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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
管理番号 1347641
異議申立番号 異議2017-701210  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-12-21 
確定日 2018-11-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6150031号発明「非水電解質二次電池電極用バインダー及びその製造方法、並びに、その用途」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6150031号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4、10?14〕、〔5?9〕について訂正することを認める。 特許第6150031号の請求項1?14に係る特許を維持する。  
理由 第1 手続の経緯
特許第6150031号(以下「本件特許」という。)の請求項1?14に係る特許についての出願(特願2017-513553)は、2016年(平成28年)10月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2015年10月30日、日本国、2016年 1月29日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成29年 6月 2日にその特許権の設定登録がされ、同年 6月21日付け特許掲載公報が発行されたものである。
その後、同年12月21日に、本件特許について、特許異議申立人岩田敏(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、その後、次のとおりに手続きが行われた。
平成30年 3月20日付け :当審による申立人への審尋
平成30年 4月 5日 :申立人による上申書の提出
平成30年 4月10日付け :当審による申立人への通知書
平成30年 4月26日 :申立人による回答書の提出
平成30年 5月11日付け :当審による申立人への審尋
平成30年 5月30日 :申立人による回答書の提出
平成30年 6月11日付け :取消理由通知書及び
当審による特許権者への審尋
平成30年 8月10日 :特許権者による意見書及び回答書、
並びに訂正請求書
(以下「本件訂正請求」という。)の提出
平成30年 8月20日付け :当審による申立人への通知書
平成30年 9月21日 :申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1?3のとおりである。なお、下線は当審が付与した。以下同様。
(1)訂正事項1
請求項1に「中和度80?100モル%に中和された前記架橋重合体を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で0.1?7.0μmである非水電解質二次電池電極用バインダー。」とあるのを、
「中和度80?100モル%に中和された前記架橋重合体(ただし、全構造単位に対してアクリル酸モノマーに由来する構造単位を99.5?99.7質量%含み、分子内に2つのアリルエーテル基を有するジアリルエーテルを架橋剤として前記アクリル酸モノマーに対して0.14モル%用いて架橋された重合体、全構造単位に対してアクリル酸モノマーに由来する構造単位を99.6質量%含み、ジエチレングリコールジアリルエーテルを架橋剤として前記アクリル酸モノマーに対して0.14モル%用いて架橋された重合体及び全構造単位に対してメタクリル酸に由来する構造単位を59.4質量%含み、ジアリルフタレートを、架橋剤として他のモノマーの総量に対して0.037モル%用いて架橋された重合体を除く。)を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で0.1?5.8μmである非水電解質二次電池電極用バインダー。」に訂正する。
また、請求項1の記載を引用する請求項2?4、10?14も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
請求項4に「前記架橋重合体又はその塩は、1質量%水溶液の粘度が500mPa・s以下であり、3質量%水溶液の粘度が5000mPa・s以上である」とあるのを、
「前記架橋重合体又はその塩は、1質量%水溶液の粘度が88mPa・s以下であり、3質量%水溶液の粘度が8900mPa・s以上である」に訂正する。
また、請求項4の記載を引用する請求項10?14も同様に訂正する。

(3)訂正事項3
請求項5に「中和度80?100モル%に中和された前記架橋重合体を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で0.1?7.0μmであり、」とあるのを、
「中和度80?100モル%に中和された前記架橋重合体を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で0.1?5.8μmであり、」に訂正する。
また、請求項5の記載を引用する請求項6?9も同様に訂正する。

2 訂正の適否について
2-1 訂正事項1
(1)訂正の目的の適否
訂正事項1は、訂正前の「架橋重合体」のうち、「全構造単位に対してアクリル酸モノマーに由来する構造単位を99.5?99.7質量%含み、分子内に2つのアリルエーテル基を有するジアリルエーテルを架橋剤として前記アクリル酸モノマーに対して0.14モル%用いて架橋された重合体、全構造単位に対してアクリル酸モノマーに由来する構造単位を99.6質量%含み、ジエチレングリコールジアリルエーテルを架橋剤として前記アクリル酸モノマーに対して0.14モル%用いて架橋された重合体及び全構造単位に対してメタクリル酸に由来する構造単位を59.4質量%含み、ジアリルフタレートを、架橋剤として他のモノマーの総量に対して0.037モル%用いて架橋された重合体」を「除く」とし、さらに、「1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で0.1?7.0μm」であったのを、「1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で0.1?5.8μm」とする訂正であって、訂正事項1は、訂正前の「架橋重合体」から特定の重合体を除くことで限定し、「体積基準メジアン径」について訂正前に「0.1?7.0μm」であった範囲を「0.1?5.8μm」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、上記(1)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)新規事項の有無
訂正事項1のうち、「全構造単位に対してアクリル酸モノマーに由来する構造単位を99.5?99.7質量%含み、分子内に2つのアリルエーテル基を有するジアリルエーテルを架橋剤として前記アクリル酸モノマーに対して0.14モル%用いて架橋された重合体、全構造単位に対してアクリル酸モノマーに由来する構造単位を99.6質量%含み、ジエチレングリコールジアリルエーテルを架橋剤として前記アクリル酸モノマーに対して0.14モル%用いて架橋された重合体及び全構造単位に対してメタクリル酸に由来する構造単位を59.4質量%含み、ジアリルフタレートを、架橋剤として他のモノマーの総量に対して0.037モル%用いて架橋された重合体」を「除く」とする事項については、訂正前の「架橋重合体」から、甲1?甲3に記載された重合体であって、訂正前の本件発明1と重なる部分のみを除く訂正であるから、新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正事項1のうち、「1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で0.1?5.8μmである」とする事項については、本件特許明細書【0082】の表1の「製造例2」の「1wt%NaCl水溶液中の平均粒子径[μm]」の欄の「5.8」なる記載に基づいて「体積基準メジアン径」の上限値を訂正するものであるから、新規事項の追加に該当しない。
したがって、訂正事項1は、新規事項の追加に該当しない。

2-2 訂正事項2
(1)訂正の目的の適否
訂正事項2は、請求項4に「前記架橋重合体又はその塩は、1質量%水溶液の粘度が500mPa・s以下であり、3質量%水溶液の粘度が5000mPa・s以上である」とあるのを、
「前記架橋重合体又はその塩は、1質量%水溶液の粘度が88mPa・s以下であり、3質量%水溶液の粘度が8900mPa・s以上である」に訂正するものであり、「1質量%水溶液の粘度」の上限値を「500mPa・s」から「88mPa・s」と訂正するとともに、「3質量%水溶液の粘度」の下限値を「5000mPa・s」から「8900mPa・s」に訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、上記(1)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許請求の範囲の拡張し、又は変更するものではない。

(3)新規事項の有無
訂正事項2は、本件特許明細書【0083】の表2の「製造例8」のうち、「中和度80.0%」の「物性評価」の「1wt%水溶液粘度[mPas]」の項の「88」なる記載に基づいて「1質量%水溶液の粘度」の上限値を訂正し、同表2の「製造例10」の「3wt%水溶液粘度[mPas]」の項の「8900」なる記載に基づいて「3質量%水溶液の粘度」の下限値を訂正するものであるから、新規事項の追加に該当しない。

2-3 訂正事項3
(1)訂正の目的の適否
訂正事項3は、「体積基準メジアン径」の範囲を「0.1?7.0μm」から「0.1?5.8μm」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3は、上記(1)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許請求の範囲の拡張し、又は変更するものではない。

(3)新規事項の有無
訂正事項3は、本件特許明細書【0082】の表1の「製造例2」の「1wt%NaCl水溶液中の平均粒子径[μm]」の欄の「5.8」なる記載に基づいて「体積基準メジアン径」の上限値を訂正するものであるから、新規事項の追加に該当しない。

2-4 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1?4、10?14について、請求項2?4、10?14は、直接的又は間接的に、訂正前の請求項1を引用しているものであって、訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1?4、10?14は、一群の請求項である。
また、本件訂正前の請求項5?9について、請求項6?9は、直接的又は間接的に、訂正前の請求項5を引用しているものであって、訂正される請求項5に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項5?9は、一群の請求項である。
したがって、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものである。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?4、10?14〕、〔5?9〕をそれぞれ訂正単位とする訂正の請求をするものである。

2-5 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがなされているので、訂正事項1?3に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項は適用されない。

2-6 訂正の適否についての結論
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の特許請求の範囲について結論のとおり訂正を認める。

第3 本件発明
本件特許の請求項1?14に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明14」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?14に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
カルボキシル基を有する架橋重合体又はその塩を含有する非水電解質二次電池電極用バインダーであって、
前記架橋重合体は、その全構造単位に対し、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位50?100質量%を含み、
中和度80?100モル%に中和された前記架橋重合体(ただし、全構造単位に対してアクリル酸モノマーに由来する構造単位を99.5?99.7質量%含み、分子内に2つのアリルエーテル基を有するジアリルエーテルを架橋剤として前記アクリル酸モノマーに対して0.14モル%用いて架橋された重合体、全構造単位に対してアクリル酸モノマーに由来する構造単位を99.6質量%含み、ジエチレングリコールジアリルエーテルを架橋剤として前記アクリル酸モノマーに対して0.14モル%用いて架橋された重合体及び全構造単位に対してメタクリル酸に由来する構造単位を59.4質量%含み、ジアリルフタレートを、架橋剤として他のモノマーの総量に対して0.037モル%用いて架橋された重合体を除く。)を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で0.1?5.8μmである非水電解質二次電池電極用バインダー。
【請求項2】
前記架橋重合体が、架橋性単量体により架橋されたものであり、該架橋性単量体の使用量が非架橋性単量体の総量に対して0.02?0.7モル%である請求項1に記載の非水電解質二次電池電極用バインダー。
【請求項3】
前記架橋性単量体が、分子内に複数のアリルエーテル基を有する化合物である請求項2に記載の非水電解質二次電池電極用バインダー。
【請求項4】
前記架橋重合体又はその塩は、1質量%水溶液の粘度が88mPa・s以下であり、3質量%水溶液の粘度が8900mPa・s以上である請求項1?3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池電極用バインダー。
【請求項5】
非水電解質二次電池電極用バインダーに用いられるカルボキシル基を有する架橋重合体又はその塩の製造方法であって、
中和度80?100モル%に中和された前記架橋重合体を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で0.1?5.8μmであり、
エチレン性不飽和カルボン酸単量体を50?100質量%含む単量体成分を沈殿重合する重合工程を備えた前記架橋重合体又はその塩の製造方法。
【請求項6】
前記重合工程において、アセトニトリルを含む重合媒体を用いる請求項5に記載の架橋重合体又はその塩の製造方法。
【請求項7】
前記重合工程における前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体の中和度が10モル%以下である請求項5又は6に記載の架橋重合体又はその塩の製造方法。
【請求項8】
前記重合工程の後に乾燥工程を備え、
前記重合工程の後、前記乾燥工程の前に、当該重合工程により得られた重合体分散液にアルカリ化合物を添加して重合体を中和する工程を備える請求項5?7のいずれか1項に記載の架橋重合体又はその塩の製造方法。
【請求項9】
前記重合工程の後、固液分離工程、洗浄工程及び乾燥工程を備える請求項5?8のいずれか1項に記載の架橋重合体又はその塩の製造方法。
【請求項10】
請求項1?4のいずれか1項に記載のバインダー、活物質及び水を含む非水電解質二次電池電極合剤層用組成物。
【請求項11】
バインダーとしてさらにスチレン/ブタジエン系ラテックスを含む請求項10に記載の非水電解質二次電池電極合剤層用組成物。
【請求項12】
負極活物質として炭素系材料またはケイ素系材料のいずれかを含む請求項10又は11に記載の非水電解質二次電池電極合剤層用組成物。
【請求項13】
正極活物質としてリチウム含有金属酸化物を含む請求項10又は11に記載の非水電解質二次電池電極合剤層用組成物。
【請求項14】
集電体表面に、請求項10?13のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池電極合剤層用組成物から形成される合剤層を備えた非水電解質二次電池電極。」

第4 申立理由、取消理由等
1 申立理由の概要
申立人が申し立てた理由は、特許異議申立書の記載によれば、以下のものであると認められる。なお、各申立理由について、取消理由での採用の有無を()内に示している。

(申立理由1)(請求項1?3、10、12、13、14に対して採用)
本件発明1?4、10?14は、甲1、甲2、甲3にそれぞれ記載された発明であるから、本件発明1?4、10?14に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(申立理由2)(請求項10?14に対して採用)
本件発明1?4、10?14は、甲1、甲2、甲3にそれぞれ記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。

(申立理由3)(不採用)
本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?14を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないので、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(申立理由4)(採用)
本件発明1?14は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえないので、本件発明1?14に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、取り消されるべきものである。

<証拠方法>
甲第1号証:Shoko Aoki et al.「Acrylic Acid-Based Copolymers as Functional Binder for Silicon/Graphite Composite Electorode in Lithium-Ion Batteries」Journal of The Electrochemical Society,2015.08.28,162(12)A2245-A2249
甲第2号証:国際公開第2014/065407号
甲第3号証:特開2015-18776号公報
甲第4号証:架橋型ポリアクリル酸 CLPAシリーズ Cross-Linked Polyacylic Acid(CLPA) 和光純薬工業株式会社 カタログ
甲第5号証:実験報告書(メジアン径測定) 2017年12月 7日
甲第6号証:試験成績書 2017年12月12日 株式会社テクノプロ テクノプロ・R&D社 埼玉リサーチセンター
甲第7号証:実験報告書(メジアン径測定) 2017年12月15日
甲第8号証:業務報告書 ポリアクリル酸の調整(20CLPAH0.1Li0.9の調整) 2018年 4月19日 熊谷逸裕
甲第9号証:試験成績書 2018年 4月18日 熊谷逸裕
甲第10号証:宣誓書 平成30年 4月23日 江頭真樹
甲第11号証:宣誓書 平成30年 4月23日 矢田博英
甲第12号証:実験報告書(メジアン径測定) 2018年 4月23日 株式会社UBE科学分析センター 物性評価研究室
甲第13号証:宣誓書 平成30年 4月 6日 熊谷逸裕
甲第14号証:宅配便伝票 2018年 4月 6日
甲第15号証:送付状 2018年 4月 6日 株式会社テクノプロ テクノプロ・R&D社 埼玉リサーチセンター
甲第16号証:宣誓書 平成30年 4月 9日 矢田裕英
甲第17号証:実験報告書(メジアン径測定) 2018年 4月 9日 株式会社UBE科学分析センター 物性評価研究室
以下それぞれ「甲1」?「甲17」という。

また、申立人は、平成30年 9月21日付け意見書とともに、以下の参考資料1?参考資料6を提出した。

参考資料1:エマルジョン事業部 機能化学品部「リチウムイオン二次電池 高性能負極用バインダー」JSR TECHNICAL REVIEW 2007年 No.114 p.30-33
参考資料2:特開2011-40309号公報
参考資料3:特開2008-77837号公報
参考資料4:国際公開第2007/125924号
参考資料5:特開2010-44962号公報
参考資料6:特開2013-73921号公報

2 取消理由の概要
平成30年6月11日付けの取消理由通知で当審から通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
(取消理由1)(サポート要件)(申立理由4を採用)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(取消理由2)(新規性)(申立理由1のうち一部を採用)
本件特許の請求項1?3、10、12、14に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証、甲第2号証それぞれに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(取消理由3)(新規性)(申立理由1のうち一部を採用)
本件特許の請求項1?3、10、13、14に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

(取消理由4)(進歩性)(申立理由2のうち一部を採用)
この出願の請求項10?14に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証?甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 乙号証について
特許権者は、平成30年 8月10日付け意見書とともに、以下の乙第1号証?乙第4号証を提出した。
乙第1号証:「ラジカル重合ハンドブック」初版第一刷、株式会社エヌ・ティー・エス発行、2010年 9月10日、第385頁
乙第2号証:川口春馬「総論(ポリマー微粒子)」色材、一般社団法人色材協会、1998年、71〔4〕、p.272-279
乙第3号証:特開2013-98123号公報
乙第4号証:実験成績証明書、平成30年 7月24日付け
以下、それぞれ「乙1」?「乙4」という。

第5 甲号証の記載
1 甲1(Shoko Aoki et al.「Acrylic Acid-Based Copolymers as Functional Binder for Silicon/Graphite Composite Electorode in Lithium-Ion Batteries」Journal of The Electrochemical Society,2015.08.28,162(12)A2245-A2249)
甲1には、「Acylic Acid-Based Copolymers as Functional Binder for Silicon/Graphite Composite Electrode in Lithium-Ion Batteries」(論文名)(当審訳:「リチウムイオン電池用シリコン/黒鉛複合電極の機能性バインダーのアクリル酸系共重合体」)に関して、以下の事項が記載されている。

1ア「Cross-linked poly(acrylic acid)s were synthesized by copolymerization of acylic acid with different amount of dially ether as a crosslinker,H_(2)C=CH-CH_(2)-(O-CH_(2)-CH_(2))_(n)-O-CH_(2)-CH=CH_(2)(n=1?4)as shown in Fig.1a.Acrylic acid monomers were polymerized with different amounts of the crosslinker,0,0.007,0.07,0.14,and 0.7 mol% and the obtained polymers are hereafter denoted as PAH,1CLPAH,10CLPAH,20CLPAH,and 100CLPAH,respectively.The polymers were dissolved in water to prepare 1 wt% binder solution,and further neutralized by dropping 1 mol dm^(-3) NaOH(titration up to pH 6.7)to convert 80% of -COOH into -COONa,and they are similarly denoted as PAH_(0.2)Na_(0.8),1CLPAH_(0.2)Na_(0.8),10CLPAH_(0.2)Na_(0.8),20CLPAH_(0.2)Na_(0.8),and 100CLPAH_(0.2)Na_(0.8).」(A2245頁左欄26行?37行)

当審訳:
1ア「図1aに示すように、様々な量のジアリルエーテルである、H_(2)C=CH-CH_(2)-(O-CH_(2)-CH_(2))_(n)-O-CH_(2)-CH=CH_(2)(n=1?4)を架橋剤として用い、アクリル酸を共重合させることによって架橋型ポリアクリル酸を合成した。様々な量(0、0.007、0.07、0.14および0.7モル%)の架橋剤によってアクリル酸モノマーを重合させた。得られたポリマーはこれ以降、それぞれ、PAH、1CLPAH、10CLPAH、20CLPAHおよび100CLPAHと表記する。これらのポリマーを水に溶解して1wt(重量)%のバインダー溶液を準備し、ここにさらに1モル/dm^(3)のNaOHを滴下することによってバインダー溶液を中和し(pH6.7まで)、カルボキシル基(-COOH)の80%を-COONaに転換した、これらも同様に、以降、PAH_(0.2)Na_(0.8)、1CLPAH_(0.2)Na_(0.8)、10CLPAH_(0.2)Na_(0.8)、20CLPAH_(0.2)Na_(0.8)、および100CLPAH_(0.2)Na_(0.8)と示す。」

1イ「Details of electrode preparation and cell assembly were described in our previous paper.Silicon(particle size <100 nm),graphite(particle size 3 μm),and acetylene black(AB) were mixed thoroughly.The copolymer solution and adequate amount of distilled water were added to the mixture to prepare slurry for electrode.Reagent grade poly(vinyledene fluoride)(PVdF)binder was used for comparison.The slurry was cast onto copper foil and dried under vacuum,followed by roll press.The weight ratio of Si:graphite:AB:binder was 3:5:1:1.The sample loading was adjusted within 0.6?1.0 mg cm^(-2).The Si/graphite electrode was examined in coin-type Li cells with 1.0 mol dm^(-3) LiPF_(6)(ethylene carbonate):(dimethyl carbonate)(1:1 by volume) solution(Kishida Chemical Co.)」(A2245頁左欄42行?右欄10行)

当審訳:
1イ「電極の製造および電池の組み立ての詳細については、我々の先の論文にて既に報告している。シリコン(粒子サイズ<100nm)、黒鉛(粒子サイズ3μm)およびアセチレンブラック(AB)を十分に混合した。この混合物に共重合体溶液と十分な量の蒸留水を加え、電極用のスラリーを製造した。比較としては、試薬等級のポリフッ化ビニリデン(PVdF)バインダーを使用した。スラリーを銅の集電体上に塗布した後、真空下で乾燥させ、続いてロールでプレスした。Si:黒鉛:AB:バインダーの重量比は3:5:1:1となった。試料のロール工程への投入は、0.6?1.0mg/cm^(2)となるように調整した。Si/黒鉛電極を、1.0モル/dm^(3)のLiPF_(6)(炭酸エチレン):(炭酸ジメチル)(体積比で1:1)溶液(キシダ化学株式会社)を用いたコイン型リチウム電池で試験した。」

1ウ「

Figure1.(a)Copolymerization of acrylic acid and diallyl ether as a crosslinker」(A2246頁)

当審訳:
1ウ「

図1(a)アクリル酸と架橋剤としてのジアリルエーテルとの共重合」

2 甲2(国際公開第2014/065407号)
甲2には、「リチウム電池用結着剤、電極作製用組成物および電極」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。

2ア「[0203]比較例3 PAHを結着剤としたリチウム電池用電極の製造
(1)電極作製用スラリーの製造
シリコン粉末(粒子サイズ<100nm、Sigma-Aldrich社製)0.3 g、天然黒鉛(粒子サイズ:3μm、SEC Carbon社製) 0.5 g及びアセチレンブラック(AB、Strem Chemicals社製)0.1 gを、遊星ボールミル(Pulverisette 7、Fritsch社製)を用いて、600rpmで12時間十分に混合した。得られた混合物(重量比でSi:黒鉛:AB=30:50:10)を電極材料とした。次いで、結着剤として、直鎖のポリアクリル酸(和光純薬工業(株)製)を用い、該ポリアクリル酸(CLPAH-01)1 gをイオン交換水99 gに溶解した。1 wt%ポリアクリル酸水溶液0.5 gに上記電極材料0.045 gを添加してよく混合し、更にイオン交換水で希釈して、スラリーを調製した。該電極作製用スラリーにおいては、シリコン15 mg、黒鉛45 mg、AB5 mg、CLPAH-01 5 mgをそれぞれ含む。即ち、電極作製用スラリーは、集電体上に塗布した後乾燥させることにより、シリコンを30wt%、黒鉛を50wt%、ABを10wt%、ポリアクリル酸を10wt%含量するものとなる。
[0204](2)リチウム電池用電極の製造
上記電極作製用スラリーを、ドクターブレードを用いて銅の集電体上に塗布した。その後、空気中で80℃で乾燥し、次いで真空下にて150℃で24時間乾燥した。尚、使用前にロールでプレスしたものを電極(CLPAH-01電極)とした。尚、集電体上の膜の厚さは、複合ビーム加工観察装置(JIB-4500,日本電子株式会社製)での観察によれば約10?15 μmであった。」

2イ「[0209]実施例5 架橋PAHを結着剤としたリチウム電池用電極(CLPAH-07電極)の製造
直鎖のポリアクリル酸の代わりに、ポリマー中にジエチレングリコールジアリルエーテルを0.14mol%含有させて重合させた架橋ポリアクリル酸(CLPAH-07)を用いた以外は、比較例3と同様にして、電極作製用スラリーを調製し、リチウム電池用電極を製造した(以下、CLPAH-07電極と略記する)。」

2ウ「[0212]実験例3 各種電極を用いた充放電試験
CLPAH-01電極、CLPAH-02電極、CLPAH-03電極及びCLPAH-00電極を用いて、下記条件で定電流充放電試験を行った。
・対極:Li箔
・電解液:1M LiPF_(6) EC/DMCの混合溶液(体積比1:1)
・測定装置:TOSCAT-3000U充放電試験装置(東洋システム製)
・電位及び電流密度
初回サイクル
電位範囲 2.0-0.0 V (vs.Li/Li^(+))
電流密度 50 mA g^(-1)
2サイクル目以降
電位範囲 2.0-0.0 V (vs.Li/Li^(+))
電流密度 100 mA g^(-1)」

2エ「[0215]実験例4 各種電極を用いた充放電試験
Aldrich電極、CLPAH-07電極、CLPAH-11電極、CLPAH-14電極、カーボポール電極を用いて、実験例3と同様に定電流充放電試験を行った。」

3 甲3(特開2015-18776号公報)
甲3には、「電池用水系電極組成物用バインダー」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。

3ア「【0001】
本発明は、電池用水系電極組成物用バインダー、導電性付与剤、電池用水系電極組成物、電池用電極及び電池に関する。より詳しくは、リチウムイオン電池用途のものに関する。」

3イ「【0072】
シード粒子分散体aの合成
攪拌機、温度計、冷却器、窒素導入管、滴下ロートを備えた四つ口セパラブルフラスコに、イオン交換水292.1質量部、ポリオキシエチレンドデシルエーテルのスルホン酸アンモニウム塩2.7質量部を投入した。内温72℃で攪拌しながら、緩やかに窒素を流し、反応容器内を完全に窒素置換した。次に、ポリオキシエチレンドデシルエーテルのスルホン酸塩2.7質量部をイオン交換水97.0質量部に溶解した。ここに、重合体の単量体成分として、メタクリル酸72.0質量部、アクリル酸エチル108質量部の混合物を投入し、プレエマルションを作製した。別途、過硫酸アンモニウム0.45質量部をイオン交換水44.5質量部に溶解し、重合開始剤水溶液を作製した。反応容器内の温度を72℃に保ち、プレエマルション及び開始剤水溶液を2時間にわたって均一に滴下した。滴下終了後、内温を72℃に保ち、更に1時間攪拌を続けた後、冷却して反応を完了し、不揮発分30%、粘度5mPa・sのシード粒子分散体aを得た。
【0073】
水溶性樹脂Aの合成
攪拌機、温度計、冷却器、窒素導入管、滴下ロートを備えた四つ口セパラブルフラスコに、イオン交換水 610.9質量部、ポリオキシエチレンドデシルエーテルのスルホン酸塩 2.7質量部、シード粒子分散体a 18質量部を投入した。内温72℃で攪拌しながら、緩やかに窒素を流し、反応容器内を完全に窒素置換した。次に、ポリオキシエチレンドデシルエーテルのスルホン酸塩 2.7質量部をイオン交換水 97.0質量部に溶解した。ここに、重合体の単量体成分として、メタクリル酸 117質量部、アクリル酸エチル 62.64質量部、1,6-ヘキサンジオールアクリレート 0.36質量部の混合物を投入し、プレエマルションを作製した。別途、過硫酸アンモニウム0.45質量部をイオン交換水44.5質量部に溶解し、重合開始剤水溶液を作製した。反応容器内の温度を72℃に保ち、プレエマルション及び開始剤水溶液を2時間にわたって均一に滴下した。滴下終了後、内温を72℃に保ち、更に1時間攪拌を続けた後、冷却して反応を完了し、不揮発分20%の樹脂粒子分散体aを得た。。樹脂粒子分散体aを、水希釈して不揮発分2%に調整し、粘度測定したところ3mPa・sであった。
得られた樹脂粒子分散体aに、5%水酸化リチウム・一水和物水溶液とイオン交換水を加えて攪拌し、pH7に調整し、不揮発分2%の水溶性樹脂A水溶液を得た。得られた水溶性樹脂Aは、粘度 270mPa・s、チクソ値 1.5、全光線透過率99%であった。また、ポリマーの耐電解液膨潤率は108%であった。
【0074】
水溶性樹脂Bの合成
重合体の単量体成分として、メタクリル酸 108質量部、アクリル酸エチル 53.82質量部、アクリル酸ブチル 18質量部、ジアリルフタレート 0.18質量部の混合物に変更した以外は、水溶性樹脂Aの合成と同様にして行った。
得られた不揮発分20%の樹脂粒子分散体bを、水希釈して不揮発分2%に調整し、粘度測定したところ5mPa・sであった。
得られた樹脂粒子分散体bに、5%水酸化リチウム・一水和物水溶液とイオン交換水を加えて攪拌し、pH7に調整し、不揮発分2%の水溶性樹脂B水溶液を得た。得られた水溶性樹脂Bは、粘度 260mPa・s、チクソ値 1.5、全光線透過率99%であった。また、ポリマーの耐電解液膨潤率は108%であった。」

3ウ「【0077】
<セルの作成条件>
正極 :表1の正極組成物
負極 :Li箔
電解液 :1mol%/L LiPF6 EC/EMC=3/7(キシダ化学株式会社製)
<電池評価条件>
充電条件: 0.5C CC-CV Cut-off 4.3V
放電条件: 0.5C CC Cut-off 3.0V
<剥離強度測定>
アプリケーターを用いて、正極組成物を塗工し、80℃で10分乾燥し、ロールプレス機を用いて線圧5kNでプレスした。
その後、80℃で減圧乾燥し、電極重量12mg/cm3の電極シートを作製した。このサンプルを幅25mm、長さ100mmに切りだし、アルミ板に貼り付けて、23℃条件下で引張試験機(テスター産業株式会社製)により、剥離方向180°、剥離速度5mm/分における剥離強度を測定した。
【0078】
(実施例1)
水溶性樹脂A 25質量部に、アセチレンブラックHS-100(電気化学工業株式会社製)1.5質量部を加えて混合分散した。さらに、ニッケルマンガンコバルト酸リチウム(セルシードNMC111、日本化学工業株式会社製)50質量部を加えて混合分散し、更にイオン交換水6.1質量部を加えて正極水系組成物(1)を得た。この正極水系組成物(1)を用いて上記の手順で電極作製を行った。得られた正極は、0.5C初期放電容量144mAh/g、50サイクル後の容量維持率98.0%であった。また剥離強度は、17N/mであった。
【0079】
(実施例2)
水溶性樹脂Aを水溶性樹脂Bに変更して、実施例1と同様に塗料化を行い正極を作製した。得られた電極の物性を表1に示した。」

3エ「【0082】
【表1】



4 甲4(架橋型ポリアクリル酸 CLPAシリーズ Cross-Linked Polyacylic Acid(CLPA) 和光純薬工業株式会社 カタログ)
甲4は、「架橋型ポリアクリル酸 CLPAシリーズ Cross-Linked Polyacylic Acid(CLPA)和光純薬工業株式会社 カタログ」であり、次の事項が記載されている。

4ア「本品は、次世代リチウムイオン二次電池向け高容量Si系負極用に開発した水系バインダーです。」

4イ「ポリアクリル酸を化学架橋させたもので、中和することによって粘度が上昇し、チキソトロピー性を示します。」

4ウ




上記表によれば、架橋型ポリアクリル酸CLPAシリーズについて、「商品コード」が「356-41152」であり、品名が「20CLAPAH」である商品があることが見てとれる。

4エ「【文献】Komaba,S.et al.:Journal of The Electrochemical Society,162(12)A2245-A2249(2015)」

5 甲6(試験成績書 2017年12月12日 株式会社テクノプロ テクノプロ・R&D社 埼玉リサーチセンター)
甲6は、株式会社テクノプロ テクノプロ・R&D社 埼玉リサーチセンターにより作製された試験成績書であって、当該試験成績書には、「水溶性樹脂B(2%水溶液)Lot No.217z131」が、株式会社テクノプロ テクノプロ・R&D社 埼玉リサーチセンターにより合成されたことが記載されている。
また、甲6に添付された実験ノートには、以下の事項が記載されている。




6 甲8(業務報告書 ポリアクリル酸の調整(20CLPAH0.1Li0.9の調整)2018年 4月19日 熊谷逸裕)
甲8には、ポリアクリル酸である市販の「20CLPAH」を、水酸化リチウム水溶液で中和して、中和度90モル%のポリアクリル酸を水膨潤させたもの、すなわち、「20CLPAH0.1Li0.9」を得たことが記載されている。
ここで、上記中和度が「90モル%」であることは、平成30年 5月30日付けで申立人が提出した回答書の3.(1)(1-1)に説明されている。
また、甲8に記載された「20CLPAH」は、その添付された写真(

)
から、和光純薬工業株式会社の品番356-41152であることが看取でき、甲8に記載された「20CLPAH」は、その商品コード(品番)356-41152からみて、甲4に記載された「20CLPAH」であると認められる。
また、甲8の「別紙)ポリアクリル酸(20CLPAH0.1Li0.9)の調整 実験ノート」の中央下部には、「上記のポリアクリル酸(20CLPAH0.1Li0.9、Lot.2184181)25gを2018年 4月18日に株式会社UBEセンター 矢田博英 様宛に発送した。」と記載されている。

7 甲10(宣誓書 平成30年 4月23日 江頭真樹)
甲10には、以下の記載がある。

10ア「3. 私は、案件番号:166307、2018年4月23日付の『実験報告書(メジアン径測定)』に記載の実施者です。」

10イ「4. 私は、株式会社テクノプロ テクノプロ・R&D社 埼玉リサーチセンターから送付されたサンプルを、平成30年 4月19日に受領し、このサンプルを、上記案件番号:166307、2018年 4月23日付の『実験報告書(メジアン径測定)』に記載の実験に、試料『20CLPAH0.1Li0.9 Lot No.2184181』として用いました。」

8 甲11(宣誓書 平成30年 4月23日 矢田博英)
甲11には、以下の記載がある。

11ア「3. 案件番号:166307、2018年4月23日付の『実験報告書(メジアン径測定)』に記載の実験は、私の指揮監督の下、行われました。」

11イ「4. 私は、株式会社テクノプロ テクノプロ・R&D社 埼玉リサーチセンターから送付されたサンプルを、平成30年 4月19日に受領し、このサンプルを、上記案件番号:166307、2018年 4月23日付の『実験報告書(メジアン径測定)』に記載の実験に、試料『20CLPAH0.1Li0.9 Lot No.2184181』として用いました。」

9 甲12(実験報告書(メジアン径測定) 2018年 4月23日 株式会社UBE科学分析センター 物性評価研究室)
甲12には、以下の記載がある。

12ア「案件番号:166307」

12イ「2018年04月23日」

12ウ「1.概要
2018年04月19日に株式会社テクノプロ テクノプロ・R&D社 埼玉リサーチセンターより受領した試料(20CLPAH0.1Li0.9)について、[特許第6150031号]明細書段落【0031】及び【0067】に記載される粒度分布を調べるため、レーザー回折/散乱法を用いて、粒度分布の測定を行った。」

12エ「2.試料 2018年04月19日に株式会社テクノプロ・R&D社 埼玉リサーチセンターより受領した 試料『20CLPAH0.1Li0.9 Lot.2184181』」

12オ
「3.分析方法
測定装置 :レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置
LA-950V2(堀場製作所 製)
測定方法 :測定セルに分散媒1wt%NaCl水溶液を投入し、
「ブランク測定」を行った。
その後に、「試料溶液」を測定装置内に投入し、
循環・攪拌を行い、分布が安定したところで、
測定を開始した。
測定ユニット:湿式(wet)
測定モード :マニュアルフロー式セル測定
測定範囲 :0.01μm?3000μm
粒子径基準 :体積基準
分散媒 :1wt%NaCl水溶液
屈折率 :1.60-0.00i(試料屈折率)/
1.33-0.00i
試料前処理 :なし」

12カ
「4.結果
粒度分布の測定結果を表1に、詳細は別紙データに示す。



また、甲12の表紙には、責任者として「矢田」の押印、担当者として「江頭」の押印が看取できる。

上記12エの「2.試料」、上記12オの「3.分析方法」及び上記12カの「4.結果」の記載によれば、試料「20CLPAH0.1Li0.9 Lot.2184181」を1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径は、体積基準メジアン径で、1回目が1.970μm、2回目が1.729μm、平均1.85μmであることが理解できる。

10 甲13(宣誓書 平成30年 4月 6日 熊谷逸裕)
甲13には、以下の記載がある。

13ア「1. 私は、特許異議申立(特許異議申立の番号:異議2017-701210)に係る甲第6号証、すなわち2017年12月12日付の『試験成績書』に記載の実験の実施者です。」

13イ「2. 私は、上記の「試験成績書」に記載の実験によって得られ、保管されていた『品名水溶性樹脂B(2%水溶液)、LotNo.217z131』(写真、下)を、平成30年 4月 6日に、株式会社UBE科学分析センター 物性評価研究室あてに発送しました。」

11 甲14(宅配便伝票 2018年 4月 6日)
甲14は、宅配便伝票であり、甲14から、届け先が、「山口県宇部市大字小串1978-96 株式会社UBE科学分析センター 矢田 博英」であり、依頼主が、「さいたま市桜区下大久保255埼玉大学地域オープンイノベーションセンタープロジェクト実験室6 (株)テクノプロ」であり、集荷日が、2018年4月6日であり、届け希望日が4月9日であり、品名が「サンプル」であることが看取できる。

12 甲15(送付状 2018年 4月 6日 株式会社テクノプロ テクノプロ・R&D社 埼玉リサーチセンター)
甲15は、送付状であり、株式会社テクノプロ・R&D社埼玉リサーチセンターから、株式会社UBE分析センター矢田博英へ、サンプル【水溶性樹脂B(2%水溶液)Lot.217z131】1本を郵送すること、及び「担当:埼玉リサーチセンター 熊谷」との事項が記載されており、送付状の日付は、2018年4月6日であることが看取できる。

13 甲16(宣誓書 平成30年 4月 9日 矢田裕英)
甲16には、以下の記載がある。

16ア「3. 案件番号:166322,2018年4月9日付の『実験報告書(メジアン径測定)』に記載の実験は、私の指揮監督の下、行われました。」

16イ「4. 私は、試料『水溶性樹脂B(2%水溶液) LotNo.217z131』を、株式会社テクノプロ テクノプロ・R&D社 埼玉リサーチセンターから、平成30年 4月 9日に受領し、上記案件番号:166322、2018年 4月 9日付の『実験報告書(メジアン径測定)』に記載の実験に用いました。」

14 甲17(実験報告書(メジアン径測定) 2018年 4月 9日 株式会社UBE科学分析センター 物性評価研究室)
甲17には、以下の記載がある。

17ア「案件番号:166322」

17イ「2018年04月09日」

17ウ「1.概要
2018年04月09日に株式会社テクノプロ テクノプロ・R&D社 埼玉リサーチセンターより受領した試料(ポリアクリル酸含有溶液)について、[特許第6150031号]明細書段落【0031】及び【0067】に記載される粒度分布を調べるため、レーザー回折/散乱法を用いて、粒度分布の測定を行った。」

17エ「2.試料 2018年04月09日に株式会社テクノプロ・R&D社 埼玉リサーチセンターより受領した 試料『水溶性樹脂B LotNo.217Z131』」

17オ
「3.分析方法
測定装置 :レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置
LA-950V2(堀場製作所 製)
測定方法 :測定セルに分散媒1wt%NaCl水溶液を投入し、
「ブランク測定」を行った。
その後に、「試料溶液」を測定装置内に投入し、
循環・攪拌を行い、分布が安定したところで、
測定を開始した。
測定ユニット:湿式(wet)
測定モード :マニュアルフロー式セル測定
測定範囲 :0.01μm?3000μm
粒子径基準 :体積基準
分散媒 :1wt%NaCl水溶液
屈折率 :1.60-0.00i(試料屈折率)/
1.33-0.00i
試料前処理 :なし」

17カ
「4.結果
粒度分布の測定結果を表1に、詳細は別紙データに示す。



また、甲17の表紙には、責任者として「矢田」の押印が看取できる。

上記17エの「2.試料」、上記17オの「3.分析方法」及び上記17カの「4.結果」の記載によれば、試料「水溶性樹脂B LotNo.217Z131」を1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径は、体積基準メジアン径で、1回目が0.4206μm、2回目が0.4210μm、平均0.421μmであることが理解できる。

第6 当審の判断
1 平成30年6月11日付けで通知した取消理由について
(1)取消理由1(特許法第36条第6項第1号)について
ア 「中和度80?100モル%に中和された前記架橋重合体を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で0.1?5.8μmである」との特定事項を備えた請求項1の「非水電解質二次電池電極用バインダー」が課題を解決し得るかについて
(ア)発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0007】
特許文献1及び特許文献2は、いずれも架橋型ポリアクリル酸を結着剤として用いることを開示するものであるが、得られる電極の耐屈曲性等については改善が望まれるものであった。特許文献3に記載のバインダーは、可撓性の点では良好なものであるが、分散安定性及び結着性の点では十分に満足できるものではなかった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、良好な分散安定性を有する合剤層スラリーが得られるとともに、結着性及び耐屈曲性に優れる電極を得ることが可能な、非水電解質二次電池電極用バインダー及び該バインダーに用いられる架橋重合体又はその塩の製造方法の提供を目的とするものである。また、本発明は、上記バインダーを用いて得られる非水電解質二次電池電極合剤層用組成物及び非水電解質二次電池電極の提供を他の目的とするものである。」

これらの記載によれば、本件発明は、「良好な分散安定性を有する合剤層スラリーが得られるとともに、結着性及び耐屈曲性に優れる電極を得ることが可能な、非水電解質二次電池電極用バインダー及び該バインダーに用いられる架橋重合体又はその塩の製造方法の提供」(なお、下線部は当審が付与した。)を、発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)としていると認められる。

(イ)訂正前の請求項1の「中和度80?100モル%に中和された前記架橋重合体を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で0.1?7.0μmである」との記載は、本件訂正により「中和度80?100モル%に中和された前記架橋重合体を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で0.1?5.8μmである」となった。

(ウ)発明の詳細な説明の実施例、比較例について、【0082】?【0084】の表1?表3には、以下の記載がある。
「【0082】
【表1】


「【0083】
【表2】


「【0084】
【表3】



これらの記載を参酌すると、「中和度80?100モル%に中和された架橋重合体を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径」について、実施例として記載されているもので、最小の値のものは、「製造例13(R-13)」の0.9μmであり、最大の値のものは、「製造例2(R-2)」の5.8μmであり、「製造例1(R-1)」?「製造例18(R-18)」は、「中和度80?100モル%に中和された架橋重合体を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径」が、「0.9?5.8μm」の範囲内である。
そして、表4?表7を参酌すると、「R-1」?「R-18」を用いた実施例として、実施例1?実施例22が記載されており、特に、R-13を用いた実施例は実施例16であり、R-2を用いた実施例は実施例3である。
これら実施例1?実施例22は、比較例1?7に比して、塗工性、剥離強度、耐屈曲性のいずれにおいても同等か優れることが読み取れるから、実施例1?実施例22は、比較例1?7に比して、塗工性、剥離強度、耐屈曲性を総合した評価で優れるといえ、前記(ア)の課題を解決しているといえる。
よって、本件発明1の「0.1?5.8μm」のうち、0.9?5.8μmについては、上記アの課題を解決し得るといえる。

(エ)次に、下限の0.1μmについて検討する。

(オ)発明の詳細な説明には、以下の記載がある。(なお、下線は当審が付与した。)
「【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、カルボキシル基を有する架橋重合体又はその塩であって、中和後に塩水中に分散させた際の粒子径が十分小さい重合体を含むバインダーを用いて得られた電極が、優れた結着性及び耐屈曲性を示すという知見を得た。また、上記バインダーを含む合剤層スラリーは、良好な分散安定性を示すものであることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものである。」

「【0030】
架橋重合体を含むバインダーが良好な結着性能を発揮するためには、該架橋重合体は合剤層組成物中で適度な粒径を有する水膨潤粒子として良好に分散していることが好ましい。架橋重合体の二次凝集体が解れることなく、大粒径の塊として存在する場合、スラリーの分散安定性が不十分となるとともに、合剤層中にバインダー(架橋重合体)が不均一に存在する結果、十分な結着性が得られず、電池性能にも悪影響を及ぼす虞がある。また、二次凝集することなく一次粒子として分散した場合であっても、その粒子径が大きすぎる場合は、同様に満足する結着性が得られないことが懸念される。
【0031】
本発明の架橋重合体又はその塩は、該架橋重合体が有するカルボキシル基に基づく中和度が80?100モル%であるものを水媒体中で水膨潤させた後、1.0質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で0.1?7.0μmの範囲にあることが好ましい。上記粒子径のより好ましい範囲は0.5?5.0μmであり、さらに好ましい範囲は1.0?4.0μmであり、一層好ましい範囲は1.0?3.0μmである。粒子径が0.1?7.0μmの範囲であれば、合剤層組成物中において架橋重合体又はその塩が好適な大きさで均一に存在するため、合剤層組成物の安定性が高く、優れた結着性を発揮することが可能となる。粒子径が7.0μmを超えると、上記の通り結着性が不十分となる虞がある。一方、粒子径が0.1μm未満の場合には、安定製造性の観点において懸念される。
【0032】
架橋重合体が未中和若しくは中和度80モル%未満の場合は、水媒体中でアルカリ金属水酸化物により中和度80?100モル%に中和し、十分に水膨潤させた後、同様に1.0質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径を測定する。一般に、架橋重合体又はその塩は、粉末または溶液(分散液)の状態では一次粒子が会合、凝集した塊状粒子として存在する場合が多い。本発明の架橋重合体又はその塩は極めて優れた分散性を有するため、中和度80?100モル%に中和して水膨潤することにより塊状粒子が解れ、ほぼ一次粒子の分散体として安定な分散状態を形成することができる。
このように、本発明の架橋重合体又はその塩は分散性が良好であり、合剤層組成物中(水媒体中)でも適度な粒径を有する水膨潤粒子として安定に分散するものである。しかしながら、水膨潤した状態では散乱光が得られない場合があり、直接水媒体中でその粒子径を測定することができないことがある。上記NaCl水溶液中に投入して重合体の電荷を遮蔽した状態では、水膨潤が抑制されるため、粒子径の測定が可能となる。
架橋重合体又はその塩が適度な粒子径を有する一次粒子として媒体中で安定に分散するもの、又は二次凝集粒子が容易に解れて媒体中で適度な粒子径を有する粒子として分散するものであれば、合剤層における均一性が高く、優れた結着性及び耐屈曲性を発揮することができる。本発明の架橋重合体又はその塩は、例えば、後述する架橋重合体又はその塩の製造方法に記載の方法により得ることができる。」

「【0067】
(架橋重合体R-1(Li中和物)の1質量%NaCl水溶液中での平均粒子径測定)
上記で得られた架橋重合体R-1の粉末0.25g、及び水酸化リチウム水溶液49.75g(架橋重合体R-1が有するカルボキシル基の90モル%に相当する水酸化リチウムを含む)を100ccの容器に量りとり、自転/公転式攪拌機(シンキー社製、あわとり錬太郎AR-250)にセットした。次いで、撹拌(自転速度2000rpm/公転速度800rpm、7分)、さらに脱泡(自転速度2200rpm/公転速度60rpm、1分)処理を行い架橋重合体R-1のリチウム塩(中和度90%)が水に膨潤した状態のハイドロゲルを作成した。
次に、1質量%NaCl水溶液を分散媒とするレーザー回折/散乱式粒度分布計(日機装社製、マイクロトラックMT-3300EX2)にて上記ハイドロゲルの粒度分布測定を行った。ハイドロゲルに対し、過剰量の分散媒を循環しているところに、適切な散乱光強度が得られる量のハイドロゲルを投入し分散媒を投入したところ、数分後に測定される粒度分布形状が安定した。安定を確認次第、体積基準の粒度分布測定を行い、平均粒子径としてメジアン径(D50)を求めたところ、1.9μmであった。
架橋重合体R-1の90モル%中和物は、イオン交換水中では十分に膨潤してハイドロゲルを形成するが、1質量%NaCl水溶液中では、カルボキシアニオン間の静電反発が遮蔽されるため膨潤度が低下し、かつカルボン酸塩の効果により分散媒中での分散安定性は維持されるため、粒度分布測定が可能となる。1質量%NaCl水溶液媒体中で測定したメジアン径が小さい程、イオン交換水中でも架橋重合体塩はより小さいサイズ(より個数の多い)のゲル粒子の集合体としてハイドロゲルを形成していると捉えられる。すなわち、水中でより小さく解れていることを意味する。」

(カ)上記【0009】の記載によれば、中和後に塩水中に分散させた際の粒子径が十分小さい重合体を含むバインダーを用いて得られた電極が、優れた結着性及び耐屈曲性を示し、【0030】の記載によれば、粒子径が大きすぎる場合は、満足な結着性が得られず、【0032】の記載によれば、本発明の架橋重合体又はその塩は、合剤層組成物中でも適度な粒径を有する水膨潤粒子として安定に分散する分散安定性に優れたものであり、優れた結着性、耐屈曲性を発揮するものであり、【0067】の記載によれば、1質量%NaCl水溶液媒体中で測定したメジアン径が小さい程、イオン交換水中でも架橋重合体塩はより小さいサイズ(より個数の多い)のゲル粒子の集合体としてハイドロゲルを形成している、すなわち、水中でより小さく解れていることが読み取れる。
そうすると、上記アの課題を解決するという観点からは、1質量%NaCl水溶液媒体中で測定したメジアン径が小さい程、分散性に優れ、課題を解決し得ると理解することができる。

(キ)一方、上記【0031】の記載によれば、下限の「0.1μm」については、「安定製造性」の観点から下限としたことが理解できる。

(ク)また、乙4の実験成績証明書には、「中和度80?100モル%に中和された前記架橋重合体を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で」「0.3μm」である架橋重合体塩を含有するバインダーを用いて、本件特許明細書【0086】?【0088】記載と同様に、塗工性、剥離強度、耐屈曲性の評価を行ったことが記載されており、塗工性○、剥離強度12.0N/m、耐屈曲性○であることが記載されている。

(ケ)上記(カ)?(ク)を総合すると、「中和度80?100モル%に中和された前記架橋重合体を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で」小さいものであれば、上記アの課題を解決し得ると理解することができ、本件発明1の下限である「0.1μm」は、アの課題の観点では問題となるものではなく、製造安定性の観点から設定されたものであることが理解できる。

(コ)したがって、「中和度80?100モル%に中和された前記架橋重合体を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で0.1?5.8μmである」との特定事項を備えた請求項1の「非水電解質二次電池電極用バインダー」は、課題を解決し得るということができる。

イ 「前記架橋重合体又はその塩は、1質量%水溶液の粘度が88mPa・s以下であり、3質量%水溶液の粘度が8900mPa・s以上である」との特定事項を備えた請求項4の「非水電解質二次電池電極用バインダー」が課題を解決し得るかについて

(ア)発明の詳細な説明には、以下の記載がある。(なお、下線は当審が付与した。)
「【0035】
本発明の架橋重合体又はその塩は、1質量%水溶液の粘度が500mPa・s以下であり、3質量%水溶液の粘度が5000mPa・s以上であることが好ましい。上記1質量%水溶液の粘度は、より好ましくは300mPa・s以下であり、さらに好ましくは100mPa・s以下である。また、上記3質量%水溶液の粘度は、より好ましくは10000mPa・s以上であり、さらに好ましくは30000mPa・s以上である。
1質量%水溶液の粘度が500mPa・s以下であれば、後述する合剤層用組成物の粘度が十分低くなるため、塗工性が良好なものとなる。尚、結着性の観点から、1質量%水溶液の粘度は1mPa・s以上であることが好ましい。
3質量%水溶液の粘度が5000mPa・s以上であれば、合剤層用組成物の安定性が確保されるとともに、良好な結着性を示す。尚、塗工性の観点から、3質量%水溶液の粘度は1000000mPa・s以下であることが好ましい。」

上記【0035】の記載によれば、本件発明1を引用する本件発明4は、前記ア(ア)の課題に加え、さらに、粘度を特定することによって、「塗工性」、「合剤層用組成物の安定性」、「結着性」を良好なものとすることを課題としていると認められる。

(イ)訂正前の請求項4の「前記架橋重合体又はその塩は、1質量%水溶液の粘度が500mPa・s以下であり、3質量%水溶液の粘度が5000mPa・s以上である」との記載は、本件訂正により「前記架橋重合体又はその塩は、1質量%水溶液の粘度が88mPa・s以下であり、3質量%水溶液の粘度が8900mPa・s以上である」となった。

(ウ)そして、発明の詳細な説明の【0035】の「本発明の架橋重合体又はその塩は、1質量%水溶液の粘度が500mPa・s以下であり、3質量%水溶液の粘度が5000mPa・s以上であることが好ましい。」との記載と、実施例、比較例が記載された【0082】?【0084】の表1?表3を参酌すると、「1質量%水溶液の粘度」について実施例として記載されているもので、「500mPa・s以下」で最大の値のものは、「製造例8(R-8)」で「中和度80.0%」の「88」mPa・sである。
また、「3質量%水溶液の粘度」について「5000mPa・s以上」で最小の値のものは、「製造例10(R-10)」の「8900」mPa・sである。
そして、比較例である製造例19(R-19)、製造例20(R-20)、製造例21(R-21)をみると、「1質量%水溶液粘度」、「3質量%水溶液粘度」ともに、全て50000mPa・s超と記載されている。
表4?表7を参酌すると、「製造例8(R-8)」で「中和度80.0%」の架橋重合体塩を用いた実施例は、実施例11であり、「製造例10(R-10)」の架橋重合体塩を用いた実施例は、実施例13である。これら実施例は、比較例1?7に比して、塗工性、剥離強度、耐屈曲性に優れることが読み取れ、前記ア(ア)の課題と、「塗工性」、「結着性」との課題を解決しているといえる。

(エ)したがって、「前記架橋重合体又はその塩は、1質量%水溶液の粘度が88mPa・s以下であり、3質量%水溶液の粘度が8900mPa・s以上である」との特定事項を備えた請求項4の「非水電解質二次電池電極用バインダー」は、課題を解決し得るといえる。

(2)取消理由2(新規性)、取消理由4(進歩性)について(甲1、甲2をそれぞれ主引例とする)
ア 甲1発明の認定
(ア)上記1アによれば、甲1に記載された「20CLPAH」は、0.14モル%のジアリルエーテル架橋剤によってアクリル酸モノマーを重合させた架橋重合体であり、水に溶解されて、バインダー溶液として使用されるものである。

(イ)ここで、「20CLPAH」の全構造単位に対するアクリル酸モノマーに由来する構造単位の割合を以下のように計算する。
アクリル酸モノマーのモル質量は72g/mol、ジアリルエーテル(n=1、エチレングリコールジアリルエーテル)のモル質量は142g/mol、ジアリルエーテル(n=4、テトラエチレングリコールジアリルエーテル)のモル質量は274g/molと算出できるから、
n=4の時 {72×99.86/(72×99.86+274×0.14)}×100=99.5質量%
n=1の時 {72×99.86/(72×99.86+142×0.14)}×100=99.7質量%
との計算から、「20CLPAH」の全構造単位に対するアクリル酸モノマーに由来する構造単位の割合は、99.5質量%?99.7質量%となる。

(ウ)上記1イによれば、甲1に記載された「共重合体」すなわち「20CLPAH」は、「1.0モル/dm^(3)のLiPF_(6)(炭酸エチレン):(炭酸ジメチル)(体積比で1:1)溶液(キシダ化学株式会社)を用いたコイン型リチウム電池」の「電極のスラリー」用のバインダーとして用いられるものである。

(エ)また、上記「20CLPAH」について、「中和度90モル%に中和された20CLPAHを水中で膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径」は、甲12の実験報告書において、「体積基準メジアン径で1.85μm」であると測定されている。
甲12が「20CLPAH」について、「中和度90モル%に中和された20CLPAHを水中で膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径」を適切に測定したものであることは、甲8、甲10、甲11、甲12によって、以下のとおり説明されている。

甲8(業務報告書 ポリアクリル酸の調整(20CLPAH0.1Li0.9の調整)株式会社テクノプロ テクノプロ・R&D社 埼玉リサーチセンター 熊谷逸裕)の「上記のポリアクリル酸(20CLPAH0.1Li0.9、Lot.2184181)25gを2018年 4月18日に株式会社UBEセンター 矢田博英 様宛に発送した。」との記載( 別紙)ポリアクリル酸20CLPAH0.1Li0.9の調整 実験ノート の中央下部参照。)、
甲10(宣誓書 株式会社UBE科学分析センター 物性評価研究室 江頭真樹)の「4. 私は、株式会社テクノプロ テクノプロ・R&D社 埼玉リサーチセンターから送付されたサンプルを、平成30年 4月19日に受領し、このサンプルを、上記案件番号:166307、2018年 4月23日付の『実験報告書(メジアン径測定)』に記載の実験に、試料『20CLPAH0.1Li0.9 Lot No.2184181』として用いました。」との記載、
甲11(宣誓書 株式会社UBE科学分析センター 物性評価研究室 矢田博英)の「4. 私は、株式会社テクノプロ テクノプロ・R&D社 埼玉リサーチセンターから送付されたサンプルを、平成30年 4月19日に受領し、このサンプルを、上記案件番号:166307、2018年 4月23日付の『実験報告書(メジアン径測定)』に記載の実験に、試料『20CLPAH0.1Li0.9 Lot No.2184181』として用いました。」との記載、
及び
甲12(実験報告書(メジアン径測定)2018年 4月23日 株式会社UBE科学分析センター 物性評価研究室)の「2.試料 2018年04月19日に株式会社テクノプロ・R&D社 埼玉リサーチセンターより受領した 試料『20CLPAH0.1Li0.9 Lot.2184181』」との記載は、それぞれお互いに整合している。

これらの記載と甲12表紙の「矢田」「江頭」の押印によれば、甲10の宣誓書作成者江頭真樹及び甲11の宣誓書作成者矢田博英が、甲8の実験実施者である熊谷逸裕から、「20CLPAH0.1Li0.9、Lot.2184181」を受領し、当該「20CLPAH0.1Li0.9、Lot.2184181」を試料として、甲12に記載されたメジアン径測定の実験を行ったことが理解できる。

よって、甲12のメジアン径測定を行った試料は、甲8に記載された「20CLPAH0.1Li0.9 Lot No.2184181」であると認められる。

そして、甲12の「2.試料」、「3.分析方法」及び「4.結果」の記載によれば、「20CLPAH0.1Li0.9 Lot No.2184181」を1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で、平均1.85μmであると認められる。

また、甲8に記載された「20CLPAH」は、その添付された写真から、和光純薬工業株式会社の品番356-41152であることが看取でき、甲8に記載された「20CLPAH」は、その商品コード(品番)356-41152が、甲4に記された「20CLPAH」の商品コード「356-41152」と一致するから、甲4に記載された「20CLPAH」であると認められる。
さらに、甲4は、甲1を参考文献として引用しており、甲4に記載された「20CLPAH」は、甲1に記載された「20CLPAH」であると認められる。

(オ)したがって、甲1には、以下の発明が記載されている。
(甲1発明)
「アクリル酸モノマーを0.14モル%のジアリルエーテル架橋剤によって重合させたアクリル酸系共重合体である、20CLPAHを含有する、1.0モル/dm^(3)のLiPF_(6)(炭酸エチレン):(炭酸ジメチル)(体積比で1:1)溶液(キシダ化学株式会社)を用いたリチウムイオン電池用シリコン/黒鉛複合電極の機能性バインダーであって、
20CLPAHは、その全構造単位に対し、アクリル酸モノマーに由来する構造単位を、99.5質量%?99.7質量%含み、
中和度90モル%に中和された20CLPAHを水中で膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で1.85μmである、バインダー。」

イ 甲2発明の認定
(ア)上記2ア及び2イによれば、甲2には、ポリマー中にジエチレングリコールジアリルエーテルを0.14mol%含有させて重合させた架橋ポリアクリル酸(CLPAH-07)である、リチウム電池電極用結着剤が記載されている。
また、上記2ウ及び2エによれば、甲2には、上記CLPAH-07を結着剤として用いた上記リチウム電池用電極と、1M LiPF_(6) EC/DMCの混合溶液である電解液を備えるリチウム電池が記載されている。

(イ)また、甲2の発明者7名と甲1の著者9名は、そのうち4名が重複しており、甲2の「CLPAH-07」は、甲1の「20CLPAH」と、モノマー、架橋剤、架橋剤を0.14モル%用いる点で一致しているから、甲2に記載された「CLPAH-07」は、甲1に記載された「20CLPAH」と同一である蓋然性が高い。
そうすると、「CLPAH-07」の「中和度90モル%に中和された20CLPAHを水中で膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径」は、甲12で測定された「20CLPAH」のメジアン径の値から、「体積基準メジアン径で1.85μmである」と認められる。

(ウ)ここで、甲2に記載された「CLPAH-07」において、全構造単位に対するアクリル酸モノマーに由来する構造単位の割合を以下のように計算する。
アクリル酸モノマーのモル質量は72g/mol、ジエチレングリコールジアリルエーテルのモル質量は186g/molと算出できるから、
{72×99.86/(72×99.86+186×0.14)}×100=99.6質量%
との計算から、「CLPAH-07」の全構造単位に対するアクリル酸モノマーに由来する構造単位の割合は、99.6質量%となる。

(エ)したがって、甲2には、以下の発明が記載されている。
(甲2発明)
「ジエチレングリコールジアリルエーテルを0.14mol%含有させて重合させた架橋ポリアクリル酸(CLPAH-07)を含有する、1M LiPF_(6) EC/DMCの混合溶液である電解液を備えるリチウム電池電極用結着剤であって、
CLPAH-07は、その全構造単位に対し、アクリル酸モノマーに由来する構造単位を、99.6質量%含み、
中和度90モル%に中和されたCLPAH-07を水中で膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で1.85μmである、結着剤。」

ウ 本件発明1と甲1発明との対比・判断
甲1発明の「1.0モル/dm^(3)のLiPF_(6)(炭酸エチレン):(炭酸ジメチル)(体積比で1:1)溶液(キシダ化学株式会社)を用いたリチウムイオン電池用シリコン/黒鉛複合電極の機能性バインダー」は、本件発明1の「非水電解質二次電池電極用バインダー」に相当する。
甲1発明の「アクリル酸モノマーを0.14モル%のジアリルエーテル架橋剤によって重合させたアクリル酸系共重合体である、20CLPAH」は、本件発明1の「カルボキシル基を有する架橋重合体」に相当する。
甲1発明の「20CLPAHは、その全構造単位に対し、アクリル酸モノマーに由来する構造単位を、99.5質量%?99.7質量%含み、」との事項と、本件発明1の「架橋重合体は、その全構造単位に対し、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位50?100質量%を含み、」との事項とは、「架橋重合体は、その全構造単位に対し、アクリル酸モノマーに由来する構造単位99.5質量%?99.7質量%含」む事項で重複する。
甲1発明の「中和度90モル%に中和された20CLPAHを水中で膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で1.85μmである」との事項と、本件発明1の「中和度80?100モル%に中和された前記架橋重合体(ただし、全構造単位に対してアクリル酸モノマーに由来する構造単位を99.5?99.7質量%含み、分子内に2つのアリルエーテル基を有するジアリルエーテルを架橋剤として前記アクリル酸モノマーに対して0.14モル%用いて架橋された重合体、全構造単位に対してアクリル酸モノマーに由来する構造単位を99.6質量%含み、ジエチレングリコールジアリルエーテルを架橋剤として前記アクリル酸モノマーに対して0.14モル%用いて架橋された重合体及び全構造単位に対してメタクリル酸に由来する構造単位を59.4質量%含み、ジアリルフタレートを、架橋剤として他のモノマーの総量に対して0.037モル%用いて架橋された重合体を除く。)を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で0.1?5.8μmである」との事項とは、「中和度90モル%に中和された架橋重合体を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で1.85μmである」事項で重複する。

したがって、本件発明1と甲1発明とは、以下の各点で一致し、相違している。

(一致点)
「カルボキシル基を有する架橋重合体を含有する非水電解質二次電池用バインダーであって、
前記架橋重合体は、その全構造単位に対し、アクリル酸モノマーに由来する構造単位99.5質量%?99.7質量%含み、
中和度90モル%に中和された前記架橋重合体を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で1.85μmである非水電解質二次電池電極用バインダー。」

(相違点1)
「架橋重合体」が、本件発明1では、「ただし、全構造単位に対してアクリル酸モノマーに由来する構造単位を99.5?99.7質量%含み、分子内に2つのアリルエーテル基を有するジアリルエーテルを架橋剤として前記アクリル酸モノマーに対して0.14モル%用いて架橋された重合体、全構造単位に対してアクリル酸モノマーに由来する構造単位を99.6質量%含み、ジエチレングリコールジアリルエーテルを架橋剤として前記アクリル酸モノマーに対して0.14モル%用いて架橋された重合体及び全構造単位に対してメタクリル酸に由来する構造単位を59.4質量%含み、ジアリルフタレートを、架橋剤として他のモノマーの総量に対して0.037モル%用いて架橋された重合体を除く。」との特定事項を有するのに対して、甲1発明では、「アクリル酸モノマーを0.14モル%のジアリルエーテル架橋剤によって重合させたアクリル酸系共重合体である」「20CLPAHを含有」し、「その全構造単位に対し、アクリル酸モノマーに由来する構造単位を、99.5質量%?99.7質量%含」むものである点。

よって、本件発明1は、甲1発明の「架橋重合体」である「20CLPAH」を「除く」ものであり、相違点1は実質的な相違点であり、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。

また、甲1発明において、「20CLPAH」を、その他の架橋重合体、例えば、架橋剤の量等の異なる架橋重合体に変更することについては、積極的な動機付けが存在しないし、仮に架橋剤の量等について若干変更を行う動機付けがあったとしても、当該変更の結果得られた架橋重合体について、「中和度80?100モル%に中和された前記架橋重合体を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で0.1?5.8μmである」との事項を満たすものとなるか否か不明であるし、本件発明の「耐屈曲性」を有するとの効果を奏するものとなるか否かも不明であり、いずれの証拠を参酌しても、当該「耐屈曲性」を有するとの効果を予測することはできない。

よって、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件発明2?4、10?14と甲1発明との対比・判断
本件発明2?4、10?14は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであり、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものであるから、上記ウの判断と同様に、甲1に記載された発明ではないし、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

オ 本件発明1と甲2発明との対比・判断
甲2発明の「1M LiPF_(6) EC/DMCの混合溶液である電解液を備えるリチウム電池電極用結着剤」は、本件発明1の「非水電解質二次電池電極用バインダー」に相当する。
甲2発明の「ジエチレングリコールジアリルエーテルを0.14mol%含有させて重合させた架橋ポリアクリル酸(CLPAH-07)」は、本件発明1の「カルボキシル基を有する架橋重合体」に相当する。
甲2発明の「CLPAH-07は、その全構造単位に対し、アクリル酸モノマーに由来する構造単位を、99.6質量%含み、」との事項と、本件発明1の「架橋重合体は、その全構造単位に対し、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位50?100質量%を含み、」との事項とは、「架橋重合体は、その全構造単位に対し、アクリル酸モノマーに由来する構造単位99.6質量%含」む事項で重複する。
甲2発明の「中和度90モル%に中和された20CLPAHを水中で膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で1.85μmである」との事項と、本件発明1の「中和度80?100モル%に中和された前記架橋重合体(ただし、全構造単位に対してアクリル酸モノマーに由来する構造単位を99.5?99.7質量%含み、分子内に2つのアリルエーテル基を有するジアリルエーテルを架橋剤として前記アクリル酸モノマーに対して0.14モル%用いて架橋された重合体、全構造単位に対してアクリル酸モノマーに由来する構造単位を99.6質量%含み、ジエチレングリコールジアリルエーテルを架橋剤として前記アクリル酸モノマーに対して0.14モル%用いて架橋された重合体及び全構造単位に対してメタクリル酸に由来する構造単位を59.4質量%含み、ジアリルフタレートを、架橋剤として他のモノマーの総量に対して0.037モル%用いて架橋された重合体を除く。)を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で0.1?5.8μmである」との事項とは、「中和度90モル%に中和された架橋重合体を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で1.85μmである」事項で重複する。

したがって、本件発明1と甲2発明とは、以下の各点で一致し、相違している。
(一致点)
「カルボキシル基を有する架橋重合体を含有する非水電解質二次電池用バインダーであって、
前記架橋重合体は、その全構造単位に対し、アクリル酸モノマーに由来する構造単位99.6質量%含み、
中和度90モル%に中和された前記架橋重合体を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で1.85μmである非水電解質二次電池電極用バインダー。」

(相違点2)
「架橋重合体」が、本件発明1では、「ただし、全構造単位に対してアクリル酸モノマーに由来する構造単位を99.5?99.7質量%含み、分子内に2つのアリルエーテル基を有するジアリルエーテルを架橋剤として前記アクリル酸モノマーに対して0.14モル%用いて架橋された重合体、全構造単位に対してアクリル酸モノマーに由来する構造単位を99.6質量%含み、ジエチレングリコールジアリルエーテルを架橋剤として前記アクリル酸モノマーに対して0.14モル%用いて架橋された重合体及び全構造単位に対してメタクリル酸に由来する構造単位を59.4質量%含み、ジアリルフタレートを、架橋剤として他のモノマーの総量に対して0.037モル%用いて架橋された重合体を除く。」との特定事項を有するのに対して、甲2発明では、「ジエチレングリコールジアリルエーテルを0.14mol%含有させて重合させた架橋ポリアクリル酸」である「CLPAH-07」であり、「その全構造単位に対し、アクリル酸モノマーに由来する構造単位を、99.6質量%含」むものである点。

よって、本件発明1は、甲2発明の「架橋重合体」である「CLPAH-07」を「除く」ものであり、相違点2は実質的な相違点であり、本件発明1は、甲2に記載された発明ではない。

また、甲2発明において、「CLPAH-07」を、その他の架橋重合体、例えば、架橋剤の量等の異なる架橋重合に変更することについては、積極的な動機付けが存在しないし、仮に架橋剤の量等について若干変更を行う動機付けがあったとしても、当該変更の結果得られた架橋重合体について、「中和度80?100モル%に中和された前記架橋重合体を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で0.1?5.8μmである」との事項を満たすものとなるか否か不明であるし、本件発明の「耐屈曲性」を有するとの効果を奏するものとなるか否かも不明であり、いずれの証拠を参酌しても、当該「耐屈曲性」を有するとの効果を予測することはできない。

よって、本件発明1は、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ 本件発明2?4、10?14と甲2発明との対比・判断
本件発明2?4、10?14は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであり、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものであるから、上記オの判断と同様に、甲2に記載された発明ではないし、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)取消理由3(新規性)、取消理由4(進歩性)について(甲3を主引例とする)
ア 甲3発明の認定
(ア)上記3ア、3ウ及び3エによれば、甲3には、実施例2における、1mol%/L LiPF6 EC/EMC=3/7を電解液とするリチウムイオン電池の正極用バインダーとして、「水溶性樹脂B」が記載されており、「水溶性樹脂B」は、上記3イ【0074】によれば、「樹脂粒子分散体bに、5%水酸化リチウム・一水和物水溶液とイオン交換水を加えて攪拌し、pH7に調整」したものである。

(イ)また、上記3イ【0072】、【0074】によれば、「樹脂粒子分散体b」は、メタクリル酸をモノマー成分として含有する架橋重合体粒子の分散体である。
そして、メタクリル酸がカルボキシル基を有するから、上記【0074】の「樹脂粒子分散体bに、5%水酸化リチウム・一水和物水溶液とイオン交換水を加えて攪拌し、pH7に調整」との記載は、「樹脂粒子分散体b」に含まれる「樹脂粒子」すなわち「メタクリル酸をモノマー成分として含有する架橋重合体粒子」を中和しているといえるから、「水溶性樹脂B」は、「メタクリル酸をモノマー成分として含有する架橋重合体塩」であるといえる。

(ウ)甲3に記載された「樹脂粒子分散体b」に含まれる「樹脂粒子」すなわち「メタクリル酸をモノマー成分として含有する架橋重合体粒子」において、全構造単位に対するアクリル酸モノマーに由来する構造単位の割合を以下のように計算する。
上記3イ【0072】、【0074】によれば、甲3に記載された「樹脂粒子分散体b」に含まれる「樹脂粒子」は、メタクリル酸72質量部、アクリル酸エチル108質量部を重合させて得られる不揮発分30%のシード粒子分散体aのうち、18質量部(不揮発分5.4質量部)をシードとし、これにさらに、メタクリル酸 108質量部、アクリル酸エチル 53.82質量部、アクリル酸ブチル 18質量部、ジアリルフタレート 0.18質量部を共重合させて得られたものである。
ここで、「樹脂粒子」の各モノマーのうち、「メタクリル酸」が「アクリル酸モノマー」であり、ジアリルフタレートが架橋剤である。
全構造単位に対するメタクリル酸に由来する構造単位を計算すると、
[[5.4×{72/(72+108)}+108]/(5.4+108+53.82+18+0.18)]×100=59.4質量%

また、架橋剤であるジアリルフタレートの、他のモノマーの総量に対する使用量を計算する。
メタクリル酸のモル質量を86g/mol、アクリル酸エチルのモル質量を100g/mol、アクリル酸ブチルのモル質量を128g/mol、ジアリルフタレートのモル質量を246g/molとする。
(0.18/246)/[{5.4×(72/(72+108))}/86+{5.4×(108/(72+108))}/100+(108/86)+(53.8/100)+(18/128)]×100=0.037モル%

(エ)また、上記「樹脂粒子分散体b」に含まれる「樹脂粒子」すなわち「メタクリル酸をモノマー成分として含有する架橋重合体粒子」について、「中和度81.8モル%に中和された架橋重合体を水中で膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径」は、甲17の実験報告書において、「体積基準メジアン径で0.421μm」と測定されている。
甲17が「メタクリル酸をモノマー成分として含有する架橋重合体」について、「中和度81.8モル%に中和された架橋重合体を水中で膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径」を適切に測定したものであることは、甲6、甲13、甲14、甲15、甲16、甲17によって、以下のとおり説明されている。

甲6に記載された「水溶性樹脂B(2%水溶液)LotNo.217z131」は、甲6の実験ノートに記載されているとおり、甲3の【0072】、【0074】にしたがって合成されたものであるから、甲3の【0074】記載の「不揮発分2%の水溶性樹脂B水溶液」と同じものであると認められる。
また、甲13によれば、甲6の実験の実施者は、株式会社テクノプロ テクノプロ・R&D社 埼玉リサーチセンターの熊谷逸裕である。

平成30年 5月30日付けで申立人が提出した回答書第4頁下から2行目?第10頁第18行の記載によれば、甲6の「水溶性樹脂B」は、「樹脂粒子分散体b」の「樹脂粒子」を、水酸化リチウムで、中和度81.8モル%に中和されたものであると認められる。

甲13(宣誓書 株式会社テクノプロ テクノプロ・R&D社 埼玉リサーチセンター 熊谷逸裕)の「2. 私は、上記の「試験成績書」に記載の実験によって得られ、保管されていた『品名水溶性樹脂B(2%水溶液)、LotNo.217z131』(写真、下)を、平成30年 4月 6日に、株式会社UBE科学分析センター 物性評価研究室あてに発送しました。」との記載、
甲14の宅配便伝票の「お届け先 山口県宇部市大字小串1978-96 株式会社UBE科学分析センター 矢田 博英」、「ご依頼主 さいたま市桜区下大久保255埼玉大学地域オープンイノベーションセンタープロジェクト実験室6 (株)テクノプロ」、集荷日が2018年4月6日、届け希望日が4月9日との記載、
甲15の送付状の株式会社テクノプロ・R&D社埼玉リサーチセンターから、株式会社UBE分析センター矢田博英へ、サンプル【水溶性樹脂B(2%水溶液)Lot.217z131】1本を郵送することの記載、及び「担当:埼玉リサーチセンター 熊谷」の記載、
甲16(宣誓書 株式会社UBE科学分析センター 物性評価研究室 矢田裕英)の「4. 私は、試料『水溶性樹脂B(2%水溶液) LotNo.217z131』を、株式会社テクノプロ テクノプロ・R&D社 埼玉リサーチセンターから、平成30年 4月 9日に受領し、上記案件番号:166322、2018年 4月 9日付の『実験報告書(メジアン径測定)』に記載の実験に用いました。」との記載、
甲17(実験報告書(メジアン径測定) 2018年 4月 9日 株式会社UBE科学分析センター 物性評価研究室)の「2.試料 2018年04月09日に株式会社テクノプロ テクノプロ・R&D社 埼玉リサーチセンターより受領した 試料『水溶性樹脂B Lot No.217Z131』」との記載は、お互いに、その記載内容及び日付が整合している。

これらの記載と甲17表紙の「矢田」の押印によれば、甲16の宣誓書作成者である矢田博英が、甲6の水溶性樹脂Bの合成実験実施者かつ甲13宣誓書作成者である熊谷逸裕から、「水溶性樹脂B Lot No.217z131」を受領し、当該「水溶性樹脂B Lot No.217z131」を試料として、甲17に記載されたメジアン径測定の実験を行ったことが理解できる。

よって、甲17のメジアン径測定を行った試料は、甲6に記載された「水溶性樹脂B(2%水溶液)、LotNo.217z131」であると認められる。

そして、甲17の「2.試料」、「3.分析方法」及び「4.結果」の記載によれば、「水溶性樹脂B(2%水溶液)、LotNo.217z131」を1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で、平均0.421μmであると認められる。

(オ)したがって、甲3には、水溶性樹脂Bからなる正極用バインダーに注目すると、以下の発明が記載されている。
(甲3発明)
「メタクリル酸をモノマー成分として含有する架橋重合体塩からなる、1mol%/L LiPF6 EC/EMC=3/7を電解液とするリチウムイオン電池の正極用バインダーであって、
前記架橋重合体は、その全構造単位に対し、メタクリル酸に由来する構造単位を59.4質量%含み、ジアリルフタレートを架橋剤として他のモノマーの総量に対して0.037モル%用いて架橋されたものであり、
中和度81.8モル%に中和された前記架橋重合体を水中で膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で0.421μmである、バインダー。」

イ 本件発明1と甲3発明との対比・判断
甲3発明の「1mol%/L LiPF6 EC/EMC=3/7を電解液とするリチウムイオン電池の正極用バインダー」は、本件発明1の「非水電解質二次電池電極用バインダー」に相当する。
甲3発明の「メタクリル酸をモノマー成分として含有する架橋重合体」は、メタクリル酸がカルボキシル基を有するから、本件発明1の「カルボキシル基を有する架橋重合体」に相当する。
甲3発明の「メタクリル酸をモノマー成分として含有する架橋重合体塩からなる」「バインダー」は、「メタクリル酸をモノマー成分として含有する架橋重合体塩」を含有する「バインダー」であるといえるから、上記検討と合わせると、本件発明1の「カルボキシル基を有する架橋重合体」「塩を含有する」「バインダー」に相当する。
甲3発明の「前記架橋重合体は、その全構造単位に対し、メタクリル酸に由来する構造単位を59.4質量%含み、」との事項と、本件発明1の「架橋重合体は、その全構造単位に対し、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位50?100質量%を含み、」との事項とは、「架橋重合体は、その全構造単位に対し、メタクリル酸に由来する構造単位59.4質量%を含」む事項で重複する。
甲3発明の「中和度81.8モル%に中和された前記架橋重合体を水中で膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で0.421μmである」との事項と、本件発明1の「中和度80?100モル%に中和された前記架橋重合体(ただし、全構造単位に対してアクリル酸モノマーに由来する構造単位を99.5?99.7質量%含み、分子内に2つのアリルエーテル基を有するジアリルエーテルを架橋剤として前記アクリル酸モノマーに対して0.14モル%用いて架橋された重合体、全構造単位に対してアクリル酸モノマーに由来する構造単位を99.6質量%含み、ジエチレングリコールジアリルエーテルを架橋剤として前記アクリル酸モノマーに対して0.14モル%用いて架橋された重合体及び全構造単位に対してメタクリル酸に由来する構造単位を59.4質量%含み、ジアリルフタレートを、架橋剤として他のモノマーの総量に対して0.037モル%用いて架橋された重合体を除く。)を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で0.1?5.8μmである」との事項とは、「中和度81.8モル%に中和された架橋重合体を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で0.421μmである」事項で重複する。

したがって、本件発明1と甲3発明とは、以下の各点で一致し、相違している。
(一致点)
「カルボキシル基を有する架橋重合体塩を含有する非水電解質二次電池電極用バインダーであって、
前記架橋重合体は、その全構造単位に対し、メタクリル酸に由来する構造単位59.4質量%を含み、
中和度81.8モル%に中和された架橋重合体を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で0.421μmである非水電解質二次電池電極用バインダー。」

(相違点3)
「架橋重合体」が、本件発明1では、「ただし、全構造単位に対してアクリル酸モノマーに由来する構造単位を99.5?99.7質量%含み、分子内に2つのアリルエーテル基を有するジアリルエーテルを架橋剤として前記アクリル酸モノマーに対して0.14モル%用いて架橋された重合体、全構造単位に対してアクリル酸モノマーに由来する構造単位を99.6質量%含み、ジエチレングリコールジアリルエーテルを架橋剤として前記アクリル酸モノマーに対して0.14モル%用いて架橋された重合体及び全構造単位に対してメタクリル酸に由来する構造単位を59.4質量%含み、ジアリルフタレートを、架橋剤として他のモノマーの総量に対して0.037モル%用いて架橋された重合体を除く。」との特定事項を有するのに対して、甲3発明では、「その全構造単位に対し、メタクリル酸に由来する構造単位を59.4質量%含み、ジアリルフタレートを架橋剤として他のモノマーの総量に対して0.037モル%用いて架橋されたものであ」る点。

よって、本件発明1は、甲3発明の「架橋重合体」を「除く」ものであり、相違点3は実質的な相違点であり、本件発明1は、甲3に記載された発明ではない。

また、甲3発明において、「架橋重合体」を、その他の架橋重合体、例えば、架橋剤の量等の異なる架橋重合体に変更することについては、積極的な動機付けが存在しないし、仮に架橋剤の量等について若干変更を行う動機付けがあったとしても、当該変更の結果得られた架橋重合体について、「中和度80?100モル%に中和された前記架橋重合体を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で0.1?5.8μmである」との事項を満たすものとなるか否か不明であるし、本件発明の「耐屈曲性」を有するとの効果を奏するものとなるか否かも不明であり、いずれの証拠を参酌しても、当該「耐屈曲性」を有するとの効果を予測することはできない。

よって、本件発明1は、甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明2?4、10?14と甲3発明との対比・判断
本件発明2?4、10?14は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであり、上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を有するものであるから、上記イの判断と同様に、甲3に記載された発明ではないし、甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

2 取消理由に採用しなかった申立理由について
(1)申立理由3(特許法第36条第4項第1号)について
ア 請求項1の「中和度80?100モル%に中和された前記架橋重合体を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で0.1?5.8μmである」について
申立人は、特許異議申立書第38頁第14行?第40頁第23行において、次の旨主張している。
『請求項1の「中和度80?100モル%に中和された前記架橋重合体を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で0.1?7.0μmである」との特定について、粒子径0.1?7.0μmの両端の値の根拠が不明であり、発明の詳細な説明の記載によっては、粒子径が0.1?7.0μmの範囲である場合の全般に亘って、目的とする結着性及び耐屈曲性に優れる電極を得ることが可能であると認識することはできない。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。』

しかしながら、発明の詳細な説明の【0082】?【0084】の表1?表3を参酌すると、「中和度80?100モル%に中和された架橋重合体を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径」について、実施例として記載されているもので、最小の値のものは、「製造例13(R-13)」の0.9μmであり、最大の値のものは、「製造例2(R-2)」の5.8μmであり、「製造例1(R-1)」?「製造例18(R-18)」は、「中和度80?100モル%に中和された架橋重合体を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径」が、「0.9?5.8μm」の範囲内である。
上記記載によれば、粒子径0.1?7.0μmの範囲内のものが製造されているといえる。

また、発明の詳細な説明には、以下の記載がある。(なお、下線は当審が付与した。)
「【0033】
一般に、架橋重合体は、そのポリマー鎖の長さ(一次鎖長)が長いほど強靭さが増大し、高い結着性を得ることが可能となるとともに、その水分散液の粘度が上昇する。また、長い一次鎖長を有するポリマーに比較的少量の架橋を施して得られた架橋重合体(塩)は、水中では水に膨潤したミクロゲル体として存在する。本発明の電極合剤層用組成物においては、このミクロゲル体の相互作用により増粘効果や分散安定化効果が発現される。ミクロゲル体の相互作用はミクロゲル体の水膨潤度、およびミクロゲル体の強度によって変化するが、これらは架橋重合体の架橋度により影響を受ける。架橋度が低すぎる場合はミクロゲルの強度が不足して、分散安定化効果や結着性が不足する場合がある。一方架橋度が高すぎる場合は、ミクロゲルの膨潤度が不足して分散安定化効果や結着性が不足する場合がある。すなわち、架橋重合体としては、十分に長い一次鎖長を有する重合体に適度な架橋を施した微架橋重合体であることが望ましい。」
上記実施例や【0033】の記載を参酌すると、発明の詳細な説明には、実施例として、請求項1に係る発明が記載されているし、当業者であれば、架橋度や一次鎖長を適宜調整することで、請求項1に係る発明を実施することができるといえる。
よって、申立人の主張は採用できない。

イ 請求項4の「前記架橋重合体又はその塩は、1質量%水溶液の粘度が88mPa・s以下であり、3質量%水溶液の粘度が8900mPa・s以上である」について
申立人は、特許異議申立書第40頁下から第3行?第42頁第第12行において、次の旨主張している。
『請求項4の「前記架橋重合体又はその塩は、1質量%水溶液の粘度が500mPa・s以下であり、3質量%水溶液の粘度が5000mPa・s以上である」との特定について、「1質量%水溶液の粘度が500mPa・s以下であり、3質量%水溶液の粘度が5000mPa・s以上」の値の根拠が不明であり、発明の詳細な説明の記載によっては、「1質量%水溶液の粘度が500mPa・s以下であり、3質量%水溶液の粘度が5000mPa・s以上」の範囲である全般に亘って、目的とする結着性及び耐屈曲性に優れる電極を得ることが可能であると認識することはできない。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が請求項4に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない』

しかしながら、発明の詳細な説明【0082】?【0084】の表1?表3を参酌すると、「製造例8(R-8)」、「製造例9(R-9)」、「製造例10(R-10)」は、「1質量%水溶液の粘度が500mPa・s以下であり、3質量%水溶液の粘度が5000mPa・s以上」である。
よって、上記記載によれば、「1質量%水溶液の粘度が500mPa・s以下であり、3質量%水溶液の粘度が5000mPa・s以上」の範囲内のものが製造されているといえる。

また、発明の詳細な説明には、以下の記載がある。(なお、下線は当審が付与した。)
「【0036】
本発明の架橋重合体又はその塩は、水中では水を吸収して膨潤した状態となる。よって、水溶液中の濃度が高くなり、架橋重合体同士のパッキングが十分な状態に至ると水溶液の粘度は急激に上昇する。
一般に、架橋重合体が適度な架橋度を有する場合、当該架橋重合体が有する親水性基の量が多いほど、架橋重合体は水を吸収して膨潤し易くなる。また、架橋度についていえば、架橋度が低いほど、架橋重合体は膨潤し易くなる。ただし、架橋点の数が同じであっても、分子量(一次鎖長)が大きいほど三次元ネットワークの形成に寄与する架橋点が増えるため、架橋重合体は膨潤し難くなる。よって、架橋重合体の親水性基の量、架橋点の数及び一次鎖長等を調整することにより、上記1質量%水溶液及び3質量%水溶液の粘度を調節することができる。この際、上記架橋点の数は、例えば、架橋性単量体の使用量、ポリマー鎖への連鎖移動反応及び後架橋反応等により調整が可能である。また、重合体の一次鎖長は、開始剤及び重合温度等のラジカル発生量に関連する条件の設定、並びに、連鎖移動等を考慮した重合溶媒の選択等により調整することができる。
水溶液粘度は、合剤層用組成物の粘度に大きく影響を及ぼすため、上記の粘度特性を満たす架橋重合体(塩)をバインダーとして使用することにより、高濃度であっても塗工性に優れる合剤層用組成物が得られる。さらに、上記の粘度特性を満たすように架橋度及び分子量等が調節された架橋重合体又はその塩は、バインダーとして優れた結着性を発揮するため、より高い合剤層剥離強度を得ることができる。」
上記実施例や【0036】の記載を参酌すると、発明の詳細な説明には、実施例として、請求項4に係る発明が記載されているし、当業者であれば、架橋性単量体の使用量、ポリマー鎖への連鎖移動反応及び後架橋反応、開始剤及び重合温度等のラジカル発生量に関連する条件の設定、連鎖移動等を考慮した重合溶媒の選択等を適宜調整することで、請求項4に係る発明を実施することができるといえる。
よって、申立人の主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有する架橋重合体又はその塩を含有する非水電解質二次電池電極用バインダーであって、
前記架橋重合体は、その全構造単位に対し、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位50?100質量%を含み、
中和度80?100モル%に中和された前記架橋重合体(ただし、全構造単位に対してアクリル酸モノマーに由来する構造単位を99.5?99.7質量%含み、分子内に2つのアリルエーテル基を有するジアリルエーテルを架橋剤として前記アクリル酸モノマーに対して0.14モル%用いて架橋された重合体、全構造単位に対してアクリル酸モノマーに由来する構造単位を99.6質量%含み、ジエチレングリコールジアリルエーテルを架橋剤として前記アクリル酸モノマーに対して0.14モル%用いて架橋された重合体及び全構造単位に対してメタクリル酸に由来する構造単位を59.4質量%含み、ジアリルフタレートを架橋剤として他のモノマーの総量に対して0.037モル%用いて架橋された重合体を除く。)を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で0.1?5.8μmである非水電解質二次電池電極用バインダー。
【請求項2】
前記架橋重合体が、架橋性単量体により架橋されたものであり、該架橋性単量体の使用量が非架橋性単量体の総量に対して0.02?0.7モル%である請求項1に記載の非水電解質二次電池電極用バインダー。
【請求項3】
前記架橋性単量体が、分子内に複数のアリルエーテル基を有する化合物である請求項2に記載の非水電解質二次電池電極用バインダー。
【請求項4】
前記架橋重合体又はその塩は、1質量%水溶液の粘度が88mPa・s以下であり、3質量%水溶液の粘度が8900mPa・s以上である請求項1?3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池電極用バインダー。
【請求項5】
非水電解質二次電池電極用バインダーに用いられるカルボキシル基を有する架橋重合体又はその塩の製造方法であって、
中和度80?100モル%に中和された前記架橋重合体を水中で水膨潤させた後、1質量%NaCl水溶液中に分散させた際の粒子径が、体積基準メジアン径で0.1?5.8μmであり、
エチレン性不飽和カルボン酸単量体を50?100質量%含む単量体成分を沈殿重合する重合工程を備えた前記架橋重合体又はその塩の製造方法。
【請求項6】
前記重合工程において、アセトニトリルを含む重合媒体を用いる請求項5に記載の架橋重合体又はその塩の製造方法。
【請求項7】
前記重合工程における前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体の中和度が10モル%以下である請求項5又は6に記載の架橋重合体又はその塩の製造方法。
【請求項8】
前記重合工程の後に乾燥工程を備え、
前記重合工程の後、前記乾燥工程の前に、当該重合工程により得られた重合体分散液にアルカリ化合物を添加して重合体を中和する工程を備える請求項5?7のいずれか1項に記載の架橋重合体又はその塩の製造方法。
【請求項9】
前記重合工程の後、固液分離工程、洗浄工程及び乾燥工程を備える請求項5?8のいずれか1項に記載の架橋重合体又はその塩の製造方法。
【請求項10】
請求項1?4のいずれか1項に記載のバインダー、活物質及び水を含む非水電解質二次電池電極合剤層用組成物。
【請求項11】
バインダーとしてさらにスチレン/ブタジエン系ラテックスを含む請求項10に記載の非水電解質二次電池電極合剤層用組成物。
【請求項12】
負極活物質として炭素系材料またはケイ素系材料のいずれかを含む請求項10又は11に記載の非水電解質二次電池電極合剤層用組成物。
【請求項13】
正極活物質としてリチウム含有金属酸化物を含む請求項10又は11に記載の非水電解質二次電池電極合剤層用組成物。
【請求項14】
集電体表面に、請求項10?13のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池電極合剤層用組成物から形成される合剤層を備えた非水電解質二次電池電極。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-11-05 
出願番号 特願2017-513553(P2017-513553)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (H01M)
P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 536- YAA (H01M)
P 1 651・ 113- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 近藤 政克  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 土屋 知久
結城 佐織
登録日 2017-06-02 
登録番号 特許第6150031号(P6150031)
権利者 東亞合成株式会社
発明の名称 非水電解質二次電池電極用バインダー及びその製造方法、並びに、その用途  
代理人 特許業務法人快友国際特許事務所  
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