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審決分類 |
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 C01F 審判 一部申し立て 特174条1項 C01F 審判 一部申し立て 2項進歩性 C01F 審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C01F 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C01F |
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管理番号 | 1347684 |
異議申立番号 | 異議2018-700788 |
総通号数 | 230 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-02-22 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-09-28 |
確定日 | 2018-12-28 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6301208号発明「高活性な酸化マグネシウム系添加剤、及びその用途」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6301208号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6301208号は、平成26年 6月18日に出願された特願2014-125535号について、平成29年12月 4日付けで手続補正がされ、平成30年 3月 9日に設定登録がされ、同年 3月28日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、その請求項1?8に係る特許(以下、「本件特許」という。)に対し、同年 9月28日付けで特許異議申立人 合同会社SASにより特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件特許発明の認定 本件特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された次の事項により特定されるとおりのもの(以下、請求項ごとに「本件特許発明1」?「本件特許発明8」という。)と認められる。 【請求項1】 BET比表面積が80m^(2)/g以上300m^(2)/g以下であり、かつCAA40%が30秒以下であり、 乾式粒度分布の平均粒子径が5μm以上6.4μm以下である酸化マグネシウム粒子、又はその表面処理物を含む酸化マグネシウム系添加剤。 【請求項2】 前記酸化マグネシウム粒子は、湿式粒度分布の平均粒子径が3.5μm以上4.3μm以下である請求項1に記載の酸化マグネシウム系添加剤。 【請求項3】 前記酸化マグネシウム粒子は、細孔半径が3nm以上4nm以下におけるlog微分細孔容積のピークが300mm^(3)/g以上500mm^(3)/g以下である請求項1又は2に記載の酸化マグネシウム系添加剤。 【請求項4】 高級脂肪酸、高級脂肪酸アルカリ土類金属塩、カップリング剤、脂肪酸と多価アルコールとからなるエステル類、及びリン酸と高級アルコールとからなるリン酸エステル類からなる群より選択される少なくとも1種の表面処理剤により表面処理されている請求項1?3いずれか1項に記載の酸化マグネシウム系添加剤。 【請求項5】 請求項1?4いずれか1項に記載の酸化マグネシウム系添加剤と、ゴム、樹脂、又は接着剤とを含有する組成物。 【請求項6】 樹脂として、ABS系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレン系樹脂、ポリエステル系樹脂及びポリアミド系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含有する請求項5に記載の組成物。 【請求項7】 ゴムとして、クロロプレンゴム、アクリルゴム、ニトリルゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、エピクロルヒドリンゴム、シリコーンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム及びポリイソブチレンゴムからなる群より選択される少なくとも1種のゴムを含有する請求項5に記載の組成物。 【請求項8】 請求項5?7いずれか1項に記載の組成物より得られる成形体。 第3 申立理由の概要 特許異議申立人は、証拠として下記甲第1?8号証(以下、「甲1」?「甲8」という。)を提出し、本件特許に係る請求項1および2に対して行われた補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず(以下、「申立理由1」という)、また、本件特許は特許法第36条第4項第1号、第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない(以下、「申立理由2」という)特許出願に対してされたものであり、さらに、本件特許に係る本件特許発明1,3,5?8は、特許法第29条第1項第3号に該当する(以下、「申立理由3」という)ものであり、本件特許発明1?8は、特許法第29条第2項の規定に違反(以下、「申立理由4」という)するものであるから、その特許は取り消すべきものである旨主張している。 甲1:日本ゴム協会ゴム工業技術員会、第11分科会白色充てん剤特別委員会編,フィラーハンドブック,第165?168頁,昭和62年6月25日 甲2:「キョーワマグ150」カタログ,協和化学工業株式会社,2012年12月 1日 甲3:特開2010-94975号公報 甲4:湯原 義公,乾式粒度分布測定装置(LA-910,DPF),Readout HORIBA Technical Reports No.8,第82?88頁,1994年 3月 甲5:特許第4859221号公報 甲6:本件の審査過程において平成29年12月 4日付けで特許庁に提出された意見書 甲7:本件の審査過程において平成29年12月 6日付けで特許庁に提出された実験成績証明書 甲8:社団法人日本セラミックス協会編,セラミック工学ハンドブック(第2版)[基礎・資料],第99頁,技報堂出版株式会社,平成14年 3月31日 第4 申立理由1について 特許異議申立人は、本件特許発明1における「乾式粒度分布の平均粒子径が5μm以上6.4μm以下である」という発明特定事項を追加した平成29年12月 4日付け手続補正について、本件特許明細書には、乾式粒度分布の平均粒子径が6.4μmである実施例は記載されているものの、「5μm以上6.4μm以下」という具体的な範囲は何ら記載されておらず、その範囲とすることの技術的意義も何ら記載されていないことから、当該補正は、新たな技術的事項を導入するものといえ、新規事項の追加に該当する旨主張している。 しかしながら、上記補正は、本件特許の当初明細書の段落【0025】において、乾式粒度分布の平均粒子径は5μm以上10μm以下であることが好ましいことが記載されていたところ、実施例3の記載に基づいて、その上限値を6.4μmに減縮しただけのものであって、申立人が主張するとおり、その範囲において新たな臨界的意義等の技術的意義を主張したものでもないから、当該補正は、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。 また、同様のことが、本件特許発明2における「湿式粒度分布の平均粒子径が3.5μm以上4.3μm以下である」とする補正についてもいえる。 したがって、請求項1及び2に対して行われた補正は、出願当初明細書等に記載された事項の範囲内においてしたものといえるから、新規事項の追加に該当するものではない。 第5 申立理由2について 1.サポート要件違反及び実施可能要件違反について (1)用途限定について 特許異議申立人は、本件特許発明1は、酸化マグネシウム系添加剤の発明であり、どのようなものにも添加できると解釈されるが、本件特許明細書には、本件特許発明1の酸化マグネシウム系添加剤は、ゴム、樹脂、接着剤に添加し得ることが記載されているのみであり、いかなるものにも添加できることは、当業者であっても理解をすることができるものではないから、本件特許発明1は、本件特許の発明の詳細な説明に記載された範囲にあるとはいえず、また、当業者が本件特許発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているともいえない旨主張している。 しかしながら、本件特許明細書の段落【0001】に「本発明は、高活性な酸化マグネシウム系添加剤、・・・に関し」と記載されているように、高活性である新規の酸化マグネシウム系添加剤を得ることを課題とする発明と認められるから、添加する対象の限定を要するものとはいえないし、また、本件特許明細書は、当業者が本件特許発明に係る物を製造し、使用することができる程度に記載されているものといえる。 (2)物性限定について 特許異議申立人は、本件特許の出願当初の請求項2の範囲にあるキョーワマグ150は、本件特許発明の効果を奏するものと理解されるが、本件の審査過程の平成29年12月 6日付けで特許権者によって提出された実験成績証明書によれば、キョーワマグ150は、本件特許発明の効果を奏さない。したがって、本件特許発明の課題を解決するためには、請求項1で特定されるBET比表面積、CAA40%及び乾式粒度分布の平均粒子径以外の他の物性を規定する必要があって、当該他の物性を規定していない本件特許発明1は、本件特許の発明の詳細な説明に記載された範囲にあるとはいえず、また、本件特許明細書を当業者が本件特許発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない旨主張している。 しかしながら、本件特許発明に係る物は、キョーワマグ150とは異なるものである(「申立理由3及び4について」で後述する。)から、キョーワマグ150が本件特許発明の効果を奏さないことをもって、本件特許発明の課題を解決するために、請求項1で特定されるBET比表面積、CAA40%及び乾式粒度分布の平均粒子径以外の他の物性を規定する必要があるものとはいえない。 (3)乾式粒度分布の平均粒子径の下限値について 特許異議申立人は、本件特許明細書の実施例には、乾式粒度分布の平均粒子径が5.7μm未満の例が記載されていないところ、乾式粒度分布の平均粒子径が5μm以上5.7μm未満の場合であっても本件特許発明の効果を奏するか、本件特許の発明の詳細な説明の記載から理解できるとはいえないから、本件特許発明1は、本件特許の発明の詳細な説明に記載された範囲にあるとはいえず、また、当業者が本件特許発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない旨主張している。 しかしながら、当業者であれば、実施例2(5.7μm)と比較例1(4.4μm)の作用効果から、本件特許発明1で特定する下限値5μmにおいても、例えば、スコーチタイムや引張り強度を改善する効果を奏するものと理解することができるし、また、本件特許明細書の段落【0024】、【0025】の記載等によれば、本件特許明細書は、当業者が本件特許発明を実施できる程度に記載されているものといえる。 (4)小括 したがって、本件特許発明1及びこれを引用する本件特許発明2?8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定するサポート要件及び同法第36条第4項第1号に規定する実施可能要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。 2.明確性要件違反について (1)「酸化マグネシウム系」なる記載について 特許異議申立人は、本件特許発明1には、「酸化マグネシウム系添加剤」との用語が記載されており、「酸化マグネシウム系」とは、酸化マグネシウムに関連して何をどの程度の範囲において指し示してるのか曖昧であることから、本件特許発明1及び本件特許発明1を直接または間接的に引用する本件特許発明2?8は不明確である旨主張している。 しかしながら、本件特許明細書の段落【0020】には、酸化マグネシウムを主成分とし、その他の成分として原料由来の不純物成分や、樹脂やゴム等に配合可能な成分を含有してもよいことが記載されており、本件特許発明1における「酸化マグネシウム系」とは上記記載程度に酸化マグネシウム以外のものを含むものを意味していることは明らかであるから、本件特許発明1?8が不明確であるとはいえない。 (2)平均粒子径について 特許異議申立人は、本件特許発明1及び2は、「乾式粒度分布の平均粒子径」及び「湿式粒度分布の平均粒子径」によって発明を特定しているものの、粒子径の測定方法や換算方法が特定されていないことから、平均粒子径の範囲が一義的に定まらず、本件特許発明1及び2並びに本件特許発明1または2を直接または間接的に引用する本件特許発明3?8は不明確である旨主張している。 しかしながら、本件特許明細書の段落【0071】には、本件特許発明1で特定する乾式粒度分布の平均粒子径について具体的な測定方法が記載されており、段落【0072】には、湿式粒度分布の平均粒子径について具体的な測定方法が記載されていることから、本件特許発明1及び2において特定する「乾式粒度分布の平均粒子径」及び「湿式粒度分布の平均粒子径」は、どのような測定方法によって得られた値であるのか明らかであるから、本件特許発明1?8が不明確であるとはいえない。 (3)小括 したがって、本件特許発明1及びこれに従属する本件特許発明2?8は、特許法第36条第6項第2号に規定する明確性要件を満たしている。 3.まとめ 以上のとおりであるから、請求項1?8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号もしくは第6項第1号または第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。 第6 申立理由3及び4について 1.引用文献の記載事項 (1)甲1の記載事項 甲1には、以下の事項が記載されている。 (甲1-1) 「1.3.2 酸化マグネシウム ・・・ 3. 粉体製品特性 MgOの一般性質を表1に,軽焼マグネシアの化学分析値および粉体物性を表2に示す。ヨウ素吸着量とは,試料1gに吸着されるヨウ素のmg数のことで,比表面積にほぼ比例する。 CAA(citric acid activity)は,MgOのクエン酸(citric acid)に対する反応性を見たもので,MgOに対して,一定の割合のクエン酸(0.5N)溶液を反応させ,pH7になるまでの時間(s)を測定したものである。たとえばMgOに対するクエン酸の添加量が,当量比で0.4のときは,CAA(40%)の値として,その時の所要時間を測定する。」(第165頁第1行?第166頁左欄第10行) (甲1-2) 「 」(第166頁上部) (甲1-3) 「4. 応用例 MgOは単なる充てん剤というよりも,架橋剤など,添加剤として使われることが多い。」(第166頁左欄第18?20行) (2)甲2の記載事項 甲2には、以下の事項が記載されている。 (甲2-1) 「 」 (3)甲3の記載事項 甲3には、以下の事項が記載されている。 (甲3-1) 「【0074】 ・・・キョーワマグ150:商品名、平均粒径5.6μm、協和化学工業社製」 (4)甲4の記載事項 甲4には、以下の事項が記載されている。 (甲4-1) 「粒度の測定方法は以下の二通りに大別される。一つはふるい法に代表されるように最も古くから行われている方法で,乾燥試料をそのまま測定するいわゆる乾式法である。もう一つは,水やアルコールなどの流体に試料を分散させるいわゆる湿式法である。」(第85頁下から6行?下から3行) (5)甲7の記載事項 甲7には、以下の事項が記載されている。 (甲7-1) 「 」(第1頁下部) 2.引用発明の認定 甲1-1から甲1-3の記載及び甲2-1によれば、甲1には、高活性MgO「キョーワマグ150」として、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。 「BET比表面積が144m^(2)/gであり、かつCAA40%20秒である酸化マグネシウム粉体を含む酸化マグネシウム添加剤。」 3.対比・判断 本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、本件特許発明1では、「乾式粒度分布の平均粒子径が5μm以上6.4μm以下である」のに対し、甲1発明では、乾式粒度分布の平均粒子径が5μm以上6.4μm以下であるか否か明らかでない点で、少なくとも両者は相違する。 上記の点について検討する。 甲7-1の実験成績証明書によると、本件特許明細書の段落【0071】に記載された条件で乾式粒度分布の平均粒子径を測定すると、甲1発明は乾式粒度分布の平均粒子径が7.5μmであり、本件特許発明1で規定する乾式粒度分布の平均粒子径を満たさないことがわかる。 してみれば、本件特許発明1は、甲1に記載された発明とはいえない。 この点について、特許異議申立人は、甲3-1によれば、甲1発明の平均粒子径が5.6μmであることが記載されており、甲4-1によれば、粒度の測定方法は、乾式法か湿式法のいずれかに大別されるところ、甲3-1の値が乾式法による測定値であれば、甲3-1の表記のとおり、甲1発明は本件特許発明1で規定する乾式粒度分布の平均粒子径を満たすものであるし、甲7-1によれば、乾式法と湿式法とで、ほぼ同様の値を示すことが推定されるから、甲3-1の値が湿式法による測定値であったとしても、甲1発明は本件特許発明1で規定する乾式粒度分布の平均粒子径を満たすものである旨主張している。 しかしながら、本件特許明細書の段落【0071】に記載されているように、本件特許発明1で規定する乾式粒度分布の平均粒子径は、乾式法の中でも、レーザー回折散乱式粒度分布測定器による測定値と認められるものの、甲4-1に記載されているように、乾式法には、レーザー回折散乱法以外に、ふるい法のようなその他の測定方法が含まれるものであり、測定方法の違いによって、その値が異なることは明らかである。 よって、甲3-1の値が、いかなる測定方法によって測定されたものであるのかわからないことから、甲3-1の値をもって、甲1発明が本件特許発明1で規定する乾式粒度分布の平均粒子径を満たすものとはいえない。 また、甲1?8には、甲1発明について「BET比表面積を80m^(2)/g以上300m^(2)/g以下であり、かつCAA40%を30秒以下」としつつ、平均粒子径を変更することは記載も示唆もされていない。 よって、上記相違点に係る本件特許発明1の構成は当業者が容易になしえたものでないから、本件特許発明1及びこれに従属する本件特許発明2?8は、甲1?8に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 第7 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-12-17 |
出願番号 | 特願2014-125535(P2014-125535) |
審決分類 |
P
1
652・
113-
Y
(C01F)
P 1 652・ 121- Y (C01F) P 1 652・ 537- Y (C01F) P 1 652・ 55- Y (C01F) P 1 652・ 536- Y (C01F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 山口 俊樹 |
特許庁審判長 |
菊地 則義 |
特許庁審判官 |
宮澤 尚之 山崎 直也 |
登録日 | 2018-03-09 |
登録番号 | 特許第6301208号(P6301208) |
権利者 | 神島化学工業株式会社 |
発明の名称 | 高活性な酸化マグネシウム系添加剤、及びその用途 |
代理人 | 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所 |