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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D21C
管理番号 1347674
異議申立番号 異議2018-700172  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-02-26 
確定日 2018-12-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6196022号発明「溶解クラフトパルプの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6196022号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第6196022号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6196022号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成24年7月31日に出願され、平成29年8月25日にその特許権の設定登録(設定登録時の明細書を以下「本件明細書」という。)がされ、同年9月13日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成30年2月26日に特許異議申立人 実川 栄一郎(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、平成30年5月29日付けの取消理由を通知(同年6月1日発送)した。特許権者は、その指定期間内である同年7月30日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、訂正自体を「本件訂正」という。)を行い、その訂正の請求について、当審は、申立人に同年8月13日付けで期間を指定して通知書を送付したが、当該期間内に申立人から意見書は提出されなかった。

第2 本件訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容(当審注:訂正箇所に下線を付した。)
酸素脱リグニンを施す工程について、訂正前の請求項1に「蒸解したパルプに、アルカリ添加率0.5?4質量%、80?140℃の条件で20?180分間、酸素脱リグニン処理を施す工程」と記載されているのを「蒸解したパルプに、アルカリ添加率0.5?4質量%、80?140℃の条件で20?180分間、20?35質量%のパルプ濃度で酸素脱リグニン処理を施す工程」と訂正する(請求項1を引用する請求項2?6も同様に訂正する。)。
2 一群の請求項について
訂正前の請求項1?6について、請求項2?6はそれぞれ請求項1を直接的または間接的に引用しているものであって、上記1の訂正事項によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとに請求するものである。
3 訂正要件についての検討
(1)訂正の目的について
訂正前の請求項1には、酸素脱リグニン工程について「蒸解したパルプに、アルカリ添加率0.5?4質量部、80?140℃の条件で20?180分間、酸素脱リグニン処理を施す工程」と特定されていたところ、訂正後の請求項1では、「・・・20?35質量%のパルプ濃度で酸素脱リグニン処理を施す工程」と、酸素脱リグニン処理を施す際のパルプ濃度を限定するものである。したがって、上記訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正後の請求項2?6は、訂正後の請求項1を直接的または間接的に引用することにより酸素脱リグニン工程をさらに限定するものであるため、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)実質上の拡張・変更の有無について
上記訂正事項は、酸素脱リグニン処理を施す際のパルプ濃度を限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないことは明らかである。したがって、上記訂正事項は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項の規定により準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(3)新規事項の追加の有無について
本件明細書の段落【0028】に「本発明に使用される酸素脱リグニンは、公知の中濃度法あるいは高濃度法を好適に適用できる。中濃度法の場合はパルプ濃度が8?15質量%、高濃度法の場合は20?35質量%で行われることが好ましい。」と記載されている。よって、上記訂正事項は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120の9第9項の規定により準用する同法第126条第5項に適合するものである。
(4)小括
以上のように、本件訂正は適法である。したがって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正により訂正された請求項1?6に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明6」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
前加水分解処理を行った木材チップを洗浄し、回収する工程と、
回収した木材チップを、木材チップ1kgあたりのクラフト蒸解液の液比が1.0?5.0L/kgにて耐圧性容器においてクラフト蒸解する工程と、
蒸解したパルプに、アルカリ添加率0.5?4質量%、80?140℃の条件で20?180分間、20?35質量%のパルプ濃度で酸素脱リグニン処理を施す工程と、
酸素脱リグニン処理したパルプを、水酸化ナトリウム濃度3?25質量%、20?50℃の条件で10?60分間、アルカリ精製する工程と、
を含む、溶解クラフトパルプを製造する方法であって、
前加水分解処理が、下式:
Pファクター=∫exp(40.48-15106/T)dt
[式中、Tは、前加水分解処理のある時点における絶対温度]
で表される前加水分解のPファクターが350?800となるように、150?180℃にて40?150分間、木材チップ1kgあたりの水の液比が1.0?5.0L/kgにて耐圧性容器において行われる、上記方法。
【請求項2】
前記クラフト蒸解を、150?180℃にて60?240分間行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶解クラフトパルプが、セルロースアセテート製造用の溶解クラフトパルプである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
溶解クラフトパルプのα-セルロース含有量が95%以上である、請求項1?3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
溶解クラフトパルプのヘミセルロース含有量が2.5%以下である、請求項1?4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載の方法で溶解クラフトパルプを製造し、その溶解クラフトパルプを原料としてセルロースアセテートを製造することを含む、セルロースアセテートの製造方法。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
取消理由の概要
平成30年5月29日付けの取消理由通知は、本件申立書に記載された理由を全て通知するものであって、次のとおりのものである。
本件発明1?6は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件発明1?6のそれぞれに係る特許は特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

・本件発明1、2に対して:甲1、3及び5あるいは甲1?6
・本件発明3?6に対して:甲1、3、5及び6あるいは甲1?6
1 証拠の一覧
甲第1号証(以下「甲1」などと表記する。):Herbert Sixta,「Handbook of Pulp Volume1」、WILEY-VCH Verlag GmbH & Co.KGaA、Published online 2008年1月30日、329?342頁、343?344頁、345?347頁、628?629頁、722?729頁、933?934頁、942?944頁
甲2:Gabriele Schild 外2名、「MULTIFUNCTIONAL ALKALINE PULPING,DELIGNINFICATION AND HEMISELLULOSE EXTRACTION」、CELLULOSE CHEMISTRY AND TECHNOLOGY 44(1-3)、35?45頁、(2010)
甲3:C.V.T Mendes 外5名、「Valorisation of hardwood hemicelluloses in the kraft pulping prosess by using an integrated biorefinery concept」、Food and Bioprodusts Processing、vol.87、197?207頁、(2009)
甲4:Catia(当審注:最初のaは、アキュートアクセント記号付である。) Vanessa Teixeira Mendes 外4名、「EXTRACTION OF HEMICELLULOSES PRIOR TO KRAFT COOKING:A STEP FOR AN INTEGRATED BIOREFINERY IN THE PULP MILL」、O PAPEL、vol.72、no.9、79?83頁、(2011年9月)
甲5:特開2009-52187号公報
甲6:紙パルプ技術協会編、「亜硫酸パルプ 溶解パルプ」、338?339頁、368頁、373?374頁、1966年11月15日発行
2 甲1?6の記載事項について(英語文献については、当審訳を併記した。)
(1)甲1の記載事項
ア 甲1の前加水分解の部分(329?347頁)には次の記載がある。
(ア)329頁6行
「4.2.7.1.2 Kinetic Modeling of Hardwood Prehydrolysis」
「4.2.7.1.2広葉樹の前加水分解のカイネティックモデリング」
(イ)329頁7?14行(原文とは改行位置が異なる、以下同じ)
「Water prehydrolysis is effected by the acetic acid released from labile acetyl groups present in the hemicelluloses. The extent of xylan hydrolysis is dependent upon the hardwood source, temperature, time, acidity and liquor-to-solid ratio. Control of the performance of the prehydrolysis kraft process necessitates an understanding ofthe kinetics of wood fractionation during the course of prehydrolysis. The aim is to establish a relationship between the intensity of prehydrolysis and the purification and delignification efficiency and selectivity under given subsequent pulping con-ditions.」
「水による前加水分解は、ヘミセルロース中に存在する不安定なアセチル基から放出される酢酸によって影響を受ける。キシランの加水分解の程度は、広葉樹の供給源、温度、時間、酸性度、及び液体固体比(液比)に依存する。前加水分解クラフトプロセスの性能制御には、前加水分解工程の間の、木材を構成する各成分の反応速度論の理解が必要である。その目的は、前加水分解の強度と、後続のパルピング条件下での精製及び脱リグニンの効率及び選択性との間の関係を確立することである。」
(ウ)343頁1?3行
「4.2.7.1.3 P-factor Concept
Brasch and Free were the first to propose a prehydrolysis factor to control the pre-hydrolysis step[49].」
「4.2.7.1.3 Pファクターの概念
Brash及びFreeは、前加水分解工程を調節する前加水分解ファクターを初めて提案した[49]。」
(エ)343頁下2行?末行
「The relative rate is plotted against time, and the area under the curve represents the “prehydrolysis factor" or “P-factor":」
「相対速度を時間に対してプロットし、曲線下面積が「前加水分解因子」又は「Pファクター」を表す。」
(オ)344頁式(154)



(オ)345頁下6行?346頁22行
「4.2.7.2 Prehydrolysis: Kraft Pulping
The prehydrolysis step is followed by a simple kraft or Soda-anthraqunone (AQ) process for the manufacture of a high-purity dissolving pulp. The conventional approuch comprises the introduction of cold white liquor from the causticizing plant, heating-up and cooking until the desired degree of delignification is reached, after which tlie digester's contents are emptied to a blow tank by digester pressure. This conventional concept has several serious disadvantages. First, water prehydrolysis may adversely affect the process behavior due to the formation of highly reactive intermediates undergoing condensation products. As a result, pitch-like compounds are formed, which separate from the aqueous phase with drainage of the prehydrolyzate, and deposit on any surface available. Moreover, the deposition of these compound on the chip surface may affect the diffusion-controlled mass transfer. The prehydrolyzate must then to be evaporated and burned to-gether with the black liquor, which again impairs the economy ofthe process. Second, the two heating-up phases, prior to prehydrolysis and cooking, require large amounts of steam, and this leads to a significant prolongation of the cook.
In order to reduce the high energy costs incurred in evaporation of the prehydrolyzates, attempts have been made to replace water by steam prehydrolysis. However, this apparently simple change resulted in very poor delignification, bleachability and reactivity of the dissolving pulps. To prevent extensive condensation reactions occurring prior to cooking stage, two measures must be undertaken. First, a pressure release must to be avoided in the transition to the cooking stage. Second, the reactive hydrolysis products must be immediately neutralized, extracted and displaced prior to cooking. These requirements have been fulfilled by applying the known displacement technology to this two-stage process. The process which has been developed to overcome the described problems is known as the Visbatch^((R)) process, and it combines the advantages of displacement technol-ogy and steam prehydrolysis [20].」
「4.2.7.2 前加水分解:クラフトパルピング
前加水分解工程は、高純度溶解パルプを製造する際に通常のクラフトプロセス(またはソーダ・アントラキノン(AQ)プロセス)の前に行われる。従来の方法では、苛性化設備から蒸解釜へ低温の白液を導入し、加熱・蒸解によって所望の脱リグニン度にした後、蒸解釜の内容物は釜内圧力によってブロータンクへと送られる。しかしながら、この従来法には複数の重大な欠点がある。第一に、水を用いて前加水分解を行うと、高反応性の中間体が生成・縮合してプロセス挙動に悪影響を及ぼす恐れかおる。生成したピッチ状の化合物は前加水分解液の排水に伴って水相から分離し、系に存在する表面
に析出する。例えば、それらの化合物がチップ表面に析出した場合には、拡散物質移動に影響が出る。また、前加水分解液は蒸発させた後に黒液と一緒に焼却する必要があり、プロセス経済性を損ねる一因となっている。第二に、前加水分解工程及び蒸解工程の前にそれぞれ加熱を行うために大量の水蒸気が必要とされるので、蒸解にかなりの時間がかかってしまう。
前記のように前加水分解液の蒸発には大きなエネルギーコストがかかるので、これを抑える目的で、前加水分解に水ではなく水蒸気を使用する試みがなされて来た。この変更は非常に簡単ではあるものの、得られる溶解パルプの脱リグニン度、漂白性、及び反応性は非常に低かった。蒸解以前の段階において縮合反応があまり起こらないようにするために、次の2つの要件を満たさなければならない。第一には、蒸解工程に移行する際に圧力開放が起こらないようにする必要がある(要件1)。第二には、蒸解工程を行う前に、高反応性の加水分解生成物を直ちに中和・抽出・置換する必要がある(要件2)。そのためには、この二工程プロセスに既知の置換法を応用する。こうして開発されたプロセスはVisbatch(登録商標)プロセスと呼ばれており、置換法の利点と水蒸気による前加水分解の利点とを併せ持っている[20]。」
イ 甲1の酸素脱リグニンの部分(628?729頁)には、次の記載がある。
(ア)628頁下6行?629頁3行
「7.3
Oxygen Delignification
7.3.1
Introduction
Environmental restrictions for bleach plant effluents and the necessity to reduce the amount of organochlorine compounds (OX)in the pulp have driven the pulp industry to develop new environmentally benign delignification and bleaching technologies. In this context, oxygen delignification has emerged as an important delignfication technology.」
「7.3
酸素脱リグニン
7.3.1
緒言
漂白設備排水の環境規制、及びパルプの有機塩素化合物の低減の必要性により、パルプ工業が新しい環境にやさしい脱リグニン、漂白技術の開発を推進することになった。この状況下で、重要な脱リグニン技術としての酸素脱リグニン工程が出現した。」
(イ)727頁12?16行
「Consequently, a two-stage delignification concept was investigated to achieve a higher degree of delignification without impairing viscosity. It was shown that if the given amount of caustic is split into the first and second stage in a ratio of approximately 60/40 to 75/25, then delignification can be extended in the final part of the second stage (Fig-7.52).」
「結果として、粘度を損なうことがなく、高度の脱リグニンを達成するために2段の酸素脱リグニンが検討された。一定量のアルカリが1段目と2段目に約60/40?75/25の比率で分割された場合において脱リグニンが2段目に拡張することができた(Fig. 7.52)」
(ウ)727頁Fig.7.52



「図7.52 ユーカリPHKパルプ(カッパ値8.6、粘度1131mLg^(-1)を、一段階及び二段階で酸素脱リグニンした場合のカッパ値の経時変化。一段階法:25kgNaOHbdt^(-1)、110℃、10%原料濃度、酸素圧0.7MPa。2段階法:1段階 15kgNaOHbdt^(-1)、110℃、酸素圧0.7MPa、15分;二段階 10kgNaOHbdt^(-1)、115℃、酸素圧0.4MPa、10%原料濃度(両段階)。」
ウ 甲1のパルプ精製の部分(933?944頁)には次の記載がある。
(ア)933頁2?14行
「Pulp Purification
・・・
8.1
Introduction
The production of dissolving pulp involves the removal of short-chain carbohydrates, denoted as hemicelliiloses, which negatively influence either the processing behavior of the pulp or the quality of the final product. (The technical definition of hemicelluloses comprises both alkali-soluble heteropolysaccharides and degraded cellrose soluble in the steeping lye.) Purification processes for dissolving pulps include both the removal of noncellulosic material (e.g., extractives, lignin, hemicelluloses), and the change of the molecular distribution to a narrow, monomodal type of distribution with a minimum amount of low molecular-weight carbohydrates.」
「パルプ精製
・・・
8.1
緒言
溶解パルプの生産には、ヘミセルロースという名称の短鎖の炭水化物の除去を含むものであり、ヘミセルロースは、生産プロセスでのパルプの挙動及び最終製品の品質のいずれにも悪影響を与えるものである。(ここで、ヘミセルロースの技術的な定義は、アルカリに可溶なヘテロ多糖類、及びアルカリ液に溶解する分解されたセルロースの両方である。)溶解パルプの精製工程は、非セルロース物質(例、抽出物、リグニン、ヘミセルロース)の除去及びセルロースの分子量分布を狭く、一峰性の分布に変化させるものであり、低分子の含有量を最低限にすることを含むものである。」
(イ)933頁下6行?934頁2行
「In general, caustic extraction steps are conducted to remove short-chain carbo-hydrates from wood pulp that resisted the pulping process, in order to obtain favorable product characteristics such as improved material properties (e.g., increased fiber strength), higher brightness and brightness stability. These alkaline purification procedures can be carried out in two different ways - as either cold or hot caustic extractions. While the cold process, which is conducted at 20-40℃ and high sodium hydroxide concentration (1.2-3.0 mol L^(-1)),involves mainly physical change, the hot purification process, operated in the range between 70℃ and 130℃ and low sodium hydroxide concentration (0.1-0.4 mol L^(-1)) induces multiple carbohydrate degradation reactions. 」
「一般にアルカリ抽出ステップは、パルプ化工程において除去できなかった短鎖の炭化水素を木材チップから取り除くために行われ、それにより、得られる物質の性能(例、繊維強度の向上)を向上させたり、白色度を向上させたり、白色度の安定性等が得られる。これらのアルカリ精製は、2つの異なる方法で実施される-冷アルカリ抽出または熱アルカリ抽出。冷アルカリ抽出は、20?40℃で高濃度の水酸化ナトリウム(1.2?3.0molL^(-1))で実施され、物性の変化が起こされるのに対して、熱アルカリ抽出は、70?130℃の間で低濃度の水酸化ナトリウム(0.1?0.4molL^(-1))で実施され、炭水化物の多段の分解反応を誘導する。」
(ウ)942頁1?13行
「8.3
Cold Caustic Extraction
The extent of purification, measured in terms of R18 and R10 values and residual hemicellulose content (xylan in case of hardwood pulp), depends primarily on the NaOH concentration and the temperature (see Section 8.2). Additionally the reac-tion time, the position of the cold caustic extraction (CCE) within the sequence, and the presence of dissolved hemicelluloses may have an influence on the effi-ciency of purification. In industrial CCE treatment, emphasis is placed on efficient washing. The pulp entering the CCE stage must be thoroughly washed and dewatered to a high consistency (>35%) in order to avoid dilution of the added caustic solution through the pulp slurry. The conditions of CCE include the homogeneous distribution of pulp in 5-10% NaOH for at least 10 min at temper-atures between 25 and 45 ℃ in a downflow, unpressurized tower. 」
「8.3
冷アルカリ抽出
R18、R10、及び残余ヘミセルロース含量(広葉樹パルプの場合はキシラン)で測定される精製の程度は、NaOH濃度と温度に依存する(Section 8.2参照)。さらに、反応時間、工程の中での冷アルカリ抽出(CCE)の位置、及び溶解したヘミセルロースの存在精製効率に影響を与えるかもしれない。工業的なCCE処理では、効率的な洗浄に重点が置かれている。CCE段に供給されたパルプは徹底的に洗浄され、パルプスラリーに添加した冷アルカリ溶液の希釈を防ぐために高濃度(>35%)になるように脱水されなければならない。CCEの条件は、下方向に流れる圧力のない反応塔での均一分布したパルプを用いて5-10%NaOHで少なくとも10分間の25?45℃での処理を含む。」
(エ)942頁末行?944頁7行
「The relationship between initial pulp purity (R18) and final xylan content through alkaline treatment, depending on NaOH concentration, is further illustrated in Fig. 8.7. The different levels of R18 content after cooking and subsequent oxygen delignification (O) of the eucalyptus PHK pulps have been adjusted by pre-hydrolysis intensity (P-factor). Even though xylan removal efficiency increases with increasing initial hemicellulose content, the initial purity must exceed a certain level in order to achieve a sufficiently high purity without approaching a change in the supramolecular structure.」
「最初のパルプの純度(R18)とアルカリ処理による最終キシラン含有量の関係は、NaOH濃度に依存するが、Fig.8.7に示す。ユーカリを前加水分解-クラフト蒸解(PHK)後、酸素脱リグニン(O)した後の異なるレベルのR18含有量のパルプを前加水分解強度(Pファクター)によって調節した。最初のヘミセルロース含量が増加する程、キシランの除去効果が高まるけれども、高分子構造の変化を伴わずに充分な高純度を達成するためには最初の純度は、特定のレベル以上でなければいけない。」
(オ)Fig.8.7



「図8.7 3つの異なる精製度のユーカリ前加水分解-クラフトパルプ(E-PHK)の異なる強さの冷NaOH水溶液による精製[28]。
ユーカリ前加水分解-クラフトパルプ(E-PHK)を酸素脱リグニン処理したパルプ:(a)R18=96.6%、カッパー値3.4、(b)R18=97.4%、カッパー値2.5、(c)R18=97.6%、カッパー値2.2、冷アルカリ処理:10%固形分濃度、30℃、30分」
(2)甲2の記載事項
甲2には次の記載がある。
ア タイトル
「MULTIFUNCTIONAL ALKALINE PULPING, DELIGNIFICATION AND HEMICELLULOSE EXTRACTION」
「多機能アルカリ処理、脱リグユニン及びヘミセルロース抽出」
イ 35頁概要の項
「In this study, multifunctional alkaline pulping was suggested to produce different pulp grades at one mill site, ranging from high-yield paper pulp to high-purity dissolving pulp. In all process modifications, sulfur was successfully replaced by anthraquinone. Autohydrolysis and alkaline pre-extraction were applied to Eucalyptus globulus wood chips, followed by kraft and soda-AQ pulping. Alkaline pre-extraction prior to soda-AQ pulping largely preserved the pulp yield, while a substantial amount of xylan could be extracted in polymeric form during the pre-treatment. The resulting pulp revealed characteristics indicating an alternate use - as paper pulp and as dissolving pulp - after further purification with cold caustic extraction (CCH).
The removal of hcmicelluloses from kraft or soda-AQ paper pulps by a CCH post-treatment allowed the production of high yield dissolving pulps. The hemi-rich CCH-lye was recycled to soda-AQ pulping, contributing to yield increase by xylan re-precipitation. Alternatively, the CCH-lye could be purified efficiently by ultrafiltration, by concentrating the rather pure and high molecular weight xylan in the retentate for further use.
The results indicated that biorefinery concepts can be realized for alkaline pulping by adopting the proposed modification of multifunctional alkaline pulping.」
「本研究で、多機能アルカリパルピングが異なるグレードのパルプ(高収率の紙パルプから高純度の溶解パルプまで)を1つの工場で生産できることが示唆された。全てのプロセス改良により、硫黄をアントラキノンに置き換えることに成功した。自己加水分解及びアルカリ前抽出をユーカリ(Eucalyptus globulus)チップに適用し、続いてクラフト、及びソーダ-AQパルピングを行った。ソーターAQパルピングの前のアルカリ前抽出により、かなりの量のキシランがポリマーの状態で抽出され、パルプ収率が大きく低下した。得られたパルプ(後で、さらに冷アルカリ抽出(CCE)で精製)は、紙パルプ、及び溶解パルプ用途の特徴を有することがわかった。クラフト及びソーターAQ紙パルプからCCE後処理によりヘミセルロースを除去するごとにより、高い収率で溶解パルプの製造が可能になった。ヘミセルロースを多く含むCCEアルカリ溶液をソーターAQパルピングに再利用することにより、キシランの再沈殿により収率が増加した。あるいは、CCEアルカリ溶液は限外濾過でさらに、再利用するための残余分中で純度の高い高分子量のキシランに濃縮することにより効率的に精製できた。」
ウ 36頁右欄下4行
「Experimental」
「実験」
(ア)36頁右欄下3行?37頁左欄5行
「Wood chips
Eucalyptus globulus wood chips from plantations in Uruguay, supplied by ENCH. were used in all pulping experiments. A fraction >7 mm was used after a laboratory screening, according to the standard method SCAN CM 40:94. The average characteristics of the screened wood chips are given in Table 1.」
「木材チップ
ユーカリ(Eucalyptus srlobulus)木材チップは、ウルグアイ(ENCE)の栽培場より提供され、全てのパルプ実験に用いた。標準法SCAN CM 40:94 に従い分別した7mm以上のフラクションを用いた。分別したチップの平均の特徴を表1に示す。」
(イ)37頁右欄6行?右欄下4行
「Cooking experiments
Pilot plant trials were carried out in a 10 L digester with forced liquor circulation, according to the general continuous batch cooking (CBC) concept.^(19) All process-related liquors, such as the impregnation and cooking liquors, were already prepared in the tank farm using different tank-to-tank circulation loops. Altogether, seven different cooking concepts were investigated (table 2).
The effective alkali concentration (EA) in the cooking liquor was kept constant at about 30 g/L for all cookings, except for K, where two series with 30 and 20 g/L were conducted, as well as for SAQH pulping, where EA was reduced stepwise to 10 g/L, to study the effect on xylan reprecipitation. The EA value of the impregnation liquor for K, SAQ and SAQH pulping was kept constant at 15 g/L. Likewise, the P-factor of 600 for PH-K and PH-SAQ cookings, as well as the cooking temperature (160 ℃) for all cookings were kept constant. For SAQ cooking, dispersible anthraquinone Baycel AQ from Kemira Chemie (AQ) in a concentration of 0.5 g/L was added to the white liquor and to the cooking liquor, corresponding to a dosage of 0.15% on wood. Alkaline pre-extraction was carried out for 1 h at 90℃ with pure white liquor containing an EA of 25 mol/L.
SAQH was started with pure CCH-lye as an alkali source. In a subsequent step, the displaced cooking liquor from the previous cooking was utilized as cooking liquor for the following cooking. The target EA concentration was adjusted by means of CCH-lye. For MgS cooking, an H-factor of 75 at the temperature of 145 ℃ was used, with a total SO_(2) of 200 g/kg oven dry wood (odw) to produce a dissolving grade pulp.」
「蒸解実験
通常の連続式バッチ蒸解(CBC)の概念に従い、液体循環を設置した10Lの蒸解がまを用いてパイロットプラントで試験した。含浸液、蒸解液のような全ての工程で必要な液体は、予め異なるタンクとタンク間のループを用いてタンク内で調製した。全部で7種類の蒸解条件を検討した(表2)。
蒸解液の有効アルカリ濃度(EA)は、Kパルピング(30g/L及び20g/Lを実施)とSAQHパルピング(キシランの再沈殿について検討するためEAをステップワイズで10g/Lまで低下)、を除く全ての蒸解において30g/Lに維持した。K、SAQ及びSAQHパルピング用の含浸液のEA値は、15g/Lに維持した。同様にPH-K及びPH-SAQ蒸解のp-ファクターを600、全ての蒸解温度を160℃に維持した。SAQ蒸解では、Kemira Chemie から人手した分散性アントラキノンBaycel AQ を0.5g/Lの濃度で白液及び蒸解液に添加し、木材あたり0.15%の添加量にした。アルカリ前処理を2.5mol/Lの純粋な白液を添加し90℃で1時間行った。
SAQHをアルカリ源として純粋なCCEアルカリ溶液を用いて開始した。次のステップで前の蒸解液と置き換えた蒸解液を次の蒸解での蒸解液として利用した。EA濃度は、CCEアルカリ溶液を用いて調節した。MgS蒸解では、溶解パルプを生産するために145℃でH-ファクター75、全SO_(2)が200g/kg(木材乾燥重量)で実施した。」
(ウ)37頁、Table2



「表2 検討した蒸解条件の略称
----------------------------------
K クラフト蒸解
SAQ ソーダ-AQ蒸解
E-SAQ アルカリ前処理、続いてソーダ-AQ蒸解
SAQH CCE処理で生成したキシランを多く含むアルカリ溶液でのソーダAQ蒸解
PH-K 前加水分解クラフトパルピング
PH-SAQ 前加水分解ソーダ-AQパルピング
MgS マグネシウム一重亜硫酸ナトリム(比較対照)
----------------------------------

(エ)37頁左欄下3行?右欄下5行
「Oxygen bleaching and cold caustic extraction
All pulps were subjected to a standard oxygen bleaching stage (O). Oxygen delignification was conducted at 90 ℃ for 60 min at 12% consistency, on adding 20 kg/t oven dry pulp (odp) of NaOH. The paper grade pulps SAQ, K and E-SAQ with a kappa number ranging from 14.6 to 16.1 were also treated with a CCH after O, for conversion to dissolving pulps. In the CCH-stage, 90 g/L of NaOH were applied at 30 ℃ for 30 min. at 10% consistency.」
「酸素漂白及び冷アルカリ抽出
全てのパルプを標準酸素漂白(O)に供した。酸素脱リグニンを12%濃度で、NaOH 20kg/t (パルプ乾燥重量)を添加し、90℃で60分間行った。紙グレードのパルプSAQ、K、及びE-SAQ (カッパー価は、14.6?16.1の範囲)についても溶解パルプに変換するためにOの後にCCEで処理した。CCE段では、10%濃度、NaOH 90g/L、30℃で30分間行った。」
(3)甲3の記載事項
甲3には次の記載がある。
ア タイトル
「Valorisation of hardwood hemicelluloses in the kraft pulping process by using an integrated biorefinery consept」
「統合バイオリファイナリーコンセプトによるクラフトパルプ化工程における広葉樹ヘミセルロースの評価」
イ 197頁要約の項
「Abstract
A primary hydrolysis treatment (auto or acid-catalysed) of Eucalyptus globulus wood was performed before the cooking stage to extract part of the hemicelluloses that otherwise would be dissolved in the kraft liquor and burned.・・・」
「要約 ユーカリ・グロブラス(Eucalyptus globulus)の木材を用いて、ヘミセルロースの一部を除去するために蒸解工程の前に1次前加水分解処理(自己加水分解、酸加水分解)を行った(ヘミセルロースは、通常の工程ではクラフト蒸解液に溶解し燃焼される)。・・・」
ウ 実験方法の項目
「2. Method and materials」
「2.実験方法」
(ア)199頁左49行?右7行
「2.1. Primary hydrolysis of wood
A preliminary assessment of pre-hydrolysis conditions was conducted on screened industrial Eucalyptus globulus wood chips, to study the effect of different temperatures (100 to 150 ℃), extraction durations (20 to 180 min), wood conditioning and acid concentrations on hydrolysis yield and hydrolysates composition (a total of 40 experiments). The wood chips (200g, dry basis) and the extraction liquor (liqour to wood ration of 4:1 dm^(3)kg^(-1)) were introduced in rotary reactors and the target temperature was reached by using an oil bath. Nearly 2.5dm^(3)kg^(-1) of hydrolysate were corected The extracted wood was washed tn water at room temperature.」
「2.1. 木材の最初の加水分解
分別した商業的なユーカリの木材チップを用いて、加水分解の収率及び加水分解物の組成に及ぼす異なる温度(100?150℃)、抽出時間(20?80分)、木材の条件、及び酸濃度を評価した(全部で40実験)。木材チップ(200g、乾燥重量)及び抽出液(液と木材の比率は4 : 1 dm^(3)kg^(-1))をロータリーリアクターに添加しオイルバスで温度を調節した。約2.5dm3kg-1の加水分解物を回収した。抽出した木材を室温で2時間、水で洗浄し、洗浄液は実験に用いなかった。この最初の研究は、次の2セットの操作条件の選択を可能とし、その2セットの加水分解物の発酵の結果は、クラフトパルプの品質と一緒に結果が示してある。:a)水を用いた150℃、180分間の間実施した自己加水分解、b)木材チップの0.4%(w/w)硫酸を用いた140度で120分間実施した酸加水分解。」
(イ)199頁右欄30?53行
「2.3. Kraft cooking
Original wood and extracted wood samples (auto- and acid hydrolysis) were air-dried before they were submitted to kraft cooking, in the same rotary reactors, using active alkali charge of 16% on wood, as Na_(2)O, sulplidity of 28%, acrivity of 90% and liquid to wood ratio of 4:1 dm^(3)kg^(-1). The initail temprature was 40℃ a.nd a temperature gradient to 1℃ min^(-1) was imposed until the target temperature of 160℃ was reached. Time and temperature can be integrated a common variable named H-factor proposed by Vroom(1957). The cooking time at target temperature was 60 min leading to three experiments at a constant H-factor of 470 h. The H-factor concept have been confirmed as an adquate variable to follow the effect of both cooking time and temperature on the degree of delignification of Portuguese E. globulus pulps if the remaining operating conditions are kept constant (Carvaiho et al,2003). Residual lignin in the pulp is commonly estimated by the determnation of pulp kappa number. Since the resulting pulps exhibited different kappa numbers, the time at target temperature was also adjusted in order to reach a given kappa number in the range 13-14(variable H-factor). For that, additional cookings were performed using 100, 25 and 30 min, respectively with refeience wood and with auto- and acid-hydrolysis pre-treated wood chips.」
「クラフト蒸解
元の木材、及び前加水分解された木材サンプル(自己加水分解、及び酸加水分解)は、クラフト蒸解を行う前にエアーで乾燥した(クラフト蒸解条件:ロータリーリアクター、木材当たりの活性アルカリ添加量16%;Na_(2)Oとして、硫化度28%、活性90%、木材に対する液体の比率は4:1 (dm^(3)kg^(-1))。開始時の温度は40℃で、1℃/分の速度で160℃まで上昇させた。時間と温度は、Vroom(1957)が提案した一つの普遍的な変数であるH-ファクターで統一的に取り扱うことができる。3つの実験での目的の蒸解時間は、60分でH-ファクター470で行った。 H-ファクターの概念は、ポルトガル産のユーカリ・グロブラスのパルプの脱リグニンの程度に及ぼす蒸解時間と温度の影響(他の条件は一定の場合)を調べることにより適切な変数であることを確認した(Carvalho et al,2003)。パルプ中の残存リグニンは、一般的にパルプのカッパー価を決定することにより予測されている。得られたパルプは、異なるカッパー価を示したため、カッパー価を13?14の範囲にするために温度を調節した。そのために、追加の蒸解(元の木材、自己加水分解及び酸加水分解で前処理した木材チップ)を100、25、及び30分で各々実施した。」
(4)甲4の記載事項
ア ABSTRACT(要約)
「Two treatments, an induced autohydroiysis and acid hydrolysis were applied to Eucalyputus globulus wood chips prior to the cooking stage to extract the hemicellulosic fraction that otherwise would be dissolved in the black liquor and burnt in the recovery boiler.」
「ユーカリ・グロブラスの木材を用いて、2種類の処理(自己加水分解処理、酸加水分解処理)をヘミセルロース画分を抽出するために蒸解工程の前に行った(ヘミセルロースは、通常は黒液に溶解し、回収ボイラーで燃焼される)。」
イ 80頁左欄10?27行
「EXPERIMENTAL
Eucalyptus globulus wood chips (200g, dry basis) were mixed with the extraction liquor (ilquor-to-wood ratio of 4:1). Four sets of hydrolysis operation conciftions were used: an autohydrolysis carried out in water at 150℃ during 120 min or 180 rnin (AuH120 and AuH180,respectively) and an acid hydrolysis catalysed by 0.4% (w/w) sulphuric acid at 140℃ for 120 min or 180 min (AH120 and AH180, respectively)・・・. The extracted wood was washed with water and used to produce pulp, whilst the collected hydrolysates were used as raw matrial for ethanolic fermentation. A secondary hydrolysis, with 4% (w/w)H_(2)SO_(4) at 100℃ for 180 min・・・was performed on the autohydrolysates and the monosaccharides content increased up to twice its inital value. From now on, these hydrolysates will be referred to as secondary autohydrolysates (labeled SAuH). Original wood and extracted wood samples (by auto- and acid hydrolysis) were submitted to kraft cooking in rotary reactors as described elsewhere・・・.」
「実験方法
ユーカリ・グロブラス(Eucalyptus globulus)の木材チップ(200 g : 乾燥重量)を抽出液(液と木材の比率が4:1)と混合した。次の4セットの加水分解処理を実施した:自己加水分解処理を水中で150℃、120分間又は180分間(各々、AuH120、AuH180)、及び、0.4%硫酸(w/w)で140℃、120分間又は180分間の酸加水分解(各々、AH120、AH180)・・・。抽出した木材を水で洗浄しパルプ生産に用い、一方、回収した加水分解物(木材を除いた加水分解物)をエタノール発酵の原料として用いた。自己加水分解物を、4%硫酸(w/w)で100℃、180分間、単糖の含有量が初期値の2倍に上昇するまで2次加水分解処理した・・・。以降、これらの加水分解物を2次加水分解物と記載する(SAuHと表記)。元の原料である木材、及び、抽出した木材サンプル(自己加水分解物、酸加水分解物)をロータリーリアクターでのクラフト蒸解に供した・・・。」
(5)甲5の記載事項
甲5には次の記載がある。
ア 段落【0005】
「新しい加水分解システムが、パルプ製造システム向けに開発された。セルロース材、例えば、木材チップは第一槽の上部の領域で加水分解を受ける(加水分解反応槽)。加水分解は、槽中の繊維剤が150℃?175℃、好ましくは160℃?170℃の温度にある場合に行われるのが好ましい。加水分解は、槽中の繊維剤が1?6のpH、好ましくは3?4のpHにある場合に行われるのが好ましい。加水分解生成物と液は、抽出スクリーンを経由して加水分解反応槽から抜き出される。」
イ 段落【0013】
「2槽式反応槽システムでは、スチームは、加熱と加圧の目的で両方の槽の頂部に導入される。加水分解は、第一反応槽の頂部にある抽出スクリーンより上で起こる。第一反応槽の抽出スクリーンは、第一槽の頂部に導入された木材チップまたは他のセルロースまたは繊維材(集合的にセルロース材と称する)が槽中を移動して槽の下方の抽出ポートに移動するとき、加水分解生成物を抜き出す。」
ウ 段落【0017】
「第二反応槽は、連続蒸解槽、例えば、蒸気相またはスチーム相蒸解缶とし得る。蒸気相またはスチーム相蒸解缶を使用すれば、第二反応槽の頂部における操作問題、すなわち、加水分解の際のガス発生で引き起こされる問題が回避される。第一および第二反応槽は、実質的に垂直形状で、少なくとも100フィートの高さ、槽の上部の入口、および槽の底部近くの排出口を備え得る。反応槽に加えられる熱エネルギーは、大気圧以上の圧力スチームとし得る。」
エ 段落【0036】
「洗浄されたチップは、第一反応槽の底部56を通じて排出され、チップ移送パイプ62経由で、第二反応槽12、例えば、連続蒸解缶のトップセパレーター57、例えば、反転型トップセパレーターに送られる。ポンプ64は、オプションで使用され、第一反応槽から第二反応槽にパイプ62経由でセルロース材を移送する補助作用を行う。チップに残留する水および他の液は、パイプ62を通って流れるセルロース材中の液/チップの比を増すために使用し、パイプ62を経由して第二反応槽のトップセパレーター57にセルロース材を移送する補助作用を行い得る。」
(6)甲6
甲6には次の記載がある。
ア 338頁2行目?339頁5行目
「溶解パルプは,化学繊維,セロファンプラスチック,合成糊料,その種々のセルロース系誘導体の重要な原料である。・・・溶解パルプの全需要のおよそ8割がこのビスコースレーヨンに向けられており,・・・このほかアセテートに・・・利用されている。」
イ 368頁4?26行
「αセルロースにはその測定上アルカリに抵抗性があって17.5%のNaOH溶液に溶出してこないいわゆるアルカリ抵抗性のヘミセルロース(ペントザンが主である)も含まれる。前加水分解を伴わないKPでは、α中に相当量のこれらペントザンを含むのでSPのαと同列に考えることはできない(見掛け上高く出る)。
前加水分解-クラフト蒸解と蒸解を二段にすることにより収率は低くなるが図に示されるような高αパルプの生産が可能となる。この場合,収率とαセルロース含有量は前加水分解の程度に依存し,調節も可能であるがビスコース用としての十分な反応性を得るには、94?95%のαとすることが必要のようである。前加水分解はやりすぎてもまずい。それはリグニンの縮合を起させて蒸解における脱リグニン作用に悪い影響を及ぼすためである。」
ウ 373頁下8行?374頁6行
「4.2.2 ヘミセルロースの除去
製紙用パルプは一般に可成りのの量の変質セルロースやペントザンやポリウロン酸やまた非繊維状のヘクソザンを含んでいる。これらをアルカリ処理によって除去することは溶解パルプを製造する上には重要な問題である。パルプのアルカリ処理には二つの方式がある。
(1)熱アルカリ精製・・・
(2)冷アルカリ精製は3?25%の強アルカリ液を使用し,低温20?40℃で処理するもので,αセルロースは98?99%にまで到達可能である。
後者は、・・・最終漂白の最終段に付加して行われるのが通常で,SP,KPまた針葉樹,広葉樹のいずれの場合にも効果がある。」
3 当審の判断
(1)本件発明の各工程について
本件発明1は、次の各工程を発明特定事項としている。
前加水分解処理工程、クラフト蒸解工程、酸素脱リグニン処理工程及びアルカリ精製工程である。
(2)甲1に記載された発明との対比
ア 甲1発明の認定
(ア)甲1には、上記2、ウ(オ)に摘記したように、ユーカリパルプを前加水分解処理後にクラフト蒸解パルプとした材料を、更に酸素脱リグニン処理工程して、その後、冷アルカリ精製した結果の純度が測定され、不純物が1%程度と純度の高いセルロースを得る製造方法が記載されている。
(イ)具体的には、上記2、ウ(イ)に冷アルカリ精製時のNaOH濃度が記載されていることも考慮すると、「ユーカリ前加水分解-クラフトパルプ(E-PHK)を酸素脱リグニンしたパルプを1.2?3molL^(-1)のNaOH濃度(当審注:NaOHの質量が、40.0g/molであるから、4.8?12.0質量%となる。)で、30℃、30分で冷アルカリ処理する溶解クラフトパルプを製造する方法。」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
イ 対比
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「冷アルカリ処理」は、本件発明1の「アルカリ精製する工程」に対応し、その水酸化ナトリウム濃度、温度、時間の条件においても相違がない。したがって、両者は、前加水分解を行ったパルプ得る工程とクラフト蒸解する工程と酸素脱リグニン処理を施す工程と酸素脱リグニン処理したパルプを、水酸化ナトリウム濃度4.8?12.0質量%、30℃の条件で30分間、アルカリ精製する工程と、を含む、溶解クラフトパルプを製造する方法である点で一致する。
(イ)相違点
両者は少なくとも次の点で相違する。
酸素脱リグニン処理に関して、本件発明1においては、「アルカリ添加率0.5?4質量%、80?140℃の条件で20?180分間、20?35質量%のパルプ濃度で酸素脱リグニン処理を施す工程」と特定されているのに対して、甲1発明の酸素脱リグニン処理の工程の詳細が明らかでない点。
ウ 酸素脱リグニン処理について
(ア)酸素脱リグニン処理工程を、本件発明1のように「蒸解したパルプに、アルカリ添加率0.5?4質量%、80?140℃の条件で20?180分間、20?35質量%のパルプ濃度で酸素脱リグニン処理を施す工程」とすることは、後記するように、甲1?6には、記載も示唆もされていないから、甲1に記載された発明における工程ウを、そのように特定することは、当業者が容易になし得たことということはできない。
(イ)甲1において、上記2(1)イに酸素脱リグニン工程を用いることが記載されていて、さらに、上記2(1)イ(ウ)に実施例が記載されているが、それによると、「10%原料濃度」とされており、この場合の「原料」は、パルプであることが明らかである。そうすると、本件発明1における「20?35質量%のパルプ濃度」と甲1発明の「10%パルプ濃度」とはパルプ濃度が大きく異なっている。また、甲1には、酸素脱リグニン工程においてパルプ濃度を変更する点は、記載も示唆もない。
(ウ)甲2において、上記2(2)ウ(エ)に酸素脱リグニン工程が記載されているが、12%のパルプ濃度とされており、本件発明1における「20?35質量%のパルプ濃度」とはパルプ濃度が大きく異なっている。また、甲2には、酸素脱リグニン工程においてパルプ濃度を変更する点は、記載も示唆もない。
(エ)甲3?甲6には、そもそも酸素脱リグニン工程が記載されていない。
エ したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲2?6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明ということはできない。そして、本件発明1の発明特定事項を包含し、他の発明特定事項を付加した本件発明2?6についても、甲1発明及び甲2?6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明ということもできない。
(3)小括
そうすると、本件発明1?6は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明ということはできないから、本件発明1?6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前加水分解処理を行った木材チップを洗浄し、回収する工程と、
回収した木材チップを、木材チップ1kgあたりのクラフト蒸解液の液比が1.0?5.0L/kgにて耐圧性容器においてクラフト蒸解する工程と、
蒸解したパルプに、アルカリ添加率0.5?4質量%、80?140℃の条件で20?180分間、20?35質量%のパルプ濃度で酸素脱リグニン処理を施す工程と、
酸素脱リグニン処理したパルプを、水酸化ナトリウム濃度3?25質量%、20?50℃の条件で10?60分間、アルカリ精製する工程と、
を含む、溶解クラフトパルプを製造する方法であって、
前加水分解処理が、下式:
Pファクター=∫exp(40.48-15106/T)dt
[式中、Tは、前加水分解処理のある時点における絶対温度]
で表される前加水分解のPファクターが350?800となるように、150?180℃にて40?150分間、木材チップ1kgあたりの水の液比が1.0?5.0L/kgにて耐圧性容器において行われる、上記方法。
【請求項2】
前記クラフト蒸解を、150?180℃にて60?240分間行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶解クラフトパルプが、セルロースアセテート製造用の溶解クラフトパルプである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
溶解クラフトパルプのα-セルロース含有量が95%以上である、請求項1?3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
溶解クラフトパルプのヘミセルロース含有量が2.5%以下である、請求項1?4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載の方法で溶解クラフトパルプを製造し、その溶解クラフトパルプを原料としてセルロースアセテートを製造することを含む、セルロースアセテートの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-11-27 
出願番号 特願2012-170531(P2012-170531)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (D21C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 阿川 寛樹平井 裕彰  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 門前 浩一
蓮井 雅之
登録日 2017-08-25 
登録番号 特許第6196022号(P6196022)
権利者 日本製紙株式会社
発明の名称 溶解クラフトパルプの製造方法  
代理人 小野 新次郎  
代理人 中村 充利  
代理人 小野 新次郎  
代理人 新井 規之  
代理人 小笠原 有紀  
代理人 新井 規之  
代理人 中村 充利  
代理人 小笠原 有紀  

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