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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01S
管理番号 1347582
審判番号 不服2017-10734  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-19 
確定日 2019-01-04 
事件の表示 特願2014-173562「高パワーで液体冷却された励起光および信号光の結合器」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月23日出願公開、特開2015- 79942〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年8月28日(優先権主張 平成25年8月28日、米国)の出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成27年10月21日:拒絶理由通知
平成28年 2月10日:意見書・手続補正書
平成28年 7月26日:拒絶理由通知(最後)
平成29年 1月31日:意見書
平成29年 3月23日:拒絶査定
平成29年 7月19日:審判請求

第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成28年2月10日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「高パワーで熱を分散する光ファイバデバイスであって、
光を伝搬するために構成された、コーティングされたファイバ部分およびコーティングされていないファイバ部分を含む光ファイバの部分と、
前記光ファイバの部分を十分に封入する冷却チャンバーと、前記冷却チャンバー内の熱を分散する流体であって、前記流体内において前記の光の相互作用および伝搬を制御するために選択された屈折率を有する流体と、
前記冷却チャンバーの表面から伸びる流体入口および流体出口と、
前記流体が前記冷却チャンバーを流れることを可能にするためのポンプであって、前記流体が前記流体入口に入り、そして前記流体出口を通って前記冷却チャンバーから出ていくように強制するポンプと、
を有し、
前記の高パワーで熱を分散している光ファイバデバイスが、1kWより大きい出力を生み出し、
前記流体は、少なくとも100W/m^(2)/degの熱伝導係数を有する
光ファイバデバイス。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1?7に係る発明は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通して公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2012-104748号公報
引用文献2:特開平8-220404号公報

第4 引用文献の記載事項
1 引用文献1
(1)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2012-104748号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに次のことが記載されていると認められる(下線は、当審が付した。以下同じ。)。

ア 「【特許請求の範囲】」、
「励起光を出力する励起光源と、
前記励起光により励起される活性元素が添加されたコアと、前記励起光が入力するクラッドと、を有する増幅用光ファイバと、
前記増幅用光ファイバの少なくとも一部を収納する筐体と、
前記筐体内における前記増幅用光ファイバの少なくとも一部が浸漬されるように前記筐体内に充填され、前記増幅用光ファイバの前記クラッドよりも屈折率が低い液体と、
を備える
ことを特徴とする光ファイバ増幅器。」(【請求項1】)、
「コアと、前記液体よりも屈折率が高いクラッドと、を有し、前記クラッドが、一方側から他方側にかけて縮径されたテーパ部を有するブリッジファイバを更に備え、
前記ブリッジファイバは、前記他方側の端部が前記増幅用光ファイバに接続されると共に、前記テーパ部の少なくとも一部が、前記液体に浸漬されており、
前記励起光は、前記ブリッジファイバの前記一方側の端部から前記ブリッジファイバを介して前記増幅用光ファイバに入力される
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ増幅器。」(【請求項2】)、
「前記液体は水であることを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の光ファイバ増幅器。」(【請求項8】)、
「前記液体は、強制対流されることを特徴とする請求項1?8のいずれか1項に記載の光ファイバ増幅器。」(【請求項9】)、
「請求項1?9のいずれか1項に記載の光ファイバ増幅器と、
前記増幅用光ファイバの前記コアに入力される種光を出力する種光源と、
を備えることを特徴とするファイバレーザ装置。」(【請求項10】)

イ 「【技術分野】」、
「本発明は、光ファイバ増幅器、及び、それを用いたファイバレーザ装置に関し、特に、パワーの大きな出力光を得ることができる光ファイバ増幅器、及び、それを用いたファイバレーザ装置に関する。」(【0001】)

ウ 「【背景技術】」、
「光ファイバ増幅器を用いたファイバレーザ装置は、加工機、医療機器、測定器の分野等において用いられ、この光ファイバ増幅器は、増幅用光ファイバにおいて増幅された光が出力されるものである。下記特許文献1には このような光ファイバ増幅器が記載されており、この光ファイバ増幅器に用いられる増幅用光ファイバは、活性元素が添加され、被増幅光が伝播するコアと、コアを被覆し、励起光が伝播するクラッドと、クラッドを被覆する外部クラッドとを有するものである。この外部クラッドは、一般的に樹脂から構成されている。」(【0002】)

エ 「【発明が解決しようとする課題】」、
「ところで、近年、ファイバレーザ装置においては、その用途の拡大と共に、よりパワーの大きな出力光が求められている。このようにファイバレーザ装置からパワーの大きな出力光を得るためには、増幅用光ファイバに入力する励起光のパワーを高くして、増幅用光ファイバにおいて、より高い増幅率で光を増幅すれば良い。しかし、励起光のパワーが高くなると、励起光の一部を樹脂から成る外部クラッドが吸収することにより、外部クラッドにおいて生じる熱や、光が増幅する際に生じる熱により、増幅用光ファイバを焼損する虞がある。従って、増幅用光ファイバに入力する励起光のパワーをあまり高くすることができず、パワーの大きな出力光を得ることが困難という問題がある。」(【0004】)、
「そこで、本発明は、パワーの大きな出力光を得ることができる光ファイバ増幅器、及び、それを用いたファイバレーザ装置を提供することを目的とする。」(【0005】)

オ 「【課題を解決するための手段】」、
「本発明の光ファイバ増幅器は、励起光を出力する励起光源と、前記励起光により励起される活性元素が添加されたコアと、前記励起光が入力するクラッドと、を有する増幅用光ファイバと、前記増幅用光ファイバの少なくとも一部を収納する筐体と、前記筐体内における前記増幅用光ファイバの少なくとも一部が浸漬されるように前記筐体内に充填され、前記増幅用光ファイバの前記クラッドよりも屈折率が低い液体と、を備えることを特徴とするものである。」(【0006】)、
「このような光ファイバ増幅器によれば、筐体内の液体は、増幅用光ファイバのクラッドよりも屈折率が低いため、増幅用光ファイバが液体に浸漬している部分においても、クラッドから液体へ励起光が漏れ出すことがほとんど無く、クラッドは励起光を伝播することができる。そして、増幅用光ファイバが浸漬されている部分において、励起された活性元素が誘導放出する際に、熱が生じる場合においても、発生した熱が、周りの液体に吸収されるので、増幅用光ファイバが高温になることが抑制される。また、励起光の一部が、液体に吸収されて熱に変換される場合や、上記の様に増幅用光ファイバの熱が液体に吸収される場合においても、液体は、対流可能であるため、熱が増幅用光ファイバの周りに留まることを抑制でき、増幅用光ファイバが高温になることが抑制できる。このように、増幅用光ファイバが高温になることが抑制できるので、パワーの大きな励起光を入力することができ、コアを伝播する光をより高い増幅率で増幅することができる。このため、パワーの大きな出力光を出力することができる。」(【0007】)、
「また、上記光ファイバ増幅器において、コアと、前記液体よりも屈折率が高いクラッドと、を有し、前記クラッドが、一方側から他方側にかけて縮径されたテーパ部を有するブリッジファイバを更に備え、前記ブリッジファイバは、前記他方側の端部が前記増幅用光ファイバに接続されると共に、前記テーパ部の少なくとも一部が、前記液体に浸漬されており、前記励起光は、前記ブリッジファイバの前記一方側の端部から前記ブリッジファイバを介して前記増幅用光ファイバに入力されることが好ましい。」(【0008】)、
「このような光ファイバ増幅器によれば、ブリッジファイバの縮径されていない側において、比較的パワー密度の小さな励起光を入力しても、ブリッジファイバからの出力端においては、パワー密度を高めることができる。ところで、このようなブリッジファイバの様に、クラッドがテーパ部を有する場合においては、テーパ部において励起光が放出され易く、その際に光が熱に変換される場合がある。しかし、このような光ファイバ増幅器によれば、テーパ部の液体に浸漬されている部分から光が放出され、その光が熱に変換される場合においても、液体によりブリッジファイバが冷却されるため、ブリッジファイバが高温になることを抑制することができる。従って、よりパワー密度の高い励起光をブリッジファイバに入力することができ、パワーのより大きな出力光を出力することができる。」(【0009】)、
「また、上記光ファイバ増幅器において、前記液体は水であることが好ましい。」(【0020】)、
「このような上記光ファイバ増幅器によれば、光は水に吸収されづらいため、液体における熱の発生そのものを抑制することができる。また、増幅用光ファイバで発生した熱を吸収する場合においても、水は燃焼しないため 信頼性の高い光ファイバ増幅器にすることができる。」(【0021】)

カ 「(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るファイバレーザ装置を示す図である。」(【0031】)、
「図1に示すように、本実施形態のファイバレーザ装置1は、種光を出力する種光源10と、種光源10から出力した種光を増幅する光ファイバ増幅器2とを主な構成として備えており、MO-PA(Master Oscillator Power Amplifier)型のファイバレーザ装置とされる。」(【0032】)、
「図2は、図1の増幅用光ファイバの長手方向に垂直な断面における構造の様子を示す図である。図2に示すように、増幅用光ファイバ30は、コア31と、コア31を被覆するクラッド32とから構成されている。クラッド32の屈折率はコア31の屈折率よりも低くされている。また、コア31の直径は、例えば、4μmとされ、クラッド32の外径は、例えば250μmとされている。」(【0036】)、
「そして、ブリッジファイバ40の縮径されていない一方の端部47と、種光用ファイバ15及び複数の励起光用ファイバ25とが、端面接続されている。具体的には、種光用ファイバ15のコアとブリッジファイバ40のコア41とが接続され、種光用ファイバ15のクラッドとブリッジファイバ40のクラッド42とが接続され、さらに、それぞれの励起光用ファイバ25のコアとブリッジファイバ40のクラッド42とが接続されている。励起光用ファイバは、例えば、19本接続される。また、ブリッジファイバ40の縮径されている他方側の端部48と増幅用光ファイバ30の一方側の端部37とが端面接続されており、ブリッジファイバ40のコア41と増幅用光ファイバ30のコア31とが接続され、ブリッジファイバ40のクラッド42と増幅用光ファイバ30のクラッド32とが接続されている。」(【0042】)、
「この液体は、増幅用光ファイバ30のクラッド32及びブリッジファイバ40のクラッド42よりも屈折率が低い液体とされる。このような液体としては、水、フッ素系不活性液体等を挙げることができる。」(【0049】)、
「そして、ブリッジファイバ40の縮径されていない一方側において、パワー密度が比較的小さい励起光は、クラッド42のテーパ部43を伝播するに伴って、パワー密度が高くされる。このとき本実施形態においては、テーパ部43が、クラッド42よりも屈折率の低い液体5に浸漬されているため、テーパ部43から励起光が液体5へ放出されることが抑制されている。そして、クラッド42を伝播する励起光は、増幅用光ファイバ30に入力し、増幅用光ファイバ30のクラッド32を主に伝播する。」(【0054】)、
「なお、増幅用光ファイバ30は、クラッド32よりも屈折率が低い液体5に浸漬されているため、クラッド32を伝播する励起光は、クラッド32から液体5へ放出されることが抑制されている。そして、上述のように、液体5が水や一般的なフッ素系不活性液体である場合には、クラッド32から僅かに染み出る励起光を吸収することがほとんど無いため好ましく、さらに、水や一般的なフッ素系不活性液体は、増幅用光ファイバ30が発熱する場合においても、燃焼しないため好ましい。」(【0056】)

キ 「以上、本発明について、第1、第2実施形態を例に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。」(【0071】)、
「例えば、上記実施形態においては、増幅用光ファイバ30の全体が液体5に浸漬されていたが、増幅用光ファイバ30の一部が液体から露出していても良い。」(【0072】)、
「また、液体5は、強制対流されても良い。この強制対流は、液体5を筐体60内で滞留させても良く、筐体60の外部に冷却機構を設けて、液体5が筐体60と冷却機構との間で循環するように対流させても良い。このようにすることで、液体5において、熱が一カ所に留まることを防止でき、更に、冷却機構を設ける場合においては、より液体を冷却することができる。」(【0079】)

ク 図1は次のとおりである。


ケ 図2は次のとおりである。


コ 段落【0036】、図1及び図2の各記載から、増幅用光ファイバ30は、コア31と、コア31を被覆するクラッド32とから構成されており、クラッド32より外部の層を有しないものと認められる。

(2)上記(1)の各記載によれば、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。なお、引用発明1の認定に活用した請求項番号及び段落番号等を参考までに併記してある。
「(【請求項10】)光ファイバ増幅器と、
前記増幅用光ファイバの前記コアに入力される種光を出力する種光源と、
を備えるファイバレーザ装置であって、
(【請求項1】)前記光ファイバ増幅器は、
(【0001】)パワーの大きな出力光を得ることができるものであって、
(【請求項1】)励起光を出力する励起光源と、
(上記(1)コ)前記励起光により励起される活性元素が添加されたコアと、前記励起光が入力するクラッドとから構成されており、当該クラッドより外部の層を有さない増幅用光ファイバと、
(【請求項1】)前記増幅用光ファイバの少なくとも一部を収納する筐体と、
前記筐体内における前記増幅用光ファイバの少なくとも一部が浸漬されるように前記筐体内に充填され、前記増幅用光ファイバの前記クラッドよりも屈折率が低い液体と、
を備えるとともに、
(【0072】)増幅用光ファイバの全体が液体に浸漬されており、
(【請求項2】)コアと、前記液体よりも屈折率が高いクラッドと、を有し、前記クラッドが、一方側から他方側にかけて縮径されたテーパ部を有するブリッジファイバを更に備え、
前記ブリッジファイバは、前記他方側の端部が前記増幅用光ファイバに接続されると共に、前記テーパ部の少なくとも一部が、前記液体に浸漬されており、
前記励起光は、前記ブリッジファイバの前記一方側の端部から前記ブリッジファイバを介して前記増幅用光ファイバに入力される
(【請求項1】)光ファイバ増幅器であり、
(【0007】)筐体内の液体は、増幅用光ファイバのクラッドよりも屈折率が低いため、増幅用光ファイバが液体に浸漬している部分においても、クラッドから液体へ励起光が漏れ出すことがほとんど無く、クラッドは励起光を伝播することができ、
(【0054】)テーパ部が、ブリッジファイバのクラッドよりも屈折率の低い液体に浸漬されているため、テーパ部から励起光が液体へ放出されることが抑制されており、
(【0049】)液体としては、水、フッ素系不活性液体等を挙げることができ、
(【0056】)液体が水や一般的なフッ素系不活性液体である場合には、増幅用光ファイバのクラッドから僅かに染み出る励起光を吸収することがほとんど無いため好ましく、
(【0007】)増幅用光ファイバが浸漬されている部分において、励起された活性元素が誘導放出する際に、熱が生じる場合においても、発生した熱が、周りの液体に吸収されるので、増幅用光ファイバが高温になることが抑制されるものであり、
(【0009】)液体によりブリッジファイバが冷却されるため、ブリッジファイバが高温になることを抑制することができるものであり、
(【請求項9】)前記液体は、強制対流されるものであり、
(【0079】)この強制対流は、筐体の外部に冷却機構を設けて、液体が筐体と冷却機構との間で循環するように対流させるものである、
(【請求項10】)ファイバレーザ装置。」

2 引用文献2
(1)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開平8-220404号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに次のことが記載されていると認められる。
ア 「【産業上の利用分野】」
「本発明は溶接用の大容量YAGレーザシステム及びレーザ光を溶接位置に導く光ファイバケーブルを水冷することにより,大容量のエネルギーを伝送し得るようにしたYAGレーザ用冷却式光ファイバケーブルに関する。」(【0001】)

イ 「【従来の技術】」
「従来は光ファイバケーブルの冷却は自然空冷によっていたため,コア径600μmの光ファイバケーブルでは2KW程度のレーザ発振器によるレーザ光を伝送するのが限度であった。」(【0002】)

ウ 「【発明が解決しようとする課題】」
「一般的には溶接用途は切断やマーキングに較べ,より大容量の,場合によっては3KW以上のレーザ発振器によるレーザ光を必要とする。しかしそのような大エネルギーを伝送するためには,従来のように自然空冷のままだと複数本の光ファイバケーブルを並列で使用するか,あるいはより太いケーブルを用いるしかなかった。しかしいずれの方法もコスト高,可撓性の悪化等の欠点があった。」(【0003】)

(2)上記(1)の各記載によれば、引用文献2には、レーザの技術分野における大容量のエネルギーの具体的数値の例として、3KW以上という値が開示されていると認められる。

第5 対比・判断
1 本願発明と引用発明1とを対比する。
(1)本願発明の「高パワーで光を分散する光ファイバデバイスであって、」について
ア 引用発明1の「ファイバレーザ装置」は、本願発明の「光ファイバデバイス」に相当する。
イ 引用発明1の「光ファイバ増幅器」は、「パワーの大きな出力光を得ることができるもの」であって、しかも、「ファイバレーザ装置」に含まれる構成であるから、引用発明1の「ファイバレーザ装置」は、本願発明の「高パワーで」との特定事項を備えている。
ウ 引用発明1は、「増幅用光ファイバが浸漬されている部分において、励起された活性元素が誘導放出する際に、熱が生じる場合においても、発生した熱が、周りの液体に吸収されるので、前記増幅用光ファイバが高温になることが抑制されるものであ」るとともに、「液体によりブリッジファイバが冷却されるため、ブリッジファイバが高温になることを抑制することができるものであ」るから、引用発明1の「ファイバレーザ装置」は、本願発明の「熱を分散する」との特定事項を備えている。
エ よって、引用発明1は、本願発明の「高パワーで光を分散する光ファイバデバイスであって、」との特定事項を備えている。

(2)本願発明の「光を伝搬するために構成された、コーティングされたファイバ部分およびコーティングされていないファイバ部分を含む光ファイバの部分と、」について
ア 引用発明1の「ブリッジファイバ」に含まれる「テーパ部」と「増幅用光ファイバ」とは、本願発明の「光を伝搬するために構成された、」「光ファイバの部分」に相当する。
イ よって、引用発明1は、本願発明の「光を伝搬するために構成された、」「光ファイバの部分」との特定事項を備えている。

(3)本願発明の「前記光ファイバの部分を十分に封入する冷却チャンバーと、」について
ア 引用発明1の「液体」が「充填され」ている「筐体」は、上記(1)ウに照らせば、本願発明の「冷却チャンバー」に相当する。
イ 引用発明1の「ブリッジファイバ」に含まれる「テーパ部」はその「少なくとも一部」が、また、同「増幅用光ファイバ」はその「全部」が、「液体」に「浸漬」されているところ、引用発明1は、「増幅用光ファイバが浸漬されている部分において、励起された活性元素が誘導放出する際に、熱が生じる場合においても、発生した熱が、周りの液体に吸収されるので、増幅用光ファイバが高温になることが抑制されるものであ」るとともに、「液体によりブリッジファイバが冷却されるため、ブリッジファイバが高温になることを抑制することができるものであ」るから、引用発明1の「液体」が「充填され」ている「筐体」(本願発明の「冷却チャンバー」に相当。)は、本願発明の「前記光ファイバの部分を十分に封入する」との特定事項を備えている。
ウ よって、引用発明1は、本願発明の「前記光ファイバの部分を十分に封入する冷却チャンバーと、」との特定事項を備えている。

(4)本願発明の「前記冷却チャンバー内の熱を分散する流体であって、前記流体内において前記の光の相互作用および伝搬を制御するために選択された屈折率を有する流体と、」について
ア 引用発明1の「液体」は、本願発明の「流体」に相当する。
イ 上記(1)ウに照らせば、引用発明1の「液体」が、本願発明の「前記冷却チャンバー内の熱を分散する」ためのものであることが明らかである。
ウ 引用発明1は、「筐体内の液体は、増幅用光ファイバのクラッドよりも屈折率が低いため、増幅用光ファイバが液体に浸漬している部分においても、クラッドから液体へ励起光が漏れ出すことがほとんど無く、クラッドは励起光を伝播することができ」、「テーパ部が、ブリッジファイバのクラッドよりも屈折率の低い液体に浸漬されているため、テーパ部から励起光が液体へ放出されることが抑制されて」いるものである。また、引用発明1は、「液体としては、水、フッ素系不活性液体等を挙げることができ」、「液体が水や一般的なフッ素系不活性液体である場合には、増幅用光ファイバのクラッドから僅かに染み出る励起光を吸収することがほとんど無いため好まし」いものであるとともに、その「液体」の屈折率が空気の屈折率よりも大きいことは明らかである。
そうすると、引用発明1の「液体」は、本願発明の「前記流体内において前記の光の相互作用および伝搬を制御するために選択された屈折率を有する」との特定事項を備えている。
エ よって、引用発明1は、「前記冷却チャンバー内の熱を分散する流体であって、前記流体内において前記の光の相互作用および伝搬を制御するために選択された屈折率を有する流体と、」との特定事項を備えている。

(5)本願発明の「前記冷却チャンバーの表面から伸びる流体入口および流体出口と、前記流体が前記冷却チャンバーを流れることを可能にするためのポンプであって、前記流体が前記流体入口に入り、そして前記流体出口を通って前記冷却チャンバーから出ていくように強制するポンプと、」について
引用発明1は、「液体」が「強制対流されるもの」であり、「この強制対流は、筐体の外部に冷却機構を設けて、液体が筐体と冷却機構との間で循環するように対流させるものである」。そうすると、引用発明1が、本願発明の「前記冷却チャンバーの表面から伸びる流体入口および流体出口と、前記流体が前記冷却チャンバーを流れることを可能にするためのポンプであって、前記流体が前記流体入口に入り、そして前記流体出口を通って前記冷却チャンバーから出ていくように強制するポンプ」を備えていることは明らかである。

2 上記1によれば、本願発明と引用発明1とは、
「高パワーで熱を分散する光ファイバデバイスであって、
光を伝搬するために構成された、光ファイバの部分と、
前記光ファイバの部分を十分に封入する冷却チャンバーと、前記冷却チャンバー内の熱を分散する流体であって、前記流体内において前記の光の相互作用および伝搬を制御するために選択された屈折率を有する流体と、
前記冷却チャンバーの表面から伸びる流体入口および流体出口と、
前記流体が前記冷却チャンバーを流れることを可能にするためのポンプであって、前記流体が前記流体入口に入り、そして前記流体出口を通って前記冷却チャンバーから出ていくように強制するポンプと、
を有する、
光ファイバデバイス。」の点で一致し、以下の点で相違すると認められる。

[相違点1]
「冷却チャンバー」が「十分に封入する」「前記光ファイバの部分」について、本願発明は、「コーティングされたファイバ部分およびコーティングされていないファイバ部分を含む」ものであるのに対し、引用発明1は、そうではない点。

[相違点2]
「光ファイバデバイス」の出力について、本願発明は「1kWより大きい出力」であるのに対し、引用発明1は、「パワーの大きな出力光を得ることができる」とされているが、具体的な出力の値が不明である点。

[相違点3]
本願発明の「前記流体」は、「少なくとも100W/m^(2)/degの熱伝導係数を有する」のに対し、引用発明1の「液体」は、「水、フッ素系不活性液体等を挙げることができ」るものであり、しかも、「増幅用光ファイバが浸漬されている部分において、励起された活性元素が誘導放出する際に、熱が生じる場合においても、発生した熱が、周りの液体に吸収されるので、増幅用光ファイバが高温になることが抑制されるものであり」、「液体によりブリッジファイバが冷却されるため、ブリッジファイバが高温になることを抑制することができるものであ」るという作用を有するけれども、「液体」の熱伝導係数の値は不明である点。

3 上記相違点について判断する。
(1)相違点1について
ア 引用発明1の「増幅用光ファイバ」は、「前記励起光により励起される活性元素が添加されたコアと、前記励起光が入力するクラッドとから構成されており、当該クラッドより外部の層を有さない」ものである。
そこで、このような「増幅用光ファイバ」がどのようにして得られたのかについてみると、引用文献1の段落【0002】には、増幅用光ファイバとして、活性元素が添加され、被増幅光が伝播するコアと、コアを被覆し、励起光が伝播するクラッドと、クラッドを被覆する外部クラッドとを有し、この外部クラッドは樹脂から構成されるものが記載されている(以下、当該外部クラッドを有する増幅用光ファイバを「外部クラッド除去前増幅用光ファイバ」という。)。そうすると、当業者は、引用発明1の「増幅用光ファイバ」を、外部クラッド除去前増幅用光ファイバから当該外部クラッドをすべて除去することにより得ることができると認識しうるものと認められる。

イ 上記アによれば、引用発明1において相違点1に係る構成に至るためには、次のような変更がなされればよいといえる。
すなわち、引用発明1の「増幅用光ファイバ」は、外部クラッド除去前増幅用光ファイバを出発点として、その外部クラッドをすべて除去することにより得られるものであるけれども、これに代えて、外部クラッド除去前増幅用光ファイバの外部クラッドを、「ブリッジファイバ」の「端部」との接続部付近においてのみ除去するように変更すればよいのである。このように変更すれば、引用発明1の「増幅用光ファイバ」は、外部クラッドが除去された(上記接続部付近に存在する)部分と外部クラッドが除去されていない(上記接続部付近以外に存在する)部分とを備えることになり、しかも、「増幅用光ファイバの全体が液体に浸漬されて」いるのであるから、相違点1に係る構成に至ることになる。

ウ そこで、上記イの変更により相違点1に係る構成に至ることが容易想到であるかどうかについて検討する。
(ア)引用発明1では、「増幅用光ファイバ」が「ブリッジファイバ」の「端部」と「接続され」ているところ、増幅用光ファイバを他の光ファイバと接続するに当たり、被覆のある増幅用光ファイバの当該被覆を接続部付近のものだけ除去した状態としてから他の光ファイバと接続することは技術常識である(例えば、特開2011-186399号公報の段落【0060】・【0088】・図2・図10、特開2002-328258号公報の段落【0014】・図3(A)を参照。)。
そして、当該被覆は、全部が除去されるよりも、一部のみが除去される方が、製造に手間がかからないことが明らかである。
そうすると、当業者であれば、引用発明1において、「増幅用光ファイバ」を「ブリッジファイバ」の「端部」と「接続」した構成を得るに当たり、上記技術常識に照らして、外部クラッド除去前増幅用光ファイバの当該外部クラッドを接続部付近のものだけ除去した状態としてから「ブリッジファイバ」の「端部」と「接続」するようにして、もって、相違点1の構成に至ることは、適宜なし得たことにすぎないといえる。

(イ)次に、上記(ア)の検討と引用発明1の技術的意義との関係について確認する。
a まず、引用発明1の技術的意義は次のとおりである。
引用文献1の段落【0004】には、「励起光のパワーが高くなると、励起光の一部を樹脂から成る外部クラッドが吸収することにより、外部クラッドにおいて生じる熱や、光が増幅する際に生じる」「により、増幅用光ファイバを焼損する虞がある」との記載があり、この内容が引用発明1が解決しようとする課題であると認められる。
そして、上記の記載にも照らせば、引用発明1において「増幅用光ファイバ」が「前記励起光により励起される活性元素が添加されたコアと、前記励起光が入力するクラッドとから構成されており、当該クラッドより外部の層を有さない」ものとされている技術的意義は、外部クラッドを設けないことにより、励起光の一部を外部クラッドが吸収することを回避し、もって、増幅用光ファイバの焼損という課題の解決に資することにあるものと解される。
また、引用発明1において「増幅用光ファイバの全体が液体に浸漬されており」、「前記ブリッジファイバは、前記他方側の端部が前記増幅用光ファイバに接続されると共に、前記テーパ部の少なくとも一部が、前記液体に浸漬されて」いる技術的意義は、これらを液体に浸漬することにより、ブリッジファイバ及び増幅用光ファイバが高温になることを抑制し、もって、増幅用光ファイバの焼損という課題の解決に資することにあるものと認められる。

b 上記aのとおり、引用発明1は、外部クラッドを設けないという手段により、励起光の一部が外部クラッドによって吸収されるのを回避するものである。
しかし、当該手段は、増幅用光ファイバが焼損するという課題の解決に資するためのものなのであり、その観点からみれば、引用発明1は、ブリッジファイバのテーパ部の少なくとも一部と増幅用光ファイバの全体を液体に浸漬することにより、これらが高温になることを抑制するという別個の課題解決手段をも併せて提供している。
そして、上記(ア)で検討した変更後の「増幅用光ファイバ」には外部クラッドが残存していることになり、その結果、励起光の一部が当該外部クラッドによって吸収される状況になる可能性はあるけれども、その周囲には「液体」が存在するのであり、しかも、その「液体」は、増幅用光ファイバが焼損するという課題を解決するためのものなのであるから、当該変更後の増幅用光ファイバであっても、これが焼損するとは直ちにはいえないと理解することができる。

c そうすると、引用発明1において上記(ア)で検討した変更を行ったとしても、引用発明1の技術的意義に抵触するとまではいえないと解される。

(ウ)上記(ア)及び(イ)を総合的に考慮すれば、引用発明1において相違点1に係る構成に至ることは、当業者にとって容易想到であるというべきである。

(2)相違点2について
上記第4の2(2)のとおり、引用文献2には、レーザの技術分野における大容量のエネルギーの具体的数値の例として、3KW以上という値が開示されている。そして、引用発明1の「光ファイバ増幅器」は、「パワーの大きな出力光を得ることができるもの」である。
そうすると、引用発明1の「ファイバレーザ装置」において、1kWより大きい出力を生み出すようにすることは、当業者が適宜選択し得た事項にすぎないといえる。

(3)相違点3について
相違点3に係る本願発明の構成は、「前記流体は、少なくとも100W/m^(2)/degの熱伝導係数を有する」というものである。そして、本願発明の「流体」の例は、本願明細書の段落【0026】及び【0027】に記載されていると解されるところ、その中には「水」が含まれている。
他方で、引用発明1の「液体」は、「水」であってもよいとされており、その意味では、本願発明の「流体」と差異がない。また、引用発明1の「液体」は、「発生した熱」を「吸収」するためのものであるから、増幅用光ファイバ等から発生する熱が「液体」に伝わりやすくなければならないことは当業者にとって自明である。
そうすると、相違点3は、実質的な相違点ではないといえるし、また、仮に実質的な相違点であるとしても、当業者が適宜選択し得た事項にすぎないといえる。

(4)そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明が奏する作用効果は、引用発明1、引用文献1に記載された事項、引用文献2に記載された事項及び技術常識から予測されるものに比して格別顕著なものということはできない。

(5)したがって、本願発明は、引用発明1、引用文献1に記載された事項、引用文献2に記載された事項及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-08-13 
結審通知日 2018-08-14 
審決日 2018-08-27 
出願番号 特願2014-173562(P2014-173562)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 林 祥恵  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 近藤 幸浩
山村 浩
発明の名称 高パワーで液体冷却された励起光および信号光の結合器  
代理人 岡部 讓  

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