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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1347651
異議申立番号 異議2017-700299  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-24 
確定日 2018-11-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5998263号発明「ビアテイスト飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5998263号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?13〕について訂正することを認める。 特許第5998263号の請求項1?13に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5998263号の請求項1?13に係る特許についての出願は、平成27年9月28日(優先権主張平成27年6月19日、平成27年7月13日)に出願され、平成28年9月2日付けでその特許権の設定登録がされ(平成28年9月28日特許掲載公報発行)、平成29年3月24日に特許異議申立人水野智之(以下「申立人」という。)より請求項1?13に対して特許異議の申立てがされたものである。その後の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成29年 5月30日 取消理由通知
同年 8月 4日 訂正請求書、意見書(特許権者)
同年11月22日 意見書(申立人)
平成30年 3月 8日 取消理由通知(決定の予告)
同年 5月11日 訂正請求書、意見書(特許権者)
同年 6月14日 意見書(申立人)
なお、平成30年5月11日付けで訂正請求がされたため、特許法第120条の5第7項の規定により、平成29年8月4日付けの訂正請求は、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正について
1 訂正の内容
平成30年5月11日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?13について訂正することを求めるものであり、具体的な訂正事項は以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1の「(A)プロリン」を、「(A)プロリン 0.00001?0.00032質量%」に訂正する。

(2)訂正事項2
訂正前の請求項1の「(B)デヒドロアスコルビン酸 0.000005?0.14質量%」を、「(B)デヒドロアスコルビン酸 0.00001?0.01質量%」に訂正する。

(3)訂正事項3
訂正前の請求項1の「[(B)/(A)]が0.001?1000」を、「[(B)/(A)]が0.032?95.2」に訂正する。

(4)訂正事項4
訂正前の請求項1の「pHが2?5」を、「pHが3?4」に訂正する。

(5)訂正事項5
訂正前の請求項1の「ビアテイスト飲料」を、「麦芽エキスを配合してなる金属缶容器詰非発酵ビアテイスト飲料」に訂正する。

(6)訂正事項6
訂正前の請求項2の「成分(B)の含有量が0.000005?0.12質量%である」を、「pHが3.4?3.9である」に訂正する。

(7)訂正事項7
訂正前の請求項6の「成分(A)の含有量が0.000001?0.01質量%である、請求項1?5のいずれか1項に記載のビアテイスト飲料。」を、「成分(C)がイソクエルシトリン、イソクエルシトリン糖付加物、ヘスぺリジン、ヘスぺリジン糖付加物、非重合体カテキン類、及び重合カテキンから選択される1種又は2種以上である、請求項3?5のいずれか1項に記載のビアテイスト飲料。」に訂正する。

(8)訂正事項8
訂正前の請求項9の「非発酵ビアテイスト飲料である、請求項1?8のいずれか1項に記載のビアテイスト飲料。」を、「成分(D)がグルコン酸及びリン酸から選択される少なくとも1種である、請求項7又は8記載のビアテイスト飲料。」に訂正する。

(9)訂正事項9
訂正前の請求項12の「容器詰ビアテイスト飲料である」を、「成分(A)と成分(B)との質量比[(B)/(A)]が0.1?50である」に訂正する。

(10)訂正事項10
訂正前の請求項13の「容器が金属缶である」を、「パストリゼーションにて加熱殺菌済である」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1は、請求項1の(A)プロリンについて、「0.00001?0.00032質量%」という含有量の特定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、請求項1を直接又は間接に引用する請求項2?13についても、同様に特許請求の範囲を減縮するものである。
そして、実施例としてプロリン0.00001質量%を含有する例(【表1】実施例13)、プロリン0.00032質量%を含有する例(【表1】実施例1等)が記載されているから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2は、請求項1の(B)デヒドロアスコルビン酸の含有量について「0.000005?0.14質量%」から「0.00001?0.01質量%」へと範囲を狭めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、請求項1を直接又は間接に引用する請求項2?13についても、同様に特許請求の範囲を減縮するものである。
そして、本件明細書に、「本発明のビアテイスト飲料中の成分(B)の含有量は、より一層のコクやキレの改善の観点から、・・・、0.00001質量%以上がより好ましく、・・・」(【0011】)(「・・・」は記載の省略を意味する。以下同じ。)と記載され、実施例としてデヒドロアスコルビン酸0.00001質量%を含有する例(【表1】実施例12)、デヒドロアスコルビン酸0.01質量%を含有する例(【表1】実施例3)が記載されているから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3は、請求項1の[(B)/(A)]について「0.001?1000」から「0.032?95.2」へと範囲を狭めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、請求項1を直接又は間接に引用する請求項2?13についても、同様に特許請求の範囲を減縮するものである。
そして、実施例として[(B)/(A)]が0.032の例(【表1】実施例12)、[(B)/(A)]が95.2の例(【表1】実施例13)が記載されているから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項4は、請求項1のpHについて「2?5」から「3?4」へと範囲を狭めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、請求項1を直接又は間接に引用する請求項2?13についても、同様に特許請求の範囲を減縮するものである。
そして、本件明細書に、「本発明のビアテイスト飲料のpH(20℃)は2?5であるが、キレ改善の観点から、・・・3以上がより好ましく、・・・またコク改善の観点から、・・・4以下がより好ましく、・・・かかるpHの範囲としては、好ましくは2.5?4.5、より好ましくは3?4」(【0027】)と記載されているから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項5は、請求項1の「ビアテイスト飲料」について「麦芽エキスを配合してなる金属缶容器詰非発酵」との特定事項を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、請求項1を直接又は間接に引用する請求項2?13についても、同様に特許請求の範囲を減縮するものである。
そして、訂正前の請求項9に「非発酵ビアテイスト飲料」と記載され、同じく請求項12に「容器詰ビアテイスト飲料」と記載され、同じく請求項13に「容器が金属缶である」と記載され、本件明細書に、「成分(A)を含有させるために、麦汁や麦芽エキス等麦芽由来原料、大豆エキス等大豆由来原料を配合しても良い。」(【0032】)と記載されているから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)訂正事項6は、請求項2の「成分(B)の含有量が0.000005?0.12質量%である」との特定事項が訂正事項2により請求項1に組み込まれたことから、当該特定事項を削除するとともに、「pHが3.4?3.9である」との特定事項を付加して、訂正前のpHの「2?5」よりpHの範囲を狭めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、請求項2を直接又は間接に引用する請求項3?13についても、同様に特許請求の範囲を減縮するものである。
そして、本件明細書に、「本発明のビアテイスト飲料のpH(20℃)は2?5であるが、キレ改善の観点から、・・・3.4以上が殊更に好ましく、またコク改善の観点から、・・・3.9以下が更に好ましい。かかるpHの範囲としては、・・・殊更に好ましくは3.4?3.9である。」(【0027】)と記載されているから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)訂正事項7は、請求項6の「成分(A)の含有量が0.000001?0.01質量%である」との特定事項が、訂正事項1により請求項1に組み込まれたことを踏まえ、同特定事項を削除するとともに、「成分(C)がイソクエルシトリン、イソクエルシトリン糖付加物、ヘスぺリジン、ヘスぺリジン糖付加物、非重合体カテキン類、及び重合カテキンから選択される1種又は2種以上である」との特定事項を付加し、請求項1、2を引用しないものとして引用する請求項を減少するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、請求項6を直接又は間接に引用する請求項7?13についても、同様に特許請求の範囲を減縮するものである。
そして、本件明細書に、「中でも、成分(C)としては、コク、キレの増強の観点から、イソクエルシトリン、イソクエルシトリン糖付加物、ヘスぺリジン、ヘスぺリジン糖付加物、非重合体カテキン類、及び重合カテキンから選択される1種又は2種以上が好ましく」(【0016】)と記載されているから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(8)訂正事項8は、請求項9の「非発酵ビアテイスト飲料である」との特定事項が訂正事項5により請求項1に組み込まれたことから、当該特定事項を削除するとともに、「成分(D)がグルコン酸及びリン酸から選択される少なくとも1種である」との特定事項を付加し、請求項1?6を引用しないものとして引用する請求項を減少するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、請求項9を直接又は間接に引用する請求項10?13についても、同様に特許請求の範囲を減縮するものである。
そして、本件明細書に、「成分(D)としては、コクやキレの観点から、・・・、中でもグルコン酸、リン酸及びそれらの塩から選択される少なくとも1種が好ましい。」(【0019】)と記載されているから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(9)訂正事項9は、請求項12の「容器詰ビアテイスト飲料である」との特定事項が訂正事項5により請求項1に組み込まれたことから、当該特定事項を削除するとともに、「成分(A)と成分(B)との質量比[(B)/(A)]が0.1?50である」との特定事項を付加して、訂正前の[(B)/(A)]の「0.001?1000」より[(B)/(A)]の範囲を狭めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、請求項12を引用する請求項13についても、同様に特許請求の範囲を減縮するものである。
そして、本件明細書に、「本発明のビアテイスト飲料中の成分(A)と成分(B)との質量比[(B)/(A)]が0.001?1000であるが、より一層のコクやキレ等のビアテイスト改善の観点から、・・・、0.1以上が殊更に好ましく、また風味バランスの観点から、・・・、50以下が更に好ましく」(【0012】)と記載されているから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(10)訂正事項10は、請求項13の「容器が金属缶である」との特定事項が訂正事項5により請求項1に組み込まれたことから、当該特定事項を削除するとともに、「パストリゼーションにて加熱殺菌済である」との特定事項を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件明細書に、「本発明のビアテイスト飲料は、加熱殺菌されていてもよく、加熱殺菌方法としては、・・・。例えば、・・・、充填後殺菌法(パストリゼーション)等を挙げることができる。」(【0036】)と記載されているから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(11)したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?13〕について訂正を認める。

第3 本件発明
本件特許の請求項1?13に係る発明(以下、各発明を「本件発明1」?「本件発明13」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、上記訂正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

【請求項1】
(A)プロリン 0.00001?0.00032質量%、
(B)デヒドロアスコルビン酸 0.00001?0.01質量%、及び
(J)ナトリウムイオン 0.001?0.5質量%
を含有し、
成分(A)と成分(B)との質量比[(B)/(A)] が0.032?95.2であり、
pHが3?4であり、かつ
エタノール含有量が1質量%未満である、
麦芽エキスを配合してなる金属缶容器詰非発酵ビアテイスト飲料。
【請求項2】
pHが3.4?3.9である、請求項1記載のビアテイスト飲料。
【請求項3】
更に(C)フラボノール、フラバノン、フラバノール及びそれらの糖付加物から選択される1種又は2種以上のポリフェノールを含有する、請求項1又は2記載のビアテイスト飲料。
【請求項4】
成分(C)の含有量が0.001?0.5質量%である、請求項3記載のビアテイスト飲料。
【請求項5】
成分(B)と成分(C)との質量比[(C)/(B)]が1?500である、請求項3又は4記載のビアテイスト飲料。
【請求項6】
成分(C)がイソクエルシトリン、イソクエルシトリン糖付加物、ヘスぺリジン、ヘスぺリジン糖付加物、非重合体カテキン類、及び重合カテキンから選択される1種又は2種以上である、請求項3?5のいずれか1項に記載のビアテイスト飲料。
【請求項7】
更に(D)カルボン酸、無機酸及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項1?6のいずれか1項に記載のビアテイスト飲料。
【請求項8】
成分(D)の含有量が0.0001?1質量%である、請求項7記載のビアテイスト飲料。
【請求項9】
成分(D)がグルコン酸及びリン酸から選択される少なくとも1種である、請求項7又は8記載のビアテイスト飲料。
【請求項10】
(E)エタノールの含有量が0.00質量である、請求項1?9のいずれか1項に記載のビアテイスト飲料。
【請求項11】
(F)炭酸ガスの含有量がガス容量(GV)として1?3v/vである、請求項1?10のいずれか1項に記載のビアテイスト飲料。
【請求項12】
成分(A)と成分(B)との質量比[(B)/(A)]が0.1?50である、請求項1?11のいずれか1項に記載のビアテイスト飲料。
【請求項13】
パストリゼーションにて加熱殺菌済である、請求項12記載のビアテイスト飲料。

第4 取消理由の概要
平成30年3月8日付けの取消理由通知書(決定の予告)で特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。

本件発明1?13は、プロリンの濃度、デヒドロアスコルビン酸の濃度、及び、飲料のpHの範囲が、実施例に記載されたものに比べて広く、実施例で確認されていない範囲について、本件発明の課題を解決できるとは認識できないから、発明の詳細な説明の記載や出願時の技術常識に照らし、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
よって、請求項1?13に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきである。

第5 判断
1 本件発明1
本件発明が解決すべき課題は、本件明細書に
「本発明の課題は、コクやキレの改善されたビアテイスト飲料を提供することにある。」(【0004】)
と記載されたとおりのものと認められ、
「本発明者らは、pHの比較的低いビアテイスト飲料において、プロリンとデヒドロアスコルビン酸とを含有させ、それらの質量比とエタノール量を特定範囲内に制御することにより、コクやキレの良好なビアテイスト飲料が得られることを見出した。」(【0005】)
と記載されていることから、上記課題を解決するために、プロリンとデヒドロアスコルビン酸の含有量を特定範囲内に制御すべきことが理解される。
そして、プロリンとデヒドロアスコルビン酸の含有量については、
「本発明のビアテイスト飲料中の成分(A)の含有量は、コク改善の観点から、0.000001質量%以上が好ましく・・・また風味バランスの観点から、0.01質量%以下が好ましく・・・かかる成分(A)の含有量の範囲としては、本発明のビアテイスト飲料中に、好ましくは0.000001?0.01質量%であり・・・」(【0010】)
「本発明のビアテイスト飲料中の成分(B)の含有量は、より一層のコクやキレの改善の観点から、0.000005質量%以上が好ましく・・・また風味バランスの観点から、0.14質量%以下が好ましく・・・かかる成分(B)の含有量の範囲としては、本発明のビアテイスト飲料中に、好ましくは0.000005?0.14質量%であり・・・」(【0011】)
「本発明のビアテイスト飲料中の成分(A)と成分(B)との質量比[(B)/(A)]が0.001?1000であるが、より一層のコクやキレ等のビアテイスト改善の観点から、0.005以上が好ましく・・・また風味バランスの観点から、800以下が好ましく・・・かかる質量比[(B)/(A)]の範囲としては、本発明のビアテイスト飲料中に、好ましくは0.005?800であり・・・」(【0012】)
と記載されている。
しかし、プロリンとデヒドロアスコルビン酸とを含有させた場合に、どのような機序でコクやキレが改善されるのかについて、本件明細書には記載されておらず、プロリンとデヒドロアスコルビン酸の含有量とコクやキレとの関係についての技術常識もない。そうすると、本件明細書に記載されたプロリンとデヒドロアスコルビン酸の含有量の範囲内であればコクとキレが改善されることは、直ちに明らかということはできず、実際にコクとキレが改善されることは、具体的な実施例により確認することが必要である。
そこで、本件明細書に記載された実施例について、(A)プロリンと(B)デヒドロアスコルビン酸の含有量の関係を、評価と共に示すと、以下のとおりである。
A(質量%) B(質量%) コク キレ
実施例3 0.00032 0.01 3 3
実施例1 0.00032 0.001 2 2
実施例2 0.00032 0.0001 2 2
実施例12 0.00032 0.00001 1.5 1.5
実施例13 0.00001 0.001 1.5 2.5
なお、実施例4?11、14のプロリンとデヒドロアスコルビン酸の含有量の関係は、実施例1と同じである。
これに対し、本件発明1のプロリンとデヒドロアスコルビン酸の含有量の関係は、
(A)プロリンが、0.00001?0.00032質量%
(B)デヒドロアスコルビン酸が、0.00001?0.01質量%
プロリンとデヒドロアスコルビン酸との質量比[(B)/(A)]が、0.032?95.2
である。
すなわち、(A)プロリンが0.00001質量%の場合についてみると、本件発明1の(B)デヒドロアスコルビン酸の範囲は0.00001?0.01質量%であるのに対し、実施例で示された(B)デヒドロアスコルビン酸は0.001質量%(実施例13)だけである。
そして、(A)プロリンが0.00032質量%の場合に、(B)デヒドロアスコルビン酸が少なくなるにつれてコクの評価が低下していることを踏まえると、(A)プロリンが0.00001質量%の場合に、(B)デヒドロアスコルビン酸が0.001質量%(実施例13)から、0.00001質量%にまで少なくなると、コクの評価が1.5から更に低下することが予測される。
さらに、飲料のpHについて、実施例はpHが3.5の場合しか記載されていないのに対し、本件発明1は「pHが3?4」と特定している。
ここで、(A)プロリンと(B)デヒドロアスコルビン酸の含有量が実施例1と同じで、pHが5.2である参考例1は、コク、キレの評価が共に4であることから、pHが低下すると、コク、キレの評価も低下することが分かる。そうすると、pHが3.5である実施例13について、pHが3に低下すると、コクの評価も低下することが予測される。
以上によれば、本件発明1において、少なくとも、(A)プロリンが、0.00001質量%、(B)デヒドロアスコルビン酸が、0.00001質量%、pHが3の場合に、本件発明の課題を解決できるとは認識できない。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載や出願時の技術常識に照らし、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。

2 本件発明2?13
本件発明2は、「pHが3.4?3.9である」と限定されているものの、上記1で検討したのと同様に、少なくとも、(A)プロリンが、0.00001質量%、(B)デヒドロアスコルビン酸が、0.00001質量%、pHが3.4の場合に、本件発明の課題を解決できるとは認識できない。
また、本件発明3?13は、(A)プロリン、(B)デヒドロアスコルビン酸、pHが、本件発明1以上に限定されたものではないから、本件発明1と同様に、本件発明の課題を解決できるとは認識できない。
よって、本件発明2?13は、発明の詳細な説明の記載や出願時の技術常識に照らし、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本件発明1?13は、発明の詳細な説明の記載や出願時の技術常識に照らし、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできないから、請求項1?13に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)プロリン 0.00001?0.00032質量%、
(B)デヒドロアスコルビン酸 0.00001?0.01質量%、及び
(J)ナトリウムイオン 0.001?0.5質量%
を含有し、
成分(A)と成分(B)との質量比[(B)/(A)]が0.032?95.2であり、
pHが3?4であり、かつ
エタノール含有量が1質量%未満である、
麦芽エキスを配合してなる金属缶容器詰非発酵ビアテイスト飲料。
【請求項2】
pHが3.4?3.9である、請求項1記載のビアテイスト飲料。
【請求項3】
更に(C)フラボノール、フラバノン、フラバノール及びそれらの糖付加物から選択される1種又は2種以上のポリフェノールを含有する、請求項1又は2記載のビアテイスト飲料。
【請求項4】
成分(C)の含有量が0.001?0.5質量%である、請求項3記載のビアテイスト飲料。
【請求項5】
成分(B)と成分(C)との質量比[(C)/(B)]が1?500である、請求項3又は4記載のビアテイスト飲料。
【請求項6】
成分(C)がイソクエルシトリン、イソクエルシトリン糖付加物、ヘスペリジン、ヘスペリジン糖付加物、非重合体カテキン類、及び重合カテキンから選択される1種又は2種以上である、請求項3?5のいずれか1項に記載のビアテイスト飲料。
【請求項7】
更に(D)カルボン酸、無機酸及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項1?6のいずれか1項に記載のビアテイスト飲料。
【請求項8】
成分(D)の含有量が0.0001?1質量%である、請求項7記載のビアテイスト飲料。
【請求項9】
成分(D)がグルコン酸及びリン酸から選択される少なくとも1種である、請求項7又は8記載のビアテイスト飲料。
【請求項10】
(E)エタノールの含有量が0.00質量である、請求項1?9のいずれか1項に記載のビアテイスト飲料。
【請求項11】
(F)炭酸ガスの含有量がガス容量(GV)として1?3v/vである、請求項1?10のいずれか1項に記載のビアテイスト飲料。
【請求項12】
成分(A)と成分(B)との質量比[(B)/(A)]が0.1?50である、請求項1?11のいずれか1項に記載のビアテイスト飲料。
【請求項13】
パストリゼーションにて加熱殺菌済である、請求項12記載のビアテイスト飲料。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-09-25 
出願番号 特願2015-190123(P2015-190123)
審決分類 P 1 651・ 537- ZAA (A23L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 福澤 洋光  
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 紀本 孝
窪田 治彦
登録日 2016-09-02 
登録番号 特許第5998263号(P5998263)
権利者 花王株式会社
発明の名称 ビアテイスト飲料  
代理人 高野 登志雄  
代理人 中嶋 俊夫  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 高野 登志雄  
代理人 村田 正樹  
代理人 村田 正樹  
代理人 山本 博人  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 中嶋 俊夫  
代理人 山本 博人  

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