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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F24F
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  F24F
審判 一部申し立て 2項進歩性  F24F
審判 一部申し立て 発明同一  F24F
管理番号 1347624
異議申立番号 異議2018-700240  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-03-23 
確定日 2018-11-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6202219号発明「空気清浄機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6202219号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?12〕について訂正することを認める。 特許第6202219号の請求項1?5、請求項9、請求項10、請求項12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6202219号の請求項1?12に係る特許についての出願は、2015年6月29日(優先権主張2014年10月31日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成29年9月8日にその特許権の設定登録がされ、平成29年9月27日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1?5、9、10、12に係る特許について、平成30年3月23日に特許異議申立人鈴木里美により特許異議の申立てがされ、当審は、平成30年6月4日に取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である平成30年8月3日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、特許異議申立人鈴木里美は、平成30年9月20日に意見書を提出した。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成30年8月3日の訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6202219号の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?12について訂正することを求める。」というものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。下線は、訂正箇所を示す。)の内容は、以下のとおりである。

(訂正事項1)
請求項1に係る「空気を送風するように構成された送風機と、前記送風機により送風される空気を清浄化するように構成された清浄化手段と、」を「ケーシングと、空気を送風するように構成された送風機と、前記送風機により送風される空気を前記ケーシング内で清浄化するように構成された清浄化手段と、」に訂正し、「前記ガス検出器により前記活性種が検出されたときに、前記清浄化手段と前記送風機のうち少なくとも一方の駆動状態が変化する空気清浄機。」を「前記ガス検出器により前記活性種が検出されたときに、前記清浄化手段と前記送風機のうち少なくとも一方の駆動状態が変化して空気清浄化能力を高くする空気清浄機。」に訂正する。
(訂正事項2)
請求項2に係る「紫外線を検出するように構成された光検出器と、」を「室内の紫外線を検出するように構成された光検出器と、」に訂正し、「前記光検出器により前記紫外線が検出されたときに、前記清浄化手段と前記送風機のうち少なくとも一方の駆動状態が変化する空気清浄機。」を「前記光検出器により前記紫外線が検出されたときに、前記清浄化手段と前記送風機のうち少なくとも一方の駆動状態が変化して空気清浄化能力を高くする空気清浄機。」に訂正する。
(訂正事項3)
発明の詳細な説明の段落【0007】の「本発明に係る空気清浄機は、空気を送風するように構成された送風機と、送風機により送風される空気を清浄化するように構成された清浄化手段と、」を「本発明に係る空気清浄機は、ケーシングと、空気を送風するように構成された送風機と、送風機により送風される空気をケーシング内で清浄化するように構成された清浄化手段と、」に訂正し、「ガス検出器により活性種が検出されたときに、清浄化手段と送風機のうち少なくとも一方の駆動状態が変化する。」を「ガス検出器により活性種が検出されたときに、清浄化手段と送風機のうち少なくとも一方の駆動状態が変化して空気清浄化能力を高くする。」に訂正する。
(訂正事項4)
発明の詳細な説明の段落【0007】の「紫外線を検出するように構成された光検出器と、」を「室内の紫外線を検出するように構成された光検出器と、」に訂正し、「光検出器により紫外線が検出されたときに、清浄化手段と送風機のうち少なくとも一方の駆動状態が変化する。」を「光検出器により紫外線が検出されたときに、清浄化手段と送風機のうち少なくとも一方の駆動状態が変化して空気清浄化能力を高くする。」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、請求項1の空気清浄機がケーシングを備えることを特定するとともに、清浄化手段について、前記ケーシング内で清浄化するものに限定し、さらに、ガス検出器により活性種が検出されたときの、清浄化手段と送風機のうち少なくとも一方の駆動状態の変化について、空気清浄化能力を高くするものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、請求項1を直接又は間接に引用する請求項3、5?12についても、同様に特許請求の範囲を減縮するものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項1は、上記アのとおりであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であること
本件特許明細書の段落0013の「ケーシング1の上面部には、清浄化手段5により清浄化された空気を吹出す略四角形状の吹出口3が設けられている。」という記載、段落0015の「清浄化手段5は、ケーシング1内を流れる空気を清浄化するように構成されたクリーナーである。清浄化手段5は、吸込口2と吹出口3との間に設けられている。」、「詳しく述べると、清浄化手段5は、集塵フィルタ、脱臭フィルタ、電圧印加デバイス等の機器により構成されるか、これらの機器を組み合わせることにより構成されている。」という記載からみて、本件特許明細書には、「前記送風機により送風される空気を前記ケーシング内で清浄化するように構成された清浄化手段」が記載されているといえる。
また、本件特許明細書の段落0023の「空気清浄化能力アップ運転は、当該運転の非実行時と比較して、空気清浄機の空気清浄化能力を高くするものであり、換言すれば、清浄化手段5により汚染物質を除去、不活性化、分解、吸着する速度を高くする運転モードである。汚染物質は、前述のように、空気中の粒子、煙、花粉、ウイルス、カビ、菌、アレルゲン、臭気物質、イオン、ラジカル、光化学反応物等により構成される。空気清浄化能力アップ運転では、例えば送風機4の回転数を増加させ、ケーシング1の内部に吸込む空気の量を増加させることにより、清浄化手段5を通過する風量を増加させてもよい。これにより、除去・不活性化する速度を高速化することができる。」という記載、段落0029の「ステップS110に移行し、活性種検出手段8により室内の活性種を検出する。続いて、ステップS112では、活性種検出手段8の検出結果に基いて、活性種の有無を判定する。ステップS112の判定が成立した場合には、室内に活性種が存在するので、ステップS114に移行し、空気清浄化能力アップ運転を実行する。」という記載からみて、本件特許明細書には、「前記ガス検出器により前記活性種が検出されたときに、前記清浄化手段と前記送風機のうち少なくとも一方の駆動状態が変化して空気清浄化能力を高くする空気清浄機」が記載されているといえる。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、請求項2の空気清浄機において、光検出器で検出する紫外線について、室内の紫外線に限定し、さらに、光検出器により紫外線が検出されたときの清浄化手段と送風機のうち少なくとも一方の駆動状態の変化について、空気清浄化能力を高くするものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、請求項2を直接又は間接に引用する請求項4、9、12についても、同様に特許請求の範囲を減縮するものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項2は、上記アのとおりであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であること
本件特許明細書の段落0017の「光検出手段7は、室内の光の強度を検出するもので、例えばフォトダイオードにより光を検出するセンサ、または、紫外線を検出するUVセンサ等により構成されている。」という記載からみて、本件特許明細書には、「室内の紫外線を検出するように構成された光検出器」が記載されているといえる。
また、上記(1)ウと同様、本件特許明細書の段落0023、0029の記載からみて、本件特許明細書には、「前記光検出器により前記紫外線が検出されたときに、前記清浄化手段と前記送風機のうち少なくとも一方の駆動状態が変化して空気清浄化能力を高くする空気清浄機」が記載されているといえる。
よって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3は、訂正事項1に伴って、本件特許明細書の対応する記載を同様に訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項3は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であること
上記(1)ウのとおり、訂正事項3も、訂正事項1と同様、本件特許明細書の段落0011?0015、0023、0029の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的
訂正事項4は、訂正事項2に伴って、本件特許明細書の対応する記載を同様に訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項4は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であること
上記(2)ウのとおり、訂正事項4も、訂正事項2と同様、本件特許明細書の段落0017、0023、0029の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(5)請求項6?8、11についての独立特許要件について
特許異議の申立てがされていない請求項6?8、11について、本件訂正1により特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正がなされたから、独立特許要件について検討する。
請求項6?8、11に係る発明は、請求項1に係る発明を更に減縮したものであるところ、後述のとおり「第4」、「第5」に示す取消理由によって、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
よって、請求項6?8、11に係る発明も同様に、同取消理由によっては、特許出願の際独立して特許を受けることができないとはいえない。
また、他に請求項6?8、11に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。
したがって、請求項6?8、11についての訂正は、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第7項に適合するものである。

(6)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項?第7項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?12〕についての訂正を認める。

第3 訂正後の本件発明
上記のとおり本件訂正は認められるから、本件訂正請求により訂正された請求項1?5、9、10、12に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明5」、「本件発明9」、「本件発明10」、「本件発明12」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?5、9、10、12に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

本件発明1「ケーシングと、
空気を送風するように構成された送風機と、
前記送風機により送風される空気を前記ケーシング内で清浄化するように構成された清浄化手段と、
活性種を含むガスを検出するように構成されたガス検出器と、を備え、
前記ガス検出器により前記活性種が検出されたときに、前記清浄化手段と前記送風機のうち少なくとも一方の駆動状態が変化して空気清浄化能力を高くする空気清浄機。」
本件発明2「空気を送風するように構成された送風機と、
前記送風機により送風される空気を清浄化するように構成された清浄化手段と、
室内の紫外線を検出するように構成された光検出器と、を備え、
前記光検出器により前記紫外線が検出されたときに、前記清浄化手段と前記送風機のうち少なくとも一方の駆動状態が変化して空気清浄化能力を高くする空気清浄機。」
本件発明3「前記ガス検出器の検出結果に基いて前記清浄化手段と前記送風機のうち少なくとも一方を制御するコントローラを備えた請求項1に記載の空気清浄機。」
本件発明4「前記光検出器の検出結果に基いて前記清浄化手段と前記送風機のうち少なくとも一方を制御するコントローラを備えた請求項2に記載の空気清浄機。」
本件発明5「光を検出するように構成された光検出器と、
前記ガス検出器及び前記光検出器の検出結果に基いて前記清浄化手段と前記送風機のうち少なくとも一方を制御するコントローラと、
を備えた請求項1に記載の空気清浄機。」
本件発明9「前記清浄化手段は、少なくとも臭気物質を清浄化する機能を備えた請求項3から8のうち何れか1項に記載の空気清浄機。」
本件発明10「前記清浄化手段により清浄化された空気を吹出す吹出口と、
前記吹出口を回転させる回転機構と、を備え、
前記コントローラは、空気清浄機の空気清浄化能力を高くするときに、前記回転機構を駆動して前記吹出口を回転させる請求項6から8のうち何れか1項に記載の空気清浄機。」
本件発明12「前記コントローラは時計機能を備え、室内に日光が入る前の時刻に前記検出結果に基いて空気清浄機の運転を制御する請求項3から11のうち何れか1項に記載の空気清浄機。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?5、9、10、12に係る特許に対して、当審が平成30年6月4日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1)サポート要件
訂正前の請求項1に係る発明は、ガス検出器により活性種が検出されたときに、清浄化手段と送風機のうち少なくとも一方の駆動状態が変化する空気清浄機であるところ、駆動状態の変化としては、空気清浄化能力を高くすることだけではなく、空気清浄能力を低くすることも含まれる。しかし、空気清浄機の空気清浄化能力を低くするような実施形態は発明の詳細な説明に記載されていないし、そのような場合には発明の課題が解決できないことが明らかである。訂正前の請求項2?5,9,12に係る発明についても同様である。
よって、本件請求項1?5,9,12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(2)新規性
本件特許の請求項1、3、9に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(3)進歩性
本件特許の請求項1、3、9、12に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(4)拡大先願
本件特許の請求項2、4に係る発明は、その出願の日前の外国語特許出願(特許法第184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされたものを除く。)であって、その出願後に国際公開された外国語特許出願である下記の引用出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面(以下、「先願の当初明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者が引用出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が引用出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである(同法第184条の13参照)。


引用文献:特開2012-34771号公報
引用出願:PCT/KR2014/11758号(国際公開第2015/88174号、特表2017-503162号公報)

2 取消理由についての当審の判断
(1)サポート要件について
ア 本件訂正により、本件発明1?5,9,12の空気清浄機の、清浄化手段と送風機のうち少なくとも一方の駆動状態が変化することについて、空気清浄化能力を高くすることが特定されたので、当該取消理由は解消した。
イ 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、平成30年9月20日提出の意見書(第2、3頁)において、「また、本件特許発明の明細書の段落【0024】には、『また、清浄化手段5に電圧印加デバイスを搭載している場合には、空気清浄化能力アップ運転において、電圧印加デバイスに印加する電圧を高くすることにより、汚染物質を除去・不活性化する速度を増加させてもよい。』と記載されています。そして、上記の電圧印加デバイスは、引用発明1に記載されているオゾン生成器を含みます。なぜならば、引用発明1に記載のオゾン生成器は、電圧を印加することにより、電極間で放電させ生ずるプラズマによりオゾンを生成する機器であるためです。
従いまして、訂正後の本件特許発明1は、活性種がオゾンであり、清浄化手段がオゾン生成器である態様を含んでいます。この態様では、ガス検出器によりオゾンが検出されたときに、オゾン生成器の駆動状態が変化して、オゾンの生成量を増やすことにより、空気清浄化能力を高くします。すなわち、オゾンが検出されると、オゾンの量が増加し続けることになってしまいます。」と主張する。
しかし、請求項1には、「オゾンの量が増加し続ける」ことは記載されていないし、オゾン濃度が所定値以上高くなると人の健康に悪影響を及ぼすという出願時の技術常識を踏まえると、本件発明1が、健康に悪影響を与えてもなお「オゾンの量が増加し続ける」空気清浄機を含むとは解されない。
よって、特許異議申立人のかかる主張は、採用することができない。
ウ 以上のことから、本件発明1?5,9,12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

(2)新規性及び進歩性について
ア 甲1に記載の発明
甲1には、以下の記載がある(なお、下線は理解の一助のために当審で付与した。)。
(ア)「【0012】
図1はオゾン滅菌装置1の外観図、図2はオゾン濃度制御装置3の正面図、図3はオゾン濃度制御装置3の側面図、図4はオゾン滅菌装置1の構成図である。
オゾン滅菌装置1は、オゾン発生装置2およびオゾン濃度制御装置3で構成される。
オゾン発生装置2は、オゾン生成器、ファンおよび入力部12等が金属製のケースに収容されて形成される。オゾン生成器は、電極間で放電させ生ずるプラズマによりオゾンを生成させるオゾン発生体である。オゾン生成器として短波長紫外線を発するオゾンランプを使用してもよい。オゾン生成器には、公知の技術を利用することができる。」
(イ)「【0013】
ファンは、オゾン発生体に空気を送り込み、発生したオゾンが含まれる空気を、前面の吹き出し口13から室内に送り出すものである。また、ファンは、オゾン発生体の表面に空気を送ることによりオゾン発生体の過熱を防止する役割も果たす。
入力部12は、信号・電源ケーブル4を通じて送られるオゾン濃度制御装置3からの制御信号によってオゾン生成器およびファンへの電源の供給および停止を行う、デジタルリレー等で形成される。」
(ウ)「【0015】
オゾン濃度制御装置3は、オゾン滅菌装置1が置かれた空間(部屋)のオゾン濃度に応じて、オゾン発生体の稼働およびファンの稼働を制御するためのものである。」
(エ)「【0016】
オゾン濃度検出部14は、空気中のオゾンの濃度を検出する機能を有し、感ガス素子としてインジウム-スズ複合酸化物が用いられた半導体センサである。」
(オ)「【0021】
オゾン滅菌装置1による室内空間の除菌(滅菌)処理は、通常、オゾン濃度検出部14が検出するオゾン濃度が、ロータリースイッチ11により設定された上限値と下限値の範囲に収まるように、オゾン濃度制御装置3がオゾン生成器の起動および停止を交互に繰り返すことにより行われる。ファンは、オゾン生成器の起動と同時に起動され、オゾン生成器が停止された場合には、オゾン生成器が停止した後に、演算部16の内部タイマーにより所定時間経過後に停止される。オゾン滅菌装置1は、殺菌目的だけではなく、脱臭目的にも使用される。
【0022】
オゾン滅菌装置1は、ロータリースイッチ11によって、オゾン濃度の管理(制御)における上限値および下限値に種々の値を設定できる。そのため、オゾン滅菌装置1は、例えば開業医院の待合室に設置する場合に、小児科、産婦人科等の抵抗力の弱い人が集まる場所ではオゾン濃度の上限値を低くし、例えば人の滞在時間が短くかつ脱臭等を行いたいトイレには、オゾンの上限値を高くする等、設置環境に応じた最適なオゾン濃度の管理を簡便に行うことができる。」
(カ)「【0026】
オゾン滅菌装置1は、このようなオゾン生成器の頻繁な起動、停止を防止し、電力消費量を削減するために、オゾン発生装置2の稼働を次のように行わせる。
図6はオゾン濃度制御装置3によるオゾン発生装置2の制御のフローチャートである。
オゾン滅菌装置1は、オゾン発生装置2の電源スイッチ22を入れることにより起動される。オゾン発生装置2は、オゾン生成器およびファンが稼働を開始し、吹き出し口13から生成したオゾンを含む空気が室内に送り出される。同時に、オゾン濃度制御装置3のパイロットランプが点灯される。オゾン濃度検出部14は、オゾン滅菌装置1が設置された空間(部屋)のオゾン濃度を測定し、測定したオゾン濃度がロータリースイッチ11で設定された制御上限値に達したら、オゾン生成器を停止させる。この後、パイロットランプ21は、測定したオゾン濃度が制御上限値を超える間点滅され、オゾン濃度が制御上限値を下回ったときに消灯される。
(キ)「【0033】
サンプリングされたオゾン濃度Csがオゾン濃度の制御下限値よりも低い場合(S8でNO)、オゾン濃度制御装置3は、オゾン生成器およびファンを起動させ(S9)、パイロットランプ21を点灯させる。
以後、オゾン生成器は、オゾン濃度検出部14が検出するオゾン濃度が制御上限値を超えるまで稼働する(S10,S11)。」

(ク)「
図1


(ケ)「
図4


(コ)「
図6


以上の記載を総合すると、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

「ケースと、
空気を室内に送り出すファンと、
室内空間の除菌(滅菌)、脱臭を行うためのオゾンを生成するオゾン生成器と、
空気中のオゾンの濃度を検出するオゾン濃度検出部14と、を備え、
前記オゾン濃度検出部14により検出するオゾン濃度が、設定された上限値と下限値の範囲に収まるように、オゾン生成器の起動および停止を交互に繰り返し、オゾン生成器の起動と同時にファンを起動するオゾン滅菌装置1。」が記載されている。

イ 対比
本件発明1と、甲1発明とを対比する。
甲1発明の「オゾン滅菌装置1」は、本件発明1の「空気清浄機」に相当し、甲1発明の「ケース」は、本件発明1の「ケーシング」に相当する。
甲1発明の「空気を室内に送り出すファン」は、本件発明1の「空気を送風するように構成された送風機」に相当する。
甲1発明の「オゾン」は、本件発明1の「活性種」に相当する。
甲1発明の「室内空間の除菌(滅菌)、脱臭を行うためのオゾンを生成するオゾン生成器」は、本件発明1にいう「前記送風機により送風される空気」を「清浄化するように構成された清浄化手段」であるという限りにおいて一致する。
甲1発明の「空気中のオゾンの濃度を検出するオゾン濃度検出部14」は、少なくともオゾンを含むガスを検出しているのであるから、本件発明1の「活性種を含むガスを検出するように構成されたガス検出器」に相当する。

したがって、本件発明1と、甲1発明は、以下の点で一致し、以下の点で少なくとも相違する。
(一致点)
「ケーシングと、
空気を送風するように構成された送風機と、
前記送風機により送風される空気を清浄化するように構成された清浄化手段と、
活性種を含むガスを検出するように構成されたガス検出器と、を備えた空気清浄機。」

(相違点1)
本件発明1は、「前記ガス検出器により前記活性種が検出されたときに、前記清浄化手段と前記送風機のうち少なくとも一方の駆動状態が変化して空気清浄化能力を高くする」のに対して、甲1発明は、「前記オゾン濃度検出部14により検出するオゾン濃度が、設定された上限値と下限値の範囲に収まるように、オゾン生成器の起動および停止を交互に繰り返し、オゾン生成器の起動と同時にファンを起動する」点。

(相違点2)
本件発明1の清浄化手段は、送風機により送風される空気を、ケーシング内で清浄化するように構成されているのに対して、甲1発明のオゾン生成器は、オゾンの生成により、室内空間の除菌(滅菌)、脱臭を行う点。

ウ 当審の判断
相違点1について検討する。
甲1発明の、オゾンの濃度が上限値と下限値の範囲に収まるようにオゾン生成器の起動及び停止を繰り返すことは、オゾンの濃度を所定範囲内に維持するものであるから、本件発明1の「前記ガス検出器により前記活性種が検出されたときに、前記清浄化手段と前記送風機のうち少なくとも一方の駆動状態が変化して空気清浄化能力を高くする」こととは、実質的に異なる動作である。
よって、相違点1は、実質的な相違点である。
そして、オゾンを検出したときに、オゾン生成器の能力を高くすることが周知であるという証拠がない。
よって、相違点2について検討するまでもなく、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者といえども容易に想到し得たことではない。

エ 小括
以上のことから、本件発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ゆえに、本件発明1についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえない。

オ 本件発明3、9、12について
本件発明3は、本件発明1を更に減縮したものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ゆえに、本件発明3についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえない。

本件発明9は、本件発明1又は本件発明2を更に減縮したものであるところ、本件発明1について上記エのとおりであり、本件発明2について新規性及び進歩性の取消理由が通知されなかったことを踏まえると、本件発明9についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえない。

また、本件発明12は、本件発明1又は本件発明2を更に減縮したものであるところ、本件発明1について上記エのとおりであり、本件発明2について新規性及び進歩性の取消理由が通知されなかったことを踏まえると、本件発明12についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。

(3)拡大先願について
ア 先願の当初明細書等の記載
先願の当初明細書等には、以下の記載がある(なお、先願の当初明細書等の記載事項として、対応する公表特許公報である特表2017-503162号公報(特許異議申立人が甲第2号証としたものであり、以下、「甲2」という。)の記載事項を示す。また、下線は理解の一助のために当審で付与した。)。

(ア)「【0025】
【図1】本発明の一実施例によるバイオセンサーの構成を示す概略図である。
【図2】本発明の一実施例による空気清浄機の構成を示す概略図である。」
(イ)「【0028】
まず、図1を参照して、本発明の一実施例によるバイオセンサーについて見る。ここで、図1は本発明の一実施例によるバイオセンサーの構成を示す概略図である。
【0029】
図1に示されているように、本発明の一実施例によるバイオセンサー100は、流路部110、光照射部120、紫外線感知部130、及び散乱光感知部140を含み、上記流路部110の入口側に備えられる空気加熱部150をさらに含むことができる。
【0030】
上記流路部110は、内側に外部空気が流入されて流動することができる空気流動経路を構成することができる。
【0031】
このような流路部110の内側には、後述する光照射部120、紫外線感知部130、散乱光感知部140、及び空気加熱部150を備えることができる。」
(ウ)「【0033】
上記光照射部120は、流路部110の内側に流入された空気中に光を照射することができる。」
(エ)「【0038】
上記紫外線感知部130は、光照射部120で照射した光が空気中の浮遊細菌にぶつかって散乱された紫外線を感知することができる。
【0039】
参考までに、光が浮遊細菌にぶつかると、光が単に折れて散乱される現像に加えて紫外線が散乱される現像を生じる。
【0040】
これにより、上記紫外線感知部130は、浮遊細菌によって散乱された紫外線を感知して、空気中の細菌濃度を測定することができる。
【0041】
一実施例において、紫外線感知部130は、E.Coli(大腸菌)及びSubstilusのような浮遊細菌によって散乱される紫外線の波長に対応して、300nm?360nmの波長の光に対する感応力に優れた紫外線感知装置で構成することができるが、これに限定されるものではない。」
(オ)「【0043】
一方、紫外線感知部130は、感知した紫外線の感知量を電気信号に変換して外部要素に伝達することができる。ここで、上記外部要素は、図2を参照して後述する本発明の一実施例による空気清浄機200に備えられる制御部270とすることができる。」
(カ)「【0055】
図2に示されているように、本発明の一実施例による空気清浄機200は、ハウジング210、送風部220、殺菌部230、制御部270、及びバイオセンサー100を含み、加湿部250、除湿部240、及び空気浄化フィルタ260をさらに含むことができる。」
(キ)「【0057】
また、図面に示されてはいないが、このようなハウジング210は、一側の空気流入部及び他側の空気吐出部を備え、後述する送風部220の駆動によって空気が空気流入部を通じてハウジング210の内部に流入された後、空気吐出部を通じて外部に排出できるように構成される。」
(ク)「【0060】
上記殺菌部230は、ハウジング210の内部に備えられ、ハウジング210の内部に流入された空気を殺菌することができる。」
(ケ)「【0077】
一方、このような本発明の一実施例による空気清浄機200において、制御部270は、紫外線感知部130で感知される紫外線の有無に応じて殺菌部230を作動させることができる。
【0078】
即ち、紫外線感知部130で紫外線が感知される場合は室内空気中に浮遊細菌が存在することを意味するため、制御部270は、紫外線感知部130の電気信号を受けて殺菌部230及び送風部220を作動させることにより、室内空気が殺菌されるようにすることができる。」
(コ)「【0084】
また、紫外線感知部130で紫外線が感知され、散乱光感知部140で散乱光も感知される場合、制御部270は、送風部220及び殺菌部230を作動させ、送風部220の風量を増加させることにより、室内空気の殺菌及び浄化が高い水準で行われるようにすることができる。」

(サ)「
図1



(シ)「
図2


以上の記載を総合すると、甲2には、以下の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されている。

「送風部220と、
前記送風部220により送風される空気を殺菌する殺菌部230と、
ハウジング210に収容された流路部110の内側に備える光照射部120で照射した光が浮遊細菌にぶつかって散乱された紫外線を感知する紫外線感知部130と、
前記紫外線感知部130で紫外線が感知される場合、前記殺菌部230を作動させ、前記送風部220の風量を増加させることにより、殺菌及び浄化が高い水準で行われるようにする空気清浄機200。」

イ 対比
本件発明2と、先願発明とを対比する。
先願発明の「空気清浄機200」は、本件発明2の「空気清浄機」に相当する。
先願発明の「送風部220」は、本件発明2の「空気を送風するように構成された送風機」に相当する。
先願発明の「前記送風部220により送風される空気を殺菌する殺菌部230」は、本件発明2の「前記送風機により送風される空気を清浄化するように構成された清浄化手段」に相当する。
先願発明の「紫外線を感知する紫外線感知部130」は、本件発明2の「紫外線を検出するように構成された光検出器」に相当する。
先願発明の「前記紫外線感知部130で紫外線が感知される場合、前記殺菌部230を作動させ、前記送風部220の風量を増加させることにより、殺菌及び浄化が高い水準で行われるようにする」点は、本件発明2の「前記光検出器により前記紫外線が検出されたときに、前記清浄化手段と前記送風機のうち少なくとも一方の駆動状態が変化して空気清浄化能力を高くする」点に相当する。

したがって、本件発明2と、先願発明は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
(一致点)
「空気を送風するように構成された送風機と、
前記送風機により送風される空気を清浄化するように構成された清浄化手段と、
紫外線を検出するように構成された光検出器と、を備え、
前記光検出器により前記紫外線が検出されたときに、前記清浄化手段と前記送風機のうち少なくとも一方の駆動状態が変化して空気清浄化能力を高くする空気清浄機。」

(相違点3)
本件発明2の「光検出器」は、室内の紫外線を検出するように構成されるのに対して、先願発明の「紫外線感知部130」は、ハウジング210に収容された流路部110の内側に備える光照射部120で照射した光が浮遊細菌にぶつかって散乱された紫外線を感知する点。

ウ 当審の判断
(相違点3について)
本件発明2の「光検出器」は、室内の紫外線自体を検出するのに対して、先願発明の「紫外線感知部130」が検出している紫外線は、室内の紫外線ではなく、ハウジング210に収容された流路部110の内側に備える光照射部120で照射した光が浮遊細菌にぶつかって散乱された紫外線を感知するものであるから、相違点3は実質的な相違点であると共に、相違点3が設計上の微差であるということもできない。

したがって、本件発明2は、先願発明と同一とはいえない。

エ 小括
したがって、本件発明2は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないとはいえないから、その発明に係る特許は取り消すべきものであるとはいえない。

オ 本件発明4について
本件発明2を引用する本件発明4も、同様の理由で、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないとはいえないから、その発明に係る特許は取り消すべきものであるとはいえない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 明確性(特許法第36条第6項第2号)について
特許異議申立人は、特許異議申立書(第21頁)において、「本件特許発明1には、「前記送風機により送風される空気を清浄化するように構成された清浄化手段」との記載がある。すなわち、本件特許発明1には、空気を清浄化するためにオゾンを生成する形態が含まれている。
本件特許発明1には、「前記ガス検出器により前記前記活性種が検出されたときに、前記清浄化手段と前記送風機のうち少なくとも一方の前記駆動状態が変化する」との記載がある。すなわち、本件特許発明1には、オゾンが検出されたときに、オゾンの生成量を増加させるように構成された形態が含まれている。
しかしながら、オゾンが検出されたときに、オゾンの生成量を増加させると、人に悪影響を受けない許容できるオゾン濃度を超えてしまう恐れがある。なお、甲第1号証の段落0005に記載のように、人が悪影響を受けない許容できるオゾンの濃度については、0.1ppm(100ppb)以下とする考え方が一般的である。
このように、本件特許発明1は、人に悪影響を及ぼす恐れを有する形態が含まれるように記載されており、明確でないため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」と主張している。
しかし、オゾンが検出されたときに、オゾンの生成量を増加させることは、本件特許明細書に記載されていないし、オゾン濃度が所定値以上高くなると人の健康に悪影響を及ぼすという出願時の技術常識を踏まえると、本件発明1に、オゾンが検出されたときに、健康に悪影響を与えるほど、オゾンの生成量を増加させる形態が含まれているとも解されない。
よって、特許異議申立人のかかる主張は、採用することができない。
したがって、本件発明1が明確でないとはいえないから、本件訂正後の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たす。

2 本件発明5、10の進歩性(特許法第29条第2項)について
本件発明5、10は、本件発明1を更に減縮したものであるところ、本件発明1について上記第4の2(2)エのとおりであるから、本件発明5、10についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?5、9、10、12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?5、9、10、12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
空気清浄機
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸込んだ空気を清浄化して吹出す機能を備えた空気清浄機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、例えば特許文献1(日本特許第2910627号公報)に記載されているような空気清浄機が知られている。この空気清浄機は、室内空気の汚染状態等を検出するセンサと、制御手段と、警告手段とを備えている。制御手段は、煙草モードまたは花粉モード用の制御シーケンスと、その他の制御シーケンスとを有している。また、警告手段は、前記センサにより検出された室内空気の汚染状態等が煙草または花粉による場合に、煙草モードまたは花粉モード用の制御シーケンスを選択するようにユーザに警告する。この警告動作は、表示または音声を用いて実施される。
一方、他の従来技術として、特許文献2(日本特許第3136659号公報)に記載されているような空気清浄機も知られている。この空気清浄機は、ファジィ推論を用いることにより、ガスセンサの出力と塵埃センサの出力とに基いてガス及び塵埃の量を精度よく検出する。そして、各ガス量に適した吸込力および運転時間をきめ細かく決定し、適切な運転を実現するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】日本特許第2910627号公報
【特許文献2】日本特許第3136659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に記載の従来技術では、センサにより検出された室内の汚染状態に対応する運転モードを備えている。しかしながら、この従来技術では、光学センサにより室内の汚染状態を検出するので、例えば健康に悪影響を与えるナノオーダーの微粒子については、微粒子が凝集して検出可能な大きさとなるまで、これを汚染物として検出して除去運転に入ることができないという問題がある。
【0005】
また、特許文献2に記載の従来技術では、ガスセンサ及び塵埃センサの出力に基いて吸込力、運転時間等を決定する。しかしながら、ナノオーダーの微粒子の発生状態は、ガス及び塵埃の量に基いて予測することができない。このため、特許文献2に記載の従来技術においても、微粒子が凝集して検出可能な大きさとなるまで、除去運転に入ることができないという問題がある。
【0006】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、室内で微粒子が発生する原因を検出してこれらの除去運転を行うことにより、健康に悪影響を与える微粒子の発生を抑制し、室内を清浄に保つことが可能な空気清浄機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る空気清浄機は、ケーシングと、空気を送風するように構成された送風機と、送風機により送風される空気をケーシング内で清浄化するように構成された清浄化手段と、活性種を含むガスを検出するように構成されたガス検出器と、を備え、ガス検出器により活性種が検出されたときに、清浄化手段と送風機のうち少なくとも一方の駆動状態が変化して空気清浄化能力を高くする。
また本発明に係る空気清浄機は、空気を送風するように構成された送風機と、送風機により送風される空気を清浄化するように構成された清浄化手段と、室内の紫外線を検出するように構成された光検出器と、を備え、光検出器により紫外線が検出されたときに、清浄化手段と送風機のうち少なくとも一方の駆動状態が変化して空気清浄化能力を高くする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、室内で発生する微粒子の原因となるガスを検出し、その検出結果に基いて清浄化手段を制御することにより、例えば空気清浄化能力を高める運転を実行及び停止することができる。この結果、センサ等により検出困難な微粒子が発生する前の段階において、微粒子の発生原因を除去することができる。従って、健康に悪影響を与える微粒子の発生を効率よく抑制し、室内を清浄な状態に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】 本発明の実施の形態1による空気清浄機を示す縦断面図である。
【図2】 本発明の実施の形態1による空気清浄機の制御系統を示す構成図である。
【図3】 本発明の実施の形態1において、制御装置により実行される制御の一例を示すフローチャートである。
【図4】 本発明の実施の形態2による空気清浄機を示す縦断面図である。
【図5】 本発明の実施の形態3による空気清浄機を示す縦断面図である。
【図6】 本発明の実施の形態4において、制御装置により実行される制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、本明細書で使用する各図においては、共通する要素に同一の符号を付し、重複する説明を省略するものとする。また、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、本発明は、以下の各実施の形態に示す構成のうち、組合わせ可能な構成のあらゆる組合わせを含むものとする。
【0011】
実施の形態1.
まず、図1から図3を参照して、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1による空気清浄機を示す縦断面図である。また、図2は、空気清浄機の制御系統を示す構成図である。これらの図に示すように、本実施の形態の空気清浄機は、ケーシング1、吸込口2、吹出口3、送風機4、清浄化手段5、臭気物質検出手段6、光検出手段7、活性種検出手段8、制御装置9、風路10、埃検出手段13等を備えている。なお、図1において、吸込口2及び清浄化手段5の形状、構成及び配置は、実施可能な構成の一例を示すもので、本発明を限定するものではない。
【0012】
ケーシング1は、例えば略四角形の角筒状に形成され、部屋の床面と垂直な方向に延びたタワー型ケースにより構成されている。ケーシング1の内部には、送風機4、清浄化手段5、臭気物質検出手段6、光検出手段7、活性種検出手段8、制御装置9、風路10等が収納されている。ケーシング1の前面部または側面部には、室内の空気をケーシング1内に吸込む吸込口2が設けられている。吸込口2は、側面部に鉛直方向に延びた縦長の開口部として形成されてもよいし、前面部にパンチング等で開口を設けてもよい。
【0013】
ケーシング1の上面部には、清浄化手段5により清浄化された空気を吹出す略四角形状の吹出口3が設けられている。なお、以下の説明では、ケーシング1の側面部のうち、主として室内の空間に面して配置される部分を正面部と表記し、正面部と対向する部分を背面部と表記する。また、ケーシング1の正面部が面した方向を前方と表記し、前方からみたケーシング1の左右両側に対応する方向を左右方向と表記し、更に、場合によっては鉛直方向を上下方向と表記する。空気清浄機は、例えば部屋の何れかの壁に近い位置で床面上に設置され、ケーシング1の背面部を当該壁面に向けると共に、ケーシング1の正面部を室内の空間に向けた状態で使用される。
【0014】
送風機4は、吸込口2から空気を吸込んで当該空気を吹出口3から吹出すもので、制御装置9により回転数を制御可能な電動ファン等により構成されている。送風機4の吹出側には、送風機4から送出される空気を吹出口3に案内する風路10が設けられている。送風機4は、本実施の形態における送風手段の具体例を構成している。即ち、送風機4は、室内の空気を清浄化手段5に送風(供給)するように構成されている。
【0015】
清浄化手段5は、ケーシング1内を流れる空気を清浄化するように構成されたクリーナーである。清浄化手段5は、吸込口2と吹出口3との間に設けられている。ここで、清浄化とは、例えば空気中に浮遊する粒子、煙、花粉、ウイルス、カビ、菌、アレルゲン、臭気物質、イオン、ラジカル等からなる汚染物質を除去することを意味するもので、より具体的にはこれらの汚染物質を捕集したり、不活性化したり、吸着、分解する動作を意味している。詳しく述べると、清浄化手段5は、集塵フィルタ、脱臭フィルタ、電圧印加デバイス等の機器により構成されるか、これらの機器を組み合わせることにより構成されている。集塵フィルタは、空気中の粒子等を除去するもので、脱臭フィルタは、空気中の臭気物質を捕捉するものである。また、圧印加デバイスは、電極間に電圧を印加することで汚染物質を除去または不活性化するものである。電圧印加デバイスは、吸込口2の開口の一部に設けられていてもよいし、送風機4及び風路10と別個に設けられた他の風路に設置してもよい。
【0016】
臭気物質検出手段6は、室内に存在するガス状物質の量(濃度)を検出するものである。このようなガス状物質としては、例えば建材から発生する揮発性の有機化合物、人及びペット等から発生した脂肪酸等が挙げられる。また、ガス状物質には、生活の中で発生し、アルデヒド基、アルコール基を有する化合物(芳香族脂肪酸、アミン類等)も含まれる。なお、臭気物質検出手段6及び活性種検出手段8は、本実施の形態におけるガス検出器の具体例を構成している。ガス検出器は、活性種と臭気物質のうち少なくとも一方を含むガスを検出し、検出信号を生成するように構成されたものである。
【0017】
光検出手段7は、室内の光の強度を検出するもので、例えばフォトダイオードにより光を検出するセンサ、または、紫外線を検出するUVセンサ等により構成されている。なお、本明細書において、「光」とは、例えば紫外線のように、臭気物質を微粒子化する作用をもつ任意の波長の光を意味するものとする。また、光検出手段7としては、赤外センサを用いてもよい。赤外センサは、日射により室内の壁、床等の温度が上昇した場合に、この温度上昇を窓からの入光がある状態として検出可能である。また、光検出手段7としては、例えば紫外線、可視光等の存在下で光化学反応により発生する物質を検出することで光を間接的に検出するセンサを用いてもよい。なお、光検出手段7は、本実施の形態における光検出器に相当している。光検出手段7は、光を検出して検出信号を生成するように構成されている。また、本発明では、空気清浄機に時計機能を搭載し、日時及び時刻から日照時間を予測することで、光検出手段7を実現してもよい。
【0018】
活性種検出手段8は、室内の空気中に存在する活性種を検出するものである。なお、本明細書において、「活性種」とは、臭気物質等に対する反応性が高いイオン、オゾン、ラジカル等を意味するものとする。イオンは、電気的に偏りを有しているので、電圧を印加した導体間を通過するときにクーロン力を受ける。ラジカルは、分子・原子自体に電気的な偏りはないが、不対電子を有しているために反応性が高くなっている。
【0019】
埃検出手段13は、室内の塵埃を検出するもので、例えばLED等の発光部と、発光部の光を受光する受光部とを備えている。室内の空気は、発光部と受光部との間に導入される。埃検出手段13は、発光部と受光部との間を通過する空気中の塵埃の粒子数を光の透過率等として検出することができる。
【0020】
本発明において、臭気物質検出手段6、活性種検出手段8及び埃検出手段13は、空気中に微粒子を生成する原因物質を検出する予測検出手段の具体例を構成している。微粒子の原因物質とは、例えば臭気物質、光及び活性種である。即ち、空気中の臭気物質に対して光または活性種が作用することにより、ナノオーダーの微粒子が発生する。
【0021】
制御装置9は、予測検出手段の検出結果に基いて空気清浄機の運転を制御するコントローラであり、制御手段の具体例を構成している。制御装置9は、図示しない演算処理装置、入出力ポート及び記憶回路を備えている。制御装置9の入力側には、図2に示すように、臭気物質検出手段6、光検出手段7、活性種検出手段8及び埃検出手段13を含むセンサ系統が接続されている。制御装置9の出力側には、送風機4、清浄化手段5等を含むアクチュエータが接続されている。制御装置9は、センサ系統の各手段6,7,8,13から送信される検出信号を受信し、当該検出信号に基いて送風機4及び清浄化手段5を制御する。これにより、制御装置9は、空気清浄機を作動させ、各種の制御を実行する。この制御には、以下に述べる基本的な空気清浄動作と、空気清浄化能力アップ運転とが含まれている。
【0022】
(基本的な空気清浄動作)
空気清浄機の作動時には、制御装置9により送風機4、埃検出手段13、臭気物質検出手段6、光検出手段7、活性種検出手段8及び清浄化手段5が起動される。これにより、室内の空気が吸込口2からケーシング1の内部に吸込まれ、この空気は清浄化手段5により清浄化される。そして、清浄化された空気は、送風機4を通過して風路10に送風される。風路10を流れる空気は、吹出口3に到達し、外部に吹出す。このとき、制御装置9は、埃検出手段13及び臭気物質検出手段6により検出した空気中の汚染物質の量に基いて送風機4を制御する。この基本的な空気清浄動作は、空気中に含まれる塵埃の粒子数、及び、臭気物質の濃度が予め設定された基準値以下となるまで実施される。また、塵埃の粒子数及び臭気物質の濃度が前記基準値以下となった場合には、これらの粒子数及び濃度に対応して送風機4の出力が制御され、例えば出力が抑制される。
【0023】
(空気清浄化能力アップ運転)
空気清浄化能力アップ運転は、当該運転の非実行時と比較して、空気清浄機の空気清浄化能力を高くするものであり、換言すれば、清浄化手段5により汚染物質を除去、不活性化、分解、吸着する速度を高くする運転モードである。汚染物質は、前述のように、空気中の粒子、煙、花粉、ウイルス、カビ、菌、アレルゲン、臭気物質、イオン、ラジカル、光化学反応物等により構成される。空気清浄化能力アップ運転では、例えば送風機4の回転数を増加させ、ケーシング1の内部に吸込む空気の量を増加させることにより、清浄化手段5を通過する風量を増加させてもよい。これにより、除去・不活性化する速度を高速化することができる。
【0024】
また、清浄化手段5に電圧印加デバイスを搭載している場合には、空気清浄化能力アップ運転において、電圧印加デバイスに印加する電圧を高くすることにより、汚染物質を除去・不活性化する速度を増加させてもよい。これにより、送風機4の回転数を増加させることなく、空気清浄化能力を高くすることができる。従って、送風機4の回転数増加により発生する音を低減し、ユーザの快適性を向上することができる。さらには、電圧印加デバイスの印加電圧を高くすると共に、送風機4の回転数を増加させて電圧印加デバイスを通過する空気の風量を増加させてもよい。これにより、除去・不活性化する速度を更に高速化することができる。なお、電圧印加デバイスは、例えば吸込口2の開口部の一部、風路10の一部に設置してもよいし、吸込口2とは別の風路に設けた他の小型送風機に設置してもよいものである。
【0025】
[実施の形態1を実現するための具体的な処理]
次に、図3を参照して、空気清浄機の制御について説明する。図3は、本発明の実施の形態1において、制御装置9により実行される制御の一例を示すフローチャートである。この図に示すルーチンは、空気清浄機の電源がONであるときに繰返し実行され、電源がOFFとなった時点で停止するものとする。
【0026】
図3に示すルーチンでは、まず、ステップS100において、臭気物質検出手段6により室内の臭気物質の濃度を検出する。続いて、ステップS102では、検出された濃度が予め設定された第1の濃度判定値以上であるか否かを判定する。第1の濃度判定値は、例えば空気清浄化能力を高める必要がある臭気物質の濃度の最小値に対応して設定されている。即ち、ステップS102の判定が成立した場合には、臭気物質の濃度が許容限度を超えているので、他の条件に関係なく、空気清浄化能力を高めるのが好ましい。この場合には、ステップS114に移行し、空気清浄化能力アップ運転を実行した後に、ステップS100に戻り、本ルーチンを最初から繰返す。
【0027】
また、ステップS102の判定が不成立の場合には、ステップS104に移行し、臭気物質の濃度が予め設定された第2の濃度判定値以上であるか否かを判定する。第2の濃度判定値は、第1の濃度判定値よりも低い濃度に設定されている。また、第2の濃度判定値は、光または活性種と反応して微粒子が発生する臭気物質の濃度の最小値に対応して設定するのが好ましい。従って、ステップS104の判定が不成立の場合には、光及び活性種が存在しても、臭気物質が微粒子化して室内環境を悪化させるほど存在しないので、ステップS100に戻る。
【0028】
一方、ステップS104の判定が成立した場合に、臭気物質の濃度は、第1の濃度判定値未満であり、かつ、第2の濃度判定値以上と判定される。この濃度は、空気清浄化能力アップ運転が無条件に必要となるほど高くないが、光または活性種の存在により微粒子化して室内環境を悪化させる程度の濃度である。そこで、この場合には、ステップS106以降の処理により、光及び活性種の有無を判定する。具体例を挙げると、まず、ステップS106では、光検出手段7により室内の光を検出し、ステップS108では、光検出手段7の検出結果に基いて光の有無を判定する。
【0029】
ステップS108の判定が成立した場合には、室内に光が存在するので、ステップS114に移行し、空気清浄化能力アップ運転を実行する。また、ステップS108の判定が不成立の場合には、ステップS110に移行し、活性種検出手段8により室内の活性種を検出する。続いて、ステップS112では、活性種検出手段8の検出結果に基いて、活性種の有無を判定する。ステップS112の判定が成立した場合には、室内に活性種が存在するので、ステップS114に移行し、空気清浄化能力アップ運転を実行する。一方、ステップS112の判定が不成立の場合には、室内に光及び活性種が存在しないので、ステップS100に戻る。
【0030】
以上詳述した通り、本実施の形態によれば、予測検出手段である臭気物質検出手段6、光検出手段7及び活性種検出手段8の検出結果に基いて、空気清浄化能力アップ運転の実行及び停止を制御することができる。即ち、ナノオーダーの微粒子が室内で発生する原因(例えば臭気物質、光、活性種等)を検出し、これらの原因を空気清浄化能力アップ運転により除去または無効化することができる。また、臭気物質は、光により活性種に変化することが知られているが、臭気物質検出手段6と光検出手段7とを用いた制御により、臭気物質から活性種への変化も抑制することができる。このように、本実施の形態によれば、センサ等により検出困難な微粒子が発生する前の段階において、微粒子の原因物質を除去することができる。従って、健康に悪影響を与えるナノオーダーの微粒子の発生を効率よく抑制し、室内を清浄な状態に保持することができる。
【0031】
詳しく述べると、本実施の形態では、臭気物質検出手段6を備えているので、微粒子の主要な発生源である臭気物質の濃度を検出することができる。そして、臭気物質の濃度等に基いて、空気清浄化能力アップ運転の要否を判定することができる。また、本実施の形態では、光検出手段7及び活性種検出手段8を備えているので、臭気物質の濃度の検出結果に対して、光と活性種のうち少なくとも一方の検出結果を組合わせることができる。これにより、微粒子化の原因である光と活性種の存在状態を把握し、臭気物質が微粒子化する可能性をより正確に予測することができる。従って、この予測結果に基いて、空気清浄化能力アップ運転の実行及び停止をきめ細かく制御することができる。
【0032】
より具体的に述べると、本実施の形態では、臭気物質の濃度が第1の濃度判定値以上である場合に、空気清浄化能力アップ運転を実行するので、室内の臭気物質が多い場合には、空気清浄化能力を速やかに高くして臭気物質を効率よく除去することができる。また、臭気物質の濃度が第1の濃度判定値未満であっても、第2の濃度判定値以上である場合には、光または活性種の存在下で臭気物質が微粒子化する可能性がある。そこで、この場合には、光と活性種の少なくとも一方を検出した時点で、空気清浄化能力アップ運転を実行する。これにより、臭気物質の濃度だけでなく、光及び活性種の存在状態も制御に反映させることができ、空気清浄化能力アップ運転を的確に実行することができる。また、第1及び第2の濃度判定値に基いて運転を詳細に制御し、環境に応じた空気清浄化能力を発揮することができる。
【0033】
ここで、本願発明の背景及び効果ついて、更に説明する。本願発明者は、換気率0.5回の室内に日照がある場合とない場合の粒子数について、パーティクルカウンタにより粒子数を計測する実験を行った。この結果、日照がない場合には、粒子数の増減に変化が少ないものの、日照がある場合には、0.3?1ミクロン程度の大きさもつ粒子数が増加した。以前から、光化学により窒素酸化物が微粒子化することが示唆されていたが、近年では、室内に存在する揮発性の有機化合物に対して、イオン、オゾン、ラジカル、UV等が反応することにより微粒子が生成することが報告されている。上記実験では、この現象を裏付けるデータが得られた。一般に、家電製品に搭載されている埃センサの検出下限値は、1ミクロン程度といわれており、上記現象により発生する微粒子は、埃センサによる検出が困難である。これに対し、本実施の形態による空気清浄機は、1ミクロン以下の微粒子の発生を抑制し、室内を清浄な状態に保持することができる。
【0034】
なお、前記実施の形態1では、図3中のステップS102,S114が第1の制御手段の具体例を示し、ステップS104,S106,S108,S110,S112,S114が第2の制御手段の具体例を示している。また、本願明細書中に記載された「第1の濃度判定値」は、請求項6に記載された「第1の濃度判定値」だけでなく、請求項4,5に記載された「濃度判定値」にも対応するものである。
【0035】
また、本発明において、図3中に示すステップS106,S108の処理(光の検出及び判定処理)と、ステップS110,S112の処理(活性種の検出及び判定処理)とは、この図に示す順序に限定されるものではない。即ち、本発明では、活性種の検出及び判定処理を先に実行してから、光の検出及び判定処理を実行してもよいし、これら2種類の処理を並列に実行してもよい。
【0036】
また、本発明では、臭気物質の濃度のみに基いて空気清浄化能力アップ運転の要否を判定してもよい。また、活性種の有無を考慮せずに、臭気物質の濃度と光の有無とに基いて空気清浄化能力アップ運転の要否を判定してもよいし、光の有無のみに基いて空気清浄化能力アップ運転の要否を判定してもよい。さらには、光の有無を考慮せずに、臭気物質の濃度と活性種の有無とに基いて空気清浄化能力アップ運転の要否を判定してもよい。
【0037】
また、本発明において、第1の濃度判定値は、例えば人が感知可能な臭気物質の濃度に対応して設定してもよいし、人が不快に感じる濃度に対応して設定してもよい。また、本発明では、第2の濃度判定値を用いずに、臭気物質の濃度と第1の濃度判定値との大小関係のみに基いて空気清浄化能力アップ運転を実行及び停止する構成としてもよい。また、第2の濃度判定値を使用しない場合には、例えば臭気物質の濃度が第1の濃度判定値未満であり、かつ、室内において光と活性種のうち少なくとも一方が検出された場合に、空気清浄機の空気清浄化能力を高くする構成としてもよい。この構成でも、光及び活性種の存在状態を制御に反映させることができ、前述の効果を得ることができる。
【0038】
実施の形態2.
次に、図4を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。図4は、本発明の実施の形態2による空気清浄機を示す縦断面図である。この図に示すように、本実施の形態による空気清浄機は、実施の形態1とほぼ同様の構成を有しているが、開口可変機構11、回転機構21及び台座22を備えている。
【0039】
開口可変機構11は、吹出口3の開口面積を変更するもので、例えば板状の部材により形成されている。開口可変機構11の端部は、例えば吹出口3の開口、風路10等に揺動可能に取付けられている。開口可変機構11は、開口駆動部12により前後方向に揺動され、その揺動角に応じて吹出口3の開口面積が変化する。開口駆動部12は、制御装置9により駆動される。回転機構21は、台座22と共にケーシング1を支持するもので、ケーシング1と台座22との間に設けられている。回転機構21は、制御装置9により駆動され、ケーシング1及び吹出口3を台座22上で水平方向に回転させる。
【0040】
空気清浄化能力アップ運転では、例えば実施の形態1と同様の制御(図3参照)を実行する。このとき、制御装置9は、開口可変機構11により吹出口3の開口面積を狭くすることで、吹出口3から吹出す空気の速度を増加させる。これにより、室内空気が清浄化される速度を高くして、空気清浄化能力を向上させることができる。また、空気清浄化能力アップ運転では、回転機構21によりケーシング1を回転させることで、検出された汚染物質が最も効率よく除去できる方向にケーシング1を向けることができる。これにより、汚染物質の除去運転を効率よく実行することができる。
【0041】
開口可変機構11を用いて吹出口3を狭くする場合には、吹出し空気の流路抵抗が増加し、圧損が大きくなる。従って、送風機4の駆動力を増加させることにより、吹出口3から吹出す空気の風量を低下させないことが好ましい。具体的に述べると、制御装置9は、例えば送風機4に供給する駆動電流を増加させることにより、吹出口3から吹出す空気の風量を一定に保持する。この制御によれば、吹出口3が狭くなって圧損が大きくなった場合でも、所望の風量を安定的に確保することができる。
【0042】
このように構成される本実施の形態でも、前記実施の形態1とほぼ同様の作用効果を得ることができる。また、本実施の形態によれば、開口可変機構11及び回転機構21を用いることにより、空気清浄化能力アップ運転での空気の清浄化効率を更に向上させることができる。
【0043】
実施の形態3.
次に、図5を参照して、本発明の実施の形態3について説明する。図5は、本発明の実施の形態3による空気清浄機を示す縦断面図である。この図に示すように、本実施の形態による空気清浄機は、実施の形態1とほぼ同様の構成を有し、また、実施の形態2で述べた回転機構21及び台座22を備えている。さらに、本実施の形態による空気清浄機は、送風機4A,4B、風路10A,10B及び開口可変機構11A,11B及び電圧印加デバイス51を備えている。なお、送風機4A,4B、風路10A,10B及び開口可変機構11A,11Bは、それぞれ送風機4、風路10及び開口可変機構11と同様の機能を有するものである。
【0044】
本実施の形態では、ケーシング1内に2つの空気流路を互いに並列に設けている。第1の空気流路は、送風機4A、風路10A及び開口可変機構11Aを備えており、第2の空気流路は、電圧印加デバイス51、送風機4B、風路10B及び開口可変機構11Bを備えている。送風機4Bは送風機4Aに対して後側に配置されている。これにより、清浄化手段5と送風機4Bとの間に隙間を確保し、この隙間に電圧印加デバイス51を設置することができる。
【0045】
電圧印加デバイス51は、クリーナー(清浄化手段)の少なくとも一部を構成するもので、例えば樹脂製のケーシングと、ケーシング内に設けられた金属製の放電電極及び対向電極とを備えている。放電電極には、例えば4?7kV、または-4?-7kVの電圧が印加され、これによって電極間に放電空間が形成される。ウイルス、菌、カビ、花粉、アレルギー原因物質等の粒子は、上記放電空間を通過することにより不活性化される。また、臭気物質は、上記放電空間を通過することにより分解、脱臭される。
【0046】
空気清浄機の作動時には、送風機4A,4B、開口可変機構11A,11B及び電圧印加デバイス51が駆動される。これにより、吸込口2から吸込まれた空気の一部は、清浄化手段5、送風機4A及び風路10Aを順次通過した後に、開口可変機構11Aにより案内されながら吹出口3から吹出す。残りの空気は、清浄化手段5、電圧印加デバイス51、送風機4B及び風路10Bを順次通過した後に、開口可変機構11Bにより案内されながら吹出口3から吹出す。
【0047】
空気清浄化能力アップ運転では、送風機4Bの風量を増加させることにより、電圧印加デバイス51を通過する風量を増加させる。この結果、電圧印加デバイス51による臭気物質の分解を促進し、臭気物質に起因する微粒子の発生を抑制することができる。また、電圧印加デバイス51の放電電圧を増加させたり、放電電流を増加させることにより、空気清浄化能力を向上させてもよい。
【0048】
このように構成される本実施の形態でも、前記実施の形態1とほぼ同様の作用効果を得ることができる。また、本実施の形態によれば、電圧印加デバイス51の通過風量、放電電圧、放電電流等を増加させることにより、空気清浄化能力アップ運転での空気の清浄化効率を更に向上させることができる。
【0049】
実施の形態4.
次に、図6を参照して、本発明の実施の形態4について説明する。図6は、本発明の実施の形態4において、制御装置により実行される制御の一例を示すフローチャートである。本実施の形態は、制御装置9に備えられた時計機能を利用するものであり、前記実施の形態1から3で述べた何れの空気清浄機に適用してもよい。
【0050】
図6に示すルーチンでは、まず、ステップS200において、制御装置9の時計機能により現在の時刻を確認する。ステップS202では、設定時刻となったか否かを判定する。なお、設定時刻は、ユーザにより所望の時刻に設定してもよいし、日の出時刻から所望の時間だけ前の時刻として設定してもよい。ステップS202の判定が成立した場合には、ステップS204に移行し、送風機4の駆動を開始する。この結果、送風機4により吸い込まれた室内空気が臭気物質検出手段6の位置にも到達するようになるので、ステップS206に移行する。一方、ステップS202の判定が不成立の場合には、ステップS200に戻り、当該判定が成立するまで待機する。
【0051】
次に、ステップS206では、臭気物質検出手段6により空気中の臭気物質の濃度を検出する。続いて、ステップS208では、検出した濃度が予め設定された濃度判定値以上であるか否かを判定する。なお、濃度判定値としては、例えば前記第1,2の濃度判定値のうち、何れかの濃度判定値を用いてもよい。ステップS208の判定が成立した場合には、ステップS210に移行し、空気清浄化能力アップ運転を実行する。一方、ステップS208の判定が不成立の場合には、ステップS206に戻り、当該判定が成立するまで待機する。
【0052】
このように構成される本実施の形態でも、前記実施の形態1とほぼ同様の作用効果を得ることができる。また、本実施の形態によれば、制御装置9の時計機能を利用して、室内に日光が入る前に臭気物質を除去することができる。これにより、室内の臭気物質が日光と反応して微粒子が発生するのを抑制し、例えばユーザが活動を開始するまでの間に室内を清浄な状態にしておくことができる。
【符号の説明】
【0053】
1 ケーシング、2 吸込口、3 吹出口、4,4A,4B 送風機(送風手段)、5 清浄化手段(クリーナー)、6 臭気物質検出手段(ガス検出器、予測検出手段)、7 光検出手段(光検出器、予測検出手段)、8 活性種検出手段(ガス検出器、予測検出手段)、9 制御装置(コントローラ、制御手段)、10,10A,10B 風路、11,11A,11B 開口可変機構、12 開口駆動部、13 埃検出手段、21 回転機構、22 台座、51 電圧印加デバイス(クリーナー、清浄化手段)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、
空気を送風するように構成された送風機と、
前記送風機により送風される空気を前記ケーシング内で清浄化するように構成された清浄化手段と、
活性種を含むガスを検出するように構成されたガス検出器と、を備え、
前記ガス検出器により前記活性種が検出されたときに、前記清浄化手段と前記送風機のうち少なくとも一方の駆動状態が変化して空気清浄化能力を高くする空気清浄機。
【請求項2】
空気を送風するように構成された送風機と、
前記送風機により送風される空気を清浄化するように構成された清浄化手段と、
室内の紫外線を検出するように構成された光検出器と、を備え、
前記光検出器により前記紫外線が検出されたときに、前記清浄化手段と前記送風機のうち少なくとも一方の駆動状態が変化して空気清浄化能力を高くする空気清浄機。
【請求項3】
前記ガス検出器の検出結果に基いて前記清浄化手段と前記送風機のうち少なくとも一方を制御するコントローラを備えた請求項1に記載の空気清浄機。
【請求項4】
前記光検出器の検出結果に基いて前記清浄化手段と前記送風機のうち少なくとも一方を制御するコントローラを備えた請求項2に記載の空気清浄機。
【請求項5】
光を検出するように構成された光検出器と、
前記ガス検出器及び前記光検出器の検出結果に基いて前記清浄化手段と前記送風機のうち少なくとも一方を制御するコントローラと、
を備えた請求項1に記載の空気清浄機。
【請求項6】
前記コントローラは、前記ガス検出器により検出された前記ガスの一つである臭気物質の濃度が予め設定された濃度判定値以上である場合に、前記清浄化手段と前記送風機のうち少なくとも一方を制御して空気清浄機の空気清浄化能力を高くする請求項3または5に記載の空気清浄機。
【請求項7】
前記コントローラは、前記ガス検出器により検出された前記ガスの一つである臭気物質の濃度が予め設定された濃度判定値未満であり、かつ、前記活性種と光のうち少なくとも一方が前記ガス検出器または前記光検出器により検出された場合に、前記清浄化手段と前記送風機のうち少なくとも一方を制御して空気清浄機の空気清浄化能力を高くする請求項5に記載の空気清浄機。
【請求項8】
予め設定された第1の濃度判定値と、前記第1の濃度判定値よりも低い濃度に設定された第2の濃度判定値と、を有し、
前記コントローラは、
前記ガス検出器により検出された前記ガスの一つである臭気物質の濃度が前記第1の濃度判定値以上である場合に、前記清浄化手段と前記送風機のうち少なくとも一方を制御して空気清浄機の空気清浄化能力を高くする機能と、
前記臭気物質の濃度が前記第1の濃度判定値未満であって前記第2の濃度判定値以上であり、かつ、室内において前記活性種と光のうち少なくとも一方が前記ガス検出器または前記光検出器により検出された場合に、空気清浄機の空気清浄化能力を高くする機能と、
を備えた請求項5に記載の空気清浄機。
【請求項9】
前記清浄化手段は、少なくとも臭気物質を清浄化する機能を備えた請求項3から8のうち何れか1項に記載の空気清浄機。
【請求項10】
前記清浄化手段により清浄化された空気を吹出す吹出口と、
前記吹出口を回転させる回転機構と、を備え、
前記コントローラは、空気清浄機の空気清浄化能力を高くするときに、前記回転機構を駆動して前記吹出口を回転させる請求項6から8のうち何れか1項に記載の空気清浄機。
【請求項11】
前記清浄化手段は、電極間に電圧を印加して空気を清浄化する電圧印加デバイスを備え、
前記コントローラは、空気清浄機の空気清浄化能力を高くするときに、前記電圧印加デバイスの通過風量、放電電圧または放電電流を増加させる請求項6から8のうち何れか1項に記載の空気清浄機。
【請求項12】
前記コントローラは時計機能を備え、室内に日光が入る前の時刻に前記検出結果に基いて空気清浄機の運転を制御する請求項3から11のうち何れか1項に記載の空気清浄機。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-11-02 
出願番号 特願2016-556387(P2016-556387)
審決分類 P 1 652・ 161- YAA (F24F)
P 1 652・ 121- YAA (F24F)
P 1 652・ 113- YAA (F24F)
P 1 652・ 537- YAA (F24F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 河野 俊二  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 宮崎 賢司
佐々木 正章
登録日 2017-09-08 
登録番号 特許第6202219号(P6202219)
権利者 三菱電機株式会社
発明の名称 空気清浄機  
代理人 高田 守  
代理人 高橋 英樹  
代理人 小澤 次郎  
代理人 高田 守  
代理人 小澤 次郎  
代理人 高橋 英樹  

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