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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02J
管理番号 1347596
審判番号 不服2017-15489  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-19 
確定日 2019-01-04 
事件の表示 特願2014- 50006「電力融通システム、及び電力融通方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月 5日出願公開、特開2015-177573〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成26年3月13日の出願であって、平成29年5月23日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年7月20日付けで手続補正がなされたが、同年8月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月19日付けで拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされたものである。

2.平成29年10月19日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成29年10月19日付けの手続補正を却下する。

[理 由]
(1)補正後の本願発明
平成29年10月19日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
商用電力系統の受電点となり該商用電力系統から商用電力の供給を受ける第1クラスタ部と、前記第1クラスタ部を経由して前記商用電力の供給を受ける複数の第2クラスタ部と、で構成される電力融通システムであって、
前記第1クラスタ部と前記第2クラスタ部とのそれぞれは、発電装置及び負荷装置、又は蓄電装置及び前記負荷装置と、共通の給電経路であるACバスから供給された電力の変換、及び前記第1クラスタ部と前記第2クラスタ部とのそれぞれのクラスタ部から前記ACバスに供給する電力の変換を行う双方向電力変換部と、を備え、
前記第1クラスタ部が備える前記双方向電力変換部は、前記商用電力系統と前記ACバスとの間に設けられ、
前記第1クラスタ部が備える前記双方向電力変換部と前記第2クラスタ部が備える前記双方向電力変換部との間、及び前記複数の第2クラスタ部が備えるそれぞれの前記双方向電力変換部の間において、前記ACバスを介して互いに電力の融通を行う
ことを特徴とする電力融通システム。」

とあったものが、

「【請求項1】
商用電力系統の受電点となり該商用電力系統から商用電力の供給を受ける第1クラスタ部と、前記第1クラスタ部を経由して前記商用電力の供給を受ける複数の第2クラスタ部と、で構成される電力融通システムであって、
前記第1クラスタ部と前記第2クラスタ部とのそれぞれは、発電装置及び負荷装置、又は蓄電装置及び前記負荷装置と、共通の給電経路であるACバスから供給された電力の変換、及び前記第1クラスタ部と前記第2クラスタ部とのそれぞれのクラスタ部から前記ACバスに供給する電力の変換を行う双方向電力変換部と、を備え、
前記第1クラスタ部が備える前記双方向電力変換部は、前記商用電力系統からの前記商用電力を前記ACバスへ供給可能に前記商用電力系統と前記ACバスとの間に設けられ、
前記第2クラスタ部から前記ACバスに対して出力される電力を、前記ACバスを介して接続された前記第1クラスタ部を介して前記商用電力系統に逆潮流させることなく、前記第1クラスタ部が備える前記双方向電力変換部と前記第2クラスタ部が備える前記双方向電力変換部との間、及び前記複数の第2クラスタ部が備えるそれぞれの前記双方向電力変換部の間において、前記ACバスを介して互いに電力の融通を行う
ことを特徴とする電力融通システム。」
と補正された。

上記補正は、
ア.請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である、第1クラスタ部が備える「双方向電力変換部」について、「前記商用電力系統からの前記商用電力を前記ACバスへ供給可能に」商用電力系統とACバスとの間に設けられる旨の限定を付加し、
イ.同じく請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「電力融通システム」におけるACバスを介しての電力の融通を、「前記第2クラスタ部から前記ACバスに対して出力される電力を、前記ACバスを介して接続された前記第1クラスタ部を介して前記商用電力系統に逆潮流させることなく」行うものであることの限定を付加するものである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-130977号公報(以下、「引用例」という。)には、「分散型電源を含む系統連係システム」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】交流電源負荷や直流電源負荷や分散型電源を有する電力需要家と、電力を供給する系統電源から構成される分散型電源を含む系統連係システムにおいて、
交流電力または直流電力を供給する系統電源と複数の電力需要家とを結ぶ交流電源系統,直流電源系統及び通信系統を設け、
各電力需要家は、前記交流電源系統と前記直流電源系統との間に分散型電源を配置してなり、
各電力需要家の前記分散型電源間、及び前記分散型電源と系統電源間で前記交流電源系統または直流電源系統を介して電力の入出力制御を行うことを特徴とする分散型電源の系統連係システム。」

イ.「【0008】図1において、系統電源側として系統電源1からの交流電力はトランス2を介して交流電源系統へ接続される。又、トランス2の出力をPWMコンバータ3δを介して直流電圧に変換し、共通バッテリー4に接続している。又、共通バッテリー4の出力を直流電源系統に接続している。なお、PWMコンバータ3δは一般的な三相PWMコンバータであり、共通バッテリー4の出力電圧が一定になるようにPWM制御するもので、電力の入出力(力行,回生)制御を行っている。一方、電力需要家は、電力需要家ユニット5aから電力需要家ユニット5nまで存在し、各電力需要家は通信系統,交流電源系統及び直流電源系統に接続される。又、系統電源1の主通信コントローラ6と、PWMコンバータ3δを制御する通信コントローラ6δと、電力需要家ユニットに内蔵された通信コントローラは、通信系統で接続されている。
【0009】次に、電力需要家ユニット5aの詳細な構成を図2に示す。なお、電力需要家ユニット5bから5nも同様な構成となっている。交流電圧負荷9aは、交流電力メータ7aと主交流スイッチ8aを介して交流電源系統に接続されている。又、主交流スイッチ8aと分散型電源10aとの間に補助交流スイッチ11aが接続されている。
【0010】一方、直流電圧負荷14aは、直流電力メータ12aと主直流スイッチ13aを介して直流電源系統に接続されている。なお、直流電圧を入力としてインバータ15aを介して交流電圧負荷16aに電力を供給することもできる。更に、主直流スイッチ13aと分散型電源10aとの間に補助直流スイッチ17aが接続されている。分散型電源10aは例えば太陽光発電装置から構成される。すなわち、分散型電源10aは、太陽電池18a,クランプダイオード19a,クランプダイオードを介して出力される太陽電池の出力を平滑する平滑コンデンサ20a、この直流電圧を交流電圧に変換する一般的なPWMコンバータ21a、及び直流電圧に変換する双方向性DC/DCコンバータ22aから構成される。」

ウ.「【0013】まず、交流電源系統を用いて電力の入出力制御を行う場合を説明する。通常、系統電源1からの交流電力は交流電力メータ7aと主交流スイッチ8aを介して各電力需要家の交流電圧負荷9aに供給される。一方、晴天時等太陽電池18aから発電している場合は、平滑コンデンサ20aの直流電圧が上昇するので、この直流電圧が一定になるようにPWMコンバータ21aが動作し、補助交流スイッチ11aを介して交流電力を出力する。この電力は、自分の交流電圧負荷9aで消費される。又、余った電力は交流電源系統へ逆潮流される。つまり、売電することになる。そこで、この余剰電力は他の電力需要家の交流負荷に使用されたり、系統電源1へ戻ったりする。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0015】このため、例えば電力需要家5nの分散型電源10nにおいて、発電電力が大きく余剰電力を交流電源系統へ出力し、PWMコンバータ3δを介して共通バッテリー4へ充電中、系統電源側で電力不要になった場合を考える。この場合、例えば主通信コントローラ6で各電力需要家の負荷状態を監視しておき、電力需要家5bの直流電圧負荷が電力を必要としている場合には、主通信コントローラ6から電力需要家5nの通信コントローラ6nへ直流電源系統を用いて発電するように指令を出力する。この結果、交流補助スイッチ11nを遮断し、直流補助スイッチ17nを接続して、直流電源系統を介して電力需要家5nの余剰電力は電力需要家5bの直流電圧負荷へ供給される。このように分散型電源10からの発電電力を交流電源系統からでも、直流電源系統からでも自由に入出力でき、余剰電力を効率良く使用できると言う効果がある。なお、図1に示す各電力需要家の1ユニットとしては、家庭用等の小規模ユニットから工場等の大規模ユニットまで対象としている。
【0016】次に、電源系統が遮断した時の動作を説明する。系統電源1が遮断したら系統電源からの電力供給が遮断される。この場合、主通信コントローラ6で各電力需要家間で電力の入出力制御が可能と判断した場合、分散型電源10により交流電源系統又は直流電源系統を介して各電力需要家間で電力を供給することが可能となる。又、交流電源系統が遮断された場合は、分散型電源10の電力を直流電源系統を介して各電力需要家間で電力供給できる。更に、共通バッテリー4の余剰電力を双方向DC/DCコンバータ22とPWMコンバータ21を介して交流電圧負荷9にも供給することができる。次に、直流電源系統が遮断された場合は、分散型電源10の電力を交流電源系統を介して、各電力需要家間で電力供給できる。次に、両電源系統が遮断された場合は、自分の分散型電源10により、PWMコンバータ21を介して交流電圧負荷9に電力を供給したり、双方向DC/DCコンバータ22を介して直流電圧負荷14aに電力を供給することもできる。」

エ.「【0019】
【発明の効果】本発明によれば、各電力需要家間や、系統電源と各電力需要家間で交流電源系統及び、直流電源系統を用いて電力を自由に入出力できるので、各分散型電源からの余剰電力を効率良く使用できると言う効果がある。又、交流電源系統と、直流電源系統の二重の電源系統とし、この系統間に分散型電源を配置することで片方の電源系統が遮断された時、もう片方の電源系統で電力の供給が自由にできるので停電に強い系統連係システムになると言う効果がある。更に、系統電源側に一括の共通バッテリーを持っているので直流電源系統と、双方向DC/DCコンバータを介して、太陽電池代替の直流電源を確保することができる。このため、各電力需要家側に容量が大きいバッテリーを置く必要がなく、雨天時等においても分散型電源から交流電源系統に対して発電することができる。この結果、天気の変化による系統電圧の変動を抑制することができると言う効果もある。」

オ.「



・上記引用例に記載の「分散型電源を含む系統連係システム」は、上記「ウ.」、「エ.」の記載事項によれば、余剰電力を効率良く使用できるように、各電力需要家間や、系統電源側と各電力需要家間で交流電源系統からでも、直流電源系統からでも電力を自由に入出力できるようにしたものであり、
特に交流電源系統を用いた電力の入出力に着目すると、上記「ア.」「イ.」の記載事項、及び上記「オ.」(図1)、図2によれば、交流(電圧)負荷及び分散型電源を有する複数の電力需要家と、系統電源側から構成される分散型電源を含む系統連係システムであって、交流電力を供給する系統電源側と複数の電力需要家とを結ぶ交流電源系統を設け、各電力需要家は、交流電源系統との間に分散型電源を配置してなり、各電力需要家間、及び系統電源側と各電力需要家間で交流電源系統を介して電力の入出力制御を行うようにしたものである。
・上記「イ.」の記載事項、及び「オ.」(図1)によれば、系統電源側は、系統電源1からの交流電力をトランスを介して交流電源系統へ接続するとともに、トランスの出力側をPWMコンバータを介して共通バッテリーに接続してなる構成を有し、PWMコンバータは、電力の入出力制御を行うものである。
・上記「イ.」の記載事項、及び図2によれば、各電力需要家は、交流負荷、直流負荷、及び太陽電池とPWMコンバータなどから構成されてなる分散型電源を有してなるものである。
・上記「ウ.」の記載事項によれば、通常、系統電源1からの交流電力は交流電源系統を介して各電力需要家に供給される。
また、各電力需要家の太陽電池からの発電電力はPWMコンバータを介して交流電力として出力され、その余剰電力は交流電源系統を介して、他の電力需要家の交流(電圧)負荷に使用されたり、電源系統側のPWMコンバータを介して共通バッテリーへ充電したりすることもできるものである。

したがって、特に交流電源系統を用いての電力の入出力制御に着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「系統電源側と、複数の電力需要家とから構成され、系統電源側と複数の電力需要家とを結ぶ交流電源系統を設けてなる分散型電源を含む系統連係システムであって、
前記系統電源側は、系統電源からの交流電力をトランスを介して交流電源系統へ接続し、通常、系統電源からの交流電力を当該交流電源系統を介して前記各電力需要家に供給可能であるとともに、トランスの出力側を、電力の入出力制御を行うPWMコンバータを介して共通バッテリーに接続してなる構成を有し、
前記各電力需要家は、交流負荷、直流負荷、及び太陽電池とPWMコンバータなどから構成されてなる分散型電源を有し、
各電力需要家の太陽電池からの発電電力はPWMコンバータを介して交流電力として出力され、その余剰電力は交流電源系統を介して、他の電力需要家の交流負荷に使用されたり、電源系統側のPWMコンバータを介して共通バッテリーへ充電したりすることができ、系統電源側と各電力需要家間、及び各電力需要家間で交流電源系統を用いて電力を自由に入出力できるようにした、分散型電源を含む系統連係システム。」

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、
ア.引用発明における「系統電源側と、複数の電力需要家とから構成され、系統電源側と複数の電力需要家とを結ぶ交流電源系統を設けてなる分散型電源を含む系統連係システムであって、前記系統電源側は、系統電源からの交流電力をトランスを介して交流電源系統へ接続し、通常、系統電源からの交流電力を当該交流電源系統を介して前記各電力需要家に供給可能であるとともに、トランスの出力側を、電力の入出力制御を行うPWMコンバータを介して共通バッテリーに接続してなる構成を有し」によれば、
(a)引用発明における「系統電源」は、本願補正発明でいう「商用電力系統」に相当し、
引用発明における、系統電源からの交流電力が入力されるトランス、該トランスの出力側に接続されたPWMコンバータ、及び該PWMコンバータに接続された共通バッテリーから構成される「系統電源側」〔引用例の図1(上記「(2)オ.」を参照)において、「系統電源側」と示されている部分から「系統電源1」を除いた部分〕が、本願補正発明でいう、商用電力系統の受電点となり該商用電力系統から商用電力の供給を受ける「第1クラスタ部」に相当するとみることができる。
(b)そして、引用発明における、複数の「電力需要家」は、上記「系統電源側」を経由して交流電力の供給を受けているといえるものである(引用例の図1(上記「(2)オ.」)も参照)から、本願補正発明でいう、第1クラスタ部を経由して商用電力の供給を受ける複数の「第2クラスタ部」に相当する。

したがって、本願補正発明と引用発明とは、「商用電力系統の受電点となり該商用電力系統から商用電力の供給を受ける第1クラスタ部と、前記第1クラスタ部を経由して前記商用電力の供給を受ける複数の第2クラスタ部と」で構成されるものである点で一致する。

イ.引用発明における「前記系統電源側は、系統電源からの交流電力をトランスを介して交流電源系統へ接続し、通常、系統電源からの交流電力を当該交流電源系統を介して前記各電力需要家に供給可能であるとともに、トランスの出力側を、電力の入出力制御を行うPWMコンバータを介して共通バッテリーに接続してなる構成を有し、・・・・その余剰電力は交流電源系統を介して、他の電力需要家の交流負荷に使用されたり、電源系統側のPWMコンバータを介して共通バッテリーへ充電したりすることができ、・・」によれば、
引用発明における「交流電源系統」は、本願補正発明でいう「ACバス」に相当し、
引用発明の系統電源側が有する「共通バッテリー」は、本願補正発明でいう「蓄電装置」に相当する。
また、引用発明の系統電源側が有する「PWMコンバータ」は、トランスの出力側、つまり交流電源系統側と共通バッテリーとの間に接続され、電力の入出力制御を行うものであることから、交流電源系統から供給された電力の変換、および系統電源側(共通バッテリー)から交流電源系統に供給する電力の変換を行うものであるといえる。そして、当該PWMコンバータと、これに加えてPWMコンバータから延び、トランスと交流電源系統とを接続する電力線との接続点までを結ぶ電力線と、その接続点からみてトランス側の電力線の一部、及び接続点からみて交流電源系統側の電力線の一部とを含めたものは、系統電源からの交流電力を交流電源系統へ供給可能に当該系統電源と当該交流電源系統の間に設けられてなるものであるといえ、本願補正発明でいう「双方向電力変換部」に相当するとみることができる。

したがって、本願補正発明と引用発明とは、「前記第1クラスタ部は、少なくとも蓄電装置と、共通の給電経路であるACバスから供給された電力の変換、及び前記第1クラスタ部から前記ACバスに供給する電力の変換を行う双方向電力変換部と」を備えるものである点で共通する。
さらに、本願補正発明と引用発明とは、「前記第1クラスタ部が備える前記双方向電力変換部は、前記商用電力系統からの前記商用電力を前記ACバスへ供給可能に前記商用電力系統と前記ACバスとの間に設けられ」てなるものである点で一致する。
ただし、少なくとも蓄電装置を備える第1クラスタ部について、本願補正発明では、さらに「負荷装置」も備える旨特定するのに対し、引用発明では、負荷装置を備えることの特定を有していない点で相違している。

ウ.引用発明における「前記各電力需要家は、交流負荷、直流負荷、及び太陽電池とPWMコンバータなどから構成されてなる分散型電源を有し、各電力需要家の太陽電池からの発電電力はPWMコンバータを介して交流電力として出力され、その余剰電力は交流電源系統を介して、他の電力需要家の交流負荷に使用されたり、・・」によれば、
引用発明の各電力需要家が有する「太陽電池」、「交流負荷」は、それぞれ本願補正発明でいう「発電装置」、「負荷装置」に相当し、
引用発明の各電力需要家が有する「PWMコンバータ」は、太陽電池からの発電電力を交流電力に変換し、その余剰電力を交流電源系統に供給するものである。
したがって、本願補正発明と引用発明とは、「前記第2クラスタ部は、発電装置及び負荷装置と、前記第2クラスタ部から前記ACバスに供給する電力の変換を行う電力変換部と」を備えるものである点で共通する。
ただし、第2クラスタ部が備える電力変換部について、本願補正発明では、ACバスに供給する電力の変換だけでなく、その逆の「共通の給電経路であるACバスから供給された電力の変換」も行う「双方向」電力変換部である旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点で相違している。

エ.引用発明における「各電力需要家の太陽電池からの発電電力はPWMコンバータを介して交流電力として出力され、その余剰電力は交流電源系統を介して、他の電力需要家の交流負荷に使用されたり、電源系統側のPWMコンバータを介して共通バッテリーへ充電したりすることができ、系統電源側と各電力需要家間、及び各電力需要家間で交流電源系統を用いて電力を自由に入出力できるようにした・・」によれば、
引用発明にあっても、系統電源側のPWMコンバータ(当該PWMコンバータから延び、トランスと交流電源系統とを接続する電力線との接続点までを結ぶ電力線と、その接続点からみてトランス側の電力線の一部、及び接続点からみて交流電源系統側の電力線の一部とを含む)と電力需要家のPWMコンバータとの間において、交流電源系統を介した電力の融通が行われ、さらに、複数の電力需要家の間においても交流電源系統を介した電力の融通が行われるものである。
したがって、本願補正発明と引用発明とは、「前記第1クラスタ部が備える前記双方向電力変換部と前記第2クラスタ部が備える前記電力変換部との間、及び前記複数の第2クラスタ部の間において、前記ACバスを介して互いに電力の融通を行う」ものである点で共通する。
ただし、かかるACバスを介しての電力の融通を、本願補正発明では、「前記第2クラスタ部から前記ACバスに対して出力される電力を、前記ACバスを介して接続された前記第1クラスタ部を介して前記商用電力系統に逆潮流させることなく」行う旨の特定を有するのに対し、引用発明では、そのような明確な特定がない点で一応相違している。
また、上記「ウ.」で述べた第2クラスタ部が備える電力変換部についての相違点に関連して、複数の第2クラスタ部の間の電力の融通が、本願補正発明では、第2クラスタ部が備える「それぞれの前記双方向電力変換部」の間で行われる旨の特定を有するのに対し、引用発明では、一方の電力需要家から交流電源系統に出力される電力についてPWMコンバータを介するものの、他方の電力需要家が交流電源系統から供給される電力についてはPWMコンバータを介することの特定がない点で相違している。

オ.そして、引用発明における「分散型電源を含む系統連係システム」は、系統電源側と各電力需要家間、及び各電力需要家間で交流電源系統を用いて電力を自由に入出力、すなわち電力の融通を行うことができるようにしたものであるから、本願補正発明でいう「電力融通システム」に相当するものである。

よって、本願補正発明と引用発明とは、
「商用電力系統の受電点となり該商用電力系統から商用電力の供給を受ける第1クラスタ部と、前記第1クラスタ部を経由して前記商用電力の供給を受ける複数の第2クラスタ部と、で構成される電力融通システムであって、
前記第1クラスタ部は、少なくとも蓄電装置と、共通の給電経路であるACバスから供給された電力の変換、及び前記第1クラスタ部から前記ACバスに供給する電力の変換を行う双方向電力変換部と、
前記第2クラスタ部は、発電装置及び負荷装置と、前記第2クラスタ部から前記ACバスに供給する電力の変換を行う電力変換部と、を備え、
前記第1クラスタ部が備える前記双方向電力変換部は、前記商用電力系統からの前記商用電力を前記ACバスへ供給可能に前記商用電力系統と前記ACバスとの間に設けられ、
前記第1クラスタ部が備える前記双方向電力変換部と前記第2クラスタ部が備える前記電力変換部との間、及び前記複数の第2クラスタ部の間において、前記ACバスを介して互いに電力の融通を行う
ことを特徴とする電力融通システム。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
少なくとも蓄電装置を備える第1クラスタ部について、本願補正発明では、さらに「負荷装置」も備える旨特定するのに対し、引用発明では、負荷装置を備えることの特定を有していない点。

[相違点2]
第2クラスタ部が備える電力変換部ついて、本願補正発明では、ACバスに供給する電力の変換だけでなく、その逆の「共通の給電経路であるACバスから供給された電力の変換」も行う「双方向」電力変換部である旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点。

[相違点3]
ACバスを介しての電力の融通を、本願補正発明では、「前記第2クラスタ部から前記ACバスに対して出力される電力を、前記ACバスを介して接続された前記第1クラスタ部を介して前記商用電力系統に逆潮流させることなく」行う旨の特定を有するのに対し、引用発明では、そのような明確な特定がない点。

[相違点4]
上記[相違点2]に関連して、複数の第2クラスタ部の間の電力の融通が、本願補正発明では、第2クラスタ部が備える「それぞれの前記双方向電力変換部」の間で行われる旨の特定を有するのに対し、引用発明では、一方の電力需要家から交流電源系統に出力される電力についてPWMコンバータを介するものの、他方の電力需要家が交流電源系統から供給される電力についてはPWMコンバータを介することの特定がない点。

(4)判断
上記相違点について検討する。
[相違点1]について
引用発明において、系統電源側が有する例えばPWMコンバータは、自身の動作に電力を消費する負荷装置であるともいえるが、かかるPWMコンバータとは別個の何かしらの負荷装置を設けることも、当業者が適宜なし得ることである。

[相違点2]及び[相違点4]について
上記(2)でも指摘したように、引用例に記載された発明は、各電力需要家間や、系統電源側と各電力需要家間で交流電源系統からでも直流電源系統からでも電力を自由に入出力できるようにし、余剰電力を効率良く使用できるようにしたものである。そして、引用例の段落【0013】?【0016】(上記「(2)ウ.」を参照)には、各電力需要家が有する交流負荷(AC負荷9a)に対しては、直流電源系統からでも交流電源系統からでも電力を供給することができることが記載されている。そうすると、各電力需要家が有する直流負荷(DC負荷14a)に対しては、直流電源系統から電力を供給することが記載されているのみではあるが、交流電源系統及び直流電源系統の双方を用いた余剰電力の効率的使用の観点から、引用発明においても、交流負荷に対するのと同様に、直流負荷についても直流電源系統からだけでなく交流電源系統からでも電力を供給することができるようにすること、そのために、各電力需要家が有するPWMコンバータを、系統電源側が有するPWMコンバータと同様に、交流電源系統から供給された交流電力を直流電力に変換することも可能な本願補正発明でいう「双方向」電力変換部とし、相違点2及び4に係る構成とすることも当業者であれば容易になし得ることである。

[相違点3]について
本願補正発明でいう「前記商用電力系統に逆潮流させることなく」に関して、本願明細書には、段落【0126】に「このように、本実施形態による電力融通システム(例えば、電力融通システム1)では、各クラスタ部は、自クラスタ部が備える双方向電力変換部(例えば、AC/DCコンバータ、DC/ACコンバータ、DC/DCコンバータ等)を介して、上述の共通の給電経路(例えば、一次側ACバス31又は一次側DCバス32)からの電力の受電、又は上述の共通の給電経路への融通する電力の給電を行う。 これにより、各子クラスタ部200及び300等から共通の給電経路に対して出力される逆潮流電力が、該共通の給電経路を介して接続(カスケード接続)された親クラスタ部100を介して商用電力系統2に戻すことなく、本システム内の各クラスタ部で消費、又は蓄電することができる。」と記載されている。かかる記載、及び、本願発明でいう「双方向電力変換部」に対応する「変換装置A」内では、変圧器102側とACバスに接続される分電盤161側とは、停電時に遮断されるSW122を介して直接接続されており、他に何らの機器も設けられていない点(本願の図3(A)を参照)を考慮すると、電力の融通の際に「前記商用電力系統に逆潮流させることなく」行うことができるのは、ある第2クラスタ部からACバスに供給した電力の「全て」が、共通のACバスに接続されている他のクラスタ部で消費又は蓄電された場合に限られるものである。
これに対し、上述したように、そもそも引用例に記載された発明は、各電力需要家間や、系統電源側と各電力需要家間で交流電源系統からでも直流電源系統からでも電力を自由に入出力できるようにし、余剰電力を効率良く使用できるようにしたものであるところ、引用発明にあっても、共通の交流電源系統に系統電源側と複数の電力需要家が接続されており、ある電力需要家から交流電源系統に出力(供給)した余剰電力の全てが、共通の交流電源系統に接続されている他の電力需要家や系統電源側で消費あるいは蓄電された場合には、当然、系統電源に逆潮流させることなく電力の融通がなされるものである。
したがって、以上のことを踏まえると相違点3は実質的な相違点ではない。
なお、「前記商用電力系統に逆潮流させることなく」に関して、請求人は平成29年12月22日付け上申書において、「本願請求項1に係る発明は、第1クラスタ部の双方向電力変換部が商用電力系統とACバスとの間に設けられていることにより、蓄電池の充電状態にかかわらず商用電力系統に逆潮流させないことができるという引用文献では得られない格別な効果を奏します。」などと主張している。
しかしながら上述したように、電力の融通の際に「前記商用電力系統に逆潮流させることなく」行うことができるのは、ある第2クラスタ部からACバスに供給した電力の「全て」が、共通のACバスに接続されている他のクラスタ部で消費又は蓄電された場合に限られるものであり、第1クラスタ部の双方向電力変換部を商用電力系統とACバスとの間に設けたからというわけではない。これに加えて、本願発明でいう「双方向電力変換部」に対応する「変換装置A」は、本願の図3(A)をみると、商用電力系統とACバスとの間には分電盤161と停電時に遮断されるSW122とが設けられているのみであり、双方向交直変換部122がその間に設けられてなるものではないことも考慮すると、請求人の上記主張は技術的根拠のないものであって、採用することはできない。

そして、上記各相違点を総合的に判断しても本願補正発明が奏する効果は、引用発明から当業者が予測できたものであって、格別顕著なものがあるとはいえない。

よって、本願補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)予備的見解
上記「(3)対比」においては、系統電源側において、PWMコンバータと、これに加えてPWMコンバータから延び、トランスと交流電源系統とを接続する電力線との接続点までを結ぶ電力線と、その接続点からみてトランス側の電力線の一部、及び接続点からみて交流電源系統側の電力線の一部とを含めたものが、本願補正発明でいう「双方向電力変換部」に相当するとみることができると認定した(上記「(3)イ.」を参照)が、仮に、引用発明からは、本願補正発明でいう「双方向電力変換部」なるものが系統電源と交流電源系統の間に設けられていることまで認定することはできないとしても、例えば原査定に提示した特開2007-28735号公報に記載(特に段落【0019】、図1を参照)された、電力変換部42を有する「分散電源連係装置4」にみられるように、引用発明において、PWMコンバータを有する装置を系統電源と交流電源系統の間に設ける構成とすることも当業者が適宜なし得る設計変更にすぎない。

(6)本件補正についてのむすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成29年10月19日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成29年7月20日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】
商用電力系統の受電点となり該商用電力系統から商用電力の供給を受ける第1クラスタ部と、前記第1クラスタ部を経由して前記商用電力の供給を受ける複数の第2クラスタ部と、で構成される電力融通システムであって、
前記第1クラスタ部と前記第2クラスタ部とのそれぞれは、発電装置及び負荷装置、又は蓄電装置及び前記負荷装置と、共通の給電経路であるACバスから供給された電力の変換、及び前記第1クラスタ部と前記第2クラスタ部とのそれぞれのクラスタ部から前記ACバスに供給する電力の変換を行う双方向電力変換部と、を備え、
前記第1クラスタ部が備える前記双方向電力変換部は、前記商用電力系統と前記ACバスとの間に設けられ、
前記第1クラスタ部が備える前記双方向電力変換部と前記第2クラスタ部が備える前記双方向電力変換部との間、及び前記複数の第2クラスタ部が備えるそれぞれの前記双方向電力変換部の間において、前記ACバスを介して互いに電力の融通を行う
ことを特徴とする電力融通システム。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記「2.」で検討した本願補正発明の発明特定事項である、第1クラスタ部が備える「双方向電力変換部」について、「前記商用電力系統からの前記商用電力を前記ACバスへ供給可能に」商用電力系統とACバスとの間に設けられる旨の限定を省き、同じく発明特定事項である「電力融通システム」におけるACバスを介しての電力の融通を、「前記第2クラスタ部から前記ACバスに対して出力される電力を、前記ACバスを介して接続された前記第1クラスタ部を介して前記商用電力系統に逆潮流させることなく」行うものであることの限定を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、更に他の限定事項を付加したものに相当する本願補正発明が前記「2.(4)」に記載したとおり、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-11-01 
結審通知日 2018-11-06 
審決日 2018-11-19 
出願番号 特願2014-50006(P2014-50006)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02J)
P 1 8・ 575- Z (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 永井 啓司  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 田中 慎太郎
井上 信一
発明の名称 電力融通システム、及び電力融通方法  
代理人 特許業務法人 志賀国際特許事務所  

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