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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
管理番号 1347580
審判番号 不服2017-10578  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-14 
確定日 2019-01-04 
事件の表示 特願2012-273935「電力供給システム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月30日出願公開、特開2014-121153〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年12月14日の出願であって、平成28年5月31日付けで拒絶理由が通知され、同年8月1日付けで手続補正がなされ、同年12月13日付けで拒絶理由が通知され、平成29年2月16日付けで手続補正がなされたが、同年4月17日付けで同年2月16日付けの手続補正についての補正の却下の決定及び拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月14日に拒絶査定不服の審判が請求され、同時に、手続補正がなされた。
その後、当審において、平成30年6月27日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、同年8月29日付けで手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成30年8月29日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】
外部の電力系統から受電するとともに、太陽光エネルギーを利用して発電する太陽光発電装置と、電力を蓄えることが可能な蓄電装置と、を備えて、家庭内負荷に電力を供給する電力供給システムにおいて、
前記電力系統及び前記太陽光発電装置から前記家庭内負荷に供給する電力が不足する、或いは前記家庭内負荷に供給する電力が無い状態のときに前記家庭内負荷に電力を供給するための前記蓄電装置に蓄えた電力の最低保持残量の値を記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶した前記最低保持残量の値の変更が可能な操作部と、
前記蓄電装置に対する充電及び放電を制御するとともに前記最低保持残量の電力を前記蓄電装置に確保し、前記記憶部の前記最低保持残量の値が前記蓄電装置の電力の実測残量より多い値に変更されたときに前記蓄電装置を放電停止状態にし、前記蓄電装置の電力の実測残量が前記最低保持残量であるときに前記記憶部の前記最低保持残量の値が少ない値に変更されたとき、前記蓄電装置を放電可能状態にする制御部と、
を備え、
前記電力系統及び前記太陽光発電装置から前記家庭内負荷に供給する電力が不足する、或いは前記家庭内負荷に供給する電力が無い状態のときに前記最低保持残量の電力を使用して前記家庭内負荷に電力を供給することを特徴とする電力供給システム。」

第3 当審において通知した拒絶の理由の概要
当審において平成30年6月27日付けで通知した拒絶の理由は、請求項1に係る発明についての理由を含むものであって、その概要は、次のとおりである。

本件出願の請求項1,2に係る発明は、下記の引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


1.国際公開第2011/122592号
2.特開2012-235606号公報(周知技術を示す文献)
3.登録実用新案第3171974号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用文献
1.引用文献1
当審の拒絶理由に引用された国際公開第2011/122592号(以下、「引用文献1」という。)には、「蓄電ユニット、蓄電池の容量値の補正方法および蓄電システム」に関して、図面とともに以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)

(1)「[0015]
本発明の第1実施形態による蓄電システム1は、図1に示すように、太陽光を用いて発電した電力を出力する発電電力出力部2と、電力系統50に接続され、発電電力出力部2により出力された電力を出力するインバータ3と、インバータ3および電力系統50を接続する母線4とを備えている。また、母線4上には、発電電力出力部2の出力電力量(太陽光発電モジュール21の発電電力量)を検知する電力検知部5と、蓄電システム1に出入りする電力(売電・買電電力)を検知する電力検知部6とが設けられている。また、母線4には配線7aを介して蓄電部71を含む蓄電ユニット7が接続されており、蓄電ユニット7には配線7bを介して特定負荷60が接続されている。また、母線4には一般負荷70が接続されている。なお、母線4、配線7aおよび配線7bは、本発明の「充放電経路」の一例である。また、特定負荷60は、本発明の「負荷」の一例である。
[0016]
インバータ3は、発電電力出力部2から出力された直流の電力を交流に変換する機能を有している。発電電力出力部2によって発電された電力は、インバータ3を介して蓄電ユニット7、一般負荷70あるいは電力系統50に供給される。
[0017]
特定負荷60は、交流電源によって駆動される機器である。特定負荷60には、常に電源から電力が供給されていることが望まれ、常時動作する必要のある機器が含まれる。また、通常は蓄電ユニット7の蓄電部71により特定負荷60に対して給電が行われ、蓄電部71の電力がなくなった時には母線4側から電力が供給される。また、一般負荷70も交流電源によって駆動される機器である。一般負荷70には、発電電力出力部2からの電力がインバータ3を介して供給されるとともに、電力系統50からも電力が供給される。
[0018]
なお、第1実施形態では、特定負荷60は、照明器具や常時動作する機器などである。このため、負荷の消費電力量は限られており、蓄電部71の容量は、この消費電力量に応じて適切な容量が選択される。たとえば、特定負荷60で1日に使用される電力量の2倍以上になるようにする。これにより、日照不足により発電電力出力部2からの発電がない場合や、停電時の場合などでもある程度の期間、特定負荷60に電力を供給することが可能となる。なお、特定負荷60として、コンセントを選択してもよい。この場合、たとえばインバータ74aの上限の容量を考慮して蓄電容量を設計すればよい。」

(2)「[0025]
充放電制御ボックス73は、コントロールボックス75によりオン/オフの切り替えが可能な3つのスイッチ73a、73bおよび73cを含んでいる。スイッチ73aおよび73bは、AC-DCコンバータ72と蓄電部71との間の充放電経路において直列に接続されている。またスイッチ73aと並列に設けられたバイパス経路上に、AC-DCコンバータ72から蓄電部71に向かう方向に電流を整流するダイオード73dが設けられている。スイッチ73cは、蓄電部71とインバータユニット74との間の放電経路に設けられている。
[0026]
母線4側から蓄電部71に充電する場合には、まずスイッチ73bがオンにされ、次いでスイッチ73aがオンにされる。これにより、AC-DCコンバータ72が起動直後であってその出力電圧が低い場合に生じる、蓄電部71からAC-DCコンバータ72への逆流を、ダイオード73dによって防止することが可能である。
[0027]
また、蓄電部71からインバータユニット74を介して特定負荷60に放電する場合には、スイッチ73cがオンにされる。また、スイッチ73aをオフにし、次いでスイッチ73bをオフにする。この場合にも同様に、蓄電部71からAC-DCコンバータ72への逆流をダイオード73dによって防止することが可能である。なお、スイッチ73a、73bおよび73cの全てがオンにされた場合には、蓄電部71の充電と放電との両方を行うことが可能である。」

(3)「[0037]
また、コントロールボックス75は、通常運転時に蓄電部71の放電を行う場合に、蓄電部71の容量が放電禁止閾値(たとえば、満充電状態の50%)以下にならないように蓄電部71の放電を制御する。なお、放電禁止閾値は、特定負荷60の消費電力量を考慮して適宜設定すればよい。たとえば、特定負荷60で消費される数日分あるいは1日分の電力量を賄えるように放電禁止閾値を設定することができる。コントロールボックス75は、蓄電部71の容量が放電禁止閾値以下になったと判断した場合には、蓄電部71から特定負荷60に電力を供給するのを停止するとともに、母線4から直接特定負荷60に電力を供給するように各スイッチを切り替える。
[0038]
また、停電時などの非常時には、電力系統50からの電力の供給が停止するので、コントロールボックス75が停止される。また、スイッチ77、スイッチ73aおよび73bがオフにされる。これにより、AC-DCコンバータ72にも電力が供給されないので、AC-DCコンバータ72の駆動も停止される。また、スイッチ73cには配線7aの電圧線信号が入力されており、停電した場合には、配線7aに電圧がかかっていないことを検知して、スイッチ73cがオンになる。そのため、インバータ74aは、蓄電部71からの電力供給によって稼動することで、特定負荷60への電力供給が可能になる。
[0039]
また、通常運転時に蓄電部71の残容量が放電禁止閾値(たとえば、50%)以下にならないように放電を制御している。この結果、停電時などの非常時における蓄電部71の特定負荷60への放電開始時には、蓄電部71に必ず放電禁止閾値(満充電状態の50%)より大きい電力が蓄電されている。ここで、停電時においては、配線7aに電圧がかかっていないことを検知して、スイッチ73cがオンになるため、蓄電部71の蓄電量が放電禁止閾値(満充電状態の50%)以下になっても放電する。この実施形態では、蓄電部71としてリチウムイオン蓄電池を用いるので、サルフェージョンにより完全放電することが望まれない鉛蓄電池とは異なり、蓄電量のほとんどの部分を放電することができる。非常時にはコントロールボックス75への電力の供給が断たれており、途中でスイッチ73cのオン/オフの切り替えは不可能であるが、たとえばリチウムイオン蓄電池を用いることによって蓄電電力を有効に利用することが可能である。」

ア.上記(1)及び図1によれば、蓄電システム1は、母線4と蓄電ユニット7を備えている。また、母線4には、インバータ3を介して太陽光を用いて発電した電力を出力する発電電力出力部2と、電力系統50とが接続している。

イ.上記(1)によれば、蓄電ユニット7の蓄電部71及び母線4側から特定負荷60に対して給電が行われる。

ウ.上記(3)によれば、停電時などの非常時における蓄電部71の特定負荷60への放電開始時には、蓄電部71に必ず放電禁止閾値より大きい電力が蓄電されている。
ここで非常時とは、上記(1)によれば、日照不足により発電電力出力部2からの発電がない場合や、停電時の場合のことである。

エ.上記(3)によれば、コントロールボックス75は、通常運転時に蓄電部71の放電を行う場合に、蓄電部71の容量が放電禁止閾値以下にならないように蓄電部71の放電を制御する。また、コントロールボックス75は、蓄電部71の容量が放電禁止閾値以下になったと判断した場合には、蓄電部71から特定負荷60に電力の供給を停止する。

オ.上記(3)によれば、放電禁止閾値は、特定負荷60の消費電力量を考慮して適宜設定する。

カ.上記(2)によれば、コントロールボックス75は、母線4側から蓄電部71に充電する場合には、スイッチ73b、スイッチ73aをオンにし、蓄電部71からインバータユニット74を介して特定負荷60に放電する場合には、スイッチ73cをオンにする。

したがって、上記(1)ないし(3)の記載事項及び図面並びに上記アないしカの事項を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「母線4と蓄電ユニット7を備えた蓄電システム1であって、
母線4には、インバータ3を介して太陽光を用いて発電した電力を出力する発電電力出力部2と、電力系統50とが接続し、
蓄電ユニット7の蓄電部71及び母線4から特定負荷60に対して給電が行われ、
非常時である日照不足により発電電力出力部2からの発電がない場合及び停電の場合における蓄電部71の特定負荷60への放電開始時には、蓄電部71に必ず放電禁止閾値より大きい電力が蓄電されており、
コントロールボックス75は、通常運転時に蓄電部71の放電を行う場合に、蓄電部71の容量が放電禁止閾値以下にならないように蓄電部71の放電を制御し、
コントロールボックス75は、蓄電部71の容量が放電禁止閾値以下になったと判断した場合には、蓄電部71から特定負荷60に電力の供給を停止し、
放電禁止閾値は、特定負荷60の消費電力量を考慮して適宜設定し、
コントロールボックス75は、母線4側から蓄電部71に充電する場合には、スイッチ73b、スイッチ73aをオンにし、蓄電部71からインバータユニット74を介して特定負荷60に放電する場合には、スイッチ73cをオンにすることを特徴とする蓄電システム1。」

第5 対比・判断
1.対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「発電電力出力部2」は、太陽光を用いて発電しているから、本願発明の「太陽光発電装置」に相当する。また、引用発明の「電力系統50」は、本願発明の「外部の電力系統」に相当する。さらに、引用発明の「蓄電部71」は、本願発明の「蓄電装置」に相当する。
そして、引用発明の「蓄電システム1」は、発電電力出力部2及び電力系統50から母線を介して特定負荷60へ電力を供給するとともに、蓄電部71から特定負荷60へ電力を供給するものであるから、引用発明は、特定負荷60に「電力を供給する電力供給システム」といえる。
ただし、負荷が、本願発明は「家庭内」の負荷であるのに対し、引用発明は「家庭内」の負荷であるのかが特定されていない点で相違する。

(2)引用発明において、非常時である「日照不足により発電電力出力部2からの発電がない場合」とは、発電電力出力部2から電力の供給が無い状態のことであり、「停電の場合」とは、電力系統50から電力の供給が無い状態のことである。
そして、引用発明は、上記非常時における蓄電部71の特定負荷60への放電開始時には、蓄電部71に必ず放電禁止閾値より大きい電力が蓄電されているから、上記非常時の放電では、蓄電部71に蓄えた放電禁止閾値に相当する電力を使用して特定負荷60に電力を供給しているものといえる。
ここで、引用発明の「放電禁止閾値」は、上記非常時に、蓄電部71から特定負荷60に電力を供給するために、蓄電部71に蓄電すべき電力の閾値であるから、本願発明の「最低保持残量の値」に相当する。
ただし、最低保持残量の値を、本願発明は、「記憶部」で記憶しているのに対し、引用発明は、記憶していることについて特定されていない点で相違する。

(3)本願発明は、最低保持残量の値の「変更が可能」であるのに対し、引用発明は、放電禁止閾値を特定負荷60の消費電力量を考慮して設定するものであるものの、放電禁止閾値の「変更が可能」であることについては特定されていない点で相違する。
また、最低保持残量の値の変更又は設定を、本願発明は「操作部」で行うのに対し、引用発明は「操作部」で行うことまで特定されていない点で相違する。

(4)引用発明の「コントロールボックス75」は、母線4側から蓄電部71に充電する場合には、スイッチ73b、スイッチ73aをオンにし、蓄電部71からインバータユニット74を介して特定負荷60に放電する場合には、スイッチ73cをオンにしているから、蓄電部71に対する「充電及び放電を制御」するものである。
また、引用発明の「コントロールボックス75」は、通常運転時に蓄電部71の放電を行う場合に、蓄電部71の容量が放電禁止閾値以下にならないように蓄電部71の放電を制御しているから、放電禁止閾値の「電力」を蓄電部71に「確保する」制御をしているものといえる。
ここで、引用発明の「蓄電部71の容量」は、蓄電部71に蓄えられている電力を実測した際の残量であることは明らかであるから、本願発明の「蓄電装置の電力の実測残量」に相当する。
さらに、「コントロールボックス75」は、蓄電部71の容量が放電禁止閾値以下になったと判断した場合には、蓄電部71から特定負荷60に電力の供給を停止するものでもあるから、蓄電部71の容量が放電禁止閾値以下のときには蓄電部71を放電停止状態とし、蓄電部71の容量が放電禁止閾値より大きいときには蓄電部71を放電可能状態としているものである。
したがって、本願発明の「制御部」と引用発明の「コントロールボックス75」とは、「蓄電装置に対する充電及び放電を制御するとともに前記最低保持残量の電力を前記蓄電装置に確保し」、「最低保持残量の値」と「蓄電装置の電力の実測残量」とにより、「前記蓄電装置を放電停止状態」、又は「前記蓄電装置を放電可能状態」にする点で共通する。
ただし、本願発明では、制御部によって、「最低保持残量の値が前記蓄電装置の電力の実測残量より多い値に変更されたとき」に放電停止状態にするのに対し、引用発明では、コントロールボックス75によって、そのようなときにおいても、放電停止状態にすることは特定されていない点で相違する。
また、本願発明では、制御部によって、「蓄電装置の電力の実測残量が前記最低保持残量であるときに前記記憶部の前記最低保持残量の値が少ない値に変更されたとき」に放電可能状態にするのに対し、引用発明では、コントロールボックス75によって、そのようなときにおいても、放電可能状態にすることは特定されていない点で相違する。

以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

[一致点]
「外部の電力系統から受電するとともに、太陽光エネルギーを利用して発電する太陽光発電装置と、電力を蓄えることが可能な蓄電装置と、を備えて、負荷に電力を供給する電力供給システムにおいて、
前記蓄電装置に対する充電及び放電を制御するとともに最低保持残量の電力を前記蓄電装置に確保し、前記最低保持残量の値と前記蓄電装置の電力の実測残量とにより、前記蓄電装置を放電停止状態、又は前記蓄電装置を放電可能状態にする制御部と、
を備え、
ここで、最低保持残量の値は、前記電力系統及び前記太陽光発電装置から前記負荷に供給する電力が不足する、或いは前記負荷に供給する電力が無い状態のときに前記負荷に電力を供給するための前記蓄電装置に蓄えた電力の値であり、
前記電力系統及び前記太陽光発電装置から前記負荷に供給する電力が不足する、或いは前記負荷に供給する電力が無い状態のときに前記最低保持残量の電力を使用して前記負荷に電力を供給することを特徴とする電力供給システム。」

[相違点1]
負荷が、本願発明は「家庭内」負荷であるのに対し、引用発明は「家庭内」負荷であるのかが特定されていない点。

[相違点2]
最低保持残量の値を、本願発明は、「記憶部」で「記憶」しているのに対し、引用発明は、記憶していることについて特定されていない点。

[相違点3]
最低保持残量の値の変更又は設定を、本願発明は「操作部」で行うのに対し、引用発明は「操作部」で行うことまで特定されていない点。

[相違点4]
最低保持残量の値について、本願発明は「変更が可能」であるのに対し、引用発明は「変更が可能」であることについては特定されていない点。

[相違点5]
本願発明では、制御部によって、「最低保持残量の値が前記蓄電装置の電力の実測残量より多い値に変更されたとき」に放電停止状態にするのに対し、引用発明では、コントロールボックス75によって、そのようなときにおいても、放電停止状態にすることは特定されていない点。

[相違点6]
本願発明では、制御部によって、「蓄電装置の電力の実測残量が前記最低保持残量であるときに前記記憶部の前記最低保持残量の値が少ない値に変更されたとき」に放電可能状態にするのに対し、引用発明では、コントロールボックス75によって、そのようなときにおいても、放電可能状態にすることは特定されていない点。

2.判断

(1)相違点1について
外部の電力系統から受電するとともに、太陽光エネルギーを利用して発電する太陽光発電装置と、電力を蓄えることが可能な蓄電装置と、を備えた電力供給システムによって、家庭内負荷に電力を供給することは周知技術(例えば、当審の拒絶理由に引用された特開2012-235606号公報の段落【0019】-【0020】、登録実用新案第3171974号公報の【0012】、【0016】-【0017】を参照。)であるから、引用発明における特定負荷60を上記周知技術のような家庭内負荷とし、上記相違点1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。

(2)相違点2について
引用発明は、蓄電部71の容量が放電禁止閾値以下になるかを判断するものであるから、判断のために、その放電禁止閾値を記憶部で記憶するのは当然である。
仮に、記憶部で記憶していないとしても、引用発明において、放電禁止閾値を記憶する記憶部を設けて、上記相違点2の構成とすることは、当業者にとって格別の技術的困難性を伴うことではない。

(3)相違点3について
引用発明は、放電禁止閾値を特定負荷60の消費電力量を考慮して適宜設定するものであるから、適宜設定するための手段を有することは明らかである。また、設定手段としての操作部は周知技術である。
してみれば、引用発明における設定するための手段として、上記周知技術を採用して上記相違点3の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(4)相違点4について
引用発明は、放電禁止閾値を特定負荷60の消費電力量を考慮して適宜設定するものであるから、特定負荷60の消費電力量が増減をしたら、その増減の都度、放電禁止閾値を設定可能であるといえる。また、既に放電禁止閾値が設定されている場合であれば、その増減に応じて放電禁止閾値を設定すると、放電禁止閾値の値は変更するから、その場合については、放電禁止閾値を変更可能であるともいえる。
してみれば、上記相違点4については、実質的な相違点とは認められない。

(5)相違点5について
引用発明は、放電禁止閾値を、特定負荷60の消費電力量を考慮して適宜設定できるものであるから、例えば、特定負荷60の消費電力量が多くなる場合は、放電禁止閾値を多い値に設定することができるものである。
そうすると、引用発明は、非常時のために、蓄電部71の容量が放電禁止閾値以下になった場合に、蓄電部71を停止するように制御するものであるから、上記のように放電禁止閾値を多い値に設定した場合であっても、非常時のために、蓄電部71の容量が放電禁止閾値以下にされたときに蓄電部71を停止するように制御すること、つまり、上記相違点5のように放電停止状態にすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(6)相違点6について
上記(5)で述べたように、引用発明は、放電禁止閾値を、特定負荷60の消費電力量を考慮して適宜設定できるものであるから、例えば、特定負荷60の消費電力量が少なくなる場合は、放電禁止閾値を少ない値に設定することができるものである。
また、上記「1.対比」の「(4)」で述べたように、引用発明は、蓄電部71の容量が放電禁止閾値より大きいときには蓄電部71を放電可能状態としている。
そうすると、引用発明において、蓄電部71の容量が放電禁止閾値に相当する容量であるときに、放電禁止閾値をより少ない値にされたときであっても、蓄電部71の容量が放電禁止閾値より大きいときには蓄電部71を放電可能状態に制御すること、つまり、上記相違点6のように放電可能状態にすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(7)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成30年8月29日付け意見書において、
引用文献1は「そもそも本願発明のように、非常事態が起こる可能性が非常に低いような場合において、一時的に、電気料金を節約する観点から、商用電力系統CSではなく、上記当初に設定した最低保持残量を超えて蓄電装置の電力を用いたい場合等において、ユーザが最低保持残量の値より少ない値に変更する場合を対象としたものではありません。」
と主張している(以下、「主張1」という。)。
しかしながら、本願の特許請求の範囲の請求項1には、「非常事態が起こる可能性が非常に低いような場合において、一時的に、電気料金を節約する観点から、商用電力系統CSではなく、上記当初に設定した最低保持残量を超えて蓄電装置の電力を用いたい場合」の制御であることは記載されていない。
よって、審判請求人の主張1は、特許請求の範囲の記載に基づくものではないから、採用することができない。

また、審判請求人は、上記意見書において、
「例えば、蓄電池71の残量の検出が所定期間毎に行われるような場合においても、本願発明によれば、ユーザが最低保持残量の値より少ない値に変更したことを検出したタイミングで、蓄電装置20を放電可能状態にするものであることから、ユーザが上記本願発明で想定されているような場合において、変更してすぐに蓄電池21の残量を使用することができるという格別の効果を奏することができるのに対し、引用文献1は、上記のように変更のタイミングを起点として、放電可能状態に変更するものではないことから上記のような本願発明特有の効果を奏することができません。」
と主張している(以下、「主張2」という。)。
しかしながら、本願の特許請求の範囲の請求項1には、「前記蓄電装置の電力の実測残量が前記最低保持残量であるときに前記記憶部の前記最低保持残量の値が少ない値に変更されたとき、前記蓄電装置を放電可能状態にする制御部」と記載されているだけであって、審判請求人が主張するような「ユーザが最低保持残量の値より少ない値に変更したことを検出したタイミングで、蓄電装置20を放電可能状態にする」ことや、「変更してすぐに」放電可能状態にすることは記載されていない(下線は当審で付与した。)。
また、本願発明の上記「前記蓄電装置の電力の実測残量が前記最低保持残量であるときに前記記憶部の前記最低保持残量の値が少ない値に変更されたとき、前記蓄電装置を放電可能状態にする」という発明特定事項において、「前記蓄電装置の電力の実測残量が前記最低保持残量であるとき」及び「前記記憶部の前記最低保持残量の値が少ない値に変更されたとき」という事項は、「前記蓄電装置を放電可能状態にする」ことの条件(すなわち、どのような場合に、蓄電装置を放電可能状態にするのか)を単に示しているだけである。したがって、本願発明の「前記記憶部の前記最低保持残量の値が少ない値に変更されたとき」という事項は、「前記記憶部の前記最低保持残量の値が少ない値に変更された場合」という条件を示しているだけであるから、審判請求人が主張するような「ユーザが最低保持残量の値より少ない値に変更したことを検出したタイミングで」とか、「変更してすぐに」とかという意味に限定して解釈すべきものではない。
以上のとおりであるか、審判請求人の上記主張2は特許請求の範囲の記載に基づくものではないから採用することはできない。

(8)まとめ
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-10-17 
結審通知日 2018-10-23 
審決日 2018-11-21 
出願番号 特願2012-273935(P2012-273935)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 猪瀬 隆広安井 雅史大手 昌也  
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 鈴木 圭一郎
山澤 宏
発明の名称 電力供給システム  
代理人 堅田 裕之  

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