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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F04D
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  F04D
審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:857  F04D
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  F04D
審判 全部申し立て 2項進歩性  F04D
審判 全部申し立て 特許請求の範囲の実質的変更  F04D
審判 全部申し立て 1項2号公然実施  F04D
審判 全部申し立て 1項1号公知  F04D
審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  F04D
審判 全部申し立て 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  F04D
管理番号 1347671
異議申立番号 異議2017-700622  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-20 
確定日 2018-11-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6047091号発明「ロータ及び真空ポンプ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6047091号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。 特許第6047091号の請求項2ないし11に係る特許を維持する。 特許第6047091号の請求項1に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6047091号の請求項1?11に係る特許についての出願は,2012年(平成24年)5月31日(優先権主張 2011年(平成23年)6月16日)を国際出願日とする特許出願であって,平成28年11月25日にその特許権の設定登録がされ,同年12月21日に特許掲載公報が発行された。
これらの請求項1?11に係る特許について,平成29年6月20日付けで特許異議申立人 プファイファー・ヴァキューム・ゲーエムベーハーにより特許異議の申立てがあり,同年9月21日付けで審尋がなされ,同年10月23日付けで異議申立人により回答書が提出され,同年11月15日付けで異議申立人により手続補正書が提出された。そして,同年12月1日付けで取消理由が通知され,その指定期間内である平成30年2月5日付けで特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がされ,同年6月1日付けで異議申立人により意見書の提出がされ,同年6月18日付けで訂正拒絶理由が通知され,同年7月19日付けで特許権者により意見書の提出があり,同年8月3日付けで取消理由(決定の予告)が通知された。
それに対して,その指定期間内である同年10月9日付けで特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がなされた。

第2.訂正の適否
1.訂正の内容
平成30年10月9日付けの訂正請求(以下,「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下の訂正事項1?11のとおりである(下線部は,訂正箇所を示し,当審で付与した。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除した。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記荷重変化緩和構造は,前記ロータの外径面に,前記円筒体が前記ロータに接合される端面側から前記円筒体の中央に向かって徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように形成された緩やかなテーパ構造であることを特徴とする請求項1に記載のロータ。」とあるのを,
「真空ポンプに配設され,異なる材料で形成された円筒体が接合されるロータであって,
前記円筒体と前記ロータが接する面に,前記ロータの熱膨張又は遠心力により前記円筒体に生じる軸方向における荷重の変化を低減する荷重変化緩和構造を有し,
前記荷重変化緩和構造は,前記ロータの外径面に,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面から,前記軸方向における前記円筒体の中央に向かって徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように,前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす最大角度より,前記ロータの前記外径面の前記円筒体の前記軸方向となす角度が小さく形成された緩やかなテーパであることを特徴とするロータ。」と訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「前記荷重変化緩和構造は,前記ロータの外径面に,前記円筒体の中央から前記円筒体が前記ロータに接合される端面側に向かって徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように形成された緩やかなテーパ構造であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のロータ。」とあるのを,
「真空ポンプに配設され,異なる材料で形成された円筒体が接合されるロータであって,
前記円筒体と前記ロータが接する面に,前記ロータの熱膨張又は遠心力により前記円筒体に生じる軸方向における荷重の変化を低減する荷重変化緩和構造を有し,
前記荷重変化緩和構造は,前記ロータの外径面に,前記軸方向における前記円筒体の中央から,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面に向かうに従って徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように,前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす最大角度より,前記ロータの前記外径面の前記円筒体の前記軸方向となす角度が小さく形成された緩やかなテーパであることを特徴とするロータ。」と訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「前記テーパ構造のテーパ角度は,前記円筒体が,前記ロータに接合される端面側から前記円筒体の中央に向かって徐徐に縮径する角度よりも,小さい角度であることを特徴とする請求項2に記載のロータ。」とあるのを,
「前記テーパのテーパ角度は,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が,前記ロータに接合される側の端面から,前記軸方向における前記円筒体の中央に向かって徐徐に縮径し,前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす角度よりも,小さい角度であることを特徴とする請求項2に記載のロータ。」と訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「前記テーパ構造のテーパ角度は,前記円筒体が,前記円筒体の中央から前記ロータに接合される端面側に向かって徐徐に縮径する角度よりも,小さい角度であることを特徴とする請求項3に記載のロータ。」とあるのを,
「前記テーパのテーパ角度は,前記軸方向における前記円筒体の中央から,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面に向かうに従って徐徐に縮径し,前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす角度よりも,小さい角度であることを特徴とする請求項3に記載のロータ。」と訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「前記荷重変化緩和構造は,前記テーパ構造の前記円筒体が前記ロータに接合される端面側の終点が曲線状に形成されることを特徴とする請求項2から請求項5のいずれか1項に記載のロータ。」とあるのを,
「前記荷重変化緩和構造は,前記テーパの,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の終点が曲線状に形成されることを特徴とする請求項2から請求項5のいずれか1項に記載のロータ。」と訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に「前記荷重変化緩和構造は,前記ロータと前記円筒体が接触する接触面を共有しなくなる位置にまで前記テーパ構造が形成されていることを特徴とする請求項2から請求項6のいずれか1項に記載のロータ。」とあるのを,
「前記荷重変化緩和構造は,前記ロータと前記円筒体が接触する接触面を共有しなくなる位置にまで前記テーパが形成されていることを特徴とする請求項2から請求項6のいずれか1項に記載のロータ。」と訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に「前記荷重変化緩和構造は,前記ロータの外径面に,前記円筒体が前記ロータに接合される端面側から前記円筒体の中央に向かって徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように形成された緩やかな曲線構造であることを特徴とする請求項1に記載のロータ。」とあるのを,
「真空ポンプに配設され,異なる材料で形成された円筒体が接合されるロータであって,
前記円筒体と前記ロータが接する面に,前記ロータの熱膨張又は遠心力により前記円筒体に生じる軸方向における荷重の変化を低減する荷重変化緩和構造を有し,
前記荷重変化緩和構造は,前記ロータの外径面に,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロ?タに接合される側の端面から,前記軸方向における前記円筒体の中央に向かって徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように形成された緩やかな曲線構造であり,
前記曲線構造は,前記曲線構造におけるロータの外周面が,前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形した時の前記円筒体の内周面に接する曲線であることを特徴とするロ?タ。」と訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9に「前記荷重変化緩和構造は,前記ロータの外径面に,前記円筒体の中央から前記円筒体が前記ロータに接合される端面側に向かって徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように形成された緩やかな曲線構造であることを特徴とする請求項1又は請求項8に記載のロータ。」とあるのを,
「真空ポンプに配設され,異なる材料で形成された円筒体が接合されるロータであって,
前記円筒体と前記ロータが接する面に,前記ロータの熱膨張又は遠心力により前記円筒体に生じる軸方向における荷重の変化を低減する荷重変化緩和構造を有し,
前記荷重変化緩和構造は,前記ロータの外径面に,前記軸方向における前記円筒体の中央から,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面に向かうに従って徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように形成された緩やかな曲線構造であり,
前記曲線構造は,前記曲線構造におけるロータの外周面が,前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形した時の前記円筒体の内周面に接する曲線であることを特徴とするロータ。」と訂正する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項11に「ねじ溝式ポンプ部と,異なる材料で形成された円筒体が接合されるロータと,を備える真空ポンプであって,
前記ロータは,請求項1から請求項10のうちいずれか1項に記載のロータであることを特徴とする真空ポンプ。」とあるのを,
「ねじ溝式ポンプ部と,異なる材料で形成された円筒体が接合されるロータと,を備える真空ポンプであって,
前記ロータは,請求項2から請求項10のうちいずれか1項に記載のロータであることを特徴とする真空ポンプ。」と訂正する。
(11)訂正事項11
訂正前の明細書の段落【0010】に,
「請求項1記載の発明では,真空ポンプに配設され,異なる材料で形成された円筒体が接合されるロータであって,前記円筒体と前記ロータが接する面に,前記ロータの熱膨張又は遠心力により前記円筒体に生じる軸方向における荷重の変化を低減する荷重変化緩和構造を有することを特徴とするロータを提供する。
請求項2記載の発明では,前記荷重変化緩和構造は,前記ロータの外径面に,前記円筒体が前記ロータに接合される端面側から前記円筒体の中央に向かって徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように形成された緩やかなテーパ構造であることを特徴とする請求項1に記載のロータを提供する。
請求項3記載の発明では,前記荷重変化緩和構造は,前記ロータの外径面に,前記円筒体の中央から前記円筒体が前記ロータに接合される端面側に向かって徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように形成された緩やかなテーパ構造であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のロータを提供する。
請求項4記載の発明では,前記テーパ構造のテーパ角度は,前記円筒体が,前記ロータ
に接合される端面側から前記円筒体の中央に向かって徐徐に縮径する角度よりも,小さい角度であることを特徴とする請求項2に記載のロータを提供する。
請求項5記載の発明では,前記テーパ構造のテーパ角度は,前記円筒体が,前記円筒体の中央から前記ロータに接合される端面側に向かって徐徐に縮径する角度よりも,小さい角度であることを特徴とする請求項3に記載のロータを提供する。
請求項6記載の発明では,前記荷重変化緩和構造は,前記テーパ構造の前記円筒体が前記ロータに接合される端面側の終点が曲線状に形成されることを特徴とする請求項2から請求項5のいずれか1項に記載のロータを提供する。
請求項7記載の発明では,前記荷重変化緩和構造は,前記ロータと前記円筒体が接触する接触面を共有しなくなる位置にまで前記テーパ構造が形成されていることを特徴とする請求項2から請求項6のいずれか1項に記載のロータを提供する。
請求項8記載の発明では,前記荷重変化緩和構造は,前記ロータの外径面に,前記円筒体が前記ロータに接合される端面側から前記円筒体の中央に向かって徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように形成された緩やかな曲線構造であることを特徴とする請求項1に記載のロータを提供する。
請求項9記載の発明では,前記荷重変化緩和構造は,前記ロータの外径面に,前記円筒体の中央から前記円筒体が前記ロータに接合される端面側に向かって徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように形成された緩やかな曲線構造であることを特徴とする請求項1又は請求項8に記載のロータを提供する。
請求項10記載の発明では,前記荷重変化緩和構造は,前記ロータと前記円筒体が接触する接触面を共有しなくなる位置にまで前記曲線構造が形成されていることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載のロータを提供する。
請求項11記載の発明では,ねじ溝式ポンプ部と,異なる材料で形成された円筒体が接合されるロータと,を備える真空ポンプであって,前記ロータは,請求項1から請求項10のうちいずれか1項に記載のロータであることを特徴とする真空ポンプを提供する。」とあるのを,請求項の訂正と整合性を取るために,請求項の訂正と同様に以下のように訂正する。
「請求項2記載の発明では,真空ポンプに配設され,異なる材料で形成された円筒体が接合されるロータであって,前記円筒体と前記ロータが接する面に,前記ロータの熱膨張又は遠心力により前記円筒体に生じる軸方向における荷重の変化を低減する荷重変化緩和構造を有し,前記荷重変化緩和構造は,前記ロータの外径面に,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面から,前記軸方向における前記円筒体の中央に向かって徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように,前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす最大角度より,前記ロータの前記外径面の前記円筒体の前記軸方向となす角度が小さく形成された緩やかなテーパであることを特徴とするロータを提供する。
請求項3記載の発明では,真空ポンプに配設され,異なる材料で形成された円筒体が接合されるロータであって,前記円筒体と前記ロータが接する面に,前記ロータの熱膨張又は遠心力により前記円筒体に生じる軸方向における荷重の変化を低減する荷重変化緩和構造を有し,前記荷重変化緩和構造は,前記ロータの外径面に,前記軸方向における前記円筒体の中央から,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面に向かうに従って徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように,前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす最大角度より,前記ロータの前記外径面の前記円筒体の前記軸方向となす角度が小さく形成された緩やかなテーパであることを特徴とするロータを提供する。
請求項4記載の発明では,前記テーパのテーパ角度は,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が,前記ロータに接合される側の端面から,前記軸方向における前記円筒体の中央に向かって徐徐に縮径し,前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす角度よりも,小さい角度であることを特徴とする請求項2に記載のロータを提供する。
請求項5記載の発明では,前記テーパのテーパ角度は,前記軸方向における前記円筒体の中央から,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面に向かうに従って徐徐に縮径し,前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす角度よりも,小さい角度であることを特徴とする請求項3に記載のロータを提供する。
請求項6記載の発明では,前記荷重変化緩和構造は,前記テーパの,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の終点が曲線状に形成されることを特徴とする請求項2から請求項5のいずれか1項に記載のロー夕を提供する。
請求項7記載の発明では,前記荷重変化緩和構造は,前記ロータと前記円筒体が接触する接触面を共有しなくなる位置にまで前記テーパが形成されていることを特徴とする請求項2から請求項6のいずれか1項に記載のロータを提供する。
請求項8記載の発明では,真空ポンプに配設され,異なる材料で形成された円筒体が接合されるロータであって,前記円筒体と前記ロー夕が接する面に,前記ロータの熱膨張又は遠心力により前記円筒体に生じる軸方向における荷重の変化を低減する荷重変化緩和構造を有し,前記荷重変化緩和構造は,前記ロータの外径面に,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面から,前記軸方向における前記円筒体の中央に向かって徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように形成された緩やかな曲線構造であり,前記曲線構造は,前記曲線構造におけるロータの外周面が,前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形した時の前記円筒体の内周面に接する曲線であることを特徴とするロータを提供する。
請求項9記載の発明では,真空ポンプに配設され,異なる材料で形成された円筒体が接合されるロータであって,前記円筒体と前記ロータが接する面に,前記ロータの熱膨張又は遠心力により前記円筒体に生じる軸方向における荷重の変化を低減する荷重変化緩和構造を有し,前記荷重変化緩和構造は,前記ロータの外径面に,前記軸方向における前記円筒体の中央から,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面に向かうに従って徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように形成された緩やかな曲線構造であり,前記曲線構造は,前記曲線構造におけるロータの外周面が,前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形した時の前記円筒体の内周面に接する曲線であることを特徴とするロータを提供する。
請求項10記載の発明では,前記荷重変化緩和構造は,前記ロータと前記円筒体が接触する接触面を共有しなくなる位置にまで前記曲線構造が形成されていることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載のロータを提供する。
請求項11記載の発明では,ねじ溝式ポンプ部と,異なる材料で形成された円筒体が接合されるロータと,を備える真空ポンプであって,前記ロータは,請求項2から請求項10のうちいずれか1項に記載のロータであることを特徴とする真空ポンプを提供する。」

2.訂正要件についての判断
(1)訂正事項1
ア.訂正の目的について
上記訂正事項1による訂正は,特許法第120条の5第2項第1号に規定する特許請求の範囲を減縮することを目的とするものである。
イ.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項1による訂正は,請求項を削除する訂正であり,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であって,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記訂正事項1による訂正は,請求項を削除するものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものには該当しないから,上記訂正事項1による訂正は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2
ア.訂正の目的について
訂正前の請求項2において引用していた請求項1が削除されたことに伴い,訂正事項2により請求項2を独立形式にした。
この訂正は,特許法第120条の5第2項第4項の「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
訂正事項2による訂正は,訂正前の請求項2の「前記荷重変化緩和構造」について,「前記ロータの外径面に,前記円筒体が前記ロータに接合される端面側から前記円筒体の中央に向かって徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように形成された緩やかなテーパ構造であること」とあるのを,
「前記ロータの外径面に,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロ?タに接合される側の端面から,前記軸方向における前記円筒体の中央に向かって徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように,前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす最大角度より,前記ロータの前記外径面の前記円筒体の前記軸方向となす角度が小さく形成された緩やかなテーパである」と限定した。
この訂正は,特許法第120条の5第2項第1号に規定する特許請求の範囲を減縮することを目的とするものである。
また,この訂正は,「前記円筒体が前記ロータに接合される端面側」をより明瞭な記載とするために「前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロ?タに接合される側の端面」とし,「前記円筒体の中央」をより明瞭な記載とするために「前記軸方向における前記円筒体の中央」とし,「テーパ構造」をより明瞭な記載とするために「テーパ」とするものである。
この訂正は,特許法第120条の5第2項第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項2による訂正は,請求項2に記載された構成要素に基づき,「前記荷重変化緩和構造」を「前記ロータの外径面に,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面から,前記軸方向における前記円筒体の中央に向かって徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように,前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす最大角度より,前記ロータの前記外径面の前記円筒体の前記軸方向となす角度が小さく形成された緩やかなテーパである」と限定するものであり,この限定された事項は,願書に添付した明細書の段落【0023】や図1,図2に記載されている。
よって,訂正事項2による訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記訂正事項2の訂正は,訂正前の請求項1の従属関係を解消し独立形式にするものであるとともに,上記訂正事項2のうち,明瞭でない記載の釈明に関する訂正は,実質的に内容の変更を伴うものではなく,「テーパ」の角度を特定した訂正は,発明特定事項を直列的に付加するものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項3
(a)訂正の目的について
訂正前の請求項3において引用していた請求項1が削除されたことに伴い,訂正事項3により請求項3を独立形式にした。
この訂正は,特許法第120条の5第2項第4項の「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
訂正事項3による訂正は,訂正前の請求項3の「前記荷重変化緩和構造」について,「前記ロータの外径面に,前記円筒体の中央から前記円筒体が前記ロータに接合される端面側に向かって徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように形成された緩やかなテーパ構造であること」とあるのを「前記ロータの外径面に,前記軸方向における前記円筒体の中央から,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロ?タに接合される側の端面に向かうに従って徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように,前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす最大角度より,前記ロータの前記外径面の前記円筒体の前記軸方向となす角度が小さく形成された緩やかなテーパである」と限定した。
この訂正は,特許法第120条の5第2項第1号に規定する特許請求の範囲を減縮することを目的とするものである。
また,この訂正は,「前記円筒体の中央」をより明瞭な記載とするために「前記軸方向における前記円筒体の中央」とし,「前記ロータに接合される端面側」をより明瞭な記載とするために「前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロ?タに接合される側の端面」とし,「テーパ構造」をより明瞭な記載とするために,「テーパ」とするものである。
この訂正は,特許法第120条の5第2項第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項3による訂正は,請求項3に記載された構成要素に基づき,「荷重変化緩和構造」を「前記ロ?タの外径面に,前記軸方向における前記円筒体の中央から,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面に向かうに従って徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように,前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす最大角度より,前記ロ-タの前記外径面の前記円筒体の前記軸方向となす角度が小さく形成された緩やかなテーパである」と限定するものであり,この限定された事項は,願書に添付した明細書の段落【0031】や図7(a)に記載されている。
よって,この訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記訂正事項3の訂正は,訂正前の請求項1の従属関係を解消し独立形式にするものであるとともに,上記訂正事項3のうち明瞭でない記載の釈明に関する訂正は,実質的に内容の変更を伴うものではなく,「テーパ」の角度を特定した訂正は,発明特定事項を直列的に付加するものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(4)訂正事項4
ア.訂正の目的について
訂正事項4による訂正により,訂正前の請求項4記載のテーパ角度が,「前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が,前記ロータに接合される側の端面から,前記軸方向における前記円筒体の中央に向かって徐徐に縮径し,前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす角度よりも,小さい角度」であることを限定した。
この訂正は,特許法第120条の5第2項第1号に規定する特許請求の範囲を減縮することを目的とするものである。
また,この訂正は,「テーパ構造」をより明瞭な記載とするために「テーパ」とし,「前記円筒体が,前記ロータに接合される端面側」をより明瞭とするために「前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が,前記ロータに接合される側の端面」とするものであり,「前記円筒体の中央」をより明瞭な記載とするために「前記軸方向における前記円筒体の中央」とするものである。
この訂正は,特許法第120条の5第2項第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項4の訂正は,願書に添付した明細書の段落【0023】,図2に記載した事項の範囲内においてした訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記訂正事項4のうち明瞭でない記載の釈明に関する訂正は,実質的に内容の変更を伴うものではなく,テーパの角度を特定した訂正は,発明特定事項を直列的に付加するものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(5)訂正事項5
ア.訂正の目的について
訂正事項5による訂正により,訂正前の請求項5記載のテーパ角度が,「前記軸方向における前記円筒体の中央から,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面に向かうに従って徐徐に縮径し,前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす角度よりも,小さい角度」であること限定した。
この訂正は,特許法第120条の5第2項第1号に規定する特許請求の範囲を減縮することを目的とするものである。
また,この訂正は,「テーパ構造」をより明瞭な記載とするために「テーパ」とし,「前記円筒体の中央」をより明瞭な記載とするために「前記軸方向における前記円筒体の中央」とし,「前記円筒体が,前記ロータに接合される端面側」をより明瞭とするために「前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面」とするものである。
この訂正は,特許法第120条の5第2項第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項5による訂正は,願書に添付した明細書の段落【0031】,図7(a)に記載した事項の範囲内においてした訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記訂正事項5のうち明瞭でない記載の釈明に関する訂正は,実質的に内容の変更を伴うものではなく,テーパの角度を特定した訂正は,発明特定事項を直列的に付加するものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(6)訂正事項6
ア.訂正の目的について
訂正事項6により訂正前の請求項6記載の「荷重変化緩和構造」が,「前記テーパの,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の終点が曲線状に形成されること」であることを限定した。
この訂正は,特許法第120条の5第2項第1号に規定する特許請求の範囲を減縮することを目的とするものである。
また,この訂正は,「テーパ構造」をより明瞭な記載とするために「テーパ」とし,「前記円筒体が前記ロータに接合される端面側の終点」をより明瞭とするために「前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面の終点」とするものである。
この訂正は,特許法第120条の5第2項第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項6による訂正は,願書に添付した明細書の段落【0027】及び図3に記載した事項の範囲内においてした訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記訂正事項6のうち明瞭でない記載の釈明に関する訂正は,実質的に内容の変更を伴うものではなく,前記荷重変化緩和構造を特定した訂正は,発明特定事項を直列的に付加するものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(7)訂正事項7
ア.訂正の目的について
上記訂正事項7による訂正により,「テーパ構造」をより明瞭な記載とするために,「テーパ」に訂正した。
この訂正は,特許法第120条の5第2項第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項7による訂正は,願書に添付した明細書及び図面に記載した事項に範囲内においてした訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記訂正事項7による訂正は,明瞭でない記載の釈明に関するもので実質的に内容の変更を伴うものではなく,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(8)訂正事項8
ア.訂正の目的について
訂正前の請求項8において引用していた請求項1が削除されたことに伴い,訂正事項8により請求項8を独立形式にした。
この訂正は,特許法第120条の5第2項第4項の「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
訂正事項8による訂正により,訂正前の請求項8の「前記荷重変化緩和構造」について,「前記ロータの外径面に,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面から,前記軸方向における前記円筒体の中央に向かって徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように形成された緩やかな曲線構造であり,
前記曲線構造は,前記曲線構造におけるロータの外周面が,前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形した時の前記円筒体の内周面に接する曲線である」と限定した。
この訂正は,特許法第120条の5第2項第1号に規定する特許請求の範囲を減縮することを目的とするものである。
また,この訂正は,「前記円筒体が前記ロータに接合される端面側」をより明瞭な記載とするために「前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロ?タに接合される側の端面」とし,「前記円筒体の中央」をより明瞭な記載とするために「前記軸方向における前記円筒体の中央」ととするものである。
この訂正は,特許法第120条の5第2項第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項8による訂正は,訂正前の請求項8に記載された構成要素に基づき,「前記荷重変化緩和構造」を「前記ロータの外径面に,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面から,前記軸方向における前記円筒体の中央に向かって徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように形成された緩やかな曲線構造であり,
前記曲線構造は,前記曲線構造におけるロータの外周面が,前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形した時の前記円筒体の内周面に接する曲線である」と限定するものであり,この限定された事項は,願書に添付した明細書の段落番号【0028】及び図4に記載されている。
よって,この訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記訂正事項8の訂正は,訂正前の請求項1の従属関係を解消し独立形式にするものであるとともに,上記訂正事項8のうち明瞭でない記載の釈明に関する訂正は,実質的に内容の変更を伴うものではなく,上記訂正事項8のうち,「荷重変化緩和構造」及び「曲線構造」を特定した訂正は,発明特定事項を直列的に付加するものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(9)訂正事項9
ア.訂正の目的について
訂正前の請求項9において引用していた請求項1が削除されたことに伴い,訂正事項9により請求項9を独立形式にした。
この訂正は,特許法第120条の5第2項第4項の「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
訂正事項9による訂正により,訂正前の請求項9の構成要素である「荷重変化緩和構造」を「前記ロータの外径面に,前記軸方向における前記円筒体の中央から,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面に向かうに従って徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように形成された緩やかな曲線構造であり,
前記曲線構造は,前記曲線構造におけるロータの外周面が,前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形した時の前記円筒体の内周面に接する曲線である」と限定した。
この訂正は,特許法第120条の5第2項第1号に規定する特許請求の範囲を減縮することを目的とするものである。
また,この訂正は,「前記円筒体の中央」をより明瞭な記載とするために「前記軸方向における前記円筒体の中央」とし,「前記ロータに接合される端面側」をより明瞭な記載とするために「前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロ?タに接合される側の端面」とするものである。
この訂正は,特許法第120条の5第2項第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ.願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項9による訂正は,訂正前の請求項9に記載された構成要素に基づき,,「前記荷重変化緩和構造」を「前記ロ?タの外径面に,前記軸方向における前記円筒体の中央から,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面に向かうに従って徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように形成された緩やかな曲線構造であり,
前記曲線構造は,前記曲線構造におけるロータの外周面が,前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形した時の前記円筒体の内周面に接する曲線である」と限定するものであり,この限定された事項は,願書に添付した明細書の段落【0032】に記載されている。
よって,この訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記訂正事項9の訂正は,訂正前の請求項1の従属関係を解消し独立形式にするものであるとともに,上記訂正事項9のうち明瞭でない記載の釈明に関する訂正は,実質的に内容の変更を伴うものではなく,上記訂正事項9のうち,「荷重変化緩和構造」及「曲線構造」を特定した訂正は,発明特定事項を直列的に付加するものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(10)訂正事項10
ア.訂正の目的について
訂正事項10は請求項1の削除に伴い,請求項11において請求項1から請求項10を引用していたものを請求項2から請求項10を引用する請求項とする訂正である。
この訂正は,特許法第120条の5第2項第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項10において引用する請求項2から請求項10が願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の事項であるため,訂正事項10による訂正も,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記訂正事項10による訂正は,引用する請求項の一部を削除するものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(11)訂正事項11
ア.訂正の目的について
訂正事項1?10による請求項1?9,11の訂正に伴い,対応する明細書の発明の詳細な説明の欄を訂正するものであるから,特許法第120条の5第2項第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項11は,訂正事項1から10に対応した訂正である。上記したように,訂正事項1?10による訂正が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であるため,上記訂正事項11による訂正も特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
訂正事項11による訂正は,訂正事項1から10に対応した訂正である。上記したように,訂正事項1から10による訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しないことから,訂正事項11も,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(13)一群の請求項について
訂正前の請求項11は訂正前の請求項1から10を引用するものであるから,これらの訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。

3.小括
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号,第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第4項,及び,同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので,訂正後の請求項[1?11]について訂正を認める。

第3.訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?11に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明11」は,訂正特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項に特定されるとおりのものである。
本件発明1 (削除)
本件発明2「真空ポンプに配設され,異なる材料で形成された円筒体が接合されるロータであって,前記円筒体と前記ロータが接する面に,前記ロータの熱膨張又は遠心力により前記円筒体に生じる軸方向における荷重の変化を低減する荷重変化緩和構造を有し,
前記荷重変化緩和構造は,前記ロータの外径面に,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面から,前記軸方向における前記円筒体の中央に向かって徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように,前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす最大角度より,前記ロータの前記外径面の前記円筒体の前記軸方向となす角度が小さく形成された緩やかなテーパであることを特徴とするロータ。」
本件発明3「真空ポンプに配設され,異なる材料で形成された円筒体が接合されるロー夕であって,前記円筒体と前記ロータが接する面に,前記ロータの熱膨張又は遠心力により前記円筒体に生じる軸方向における荷重の変化を低減する荷重変化緩和構造を有し,
前記荷重変化緩和構造は,前記ロータの外径面に,前記軸方向における前記円筒体の中央から,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面に向かうに従って徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように,前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす最大角度より,前記ロータの前記外径面の前記円筒体の前記軸方向となす角度が小さく形成された緩やかなテーパであることを特徴とするロータ。」
本件発明4「前記テーパのテーパ角度は,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が,前記ロータに接合される側の端面から,前記軸方向における前記円筒体の中央に向かって徐徐に縮径し,前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす角度よりも,小さい角度であることを特徴とする請求項2に記載のロータ。」
本件発明5「前記テーパのテーパ角度は,前記軸方向における前記円筒体の中央から,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面に向かうに従って徐徐に縮径し,前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす角度よりも,小さい角度であることを特徴とする請求項3に記載のロータ。」
本件発明6「前記荷重変化緩和構造は,前記テーパの,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の終点が曲線状に形成されることを特徴とする請求項2から請求項5のいずれか1項に記載のロータ。」
本件発明7「前記荷重変化緩和構造は,前記ロータと前記円筒体が接触する接触面を共有しなくなる位置にまで前記テーパが形成されていることを特徴とする請求項2から請求項6のいずれか1項に記載のロータ。」
本件発明8「真空ポンプに配設され,異なる材料で形成された円筒体が接合されるロータであって,前記円筒体と前記ロータが接する面に,前記ロータの熱膨張又は遠心力により前記円筒体に生じる軸方向における荷重の変化を低減する荷重変化緩和構造を有し,
前記荷重変化緩和構造は,前記ロータの外径面に,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面から,前記軸方向における前記円筒体の中央に向かって徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように形成された緩やかな曲線構造であり,前記曲線構造は,前記曲線構造におけるロータの外周面が,前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形した時の前記円筒体の内周面に接する曲線であることを特徴とするロータ。」
本件発明9「真空ポンプに配設され,異なる材料で形成された円筒体が接合されるロー夕であって,前記円筒体と前記ロータが接する面に,前記ロータの熱膨張又は遠心力により前記円筒体に生じる軸方向における荷重の変化を低減する荷重変化緩和構造を有し,
前記荷重変化緩和構造は,前記ロータの外径面に,前記軸方向における前記円筒体の中央から,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面に向かうに従って徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように形成された緩やかな曲線構造であり,前記曲線構造は,前記曲線構造におけるロータの外周面が,前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形した時の前記円筒体の内周面に接する曲線であることを特徴とするロータ。」。
本件発明10「前記荷重変化緩和構造は,前記ロータと前記円筒体が接触する接触面を共有しなくなる位置にまで前記曲線構造が形成されていることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載のロータ。」
本件発明11「ねじ溝式ポンプ部と,異なる材料で形成された円筒体が接合されるロータと,を備える真空ポンプであって,前記ロータは,請求項2から請求項10のうちいずれか1項に記載のロータであることを特徴とする真空ポンプ。」

第4.取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし11に係る特許について,当審が平成30年8月3日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は,次のとおりである。
「本件特許発明1乃至11の記載は,特許法第36条第6項1号及び第2号に規定する要件を満たしていないから,本件特許発明1乃至11に係る特許は,特許法第113条第4項に該当し,取り消されるべきものである。
1.請求項1の記載では,発明の前提となる,接合されるロータと円筒体の位置関係及び前記ロータと前記円筒体との接合部の態様が,特定されていない。さらに,請求項1の記載では,荷重変化緩和構造の構成が特定されておらず不明確である。そのため,請求項1に係る発明を特定できない。
また,明細書を参照すると,発明の詳細な説明には,接合部の荷重変化を緩和するという課題を解決する手段として,テーパ構造によるものと曲線構造によるものしか記載されていない。一方,請求項1の記載では,そのいずれでもない荷重変化緩和構造をも含み得るものとなっているから,請求項1の記載は,発明の詳細な説明の記載を越えるものとなっている。
特許権者は,平成30年2月5日付け意見書において,
「取消理由通知書で指摘を受けた,「テーパ構造」と「曲線構造」以外の「荷重変化緩和構造」に関しては,乙第1号証のような構造,ずなわち,階段状,波状,先端円弧状が考えられます。
明細書に記載された実施例は,あくまでも例であり,請求項1に記載された特徴を備えた,「テーパ構造」と「曲線構造」以外の「荷重変化緩和構造」も含まれます。」旨主張し,特許明細書には,種々の例として,段落(0021)(0022)(0027)(0028)(0029)の記載がある旨主張する。
しかしながら,特許明細書には,「荷重変化緩和構造」の具体例として,段落【0022】,【0027】?【0029】,図2?図5が開示されているが,「直線状のテーパ部」である「テーパ構造」と曲線状の「曲線構造」しか開示されておらず,乙第1号証のような,階段状,波状,先端円弧状といった構造は開示されていない。
そうすると,上述したように,発明の詳細な説明には,接合部の荷重変化を緩和するという課題を解決する手段として,テーパ構造によるものと曲線構造によるもの以外のものが記載されているとはいえず,「請求項1の記載では,テーパ構造によるものと曲線構造によるもの以外のいずれでもない荷重変化緩和構造をも含み得るものとなっているから,請求項1の記載は,発明の詳細な説明の記載を越えるものとなっている。
2.明細書の記載と,図1,図2,図8を参照すると,本件特許発明2は,「ロータは,円筒体が前記ロータの外径面に接合される位置から排気口側に位置するように接合されていること」が,前提となっていると認められる。
しかしながら,請求項2には,上記前提に加えて,テーパ構造を設けるための,前記ロータと前記円筒体との接合部の態様が記載されておらず,さらに「ロータに接合される端面側」と「円筒体の中央」なる記載もその意味するところが特定できないことにより,本件特許発明2は明確でない。
また,本件特許発明2において,「徐徐に(前記ロータの外径が小さくなる)」,「緩やかな(テーパ構造)」と特定するが,ロータの外径が小さくなる構造のうちどのようなものが「徐々に」小さくなると判断されるものか,テーパ構造のうち,どのようなものが「緩やかな」テーパ構造であるのか,その基準や程度が不明確である結果,発明の範囲が明確でない。
請求項4を参照すれば,上記の点も相まって,本件特許発明2は,テーパ構造のテーパ角度がいかなるものであっても,これを包含する。
しかしながら,明細書,特に段落【0023】の記載を参照すれば,本件特許に係る発明は,テーパ角度がロータの熱膨張又は遠心力により円筒体自体が変形する角度よりも小さい角度であって初めて,円筒体の形状がなだらかに変形するように,当該テーパが荷重を緩和する緩和機能として機能するという課題を解決するものである。
そうすると,請求項2の記載は,課題を解決するための構成がサポートされていないことになる。
以上,請求項2について指摘した事項は,請求項8についても同様である。
3.明細書の記載と,図7の記載を参照すると,本件特許発明3は,「ロータは,円筒体が前記ロータの外径面に前記ロータが接合される位置から吸気口側と排気口側の両側に位置するように接合されていること」が,前提となっていると認められる。
しかしながら,請求項3には,上記前提に加えて,テーパ構造を設けるための,前記ロータと前記円筒体との接合部の態様が記載されておらず,さらに「円筒体の中央」と「ロータに接合される端面側」なる記載もその意味するところが特定できないことにより,本件特許発明3は明確でない。
また,本件特許発明3において,「徐徐に(前記ロータの外径が小さくなる)」,「緩やかな(テーパ構造)」と特定するが,ロータの外径が小さくなる構造のうちどのようなものが「徐々に」小さくなると判断されるものか,テーパ構造のうち,どのようなものが「緩やかな」テーパ構造であるのか,その基準や程度が不明確である結果,発明の範囲が明確でない。
請求項5を参照すれば,上記の点も相まって,本件特許発明3は,テーパ構造のテーパ角度がいかなるものであっても,これを包含する。
しかしながら,明細書,特に段落【0031】の記載を参照すれば,本件特許に係る発明は,テーパ角度がロータの熱膨張又は遠心力により円筒体自体が変形する角度よりも小さい角度であって初めて,円筒体の形状がなだらかに変形するように,当該テーパが荷重を緩和する緩和機能として機能するという課題を解決するものである。
そうすると,請求項3の記載は,課題を解決するための構成がサポートされていないことになる。
以上,請求項3について指摘した事項は,請求項9についても同様である。
4.請求項4の記載では,段落【0023】のテーパ角度がロータの熱膨張又は遠心力により円筒体自体が変形する角度よりも小さい角度であることに対応する記載になっていないため,課題を解決するものための構成がサポートされていないし,本件特許発明4は円筒体が前記「ロータに接合される端面側」から前記「円筒体の中央」に向かって「縮径する角度」が何を示してしているのかも明確でなく,円筒体がロータに接合された際にロータの熱膨張又は遠心力により円筒体自体が変形する角度であることが明確に表れていない。
また,本件特許発明4において,「徐徐に(縮径する角度)」と特定するが,円筒体が縮径する構造のうちどのようなものが「徐々に」縮径する角度と判断されるものか,その基準や程度が不明確である結果,発明の範囲が明確でない。
5.請求項5の記載では,段落【0031】のテーパ角度がロータの熱膨張又は遠心力により円筒体自体が変形する角度よりも小さい角度であることに対応する記載になっていないため,課題を解決するための構成がサポートされていないし,本件特許発明5は,円筒体が前記「円筒体の中央」から「前記ロータに接合される端面側」に向かって「縮径する角度」が何を示してしているのかも明確でなく,円筒体がロータに接合された際にロータの熱膨張又は遠心力により円筒体自体が変形する角度であることが明確に表れていない。
また,本件特許発明5において,「徐徐に(縮径する角度)」と特定するが,円筒体が縮径する構造のうちどのようなものが「徐々に」縮径する角度と判断されるものか,その基準や程度が不明確である結果,発明の範囲が明確でない。
6.本件特許発明6は「前記荷重変化緩和構造は,前記テーパ構造の前記円筒体が前記ロータに接合される端面側の終点が曲線状に形成される」と特定しているが,「ロータに接合される端面側」が如何なる箇所を表すものかが明確でない。
7.本件特許発明2?6のいずれか1項を引用する本件特許発明7,本件特許発明8又は9を引用する本件特許発明10,本件特許発明1?10のいずれか1項を引用する本件特許発明11は,上述した理由により,いずれも発明が明確でない,又は,課題を解決するための構成がサポートされていない。
よって,請求項1乃至11に係る発明の特許は,特許法第36条第6項第1号及び第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。」

2.当審の判断
(1)本件発明2について
本件発明2では,「前記荷重変化緩和構造は,前記ロータの外径面に,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面から,前記軸方向における前記円筒体の中央に向かって徐徐に前記ロータの外径が小さくなる」とされており,テーパを設けるための前記ロータと前記円筒体の接合部の態様が記載されるものとなり,「前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面」,「前記軸方向における前記円筒体の中央」と特定されることにより,「ロータに接合される端面側」,「円筒体の中央」の意味が明確になった結果,本件発明2に係る「荷重変化緩和構造」の前提となる,ロータと円筒体との接合の態様が明確となった。
そして,「前記荷重変化緩和構造は,」「前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす最大角度より,前記ロータの前記外径面の前記円筒体の前記軸方向となす角度が小さく形成された緩やかなテーパ」と特定されることで,「テーパ角度がロータの熱膨張又は遠心力により円筒体自体が変形する角度よりも小さい角度であって初めて,円筒体の形状がなだらかに変形するように,当該テーパが荷重を緩和する緩和機能として機能する」という課題を解決するための構成がサポートされるとともに,全体として,「荷重変化緩和構造」の構成が明確になった。
なお,本件発明2において,依然として「徐徐に(前記ロータの外径が小さくなる)」,「緩やかな(テーパ)」と特定されているが,前述のとおり,本件訂正請求による訂正の結果,本件発明2に係る荷重変化緩和構造は,全体として明確になったから,これらの記載のみをもって明確でないとはいえない。
したがって,本件発明2は,全体として明確であるから,特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしているとともに,課題を解決するための構成がサポートされることにより,発明の詳細な説明に記載されるものとなったので,特許法第36条第6項第1号に規定する要件も満たしている。
(2)本件発明3について
本件発明3では,「前記荷重変化緩和構造は,前記ロータの外径面に,前記軸方向における前記円筒体の中央から,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面に向かうに従って徐徐に前記ロータの外径が小さくなる」とされており,テーパを設けるための前記ロータと前記円筒体の接合部の態様が記載されるものとなり,「前記軸方向における前記円筒体の中央」,「前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面」と特定されることにより,「ロータに接合される端面側」,「円筒体の中央」の意味が明確になった結果,本件発明3に係る「荷重変化緩和構造」の前提となる,ロータと円筒体との接合の態様が明確となった。
そして,「前記荷重変化緩和構造は,」「前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす最大角度より,前記ロータの前記外径面の前記円筒体の前記軸方向となす角度が小さく形成された緩やかなテーパ」と特定されることで,「テーパ角度がロータの熱膨張又は遠心力により円筒体自体が変形する角度よりも小さい角度であって初めて,円筒体の形状がなだらかに変形するように,当該テーパが荷重を緩和する緩和機能として機能する」という課題を解決するための構成がサポートされるとともに,全体として,「荷重変化緩和構造」の構成が明確になった。
なお,本件発明3において,依然として「徐徐に(前記ロータの外径が小さくなる)」,「緩やかな(テーパ)」と特定されているが,前述のとおり,本件訂正請求による訂正の結果,本件発明3に係る荷重変化緩和構造は,全体として明確になったから,これらの記載のみをもって明確でないとはいえない。
したがって,本件発明3は,全体として明確であるから,特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしているとともに,課題を解決するための構成がサポートされることにより,発明の詳細な説明に記載されるものとなったので,特許法第36条第6項第1号に規定する要件も満たしている。
(3)本件発明4について
本件発明4では「前記テーパのテーパ角度は,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が,前記ロータに接合される側の端面から,前記軸方向における前記円筒体の中央に向かって徐徐に縮径し,」とされており,「前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が,前記ロータに接合される側の端面」,「前記軸方向における前記円筒体の中央」と特定されることにより「ロータに接合される端面側」,「円筒体の中央」の意味が明確になった。
そして,「前記テーパのテーパ角度は」「前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす角度よりも,小さい角度である」と特定されることで,テーパ角度がロータの熱膨張又は遠心力により円筒体自体が変形する角度よりも小さい角度であることに対応する記載になり,課題を解決するための構成がサポートされるものとなって,全体として,「テーパのテーパ角度」の構成が明確になった。
本件発明4において,依然として「徐徐に(縮径する角度)」と特定されているが,前述のとおり,本件訂正請求による訂正の結果,本件発明4に係る「テーパのテーパ角度」の構成は,全体として明確になったから,この記載のみをもって明確でないとはいえない。
したがって,本件発明4は,全体として明確であるから,特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしているとともに,課題を解決するための構成がサポートされることにより,発明の詳細な説明に記載されるものとなったので,特許法第36条第6項第1号に規定する要件も満たしている。
(4)本件発明5について
本件発明5では「前記テーパのテーパ角度は,前記軸方向における前記円筒体の中央から,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面に向かうに従って徐徐に縮径し,」とされており,「前記軸方向における前記円筒体の中央」,「前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面」と特定されることにより「円筒体の中央」,「ロータに接合される端面側」の意味が明確になった。
そして,「テーパのテーパ角度は」「前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす角度よりも,小さい角度であること」と特定されることで,テーパ角度がロータの熱膨張又は遠心力により円筒体自体が変形する角度よりも小さい角度であることに対応する記載になり,課題を解決するための構成がサポートされるものとなって,全体として,「テーパのテーパ角度」の構成が明確になった。
本件発明5において,依然として「徐徐に(縮径する角度)」と特定されているが,前述のとおり,本件発明5に係る「テーパのテーパ角度」の構成は,全体として明確になったから,この記載のみをもって明確でないとはいえない。
したがって,本件発明5は,全体として明確であるから,特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしているとともに,課題を解決するための構成がサポートされることにより,発明の詳細な説明に記載されるものとなったので,特許法第36条第6項第1号に規定する要件も満たしている。
(5)本件発明6について
本件発明6では,「前記荷重変化緩和構造は,前記テーパの,前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の終点が曲線状に形成される」とされており,「前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の終点」と特定されることにより,「ロータに接合される端面側」の意味が明確になった。
特に,請求項3,5を引用する場合に図7(a)の当該位置を示すことが明確となった。


したがって,本件発明6は,全体として明確であるから,特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしているとともに,課題を解決するための構成がサポートされることにより,発明の詳細な説明に記載されるものとなったので,特許法第36条第6項第1号に規定する要件も満たしている。
(6)本件発明7について
本件発明2?6を引用する引用発明7は,上述した理由により,全体として明確であるから,特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしている。
(7)本件発明8について
本件発明2と同様の理由により,本件発明8は,全体として明確であるから,特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしているとともに,課題を解決するための構成がサポートされることにより,発明の詳細な説明に記載されるものとなったので,特許法第36条第6項第1号に規定する要件も満たしている。
(8)本件発明9について
本件発明3と同様の理由により,本件発明8は,全体として明確であるから,特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしているとともに,課題を解決するための構成がサポートされることにより,発明の詳細な説明に記載されるものとなったので,特許法第36条第6項第1号に規定する要件も満たしている。
(9)本件発明10について
本件発明8又は9を引用する本件発明10は,上述した理由により,全体として明確であるから,特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしているとともに,課題を解決するための構成がサポートされることにより,発明の詳細な説明に記載されるものとなったので,特許法第36条第6項第1号に規定する要件も満たしている。
(10)本件発明11について
本件発明2?10のいずれか1項を引用する本件発明11は,上述した理由により,全体として明確であるから,特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしているとともに,課題を解決するための構成がサポートされることにより,発明の詳細な説明に記載されるものとなったので,特許法第36条第6項第1号に規定する要件も満たしている。
(11)小括
よって,本件発明2乃至11に係る特許は,特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしている。

第5.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1.特許法第29条第1項,特許法第29条第2項について
当審により異議申立人に対して,平成29年9月21日付けで審尋を行い,同年10月23日付けで異議申立人により回答書が提出された。
(1)審尋の内容について
「1.甲第1号証?甲第8号証,甲第10号証,甲第11号証は,すべて異議申立人の作成した社内文書,または,異議申立人の従業員の作成した文書であり,これらの文書が,真正なものであって,これらの文書に記載された内容が,実際の製品と同一であると認めるにたる客観的な証拠もないから,本件特許に係る発明が特許法第29条第1項第1号又は第2号に規定された発明に該当することを立証する証拠としては,不充分である。
2.甲第9号証の納品書,請求書は,異議申立人の作成した文書であるため,実際の製品の公知,公用を立証する証拠としては,不充分である。
納品書,請求書など,取引先等第三者が作成した書類等,客観的な証拠を間接証拠として提出されたい。」
(2)回答書について
異議申立人は,上記審尋1.に対して,甲第12号証(宣誓供述書3),甲第13号証[異議申立人が認証を受けている品質マネジメントシステムに関する認定書(証明書){異議申立人が1996年頃からISO9001,ISO14001の認証を受けていること}]を提出し,甲第1号証?甲第8号証,甲第10号証,甲第11号証は,全て真正である旨主張する。
異議申立人は,上記審尋2.に対して,甲第14号証(製品TMH071の各顧客に納品後,各顧客から実際の入金があったことを示す銀行取引明細書,小切手の写し),甲第15号証(製品TMH071の納品書,送り状,修理返送表の一式),甲第16号証(製品TMH071の納品書,送り状,返送表)を提出し,実際の製品が公然実施され,公然知られるものであった旨主張する。
(3)判断
ア.審尋1.について
甲第12号証(宣誓供述書3)は,生産部門の担当者の宣誓供述書であるが,異議申立人の従業員の作成した文書であり,この文書に記載された内容を客観的に裏付ける証拠もない。
甲第13号証により,異議申立人が,1996年頃からISO9001,ISO14001の認証を受けていることは認められるものの,甲第1号証?甲第8号証,甲第10号証,甲第11号証が,真正なものであって,これらの文書に記載された内容が,実際の製品と同一であると認めるに足る客観的な証拠であるとまではいえない。
イ.小括
したがって,審尋2.について検討するまでもなく,甲第1号証?甲第8号証,甲第10号証?甲第12号証の内容が,本件特許の優先権主張の日前に日本国内又は外国において公然知られていたとも,公然実施されていたとも認められないから,本件発明2,6?8,10,11に対する特許法29条第1項,第2項に関する異議申立ての理由は成り立たない。

第6.結び
以上のとおりであるから,取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件発明2ないし11に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件発明2ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして,本件発明1に係る特許は,訂正により,削除されたため,本件特許の請求項1に対して,特許異議申立人 プファイファー・ヴァキューム・ゲーエムベーハーがした特許異議申立てについては,対象となる請求項が存在しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ロータ及び真空ポンプ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロータ及び真空ポンプに関し、接合部の荷重変化を緩和する荷重変化緩和構造を有するロータ、及び当該ロータを内包する真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
各種ある真空ポンプのうち、高真空の環境を実現するために多用されるものにターボ分子ポンプやねじ溝式ポンプがある。
こうした真空ポンプは、吸気口及び排気口を備えた外装体を形成するケーシングの内部に、当該真空ポンプに排気機能を発揮させる構造物が収納されている。この排気機能を発揮させる構造物は、大きく分けて、回転自在に配置された回転部(ロータ部)とケーシングに対して固定された固定部(ステータ部)から構成されている。
ターボ分子ポンプの場合、回転部は、回転軸及びこの回転軸に固定されている回転体からなり、回転体には、放射状に設けられた回転翼(動翼)が多段に配設されている。また、固定部には、回転翼に対して互い違いにステータ翼(静翼)が多段に配設されている。更に、ターボ分子ポンプには回転軸を高速回転させるためのモータが設けられており、このモータの働きにより回転軸が高速回転すると、回転翼とステータ翼との相互作用により気体が吸気口から吸引され、排気口から排出されるようになっている。
【0003】
こうしたターボ分子ポンプやねじ溝式ポンプなどの真空ポンプでは、通常、回転部はアルミニウムやアルミニウム合金などの金属で製造される。
しかし、近年、性能向上(特に、より高速に回転させること)を目的として、高速回転する円筒形の回転部が、金属材料よりも、軽量且つ強度のある繊維強化複合材料(繊維強化プラスチック材、Fiber Reinforced Plastics。以後、FRP材とする)で製造される場合がある。なお、この場合にFRP材に用いられる繊維はアラミド繊維(AFRP)、ボロン繊維(BFRP)、ガラス繊維(GFRP)や炭素繊維(CFRP)、ポリエチレン繊維(DFRP)などがある。
このように、真空ポンプの回転部の下部に配設する円筒形の回転部を、軽くて強いFRP材で形成された円筒形回転部にすると、円筒部の軽量化及び大型化を実現することができるので、当該円筒形回転部が配設される真空ポンプの排気性能を向上させることができる。
なお、アルミニウム合金などの金属製の回転部(回転翼)とFRP材で形成される円筒形回転部は、一般的に、図9(a)及び(b)に示したように、ロータ(回転部)80(800)が内側に、円筒形回転部9が外側に配設されるように、当該回転部の下部にガイドを設けて圧入、接着、又は圧入と接着の併用などの手段で接合される。
【0004】
ここで、真空ポンプのロータは、運転条件によっては温度が常温から150℃前後にまで上昇することがある。このように広い温度範囲を有するので、高温時に2種類の材料の熱膨張の差によって大きな熱応力が生じる。
アルミニウム合金はFRP材の何倍も熱膨張率が高いので、運転時間に伴い温度が上昇すると、温度上昇に伴って内側の金属製の回転部がどんどん膨張する。一方、外側に接合されたFRP材で形成された円筒形回転部の方はそれほど膨張しないので、運転の間、接合部の接触面に非常に大きな応力が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3098139号
【特許文献2】特開2004-278512号
【0006】
特許文献1には、ターボ分子ポンプ部とネジ溝ポンプ部からなる複合分子ポンプにおいて、ターボ分子ポンプ部のロータを金属製とすると共に、ネジ溝ポンプ部の円筒ロータ及びターボ分子ポンプ部のロータとネジ溝ポンプ部の円筒ロータ間を接合する支板(5)を繊維強化プラスチック材(FRP)により形成する発明について記載されている。
このように、特許文献1記載の発明では、ターボ分子ポンプ部の金属製ロータと、FRPで形成された円筒ロータとの間に、当該金属とFRPの中間特性の熱膨張率を有する部材(支板)を挟んで、上述した熱膨張の差による熱応力を緩和している。
特許文献2には、上述した円筒形の回転部をFRP材で製造する方法として、繊維束を巻いて樹脂で固めるフィラメントワインディング法や、或いは、予め樹脂の中に繊維が埋め込まれた(含浸された)シートを巻いていくシートワインディング法について記載されており、ガラス繊維または炭素繊維などの強化繊維(FRP)で充填された樹脂をベースにした有機基材の複合材料で作製され、フィラメントワインディング法でコアに連続的に巻き付けられて作製されたホルベックスカート下流回転子セグメント(5c)について記載されている。
このように、特許文献2記載の発明では、繊維を斜めに巻く、或いは、繊維と樹脂とで樹脂の方の比率を多めに設定し、熱膨張により内側から広がっていった際に発生する加重が小さくなるように材料のヤング率を意図的に小さくする等、FRPの巻き付け条件を工夫することで接合部付近の負荷を緩和している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1及び特許文献2は、真空ポンプの金属製の回転部とFRP材で形成した円筒体の回転部の、結合部全体にかかる負担を緩和することを目的としている。
そのため、上述した特許文献1及び特許文献2では、FRP材で形成した円筒体(円筒体回転部)において、当該円筒体の内側に配設される金属製のロータと実際に接触して負荷がかかっている部分と、当該金属製のロータと接触していないために負荷がかかっていない部分との、境界部分に生じる急激な荷重変化に対しては考慮されていない。
また、真空ポンプの回転翼の円筒体部分にFRP材を利用する場合は、円周方向にかかる遠心力による負荷に耐えるために、FRP材を設計する際には材料の特性を強化する繊維を円周方向に巻き付ける。このように形成されたFRP材を用いた円筒体では、繊維が入っている方向(即ち、円周方向)は、繊維が円筒体にかかる負荷を負担するので円筒体の強度が増す。
しかしながら、繊維が入っていない方向(即ち、軸方向や半径方向)は、繊維をつなぎ止めている樹脂が円筒体にかかる負荷を負担する。そのため、繊維が入っていない方向に対する強度は、繊維を入れる前とほとんど変わりがないか、或いは、応力集中が起こった結果、強度が低下してしまう虞があった。
また、上述したような異方性のため、FRP材で形成された円筒体では、繊維が入っていない軸方向や半径方向では、わずかな荷重で変形してしまう虞があった。
【0008】
ところで、こうしたFRP材で製造された円筒形回転部が内包される真空ポンプは、腐食性のあるガス(例えば、ハロゲンガス)を排気する環境に配設されることがある。その場合、耐腐食対策として、当該ガスが流れる部分(部品)の表面に無電解ニッケルメッキなどにより耐食表面処理を行う。耐食表面処理の他例としては、物理気相成長(PVD)、化学気相成長(CVD)、スパッタリング、イオンプレーティングなどの蒸着法や、電着塗装などがある。
このように円筒体回転部に耐食表面処理(表面耐食コーティング)が施されている場合、真空ポンプの金属製の回転部とFRP材で形成した円筒体回転部とが接合される接合部と、両者が接合されていない非接合部との境界部分において、軸方向に大きな荷重変化が生じて接合部と非接合部との境界部分が部分的に大きく変形してしまうと、その部分(接合部分)の耐食表面コーティングが、境界面のメッキが割れてしまうなどして破損してしまう虞があった。
【0009】
そこで、本発明は、真空ポンプの回転体(ロータ)との接合部の荷重変化の緩和構造を有するロータ、及び当該ロータを内包して排気性能が向上した真空ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項2記載の発明では、真空ポンプに配設され、異なる材料で形成された円筒体が接合されるロータであって、前記円筒体と前記ロータが接する面に、前記ロータの熱膨張又は遠心力により前記円筒体に生じる軸方向における荷重の変化を低減する荷重変化緩和構造を有し、前記荷重変化緩和構造は、前記ロータの外径面に、前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面から、前記軸方向における前記円筒体の中央に向かって徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように、前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす最大角度より、前記ロータの前記外径面の前記円筒体の前記軸方向となす角度が小さく形成された緩やかなテーパであることを特徴とするロータを提供する。
請求項3記載の発明では、真空ポンプに配設され、異なる材料で形成された円筒体が接合されるロータであって、前記円筒体と前記ロータが接する面に、前記ロータの熱膨張又は遠心力により前記円筒体に生じる軸方向における荷重の変化を低減する荷重変化緩和構造を有し、前記荷重変化緩和構造は、前記ロータの外径面に、前記軸方向における前記円筒体の中央から、前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面に向かうに従って徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように、前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす最大角度より、前記ロータの前記外径面の前記円筒体の前記軸方向となす角度が小さく形成された緩やかなテーパであることを特徴とするロータを提供する。
請求項4記載の発明では、前記テーパのテーパ角度は、前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が、前記ロータに接合される側の端面から、前記軸方向における前記円筒体の中央に向かって徐徐に縮径し、前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす角度よりも、小さい角度であることを特徴とする請求項2に記載のロータを提供する。
請求項5記載の発明では、前記テーパのテーパ角度は、前記軸方向における前記円筒体の中央から、前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面に向かうに従って徐徐に縮径し、前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす角度よりも、小さい角度であることを特徴とする請求項3に記載のロータを提供する。
請求項6記載の発明では、前記荷重変化緩和構造は、前記テーパの、前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の終点が曲線状に形成されることを特徴とする請求項2から請求項5のいずれか1項に記載のロータを提供する。
請求項7記載の発明では、前記荷重変化緩和構造は、前記ロータと前記円筒体が接触する接触面を共有しなくなる位置にまで前記テーパが形成されていることを特徴とする請求項2から請求項6のいずれか1項に記載のロータを提供する。
請求項8記載の発明では、真空ポンプに配設され、異なる材料で形成された円筒体が接合されるロータであって、前記円筒体と前記ロータが接する面に、前記ロータの熱膨張又は遠心力により前記円筒体に生じる軸方向における荷重の変化を低減する荷重変化緩和構造を有し、前記荷重変化緩和構造は、前記ロータの外径面に、前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面から、前記軸方向における前記円筒体の中央に向かって徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように形成された緩やかな曲線構造であり、前記曲線構造は、前記曲線構造におけるロータの外周面が、前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形した時の前記円筒体の内周面に接する曲線であることを特徴とするロータを提供する。
請求項9記載の発明では、真空ポンプに配設され、異なる材料で形成された円筒体が接合されるロータであって、前記円筒体と前記ロータが接する面に、前記ロータの熱膨張又は遠心力により前記円筒体に生じる軸方向における荷重の変化を低減する荷重変化緩和構造を有し、前記荷重変化緩和構造は、前記ロータの外径面に、前記軸方向における前記円筒体の中央から、前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面に向かうに従って徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように形成された緩やかな曲線構造であり、前記曲線構造は、前記曲線構造におけるロータの外周面が、前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形した時の前記円筒体の内周面に接する曲線であることを特徴とするロータを提供する。
請求項10記載の発明では、前記荷重変化緩和構造は、前記ロータと前記円筒体が接触する接触面を共有しなくなる位置にまで前記曲線構造が形成されていることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載のロータを提供する。
請求項11記載の発明では、ねじ溝式ポンプ部と、異なる材料で形成された円筒体が接合されるロータと、を備える真空ポンプであって、前記ロータは、請求項2から請求項10のうちいずれか1項に記載のロータであることを特徴とする真空ポンプを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、真空ポンプの回転体との接合部の荷重変化の緩和構造を有するロータ、及び当該ロータを内包して排気性能が向上した真空ポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係る荷重変化緩和構造を備えたターボ分子ポンプの概略構成例を示した図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る荷重変化緩和構造の概念図である。
【図3】本発明の第1実施形態の変形例1に係る荷重変化緩和構造を説明するための図である。
【図4】本発明の第1実施形態の変形例2に係る荷重変化緩和構造を説明するための図である。
【図5】本発明の第1実施形態の変形例3に係る荷重変化緩和構造を説明するための図である。
【図6】本発明の第1実施形態の変形例4に係る荷重変化緩和構造を説明するための図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る荷重変化緩和構造を説明するための図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係る荷重変化緩和構造を備えたねじ溝式ポンプの概略構成例を示した図である。
【図9】本発明の従来技術に係る、回転部と円筒形回転部との接合部の概略構成例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(i)実施形態の概要
本発明の実施形態では、真空ポンプは、アルミニウム合金などの金属製の回転部にFRP材などで形成された円筒形回転部が接合される接合部に、熱応力などによる荷重変化を緩和させる荷重変化緩和構造を有する。
より詳しくは、当該回転部と円筒形回転部の境界部分に、緩やかなテーパを設置する。
【0014】
(ii)実施形態の詳細
以下、本発明の好適な実施の形態について、図1?図8を参照して詳細に説明する。
なお、第1実施形態では、真空ポンプの一例として、ターボ分子ポンプ部とねじ溝式ポンプ部を備えた、いわゆる複合型のターボ分子ポンプを用いて説明する。
また、本実施形態では、一例として、アルミニウム合金で製造されたロータ8と、FRP材で製造された円筒形回転部9を配設するターボ分子ポンプ1を用いて説明する。
【0015】
図1は、本発明の第1実施形態に係る荷重変化緩和構造を備えたターボ分子ポンプ1の概略構成例を示した図である。なお、図1は、ターボ分子ポンプ1の軸線方向の断面を示している。
ターボ分子ポンプ1の外装体を形成するケーシング2は、略円筒状の形状をしており、ケーシング2の下部(排気口6側)に設けられたベース3と共にターボ分子ポンプ1の筐体を構成している。そして、この筐体の内部には、ターボ分子ポンプ1に排気機能を発揮させる構造物である気体移送機構が収納されている。
この気体移送機構は、大きく分けて、回転自在に配置された回転部と筐体に対して固定された固定部から構成されている。
【0016】
ケーシング2の端部には、当該ターボ分子ポンプ1へ気体を導入するための吸気口4が形成されている。また、ケーシング2の吸気口4側の端面には、外周側へ張り出したフランジ部5が形成されている。
また、ベース3には、当該ターボ分子ポンプ1から気体を排気するための排気口6が形成されている。
【0017】
回転部は、回転軸であるシャフト7、このシャフト7に配設されたロータ8、ロータ8に設けられた複数枚の回転翼8a、排気口6側(ねじ溝式ポンプ部)に設けられた円筒形回転部9などから構成されている。なお、シャフト7及びロータ8によってロータ部が構成されている。
各回転翼8aは、シャフト7の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜してシャフト7から放射状に伸びたブレードからなる。
また、円筒形回転部9は、ロータ8の回転軸線と同心の円筒形状をした円筒部材からなる。
【0018】
シャフト7の軸線方向中程には、シャフト7を高速回転させるためのモータ部20が設けられ、ステータコラム10に内包されている。
更に、シャフト7のモータ部20に対して吸気口4側、および排気口6側には、シャフト7をラジアル方向(径方向)に非接触で回転自在に支えるための径方向磁気軸受装置30、31が、シャフト7の下端には、シャフト7を軸線方向(アキシャル方向)に非接触で回転自在に支えるための軸方向磁気軸受装置40が設けられている。
【0019】
筐体の内周側には、固定部が形成されている。この固定部は、吸気口4側(ターボ分子ポンプ部)に設けられた複数枚の固定翼50と、ケーシング2の内周面に設けられたねじ溝スペーサ60などから構成されている。
各固定翼50は、シャフト7の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して筐体の内周面からシャフト7に向かって伸びたブレードから構成されている。
各段の固定翼50は、円筒形状をしたスペーサ70により互いに隔てられて固定されている。
ターボ分子ポンプ部では、固定翼50と、回転翼8aとが互い違いに配置され、軸線方向に複数段形成されている。
【0020】
ねじ溝スペーサ60には、円筒形回転部9との対向面にらせん溝が形成されている。
ねじ溝スペーサ60は、所定のクリアランスを隔てて円筒形回転部9の外周面に対面しており、円筒形回転部9が高速回転すると、ターボ分子ポンプ1で圧縮されたガスが円筒形回転部9の回転に伴ってねじ溝(らせん溝)にガイドされながら排気口6側へ送出されるようになっている。即ち、ねじ溝は、ガスを輸送する流路となっている。ねじ溝スペーサ60と円筒形回転部9が所定のクリアランスを隔てて対向することにより、ねじ溝でガスを移送する気体移送機構を構成している。
なお、ガスが吸気口4側へ逆流する力を低減させるために、このクリアランスは小さければ小さいほどよい。
ねじ溝スペーサ60に形成されたらせん溝の方向は、らせん溝内をロータ8の回転方向にガスが輸送された場合、排気口6に向かう方向である。
また、らせん溝の深さは、排気口6に近づくにつれて浅くなるようになっており、らせん溝を輸送されるガスは排気口6に近づくにつれて圧縮されるようになっている。このように、吸気口4から吸引されたガスは、ターボ分子ポンプ部で圧縮された後、ねじ溝式ポンプ部で更に圧縮されて排気口6から排出される。
【0021】
上述のように構成された、FRPを用いて製造された円筒形回転部9を配設するターボ分子ポンプ1は、ハロゲンガス、フッ素ガス、塩素ガス、又は臭素ガスといった様々なプロセスガスを半導体の基板に作用させる工程が数多くある半導体製造用に使用される場合などは、当該ガスが触れる場所(構成部品)に対して、当該ガスによる腐食を防ぐために、無電解ニッケルメッキなどの耐食表面処理が施される。
上述のように構成された本発明の第1実施形態に係るターボ分子ポンプ1は、ロータ8と円筒形回転部9との境界部分(接合部)に荷重変化緩和構造を有する。
【0022】
図2は、図1におけるA部(接合部)の拡大図であり、本発明の第1実施形態に係る荷重変化緩和構造の概念図である。
図2に線分αβで示したように、本発明の第1実施形態に係るターボ分子ポンプ1は、ロータ8と円筒形回転部9とが接合される境界部分に、荷重変化緩和構造としての緩やかなテーパ(線分αβ)を有する。このテーパは、ロータ8の外径を、円筒形回転部9の端面側から中央に向かって緩やかに小さくなるように形成することで形成することができる。
図2のθ1で表した角度は、荷重変化緩和構造としてのテーパが設けられていない時(図9)の、ロータ8の熱膨張によって変形した円筒形回転部9の変形角度(縮径角度)を示している。
図2にθ2で表した角度は、荷重変化緩和構造として設けられるテーパのテーパ角度を示している。
図2にtで示した幅は、本発明の第1実施形態に係る荷重変化緩和構造としてのテーパのテーパ長、即ち、線分αβの投影長を示している。
図2のt0で示した幅は、円筒形回転部9とロータ8との干渉幅を示している。つまり、内側に配設される部品であるロータ8の外径と、外側に配設される部品である円筒形回転部9の内径との差である。
【0023】
一般に、部品を挿入する場合には、挿入を容易に行う目的で挿入する部分に15度?30度程度のテーパ角度を有するテーパが設けられる。
しかし、ロータ8が高速回転して熱膨張した時の円筒形回転部9の変形角度θ1は、当該テーパ角度(15度?30度)よりも非常に小さな角度(概ね、数度)になるため、上述したように通常与えられるテーパ角度では、熱膨張による荷重変化の対策としては功を奏さない。
そこで、本第1実施形態の荷重変化緩和構造に係るテーパ角度θ2は、素材、即ち、円筒形回転部9を形成するFRP自体が変形する角度よりも非常に小さい角度にしている。
つまり、図2に示したように、本第1実施形態では、円筒形回転部9が変形する角度θ1よりも小さい角度であるテーパ角度θ2を有するテーパをロータ8に設ける構成にする。この構成により、円筒形回転部9の形状がなだらかに変形するように、当該テーパが荷重を緩和する緩和機構として機能する。
なお、本第1実施形態では、テーパ角度θ2は一例として5度以下とした。しかし、θ1の角度は、円筒形回転部9の肉厚、あるいは円筒形回転部9を形成する素材、当該素材の繊維含有量、当該素材が含有する繊維の巻き付け角度などにより変化することが考えられるため、テーパ角度θ2の値も適宜変更することが望ましい。
【0024】
上述した構成にすることで、本発明の第1実施形態に係る荷重変化緩和構造を有するターボ分子ポンプ1では、荷重変化緩和構造としてのテーパにより円筒形回転部9の変形がなめらかになるので、ロータ8と円筒形回転部9との境界での熱応力による急激な荷重変化を緩和することができる。その結果、急激な荷重変化に対応できないために起こる耐食コーティングの割れなどの破損を防止することができる。
【0025】
更に、本発明の第1実施形態に係る荷重変化緩和構造では、ロータ8に設けるテーパのテーパ長t(線分αβの投影長)が充分に長くなるよう構成されている。より詳しくは、ロータ8と円筒形回転部9とが接触する接触面を共有しなくなり、ロータ8と円筒形回転部9との間に、ロータ8の外側面と円筒形回転部9の内側面とで隙間90が形成される位置にまでテーパ(線分αβ)を延長する構成にしている。
なお、内側に配設されたロータ8が高温時に熱膨張を起こして外側に押し広げる力がより強い時の方が、テーパに必要な長さ(テーパ長t:線分αβ)は長くなる。そこで、上述したテーパ長tを決めるにあたっては、干渉幅t0、即ちロータ8と円筒形回転部9とが接触する接触面を共有する部分が大きくなる条件、つまり温度が最も高くなる条件の下で、当該テーパ長tを決めることが望ましい。
【0026】
上述した構成にすることで、本発明の第1実施形態に係る荷重変化緩和構造を有するターボ分子ポンプ1では、荷重変化緩和構造としてのテーパにより円筒形回転部9の変形がなめらかになるので、ロータ8と円筒形回転部9との境界での熱応力による急激な荷重変化を緩和することができる。その結果、急激な荷重変化に対応できないために起こる耐食コーティングの割れなどの破損を防止することができる。
また、本発明の第1実施形態に係る荷重変化緩和構造を有するターボ分子ポンプ1は、熱膨張に加えて、遠心力によっても著しく変形する場合にも当該変形の防止対策として適用することができる。
【0027】
ロータ8と円筒形回転部9との境界部分(接触部分)は、必ずしもテーパ(直線)状である必要はない。つまり、ロータ8においてテーパが始まる部分(直線と直線の交点の部分)は、角ではなくRを設けることが望ましいので、荷重を緩衝するための当該境界部分を、緩やかな曲線を設ける構成にするとよい。
そこで、上述した本発明の第1実施形態に係る荷重変化緩和構造は、以下のように変形することができる。
(iii)変形例1
図3は、本発明の第1実施形態の変形例1に係る荷重変化緩和構造を説明するための図である。
図3には、本発明の第1実施形態の変形例1に係るロータ81と、当該ロータ81と対比するために従来形状のロータ80が並列して示されている。なお、ロータ81上の2点鎖線は、従来のロータ80の末端の位置を示している。
図3に示したように、本変形例1の荷重変化緩和構造に係るロータ81は、円筒形回転部9との接触部分に、曲線部(曲線αγ)とテーパ部(線分γβ)とを有する。
このように、ロータ81と円筒形回転部9との境界部分を緩やかな曲線部及びテーパ部で構成することで、ロータ81と円筒形回転部9との境界での熱応力による急激な荷重変化をより穏やかに緩和することができる。その結果、急激な荷重変化に対応できないために起こる耐食コーティングの割れなどの破損を防止することができる。
なお、本変形例1では、従来形状のロータ80の接合部を延長して荷重変化緩和構造を設ける構成にしたが、接合部を延長せずに荷重変化緩和構造を設ける構成にしても良い。
【0028】
(iv)変形例2
図4は、本発明の第1実施形態の変形例2に係る荷重変化緩和構造を説明するための図である。
図4には、本発明の第1実施形態の変形例2に係るロータ82が示されおり、当該ロータ82上の2点鎖線は、従来のロータ80の末端の位置を示している。
図4に示したように、本変形例2の荷重変化緩和構造に係るロータ82は、円筒形回転部9との接触部分に、コーナーR(曲線αβ)を有する。
このように、ロータ82と円筒形回転部9との境界部分を緩やかな曲線で構成することで、ロータ82と円筒形回転部9との境界での熱応力による急激な荷重変化をより穏やかに緩和することができる。その結果、急激な荷重変化に対応できないために起こる耐食コーティングの割れなどの破損を防止することができる。
なお、本変形例2では、従来形状のロータ80の接合部を延長して荷重変化緩和構造を設ける構成にしたが、接合部を延長せずに荷重変化緩和構造を設ける構成にしても良い。
【0029】
(v)変形例3
図5は、本発明の第1実施形態の変形例3に係る荷重変化緩和構造を説明するための図である。
図5には、本発明の第1実施形態の変形例3に係るロータ83が示されており、当該ロータ83上の2点鎖線は、従来のロータ80の末端の位置を示している。
図5に示したように、本変形例3の荷重変化緩和構造に係るロータ83は、円筒形回転部9が接合されて円筒形回転部9と接触する下部(排気口6側)が、吸気口4側よりも薄く形成された薄板部84を有している。
更に、本発明の第1実施形態の変形例3に係るロータ83では、上述した薄板部84を内径側に撓ませて撓み薄板部85にする構成にすることで、円筒形回転部9との接触部分にコーナーR(曲線αβ)有する構成にしている。
このように、ロータ83(撓み薄板部85)と円筒形回転部9との境界部分を緩やかな曲線で構成することで、ロータ83(撓み薄板部85)と円筒形回転部9との境界での熱応力による急激な荷重変化をより穏やかに緩和することができる。その結果、急激な荷重変化に対応できないために起こる耐食コーティングの割れなどの破損を防止することができる。
なお、本変形例3では、従来形状のロータ80の接合部を延長して荷重変化緩和構造を設ける構成にしたが、接合部を延長せずに荷重変化緩和構造を設ける構成にしても良い。
【0030】
また、従来、図9(b)に示したようにロータ800と円筒形回転部9を接合していた場合であっても、後述する図6(a)?(c)に示したように上述した変形例1?3を適用することができる。
(vi)変形例4
図6は、本発明の第1実施形態の変形例4に係る荷重変化緩和構造を説明するための図である。
図6(a)は、本発明の第1実施形態の変形例4に係るロータ801を示しており、円筒形回転部9との接触部分に、テーパ(線分αβ)を有する。
図6(b)は、本発明の第1実施形態の変形例4に係るロータ802を示しており、円筒形回転部9との接触部分に、曲線部(曲線αγ)とテーパ部(線分γβ)とを有する。
図6(c)は、本発明の第1実施形態の変形例4に係るロータ803を示しており、円筒形回転部9との接触部分に、コーナーR(曲線αβ)を有する。
図6(a)?(c)に示したいずれかの構成にすることで、本変形例4の荷重変化緩和構造に係る各ロータ801、802、803と円筒形回転部9との境界での熱応力による急激な荷重変化を穏やかに緩和することができる。その結果、急激な荷重変化に対応できないために起こる耐食コーティングの割れなどの破損を防止することができる。
【0031】
(vii)第2実施形態
図7は、本発明の第2実施形態に係る荷重変化緩和構造を説明するための図である。
図7(a)は、本発明の第2実施形態に係るロータ8001を示しており、円筒形回転部9との接触部分の上部にも、テーパを有する。
参考として、図7(b)には従来のロータ8000が示されている。
図7(a)に示したように、本第2実施形態では、接触部分の上部にも荷重変化緩和構造が設けられ、そのテーパ角度は、素材、即ち、円筒形回転部9を形成するFRP自体が変形する角度よりも非常に小さい角度に形成されている。本第2実施形態では、円筒形回転部9が変形する角度よりも小さい角度を有するテーパをロータ8001に設ける構成にする。この構成により、円筒形回転部9の形状がなだらかに変形するように、当該テーパが荷重を緩和する緩和機構として機能する。
なお、本第2実施形態では、このテーパ角度は一例として5度以下とした。しかし、円筒形回転部9の肉厚、あるいは円筒形回転部9を形成する素材、当該素材の繊維含有量、当該素材が含有する繊維の巻き付け角度などにより適宜変更することが望ましい。
【0032】
上述した構成にすることで、本発明の第2実施形態に係る荷重変化緩和構造を有するターボ分子ポンプ1では、荷重変化緩和構造としての接触方向の上側のテーパにより円筒形回転部9の変形がなめらかになるので、ロータ8001と円筒形回転部9との境界での熱応力による急激な荷重変化を緩和することができる。その結果、急激な荷重変化に対応できないために起こる耐食コーティングの割れなどの破損を防止することができる。
また、本発明の第2実施形態に係る荷重変化緩和構造を有するターボ分子ポンプ1は、熱膨張に加えて、遠心力によっても著しく変形する場合にも当該変形の防止対策として適用することができる。
なお、ロータ8001と円筒形回転部9との境界部分(接触部分)は、必ずしもテーパ(直線)状である必要はない。つまり、ロータ8001においてテーパが始まる部分(直線と直線の交点の部分)は、角ではなくRを設けることが望ましいので、荷重を緩衝するための当該境界部分を、緩やかな曲線を設ける構成にするとよい。また、当該テーパ又はR状の穏やかな曲線を上部のみに設ける構成にしてもよい。
また、本発明の第2実施形態に係る荷重変化緩和構造は、第1実施形態で示した下側の荷重変化緩和構造の各実施形態及び変形例と組み合わせてもよい。
【0033】
(viii)第3実施形態
上述した第1実施形態及び変形例1?4、並びに第2実施形態は、真空ポンプの一例として、ターボ分子ポンプ部とねじ溝式ポンプ部を備えた、いわゆる複合型のターボ分子ポンプ1を用いて説明したがこれに限ることはなく、ターボ分子ポンプ部を有さないねじ溝式ポンプに適用することもできる。
図8には、本発明の第3実施形態に係るねじ溝式ポンプ100の概略構成図が示されている。なお、上述した本発明の第1実施形態、第2実施形態と同様の構成については説明を省略する。
図8に示した本発明の第3実施形態に係るねじ溝式ポンプ100においても、ロータ8と円筒形回転部9との境界部分(A部)に、第1実施形態や第2実施形態において説明した荷重変化緩和構造を形成し、更に、上述した各変形例を適用することができる。
【0034】
また、本発明の各実施形態及び各変形例では、ロータ8をアルミニウム合金とし、円筒形回転部9をFRPで形成した円筒体としたが、これに限ることはなく、高温時に熱膨張の差によって大きな熱応力が生じるような2種類の材料であれば適用することができる。例えば、ロータ8はアルミニウム合金とし、円筒形回転部9をチタン合金や析出強化系ステンレスなどで形成した円筒体として構成しても、上述した各実施形態及び各変形例の構成を適用することができる。
【0035】
上述した本発明の各実施形態及び各変形例に係る真空ポンプについて、接合する前の円筒体の内径がほぼ一定という前提で説明してきたが、円筒体の内径が、ロータに接合される端面側に向かって徐徐に小さくなるなど、軸方向に変化する場合には、それに応じてテーパ角度を決めればよい。
【0036】
このように、上述した本発明の各実施形態及び各変形例に係る真空ポンプは、荷重変化緩和構造としてのテーパによって円筒形回転部9の変形がなめらかになり、ロータ8と円筒形回転部9との境界での急激な荷重変化を緩和することができる。
つまり、本発明の各実施形態及び各変形例の構成により、アルミニウム合金のロータ8に、より軽い、異素材(FRP材など)の円筒形回転部9を配設して回転体を構成することができるので、従来よりも回転性能が向上し、排気性能が向上した真空ポンプを提供することができる。
また、上述した本発明の各実施形態及び各変形例の構成により、ロータ8と円筒形回転部9との境界部分の荷重変化の緩和機能が向上することで、急激に荷重が変化することが原因で起こる耐食コーティングが破損してしまうことを防止することができるロータ8を提供することができる。その結果、当該ロータ8を配設すれば、従来の真空ポンプに比べて、耐腐食性が向上するので信頼性・耐久性が向上した真空ポンプを提供することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 ターボ分子ポンプ
2 ケーシング
3 ベース
4 吸気口
5 フランジ部
6 排気口
7 シャフト
8 ロータ
8a 回転翼
9 円筒形回転部
10 ステータコラム
20 モータ部
30、31 径方向磁気軸受装置
40 軸方向磁気軸受装置
50 固定翼
60 ねじ溝スペーサ
70 スペーサ
80 ロータ(従来)
81 ロータ
82 ロータ
83 ロータ
84 薄板部
85 撓み薄板部
90 隙間
100 ねじ溝式ポンプ
800 ロータ(従来)
801 ロータ
802 ロータ
803 ロータ
8000 ロータ(従来)
8001 ロータ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】
真空ポンプに配設され、異なる材料で形成された円筒体が接合されるロータであって、
前記円筒体と前記ロータが接する面に、前記ロータの熱膨張又は遠心力により前記円筒体に生じる軸方向における荷重の変化を低減する荷重変化緩和構造を有し、
前記荷重変化緩和構造は、前記ロータの外径面に、前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面から、前記軸方向における前記円筒体の中央に向かって徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように、前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす最大角度より、前記ロータの前記外径面の前記円筒体の前記軸方向となす角度が小さく形成された緩やかなテーパであることを特徴とするロータ。
【請求項3】
真空ポンプに配設され、異なる材料で形成された円筒体が接合されるロータであって、
前記円筒体と前記ロータが接する面に、前記ロータの熱膨張又は遠心力により前記円筒体に生じる軸方向における荷重の変化を低減する荷重変化緩和構造を有し、
前記荷重変化緩和構造は、前記ロータの外径面に、前記軸方向における前記円筒体の中央から、前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面に向かうに従って徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように、前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす最大角度より、前記ロータの前記外径面の前記円筒体の前記軸方向となす角度が小さく形成された緩やかなテーパであることを特徴とするロータ。
【請求項4】
前記テーパのテーパ角度は、前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が、前記ロータに接合される側の端面から、前記軸方向における前記円筒体の中央に向かって徐徐に縮径し、前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす角度よりも、小さい角度であることを特徴とする請求項2に記載のロータ。
【請求項5】
前記テーパのテーパ角度は、前記軸方向における前記円筒体の中央から、前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面に向かうに従って徐徐に縮径し、前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形して前記円筒体の内周面が前記円筒体の前記軸方向となす角度よりも、小さい角度であることを特徴とする請求項3に記載のロータ。
【請求項6】
前記荷重変化緩和構造は、前記テーパの、前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の終点が曲線状に形成されることを特徴とする請求項2から請求項5のいずれか1項に記載のロータ。
【請求項7】
前記荷重変化緩和構造は、前記ロータと前記円筒体が接触する接触面を共有しなくなる位置にまで前記テーパが形成されていることを特徴とする請求項2から請求項6のいずれか1項に記載のロータ。
【請求項8】
真空ポンプに配設され、異なる材料で形成された円筒体が接合されるロータであって、
前記円筒体と前記ロータが接する面に、前記ロータの熱膨張又は遠心力により前記円筒体に生じる軸方向における荷重の変化を低減する荷重変化緩和構造を有し、
前記荷重変化緩和構造は、前記ロータの外径面に、前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面から、前記軸方向における前記円筒体の中央に向かって徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように形成された緩やかな曲線構造であり、
前記曲線構造は、前記曲線構造におけるロータの外周面が、前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形した時の前記円筒体の内周面に接する曲線であることを特徴とするロータ。
【請求項9】
真空ポンプに配設され、異なる材料で形成された円筒体が接合されるロータであって、
前記円筒体と前記ロータが接する面に、前記ロータの熱膨張又は遠心力により前記円筒体に生じる軸方向における荷重の変化を低減する荷重変化緩和構造を有し、
前記荷重変化緩和構造は、前記ロータの外径面に、前記軸方向における前記円筒体の中央から、前記円筒体の前記軸方向における前記円筒体が前記ロータに接合される側の端面に向かうに従って徐徐に前記ロータの外径が小さくなるように形成された緩やかな曲線構造であり、
前記曲線構造は、前記曲線構造におけるロータの外周面が、前記ロータの前記熱膨張又は前記遠心力により前記円筒体が変形した時の前記円筒体の内周面に接する曲線であることを特徴とするロータ。
【請求項10】
前記荷重変化緩和構造は、前記ロータと前記円筒体が接触する接触面を共有しなくなる位置にまで前記曲線構造が形成されていることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載のロータ。
【請求項11】
ねじ溝式ポンプ部と、異なる材料で形成された円筒体が接合されるロータと、を備える真空ポンプであって、
前記ロータは、請求項2から請求項10のうちいずれか1項に記載のロータであることを特徴とする真空ポンプ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-11-21 
出願番号 特願2013-520501(P2013-520501)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (F04D)
P 1 651・ 841- YAA (F04D)
P 1 651・ 854- YAA (F04D)
P 1 651・ 111- YAA (F04D)
P 1 651・ 853- YAA (F04D)
P 1 651・ 112- YAA (F04D)
P 1 651・ 851- YAA (F04D)
P 1 651・ 537- YAA (F04D)
P 1 651・ 855- YAA (F04D)
P 1 651・ 857- YAA (F04D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 柏原 郁昭  
特許庁審判長 久保 竜一
特許庁審判官 藤井 昇
矢島 伸一
登録日 2016-11-25 
登録番号 特許第6047091号(P6047091)
権利者 エドワーズ株式会社
発明の名称 ロータ及び真空ポンプ  
代理人 川井 隆  
代理人 仲野 均  
代理人 清田 栄章  
代理人 中村 真介  
代理人 仲野 均  
代理人 鍛冶澤 實  
代理人 篠原 淳司  
代理人 川井 隆  
代理人 江崎 光史  

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