriPをベースとしたプラスミドなどのリプログラミングベクターは、染色体外で複製し、何世代か後にはその存在が宿主細胞から消失する。しかし、外因性ベクター要素を本質的に含まない子孫細胞の追加の選択ステップは、このプロセスを促進し得る。例えば、子孫細胞のサンプルが、当技術分野で公知の外因性ベクター要素の存在または消失を検査するために抽出され得る(LeightおよびSugden、Molecular and Cellular Biology、2001)。
【0178】
リプログラミングベクターは、選択マーカー、より具体的には、このような選択マーカーを本質的に含まない子孫細胞を選択するためにチミジンキナーゼをコードする遺伝子などの負の選択マーカーをさらに含み得る。ヒト単純ヘルペスウイルス1型チミジンキナーゼ遺伝子(HSVtk)は、哺乳動物細胞内で条件致死性マーカーとして機能する。HSVtkコード酵素は、特定のヌクレオシド類似体(例えば、抗ヘルペス剤であるガンシクロビル)をリン酸化し、これによりこれらのヌクレオシド類似体を毒性DNA複製阻害剤に変換することができる。別法または補足的な方法では、RT-PCR、PCR、FISH(蛍光in situハイブリダイゼーション)、遺伝子アレイ、またはハイブリダイゼーション(例えば、サザンブロット法)などの従来の方法を用いて子孫細胞における外因性遺伝子要素の存在を検査する。」(段落【0162】?【0178】)

ス.「【0183】
実施例1 痕跡を残さないリプログラミングプラスミドの構築
本発明者らは、EBV(LindnerおよびSugden、2007を参照)に由来する約1,000塩基対離隔したDSおよびFRを含むoriP配列ならびにδUR1として知られている野生型EBNA1の短縮型(Kennedyら、2003では、DomNeg2と呼ばれている)を含むレシピエント骨格プラスミドを構築する(図3)。プラスミドは、現在は、δUR1の発現を最大にするイントロン配列も含む延長因子1a(EF1a)プロモーターによって駆動されるδUR1を発現させるために構築される。骨格プラスミドは、現在は、ハイグロマイシン耐性をコードする哺乳動物細胞の選択マーカーを含むように構築される:しかし、耐性マーカーの選択は、プラスミドが導入される細胞系の感受性に対応するように柔軟性を保つ。同様に、プラスミドは、原核細胞選択の薬剤耐性をコードし、この場合、プラスミドは、アンピシリン耐性をコードする。
【0184】
本発明者らは、リプログラミング細胞を多能性(すなわち、iPS細胞)にするのに必要であり、これに寄与する遺伝子をコードする上述のレシピエントプラスミド内に多数のカセットを組み込んだ。1つのカセットは、リプログラミングのために必須の2つの遺伝子、Sox-2およびOct-4をコードしていた(図4)。本発明者らは、Sox-2およびOct-4の発現を駆動するためにホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター、サイトメガロウイルス前初期遺伝子(CMV)プロモーター、またはSV40プロモーターを使用することができるが、この選択は、その発現の効率によって変更されることもある。任意選択で、本発明者らは、転写物の発現も最大にするためにヒトβグロビン遺伝子由来の第2のイントロンも含めた。したがって、両方の遺伝子は、同じ転写物によってコードされるが、転写は、Sox-2の標準ATGおよびOct-4の脳心筋炎ウイルス由来の内部リボソーム侵入部位(IRES)から開始され得る。同様に、他のカセットは、NanogおよびLin28をコードする2シストロン転写物をコードする、またはKlf4およびc-Myc(PGKプロモーターまたは任意の他の適切なプロモーターによって駆動される)をコードし、IRESによって分離もされていた(図4)。Sox-2、Oct-4、Nanog、Lin28、Klf4、c-Myc、EBNA-1のいずれか2つ以上を含む多シストロン転写物の変形形態も使用され得る。
【0185】
系の効率を最適にするために系の特定の変形形態もあり得る。最新の文献は、Lin28がリプログラミングプロセスに重要でない可能性があるため、本発明者らが、Sox-2、Oct-4、およびNanogのみを含むようにこのプラスミド系を調整できる可能性が高いことを示唆している。さらに、選択されるIRESのタイプは、他の遺伝子セットにおいてであるが、機能することが証明されている。しかし、IRESが、適切なリプログラミングに必要な発現レベルまで促進するには不十分であることが立証され、これによりカセットが分解され得、各リプログラミング遺伝子がそれ自体のヒトプロモーターによって駆動される可能性がある。
【0186】
要約すると、マスターシャトルプラスミドまたはリプログラミングプラスミドは、Sox-2、Oct-4、Nanog、および場合によりLin28をコードすることができ(図5)、その複製および維持は、oriPおよびδUR1の存在によって促進され得る。また、このプラスミドは、チミジンキナーゼなどの負の選択マーカーおよび緑色または赤色発光タンパク質をコードする配列などの追加の正の選択マーカーを含める将来の改変のための余地がある。」(段落【0183】?【0186】)

セ.「【0187】
実施例2 痕跡を残さないリプログラミングプラスミドの使用
リプログラミングの成功は、この大きい(15?20塩基対)のプラスミドの哺乳動物細胞内への効率的な導入に左右される。本発明者らは、現在は、親油性(lypophyllic)をベーとした方法を利用してDNAをヒト線維芽細胞に導入している;しかし、この方法は、トランスフェクトされる細胞型によって変更される可能性が高い。例えば、本発明者らは、DNAプラスミドの造血細胞内への導入のためにエレクトロポレーションを選択する可能性が高いであろう。細胞が適切にトランスフェクトされたら、本発明者らは、これらの細胞を、トランスフェクト細胞に適した培地を用いて、放射線照射マウス胚線維芽細胞(MEF)のベッドまたは10cmの培養皿のマトリゲルに載せる。トランスフェクトの約6日後に、培地を、リプログラミング細胞専用の培地に換え、毎日または1日置きに交換する(Yuら、2007)。
【0188】
iPS細胞作製の我々の現行の方法に基づいて、本発明者らは、トランスフェクションの約20日後に幹細胞に似たコロニーを選択し、これらをMEFまたは6ウェル培養プレートのマトリゲルに移し、専用の培地を毎日または1日おきに交換するであろう。十分に増殖すると、クローンが核型になり、幹細胞に特異的な適切なマーカーであるか試験する。」(段落【0187】?【0188】)

ソ.「

」(図3)

タ.「

」(図4)

チ.「

」(図5)

(2)特許法第36条第6項第1号について
本願発明の解決しようとする課題は、上記(1)の記載事項ア.?カ.及び請求項1の記載からみて、エプスタインバーウイルス(EBV)のoriPおよびEBNA-1をコードする発現カセット、および初期化因子をコードする核酸を含む初期化プラスミドベクターを含む、外因性初期化ベクター要素を本質的に含まないiPS細胞集団を正の選択マーカーを使用せずに作製するための組成物を提供するという課題であると認められる。
一方、発明の詳細な説明には、初期化因子の使用、ベクターの構築方法や導入方法などの方法についての一般的な記載がある(上記(1)の記載事項キ.?シ.)ものの、実施例等により具体的に記載されているのは、EBVのoriPおよびEBNA-1をコードするDNAを含むリプログラミングプラスミドの構築についての記載(実施例1、図3?5;上記(1)の記載事項ス.、ソ.?チ.)までであり、そのリプログラミングプラスミドの具体例として、EBVのoriPおよびEBNA-1をコードするDNAを含み、PGKプロモーターの下流に、Sox-2(初期化因子)をコードするDNA、IRES、Oct-4(初期化因子)をコードするDNAを含み、PGKプロモーターの下流に、Nanog(初期化因子)をコードするDNA、IRES、Lin28(初期化因子)をコードするDNAを含み、さらに、ハイグロマイシン耐性遺伝子(正の選択マーカー)を含むプラスミドという特定のプラスミドが図5に記載されている。しかしながら、そのリプログラミングプラスミドの使用についての記載(実施例2;上記(1)の記載事項セ.)は、現在形で記載されており、仮想の実施例と考えられるから、該リプログラミングプラスミドを用いてiPS細胞を作製することについてはその可能性が示唆されているに留まり、該リプログラミングプラスミドを用いてiPS細胞を作製することができたことを裏付ける実施例等による具体的な記載は何ら示されていないことになる。
そして、EBVのoriPおよびEBNA-1をコードするDNAを含むプラスミドを用いれば、iPS細胞の作製に必要なだけの初期化因子の発現を得られることが出願時の技術常識であったとは認められず、どのようなプラスミドベクターを使用すれば、iPS細胞を作製することができるのかを予測することは困難であることが出願時の技術常識であったと認められるから、出願時の技術常識を考慮しても、EBVのoriPおよびEBNA-1をコードする発現カセット、および少なくともSox-2とOct-4とを含み、さらにNanog又はKlf4の何れかを含む初期化因子をコードする核酸を含む本願発明の初期化プラスミドベクターに含まれる任意のプラスミドベクターを、外因性初期化ベクター要素を本質的に含まないiPS細胞集団を正の選択マーカーを使用せずに作製するための組成物として提供するという発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されているとはいえない。

これに対して、審判請求人は、平成30年1月31日付け意見書において、リプログラミングプラスミドの構築については本願明細書の実施例1に具体的に記載されており、本願請求項1に記載のリプログラミングプラスミドを含む組成物は、本願明細書の記載に基づいて実施できる旨主張し、そして、平成30年5月1日付け上申書において、「本願発明の組成物を体細胞に導入することによってiPS細胞を製造することができたことを裏付ける実験データを取得することができましたので、以下に、実験方法、結果及び考察などを記載致します。・・・・・・・・・
本実験証明の目的は、本願明細書に記載のベクターを実際に構築し、該ベクターを体細胞に導入してiPS細胞を作製することができたことを裏付けることであり、本願発明の範囲内で実施例に近似するプラスミドを構築する方針とした。・・・・・・・・・
本願明細書(段落0121)に記載の通り、複製起点(oriP)およびEBNA1タンパク質またはその誘導体から構成される要素が、プラスミドの性能には本質的である。即ち、これらの要素により、1回のトランスフェクションにより初期化を開始するのに十分な期間プラスミドを保持することが可能になる。
なお、上記の通り本上申書に記載した実験においては本願明細書の実施例に対して微修正を加えているが本願発明の範囲内の実験を行っており、実施例と比較して初期化効率が多少変動する可能性はあるが、初期化の可否に影響を及ぼす変更は行っていない。
(結び)
上記した実験結果により実証される通り、補正後の請求項1に記載のリプログラミングプラスミドを含む組成物により、iPS細胞を誘導できることが実証されました。」と主張しているので、以下この点について検討する。
審判請求人は、上記上申書において明確に示してはいないが、プラスミドの構造からすると、「p162.pEP4EO2SEN2L」として記載されているプラスミドが、本願明細書の「実施例に近似するプラスミド」として使用されているものと認められるが、上記上申書において示された実験データは、本願明細書に記載のプラスミド(本願の図5に記載のプラスミド)を単独で使用した実験結果ではなく、p162(pEP4EO2SEN2L)とp164とp166の3つのプラスミドの組み合わせによって得られた実験結果であり、また、「p164」として記載されているプラスミド、「p166」として記載されているプラスミドは、本願明細書に全く記載されていないプラスミドであり、CD34^(+)細胞を材料に使用している点なども本願明細書に全く記載されていないから、上記実験データは、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであることを裏付ける証拠として採用できない。
次に、上記上申書に本願明細書の「実施例に近似するプラスミド」として使用されている「p162.pEP4EO2SEN2L」のプラスミドの使用について検討する。上記上申書において「p162.pEP4EO2SEN2L」として記載されているプラスミドは、プラスミドの名称からすると、Science(Epub 2009.Mar.26)Vol.324,No.5928,p.797-801(審判請求人が甲第2号証として提出した文献と同じ。以下、「参考文献」という。)及びそのサポーティング・オンライン・マテリアルに「pEP4EO2SEN2L」として記載されているプラスミドと同一のものと認められる。その参考文献には、エピソーマルベクター上の6つのリプログラミング遺伝子を用いた最初の試験は、ヒトiPS細胞コロニーを得ることに失敗した(表S2)と記載されており(第798頁右欄第12行?第14行)、これらの組み合わせのうち3つ(すべて、OCT4、SOX2、Nanog、LIN28、c-Myc、KLF4およびSV40LTを含む)が、oriP/EBNA1ベースのベクターを用いてiPS細胞コロニーを産生することに成功した(図1A、図S2Dおよび表S2)と記載されている(第799頁左欄第5行?中欄第1行)。そして、そのサポーティング・オンライン・マテリアルの表S2には、様々なプラスミドを単独でまたは組み合わせて使用した実験結果が記載されており、実験1(8試験)、実験2(18試験)では、ヒトiPS細胞コロニーを得ることができなかったことが記載されており、実験3(11試験)において初めて、3つの特定のプラスミドを組み合わせた1つの試験(試験19)だけでヒトiPS細胞コロニーを得ることができたことが記載されており、さらに、実験4(20試験)では、2つの特定のプラスミドを組み合わせた1つの試験(試験4)、3つの特定のプラスミドを組み合わせた1つの試験(試験6)だけでヒトiPS細胞コロニーを得ることができたことが記載されている。その実験2では、上記「pEP4EO2SEN2L」を使用した実験結果(試験15N、16N、17N、18N)が示されているが、いずれもヒトiPS細胞コロニーを得ることができなかったことが記載されている。そうすると、上申書に本願明細書の「実施例に近似するプラスミド」として記載されている「p162.pEP4EO2SEN2L」というプラスミドを使用した場合であっても、また、複数のプラスミドを組み合わせて使用した場合であっても、特定のプラスミドの組み合わせ以外は、iPS細胞を作製することができなかったことが上記参考文献に示されていることになる。



」(参考文献の図1A)



」(参考文献の表S2)

また、審判請求人は、上記上申書において、「上記の通り本上申書に記載した実験においては本願明細書の実施例に対して微修正を加えているが本願発明の範囲内の実験を行っており、実施例と比較して初期化効率が多少変動する可能性はあるが、初期化の可否に影響を及ぼす変更は行っていない。」と主張しているが、複数の特定のプラスミドを組み合わせて使用している点は「微修正」であるとはいえず、また、本願明細書の実施例に記載のプラスミドを使用して初期化が成功した実験結果が示されていないので、「実施例と比較して初期化効率が多少変動する可能性はあるが、初期化の可否に影響を及ぼす変更は行っていない」ことの根拠が不明であり、審判請求人の上記主張は採用できない。
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。

(3)特許法第36条第4項第1号について
遺伝子工学等の生物、化学を対象とした技術分野においては、理論的には実施可能と思われる手法であっても、実際に適用してみると実施できないことがしばしばあり、このため、物をどのように使用するかを理解することが比較的困難な技術分野に属する発明については、当業者がその発明の実施をすることができるように発明の詳細な説明を記載するためには、通常、一つ以上の代表的な実施例が必要とされ、また、物の性質等を利用した用途発明においては、通常、用途を裏付ける実施例が必要とされる。
しかしながら、上記(2)で述べたように、発明の詳細な説明には、リプログラミングプラスミドの具体例として、EBVのoriPおよびEBNA-1をコードするDNAを含み、PGKプロモーターの下流に、Sox-2(初期化因子)をコードするDNA、IRES、Oct-4(初期化因子)をコードするDNAを含み、PGKプロモーターの下流に、Nanog(初期化因子)をコードするDNA、IRES、Lin28(初期化因子)をコードするDNAを含み、さらに、ハイグロマイシン耐性遺伝子(正の選択マーカー)を含むプラスミドという特定のプラスミドが図5に記載されているものの、該リプログラミングプラスミドを用いてiPS細胞を作製することについてはその可能性が示唆されているに留まり、該リプログラミングプラスミドを用いてiPS細胞を作製することができたことを裏付ける実施例等による具体的な記載は何ら示されていない。
そして、EBVのoriPおよびEBNA-1をコードするDNAを含むプラスミドを用いれば、iPS細胞の作製に必要なだけの初期化因子の発現を得られることが出願時の技術常識であったとは認められず、どのようなプラスミドベクターを使用すれば、iPS細胞を作製することができるのかを予測することは困難であることが出願時の技術常識であったと認められるから、出願時の技術常識を考慮しても、EBVのoriPおよびEBNA-1をコードする発現カセット、および少なくともSox-2とOct-4とを含み、さらにNanog又はKlf4の何れかを含む初期化因子をコードする核酸を含む本願発明の初期化プラスミドベクターに含まれる任意のプラスミドベクターを、外因性初期化ベクター要素を本質的に含まないiPS細胞集団を正の選択マーカーを使用せずに作製するための組成物としての用途に使用できるように、発明の詳細な説明が記載されているとは認められない。
したがって、本願発明について、発明の詳細な説明が当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。

(4)審判請求人の主張
審判請求人は、平成26年6月12日付け意見書、平成27年2月6日付け審判請求書、平成28年4月8日付け上申書、平成29年2月20日付け意見書において、以下のア.?ウ.の点を主張しているので、以下この点について検討する。

ア.本願明細書の0094段落?0119段落の「IV.ベクターを含まない誘導多能性幹細胞および他の細胞型を作製するための染色体外ベクター」の節、0120段落?0145段落の「V.ベクターの構築および送達」の節、0146?0161段落の「C.ベクター送達」の節、0162?0174段落、実施例1、図5、等の記載に照らし、本願発明が実施可能でありサポート要件を充足するように発明の詳細な説明が記載されている。(以上、平成29年2月20日付け意見書)

イ.本願明細書には、「この方法によって形成されたiPS細胞集団は、選択マーカーを本質的に含まない。」(0013段落)、「上記の方法で形成されたiPS細胞集団は、組み込まれたリプログラミングベクター遺伝子要素を本質的に含み得ない、またはベクター遺伝子要素を本質的に含み得ない。」(0014段落)と記載されており、このような記載を考慮すれば、当業者は、本願発明のiPS細胞が非組み込み型のリプログラミングプラスミドを使用することによって作製されたものであることを容易に理解する。このことを示す証拠として、甲第2号証(Yuら、Science,2009,324:797-801)、甲第3号証(Mackら、PLoS ONE,2011,6(11):e27956)を提出する。甲第2号証は、本願出願人らが知る限りでは、EDVベクターを用いた研究に関する最初の公知文献で、本願発明者の一人(ジェームス トムソン氏)が著者として名を連ねており、本願出願前の2009年3月26日に公開された文献であり、本願の教示と一致する、ベクターを含まないiPS細胞の調製に関する完全な説明を含んでいる。甲第3号証は、本願発明者の一人(アマンダ マック氏)による本願出願後に公開された文献で、ウイルスを含まないiPSの製造の成功を示している。(以上、平成26年6月12日付け意見書)
本願明細書の0013段落、0014段落の記載を考慮すれば、当業者は、本願発明のiPS細胞が、図5に示されるベクター(非組み込み型のリプログラミングプラスミド)を使用することによって作製されたことを容易に理解する。本願発明者の一人(アマンダ マック博士)が、単一のベクターによるエピソームリプログラミングを用いてiPS細胞を獲得することに成功したことを示すスライドを甲第4号証として提出する。ここで用いられた単一のベクターは、本願の図5に示されるベクターと同様に、4つ全てのリプログラミング遺伝子(Oct、Sox、NanogおよびLin-28、すなわち、「OSNL」)を含んでいる。また、本願明細書の実施例1、図4および5は、上記リプログラミング因子を含む単一のベクターの構築のための十分な手引きを提供しており、本願明細書の0184段落の記載から、当業者は多数のカセットを持つベクターが作製されたことを理解し、さらに、本願明細書の0146?0161段落、0162?0174段落の記載、実施例2等の記載を考慮すると、当業者はiPS細胞が誘導され得ることを理解する。甲第4号証のスライドは、このような事項を確認する性質のものに過ぎない。(以上、平成27年2月6日付け審判請求書)
甲第2号証におけるベクターを含まないiPS細胞の調製に関する開示(798頁左欄22?27行および図1)は、本願における教示と一致しており、IRES2などの追加の要素は、効率を高めるために用いられており、このような要素は、本願の出願当初明細書にも開示されている。甲第2号証におけるベクターは、本願に開示されるベクターと同一ではないが、甲第2号証のベクターには、初期化に必須の本願発明のベクターの要素と異なる追加の要素/改変は存在しないから、甲第2号証に記載の事項は、本願明細書から導き出すことが可能である。甲第3号証および甲第4号証も、iPS細胞を作製するための非組み込み型のエピソーマルoriP/EBNA-1ベースの初期化ベクターの使用を開示しており、初期化に必須の本願発明のベクターの要素と異なるベクター内の要素/改変を開示していない。甲第2号証?甲第4号証は、単に本願明細書における記載を確認するものに過ぎない。(以上、平成29年2月20日付け意見書)

ウ.本願優先日当時の技術常識を参酌して本願明細書の記載に接した当業者が本願発明を容易に実施することができる具体的理由は、甲第6号証(アマンダ マック博士の陳述書)に記載されるとおりであり、甲第6号証の陳述書は、単にアマンダ マック博士の主観に基づくものではなく、甲第7号証(Brambrinkら、Cell Stem Cell,2008,2:151-159)、甲第8号証(Stadtfeldら、Cell Stem Cell,2008,2:230-240)、甲第9号証(Coneseら、Gene Therapy,2004,11:1735-1741)、甲第10号証( Jacksonら、Molecular Therapy,2006,14(5):613-626)に基づくものである。(以上、平成28年4月8日付け上申書)
本願明細書は、EBVベクターのような染色体外ベクターが、初期化のための導入遺伝子の発現を維持させ得ることを記載しており(0099段落)、初期化遺伝子の発現が、EBV-OriおよびEBNA-1を含むEBV由来のベクターを用いた場合に、初期化のために体細胞内で維持されることを裏付けるものとして、甲第6号証、甲第7号証および甲第8号証を提出し、甲第6号証?甲第8号証は、「導入遺伝子の組み込みが初期化に必須ではない」ことを実証している。甲第9号証および甲第10号証は、単に、EBVベースのベクターを用いると、比較的長期間の遺伝子発現が達成され得ること自体について一般的に述べたものに過ぎない。(以上、平成29年2月20日付け意見書)

主張ア.について
本願明細書の0094段落?0119段落、0120段落?0145段落、0146?0161段落、0162?0174段落、等の記載は、ベクターの構築方法や導入方法などの方法についての一般的な記載があるだけであり、また、審判請求人は、「実施例1、図5、等の記載に照らし、本願発明が実施可能でありサポート要件を充足するように発明の詳細な説明が記載されている」と主張しているにも関わらず、本願明細書の実施例1に唯一具体的に記載されているベクターである本願の図5に示されるベクターを実際に構築し、該ベクターを体細胞に導入してiPS細胞を作製することができたことを裏付ける実験成績証明書などの証拠を提出するなどして、本願発明が実施可能でありサポート要件を満たすことを立証したわけではないので、審判請求人の上記主張ア.は採用できない。

主張イ.について
甲第2号証は、その記載内容からすると、本願出願人とは異なる出願人ウイスコンシンアラムニリサーチファンデーションに係る特願2011-533384号(特表2012-506702号)の出願に対応する文献であり、本願発明者の一人(アマンダ マック氏)は、その著者に含まれていないだけでなく、審判請求人も「甲第2号証におけるベクターは、本願に開示されるベクターと同一では」ないと認めているように、甲第2号証の図1に記載のベクターは、複数のベクターの組み合わせを使用している点、SV40LTを含むベクターを使用している点などの点で本願明細書に記載のベクターとは異なり、甲第2号証の記載内容も本願明細書に記載されている事項と異なるから、甲第2号証に記載の事項を、「本願の出願当初明細書から導き出すことが可能」であるとはいえない。
甲第3号証は、本願出願後何年も経過して発表された文献であり、しかも、甲第2号証が公表された(参考文献2として記載されている。)後で作成された論文であり、甲第4号証のスライドが作成された時期は不明であり、本願出願前に実施された実験であることを確認できず、また、甲第3号証に記載のベクターは、複数のベクターの組み合わせを使用している点、SV40LTを含むベクターを使用している点などの点で、甲第4号証に記載のベクターは、SV40LTを含むベクターである点で、本願明細書に記載のベクターとは異なるから、甲第3号証、甲第4号証が、「本願の出願当初明細書における記載を確認するものに過ぎ」ないということはできない。
また、仮に甲第2号証?甲第4号証の記載内容を参酌すると、甲第2号証?甲第4号証に記載のベクターは、6つの初期化因子を含む複数の特定のベクターの組み合わせや4つの初期化因子を含みV40LTを含むベクターを使用するもので、そのすべてがIRES2を使用するものであるところ、本願発明の初期化プラスミドベクターは、「EBV由来のoriP、およびEBNA-1をコードする1つまたはそれより多い発現カセット、および初期化因子をコードする核酸を含み、該初期化因子は、少なくともSox-2とOct-4とを含み、さらにNanog又はKlf4の何れかを含み、」と記載されているだけで、3つの初期化因子以外の初期化因子を使用しないもの、IRESを使用しないもの、複数のベクターを使用しないものも包含されるが、甲第2号証?甲第4号証の記載を考慮しても、本願発明の初期化プラスミドベクターに含まれる任意のプラスミドベクターを使用して、「外因性初期化ベクター要素を本質的に含まないiPS細胞集団を正の選択マーカーを使用せずに作製する」ことができるものとは認められない。
したがって、審判請求人の上記主張イ.は採用できない。

主張ウ.について
甲第6号証の陳述書には、甲第7号証、甲第8号証の引用箇所の記載から、「上記引用箇所に基づくと、当業者はまた、宿主ゲノムへの導入遺伝子の組み込みが初期化に必須ではないこと(すなわち、問題となるのは、ゲノムへの導入遺伝子の組み込みではなく、内因性の初期化遺伝子の発現の誘導であること)も理解しました。」と記載されているが、甲第7号証、甲第8号証の引用箇所をみても、「宿主ゲノムへの導入遺伝子の組み込みが初期化に必須ではないこと」を当業者が理解することができたとは認められず、また、審判請求人も「甲第9号証および甲第10号証は、単に、EBVベースのベクターを用いると、比較的長期間の遺伝子発現が達成され得ること自体について一般的に述べたものに過ぎない」と述べているように、甲第9号証、甲第10号証は、iPS細胞の作製技術に関する文献ではなく、EBVベースのベクターについて一般的に述べたものに過ぎないから、甲第6号証?甲第10号証の記載から、本願の発明の詳細な説明が実施可能要件を充足し、かつ、サポート要件を充足することを証明することができるとはいえない。
また、本願出願人と同一出願人に係る特願2012-514169号(優先日:2009年6月5日)の平成29年3月17日付けの意見書において、本願出願人と同一出願人は、「本願優先日当時の状況を見ると、山中先生がiPS細胞の業績を発表されてからまだ3年ほどしかたっておらず、iPS作製技術は、その黎明期にあったということができます。すなわち、iPS細胞の初期化技術に関して、何を出発材料として用いることができるかについては、技術常識が固まっていたということはできず、他の技術(例えば、引用文献5?7のような形質導入やマスト細胞作製等)における技術的事項をそのまま応用することができるという技術水準にあったということもできません。」と主張しているが、本願出願日(2009年6月4日)は、上記出願の優先日(2009年6月5日)とほぼ同じであるから、本願出願時においては、「iPS作製技術は、その黎明期にあったということができ」、「他の技術(・・・・・・)における技術的事項をそのまま応用することができるという技術水準にあったということもでき」ないと主張していることになるが、これを本願に置き換えると、iPS細胞の初期化技術に関して、甲第9号証、甲第10号証に記載されているようなEBVベースのベクターの「他の技術における技術的事項をそのまま応用することができるという技術水準にあったということもでき」ないことになる。
したがって、審判請求人の上記主張ウ.は採用できない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本願の請求項1に係る発明について、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-07-26 
結審通知日 2018-07-31 
審決日 2018-08-13 
出願番号 特願2011-512634(P2011-512634)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C12N)
P 1 8・ 536- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 幸田 俊希吉門 沙央里  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 松浦 安紀子
高堀 栄二
発明の名称 非ウイルスアプローチを用いたiPS細胞の産生のための方法  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  

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