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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B32B
管理番号 1347648
異議申立番号 異議2018-700066  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-01-25 
確定日 2018-11-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6171674号発明「シート材及びバリア性包装容器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6171674号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。 特許第6171674号の請求項1、3ないし10に係る特許を維持する。 特許第6171674号の請求項2についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6171674号(以下「本件特許」という。)の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成25年7月25日の出願であって、平成29年7月14日にその特許権の設定登録がされ(平成29年8月2日特許掲載公報発行)、その後、平成30年1月25日に特許異議申立人特許業務法人朝日奈特許事務所(以下「異議申立人」という。)より請求項1?10に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、平成30年5月17日付けで取消理由が通知され、平成30年7月20日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、本件訂正の請求に係る訂正を「本件訂正」という。)がされたものである。なお、本件訂正請求について、異議申立人に意見書を提出する機会を与えたが、異議申立人から意見書の提出はなかった。

2.訂正の適否
(1)訂正の内容
本件訂正は、以下の訂正事項1?7からなるものである。それぞれの訂正事項について、訂正箇所に下線を付して示すと次のとおりである。

ア.訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、
「基材の少なくとも一方の面に、微細繊維を含む微細繊維層が形成されたシート材であり、
前記基材が紙により構成され、
前記微細繊維層の隣接する層中への浸透深さが0.01μm以上0.02μm以下であることを特徴とするシート材。」とあるのを、
「基材の少なくとも一方の面に、微細繊維を含む微細繊維層が形成されたシート材であり、
前記基材が紙により構成され、
前記微細繊維の繊維幅が2nm以上50nm以下、微細繊維の長さが0.2μm以上50μm以下である微細繊維(B-1)を微細繊維層に含み、
前記微細繊維層の隣接する層中への浸透深さが0.01μm以上0.02μm以下であることを特徴とするシート材。」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項3?10についても、同様に訂正する。

イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

ウ.訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3に、「請求項1または2に記載のシート材であり、・・・を特徴とするシート材。」とあるのを、「請求項1に記載のシート材であり、・・・を特徴とするシート材。」に訂正する。

エ.訂正事項4
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に、「請求項1乃至4のいずれか1項に記載のシート材であり、・・・を特徴とするシート材。」とあるのを、「請求項1、3乃至4のいずれか1項に記載のシート材であり、・・・を特徴とするシート材。」に訂正する。

オ.訂正事項5
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項8に、「請求項1乃至7のいずれか1項に記載のシート材であり、・・・を特徴とするシート材。」とあるのを、「請求項1、3乃至7のいずれか1項に記載のシート材であり、・・・を特徴とするシート材。」に訂正する。

カ.訂正事項6
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項9に、「請求項1乃至8のいずれか1項に記載のシート材であり、・・・を特徴とするシート材。」とあるのを、「請求項1、3乃至8のいずれか1項に記載のシート材であり、・・・を特徴とするシート材。」に訂正する。

キ.訂正事項7
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項10に、「請求項1乃至9のいずれか1項に記載のシート材を用いたことを特徴とするバリア性包装容器。」とあるのを、「請求項1、3乃至9のいずれか1項に記載のシート材を用いたことを特徴とするバリア性包装容器。」に訂正する。

(2)一群の請求項
本件訂正前の請求項1及び同請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、訂正事項1?7による訂正は当該一群の請求項1?10に対してなされたものである。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

(3)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1における「微細繊維層」について、「前記微細繊維の繊維幅が2nm以上50nm以下、微細繊維の長さが0.2μm以上50μm以下である微細繊維(B-1)」を含むものであると限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、訂正前の請求項2の記載や、本件特許明細書の段落【0011】の「また、前記微細繊維の繊維幅が2nm以上50nm以下、微細繊維の長さが0.2μm以上50μm以下である微細繊維(B-1)を微細繊維層に含むことを特徴とするシート材である。」との記載からみて、新規事項を追加するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
そして、訂正事項1は、上記のように本件訂正前の請求項1の発明特定事項をさらに限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する
請求項1を引用する請求項3?10についての訂正も同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

イ.訂正事項2
訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、また、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ウ.訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項3が訂正前の請求項1または2のいずれかを引用するものであったところ、削除された請求項2を引用しないとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とし、また、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

エ.訂正事項4
訂正事項4は、訂正前の請求項5が訂正前の請求項1乃至4のいずれか1項を引用するものであったところ、削除された請求項2を引用しないとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とし、また、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

オ.訂正事項5
訂正事項5は、訂正前の請求項8が訂正前の請求項1乃至7のいずれか1項を引用するものであったところ、削除された請求項2を引用しないとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とし、また、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

カ.訂正事項6
訂正事項6は、訂正前の請求項9が訂正前の請求項1乃至8のいずれか1項を引用するものであったところ、削除された請求項2を引用しないとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とし、また、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

キ.訂正事項7
訂正事項7は、訂正前の請求項10が訂正前の請求項1乃至9のいずれか1項を引用するものであったところ、削除された請求項2を引用しないとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とし、また、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(4)小括
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正が認められたことにより、本件特許の請求項1?10に係る発明(以下「本件発明1?10」という。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

【請求項1】
基材の少なくとも一方の面に、微細繊維を含む微細繊維層が形成されたシート材であり、
前記基材が紙により構成され、
前記微細繊維の繊維幅が2nm以上50nm以下、微細繊維の長さが0.2μm以上50μm以下である微細繊維(B-1)を微細繊維層に含み、
前記微細繊維層の隣接する層中への浸透深さが0.01μm以上0.02μm以下であることを特徴とするシート材。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
請求項1に記載のシート材であり、前記微細繊維の繊維幅が50nm以上200nm以下、微細繊維の長さが50μm以上500μm以下である微細繊維(B-2)を微細繊維層に含むことを特徴とするシート材。
【請求項4】
請求項1に記載のシート材であり、前記微細繊維層が前記微細繊維(B-1)と前記微細繊維(B-2)の両方を含むことを特徴とするシート材。
【請求項5】
請求項1、3乃至4のいずれか1項に記載のシート材であり、前記微細繊維層が微細繊維を含む微細繊維分散液をコーティングして形成されることを特徴とするシート材。
【請求項6】
請求項5に記載のシート材であり、前記微細繊維分散液の分散媒が水を含むことを特徴とするシート材。
【請求項7】
請求項5または6に記載のシート材であり、前記微細繊維層が微細繊維を含む微細繊維分散液をコーティングして形成する際、コーティングの塗工量が固形分重量換算で0.3g/m2以上15g/m2以下であることを特徴とするシート材。
【請求項8】
請求項1、3乃至7のいずれか1項に記載のシート材であり、前記微細繊維層がセルロース繊維を含むことを特徴とするシート材。
【請求項9】
請求項1、3乃至8のいずれか1項に記載のシート材であり、前記基材の少なくとも一方の面に形成された微細繊維層の膜厚が0.2μm以上10μm以下であることを特徴とするシート材。
【請求項10】
請求項1、3乃至9のいずれか1項に記載のシート材を用いたことを特徴とするバリア性包装容器。

(2)取消理由の概要
当審において、訂正前の請求項1?10に係る発明の特許に対して、平成30年5月17日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
なお、異議申立人が申立てた全ての理由は通知された。

理由1 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
理由2 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。



ア.理由1について
(ア)請求項1の「微細繊維」という記載は不明確である。
(イ)請求項1の「浸透深さ」という記載は不明確である。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

イ.理由2について
(ア)本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が請求項3に係る発明及び請求項3を引用する請求項4?10に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
(イ)本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が請求項2に係る発明及び請求項2を引用する請求項3?10に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
(ウ)微細繊維の形状及び寸法について何ら特定のない請求項1についても、上記と同様の取消理由がある。また、請求項4?10は、請求項1を引用しているから、上記と同様の取消理由がある。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(3)取消理由についての判断
ア.理由1について
(ア)本件訂正が認められたことにより、本件請求項1は「前記微細繊維の繊維幅が2nm以上50nm以下、微細繊維の長さが0.2μm以上50μm以下である微細繊維(B-1)を微細繊維層に含み、」という記載を含むこととなった。
したがって、本件請求項1において、「微細繊維」は、具体的な大きさのものを含むことが特定されたものとして、明確に把握し得るものとなった。

(イ)本件請求項1には「前記微細繊維層の隣接する層中への浸透深さ」と記載されているから、その記載のとおりに、「浸透深さ」とは「微細繊維層」が「隣接する層」の中に浸透する深さのことを指すものと理解できる。
そして、同請求項1の「基材の少なくとも一方の面に、微細繊維を含む微細繊維層が形成されたシート材」という記載から、「微細繊維層」に「隣接する層」とは、「基材」であるということ、及び、「微細繊維層」が「微細繊維」を含むものであるということが、理解できる。
さらに、同請求項1には「前記基材が紙により構成され、」という記載も存在するから、「基材」が「紙により構成され」るものであると、理解できる。
以上の事実を総合すると、「浸透深さ」とは、微細繊維が紙により構成された基材の中に浸透する深さのことを指すものと把握できる。
そして、微細繊維の大きさを考慮すると、紙の表面には無視できない大きさの凹凸が存在するものの、「浸透深さ」は、その凹凸を有する紙の表面に微細繊維が入り込んだ部分の、微細繊維層との界面からの深さを指すものと、把握することができる。

また、同請求項1には「浸透深さが0.01μm以上0.02μm以下である」とも記載されている。
この点、本件明細書の段落【0066】には、浸透深さを「顕微FT-IR」で測定することが記載されているが、「顕微FT-IR」が顕微赤外分光法であることと、赤外領域の波長が800nm(0.8μm)よりも大きいことを考慮すると、「顕微FT-IR」では、「0.01μm以上0.02μm以下」の「浸透深さ」を測定することは不可能であるようにも思われる。
しかしながら、紙に浸透した磁性材料の位置をSEMで測定する技術や、紙に浸透したインキをFIBで分析する技術等、種々の測定方法が本件特許出願前から知られている。
したがって、明細書に記載された測定方法によっては測定可能かどうか明らかでないことのみをもって、「浸透深さが0.01μm以上0.02μm以下である」という記載が明確でないとは必ずしもいえない。

以上より、「浸透深さ」という記載は不明確であるとまではいえない。

(ウ)上記(ア)及び(イ)より、本件特許の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

イ.理由2について
(ア)本件請求項3には「前記微細繊維の繊維幅が50nm以上200nm以下、微細繊維の長さが50μm以上500μm以下である微細繊維(B-2)を微細繊維層に含む」と記載されている。
当該記載によれば、微細繊維(B-2)は最も大きな場合、繊維幅が200nmで長さが500μmであるということになる。

これに対して、本件明細書には、以下のような記載が存在する。

a.「【0055】
(3)TEMPO酸化セルロースの分散処理-1
得られたTEMPO酸化セルロースをイオン交換水中で所定濃度となるように調整し、ミキサー(大阪ケミカル、アブソルートミル、14,000rpm)を用いて30分間撹拌し、微細化することにより透明なセルロースナノファイバー水分散体(固形分濃度2質量%)を得た(微細繊維B-1)。同様にして、ミキサーの分散条件を7000rpmにて2分間攪拌したものを微細繊維B-2とした。微細繊維B-1およびB-2を固形分濃度0.0001質量%に希釈し、マイカ上に少量展開して乾燥させAFM観察したところ、10本平均の繊維幅及び繊維長はそれぞれB-1:4nm、1.0μm、B-2:150nm、80μmであった。」

b.「【0059】
(実施例1)
基材A-1にコーターバーにより微細繊維B-1の水分散液を塗工し、乾燥炉にて120℃で20分間乾燥することにより、固形分重量換算で1.5g/m2の微細繊維層を形成し、シート材を得た。
【0060】
(実施例2)
微細繊維B-1とB-2の固形分重量が等量になるように水分散液を調製し、基材A-1に塗工し、実施例1と同様にしてシート材を得た。」

c.「【0067】
【表1】



d.「【0069】
酸素透過度、水蒸気透過度、密着強度の評価結果を表1?2に示す。表1に示すように、実施例1、2の微細繊維を用いることにより、基材への微細繊維の浸透を抑制しつつ良好な酸素バリア性および水蒸気バリア性を得られることが分かった。また、表2に示すように、基材が表面平滑性の低い紙であっても酸素バリア性は良好な上、大きな密着強度が得られることが分かった。」

上記a.の記載より、微細繊維B-2の大きさ(10本平均)は、繊維幅が150nmで長さが80μmであると把握できる。
上記b.の記載より、「実施例2」において、当該微細繊維B-2が使用されていると把握できる。
上記c.の記載より、「実施例2」では、浸透深さ0.01μmを達成している。
上記c.及びd.の記載より、「実施例2」では、基材への微細繊維の浸透を抑制しつつ良好な酸素バリア性および水蒸気バリア性が得られている。

以上の記載を総合すると、本件特許の発明の詳細な説明には、「実施例2」として、10本平均の繊維幅が150nmで長さが80μmである微細繊維B-2を使用して、浸透深さ0.01μmを達成し、しかも良好な酸素バリア性および水蒸気バリア性を得る方法が記載されているといえる。
そして、当該「実施例2」の微細繊維B-2と比べて、繊維幅が約1.33倍で長さが6.25倍である、繊維幅が200nmで長さが500μmの繊維について、0.01μm以上0.02μm以下の浸透深さを実現し、しかも良好な酸素バリア性および水蒸気バリア性を得るということが当業者にとって不可能であると考える特段の事情はない。

したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が請求項3に係る発明及び請求項3を引用する請求項4?10に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。

(イ)本件訂正が認められたことにより請求項2は削除されたが、請求項1が本件訂正前の請求項2の発明特定事項を実質的に含むこととなったため、本件特許の発明の詳細な説明が、当業者が請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項3?10に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるかを検討する。一方、請求項2に対する理由は、理由がないものとなった。
本件請求項1には「前記微細繊維の繊維幅が2nm以上50nm以下、微細繊維の長さが0.2μm以上50μm以下である微細繊維(B-1)を微細繊維層に含み、」と記載されている。
当該記載によれば、微細繊維(B-1)は最も小さな場合、繊維幅が2nmで長さが0.2μmであるということになる。

これに対して、本件明細書には、上記(ア)a.?d.で摘記したとおりの記載が存在する。
上記a.の記載より、セルロース由来の微細繊維B-1の大きさ(10本平均)は、繊維幅が4nmで長さが1.0μmであると把握できる。
上記b.の記載より、「実施例1」において、当該微細繊維B-1が使用されていると把握できる。
上記c.の記載より、「実施例1」では、浸透深さ0.02μmを達成している。
上記c.及びd.の記載より、「実施例1」では、基材への微細繊維の浸透を抑制しつつ良好な酸素バリア性および水蒸気バリア性が得られている。

以上の記載を総合すると、本件特許の発明の詳細な説明には、「実施例1」として、セルロース由来で10本平均の繊維幅が4nmで長さが1.0μmである微細繊維B-1を使用して、浸透深さ0.02μmを達成し、しかも良好な酸素バリア性および水蒸気バリア性を得る方法が記載されているといえる。

そして、セルロース以外の原料からはこのような大きさの微細繊維を得ることができないという特段の事情や、セルロース以外の原料に由来する微細繊維を用いることでは良好な酸素バリア性や水蒸気バリア性を得ることができないという特段の事情はない。
よって、セルロース以外の原料に由来し、繊維幅が2nmで長さが0.2μmである微細繊維を用いることで、0.01μm以上0.02μm以下の浸透深さを実現し、良好な酸素バリア性や水蒸気バリア性を得ることが不可能であるとまではいえない。

したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項3?10に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。

(ウ)上記(ア)及び(イ)より、本件特許の発明の詳細な説明が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

ウ.小括
以上のとおり、本件発明1、3?10に係る特許は、特許法第36条第6項第2号及び同法同条第4項第1号の規定に違反してなされたものではないから、同法第113条第4号に該当せず、取り消されるべきものではない。

4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明1、3ないし10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1、3ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

そして、本件特許の請求項2は、本件訂正により削除されたため、本件特許の請求項2についての特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなった。
よって、本件特許の請求項2についての特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8で準用する同法135条の規定により、却下すべきものである。
したがって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一方の面に、微細繊維を含む微細繊維層が形成されたシート材であり、
前記基材が紙により構成され、
前記微細繊維の繊維幅が2nm以上50nm以下、微細繊維の長さが0.2μm以上50μm以下である微細繊維(B-1)を前記微細繊維層に含み、
前記微細繊維層の隣接する層中への浸透深さが0.01μm以上0.02μm以下であることを特徴とするシート材。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
請求項1に記載のシート材であり、前記微細繊維の繊維幅が50nm以上200nm以下、微細繊維の長さが50μm以上500μm以下である微細繊維(B-2)を微細繊維層に含むことを特徴とするシート材。
【請求項4】
請求項1に記載のシート材であり、前記微細繊維層が前記微細繊維(B-1)と前記微細繊維(B-2)の両方を含むことを特徴とするシート材。
【請求項5】
請求項1、3乃至4のいずれか1項に記載のシート材であり、前記微細繊維層が微細繊維を含む微細繊維分散液をコーティングして形成されることを特徴とするシート材。
【請求項6】
請求項5に記載のシート材であり、前記微細繊維分散液の分散媒が水を含むことを特徴とするシート材。
【請求項7】
請求項5または6に記載のシート材であり、前記微細繊維層が微細繊維を含む微細繊維分散液をコーティングして形成する際、コーティングの塗工量が固形分重量換算で0.3g/m^(2)以上15g/m^(2)以下であることを特徴とするシート材。
【請求項8】
請求項1、3乃至7のいずれか1項に記載のシート材であり、前記微細繊維層がセルロース繊維を含むことを特徴とするシート材。
【請求項9】
請求項1、3乃至8のいずれか1項に記載のシート材であり、前記基材の少なくとも一方の面に形成された微細繊維層の膜厚が0.2μm以上10μm以下であることを特徴とするシート材。
【請求項10】
請求項1、3乃至9のいずれか1項に記載のシート材を用いたことを特徴とするバリア性包装容器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-11-08 
出願番号 特願2013-154572(P2013-154572)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (B32B)
P 1 651・ 537- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 近野 光知久保田 葵増田 亮子  
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 竹下 晋司
千壽 哲郎
登録日 2017-07-14 
登録番号 特許第6171674号(P6171674)
権利者 凸版印刷株式会社
発明の名称 シート材及びバリア性包装容器  
代理人 清水 雄一郎  
代理人 大槻 真紀子  
代理人 大槻 真紀子  
代理人 松沼 泰史  
代理人 高橋 詔男  
代理人 志賀 正武  
代理人 高橋 詔男  
代理人 伏見 俊介  
代理人 鈴木 史朗  
代理人 志賀 正武  
代理人 清水 雄一郎  
代理人 松沼 泰史  
代理人 鈴木 史朗  
代理人 伏見 俊介  

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