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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02J
管理番号 1347598
審判番号 不服2017-15739  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-24 
確定日 2019-01-04 
事件の表示 特願2017- 88421「無線電力送信器、無線電力受信器及び無線電力給電システム」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成29年4月27日の出願であって、同年5月22日付けで拒絶理由が通知され、同年7月28日付けで手続補正がなされたが、同年8月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月24日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。なお、平成30年2月15日付けで上申書が提出されている。


第2 平成29年10月24日付けの手続補正書についての却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成29年10月24日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正

平成29年10月24日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正前(平成29年7月28日付け手続補正書参照。)に、

「DC電源の出力を所定周波数の高周波信号に変換し、当該高周波信号を送電コイルに出力する電力増幅部と、
前記送電コイルから誘導される前記高周波信号を取り込む無線電力受信器から、給電情報を受信する無線通信部と、
前記無線通信部から得られる前記給電情報に対応させた給電パターンを記憶する記憶部と、
前記記憶部から読み出された給電パターンに基づいて前記電力増幅部の出力を制御する制御部とを備え、
前記無線電力受信器を立ち上げるための第1の電力をP1とし、
定常給電時の前記無線電力受信器に給電するための第2の電力をP2としたとき、
給電初期時にP1<P2に設定され、
前記制御部は、
給電初期時、前記無線電力受信器へ前記第2の電力よりも低い前記第1の電力を出力するように前記電力増幅部を制御するステップと、
前記無線電力受信器の立ち上がりと共に当該無線電力受信器の給電情報を検知するステップと、
定常給電時、検知した前記給電情報に基づく給電パターンを前記記憶部から読み出し、読み出した前記給電パターンに基づいて前記電力増幅部の出力を決定するステップと、
決定した前記電力増幅部の出力に基づく前記第2の電力を前記無線電力受信器へ給電するステップとを、
実行する無線電力送信器。」

とあったものが、

「生体に装用可能な無線電力受信器に無線電力を供給する、携帯性が良く、持ち運びが便利な無線電力送信器であって、
DC電源の出力を所定周波数の高周波信号に変換し、当該高周波信号を送電コイルに出力する電力増幅部と、
前記送電コイルから誘導される前記高周波信号を取り込む無線電力受信器から、給電情報を受信する無線通信部と、
前記無線通信部から得られる前記給電情報に対応させた給電パターンを記憶する記憶部と、
前記記憶部から読み出された給電パターンに基づいて前記電力増幅部の出力を制御する制御部とを備え、
前記無線電力受信器を立ち上げるための第1の電力をP1とし、
定常給電時の前記無線電力受信器に給電するための第2の電力をP2としたとき、
給電初期時にP1<P2に設定され、
前記制御部は、
給電初期時、前記無線電力受信器へ前記第2の電力よりも低い前記第1の電力を出力するように前記電力増幅部を制御するステップと、
前記無線電力受信器の立ち上がりと共に当該無線電力受信器の給電情報を検知するステップと、
定常給電時、検知した前記給電情報に基づく給電パターンを前記記憶部から読み出し、読み出した前記給電パターンに基づいて前記電力増幅部の出力を決定するステップと、
決定した前記電力増幅部の出力に基づく前記第2の電力を前記無線電力受信器へ給電するステップとを、
実行する無線電力送信器。」

と補正された。

上記補正は、本件補正前の請求項1において、無線電力受信器が「生体に装用可能」なものであること、及び、無線電力送信器が「携帯性が良く、持ち運びが便利」なものであることの限定を付加したものである。

よって、本件補正は、補正前の請求項に記載された発明を特定するために必要な事項の限定を目的にするものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて以下検討する。


2.引用例

(1)原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-314318号公報(平成10年12月2日公開。以下「引用例1」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審において付与した。)

ア.「【0014】
【発明の実施の形態】図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、生体植え込み機器50と体外充電器1からなる心臓ペースメーカ装置の全体構成図である。
【0015】2は、生体植え込み機器50としての心臓ペースメーカに経皮充電するために、体外に配置された充電用の電源としての一次電池である。10は、経皮充電用の交流電磁界の強度を心臓ペースメーカに使用する二次電池53の電圧等に応じたものにするために、体外側の一次電池2の電圧を変圧(昇降圧)するための変圧回路であり、インダクタンス11、スイッチング用トランジスタ12、ダイオード13、平滑用コンデンサ14などから構成される。
【0016】変圧回路10において、昇圧または降圧を行って所望の直流電圧を得るには、スイッチング用トランジスタ12を導通させるためのゲートに印加する制御パルスのパルス幅を調整すればよい。
【0017】20は、経皮充電を行うための交流電磁界を発生させるインバータ回路であり、基本的には4つのスイッチング用トランジスタ21?24を直並列にブリッジ状に組み合わせて構成される。
【0018】インバータ回路20においては、変圧回路10から給電される直流電圧を、スイッチング用トランジスタ21?24を二つずつ(21と24及び22と23)組み合わせて、互いに異なる時期に導通するよう制御することにより、図1中のA,B間に交流電圧を発生する。
【0019】交流電圧の振幅を変化させたり発生を停止するには、2組のスイッチング用トランジスタ21,24及び22,23のゲートに印加する制御パルスの時間幅を変化させたり、印加する制御パルスを停止させることにより実施することができる。25は、平滑用コンデンサである。
【0020】31は、インバータ回路20により発生した交流電圧を基に、生体内に植え込まれた心臓ペースメーカに送電をするための送電用コイルであり、そのコイルは、電磁界の放射指向性を特定したり強度を強めるため、フェライト磁心などに編組される。」

イ.「【0031】充電監視制御回路56からの送信信号は、送受信アンテナコイル58から植え込み機器ケース51と生体の皮膚70とを介して体外に伝達され、体外側のテレメトリ信号送受信アンテナコイル32で受信される。
【0032】33は体外側のテレメトリ送受信回路であり、受信したテレメトリ信号を復調して充電監視制御情報に変換したり、充電監視制御情報により充電制御回路35で充電動作を停止するとき植え込み機器50側での充電に係わる異常を監視検出する回路などを非活性にし、心臓ペースメーカの制御モードを非充電モード(通常のモード)に推移させてもよい様に充電停止コマンドなどをデレメトリ信号として変調して送信する。」

ウ.「【0039】200は、体外充電器1から植え込み機器50に充電を行うに際し、植え込み機器50との間で充電動作に先立つ情報の授受を行う動作であり、充電のための交流電磁界の発生を伴わない状態(通常の状態)でテレメータリングが実施される。
【0040】充電動作に先立って植え込み機器50が非充電モード動作100の状態との情報の授受は次のように実施される。まず、体外充電器1から植え込み機器50に通信のためのテレメータリングの動作要求信号(<1>)が送信され、その要求信号を植え込み機器50が受信し、テレメータリングの動作が可能な状態を判断することにより、体外充電器1にテレメータリング受付可能信号(<2>)を送信する。
【0041】次に、体外充電器1は、植え込み機器50に対し、機器の型名、製造番号、電池型番などの所定のID情報等の読み取り要求信号(<3>)を送信し、その要求信号を植え込み機器50が受信することにより、植え込み機器50毎に予め付与されている所定のID情報を植え込み機器50が検索し、その情報を植え込み機器50のID情報等(<4>)として体外充電器1に送信する。
【0042】植え込み機器50のID情報を受信した体外充電器1は、その情報を基に、植え込み機器50に対して充電動作を実施するのが妥当か否かの判断や、埋め込まれている二次電池53の種類などによる固有の充電特性の設定準備などを実施し所定の条件に合った後に、植え込み機器50に対して充電開始コマンド(<5>)を送信する。」
(注:<1>ないし<5>は、丸囲い数字の1ないし5を表す。)

エ.「【0070】図4は、体外充電器1が植え込み機器50に充電開始コマンドを送信した後、体外充電器1が稼動する充電動作全体の流れ図であり、体外充電器1に設けられた回路において制御が実行される。
【0071】202は、充電すべき二次電池53の種類などによって予め定められている所定の充電特性に基づき充電を行うための初期設定であり、その設定の後に、インバータ制御回路34、充電制御回路35、変圧回路10およびインバータ回路20をそれぞれ適切に稼動させるための充電監視情報に基づく充電器出力制御205が実施されると共に、予め定められた充電期間を監視するため充電期間監視タイマ206が起動される。」

オ.図1


カ・図2


上記アないしカの記載によれば、引用例1には以下の事項が記載されている。

・上記アおよびオによれば、引用例1に記載の発明は、生体植え込み機器50と体外充電器1からなる心臓ペースメーカ装置に関するものである。
・上記アおよびオによれば、体外充電器1は、充電用の電源としての一次電池2を有するものである。
・上記アおよびオによれば、体外充電器1は、変圧回路10とインバータ回路20を有するものである。体外充電器1が有する変圧回路10は、交流電磁界の強度を心臓ペースメーカに使用する二次電池の電圧等に応じたものにするために、体外側の一次電池の電圧を変圧するものである。また、体外充電器1が有するインバータ回路20は、経皮充電を行うための交流磁界を発生させるものであり、変圧回路10から供給される直流電圧により図1中のA,B間に交流電圧を発生させるものである。そして、図1を参照すると、A,B間とは、生体内に植え込まれた心臓ペースメーカに送電をするための送電用コイル31の両端間に相当する。したがって、体外充電器1の変圧回路10およびインバータ回路20は、一次電池の電圧を変圧した直流電圧から交流電圧を発生させ、発生した交流電圧を送電用コイルに出力するものである。そして、送電用コイルは、送電用コイルに出力された交流電圧によって発生した経皮充電のための交流電磁界によって、生体内に植え込まれた心臓ペースメーカに送電するものである。なお、前述したように、「生体内に植え込まれた心臓ペースメーカ」とは、生体植え込み機器を意味している。
・上記イおよびオによれば、体外充電器1は、受信したテレメトリ信号を復調して充電監視制御情報に変換するテレメトリ送受信回路33を有するものである。
・上記ウによれば、充電動作に先立つ情報の授受を行う動作について「テレメータリングが実施される」と記載されていることから、ID情報の受信は、テレメトリ送受信回路を介して行われているものと認められる。
・上記ウによれば、ID情報を受信した体外充電器は、その情報を基に埋め込まれている二次電池の種類等による固有の充電特性の設定準備等を実施し、その後充電開始コマンドを送信するものである。
・上記エおよびカによれば、充電開始コマンドを送信した後、二次電池の種類等による固有の充電特性に基づき充電を行うための初期設定が行われ、充電動作が実行されるものである。

そうすると、「体外充電器」に着目し、上記摘示事項を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「心臓ペースメーカ装置の体外充電器であって、
充電用の電源としての一次電池と、
一次電池の電圧を変圧した直流電圧から交流電圧を発生させ、発生した交流電圧を送電用コイルに出力する変圧回路およびインバータ回路と、
出力された交流電圧によって発生した経皮充電のための交流磁界によって生体植え込み機器に送電する送電用コイルと、
生体植え込み機器からID情報を受信するテレメトリ送受信回路とを備え、
充電に先立つ情報の授受を行う動作において、受信したID情報を基に、埋め込まれている二次電池の種類などによる固有の充電特性の設定準備等を実施し、充電開始コマンドを送信し、充電特性に基づいて充電動作を実行する、
体外充電器。」


(2)原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2015/064473号(2015年5月7日公開。以下「引用例2」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審において付与した。)

キ.「本発明は、送電装置から受電装置に対して磁界共鳴方式で送電する送電システムで用いる制御装置に関する。」(段落[0001])

ク.「コンデンサや二次電池などの蓄電ユニットを受電装置が有していない場合には、送電装置から電力が送電されなければ、受電装置が情報を送信することができない。また、コンデンサや二次電池などの蓄電ユニットを受電装置が有していても、蓄電ユニットに蓄積された電力が通信に必要な電力を賄えない場合には、送電装置から電力が送電されなければ、受電装置が情報を送信することができない。
[0155]
このように、受電装置の電力不足に起因して、受電装置が通信を行うことができないケースがあり、送電対象の受電装置を検知することができない可能性がある。」(段落[0154]-[0155])

ケ.「サーチ送電状態は、受電装置20の通信モジュール23が通信を行うために必要な電力を供給することによって、受電装置20から信号(例えば、上述した認証ID等)を返信できるように、送電電力の送電を行う状態である。」(段落[0163])

コ.「制御部13Bは、送電状態の場合、基準電力(Wref)で送電するように送電装置10の送電電力を制御する。このような前提下において、制御部13Bは、サーチ送電状態において、基準電力よりも小さい電力(例えば、基準電力(Wref)の40%の電力)で送電するように送電装置10の送電電力を制御することが好ましい。」(段落[0166])

上記キないしコの記載によれば、「送電装置から受電装置に対して磁界共鳴方式で送電する送電システムにおいて、受電装置が有する蓄電ユニットに蓄積された電力が通信に必要な電力を賄えない場合は受電装置が通信を行うことができない可能性があるため、送電装置は、送電状態で送電する基準電力よりも小さい電力を送電するサーチ送電状態により、受電装置の通信モジュールが通信を行うために必要な電力を供給する」という技術的事項が記載されている。


(3)原査定の拒絶の理由に引用された特開2017-17988号公報(平成29年1月19日公開。以下「引用例3」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審において付与した。)

サ.「1次側機器である給電装置100の制御部104は、送電ドライバ103から1次側コイル106への送電電力の供給を開始する(ステップS11)。このときには、起動時用の比較的低い電力を設定する。すなわち、制御部104は、上述した5Wや15Wのような電力よりも低い電力を設定する。この起動時用の低電力は、1次側の通信部107と2次側の通信部206との間の通信が可能な電力であればよい。あるいは、制御部104は、上述した複数段階に設定可能な電力の内の最も小さな電力である5Wを、起動時用の送信電力に設定してもよい。」(段落【0047】)

シ.「このようにして電力伝送を開始することで、2次側機器である端末装置200の通信部206や制御部205が起動する」(段落【0048】)

ス.「2次側機器が起動すると、給電装置100の制御部104は、端末装置200の負荷回路204が必要とする負荷電力を確認する信号を、通信部107から送信する(ステップS13)。この負荷電力を確認する信号を端末装置200の通信部206が受信すると、制御部205は、通信部206から負荷電力を示す情報を返送し、給電装置100の制御部104が伝送された情報から負荷電力を確認する。
【0050】
そして、制御部104は、確認した負荷電力に対応した送信電力を決定する(ステップS14)。」(段落【0049】-【0050】)

上記サないしスの記載によれば、「給電装置が起動時用の比較的低い電力を設定して電力伝送を開始することで、2次側機器である端末装置の通信部や制御部を起動し、2次側機器が起動すると、送信電力を決定するための情報を送受信するための通信を行う」という技術的事項が記載されている。


(4)新たに引用する特表2015-506662号公報(平成27年3月2日公開。以下「引用例4」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審において付与した。)

セ.「図1は、例としての、植え込み型医療装置(IMD)14と再充電式電源18を充電する外部充電装置20を含んでいるシステム10を描いている概念図である。」(段落【0019】)

ソ.「充電装置20は、再充電式電源18及びIMD14が患者12の体内に植え込まれている場合、それらを再充電するのに使用することができる。充電装置20は、手持ち式装置、携帯式装置、又は患者12にとって外部の固定式充電システムとすることができる。」(段落【0034】)

上記セ、ソの記載によれば、「植え込み型医療装置の外部充電装置を、手持ち式装置、携帯式装置とする」という技術的事項が記載されている。


(5)新たに引用する特表2014-534804号公報(平成26年12月18日公開。以下「引用例5」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審において付与した。)

タ.「移植された医療デバイスは、経皮的エネルギー伝達システム(TETS)を使用して給電または充電することができ、該TETSは、患者の皮膚を通して、外部電力源から、移植された医療デバイスに無線で電気エネルギーを伝達する。」(段落【0015】)

チ.「TETS700はまた、患者の外部にある、電力伝送機ユニット701も含む。伝送機ユニット701は、壁の電気コンセント等の電力供給源720に結合されるように構成されるコイルを有する、伝送共振器702を含む。・・・(中略)・・・他の実施形態において、伝送共振器702は、ベストまたはジャケット等の着用可能な衣類、または他の着用可能なアクセサリの一部分であり得る。個人とともに移動する、個人が着用可能な衣類または物体の一部に組み込まれる伝送共振器の場合、電力源は、同じく患者が着用することができる携帯サイズの再充電可能電池である。」(段落【0041】)

上記タ、チの記載によれば、「個人とともに移動する、個人が着用可能な衣類または物体の一部に組み込まれる伝送共振器を備えた電力電送機ユニットから、移植された医療デバイスに対して無線で電気エネルギーを伝達する」という技術的事項が記載されている。


3.対比

本願補正発明と引用発明とを対比する。

・引用発明の「生体植え込み機器」は、生体に植え込まれるものであるとともに、体外充電器が備える送電用コイルに出力された交流電圧によって発生した経皮充電のための交流磁界によって送電されるもの、即ち、無線で電力を送電されるものであるから、本願補正発明の「生体に装用可能な無線電力受信器」、「前記送電コイルから誘導される前記高周波信号を取り込む無線電力受信器」に相当する。
・引用発明の「体外充電器」は、送電用コイルに出力された交流電圧によって発生した経皮充電のための交流磁界によって送電するもの、即ち、無線で電力を送電するものであるから、本願補正発明の「無線電力受信器に無線電力を供給」する「無線電力送信機」に相当するが、「携帯性が良く、持ち運びが便利」である旨の特定まではされていない点で相違する。
・引用発明の「一次電池」は、本願補正発明の「DC電源」に相当する。
・引用発明の「変圧回路」および「インバータ回路」は、一次電池の電圧を変圧した直流電圧から交流電圧を発生させ、発生した交流電圧を送電用コイルに出力するものであるから、本願補正発明の「DC電源の出力を所定周波数の高周波信号に変換し、当該高周波信号を送電コイルに出力する電力増幅部」に相当する。
・引用発明の「二次電池の種類などによる固有の充電特性」は、二次電池の種類などに適合した充電動作を実行するために用いられるものであるから、本願補正発明の「電力増幅部の出力を制御する」または「電力増幅部の出力を決定する」ための「給電パターン」に相当する。
・引用発明では、生体植え込み機器から受信したID情報を基に、埋め込まれている二次電池の種類などによる固有の充電特性の設定準備等を実施しているから、ID情報と充電特性とは互いに対応したものといえる。よって、引用発明の「ID情報」は、本願補正発明において給電パターンに対応した「給電情報」に相当する。
・引用発明の「テレメトリ送受信回路」は、生体植え込み機器からID情報を受信するものであると認められるから、本願補正発明の「無線電力受信器から、給電情報を受信する無線通信部」に相当する。
・引用発明の体外充電器は、ID情報を基に充電特性を特定しているのであるから、ID情報と充電特性との対応関係に関する情報を何らかの形で保持していることは自明であるといえるものの、ID情報に対応させた充電特性を「記憶する記憶部」を有すること、充電を行う際に当該「記憶部から読み出された」充電特性に基づいて変圧回路やインバータ回路が制御されることまでは明記されていない点で、本願補正発明と一応相違している。
・引用発明の体外充電器において「充電特性に基づいて充電動作を実行」するためには、充電特性に基づいて変圧回路とインバータが制御されることは自明である。したがって、引用発明の「充電特性に基づいて充電動作を実行」することは、本願補正発明の「給電パターンに基づいて前記電力増幅部の出力を制御する」こと、および「前記給電パターンに基づいて前記電力増幅部の出力を決定するステップと、決定した前記電力増幅部の出力に基づく前記第2の電力を前記無線電力受信器へ給電するステップ」に相当する。
・引用発明では、生体植え込み機器から「受信したID情報を基に、埋め込まれている二次電池の種類などによる固有の充電特性の設定準備等を実施」しており、受信したID情報を用いた処理を行っている。そして、受信したID情報を用いる際にID情報を検知していることは自明である。よって、引用発明の「受信したID情報を基に、埋め込まれている二次電池の種類などによる固有の充電特性の設定準備等を実施」する処理は、本願補正発明の「当該無線電力受信器の給電情報を検知するステップ」に相当する処理が含まれていることは自明である。
・引用発明の体外充電器においては、「受信したID情報を基に、埋め込まれている二次電池の種類などによる固有の充電特性の設定準備等を実施」する処理や「充電動作を実行」する主体が不明であるものの、これらの処理を実行する構成要素が存在することは自明である。よって、引用発明の「体外充電器」は、本願補正発明の「制御部」に相当するものを有していると認められる。
・本願補正発明では、「前記無線電力受信器を立ち上げるための第1の電力をP1とし、定常給電時の前記無線電力受信器に給電するための第2の電力をP2としたとき、給電初期時にP1<P2に設定され、前記制御部は、給電初期時、前記無線電力受信器へ前記第2の電力よりも低い前記第1の電力を出力するように前記電力増幅部を制御するステップ」を有し、無線電力受信器の給電情報を検知するステップは、「無線電力受信器の立ち上がりと共に」行われるものであるのに対して、引用発明では、その旨の特定がされていない点で相違している。

よって、本願補正発明と引用発明とは、以下の点で一致ないし相違する。

<一致点>
「生体に装用可能な無線電力受信器に無線電力を供給する、無線電力送信器であって、
DC電源の出力を所定周波数の高周波信号に変換し、当該高周波信号を送電コイルに出力する電力増幅部と、
前記送電コイルから誘導される前記高周波信号を取り込む無線電力受信器から、給電情報を受信する無線通信部と、
前記無線通信部から得られる前記給電情報に対応させた給電パターンに基づいて前記電力増幅部の出力を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
無線電力受信器の給電情報を検知するステップと、
検知した前記給電情報に基づく給電パターンに基づいて前記電力増幅部の出力を決定するステップと、
決定した前記電力増幅部の出力に基づく前記第2の電力を前記無線電力受信器へ給電するステップとを、
実行する無線電力送信器。」

<相違点1>
無線電力送信機器について、本願補正発明では、「携帯性が良く、持ち運びが便利」である旨特定するのに対して、引用発明では、電源として一次電池を用いていることから、携帯型であることが明確に否定されるものではないものの、「携帯性が良く、持ち運びが便利」である旨の特定まではされていない点。

<相違点2>
無線電力送信器について、本願補正発明では、給電パターンを「記憶する記憶部」を有し、「前記記憶部から読み出された」給電パターンに基づいて電力増幅部の出力を制御ないしは決定するのに対し、引用発明では、ID情報と充電特性との対応関係に関する情報を何らかの形で保持していることは当業者にとって自明であるといえるものの、ID情報に対応させた充電特性を「記憶する記憶部」を有すること、充電を行う際に当該「記憶部から読み出された」充電特性に基づいて変圧回路やインバータ回路が制御されることまでは明記されていない点。

<相違点3>
本願補正発明では、「前記無線電力受信器を立ち上げるための第1の電力をP1とし、定常給電時の前記無線電力受信器に給電するための第2の電力をP2としたとき、給電初期時にP1<P2に設定され、前記制御部は、給電初期時、前記無線電力受信器へ前記第2の電力よりも低い前記第1の電力を出力するように前記電力増幅部を制御するステップ」を有し、無線電力受信器の給電情報を検知するステップは、「無線電力受信器の立ち上がりと共に」行われるものであるのに対して、引用発明では、その旨の特定がされていない点。


4.判断
上記各相違点について検討する。

<相違点1>について
引用例4、5に記載されているように、生体植え込み機器に対して無線電力を供給する充電器を、携帯性が良く、持ち運び便利なものとすることは、当該技術分野において周知技術であり、当該周知技術を引用発明の「無線電力送信器」に適用して相違点1に係る構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

<相違点2>について
引用発明の体外充電器では、「受信したID情報を基に、埋め込まれている二次電池の種類などによる固有の充電特性の設定準備等を実施」しており、かかる処理を行うためには、ID情報と充電特性との対応関係に関する情報を何らかの形で保持することは技術常識である。
そして、機器が情報を保持するにあたって記憶部に記憶することは通常行われることに過ぎない。
したがって、ID情報と充電特性との対応関係を記憶する記憶部を設け、受信したID情報に基づく充電特性を記憶部から読み出すようにすることで相違点2に係る構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

<相違点3>について
引用例2、3に記載されているように、無線電力を送受信するシステムにおいて、無線電力の受信器が無線電力の受信に必要な通信を行うための電力を有していない場合を想定し、通信に先立って送信器から通常よりも小さい電力を送信して受信器を立ち上げることは、周知の技術事項である。
そして、引用発明における生体植え込み機器も二次電池を有している以上、引用例2、3と同様に、無線電力の受信に必要な通信を行うための電力を有していない場合が想定されるという課題を当然有しているものと認められる。
したがって、引用発明においても、引用例2、3に記載の周知技術を適用することで相違点3に係る構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。


したがって、本願補正発明は、引用発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本願補正発明の作用効果も、引用例1ないし5から当業者が予測できる範囲のものである。


5.むすび

以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について

1.本願発明

上記のとおり、平成29年10月24日付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成29年7月28日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。

「DC電源の出力を所定周波数の高周波信号に変換し、当該高周波信号を送電コイルに出力する電力増幅部と、
前記送電コイルから誘導される前記高周波信号を取り込む無線電力受信器から、給電情報を受信する無線通信部と、
前記無線通信部から得られる前記給電情報に対応させた給電パターンを記憶する記憶部と、
前記記憶部から読み出された給電パターンに基づいて前記電力増幅部の出力を制御する制御部とを備え、
前記無線電力受信器を立ち上げるための第1の電力をP1とし、
定常給電時の前記無線電力受信器に給電するための第2の電力をP2としたとき、
給電初期時にP1<P2に設定され、
前記制御部は、
給電初期時、前記無線電力受信器へ前記第2の電力よりも低い前記第1の電力を出力するように前記電力増幅部を制御するステップと、
前記無線電力受信器の立ち上がりと共に当該無線電力受信器の給電情報を検知するステップと、
定常給電時、検知した前記給電情報に基づく給電パターンを前記記憶部から読み出し、読み出した前記給電パターンに基づいて前記電力増幅部の出力を決定するステップと、
決定した前記電力増幅部の出力に基づく前記第2の電力を前記無線電力受信器へ給電するステップとを、
実行する無線電力送信器。」


2.引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、上記「第2 2.」に記載したとおりである。


3.対比・判断

本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明の「無線電力受信器」が「生体に装用可能」なものであること、及び、無線電力送信器が「形態性が良く、持ち運びが便利」なものであることの限定、すなわち、<相違点1>に係る構成を削除したものである。

そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 4.」に記載したとおり、引用例1に記載された発明、および、周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1に記載された発明、および、周知の技術により当業者が容易に発明をすることができたものである。


4.予備的見解

請求人は平成30年2月15日付け上申書において補正案を提示しており、その特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「補正案」という。)は、次のとおりのものである。

「生体装着用の生体センサに実装可能な医療用の無線電力受信器に電力を供給する無線電力送信器であって、
DC電源の出力を所定周波数の高周波信号に変換し、当該高周波信号を送電コイルに出力する電力増幅部と、
前記送電コイルから誘導される前記高周波信号を取り込む前記無線電力受信器から、給電情報を受信する無線通信部と、
前記無線通信部から得られる前記給電情報に各々対応させた複数の給電パターンを記憶する記憶部と、
前記記憶部から読み出された一つの給電パターンに基づいて前記電力増幅部の出力を制御する制御部とを備え、
前記無線電力受信器を立ち上げるための第1の電力をP1とし、
定常給電時の前記無線電力受信器に給電するための第2の電力をP2としたとき、
給電初期時にP1<P2に設定され、
前記制御部は、
給電初期時、前記無線電力受信器へ前記第2の電力よりも低い前記第1の電力を出力するように前記電力増幅部を制御するステップと、
前記無線電力受信器の立ち上がりと共に当該無線電力受信器の充電条件を示す給電情報を検知するステップと、
定常給電時、前記給電情報に含まれる読み出しコードをアドレスにして複数の給電パターンの中から前記読み出しコードに対応した1つの給電パターンを読み出すステップと、 読み出した前記給電パターンに基づいて前記電力増幅部の出力を決定するステップと、 決定した前記電力増幅部の出力に基づく前記第2の電力を前記無線電力受信器へ給電するステップとを、
実行する無線電力送信器。」

請求人は、当該補正案に基づいて、何れの引用文献にも、「各々医療用の無線電力受信器の充電条件を示す給電情報(引用文献1の二次電池の種類毎の充電特性に相当)に対応した複数の給電パターンが無線電力送信器側に記憶される点」(発明特定事項A)、「給電情報に含まれる読み出しコードをアドレスにして複数の給電パターンの中から当該読み出しコードに対応した1つの給電パターンを読み出す点」(発明特定事項B)について、開示や示唆はない旨を主張しているため、当該補正案について、いわゆる進歩性を有するものか否か一応検討しておく。

<発明特定事項Aについて>
上申書における「各々医療用の無線電力受信器の充電条件を示す給電情報(引用文献1の二次電池の種類毎の充電特性に相当)」との記載によれば、申請人は、引用発明の「充電特性」が、本願補正案の「給電情報」に相当する旨の主張をしていると認められる。しかし、上記「第2 3.」に記載したとおり、引用例1の「充電特性」は、補正案の「給電パターン」に相当するものであるから、当該主張は採用できない。
また、引用発明の体外充電器では、受信した生体植え込み機器のID情報を基に、埋め込まれている二次電池の種類などによる固有の充電特性を特定しているが、体外充電器が特定の生体植え込み機器にのみ対応するのであれば、特定の充電特性に基づく充電を行えばよいのであって、ID情報を基に充電特性を特定する必要はない。したがって、引用発明における体外充電器は、ID情報を基に固有の充電特性を特定している以上、複数種類の生体植え込み機器に対応するものであることが十分示唆されていると認められるから、複数の生体植え込み機器に対応して複数の充電特性が記憶されていることは自明である。

<発明特定事項Bについて>
上記「<発明特定事項Aについて>」で前述したとおり、引用発明の体外充電器は、複数の生体植え込み機器に対応して複数の充電特性が記憶されていることは自明である。そうすると、ID情報と充電特性との複数の対応関係のうち、受信したID情報と一致するID情報に対応した充電特性を特定する処理が必要になるから、ID情報は充電特性を特定するためのアドレスであるとも言える。更に付言すれば、申請人の主張におけるアドレスなる用語が、データの記憶場所を示す番号を意味するものであるとしても、ID情報をどのような番号体系とするかは当業者が適宜決定し得たことであるから、充電特性を記憶する際の格納場所を示すアドレスをID情報として用いることは、当業者が適宜なし得たことである。

なお、補正案においては、「無線電力受信器」が、「生体装着用の生体センサに実装可能な医療用」のものであることも特定されているが、この点は、引用例4(図1-2、段落【0073】等を参照)において、IMD14(植え込み型医療装置)が温度センサ39を有することも記載されているように、当業者が適宜なしえたことである。

よって、上記補正案の内容を検討しても、進歩性を有しているとはいえない。


5.むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-11-01 
結審通知日 2018-11-06 
審決日 2018-11-19 
出願番号 特願2017-88421(P2017-88421)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H02J)
P 1 8・ 121- Z (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 稲葉 崇竹下 翔平  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 田中 慎太郎
酒井 朋広
発明の名称 無線電力送信器、無線電力受信器及び無線電力給電システム  
代理人 特許業務法人山口国際特許事務所  
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