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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1347595
審判番号 不服2017-15398  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-17 
確定日 2019-01-04 
事件の表示 特願2016-124561「光ファイバケーブルの把持方法,光ファイバケーブル及び把持用部材付き光ファイバケーブル」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月28日出願公開,特開2017-227791〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成28年6月23日の出願であって,平成29年3月27日付けで拒絶理由が通知され,同年5月23日に手続補正がされ,同年7月18日付けで拒絶査定がされ,これに対して同年10月17日に審判請求がされると同時に手続補正がされ,その後,平成30年7月24日付け(同年同月31日発送)で当審より拒絶理由が通知され,同年9月28日に意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願発明は,平成29年10月17日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載されている事項により特定される以下のとおりのもの(以下それぞれ「本願発明1」?「本願発明3」という。)である。
「【請求項1】
光ファイバを含む本体部と,支持線部とからなる光ファイバケーブルを,把持用部材を用いて把持する方法であって,
前記支持線部は,金属以外の材料からなる支持線と,前記支持線を被覆する外被を含み,
前記外被が前記支持線を被覆したまま,前記把持用部材を前記支持線部に対して締め付けて把持すること,
前記支持線の径をDとしたときに,
気温85℃環境下で500時間経過時において,前記外被と前記支持線との密着力Fが1.77πD[N/mm]以上であること
を特徴とする光ファイバケーブルの把持方法。
【請求項2】
光ファイバを含む本体部と,支持線部とを備える光ファイバケーブルであって,
前記支持線部は,金属以外の材料からなる支持線と,
前記支持線を被覆する外被と
を有し,
前記支持線の径をDとしたときに,
気温85℃環境下で500時間経過時において,前記外被と前記支持線との密着力Fが1.77πD[N/mm]以上であること
を特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項3】
光ファイバを含む本体部と,支持線部と,把持用部材とを備える把持用部材付き光ファイバケーブルであって,
前記支持線部は,金属以外の材料からなる支持線と,
前記支持線を被覆する外被と
を有し,
前記把持用部材は,前記外被が前記支持線を被覆したまま,前記支持線部を締め付けて把持しており,
前記支持線の径をDとしたときに,
気温85℃環境下で500時間経過時において,前記外被と前記支持線との密着力Fが1.77πD[N/mm]以上であること
を特徴とする把持用部材付き光ファイバケーブル。」

第3 平成30年7月24日付けで通知された拒絶理由の概要
平成30年7月24日付けで通知された拒絶理由は,
本願発明1?3は,周知技術を勘案して,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である下記引用例1及び2に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず(以下「当審拒絶理由1」という。),
また,本件出願は,発明の詳細な説明の記載が不備のため,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない(以下「当審拒絶理由2」という。),
というものである。

---< 引用例等一覧 >------------------
1 特開2003-29110号公報
2 特開2001-328189号公報
3 特開2003-322777号公報
-------------------------------

第4 当審拒絶理由1(29条2項)について
1 刊行物に記載された発明
(1)引用例1: 特開2003-29110号公報
ア 当審において通知した拒絶理由に引用され,本願の出願前に日本国内において頒布された特開2003-29110号公報(以下「引用例1」という。)には,図1,2とともに以下の記載がある(下線は当審で付加。以下同様。)。
「【0007】
【発明の実施の形態】以下,本発明を詳しく説明する。図1は,本発明のSSD型光ケーブルの一例を示す断面図である。また,図2は,本発明のSSD型光ケーブルのメッセンジャワイヤ部の端末引留め構造の一例を示す概略図である。この例のSSD型光ケーブルは,メッセンジャワイヤ部31と,メッセンジャワイヤ部31に懸吊された光ケーブル本体32と,メッセンジャワイヤ部31と光ケーブル本体32とをつなぐ連結部33とを備えている。メッセンジャワイヤ部31は,メッセンジャワイヤ34と,これを被覆する被覆層35とから構成されている。光ケーブル本体32は,ケーブルコア36と,このケーブルコア36の周上に形成された押え巻き層40と,押え巻き層40の外周に接するように配されたリップコード42と,これらを被覆するポリエチレンなどからなるシース41とから概略構成されるSZスロット型光ケーブルである。また,光ケーブルコア36は,SZスロット37と,このSZスロット37の中心に埋設されたテンションメンバ38と,SZスロット37の外周に形成された複数条の螺旋状のスロット溝39,39,…に収容された光ファイバテープ心線51の積層体,光テープ心線積層体52とから構成されている。また,メッセンジャワイヤ部31の被覆層35と連結部33と光ケーブル本体32のシース41とは連続した一体構造となっている。さらに,光ケーブル本体32は,メッセンジャワイヤ部31に対して弛んで蛇行した状態で連結部33によって懸吊されている。
【0008】メッセンジャワイヤ34は外径6.5mm程度で,アラミド繊維強化プラスチックやガラス繊維強化プラスチックなどのFRPで形成されており,SSD型光ケーブル敷設時に光ケーブル本体32を懸吊する支持線である。また,メッセンジャワイヤ34を形成するFRPは,軽量,高弾性率,高強度を有する絶縁材料である。本発明で用いられるFRPは,縦弾性率(ヤング率)が大きいものが好ましい。FRPは,金属と比較して比重が小さいため,SSD型光ケーブルの軽量化を図ることができるので,SSD型光ケーブルの弛度を許容範囲内とすることができる。また,FRPは絶縁体(無誘導な材料)であるから,電力ケーブルやメタル通信ケーブルとSSD型光ケーブルを併設しても,メッセンジャワイヤ34に誘導電流が生じることがない。また,SSD型光ケーブルが敷設される際,または架線されている状態では,SSD型光ケーブルには,風圧による張力がその軸方向に加わえられるため,メッセンジャワイヤ34としては,縦弾性率の大きい材料を用いることが好ましい。縦弾性率の大きい材料を用いることにより,SSD型光ケーブルの破断,またはSSD型光ケーブル内に収容されている光ケーブルなどが破断することを防止することができる。
【0009】また,メッセンジャワイヤ34を被覆する被覆層35は,第1の被覆層35aと第2の被覆層35bで構成されている。第1の被覆層35aは外径8mm程度で,カーボンブラックを含有しない無色のポリエチレンで形成されており,第2の被覆層35bは外径10mm程度で,カーボンブラックを含有する黒色のポリエチレンで形成されている。本発明のSSD型光ケーブルにあっては,ポリエチレンは直鎖状低密度ポリエチレンを用いることが好ましい。このように,メッセンジャワイヤ34を無色の直鎖状低密度ポリエチレンからなる第1の被覆層35aで被覆することにより,メッセンジャワイヤ34と第1の被覆層35aとが強固に密着する。さらに,第1の被覆層35aをカーボンブラックを含有する黒色の直鎖状低密度ポリエチレンからなる第2の被覆層35bで被覆することにより,第2の被覆層35bに直接,後述する巻付グリップを巻き付けることができる。また,カーボンブラックを含有する黒色の直鎖状低密度ポリエチレンからなる第2の被覆層35bでメッセンジャワイヤ34を被覆することにより,メッセンジャワイヤ34が紫外線に曝されるのを防止し,結果として,メッセンジャワイヤ部31の耐候性を向上することができる。
【0010】
・・・(中略)・・・
【0014】また,本発明のSSD型光ケーブルのメッセンジャワイヤ部31の端末引留め構造は,以下のように形成される。まず,メッセンジャワイヤ部31の端末において,被覆層35が除去されて露出したメッセンジャワイヤ34を覆い,被覆層35の上に直接,巻付グリップ44が巻き付けられる。次に,巻付グリップ44の上から被覆層35にわたって,被覆用テープ45が巻き付けられて,端末引留め構造が形成される。また,巻付グリップ44は亜鉛めっき鋼撚線やアルミ覆鋼撚線などで形成されており,メッセンジャワイヤ34の端末を把持するものである。このように被覆層35の上に巻付グリップ44を巻き付けることにより,SSD型光ケーブルの敷設時に,メッセンジャワイヤの端末引留め工程を簡略化することができるため,コストを削減することができる。」

イ 以上の記載から,引用例1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「メッセンジャワイヤ部31と,メッセンジャワイヤ部31に懸吊された光ケーブル本体32と,メッセンジャワイヤ部31と光ケーブル本体32とをつなぐ連結部33とを備え,メッセンジャワイヤ部31は,メッセンジャワイヤ34と,これを被覆する被覆層35とから構成され,メッセンジャワイヤ部31の端末引留め構造を更に備えているSSD型光ケーブルであって,
メッセンジャワイヤ34は外径6.5mm程度で,アラミド繊維強化プラスチックやガラス繊維強化プラスチックなどのFRPで形成されており,
メッセンジャワイヤ34を被覆する被覆層35は,第1の被覆層35aと第2の被覆層35bで構成され,第1の被覆層35aは外径8mm程度で,カーボンブラックを含有しない無色のポリエチレンで形成されており,第2の被覆層35bは外径10mm程度で,カーボンブラックを含有する黒色のポリエチレンで形成されており,
メッセンジャワイヤ部31の端末引留め構造は,メッセンジャワイヤ部31の端末において,被覆層35が除去されて露出したメッセンジャワイヤ34を覆い,被覆層35の上に直接,巻付グリップ44が巻き付けられ,巻付グリップ44の上から被覆層35にわたって,被覆用テープ45が巻き付けられて形成されたものであり,ここで,巻付グリップ44は,亜鉛めっき鋼撚線やアルミ覆鋼撚線などで形成されており,メッセンジャワイヤ34の端末を把持するものであり,
メッセンジャワイヤ34を無色の直鎖状低密度ポリエチレンからなる第1の被覆層35aで被覆することにより,メッセンジャワイヤ34と第1の被覆層35aとが強固に密着し,さらに,第1の被覆層35aをカーボンブラックを含有する黒色の直鎖状低密度ポリエチレンからなる第2の被覆層35bで被覆することにより,第2の被覆層35bに直接,巻付グリップ44を巻き付けることができるものである,
メッセンジャワイヤ部31の端末引留め構造を備えるSSD型光ケーブル。」

(2)引用例2: 特開2001-328189号公報
ア 当審において通知した拒絶理由に引用され,本願の出願前に日本国内において頒布された特開2001-328189号公報(以下「引用例2」という。)には,図1,2とともに以下の記載がある

イ 「【0002】
【従来の技術】従来のノンメタリック自己保持型光ケーブルは,図2に示すように,吊り線1と,この吊り線1に首部2を介して,一体に結合された光ケーブル本体3とを有している。
【0003】吊り線1は,1本または複数本のFRPロッド4をシース5により環状に被覆している。光ケーブル本体3は,光ファイバ心線6を積層状態で収納する螺旋溝7を備えたスペーサ8を有し,スペーサ8の中央には,抗張力体9が配置されている。
【0004】スペーサ8の外周には,各螺旋溝7内に複数枚の光ファイバ心線6を収納して,テープ10の押さえ巻きが施されている。そして,このテープ10の外周にシース11の被覆を設けている。
【0005】吊り線1と光ケーブル本体3とは,平行に縦添えした状態で,シース5,11および首部2を,一括して,ポリエチレン樹脂やポリ塩化ビニル樹脂などを押出成形することにより,一体化させている。
【0006】シース5,11および首部2の形成樹脂には,耐候性を確保するために,カーボンブラックなどの黒色成分が予め配合されている。しかしながら,このような従来のノンメタリック自己保持型光ケーブルには,以下に説明する技術的な課題があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】すなわち,ノンメタリック自己保持型光ケーブルは,架空送電線に併設されるため,横風による風圧の影響を受けて,ケーブル全体が振動しやすいので,吊り線1およびケーブル本体3をできるだけ,細径,軽量化することが求められている。
【0008】また,この種の光ケーブルは,吊り線1を端末において固定する必要があるが,従来の光ケーブルでは,FRPロッド4とシース5の被覆樹脂との密着が十分でないので,固定する際に,通常,シース5の被覆樹脂を剥いでから,端末を把持固定させていたが,この剥離処理が面倒であるという問題があるとともに,FRPロッド4の損傷保護の役割を担っていた被覆樹脂を剥離することで,端末把持力の低下を招かないような慎重な施工作業が要求されていた。
【0009】ところが,特に,吊り線1には,FRPロッド4の曲げ弾性率が比較的低いので,これらの要請に応えることが難しいという問題があった。
【0010】本発明は,このような従来の問題点に鑑みてなされたものであって,その目的とするところは,前述した問題が解決できる繊維強化合成樹脂製棒状物を提供することにある。
・・・(中略)・・・
【0014】末端の把持固定の効率を上げるためには,被覆層の形成樹脂とFRP部分とを強固に密着させることが必須である。」

ウ 「【0024】実施例1
補強繊維束として,アラミド繊維ロービング(東レ・デュポン製;ケブラーK49 7920dtex)に,不飽和ポリエステル樹脂(三井化学製;エスターH6400)に対して,過酸化物系触媒を配合した熱硬化性樹脂を含浸させ,絞りノズルにより外径6.5mm,ケブラー繊維含有率53vol%に成形した未硬化FRPをクロスヘッドダイに挿通して,熱可塑性樹脂としてAAS樹脂(宇部サイコン製;ウエザフィルMD-110-450,曲げ弾性率2,200MPa,カーボンブラック含有)を円環状の被覆ノズルから溶融押出して,厚さ0.75mmの環状に被覆し,その直後に被覆層を水冷固化させた。
【0025】引き続いて,109℃の加熱硬化槽に導入して未硬化FRPを硬化させて,外径8mmの熱可塑性樹脂被覆層を有するFRP線状物を得た。得られたFRP線状物の物性測定結果を表1に示す。
【0026】実施例2
熱可塑性樹脂としてAAS樹脂(宇部サイコン製;ウエザフィルMD-120-450,曲げ弾性率1,750MPa,カーボンブラック含有)を用いたこと以外は,実施例1と同様にして,熱可塑性樹脂被覆を有するFRP線状物を得た。このものの物性測定結果を表1に示す。
【0027】比較例1
熱可塑性樹脂として低密度ポリエチレン樹脂(日本ユニカー製;DFDJ0588,曲げ弾性率690MPa,カーボンブラック含有)を用いたこと以外は,実施例1と同様にして,熱可塑性樹脂被覆を有するFRP線状物を得た。このものの物性測定結果を表1に示す。
【0028】比較例2
熱可塑性樹脂として直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(日本ユニカー製;NUCG5350,曲げ弾性率360MPa)を用いたこと以外は,実施例1と同様にして,熱可塑性樹脂被覆を有するFRP線状物を得た。このものの物性測定結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】この表1に示した結果から明らかなように,実施例1および2では,扁平率が比較例1,2よりも小さくなっている。このことは,実施例1,2場合には,形状が安定していることを示しており,このことから,実施例1,2の場合には,絞り成形した直後の未硬化状体の補強繊維束の形状が保持されていて,引き揃えの乱れが少ないことを意味している。
【0031】そして,補強繊維束の形状が安定すると,引張り弾性率が向上するとともに,最小曲げ直径も小さくすることができ,曲げ特性をも向上させることが可能になる。
【0032】なお,表1に示した物性の測定は次の方法により行った。
(1)被覆樹脂曲げ弾性率;ASTM D-790に準拠した。
(2)FRP線状物引張弾性率;FRP端末を金属パイプに挿入し,膨張性コンクリートでこの端末を固定し,試料長1000mmで引張り応力をかけていったときの伸び量を測定した。この応力-伸び直線の傾きから,引張弾性率を算出した。
(3)最小曲げ直径;試料を円弧状に曲げていき,折れ始めたときの直径(mm)を測定した。
(4)FRP線状物曲げ弾性率;支点間距離をFRP径の20倍として,3点曲げ試験(曲げ速度5m/min)で加重-たわみ曲線を測定し,弾性限界内の直線部より曲げ弾性率を算定した。
(5)扁平率;FRP線状物の外径を3ヶ所測定し,それぞれの最大値および最小値(max1,min1,max2,min2,max3,min3)を求めた。そしてこの最大値の平均値(MAXave),最小値の平均値(MINave)および全データの平均値(AVE)から,次式により扁平率を算出した。
扁平率(%)=((MAXave-MINave)/AVE)×100
(6)被覆樹脂接着力;被覆樹脂を図1に示す寸法形状で剥離し,A,B部分をそれぞれ把持して,引き抜き試験(引き抜き速度5m/min)をおこない,最大応力を接着面積で除した値を接着力とした。
【0033】なお,この試験に関しては,ノンメタリック自己保持型光ファイバケーブルの吊り線を想定し,各実施例および比較例で得られた繊維強化合成樹脂製線状物の被覆層の外周にLLDPE樹脂のシースを設け,この部分を把持部Aとしている。」

ウ 以上の記載から,引用例2には以下の各事項が記載されているといえる。
(ア)「吊り線1と,この吊り線1に首部2を介して,一体に結合された光ケーブル本体3とを有し,吊り線1は,1本または複数本のFRPロッド4をシース5により環状に被覆しているノンメタリック自己保持型光ケーブルにおいて,末端の把持固定の効率を上げるためには,被覆層の形成樹脂とFRP部分とを強固に密着させること。」
(イ)「補強繊維束として外形6.5mmのFRPを用いたものにあって,2.8?2.98[N/mm^(2)]程度(長さ1mmあたり6.5π*2.8ないし6.5π*2.98,すなわち57.2?60.9[N/mm])の被覆樹脂密着力を有すること。」

2 対比
(1) 引用発明と本願発明3とを対比すると,引用発明の「メッセンジャワイヤ部31の端末引留め構造」においては,「被覆層35の上に直接,巻付グリップ44が巻き付けられ」いるから,当該「巻付グリップ44」は,本願発明3の「把持用部材」であって,「前記外被が前記支持線を被覆したまま,前記支持線部を締め付けて把持して」いるものに相当する。

(2) そうすると,両者は以下の点で一致する。
「光ファイバを含む本体部と,支持線部と,把持用部材とを備える把持用部材付き光ファイバケーブルであって,
前記支持線部は,金属以外の材料からなる支持線と,
前記支持線を被覆する外被と
を有し,
前記把持用部材は,前記外被が前記支持線を被覆したまま,前記支持線部を締め付けて把持していること
を特徴とする把持用部材付き光ファイバケーブル。」

(3) 一方,両者は以下の点で相違する。
《相違点》
本願発明3においては,「前記支持線の径をDとしたときに,気温85℃環境下で500時間経過時において,前記外被と前記支持線との密着力Fが1.77πD[N/mm]以上である」との特定がされているが,引用発明においてはそのような特定がされていない点。

3 判断
(1)一般に,耐熱試験条件として,気温85℃環境下で500時間経過させることは,周知例3のほか,以下の周知例4?7にも示されているように,光ファイバの技術分野のみならず,種々の技術分野にわたって周知・慣用される条件である。

ア 周知例3
当審において通知した拒絶理由に引用され,本願の出願前に日本国内において頒布された特開2003-322777号公報(以下「周知例3」という。)には,以下の記載がある。
「【0088】(被覆層の引抜強度)被覆層の引抜強度(剥離強度)は、図1に示すように、POFケーブル10を保持する治具12と、治具12の一端部に形成された突起14を把持するチャック8と、POFケーブル10の剥離部分5を把持するチャック7とを備えた測定装置20を用いて測定した。
・・・(中略)・・・
【0092】また、引抜強度の熱安定性を見るため、長さ100cmのPOFケーブルを85℃、相対湿度85%のオーブンに500時間放置した後の、引抜強度についても、同様の方法で測定した。」

イ 周知例4
本願の出願前に日本国内において頒布された特開平5-11151号公報(以下「周知例4」という。)には,以下の記載がある。
「【0025】図10は、偏波保持光ファイバの中心波長の経時変化を示す図である。 ・・・(中略)・・・ ここでは、各偏波保持光ファイバは温度が85℃で湿度が85%の環境下で使用された。この図に示されるように、比較例のものと比較して、実施例の偏波保持光ファイバの中心波長の経時変化は緩やかである。
【0026】ところで、実使用では、温度85℃で湿度85%の環境下で2000時間経過後において、挿入損失の変化量が0.2dB以下であることが望まれる。これを中心波長シフト量に換算すれば、温度85℃で湿度85%の環境下で2000時間経過後において、中心波長シフト量が20nm未満であることが望まれる。また、温度85℃で湿度85%の環境下で500時間経過後においては、中心波長シフト量が5nm未満であることが望まれる。図10に示されるように、実施例の偏波保持光ファイバは、この条件を満足している。」

ウ 周知例5
本願の出願前に日本国内において頒布された特開2008-143962号公報(以下「周知例5」という。)には,以下の記載がある。
「【0039】
(試験方法および評価方法)
機械的特性:JIS C3005に規定される方法に基づき試験を行った。絶縁層である樹脂組成物について、標線20mm、引張速度50mm/minの条件で測定し、引張強度(MPa)および引張伸び(%)を算出した。
・・・(中略)・・・
耐熱湿特性:恒温恒湿器を用い、温度85℃および湿度85%の条件で500時間の試験を行った。試験片は絶縁層である樹脂組成物を導体に被覆した絶縁電線を用いた。その後、前記した引張特性の条件で測定を行い、引張強度残率(%)および引張伸び残率(%)を算出した。」

エ 周知例6
本願の出願前に日本国内において頒布された特開2001-200041号公報(以下「周知例6」という。)には,以下の記載がある。
「【0044】上記の実施例及び比較例の結果から、本発明の接着剤用共重合ポリエステル樹脂は、ガラス転移温度が30℃以下であるため接着性に優れており、また、温度85℃、湿度95%、500時間という過酷な湿熱処理による数平均分子量の低下率が35%未満にとどまる結果、十分な接着強度を維持できる耐湿熱性に優れるものであることがわかった。また、180℃という低い接着温度でポリエステルフィルム同士及びポリエステルフィルムと金属とを強固に接着できることがわかった。
【0045】
【発明の効果】本発明の接着剤用共重合ポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂材料同士あるいはポリエステル樹脂材料と他の材料とを接着する接着剤用として有用であり、200℃以下の接着温度で強固な接着ができ、得られた接着物は非常に優れた耐湿熱性を有する。したがって本発明の接着剤用共重合ポリエステル樹脂は、電線被覆剤やフラットケーブル等の電気・電子分野、機械分野、建材やふすま等の建築分野、自動車分野、食品や医薬品用の包装材の分野等における接着剤用の樹脂として好適に利用することができ、また、プレコートメタル塗料等にも利用することができる。また、本発明の接着剤は、液状で被着物の形状を選ばず、上記各分野における接着剤として好適であり、上記した共重合ポリエステル樹脂に由来する優れた性能を発揮する。」

オ 周知例7
本願の出願前に日本国内において頒布された特開2011-63737号公報(以下「周知例7」という。)には,以下の記載がある。
「【0018】
本発明の絶縁テープは、電気的な絶縁が必要とされる用途全般に使用され、絶縁テープが使用される具体的態様は特に限定されず、例えば、屋内配線の絶縁、導線の絶縁、電線の接続部の絶縁、各種機器や装置の内部配線の接続や絶縁、屋外電気配線・電力や通信ケーブルの絶縁等に使用できる。
・・・(中略)・・・
【0064】
本発明の絶縁テープは、85℃、85%RHの環境下で500時間保存した後のb*値が3.0以下(例えば、0?3.0)であり、好ましくは0?2.0、より好ましくは0?1.5である。上記b*値が3.0を超えると、過酷な環境での使用や長期間の使用において絶縁テープが黄変し、絶縁テープを使用した機器の外観を悪化させる。なお、本発明において、絶縁テープのb*値は、例えば、後述の(評価)の「(1)b*値(色度)」に記載の方法により測定することができる。
【0065】
上記の85℃、85%RHの環境下で500時間保存する試験は、促進耐候性試験(促進試験)としての意義も有する。かかる試験における絶縁テープの黄変挙動は、例えば、25℃の環境下で使用した場合の26年経過時の黄変挙動に相当する。これは、アレニウス式によると室温との温度差が60℃以上の場合、促進倍率が460倍となるため、500時間(21日)の460倍では9580日(26年)となることから算出される。従って、本発明の絶縁テープは、過酷な環境条件下(例えば、高温高湿条件下)での使用や長期間の使用においても黄変することなく、絶縁テープが使用された機器に対して優れた外観保持性を発揮する。」

(2)一方,前記1(2)ウ(イ)に記載したとおり,引用例2には,光ファイバケーブルの吊り線に用いられるFRPとその被覆材との密着性について,補強繊維束,すなわちメッセンジャワイヤとして,外形6.5mmのFRPを用いたものにあって,2.8?2.98[N/mm^(2)]程度(長さ1mmあたり6.5π*2.8ないし6.5π*2.98,すなわち57.2?60.9[N/mm])の被覆樹脂密着力を有することが記載されている。
そして,引用発明に係るSSD型光ケーブルが,通常,屋外で長期間にわたり支持線部(吊り線)により架線されることに鑑みれば,前記被覆樹脂密着力についても,前記周知・慣用される耐熱試験条件である,気温85℃環境下で500時間経過させて,被覆樹脂密着力が前記2.8?2.98[N/mm^(2)]程度から著しい劣化が生じないようにすることは当然に考慮されることであって,例えば,前記耐熱試験後の具体的被覆樹脂密着力が,2.0[N/mm^(2)]以上(ここで,メッセンジャワイヤ径がd[mm]とすると当該密着力は,長さ1mmあたり2.0πd[N]以上,すなわち2.0πd[N/mm]以上となる。)を維持するものとして,相違点に係る「1.77πD[N/mm]以上」を満足するものとすることは当業者が適宜になし得たことである。

(3)そして,本願明細書を見ても,試験条件として,気温85℃環境下で500時間経過させることを採用することによって,それ以外の条件を採用した場合に比して,格別な効果が得られるとは認められない。

4 以上のとおりであるから,引用発明において,相違点に係る構成を備えることは,いずれも当業者が適宜になし得たことである。
したがって,本願発明3は,周知技術を勘案して,引用発明及び引用例2に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 当審拒絶理由2(36条4項)について

1 前記「第2 本件発明」に記載したとおり,本願発明1?本願発明3のいずれも,「光ファイバケーブル」について「前記支持線の径をDとしたときに,気温85℃環境下で500時間経過時において,前記外被と前記支持線との密着力Fが1.77πD[N/mm]以上であること」(以下「密着力規定」という。)を特徴としている。

2 一方,本願明細書の段落【0067】?【0075】には以下の記載がある。
「【0067】
<外被と支持線の密着力の評価>
外被と支持線との密着力がある一定以下の場合,界面での剥離が発生する。そこで,光ファイバケーブルを複数作成し,それぞれの外被と支持線との密着力を測定したうえで,さらに把持用グリップを装着した引張試験を実施した。
【0068】
図9は,外被と支持線との密着力を測定する試験機構21を説明するための図である。試験機構21は,支持線5の一部を外被6Aにて被覆し,穴付固定板22を介して支持線5のみを図9中の引張方向に張力Tにて引っ張り,ロードセル23にて引抜時の荷重を測定する機構である。以下,この引抜時の荷重を密着力とする。
【0069】
密着力測定試験において,試作した光ファイバケーブルは,いずれも支持線5の径を4.5mm,外被6Aを被覆した時の径を6.0mmとした。試験機構21における被覆される外被6Aの長さは10mmとし,引抜速度50mm/分にて引っ張り力を印加し,荷重を測定した。また,高温時においては外被6Aと支持線5との密着力が低下することが想定されることから,密着力測定試験は,気温85℃環境下における複数時点にて測定を実施した。表1に,密着力測定試験の結果を示す。
【0070】
【表1】

【0071】
試作ケーブルを合計5体作成し,それぞれ気温85℃環境の時点を0時間,100時間,300時間及び500時間経過時において密着力を測定した。表1の結果に示す通り,いずれの試作ケーブルにおいても500時間経過時点の密着力が一番小さく,その中でも試作ケーブル3の時間経過に応じた密着力低下が著しいことがわかる。
【0072】
続いて,試作ケーブル1乃至5と同一のケーブルについて,その両端に把持用グリップ12を装着し,引張試験を実施した。引張試験は,外被6Aが破断し,支持線5の露出を確認した時点での荷重を測定することにより行った。以下,この破断したときの荷重を破断荷重とする。
【0073】
【表2】

【0074】
表2の結果から,試作ケーブル3のみが,他の試作ケーブルと比べ,500時間経過時の破断荷重が大幅に小さかった。さらに,本試作ケーブルの外被6Aを被覆した時の径は,最大風圧荷重(着氷時を含む)が3200N程度印加されることを前提に設計されているが,それをも下回った。そこで,この試作ケーブル3を不合格,残りの試作ケーブル1,2,4及び5を合格と評価した。
【0075】
以上の表1,表2の結果から,合格した試作ケーブル1,2,4及び5における,最小の密着力は,252N/10mm(表1,試作ケーブル5の500時間経過時の密着力)であることがわかる。また,外被6Aと支持線5との密着力は,支持線5の表面積に依存することは明らかである。このことから,支持線5の径をDとした場合,必要な密着力F(N/mm)は,次の式で表すことができる。
[数1]
F ≧ D×π×1.77 (式1)」

3 上記記載(特に表1及び表2)においては,作成された複数の試作ケーブルのうち,いくつかのものは密着力規定を満足するが,「試作ケーブル3」は密着力規定を満足しない。ここで,「試作ケーブル3」の製造方法が,他の試作ケーブルとは異なるとの記載はないから,同様の製造方法によってケーブルをいくつか製造したとき,いずれのケーブルも密着力規定を満足しないことも想定される。
よって,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明1?3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

4 請求人は,意見書において,「すなわち,『気温85℃環境下で500時間経過時において』という環境条件に想到した当業者であれば,外被と支持線との密着力を異ならせて,気温85℃環境下で500時間経過時後も所定の条件(1.77πD[N/mm]以上)を満足する光ファイバケーブルを製造することができます。」と主張するが,既に指摘したとおり,本願明細書には,「試作ケーブル1」?「試作ケーブル5」の製造条件を異ならせるとの記載はなく,また,どのように「外被と支持線との密着力を異ならせて」,密着力規定を満足するものを製造するのかは,本願明細書の記載を見ても不明である。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明3は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,また,本願明細書の発明の詳細な説明は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさないものであるから,本願発明1及び本願発明2について特許法第29条第2項の規定が適用されるものか否か検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-11-05 
結審通知日 2018-11-06 
審決日 2018-11-19 
出願番号 特願2016-124561(P2016-124561)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
P 1 8・ 536- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 秀樹下村 一石  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 近藤 幸浩
村井 友和
発明の名称 光ファイバケーブルの把持方法、光ファイバケーブル及び把持用部材付き光ファイバケーブル  
代理人 一色国際特許業務法人  

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