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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F25B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F25B
管理番号 1347444
審判番号 不服2018-246  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-01-10 
確定日 2019-01-22 
事件の表示 特願2014-210739号「熱交換器及びこれを備えた冷凍サイクル装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年5月16日出願公開、特開2016-80231号、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年10月15日の出願であって、平成28年6月20日に手続補正書が提出され、平成29年3月16日付けで拒絶理由が通知され、平成29年5月11日に意見書が提出されたが、平成29年10月26日付けで拒絶査定がされ、これに対して、平成30年1月10日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成30年5月10日に上申書が提出され、当審において平成30年9月26日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成30年11月28日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成29年10月26日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1ないし6に係る発明は、以下の引用例AないしEに記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用例一覧>
A.特開2010-133644号公報
B.特開平10-267469号公報
C.特開平7-120107号公報
D.特開2011-089710号公報
E.特開昭60-251350号公報

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

[理由1]本願請求項1ないし6に係る発明は、以下の引用例1ないし4に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用例一覧>
1.特開平10-267469号公報 (拒絶査定時の引用例B)
2.特開平7-120107号公報(拒絶査定時の引用例C)
3.特開2011-89710号公報(拒絶査定時の引用例D)
4.特開昭60-251350号公報 (拒絶査定時の引用例E)

[理由2]本件出願は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

[理由3]本件出願は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第4 本願発明
本願請求項1ないし請求項6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は、平成30年11月28日提出の手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項6に記載された事項により特定されるものである。

「【請求項1】
分配器で分流された熱交換量の異なる3つ以上の冷媒流路を有し、その各冷媒流路への冷媒流入量を、前記分配器と前記各冷媒流路との間にそれぞれ接続した3本以上の毛細管による圧力損失によって調整するようにした熱交換器において、
前記3本以上の毛細管は、これらの内径寸法が2種類に限定され、内径寸法の大きな毛細管は、内径寸法の小さな毛細管に対して1.3倍?1.6倍の内径寸法としたものであり、
前記3本以上の毛細管は、前記3つ以上の冷媒流路の前記熱交換器が蒸発器として機能する場合において冷媒の流入側となる端部に接続され、前記3つ以上の冷媒流路の前記熱交換器が前記蒸発器として機能する場合において前記冷媒の流出側となる端部には、ヘッダが接続されており、
前記3つ以上の冷媒流路における前記熱交換量の差は3倍以下であり、
前記3本以上の毛細管の内、前記内径寸法が同じであり、接続される前記冷媒流路の熱交換量が異なる毛細管は、長さが異なることを特徴とする熱交換器。」

本願発明2ないし6は、本願発明1を減縮した発明である。


第5 引用例、引用発明等
1.引用例1
(1)引用例1の記載
1a)図3には、空調機用熱交換器が、冷媒分流器11で分流された冷媒流路を有することが示されている。

1b)【請求項1】、段落【0036】ないし【0044】の記載並びに図9及び図10、図11及び図12、図13及び図14には、各冷媒流路(Pa、Pb、Pc及びPd)への冷媒循環量を、ヘッダー10と各冷媒流路との間にそれぞれ接続したヘッダー連絡管(13a、13b、13c及び13d)による圧力損失によって調整することが示唆されている。

1c)図10、図12及び図14には、ヘッダー連絡管(13a、13b、13c及び13d)の内径寸法が2種類であって、内径寸法の大きなヘッダー連絡管は、内径寸法の小さなヘッダー連絡管に対して、1.02倍あるいは1.04倍の内径寸法とすることが示されている。

1d)図3には、冷媒分配器11と冷媒流路との間に接続された分流キャピラリー12が示されている。

(2)引用発明
上記(1)からみて、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「冷媒分配器11で分流された冷媒流路(Pa、Pb、Pc及びPd)を有し、その各冷媒流路(Pa、Pb、Pc及びPd)への冷媒循環量を、ヘッダー10と各冷媒流路(Pa、Pb、Pc及びPd)との間にそれぞれ接続したヘッダー連絡管(13a、13b、13c及び13d)による圧力損失によって調整するようにした空調機用熱交換器において、
ヘッダー連絡管(13a、13b、13c及び13d)は、これらの内径寸法が2種類に限定され、内径寸法の大きなヘッダー連絡管は、内径寸法の小さなヘッダー連絡管に対して、1.02倍あるいは1.04倍の内径寸法とした空調機用熱交換器。」

2.引用例2
(1)引用例2の記載
2a)図1には、分流器1と熱交換器3の熱交換チューブ3bとの間に分流管2が接続されていることが示されている。

2b)段落【0012】ないし【0015】には、各分流管2の内径を異ならせることにより、分流管2による圧力損失を調整することについて記載されている。

2c)段落【0015】には、長さL及び内径rの異なる分配管2において、外径Rを同径とすることについて記載されている。

(2)引用例2技術
上記(1)からみて、引用例2には次の技術(以下、「引用例2技術」という。)が記載されている。

「分流器1と熱交換器3の熱交換チューブ3bとの間に接続された分流管2の内径を異ならせることにより圧力損失を調整する技術。」

3.引用例3
段落【0065】ないし【0069】、並びに図3及び図4には、「キャピラリーチューブの接続管65?68にマーキングを行う技術。」(以下、「引用例3技術」という。)が記載されている。

4.引用例4
第2図には、「圧縮機10、凝縮器11、蒸発器5等を有し、これらが冷媒配管によって閉ループ状に接続された空気調和機」(以下、「引用例4記載事項」という。)が記載されている。

5.引用例A(拒絶査定時に引用されたが、当審拒絶理由においては採用されなかった引用例)
引用例A公報の段落【0003】、【0004】、【0013】、【0014】及び段落【0022】ないし【0045】の記載並びに図1ないし図9には、「分配器1において複数の分配流路5aないし5fを有し、その各分配流路5aないし5fへの冷媒流入量を、各分配流路5aないし5fにそれぞれ異なる流路抵抗要素を設けて圧力損失を異ならしめることにより調整する熱交換器」(以下、「引用例A記載事項」という。)が記載されている。

第6 対比・判断(当審拒絶理由における[理由1]について)
1.本願発明1について
本件発明1と引用発明とを対比すると、
引用発明における「冷媒分配器11」は、その機能、構成及び技術的意義から、本件発明1の「分配器」に相当し、以下同様に、「冷媒流路(Pa、Pb、Pc及びPd)」は「3つ以上の冷媒流路」に、「冷媒循環量」は「冷媒流入量」に、「空調機用熱交換器」は「熱交換器」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明における「ヘッダー10と各冷媒流路(Pa、Pb、Pc及びPd)との間にそれぞれ接続した」、「ヘッダー連絡管(13a、13b、13c及び13d)」と、本件発明1における「分配器と各冷媒流路との間にそれぞれ接続した」、「3本以上の毛細管」とは、「流体抵抗要素」という限りにおいて一致する。

そうすると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。

[一致点]
「分配器で分流された3つ以上の冷媒流路を有し、その各冷媒流路への冷媒流入量を、流体抵抗要素による圧力損失によって調整するようにした熱交換器。」

[相違点1]
本件発明1においては「3つ以上の冷媒流路」が「熱交換量の異なる」ものであって、「前記3つ以上の冷媒流路における前記熱交換量の差は3倍以下」であるのに対して、引用発明においては「冷媒流路(Pa、Pb、Pc及びPd)」が「熱交換量の異なる」ものか明らかでない点。

[相違点2]
本件発明1においては、流体抵抗要素が「分配器と各冷媒流路との間にそれぞれ接続した」、「3本以上の毛細管」であって、「これらの内径寸法が2種類に限定され、内径寸法の大きな毛細管は、内径寸法の小さな毛細管に対して1.3倍?1.6倍の内径寸法としたものであり、前記3本以上の毛細管は、前記3つ以上の冷媒流路の前記熱交換器が蒸発器として機能する場合において冷媒の流入側となる端部に接続され、前記3つ以上の冷媒流路の前記熱交換器が前記蒸発器として機能する場合において前記冷媒の流出側となる端部には、ヘッダが接続されており」、「前記3本以上の毛細管の内、前記内径寸法が同じであり、接続される前記冷媒流路の熱交換量が異なる毛細管は、長さが異なる」ものとしたのに対して、
引用発明においては、流体抵抗要素が「ヘッダー10と各冷媒流路(Pa、Pb、Pc及びPd)との間にそれぞれ接続した」、「ヘッダー連絡管(13a、13b、13c及び13d)」であって、「これらの内径寸法が2種類に限定され、内径寸法の大きなヘッダー連絡管は、内径寸法の小さなヘッダー連絡管に対して、1.02倍あるいは1.04倍の内径寸法とした」点。

以下、事案に鑑み、まず上記相違点2について検討する。

上記引用例2技術は「分流器1と熱交換器3の熱交換チューブ3bとの間に接続された分流管2の内径を異ならせることにより圧力損失を調整する技術」であり、
上記引用例3技術は、「キャピラリーチューブの接続管65?68にマーキングを行う技術」であり、
上記引用例4記載事項は「圧縮機10、凝縮器11、蒸発器5等を有し、これらが冷媒配管によって閉ループ状に接続された空気調和機」である。
しかし、上記引用例2技術、引用例3技術及び引用例4記載事項は、いずれも上記相違点2に係る本願発明1である「分配器と各冷媒流路との間にそれぞれ接続した」、「3本以上の毛細管」であって、「これらの内径寸法が2種類に限定され、内径寸法の大きな毛細管は、内径寸法の小さな毛細管に対して1.3倍?1.6倍の内径寸法としたものであり、前記3本以上の毛細管は、前記3つ以上の冷媒流路の前記熱交換器が蒸発器として機能する場合において冷媒の流入側となる端部に接続され、前記3つ以上の冷媒流路の前記熱交換器が前記蒸発器として機能する場合において前記冷媒の流出側となる端部には、ヘッダが接続されており」、「前記3本以上の毛細管の内、前記内径寸法が同じであり、接続される前記冷媒流路の熱交換量が異なる毛細管は、長さが異なる」ことについて開示や示唆をするものではない。

したがって、本願発明1は、上記相違点1について検討するまでもなく、引用発明、上記引用例2技術、引用例3技術及び引用例4記載事項に基いて当業者が容易に想到し得たとすることはできない。

2.本願発明2ないし本願発明6について
本願の特許請求の範囲における請求項2ないし請求項6は、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく直接又は間接的に引用して記載したものであるから、本願発明2ないし6は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本願発明2ないし本願発明6は、本願発明1と同様の理由で、引用発明、上記引用例2技術、引用例3技術及び引用例4記載事項に基いて当業者が容易に想到し得たとすることはできない。

第7 記載不備(当審拒絶理由における[理由2]、[理由3])について
当審拒絶理由における[理由2](特許法第36条第6項1号)は、概略、請求項1の記載は、「3本以上の毛細管」の内径寸法に関して「内径寸法が2種類に限定され」ること、及び「内径寸法の大きな毛細管は、内径寸法の小さな毛細管に対して1.3倍?1.6倍の内径寸法とした」ことのみを特定したものであるから、「熱交換量が「30%、25%、20%、15%、10%」以外のあらゆる場合において、内径寸法の大きな毛細管は、内径寸法の小さな毛細管に対して1.3倍ないし1.6倍の内径寸法とすることにより本件の課題を解決できると当業者が認識することができない」というものであり、[理由3](特許法第36条6項2号)は、請求項1の記載において、3つ以上の異なる冷媒流路において、個々の熱交換量をどのように設定した場合に、「3本以上の毛細管」の内径寸法に関して「内径寸法が2種類に限定」することができ、「内径寸法の大きな毛細管は、内径寸法の小さな毛細管に対して1.3倍?1.6倍の内径寸法」とできるのか不明であるというものである。
しかし、平成30年11月28日提出の手続補正書による補正により、請求項1の記載における「熱交換量」に関して「前記3つ以上の冷媒流路における前記熱交換量の差は3倍以下であり、」と補正されたことにより、上記[理由2]及び[理由3]の拒絶理由は解消した。
そして、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし6の記載における拒絶理由も解消した。

第8 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、請求項1ないし6に係る発明について、上記引用例Aないし引用例Eに記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
しかし、平成30年11月28日提出の手続補正書により補正された請求項1ないし6に係る発明は、「分配器と各冷媒流路との間にそれぞれ接続した」、「3本以上の毛細管」であって、「これらの内径寸法が2種類に限定され、内径寸法の大きな毛細管は、内径寸法の小さな毛細管に対して1.3倍?1.6倍の内径寸法としたものであり、前記3本以上の毛細管は、前記3つ以上の冷媒流路の前記熱交換器が蒸発器として機能する場合において冷媒の流入側となる端部に接続され、前記3つ以上の冷媒流路の前記熱交換器が前記蒸発器として機能する場合において前記冷媒の流出側となる端部には、ヘッダが接続されており」、「前記3本以上の毛細管の内、前記内径寸法が同じであり、接続される前記冷媒流路の熱交換量が異なる毛細管は、長さが異なる」ことを発明特定事項として含むものであって、
上記引用例A記載事項である「分配器1において複数の分配流路5aないし5fを有し、その各分配流路5aないし5fへの冷媒流入量を、各分配流路5aないし5fにそれぞれ異なる流路抵抗要素を設けて圧力損失を異ならしめることにより調整する熱交換器」に開示や示唆がされておらず、上記第6で示したとおり、引用発明、上記引用例2、引用例3技術及び引用例4記載事項(引用例Bないし引用例Eに対応)にも開示や示唆がされていないから、本願発明1ないし本願発明6は、引用例AないしEに基いて当業者が容易に想到し得たとすることはできない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第9 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし6は、当業者が引用発明、上記引用例2技術、引用例3技術及び引用例4記載事項に基いて容易に発明し得たとすることはできない。
また、請求項1ないし請求項6の記載が発明の課題を解決するための手段が含まれていない、あるいは明確でないともいえない。
したがって、原査定の理由及び当審が通知した理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-01-07 
出願番号 特願2014-210739(P2014-210739)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F25B)
P 1 8・ 537- WY (F25B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 柿沼 善一金丸 治之  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 松下 聡
井上 哲男
発明の名称 熱交換器及びこれを備えた冷凍サイクル装置  
代理人 特許業務法人きさ特許商標事務所  

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