ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01L 審判 全部申し立て 2項進歩性 H01L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01L |
---|---|
管理番号 | 1347650 |
異議申立番号 | 異議2018-700298 |
総通号数 | 230 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-02-22 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-04-11 |
確定日 | 2018-11-22 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6210039号発明「付着物の除去方法及びドライエッチング方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6210039号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-8〕,〔9-13〕について訂正することを認める。 特許第6210039号の請求項1,3ないし8,9,11ないし13に係る特許を維持する。 特許第6210039号の請求項2及び10に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6210039号の請求項1ないし13に係る特許(以下,「本件特許」という。)についての出願は,平成26年9月24日に出願され,平成29年9月22日にその特許権の設定登録がされ,同年10月11日に特許掲載公報が発行された。その後,平成30年4月11日に特許異議申立人山田慧(以下,「異議申立人」という。)により,その請求項1ないし13に係る特許について,特許異議の申立てがされ,当審は,同年6月13日付けで取消理由を通知した。そして,特許権者は,その指定期間内である同年8月9日に意見書の提出及び訂正(以下,「本件訂正」という。)の請求(以下,「本件訂正請求」という。)を行い,これに対して,異議申立人は,同年9月20日に意見書を提出した。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は,以下のとおりである(下線は,訂正箇所を示す。)。 なお,訂正事項1ないし6は,訂正前に引用関係を有する請求項1ないし8に対し,また,訂正事項7ないし10は,訂正前に引用関係を有する請求項9ないし13に対して請求されたものであるから,本件訂正請求は,一群の請求項ごとに請求されている。 (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に記載された「ヨウ素酸化物を含む付着物を,フッ素含有ガスを含むクリーニングガスを用いて除去する」を「ヨウ素酸化物を含む付着物を,プラズマを発生させずにフッ素含有ガスを含むクリーニングガスを前記付着物と接触させて除去する」に訂正する。 (2) 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3) 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に記載された「前記温度領域が25?200℃であることを特徴とする請求項2に記載の」を「前記クリーニングガスを,25?200℃の温度領域かつ66Pa?101kPaの圧力領域で前記付着物と接触させることを特徴とする請求項1に記載の」に訂正する。 (4) 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に記載された「前記温度領域が120?200℃であることを特徴とする請求項2に記載の」を「前記クリーニングガスを,120?200℃の温度領域かつ66Pa?101kPaの圧力領域で前記付着物と接触させることを特徴とする請求項1に記載の」に訂正する。 (5) 訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に記載された「前記温度領域が230?300℃であることを特徴とする請求項2に記載の」を「前記クリーニングガスを,230?300℃の温度領域かつ66Pa?101kPaの圧力領域で前記付着物と接触させることを特徴とする請求項1に記載の」に訂正する。 (6) 訂正事項6 特許請求の範囲の請求項7に記載された「請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の」を「請求項1及び請求項3乃至請求項6のいずれか1項に記載の」に訂正する。 (7) 訂正事項7 特許請求の範囲の請求項9に記載された「基板表面をエッチングする工程」を「基板表面を,プラズマを発生させずにエッチングする工程」に訂正する。 (8) 訂正事項8 特許請求の範囲の請求項9に記載された「ヨウ素酸化物を含む付着物を,フッ素含有ガスを含むクリーニングガスを用いて除去する工程」を「ヨウ素酸化物を含む付着物を,プラズマを発生させずにフッ素含有ガスを含むクリーニングガスを前記付着物と接触させて除去する工程」に訂正する。 (9) 訂正事項9 特許請求の範囲の請求項10を削除する。 (10) 訂正事項10 特許請求の範囲の請求項11に記載された「請求項9または請求項10に記載の」を「請求項9に記載の」に訂正する。 2 訂正の目的の適否,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1) 訂正事項1について ア 訂正の目的 訂正事項1は,訂正前の請求項1の「ヨウ素酸化物を含む付着物を,フッ素含有ガスを含むクリーニングガスを用いて除去する」ことについて,「プラズマを発生させずに」及び「前記付着物と接触させて」という事項を付加することによって,より具体的に特定し,限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 本件特許の明細書(以下,「本件特許明細書」という。)には,「・・・クリーニングガスを20?300℃の温度領域かつ66Pa?101kPaの圧力領域でヨウ素酸化物と接触させることが好ましい。このようなクリーニング条件において,チャンバー内部,及び排気配管の付着物のヨウ素酸化物に対して,フッ素含有ガスを作用させることで,チャンバー内部,及び排気配管のヨウ素酸化物とフッ素含有ガスが反応し,チャンバー内部,及び排気配管の付着物を効率的に除去することができる。」(【0070】)と記載されているように,付着物の除去は,「クリーニングガス」と,付着物である「ヨウ素酸化物」とを接触させることで行われることが記載されている(下線は,当審で加筆。以下,同様。)。 また,本件特許明細書には,プラズマを発生させて,付着物の除去を行う実施形態は,一切記載されていないから,「プラズマを発生させずに」付着物の除去を行うものであると認められるところ,本件特許明細書には,以下の記載もある。 「【0145】 <本発明における効果> ・・・ 【0146】 また,NANDフラシュメモリなどの3D構造のデバイスの製造において,従来のプラズマを用いた反応性イオンエッチングでは,ポリシリコン(Poly-Si)膜をポリシリコン以外の膜(例えば,シリコン酸化(SiO_(2))膜,シリコン窒化(SiN)膜,シリコン酸窒化(SiON)膜,カーボン(C)膜等)に対して高選択に除去することは困難であった。つまり,ポリシリコン(Poly-Si)膜とシリコン酸化(SiO_(2))膜の積層構造で貫通溝をくり抜いた後に側壁に露出したポリシリコン(Poly-Si)膜とシリコン酸化(SiO_(2))膜の層のうち,ポリシリコン(Poly-Si)膜のみをエッチングすることは,従来のプラズマを用いた反応性イオンエッチングでは,ポリシリコン以外の膜との選択性の問題や,等方性エッチングが必要になる点から非常に困難であった。また,ハードマスク膜(例えば,カーボン膜等)との選択性の問題もあった。このようなパターンの微細化に伴うデバイス構造の煩雑化に対応が困難であった。この問題を解決する手段として,本発明におけるエッチングガスによって,プラズマレスで等方性エッチングにより,シリコンの除去を行うドライエッチングによれば,今後のパターンの微細化にも適用できる。特に,エッチングガスとして七フッ化ヨウ素を含むヨウ素含有ガスを用いることにより,既存のエッチングガスと比較して,その化学的性質からシリコン以外の膜との選択性良く,シリコンの除去を行うことができる。従い,今後のパターンの微細化に伴うデバイス構造の煩雑化に適用できる。」 本件特許明細書の当該記載によれば,従来のプラズマを用いた反応性イオンエッチングでは,種々の問題があったため,本件特許明細書に記載された実施形態では,これらの問題点を解決するために,プラズマレスの等方性エッチングを採用したことが理解できる。 そうすると,本件特許明細書に記載された実施形態における基板表面のエッチングは,プラズマを用いるものが排除され,プラズマを発生させずに行われているといえるから,その結果,チャンバーに付着する付着物の除去についても,「プラズマを発生させずに」行われていると解するのが自然である。 したがって,訂正事項1は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと 訂正事項1は,前記アのとおりであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではない。 (2) 訂正事項2について ア 訂正の目的 訂正事項2は,請求項2を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項2は,前記アのとおりであるから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと 訂正事項2は,前記アのとおりであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではない。 (3) 訂正事項3について ア 訂正の目的 訂正事項3は,訂正前の請求項3が請求項2の記載を引用する記載であるところ,請求項間の引用関係を解消し,請求項2を引用しないものとし,請求項2に記載されていた発明特定事項を請求項3に追加した上で,請求項1を引用するようにしたものであり,他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。 イ 願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項3は,前記アのとおりであるから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと 訂正事項3は,前記アのとおりであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではない。 (4) 訂正事項4について ア 訂正の目的 訂正事項4は,訂正前の請求項4が請求項2の記載を引用する記載であるところ,請求項間の引用関係を解消し,請求項2を引用しないものとし,請求項2に記載されていた発明特定事項を請求項4に追加した上で,請求項1を引用するようにしたものであり,他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。 イ 願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項4は,前記アのとおりであるから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと 訂正事項4は,前記アのとおりであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではない。 (5) 訂正事項5について ア 訂正の目的 訂正事項5は,訂正前の請求項5が請求項2の記載を引用する記載であるところ,請求項間の引用関係を解消し,請求項2を引用しないものとし,請求項2に記載されていた発明特定事項を請求項5に追加した上で,請求項1を引用するようにしたものであり,他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。 イ 願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項5は,前記アのとおりであるから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと 訂正事項5は,前記アのとおりであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではない。 (6) 訂正事項6について ア 訂正の目的 訂正事項6は,請求項1ないし6を引用する請求項7のうち,請求項2を引用する請求項7を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項6は,前記アのとおりであるから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと 訂正事項6は,前記アのとおりであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではない。 (7) 訂正事項7について ア 訂正の目的 訂正事項7は,訂正前の請求項9の「基板表面をエッチングする工程」について,「プラズマを発生させずに」という事項を付加することによって,より具体的に特定し,限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項7は,前記アのとおりであるところ,「基板表面を,プラズマを発生させずにエッチングする」という事項が,本件特許明細書に記載されていることは,前記(1)イのとおりである。 したがって,訂正事項7は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと 訂正事項7は,前記アのとおりであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではない。 (8) 訂正事項8について ア 訂正の目的 訂正事項8は,訂正前の請求項9の「ヨウ素酸化物を含む付着物を,フッ素含有ガスを含むクリーニングガスを用いて除去する」ことについて,「プラズマを発生させずに」及び「前記付着物と接触させて」という事項を付加することによって,より具体的に特定し,限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項8は,前記アのとおりであるところ,「プラズマを発生させずに」及び「前記付着物と接触させて」という事項が,本件特許明細書に記載されていることは,前記(1)イのとおりである。 したがって,訂正事項8は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと 訂正事項8は,前記アのとおりであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではない。 (9) 訂正事項9について ア 訂正の目的 訂正事項9は,請求項10を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項9は,前記アのとおりであるから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと 訂正事項9は,前記アのとおりであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではない。 (10) 訂正事項10について ア 訂正の目的 訂正事項10は,請求項9及び10を引用する請求項11のうち,請求項10を引用する請求項11を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項10は,前記アのとおりであるから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと 訂正事項10は,前記アのとおりであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではない。 3 小括 以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって,特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-8〕,〔9-13〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1ないし13に係る発明(以下,「本件発明1」,「本件発明2」などという。)は,訂正特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 本件発明1 「チャンバーを構成する部材または前記チャンバーに接続された配管の表面に付着している,ヨウ素酸化物を含む付着物を,プラズマを発生させずにフッ素含有ガスを含むクリーニングガスを前記付着物と接触させて除去する付着物の除去方法。」 本件発明2 「(削除)」 本件発明3 「前記クリーニングガスに含まれるフッ素含有ガスがClF_(3)であり, 前記クリーニングガスを,25?200℃の温度領域かつ66Pa?101kPaの圧力領域で前記付着物と接触させることを特徴とする請求項1に記載の付着物の除去方法。」 本件発明4 「前記クリーニングガスに含まれるフッ素含有ガスがF_(2)であり, 前記クリーニングガスを,120?200℃の温度領域かつ66Pa?101kPaの圧力領域で前記付着物と接触させることを特徴とする請求項1に記載の付着物の除去方法。」 本件発明5 「前記クリーニングガスに含まれるフッ素含有ガスがIF_(7)であり, 前記クリーニングガスを,230?300℃の温度領域かつ66Pa?101kPaの圧力領域で前記付着物と接触させることを特徴とする請求項1に記載の付着物の除去方法。」 本件発明6 「前記クリーニングガスに含まれるフッ素含有ガスは,HF,F_(2),XF_(n)(XはCl,Br,Iのいずれかを表し,nは1?7の整数を表す。)からなる群より選ばれる少なくとも一つのフッ素(F)を含むフッ素含有ガスであることを特徴とする請求項1に記載の付着物の除去方法。」 本件発明7 「前記付着物中に含まれる前記ヨウ素酸化物は,化学式:[I_(x)O_(y)F_(z)(xは1または2の整数を表し,yは1?5の整数を表し,zは0または1の整数を表す。)]で表されることを特徴とする請求項1及び請求項3乃至請求項6のいずれか1項に記載の付着物の除去方法。」 本件発明8 「前記ヨウ素酸化物が,I_(2)O_(5)であることを特徴とする,請求項7に記載の付着物の除去方法。」 本件発明9 「チャンバー内にヨウ素含有ガスを含むエッチングガスを供給して基板表面を,プラズマを発生させずにエッチングする工程と, 前記基板表面をエッチングした後,前記チャンバーを構成する部材または前記チャンバーに接続された配管の表面に付着したヨウ素酸化物を含む付着物を,プラズマを発生させずにフッ素含有ガスを含むクリーニングガスを前記付着物と接触させて除去する工程と,を含むドライエッチング方法。」 本件発明10 「(削除)」 本件発明11 「前記クリーニングガスに含まれるフッ素含有ガスは,HF,F_(2),XF_(n)(XはCl,Br,Iのいずれかを表し,nは1?7の整数を表す。)からなる群より選ばれる少なくとも一つのフッ素(F)を含むフッ素含有ガスであることを特徴とする請求項9に記載のドライエッチング方法。」 本件発明12 「前記クリーニングガスに含まれるフッ素含有ガスは,ClF_(3)である請求項11に記載のドライエッチング方法。」 本件発明13 「前記付着物中に含まれる前記ヨウ素酸化物は,化学式:[I_(x)O_(y)F_(z)(xは1または2の整数を表し,yは1?5の整数を表し,zは0または1の整数を表す。)]で表されることを特徴とする請求項9に記載のドライエッチング方法。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 訂正前の請求項1ないし13に係る特許に対して,当審が平成30年6月13日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は,次のとおりである。 (1) 請求項1,6ないし9,11ないし13に係る発明は,刊行物1に記載された発明である(なお,取消理由通知では,刊行物1に記載された発明を認定する際に,刊行物2ないし4の記載を参酌している。)。よって,請求項1,6ないし9,11ないし13に係る特許は,特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり,取り消されるべきものである。 (2) 請求項2ないし5及び10に係る発明は,刊行物1に記載された発明及び刊行物1,5及び6に記載された事項に基づいて,当業者が容易に想到することができたものである。よって,請求項2ないし5及び10に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり,取り消されるべきものである。 (3) 請求項2及び10に係る特許は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,取り消されるべきものである。 2 刊行物,刊行物に記載された発明等 (1) 刊行物1(特開2000-58515号公報)について ア 刊行物1の記載事項 刊行物1には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は,当審で加筆。以下,同様。)。 (ア) 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 フォトレジスト膜をマスクとして,圧力0.1Pa?50Paの範囲にてヨウ化水素を含むガスを用いて形成したプラズマにて金属酸化物のドライエッチングを行った後に,圧力0.1?1000Paの範囲にて酸素を含むガスを用いて形成したプラズマにてフォトレジスト膜の除去を行うことにより,金属酸化物の回路パターニング加工を行う金属酸化物/フォトレジスト膜積層体のドライエッチングを行う方法において,フッ素ガスおよびフッ素系化合物ガスからなる群と,窒素ガスおよび窒素系化合物ガスからなる群の中から選んだ少なくとも一種のガスをヨウ化水素と混合したヨウ化水素を含むガスを用いて金属酸化物をドライエッチングすることを特徴とする金属酸化物/フォトレジスト膜積層体のドライエッチング方法。 ・・・ 【請求項4】 請求項1に記載のヨウ化水素を含むガスを用いて金属酸化物のドライエッチングを行った後に,圧力0.1?1000Paの範囲にて酸素を含むガスを用いて形成したプラズマにてフォトレジスト膜の除去を行う金属酸化物/フォトレジスト膜積層体のドライエッチング方法において,フッ素ガスおよびフッ素系化合物ガスからなる群と,窒素ガスおよび窒素系化合物ガスからなる群の中から選んだ少なくとも一種のガスを酸素ガスと混合した酸素を含むガスを用いてフォトレジストのドライエッチング除去を行うことを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物/フォトレジスト膜積層体のドライエッチング方法。」 (イ) 「【0002】 【従来の技術】・・・ 【0007】ドライエッチングに用いられるガスとしては,メタン(CH_(4))と水素(H_(2))の混合ガス,塩素(Cl_(2))ガス,臭化水素(HBr)ガス等がある。しかし,これらのガスを用いる方法では,そのエッチング能力が装置に依存する可能性が高く,良好なエッチング特性を得られる範囲が狭いこと,またエッチング速度が低いことなどの問題がある。また,基板上に残る残渣物質の問題もある。残渣物質が特に問題となるのは,メタンと水素の混合ガスを用いる場合,あるいはメタンとアルゴンガスを用いる場合である。このメタンガス系を使用した場合においては,ITOのドライエッチングに際しての保護膜として用いるレジストが,不揮発性の物質となり周囲に散乱し,残渣物質として問題となる。これに対して,ヨウ化水素ガスを用いたエッチング方法は,装置依存性が小さいこと,エッチング速度が先にあげたガス系に比較して早いことなどの特徴がある。さらに,少なくとも,基板上に残渣物質を残さないという特徴があり,現在ではヨウ化水素ガスを用いたエッチング方法が主流になりつつある。 【0008】・・・しかしながら,ヨウ化水素ガスを用いたドライエッチングを行うと,黄色や白色の不揮発性物質が装置の内壁に付着し始め,ついにはエッチング自体を阻害するようになる。そのため,ある回数のエッチングを実施した後にチャンバーを開放し,中に付着した黄色や白色の不揮発性物質を,アルコール系の揮発性薬剤を用いて拭きとっている。」 (ウ) 「【0012】 【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,ヨウ化水素ガスを用いた金属酸化物のドライエッチングを良好に行わしめるために,ドライエッチングの際に発生する不揮発性物質を発生させることなくエッチングを行い,かつフォトレジストの除去を容易にする方法を提供することにある。」 (エ) 「【0028】これは,フォトレジスト自身をヨウ化水素のプラズマによりエッチングすることができない上に,ヨウ化水素中のヨウ素が,フォトレジストの上に固着した結果,耐プラズマ特性を有するに至ったものと考えられる。また,ヨウ素自身がフォトレジスト中に取り込まれることも考えられる。すなわち,ヨウ素がフォトレジスト上に固着している場合,ヨウ素自身がプラズマにより酸素と結合した物質等を形成し,揮発しにくい部分がフォトレジスト上に形成され,エッチングが阻害されると考えられる。また,ヨウ素がフォトレジストに取り込まれる場合については,ヨウ素自体が高分子鎖の中でバインダーのような機能を示し,フォトレジストが耐プラズマ特性を有するに至ったものと推定することができる。これは,酸素は高分子を構成する炭素や水素と反応し,その構成分子を酸化することにより揮発性の二酸化炭素や水等を形成するが,ヨウ素と反応した場合に形成されると考えられるヨウ化酸素系の化合物は揮発性の小さい物質であるため,酸素によるエッチングが有効でなくなるためであると考えられる。 ・・・ 【0030】ところで,ヨウ化水素を用いて金属酸化物のエッチングを繰り返し実施すると,装置内の内壁,ヴィーイングポート等に黄色や白色の残渣物質が付着してくる。さらに,この付着物が堆積してくると,エッチング速度の低下が生じ,ついにはエッチングが進行しなくなってしまう。そのため,この残渣物質の発生を確認した時点で,操作を停止し,装置を大気開放して,装置内に付着している残渣物をアルコール系の揮発性の薬剤にて拭き取る作業が必要になる。 ・・・ 【0033】ヨウ化水素を用いたITOのエッチングの際に,発生する不揮発性物質は,装置内の特定の箇所に集中している。これは図1において示されているとおりである。プラズマの発生部の周辺部分にそって多く発生していることが認められる。逆に,プラズマに曝される箇所では不揮発性物質は発生していないことから,不揮発性物質は至るところに発生する可能性を有しているが,たとえばプラズマに曝される箇所において不揮発性物質が付着した場合には,プラズマ内の電子やイオンのエネルギーを受けて再揮発してしまい,付着が防止されていると考えられる。 ・・・ 【0037】その理由として,ヨウ化水素を用いたITOのドライエッチングにおいて次のような機構が考えられる。すなわち,ドライエッチング自身は,ITOとヨウ化水素によるプラズマを利用した化学反応であり,従って,このエッチングの化学式は次のようになる。 In_(2)O_(3) + 6HI → 2InI_(3) + 3H_(2)O ・・・ 【0041】プラズマ中においては,ヨウ化水素が解離したヨウ素ラジカルやまた解離後形成されたヨウ素分子,さらにH_(2)O等も存在し,またInI_(3)自体もプラズマのエネルギーを受けている。具体的には電子やイオンの衝突,あるいはラジカルとの衝突を経ている。InI_(3)はプラズマ中においては多くのエネルギーを吸収することが可能であるため揮発性を失うことはない。しかし,プラズマから少しでも離れると,H_(2)O,ヨウ素分子及びヨウ素系のイオンやラジカルなどの物質と分子間力に基づく会合状態を形成し,さらに大きな分子化合物となり,揮発性を失い不揮発性物質として装置内壁に付着するものと考えられる。」 (オ) 「【0053】以下,本発明のエッチング法について,本発明に用いた装置をも含めて具体的に説明する。エッチングに用いる装置を図1に示した。本発明で用いる装置は,ロードロック方式であり,ローディング室21からの基板の出し入れにより,エッチング室本体11を大気に曝すことなくエッチングを進行させることができる。基板51は,カソード電極61上に設置される。図1はRIEという高周波平行平板容量結合型放電電極を用いて行うための装置であるが,本発明はこの装置に限定されるものではない。図1中に,本発明によらない方法でITOのドライエッチングを行った場合に生じる不揮発性物質の付着しやすい場所を,点線で囲って示してある。」 (カ) 「【0081】フッ素ガスおよびフッ素系化合物ガスからなる群と窒素ガスおよび窒素系化合物ガスからなる群のなかから選んだすくなくとも1種のガスを,ヨウ化水素に混合して第1の反応性ガスとして金属酸化物の第1のドライエッチング工程に使用することによって,不揮発性物質の発生を極力低下させることを可能とした後に,同じくフッ素ガスおよびフッ素系化合物ガスからなる群と窒素ガスおよび窒素系化合物ガスからなる群のなかから選んだすくなくとも1種のガスをを酸素ガスに混合して第2の反応性ガスとして,フォトレジスト膜を除去する第2のドライエッチング工程に使用するというのが本発明の1つである。 ・・・ 【0090】本発明の反応性ガスとして好適なガスは,フッ素・窒素系化合物ガスとして,三フッ化窒素がある。フッ素系ガスとしては,フッ素,三フッ化塩素,六フッ化硫黄,六フッ化エタン,八フッ化四炭素等がある。窒素系ガスとしては窒素,アンモニア,ヒドラジン,一酸化二窒素,酸化窒素等がある。」 (キ) 「【0092】以上開示してきた方法により,金属酸化物/フォトレジスト膜積層体のドライエッチングにおいて,金属酸化物のエッチングの進行を妨げることなく,不揮発性物質の発生を十分に抑制することができる。しかし,用いる第1の反応性ガスは,不揮発性物質の発生抑制に効果がある一方で,金属酸化物のドライエッチングの進行を抑制する効果があるため,適切な範囲での運転が必要になってくる。この方法を用いても完全に不揮発性物質の発生を抑制した上で,ドライエッチングを運転し続けることは困難である。僅かながらでもチャンバー内壁に不揮発性物質が付着する結果となってしまう。そして,長時間に渡り運転を継続する中で,これらの不揮発性物質を除去する必要が生じるのである。 【0093】そこで,本発明者らは,ドライエッチング対象となっている金属酸化物/フォトレジスト膜積層体をチャンバーから取り去った後で,不揮発性物質を簡便に除去しうるための方法として,第3の反応性ガスをドライエッチングの装置に供給するとともに,プラズマを生起せしめて,不揮発性物質を除去する方法を開発した。これは,フッ素・窒素系化合物ガス,もしくはフッ素系ガスと窒素系ガスが任意の体積割合で混合されたガスよりなることを特徴とする,第3の反応性ガスをチャンバー内の不揮発性物質の除去のためのクリーニングガスとして使用する。 【0094】例えば,フッ素・窒素系化合物ガスとして,三フッ化窒素ガスを用いた不揮発性物質の除去を試みた場合,極めて良好なクリーニング効果を確認することができた。三フッ化窒素ガスを用いた場合,2時間のヨウ化水素ガスを用いてのITOのドライエッチングの後に,三フッ化窒素ガスを用いた場合には2時間後にほとんど不揮発性物質を残していない状態にまで除去することができた。 【0095】第3の反応性ガスとして選択すべきものは,フッ素系ガスを単独に用いることも,また窒素系ガスを単独に用いることもできる。しかし,フッ素系ガスを単独に,あるいは窒素系ガスを単独に用いるよりも,両者を混合して用いる方が不揮発性物質の除去という点においてより効果的である。 【0096】不揮発性物質を付着させるためのテストピース上の付着物の組成分析を行うことにより,不揮発性物質の除去の程度を確認することができる。例えば,SUS製の板をドライエッチング室に設置したのちに,ITOを電極上に設置した状態で,ヨウ化水素ガスを用いたプラズマを形成することにより発生した不揮発性物質を集める。集めた不揮発性物質の組成をAES(オージェ電子分光分析法)およびICP(誘導結合プラズマ)発光分析法により決定することができる。続いて,発生させた不揮発性物質をそのままドライエッチング室においたままの状態で,第3の反応性ガスによるプラズマを形成したのちにテストピース上の付着物の組成を確認することにより,不揮発性物質の変化を確認することができる。不揮発性物質そのものの組成は,In(インジウム)とI(ヨウ素),そしてSi(シリコン)を主体とするものであった。シリコンについては,ドライエッチング室内においてシリコン系のガスを多量に用いた経緯があり,そのために検出されたものであるが,本発明においては関係がない。 【0097】この不揮発性物質を第3の反応性ガスである三フッ化窒素ガスからなるプラズマに曝すことにより,不揮発性物質の付着量は大きく低減させることができた。組成については,特にIn,I等を大幅に低減させることができた。またITOの中に含まれているSn(錫)も大きく低減させることができた。しかし,酸素や炭素についてはその組成は変化が見られなかった。一方,三フッ化窒素ガスの影響だと思われるフッ素のピークが検出された。同様の傾向は,フッ素ガス,三フッ化塩素ガスを用いた場合にも確認することができた。 ・・・ 【0100】反応性ガスから反応性ラジカルを製造する機能を,エッチングを行うためプラズマを発生させる機構と同一の装置を用いて行う。新たに,反応性ラジカルを製造する機能をもつ設備を設けることは,既存の装置に負担を強いることになり,好ましい方法ではない。現状の装置に対して,ガスを加えることによって達成できることが本発明の特徴である。」 (ク) 「【0135】実施例7 第3の反応性ガスを用いて,発生している不揮発性物質の除去の効果を確認するための試験を行った。試験方法は,比較例3と同じである。選択された反応性ガスは,三フッ化窒素ガス,フッ素ガス,三フッ化塩素ガスであり,また六フッ化硫黄ガスについても試験を行った。なお,下記のクリーニング条件においては,三フッ化窒素ガスを用いた場合のみを示すが,他のガスについてもその条件はガスが異なるだけで,同じである。ただ,三フッ化塩素を用いた場合のみ,チャンバーの壁温度を120℃にした。 クリーニング条件: 基板設置 印加電極側 周波数 13.56MHz RF電力 200W 電極面積 78.5W 装置内圧力 27Pa ガス流量 三フッ化窒素ガス 10sccm エッチング時間 2時間 壁温度 初期において室温 ・・・」 イ 刊行物1に記載された発明 上記アによれば,刊行物1には,次の発明が記載されていると認められる。 「チャンバー内壁に付着している不揮発性物質を,三フッ化塩素ガスやフッ素ガス等のクリーニングガスをチャンバーに供給するとともに,プラズマを生起せしめることによって,除去する不揮発性物質の除去方法。」 (2) 刊行物2(Journal of Nuclear Materials,130(1985),p280-286)について 刊行物2(280頁第1行,同頁式(3)及び(4))には,ヨウ素分子と水分子の反応によって,ヨウ素酸イオンが生成されることが記載されていると認められる。 (3) 刊行物3(J.Electrochem.Soc.,Vol.136,No.6(1989),p1839-1840)について 刊行物3(1839頁左欄の下から3行ないし同頁右欄5行)には,ヨウ化水素を用いるITOのエッチングでは,プラズマ雰囲気下でエッチャント種である水素イオンが生成されることが記載されていると認められる。 (4) 刊行物4(米国特許第3378337号明細書)について 刊行物4(1欄2行ないし3行,4欄37行ないし44行)には,ヨウ素酸を真空下で100℃に加熱すると,五酸化二沃素(I_(2)O_(5))が生成されることが記載されていると認められる。 (5) 刊行物5(特開2000-159505号公報)について 刊行物5(【0001】)には,クリーニングガスとして,七フッ化ヨウ素ガスを用いることが記載されていると認められる。 (6) 刊行物6(特開2011-208193号公報)について 刊行物6(【0036】)には,クリーニングガスとして,七フッ化ヨウ素ガスを用いることが記載されていると認められる。 3 当審の判断 (1) 特許法第29条第1項第3号について ア 本件発明1 (ア) 対比 刊行物1に記載された発明の「チャンバー内壁」は,「チャンバーを構成する部材」ということができる。 刊行物1に記載された発明の「チャンバー内壁に付着している不揮発性物質」は,「付着物」ということができる。 刊行物1に記載された発明の「三フッ化塩素ガスやフッ素ガス等のクリーニングガス」は,「フッ素含有ガスを含むクリーニングガス」ということができる。 そうすると,本件発明1と刊行物1に記載された発明とは,以下の一致点及び相違点を有する。 (一致点) チャンバーを構成する部材または前記チャンバーに接続された配管の表面に付着している,付着物を,フッ素含有ガスを含むクリーニングガスを用いて除去する付着物の除去方法。 (相違点) (相違点1) 「付着物」について,本件発明1は,「ヨウ素酸化物を含む付着物」であるのに対し,刊行物1に記載された発明は,「不揮発性物質」であって,「ヨウ素酸化物を含む」か否か不明である点。 (相違点2) 「付着物」の「除去」について,本件発明1は,「プラズマを発生させずにフッ素含有ガスを含むクリーニングガスを前記付着物と接触させて除去」しているのに対し,刊行物1に記載された発明は,「フッ素含有ガスを含むクリーニングガスをチャンバーに供給するとともに,プラズマを生起せしめることにより,除去」している点。 (イ) 判断 上記(ア)のとおり,本件発明1と刊行物1に記載された発明とは,相違点を有するから,本件発明1は,刊行物1に記載された発明であるということはできない。 イ 本件発明6ないし8 本件発明6ないし8は,本件発明1の発明特定事項をすべて含み,さらに減縮するものである。 そうすると,本件発明6ないし8は,前記アと同様,刊行物1に記載された発明であるということはできない。 ウ 本件発明9 本件発明9は,「チャンバー内にヨウ素含有ガスを含むエッチングガスを供給して基板表面を,プラズマを発生させずにエッチングする工程」を含む「ドライエッチング方法」であるところ,「基板表面をエッチングした後」,本件発明1と同様の「付着物の除去方法」によって,付着物を除去するものである。 そうすると,本件発明9は,前記アと同様,刊行物1に記載された発明であるということはできない。 エ 本件発明11ないし13 本件発明11ないし13は,本件発明9の発明特定事項をすべて含み,さらに減縮するものである。 そうすると,本件発明11ないし13は,前記ウと同様,刊行物1に記載された発明であるということはできない。 (2) 特許法第29条第2項について ア 本件発明2 本件発明2は,本件訂正により削除されたから,本件発明2に対する取消理由は解消された。 イ 本件発明3ないし5 本件発明3ないし5は,本件発明1の発明特定事項をすべて含み,さらに減縮するものであるから,刊行物1に記載された発明と対比すると,前記(1)ア(ア)の相違点を含むものである。また,本件発明1は,本件訂正によって,プラズマを発生させずに付着物を除去することが特定されているから,本件発明3ないし5も同様に特定されるものである。 一方,刊行物1に記載された発明は,それとは逆に,プラズマを生起せしめることによって,付着物(不揮発性物質)を除去するものである。 そして,刊行物1には,エッチングの際に発生する不揮発性物質は,プラズマの発生部の周辺部分にそって多く発生するものであって,装置内壁に付着しており(前記2(1)ア(エ)の【0033】),この不揮発性物質をプラズマを生起せしめて除去すること(同(キ)の【0093】)が記載されているように,もっぱら,プラズマを用いたことによる技術的な課題やその解決手段が開示されている。 そうすると,刊行物1に記載された発明において,プラズマを発生させずに付着物を除去するような構成に変更することは,刊行物1が前提とする課題や解決手段を滅却させることになるから,そのような変更には,阻害要因があるというべきである。 また,刊行物1には,プラズマを生起せしめて不揮発性物質を除去する際の装置構成を,「エッチングを行うためプラズマを発生させる機構と同一の装置を用いて行う」ことにより,「現状の装置に対して,ガスを加えることによって達成できることが本発明の特徴である」と記載されているから(同(キ)の【0100】),この観点からも,刊行物1に記載された発明において,プラズマを発生させずに付着物を除去するような構成に変更することは,阻害要因があるというべきである。 よって,刊行物1に記載された発明において,プラズマを発生させずに付着物を除去する構成を採用すること,すなわち,相違点2の構成を採用することは,当業者であっても容易に想到することはできないし,刊行物1,5及び6に記載された事項も,当該判断を左右するものではない。 したがって,本件発明3ないし5は,刊行物1に記載された発明及び刊行物1,5及び6に記載された事項に基づいて,当業者が容易に想到することができたものではない。 ウ 本件発明10 本件発明10は,本件訂正により削除されたから,本件発明10に対する取消理由は解消された。 (3) 特許法第36条第6項第1号について ア 本件発明2 本件発明2は,本件訂正により削除されたから,本件発明2に対する取消理由は解消された。 イ 本件発明10 本件発明10は,本件訂正により削除されたから,本件発明10に対する取消理由は解消された。 (4) 異議申立人の意見について 異議申立人は,本件発明1ないし13について,本件訂正請求により追加された「プラズマを発生させずに」という発明特定事項は,その対象やタイミングが不明である,すなわち,クリーニングの対象となるチャンバーやチャンバーに接続された配管においてはプラズマを発生させず,それ以外の離れた場所において,プラズマを発生させ,クリーニングを行う態様が,本件発明1ないし13の範囲内であるのか範囲外であるのかが不明であるから,請求項1ないし13に係る特許は,特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものであると主張する。 しかしながら,本件発明1ないし13は,本件訂正によって,いずれも「プラズマを発生させずに」付着物を除去することが特定されているのであるから(ただし,前述のとおり,本件発明2ないし10は削除されている。),プラズマを発生させることを前提とする異議申立人の主張は,その前提において誤りである。 したがって,異議申立人の主張は採用できない。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 異議申立人は,特許異議申立書において,訂正前の特許請求の範囲の請求項1,6ないし8,9,11ないし13に係る発明は,刊行物1に記載された発明であるから,当該請求項に係る特許は,特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであると主張するとともに,訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし13に係る発明は,刊行物1ないし4に記載された事項に基づいて,当業者が容易に想到することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでもあり,取り消されるべきものであるという旨の主張をしている。 しかしながら,前記第4の1(1)のとおり,訂正前の特許請求の範囲の請求項1,6ないし8,9,11ないし13に係る発明は,刊行物1に記載された発明であり,当該請求項に係る特許は,特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるところ,両者に相違点はないのであるから,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであると判断するのは相当でない。 なお,前記第3のとおり,訂正前の特許請求の範囲の請求項1,6ないし8,9,11ないし13に係る発明は,本件訂正請求により,本件発明1,6ないし8,9,11ないし13に訂正されたから,以下,本件発明1,6ないし8,9,11ないし13が,刊行物1ないし4に記載された事項に基づいて,当業者が容易に想到することができたものであるか否か判断する。 1 本件発明1 本件発明1と刊行物1に記載された発明とは,前記第4の3(1)ア(ア)のとおり,一致点及び相違点を有する。 そこで,相違点2について検討するに,刊行物1に記載された発明において,相違点2の構成を採用することが,当業者であっても容易に想到することができたものではないことは,前記第4の3(2)イで判断したとおりであって,刊行物2ないし4に記載された事項も,当該判断を左右するものではない。 したがって,本件発明1は,刊行物1ないし4に記載された事項に基づいて,当業者が容易に想到することができたものではない。 2 本件発明6ないし8 本件発明6ないし8は,本件発明1の発明特定事項をすべて含み,さらに減縮するものである。 そうすると,本件発明6ないし8は,前記1と同様,刊行物1ないし4に記載された事項に基づいて,当業者が容易に想到することができたものではない。 3 本件発明9 本件発明9は,「チャンバー内にヨウ素含有ガスを含むエッチングガスを供給して基板表面を,プラズマを発生させずにエッチングする工程」を含む「ドライエッチング方法」であるところ,「基板表面をエッチングした後」,本件発明1と同様の「付着物の除去方法」によって,付着物を除去するものである。 そうすると,本件発明9は,前記1と同様,刊行物1ないし4に記載された事項に基づいて,当業者が容易に想到することができたものではない。 4 本件発明11ないし13 本件発明11ないし13は,本件発明9の発明特定事項をすべて含み,さらに減縮するものである。 そうすると,本件発明11ないし13は,前記3と同様,刊行物1ないし4に記載された事項に基づいて,当業者が容易に想到することができたものではない。 第6 むすび 以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件請求項1,3ないし8,9,11ないし13に係る特許を取り消すことはできない。 また,他に本件請求項1,3ないし8,9,11ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして,本件請求項2及び10に係る特許は,本件訂正により削除されたため,本件特許の請求項2及び10に対して特許異議申立人がした特許異議の申立てについては,対象となる請求項が存在しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 チャンバーを構成する部材または前記チャンバーに接続された配管の表面に付着している、ヨウ素酸化物を含む付着物を、プラズマを発生させずにフッ素含有ガスを含むクリーニングガスを前記付着物と接触させて除去する付着物の除去方法。 【請求項2】(削除) 【請求項3】 前記クリーニングガスに含まれるフッ素含有ガスがClF_(3)であり、 前記クリーニングガスを、25?200℃の温度領域かつ66Pa?101kPaの圧力領域で前記付着物と接触させることを特徴とする請求項1に記載の付着物の除去方法。 【請求項4】 前記クリーニングガスに含まれるフッ素含有ガスがF_(2)であり、 前記クリーニングガスを、120?200℃の温度領域かつ66Pa?101kPaの圧力領域で前記付着物と接触させることを特徴とする請求項1に記載の付着物の除去方法。 【請求項5】 前記クリーニングガスに含まれるフッ素含有ガスがIF_(7)であり、 前記クリーニングガスを、230?300℃の温度領域かつ66Pa?101kPaの圧力領域で前記付着物と接触させることを特徴とする請求項1に記載の付着物の除去方法。 【請求項6】 前記クリーニングガスに含まれるフッ素含有ガスは、HF、F_(2)、XF_(n)(XはCl、Br、Iのいずれかを表し、nは1?7の整数を表す。)からなる群より選ばれる少なくとも一つのフッ素(F)を含むフッ素含有ガスであることを特徴とする請求項1に記載の付着物の除去方法。 【請求項7】 前記付着物中に含まれる前記ヨウ素酸化物は、化学式:[I_(x)O_(y)F_(z)(xは1または2の整数を表し、yは1?5の整数を表し、zは0または1の整数を表す。)]で表されることを特徴とする請求項1及び請求項3乃至請求項6のいずれか1項に記載の付着物の除去方法。 【請求項8】 前記ヨウ素酸化物が、I_(2)O_(5)であることを特徴とする、請求項7に記載の付着物の除去方法。 【請求項9】 チャンバー内にヨウ素含有ガスを含むエッチングガスを供給して基板表面を、プラズマを発生させずにエッチングする工程と、 前記基板表面をエッチングした後、前記チャンバーを構成する部材または前記チャンバーに接続された配管の表面に付着したヨウ素酸化物を含む付着物を、プラズマを発生させずにフッ素含有ガスを含むクリーニングガスを前記付着物と接触させて除去する工程と、を含むドライエッチング方法。 【請求項10】(削除) 【請求項11】 前記クリーニングガスに含まれるフッ素含有ガスは、HF、F_(2)、XF_(n)(XはCl、Br、Iのいずれかを表し、nは1?7の整数を表す。)からなる群より選ばれる少なくとも一つのフッ素(F)を含むフッ素含有ガスであることを特徴とする請求項9に記載のドライエッチング方法。 【請求項12】 前記クリーニングガスに含まれるフッ素含有ガスは、ClF_(3)である請求項11に記載のドライエッチング方法。 【請求項13】 前記付着物中に含まれる前記ヨウ素酸化物は、化学式:[I_(x)O_(y)F_(z)(xは1または2の整数を表し、yは1?5の整数を表し、zは0または1の整数を表す。)]で表されることを特徴とする請求項9に記載のドライエッチング方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-11-13 |
出願番号 | 特願2014-193435(P2014-193435) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(H01L)
P 1 651・ 537- YAA (H01L) P 1 651・ 121- YAA (H01L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 河合 俊英 |
特許庁審判長 |
飯田 清司 |
特許庁審判官 |
梶尾 誠哉 小田 浩 |
登録日 | 2017-09-22 |
登録番号 | 特許第6210039号(P6210039) |
権利者 | セントラル硝子株式会社 |
発明の名称 | 付着物の除去方法及びドライエッチング方法 |
代理人 | 特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ |
代理人 | 特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ |