• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01F
管理番号 1347978
審判番号 不服2017-13123  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-09-05 
確定日 2019-01-10 
事件の表示 特願2013-188021「攪拌装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月23日出願公開、特開2015- 54272〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯

本願は、平成25年9月11日の出願であって、原審にて平成29年5月31日付けの拒絶査定がされ、この査定を不服とする同年9月5日付けの本件審判の請求と同時に手続補正がされ、これに対し、当審にて平成30年6月26日付けの拒絶理由を通知したところ、同年8月31日付けの意見書の提出と共に手続補正がされたものである。

第2.本願発明

本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成30年8月31日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されている。

【請求項1】
原料とガスとを混合して攪拌する攪拌装置であって、
円筒状の攪拌槽と、
前記攪拌槽の中心軸に沿って回転可能に設けられる回転軸と、
前記回転軸に設けられる複数の主攪拌翼と、
前記回転軸の前記攪拌槽の底面側端部に設けられる最下段攪拌翼と、
前記ガスを前記攪拌槽に供給するガス供給管と、
前記攪拌槽の最上部に設けられた出口と、を有し、
前記主攪拌翼は軸流型であり、前記最下段攪拌翼はディスクタービン型であり、
前記攪拌槽は、中心軸方向の高さHと、前記中心軸方向に直交する断面における直径Dとの比(H/D)が、1.25以上1.5以下であり、
前記複数の主攪拌翼の翼径dと、前記攪拌槽の直径Dとの比(d/D)が、0.2以上0.22以下であり、
前記中心軸方向における前記複数の主攪拌翼及び前記最下段攪拌翼の設置間隔hと、前記攪拌槽の直径Dとの比(h/D)が、0.33以上0.38以下であり、
前記ガス供給管のガス供給口は、前記中心軸方向において、前記攪拌槽の底面と前記最下段攪拌翼との間に設けられていることを特徴とする攪拌装置。

第3.当審拒絶の理由

当審にて通知した拒絶の理由は、
「本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」
(以下、「実施可能要件・委任省令要件違反」という。)、及び、
「本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1項または第2号に規定する要件を満たしていない。」
(以下、「サポート要件・明確性要件違反」という。)」というものである。
上記理由で指摘した記載不備の具体的な内容については、「第4」,「第5」にて後述する。

第4.実施可能要件・委任省令要件違反について

1.発明の詳細な説明の記載

本願明細書及び図面には、本願発明の実施例及びその作用効果について次のとおり記載されている。

【0023】
次に、図1及び図2に例示した攪拌装置100の構成において、以下の実施例及び比較例に示す条件で汎用熱流体解析ソフトを用いてシミュレーションを行った結果について説明する。

【図1】 【図2】

【0024】
(実施例1)
攪拌槽10の高さH:4000mm
攪拌槽10の直径D:3200mm
主攪拌翼30a,30bの間隔h:1200mm
主攪拌翼30a,30bの翼径d1:700mm
最下段攪拌翼40の翼径d2:1100mm
回転軸の回転数:220rpm
原料密度:1300kg/m^(3)
原料流入量:513L/min
ガス密度:1600kg/m^(3)
ガス流入量:0.78t/h
攪拌槽10の高さHと直径Dとの比(H/D)は、1.25である。主攪拌翼30a,30bの翼径d1と攪拌槽10の直径Dとの比(d/D)は、0.21875である。また、主攪拌翼30a,30bの間隔hと攪拌槽10の直径Dとの比(h/D)は、0.375である。
【0025】
図3に、実施例1におけるシミュレーション結果を示す。図3(a)は、攪拌装置100の全体の流れ場、図3(b)は、主攪拌翼30a,30b間の流れ場のシミュレーション結果である。

【図3】

【0026】
図3に示す様に、攪拌槽10内では、主攪拌翼30a,30b間の流れが下降流でつながり(図3(b))、攪拌槽10の側壁に沿って上昇する循環流が形成されている(図3(a))。したがって、攪拌装置100は、上記した実施例1の条件において、原料とガスとを均一に攪拌混合することが可能である。

【0039】
上記した実施例1及び比較例1?3のシミュレーションに用いた各パラメータ、シミュレーション結果から求められるガス均一度及び回転軸20を回転させるのに必要な動力を以下の表1に示す。
【0040】
【表1】

上記表1におけるガス均一度は、シミュレーションにより求められる攪拌槽10内のガスの濃度分布に基づいて、以下の式(1)によって求められる値である。
【0041】
ガス均一度(%)=(ガスの平均濃度±0.5%以内の領域)/攪拌槽の体積×100・・・(1)
ガス均一度は、上式(1)に示す様に、攪拌槽10においてガスの平均濃度±0.5%以内になる領域の割合であり、攪拌槽10においてガスが攪拌されて均一に分散されている度合を示す値である。
【0042】
表1に示す様に、実施例1では、ガス均一度が高く、大きな動力を必要としない。すなわち、効率良く均一に攪拌できることが分かる。これに対して、比較例1ではガス均一度が低く、均一に攪拌混合されにくいことが示されている。また、比較例2では、ガス均一度は高いが、大きな動力が必要となるため、この様な構成では攪拌効率が低下する虞がある。比較例3では、図6にも示した様に攪拌槽10内で十分な循環流が形成されないため、ガス均一度がやや低く、良好な攪拌性能を得ることは難しい。この様に、実施例1に係る攪拌装置100では、攪拌翼の間隔h、主攪拌翼30の翼径d1等が最適化され、良好な攪拌性能が得られることが分かる。
【0043】
以上で説明した様に、本実施形態に係る攪拌装置100によれば、攪拌槽10が縦長形状であっても、攪拌槽10の直径Dに対する主攪拌翼30a,30bの翼径d1、攪拌翼の間隔h等を最適な条件に設定することで、攪拌能力が向上して目標とする混合状態を得ることが可能になる。
【0044】
以上、実施形態に係る攪拌装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変形及び改良が可能である。

2.実施可能要件違反について

(1)本願明細書には、現実の攪拌装置を用いた本願発明の具体例の記載はなく、図1,2に模式的に記載された攪拌装置によるシミュレーション結果が、図3及び表1に実施例として記載されているにすぎない。
そこで当該実施例の記載が、当業者にとってシミュレーションをすることが可能なものであるかについて検討するに、本願明細書の【0024】と【表1】には、各攪拌翼の翼径と回転数が記載され、また、【図2】から各攪拌翼の枚数が6枚であることが読み取れるものの、これだけでは、各攪拌翼の攪拌能力(例えば、1回転当たりの被攪拌物の送出量)を設定することができない。
なぜならば、攪拌翼の翼径や枚数が同じでも攪拌翼の形状によって攪拌能力は変わるからである。そして、攪拌翼の攪拌能力が設定できなければ、攪拌状態のシミュレーションができないことは明らかである。
したがって、本願の発明の詳細な説明の記載は、必要なデータが開示されていないことから、当業者が本願発明のシミュレーションをすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。

これに関し請求人は意見書で、先行技術文献(特開2006-87998号公報)を挙げ、攪拌能力の開示は不要である旨主張している。
しかしながら、当該先行技術文献には、攪拌対象物の吐出流量について、攪拌翼の軸長方向における実効面積(A)と、該実効面積における攪拌翼の最外半径(r)の三乗との積に比例することが記載されており(【0014】)、さらに当該吐出流量(A×r^(3))の比と被攪拌物のレイノルズ数(粘度)を開示した上で、攪拌特性の実験結果が示されている(【図3】?【図8】)から、上記先行技術文献は、攪拌の実験に際し、むしろ攪拌能力(吐出流量)の開示が必要なことを示すものといえる。
したがって、上記主張は採用できない。

(2)次に、本願明細書の【0024】には、上記実施例のシミュレーションにおいて、原料密度を1300kg/m^(3)、ガス密度を1600kg/m^(3)に設定したと記載されており、これは、水(1000kg/m^(3))より重いガスを、ガスより軽い原料と混合したものと認められるが、そのようなガス及び原料は当業者に自明なものとはいえない。
したがって、本願の発明の詳細な説明の記載は、仮にシミュレーションができるとしても、現実の攪拌装置において当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。

これに関し請求人は意見書で、上記実施例のガスは加圧した塩素であり、原料はニッケルの硫化物を含んだスラリーであって、液体にガスを吹き込むために加圧することは当業者の技術常識である旨主張している。
しかしながら、ガスの加圧が自明であるとしても、その密度が液体の密度より大きくなることは技術常識ではないし、そもそも、塩素は、液体になってもその比重が1.557(1557kg/m^(3))にすぎない。
したがって、上記主張によっては本拒絶理由は解消しない。

3.委任省令要件違反について

「2.(1)(2)」で指摘したとおり、本願明細書に記載された実施例は、当業者にとって、どのような攪拌翼、ガス及び原料を使用したのかを理解することができないものであるから、本願明細書の図3や表1に開示された実施例の作用効果をもって、当業者が本願発明の技術的意義を理解することができるとはいえない。

第5.サポート要件・明確性要件違反について

1.明確性要件違反について

「第4.2.(2)」で指摘したとおり、発明の詳細な説明には、請求項1に記載された「ガス」について、技術常識に反する説明が記載されている。
したがって、本願発明は明確であるとはいえない。

2.サポート要件違反について

本願明細書の【0005】には、本願発明の解決しようとする課題が、バッフルを有する攪拌装置における滞留や攪拌能力の低下にあることが記載されている。
これに対し、本願明細書には、図1,2に記載されたバッフルを有しない攪拌装置を用いた実施例において、図3に滞留が生じないこと、表1に攪拌能力が向上(ガス均一度の向上、動力の低減)することが開示されている。
しかしながら、「第4.3.」で指摘したとおり、上記実施例の攪拌装置は、その詳細が不明なものであるから、当業者が、当該実施例が奏する作用効果により、本願発明を上記課題を解決できる発明であると認識することはできない。さらに、「1.」で指摘したように、上記実施例における「ガス」が、技術常識に照らし、通常、ガスとはいえないものであるから、当該実施例は、そもそも本願発明を裏付けるものではないと解される。
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。

第6.むすび

以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号又は第2号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は、当審拒絶の理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-11-08 
結審通知日 2018-11-13 
審決日 2018-11-27 
出願番号 特願2013-188021(P2013-188021)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (B01F)
P 1 8・ 536- WZ (B01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 泰三  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 大橋 賢一
橋本 憲一郎
発明の名称 攪拌装置  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ