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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09K
管理番号 1347666
異議申立番号 異議2017-701127  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-30 
確定日 2018-11-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6134955号発明「地盤注入用固結材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6134955号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6134955号の請求項1、2、4及び5に係る特許を維持する。 特許第6134955号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6134955号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成22年9月8日に出願され、平成29年5月12日にその特許権の設定登録がされ、同年11月30日に、その特許について、特許異議申立人たか野元子(「たか」は、「はしごだか」)により、特許異議の申立てがされ(以下、特許異議申立人を単に「申立人」ということもある。)、平成30年1月26日付けで取消理由が通知され、同年3月30日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して、同年5月9日に申立人から意見書が提出され、同年5月29日付けで特許権者に対し審尋がなされ、同年8月3日に回答書が提出され、同年9月4日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ、同年11月5日に意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「SiO_(2)/Na_(2)Oで表されるモル比が3.8?5.3でありSiO_(2)濃度が17質量%以上である高モル比珪酸ソーダと、酸成分と、水とを混合することにより得られる地盤注入用固結材であって、
(1)前記高モル比珪酸ソーダは、珪酸ソーダと活性珪酸とを混合することによりSiO_(2)/Na_(2)Oで表されるモル比が3.8?5.3である混合液を調製後、当該混合液を濃縮して当該混合液のSiO_(2)濃度を17質量%以上に調整することにより得られ、
(2)前記活性珪酸は、珪酸コロイド溶液である、ことを特徴とする地盤注入用固結材。」とあるのを、
「SiO_(2)/Na_(2)Oで表されるモル比が4.8?5.3でありSiO_(2)濃度が17?23質量%である透明な高モル比珪酸ソーダと、酸成分と、水とを混合することにより得られる地盤注入用固結材であって、
(1)前記透明な高モル比珪酸ソーダは、珪酸ソーダと活性珪酸とを混合することによりSiO_(2)/Na_(2)Oで表されるモル比が4.8?5.3である混合液を調製後、当該混合液を濃縮して当該混合液のSiO_(2)濃度を17?23質量%に調整することにより得られ、
(2)前記活性珪酸は、珪酸コロイド溶液である、
ことを特徴とする地盤注入用固結材。」と、訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2、4及び5も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4が、請求項3を引用しないものとする。
(請求項4の記載を引用する請求項5も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5が、請求項3を引用しないものとする。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び、一群の請求項について
(1)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1において、
(ア)本件明細書の【0050】の「実施例1?3及び比較例1?3」について、「先ず、下記表4に示される各種珪酸材料を用意した。モル比5.1、モル比4.8及びモル比5.3の高モル比珪酸ソーダは前記試験例1?35の製造方法に倣って調製した。」という記載等に基づき、「SiO_(2)/Na_(2)Oで表されるモル比」の下限値が3.8だったものを、より大きい値の4.8に限定し、
(イ)同【0019】の「次いで、混合液を濃縮して混合液のSiO_(2)濃度を17質量%以上に調整する。濃縮の程度は最終製品の用途に応じて適宜設定できるが、安定性と取扱性とを考慮すると、17?23質量%が好ましく」という記載等に基づき、「SiO_(2)濃度」の上限値が特定されていなかったものを、上限値を「23質量%」に限定し、さらに、
(ウ)同【0049】の【表3】の下段には、「高モル比珪酸ソーダ」の「※変化レベルの説明」について、「0:変化なし,1.微かに白濁発生,2:白濁進行(半透明),3:白濁進行(不透明),4:部分ゲルまたは一部沈降,5:沈降(上澄みあり)」と記載されていて、これは、「変化レベル」の数値が大きくなると、「微かに白濁発生(1)」から「半透明(2)」、そして「不透明(3)」へと変化することを示すものであって、「0:変化なし」は、「微かに白濁発生(1)」する手前の「高モル比珪酸ソーダ」の特性、すなわち、「透明な」状態であることを示すものであるところ、これに基づいて、「高モル比珪酸ソーダ」を限定するものと認められる。

なお、「0:変化なし」で示される「高モル比珪酸ソーダ」は、珪酸ソーダと活性硅酸とを混合し濃縮して得られるものであり、珪酸ソーダ及び活性硅酸は、いずれも、一応、「透明な」ものであるといえるから、得られた「高モル比珪酸ソーダ」も、一応、「透明な」ものであると解することができる。

そうすると、上記訂正事項1の上記(ア)?(ウ)の訂正は、いずれも特許請求の範囲を減縮しようとするものであり、しかも、上記訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項1は、請求項1の記載を引用する請求項2、4及び5についても同様に訂正するものである。

イ 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項4が請求項1?3のいずれかの記載を引用する記載であるところ、訂正事項2に係る訂正に伴い、多数項を引用している請求項4において、引用先の請求項3を削除し、引用請求項数を減少する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められ、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項5が請求項1?4のいずれかの記載を引用する記載であるところ、訂正事項2に係る訂正に伴い、多数項を引用している請求項5において、引用先の請求項3を削除し、引用請求項数を減少する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められ、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)一群の請求項について
訂正前の請求項1?5について、請求項2が請求項1を引用し、請求項4が請求項1?3を引用し、請求項4が請求項1?3を引用し、請求項5が請求項1?4を引用する関係にあるから、訂正の請求は一群の請求項ごとにされたものである。

(3)まとめ
上記(1)、(2)より、訂正事項1?4は、特許法第120条の5第2項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。

第3 本件発明について
本件特許の明細書の特許請求の範囲について、上記のとおり訂正が認められるから、本件特許の請求項1、2、4及び5に係る発明(以下、「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、2、4及び5に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
SiO_(2)/Na_(2)Oで表されるモル比が4.8?5.3でありSiO_(2)濃度が17?23質量%である透明な高モル比珪酸ソーダと、酸成分と、水とを混合することにより得られる地盤注入用固結材であって、
(1)前記透明な高モル比珪酸ソーダは、珪酸ソーダと活性珪酸とを混合することによりSiO_(2)/Na_(2)Oで表されるモル比が4.8?5.3である混合液を調製後、当該混合液を濃縮して当該混合液のSiO_(2)濃度を17?23質量%に調整することにより得られ、
(2)前記活性珪酸は、珪酸コロイド溶液である、ことを特徴とする地盤注入用固結材。
【請求項2】
前記モル比が5.0を超えて5.3以下である、請求項1に記載の地盤注入用固結材。
【請求項4】
前記珪酸ソーダは、SiO_(2)/Na_(2)Oで表されるモル比が3?5であり、且つ、SiO_(2)濃度が10?30質量%である、請求項1又は2に記載の地盤注入用固結材。
【請求項5】
前記活性珪酸は、SiO_(2)濃度が3?6質量%である、請求項1、2、及び4のいずれかに記載の地盤注入用固結材。」

第4 取消理由の概要
1.平成30年9月4日付けの取消理由通知(決定の予告)において、請求項1、2、4及び5に係る発明の特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)(実施可能要件)本件の発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、上記請求項に係る特許は、取り消されるべきものである。
(2)(サポート要件)本件の特許請求の範囲の請求項1、2、4及び5の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、上記請求項に係る特許は、取り消されるべきものである。

特許権者は、平成30年8月3日付けの回答書において、本件発明1、2、4及び5における「透明な高モル比珪酸ソーダ」について、その「透明」の程度は「JIS K0101(工業用水試験方法)に定められた濁度において5以下である」(1頁下から5?4行)旨主張しているので、その主張に基づき、本件発明の特許性について検討を行う。

上記主張によれば、本件発明1、2、4及び5の「透明な高モル比珪酸ソーダ」には、「JIS K0101(工業用水試験方法)に定められた濁度において5以下である」ものが含まれることになる。
そして、該「濁度」の測定に用いられた標準液が、カオリン標準液なのか、ホルマジン標準液なのかは判然としないものの、いずれの標準液を用いたとしても、該「濁度」が「5以下である」とは、上水道ないし遊泳用プールの水に匹敵するような、高度に透明なものを示すものといえる。

これに対し、発明の詳細な説明には、上記「JIS K0101(工業用水試験方法)に定められた濁度」についての記載はなく、本件発明1、2、4及び5における「透明な高モル比珪酸ソーダ」の該「濁度」が「5以下」であるという記載もない。

また、本件発明1、2、4及び5における「透明な高モル比珪酸ソーダ」の該「濁度」が「5以下である」ことが、本件の出願前に当業者にとって技術常識であったとは認めることはできないし、当業者が、そのような濁度の「透明な高モル比珪酸ソーダ」を、本件明細書の【0031】?【0040】に記載された調製方法によって調製できることが、当業者にとって明らかであるとはいえない。

そうすると、本件発明1における「SiO_(2)/Na_(2)Oで表されるモル比が4.8?5.3でありSiO_(2)濃度が17?23質量%である高モル比珪酸ソーダ」について、そのモル比及びSiO_(2)濃度の全ての範囲で、「JIS K0101(工業用水試験方法)に定められた濁度」が「5以下である」ことが、測定条件、測定装置、測定の日時、場所、測定者・作成者等を明らかにした、本件明細書に記載された調製方法による再現実験に基づく実験成績証明書の提出等によって示されるのであればともかく、現時点では、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1、2、4及び5の実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しているとは認めることができない。

したがって、本件は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているとはいえない。

また、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1、2、4及び5の実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しているとは認めることができないのであるから、出願時の技術常識に照らしても、請求項1、2、4及び5に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することができない。

したがって、本件は、特許請求の範囲の請求項1、2、4及び5の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているとはいえない。

2.平成30年1月26日付けの取消理由通知において、本件訂正前の請求項1?5に係る発明の特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)(進歩性)本件の請求項1?5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、上記請求項に係る特許は、取り消されるべきものである。

引用例1:特開2004-196922号公報(甲第1号証。以下、単に、「甲1」などという。)
引用例2:特開2000-1674号公報(甲2)

(2)(サポート要件)本件の特許請求の範囲の請求項1?5の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、上記請求項に係る特許は、取り消されるべきものである。

本件発明1は、「SiO_(2)濃度が17質量%以上である高モル比珪酸ソーダ」との発明特定事項を含む。
しかしながら、本件明細書の実施例で具体的に示されているのは最大でSiO_(2)濃度23質量%の高モル比珪酸ソーダに係る例までであるから、これを23質量%を超える範囲まで一般化できるとはいえない。
したがって、本件発明1およびこれに従属する本件発明2?5は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

(3)(明確性要件)本件の特許請求の範囲の請求項1?5の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、上記請求項に係る特許は、取り消されるべきものである。

本件発明1は、「SiO_(2)濃度が17質量%以上である高モル比珪酸ソーダ」との発明特定事項を含む。
しかしながら、「SiO_(2)濃度が17質量%以上」とは、形式的には例えば、「SiO_(2)濃度が100質量%」の場合も含むものであって、これは本件発明1における「SiO_(2)/Na_(2)Oで表されるモル比が3.8?5.3である高モル比珪酸ソーダ」との発明特定事項と矛盾するものといえるので、本件発明1に係る発明は、「SiO_(2)濃度が17質量%以上である高モル比珪酸ソーダ」との発明特定事項を含む結果、不明確なものとなっている。
したがって、本件発明1およびこれに従属する本件発明2?5は、明確性要件を満足しない。

3.判断
3-1.平成30年9月4日付けの取消理由通知(決定の予告)について
(1)平成30年11月5日付けの意見書における主張
特許権者は、上記取消理由通知(決定の予告)に対して、上記意見書において、2018年10月1?5日に、富士化学株式会社の中津川テクニカルセンターと名古屋工場において、本件特許に係る発明の発明者である磯部弘及び笹原茂生を含む磯部弘、笹原茂生、浅若博孝、松田貴文及び徳永貴大の5名が、本件明細書に記載された高モル比珪酸ソーダの調製方法に基づく実験を行い、得られた高モル比珪酸ソーダは全て、JIS K0101(工業用水試験方法)に定められた濁度において5度(カオリン)以下であることが確認された旨を主張している。

(2)検討・判断
そこで、該意見書に記載された実験について検討する。
ア 「A.試料の調製」において記載された調製方法は、本件明細書の【0031】?【0038】に記載された高モル比珪酸ソーダの調製方法に従うものといえる。
そして、「B.成分分析」において示された[表1]のサンプル(番号1?7)は、本件明細書の【表2】(【0048】)に示されたサンプルのいずれかと、Na_(2)O濃度、SiO_(2)濃度、SiO_(2)/Na_(2)Oで表されるモル比に関して、大きく相違しない値を有するものといえる。
そうすると、該実験の高モル比珪酸ソーダの調製方法は、本件明細書の実施例における高モル比珪酸ソーダの調製方法を再現した実験と認めることができる。

イ また、「C.濁度の測定」において記載された濁度の測定は、JIS K0101(工業用水試験方法)に従うものといえる。
そして、「D.濁度測定結果」において記載された濁度の値からみて、該実験において、「SiO_(2)/Na_(2)Oで表されるモル比が4.89?5.20でありSiO_(2)濃度が17.53?20.16質量%である高モル比珪酸ソーダ」について、「JIS K0101(工業用水試験方法)に定められた濁度」が「2.6?4.3度(カオリン)以下である」ことが示されているといえる。

そして、本件発明1における「SiO_(2)/Na_(2)Oで表されるモル比が4.8?5.3でありSiO_(2)濃度が17?23質量%である高モル比珪酸ソーダ」のうち、該実験で示されない範囲のもの(「SiO_(2)/Na_(2)Oで表されるモル比が4.8?4.89又は5.20?5.3でありSiO_(2)濃度が17?17.53又は20.16?23質量%である高モル比珪酸ソーダ」)について、該モル比やSiO_(2)濃度の僅かな違いによって濁度が急激に変化するとはいえないことから、それらが、「JIS K0101(工業用水試験方法)に定められた濁度」が「5度(カオリン)」を超えるものとなるということはできない。

ウ 以上のことから、該意見書の記載を参酌すれば、本件発明1における「SiO_(2)/Na_(2)Oで表されるモル比が4.8?5.3でありSiO_(2)濃度が17?23質量%である高モル比珪酸ソーダ」について、そのモル比及びSiO_(2)濃度の全ての範囲で、「JIS K0101(工業用水試験方法)に定められた濁度」が「5以下である」ものが、本件明細書の【0031】?【0040】に記載された調製方法によって調製できないとはいえないことから、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1、2、4及び5の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載していない、とすることはできない。
また、そうであるから、請求項1、2、4及び5に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することができない、とすることもできない。

エ したがって、上記実施可能要件及びサポート要件に関する取消理由は解消した。

3-2.平成30年1月26日付けの取消理由通知について
(1)進歩性について
ア 引用例の記載
(ア)引用例1
引用例1には、次の記載がある。
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は活性シリカを用いたアルカリ性シリカ溶液からなるコロイド状の地盤注入用アルカリ性シリカ、その製造装置および地盤固結材に係り、特にコロイド状とすることによりアルカリ性?酸性に至る広い範囲で、長いゲル化時間と、安定したゲル化が得られ、かつゲルの収縮やシリカの溶出がなく、長いゲル化時間でも高強度を呈して耐久性に優れ、さらに、シリカ(SiO_(2))濃度が低くても充分な高強度が得られ、しかも強度の発現が早いのみならず、コンクリート構造物付近や貝殻を多く含むアルカリ性地盤をも確実に固結し、セメント系固結材との併用性にも優れ、かつ、反応剤の使用量を少なくして反応生成物を少なくし、このため低環境負荷にも優れた地盤注入用アルカリシリカ、その製造装置および地盤固結材に関する。」
「【0027】
地盤注入用アルカリ性シリカ
本発明にかかる地盤注入用アルカリ性シリカは基本的には活性シリカおよび水ガラス、または水ガラス以外のアルカリ剤、例えば、苛性アルカリ、アルカリ性塩、等からなり、コロイド状を呈して構成されるが、さらにコロイダルシリカを含有してもよい。この溶液のモル比は4?100程度であり、シリカ濃度は1?30重量%である。」
【0028】
本発明に用いられる活性シリカは水ガラスから、イオン交換樹脂またはイオン交換膜によりアルカリを除去して得られ、あるいは水ガラスと酸を混合してなる酸性珪酸水溶液から、イオン交換樹脂またはイオン交換膜を用いた電気透析によって得られ、シリカ(SiO_(2))濃度が8重量%以下、通常4.5%以下である。」
「【0046】
地盤固結材
本発明にかかる地盤固結材は地盤固結用アルカリ性シリカと、反応剤とから構成される。」
「【0047】
ここで用いられる反応剤は塩、酸または、塩と酸の併用物、有機反応剤、またはセメントおよび/またはスラグ、石灰、石こう等である。」
「【0048】
その他の可溶性塩としては、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム等の硫酸塩や酸性塩、炭酸マグネシウム、ミョウバン、スルファミン酸マグネシウム等の多価金属塩等が挙げられ、このうちでも特に、アルカリ金属塩が均質なゲルをつくるのに適している。また、酸としては、リン酸、硫酸、炭酸、炭酸ガス、スルファミン酸等の無機酸、加水分解して酸性を得る塩、酢酸、クエン酸、グルコン酸等の有機酸、グリオキザール、ジアセチン、トリアセチン、エチレンカーボネート等の有機酸エステル等、が用いられる。これらの塩や酸は単独で、あるいは複数種を組み合わせはて用いられる。本発明では上述のとおり、アルカリ側でゲル化させる場合には塩または酸を用い、また、非アルカリ側でゲル化させるためには酸を用いれば良いが、塩と酸を併用して用いるのが好ましい。」
「【0082】
通常市販されているコロイダルシリカはシリカを加熱濃縮してシリカ濃度30%、PH10付近、粒径10?20nmとしたものである。これに対して、本発明に用いられる活性シリカは粒径が0.1nm付近である。この活性シリカにアルカリ剤または水ガラスを加えてコロイド状にしたシリカコロイドは粒径1?10nmである。これにコロイダルシリカを加えれば、1?20nmの粒径に分布されたコロイド液となる。また、コロイド状のアルカリ性シリカにさらに水ガラスまたは水ガラスと酸を加えたコロイド液はシリカの粒径が0.1?10nmの範囲に分布すると思われている。このように、本発明のコロイド状アルカリ性シリカは大きな粒径のシリカコロイドと、小さな粒径のシリカコロイドが共存して大きなコロイドの安定性と小さなコロイドの活性が備わり、これが注入材としての強度発現を早め、シリカ濃度が薄くても強度を大きくする。」
「【0097】【表1】


「【0099】【表2】


「【0100】
活性シリカ1
3号水ガラスを水で希釈した液を陽イオン交換樹脂に通過して処理し、得られるPH2.7、比重1.03、SiO_(2)=4.0%の活性シリカ。
活性シリカ2
上述と同様にして得られ、PH3.0、SiO_(2) =6.0%のシリカ。」
「【0101】
(3)シリカ液の作成-1
上記活性シリカに苛性ソーダまたは水ガラスを添加して安定化させたシリカ溶液。最初は透明を呈し、一週間静置熟成して半透明のコロイドとした。KClを400cc当たり5g添加すると、全体が均一にゲル化する。これらシリカ液1、2、3を表4以下のシリカ液の製造に用いた。」
「【0106】
3 シリカ溶液の作成-2
表2のシリカ液と、表1の水ガラス水溶液、またはコロイダルシリカとを混合してシリカ液を作成した。これら各試料について室温における安定性とコロイドの生成を判定し、結果を表4?表8に示した。なお、シリカ液2、シリカ液3と、表1の水ガラス1、水ガラス2を組み合わせて種々の比率、濃度で混合し、活性シリカと水ガラスの混合液を作成し、結果を表3に示した。」
「【0107】【表3】


「【0110】【表6】


「【0111】【表7】


「【0119】
以上より、活性シリカの濃度はせいぜい4?6%程度であるが、水ガラスを加えて、表4に示されるように、シリカ濃度が30重量%の濃い安定したコロイド状シリカが形成されることがわかる。本発明のシリカ濃度の最少限は活性シリカの濃度によるが、薄いシリカ濃度の場合、容易に製造可能であるが、地盤固結用には1%以上が好ましい。そして活性シリカに水ガラスを加えることにより活性シリカ単独よりも、同一シリカ濃度で大きな強度が得られる。活性シリカと水ガラスの混合液のシリカ濃度は1%以上、好ましくは3%以上が動水地盤や水圧の大きな地盤の改良に好ましい。したがって、本発明のコロイド状を呈するシリカ濃度の範囲は1?30重量%が好ましい。」
「【0120】
各シリカ液に対して、塩(KCl、KHCO_(3) )、無機酸(H_(2) SO_(4 )、H_(3 )PO_(4 ))、有機酸(クエン酸)、有機反応剤(グリオキザール)を反応剤として用いた固結液のゲル化の試験結果を表9に示す。また、これらの強度と耐久性の試験結果を表10に示す。」
「【0121】【表9】


「【0122】【表10】


「【0125】
表10に土中ゲル化時間と、固結標準砂の強度試験結果、と耐久性(ホモゲルからシリカの溶脱率と収縮率)を示す。コロイド化することにより、土中ゲル化時間におけるゲル化の急速な短縮が生じないため、浸透性が阻害されない。比較例6に比べてシリカ濃度が低いにもかかわらず、酸性領域でなくても、アルカリ領域で強度が高く、強度増加も早いことがわかった。」
「【0125】
表10に土中ゲル化時間と、固結標準砂の強度試験結果、と耐久性(ホモゲルからシリカの溶脱率と収縮率)を示す。コロイド化することにより、土中ゲル化時間におけるゲル化の急速な短縮が生じないため、浸透性が阻害されない。比較例6に比べてシリカ濃度が低いにもかかわらず、酸性領域でなくても、アルカリ領域で強度が高く、強度増加も早いことがわかった。」
「【0126】
なお、本発明ではシリカ液のシリカ濃度が4重量%?23重量%(表3?8)でも、モル比4.0?88まで安定したコロイドを得ることがわかる。活性シリカが薄くても、アルカリを加えてコロイド化でき、このため、シリカ濃度の下限は活性シリカの下限であって、1%であってもかまわない。しかし、強度的ゲル化からいうと、3%以上が好ましい。」
「【0136】
表9、10は種々のシリカ液に反応剤として酸、塩、有機反応剤を用いた固結液のPH、ゲル化時間、強度、ホモゲルからのシリカ溶脱、および収縮率の測定結果を示したものである。また、比較として、アルカリ性水ガラスグラウト、酸性水ガラスグラウト、コロイダルシリカグラウトの例を示す。これより、本発明にかかる固結液はPHがアルカリ領域から酸性領域に至るPH領域で、数秒から数日間のゲル化時間を調整し得、かつ、コロイド化することによりシリカの溶脱も少なく、ホモゲルの収縮も小さいことがわかる。」

(イ)引用例2
引用例2には、次の記載がある。
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、地盤固結剤に関する。詳しくは、安定でかつゲルタイムが長く、浸透性の高い地盤固結剤に関する。」
「【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明を具体的に説明する。本発明の地盤固結剤に用いられる活性珪酸水溶液は、例えば水溶性珪酸塩、すなわち、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸アンモニウムなどをイオン交換法、電気泳動法、電気透析法などにより脱アルカリして得られる。
【0010】上記水溶性珪酸塩としては、モル比1?5の範囲のものを使用するのがよく、実用的にはJIS3号珪酸ナトリウムを水で希釈して用いるのが好ましい。
【0011】すなわち、このような活性珪酸水溶液は、SiO_(2)濃度1?15重量%、好ましくは2?10重量%を含有する水溶液が好ましい。活性珪酸の量が1重量%より少ないと地盤改良のための強度が不足し、15重量%より多いと活性珪酸水溶液のゲル化が起きやすいので好ましくない。」
「【0029】地盤固結剤の製造例2
珪酸ソーダJIS3号品(SiO_(2):29.0%、Na_(2)O:9.0%)を水で希釈し、SiO_(2):3.9%、Na_(2)O:1.2%の希釈珪酸ソーダ水溶液を調製した。この水溶液を予め10%塩酸を用いて通常の方法で調製された水素型陽イオン交換樹脂(オルガノ(株)製アーバンライトIR-120B)塔に通して、pH2.9の活性珪酸水溶液を得た。この活性珪酸水溶液のSiO_(2)濃度は、4.0%であった。」

イ 引用例1に記載された発明(引用発明)の認定
(ア)地盤注入用固結材について
a 引用例1の【0107】の【表3】には、「シリカ液2」は、その成分が、「活性シリカ1」と「水ガラス3」と「水」とからなり、「KCl」でゲル化することが示され、「シリカ液3」は、その成分が、「活性シリカ2」と「水ガラス3」と「水」とからなり、「KCl」でゲル化することが示されている。
また、同【0082】に、「本発明に用いられる活性シリカは粒径が0.1nm付近である。この活性シリカにアルカリ剤または水ガラスを加えてコロイド状にしたシリカコロイドは粒径1?10nmである。」と記載されていることから、「シリカ液」は、「シリカコロイド」であるといえる。
b 同【0001】の「本発明は活性シリカを用いたアルカリ性シリカ溶液からなるコロイド状の地盤注入用アルカリ性シリカ・・・および地盤固結材に係り、・・・長いゲル化時間と、安定したゲル化が得られ、・・・地盤注入用アルカリシリカ、その製造装置および地盤固結材に関する。」という記載からみて、上記「(1)」の、「シリカ液2」又は「シリカ液3」と「KCl」でゲル化するものは、地盤注入用固結材であるといえる。
c そうすると、引用例1には、「活性シリカ1」又は「活性シリカ2」と、「水ガラス3」と、「水」と、「KCl」を混合することにより得られる地盤注入用固結材が記載されているといえる。

(イ)活性シリカについて
同【0100】には、「活性シリカ1」は、「3号水ガラスを水で希釈した液を陽イオン交換樹脂に通過して処理し、得られるPH2.7、比重1.03、SiO_(2)=4.0%の活性シリカ」であって、「活性シリカ2」は、「上述と同様にして得られ、PH3.0、SiO_(2)=6.0%のシリカ」であることが記載されている。

(ウ)シリカ液No.40について
a シリカ液のモル比、総SiO_(2)(%)について
同【0111】の【表7】には、「シリカ液No.40」は、「モル比」が4.97、「総SiO_(2)(%)」が17.85であることが記載されている。
なお、引用例1においては、例えば、【0027】に、「シリカ濃度は1?30重量%」という記載があるように、引用例1の「%」という表記は、重量%を意味するものということができる。
b 同【表7】に、「KClでゲル化」の欄が「○」と記載され、それらの組成は、「シリカ液3」と「水ガラス2」からなるものであるから、上記「(1)ウ」より、「シリカ液No.40」は、KClでゲル化する地盤注入用固結材であるといえる。

(エ)シリカコロイドについて
a 同【0082】には、「これに対して、本発明に用いられる活性シリカは粒径が0.1nm付近である。この活性シリカにアルカリ剤または水ガラスを加えてコロイド状にしたシリカコロイドは粒径1?10nmである。」と記載されていることから、活性シリカにアルカリ剤または水ガラスを加えてコロイド状にしたものは、シリカコロイドであるといえる。
すなわち、シリカ液2、3は、「活性シリカ1」又は「活性シリカ2」と「水ガラス3」と「水」とからなるから、「シリカコロイド」と「水」とからなるといえる。
b 同【表7】には、色の項に、「薄乳白」と記載されている。

(オ)以上のことから、上記シリカ液No.40に着目し、分説して記載すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「A’ SiO_(2)/Na_(2)Oで表されるモル比が4.97でありSiO_(2)濃度が17.85質量%である、薄乳白のシリカ液No.40と、KClと、水とを混合することにより得られる地盤注入用固結材であって、
B’ (1)前記シリカ液No.40は、水ガラスとシリカ液3とを混合することを経て得られ、
C’ (2)前記シリカ液3は、シリカコロイドである、
地盤注入用固結材。」

(カ)また、引用例1には、【0097】の記載に加え、【0028】には、「上述の水ガラスとしては液状水ガラス、紛状水ガラス等、任意の水ガラスが用いられるが、特にモル比SiO_(2)/Na_(2)O=2?6のものであり、特に3?5のものが好ましく、さら好ましくはモル比3.7以上のものである。」と記載されていることから、引用例1には、「前記珪酸ソーダは、SiO_(2)/Na_(2)Oで表されるモル比が3?5であり、且つ、SiO_(2)濃度が10?30質量%である」点も記載されている。

ウ 本件発明と引用発明との対比・判断
(ア)本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」などという。)について
本件発明1と引用発明とを対比する。
a 引用発明における「シリカ液No.40」は、本件発明1における「高モル比珪酸ソーダ」と同等のモル比及びSiO_(2)濃度を有しており、かつ、該「シリカ液No.40」に含まれる「コロイド状アルカリ性シリカ」は、「大きな粒径のシリカコロイドと、小さな粒径のシリカコロイドが共存して」「粒径が0.1?10nmの範囲に分布」している(引用例1の【0082】)。
これに対し、本件発明1における「高モル比珪酸ソーダ」について、本件明細書には、「コロイド領域のシリカ粒子を含むが低分子量の珪酸種を多く含んでおり、コロイダルシリカではなく珪酸ソーダに属する」(本件明細書の【0043】)という記載があり、本件発明1における「高モル比珪酸ソーダ」と引用発明における「シリカ液No.40」とは、シリカの粒径の点でも同等のものと考えられる。
そうすると、本件発明1における「SiO_(2)/Na_(2)Oで表されるモル比が4.8?5.3でありSiO_(2)濃度が17?23質量%である透明な高モル比珪酸ソーダ」と、引用発明における「SiO_(2)/Na_(2)Oで表されるモル比が4.97でありSiO_(2)濃度が17.85質量%である薄乳白のシリカ液No.40」とは、「SiO_(2)/Na_(2)Oで表されるモル比が4.8?5.3でありSiO_(2)濃度が17?23質量%である高モル比珪酸ソーダ」である点で共通する。
b 引用発明の「水ガラス」は、「珪酸ソーダ」とも呼ばれることは技術常識であるから、本件発明1の「珪酸ソーダ」に相当する。
c 引用発明の「シリカ液3」は、活性珪酸であるかどうかは明らかではないものの、本件発明1の「高モル比珪酸ソーダは珪酸ソーダと活性珪酸とを混合することにより」「得られ」る構成と、引用発明の「シリカ液No.40は、水ガラスとシリカ液3とを混合することを経て得られ」る構成とは、高モル比珪酸ソーダは珪酸ソーダとシリカ液とを混合することにより得られる点で共通する。
d 引用発明における「地盤注入用固結材」は、本件発明1における「地盤注入用固結材」に相当する。
e 引用発明の「シリカ液3」は、活性シリカ2と、水ガラス3と、水とからなり、後述するように、その固形分の粒径は、本件発明1の「珪酸コロイド溶液」の固形分の粒径と同等であり、「活性シリカ」を含むのであるから、引用発明における「前記シリカ液3は、シリカコロイドである」点は、本件発明1における「前記活性珪酸が、珪酸コロイド溶液である」点に相当する。
すなわち、本件発明1における「珪酸コロイド溶液」は、「珪酸ソーダの水希釈液をイオン交換又は電気透析により脱アルカリ処理することにより得られる」ものとされており(本件明細書の【0016】)、平成28年12月5日付けで提出の意見書において本件特許権者が、「当業者は、活性珪酸については、珪酸ソーダのアルカリ分を殆ど又は完全に除去(脱アルカリ)した珪酸コロイド溶液であって、固形分の粒径(1?2μm程度)は、当業者に周知のいわゆるコロイダルシリカの固形分の粒径よりも小さいと理解しています。」と述べているように、活性珪酸はコロイダルシリカの粒径よりも小さい粒径を有するものと考えられる。(この点、本件明細書の記載「通常、地盤注入用固結材に用いられるコロイダルシリカに含まれるシリカ(SiO_(2))の平均粒子径は5?30nmであり」(【0026】)からすれば、コロイダルシリカの平均粒子径は5?30nm程度と考えられるので、上記「固形分の粒径(1?2μm程度)」は、「固形分の粒径(1?2nm程度)」の誤りであるものと考えられる。)
すなわち、本件発明1における「珪酸コロイド溶液」中のシリカコロイドは、1?2nm程度の粒径を有しているものと理解できる。
これに対し、引用例1では、「通常市販されているコロイダルシリカはシリカを加熱濃縮してシリカ濃度30%、pH10付近、粒径10?20nmとしたものである。これに対して、本発明に用いられる活性シリカは粒径が0.1nm付近である。この活性シリカにアルカリ剤または水ガラスを加えてコロイド状にしたシリカコロイドは粒径1?10nmである。」と記載されていることから(【0082】)、引用発明におけるシリカ液3中のシリカコロイドは粒径1?10nmの範囲であると考えられ、これは本件発明1における「珪酸コロイド溶液」中のシリカコロイドの粒径と重複する。
f 本件発明1の「酸成分」と、引用発明の「KCl」とは、ゲル化を生じさせるものであるから、「反応剤」である点で共通する。

g 以上より、本件発明1と引用発明とは、分説して記載すれば、以下の点で一致する。
「A’ SiO_(2)/Na_(2)Oで表されるモル比が4.8?5.3でありSiO_(2)濃度が17?23質量%である高モル比珪酸ソーダと、反応剤と、水とを混合することにより得られる地盤注入用固結材であって、
B’ (1)前記高モル比珪酸ソーダは、珪酸ソーダとシリカ液とを混合することによって得られ、
C’ (2)前記シリカ液は、珪酸コロイド溶液である、
地盤注入用固結材。」

h そして、次の相違点1?3で相違する。
(相違点1)
「反応剤」について、本件発明1では「酸」を用いているのに対し、引用発明では「KCl」を用いている点。
(相違点2)
「高モル比珪酸ソーダ」の製法について、本件発明1では「前記高モル比珪酸ソーダは、珪酸ソーダと活性珪酸とを混合することによりSiO_(2)/Na_(2)Oで表されるモル比が4.8?5.3である混合液を調製後、当該混合液を濃縮して当該混合液のSiO_(2)濃度を17?23質量%に調整することにより得られ」るのに対し、引用発明では「シリカ液No.40は、水ガラスとシリカ液3とを混合することを経て得られ」る点。
(相違点3)
「高モル比珪酸ソーダ」の色について、本件発明1では、「透明」であるのに対し、引用発明では、「薄乳白」である点。
(相違点4)
高モル比珪酸ソーダの原料であるシリカ液について、本件発明1では「活性珪酸」であるのに対し、引用発明では「シリカ液3」である点。

ここで、相違点について検討する。
事案に鑑み、まず、相違点3について検討する。
「透明」とは、一般に、「すきとおること。くもりなく明らかなこと。」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]を意味し、本件発明1の「高モル比珪酸ソーダ」の色については、上記「第2 2.(1)ア(ウ)」で摘示したように、本件明細書の【0049】の【表3】の下段には、「高モル比珪酸ソーダ」の「※変化レベルの説明」について、「0:変化なし,1.微かに白濁発生,2:白濁進行(半透明),3:白濁進行(不透明),4:部分ゲルまたは一部沈降,5:沈降(上澄みあり)」と記載されていることから、本件発明1の「高モル比珪酸ソーダ」の色が「透明」であるとは、「すきとおること。くもりなく明らかなこと。」と解される「0:変化なし」のものから、「1:微かに白濁発生」するまでの範囲のものを含み、平成30年8月3日付けの回答書において特許権者が主張するように、「1:微かに白濁発生」したものは含まないといえる。

これに対し、引用例1の【0111】の【表7】に、「シリカ液No.39」、「シリカ液No.40」及び「シリカ液No.41」は、そのSiO_(2)/Na_(2)Oで表される「モル比」が、それぞれ順に、5.27、4.97、4.74であり、「コロイド化判定」の欄の「色」について、それぞれ順に、「乳白」、「薄乳白」、「透明」であることが記載されていることから、シリカ液は、該モル比が低下するにつれて、その色が、順に、「乳白」、「薄乳白」、「透明」と変化することが示されているといえる。
ここで、「乳白」とは、一般に、「乳汁のような不透明で白い色。ちちいろ。[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]」を意味する用語であるから、「乳白」、「薄乳白」は、不透明というべきものであり、該【表7】には、該「モル比」の値が小さくなるにつれてシリカ液の色は、不透明から透明に変化することが示されているということができる。

そうすると、引用例1に記載された、該モル比が4.97の「シリカ液No.40」は、「薄乳白」であって、色が薄いとしても「乳白」、すなわち、不透明なものであるから、本件発明1の「高モル比珪酸ソーダ」のような「透明」なものではないというべきである。

そして、引用発明の「シリカ液No.40」を、該モル比を保ったまま「透明」なものとすることについては、引用例1、2には記載も示唆もなく、そのようなことが技術常識であるともいえない。
また、引用例1には、該モル比が4.8?5.3の「透明」なシリカ液は何一つ示されていない。

したがって、上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を、当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。

よって、上記相違点1、2及び4について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明することできたものであるとすることはできない。

(イ)本件発明2、4及び5について
本件発明2、4及び5は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様な理由により、本件発明2、4及び5は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明することできたものであるとすることはできない。

(2)サポート要件について
「SiO_(2)濃度が17質量%以上である高モル比珪酸ソーダ」の 「SiO_(2)濃度」について、訂正によって、その上限が23質量%であることが特定され、上記サポート要件に関する取消理由は解消した。

(3)明確性要件について
「SiO_(2)濃度が17質量%以上である高モル比珪酸ソーダ」の 「SiO_(2)濃度」について、訂正によって、その上限が23質量%であることが特定され、上記明確性要件に関する取消理由は解消した。

3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。

4.以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2、4及び5に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1、2、4及び5に特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1、2、4及び5に特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項3は、訂正により削除されたため、これに対する特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO_(2)/Na_(2)Oで表されるモル比が4.8?5.3でありSiO_(2)濃度が17?23質量%である透明な高モル比珪酸ソーダと、酸成分と、水とを混合することにより得られる地盤注入用固結材であって、
(1)前記透明な高モル比珪酸ソーダは、珪酸ソーダと活性珪酸とを混合することによりSiO_(2)/Na_(2)Oで表されるモル比が4.8?5.3である混合液を調製後、当該混合液を濃縮して当該混合液のSiO_(2)濃度を17?23質量%に調整することにより得られ、
(2)前記活性珪酸は、珪酸コロイド溶液である、ことを特徴とする地盤注入用固結材。
【請求項2】
前記モル比が5.0を超えて5.3以下である、請求項1に記載の地盤注入用固結材。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記珪酸ソーダは、SiO_(2)/Na_(2)Oで表されるモル比が3?5であり、且つ、SiO_(2)濃度が10?30質量%である、請求項1又は2に記載の地盤注入用固結材。
【請求項5】
前記活性珪酸は、SiO_(2)濃度が3?6質量%である、請求項1、2、及び4のいずれかに記載の地盤注入用固結材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-11-21 
出願番号 特願2010-200788(P2010-200788)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C09K)
P 1 651・ 536- YAA (C09K)
P 1 651・ 121- YAA (C09K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 福山 則明松波 由美子  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 日比野 隆治
川端 修
登録日 2017-05-12 
登録番号 特許第6134955号(P6134955)
権利者 東亜建設工業株式会社 富士化学株式会社
発明の名称 地盤注入用固結材  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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