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審判番号(事件番号) データベース 権利
異議2017701054 審決 特許
異議2016700780 審決 特許
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審決分類 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  A01G
審判 全部申し立て 2項進歩性  A01G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01G
管理番号 1347667
異議申立番号 異議2018-700266  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-04-02 
確定日 2018-11-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6207201号発明「農業用フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6207201号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。 特許第6207201号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6207201号の請求項1、2に係る特許についての出願は、平成25年3月29日を出願日とし、平成29年9月15日付けでその特許権の設定登録がされ、平成29年10月4日に特許掲載公報が発行された。その後、平成30年4月2日に特許異議申立人古郡裕介(以下「申立人」という。)より、請求項1、2に対して特許異議の申立てがされ、同年6月18日付けで取消理由(発送日同年6月21日)が通知され、その指定期間内である同年8月17日に意見書の提出及び訂正請求がされ、同年10月2日に申立人から意見書が提出されたものである。

第2 訂正請求について
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)

<訂正事項>
特許請求の範囲の請求項1に、
「直鎖状低密度ポリエチレンを含有する層(A)と、
前記層(A)の上又は上方に配置された、エチレンー酢酸ビニル共重合体を含有する層(B)と、
前記層(B)の上又は上方に配置された、ポリエチレンを含有する層(C)と
を備える農業用フィルムであって、
前記層(A)、又は、前記層(A)及び前記層(B)の両方が雲母を含有し、
前記雲母の平均粒子径が5?40μmの範囲内であり、かつ
前記農業用フィルム全体に対する雲母の含有量が0.3?10重量%の範囲内であり、
前記層(A)中の前記雲母の含有量は、前記層(A)が含有する合成樹脂100重量部に対して、7重量部以下である
農業用フィルム。」
とあるのを、
「直鎖状低密度ポリエチレンを含有する層(A)と、
前記層(A)の上又は上方に配置された、エチレンー酢酸ビニル共重合体を含有する層(B)と、
前記層(B)の上又は上方に配置された、ポリエチレンを含有する層(C)と
を備える農業用フィルムであって、
前記層(A)、又は、前記層(A)及び前記層(B)の両方が雲母を含有し、
前記雲母の平均粒子径が5?40μmの範囲内であり、かつ
前記農業用フィルム全体に対する雲母の含有量が0.3?10重量%の範囲内であり、
前記層(A)中の前記雲母の含有量は、前記層(A)が含有する合成樹脂100重量部に対して、2重量部以上7重量部以下であり、
前記層(A)の厚さは4.5?45.0μmであり、前記層(B)の厚さは19.5?195.0μm である、
農業用フィルム。」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2についても同様に訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項は、層(A)中の雲母の含有量、及び層(A)、層(B)の厚さを限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記アで説示したように、訂正事項は層(A)中の雲母の含有量、及び層(A)、層(B)の厚さについて限定したものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
訂正事項に関して、層(A)中の雲母の含有量については、【0060】【表3-1】の実施例7には雲母IIとして「2」(重量部)と記載されており、層(A)、層(B)の厚さについては、【0022】、【0028】に、それぞれ「層(A)の厚さは、好ましくは4.5?45.0μmの範囲内であり」、「層(B)の厚さは、好ましくは19.5?195.0μmの範囲内であり」と記載されているから、訂正事項は願書に添付した明細書に記載されているものと認められる。

(2)申立人の主張について
申立人は、平成30年10月2日付け意見書(以下「申立人意見書」という。)において、「農業用フィルム全体における雲母の含有量=(層(A)の雲母の含有量/層(A)の合成樹脂の含有量)×(層(A)の厚さ/全体厚さ)=(2重量部/100重量部)×(15/100)=0.3(重量%)」(申立人意見書19頁12行?16行)、「(4)その他、本件特許の訂正請求の層(A)における雲母の含有量の下限値(2重量部)は、特許権者が提出した訂正請求書(平成30年8月17日付け)に明記されたように、実施例7に基づくものであります。しかしながら、実施例7は、農業用フィルムの全体量に対する雲母の含有量が0.3重量%未満であって、そもそも比較例に該当する以上、訂正請求の根拠にならないことは明白であります。とすれば、層(A)中の雲母の含有量を、明確な根拠なく、層(A)が含有する合成樹脂100重量部に対して、2重量部以上7重量部以下とする旨の訂正をしたのは、新規事項の追加にあたります。」(申立人意見書23頁下から7行?24頁2行)と主張している。
上記主張について検討すると、本件明細書に記載された実施例7において、雲母の含有量を層(A)が含有する合成樹脂100重量部に対して2重量部とすること自体は記載されており、また、雲母の含有量を2重量部とすることにより、直ちに本件特許請求の範囲の他の記載を満たさなくなるなどの矛盾が生じるわけではないから、「2重量部以上」とする旨の上記訂正が、新規事項の追加にあたるとまではいえない。

(3)一群の請求項について
訂正前の請求項1、2は、請求項2が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前の請求項1?2は、訂正前において一群の請求項に該当するものである。したがって、訂正の請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとにされたものである。

3 小括
したがって、上記訂正請求による訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 訂正後の請求項1、2に係る発明
上記訂正請求により訂正された請求項1、2に係る発明(以下、「本件発明1」等、あるいはまとめて「本件発明」という。)は、以下のとおりのものである。(下線は訂正箇所を示す。)

「【請求項1】
直鎖状低密度ポリエチレンを含有する層(A)と、
前記層(A)の上又は上方に配置された、エチレン-酢酸ビニル共重合体を含有する層(B)と、
前記層(B)の上又は上方に配置された、ポリエチレンを含有する層(C)と
を備える農業用フィルムであって、
前記層(A)、又は、前記層(A)及び前記層(B)の両方が雲母を含有し、
前記雲母の平均粒子径が5?40μmの範囲内であり、かつ
前記農業用フィルム全体に対する雲母の含有量が0.3?10重量%の範囲内であり、
前記層(A)中の前記雲母の含有量は、前記層(A)が含有する合成樹脂100重量部に対して、2重量部以上7重量部以下であり、
前記層(A)の厚さは4.5?45.0μmであり、前記層(B)の厚さは19.5?195.0μmである、
農業用フィルム。
【請求項2】
前記層(A)が含有する合成樹脂全体に対する前記直鎖状低密度ポリエチレンの含有量が60?100重量%の範囲内である請求項1に記載の農業用フィルム。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1、2に係る特許に対して平成30年6月18日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1)本件特許の請求項1、2に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証?甲第4号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(2)本件請求項1、2に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(3)本件請求項1、2に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

甲第1号証:特開2009-234066号公報
甲第2号証:特開2012-70707号公報
甲第3号証:特開2006-248043号公報
甲第4号証:特開2010-81813号公報

3 刊行物の記載
(1)甲第1号証について
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、次の事項が記載されている。(下線は当決定で付与。以下同じ。)
(ア)「【請求項1】
外層(A)、中間層(B)及び内層(C)がこの順に積層一体化されてなる農業用フィルムであって、上記外層(A)及び内層(C)は、密度0.890?0.920g/cm^(3)で且つメルトマスフローレイトが0.3?5.0g/10分である直鎖状低密度ポリエチレンを60重量%以上含有する樹脂組成物からなると共に、上記中間層(B)は、酢酸ビニル成分の含有量が15?30重量%で且つメルトマスフローレイトが0.5?4.0g/10分であるエチレン-酢酸ビニル共重合体と、Mg、Al、Ca、Zn、Si及びLiからなる群から選ばれた少なくとも一種の原子を含む無機粒子3?20重量%とを含有する樹脂組成物よりなることを特徴とする農業用フィルム。」

(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、機械的強度及び透明性に優れ、強風や飛来物に起因する破れが生じにくい農業用フィルムを提供する。」

(ウ)「【0024】
そして、中間層(B)には、Mg、Al、Ca、Zn、Si及びLiからなる群から選ばれた少なくとも一種の原子を含む無機粒子が含有されている。このように、中間層(B)に、所定の原子を少なくとも一種以上含有する無機粒子を含有させることによって、農業用フィルムの保温性の向上と、農業用フィルムの製膜時における押出変動を防止して農業用フィルムの製膜安定性の向上を図っている。
【0025】
このような無機粒子としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化珪素、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、燐酸リチウム、燐酸カルシウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、アルミン酸カルシウム、アルミン酸マグネシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、アルミノ珪酸カリウム、アルミノ珪酸カルシウム、カオリン、クレー、タルク、マイカ、ハイドロタルサイト類化合物(ハイドロタルサイトを含む)、アルミニウム-リチウム-マグネシウム複合炭酸塩化合物、アルミニウム-リチウム-マグネシウム複合珪酸塩化合物、マグネシウム-アルミニウム-珪素複合水酸化物、マグネシウム-アルミニウム-珪素複合硫酸塩化合物、マグネシウム-アルミニウム-珪素複合炭酸塩化合物などが挙げられ、ハイドロタルサイトが好ましい。ここで、ハイドロタルサイト類化合物とは、M^(2+)_(1-x)M^(3+)_(x)(OH)_(2)A^(n-)_(x/n)・nH_(2)O〔M^(2+)及びM^(3+)は2価及び3価のイオン、x=0.25?0.33、Aはゲスト化合物〕で表わせる鉱物をいう。なお、無機粒子は単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0026】
中間層(B)中における無機粒子の含有量は、少ないと、農業用フィルムの保温性が低下する一方、多いと、農業用フィルムの透明性が低下するので、3?20重量%に限定され、5?10重量%が好ましい。」

(エ)「【発明の効果】
【0044】
本発明の農業用フィルムは、外層(A)、中間層(B)及び内層(C)がこの順に積層一体化されてなる農業用フィルムであって、上記外層(A)及び内層(C)は、密度0.890?0.920g/cm^(3)で且つメルトマスフローレイトが0.3?5.0g/10分である直鎖状低密度ポリエチレンを60重量%以上含有する樹脂組成物からなると共に、上記中間層(B)は、酢酸ビニル成分の含有量が15?30重量%で且つメルトマスフローレイトが0.5?4.0g/10分であるエチレン-酢酸ビニル共重合体と、Mg、Al、Ca、Zn、Si及びLiからなる群から選ばれた少なくとも一種の原子を含む無機粒子3?20重量%とを含有する樹脂組成物よりなることから、引裂強度やインパクト強度などの機械的強度や透明性に優れている。従って、本発明の農業用フィルムは、強風などによりフィルムの折り目部分が裂けたり、石や埃などの飛来物によりフィルムが突き破られたりすることがほとんどないので、長期間に亘って好適に使用することができる。
【0045】
更に、本発明の農業用フィルムは、中間層に所定の無機粒子が所定量含有されているので、優れた透明性及び保温性を有する。」

(オ)「【0048】
(実施例1)
3機の押出機が接続具を介して一のサーキュラダイに接続されてなる製膜装置を用意し、この製膜装置の第1押出機を外層(A)用の押出機として、直鎖状低密度ポリエチレンA(プライムポリマー社製 商品名「モアテック0138NK」、重合触媒:チーグラー系触媒、α-オレフィン:1-オクテン、密度:0.916g/cm^(3)、MFR:1.5g/10分)100重量部を第1押出機に供給し、第2押出機を中間層(B)用の押出機として、エチレン-酢酸ビニル共重合体A(東ソー社製 商品名「ウルトラセン627」、酢酸ビニル成分含有量:20重量%、密度:0.941g/cm^(3)、MFR:0.8g/10分)90重量部及び無機微粒子Aとしてマグネシウム-アルミニウム複合水酸化物塩(協和化学工業社製 商品名「DHT-4A」)10重量部からなる樹脂組成物を第2押出機に供給し、第3押出機を内層(C)用の押出機として、直鎖状低密度ポリエチレンA80重量部及び低密度ポリエチレンA(旭化成ケミカルズ社製 商品名「サンテックF1920」、密度:0.921g/cm^(3)、MFR:2.0g/10分)20重量部を第3押出機に供給して、それぞれの押出機内で溶融混練した後、第1?3押出機から溶融状態の樹脂組成物をサーキュラダイに供給して、外層(A)、中間層(B)、内層(C)がこの順に積層一体化された状態となるようにサーキュラダイから円筒状に共押出製膜すると共に、サーキュラダイの中心部から圧縮空気を供給し、共押出された樹脂組成物を周方向に延伸して長尺の円筒状フィルムを製膜し、この円筒状フィルムを切り開いて巻き取ることにより、外層(A)、中間層(B)及び内層(C)の厚さ比が、1/4/1で且つ総厚さが150μmの農業用フィルムを得た。」

イ 甲第1号証に記載された発明の認定
甲第1号証には、上記アを踏まえると、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

甲1発明
「外層(A)、中間層(B)及び内層(C)がこの順に積層一体化されてなる農業用フィルムであって、
上記外層(A)及び内層(C)は、密度0.890?0.920g/cm^(3)で且つメルトマスフローレイトが0.3?5.0g/10分である直鎖状低密度ポリエチレンを60重量%以上含有する樹脂組成物からなると共に、上記中間層(B)は、酢酸ビニル成分の含有量が15?30重量%で且つメルトマスフローレイトが0.5?4.0g/10分であるエチレン-酢酸ビニル共重合体と、Mg、Al、Ca、Zn、Si及びLiからなる群から選ばれた少なくとも一種の原子を含む無機粒子3?20重量%とを含有する樹脂組成物よりなり、このような無機粒子としては、マイカが挙げられ、
外層(A)、中間層(B)及び内層(C)の厚さ比が、1/4/1で且つ総厚さが150μmである、
農業用フィルム」

(2)甲第2号証について
ア 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
白雲母、金雲母及び合成雲母から選択される少なくとも一種の雲母を含有してなることを特徴とする農業用フィルム。
【請求項2】
雲母の平均粒子径が3?30μmであることを特徴とする請求項1に記載の農業用フィルム。
【請求項3】
フィルムを構成する樹脂100重量部に対して1?5重量部の雲母が添加されてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の農業用フィルム。」

(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、農作物の栽培施設に使用される農業用フィルムに関する。詳しくは、散乱光線透過率が大きく、かつ全光線透過率も大きい、農業用ハウスの外張りとして好適に使用される農業用フィルムに関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、栽培群落の影を少なくでき、かつハウス内からの光の散逸を抑えることができ、作物の生育を妨げずに、葉焼け防止、ハウス内の温度上昇を抑制することができる農業用ハウスの外張りとして好適に使用される農業用フィルムを提供することにある。
・・・
【発明の効果】
【0011】
本発明の農業用フィルムは、光の散乱と、散乱によるハウス内からの光の散逸のバランスを達成することができる。従って、本発明の農業用フィルムをハウスに展張すると、ある程度光を散乱することで影を低減でき、かつ散乱によるハウス内からの光の散逸を抑えることができるので、栽培群落の影を少なくでき、かつハウス内からの光の散逸を抑えることができ、作物の生育を妨げずに、葉焼け防止、ハウス内の温度上昇を抑制することが可能となる。」

(ウ)「【0015】
本発明の農業用フィルムがポリオレフィン系樹脂を用いた多層フィルムである場合には、少なくとも外層、中間層、内層を有する3層以上の積層構造を有するフィルムが好適に使用できる。ここで、外層とは、ハウスなどに展張した際に外側となる層をいい、内層とは、ハウス展張時に内側となる層をいい、中間層とは、その外層と内層に挟まれた層をいう。以下、外層と内層を合わせて表面層と称する場合もある。また、本発明の効果を損なわない範囲で、内層と中間層の間、外層と中間層の間に、更に樹脂層を積層したり、外層や中間層、内層など自体を2層で構成して、4層以上の多層フィルムとする態様も、本願発明の範囲に含まれる。その場合の中間層は、外層と内層以外(表面層以外)の層ということになる。
・・・
【0017】
ポリオレフィン系樹脂としては、α-オレフィン系の単独重合体、α-オレフィンを主成分とする異種単量体との共重合体、α-オレフィンと共役ジエンまたは非共役ジエン等の多不飽和化合物、アクリル酸、メタクリル酸、酢酸ビニル等との共重合体などがあげられ、例えば高密度、低密度または直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体等が挙げられる。これらのうち、密度が0.890?0.935の低密度ポリエチレンやエチレン-α-オレフィン共重合体および酢酸ビニル含有量が30重量%以下のエチレン-酢酸ビニル共重合体が、透明性や耐候性および価格の点から農業用フィルムとして好ましい。
また、本発明において、ポリオレフィン系樹脂の少なくとも一成分としてメタロセン触媒で共重合して得られるエチレン-α-オレフィン共重合樹脂を使用することができる。」

(エ)「【0034】
本発明における農業用フィルムが多層構成の場合においては、雲母が添加される層は特に限定されず、少なくとも内層、中間層、外層の少なくとも1層に添加されていればよいが、中間層に添加するのが好ましい。また、2層以上に添加される場合、その比率は特に限定されない。また、内層には防曇層が塗布されることがあり、塗布液との反応性が懸念される場合には、内層には雲母が添加されていないのが好ましい。また、フィルム厚みに対して、相対的に粒径が大きな雲母を使用する場合、フィルム表面に凹凸が生じるが、ハウス外層側に凹凸が多いと、防塵性が劣るケースがあり、その場合はハウス外層側へ雲母が添加されていないのが好ましい。」

(オ)「【0076】
〔実施例1?6、比較例1?3〕
・・・
【0077】
〔配合〕
樹脂組成
ハウス内層:EVA=エチレン・酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有量5重量%、MFR2.3g/10分)
ハウス外層:メタロセンPE=メタロセン触媒で製造したエチレン・α-オレフィン共重合体(MFR:2g/10分、密度0.912)
ハウス中間層:EVA=エチレン・酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有量15重量%、MFR2g/10分)
主要添加剤
光安定剤:tinuvin NOR 371 FFを中間層中に0.4%を添加
エチレン・環状アミノビニル化合物(日本ポリエチレン株式会社製XJ100H):内層及び外層にそれぞれ8%を添加
紫外線吸収剤:tinuvin 1577 EDを中間層中に0.06%を添加
通常農業用フィルムを構成するのに必要なその他の添加剤(アンチブロッキング剤や酸化防止剤等の添加剤)として市販のものを通常量使用した。
実施例には、防曇塗膜を設けたタイプの測定値を使用したが、防曇塗膜を設けずに防曇剤を基材フィルムに練り込んだタイプや、防曇剤を練り込んだ基材フィルムに防曇塗膜を設けたタイプでも同様の結果が得られた。
フィラー
実施例及び比較例において使用した雲母などのフィラーは以下の通り。各実施例、比較例における添加量は表1、2に示した。
白雲母M-400(株式会社レプコ製):平均粒径24μm、かさ比重0.18
白雲母M-200(株式会社レプコ製):平均粒径55μm、かさ比重0.40
白雲母M-XF(株式会社レプコ製):平均粒径4μm、かさ比重0.20
金雲母S-325(株式会社レプコ製):平均粒径27μm、かさ比重0.17
合成雲母SMD-500(株式会社レプコ製):平均粒径18μm、かさ比重0.18
何れの実施例においてもフィラーは中間層に添加した。」

イ 甲第2号証に記載された発明の認定
甲第2号証には、上記アを踏まえると、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

甲2発明
「白雲母、金雲母及び合成雲母から選択される少なくとも一種の雲母を含有してなり、
雲母の平均粒子径が3?30μmであり、
フィルムを構成する樹脂100重量部に対して1?5重量部の雲母が添加されてなる農業用フィルムにおいて、
農業用フィルムがポリオレフィン系樹脂を用いた多層フィルムである場合には、少なくとも外層、中間層、内層を有する3層以上の積層構造を有するフィルムが好適に使用でき、
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば高密度、低密度または直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられ、
各層の樹脂組成の実施例としては、内層:EVA=エチレン・酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有量5重量%、MFR2.3g/10分)、外層:メタロセンPE=メタロセン触媒で製造したエチレン・α-オレフィン共重合体(MFR:2g/10分、密度0.912)、中間層:EVA=エチレン・酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有量15重量%、MFR2g/10分)であり、
農業用フィルムが多層構成の場合においては、雲母が添加される層は特に限定されず、2層以上に添加される場合には、その比率は特に限定されず、内層には防曇層が塗布されることがあり、塗布液との反応性が懸念される場合には、内層には雲母が添加されていないのが好ましい、
農業用フィルム」

(3)甲第3号証について
甲第3号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
密度が0.90?0.93g/cm3であり、メルトマスフローレイトが0.3?7.0g/10分(190℃)である低密度ポリエチレン樹脂を主成分とする樹脂成分からなる層(A)、酢酸ビニル含有量が5?25重量%であり、メルトマスフローレイトが0.3?4.0g/10分(190℃)であるエチレン-酢酸ビニル共重合体を主成分とする樹脂成分からなる層(B)、酢酸ビニル含有量が3?15重量%であり、メルトマスフローレイトが0.3?4.0g/10分(190℃)であるエチレン-酢酸ビニル共重合体を主成分とする樹脂組成物からなる層(C)が層(A)/層(B)/層(C)の順に積層されてなる農業用フィルムであって、層(A)、層(B)、層(C)の少なくとも1層以上に、マイカ(雲母)が含有されてなることを特徴とする農業用フィルム。
【請求項2】
マイカ(雲母)の粒径が5?40μmであり、該フィルムを構成する樹脂100重量部に対し、0.1?5重量部添加されてなることを特徴とする請求項1記載の農業用フィルム
【請求項3】
層(C)の表面に、コロイダルシリカ及び/又はコロイダルアルミナを主成分とする防曇流滴層が形成されてなることを特徴とする請求項1又は2記載の農業用フィルム」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、農作物の栽培施設に使用される農業用フィルムに関する。詳しくは、散乱光線透過率が大きく、しかも全光線透過率も大きく、農業用ハウスの外張りとして好適に使用される農業用フィルムに関する。」

ウ 「【0015】
本発明においては、マイカ(雲母)が添加されるが、マイカが添加される層は特に限定されず、少なくとも層(A)、層(B)、層(C)の少なくとも1層に添加されていればよく、例えば、層(A)、層(B)、層(C)のいずれか1層、層(A)、層(B)、層(C)のいずれか2層に、あるいは層(A)、層(B)、層(C)の全ての層に添加されていてよい。又、2層以上に添加される場合、その比率は特に限定されない。中でも、層(C)には防曇層が塗布されることがあり、この際に層(C)にはマイカ(雲母)が添加されていないのが好ましいので、マイカ(雲母)は層(A)のみ、又は層(A)及び層(C)(決定注;「層(B)」の誤記と認める。)に添加されているのが好ましい。
【0016】
上記マイカ(雲母)の種類については特に限定されず、天然マイカであっても合成マイカであってもよく一般的に用いられているマイカが使用され、その平均粒子径は5?40μmが好ましく、より好ましくは10?30μm、更に好ましくは15?20μmである。マイカの粒子径が5μmよりも小さければ、散乱光線透過率が小さくなり易く、逆に粒子径が40μmよりも大きければフィルムの全光線透過率が小さくなる易くなるので好ましくない。
上記マイカの添加量は、フィルムを構成する樹脂100重量部に対し、0.1?5重量部が好ましい。添加量が0.1重量部よりも少なければ散乱光線透過率が小さくなり易く、逆に添加量が5重量部よりも多ければフィルムの全光線透過率が小さくなりやすいだけでなく、フィルム強度も低下し易くなるので好ましくない。
【0017】
本発明の農業用フィルムの層(C)の表面には流滴防曇層が形成されてなるのが好ましく、該防曇流滴層としては、水系媒体中に、コロイダルシリカおよび/あるいはコロイダルアルミナを含有する防曇流滴剤からなる防曇流滴層が好ましい。層(C)表面に流滴防曇層を形成することにより、結露による水滴がハウス側面まで流れるて作物上への水滴落下による病害発生を防止することが出来る。
上記防曇流滴剤に用いられる水系媒体は、特に限定されず、水単独であってもよいし、もしくはアルコールなどの水溶性溶媒が水に配合されたものであっても良い。但し、水溶性溶媒の配合量は、防曇塗布剤をポリエチレン系樹脂に塗布した後、乾燥する際に引火の危険性が生じるので、水性媒体中50重量%以下であることが好ましい。」

(4)甲第4号証について
甲第4号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
密度が0.915?0.930g/cm^(3)で且つメルトフローレイトが0.5?4.0g/10分である直鎖状低密度ポリエチレンと、式1で表されるピペリジン環構造を分子中に2個以上有し且つ数平均分子量が1000以上であるヒンダードアミン化合物とを含有する厚みが20μm以上の中間層と、この中間層の両面に積層一体化され、酢酸ビニル成分の含有量が5?15重量%で且つメルトフローレイトが0.5?4.0g/10分であるエチレン-酢酸ビニル共重合体を含有する厚みが5μm以上の外層とを含み、全体の厚みが30?150μmであると共に、上記中間層の厚みが全体の厚みの50?90%であり、更に、上記中間層及び上記外層の少なくとも一層以上に平均粒子径が5?40μmの雲母が含有され、上記雲母の総量が合成樹脂の総量100重量部に対して0.1?5重量部であることを特徴とする農業用フィルム。但し、式1中、R_(1)は、炭素数が1以上で且つ少なくとも1以上のメチレン基を含む官能基又は化合物(オリゴマー、ポリマーを含む)を表す。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用フィルムに関する。」

4 取消理由通知に記載した取消理由(第29条第2項第36条第6項第1号第36条第6項第2号)について
(1)第29条第2項について
ア 甲第1号証を主引例として
(ア)本件発明1について
a 対比
甲1発明と本件発明1を比較すると、少なくとも以下の相違点1で相違する。

<相違点1>
雲母に関して、本件発明1が「層(A)、又は、前記層(A)及び前記層(B)の両方が雲母を含有し」、「層(A)中の前記雲母の含有量は、前記層(A)が含有する合成樹脂100重量部に対して、2重量部以上7重量部以下で」あるのに対し、甲1発明では、「中間層(B)」に雲母(マイカ)を含有している点。

b 判断
相違点1について検討するに、甲1発明は、層(B)(中間層(B))に雲母を含有させることにより、「優れた透明性及び保温性を有する」(甲第1号証の【0045】)といった効果を既に得ているわけであるから、さらに、層(A)(外層(A))にも雲母を含有させる動機付けはないというべきである。
甲第2号証?甲第4号証には、層(B)に加えて層(A)にも雲母を含有させることが記載されているものの、上記したように甲1発明において、層(A)にも雲母を含有させる動機付けはなく、甲1発明において相違点1に係る本件発明1の構成にすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。また、甲第2号証?甲第4号証には、雲母の含有量を相違点1に係る構成とすることを示唆する記載はないので、その点においても、甲1発明において相違点1に係る本件発明1の構成にすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(イ)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1に従属し、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件発明1と同様の理由(上記(ア)参照)により、甲1発明において、相違点1に係る本件発明2の構成にすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は、「甲第5号証?甲第6号証(参考図1?参考図2)に示すように、本件特許の実施例1?11における全光線透過率、拡散透過率、引裂強度、及び擦れ強度の測定結果から判断すれば、無機粒子である雲母を、中間層(B)に含有させても、外層(A)に含有させても、得られる測定結果において顕著な差異はない。とすれば、甲第1号証には、中間層(B)に雲母(マイカ)を含有させても良い旨の直接的記載があることから、本件特許の雲母の含有効果を加味すれば、外層(A)に雲母を含有させても同様の結果が得られると強く推認される。その上、多層構造の農業用フィルムを構成するいずれかの層に、雲母を含有させることは、当業者の技術常識である(甲第3号証、甲第4号証参照)。・・・したがって、甲第1号証には、本件特許の請求項1の構成要件E1(層(A)、又は、層(A)及び層(B)の両方が雲母を含有すること)と実質的に同様の記載があり、かつ、いずれも当業者の技術常識である。」(申立書10頁3行?5行)旨主張する。
上記主張について検討するに、申立人の主張のとおり、甲第1号証において、外層(A)、中間層(B)のいずれに雲母を含有させても同様の効果が得られるとすると、甲1発明において、層(B)に加えて、層(A)にも雲母を含有させる積極的な理由(動機付け)はないということもでき、上記(ア)で説示したとおり、甲1発明において相違点1に係る本件発明1の構成にすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

イ 甲第2号証を主引例として
(ア)本件発明1について
a 対比
甲2発明と本件発明1を比較すると、少なくとも以下の相違点2で相違する。

<相違点2>
農業用フィルムの層構成に関して、本件発明1が「直鎖状低密度ポリエチレンを含有する層(A)と、前記層(A)の上又は上方に配置された、エチレン-酢酸ビニル共重合体を含有する層(B)と、前記層(B)の上又は上方に配置された、ポリエチレンを含有する層(C)」であるのに対し、甲2発明では、「ポリオレフィン系樹脂を用いた多層フィルムである場合には、少なくとも外層、中間層、内層を有する3層以上の積層構造を有するフィルムが好適に使用でき、ポリオレフィン系樹脂としては、例えば高密度、低密度または直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられ、各層の樹脂組成の実施例としては、内層:EVA=エチレン・酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有量5重量%、MFR2.3g/10分)、外層:メタロセンPE=メタロセン触媒で製造したエチレン・α-オレフィン共重合体(MFR:2g/10分、密度0.912)、中間層:EVA=エチレン・酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有量15重量%、MFR2g/10分)で」ある点。

b 判断
相違点2について検討するに、甲第1号証には、本件発明1と同じ材料で同じ層構成とすることは記載されているものの、甲2発明において、その層構成を甲1発明と同じ材料とする動機付けはないことから、甲2発明において相違点2に係る本件発明1の構成にすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(イ)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1に従属し、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件発明1と同様の理由(上記(ア)参照)により、甲2発明において、相違点2に係る本件発明2の構成にすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は、「また、甲第1号証(請求項1)において、中間層(B)に、所定量、所定平均粒径の所定無機粒子(雲母を含む。)を含有することを規定しております。さらに、甲第1号証の実施例1等において、所定厚さの外層(A)、中間層(B)、及び内層(C)を備えた農業用フィルムが記載されております。とすれば、甲第1号証(請求項1)に、本件特許(請求項1)で規定する農業用フィルムとしての基本的な三層構造やそれらを構成する合成樹脂の種類、さらには、所定量の雲母(マイカ)を含有する中間層(B)に関して、実質的に全て記載されていると言えます(異議申立書で規定した構成要件:A1+B 1+C1+D1+E2?E3)。」(申立人意見書6頁10行?19行)旨主張する。
上記主張について検討するに、上記(ア)で説示したように、甲2発明において、層構成の材料を甲1発明のように変更する動機付けはないことから、甲第1号証に本件発明1と同じ材料で同じ層構成とすることが記載されていたとしても、甲2発明において相違点2に係る本件発明1の構成にすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

ウ まとめ
したがって、本件発明1、2は、甲1発明、甲2発明、甲第3号証及び甲第4号証に記載されたものから、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、それらの特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(2)第36条第6項第1号について
申立人は、「本件特許(請求項1及び2)においては、実施例1?11に示されるように、所定雲母の配合すべき層を、三層構造の農業用フィルムの層(A)又は層(B)の単独層のみに含有させた実施例しかないにもかかわらず、層(A)及び層(B)の両方にまで拡張されて、特許化されている」(申立書21頁3行?6行)など、主張している。
しかしながら、「層(A)、又は、前記層(A)及び前記層(B)の両方が雲母を含有」していることは、本件の発明の詳細な説明の【0036】、【0042】に記載されていることは明らかである。また、「前記層(A)及び前記層(B)の両方が雲母を含有」させること、及びそのことにより本件発明の効果を奏することが、通常、実現できないなどの特段の事情も見受けられず、そのような点からも、実施例が必要とまでいえない。
したがって、本件特許の請求項1、2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

(3)第36条第6項第2号について
申立人は、「所定雲母の含有量が単に、「7重量部以下」では、例えば、「0.00000001重量部」と限りなく0重量部に近い値も含まれることになり、これでは、所定効果が得られないことは言うまでもない。更に言えば、本来、層(A)中の雲母の含有量のみならず、層(B)中の雲母の含有量の上限、下限についても制限すべきであるのに、それらが制限されていないことから、本件特許の所定効果が得られない範囲まで、特許化されていると言える。」(申立書22頁8行?14行)、「しかるに、特許権者は、上述したように、層(A)の厚さ、層(B)の厚さ、層(C)の厚さ、及び本発明の光拡散性農業用フィルムの全体としての厚さにつき、それぞれ農業用フィルムの引裂強度や透明性に影響すると述べているにもかかわらず、特許請求の範囲では、層厚さにつき、何ら規定していない。よって、本件特許の明細書において、層(A)?層(C)の厚さ、及び農業用フィルムの全体厚さにつき、単に好適範囲が記載されているだけであって、かつ、実施例1?11において、一例の厚さが記載されているのみであって、所望の効果が本当に得られるか、甚だ疑問である。もちろん、雲母の含有量や平均粒子径等との関係もあるが、いずれの層厚さであっても、所望の効果が得られないというのでは、発明が不明瞭であることの証査になると思料する。」(申立書23頁18行?末行)、「(8)-4 しかしながら、異議申立書にも記載したように、特許権者は層(A)の厚さ、層(B)の厚さ、層(C)の厚さ、及び本発明の光拡散性農業用フィルムの全体としての厚さにつき、それぞれ農業用フィルムの引裂強度や透明性に影響すると述べております。にもかかわらず、訂正請求書による訂正では、層(A)の厚さと、層(B)の厚さに関する記載のみとしており、層(C)の厚さ、及び本発明の光拡散性農業用フィルムの全体としての厚さについては、明確に規定されておりません。・・・とすれば、層(C)の厚さ、及び本発明の光拡散性農業用フィルムの全体としての厚さにおいて、明確な規定がない構成によって、所定の効果が得られない場合があることは明白であります。」(申立人意見書21頁16行?22頁5行)など、主張している。
上記主張について検討するに、本件訂正請求による訂正において、「層(A)中の前記雲母の含有量」の下限値、及び層(A)、層(B)の厚さが規定されており、本件発明1、2の他の構成及び数値限定(雲母の平均粒子径、農業用フィルム全体に対する雲母の含有量)を併せてみれば、本件発明の構成は理解することができるので、本件発明が明確でないとまではいえない。
したがって、本件特許の請求項1、2に係る発明は明確であるから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。

第4 むすび
以上のとおりであるから、平成30年6月18日付け取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由、証拠によっては、本件請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖状低密度ポリエチレンを含有する層(A)と、
前記層(A)の上又は上方に配置された、エチレン-酢酸ビニル共重合体を含有する層(B)と、
前記層(B)の上又は上方に配置された、ポリエチレンを含有する層(C)と
を備える農業用フィルムであって、
前記層(A)、又は、前記層(A)及び前記層(B)の両方が雲母を含有し、
前記雲母の平均粒子径が5?40μmの範囲内であり、かつ
前記農業用フィルム全体に対する雲母の含有量が0.3?10重量%の範囲内であり、
前記層(A)中の前記雲母の含有量は、前記層(A)が含有する合成樹脂100重量部に対して、2重量部以上7重量部以下であり、
前記層(A)の厚さは4.5?45.0μmであり、前記層(B)の厚さは19.5?195.0μmである、
農業用フィルム。
【請求項2】
前記層(A)が含有する合成樹脂全体に対する前記直鎖状低密度ポリエチレンの含有量が60?100重量%の範囲内である請求項1に記載の農業用フィルム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-11-19 
出願番号 特願2013-72478(P2013-72478)
審決分類 P 1 651・ 851- YAA (A01G)
P 1 651・ 537- YAA (A01G)
P 1 651・ 121- YAA (A01G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大熊 靖夫本村 眞也  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 井上 博之
富士 春奈
登録日 2017-09-15 
登録番号 特許第6207201号(P6207201)
権利者 住化積水フィルム株式会社
発明の名称 農業用フィルム  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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