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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02F
審判 全部申し立て 2項進歩性  G02F
管理番号 1347643
異議申立番号 異議2017-700975  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-10-12 
確定日 2018-11-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6112250号発明「偏光板のセット及び液晶パネル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6112250号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6112250号の請求項4に係る特許を維持する。 特許第6112250号の請求項1ないし請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。  
理由 第1 手続の経緯
特許第6112250号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成29年3月24日付けでその特許権が設定登録され、同年4月12日に特許掲載公報が発行され、その後、同年10月12日に特許異議申立人野本玲司より請求項1ないし4に係る特許に対して特許異議の申し立てがされたものである。
以後の主な手続の経緯は、以下のとおりである(なお、下線は、当審で付した。以下同じ。)。

平成29年12月13日:取消理由通知(12月20日発送)
平成30年 2月16日:訂正請求書・意見書の提出
同年 3月 6日:通知書(3月8日発送)
同年 4月 4日:意見書(特許異議申立人)
同年 5月29日:取消理由通知(5月31日発送)
同年 7月27日:訂正請求書・意見書の提出
同年 8月 3日:訂正拒絶理由通知(8月8日発送)
同年 9月 6日:手続補正書・意見書の提出
同年 9月20日:通知書(9月26日発送)
同年10月26日:意見書(特許異議申立人)

第2 訂正の適否
1 訂正の趣旨
平成30年9月6日付け手続補正により補正された同年7月27日付け訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。また、本件訂正請求書による訂正を、以下「本件訂正」という。)は、特許第6112250号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正することを求めるものである。

2 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、
「請求項3に記載の液晶パネル、または液晶セルと、請求項1もしくは2に記載の偏光板のセットとを含む液晶パネルにおいて、
前記液晶セルの視認側に前記視認側偏光板が配置され、前記液晶セルの背面側に前記背面側偏光板が配置されており、85℃で240時間加熱したときの反り量の絶対値が、0.5mm以下である液晶パネル。」と記載されているのを、

「液晶セルの視認側に配置される視認側偏光板と液晶セルの背面側に配置される背面側偏光板とのセットであって、
前記背面側偏光板は、輝度向上フィルムと吸収型偏光板とが粘着剤層を介して積層された構成を有し、前記液晶セルの背面側に配置する際に前記液晶セルに接する表面から前記輝度向上フィルムまでの距離が100μm以下であり、
前記輝度向上フィルムは、複屈折性を有する層を含む延伸されたフィルムであり、かつ、厚みが15μm以上30μm以下であり、
前記粘着剤層は、アクリル系粘着剤から形成され、かつ、厚みが3μm以上25μm以下であり、
前記視認側偏光板を85℃で100時間加熱したときの吸収軸方向における寸法変化率と、前記背面側偏光板に含まれる吸収型偏光板を85℃で100時間加熱したときの吸収軸方向における寸法変化率との比が0.62以上1.25以下である偏光板のセットと、液晶セルとを含み、
前記視認側偏光板は、その吸収軸が前記液晶セルの長辺方向と略平行であり、前記背面側偏光板は、その吸収軸が前記液晶セルの短辺方向と略平行である液晶パネル、または液晶セルと、前記偏光板のセットとを含む液晶パネルにおいて、
前記液晶セルの視認側に前記視認側偏光板が配置され、前記液晶セルの背面側に前記背面側偏光板が配置されており、85℃で240時間加熱したときの反り量の絶対値が、0.5mm以下である液晶パネル。」に訂正する。

なお、訂正前の請求項1ないし4は、請求項2ないし4が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項1ないし4について請求されている。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1ないし訂正事項3について
ア 訂正事項1ないし訂正事項3は、訂正前の請求項1ないし3を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 上記アから明らかなように訂正事項1ないし訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当しない。

ウ よって、訂正事項1ないし訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項4について
ア 訂正前の請求項4は、訂正前の他の請求項との引用関係を解消して独立形式に書き改める訂正を含むことから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。

イ また、訂正前に引用していた請求項1では、具体的な特定のなかった、下記(ア)ないし(ウ)の事項を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(ア)輝度向上フィルムと吸収型偏光板とが粘着層を介して積層されていること。
(イ)輝度向上フィルムが、複屈折性を有する層を含む延伸されたフィルムであり、かつ、厚みが15μm以上30μm以下であること。
(ウ)粘着層が、アクリル系粘着剤から形成され、かつ、厚みが3μm以上25μm以下であること。

ウ 上記ア及びイから明らかなように、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ(ア)上記イ(ア)に係る訂正は、
本件特許明細書の【0085】に「…吸収型偏光板50と輝度向上フィルム61との貼合には接着剤又は粘着剤を使用することができ、いずれの貼合も粘着剤を使用することが好ましい。」と記載されていることから、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当しない。

(イ)上記イ(イ)に係る訂正は、
本件特許明細書の【0043】に「…輝度向上フィルム61としては、代表的には、直線偏光分離型の反射偏光フィルムが挙げられる。…反射偏光フィルム61は、複屈折性を有する層Aと複屈折性を実質的に有さない層Bとが交互に積層された多層積層体である。」及び【0047】に「…反射偏光フィルムの全体厚みは、好ましくは15μm?50μmであり、より好ましくは30μm以下である。」と記載されていることから、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当しない。

(ウ)上記イ(ウ)に係る訂正は、
本件特許明細書の【0085】に「…吸収型偏光板50と輝度向上フィルム61との貼合には接着剤又は粘着剤を使用することができ、いずれの貼合も粘着剤を使用することが好ましい。…具体的には、粘着剤層を形成する粘着剤として、アクリル系樹脂を含有する粘着剤(アクリル系粘着剤)が好ましい。」及び【0087】に「…輝度向上フィルムの積層に用いる粘着剤層は25μm以下であることが好ましい。さらに好ましくは15μm以下である。通常、粘着剤層の厚みは3μm以上である。」と記載されていることから、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当しない。

オ よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

3 訂正の適否についてのまとめ
本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項4に係る発明(以下「本件訂正発明4」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「液晶セルの視認側に配置される視認側偏光板と液晶セルの背面側に配置される背面側偏光板とのセットであって、
前記背面側偏光板は、輝度向上フィルムと吸収型偏光板とが粘着剤層を介して積層された構成を有し、前記液晶セルの背面側に配置する際に前記液晶セルに接する表面から前記輝度向上フィルムまでの距離が100μm以下であり、
前記輝度向上フィルムは、複屈折性を有する層を含む延伸されたフィルムであり、かつ、厚みが15μm以上30μm以下であり、
前記粘着剤層は、アクリル系粘着剤から形成され、かつ、厚みが3μm以上25μm以下であり、
前記視認側偏光板を85℃で100時間加熱したときの吸収軸方向における寸法変化率と、前記背面側偏光板に含まれる吸収型偏光板を85℃で100時間加熱したときの吸収軸方向における寸法変化率との比が0.62以上1.25以下である偏光板のセットと、液晶セルとを含み、
前記視認側偏光板は、その吸収軸が前記液晶セルの長辺方向と略平行であり、前記背面側偏光板は、その吸収軸が前記液晶セルの短辺方向と略平行である液晶パネル、または液晶セルと、前記偏光板のセットとを含む液晶パネルにおいて、
前記液晶セルの視認側に前記視認側偏光板が配置され、前記液晶セルの背面側に前記背面側偏光板が配置されており、85℃で240時間加熱したときの反り量の絶対値が、0.5mm以下である液晶パネル。」

第4 当審の判断
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし4に係る特許に対して、平成29年12月13日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1)取消理由1(進歩性要件)
訂正前の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(2)取消理由2(記載不備)
訂正前の請求項1ないし4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

ア 本件特許発明1のように、「輝度向上フィルム」を「粘着剤層」を介して積層する前の「吸収型偏光板」の寸法変化率Bと、視認側偏光板の寸法変化率Aとの比が、本件明細書の実施例で実証された範囲において、液晶パネルの反りという課題が解決されたとしても、それは本件明細書の実施例で用いた特定の「厚さ5μmの粘着剤(#L2)」及び特定の「厚さ26μmの輝度向上フィルム(APF,v.3)」を用いたからこそ得られた結果であって、それ以外の「素材」や「膜厚」の粘着剤層及び輝度向上フィルムを積層したときにまで、上記A/Bの特定の比率の範囲において、液晶パネルの反りと言う課題を解決できるとまで一般化することはできない。

イ よって、本件特許発明1ないし本件特許発明4は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。

<刊行物一覧>
引用文献1:特開2014-211609号公報
引用文献2:特開2015-72385号公報
引用文献3:特開2011-22510号公報

2 判断
(1)取消理由1(特許法第29条第2項)について
本件訂正により、訂正前の請求項1ないし3は削除された。
よつて、取消理由1は、解消された。

(2)取消理由2(特許法第36条第6項第1号)について
ア 本件訂正により、本件訂正発明4は、以下のように訂正された。

「液晶セルの視認側に配置される視認側偏光板と液晶セルの背面側に配置される背面側偏光板とのセットであって、
前記背面側偏光板は、輝度向上フィルムと吸収型偏光板とが粘着剤層を介して積層された構成を有し、前記液晶セルの背面側に配置する際に前記液晶セルに接する表面から前記輝度向上フィルムまでの距離が100μm以下であり、
前記輝度向上フィルムは、複屈折性を有する層を含む延伸されたフィルムであり、かつ、厚みが15μm以上30μm以下であり、
前記粘着剤層は、アクリル系粘着剤から形成され、かつ、厚みが3μm以上25μm以下であり、
前記視認側偏光板を85℃で100時間加熱したときの吸収軸方向における寸法変化率と、前記背面側偏光板に含まれる吸収型偏光板を85℃で100時間加熱したときの吸収軸方向における寸法変化率との比が0.62以上1.25以下である偏光板のセットと、液晶セルとを含み、含み、
前記視認側偏光板は、その吸収軸が前記液晶セルの長辺方向と略平行であり、前記背面側偏光板は、その吸収軸が前記液晶セルの短辺方向と略平行である液晶パネル、または液晶セルと、前記偏光板のセットとを含む液晶パネルにおいて、
前記液晶セルの視認側に前記視認側偏光板が配置され、前記液晶セルの背面側に前記背面側偏光板が配置されており、85℃で240時間加熱したときの反り量の絶対値が、0.5mm以下である液晶パネル。」

イ 発明の詳細な説明の記載から把握される事項
(ア)本件特許明細書の【技術分野】、【発明が解決しようとする課題】及び【課題を解決するための手段】の記載からして、
液晶パネルの薄型化に伴い、高温環境下で液晶セルに貼合された偏光板の収縮により液晶パネルが反ることで最終製品の筐体に収まらないなどの問題があるという事情に鑑みて、液晶パネルに対して、下記の「aないしcを特性を備えた『視認側偏光板と背面側偏光板とのセット』」を貼り合わせることにより、
85℃で240時間加熱したときの反り量の絶対値が、0.5mm以下となる液晶パネルが得られることが理解できる。

a 背面側偏光板は、輝度向上フィルムと吸収型偏光板とが積層された構成を有し、液晶セルの背面側に配置する際に液晶セルに接する表面から輝度向上フィルムまでの距離が100μm以下である。
b 視認側偏光板を85℃で100時間加熱したときの吸収軸方向における寸法変化率と、背面側偏光板に含まれる吸収型偏光板を85℃で100時間加熱したときの吸収軸方向における寸法変化率との比が0.62以上1.25以下である。
c 視認側偏光板は、その吸収軸が液晶セルの長辺方向と略平行であり、背面側偏光板は、その吸収軸が液晶セルの短辺方向と略平行である。

(イ)本件特許明細書の【0013】及び【0014】の記載からして、以下のことが理解できる。
a 液晶セルと輝度向上フィルムとの距離は、短いほど好ましいこと。
b 寸法変化率の比は、「1」に近いほど好ましいこと。

(ウ)本件特許明細書の【0079】及び【0087】の記載からして、以下のことが理解できる。
a 粘着剤としては、アクリル系粘着剤が好ましいこと。
b 輝度向上フィルムを液晶セルに近づける観点から、粘着剤層は25μm以下であることが好ましいこと。

(エ)本件特許明細書の【0098】の記載からして、以下のことが理解できる。

偏光板の寸法変化率の測定は、偏光フィルムの片面または両面に保護フィルムが貼合された状態、つまり、背面側偏光板の寸法変化率の測定は、輝度向上フィルムを貼合する前の吸収型偏光板の状態であることが理解できる。

(オ)本件特許明細書の【0113】及び【0014】の記載からして、以下のことが理解できる。

「反り量」とは、粘着剤を介して液晶セルの両側に「視認側偏光板及び背面側偏光板」を貼り合わせた液晶パネルにおけるもの、つまり、前面板などの他の部材を貼り合わせた液晶パネルにおける反り量ではないこと。

(カ)本件特許明細書の【0117】の表1に示された実施例及び比較例の結果からして、
寸法変化率の比が「0.62以上1.25以下」の範囲内にある実施例1ないし8では、液晶パネルの反り量が小さいのに対して、
寸法変化率の比が「0.62以上1.25以下」の範囲外である比較例1及び2では、液晶パネルの反り量が大きくなり、上記課題を解決できないことが理解できる。

(キ)上記(ア)ないし(カ)からして、
本件特許明細書の記載に接した当業者は、液晶パネルに対して、上記(ア)で指摘した「aないしcを特性を備えた『視認側偏光板と背面側偏光板とのセット』」を貼り合わせることにより、上記課題を解決できるものと認識できる。

(ク)そうすると、訂正後の特許請求の範囲は、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるから、サポート要件を充足していると認められる。

ウ 以上のことから、取消理由2は、解消された。

(3)平成30年10年26日提出の意見書(特許異議申立人)について
特許異議申立人は、意見書において、以下のように主張することから、この点について検討する。

ア 「…引用文献1記載の液晶パネルも…85℃で240時間加熱したときの反り量の絶対値が、0.5mm以下である』液晶パネルであり、両者は文言上区別できない。」(第5頁中段)

(ア)しかしながら、引用文献1記載の液晶パネルにおける「反り量」とは、「前面板一体型液晶表示パネル」のものであるのに対して、本件訂正発明4における「反り量」とは、前面板のない状態で測定されたものである。

(イ)そうすると、本件訂正発明4と引用文献1記載の液晶パネルとを対比するためには、引用文献1記載の液晶パネルから前面板を取り除く必要があるところ、(前面板を取り除いた)引用文献1記載の液晶パネルにおいて、「85℃で240時間加熱したときの反り量の絶対値が、0.5mm以下」となるか否かは不明であるから、両者は、少なくとも、この点において相違し、文言上区別できないというものではない。

(ウ)よって、特許異議申立人の上記主張は、採用できない。

イ 「いわば、本件訂正発明4は、前面板を有さない液晶パネルにおいて、反り量を実用上要求される0.5mm以下に…下限値が0.62であることを見つけたに過ぎないのであって、正に当業者の設計事項に他ならない。」(第7頁下段)

(ア)しかしながら、甲第1号証に記載された液晶パネルにおける「反り量」とは、「ヤング率が2Gpa以上の前面板」を採用した際のものであるから、前面板を取り除いた状態での反り量を「0.5mm以下」とすることが設計事項であるとまではいえない。
また、前面板を取り除くことには阻害要因があるといえる。
よって、本件訂正発明4が、当業者が甲第1号証に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものであるとはいえない。

(イ)よって、特許異議申立人の上記主張は、採用できない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由
(1)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、訂正前の請求項1ないし4に係る特許について、甲第1号証ないし甲第4号証を提出し、次の特許異議申立理由を主張している。

ア 【申立理由A】
訂正前の請求項1、2及び4は、甲1号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。

イ 【申立理由B】
訂正前の請求項1ないし4は、甲1号証ないし甲3号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

ウ 【申立理由C】
訂正前の請求項1及び4は、甲4号証の請求項1及び5に係る発明と、各々同一であるから、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができない。

甲第1号証:特開2015-72385号公報
甲第2号証:特開2013-37115号公報
甲第3号証:特開2011-22510号公報
甲第4号証:特許第6112249号公報

(2)当審の判断
ア 【申立理由A】及び【申立理由B】で引用する甲第1号証ないし甲第3号証には、
液晶パネルに対して、粘着剤を介して両側に「視認側偏光板及び背面側偏光板」を貼り合わせた際に、「85℃で240時間加熱したときの反り量の絶対値」を、0.5mm以下とすることが記載されていない。
また、「視認側偏光板及び背面側偏光板」の採用により、液晶パネルの反り量の絶対値を0.5mm以下とすることが当業者にとって容易であるとする証拠もない。
よって、本件訂正発明4に係る特許は、【申立理由A】及び【申立理由B】によっては取り消すことができない。

イ 【申立理由C】で引用する甲第4号証(特許第6112249号公報)の請求項1及び5に係る発明は、「輝度向上フィルムは、複屈折性を有する層を含む延伸されたフィルムであり、かつ、厚みが15μm以上30μm以下であり」及び「粘着剤層は、アクリル系粘着剤から形成され、かつ、厚みが3μm以上25μm以下であり」との発明特定事項を備えていない。
よって、本件訂正発明4に係る特許は、【申立理由C】によっては取り消すことができない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件訂正発明4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項1ないし請求項3に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除されたことから、請求項1ないし請求項3に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】
液晶セルの視認側に配置される視認側偏光板と液晶セルの背面側に配置される背面側偏光板とのセットであって、
前記背面側偏光板は、輝度向上フィルムと吸収型偏光板とが粘着剤層を介して積層された構成を有し、前記液晶セルの背面側に配置する際に前記液晶セルに接する表面から前記輝度向上フィルムまでの距離が100μm以下であり、
前記輝度向上フィルムは、複屈折性を有する層を含む延伸されたフィルムであり、かつ、厚みが15μm以上30μm以下であり、
前記粘着剤層は、アクリル系粘着剤から形成され、かつ、厚みが3μm以上25μm以下であり、
前記視認側偏光板を85℃で100時間加熱したときの吸収軸方向における寸法変化率と、前記背面側偏光板に含まれる吸収型偏光板を85℃で100時間加熱したときの吸収軸方向における寸法変化率との比が0.62以上1.25以下である偏光板のセットと、液晶セルとを含み、
前記視認側偏光板は、その吸収軸が前記液晶セルの長辺方向と略平行であり、前記背面側偏光板は、その吸収軸が前記液晶セルの短辺方向と略平行である液晶パネル、または液晶セルと、前記偏光板のセットとを含む液晶パネルにおいて、
前記液晶セルの視認側に前記視認側偏光板が配置され、前記液晶セルの背面側に前記背面側偏光板が配置されており、85℃で240時間加熱したときの反り量の絶対値が、0.5mm以下である液晶パネル。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-11-15 
出願番号 特願2016-114152(P2016-114152)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (G02F)
P 1 651・ 121- YAA (G02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 磯崎 忠昭  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 星野 浩一
古田 敦浩
登録日 2017-03-24 
登録番号 特許第6112250号(P6112250)
権利者 住友化学株式会社
発明の名称 偏光板のセット及び液晶パネル  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  
代理人 坂元 徹  
代理人 中山 亨  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  
代理人 坂元 徹  
代理人 中山 亨  

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