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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
管理番号 1347625
異議申立番号 異議2018-700329  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-04-18 
確定日 2018-11-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6216196号発明「ポリアミド樹脂組成物および当該ポリアミド樹脂組成物を含有する成形体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6216196号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-17〕について訂正することを認める。 特許第6216196号の請求項〔1-17〕に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6216196号の請求項1?17に係る特許についての出願は、平成25年9月18日に出願され、平成29年9月29日にその特許権の設定登録がされ、同年10月18日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成30年4月18日に特許異議申立人である野中恵(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、同年6月11日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である同年8月9日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)を行い、その訂正の請求に対して、申立人は、同年9月21日に意見書を提出した。

2 訂正の適否についての判断
(1)本件訂正請求の内容
本件訂正請求の内容は、以下のア?コのとおりである。なお、訂正箇所を分かりやすくするために、当審において下線を付した。

ア 訂正事項1
請求項1に、
「ポリアミド樹脂(A)、
前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して10?100質量部の繊維状または針状フィラー(B)、および
前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して0.05?5質量部の染料(C)を含有するポリアミド樹脂組成物であって、
前記染料(C)が、5%熱減量温度が290℃以上のアジン系染料である、ポリアミド樹脂組成物。」と記載されているのを、
「ポリアミド樹脂(A)、
前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して10?100質量部の繊維状または針状フィラー(B)、および
前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して0.05?5質量部の染料(C)を含有するポリアミド樹脂組成物であって、
前記染料(C)が、5%熱減量温度が290℃以上のアジン系染料であり、前記染料(C)の塩素含有率が、前記染料(C)の全質量に対して0.06質量%以下である、ポリアミド樹脂組成物。」と訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?17も同様に訂正されることになる。)。

イ 訂正事項2
請求項13に、
「前記染料(C)の塩素含有率が、前記染料(C)の全質量に対して0.08質量%以下である」と記載されているのを、
「前記染料(C)の塩素含有率が、前記染料(C)の全質量に対して0.04質量%以下である」と訂正する(請求項13の記載を直接的又は間接的に引用する請求項14?17も同様に訂正されることになる。)。

ウ 訂正事項3
段落【0009】に、
「〔1〕ポリアミド樹脂(A)、
前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して10?100質量部の繊維状または針状フィラー(B)、および
前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して0.05?5質量部の染料(C)を含有するポリアミド樹脂組成物であって、
前記染料(C)の5%熱減量温度が280℃以上である、ポリアミド樹脂組成物;」及び
「〔12〕前記染料(C)が、5%熱減量温度が280℃以上のアジン系染料である、上記〔1〕?〔11〕のいずれかのポリアミド樹脂組成物;
〔13〕前記染料(C)の塩素含有率が、前記染料(C)の全質量に対して0.08質量%以下である、上記〔1〕?〔12〕のいずれかのポリアミド樹脂組成物;」と記載されているのを、
「〔1〕ポリアミド樹脂(A)、
前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して10?100質量部の繊維状または針状フィラー(B)、および
前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して0.05?5質量部の染料(C)を含有するポリアミド樹脂組成物であって、
前記染料(C)が、5%熱減量温度が290℃以上のアジン系染料であり、前記染料(C)の塩素含有率が、前記染料(C)の全質量に対して0.06質量%以下である、ポリアミド樹脂組成物;」及び
「〔12〕前記アジン系染料(C)が、5%熱減量温度が300℃以上のアジン系染料である、上記〔1〕?〔11〕のいずれかのポリアミド樹脂組成物;
〔13〕前記染料(C)の塩素含有率が、前記染料(C)の全質量に対して0.04質量%以下である、上記〔1〕?〔12〕のいずれかのポリアミド樹脂組成物;」と訂正する。

エ 訂正事項4
段落【0013】に、
「本発明は、ポリアミド樹脂(A)、前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、10?100質量部の繊維状または針状フィラー(B)および0.05?5質量部の染料(C)を含有するポリアミド樹脂組成物であって、前記染料(C)の5%熱減量温度が280℃以上である、ポリアミド樹脂組成物である。」と記載されているのを、
「本発明は、ポリアミド樹脂(A)、前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、10?100質量部の繊維状または針状フィラー(B)および0.05?5質量部の染料(C)を含有するポリアミド樹脂組成物であって、前記染料(C)が、5%熱減量温度が290℃以上のアジン系染料であり、前記染料(C)の塩素含有率が、前記染料(C)の全質量に対して0.06質量%以下である、ポリアミド樹脂組成物である。」と訂正する。


オ 訂正事項5
段落【0047】に、
「[染料(C)]
本発明で使用される染料(C)は5%熱減量温度が280℃以上であり、このような5%熱減量温度を有する染料(C)を用いることで、得られるポリアミド樹脂組成物の溶融滞留安定性を向上させることができる。染料(C)の5%熱減量温度としては、290℃以上が好ましく、295℃以上がより好ましく、300℃以上がさらに好ましい。」と記載されているのを、
「[染料(C)]
本発明で使用される染料(C)は5%熱減量温度が290℃以上であり、このような5%熱減量温度を有する染料(C)を用いることで、得られるポリアミド樹脂組成物の溶融滞留安定性を向上させることができる。染料(C)の5%熱減量温度としては、295℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましい。」と訂正する。


カ 訂正事項6
段落【0048】に、
「5%熱減量温度が280℃以上である染料(C)を用いることで得られるポリアミド樹脂組成物の溶融滞留安定性が改善できる理由は定かではないが、本発明者らは染料の分解物(ラジカル、塩酸等)がポリアミドの劣化を促進していると推定している。」と記載されているのを、
「5%熱減量温度が290℃以上である染料(C)を用いることで得られるポリアミド樹脂組成物の溶融滞留安定性が改善できる理由は定かではないが、本発明者らは染料の分解物(ラジカル、塩酸等)がポリアミドの劣化を促進していると推定している。」と訂正する。

キ 訂正事項7
段落【0049】に、
「染料(C)としては、本発明のポリアミド樹脂組成物を成形して得られる成形体の表面性が著しく向上できるという観点から、アジン系染料が好適であり、」及び「なお、上記のアジン系化合物などのアジン系染料は、後述の実施例および比較例が示すように、すべてが280℃以上の5%熱減量温度を有するものではない。したがって、5%熱減量温度が280℃以上の染料(C)を得るには、アジン系染料等について実際に5%熱減量温度を測定し、適宜選別すればよい。」と記載されているのを、
「染料(C)は、本発明のポリアミド樹脂組成物を成形して得られる成形体の表面性が著しく向上できるという観点から、アジン系染料であり、」及び「なお、上記のアジン系化合物などのアジン系染料は、後述の実施例および比較例が示すように、すべてが290℃以上の5%熱減量温度を有するものではない。したがって、5%熱減量温度が290℃以上の染料(C)を得るには、アジン系染料等について実際に5%熱減量温度を測定し、適宜選別すればよい。」と訂正する。

ク 訂正事項8
段落【0050】に、
「塩素含有率としては染料(C)の全質量に対し、0.08質量%以下が好ましく、0.06質量%以下がより好ましい。」と記載されているのを、
「塩素含有率は染料(C)の全質量に対し、0.06質量%以下であり、0.04質量%以下がより好ましい。」と訂正する。


ケ 訂正事項9
段落【0082】に、
「<染料>
<C-1>オリエント化学工業株式会社製「Nubian Black TH-827」(アジン系染料)、5%熱減量温度=301℃、塩素含有量0.04質量%
<C-2>オリエント化学工業株式会社製「Nubian Black AH-827」(アジン系染料)、5%熱減量温度=276℃、塩素含有量1.8質量%
<C-3>オリエント化学工業株式会社製「Nubian Black PA-2800」(アジン系染料)、5%熱減量温度=268℃、塩素含有量2.3質量%」と記載されているのを、
「<染料(C)>
<C-1>オリヱント化学工業株式会社製「Nubian Black TH-827」(アジン系染料)、5%熱減量温度=301℃、塩素含有率0.04質量%
<C-2>オリヱント化学工業株式会社製「Nubian Black AH-827」(アジン系染料)、5%熱減量温度=276℃、塩素含有率1.8質量%
<C-3>オリヱント化学工業株式会社製「Nubian Black PA-2800」(アジン系染料)、5%熱減量温度=268℃、塩素含有率2.3質量%」と訂正する。


コ 訂正事項10
段落【0086】に、
「実施例1?10は、5%熱減量温度が280℃以上である染料<C-1>を含有するため、耐熱性、耐ドローダウン性、溶融滞留安定性、機械的強度、耐薬品性、ブロー成形性、表面性が良好であった。」と記載されているのを、
「実施例1?10は、5%熱減量温度が290℃以上のアジン系染料であり、塩素含有率が染料(C)の全質量に対して0.06質量%以下である染料<C-1>を含有するため、耐熱性、耐ドローダウン性、溶融滞留安定性、機械的強度、耐薬品性、ブロー成形性、表面性が良好であった。」と訂正する。

(2)一群の請求項、訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

ア 一群の請求項について
訂正事項1は訂正前の請求項1?17を訂正し、訂正事項2は訂正前の請求項13?17を訂正するものであるところ、本件訂正前の請求項2?17及び請求項14?17は、それぞれ訂正請求の対象である請求項1及び13の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前の請求項1?17は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項であって、訂正事項1?2による本件訂正は、同規定による一群の請求項ごとにされたものである。

イ 訂正事項1による訂正について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明のアジン系染料(C)を、当該染料(C)の全質量に対して0.06質量%以下の塩素含有率であるものに減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件特許の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0050】には、「塩素含有率としては染料(C)の全質量に対し・・・0.06質量%以下がより好ましい。」と記載されており、訂正事項1は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

ウ 訂正事項2による訂正について
訂正事項2は、訂正前の請求項13に係る発明のアジン系染料(C)の塩素含有率を、当該染料(C)の全質量に対して0.04質量%以下の塩素含有率であるものに減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件特許の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0082】及び表1には、上記染料(C)の塩素含有率がその全質量に対し0.08質量%以下であるものとして、塩素含有率が0.04質量%であるものを用いた実施例1?10が記載されており、訂正事項2は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

エ 訂正事項3?10による訂正について
訂正事項3?10は、いずれも特許請求の範囲の記載と明細書の記載とを整合するための訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項3?10は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

オ 特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて
本件の特許異議の申立ては、訂正前の全請求項である請求項1?17に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

カ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定にも適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?17〕について訂正することを認める。

3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?17に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明17」という。また、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?17に記載された次の事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
ポリアミド樹脂(A)、
前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して10?100質量部の繊維状または針状フィラー(B)、および
前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して0.05?5質量部の染料(C)を含有するポリアミド樹脂組成物であって、
前記染料(C)が、5%熱減量温度が290℃以上のアジン系染料であり、前記染料(C)の塩素含有率が、前記染料(C)の全質量に対して0.06質量%以下である、ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂(A)が、前記ポリアミド樹脂(A)を構成する全ジアミン単位中、炭素数4?18の脂肪族ジアミン単位を50?100モル%含有し、かつ前記ポリアミド樹脂(A)を構成する全ジカルボン酸単位中、芳香族ジカルボン酸単位および/または脂環式ジカルボン酸単位を50?100モル%含有する、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記脂肪族ジアミン単位が、1,4-ブタンジアミン単位、1,5-ペンタンジアミン単位、1,6-ヘキサンジアミン単位、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン単位、1,8-オクタンジアミン単位、1,9-ノナンジアミン単位、2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位および1,10-デカンジアミン単位からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記脂肪族ジアミン単位が、1,9-ノナンジアミン単位および/または2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位である、請求項3に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記芳香族ジカルボン酸単位がテレフタル酸単位である、請求項2?4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記脂環式ジカルボン酸単位が1,4-シクロヘキサンジカルボン酸単位である、請求項2?5のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリアミド樹脂(A)が、さらに、ラクタム単位および/またはアミノカルボン酸単位を含有する、請求項2?6のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリアミド樹脂(A)の融点が260?350℃である、請求項1?7のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項9】
前記繊維状または針状フィラー(B)が異形断面形状を有する、請求項1?8のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項10】
前記繊維状または針状フィラー(B)の、断面長径D1、断面短径D2で表わされる異形断面形状の異形比D1/D2が1.2?10である、請求項9に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項11】
前記繊維状または針状フィラー(B)がガラス繊維である、請求項1?10のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項12】
前記アジン系染料(C)が、5%熱減量温度が300℃以上のアジン系染料である、請求項1?11のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項13】
前記染料(C)の塩素含有率が、前記染料(C)の全質量に対して0.04質量%以下である、請求項1?12のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項14】
前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、さらに、滴下防止剤(D)を0.1?10質量部含有する、請求項1?13のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項15】
請求項1?14のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を含有する成形体。
【請求項16】
請求項1?14のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を含有するブロー成形体。
【請求項17】
請求項16に記載のブロー成形体を含む自動車用EGRパイプ。

4 特許異議の申立て及び取消理由通知の概要について
(1)特許異議申立書に記載された申立ての理由
訂正前の請求項1?17に係る特許に対し、申立人が特許異議申立書(以下、「申立書」という。)において申立てていた特許異議の申立ての理由は、概略、本件訂正前の請求項1?17に係る発明についての本件特許は、ア?ウの取消理由(i)?(iii)により、取り消されるべきものであるというものである。また、申立人は、証拠方法として、甲第1号証?甲第6号証を提出した。(以下、それぞれ「甲1」?「甲6」ともいう。)

ア 取消理由(i)(甲1に基づく新規性)
請求項1?8、11?13、15及び16に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

イ 取消理由(ii)(甲1?甲6に基づく進歩性)
請求項9?10、13?14、及び17に係る発明は、甲1に記載された発明、及び甲3?6の記載事項から当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

ウ 取消理由(iii)(サポート要件)
請求項1?17に係る特許は、その特許請求の範囲が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

エ 証拠方法
甲第1号証:特開2010-84111号公報
甲第2号証:一般財団法人化学物質評価研究機構が平成30年4月9日付 で作成した、中央合成化学株式会社製染料「OIL BLA CK S」の熱重量測定試験結果
甲第3号証:特開2009-161748号公報
甲第4号証:特開2007-31505号公報
甲第5号証:特開2001-11055号公報
甲第6号証:国際公開2011/111713号

(2)当審合議体が通知した取消理由
本件訂正前の請求項1?17に係る発明に対して当審合議体が平成30年6月11日付け取消理由通知書で通知した取消理由は、概略、以下のとおりである。なお、後述する6のとおり、申立人が主張する取消理由(iii)は採用しなかった。

ア 取消理由1(甲1?甲2に基づく新規性)/申立書における取消理由(i)と同旨)
請求項1?5及び8に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、請求項1?5及び8に係る発明についての本件特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

イ 取消理由2(甲1?甲4及び甲6、並びに、職権調査で発見した引用文献7?10に基づく進歩性)/申立書における取消理由(ii)と同旨)
請求項1?17に係る発明は、甲1に記載された発明、甲2?甲4及び甲6、並びに引用文献7?10に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

引用文献7:特開2010-168559号公報
引用文献8:特開2000-290497号公報
引用文献9:特開平11-116765号公報
引用文献10:特開平3-183524号公報

5.当審の判断
以下に述べるように、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件発明1?17についての本件特許を取り消すことはできない。

(1)甲1に記載された事項及び甲1発明
ア 甲1の記載事項
(ア)「【請求項1】
テレフタル酸単位を40?100モル%含有するジカルボン酸単位と炭素数4?18の脂肪族ジアミン単位を60?100モル%含有するジアミン単位を有するポリアミド(I)、ニグロシンおよび/またはその誘導体(II)ならびに繊維長が3mm以上である繊維状強化材(III)を、ポリアミド(I)100質量部に対して、ニグロシンおよび/またはその誘導体(II)が0.01?10質量部および繊維状強化材(III)が5?300質量部となる割合で含む、引き抜き成形法により得られる長繊維強化ポリアミド組成物。
・・・
【請求項4】
前記炭素数4?18の脂肪族ジアミン単位が1,9-ノナンジアミン単位および/または2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位である請求項1?3のいずれかに記載の長繊維強化ポリアミド組成物。」

(イ)「【0006】このような問題を解決し、より高度の機械的強度を付与するために、ポリアミドに長繊維(例えば長さ3mm以上のガラス繊維)を配合する技術が知られている。例えば、特定の半芳香族ポリアミドと、繊維長が3mm以上である繊維状強化材を含む長繊維強化半芳香族ポリアミド樹脂組成物が、特に耐熱老化性に優れ、高温下に長時間晒されるような条件下においても高度の機械的強度を維持することが知られている(特許文献11参照)。
【0007】しかしながら、従来の長繊維強化半芳香族ポリアミド樹脂組成物であっても、繊維状強化材の破損、分散不良による成形品の機械的特性の低下が生じる場合があり、機械的特性の向上にはさらなる改良の余地があった。加えて、引き抜き成形法により従来の長繊維強化半芳香族ポリアミド樹脂組成物を製造した場合には、使用されるクロスヘッドダイの出口において、長繊維を構成するフィラメントの切断により生成した糸状繊維(ケバ)が発生し、それによってストランド切れが生じ、当該長繊維強化半芳香族ポリアミド樹脂組成物の生産性が低下する場合があった。
また半芳香族ポリアミドが十分な機械的特性を発現するためには、脂肪族ポリアミドと比較して溶融粘度が高くなるような範囲に分子量を設定することが好ましいが、溶融粘度を高くすると、引き抜き成形法により長繊維強化ポリアミド組成物を製造する際の繊維状強化材に樹脂を含浸させる工程において樹脂が十分に繊維状強化材間に含浸しにくくなる傾向がある。そのため長繊維強化ポリアミド組成物自体の生産性が低下したり、樹脂の繊維状強化材への含浸性を向上させるための特殊な装置が必要となったりすることがあった。
・・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0009】本発明は、表面美麗性に優れるとともに、機械的特性に一層優れ、耐疲労性にも優れた成形品を与え得る長繊維強化ポリアミド組成物やそれからなるペレットを提供することを課題とする。また本発明は、当該長繊維強化ポリアミド組成物やペレットを成形することにより得られる、表面美麗性、機械的特性および耐疲労性に優れた成形品を提供することを課題とする。さらに本発明は、特殊な装置を使用しなくても樹脂の繊維状強化材への含浸性を改善し、生産性を向上させることができる、長繊維強化ポリアミド組成物の製造方法を提供することを課題とする。」

(ウ)「【0029】ニグロシンおよび/またはその誘導体(II)として使用されるニグロシンは、トリフェナジンオキサジン系化合物やフェナジンアジン系化合物等のアジン系化合物を含む、黒色のアジン系縮合混合物であるとされている。本発明において使用されるニグロシンとしては、例えば、アニリン、アニリン塩酸塩およびニトロベンゼン(またはニトロフェノール)を、塩化鉄等の鉄化合物または銅化合物の存在下に加熱(例えば、160?200℃)し酸化および脱水縮合して製造されたもの[例えば、英国染料染色学会発行のカラーインデックスにC.I.Solvent Black 5やC.I.Solvent Black 7として記載されているもの]や、そのようにして得られた生成物をスルホン化して水溶性を付与したもの[例えば、英国染料染色学会発行のカラーインデックスにC.I.Acid Black 2として記載されているもの]などが挙げられる。
市販されているニグロシンの例としては、オリヱント化学工業株式会社製のNUBIAN(登録商標) BLACK PA-2800、NUBIAN(登録商標) BLACK PA-9801や、中央合成化学株式会社製の「オイルブラックS」等が挙げられる。
【0030】ニグロシンおよび/またはその誘導体(II)として使用されるニグロシン誘導体としては、例えば、ニグロシンの硫酸および/またはリン酸塩(例えば、特開2001-11055号に記載されたもの)、ニグロシンとアニオン系界面活性剤との反応物(例えば、国際公開第00/26302号パンフレットに記載されたもの)等が挙げられる。」

(エ)「【実施例】
【0048】以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例および比較例において採用された、ポリアミドの極限粘度[η]の測定方法;ペレットの生産性の評価方法;樹脂の含浸性の評価方法;成形品(試験片)の作製方法;成形品の引張り強さ、耐衝撃性(ノッチ付きシャルピー衝撃値)および疲労特性の各評価方法;成形品に含まれる繊維状強化材の重量平均繊維長の測定方法;成形品の外観の評価方法を以下に示す。
【0049】
ポリアミドの極限粘度[η]の測定
濃度が0.05g/dl、0.1g/dl、0.2g/dlおよび0.4g/dlであるポリアミドの濃硫酸溶液を調製し、それぞれの濃硫酸溶液について、ウベローデ粘度計を使用して30℃における溶液粘度を測定した。得られた濃度と溶液粘度の関係から濃度0g/dlに外挿した際の溶液粘度を求めて、これを極限粘度[η]とした。
【0050】
ペレットの生産性の評価
引き抜き成形法により長繊維強化ポリアミド組成物を製造してペレット化する際におけるストランド切れの発生の度合いを評価した。ストランド切れが無いものを「○」、ストランド切れが軽微であるものを「△」、ストランド切れが頻繁であるものを「×」と評価した。
【0051】
樹脂の含浸性の評価
以下の実施例および比較例で得られた長繊維強化ポリアミド組成物または繊維強化ポリアミド組成物のペレットを使用して、次の(i)から(iv)の方法に従い樹脂の含浸性を評価した。
(i)ペレット約5gの質量を精秤する。
(ii)(i)のペレットを水に浸漬させた状態で23℃の真空乾燥機に入れ、3分間真空状態(約10kPa)を保ち、ペレットの空隙部分に水を浸透させる。
(iii)(ii)のペレットを水から取り出し、その質量を精秤する。
(iv)(i)で精秤した水に浸漬前のペレットの質量をWa(g)、(iii)で精秤した水に浸漬後のペレットの質量をWb(g)、ペレットの密度をρa(g/cm^(3))、水の密度をρb(g/cm^(3))として、Va=Wa/ρa、Vb=(Wb-Wa)/ρbとしたしたときに、含浸性V(%)を、次式(3)に基づいて算出する。
V(%)=100×Va/(Va+Vb) (3)
【0052】成形品(試験片)の作製
住友重機械工業株式会社製の射出成形機(型締力:100トン、スクリュー径:φ32mm)を使用して、実施例1および比較例1?3についてはシリンダー温度320℃および金型温度150℃の条件下で、比較例4についてはシリンダー温度300℃および金型温度80℃の条件下で、Tランナー金型を用いて、以下の実施例および比較例で得られた長繊維強化ポリアミド組成物または繊維強化ポリアミド組成物のペレットからISO多目的試験片A型ダンベルを作製して、引張り強さ評価用試験片とした。また上記ISO多目的試験片A型ダンベルから直方体試験片(寸法:長さ×幅×厚さ=80mm×10mm×4mm)を切り出して、耐衝撃性評価用試験片とした。またJIS K7119-1972に記載されたI号形試験片(寸法:長さ×幅(b)×厚さ=80mm×20mm×3mm、R=40mm)を作製し、疲労特性評価用試験片とした。また、平板(寸法:長さ×幅×厚さ=80mm×80mm×3mm)を作製し、外観評価用試験片とした。なお、使用した射出成形機は、それに用いられている混練スクリューに設けられたフライトのピッチおよびフライト溝が従来のものに比べて大きく設定され、また混練スクリューの圧縮比が従来のものに比べて小さく設定されていて、フライト部での繊維状強化材にかかるせん断力が低減されるようになっている。また、逆流防止弁における樹脂材料の流路とノズル径が従来のものに比べて大きく設定されていて、ヘッド部での繊維状強化材にかかるせん断力が低減されるようになっている。さらに、金型のスプルー径とランナー径が従来のものに比べて大きく設定されていて、金型内での繊維状強化材にかかるせん断力が低減されるようになっている。これらによって、成形時における繊維状強化材の折損抑制が図られている。
【0053】引張り強さの測定
上記の方法で作製した引張り強さ評価用試験片を用いて、ISO527-1に準じて、オートグラフ(株式会社島津製作所製)を使用して、23℃と100℃における引張り強さ(引張降伏強度)を測定した。
【0054】耐衝撃性の評価
上記の方法で作製した耐衝撃性評価用試験片を用いて、ISO179/1eAに準じて、シャルピー衝撃試験機(株式会社東洋精機製作所製)を使用して、23℃におけるノッチ付シャルピー衝撃値を測定して耐衝撃性の指標とした。
【0055】疲労特性の評価
上記の方法で作製した疲労特性評価用試験片を用いて、JIS K7119-1972に準じて、繰り返し振動疲労試験機(株式会社東洋精機製作所製)を使用して、100℃、曲げ応力80MPaにおける破断時の回数を測定して疲労特性の指標とした。
【0056】成形品に含まれる繊維状強化材の重量平均繊維長の測定
成形品(ISO多目的試験片A型ダンベル)から、幅5mm、厚さ4mm、長さ15mmの試験片を切り出し、ヘキサフルオロイソプロパノールに浸漬して、繊維状強化材以外の部分を溶解し、試験片から繊維状強化材のみを取り出した。得られた繊維状強化材を光学顕微鏡(倍率:50倍)で観察して、視野内の任意の繊維状強化材500本を選び、その繊維長を測定して、上記式(2)に基づいて重量平均繊維長を測定した。
【0057】成形品の外観の評価
上記の方法で作製した外観評価用試験片を用いて、デジタル変角光沢計(スガ試験機株式会社製:UGV-4D)を使用して、JIS Z8741に準じて60度鏡面光沢を測定して外観の指標とした。
【0058】[参考例1] 半芳香族ポリアミド(PA9T-1)の製造
テレフタル酸4601.0g(27.7モル)、1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンの混合物[前者/後者=80/20(モル比)]4432.1g(28.0モル)、安息香酸116.0g(0.95モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物9.12g(原料の総質量に対して0.1質量%)および蒸留水2.5リットルを内容積20リットルのオートクレーブに入れ、窒素置換した。100℃で30分間攪拌し、2時間かけてオートクレーブ内部の温度を220℃に昇温した。この時、オートクレーブ内部の圧力は2MPaまで昇圧した。そのまま2時間反応を続けた後230℃に昇温し、その後2時間、230℃に温度を保ち、水蒸気を徐々に抜いて圧力を2MPaに保ちながら反応させた。次に、30分かけて圧力を1MPaまで下げ、さらに1時間反応させて、極限粘度[η]が0.17dl/gのプレポリマーを得た。これを、100℃、減圧下で12時間乾燥し、2mm以下の粒径まで粉砕した。これを230℃、13Pa(0.1mmHg)にて10時間固相重合し、融点が300℃、極限粘度[η]が1.22dl/g、末端封止率が85%である白色のポリアミドを得た。このポリアミドを「PA9T-1」と略称する。
・・・
【0060】以下の実施例および比較例では、下記のポリアミド、ニグロシンおよび繊維状強化材を使用した。
【0061】ポリアミド
上記参考例1および2で製造したPA9T-1および2はそのまま使用した。またPA66としては以下のものを使用した。
PA66:旭化成ケミカルズ株式会社製、レオナ(登録商標) 1300S
【0062】ニグロシン
ニグロシン-1:中央合成化学株式会社製「オイルブラックS」
【0063】繊維状強化材
GF-1:ガラス繊維(日東紡社製「RS240QR482」、形状;ロービング状)
GF-2:ガラス繊維(オーウェンスコーニングジャパン株式会社製「03JAFT-2A」、繊維長3mm)
【0064】[実施例1、比較例1および2]
クロスヘッドダイを装着した2軸押出機に、下記の表1に記載した種類と量のポリアミドおよびニグロシンを供給して、320℃で溶融混練した。同時にクロスヘッドダイにGF-1を供給して、引き抜き成形法により長繊維強化ポリアミド組成物を製造した。この際、長繊維強化ポリアミド組成物中の繊維状強化材の含有量がポリアミド100質量部に対して100質量部となるようにポリアミドおよびニグロシンの供給量を調節した。得られたストランド状の長繊維強化ポリアミド組成物を水冷によって冷却後、12mmごとに切断して長さ12mm、直径2?3mmの円柱状のペレットを得た。得られたペレットを半円柱状になるようにロースピードソーで切断して切断面をルーペで観察することにより、当該ペレット中において、繊維状強化材がペレットの長さ方向に略平行に配列していることを確認した。また上記ペレットからヘキサフルオロイソプロパノールにより樹脂を除去した後ルーペで確認することにより、当該ペレット中において、使用した繊維状強化材のほぼ全てがペレットの長さと実質的に同じ長さを有していることを確認した。得られたペレットを用いて、各種物性評価を行った。結果を以下の表1に示した。
・・・
【0067】
【表1】



イ 甲1発明
甲1の上記ア(エ)には、実施例1として、以下の発明が記載されている。

「テレフタル酸、1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンの混合物[前者/後者=80/20(モル比)]、安息香酸、次亜リン酸ナトリウム一水和物および蒸留水をオートクレーブに入れ、反応させて得た半芳香族ポリアミド(PA9T-1、融点300℃)50質量部、中央合成化学株式会社製「オイルブラックS」(ニグロシン-1)1質量部、ガラス繊維(日東紡社製「RS240QR482」、形状;ロービング状)50質量部からなる長繊維強化ポリアミド組成物」(以下、「甲1発明」という。)

(2)甲2ないし甲4及び甲6、並びに引用文献7ないし10の記載事項
ア 甲2の記載事項
一般財団法人化学物質評価研究機構が、中央合成化学株式会社製染料「OIL BLACK S」を熱重量測定法(TG)による分析を行い、5%重量減少時の温度が平均で317℃であったことが記載されている。

イ 甲3の記載事項
(ア)「【請求項1】(A)熱可塑性樹脂100重量部に対し、(B)断面が下記式による扁平率2.3以上の扁平形状である強化繊維5?200重量部、(C)難燃剤5?40重量部、(D)弾性重合体0?40重量部を含有してなる繊維強化難燃性熱可塑性樹脂組成物であって、樹脂組成物中の(B)強化繊維の重量平均繊維長が1mm以上であることを特徴とする、繊維強化難燃性熱可塑性樹脂組成物。
扁平率=強化繊維断面の長径(d1)/強化繊維断面の短径(d2)」

(イ)「【0047】(B)強化繊維
本発明における(B)強化繊維(以下、「扁平強化繊維」と称することがある)とは、具体的には、ガラス繊維、炭素繊維等として知られている、機械的強度の向上を主目的に熱可塑性樹脂に配合される繊維状強化材であり、その重量平均繊維長が、1mm以上であって、断面が下記式による扁平率2.3以上の扁平形状である強化繊維をいう。
扁平率=強化繊維断面の長径(d1)/強化繊維断面の短径(d2)
すなわち(d1)/(d2)比は強化繊維の断面の扁平の程度を示しており、本発明においては2.3?5の範囲にあることが好ましく、3?4.5の範囲にあることがさらに好ましい。扁平率を2.3以上とすることにより、強化繊維断面の表面積が増加するため、通常、強化繊維とマトリックス樹脂組成物との密着性が低下すると考えられる難燃剤が配合された樹脂組成物の場合でも、強化繊維とマトリックス樹脂組成物の密着性が低下することなく、通常の円形断面ガラス繊維を配合する場合に比べ飛躍的に難燃性が向上し、さらに、成形品の反りや成形収縮を効果的に改善することができる。また、樹脂との混合、混練時や、樹脂組成物の成形時に強化樹脂に加わる荷重により強化繊維が破砕され、成形品中での実際の扁平率が小さくなる場合があるので、扁平率は5以下であることが好ましい。なお、扁平率は、強化繊維断面を顕微鏡観察し、強化繊維断面の長径(d1)および強化繊維断面の短径(d2)の実寸を測定することにより求めることができる。」

(ウ)「【表1】



ウ 甲4の記載事項
(ア)「【請求項1】(A)末端カルボキシル基濃度[COOH]と末端アミノ基濃度[NH_(2)]の関係が0.5<[COOH]/([COOH]+[NH_(2)])<0.8であるポリアミド樹脂100重量部に対して、(B)含有塩素濃度が5000ppm以下であるニグロシンを0.01?10重量部含むことを特徴とする黒着色ポリアミド樹脂組成物。」

(イ)「【実施例】
【0046】以下の実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例に用いた測定方法及び原材料を以下に示す。
【0047】[硫酸相対粘度の測定]
95.5%硫酸100mlに試料1gを溶解し、オストワルト型粘度計を用いて25℃で測定した。
[末端カルボキシル基濃度[COOH]の測定]
試料を170±5℃のベンジルアルコールに溶解し、0.1Nの苛性ソーダで滴定した。指示薬として、フェノールフタレインを使用した。
[末端アミノ基濃度[NH_(2)]の測定]
試料をフェノールに溶解し、0.02N塩酸で電位差滴定を行った。
【0048】[ニグロシンに含有する塩素濃度の測定]
染料中に含まれる塩素濃度は、試料10mgを用い、吸収液として超純水25mlを用いた酸素フラスコ燃焼法により得られた試料溶液を10倍に希釈して、ダイオネクス社製DX-500イオンクロマトグラフィーを用いて測定した。測定の諸条件を以下に記す。
カラム IonPac AG12A、AS12A(4mmφ×250mm)
溶離液 : 0.3mM NaHCO_(3)+ 2.7mM Na_(2)CO_(3)
溶離液流量 : 1.2ml/min
検出器 : 電気伝導度検出器
【0049】[機械物性]
東芝機械(株)製IS-50EP射出成形機を用いて、スクリュー回転数200rpm、樹脂温度290℃の成形条件にて、厚さ3mmのASTMタイプ1を成形し、この成形片を物性測定用試料とし、それぞれASTM D638及びD790に従って引張破断強さ、及び曲げ弾性率を測定した。
【0050】[外観]
東芝機械(株)社製IS150E射出成形機を用いて、シリンダー温度290℃、金型温度120℃で、充填時間が約1.5秒になるように射出圧力、及び速度を適宜調整し、100×90×3mmの射出成形板を得た。この平板を用い、光沢計(HORIBA製IG320)を用いてJIS-K7150に準じて60度グロスを測定した。
【0051】[加工装置の長期使用性]
80℃で24時間乾燥した樹脂ペレットを金属性密閉試験容器に入れ、その中央に樹脂ペレットと接触するように試験片(表面研磨を施した炭素鋼(SS400)(20mm×10mm×2mm))を入れ、試験温度280℃、試験時間6時間という条件にて、試験を行った。なお、試験容器内は試験前に窒素ガスによる置換を行った。評価方法としては、試験後の試験片を取り出し、試験片の表面を金属顕微鏡で分析し、損傷部分を次のような計算方法を用いて、試験後の重量減少として換算し、評価した。
重量減少量=7.86×A×B
B=π×(平均穴半径)2×平均掘れ深さ
ここで、Aは穴の個数、Bは平均穴体積を意味する。
【0052】<原材料>
[A]ポリアミド樹脂
・・・
A3:ポリアミド66/6I(以下PA66/6Iと略記)
硫酸相対粘度 2.1
末端カルボキシル基濃度 102(ミリ等量/kg)
末端アミノ基濃度 44(ミリ等量/kg)
A4:ポリアミド66/6I
硫酸相対粘度 2.1
末端カルボキシル基濃度 120(ミリ等量/kg)
末端アミノ基濃度 35(ミリ等量/kg)
A5:ポリアミド66/6I
硫酸相対粘度 2.1
末端カルボキシル基濃度 130(ミリ等量/kg)
末端アミノ基濃度 25(ミリ等量/kg)
【0053】
[B]ニグロシン
B1:中央合成化学(株)製 商品名 オイルブラックS
含有塩素濃度 800(ppm)
B2:オリエント化学(株)製 商品名 ヌビアンブラックPA9801
含有塩素濃度 20000(ppm)
【0054】
[C]無機充填材
(c-1)ガラス繊維
日本電気硝子(株)製;商品名 T-275H 平均繊維径=10.5μm
(c-2)無機充填材
ワラストナイト ナイコ社製;商品名 Nyglos8 平均粒子径=8μm
[D]カーボンブラック
三菱化学(株)製 商品名 #980 」

(ウ)「【表3】



エ 甲5の記載事項
(ア)「【請求項1】ニグロシンの硫酸および/または燐酸による塩である水不溶性のニグロシン系化合物。
・・・
【請求項8】ニグロシンの硫酸塩であり、塩素濃度が9000ppm以下である請求項1、2、3、4、5、6又は7記載のニグロシン系化合物。
【請求項9】結晶性樹脂中に請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載のニグロシン系化合物を含有することを特徴とする結晶性樹脂組成物。
【請求項10】結晶性樹脂が、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂又はポリフェニレンスルフィド樹脂である請求項9記載の結晶性樹脂組成物。
・・・
【請求項12】繊維状補強材を含有する請求項9、10又は11記載の結晶性樹脂組成物。」

(イ)「【0041】本発明のニグロシン系化合物中の塩素濃度は、3重量%以下であることが好ましく、結晶性樹脂組成物中に含有させた場合の成形物の表面形状の向上と絶縁性の向上のためにより好ましいのは、塩素濃度が2重量%以下のニグロシン系化合物である。本発明のニグロシン系化合物がニグロシンの硫酸塩である場合、塩素濃度は9000ppm以下であることが望ましい。より好ましくは8000ppm以下である。」

(ウ)「【0064】また、本発明のニグロシン系化合物は、成形時の熱溶融により気化し易い不純物や結晶性樹脂に対し反応性を有する不純物の含有量を従来のニグロシン(塩酸塩)に比し大きく減少させることができるため、本発明のニグロシン系化合物を配合した結晶性樹脂は、成形時の重量減少や気化物の発生が効果的に抑制されると共に、結晶性樹脂の物性変化を最小限度にとどめることができる。そのため、本発明のニグロシン系化合物を配合した結晶性樹脂は、成形精度に優れ、その成形物の表面光沢度等の外観及び表面形状が良好に改善される。特に、本発明の繊維強化結晶性樹脂成形物は、表面光沢度が良好である。」

(エ)「【0070】製造例1
10%硫酸水溶液1000gにスピリットブラックAB(オリヱント化学工業社製 ニグロシンの商品名)60gを分散させ、80℃で6時間撹拌した。その後、分散物を濾取し、その濾取物を水洗した後、乾燥させることにより、黒色化合物57.0g(収率95%)を得た。
・・・
【0074】製造例5
スピリットブラックABをニグロシンベースEX(オリヱント化学工業社製ニグロシンの商品名)に代えるほかは製造例1と同様に処理して黒色化合物59.4g(収率99%)を得た。」
・・・
【表1】



(オ)「【0097】スパイラルフロー長評価
スパイラルフローテスト金型〔10×2.5×460(mm)〕にて、成形温度280℃、金型温度80℃で、射出速度・射出圧力等の成形条件を一定とし、成形物の長さを測定した。
【0098】一般に、スパイラルフローが長い物程、流動性が良く、成形物の成形が容易になり、表面の平滑性が高く、ガラス繊維強化ナイロン等の繊維強化結晶性樹脂ではガラス繊維などの補強材が浮き出る現象を抑えることができるものと考えられる。」

(カ)「【0126】実施例9
ガラス強化ナイロン66(ポリアミド樹脂:ガラス繊維=57:43の重量混合比の繊維強化ポリアミド樹脂 デュポン社製 商品名:70G43L) 100g
製造例1の黒色化合物 1.0g
【0127】上記配合物をステンレス製タンブラーに入れ、20分攪拌混合した。その混合物を射出成形機(川口鐵工社製 商品名:KM-50C)を用いて290℃で通常の方法で射出成形したところ、外観及び表面光沢が良好で色むらがない均一な黒色の試験片〔49×79×3(mm)〕を得た。
【0128】この試験片の光沢度、OD値、結晶化温度差、スパイラルフロー長に関する測定結果を表5に示す。
【0129】実施例10乃至15及び比較例13
着色剤(ニグロシン系化合物、カーボンブラック、アニリンブラック)の配合を表5に示すように代えるほかは実施例9と同様にして、黒色の試験片〔49×79×3(mm)〕を得た。
【0130】
【表5】



オ 甲6の記載事項
(ア)「ポリアミド樹脂(成分A)、及び
ガラス(成分C)を含むポリアミド樹脂組成物であって、
前記ポリアミド樹脂組成物が、さらに、スチレン系重合体(成分B1)及び変性ポリフェニレンエーテル(成分B2)を含む場合と含まない場合があり、
前記ポリアミド樹脂組成物100重量%中、
前記成分A、B1及びB2の合計が40?95重量%であり、前記成分Cが60?5重量%であり、
前記成分A、B1及びB2の合計100重量%中、
前記成分Aが50?100重量%、前記成分B1及びB2の合計が50?0重量%であり、
前記成分Cが酸化ホウ素を含まないガラス(成分C1)を含む場合は、
前記ポリアミド樹脂組成物100重量%中、前記成分C1が60?5重量%であり、
前記成分Cが前記成分C1を含まない場合は、
前記成分Aがポリオキサミド樹脂であるか、又は、
前記成分A、B1及びB2の合計100重量%中、
前記成分Aが50?90重量%、前記成分B1及びB2の合計が50?10重量%であり、
前記成分B1の荷重たわみ温度が140?280℃である
ことを特徴とするポリアミド樹脂組成物。」(請求項1)

(イ)「(1)成分A(ポリアミド樹脂)
本発明における成分Aは、ジアミンとジカルボン酸(二塩基酸)との重縮合物からなるか、またはラクタムもしくはアミノカルボン酸からなるか、またはこれらの2種以上の重縮合体若しくは共重合体からなるものが挙げられる。」(段落0013)

(ウ)「ジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン等の脂肪族ジアミンや、メタキシリレンジアミン等の芳香族・環状構造を有するジアミンが挙げられる。
ジカルボン酸としては、アジピン酸、ヘプタンジカルボン酸、オクタンジカルボン酸、ノナンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸等の脂肪族ジアミンやテレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族・環状構造を有するジカルボン酸が挙げられる。」(段落0014)

(エ)「成分Aとしてのポリオキサミド樹脂の原料のジアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、3-メチル-1,5-ペンタンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、5-メチル-1,9-ノナンジアミンなどの脂肪族ジアミン、さらにシクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミンなどの脂環式ジアミン、さらにp-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、キシレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルなどの芳香族ジアミン等から選ばれる1種または2種以上の任意の混合物が挙げられる。」(段落0019)

(オ)「本発明のポリアミド樹脂組成物から成形品を製造する方法については、通常使用される熱可塑性樹脂の成形機、例えば、押出成形機、ブロー成形機、圧縮成形機、射出成形機等を用いて、各種形状に製造可能である。
本発明のポリアミド樹脂組成物は耐酸性の要求されるインテークマニホールド、EGRデリバリパイプ、EGRパイプ、EGRバルブ、EGRクーラー部品等のEGRによる排気ガスが経由する部品(EGR部品)に好適に用いられる。EGR部品の用途では、例えば、自動車用部品が好適であり、・・・」(段落0056?0057)

カ 引用文献7の記載事項
(ア)「【請求項1】(a-1)と(a-2)の合計100重量%として、(a-1)半芳香族共重合ポリアミド樹脂24?45重量%と(a-2)脂肪族ポリアミド樹脂55?76重量%からなる(A)ポリアミド樹脂100重量部に対して、(B)無機充填剤を40?200重量部、(C)酸変性したポリオレフィン樹脂を5?20重量部、(D)臭素化ポリスチレン樹脂を35?60重量部および(E)三酸化アンチモンを10?30重量部配合してなることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
・・・
【請求項4】(B)無機充填剤が、繊維状無機充填剤であることを特徴とする請求項1?3のいずれか記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】(B)繊維状無機充填剤がガラス繊維、炭素繊維、およびワラステナイトから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項4記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】(B)繊維状無機充填剤の断面が扁平形状であり、下記式で表される扁平率が1.5以上であることを特徴とする請求項4または5記載のポリアミド樹脂組成物。
扁平率=繊維状無機充填剤断面の長径/繊維状無機充填剤断面の短径」

(イ)「【0018】また、上記(B)無機充填剤の断面形状としては、一般的な円形に加え、断面が扁平形状を有するものを用いることも好ましい。具体的な断面形状としては、長円形、円形が2本対となるまゆ形、楕円形、半円形、長方形、正方形、その他多角形、星形、またこれらの単繊維、もしくは複数対繊維などが挙げられる。中でも、強度や成形性、外観などのバランスから、扁平断面形状を有するものが好ましい。また、扁平断面の最長径/最長径の比は、1.5以上、6.0以下が好ましい。この比が1.5より小さいと、比が1.0である円形断面繊維状無機充填材と差異がない。この比が6.0より大きいと、コンパウンド中に繊維状無機充填材同士がお互いを砕き合うため、機械特性に影響を及ぼす。機械特性とのバランスから5.0以下がより好ましい。扁平率が1.5以上であることを特徴とする繊維状無機充填剤を用いる事により、流動方向(MD)、流動方向に対する垂直方向(TD)の線膨張係数が小さくなる事に加え、それらの差を小さくすることができ、製品の反りを低減させ、製品の寸法精度を飛躍的に改善する効果が期待できる。」

(ウ)「【0026】本発明のポリアミド組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形のいずれかの方法によって、電気電子部品、自動車部品、建材部品などの筐体に成形できる。」

キ 引用文献8の記載事項
(ア)「【請求項1】 ポリアミド樹脂(A)100重量部に対して、粒子径10μm以下のポリテトラフルオロエチレン粒子と有機系重合体とからなるポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体(B)が、ポリテトラフルオロエチレン成分が0.0001?20重量部になるように配合されたポリアミド樹脂組成物。」

(イ)「【0028】このようにして得られる本発明のポリアミド樹脂組成物は、溶融弾性が高いことから、ブロー成形、押し出し成形、熱成形における耐ドローダウン性、発泡成形時のセルの均一性、カレンダー成形性などが改良された成形加工性に優れたものとなる。また、ポリテトラフルオロエチレンのマクロな凝集物がなく成型品の表面性も優れている。
【0029】本発明のポリアミド樹脂組成物の加工法としては特に制限はないが、ブロー成形、押し出し成形、熱成形、発泡成形、カレンダー成形、射出成形、溶融紡糸などを挙げることができる。
【0030】本発明のポリアミド樹脂組成物を用いて得られる有用な成形体としては特に制限はないが、中空成形体、シート、熱成形体、パイプ、角棒、異形品、発泡体、フィルム、射出成型品、繊維などを挙げることができる。」

ク 引用文献9の記載事項
(ア)「【請求項4】 (A)ポリアミド系樹脂100重量部、(B)ポリテトラフルオロエチレン0.01?10重量部、および(C)上記(A)ポリアミド系樹脂と相溶性があり、且つ該樹脂より高い重量平均分子量を有する熱可塑性樹脂0.01?10重量部を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。」

(イ)「【0012】次に、本発明の熱可塑性樹脂組成物に配合される(B)ポリテトラフルオロエチレンについて説明する。(B)ポリテトラフルオロエチレンは、溶解度指数が6.2とポリマーの中でも最も低く、本発明の熱可塑性樹脂組成物に配合される他のポリマーとは相溶性がないにもかかわらず、本発明の熱可塑性樹脂組成物をブロー成形する際のパリソン形成工程で、該組成物の溶融粘度の温度依存性を小さくしてブロー成形条件幅を広げるように機能し、且つ後記する(C)成分と共に、耐ドローダウン性を著しく改良する。(B)ポリテトラフルオロエチレンは、テトラフルオロエチレン単独重合体のほか、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンなどを共重合したものであってもよい。好ましくは、テトラフルオロエチレン単独重合体である。(B)ポリテトラフルオロエチレンは、乳化重合、懸濁重合などのそれ自体公知の重合法で得られる。」

ケ 引用文献10の記載事項
(ア)「(特許請求の範囲)
1.(a)(i)熱可塑性ポリマー材料及び(ii)組成物の0.001乃至5重量部を占めるフッ素化オレフィンポリマー又はコポリマーを含有する組成物を準備すること;
及び
(b)前記組成物から物品をブロー成形すること;
を含む物品をブロー成形する方法。
・・・
3.熱可塑性ポリマー材料が、
(a)ポリアミド;
・・・
からなる群の一種以上のものを含む請求項1記載の方法。」(特許請求の範囲第1項及び第3項)

(イ)「フッ素化ポリオレフィン
本発明に有用なフッ素化オレフィンポリマー又はコポリマーは、フッ素原子又はフッ素化された有機(例えばC_(1)-C_(12))側鎖がエチレンポリマー骨格上の水素に置き代わったものであり、例えば以下のものを包含する。すなわち、
・PTFE;
・フッ素化されたエチレン/プロピレンコボリマー(”FEP”)、例えばテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー;
・パーフルオロアルコキシフルオロカーボン(”PFA”)、例えばテトラフルオロエチル/パーフルオロプロビルビニルエーテルコポリマー;及び
・エチレン/テトラフルオロエチレンコポリマー〈”ETFE”)である。
これらのフッ素化オレフィンポリマー又はコポリマーのうち、フィブリル形成能ある若しくはフィブリル形成能のないPTFEが好適であり、フィブリル形成能あるPTFEが最も好適である。」(第6頁右下欄1?19行)

(ウ)「本発明の熱可塑性ポリマー組成物はフッソ素化オレフィンポリマー又はコポリマーを含有し、従って溶融強度の増大を特徴とするので、フッ素化オレフィンポリマー又はコポリマーを含有せず、従って溶融強度が増大していない成形材料よりも高温で、垂れ下がりを伴わずに押出機内配合でパリソンに成形することが可能である。本発明の組成物が、パリソンの垂れ下がりを伴なわずに斯かる高温でブロー成形できることは、本発明の望ましい特徴の一つであり、・・・」(第9頁左下欄13行?同右下欄2行)

(3)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「テレフタル酸、1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンの混合物[前者/後者=80/20(モル比)]、安息香酸、次亜リン酸ナトリウム一水和物および蒸留水をオートクレーブに入れ、反応させて得た半芳香族ポリアミド(PA9T-1、融点300℃)」
、「ガラス繊維(日東紡社製「RS240QR482」、形状;ロービング状)」及び「長繊維強化ポリアミド組成物」は、それぞれ、本件発明1の「ポリアミド樹脂(A)」、「繊維状または針状フィラー(B)」及び「ポリアミド樹脂組成物」に相当する。また、甲1発明の「中央合成化学株式会社製「オイルブラックS」(ニグロシン-1)」は、染料である限りにおいて、本件発明1の「染料(C)」に相当する。そして、甲1発明の組成を、「半芳香族ポリアミド」100質量部に対する割合に換算すると、100質量部の「ガラス繊維」、2質量部の「オイルブラックS」となり、それぞれ、本件発明1の「前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して10?100質量部の繊維状または針状フィラー(B)」及び「前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して0.05?5質量部の染料(C)」と重複する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「ポリアミド樹脂(A)、
前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して10?100質量部の繊維状または針状フィラー(B)、および
前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して0.05?5質量部の染料(C)を含有するポリアミド樹脂組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
染料(C)が、本件発明1では、「5%熱減量温度が290℃以上のアジン系染料であり、前記染料(C)の塩素含有率が、前記染料(C)の全質量に対して0.06質量%以下である」のに対して、甲1発明では、「オイルブラックS」である点。

まず、上記相違点1における「5%熱減量温度が290℃以上のアジン系染料であ」る点について検討すると、上記(1)ア(ウ)によると、ニグロシンである甲1発明の「オイルブラックS」はアジン系化合物を含む黒色のアジン系縮合混合物である。そして、甲1発明の「オイルブラックS」と甲2の試料である「OIL BLACK S」とは、その名称と製造元が一致し、同じものであると認められる。甲2によると、「OIL BLACK S」の5%重量減少時の温度、すなわち5%熱減量温度は317℃であるから、甲1発明の「オイルブラックS」の5%熱減量温度も317℃であり、本件発明1の「5%熱減量温度が290℃以上」と重複する。
また、上記相違点1における「前記染料(C)の塩素含有率が、前記染料(C)の全質量に対して0.06質量%以下である」点について検討すると、甲4の上記(2)ウ(イ)に記載された「中央合成化学(株)製 商品名 オイルブラックS」と甲1発明の「オイルブラックS」は、名称及び製造元が同じであるから、両者は同じものであると認められるので、この「オイルブラックS」の含有塩素濃度は800ppmということになり、本件発明1の「前記染料(C)の全質量に対して0.06質量%以下である」と明らかに相違し、これは実質的な相違点であるといえる。
そうすると、本件発明1は甲1発明であるとはいえない。

次に、甲1?甲6、及び、職権調査で発見した引用文献7?10に基づく進歩性について検討する。
まず、甲2?甲4及び甲6、並びに引用文献7?10には、ポリアミド樹脂の染料として、塩素含有率が0.06質量%以下であるニグロシンを用いること、及び、これによって溶融滞留安定性に優れたポリアミド樹脂組成物となることは、一切記載されていない。
また、甲1発明が解決しようとする課題は、上記(1)ア(イ)によると、表面美麗性、機械的特性および耐疲労性に優れた成形品を与え得る長繊維強化ポリアミド組成物を提供することであると解され、甲2?甲4及び甲6、並びに引用文献7?10には、甲1発明の上記課題を解決するために、甲1発明の染料であるニグロシンの塩素含有率を0.06質量%以下にすることは記載されておらず、上記相違点1における塩素含有率の点を、当業者が
容易に想到し得たとはいえない。
ここで、甲4の上記(2)ウ(ア)には、所定のポリアミド樹脂に、含有塩素濃度が5000ppm以下であるニグロシンを含有した黒着色ポリアミド樹脂組成物が記載されているが、上記(2)ウ(イ)及び(ウ)を見ると、ニグロシンの含有塩素濃度が800ppm(0.08質量%)である実施例4、5及び比較例7と、同じく20000ppm(2質量%)である比較例8及び9とは、上記組成物からなる成形品の引張り破断強さ、曲げ弾性率、及び外観の評価結果は同じであり、加工装置の長期使用性の指標となる炭素鋼の損傷による重量減少に有意差が見られるのみである。そうすると、甲4の記載から、当業者が上記相違点1における塩素含有率の点を容易に想到し得たとはいえない。

また、甲5の上記(2)エ(ア)ないし(ウ)には、ニグロシンの硫酸および/または燐酸による塩である水不溶性のニグロシン系化合物、該ニグロシン系化合物を配合した結晶性樹脂は、成形時の重量減少や気化物の発生が効果的に抑制されると共に、結晶性樹脂の物性変化を最小限度にとどめることができ、成形精度に優れ、その成形物の表面光沢度等の外観及び表面形状が良好に改善されること、ニグロシン中の塩素濃度を2重量%以下にすると、結晶性樹脂組成物からなる成形体の表面形状と絶縁性が向上すること、が記載されている。また、上記(2)エ(エ)及び(カ)には、実施例14として、繊維強化ポリアミド樹脂100gに対して、塩素濃度が0.03%であるニグロシン系化合物1.0gを添加したポリアミド樹脂組成物が記載されている。
しかしながら、甲5のいずれの記載を見ても、ニグロシン系化合物の塩素濃度を0.06%以下にまで低減する場合の効果は具体的に記載されていないし、実施例及び比較例を見ても明らかでないから、甲1発明において、ニグロシンの塩素含有率を0.06%以下にする動機は見当たらない。
また、上記(3)で述べたように、甲1発明は「オイルブラックS」を用いることにより、結果的に、5%熱減量温度が317℃であり、塩素含有率が0.08質量%であるニグロシンを用いたものであるが、甲1には、5%熱減量温度を290℃以上であるニグロシンであるアジン系染料を用いることにより、ポリアミド樹脂組成物の溶融滞留安定性が向上することは記載されておらず、甲5の記載に基づき、「オイルブラックS」を塩素含有率が0.03質量%である別のニグロシンに置き換える際に、その5%熱減量温度を290℃以上に維持する必然性はなく、そのようにする動機も見当たらない。
そうすると、甲1発明において、5%熱減量温度を290℃以上、かつ塩素含有率が0.06%以下であるアジン系染料を用いることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

そして、本件発明の溶融滞留安定性に優れたポリアミド樹脂組成物を得ることができるという効果は、溶融4分後と15分後の溶融粘度の変化率を指標とするものであって(本件特許明細書の段落0072)、実施例1?10及び比較例1?2から確認することができ、甲1?甲6及び引用文献7?10の記載から予測し得たことであるとはいえない。

したがって、本件発明1は、甲1発明、甲2?甲6及び引用文献7?10に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明2?17について
本件発明2?17は、いずれも本件発明1を引用するものであり、上記(3)で、本件発明1について述べた理由と同様に、甲1発明、甲2?甲6及び引用文献7?10に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)まとめ
以上のとおり、申立人の本件特許異議の申立てにおける取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)は理由がなく、これらによって本件発明1?17に係る特許を取り消すことはできない。

(6)申立人の意見書について
以下の甲第7ないし11号証(以下、「甲7」ないし「甲11」という。)を提出し、「ポリアミド樹脂組成物において、溶融滞留時に発生する不純物である塩酸の量を低減するために・・・甲第5号証及び甲第6号証(合議体注:正しくは「甲第7号証」であると解釈した。)に記載された塩素濃度が0.03?0.05%であるものを用いる・・・ことは、当業者が容易に想到し得ることである。」と主張する。
甲第7号証:特開平9-87535号公報
甲第8号証:特開2005-60447号公報
甲第9号証:特開2000-178442号公報
甲第10号証:「ポリアミド樹脂ハンドブック」、日刊工業新聞社、
昭和63年1月30日、第154頁
甲第11号証:特開2008-81524号公報
上記主張について検討する。
甲7?甲11に関して、甲7には、ニグロシン染料中に残存する塩素濃度を500ppm以下にする製法が記載されるのみである(請求項1及び段落0012)。また、甲8において例示されている不純物は塩素ではなく、2,3,4,5-テトラヒドロピリジンなどアミン化合物であるし(請求項1、段落0003)、甲9において溶融滞留安定性を低下させるものは臭素である(請求項1、表1及び表2)。そして、甲10((2)加水分解の項)及び甲11(特許請求の範囲)には、ポリアミド樹脂が塩酸水溶液で加水分解されることが記載されているが、ポリアミド樹脂組成物の構成成分に含まれる塩素によって、溶融成形時にポリアミド樹脂が分解されることは記載されていない。そうすると、甲7?甲11の記載に基づき、甲1発明に甲5及び甲7に記載のニグロシンを適用することが、当業者にとって容易に想到し得たことであるとはいえない。

6.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、申立書において、ポリアミド樹脂組成物の物性は、繊維状または針状フィラー(B)や染料(C)の含有量に著しく依存するから、本願出願時の技術常識に照らしても、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、繊維状または針状フィラー(B)を10?100質量部、及び、染料(C)を0.05?5質量部の全範囲にわたって、本件発明が溶融滞留安定性等の物性に優れることを当業者が予測し得るとはいえず、訂正前の請求項1?17に係る特許は、その特許請求の範囲が同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない旨を主張する。
しかしながら、本件発明は、溶融滞留安定性に優れるポリアミド樹脂組成物の提供を課題とし、塩素含有率が0.06質量%以下である5%熱減量温度が290℃以上のアジン系染料を用いることにより、当該アジン系染料を用いない場合と比べ、溶融滞留安定性が改善されるものであって、実施例及び比較例において、上記繊維状フィラーと染料の含有量を同じ条件にした上で、実施例と比較例の間で染料(C)の塩素含有率及び5%熱減量温度を変更し、また、実施例において繊維状フィラー(B)の横断面の異形比を変更しており、実施例の場合に上記課題を解決することを確認できる。そして、実施例及び比較例とは異なる繊維状又は針状フィラー(B)及び染料(C)の含有量であっても、本件発明が、上記アジン系染料を用いない場合と比べて溶融滞留安定性が改善することは、当業者が認識し得ると解される。
そうすると、本件発明1?17は発明の詳細な説明に記載したものであり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たすものである。

7.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した取消理由によっては、本件発明1?17に係る特許を取り

消すことはできない。
また、他に本件発明1?17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ポリアミド樹脂組成物および当該ポリアミド樹脂組成物を含有する成形体
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物、および当該ポリアミド樹脂組成物を含有する成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、機械的物性、耐薬品性、成形性等に優れるため、電気電子用、自動車用、産業資材用、工業材料用、日用および家庭品用等の各種用途において幅広く利用されている。
【0003】
特に、自動車産業においては、環境に対する取り組みとして二酸化炭素の排出量低減のために、金属製部品の樹脂化による車両の軽量化が進められており、ポリアミド樹脂製の自動車部品が多く使用されるようになってきている。
【0004】
ポリアミド樹脂製の自動車部品は、射出成形、押出成形、ブロー成形等、様々な方法によって製造される。自動車部品には中空体の部品が多く、その中空体の部品を射出成形を利用して得る場合には、2つ以上の射出成形品を溶着や接着剤によって接合する方法が採用されている。しかしながら、この方法には接合部の信頼性に課題があり、また、接着剤を使用する場合には接着剤の硬化工程が必要となる等、生産性の面でも改善すべき課題がある。一方、押出成形によれば、筒状の成形品を連続的に得ることができるため、生産効率に優れるが、筒状以外の成形品を製造する場合には、押出成形後に曲げ加工等が必要であるなど生産性に改善すべき課題があり、また、成形品のデザイン自由度が低いという課題もある。これらの他の成形法に対し、ブロー成形は、接合部が無くデザイン自由度の高い成形品を生産性良く得られるという点で優位である。
【0005】
自動車部品を得るためのポリアミド樹脂のブロー成形技術に関して、例えば特許文献1には、芳香族ポリアミドを含有する吹込成形材料が開示されており、当該吹込成形材料がガラス繊維等のフィラーを含有してもよいこと、および着色剤を含有してもよいことが記載されている。また、特許文献2には、ブロー成形により得られるポリアミド中空成形品が開示されており、当該中空成形品を製造するためのポリアミド樹脂組成物が、繊維状の無機化合物などの充填材を含有してもよいこと、および染料を含有してもよいことが記載されている。さらに、特許文献3には、芳香族ポリアミド、衝撃改質剤、安定剤を含有するブロー成形可能なポリアミド樹脂組成物が開示されており、当該ポリアミド樹脂組成物が、繊維状の無機強化材を含有してもよいこと、および染料を含有してもよいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07-228691号公報
【特許文献2】特開平04-153222号公報
【特許文献3】特表2006-523763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、自動車部品は、部品点数を減らすためのモジュール化の流れによって、部品サイズが大型化する傾向にあり、それにより成形サイクルが長くなる傾向にある。そのため、溶融滞留安定性に優れるポリアミド樹脂組成物への要求が高まっているところ、従来のブロー成形材料に用いられるポリアミド樹脂組成物には溶融滞留安定性に改善の余地があった。
【0008】
本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであり、溶融滞留安定性に優れるポリアミド樹脂組成物、および当該ポリアミド樹脂組成物を含有する成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は
〔1〕ポリアミド樹脂(A)、
前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して10?100質量部の繊維状または針状フィラー(B)、および
前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して0.05?5質量部の染料(C)を含有するポリアミド樹脂組成物であって、
前記染料(C)が、5%熱減量温度が290℃以上のアジン系染料であり、前記染料(C)の塩素含有率が、前記染料(C)の全質量に対して0.06質量%以下である、ポリアミド樹脂組成物;
〔2〕前記ポリアミド樹脂(A)が、前記ポリアミド樹脂(A)を構成する全ジアミン単位中、炭素数4?18の脂肪族ジアミン単位を50?100モル%含有し、かつ前記ポリアミド樹脂(A)を構成する全ジカルボン酸単位中、芳香族ジカルボン酸単位および/または脂環式ジカルボン酸単位を50?100モル%含有する、上記〔1〕のポリアミド樹脂組成物;
〔3〕前記脂肪族ジアミン単位が、1,4-ブタンジアミン単位、1,5-ペンタンジアミン単位、1,6-ヘキサンジアミン単位、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン単位、1,8-オクタンジアミン単位、1,9-ノナンジアミン単位、2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位および1,10-デカンジアミン単位からなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記〔2〕のポリアミド樹脂組成物;
〔4〕前記脂肪族ジアミン単位が、1,9-ノナンジアミン単位および/または2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位である、上記〔3〕のポリアミド樹脂組成物;
〔5〕前記芳香族ジカルボン酸単位がテレフタル酸単位である、上記〔2〕?〔4〕のいずれかのポリアミド樹脂組成物;
〔6〕前記脂環式ジカルボン酸単位が1,4-シクロヘキサンジカルボン酸単位である、上記〔2〕?〔5〕のいずれかのポリアミド樹脂組成物;
〔7〕前記ポリアミド樹脂(A)が、さらに、ラクタム単位および/またはアミノカルボン酸単位を含有する、上記〔2〕?〔6〕のいずれかのポリアミド樹脂組成物;
〔8〕前記ポリアミド樹脂(A)の融点が260?350℃である、上記〔1〕?〔7〕のいずれかのポリアミド樹脂組成物;
〔9〕前記繊維状または針状フィラー(B)が異形断面形状を有する、上記〔1〕?〔8〕のいずれかのポリアミド樹脂組成物;
〔10〕前記繊維状または針状フィラー(B)の、断面長径D1、断面短径D2で表わされる異形断面形状の異形比D1/D2が1.2?10である、上記〔9〕のポリアミド樹脂組成物;
〔11〕前記繊維状または針状フィラー(B)がガラス繊維である、上記〔1〕?〔10〕のいずれかのポリアミド樹脂組成物;
〔12〕前記アジン系染料(C)が、5%熱減量温度が300℃以上のアジン系染料である、上記〔1〕?〔11〕のいずれかのポリアミド樹脂組成物;
〔13〕前記染料(C)の塩素含有率が、前記染料(C)の全質量に対して0.04質量%以下である、上記〔1〕?〔12〕のいずれかのポリアミド樹脂組成物;
〔14〕前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、さらに、滴下防止剤(D)を0.1?10質量部含有する、上記〔1〕?〔13〕のいずれかのポリアミド樹脂組成物;
〔15〕上記〔1〕?〔14〕のいずれかのポリアミド樹脂組成物を含有する成形体;
〔16〕上記〔1〕?〔14〕のいずれかのポリアミド樹脂組成物を含有するブロー成形体;および
〔17〕上記〔16〕のブロー成形体を含む自動車用EGRパイプ;
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、溶融滞留安定性に優れるポリアミド樹脂組成物、および当該ポリアミド樹脂組成物を含有する成形体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例および比較例においてブロー成形により作製した、肉厚差を測定するための容器の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態(本実施の形態)について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0013】
本発明は、ポリアミド樹脂(A)、前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、10?100質量部の繊維状または針状フィラー(B)および0.05?5質量部の染料(C)を含有するポリアミド樹脂組成物であって、前記染料(C)が、5%熱減量温度が290℃以上のアジン系染料であり、前記染料(C)の塩素含有率が、前記染料(C)の全質量に対して0.06質量%以下である、ポリアミド樹脂組成物である。
【0014】
[ポリアミド樹脂(A)]
本発明で使用されるポリアミド樹脂(A)としては、ジアミン、ジカルボン酸、ラクタム、アミノカルボン酸等を主たる原料として得られる樹脂が挙げられる。
【0015】
ポリアミド樹脂(A)を構成するジアミンとしては、例えば、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタジアミン、1,9-ノナンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、1,13-トリデカンジアミン、1,16-ヘキサデカンジアミン、1,18-オクタデカンジアミン、2,2,4(または2,4,4)-トリメチルヘキサンジアミン、5-メチルノナンジアミン等の脂肪族ジアミン;1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン等の脂環式ジアミン;メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。
【0016】
ポリアミド樹脂(A)を構成するジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2-メチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2-ジメチルグルタル酸、スベリン酸、3,3-ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-フェニレンジオキシジ酢酸、1,3-フェニレンジオキシジ酢酸、ジフェン酸、4,4’-オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4’-ジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0017】
ポリアミド樹脂(A)を構成するラクタムとしては、例えばε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタムが挙げられ、アミノカルボン酸としては、例えば6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸が挙げられる。
【0018】
本発明においては、これらの原料から誘導されるポリアミドホモポリマーまたはコポリマーを各々単独または混合物の形で用いることができる。
【0019】
ポリアミド樹脂(A)の具体的な例としては、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリウンデカアミド(ポリアミド11)、ポリラウロアミド(ポリアミド12)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリデカメチレンセバカミド(ポリアミド1010)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ポリアミド6T/6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリウンデカンアミドコポリマー(ポリアミド6T/11)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ポリアミド6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ポリアミド66/6I/6)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ(2-メチルペンタメチレン)テレフタルアミドコポリマー(ポリアミド6T/M5T)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、ポリメタキシレンアゼラミド(ポリアミドMXD9)、ポリメタキシレンセバカミド(ポリアミドMXD10)、ポリパラキシレンアジパミド(ポリアミドPXD6)、ポリパラキシレンアゼラミド(ポリアミドPXD9)、ポリパラキシレンセバカミド(ポリアミドPXD10)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリ(2-メチルオクタメチレン)テレフタルアミド(ポリアミドM8T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド/ポリ(2-メチルオクタメチレン)テレフタルアミドコポリマー(ポリアミド9T/M8T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド10T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド11T)、ポリドデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド12T)、ポリヘキサメチレンシクロヘキシルアミド(ポリアミド6C)、ポリヘキサメチレンシクロヘキシルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ポリアミド6C/6)、ポリヘキサメチレンシクロヘキシルアミド/ポリウンデカンアミドコポリマー(ポリアミド6C/11)、ポリヘキサメチレンシクロヘキシルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ポリアミド6C/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンシクロヘキシルアミドコポリマー(ポリアミド66/6C)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンシクロヘキシルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6C/6I)、ポリヘキサメチレンシクロヘキシルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ポリアミド6C/6I)、ポリヘキサメチレンシクロヘキシルアミド/ポリ(2-メチルペンタメチレン)シクロヘキシルアミドコポリマー(ポリアミド6C/M5C)、ポリノナメチレンシクロヘキシルアミド(ポリアミド9C)、ポリ(2-メチルオクタメチレン)シクロヘキシルアミド(ポリアミドM8C)、ポリノナメチレンシクロヘキシルアミド/ポリ(2-メチルオクタメチレン)シクロヘキシルアミドコポリマー(ポリアミド9C/M8C)、ポリデカメチレンシクロヘキシルアミド(ポリアミド10C)、ポリウンデカメチレンシクロヘキシルアミド(ポリアミド11C)、ポリドデカメチレンシクロヘキシルアミド(ポリアミド12C)およびこれらの混合物、ならびにこれらのポリアミドが含むモノマー単位を複数種含む上記以外の共重合体などが挙げられる。
【0020】
ポリアミド樹脂(A)は、耐熱性およびより高い溶融滞留安定性の観点から、末端アミノ基量が1?50μモル/gの範囲にあることが好ましく、1?40μモル/gの範囲にあることがより好ましい。
【0021】
ポリアミド樹脂(A)は、耐熱性の観点から、繰り返し構造単位中に芳香環を含む半芳香族および/または脂環を含む半脂環式のポリアミド樹脂であることが好ましい。
【0022】
半芳香族および/または半脂環式ポリアミド樹脂としては、脂肪族ジアミン単位と、ジカルボン酸単位として芳香族ジカルボン酸単位および/または脂環式ジカルボン酸単位を含有するポリアミド樹脂が挙げられる。
【0023】
脂肪族ジアミン単位としては、炭素数4?18の脂肪族ジアミン単位が好ましい。このとき、炭素数4?18の脂肪族ジアミン単位は、ポリアミド樹脂(A)を構成する全ジアミン単位中、50?100モル%含有されることが好ましく、60?100モル%含有されることがより好ましい。
【0024】
炭素数が4?18の脂肪族ジアミン単位としては、1,4-ブタンジアミン単位、1,5-ペンタンジアミン単位、1,6-ヘキサンジアミン単位、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン単位、1,8-オクタンジアミン単位、1,9-ノナンジアミン単位、2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位および1,10-デカンジアミン単位からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、1,9-ノナンジアミン単位および/または2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位がより好ましい。1,9-ノナンジアミン単位および2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位を共に含有する場合には、これらのモル比(1,9-ノナンジアミン:2-メチル-1,8-オクタンジアミン)は、99:1?1:99であることが好ましく、95:5?50:50であることがより好ましく、90:10?75:25であることがさらに好ましい。1,9-ノナンジアミン単位および2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位を上記の割合で含有するポリアミド樹脂(A)を用いると、ポリアミド樹脂組成物が耐熱性および耐薬品性に優れたものになる。
【0025】
芳香族ジカルボン酸単位および/または脂環式ジカルボン酸単位は、ポリアミド樹脂(A)を構成する全ジカルボン酸単位中、50?100モル%含有されることが好ましく、60?100モル%含有されることがより好ましい。
【0026】
芳香族ジカルボン酸単位としては、テレフタル酸単位、イソフタル酸単位、フタル酸単位、1,4-ナフタレンジカルボン酸単位、2,6-ナフタレンジカルボン酸単位、2,7-ナフタレンジカルボン酸単位、1,4-フェニレンジオキシジ酢酸単位、1,3-フェニレンジオキシジ酢酸単位、ジフェン酸単位、4,4’-オキシジ安息香酸単位、ジフェニルメタン-4,4’-ジカルボン酸単位、ジフェニルスルホン-4,4’-ジカルボン酸単位および4,4’-ビフェニルジカルボン酸単位からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、中でもテレフタル酸単位が好ましい。
【0027】
脂環式ジカルボン酸単位としては、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸単位、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸単位等のシクロヘキサンジカルボン酸単位が好ましく、中でも1,4-シクロヘキサンジカルボン酸単位が好ましい。テレフタル酸単位および/または1,4-シクロヘキサンジカルボン酸単位を含有するポリアミド樹脂(A)を用いると、ポリアミド樹脂組成物の耐熱性が優れたものになる。
【0028】
また、ポリアミド樹脂(A)として、ジアミン単位として芳香族ジアミン単位および/または脂環式ジアミン単位と、脂肪族ジカルボン酸単位とを含有する半芳香族および/または半脂環式のポリアミド樹脂を使用することもできる。
【0029】
半芳香族および/または半脂環式のポリアミド樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、モノマー単位としてさらにラクタム単位および/またはアミノカルボン酸単位を含有してもよい。
【0030】
ポリアミド樹脂(A)は、その分子鎖の末端基の10%以上が末端封止剤により封止されていることが好ましい。末端封止率が10%以上のポリアミド樹脂(A)を用いると、得られるポリアミド樹脂組成物の溶融滞留安定性がより優れたものとなる。
【0031】
ここで、末端封止率は、ポリアミド樹脂(A)に存在する末端のカルボキシル基、末端のアミノ基および末端封止剤によって封止された末端基の数をそれぞれ測定し、以下に示す数式(1)に従って求めることができる。各末端基の数は、^(1)H-NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値に基づいて求めることができる。なお、数式(1)中、Xは分子鎖の末端基の総数(これは通常、ポリアミド分子の数の2倍に等しい。)を表し、Yは封止されずに残った末端カルボキシル基および封止されずに残った末端アミノ基の合計数を表す。
末端封止率(%)=[(X-Y)/X]×100 (1)
【0032】
ポリアミド樹脂(A)の末端を封止するための末端封止剤としては、ポリアミド末端のアミノ基またはカルボキシル基との反応性を有する単官能性の化合物であれば特に制限はないが、反応性および封止末端の安定性などの観点からモノカルボン酸またはモノアミンが好ましく、取扱いの容易さなどの観点から、モノカルボン酸がより好ましい。その他、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル、モノアルコール等を使用することもできる。
【0033】
ポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基含量[NH_(2)]は3?13μモル/gであることが好ましく、末端カルボキシル基含量[COOH]が56?80μモル/gであることが好ましい。また、末端カルボキシル基含量[COOH]と末端アミノ基含量[NH_(2)]の関係が0.8≦[COOH]/[NH_(2)]+[COOH]≦1.4であることが好ましく、0.82≦[COOH]/[NH_(2)]+[COOH]≦1.0であることがより好ましい。末端基含量が上記範囲に含まれるポリアミド樹脂を用いると、ポリアミド樹脂組成物が溶融滞留安定性に特に優れたものになる。
【0034】
末端封止剤として使用されるモノカルボン酸としては、アミノ基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;これらの任意の混合物等が挙げられる。中でも、反応性、封止末端の安定性、価格等の観点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸が好ましい。
【0035】
末端封止剤として使用されるモノアミンとしては、カルボキシル基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン;これらの任意の混合物等が挙げられる。中でも、反応性、高沸点、封止末端の安定性および価格等の観点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリンが好ましい。
【0036】
ポリアミド樹脂(A)は、ポリアミド樹脂を製造する方法として知られている任意の方法を用いて製造することができる。例えば、酸クロライドとジアミンを原料とする溶液重合法または界面重合法、ジカルボン酸とジアミンを原料とする溶融重合法、固相重合法、溶融押出重合法等の方法により製造することができる。
【0037】
ポリアミド樹脂(A)の製造方法としては、例えば最初にジカルボン酸成分と、ジアミン成分と、触媒と、必要に応じて末端封止剤とを一括して添加してポリアミド塩を製造した後、200?250℃の温度において加熱重合して、濃硫酸中の試料濃度が0.2g/dLの30℃における固有粘度(ηinh)が0.1?0.6dL/gであるプレポリマーとし、さらに固相重合するか、あるいは溶融押出機を用いて重合させる方法が挙げられる。ここで、プレポリマーのηinhが0.1?0.6dL/gの範囲内であると、後の重合の段階においてカルボキシル基とアミノ基のモルバランスのずれや重合速度の低下が少なく、さらに分子量分布の小さな、各種物性や成形性に優れたポリアミド樹脂(A)が得られる。
【0038】
なお、重合の最終段階を固相重合により行う場合、減圧下または不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、重合温度が200?280℃の範囲内であれば、重合速度が大きく、生産性に優れ、着色やゲル化を有効に抑制することができる。重合の最終段階を溶融押出機により行う場合の重合温度としては、370℃以下であることが好ましい。かかる条件で重合すると、ポリアミド樹脂(A)の分解がほとんど起こらず、劣化の無いポリアミド樹脂(A)が得られる。
【0039】
ポリアミド樹脂(A)の製造に際し、前記の末端封止剤の他に、例えば触媒として、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、それらの塩またはエステルを添加することができる。上記の塩またはエステルとしては、例えば、リン酸、亜リン酸または次亜リン酸とカリウム、ナトリウム、マグネシウム、バナジウム、カルシウム、亜鉛、コバルト、マンガン、錫、タングステン、ゲルマニウム、チタン、アンチモン等の金属との塩;リン酸、亜リン酸または次亜リン酸のアンモニウム塩;リン酸、亜リン酸または次亜リン酸のエチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、ヘキシルエステル、イソデシルエステル、オクタデシルエステル、デシルエステル、ステアリルエステル、フェニルエステル等のエステルが挙げられる。
【0040】
ポリアミド樹脂(A)は、濃硫酸中の試料濃度が0.2g/dLの30℃で測定したηinhが0.4?3.0dL/gの範囲内であることが好ましく、0.5?2.0dL/gの範囲内であることがより好ましく、0.6?1.5dL/gの範囲内であることがさらに好ましい。ηinhが上記の範囲内のものを使用すると、耐熱性、機械的強度等がより優れた成形体を与えるポリアミド樹脂組成物が得られる。
【0041】
ポリアミド樹脂(A)は、耐熱性および成形性の観点から、その融点が、260?350℃であることが好ましい。
【0042】
[繊維状または針状フィラー(B)]
本発明で使用される繊維状または針状フィラー(B)としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、全芳香族ポリアミド繊維(例えばポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、ポリメタフェニレンテレフタルアミド繊維、ポリパラフェニレンイソフタルアミド繊維、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維、ジアミノジフェニルエーテルとテレフタル酸またはイソフタル酸との縮合物から得られる繊維等)、ホウ素繊維、液晶ポリエステル繊維、玄武岩繊維等の繊維状フィラー;チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ワラストナイト、ゾノトライト等の針状フィラーなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、得られる成形体の機械的特性、耐熱性および寸法特性がより一層向上することから、下記の群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、ガラス繊維がより好ましい。
繊維状フィラー:ガラス繊維、炭素繊維、全芳香族ポリアミド繊維
針状フィラー:チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ワラストナイト、ゾノトライト
【0043】
繊維状または針状フィラー(B)の平均長は、良好な成形性の保持および得られる成形体の機械的特性や耐熱性の向上の観点から、1μm?20mmの範囲内にあることが好ましく、5μm?10mmの範囲内にあることがより好ましく、10μm?5mmの範囲内にあることがさらに好ましい。また、アスペクト比は3?2000の範囲内にあることが好ましく、10?600の範囲内にあることがより好ましい。
【0044】
繊維状または針状フィラー(B)の断面は異形断面形状であることが好ましい。フィラーの断面とは、フィラーの長手方向に垂直な面で切断した場合の切断面であり、異形断面形状とは、例えば円形が2本対となるまゆ形、楕円形、半円形、長方形、多角形、星形等の非円形断面が挙げられる。異形断面形状は、断面長径D1、断面短径D2で表わされる異形比D1/D2が1.2?10の範囲であることが好ましく、1.5?6の範囲であることがより好ましい。異形比が上記範囲内であると、ポリアミド樹脂組成物の耐ドローダウン性や、ブロー成形体の機械的強度(特に、TD方向の強度)および表面性が良好となる。
【0045】
繊維状または針状フィラー(B)の含有量については、ポリアミド樹脂(A)100質量部とした場合に、下限値は、10質量部であることが必要であり、12質量部が好ましく、15質量部がより好ましい。上限値は、100質量部であることが必要であり、40質量部が好ましく、30質量部がより好ましい。繊維状または針状フィラー(B)の含有量を10質量部以上とすることで、本発明により得られるブロー成形体の機械的強度を高めることができ、100質量部以下とすることで、耐ドローダウン性を高めることができる。
【0046】
繊維状または針状フィラー(B)は、マトリックス樹脂であるポリアミド樹脂(A)との接着性改善、ポリアミド樹脂組成物の機械的特性向上の観点から、表面処理が施されていてもよい。該表面処理における表面処理剤としては、例えばシラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤等のカップリング剤や、集束剤などが挙げられる。好適に使用されるカップリング剤としては、アミノシラン、エポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシランが挙げられる。また、好適に使用される集束剤としては、エポキシ系化合物、ウレタン系化合物、カルボン酸系化合物、ウレタン/マレイン酸変性化合物、ウレタン/アミン変性系化合物が挙げられる。これらの表面処理剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。特に、カップリング剤と集束剤を併用すると、繊維状または針状フィラー(B)とポリアミド樹脂(A)との接着性が一層改善され、得られるポリアミド樹脂組成物の機械的特性がより向上する。表面処理された繊維状または針状フィラー(B)は、625±20℃で10分間以上加熱したときの質量減少が、表面処理された繊維状または針状フィラー(B)の全質量に基づいて0.01?8.0質量%の範囲内であることが好ましく、0.1?5.0質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0047】
[染料(C)]
本発明で使用される染料(C)は5%熱減量温度が290℃以上であり、このような5%熱減量温度を有する染料(C)を用いることで、得られるポリアミド樹脂組成物の溶融滞留安定性を向上させることができる。染料(C)の5%熱減量温度としては、295℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましい。
【0048】
5%熱減量温度が290℃以上である染料(C)を用いることで得られるポリアミド樹脂組成物の溶融滞留安定性が改善できる理由は定かではないが、本発明者らは染料の分解物(ラジカル、塩酸等)がポリアミドの劣化を促進していると推定している。
【0049】
染料(C)は、本発明のポリアミド樹脂組成物を成形して得られる成形体の表面性が著しく向上できるという観点から、アジン系染料であり、アジン系染料としては例えば、アニリンとニトロベンゼンと塩酸とを主原料とし、酸化第二鉄等を触媒に用いて得られるトリフェナジンオサジン、フェナジンアジン等のアジン系化合物の混合物を用いることができる。なお、上記のアジン系化合物などのアジン系染料は、後述の実施例および比較例が示すように、すべてが290℃以上の5%熱減量温度を有するものではない。したがって、5%熱減量温度が290℃以上の染料(C)を得るには、アジン系染料等について実際に5%熱減量温度を測定し、適宜選別すればよい。5%熱減量温度は、例えば熱重量分析装置を用い、不活性ガス気流下、昇温速度10℃/分の条件下で測定を行い、重量が5%減少した時点の温度として求めることができる。
【0050】
染料(C)、特にアジン系染料は、塩素含有率の少ないものを使用することが好ましい。染料(C)、特にアジン系染料は、塩素含有率の少ないものの方が5%熱減量温度が高い傾向にあり、また、溶融滞留時の加熱によって発生する塩酸量が少なくなり、ポリアミド樹脂(A)の分解が抑制される。このため、塩素含有率の少ない染料(C)を使用することにより、より高い溶融滞留安定性が得られる。塩素含有率は染料(C)の全質量に対し、0.06質量%以下であり、0.04質量%以下が好ましい。染料(C)としては、例えばNUBIAN BLACK TH-827(オリヱント化学工業株式会社製)を用いることができる。
【0051】
上記の染料(C)の使用量に関し、少なすぎると、得られるブロー成形体の表面性が悪く、多すぎるとポリアミド樹脂組成物およびブロー成形体の機械的強度が低下することから、ポリアミド樹脂(A)100質量部とした場合に、下限値は、0.05質量部であることが必要であり、1質量部が好ましい。上限値は、5質量部であることが必要であり、3質量部が好ましい。
【0052】
[滴下防止剤(D)]
本発明のポリアミド樹脂組成物には、さらに滴下防止剤(D)を含有させてもよい。
【0053】
滴下防止剤(D)は、例えばフルオロエチレン構造を含む重合体または共重合体であり、その具体例としては、ジフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレンとフッ素原子を含まないエチレン系モノマーとの共重合体等のポリフルオロオレフィン系樹脂が挙げられる。中でも、テトラフルオロエチレン重合体(PTFE)が好ましい。
【0054】
滴下防止剤(D)としてポリフルオロオレフィン系樹脂を用いる場合、フィブリル形成能を有するものを用いると、高い耐ドローダウン性を付与することができる。ここで、「フィブリル形成能」とは、せん断力等の外的作用により、樹脂同士が結合して繊維状になる傾向を示す性質を意味する。
【0055】
フィブリル形成能を有するポリフルオロオレフィン系樹脂としては、例えばテフロン6-J(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製)、ポリフロンF-201、ポリフロンMPA PA-5000H、ポリフロンFA-100(ダイキン工業株式会社製)、フルオンCD076(旭硝子株式会社製)、アルゴフロンF5(ソルベイソレクシス株式会社製)、アクリル樹脂変性ポリテトラフルオロエチレンであるメタブレンA3000、メタブレンA3700(三菱レイヨン株式会社製)等が挙げられる。フィブリル形成能を有するポリフルオロオレフィン系樹脂は、例えばテトラフルオロエチレンを水性溶媒中で、ナトリウム、カリウム、アンモニウムペルオキシジスルフィド等の存在下で、7?700kPa程度の圧力下、温度0?200℃程度、好ましくは20?100℃で重合させることにより、またはPTFEをアクリル樹脂で変性することにより得ることができる。これらのポリフルオロオレフィン系樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
滴下防止剤(D)を含有させると、ポリアミド樹脂組成物の低せん断速度における溶融粘度は増大し、一方で、高せん断速度における溶融粘度は低下する。すなわち、せん断速度に対する溶融粘度の傾きが急になり、ブロー成形性の向上に繋がる。例えば、低せん断速度領域の粘度上昇は、パリソンの安定性と成形体の偏肉抑制に寄与する。一方、高せん断速度領域の粘度低下は、パリソン形成時のメルトフラクチャー抑制に作用し、偏肉の小さい成形体が得られる。せん断速度に対する溶融粘度の傾きとしては、ARES平行平板レオメーターを使用して、せん断速度が0.1ラジアン/秒と100ラジアン/秒における溶融粘度を測定し、下記数式(2)から算出できる。
溶融粘度比 = (0.1ラジアン/秒における溶融粘度)÷(100ラジアン/秒における溶融粘度) (2)
【0057】
粘度比としては、10以上が好ましく、20以上がより好ましい。
【0058】
滴下防止剤(D)の含有量について、耐ドローダウン性および成形体の表面性の観点から、ポリアミド樹脂(A)100質量部とした場合に、下限値は、0.1質量部が好ましく、0.3質量部がより好ましい。上限値は、10質量部が好ましく、4質量部がより好ましい。
【0059】
[その他の成分]
本発明のポリアミド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じて、その他の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、その他の無機充填材、無機充填材と樹脂との親和性を高めるためのシランカップリング剤、結晶核剤、銅系安定剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオ系酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、潤滑剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、難燃助剤、加工助剤等の他の成分を含有させてもよい。
【0060】
[ポリアミド樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造法については、ポリアミド樹脂(A)、繊維状または針状フィラー(B)、染料(C)および必要に応じて他の成分を均一に混合させ得る方法であればよく、通常溶融混練する方法が採用される。溶融混練は、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練機を使用して行うことができ、溶融混練条件等は特に限定されないが、例えばポリアミド樹脂(A)の融点よりも30?50℃高い温度範囲で1?30分間混練することにより、本発明のポリアミド樹脂組成物を得ることができる。
【0061】
[成形体]
本発明のポリアミド樹脂組成物を、目的とする成形体の種類、用途、形状などに応じて、射出成形、押出成形、プレス成形、ブロー成形、カレンダー成形、流延成形、アシスト成形等、熱可塑性樹脂組成物に対して一般に用いられる成形方法を適用することにより、各種の成形体を製造できる。また上記の成形方法を組み合わせた成形方法を採用しても良い。さらに、本発明のポリアミド樹脂組成物を、各種熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紙、金属、木材、セラミックスなどの各種材料と接着、溶着または接合した複合成形体とすることもできる。
【0062】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、溶融滞留安定性に優れることに加え、耐熱性、機械的強度、耐薬品性、表面性にも優れる。また、耐ドローダウン性にも優れるため、ブロー成形に好適に利用できる。ブロー成形体を得る方法として、従来公知のブロー成形方法を使用することができ、例としては、ダイレクトブロー法、アキュームレーターブロー法および多次元ブロー法等を挙げることができ、また他の材料との組合せにおいて用いられる多層ブロー成形法やエクスチェンジブロー成形法等を適用することも可能である。また、ポリエチレンなどのポリオレフィンや他の熱可塑性樹脂と共押出した後、ブロー成形を行い多層構造体を得ることも可能である。その場合、ポリアミド樹脂組成物層とポリオレフィンなどの他の熱可塑性樹脂層の間に接着層を設けることも可能である。多層構造体の場合、本発明のポリアミド樹脂組成物の層を内層に配することで、耐熱性、耐薬品性に優れるブロー成形体を得ることができる。
【0063】
本発明の成形体は、耐熱性、機械的強度、耐薬品性、表面性に優れることから、60℃以上の高温ガスおよび/または高温薬液と接する物品に利用することが可能である。特に、自動車用パイプとして利用することができる、例えば高温ガスが通る吸排気系パイプが挙げられ、特に自動車用EGR(エキゾーストガス・リサーキュレーション)パイプに好適である。また、近年、燃費向上、排ガス規制の観点からEGRにおける排ガスのインテークマニホールドへの戻り量が増えつつあり、それに伴い、パイプ部にSOxやNOx由来の酸性凝縮水が付着する場合がある。このような酸性凝縮水の付着するEGRパイプについても、本発明のブロー成形体は好適である。また、本発明のブロー成形体は、自動車用冷媒パイプにも好適であり、例えば高温のラジエーター液が通過する冷却系冷媒パイプやフロンなどのエアコン用冷媒が通過するエアコン系冷媒パイプにも利用可能である。従来のフロンに対して代替冷媒として導入が予定されているHFO-1234yfのような炭素原子間二重結合を有する化合物を含有するエアコン用冷媒が通過するエアコン系冷媒パイプとしても本発明のブロー成形体は耐薬品性の観点から好適である。また、エンジンルーム内における高温の燃料と接触する燃料系パイプにも使用することができる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、染料の5%熱減量温度および塩素含有率、ポリアミド樹脂の融点、溶液粘度、末端アミノ基含量、ポリアミド樹脂組成物の溶融粘度の粘度比および溶融粘度の変化率、ポリアミド樹脂組成物の成形体の引張り強さ、耐薬品性、肉厚差および表面性は以下の方法で測定した。
【0065】
<5%熱減量温度>
以下の実施例および比較例で用いた染料の5%熱減量温度は、メトラー・トレド株式会社製の熱重量分析装置(TC15)を用い、窒素気流下、昇温速度10℃/分の条件下で50℃から500℃まで加熱しながら重量変化を測定し、試料の重量が5%減少した時点の温度(℃)として求めた。
【0066】
<塩素含有率>
以下の実施例および比較例で用いた染料の塩素含有率は、試料10mgと吸収液としての超純水25mLとを用いた、酸素フラスコ燃焼法により得られた試料溶液を溶離液で10倍に希釈して、ダイオネクス社製イオンクロマトグラフ(DX-500)で測定した。測定の諸条件を以下に記す。
カラム:IonPac AG12A、AS12A(4mmφ×250mm)
溶離液:0.3mM NaHCO_(3)および2.7mM Na_(2)CO_(3)
溶離液流量:1.2mL/min
検出器:電気伝導度検出器
【0067】
<融点>
メトラー・トレド株式会社製の示差走査熱量分析装置(DSC822)を使用して、以下の実施例および比較例で用いたポリアミド樹脂を用い、窒素雰囲気下で、30℃から340℃へ10℃/分の速度で加熱し、340℃で2分間保持して試料を完全に融解させた後、10℃/分の速度で30℃まで冷却し30℃で2分間保持した。再び10℃/分の速度で360℃まで昇温した時に現れる融解ピークのピーク温度を融点(℃)とし、融解ピークが複数ある場合は最も高温側の融解ピークのピーク温度を融点(℃)とし、耐熱性の指標とした。
【0068】
<溶液粘度>
以下の実施例および比較例で用いたポリアミド樹脂50mgをメスフラスコ中で98%濃硫酸25mLに溶解させ、ウベローデ型粘度計にて、得られた溶液の30℃での落下時間(t)を計り、濃硫酸の落下時間(t_(0))から下記数式(3)より溶液粘度ηinh(dL/g)を算出した。
ηinh(dL/g)={ln(t/t_(0))}/0.2 (3)
【0069】
<末端アミノ基含量>
以下の実施例および比較例で用いたポリアミド樹脂1gをフェノール35mLに溶解し、そこへメタノールを2mL混合し、試料溶液とした。チモールブルーを指示薬とし、0.01規定の塩酸水溶液を使用した滴定を実施し、末端アミノ基含量([NH_(2)]、単位:μモル/g)を測定した。
【0070】
<末端カルボキシル基含量>
以下の実施例および比較例で用いたポリアミド樹脂0.2gをo-クレゾール15mLに加え、110℃に加熱して溶解させた。室温付近まで冷却後、ベンジルアルコール10mL、o-クレゾール50mLとホルムアルデヒド50μLを加えた。0.05規定のエタノール性水酸化カリウムを滴定液として、電位差滴定装置で末端カルボキシル基含量([COOH],単位:μモル/g)を測定した。
【0071】
<溶融粘度の粘度比>
以下の実施例および比較例のポリアミド樹脂組成物を用いて、圧縮成形機を使用して、ポリアミド樹脂の融点よりも10?30℃高い成形温度の下、長さ150mm×幅150mm×厚み1mmの平板を作製した。得られた平板から、φ25mmの円形の成形体を切り出し、溶融粘度の測定に供した。溶融粘度の測定には、ARES製平行平板形レオメーター(レオメトリクス製)を使用し、ポリアミド樹脂の融点よりも15℃高い測定温度において、0.1ラジアン/秒および100ラジアン/秒の溶融粘度をそれぞれ測定した。上述の数式(2)より粘度比を算出し、耐ドローダウン性の指標とした。
【0072】
<溶融粘度の変化率>
以下の実施例および比較例のポリアミド樹脂組成物について、キャピログラフ(株式会社東洋精機製作所製)を用いて、バレル温度320℃、せん断速度121.6sec^(-1)(キャピラリー:内径1.0mm×長さ10mm、押出速度10mm/min)として、溶融時間4分の溶融粘度M1および溶融時間15分の溶融粘度M2を求めた。このM1およびM2を用いて下記数式(4)から溶融粘度の変化率(%)を算出し、溶融滞留安定性の指標とした。
溶融粘度の変化率(%)=(M2-M1)/M1×100 (4)
【0073】
<引張り強さ>
東芝機械株式会社製の射出成形機(型締力:80トン、スクリュー径:φ32mm)を使用して、ポリアミド樹脂の融点よりも20?30℃高いシリンダ温度、および、ポリアミド樹脂のガラス転移温度よりも20?30℃高い金型温度の条件下で、Tランナー金型を用いて、以下の実施例および比較例のポリアミド樹脂組成物(ペレット)からISO多目的試験片A型ダンベルを作製して、引張り強さ評価用試験片とした。得られた試験片を用いて、ISO527-1に準じて、オートグラフ(株式会社島津製作所製)を使用して、23℃における引張り強さ(MPa)を測定し、機械的強度の指標とした。
【0074】
<耐薬品性>
以下の実施例および比較例のポリアミド樹脂組成物を用いて、ポリアミド樹脂の融点よりも約20℃高いシリンダ温度で射出成形(金型温度80℃)を行い、ISO多目的試験片A型を作製した。この試験片の引張強さをISO 527に従って測定した。続いて、同様に作製したISO多目的試験片A型をトヨタ製スーパーロングライフクーラント(ピンク)を水で2倍希釈した水溶液中に浸漬し、130℃、500時間浸漬した後の引張強さをISO 527に従って測定した。浸漬前の試験片の引張強さに対する浸漬後の試験片の引張強さの割合(%)を算出することで、耐薬品性の指標とした。
【0075】
<肉厚差>
以下の実施例および比較例のポリアミド樹脂組成物を用い、ブロー成形機(JSW製JB105、ダイ径Φ21mm、コア径Φ18.5mm)を用いて、ポリアミド樹脂の融点よりも10?30℃高い成形温度にて、上部に細口2を有する500mL容器1を成形した(図1)。得られた容器の底面3から上部方向5cmに位置する容器部の肉厚をT1、そこからさらに5cm上部方向に位置する容器部の肉厚をT2とし、下記数式(5)を用いて、肉厚差(mm)を計算し、ブロー成形性の指標とした。
肉厚差(mm) = T1-T2 (5)
【0076】
<表面性>
肉厚差の評価の際に作製した容器の外観を観察し、以下の指標で表面性を評価した。
◎:ガラス繊維の毛羽立ち無し
○:若干のガラス繊維の毛羽立ちが認められる
×:ガラス繊維の毛羽立ち、凹凸が認められる
【0077】
各実施例および比較例で使用したポリアミド樹脂、繊維状または針状フィラー、染料、滴下防止剤を以下に記す。
【0078】
<ポリアミド樹脂A-1の合成>
テレフタル酸9870.6g(59.42モル)、1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンの混合物[前者/後者=80/20(モル比)]9497.4g(60.00モル)、安息香酸142.9g(1.17モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物19.5g(原料の総質量に対して0.1質量%)および蒸留水5リットルを内容積40リットルのオートクレーブに入れ、窒素置換した。100℃で30分間攪拌し、2時間かけてオートクレーブ内部の温度を220℃に昇温した。この時、オートクレーブ内部の圧力は2MPaまで昇圧した。そのまま2時間反応を続けた後230℃に昇温し、その後2時間、230℃に温度を保ち、水蒸気を徐々に抜いて圧力を2MPaに保ちながら反応させた。次に、30分かけて圧力を1MPaまで下げ、さらに1時間反応させて、ηinhが0.16dL/gのプレポリマーを得た。これをホソカワミクロン株式会社製フレーククラッシャーを使って2mm以下の粒径まで粉砕し、100℃、減圧下で12時間乾燥した後、230℃、13Pa(0.1mmHg)にて10時間固相重合し、融点が304℃、ηinhが1.30dL/g、末端アミノ基含量([NH_(2)])が10μモル/g、末端カルボキシル基含量([COOH])が60μモル/g、末端封止率が46%である白色のポリアミド樹脂を得た。
【0079】
<ポリアミド樹脂A-2の合成>
1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンの混合物の比率を前者/後者=50/50(モル比)に変更した以外はポリアミド樹脂A-1と同様の製造方法により、融点が265℃、ηinhが1.30dL/g、末端アミノ基含量([NH_(2)])が10μモル/g、末端カルボキシル基含量([COOH])が60μモル/g、末端封止率が46%である白色のポリアミド樹脂を得た。
【0080】
<ポリアミド樹脂A-3の合成>
テレフタル酸の使用量を9861.5g(59.36モル)に、1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンの混合物9497.4(60.00モル)を1,10-デカンジアミン10339.2g(60.00モル)に、安息香酸の使用量を156.3g(1.28モル)に、次亜リン酸ナトリウム一水和物の使用量を20.4g(原料の総質量に対して0.1質量%)に変更した以外はポリアミド樹脂A-1と同様の製造方法により、融点が318℃、極限粘度ηinhが1.30dL/g、末端アミノ基含量([NH_(2)])が10μモル/g、末端カルボキシル基含量([COOH])が58μモル/g、末端封止率が48%である白色のポリアミドを得た。
【0081】
<繊維状または針状フィラー(B)>
<B-1>日東紡績株式会社製「CS-3J-256」(ガラス繊維)、横断面形状は円形(異形比=1)、直径11μm、繊維長さ3mm
<B-2>日東紡績株式会社製「CSH 3PA-870」(ガラス繊維)、繊維断面形状はまゆ形(異形比=2)、長径20μm、繊維長さ3mm
<B-3>日東紡績株式会社製「CSH 3PA-820」(ガラス繊維)、繊維断面形状は長方形(異形比=4)、長径28μm、繊維長さ3mm
【0082】
<染料(C)>
<C-1>オリヱント化学工業株式会社製「Nubian Black TH-827」(アジン系染料)、5%熱減量温度=301℃、塩素含有率0.04質量%
<C-2>オリヱント化学工業株式会社製「Nubian Black AH-827」(アジン系染料)、5%熱減量温度=276℃、塩素含有率1.8質量%
<C-3>オリヱント化学工業株式会社製「Nubian Black PA-2800」(アジン系染料)、5%熱減量温度=268℃、塩素含有率2.3質量%
【0083】
<滴下防止剤>
三菱レイヨン株式会社製「メタブレンA3000」(アクリル変性PTFE)
【0084】
(実施例1?10、比較例1?2について)
ポリアミド樹脂およびその他の成分を表1に示す割合で予備混合した後、同方向回転二軸押出機(東芝機械株式会社製「TEM-26SS」)の供給口に一括投入した。ポリアミド樹脂の融点よりも30℃高いシリンダ温度の条件下に溶融混練した後にストランド状に押出し、冷却、切断してペレット状のポリアミド樹脂組成物を製造した。得られたペレットを用いて、上記の各種物性評価を行った。結果を表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
実施例1?10は、5%熱減量温度が290℃以上のアジン系染料であり、塩素含有率が染料(C)の全質量に対して0.06質量%以下である染料<C-1>を含有するため、耐熱性、耐ドローダウン性、溶融滞留安定性、機械的強度、耐薬品性、ブロー成形性、表面性が良好であった。実施例4?7、10では、滴下防止剤をさらに組み合わせることによって、溶融滞留安定性および表面性を兼ね備えつつ、耐ドローダウン性およびブロー成形性がさらに向上した結果が得られた。一方、比較例1および2は、5%熱減量温度が280℃未満の染料<C-2>および<C-3>を用いたため、溶融滞留安定性に劣った。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のポリアミド樹脂組成物を用いて各種成形体を提供することができる。特に本発明のポリアミド樹脂組成物は、ブロー成形体を提供するのに有利である。本発明のポリアミド樹脂組成物を含む成形体は、自動車パイプ等として有用である。
【符号の説明】
【0088】
1 容器
2 細口
3 底部
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂(A)、
前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して10?100質量部の繊維状または針状フィラー(B)、および
前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して0.05?5質量部の染料(C)を含有するポリアミド樹脂組成物であって、
前記染料(C)が、5%熱減量温度が290℃以上のアジン系染料であり、前記染料(C)の塩素含有率が、前記染料(C)の全質量に対して0.06質量%以下である、ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂(A)が、前記ポリアミド樹脂(A)を構成する全ジアミン単位中、炭素数4?18の脂肪族ジアミン単位を50?100モル%含有し、かつ前記ポリアミド樹脂(A)を構成する全ジカルボン酸単位中、芳香族ジカルボン酸単位および/または脂環式ジカルボン酸単位を50?100モル%含有する、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記脂肪族ジアミン単位が、1,4-ブタンジアミン単位、1,5-ペンタンジアミン単位、1,6-ヘキサンジアミン単位、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン単位、1,8-オクタンジアミン単位、1,9-ノナンジアミン単位、2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位および1,10-デカンジアミン単位からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記脂肪族ジアミン単位が、1,9-ノナンジアミン単位および/または2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位である、請求項3に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記芳香族ジカルボン酸単位がテレフタル酸単位である、請求項2?4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記脂環式ジカルボン酸単位が1,4-シクロヘキサンジカルボン酸単位である、請求項2?5のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリアミド樹脂(A)が、さらに、ラクタム単位および/またはアミノカルボン酸単位を含有する、請求項2?6のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリアミド樹脂(A)の融点が260?350℃である、請求項1?7のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項9】
前記繊維状または針状フィラー(B)が異形断面形状を有する、請求項1?8のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項10】
前記繊維状または針状フィラー(B)の、断面長径D1、断面短径D2で表わされる異形断面形状の異形比D1/D2が1.2?10である、請求項9に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項11】
前記繊維状または針状フィラー(B)がガラス繊維である、請求項1?10のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項12】
前記アジン系染料(C)が、5%熱減量温度が300℃以上のアジン系染料である、請求項1?11のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項13】
前記染料(C)の塩素含有率が、前記染料(C)の全質量に対して0.04質量%以下である、請求項1?12のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項14】
前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、さらに、滴下防止剤(D)を0.1?10質量部含有する、請求項1?13のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項15】
請求項1?14のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を含有する成形体。
【請求項16】
請求項1?14のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を含有するブロー成形体。
【請求項17】
請求項16に記載のブロー成形体を含む自動車用EGRパイプ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-11-01 
出願番号 特願2013-193102(P2013-193102)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C08L)
P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 内田 靖恵  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 近野 光知
海老原 えい子
登録日 2017-09-29 
登録番号 特許第6216196号(P6216196)
権利者 株式会社クラレ
発明の名称 ポリアミド樹脂組成物および当該ポリアミド樹脂組成物を含有する成形体  
代理人 鎌田 耕一  
代理人 天野 浩治  
代理人 天野 浩治  
代理人 鎌田 耕一  

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