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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
管理番号 1347583
審判番号 不服2017-10841  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-21 
確定日 2019-01-04 
事件の表示 特願2016- 98816「電子カセッテ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年10月20日出願公開、特開2016-182345〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年3月12日に出願した特願2013-49296号の一部を平成28年5月17日に新たな特許出願としたものであって、 平成29年2月28日付けで拒絶理由が通知され、同年4月7日付けで意見書が提出されたが、同年6月28日付けで拒絶査定がなされた。本件は、これに対して、同年7月21日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。
その後、当審において、平成30年6月12日付けで拒絶理由が通知され、同年8月13日付けで意見書及び手続補正書が提出された。


第2 本願発明について
本願の特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ、「本願発明1」?「本願発明5」という。)は、平成30年8月13日付けの手続補正(以下、単に「手続補正」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうちの本願発明1は、次のとおりのものである。

「被写体の放射線画像を検出する画像検出部と、
前記画像検出部を収容する筐体であり、放射線が入射する前面、前記前面と対向する背面、および4つの側面を有する直方体形状の筐体と、
少なくとも前記側面の1つと前記背面との間に設けられ、前記側面および前記背面に対して傾斜した面で構成された面取り部とを備え、
前記面取り部は、前記背面および前記側面の各境界間の、前記筐体の厚み方向の高さをh、前記厚み方向と直交する横方向の長さをd1としたとき、h<d1の条件を満たし、
前記高さhは7mm以上10mm以下であり、前記長さd1は20mm以上40mm以下であり、
前記面取り部は、前記側面からみた形状が、真円の一部を切り取った円弧、楕円弧の一部を切り取った楕円弧または前記円弧と前記楕円弧とを複数繋ぎ合わせて形成した形状であり、
前記筐体内に収容される部材のうち、最も平面サイズが大きい最大部材の端部と前記側面の内壁面との最短距離をd2、前記最大部材の端部と前記面取り部の内壁面との最短距離をd3としたとき、d2<d3の条件を満たす電子カセッテ。」

なお、本願発明1は、手続補正前の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を、さらに、「前記面取り部は、前記側面からみた形状が、真円の一部を切り取った円弧、楕円弧の一部を切り取った楕円弧または前記円弧と前記楕円弧とを複数繋ぎ合わせて形成した形状であり、」で限定したものである。


第3 拒絶の理由
平成30年6月12日付けで当審が通知した拒絶理由は、概略、次のとおりのものである。

理由1 本願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(1)本願発明1について
本願発明1は、「前記筐体内に収容される部材のうち、最も平面サイズが大きい最大部材の端部と前記側面の内壁面との最短距離をd2、前記最大部材の端部と前記面取り部の内壁面との最短距離をd3としたとき、d2<d3の条件を満たす」という発明特定事項(以下、「発明特定事項1」という。)を有するが、発明の詳細な説明を参酌しても、発明特定事項1の技術上の意義が理解できない。

(2)本願発明2について
本願発明2は、「前記面取り部は、前記背面および前記側面の各境界間の、前記筐体の厚み方向の高さをh、前記厚み方向と直交する横方向の長さをd1としたとき、h<d1の条件を満たす」という発明特定事項(以下、「発明特定事項2」という。)を有するが、発明の詳細な説明を参酌しても、発明特定事項1の技術上の意義が理解できない。

(3)本願発明3について
本願発明3は、「前記高さhは7mm以上10mm以下であり、前記長さd1は20mm以上40mm以下である」という発明特定事項(以下、「発明特定事項3」という。)を有するが、発明の詳細な説明を参酌しても、発明特定事項1の技術上の意義が理解できない。

(4)本願発明5について (略)

(5)本願発明6について (略)


理由2 本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・本願発明1
・引用文献1

・本願発明2、3
・引用文献1

・本願発明4 (略)

・本願発明5、6 (略)

引用文献等一覧
1.特開2011-221361号公報


第4 特許法第36条第4項第1号(委任省令要件)について
1 本願発明1について
本願発明1は、
・「前記筐体内に収容される部材のうち、最も平面サイズが大きい最大部材の端部と前記側面の内壁面との最短距離をd2、前記最大部材の端部と前記面取り部の内壁面との最短距離をd3としたとき、d2<d3の条件を満たす」という発明特定事項(以下、「発明特定事項1」という。)、
・「前記面取り部は、前記背面および前記側面の各境界間の、前記筐体の厚み方向の高さをh、前記厚み方向と直交する横方向の長さをd1としたとき、h<d1の条件を満たし、」という発明特定事項(以下、「発明特定事項2」という。)、
・「前記高さhは7mm以上10mm以下であり、前記長さd1は20mm以上40mm以下であり、」という発明特定事項(以下、「発明特定事項3」という。)
を有する。以下、発明特定事項1?3の技術上の意義について検討する。

(1)発明特定事項1について
本願の発明の詳細な説明には、発明特定事項1について、次の記載がある。
「【0039】
基台52は、基台52の端部80と、側面22の内壁面(側面22を構成する背面カバー61の折り曲げられた辺の内壁面)81との最短距離をd2、基台52の端部80と面取り部70の内壁面82との最短距離をd3としたとき、以下の条件式(2)を満たす配置がなされている。
条件式(2):d2<d3
言い換えれば、側面22との間のスペースよりも、面取り部70との間のスペースが大きくなるよう基台52が配置されている。また、基台52は、筐体11内における厚み方向の配置に関して、境界73から前面12までの高さの範囲内に収まっている。
【0040】
基台52をこうした配置とするのは、患者と患者が仰臥する設置面との隙間に側面22側の端部を挿入する際に、端部に掛かる患者の重みで、面取り部70が内側に凹んで端部80と内壁面82が接触し、その影響で筐体11内の部材が破損する可能性を低くするためである。」

上記記載からは、「条件式(2):d2<d3」を満たすと、「端部に掛かる患者の重みで、面取り部70が内側に凹んで端部80と内壁面82が接触し、その影響で筐体11内の部材が破損する可能性」が低くなるという技術事項が記載されていると認められる。
しかし、「面取り部70が内側に凹んで端部80と内壁面82が接触」するか否かは、単純に、d3の実際の長さによるものであって、d2<d3であれば、必ず、接触の可能性を低くすることができるものではないことは明らかである。
よって、上記記載は、技術的に正しい事項を記載しているとは認めがたい。

してみると、発明の詳細な説明を参酌しても、発明特定事項1の技術上の意義が理解できない。

(2)発明特定事項2について
本願の発明の詳細な説明には、発明特定事項2について、次の記載がある。

「【0038】
図5において、面取り部70は、境界73、74間の筐体11の厚み方向の高さ(境界73から背面14を延長した面に引いた垂線の長さ)をh、境界73、74間の筐体11の厚み方向と直交する横方向の長さ(境界74から側面22を延長した面に引いた垂線の長さ)をd1としたとき、以下の条件式(1)を満たす。
条件式(1):h<d1」
「【0042】
次に、上記実施形態による作用について説明する。まず、床面などの平坦な設置面Sに置かれた電子カセッテ2を持ち上げる際には、図7に示すように、面取り部70があることにより背面14と設置面Sとの間に生じる隙間に指Fを差し入れ、筐体11の側面22側の端部を設置面Sから浮かせ、これをきっかけにして筐体11全体を持ち上げる。
【0043】
面取り部70の高さhと長さd1が条件式(1)を満たすので、例えば高さhが面取り部70と同じで、h=d1とした図8に点線で示す面取り部90よりも、背面14と設置面Sとの隙間が大きく空く。したがって、h≧d1とするよりも背面14と設置面Sとの隙間のより奥に指Fを差し入れることができ、筐体11を設置面Sから浮かせやすい。また、例えば長さd1が面取り部70と同じで、h=d1とした図9に点線で示す面取り部91では、高さhを高くする分筐体11の厚みが厚くなってしまうが、条件式(1)を満たす面取り部70では筐体11の厚みを薄くすることができる。さらに、図10に示すように、仮に図9の例で筐体11の厚みを同じにした場合は、面取り部70のほうが面取り部91よりも外側に張り出すので、筐体11の内部スペースを広くとることができる。したがって、基台52を、条件式(2)を満たす配置としやすい。」
「【0050】
面取り部70の高さhおよび長さd1は、指の差し入れやすさを考えれば大きいほどよいが、落下衝撃に耐え得るクリアランスを確保するために筐体11の内部スペースを広くとるという観点からすれば小さいほうがよい。」

上記記載からは、「条件式(1):h<d1」を満たすと、「背面14と設置面Sとの隙間が大きく空」き、「背面14と設置面Sとの隙間のより奥に指Fを差し入れることができ、筐体11を設置面Sから浮かせやすい。」、「面取り部70では筐体11の厚みを薄くすることができる。」、「面取り部70のほうが面取り部91よりも外側に張り出すので、筐体11の内部スペースを広くとることができる。」、「落下衝撃に耐え得るクリアランスを確保するために筐体11の内部スペースを広くとる」という技術事項が記載されていると認められる。
しかし、「隙間のより奥に指Fを差し入れることができ」るか否か、「筐体11の厚みを薄くすることができる」か否か、「外側に張り出すので、筐体11の内部スペースを広くとることができる」か否かは、hとd1の実際の寸法、面取り部の形状(1つの曲面なのか、複数の曲面の組合せなのか、1つの平面なのか、複数の平面の組合せなのか、曲面と平面の組合せなのか、また、曲面の曲率等)等によるものであって、h<d1であれば、必ず、上記のような作用を奏することができるものではないことは明らかである。
よって、上記記載は、技術的に正しい事項を記載しているとは認めがたい。

そして、手続補正により、「前記面取り部は、前記側面からみた形状が、真円の一部を切り取った円弧、楕円弧の一部を切り取った楕円弧または前記円弧と前記楕円弧とを複数繋ぎ合わせて形成した形状であ」ることが特定されたが、円弧の径、楕円弧の長径と短径、楕円弧のどの部分であるのか、また、繋ぎ合わせる円弧と楕円弧について、円弧の径、楕円弧の長径と短径、楕円弧のどの部分であるのかが、指の差し入れやすさや筺体の内部スペースを広くとることができるかに関係することは明らかである。例えば、円弧を考えた場合、径が小さいと、指は差し入れにくくなるが、内部スペースは広くなり、逆に、径が大きいと、指は差し入れやすくなるが、内部スペースは狭くなる。
さらに、内部スペースの広さには全厚も含む電子カセッテ全体の寸法が、落下衝撃に耐え得るクリアランスの確保については、内部の具体的構造・寸法が大きく影響することも明らかである。

すると、単に、h<d1を満たすことに、さらに、「前記面取り部は、前記側面からみた形状が、真円の一部を切り取った円弧、楕円弧の一部を切り取った楕円弧または前記円弧と前記楕円弧とを複数繋ぎ合わせて形成した形状であ」ることを考慮しても、必ず、上記のような作用を奏することができるとは認められない。

したがって、発明の詳細な説明を参酌しても、発明特定事項2の技術上の意義が理解できない。

(3)発明特定事項3について
本願の発明の詳細な説明には、発明特定事項3について、次の記載がある。

「【0050】
面取り部70の高さhおよび長さd1は、指の差し入れやすさを考えれば大きいほどよいが、落下衝撃に耐え得るクリアランスを確保するために筐体11の内部スペースを広くとるという観点からすれば小さいほうがよい。この兼ね合いを考慮すると、面取り部70の高さhは7mm以上10mm以下、長さd1は20mm以上40mm以下であることが好ましい。面取り部70の高さhが7mmよりも小さいと指Fを差し入れる十分な隙間が空かず、筐体11を設置面Sから浮かせることが困難となる。長さd1が20mmよりも小さい場合も同様に指が奥まで差し入れられない。また、高さhが10mmよりも大きいと、その分筐体11の内部スペースを圧迫する。面取り部70の長さd1が40mmよりも大きい場合も同様である。筐体11の内部スペースが狭まると、基台52の端部80と面取り部70の内壁面82との距離d3も狭まるため、条件式(2)を満たすために基台52の端部80と面取り部70の内壁面82とを遠ざけるよう脚53を高くしなければならず、その分筐体11の厚みが厚くなる。」

上記記載からは、「面取り部70の高さhは7mm以上10mm以下、長さd1は20mm以上40mm以下である」と、「指Fを差し入れる十分な隙間が空」き、「筐体11の内部スペースが狭ま」らない、「筐体11の厚みが厚くな」らないという技術事項が記載されていると認められる。
しかし、「指Fを差し入れる十分な隙間が空」くか否か、「筐体11の内部スペースが狭ま」らないか否か、「筐体11の厚みが厚くな」らないか否かは、hとd1の実際の寸法のほかに、面取り部の形状(1つの曲面なのか、複数の曲面の組合せなのか、1つの平面なのか、複数の平面の組合せなのか、曲面と平面の組合せなのか、また、曲面の曲率等)等によるものであって、「面取り部70の高さhは7mm以上10mm以下、長さd1は20mm以上40mm以下であ」れば、必ず、上記のような作用を奏することができるものではないことは明らかである。
さらに、内部スペースの広さには全厚も含む電子カセッテ全体の寸法が、落下衝撃に耐え得るクリアランスの確保については、内部の具体的構造・寸法が大きく影響することも明らかである。

よって、上記記載は、技術的に正しい事項を記載しているとは認めがたい。

そして、手続補正により、「前記面取り部は、前記側面からみた形状が、真円の一部を切り取った円弧、楕円弧の一部を切り取った楕円弧または前記円弧と前記楕円弧とを複数繋ぎ合わせて形成した形状であ」ることが特定されたが、上述のとおりであって、単に、高さhは7mm以上10mm以下、長さd1は20mm以上40mm以下を満たすことに、さらに、「前記面取り部は、前記側面からみた形状が、真円の一部を切り取った円弧、楕円弧の一部を切り取った楕円弧または前記円弧と前記楕円弧とを複数繋ぎ合わせて形成した形状であ」ることを考慮しても、必ず、上記のような作用を奏することができるとは認められない。

してみると、発明の詳細な説明を参酌しても、発明特定事項3の技術上の意義が理解できない。

(4)請求人の主張について
平成30年8月13日付け意見書において、請求人は、
「本願発明は、「面取り部70の高さhおよび長さd1は、指の差し入れやすさを考えれば大きいほどよいが、落下衝撃に耐え得るクリアランスを確保するために筐体11の内部スペースを広くとるという観点からすれば小さいほうがよい。この兼ね合いを考慮すると、面取り部70の高さhは7mm以上10mm以下、長さd1は20mm以上40mm以下であることが好ましい。」(同段落[0050]参照)との記載にあるように、h及びd1を特定範囲とすることにより、指の差し入れやすさと落下衝撃に耐えうるとの両者の作用を奏します。
そして、h<d1とすることにより、「面取り部70のほうが面取り部91よりも外側に張り出すので、筐体11の内部スペースを広く取ることができる。したがって、基台52を、条件式(2)を満たす配置としやすい。」(本願明細書段落[0043]参照)、「条件式(2)を満たすように基台52を配置し、基台52と面取り部70の内壁面82との間にクリアランスをとっているので、患者Pと接地面Sとの隙間に筐体11の端部を挿入する際に端部に係る患者Pの重みで、面取り部70が内側に凹んで端部80と内壁面82が接触し、その影響で筐体11内の部材が破損する可能性が低くなる。」(同段落[0048]参照)との記載にあるように、条件式(2)を満たすため、筐体の部材が破損する可能性が低くなるという作用を奏します。」
と主張している。

しかし、指の差し入れやすさと、落下衝撃に耐え得るクリアランスの確保のために内部スペースを広くとることとの兼ね合いから、h及びd1を特定範囲とすることを主張するが、上記(3)で指摘したとおり、h及びd1の数値設計のみによって、両者の兼ね合いが取れるわけではなく、さらに、h及びd1の数値設計は、電子カセッテの全厚や、パネルの厚さ、内部の具体的な構造などにも左右されることは自明であって、そのような構成が限定されない本願発明1において、「高さhは7mm以上10mm以下、長さd1は20mm以上40mm以下である」ことの技術的意義を正しく評価することはできない。
また、h<d1とすることにより、面取り部が外側に張り出すことを前提として主張を行っているが、面取り部が外側に張り出すか否かは、hとd1の大小関係だけではなく、面取り部の形状(平面か、曲面か、どのような曲面か)によって、大きく左右されるものであるから、前記前提自体が誤っており、その前提に基づく主張は採用できるものではない。
また、条件式(2)(d2<d3)を満たすことにより、患者の重みで、面取り部70が内側に凹んで端部80と内壁面82が接触する可能性が低くなることについては、上記(1)で指摘したとおりである。

(5)結論
以上のとおり、この出願の発明の詳細な説明は、本願発明1について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものでない。

2 本願発明2?5について
本願発明2?5も、発明特定事項1?3を有するものであるから、上記「1」での検討と同様の理由により、この出願の発明の詳細な説明は、本願発明2?5について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものでない。


第5 特許法第29条第2項について
1 引用文献1の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている。

ア 「【0022】
(全体構成)
図1には、本実施の形態に係る可搬型放射線撮影装置10(所謂電子カセッテ)の内部構成が示されている。
【0023】
本実施の形態に係る可搬型放射線撮影装置10は、筐体18の内部に、放射線Xが照射される筐体18の照射面19側から、患者を透過した放射線Xを検出する放射線検出器12、および後述する制御基板13が順に設けられている。照射面19は、放射線検出器12が配置された範囲に対応し、放射線検出器12により放射線画像が撮影される領域が撮影領域19Aとされている。」

イ 「【0038】
また、本実施の形態に係る可搬型放射線撮影装置10は、操作性を向上させるため、筐体18の4つの各側面の端部の面削ぎ行い、中央部に比べて端部の厚さを薄く形成している。
【0039】
図5には、本実施の形態に係る可搬型放射線撮影装置10の端部の概略の断面構成が示されている。
【0040】
筐体18は、被写体側となるフロントパネル60と、反被写体側となるバックパネル62とが対向されて設けられている。フロントパネル60は、天板64と、天板64を保持する保持部66により構成されている。天板64のバックパネル62側の面には放射線検出器12が設けられている。
【0041】
本実施の形態では、天板64をカーボンで形成している。これにより、放射線の吸収を抑えつつ強度を確保している。また、保持部66及びバックパネル62はABS樹脂により形成している。
【0042】
天板64は、放射線検出器12により放射線画像が撮影される領域が撮影領域19Aとされている。
【0043】
保持部66は、撮影領域19Aの縁から端までの範囲Tの間で筐体18の厚さが除々に減少するように傾斜している。このように、筐体18の端部部分を傾斜させることにより、傾斜した傾斜領域の強度が撮影領域よりも高くなる。本実施の形態では、撮影領域19Aの縁近傍では緩やかに、端近傍では急激に減少するように傾斜させており、また、範囲Tの間で天板64及びTFT基板29の厚さA分だけ厚さが除々に減少するように傾斜させている。例えば、天板64及びTFT基板29の厚さをそれぞれ0.8mmとした場合、撮影領域19Aの周囲から端部にかけて1.6mmの厚さ分だけ傾斜させている。これにより、筐体18は、天板64側で範囲Tで厚さA分だけ厚さが除々に減少するが、天板64側において端部まで制御基板13を配置することができる。本実施の形態では、筐体18の傾斜した傾斜領域の内部にTFT基板29及び制御基板13の一部を配置している。
【0044】
ここで、制御基板13は、薄く形成しようとして回路を平面的に配置した場合、サイズが大きくなる。
【0045】
また、可搬型放射線撮影装置10は、放射線検出器12のサイズを変えることにより、JIS Z4905に規定された外形サイズとすることができる。一方、制御基板13は、放射線検出器12のサイズに関わらず、共通化することが製造上好ましく、小さいサイズの可搬型放射線撮影装置10では、放射線検出器12よりも制御基板13の方が大きくなる場合がある。
【0046】
このため、筐体18内の端部まで制御基板13を配置できるようにすることにより、制御基板13の共通化が図りやすくなる。
【0047】
また、本実施の形態では、バックパネル62も、端部にかけて可搬型放射線撮影装置10の厚さが10mm以下に減少するように傾斜させている。例えば、可搬型放射線撮影装置10をJIS Z4905の型名JC35×43の規定に沿ったサイズとする場合、可搬型放射線撮影装置10の厚さ14mmに形成するが、端部で可搬型放射線撮影装置10の厚さが10mmとなるようにバックパネルの端部を傾斜させる。
【0048】
なお、保持部66は傾斜させず、バックパネル62のみを傾斜させるようにしてもよい。前述したJIS Z4905に規定された外形サイズのうち大きいサイズの可搬型放射線撮影装置10では、放射線検出器12よりも制御基板13の方が小さくなる場合があり、保持部66を傾斜させないことで撮影領域19Aの縁から端までの範囲Tを最小化することができる、すなわち撮影領域19Aを最大化することができ使い勝手がよい。
【0049】
次に、本実施の形態に係る可搬型放射線撮影装置10の作用について説明する。
【0050】
撮影技師は、放射線画像の撮影を行う場合、照射面19を患者側にして可搬型放射線撮影装置10を患者の撮影対象部位に配置する。
【0051】
このように可搬型放射線撮影装置10を配置するために、図6に示すように患者の下部に可搬型放射線撮影装置10を差し込む場合、本実施の形態のように筐体18の側面側の端部で面削ぎ行ってフロントパネル60の保持部66を傾斜させたことにより、可搬型放射線撮影装置10を差し込む際に保持部66の端部が当たって患者が感じる痛みを緩和することができる。
【0052】
また、フロントパネル60の保持部66とバックパネル62を共に傾斜させたことにより、図7に示すように差し込みが行いやすくなる。
【0053】
さらに、バックパネル62を傾斜させたことにより、図8に示すように可搬型放射線撮影装置10を持ち上げる際の端部に指が引っかかるため、持ち上げ易くなる。
【0054】
以上のように、本実施の形態によれば、筐体18の4つの辺の端部で厚さが除々に減少するように傾斜させ、当該傾斜した傾斜領域の内部に放射線検出器12及び制御基板13の少なくとも一方の一部の配置を可能としているので、操作性の低下を抑えつつ筐体内部の容量の低下を抑制することができる。
【0055】
また、本実施の形態では、バックパネル62も、端部にかけて可搬型放射線撮影装置10の厚さが10mm以下となるように減少するように傾斜させている。このように、撮影の際に患者の下部に差し込む端部の厚さを10mmとすることにより、患者の感じる痛みを軽減することにができる。なお、端部の厚さは10mmよりも薄くしてもよい。
【0056】
なお、保持部66を傾斜させず、バックパネル62のみを傾斜させるようにした場合においても、患者の下部に可搬型放射線撮影装置10を差し込むときに傾斜させて差し込むことができるため、保持部66の端部が患者にあたる角度を緩めることができ患者が感じる痛みを緩和することができる。」

ウ 図1、4?9は、以下のとおりである。
【図1】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


(2)引用発明
引用文献1の段落【0038】、図4及び5の記載から、「フロントパネル60」及び「バックパネル62」には、「筺体18」の4つの側面を形成する部分があることが読み取れる。
すると、上記引用文献1の記載事項から、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「筐体18の内部に、放射線Xが照射される筐体18の照射面19側から、患者を透過した放射線Xを検出する放射線検出器12、および制御基板13が順に設けられた可搬型放射線撮影装置10であって、
筐体18は、被写体側となるフロントパネル60と、反被写体側となるバックパネル62とが対向されて設けられていて、フロントパネル60は、天板64と、天板64を保持する保持部66により構成されており、
フロントパネル60及びバックパネル62には、筺体18の4つの側面を形成する部分があり、
保持部66は、撮影領域19Aの縁から端までの範囲Tの間で筐体18の厚さが除々に減少するように傾斜していて、バックパネル62も、端部にかけて可搬型放射線撮影装置10の厚さが10mm以下となるように減少するように傾斜させていて、筐体18の4つの各側面の端部の面削ぎを行い、中央部に比べて端部の厚さを薄く形成しており、
小さいサイズの可搬型放射線撮影装置10では、放射線検出器12よりも制御基板13の方が大きく、このため、筐体18内の端部まで制御基板13を配置できるようにされた、
可搬型放射線撮影装置10。」


第6 対比
1 本願発明1と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「放射線Xが照射される筐体18の照射面19側から、患者を透過した放射線Xを検出する放射線検出器12」及び「可搬型放射線撮影装置10」は、それぞれ、本願発明1の「被写体の放射線画像を検出する画像検出部」及び「電子カセッテ」に相当する。

(2)引用発明の「内部に、」「放射線検出器12」が「設けられた」「筺体18」は、本願発明1の「前記画像検出部を収容する筺体」に相当する。

(3)引用発明の「筐体18は、被写体側となるフロントパネル60と、反被写体側となるバックパネル62とが対向されて設けられていて、フロントパネル60は、天板64と、天板64を保持する保持部66により構成されており、フロントパネル60及びバックパネル62には、筺体18の4つの側面を形成する部分があ」る構成において、「被写体側となるフロントパネル60」及び「反被写体側となるバックパネル62」それぞれの「筺体18の4つの側面を形成する部分」以外の部分が、本願発明1の「放射線が入射する前面」及び「前記前面と対向する背面」に相当し、また、「筺体18の4つの側面を形成する部分」が、本願発明1の「4つの側面」に相当する。
そして、引用発明の「被写体側となるフロントパネル60」及び「反被写体側となるバックパネル62」それぞれの「筺体18の4つの側面を形成する部分」以外の部分と、「筺体18の4つの側面を形成する部分」とで、直方体の形状となることは明らかであるから、
引用発明の
「筐体18は、被写体側となるフロントパネル60と、反被写体側となるバックパネル62とが対向されて設けられていて、フロントパネル60は、天板64と、天板64を保持する保持部66により構成されており、フロントパネル60及びバックパネル62には、筺体18の側面を形成する部分があ」る構成は、
本願発明1の
「前記画像検出部を収容する筐体であり、放射線が入射する前面、前記前面と対向する背面、および4つの側面を有する直方体形状の筐体」に相当する。

(4)引用発明の「バックパネル62も、端部にかけて可搬型放射線撮影装置10の厚さが10mm以下となるように減少するように傾斜させていて、筐体18の4つの各側面の端部の面削ぎ行」っている構成は、本願発明1の「少なくとも前記側面の1つと前記背面との間に設けられ、前記側面および前記背面に対して傾斜した面で構成された面取り部とを備え」た構成に相当する。

(5)引用発明の「小さいサイズの可搬型放射線撮影装置10では、放射線検出器12よりも制御基板13の方が大きく、このため、筐体18内の端部まで制御基板13を配置できるようにされた」構成では、「制御基板13」が「筺体18内部に」設けられた部材のうちの最大の部材であることは明らかであるから、「制御基板13」は、本願発明1の「前記筐体内に収容される部材のうち、最も平面サイズが大きい最大部材」に相当する。

2 一致点
以上のことから、両者は、
「被写体の放射線画像を検出する画像検出部と、
前記画像検出部を収容する筐体であり、放射線が入射する前面、前記前面と対向する背面、および4つの側面を有する直方体形状の筐体と、
少なくとも前記側面の1つと前記背面との間に設けられ、前記側面および前記背面に対して傾斜した面で構成された面取り部とを備えた、電子カセッテ。」
で一致し、次の各点で相違する。

3 相違点
(1)本願発明1では、「前記面取り部は、前記背面および前記側面の各境界間の、前記筐体の厚み方向の高さをh、前記厚み方向と直交する横方向の長さをd1としたとき、h<d1の条件を満たし、前記高さhは7mm以上10mm以下であり、前記長さd1は20mm以上40mm以下であ」ることが特定されるのに対して、引用発明では、「面削ぎ」部の寸法が特定されていない点。(相違点ア)

(2)本願発明1では、「前記面取り部は、前記側面からみた形状が、真円の一部を切り取った円弧、楕円弧の一部を切り取った楕円弧または前記円弧と前記楕円弧とを複数繋ぎ合わせて形成した形状であ」ることが特定されるのに対して、引用発明では、「面削ぎ」部の形状が特定されていない点。(相違点イ)

(3)本願発明1では、「前記筐体内に収容される部材のうち、最も平面サイズが大きい最大部材の端部と前記側面の内壁面との最短距離をd2、前記最大部材の端部と前記面取り部の内壁面との最短距離をd3としたとき、d2<d3の条件を満たす」のに対して、引用発明では、「制御基板13」と、「筺体18の4つの側面を形成する部分」及び「面削ぎ」部の内面との距離が明らかでない点。(相違点ウ)


第7 判断
1 相違点アについて
引用発明では、「バックパネル62も、端部にかけて可搬型放射線撮影装置10の厚さが10mm以下となるように減少するように傾斜させていて、筐体18の4つの各側面の端部の面削ぎを行」うことにより、「可搬型放射線撮影装置10を差し込む際に保持部66の端部が当たって患者が感じる痛みを緩和することができる」(段落【0051】)、「可搬型放射線撮影装置10を持ち上げる際の端部に指が引っかかるため、持ち上げ易くなる」(段落【0053】)という効果を奏し得るものである。
すると、引用発明において、「バックパネル62も、端部にかけて可搬型放射線撮影装置10の厚さが10mm以下となるように減少するように傾斜させていて、筐体18の4つの各側面の端部の面削ぎを行」う際に、本願発明1のh、d1に相当する寸法も含めて、「面削ぎ」部の各寸法は、上記効果を奏し得るように、当業者が適宜設計し得るものにすぎない。
そして、その結果、h<d1となること、また、hが7mm以上10mm以下、d1が20mm以上40mm以下となることを阻害する要因もない。

2 相違点イについて
一般に、面取りを行う際に、その形状を、円弧、楕円弧などの曲面、また、それらの曲面の組合せとすることは、普通に設計される範囲内のものにすぎず、引用文献1においても、図9(D)に「バックパネル62」の「面削ぎ」部を曲面としたものが記載されている。
すると、引用発明において、「面削ぎ」部の形状を円弧、楕円弧などの曲面、また、それらの曲面の組合せとすることは、当業者が適宜設計し得ることにすぎない。

3 相違点ウについて
引用発明において、本願発明1のd2、d3に相当する寸法は、それぞれ、当業者が適宜設計し得るものである。
そして、その結果、d2<d3となることを阻害する要因もない。

4 効果について
上記「第4」で検討したとおり、指が差し入れやすくなる、落下衝撃に対するクリアランスを大きく取れるという効果は、本願発明1の発明特定事項1?3のみにより、必ず、奏し得るものとは認められず、また、他に、当業者が予測し得ないような格別な効果を奏するとも認められない。

5 結論
したがって、本願発明1は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第8 むすび
以上のとおり、本願は、その発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶されるべきものである。
また、本願発明1は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-11-05 
結審通知日 2018-11-06 
審決日 2018-11-19 
出願番号 特願2016-98816(P2016-98816)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (A61B)
P 1 8・ 121- WZ (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 昭治  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 伊藤 昌哉
信田 昌男
発明の名称 電子カセッテ  
代理人 特許業務法人小林国際特許事務所  

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