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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1347682
異議申立番号 異議2018-700626  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-27 
確定日 2018-12-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第6280254号発明「研磨組成物およびアミノシランを用いて処理された研削剤粒子の使用方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6280254号の請求項1ないし18に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6280254号の請求項1?18に係る特許についての出願(以下「本件出願」という。)は、2008年9月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年9月21日、米国)を国際出願日として出願した特願2010-525838号の一部を平成26年11月6日に新たな特許出願とした特願2014-226224号の一部を、平成29年2月2日に新たな特許出願したものであって、平成30年1月26日にその特許権の設定登録がされ、同年2月14日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、同年7月27日に特許異議申立人冨永道治により、特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
特許第6280254号の請求項1?18の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?18に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
基材を化学的機械的に研磨する方法であって、
(i)(a)液体キャリアーと、
(b)該液体キャリアー中に懸濁された研削剤であって、第四級アミノシラン化合物を用いて処理された表面を有する湿式プロセスシリカ粒子を含む、研削剤と、
を含む化学的機械的研磨組成物と、基材とを接触させる工程、
(ii)該基材に対して該研磨組成物を動かす工程、ならびに、
(iii)該基材を磨くために、該基材の少なくとも一部分を摩耗させる工程であって、該基材が酸化ケイ素の少なくとも1つの層および/または窒化ケイ素の少なくとも1つの層を含み、そして該酸化ケイ素または窒化ケイ素の少なくとも一部分が該基材を磨くために該基材から除去される工程、
を含んで成る、方法。
【請求項2】
該研磨組成物が5以上、9未満のpHを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該処理されたシリカ粒子が正のゼータ電位を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
該ゼータ電位が10mV以上である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
該研磨組成物が腐食防止剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
該腐食防止剤が0.0001wt%?3wt%の濃度のアゾール化合物である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
酸化剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
該酸化剤がブロメート、ブロマイト、クロレート、クロライト、過酸化水素、ハイポクロライト、アイオデート、ヒドロキシルアミン塩、モノペルオキシサルフェート、モノペルオキシサルファイト、モノペルオキシホスフェート、モノペルオキシハイポホスフェート、モノペルオキシピロホスフェート、有機ハロオキシ化合物、パーアイオデート、パーマンガネート、ペルオキシ酢酸、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
(i)液体キャリアーと、
(ii)該液体キャリアー中に懸濁された研削剤であって、第四級アミノシラン化合物を用いて処理された表面を有する湿式プロセスシリカ粒子を含む、研削剤と、
を含んで成る、酸化ケイ素の少なくとも1つの層および/または窒化ケイ素の少なくとも1つの層を含む基材を研磨するための化学的機械的研磨組成物。
【請求項10】
該研磨組成物が5以上、9未満のpHを有する、請求項9に記載の研磨組成物。
【請求項11】
該処理されたシリカ粒子が正のゼータ電位を有する。請求項9に記載の研磨組成物。
【請求項12】
該ゼータ電位が10mV以上である、請求項11に記載の研磨組成物。
【請求項13】
該研磨組成物が腐食防止剤をさらに含む、請求項9に記載の研磨組成物。
【請求項14】
該腐食防止剤が0.0001wt%?3wt%の濃度のアゾール化合物である、請求項13に記載の研磨組成物。
【請求項15】
該基材が窒化ケイ素の少なくとも1つの層を含み、そして該窒化ケイ素の少なくとも一部分が該基材を磨くために該基材から除去される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
該第四級アミノシラン化合物が、トリアルコキシシリルプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロライド、および/またはN-(トリアルコキシシリルエチル)ベンジル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロライドである、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
該基材が、窒化ケイ素の少なくとも1つの層を含む、請求項9に記載の研磨組成物。
【請求項18】
該第四級アミノシラン化合物が、トリアルコキシシリルプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロライド、および/またはN-(トリアルコキシシリルエチル)ベンジル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロライドである、請求項9に記載の研磨組成物。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人冨永道治は、主たる証拠として国際公開第2006/058657号(以下「文献1」という。)及び従たる証拠として米国特許出願公開第2003/0198759号明細書(以下「文献2」という。)、特開2005-162533号公報(以下「文献3」という。)、特表2006-524918号公報(以下「文献4」という。)、再公表特許01/057919号(以下「文献5」という。)、特開2001-345295号公報(以下「文献6」という。)、特開平06-124932号公報(以下「文献7」という。)、特開2004-143429号公報(以下「文献8」という。)、特開2006-136996号公報(以下「文献9」という。)、特開2004-079984号公報(以下「文献10」という。)、W.Choi et al.,“pH and Down Load Effects on Silicon Dioxide deielectric CMP”,Electrochemical and Solid-State Letters, 7(7) G141-G144(2004)(以下「文献11」という。)を提出し、請求項1?18に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされた(以下「申立理由1」という。)ものであり、また、請求項1?18に係る特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない(以下「申立理由2」という。)から、請求項1?18に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

第4 文献の記載
(1)文献1の記載と引用発明
文献1には、pH0?10の範囲で永久的な正の表面電荷を有し、一般式(I)又は(Ia)で表される基を有し、前記一般式(I)又は(Ia)で表される基が前記表面に永久的に結合し、流体力学的相当径が80nm?800nmである会合体を含む金属酸化物の製造方法であって、未修飾金属酸化物を一般式(II)又は(IIa)で表されるシランと反応させることを特徴とする当該金属酸化物の製造方法(文献1の3ページ第6行(空白行含まず)?5ページ12行、38?39ページの請求項1、40?41ページの請求項10(文献1の対応特許文献の特表2008-521980号公報(以下「文献1訳文」という。)の請求項1、10、段落【0010】を参照。)が記載されている。

一般式(I)又は(Ia)は、以下のとおりである。(以下、同じ。)
-O_(1+n)-SiR^(1)_(2-n)-R^(2)-B^(+ )X^(-) (I)、
-O_(1+n)-SiR^(1)_(2-n)-CR^(1)_(2)-NR^(3)_(2)^(+)-(CH_(2))_(x)-A X^(-)
(Ia)

(式中、R^(1)は、水素原子、又は必要に応じて、単不飽和若しくは多価不飽和である、-CN,-NCO,-NR^(4)_(2),-COOH,-COOR^(4),ハロゲン基、アクリロイル基、エポキシ基、-SH,-OH,若しくは-CONR^(4)_(2)により置換若しくは無置換の、SiCに結合した炭素数1?20の炭化水素基、アリール基、又は炭素数1?15の炭化水素オキシ基であり、それぞれ1つ以上の隣接しないメチレン単位が、-O-,-CO-,-COO-,-OCO-,若しくは-OCOO-,-S-,若しくは-NR^(3)-基で置換されていてもよく、1つ以上の隣接しないメチン単位が、-N=,-N=N-,若しくは-P=基で置換されていてもよく、各R^(1)は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
R^(2)は、SiCに結合した炭素数1?20の炭化水素基、アリール基、又は炭素数1?15の炭化水素オキシ基であり、それぞれ1つ以上の隣接しないメチレン単位が、-O-,-CO-,-COO-,-OCO-,若しくは-OCOO-,-S-,若しくは-NR^(3)-基で置換されていてもよく、1つ以上の隣接しないメチン単位が、-N=,-N=N-,若しくは-P=基で置換されていてもよい。
R^(3)は、一価又は二価でもよい、N-Cと結合した炭素数1?20の炭化水素基、アリール基、又は炭素数1?15の炭化水素オキシ基であり、それぞれ1つ以上の隣接しないメチレン単位が、-O-,-CO-,-COO-,-OCO-,若しくは-OCOO-,-S-,若しくは-NR^(4)-基で置換されていてもよく、1つ以上の隣接しないメチン単位が、-N=,-N=N-,若しくは-P=基で置換されていてもよく、各R^(3)は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
Bは、カチオン基-NR^(3)_(3)^(+),-N(R^(3))(=R^(3))^(+);-PR^(3)_(3)^(+)であり、該カチオン基は、また、脂肪族、又は芳香族複素環の一部であってもよく、例えば、ピリジニウム基、N-メチル-イミダゾリウム基等のN-アルキル-イミダゾリウム基、N-メチル-モルホリニウム等のN-アルキル-モルホリニウムの一部でもよい。
X^(-)は、酸アニオンである。
R^(4)は、水素原子、炭素数1?15の炭化水素基、又はアリール基であり、各R^(4)は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
Aは、酸素、硫黄、又は化学式NR^(3)で表される基であってよい。
xは、0?10の値であってよい。
nは、0,1又は2である)

一般式(II)は、以下のとおりである。
RO_(1+n)-SiR^(1)_(2-n)-R^(2)-NR^(3)_(3)^(+ )X^(- ) (II)

(式中、Rは、C-Oと結合した炭素数1?15の炭化水素基、又はアセチル基、及びR^(1),R^(2),R^(3),X^(-),A,n,及びxは上記に定義されたとおりである)

また、文献1の実施例1?6においては、未修飾金属酸化物として親水性シリカを用いて、均一なシリル化剤層を有する白い粉末状の疎水性シリカを得ている。この親水性シリカの処理に使用された一般式(II)で表されるシランとして、実施例1?5においては、一般式(II)中、Rは-CH^(3)基、R^(2)は-CH_(2)-CH_(2)-CH_(2)-基、R^(3)は-CH_(3)基、XはCl、及びnは2であり、実施例6においては、一般式(II)中、Rは-CH^(3)基、R^(2)は-CH_(2)-基、R^(3)は-CH_(3)基、XはCl、及びnは2である(文献1訳文の段落【0029】、【0043】、【0092】?【0097】を参照。)ところ、一般式(II)で表されるシランは、第四級アミノ基とケイ素結合官能基をもっているから、技術常識を勘案すると、「第四級アミノシラン化合物」と解される(必要であれば、特開昭50-103583号公報第2ページ右上欄第4行?左下欄第9行を参照。)。

そうすると、文献1には、「pH0?10の範囲で永久的な正の表面電荷を有し、一般式(I)又は(Ia)で表される基を有し、前記一般式(I)又は(Ia)で表される基が前記表面に永久的に結合し、流体力学的相当径が80nm?800nmである会合体を含む金属酸化物としてのシリカの製造方法であって、未修飾金属酸化物としての親水性シリカを第四級アミノシラン化合物と反応させ、当該金属酸化物として、粉末状の疎水性シリカを得る製造方法。」の発明(以下「引用発明1A」という。)が記載されていると認められる。

また、文献1には、「pH0?10の範囲で永久的な正の表面電荷を有し、一般式(I)又は(Ia)で表される基を有し、前記一般式(I)又は(Ia)で表される基が前記表面に永久的に結合し、流体力学的相当径が80nm?800nmである会合体を含む金属酸化物としてのシリカを含む、組成物であって、未修飾金属酸化物としての親水性シリカを第四級アミノシラン化合物と反応させて得た、当該金属酸化物として粉末状の疎水性シリカを含む組成物。」の発明(以下「引用発明1B」という。)が記載されていると認められる。

(2)文献2及び文献11の記載
次に、文献2の[0009]、[0010]、[0032]、[0034]?[0036]、[0040]、[0041]、及び請求項1、5の記載を総合的に参酌すると、文献2には、凝集しないカチオン性コロイド状シリカを調製することであって、カチオン性コロイド状シリカは、ゼータ電位が正(好ましくは+20mV以上)であり、四級アミノシランで処理することによって調製することが記載されていると認められる。

文献11のG141ページのアブストラクト、G142ページ左欄第1行?右欄下から第5行の記載、及び図2?4を総合的に参酌すると、文献11には、化学的機械的研磨に関し、非凝集二酸化ケイ素粒子による誘電体シリカの研磨速度の変化について記述されており、10.0未満のpHの領域では、非凝集二酸化ケイ素粒子としてのシリカ粒子とシリカウェハの表面との間の静電的相互作用が研磨速度を決定する役割を果たすことがあること、pHの上昇とともに、シリカ粒子のゼータ電位が低下(絶対値は増加)し、所与の分離距離に対するシリカ粒子とシリカウェハの表面との間の静電的相互作用力の空間的広がりが増大し、したがって、pHの上昇は反発力を上昇させ、研磨速度を低下させることが記載されていると認められる。

第5 当審の判断
1 申立理由1(特許法第29条第2項違反)について
(1)請求項1に係る発明について
ア 請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。また、請求項2?18に係る発明を、順に「本件発明2」?「本件発明18」という。)と引用発明1Aとを対比する。

引用発明1Aの「金属酸化物としてのシリカ」は本件発明1の「湿式プロセスシリカ粒子」に相当するから、両発明は、「湿式プロセスシリカ粒子を含む組成物を用いてなる方法」の点で一致するものの、本件発明1は、「基材を化学的機械的に研磨する方法であって」、「(i)(a)液体キャリアーと、(b)該液体キャリアー中に懸濁された研削剤であって、第四級アミノシラン化合物を用いて処理された表面を有する湿式プロセスシリカ粒子を含む、研削剤と、を含む化学的機械的研磨組成物と、基材とを接触させる工程、(ii)該基材に対して該研磨組成物を動かす工程、ならびに、(iii)該基材を磨くために、該基材の少なくとも一部分を摩耗させる工程であって、該基材が酸化ケイ素の少なくとも1つの層および/または窒化ケイ素の少なくとも1つの層を含み、そして該酸化ケイ素または窒化ケイ素の少なくとも一部分が該基材を磨くために該基材から除去される工程、を含んで成る、方法」であるのに対し、引用発明1Aは、「金属酸化物としてのシリカの製造方法」であって、文献1には、背景技術について、「金属酸化物粒子の表面帯電性、特に表面電荷密度は、これらの物質を水性分散液中でフリーフロー助剤として、及びトナー、現像剤、及び被覆材料粉末の帯電制御に使用する上で重要な特性である。」(文献1訳文の段落【0002】)と記載されているように、引用発明1Aは、当該金属酸化物としてのシリカを含む、研削剤を含む研磨組成物として、基材を研磨する方法ではない点で、両者は相違する。

イ この点について、文献2には、カチオン性コロイド状シリカを研磨組成物とすることは記載されていない。

次に、文献11には、シリカ粒子(G141ページの実験項の第1段落及び図1に開示の粒子サイズは110nm程度)を用いてシリカウェハを化学的機械的研磨する方法が記載されているので、引用発明1Aを文献11に記載の技術に適用することが容易か否かについて検討する。

引用発明1Aは、「流体力学的相当径が80nm?800nmである会合体を含む金属酸化物としてのシリカの製造方法」であるように、文献1には、一次粒子は独立して存在するのではなく、より大きな会合体、及び凝集体成分であってもよく、会合体からなる凝集塊の大きさは、外部からの剪断加重に依存して1μm?1000μm又は1μm?500μmであるのがよい旨が記載されている(文献1訳文の段落【0028】、【0030】、【0058】を参照。)ところ、例えば、「ナノ材料としてのコロイダルシリカの機能と応用」、SEN’I GAKKAISHI(繊維と工業),Vol.60.No.7(2004)P-376?P-380(p.12?16)(以下「周知例1」という。)のP-378の左欄と図4を参照すると、無機粒子を研磨粒子として用いる場合について、コロイダルシリカを用いて研磨する方法は、40?80nmのコロイダルシリカの粒子の硬さに起因する研磨力を利用して、ガラス、熱酸化膜基板、シリコンウェハー等の仕上げ研磨に使用されている旨が記載されており、また、文献8の段落【0018】において、具体的に開示されている研磨用の無機粒子の平均粒子径は5?170nmであり、文献9には、研磨後の被研磨物の表面粗さが小さく、かつナノスクラッチを顕著に低減することができるように、表面粒径0.56μm以上1μm未満の研磨粒子や粒径1μm以上の研磨粒子を低減することが開示されている(請求項1、2、5及び段落【0005】、【0013】等を参照。)ように、文献1において「よい」とされる凝集塊の大きさ1μm?500μm(1000μm)は、周知例1、文献8、9、及び文献11に開示された研磨粒子径よりもはるかに大きく、しかも外部からの剪断加重に依存するものである。

したがって、文献11には、シリカ粒子を用いてシリカウェハを化学的機械的研磨する方法が記載されているものの、当該シリカ粒子は、非凝集二酸化ケイ素粒子であるから、引用発明1Aにおける、未修飾金属酸化物としての親水性シリカを第四級アミノシラン化合物と反応させて得た粉末状の疎水性シリカであって、一次粒子は独立して存在するのではなく、より大きな会合体や凝集体成分であってもよいシリカを、文献11の記載を参照したとしても、当該シリカを含む化学的機械的研磨組成物として、基材を研磨する方法に適用する動機付けは存在しない。

また、文献3?5には、アミノシラン化合物で表面処理されて正電荷を有するシリカを使用して化学的機械的研磨を行うことは開示されているものの、文献1には、一次粒子は独立して存在するのではなく、より大きな会合体、及び凝集体成分であってもよく、会合体からなる凝集塊の大きさは、外部からの剪断加重に依存して1μm?1000μm又は1μm?500μmであるのがよい旨が記載されているから、引用発明1Aにおける、第四級アミノシラン化合物と反応させて得た疎水性シリカを、当該シリカを含む化学的機械的研磨組成物として、基材を研磨する方法に適用する動機付けは存在しない。

また、文献7?9には、シリカ粒子を研磨剤ないし研磨液組成物に使用することが記載されており、文献6、10には、シリカ粒子を化学機械的ポリシングに用いられるスラリーであって、金属酸化物研磨粒子として、シリカを含むものが記載されているものの、引用発明1Aにおける、未修飾金属酸化物としての親水性シリカを第四級アミノシラン化合物と反応させて得た粉末状の疎水性シリカであって、一次粒子は独立して存在するのではなく、より大きな会合体や凝集体成分であってもよいシリカを、文献6?10の記載に基づいて、当該シリカを含む化学的機械的研磨組成物として、基材を研磨する方法に適用する動機付けは存在しない。

よって、本件発明1は、引用発明1A及び文献2?11に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得るものではない。

ウ 特許異議申立人冨永道治は、「化学機械研磨用組成物の研磨剤としてアミノシラン化合物で表面処理されて正電荷を有するシリカを使用して化学機械研磨を行い、その際に当該組成物と機材を接触させ、該基材に対して該研磨組成物を動かすことは、甲3(文献3)、甲4(文献4)、及び甲5(文献5)に示されるように、化学機械研磨分野において技術常識であるか、慣用技術であるから、甲1発明における第四級アミンで表面処理されたシリカを研磨剤として基材の化学機械研磨に使用してみることは当業者が容易になし得ることである」旨を主張する(異議申立書第69ページ第3?10行を参照。)。
しかしながら、文献3?5の記載を参酌しても、上記イで検討したように、引用発明1Aにおける、第四級アミノシラン化合物と反応させて得た疎水性シリカを、当該シリカを含む化学的機械的研磨組成物として、基材を研磨する方法に適用する動機付けは存在しないから、申立人のかかる主張には理由がない。

(2)本件発明2?8、15、16について
本件発明2?8、15、16は、それぞれ、本件発明1に対して、さらに技術的事項を追加したものである。よって、上記(1)に示した理由と同様の理由により、本件発明2?8、15、16は、上記引用発明1A及び文献2?11に記載された技術的事項に基いて当業者が容易になし得るものではない。

(3)本件発明9について
ア 本件発明9と引用発明1Bとを対比する。

引用発明1Bの「金属酸化物としてのシリカ」は本件発明9の「湿式プロセスシリカ粒子」に相当するから、両発明は、「湿式プロセスシリカ粒子を含む組成物」の点で一致するものの、本件発明9は、「(i)液体キャリアーと、(ii)該液体キャリアー中に懸濁された研削剤であって、第四級アミノシラン化合物を用いて処理された表面を有する湿式プロセスシリカ粒子を含む、研削剤と、を含んで成る、酸化ケイ素の少なくとも1つの層および/または窒化ケイ素の少なくとも1つの層を含む基材を研磨するための化学的機械的研磨組成物。」であるのに対し、引用発明1Bは、「金属酸化物としてのシリカを含む、組成物」であって、文献1には、背景技術について、「金属酸化物粒子の表面帯電性、特に表面電荷密度は、これらの物質を水性分散液中でフリーフロー助剤として、及びトナー、現像剤、及び被覆材料粉末の帯電制御に使用する上で重要な特性である。」(文献1訳文の段落【0002】)と記載されているように、引用発明1Bの組成物は、「シリカ粒子を含む、研削剤」を含んで成る、「化学的機械的研磨組成物」ではない点で、両者は相違する。

イ この点について、上記(1)イに示した理由と同様の理由により、本件発明9は、上記引用発明1B及び文献2?11に記載された技術的事項に基いて当業者が容易になし得るものではない。

(4)請求項10?14、17、18に係る発明について
本件発明10?14、17、18は、それぞれ、本件発明9に対して、さらに技術的事項を追加したものである。よって、上記(3)に示した理由と同様の理由により、本件発明10?14、17、18は、上記引用発明1B及び文献2?11に記載された技術的事項に基いて当業者が容易になし得るものではない。

(5)小括
以上のとおり、本件発明1?18は、文献1に記載された発明及び文献2?11に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 申立理由2(特許法第36条第6項第1号違反)について
(1)特許異議申立人は、特許異議申立書の「3 申立の理由」の(4)「ウ 記載不備の理由」(64?67ページを参照。)において、(ウ-1-1)で、「本件明細書において本件請求項1及び9に記載の研磨方法及び研磨組成物に該当する実施例は記載されていない。また、本件明細書において、本件特許発明1及び9が、その発明特定事項である「第四級アミノシラン化合物を用いて…(略)…該基材から除去される」こと、及び本件特許発明の課題である「窒化ケイ素、酸化ケイ素の除去速度を調整でき、また除去速度を合せることができる」こと、を解決できるその他の記載もない。」と主張している。

また、(ウ-1-2)で、「窒化ケイ素の実質的な除去ができるというためには、少なくともこの368Å/を超える窒化ケイ素除去速度が得られる必要がある。…(略)…ここで、これらの組成物には全てDEQUEST2000又はDEQUEST2010(…(略)…)が含まれている。…(略)…具体例において確認された窒化ケイ素除去作用は所定濃度(2H、3Kの濃度以上)のDEQUEST2000又はDEQUEST2010を組成物が含有することによって達成することが理解される。…(略)…本件特許発明1?18において湿式プロセスシリカが、第四級アミノシランを含み、且つ、所定濃度(2H、3K以上の濃度以上)のDEQUEST2000又はDEQUEST2010を含まない組成物により処理された場合についてまで窒化ケイ素除去作用が得られるとはいえない。したがって、本件特許発明1?18は、前記課題を解決できない範囲を含むものである。」と主張している。

(2)一方、本件特許明細書には、以下の事項が記載されている。
・「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
集積回路機器の技術が進歩するにつれて、進歩した集積回路に必要なレベルの性能を達成するために、従来の材料は新しくかつ異なる方法において使用される。特に、窒化ケイ素および酸化ケイ素は、新しくかつさらに複雑な機器設定を達成するために種々の組み合わせにおいて使用される。一般的に、構造的な複雑さおよび性能特性は、異なる用途によって変わる。特別な機器のための研磨ニーズに合うようにCMPの間に、種々の層(例えば、窒化ケイ素、酸化ケイ素)の除去速度を調整でき、または除去速度を合せることができる方法および組成物への継続した要求がある。本発明は、そうした改善された研磨方法および組成物を提供する。本発明のこれらのおよび他の利点、ならびにさらなる発明の特徴は、本明細書中に提供された本発明の記載から明らかになるであろう。」(当審注:下線は合議体が付加した。以下、同じ。)

・「【0018】
研削剤は、少なくとも1種の、シラン化合物、アミノシラン化合物、ホスホニウムシラン化合物、またはスルホニウムシラン化合物を用いて処理される。好適なシラン化合物は、第1アミノシラン、第2アミノシラン、第3級アミノシラン、第四級アミノシラン、およびダイポーダルアミノシランを含む。アミノシラン化合物は、アミノプロピルトリアルコキシシラン、ビス(2-ヒドロキシエチル)-3-アミノプロピルトリアルコキシシラン、ジエチルアミノメチルトリアルコキシシラン、(N、N-ジエチル-3-アミノプロピル)トリアルコキシシラン)、3-(N-スチリルメチル-2-アミノエチルアミノプロピルトリアルコキシシラン、(2-N-ベンジルアミノエチル)-3-アミノプロピルトリアルコキシシラン)、トリアルコキシシリルプロピル-N、N、N-トリメチルアンモニウムクロライド、N-(トリアルコキシシリルエチル)ベンジル-N、N、N-トリメチルアンモニウムクロライド、(ビス(メチルジアルコキシシリルプロピル)-N-メチルアミン、ビス(トリアルコキシシリルプロピル)尿素、ビス(3-(トリアルコキシシリル)プロピル)-エチレンジアミン、およびビス(トリアルコキシシリルプロピル)アミン等の任意の好適なアミノシランであることができる。上記アミノシラン化合物中のアルコキシ基は、ハロゲン化物、アミンおよびカルボキシレート等の他の加水分解可能基によって置換できる。好ましくは、このシランは、ダイポーダルまたはトリポーダルである。シラン化合物の選択は、研磨される基材のタイプに部分的に依存する。」

(3)本件発明1が解決しようとする課題は、本件特許明細書の段落【0004】に記載された「CMPの間に、種々の層(例えば、窒化ケイ素、酸化ケイ素)の除去速度を調整でき、または除去速度を合せることができる方法および組成物を提供する」ことにある。

そうすると、本件発明1の課題は、特許異議申立人が(ウ-1-1)において主張するように、除去速度を調整でき、また除去速度を合せることができることであり、所定以上の除去速度を得ることではないから、特許異議申立人の(ウ-1-2)における上記主張は、失当である。

(4)本件特許明細書の段落【0018】には、上記のように第四級アミノシラン化合物の具体例として、「トリアルコキシシリルプロピル-N、N、N-トリメチルアンモニウムクロライド」、「N-(トリアルコキシシリルエチル)ベンジル-N、N、N-トリメチルアンモニウムクロライド」が例示されている。
そして、実施例の例1?9において、アミノシラン化合物を用いて処理された表面を有する湿式プロセスシリカ粒子を含む、研削剤、を含んで成る、酸化ケイ素の少なくとも1つの層および/または窒化ケイ素の少なくとも1つの層を含む基材を研磨するための化学的機械的研磨組成物を用いて、本件発明1、9の上記の課題を解決できることが示されているから、「トリアルコキシシリルプロピル-N、N、N-トリメチルアンモニウムクロライド」、「N-(トリアルコキシシリルエチル)ベンジル-N、N、N-トリメチルアンモニウムクロライド」を用いて処理された表面を有する湿式プロセスシリカ粒子を含む、研削剤、を含んで成る、酸化ケイ素の少なくとも1つの層および/または窒化ケイ素の少なくとも1つの層を含む基材を研磨するための化学的機械的研磨組成物であっても、本件発明1、9の上記の課題を解決できることを、当業者であれば認識できる。
したがって、本件発明1?18は、前記課題を解決できない範囲を含むものであるとはいえない。
よって、特許異議申立人の(ウ-1-1)における上記主張は、理由がない。

(5)以上のとおり、本件特許明細書の記載に接した当業者であれば、本件発明1?18が発明の課題を解決できることを認識することができ、本件発明1?18は、発明の詳細な説明に記載したものということができる。
したがって、本件の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たす。

3 他の引用発明及び対比・判断
上記1のとおり、本件発明1?18は、文献1に記載された発明及び文献2?11に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないが、念のため、本件発明9が、文献11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたか否かについても、以下において検討する。

(1)ア 文献11の G141ページの実験項の第2段落の記載から、文献11には、シリカ(シリカ層)が堆積されたシリコンウェハ、すなわち、シリカ層を含むシリコン基材が開示されているといえる。

イ また、文献11のG141ページの実験項の第2段落と、G142ページ左欄第1行?右欄下から第5行の記載によると、後者に記載の「シリカウェハの表面」には「シリカ層(誘電体シリカ)」が形成されていることは明らかであるとともに、また、後者には、「研磨速度は、≦pH10での誘電体シリカの溶解度の働きではないことは明らかである。」と記載されているから、文献11には、「シリカ粒子」は「≦pH10」では、誘電体シリカを研磨するための研削剤であることが開示されているといえる。

ウ また、文献11のG141ページのアブストラクト、G142ページ左欄第1行?右欄下から第5行の記載を参酌すると、アブストラクトに記載のされた「非凝集二酸化ケイ素粒子」は、上記イの「シリカ粒子」であることは明らかであるから、文献11には、水と、水中の、非凝集二酸化ケイ素粒子としてのシリカ粒子を含む研削剤と、を含んで成る、化学的機械的研磨組成物が開示されているといえる。

エ 以上をまとめると、文献11には、「水と、水中の研削剤であって、非凝集二酸化ケイ素粒子としてのシリカ粒子を含む研削剤と、を含んで成る、誘電体シリカを含むシリコン基材を研磨するための化学的機械的研磨組成物。」の発明(以下「引用発明11」という。)が記載されていると認められる。

(2)本件発明9と引用発明11とを対比する。
引用発明11の「水」、「シリカ粒子」、「誘電体シリカを含むシリコン基材」は、それぞれ本件特許発明9の「液体キャリアー」、「湿式プロセスシリカ粒子」、「酸化ケイ素の少なくとも1つの層を含む基材」に相当するから、両発明の一致点と相違点は次のとおりである。

<一致点>
「(i)液体キャリアーと、
(ii)該液体キャリアー中の研削剤であって、湿式プロセスシリカ粒子を含む、研削剤と、
を含んで成る、酸化ケイ素の少なくとも1つの層を含む基材を研磨するための化学的機械的研磨組成物。」

<相違点1>
研削剤について、本件発明9は、「該液体キャリアー中に懸濁された」ものであるのに対し、引用発明11では、その点が不明である点。
<相違点2>
湿式プロセスシリカ粒子について、本件発明9では、「第四級アミノシラン化合物を用いて処理された表面を有する」ものであるのに対し、引用発明11のシリカ粒子はそのような特定はなされていない点。

(3)以下、上記相違点について検討する。
まず、相違点2について検討する。
引用発明11のシリカ粒子は、「非凝集二酸化ケイ素粒子としてのシリカ粒子」である。
また、水中において、シリカの一次粒子の表面はシラノール基で覆われており、親水性であることは技術常識である。
一方、上記第4(1)のとおり、文献1に開示されたシリカは、「粒子力学的相当径が80nm?800nmである会合体を含む金属酸化物としてのシリカ」で、「疎水性シリカ」であり、文献1訳文の段落【0028】、【0030】、【0058】を参酌すると、一次粒子は独立して存在するのではなく、より大きな会合体や凝集体成分であってもよいものである。
そうすると、引用発明11において、非凝集二酸化ケイ素粒子としてのシリカ粒子を、文献1に開示されたシリカの構成を適用する動機付けは存在しない。

また、文献1?10のいずれにも、本件発明9の構成要件である「第四級アミノシラン化合物を用いて処理された表面を有する湿式プロセスシリカ粒子を含む、研削剤」は開示も示唆もされておらず、かかる構成により本件発明9は、CMPの間に、種々の層(例えば、窒化ケイ素、酸化ケイ素)の除去速度を調整でき、または除去速度を合せることができる方法および組成物を提供するという本件特許明細書記載の顕著な作用効果を奏するものである。

よって、本件発明9は、引用発明11及び文献1?10に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?18に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-12-11 
出願番号 特願2017-17492(P2017-17492)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (H01L)
P 1 651・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山口 祐一郎  
特許庁審判長 深沢 正志
特許庁審判官 河合 俊英
恩田 春香
登録日 2018-01-26 
登録番号 特許第6280254号(P6280254)
権利者 キャボット マイクロエレクトロニクス コーポレイション
発明の名称 研磨組成物およびアミノシランを用いて処理された研削剤粒子の使用方法  
代理人 古賀 哲次  
代理人 石田 敬  
代理人 小林 直樹  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 胡田 尚則  
代理人 木村 健治  
代理人 青木 篤  
代理人 出野 知  

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