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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03G
管理番号 1348054
審判番号 不服2018-6128  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-07 
確定日 2019-02-05 
事件の表示 特願2013-136405「一方向クラッチ及び駆動伝達ユニット」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月19日出願公開、特開2015- 11176、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成25年6月28日の出願であって,平成29年3月16日付けで拒絶理由通知がされ,同年5月22日付けで手続補正がされ,同年9月5日付けで最後の拒絶理由通知がされ,同年11月10日付けで手続補正がされ,平成30年1月30日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,同年5月7日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ,同年8月27日付けで拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由通知」という。)がされ,同年10月25日付けで手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成30年1月30日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願請求項1,2,4,5に係る発明は,以下の引用文献A-Dに基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A 特開2005-172199号公報
B 特開2012-78633号公報
C 特開2005-43446号公報
D 特開2006-153220号公報

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。
本願請求項1及び2に係る発明は,以下の引用文献1に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1 特開2005-172199号公報(拒絶査定時の引用文献A)

第4 本願発明
本願請求項1乃至5に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」乃至「本願発明5」という。)は,平成30年10月25日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1乃至5は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
第1ギアと,
内歯を有する第2ギアと,
凸部と,前記内歯に噛み合う外歯と,を有し,前記凸部を中心に回転可能に前記第1ギアに支持された遊星ギアと,
前記第1ギアに設けられ,前記第1ギアと一体的に回転する係止部と,を有し,
前記第1ギアの正回転によって,前記第1ギアの正回転方向において前記係止部が前記遊星ギアの前記正回転方向の上流側に噛み合って前記遊星ギアが係止され,前記係止部に係止されることによって前記凸部を軸とする回転が制限された前記遊星ギアが前記係止部に押圧されることによって前記遊星ギアの外歯と前記第2ギアの内歯との噛み合いを介して前記第1ギアから前記第2ギアに駆動力が伝達され,
前記第1ギアの逆回転によって,前記係止部と前記遊星ギアとの噛み合いが解除されて前記凸部を中心とする前記遊星ギアの回転方向において前記遊星ギアの外歯と前記係止部とが非接触状態となり,さらに前記遊星ギアが前記凸部を中心に回転し,前記第2ギアの内歯に噛み合いながら前記内歯に沿って移動することによって,前記第1ギアから前記第2ギアに駆動力が伝達されない状態となり,
前記遊星ギアの外歯と前記第2ギアの内歯は,ハスバ歯車であり,
ハスバの向きは,前記第1ギアの逆回転時に,前記遊星ギアが軸方向において前記第1ギアに付勢されるように設定されることを特徴とする一方向クラッチ。
【請求項2】
前記第1ギアは前記凸部を支持し,前記第1ギアの回転方向に沿って延びる溝を備え, 前記第1ギアが正回転することによって,前記凸部が前記溝の前記第1ギアの正回転方向における上流側の端部にスライド移動し,前記第1ギアの逆回転によって前記凸部が前記溝の前記第1ギアの逆回転方向における上流側の端部にスライド移動することを特徴とする請求項1に記載の一方向クラッチ。
【請求項3】
第1ギアと,
内歯を有する第2ギアと,
凸部と,前記内歯に噛み合う外歯と,を有し,前記凸部を中心に回転可能に前記第1ギアに支持された遊星ギアと,
前記第1ギアに設けられ,前記第1ギアと一体的に回転する係止部と,を有する一方向クラッチであって,
前記第1ギアの正回転によって,前記第1ギアの正回転方向において前記係止部が前記遊星ギアの前記正回転方向の上流側に噛み合って前記遊星ギアが係止され,前記係止部に係止されることによって前記凸部を軸とする回転が制限された前記遊星ギアが前記係止部に押圧されることによって前記遊星ギアの外歯と前記第2ギアの内歯との噛み合いを介して前記第1ギアから前記第2ギアに駆動力が伝達され,
前記第1ギアの逆回転によって,前記係止部と前記遊星ギアとの噛み合いが解除されて前記凸部を中心とする前記遊星ギアの回転方向において前記遊星ギアの外歯と前記係止部とが非接触状態となり,さらに前記遊星ギアが前記凸部を中心に回転し,前記第2ギアの内歯に噛み合いながら前記内歯に沿って移動することによって,前記第1ギアから前記第2ギアに駆動力が伝達されない状態となる一方向クラッチと,
前記第1ギアの第1の歯面に入力された駆動を前記第2ギアから伝達する第一経路と,
前記第1ギアの第1の歯面に入力された駆動を前記第1ギアの第2の歯面から伝達する第二経路と,
を有することを特徴とする駆動伝達ユニット。
【請求項4】
前記第1ギアは前記凸部を支持し,前記第1ギアの回転方向に沿って延びる溝を備え, 前記第1ギアが正回転することによって,前記凸部が前記溝の前記第1ギアの正回転方向における上流側の端部にスライド移動し,前記第1ギアの逆回転によって前記凸部が前記溝の前記第1ギアの逆回転方向における上流側の端部にスライド移動することを特徴とする請求項3に記載の駆動伝達ユニット。
【請求項5】
前記遊星ギアの外歯と前記第2ギアの内歯は,ハスバ歯車であり,
ハスバの向きは,前記第1ギアの逆回転時に,前記遊星ギアが軸方向において前記第1ギアに付勢されるように設定されることを特徴とする請求項3または4に記載の駆動伝達ユニット。」

なお,平成30年10月25日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1乃至5(以下,「補正後の請求項1」などという。)と,平成30年5月7日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1乃至4(以下,「補正前の請求項1」などという。)の関係について簡単に記すと以下のとおりである。
(1)補正後の請求項1は,補正前の請求項1を,<拒絶の理由を発見しない請求項>とした請求項3の要件で限定したもの。
(2)補正後の請求項2は,補正前の請求項2で付加された要件に相当し,上記補正後の請求項1に従属する請求項。
(3)補正後の請求項3は,<拒絶の理由を発見しない請求項>とした補正前の請求項4を独立形式に補正したもの。
(4)補正後の請求項4は,補正前の請求項2で付加された要件に相当するものであり,上記補正後の請求項3に従属する請求項。
(5)補正後の請求項5は,補正前の請求項3で付加された要件に相当するものであり,上記補正後の請求項3に従属する請求項。

第5 引用文献,引用発明等
1.引用文献1について
平成30年8月27日付けの拒絶理由(当審の拒絶理由)に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【0008】
図1は,本発明に基づき構成された一方向クラッチの構成要素を示す分解斜視図であり,図2は組立状態での断面図である。この一方向クラッチ1は,内周面及び外周面に環状歯車2・3が形成された浅底の筒状をなすアウタ部材4と,アウタ部材4の内歯車2の内側に受容されたインナ部材5と,インナ部材5の外周部を周方向に3等分する位置に形成された軸方向から見た輪郭が概ね矩形をなす凹部6に緩く受容された3つの遊星歯車7とからなっている。」

「【0010】
インナ部材5におけるアウタ部材4内に受容された概ね真円輪郭をなす部分10には,アウタ部材4の内歯車2との対向面と各凹部6の回転方向前側の壁との接続部の一部が切除され,接線に平行な切除面11が形成されている。そしてインナ部材5のアウタ部材4内に受容された部分10の軸方向内端面には,凹部6の軸方向端壁12と協働して3つの遊星歯車7を挟持する保持板13が一体的に結合されている。これら保持板13および凹部6の軸方向端壁12には,周方向長孔14が形成されている。またインナ部材5の軸方向外端面には,ピニオン15が一体形成されている。
【0011】
他方,遊星歯車7の軸方向の両側には,短寸な軸部16が突設されており,これらの軸部16を,保持板13および凹部6の軸方向端壁12に形成された周方向長孔14に係合させることにより,遊星歯車7の凹部6内での径方向及び周方向への移動範囲が規定されており,遊星歯車7は,径方向内側へは変位せずに周方向にのみ所定範囲を変位し得るようになっている。ここで凹部6と長孔14との位置関係は,長孔14の回転方向後側に軸部16が寄った状態では,凹部6と切除面11との間のエッジ17に遊星歯車7の歯先が接触せず,長孔14の回転方向前側に軸部16が寄った状態では,遊星歯車7の歯先がエッジ17に係合するようにされている。
【0012】
次に本発明装置をコピー機の用紙搬送機構に適用した場合の作動要領について説明する。
【0013】
例えば,アウタ部材4の外歯車3に電動機の駆動力が与えられると共に,インナ部材5のピニオン15に給紙ローラが連結されているものとすると,インナ部材5が静止している状態でアウタ部材4を図3中の矢印方向(反時計回り)へ駆動すると,内歯車2に噛合した遊星歯車7も長孔14内を矢印方向へ移動しつつ同じ方向へ回転しようとする。すると遊星歯車7の一部の歯の歯先が凹部6と切除面11との間のエッジ17に係合する。これにより,内歯車2と凹部6との間にて遊星歯車7がロックした状態になり,インナ部材5とアウタ部材4とが結合状態になる。これにより,アウタ部材4に加えた駆動力がインナ部材5に伝達されることとなり,給紙ローラの回転によって紙送りが行われる。」

「【0016】
なお,駆動体と従動体との関係は,上記に限定されず,適宜な設計変更の範囲内でインナ部材5側を駆動体とすることもできる。」

したがって,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「内周面及び外周面に環状歯車2・3が形成された浅底の筒状をなすアウタ部材4と,アウタ部材4の内歯車2の内側に受容されたインナ部材5と,インナ部材5の外周部を周方向に3等分する位置に形成された軸方向から見た輪郭が概ね矩形をなす凹部6に緩く受容された3つの遊星歯車7とからなる一方向クラッチ1であって,
遊星歯車7の軸方向の両側には,短寸な軸部16が突設されており,これらの軸部16を,保持板13および凹部6の軸方向端壁12に形成された周方向長孔14に係合させることにより,遊星歯車7の凹部6内での径方向及び周方向への移動範囲が規定されており,遊星歯車7は,径方向内側へは変位せずに周方向にのみ所定範囲を変位し得るようになっており,
長孔14の回転方向後側に軸部16が寄った状態では,凹部6と切除面11との間のエッジ17に遊星歯車7の歯先が接触せず,長孔14の回転方向前側に軸部16が寄った状態では,遊星歯車7の歯先がエッジ17に係合するようにされ,
アウタ部材4の外歯車3に駆動力が与えられて,インナ部材5が静止している状態でアウタ部材4を反時計回りへ駆動すると,内歯車2に噛合した遊星歯車7も長孔14内を反時計回りへ移動しつつ同じ方向へ回転しようとし,遊星歯車7の一部の歯の歯先が凹部6と切除面11との間のエッジ17に係合し,内歯車2と凹部6との間にて遊星歯車7がロックした状態になり,インナ部材5とアウタ部材4とが結合状態になり,アウタ部材4に加えた駆動力がインナ部材5に伝達されることとなり,給紙ローラの回転によって紙送りが行われるものであって,
インナ部材5側を駆動体とすることもできる一方向クラッチ1。」

2.引用文献B乃至Dについて
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献B乃至Dには,図面とともに次の事項が記載されている。
(1)引用文献B 特開2012-78633号公報
入力ギアに相当するキャリアの内側で遊星歯車が支持されるという技術的事項が記載されていると認められる。(特に,【0004】乃至【0015】,【図1】乃至【図3】。)
(2)引用文献C 特開2005-43446号公報
ギアG4を逆回転させ,一方向クラッチを内蔵するギアG5のみを正回転させることで加熱ローラを回転駆動できる伝導経路と,ギアG4を正回転させ,一方向クラッチを内蔵するギアG6のみを逆回転させることで加圧ローラを離間させる伝導経路という技術的事項が記載されていると認められる。(特に,【0043】乃至【0057】,【図2】乃至【図4】。)
(3)引用文献D 特開2006-153220号公報
駆動モータが正回転した場合には,加圧ローラ駆動ギア列にのみ駆動力を伝達し,加圧ローラが駆動され,駆動モータが逆回転した場合には,圧解除カム駆動ギア列に駆動力を伝達し,加熱フィルムが加圧ローラから離れるという技術的事項が記載されていると認められる。(特に,【0058】乃至【0060】,【図5】及び【図6】。)

第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると,次のことがいえる。
引用発明1における「軸部16」は,本願発明1の「凸部」に相当する。
「遊星歯車7」は,「遊星ギア」に,相当する。
引用発明1における「遊星歯車7」は「遊星歯車7の一部の歯」とされているとおり「歯」を備えるものであって,該「歯」は,「アウタ部材4の内歯車2」に噛み合う「外歯」であることは自明である。したがって,引用発明1における「(遊星歯車7の)歯」は,本願発明1の「(遊星ギアの)外歯」に相当する。
本願発明1の「係止部」が「ストッパー壁(係止部材)109」に設けられた「エッジ部108」のことであることを踏まえると,引用発明1における「凹部6と切除面11との間のエッジ17」の「エッジ17」が,本願発明1の「係止部」に相当することは自明である。
引用発明1は,アウタ部材4の反時計回りに応じて,遊星歯車7も反時計回りの方向に移動し,遊星歯車7の軸部16は,該軸部16を回転保持する周方向長孔14内を,反時計回りの方向,つまり回転方向前側に寄るように移動して,遊星歯車7の一部の歯の歯先が凹部6と切除面11との間のエッジ17に係合し,内歯車2と凹部6との間にて遊星歯車7がロックした状態になり,インナ部材5とアウタ部材4とが結合状態となって,アウタ部材4からインナ部材5に駆動力が伝達されるものである。また,本願発明1において,第1ギアから第2ギアに駆動力を伝達する際の第1ギアの回転方向を「正回転」としているが,これは上流側のギアから下流側のギアに駆動力を伝達する場合の上流側のギアの回転方向の意味であるから,引用発明1において上流側のギアから下流側のギアに駆動力を伝達する場合の上流側のギアの回転方向である「反時計回り」は,本願発明1の「正回転」に相当する。
そして,引用発明1において「インナ部材5側を駆動体とすることもできる」のであるから,引用発明1は,実質的に遊星歯車7等を有するインナ部材5からアウタ部材4に駆動力を伝達するものであり,その場合には引用発明1における「インナ部材5」及び「アウタ部材4」は,本願発明1の「第1ギア」及び「第2ギア」に相当することになる。
さらに,引用発明1における「インナ部材5」及び「アウタ部材4」は,本願発明1の「第1ギア」及び「第2ギア」に相当することから,「アウタ部材4の内歯車2」は,「(第2ギアの)内歯」に,相当する。
以上を踏まえると,本願発明1の「前記第1ギアの正回転によって,前記第1ギアの正回転方向において前記係止部が前記遊星ギアの前記正回転方向の上流側に噛み合って前記遊星ギアが係止され,前記係止部に係止されることによって前記凸部を軸とする回転が制限された前記遊星ギアが前記係止部に押圧されることによって前記遊星ギアの外歯と前記第2ギアの内歯との噛み合いを介して前記第1ギアから前記第2ギアに駆動力が伝達され」ることと,引用発明1の「アウタ部材4の外歯車3に駆動力が与えられて,インナ部材5が静止している状態でアウタ部材4を反時計回りへ駆動すると,内歯車2に噛合した遊星歯車7も長孔14内を反時計回りへ移動しつつ同じ方向へ回転しようとし,遊星歯車7の一部の歯の歯先が凹部6と切除面11との間のエッジ17に係合し,内歯車2と凹部6との間にて遊星歯車7がロックした状態になり,インナ部材5とアウタ部材4とが結合状態になり,アウタ部材4に加えた駆動力がインナ部材5に伝達されることとなり,給紙ローラの回転によって紙送りが行わ」れることとは,「第1ギアの正回転によって,前記第1ギアの正回転方向において前記係止部が前記遊星ギアの前記正回転方向の上流側に噛み合って前記遊星ギアが係止され,前記係止部に係止されることによって前記凸部を軸とする回転が制限された前記遊星ギアが前記係止部に押圧されることによって前記遊星ギアの外歯と前記第2ギアの内歯との噛み合いを介して前記第1ギアから前記第2ギアに駆動力が伝達される一方向クラッチ」の点で共通する。
したがって,本願発明1と引用発明1に記載された発明とは,以下のとおりの一致点,相違点がある。
一致点
「第1ギアと,
内歯を有する第2ギアと,
凸部と,前記内歯に噛み合う外歯と,を有し,前記凸部を中心に回転可能に前記第1ギアに支持された遊星ギアと,
前記第1ギアに設けられ,前記第1ギアと一体的に回転する係止部と,を有し,
前記第1ギアの正回転によって,前記第1ギアの正回転方向において前記係止部が前記遊星ギアの前記正回転方向の上流側に噛み合って前記遊星ギアが係止され,前記係止部に係止されることによって前記凸部を軸とする回転が制限された前記遊星ギアが前記係止部に押圧されることによって前記遊星ギアの外歯と前記第2ギアの内歯との噛み合いを介して前記第1ギアから前記第2ギアに駆動力が伝達される一方向クラッチ。」

相違点
相違点1
本願発明1は「第1ギアの逆回転によって,係止部と遊星ギアとの噛み合いが解除されて凸部を中心とする前記遊星ギアの回転方向において前記遊星ギアの外歯と前記係止部とが非接触状態となり,さらに前記遊星ギアが前記凸部を中心に回転し,前記第2ギアの内歯に噛み合いながら前記内歯に沿って移動することによって,前記第1ギアから前記第2ギアに駆動力が伝達されない状態となる」のに対して,引用発明1においては,本願発明1の第1ギアに相当するインナ部材5が逆回転するかについて不明である点。
相違点2
本願発明1は,「遊星ギアの外歯と第2ギアの内歯は,ハスバ歯車であり,ハスバの向きは,第1ギアの逆回転時に,遊星ギアが軸方向において前記第1ギアに付勢されるように設定」されるているのに対し,引用発明1の「遊星歯車7の歯」及び「アウタ部材4の内歯車2」はそのような構成を備えていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて,上記相違点2について先に検討すると,相違点2に係る本願発明1の発明特定事項である「遊星ギアの外歯と第2ギアの内歯は,ハスバ歯車であり,ハスバの向きは,第1ギアの逆回転時に,遊星ギアが軸方向において前記第1ギアに付勢されるように設定」することは,引用文献B乃至Dには記載されておらず,本願出願日前において周知技術であるともいえない。
そして,本願発明1は,本願明細書の段落【0055】に記載されているとおりの「逆回転時に,遊星ギア102は内歯103aとの噛み合い回転運動することにより,遊星ギア102は軸方向において入力ギア101に付勢される。これにより,遊星ギア102の軸方向の運動をボス105及び溝104により確実に規制できる。よって,遊星ギア102が軸方向に移動することによって生じる動作音を低減できる。」という顕著な効果を奏しているものである。
したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明1,及び引用文献B乃至Dに記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2について
本願発明2も,本願発明1の「遊星ギアの外歯と第2ギアの内歯は,ハスバ歯車であり,ハスバの向きは,第1ギアの逆回転時に,遊星ギアが軸方向において前記第1ギアに付勢されるように設定」することと同一の発明特定事項を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明1,及び引用文献B乃至Dに記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3.本願発明3について
(1)対比
本願発明3と引用発明1とを対比する。
上記「1.本願発明1について」,「(1)対比」で,対比した事項に加えて,引用発明1は,「インナ部材5に加えた駆動力がアウタ部材4に伝達」されるものであるから,駆動伝導ユニットであることは明らかである。
したがって,本願発明3と引用発明1との間には,次の一致点,相違点があるといえる。
(一致点)
「第1ギアと,
内歯を有する第2ギアと,
凸部と,前記内歯に噛み合う外歯と,を有し,前記凸部を中心に回転可能に前記第1ギアに支持された遊星ギアと,
前記第1ギアに設けられ,前記第1ギアと一体的に回転する係止部と,を有する一方向クラッチ,
前記第1ギアの正回転によって,前記第1ギアの正回転方向において前記係止部が前記遊星ギアの前記正回転方向の上流側に噛み合って前記遊星ギアが係止され,前記係止部に係止されることによって前記凸部を軸とする回転が制限された前記遊星ギアが前記係止部に押圧されることによって前記遊星ギアの外歯と前記第2ギアの内歯との噛み合いを介して前記第1ギアから前記第2ギアに駆動力が伝達される駆動伝達ユニット。」

相違点
相違点3
本願発明3は「第1ギアの逆回転によって,係止部と遊星ギアとの噛み合いが解除されて凸部を中心とする前記遊星ギアの回転方向において前記遊星ギアの外歯と前記係止部とが非接触状態となり,さらに前記遊星ギアが前記凸部を中心に回転し,前記第2ギアの内歯に噛み合いながら前記内歯に沿って移動することによって,前記第1ギアから前記第2ギアに駆動力が伝達されない状態となる」のに対して,引用発明1においては,本願発明1の第1ギアに相当するインナ部材5が逆回転するかについて不明である点。
相違点4
本願発明1は,「第1ギアの第1の歯面に入力された駆動を前記第2ギアから伝達する第一経路と,前記第1ギアの第1の歯面に入力された駆動を前記第1ギアの第2の歯面から伝達する第二経路」を有しているのに対し,引用発明1の「遊星歯車7の歯」及び「アウタ部材4の内歯車2」はそのような構成を備えていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて,上記相違点4について先に検討すると,相違点4に係る本願発明3の発明特定事項である「第1ギアの第1の歯面に入力された駆動を前記第2ギアから伝達する第一経路と,前記第1ギアの第1の歯面に入力された駆動を前記第1ギアの第2の歯面から伝達する第二経路」を有することは,引用文献B乃至Dには記載されておらず,本願出願日前において周知技術であるともいえない。
そして,本願発明3は,駆動力を伝達するにあたって,第1ギアの正回転によって第1ギアから前記第2ギアに駆動力が伝達されるという第一経路,また,第1ギアの逆回転によって第1ギアから前記第2ギアに駆動力が伝達されないものの第1ギアの第2の歯面から伝達することができるという第二経路を備えることを,第1の歯面及び第2の歯面を有する第1ギアの正逆回転で実現するという顕著な効果を奏しているものである。
したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明3は,当業者であっても引用発明1,及び引用文献B乃至Dに記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

4.本願発明4及び5について
本願発明4及び5も,本願発明3の「第1ギアの第1の歯面に入力された駆動を前記第2ギアから伝達する第一経路と,前記第1ギアの第1の歯面に入力された駆動を前記第1ギアの第2の歯面から伝達する第二経路」を有することと同一の発明特定事項を備えるものであるから,本願発明3と同じ理由により,当業者であっても,引用発明1,及び引用文献B乃至Dに記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定についての判断
平成30年10月25日付けの補正により,補正後の請求項1,2は,「遊星ギアの外歯と第2ギアの内歯は,ハスバ歯車であり,ハスバの向きは,第1ギアの逆回転時に,遊星ギアが軸方向において前記第1ギアに付勢されるように設定」されるという発明特定事項を有し,また,請求項3乃至5は「第1ギアの第1の歯面に入力された駆動を前記第2ギアから伝達する第一経路と,前記第1ギアの第1の歯面に入力された駆動を前記第1ギアの第2の歯面から伝達する第二経路」を有することという発明特定事項を有するものとなった。当該「遊星ギアの外歯と第2ギアの内歯は,ハスバ歯車であり,ハスバの向きは,第1ギアの逆回転時に,遊星ギアが軸方向において前記第1ギアに付勢されるように設定」されること,又は「第1ギアの第1の歯面に入力された駆動を前記第2ギアから伝達する第一経路と,前記第1ギアの第1の歯面に入力された駆動を前記第1ギアの第2の歯面から伝達する第二経路」を有することは,原査定における引用文献A乃至D(なお,引用文献Aは当審の拒絶理由における引用文献1である。)には記載されておらず,本願出願日前における周知技術でもないので,本願発明1乃至5は,当業者であっても,原査定における引用文献A乃至Dに基づいて容易に発明できたものではない。
したがって,原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によって,本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-01-23 
出願番号 特願2013-136405(P2013-136405)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G03G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 野口 聖彦三橋 健二  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 吉村 尚
後藤 昌夫
発明の名称 一方向クラッチ及び駆動伝達ユニット  
代理人 特許業務法人中川国際特許事務所  

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