• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1347660
異議申立番号 異議2018-700120  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-02-14 
確定日 2018-11-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6189842号発明「微細繊維セルロース層を含む多層構造体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6189842号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第6189842号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許に係る出願は、平成25年7月19日(優先権主張 平成24年7月19日(以下「本件優先日」という。) 日本国)を国際出願日とする特許出願であって、平成29年8月10日に特許権の設定登録がされ、同月30日に特許掲載公報が発行され、平成30年2月14日に特許異議申立人 安藤 慶治(以下「申立人」という。)によって、特許異議の申立てがされ、同年5月17日付けで取消理由が通知され、同年7月20日に意見書の提出と共に訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、それによる訂正を「本件訂正」という。)がされ、同年9月7日に申立人から意見書(以下「申立人意見書」という。)が提出されたものである。

第2 本件訂正について
1 訂正事項
本件訂正における訂正事項は、次のとおりのものである。当審で、訂正箇所に下線を付した。
特許請求の範囲の請求項1に「微細セルロース繊維からなる微細セルロース繊維不織布層を少なくとも一層含む多層構造体であって、該微細セルロース繊維不織布層を形成する微細セルロース繊維の平均繊維径が0.005μm以上0.5μm以下であり、さらに該多層構造体の平均厚みが10μm以上200μm以下、密度が0.10g/cm^(3)以上0.90g/cm^(3)以下、かつ、透気抵抗度が2000s/100ml以上であることを特徴とする多層構造体からなる全熱交換器用シート。」とあるのを、「微細セルロース繊維からなる微細セルロース繊維不織布層を少なくとも一層含む多層構造体であって、該微細セルロース繊維不織布層を形成する微細セルロース繊維の平均繊維径が0.005μm以上0.5μm以下であり、該微細セルロース繊維不織布層に含まれる微細セルロース繊維の割合が50重量%以上100重量%以下であり、該微細セルロース繊維不織布層の目付が総和として1g/m^(2)以上15g/m^(2)以下であり、さらに該多層構造体の平均厚みが10μm以上200μm以下、密度が0.10g/cm^(3)以上0.90g/cm^(3)以下、かつ、透気抵抗度が2000s/100ml以上であることを特徴とする多層構造体からなる全熱交換器用シート。」と訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2?7も同様に訂正する。)
2 訂正の適否ついての判断
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項1?7について、請求項2?7は、請求項1を引用しているものであって、上記1の訂正事項によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2)目的要件
ア 訂正前の請求項1においては、微細セルロース繊維不織布が微細セルロース繊維からなることは記載しているが、該微細セルロース繊維不織布層に含まれる微細セルロース繊維の割合、及び該微細セルロース繊維不織布層の目付については記載していない。
イ これに対して、訂正後の請求項1は、「該微細セルロース繊維不織布層に含まれる微細セルロース繊維の割合が50重量%以上100重量%以下であり、該微細セルロース繊維不織布層の目付が総和として1g/m^(2)以上15g/m^(2)以下であり、」との記載により、訂正後の請求項1に訂正後の請求項1に係る発明における微細セルロース繊維不織布層に含まれる微細セルロース繊維の割合、及び該微細セルロース繊維不織布層の目付を具体的に特定するものである。
ウ したがって、上記訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(3)実質上の拡張・変更の有無について
ア 上記(2)の訂正の理由から明らかなように、上記訂正事項は、発明特定事項である「微細セルロース繊維不織布層に含まれる微細セルロース繊維の割合」及び「微細セルロース繊維不織布層の目付」を具体的に特定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
イ したがって、上記訂正事項は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
ウ 上記訂正事項は、訂正前の請求項1の記載を引用する請求項2?7についても実質的に訂正するものであるが、上記(2)の理由から明らかなように、請求項2?7についても、、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(4)新規事項の追加の有無
ア 本件明細書の記載事項
(ア)段落【0030】
「本発明の多層構造体は、微細セルロース繊維からなる微細セルロース繊維不織布層を少なくとも一層又は多層含む。微細セルロース繊維から構成されていないと、所望の透気抵抗度、透湿度、耐久性が達成できない。」
(イ)段落【0031】
「微細セルロース繊維不織布層を構成する微細セルロース繊維の素材は、セルロースからなる針葉樹パルプ、広葉樹パルプ、コットン由来パルプ、麻(アバカ種やザイサル種等)由来パルプ、ケナフ由来パルプ、竹由来パルプ、バガス由来パルプ、バクテリアセルロース、レーヨン、キュプラ、リヨセル等の純粋なセルロース繊維の他に、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルエチルセルロース、ニトロセルロース、メチルセルロースのようなセルロース誘導体繊維からなるセルロース繊維を50重量%以上100重量%以下含有していることが好ましい。・・・」
(ウ)段落【0037】
「本発明の多層構造体における微細セルロース繊維不織布層の目付は、総和として1g/m^(2)以上15g/m^(2)以下、好ましくは2g/m^(2)以上10g/m^(2)以下、さらに好ましくは3g/m^(2)以上8g/m^(2)以下の範囲にある。この範囲にあると透気抵抗度、透湿度、熱伝導率の3つの物性をバランス良く発現することができる。該目付の総和が1g/m^(2)未満であると透気抵抗度を均一に2000s/100ml以上に保つことが難しくなり、また、15g/m^(2)よりも大きくなると、透湿度が低下する傾向があるためいずれの場合も好ましくない。尚、「目付の総和」とは、該不織布が2層以上ある場合に各層の目付けを加算したものを意味する。例えば、不織布に塗布ディップで微細セルロース分散液を塗工する場合、支持体を中心層にした3層構造(微細セルロース繊維不織布層が2層)とる。[決定注:原文のまま]・・・」
(エ)段落【0042】
「前記したように、微細セルロース繊維不織布層に含まれる微細セルロース繊維の割合は50重量%以上100重量%以下であり、好ましくは70重量%以上100重量%以下である。該層に含まれる他の材料としては、セルロース以外の素材からなる繊維材料や無機系フィラー、ポリマーや無機の粒子を挙げることができるが、透気抵抗度が2000s/100ml以上を保てるような均一かつ緻密な層を形成し得る材料であればいずれであっても構わない。該層に占める微細セルロース繊維の割合が50重量%未満になると、透気抵抗度を2000s/100ml以上に設計することが難しくなるため好ましくない。」
イ 上記訂正事項のうち、「微細セルロース繊維不織布層に含まれる微細セルロース繊維の割合」についての特定は、上記ア(イ)に「セルロース繊維を50重量%以上100重量%以下含有していることが好ましい。」と記載され、上記ア(エ)に「微細セルロース繊維不織布層に含まれる微細セルロース繊維の割合は50重量%以上100重量%以下」と記載されたとおりである。また、「微細セルロース繊維不織布層の目付」についての特定は、上記ア(ウ)に「微細セルロース繊維不織布層の目付は、総和として1g/m^(2)以上15g/m^(2)以下」と記載されたとおりである。
ウ したがって、上記訂正事項は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
3 本件訂正についての小括
上記1、2で検討したように、上記訂正事項は、適法であるから、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正を認める。

第3 本件発明
本件訂正後の請求項1?7に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明7」といい、総称して「本件発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
微細セルロース繊維からなる微細セルロース繊維不織布層を少なくとも一層含む多層構造体であって、該微細セルロース繊維不織布層を形成する微細セルロース繊維の平均繊維径が0.005μm以上0.5μm以下であり、該微細セルロース繊維不織布層に含まれる微細セルロース繊維の割合が50重量%以上100重量%以下であり、該微細セルロース繊維不織布層の目付が総和として1g/m^(2)以上15g/m^(2)以下であり、さらに該多層構造体の平均厚みが10μm以上200μm以下、密度が0.10g/cm^(3)以上0.90g/cm^(3)以下、かつ、透気抵抗度が2000s/100ml以上であることを特徴とする多層構造体からなる全熱交換器用シート。
【請求項2】
前記多層構造体の平均厚みが10μm以上70μm以下である、請求項1に記載の全熱交換器用シート。
【請求項3】
前記多層構造体の平均厚みが10μm以上30μm以下である、請求項2に記載の全熱交換器用シート。
【請求項4】
前記多層構造体は難燃処理されたものである、請求項1?3のいずれか1項に記載の全熱交換器用シート。
【請求項5】
前記多層構造体を構成する素材に占めるセルロース繊維の割合が90重量%以上である、請求項1?4のいずれか1項に記載の全熱交換器用シート。
【請求項6】
請求項1?5のいずれか1項に記載の全熱交換器用シートを、温度、湿度又はその両方が異なる二種類の気流を仕切る仕切り材として用いた全熱交換素子。
【請求項7】
請求項6に記載の全熱交換素子を用いた全熱交換器。」

第4 取消理由の概要、申立人意見書の主張の概要
1 証拠の一覧
申立人は、特許異議申立書と共に甲第1号証(以下「甲1」などという。)及び甲2?5を提出し、申立人意見書と共に甲6?9を提出した。
(1)特許異議申立書と共に提出された証拠
甲1:特開2009-240935号公報
甲2:原野芳行著、「セルロースナノファイバーの特性と利用」、日本包装学会誌、Vol.17、No.2(2008)、p.87-94
甲3:特開2010-248680号公報
甲4:特開2008-32390号公報
甲5:特開2008-14623号公報
(2)申立人意見書と共に提出された証拠
甲6:特開2011-74535号公報
甲7:特開2007-315649号公報
甲8:JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法 No.5-2:2000、「紙及び板紙-平滑度及び透気度試験方法-第2部:王研法」
甲9:JIS P8117:2009、「紙及び板紙-透気度及び透気抵抗度試験方法(中間領域)-ガーレー法」
2 取消理由の概要
平成30年5月17日付け取消理由通知書の概要は、以下のとおりである。なお、本件特許異議の申立てにおいて申し立てられた全ての理由が通知された。
(1)取消理由1:特許法第29条第1項第3号
本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

・請求項1、2、6に対して
引用文献:甲1
(2)取消理由2:特許法第29条第2項
本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項1?7に対して
引用文献:甲1?5
3 申立人意見書の主張の概要
本件訂正に応じて、申立人が提出した申立人意見書において、申立人は、次の取消理由を追加した。
取消理由3
本件特許の下記の本件発明は、本件優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・本件発明1?3、5に対して
引用文献:甲6及び周知技術として甲4、5、7?9
・本件発明4に対して
引用文献:甲6及び甲4
・本件発明6、7に対して
引用文献:甲6及び周知技術として甲4、5、7?9

第5 各証拠の記載事項について
1 甲1の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲1には、次の記載がある。
(1)特許請求の範囲
ア 【請求項1】
「(a)多孔質シリカ、(b)吸湿性塩を少なくとも含有してなる除湿用シート状物。」
イ 【請求項3】
「さらに、(c)有機繊維と(d)セルロース系フィブリル化繊維とを含有してなる請求項1記載の除湿用シート状物。」
(2)段落【0021】
「(d)セルロース系フィブリル化繊維とは、繊維の表面にひげ状の分岐部を有するセルロース系繊維、繊維自体が主に繊維軸と平行な方向に非常に細かく分割された微細繊維を有するセルロース系繊維を意味する。(d)セルロース系フィブリル化繊維は、ひげ状の分岐部や分割された微細繊維の少なくとも一部分の断面直径が1μm以下であることが好ましい。また、セルロース系フィブリル化繊維のアスペクト比(繊維長(長手方向の長さ)/繊維径(断面直径))は、20?100000の範囲にあることが好ましい。また、カナダ標準ろ水度(JIS P8121)が、500ml以下であることが好ましく、200ml以下であることがより好ましい。さらに質量平均繊維長が0.1mm?2mmの範囲にあることが好ましい。」
(3)段落【0022】
「(d)セルロース系フィブリル化繊維を製造する方法としては、例えば、
(1)高結晶性、高配向性材料であるセルロース系材料を繊維状、パルプ状又は適当な大きさのペレット状に調製した後、水中に分散させ、ビーター、コニカルリファイナー、シングルディスクリファイナー、ダブルディスクリファイナー、高圧ホモジナイザー、サンドミル等を用いてフィブリル化する方法(特開平3-174091公報参照)や、(2)酢酸菌等の微生物から産生されるバクテリアセルロースを離解する方法(特開平7-118303号公報参照)を挙げることができる。」
(4)段落【0024】
「本発明の除湿用シート状物中の(d)セルロース系フィブリル化繊維の含有割合は、1質量%?15質量%が好ましく、3質量%?10質量%がより好ましく、5質量%?8質量%がさらに好ましい。セルロース系フィブリル化繊維の含有割合が1質量%未満であると、(a)多孔質シリカの脱離(粉落ち)抑制効果が不十分になることがある。また、15質量%を超えると、除湿用シート状物の通気性が悪化する場合があるほか、抄紙法で除湿用シート状物を製造する場合に、濾水性が悪化したり、抄紙機のワイヤーが目詰まりしたりすることがある。」
(5)段落【0033】
「本発明の除湿用シート状物は、その目付が、25g/m^(2)?250g/m^(2)であることが好ましく、30g/m^(2)?200g/m^(2)であることがより好ましく、40g/m2?150g/m^(2)であることがさらに好ましい。また、厚みは、36μm?415μmが好ましく、43μm?333μmがより好ましく、57μm?250μmがさらに好ましい。」
(6)段落【0034】
「本発明の除湿用シート状物は、単層構造であっても良いし、多層構造であっても良い。高目付のシート状物を得ようとする場合には、多層構造とすると地合が良好になる傾向がある。例えば、目付100g/m^(2)のシート状物を製造する場合、1層構造よりも、50g/m^(2)+50g/m^(2)の2層構造、30g/m^(2)+30g/m^(2)+40g/m^(2)の3層構造とする方が好ましい。」
(7)段落【0037】
「(d-1)
セルロース系フィブリル化繊維
(商品名:セリッシュKY-100G、ダイセル化学工業(株)製)」
(8)段落【0070】
「本発明のシート状物は、除湿用フィルター材として使用できるほか、包装材料、押入やタンス用の除湿シート、壁紙や床材等の内装材料等に使用することができる。また、本発明の除湿用フィルター材は、例えば、調湿素子や熱交換素子として使用することができる。調湿素子、熱交換素子の具体例として、除湿ローター、ビル空調気化式加湿用素子、燃料電池用加湿用素子、除湿器用除湿素子、自動販売機等の吸水蒸散素子、冷却用吸水蒸散素子、デシカント空調機の除湿ローター、全熱交換素子等を挙げることができる。」
2 甲2の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲2には、次の記載がある。
(1)87頁左下欄1?末行
「1.微小繊維状セルロースの概要
セルロースナノファイバーの一つである微小繊維状セルロース繊維の特性と応用について紹介する。
・・・工業的に生産され市販されている微小繊維状セルロースとしては、「セリッシュ」(ダイセル化学工業(株)社製)がある。」
(2)89頁下部の表2の一部
「 微小繊維状セルロース
セリッシュKY-100G
平均繊維長(mm) 0.4?0.6
平均繊維径(μm) 0.01?0.5
L/D(長さ/径の比) 1000?20000」
3 甲3の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲3には、次の記載がある。
(1)段落【0004】
「全熱交換用原紙の性能は、伝熱性と透湿性に加え、二酸化炭素を多く含む汚れた空気(排気)と新鮮な外気(給気)が、全熱交換器内部で混合しないための、気体遮断性で評価される。」
(2)段落【0027】
「本発明の全熱交換用原紙の透気度としては、500秒/100ml以上が好ましい。500秒/100ml以上とすることで、換気における給気と排気の全熱交換器内部で混合が抑制することができる。より好ましくは、5000秒/100ml以上であり、さらに好ましくは8000秒/100ml以上である。」
4 甲4の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲4には、次の記載がある。
(1)段落【0020】
「用紙断面方向(厚み方向)の水分の移動を容易にするために、該無孔質の全熱交換素子用紙には吸湿材を混合して製造することができる。本発明の全熱交換素子用紙に吸湿剤を含有させると吸湿剤の吸湿性と基材を構成する分子(例えばセルロース)の水親和性の高い官能基が相乗的に作用し、より優れた全熱交換素子用紙を得ることが出来る。吸湿剤としては、ハロゲン化物、酸化物、塩類、水酸化物など一般に知られているものどれも使用できるが、塩化リチウム、塩化カルシウム、燐酸塩などを用いることが吸湿性能が良いことから特に好ましい。これらの化合物には難燃性の効果があるものもあり、基材に難燃性を付与するために混合する場合も含む。」
(2)段落【0021】
「本発明の無孔質全熱交換素子用紙は、厚みが100μm以下であり、かつJIS K 7126において規定される二酸化炭素透過係数が5.0×10^(-13)mol・m/m^(2)・s・Pa以下であることを特徴としている。当然ながら二酸化炭素などのガス透過係数はおもに高分子基材の分子構造固有の気体の選択透過性を表す指標であるからその単位系からもわかるように厚みの関与がない形になっている。実際の気体透過量は使用した基材の厚みに反比例した量となるため、二酸化炭素の透過量そのものを低減させるのであれば全熱交換素子用紙は厚いほどその遮蔽性が高くなる。しかし全熱交換素子用紙の厚みが厚くなると同時に水蒸気の透過性も低下するため全熱交換素子としての機能を満足できなくなる。したがって熱交換性を阻害しない厚みである必要があり、・・・」
(3)段落【0025】
「本発明においては、厚みが8μm?50μmのコンデンサーペーパー、トレーシングペーパーまたはグラシンぺーパーに、吸湿剤を含有させた無孔質全熱交換素子用紙が好ましい。」
5 甲5の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲5には、次の記載がある。
(1)段落【0005】?【0006】
「静止型全熱交換器の全熱交換器用素子3に用いる全熱交換器用シートは、顕熱を移動可能であるとともに、湿気を透過させることで潜熱も移動可能であると、熱交換効率が高くなる。このようなシートとしては、例えば和紙やパルプ製難燃紙、ガラス繊維混抄紙、無機粉末含有混抄紙などを用いた全熱交換器用シートが挙げられる。しかし、通常の紙であると空気も透過してしまうので、例えば特許文献1の実施例に記載の、ポリエチレンやポリテトラフルオロエチレンなどを素材とする多孔質シートの片面に水蒸気を透過させ得る非水溶性の親水性高分子薄膜を形成した複合透湿膜などのように、透湿膜を有するシートとして用いることが行われている。
【特許文献1】特許第2639303号公報」
(2)段落【0034】
「この発明にかかる全熱交換器用シートは、厚さが100μm以下であることが好ましく、80μm以下であるとより好ましい。100μmを超えると、厚くなりすぎて透湿性が十分でなくなるおそれがある。一方で、15μm以上であることが好ましく、20μm以上であるとより好ましい。15μm未満であると、強度が十分ではなく、加工中や使用中に破れるおそれが高まるためである。」
(3)段落【0035】
「具体的には、この発明にかかる全熱交換器用シートのガスバリア性は、透気度が紙パルプ技術協会規格JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法による測定で、透湿度等の全熱交換器用シートに求められる物性を妨げない限り、高ければ高いほど好ましい。現実的には3000秒以上であると好ましく、10000秒以上であるとより好ましい。3000秒未満となるほど透気度が低いと、全熱交換器に用いた際に、仕切るべき供給気体と排出気体とが混合されてしまうおそれが高くなる。」
(4)段落【0063】
「(実施例4)
親水性繊維として木材パルプを100%含有する、片面をカレンダー処理された片艶クラフト紙(城山製紙(株)製:OP、坪量65g/m^(2)、厚さ91.3μm)に、セルロース濃度が4.8重量%のビスコースを実施例1と同様に塗布して、同様の処理を行い、セルロース塗工量2.2g/m^(2)、厚さ94.0μmの親水性高分子加工シートを得た。・・・」
(5)段落【0071】
「(実施例8)
実施例4において用いる片艶クラフト紙を、厚さがより薄い片艶クラフト紙(城山製紙(株)製:OP、坪量35g/m2、厚さ53μm)に変えた以外は実施例4と同様の処理を行い、セルロース塗工量2.5g/m2、厚さ52μmの親水性高分子加工シートを得た。この親水性高分子加工シートについて、実施例4と同様に透湿度、透気度の測定を行うとともに、実施例6と同様の難燃性試験を行った。・・・」
6 甲6の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲6には、次の記載がある。
(1)特許請求の範囲
「【請求項1】
基紙の少なくとも片面にセルロースナノファイバーからなる塗工層を設けた耐油紙。
【請求項2】
前記セルロースナノファイバーは、その水溶液濃度が2質量%の際、B型粘度(60rpm、20℃)が500?2000mPa・sであることを特徴とする請求項1記載の耐油紙。
【請求項3】
前記セルロースナノファイバーは、セルロース系原料に、N-オキシル化合物、並びに臭化物、ヨウ化物又はこれらの混合物の存在下で、酸化剤を添加し、水中にて前記セルロース系原料を処理して酸化されたセルロースを調製し、該酸化されたセルロースを湿式微粒化処理してナノファイバー化されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の耐油紙。
【請求項4】
前記基紙が、ショッパーろ水度85?90°SRの製紙用天然繊維により抄紙された坪量30?60g/m^(2)の紙であり、前記セルロースナノファイバーの塗工量が0.2g/m^(2)以上であり、さらに、透気抵抗度が45,000秒以上であり、かつ、透湿度が2,000g/m^(2)・24hr以上であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の耐油紙。」
(2)段落【0001】?【0002】
「本発明は、耐油紙に関するものであり、詳しくは、油分を多く含んだ食品と接触するシートであり、良好な耐油性と水蒸気透過性、内容物が外から見え難い不透明性、有害物質を含まない安全性、資源の再利用可能な離解性(リサイクル性)を有する食品包装用紙に関する。
【背景技術】
惣菜類のような調理済食品やハンバーガー等のファーストフードを店頭において包装する場合には、耐油性と水蒸気透過性を有する耐油紙を袋状にした包装材が使用されてきた。」
(3)段落【0010】
「グラシン紙やトレーシングペーパー、剥離紙用原紙、パーチメント紙などは油に対するバリア性が高いため、フッ素系化合物の登場以前から耐油性の要求される用途に耐油紙として転用されてきた。これらの紙は、高度に叩解した原料を用い、スーパーカレンダー加工を併用して空隙が少ない紙層構造を形成させたり、紙層表面を硫酸で溶解してフィルム状にして空隙部分を小さくしているため、油の透過はある程度抑えることができるものの、紙層内に僅かに残る空隙へ油が浸透するため油しみを皆無にすることは困難であった。」
(4)段落【0011】
「更に、原料を高度に叩解しているため紙層の透明性が高く、油にまみれた内容物が外から見えたり、耐油紙に付着した油が紙をさらに透かして見せ、あたかも油が紙を透過して染み出ているように感じられるため、外観が悪くなるという難点があった。」
(5)段落【0018】
「本発明が解決しようとする課題は、油性食品と接触した場合に油が紙を通過して反対面に漏れ出さず、付着した油が耐油紙の表面に広がりにくく、油が染み込んだような外観を呈さない耐油性を有し、加熱直後の揚げ物から発散する水蒸気を透過させる水蒸気透過性を有し、内容物が外から見え難い不透明性、有害物質を含まない安全性、資源の再利用可能な離解性(リサイクル性)を兼備する耐油紙を提供することにある。」
(6)段落【0022】
「本発明の製紙用添加剤であるセルロースナノファイバーは、水に分散させると透明な液体となり、適度な粘調性を示すので、所望の濃度に調整するだけで塗料として好適に使用できる。好ましくは、水溶液濃度2質量%の際、B型粘度(60rpm、20℃)が500?2000mPa・sであることが好ましい。このようなセルロースナノファイバーは、例えば、セルロース系原料をN-オキシル化合物と、並びに臭化物、ヨウ化物又は混合物の存在下で、酸化剤を添加して、前記セルロース系原料を処理して酸化されたセルロースを調製し、さらに該酸化されたセルロースを湿式微粒化処理してナノファイバー化することによって製造することができる。」
(7)段落【0030】
「本発明のセルロースナノファイバーは、幅2?5nm、長さ1?5μm程度のセルロースシングルミクロフィブリルである。また、カルボキシル基量としては0.5mmol/g以上であるものが望ましい。このセルロースナノファイバーを紙に塗工すると、透気抵抗度を向上させることができ、さらに油の浸透抑制、バリア性の向上等の機能を付与することができる。」
(8)段落【0031】
「上述したセルロースナノファイバーは、基紙に内添してもよいし、外添(表面に塗工)してもよいが、外添の方がセルローナノファイバーを紙表面付近に多く存在させることが可能であり、バリア性の向上の点では好ましい。このため、本発明においては、セルロースナノファイバーを含有する塗工液を基紙表面に塗布した後、乾燥機等で乾燥し、基紙表面にセルロースナノファイバーを含有する塗工層を設ける。」
(9)段落【0032】
「本発明において、セルロースナノファイバーの好ましい塗工量は、片面当たりの塗工量として0.2g/m^(2)以上であり、好ましくは0.5g/m^(2)以上である。セルロースナノファイバーの塗工量が少ないと前述した効果が小さくなる傾向がある。塗工量が多いほど油の浸透抑制、バリア性が向上するが、耐油紙の柔軟性が損なわれる傾向がある。」
(10)段落【0033】
「また、セルロースナノファイバーからなる塗工層には、必要に応じて水溶性樹脂、樹脂エマルジョン、サイズ剤、耐水化剤、撥水剤、填料等の薬品を、本発明の効果を損なわない程度に混合して使用できる。」
(11)段落【0039】
「かくして、本発明の耐油紙に用いる基紙が得られるが、この後、基紙には、紙層構造内に存在する空隙を充填しかつ紙表面を覆う塗工層を形成させるために前記セルロースナノファイバーを主剤とする塗工層が塗設される。
また、塗工紙は、必要に応じてスーパーカレンダー加工を施すことにより、耐油性、平滑性、印刷適性を高めることができる。」
(12)段落【0043】
「(セルロースナノファイバー分散液の製造)
粉末セルロース(日本製紙ケミカル(株)製、粒径24μm)15g(絶乾)を、TEMPO(SigmaAldrich社)78mg(0.5mmol)と臭化ナトリウム755mg(5mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、粉末セルロースが均一に分散するまで攪拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素5%)50ml添加した後、0.5N塩酸水溶液でpHを10.3に調整し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHは低下するが、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。2時間反応した後、遠心操作(6000rpm、30分、20℃)で酸化した粉末セルロースを分離し、十分に水洗することで酸化処理した粉末セルロースを得た。酸化処理した粉末セルロースの2%(w/v)スラリーをミキサーにより12,000rpm、15分処理し、さらに粉末セルローススラリーを超高圧ホモジナイザーにより140MPaの発送圧力で5回処理したところ、透明なゲル状分散液が得られた。得られた2%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液のB型粘度(60rpm、20℃)は890mPa・sであった。」
(13)段落【0044】
「[実施例2]
ろ水度90°SRに叩解した針葉樹クラフトパルプを用いた坪量40g/m^(2)の紙に対して、前述のセルロースナノファイバー分散液をバー塗工にて両面合計0.24g/m^(2)となるように塗工した後、乾燥してシートを得た。」
(14)段落【0050】
「実施例、比較例でそれぞれ作成したシートを用いて下記の測定を行い、結果を表1、2に示した。試験方法を下記に示す。
(1)透気抵抗度:JapanTAAPI紙パルプ試験方法No.5-2:2000に従い、王研式
(2)平滑度透気度試験器により測定した。
(3)透湿度:JISK7129に従い、温度40±0.5℃、相対湿度90±2%の条件下で、透湿度測定器(Dr.Lyssy社製、L80-4000)を用いて測定した。
(4)JIS耐油度:JISP8146-1976に記載の紙の耐油度試験方法に従った。
(5)不透明度:白色度計(村上色彩(株)製、CMS-35SPX)を用いて測定した。
(6)油適下後不透明度:実施例および比較例で作成した紙にオリーブ油を1ml滴下し、60℃乾燥機中で1時間放置後にオリーブ油を拭き取り、不透明度を測定した。
(7)揚げ物を入れた際の結露の発生:得られたシートを袋状にした中に、揚げ物を入れ、結露の状態を目視で観察した。」
(15)段落【0051】、【表1】



(16)段落【0052】、【表2】



(17)段落【0055】
「また、実施例2,3と比較例2の油滴下後不透明度を比較すると、セルロースナノファイバーを塗布した実施例2,3の方が不透明度は高かった。このことから紙にナノファイバーを塗布することで、揚げ物から油が紙へ染み込むことを防ぎ、外観を損なうことなく使用できることが示唆された。
以上のことから、実施例1?3の耐油紙はセルロースナノファイバーを塗工した紙は、耐油性が向上し、揚げ物の衣を過度に柔らかくする結露水を生成させない水蒸気透過性を有し、内容物からの油の染み込みを防ぐことが示された。」
7 甲7の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲7には、次の記載がある。
(1)段落【0019】
「また、仕切板4には、給気と排気との間で、気体を混合させることなく、温度とともに湿度の交換を行うため、気体遮蔽性が必要となる。仕切板4は、厚さ方向の透気度(JIS P1887)が、5000秒/100cc(cm^(3))以上のもの、即ち、JIS P1887に準拠した透気度の測定において、面積645mm^(2)の仕切板4を100cm^(3)の空気が透過するのに要する時間が5000秒以上であるものが用いられる。なお、これ以降に示される透気度の数値は、JIS P8117に準じた透気度の測定により得られたものを示している。」
(2)段落【0020】
「仕切板4の厚さは、特に限定されるものではないが、10μmより薄くなると、強度が低下し、また、前述の気体遮蔽性の条件を満たすことが難しくなる。また、100μmを超えると高い透湿性を維持することが難しくなる場合が多い。従って、仕切板4の厚さは、好ましくは10μm?100μmである。」
8 甲8の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲8には、次の記載がある。
(1)1頁7?8行
「1.適用範囲 この規格は,王研式平滑度透気度試験機による紙及び板紙の平滑度並びに透気度(この方法による透気度は,透気抵抗度を意味する。)を測定する方法について規定する。」
(2)3頁下3行?末行
「7.試験結果の表し方 試験結果は,王研式平滑度又は王研式透気度として秒数で示し,平滑度は試験片の表裏それぞれについて,透気抵抗度は表裏を区別せず,その平均値を計算し,・・・」
9 甲9の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲9には、次の記載がある。
(1)258頁5?7行
「序文
この規格は,2003年に第2版として発行されたISO5636-5を基に作成した日本工業規格であるが,対応国際規格には規定されていない王研式透気度試験機による方法を日本工業規格として追加している。」
(2)261頁17?21行
「5.7 試験結果の表し方
5.7.1 ISO透気度を,次の式によって有効数字2けたで計算する。
P=135.3/t
ここに,P:ISO透気度[μm/(Pa・s)]
t:空気100mL(内筒の標線が示す体積)が透過する時間の平均値(s)」

第6 取消理由についての合議体の判断
1 本件発明の新規性進歩性について
(1)取消理由1及び2についての検討
ア 甲1発明について
上記第5、1の摘記から、甲1には、「(a)多孔質シリカ、(b)吸湿性塩、(c)有機繊維及び(d-1)セルロース系フィブリル化繊維であるセリッシュKY-100G(ダイセル化学工業(株)製)を含有する除湿シートであって、(d-1)成分を除湿シートの1質量%?15質量%含有し、また、全熱交換器用シートとして使用可能な除湿シート。」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
イ 対比
(ア)本件発明1は、少なくとも「微細セルロース繊維不織布層に含まれる微細セルロース繊維の割合は50重量%以上100重量%以下であ」る点で、その割合(以下「本件割合」という。)が1質量%?15質量%である甲1発明と相違する。
(イ)そうすると、本件発明1は、甲1発明と同一であるということはできない。以下、相違点について検討する。
ウ 相違点についての判断
(ア)甲1には、上記第5、1(4)に摘記したように、不織布層に含まれる微細セルロース繊維の割合が15質量%を超えると「通気性が悪化したり、抄紙法で除湿用シート状物を製造する場合に、濾水性が悪化したり、抄紙機のワイヤーが目詰まりしたりすることがある」とされており、甲1発明において、本件割合を15質量%を超えて増加させることには、阻害事由があり、当業者が容易になし得たものということはできない。
(イ)前記第5、6(8)には、「セルロースナノファイバーは、基紙に内添してもよいし、外添(表面に塗工)してもよいが、外添の方がセルローナノファイバーを紙表面付近に多く存在させることが可能」と記載されているものの、甲6は、耐油紙に関するものであり、甲1発明とは用途が大きく異なることから、甲1発明に甲6記載事項を適用することにそもそもの困難性があるというべきである。また、甲2?5、甲6?9を検討しても、上記相違点を容易に想到し得るものということはできない。
エ 小括
(ア)したがって、本件発明1は、甲1発明と同一であるとはいえず、また、甲1発明及び甲2?9に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明ということもできない。
(イ)本件発明2及び6は、本件発明1を包含し、更に特定を加えた発明であるから、本件発明1の検討と同様に甲1発明と同一であるということはできない。
(ウ)本件発明2?7は、本件発明1を包含し、更に特定を加えた発明であるから、本件発明1の検討と同様に甲1発明及び甲2?9に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明ということはできない。
(2)取消理由3についての検討
ア 甲6発明について
上記第5、6に摘記した甲6には、「ろ水度90°SRに叩解した針葉樹クラフトパルプを用いた坪量40g/m^(2)の紙に対して、幅2?5nm、長さ1?5μm程度のセルロースシングルミクロフィブリルであるセルロースナノファイバーをバー塗工にて両面合計0.24g/m^(2)となるように塗工した後、乾燥して得た耐油紙。」の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。
イ 対比・判断
(ア)本件発明1と甲6発明とを対比すると、本件発明1が「全熱交換器用シート」であるのに対し、甲6発明が食品包装などに用いられる「耐油紙」である点で相違する。そして、甲6には、「耐油紙」以外の用途については記載も示唆もされておらず、「耐油紙」が「全熱交換器用シート」に転用可能なことが本件優先日前に知られていたと認めるに足りる証拠はない。このような転用は当業者が容易になし得ることということはできない。
(イ)申立人は、甲6発明の透気抵抗度及び透湿度が、本件発明1で要求される水準よりも高いため、全熱交換器用シートに転用することは容易である旨主張しているが、前記第5、3(1)において摘記したように、全熱交換器用シートの性能は、透気抵抗度と透湿度のみで評価されるのではなく、伝熱性も必要であると認められる。甲6には、伝熱性については記載も示唆もないから、本件優先日前に甲6発明に接した当業者が全熱交換器用シートへの転用を思い至るということはできない。申立人の主張は、事後分析的なものであり採用できない。
ウ 小括
したがって、本件発明1は、甲6発明及び甲1?5、7?9に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明ということはできない。また、本件発明2?7は、本件発明1を包含し、更に特定を加えた発明であるから、同様に甲6発明及び甲1?5、7?9に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明ということはできない。
2 申立人意見書における申立人の主張について
(1)本件特許に係る出願の審査経過について
ア 申立人は、申立人意見書において、訂正により本件発明1に加入された「該微細セルロース繊維不織布層に含まれる微細セルロース繊維の割合が50重量%以上100重量%以下であり、該微細セルロース繊維不織布層の目付が総和として1g/m^(2)以上15g/m^(2)以下であり、」という発明特定事項が、本件特許の審査段階において補正により削除された請求項の発明特定事項と重なることをもって、本件訂正により進歩性を生じることはないと主張している。
イ 合議体の理解では、上記アの主張は、本件発明に対する甲1発明からの進歩性欠如の主張を補強するものと解されるので、以下検討する。
ウ 平成29年7月14日の手続補正(以下「本件補正」という。)の前(出願時)の特許請求の範囲は以下のとおりである。
「【請求項1】
微細セルロース繊維からなる微細セルロース繊維不織布層を少なくとも一層含む多層構造体であって、該微細セルロース繊維不織布層を形成する微細セルロース繊維の平均繊維径が0.005μm以上0.5μm以下であり、さらに該多層構造体の平均厚みが10μm以上200μm以下、密度が0.10g/cm^(3)以上0.90g/cm^(3)以下、かつ、透気抵抗度が2000s/100ml以上であることを特徴とする多層構造体。
【請求項2】
2層構造であり、かつ、該多層構造体の平均厚みが10μm以上150μm以下、密度が0.30g/cm^(3)以上0.80g/cm^(3)以下、かつ、透気抵抗度が3000s/100ml以上である、請求項1に記載の多層構造体。
【請求項3】
前記微細セルロース繊維不織布層に含まれる微細セルロース繊維の割合が50重量%以上100重量%以下である、請求項1又は2に記載の多層構造体。
【請求項4】
前記微細セルロース繊維不織布層の目付の総和が1g/m^(2)以上15g/m^(2)以下、かつ、厚みの総和が0.5μm以上15μm以下である、請求項1?3のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項5】
前記多層構造体の一層が、再生セルロース繊維、天然セルロース繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、及びポリオレフィン繊維からなる群から選ばれるいずれか一つ又は複数の組合せから構成される不織布層、及び/又は多孔質膜、及び/又は布帛である、請求項1?4のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項6】
前記多層構造体の一層が、再生セルロース連続長繊維からなる不織布層である、請求項1?4のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項7】
前記多層構造体は耐水処理されたものである、請求項1?6のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項8】
前記多層構造体は親水化処理されたものである、請求項1?7のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項9】
請求項1?8いずれか1項に記載の多層構造体からなる全熱交換器用シート。
【請求項10】
前記多層構造体の平均厚みが10μm以上70μm以下である、請求項9に記載の全熱交換器用シート。
【請求項11】
前記多層構造体の平均厚みが10μm以上30μm以下である、請求項10に記載の全熱交換器用シート。
【請求項12】
前記多層構造体は難燃処理されたものである、請求項9?11のいずれか1項に記載の全熱交換器用シート。
【請求項13】
前記多層構造体を構成する素材に占めるセルロース繊維の割合が90重量%以上である、請求項9?12のいずれか1項に記載の全熱交換器用シート。
【請求項14】
以下の工程:
不織布層上に平均繊維径が0.005μm以上0.5μm以下である微細セルロース繊維不織布層を抄紙法により積層形成させる工程、及び
得られた積層不織布を乾燥させる工程、
を含む、請求項1?6のいずれか1項に記載の多層構造体の製造方法。
【請求項15】
前記乾燥工程の後に、熱処理する工程をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
以下の工程:
請求項1?8のいずれか1項に記載の多層構造体の片面又は両面に親水性塗工層を塗工により形成させる工程、
を含む、請求項14に記載の多層構造体の製造方法。
【請求項17】
請求項9?13のいずれか1項に記載の全熱交換器用シートを、温度、湿度又はその両方が異なる二種類の気流を仕切る仕切り材として用いた全熱交換素子。
【請求項18】
請求項17に記載の全熱交換素子を用いた全熱交換器。」
エ 上記のように、本件補正は、「多層構造体」に係る請求項を全て削除したものである。そもそも、補正は出願人の意志により自由に行えるものであるから、本件補正前の、請求項3及び4を削除したからといって、請求項3及び4に係る発明に対する拒絶理由を承服したということもできない。申立人の主張は、その前提において誤りがあり、採用できない。
3 取消理由1?3についてのまとめ
(1)本件発明1,2及び6は、甲1発明と同一であるといえないから、特許法第29条第1項第3号に該当する特許を受けることができない発明であるといえない。
(2)本件発明1?7は、本件優先日前に頒布された刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明ということはできないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。
(3)したがって、本件発明1?7に係る特許は特許法第113条第2号に該当せず、本件発明1?7に係る特許を取り消すことはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び申立人意見書に記載した理由によっては、本件発明1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細セルロース繊維からなる微細セルロース繊維不織布層を少なくとも一層含む多層構造体であって、該微細セルロース繊維不織布層を形成する微細セルロース繊維の平均繊維径が0.005μm以上0.5μm以下であり、該微細セルロース繊維不織布層に含まれる微細セルロース繊維の割合が50重量%以上100重量%以下であり、該微細セルロース繊維不織布層の目付が総和として1g/m^(2)以上15g/m^(2)以下であり、さらに該多層構造体の平均厚みが10μm以上200μm以下、密度が0.10g/cm^(3)以上0.90g/cm^(3)以下、かつ、透気抵抗度が2000s/100ml以上であることを特徴とする多層構造体からなる全熱交換器用シート。
【請求項2】
前記多層構造体の平均厚みが10μm以上70μm以下である、請求項1に記載の全熱交換器用シート。
【請求項3】
前記多層構造体の平均厚みが10μm以上30μm以下である、請求項2に記載の全熱交換器用シート。
【請求項4】
前記多層構造体は難燃処理されたものである、請求項1?3のいずれか1項に記載の全熱交換器用シート。
【請求項5】
前記多層構造体を構成する素材に占めるセルロース繊維の割合が90重量%以上である、請求項1?4のいずれか1項に記載の全熱交換器用シート。
【請求項6】
請求項1?5のいずれか1項に記載の全熱交換器用シートを、温度、湿度又はその両方が異なる二種類の気流を仕切る仕切り材として用いた全熱交換素子。
【請求項7】
請求項6に記載の全熱交換素子を用いた全熱交換器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-11-15 
出願番号 特願2014-525886(P2014-525886)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (B32B)
P 1 651・ 121- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岩田 行剛  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 門前 浩一
井上 茂夫
登録日 2017-08-10 
登録番号 特許第6189842号(P6189842)
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 微細繊維セルロース層を含む多層構造体  
代理人 青木 篤  
代理人 三間 俊介  
代理人 三間 俊介  
代理人 三橋 真二  
代理人 中村 和弘  
代理人 齋藤 都子  
代理人 中村 和広  
代理人 三橋 真二  
代理人 齋藤 都子  
代理人 青木 篤  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ