• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 E03D
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 E03D
管理番号 1347959
審判番号 不服2018-4780  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-09 
確定日 2019-01-29 
事件の表示 特願2014- 71811「水洗便器」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月 5日出願公開、特開2015-194005、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年3月31日の出願であって、平成29年5月12日付け(発送日:平成29年5月17日)で拒絶理由通知がされ、平成29年7月12日付けで手続補正がされ、平成29年12月25日付け(謄本送達日:平成30年1月9日)で拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成30年4月9日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成29年12月25日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1、2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1または引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本願請求項1、2に係る発明は、引用文献1または2に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
さらに、本願請求項3に係る発明は、引用文献1、3または2、3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献一覧
引用文献1.特開2012-207504号公報
引用文献2.特開2005-213880号公報
引用文献3.特開2005-213881号公報

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正は、「前記洗浄水の流れの方向」を、「前記曲げ部によって上方へも拡がる」と限定するものであり、「下向き」を、「前記便鉢へ向けて」と限定するものであり、「ガイド部」が、「上縁から突出して」形成されていることを限定するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、 当該補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、審判請求時の補正は、新規事項を追加するものではない。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、審判請求時の補正後の請求項1、2に記載される発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願発明1及び本願発明2は、平成30年4月9日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
便鉢と、
便鉢の後方に配される洗浄水給水部と、
前記便鉢と前記洗浄水給水部との間は、水平方向に延びて設けられ前記洗浄水給水部から前記便鉢へ洗浄水を通過させる吐水路を有し、この吐水路の下流端には前記便鉢に対する吐水口が開口して形成された通水部とを備え、
前記吐水路における前記吐水口の近傍の部位に、前記洗浄水が前記吐水路を構成する壁面に突き当たった後に前記吐水口へ向けて流れの向きを変える曲げ部が形成されるとともに、前記曲げ部の下流側の前記吐水口における開口縁には、前記曲げ部によって上方へも拡がる前記洗浄水の流れの方向を前記便鉢へ向けて下向きに矯正するガイド部が上縁から突出して形成されていることを特徴とする水洗便器。
【請求項2】
前記ガイド部は、前記吐水口における開口縁のうち上縁と前記洗浄水が前記曲げ部によって流れの向きを変えるときの外周側に位置する側壁とに接続されて突出形成され、その突出端は前記洗浄水が流れの向きを変えるときの内周側に位置する側壁から離間していることを特徴とする請求項1に記載の水洗便器。」

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審決で付した。以下同様。)。

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗大便器に係わり、特に、旋回流を形成して洗浄及び汚物の排出を行う水洗便器に関する。」

(2)「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1に記載された水洗大便器においては、第1の吐水部及び第2の吐水部から棚部に吐水された洗浄水が、リム部の内周面に沿って同一方向に旋回するようになっている。この水洗大便器においては、第2の吐水部から吐水された洗浄水が第1の吐水部から吐水される洗浄水と衝突してリム部を越えて飛散することを防止するため、洗浄水を第2の吐水部に供給する第2の通水路の先端部をUターン形状とし、これにより、第2の吐水口から吐水される洗浄水の流速を低下させ、上述した飛散を防止するようにしていた。
【0006】
しかしながら、水洗大便器のボウル部の清掃性を向上させるためには、リム部の内周面がオーバーハングしていないか、又は、オーバーハングの度合いが小さいことが望ましい。このように、リム部の内周面がオーバーハングしていない等の場合には、特許文献1の水洗大便器のように、第2の通水路の先端部をUターン形状にしたのみでは、第2の吐水口から吐水された洗浄水が第1の吐水口から吐水される洗浄水と衝突(干渉)してリム部を越えて飛散することを抑制することはできず、更なる、改良が必要であった。
【0007】
そこで、本発明は、従来の水洗大便器が持つ問題点を解決するためになされたものであり、リム部を越えて洗浄水が飛散することを防止し便器の清掃性を向上させた水洗大便器を提供することを目的としている。」

(3)「【0015】
図1乃至図4に示すように、本実施形態による水洗大便器1は、表面に釉薬層が形成された陶器製であり、下部にスカート部2が形成され、上半部のうち前方にボウル部4が形成され、後方上部に導水路6、後方下部にサイホン作用により汚物を排出する排水路8がそれぞれ形成されている。さらに、水洗大便器1の後方上部には、導水路6に連通する、貯水タンク10が設けられている。また、この貯水タンク10内には、排水弁11が設けられており、操作レバー(図示せず)により開閉するようになっている。なお、本発明は、貯水タンクを備えた水洗大便器以外に、水道水の圧力を利用した、例えば、フラッシュバルブを備えたタイプの水洗大便器等にも適用可能である。
【0016】
ボウル部4は、ボウル形状の汚物受け面12と、上縁部を構成するリム部14と、この汚物受け面12とリム部14との間に形成された棚部16を備えている。ここで、リム部14の内側面14aは、上から見て死角になる箇所がないように、棚部16からほぼ垂直方向に延びる平坦面(スムーズな平面)により形成されている。
【0017】
ボウル部4の汚物受け面5の中央で溜水の水面下となる箇所には排水路8の入口8aが開口し、この入口8aから上昇路8bが後方に延び、この上昇路8bには下降路(縦管)8cが連続し、下降路8cの下端は、ジョイント(図示せず)を介して排出管(図示せず)に接続されている。
【0018】
また、水洗大便器1のボウル部4の前方から見て左側の後方側には、棚部16上に洗浄水を吐水する第1の吐水口18と、ボウル部4の前方から見て右側の後方側には、棚部16上に洗浄水を吐水する第2の吐水口20が形成され、これらの第1の吐水口18及び第2の吐水口20は、同一方向の旋回流(平面視で反時計回り)を形成するようになっている。
【0019】
更に、水洗大便器1のボウル部4には、ボウル部4の溜水面の位置よりも上方で棚部16よりも下方の位置で且つ前方から見て左側(ボウル部側面)にスリット形状のサイドゼット穴22が形成されている。このサイドゼット穴22から吐水された洗浄水は、排水路8の入口8aに向かって流れ、汚物を効率的に排水路8に押し込むようになっている。
【0020】
導水路6は、便器の前方に向かって、3つの通水路、即ち、第1の吐水口18に洗浄水を供給する第1の通水路24、第2の吐水口20に洗浄水を供給する第2の通水路26、サイドゼット穴22に洗浄水を供給する第3の通水路28に分岐している。なお、サイドゼット穴を形成した場合には、効果的な洗浄が可能であるが、第1の吐水口18及び第2の吐水口20のみから棚部16上に洗浄水を吐水し、このサイドゼット穴を設けないようにしてもよい。
【0021】
次に、図1乃至図4に加えて、図5及び図6を参照して、本実施形態による水洗大便器1の第2の通水路26の詳細構造を説明する。図5は図4のV-V線に沿って見た部分断面図であり、図6は図1のVI-VI線に沿って見た部分断面図である。
【0022】
先ず、第2の通水路26は、上流側から下流側の第2の吐水口20に向かって、拡大直線状通水路26a、上下方向に延びる段部26b、ボウル部4の洗浄水の旋回流の方向と逆方向に洗浄水を流すための扁平状通水路26c、鉛直方向に延び洗浄水を下方に流すための鉛直通水路26d、洗浄水を棚部16に対して平面視でボウル部4側に傾斜する方向に供給し且つボウル部4の洗浄水の旋回流の方向とほぼ同方向に洗浄水を流すための傾斜通水路26eとを備えている。これらの鉛直通水路26d及び傾斜通水路26eは、第2の吐水口20付近のリム部14の内周面14aの一部として形成されている。
【0023】
ここで、第2の通水路26において、段部26bは、第2の吐水口20へ流れる洗浄水の流量を調整し、さらに、流速抑制部であり、洗浄水が衝突することにより、流体抵抗となり、これにより、洗浄水の流速が低下する。さらに、扁平状通水路26c、鉛直通水路26d、及び、傾斜通水路26eは、洗浄水の流れが屈曲する屈曲部(=流速抑制部)を構成し、この屈曲部にて圧力損失が発生し、洗浄水の流速が低下する。
【0024】
さらに、図5に示すように、第2の通水路26から第2の吐水口20に供給される洗浄水の流速Vは、鉛直通水路26dから傾斜通水路26eを経て、第2の吐水口20に向かって、棚部16に対して平面視でボウル部4側に角度θだけ傾斜する方向に吐水されるようになっている。そのため、洗浄水の流速Vは、旋回方向の成分Vxと、ボウル部中心方向の成分Vyを有し、従来のもの(洗浄水の流速が旋回方向の成分のみを有するもの)に比べ、第2の吐水口20から吐水される洗浄水の旋回方向の成分が小さくなり且つボウル部中心方向の成分が大きくなる。この洗浄水の旋回方向の成分Vx及びボウル部中心方向の成分Vyは、傾斜通水路26eのリム部14内周面に沿った長さL(図6参照)の大きさにより、調整することができる。本実施形態では、長さLを比較的短くすることにより、ボウル部中心方向の成分Vyを大きくしている。
【0025】
次に上述した本発明の実施形態による水洗大便器における作用を説明する。先ず、水洗大便器の基本的な作用を説明する。最初に、便器洗浄のための操作レバー(図示せず)を操作すると、貯水タンク10内に設けられた排水弁11が開き、貯水タンク10内の洗浄水が導水路6に流入し、導水路6から、第1の通水路24、第2の通水路26、第3の通水路28に分岐して流入する。
【0026】
第1の通水路24に流入した洗浄水は、第1の吐水口18に到達し、第1の吐水口18から棚部16上に吐水される。第2の通水路26に流入した洗浄水は、上述した第2の通水部26を通って第2の吐水口20に到達し、第2の吐水口20から棚部16上に斜めの方向に吐水される。第3の通水路28に流入した洗浄水は、サイドゼット穴22に到達し、サイドゼット穴22から、ボウル部4内の溜水を上下方向に攪拌するように噴出すると共に排水路8の入口8aに向けて噴出するようになっている。」

(4)【図2】

図2から、以下のことが看取できる。
「ボウル部4と貯水タンクとの間に、導水路6が水平方向に延びて設けられている。」

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「水栓大便器1において、上半部の前方にボウル部4、後方上部に導水路6及び導水路6に連通する貯水タンク10が設けられ、導水路6は、水平方向に延びて設けられ、第1の吐水口18に洗浄水を供給する第1の通水路24、第2の吐水口に洗浄水を供給する第2の通水路26、サイドゼット穴に洗浄水を供給する第3の通水路28に分岐しており、第2の通水路26は、上流側から下流側の第2の吐水口20に向かって、拡大直線状通水路26a、上下方向に延びる段部26b、ボウル部4の洗浄水の旋回流の方向と逆方向に洗浄水を流すための扁平状通水路26c、鉛直方向に延び洗浄水を下方に流すための鉛直通水路26d、洗浄水を棚部16に対して平面視でボウル部4側に傾斜する方向に供給し且つボウル部4の洗浄水の旋回流の方向とほぼ同方向に洗浄水を流すための傾斜通水路26eとを備えており、扁平状通水路26c、鉛直通水路26d、及び、傾斜通水路26eは、洗浄水の流れが屈曲する屈曲部(=流速抑制部)を構成し、鉛直通水路26d及び傾斜通水路26eは、第2の吐水口20付近に形成されており、この屈曲部にて圧力損失が発生し、洗浄水の流速が低下する、水栓大便器1。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1) 「【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄水をボール面上端に設けたリム吐水口から床面と略水平に吐出するタイプの水洗便器において、特に、洗浄水の水滴がリム吐水口から便器外へ飛び出さないように改良した水洗便器に関する。」

(2)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記洗浄水をボール面上端に設けたリム吐水口から床面と略水平に吐出するタイプの水洗便器においては、ボール面上端をオーバーハング形状とすることにより洗浄水流が便器外へ溢れ出すことはないが、洗浄水の流速が大きく、また、略水平に洗浄水が、吐出されるために、特に、洗浄水が、リム吐水口から最初に吐出される際、小さな水滴の一部が便器外へ飛び出し、使用者にかかってしまう恐れがあった。
【0005】
そこで本発明では、洗浄水をボール面上端に設けたリム吐水口から床面と略水平に吐出するタイプの水洗便器において、洗浄水の水滴が便器外へ飛び出さないようにした水洗便器を提供することを目的とする。」

(3)「【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の実施態様について、図に基づいて説明する。図1は本発明の実施例に係る表面に釉薬層が形成された水洗便器の外観図である。図2は、図1の縦断面図である。また、図3は図1の給水口から吐水口にかけての通水路の内部構造を分かりやすく示した水洗便器の上面から見た図である。図4は図3のI-I’線断面図である。
【0019】
図1において、水洗便器1の後上面には、図示しない貯水タンク又は水道管に連結されたフラッシュバルブにつながる給水口2が設けられ、前方には、ボール面3が形成され、また、後方上部に通水路4、後方下部に排水路5がそれぞれ形成されている。このボール面3の上端には床面と略水平方向に洗浄水を吐出するべく吐水口5が設けられている。また、ボール面3の上縁のやや下方側に棚部6が形成され、棚部6から上縁に向うボール面は、ボール面内側に傾斜し、オーバーハング部7を形成している。本実施例の構造の便器は、従来の便器構造に比べて、ボール面上縁部が滑らかにオーバーハングしているだけであるので、汚れを簡単にふき取ることができ、便器の手入れが非常に簡単に行なえるので、優れた構造の便器となっている。
【0020】
また、リム吐水口5は、棚部6の面にリム吐水口の下面を略連続した状態にしており、リム吐水口5から吐出した洗浄水を棚部に載せて、ボール面の略全周に洗浄水を行き渡らせるようにし、排水路5へ向かって、旋回流を形成するようにしてボール面3を洗浄可能としている。参照符号8は、通水路4から更に分岐し、水洗便器と同一素材(陶器)で形成されたリム吐水口5へ向かう通水路の開口である。開口8の断面積は、排水口4の断面積より大きく形成されていおり、通水路4の開口8から洗浄水が導入し易くなっている。9は、効果的にサイホン効果を誘発させ、ボール面3(部)に下方に常時、溜められている溜水とともに汚物を便器外に排出するために、排水路5へ向かって洗浄水を吐出するゼット口である。ゼット口9へは、上記同様に分岐した通水路4を経るようになっている。
【0021】
図3及び図4に示すように、水洗便器1に設けられた通水路4内には、その前後の部分よりも流路の内径が上面側に大きくなった流路拡張部10が形成されている。使用者の洗浄操作に伴って給水源(例えば、貯水タンク6L)から流れ出た洗浄水は、給水口2から通水路4へと進入し、通水路4内に残存する空気を前方に押し出しながら吐水口5方面へ流れていく。洗浄水の流速は大きいため、洗浄水の先頭部分と残存する空気とが混ざり合い、空気を巻き込んだ気泡混合水を形成する。気泡混合水のうちの空気が選択的に流路拡張部10の上壁面に導かれ、その後流路拡張部10から通常部へ流路が縮小される部分の段差11に衝突することによって、気泡が細分化または消滅する。その結果、リム吐水口5から便器外へ小さな水が飛び出すことがなくなる。なお、流路拡張部10の流水方向の長さは気泡の大きさや洗浄水の速度に応じて適宜設計が可能であるが、30?90mm程度でよく、また、リム吐水口5より50mm以上上流側に形成するのが良い。30mmより小さいとリム吐水口5から吐出される洗浄水が多少乱流状態になるので、吐水後の洗浄水の流れに悪影響を及ぼす恐れがある。また、50mmより大きいと流速が低下してしまい、リム吐水口5からの洗浄水をボール面3の略全周に行き渡らせ洗浄するタイプの水洗便器では、ボール面3に不洗部が存在する恐れがでるので、望ましくない。
【0022】
また、通水路4から分岐したす通水路の開口8を含むように流路拡張部を形成しない方が良い。開口8の通水路断面積は、吐水口の断面積より更に大きくなって、通水路に一気に洗浄水が導入されるので、吐水口からの洗浄水が飛散する恐れがあるからである。この場合、開口8とリム吐水口5との間にリム吐水口の断面積以下の断面積を有する部位を形成することで解消できるが、構造が複雑になる。また、流路拡張部10の通水路下面からの高さは、水洗便器のリム高さ(ボール面上縁)までの範囲において、気泡の大きさや洗浄水の速度に応じて適宜設計が可能であるが、通水路径10?15mmに対し、プラス5?8mm程度が良い。5mmより小さいと気泡の細分化が不十分となり、8mmより大きいと流速が低下してしまい、リム吐水口5からの洗浄水をボール面3の略全周に行き渡らせ洗浄するタイプの水洗便器では、ボール面に不洗部が存在する恐れがでるので、望ましくない。
【0023】
尚、図3には、リム吐水口5と同じように、洗浄水をボール面3に吐出するリム吐水口5aが設けられ、リム吐水口5から吐出される洗浄水の旋回方向と同じ方向に吐出する。リム吐水口5aは、吐出の方向及び流量がリム吐水口5からの流量より少ないので、水飛びの影響は少ないことから、流路拡張部を形成していないが、設けても良い。」

(4)【図2】



図2から、以下のことが看取できる。
「給水口2とボール面3との間に、通水路4が水平方向に延びて設けられている。」

したがって、上記引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「水洗便器1の後上面に給水口2が設けられ、前方にボール面3が形成され、後方上部に水平方向に延びた通水路4がそれぞれ形成されており、ボール面3の上端には床面と略水平方向に洗浄水を吐出するリム吐水口5と、リム吐水口5と同じように、洗浄水をボール面3に吐出するリム吐水口5aが設けられ、リム吐水口5aから吐出される洗浄水が、リム吐水口5から吐出される洗浄水の旋回方向と同じ方向である水洗便器1において、通水路4内には、リム吐水口5より50mm以上上流側に、その前後の部分よりも流路の内径が上面側に大きくなった流路拡張部10が形成されており、洗浄水は、給水口2から通水路4へと進入し、空気を巻き込んだ気泡混合水となり、そのうちの空気が選択的に流路拡張部10の上壁面に導かれ、その後流路拡張部10から通常部へ流路が縮小される部分の段差11に衝突することによって、気泡が細分化または消滅する構成を有しており、流路拡張部10を、リム吐水口5aにも設けてもよい、水栓便器1。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)引用発明1を主引用発明として
ア 対比
引用発明1の「水栓大便器1」は本願発明1の「水栓便器」に相当し、以下同様に、「ボウル部4」は「便鉢」に相当する。

また、引用発明1において、「導水路6」の「貯水タンク10」と連通している部分を「洗浄水給水部」とみれば、引用発明1の「水平方向に延びて設けられ」た「導水路6」は、本願発明1の「水平方向に延びて設けられ前記洗浄水給水部から前記便鉢へ洗浄水を通過させる吐水路」に相当し、引用発明1の「第1の通水路24、第2の通水路26」は、本願発明1の「通水部」に相当する。

さらに、引用発明1の「第2の吐水口20付近に形成され」た、「洗浄水の流れが屈曲する屈曲部」を構成する「扁平状通水路26c、鉛直通水路26d、及び、傾斜通水路26e」は、本願発明1の「吐水口の近傍の部位に」形成された、「吐水口へ向けて流れの向きを変える曲げ部」に相当する。

すると、本願発明1と引用発明1は、以下の構成において一致する。

(一致点)
「便鉢と、
便鉢の後方に配される洗浄水給水部と、
前記便鉢と前記洗浄水給水部との間は、水平方向に延びて設けられ前記洗浄水給水部から前記便鉢へ洗浄水を通過させる吐水路を有し、この吐水路の下流端には前記便鉢に対する吐水口が開口して形成された通水部とを備え、
前記吐水路における前記吐水口の近傍の部位に、吐水口へ向けて流れの向きを変える曲げ部が形成される、水洗便器。」

また、本願発明1と引用発明1は、以下の点で相違する。

(相違点1)
「曲げ部」及び「吐水口」について、本願発明1では、「曲げ部」が「洗浄水が前記吐水路を構成する壁面に突き当たった後に前記吐水口へ向けて流れの向きを変える」ものであって、「吐水口」が「開口縁には、前記曲げ部によって上方へも拡がる前記洗浄水の流れの方向を前記便鉢へ向けて下向きに矯正するガイド部が上縁から突出して形成されている」構成を有するのに対し、引用発明1では、「洗浄水の流れが屈曲する屈曲部」が「扁平状通水路26c、鉛直通水路26d、及び、傾斜通水路26e」から構成されており、「第2の吐水口20」がそのような構成を有していない点。

イ 判断
引用発明1では、「洗浄水の流れが屈曲する屈曲部」が、「扁平状通水路26c、鉛直通水路26d、及び、傾斜通水路26e」から構成されており、どのように流れの向きを変えているのかは不明であるところ、例えば、洗浄水が、ゆっくりと「扁平状通水路26c、鉛直通水路26d、及び、傾斜通水路26e」の壁面をつたって流れの向きを変える等、洗浄水の流れを屈曲させるためには、壁面に突き当たることを必須としないことから、引用発明1において、「洗浄水の流れが屈曲する屈曲部」が、「洗浄水が前記吐水路を構成する壁面に突き当たった後に前記吐水口へ向けて流れの向きを変える」とは認定できない。
そして、本願発明1の、「洗浄水の流れの方向」が、「曲げ部によって上方へも拡がる」構成の意味について、発明の詳細な説明の【0018】段落の記載も参酌すると、「洗浄水」が壁面に突き当たって、進行方向を急激に内側へ強制的に変更させられることにより、上方へも拡がるものと認められる。
しかしながら、上記のとおり、引用発明1では、「洗浄水の流れが屈曲する屈曲部」により、洗浄水が壁面に突き当たって、急激に進行方向を強制的に変更しているとは必ずしも認められないから、「洗浄水の流れの方向」が、「上方へも拡がる」とは認められない。
仮に、「洗浄水の流れが屈曲する屈曲部」において、洗浄水が壁面に突き当たって流れの向きを変えているとしても、「第2の吐水口20」に至るときには、「流速が低下」しているのであるから、洗浄水が「上方へも拡がる」ほどの勢いを有しているとも認められない。
よって、引用発明1では、「洗浄水の流れの方向」が、「曲げ部によって上方へも拡がる」と認めることができないから、本願発明1の「開口縁には、前記曲げ部によって上方へも拡がる前記洗浄水の流れの方向を前記便鉢へ向けて下向きに矯正するガイド部が上縁から突出して形成されている」という構成を有し得ない。

したがって、上記相違点1は実質的な相違点であり、本願発明1は、引用発明1であるとはいえない。

また、引用発明1において、「洗浄水の流れが屈曲する屈曲部」において、洗浄水の流れの方向を、壁面に突き当たらせることによって変更するという開示や示唆はない。さらに、洗浄水の流速を低下させている「洗浄水の流れが屈曲する屈曲部」において、あえて、洗浄水を壁面に突き当たらせて進行方向を急激に内側へ強制的に変更させようとする開示や示唆もない。
してみると、引用発明1において、上記相違点1に係る本願発明1の構成を得ることは、当業者であっても容易であるとはいえない。

(2)引用発明2を主引用発明として
ア 対比
引用発明2の「水栓便器1」は本願発明1の「水栓便器」に、以下同様に、「吸水口2」は「洗浄水給水部」に、「リム吐水口5、5a」は「吐水口」に、「通水路4」は「吐水路」に相当する。
ここで、引用発明2の「ボール面3」を有する部材は、「便鉢」であり、「通水路4」の「リム吐水口5、5a」近傍の部分は、「通水部」であると認められる。
さらに、引用発明2の「リム吐水口5a」から吐出される洗浄水の旋回方向が、「リム吐水口5」から吐出される洗浄水の旋回方向と同一であることから、「リム吐水口5a」の近傍の部位に、「リム吐水口5a」から吐出される洗浄水の向きを変える「曲げ部」が設けられているのは明らかである。

すると、本願発明1と引用発明2は、以下の構成において一致する。

(一致点)
「便鉢と、
便鉢の後方に配される洗浄水給水部と、
前記便鉢と前記洗浄水給水部との間は、水平方向に延びて設けられ前記洗浄水給水部から前記便鉢へ洗浄水を通過させる吐水路を有し、この吐水路の下流端には前記便鉢に対する吐水口が開口して形成された通水部とを備え、
前記吐水路における前記吐水口の近傍の部位に、吐水口へ向けて流れの向きを変える曲げ部が形成される、水洗便器。」

また、本願発明1と引用発明2は、以下の点で相違する。

(相違点2)
「曲げ部」及び「吐水口」について、本願発明1では、「曲げ部」が「洗浄水が前記吐水路を構成する壁面に突き当たった後に前記吐水口へ向けて流れの向きを変える」ものであって、「吐水口」が「開口縁には、前記曲げ部によって上方へも拡がる前記洗浄水の流れの方向を前記便鉢へ向けて下向きに矯正するガイド部が上縁から突出して形成されている」構成を有するのに対し、引用発明2では、曲げ部の構成が不明であり、「段差11」が「通水路4」に設けられている点。

イ 判断
引用発明2において、曲げ部が、「吐水路における吐水口の近傍の部位に、洗浄水が吐水路を構成する壁面に突き当たった後に吐水口へ向けて流れの向きを変える」構成を有するか不明であるが、仮に、上記事項が一般的な技術であり、洗浄水が曲げ部によって上方へも拡がる構成を有していたとしても、引用発明2においては、「流路拡張部10」の「段差11」を、「リム吐水口5a」のどの位置に設けるかは不明である。
そして、引用発明2において、「リム吐水口5」側と同じように「リム吐水口5a」にも設けられるとすると、「流路拡張部10」は、「リム吐水口5より50mm以上上流側に」形成されるものであり、「吐水口における開口縁」に設けられるものではないから、「リム吐水口5a」の開口縁には設けられないものと認められる。

したがって、相違点2は、実質的な相違点であり、本願発明1は、引用発明2であるとはいえない。

また、引用発明2では、【0021】段落を参酌すると、「段差11」を有する「流路拡張部10」を、「リム吐水口5より50mm以上上流側に形成するのが良い。30mmより小さいと・・・多少乱流状態となる」ことが記載されているので、「リム吐水口5a」における「開口縁」に設けるのは阻害要因があるというべきである。

してみると、引用発明2において、上記相違点2に係る本願発明1の構成を得ることは、当業者であっても容易であるとはいえない。

2 本願発明2について
本願発明2は、本願発明1を引用するものであって、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであるといえる。
よって、本願発明1と同じ理由により、本願発明2は、引用発明1または2ではなく、また、当業者であっても、引用発明1または引用発明2により、容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定について
審判請求時の補正により、本願発明1は、上記相違点に係る構成を有するものとなっており、引用発明1または引用発明2ではなく、また、当業者であっても、引用文献1または2に基いて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由(新規性進歩性)を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-01-16 
出願番号 特願2014-71811(P2014-71811)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (E03D)
P 1 8・ 113- WY (E03D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 油原 博  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 住田 秀弘
富士 春奈
発明の名称 水洗便器  
代理人 特許業務法人グランダム特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ