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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60R
管理番号 1348092
審判番号 不服2018-1215  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-01-30 
確定日 2019-02-05 
事件の表示 特願2014- 2229号「ガス発生器」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月16日出願公開、特開2015-128974号、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成26年1月9日を出願日とする出願であって、平成29年6月20日付けで拒絶理由が通知され、同年8月22日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年10月25日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、平成30年1月30日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、同年2月6日付けで審判請求書に対して手続補正指令(方式)がされ、同年3月15日付けで手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2 原査定の概要

この出願については、平成29年6月20日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。

理由2 この出願の請求項1?4に係る発明は、以下の引用文献1?3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2010-892号公報
2.特開2005-337475号公報
3.特開2002-216888号公報

第3 本願発明

本願の請求項1?4に係る発明は、平成30年1月30日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1?4に係る発明(以下「本願発明1?4」という。)は、次のとおりのものである(下線は補正箇所を示すものとして、請求人が付したものである。)。

「 【請求項1】
ハウジング内において、点火器本体の周囲が点火器カラーで包囲された点火器と伝火薬が収容された点火手段室を有しているガス発生器であって、
前記点火手段室が、前記伝火薬が充填された点火手段室カップの開口部側の内周壁面が前記点火器の点火器カラーの外周壁面に密着した状態になるように圧入されて形成されたものであり、
前記点火器カラーと前記点火手段室カップが、炭素鋼、炭素鋼にニッケル、クロム、タングステン、マンガン、ケイ素、モリブデンから選ばれる合金元素を添加した合金鋼からなるものであり、
前記点火器カラーの下記のビッカース微小硬さ計((株)ミツトヨ製HM-211型)を使用した方法により測定される平均ビッカース硬度(Vh1)と前記点火手段室カップの下記のビッカース微小硬さ計((株)ミツトヨ製HM-211型)を使用した方法により測定される平均ビッカース硬度(Vh2)の比(Vh2/Vh1)が0.30?0.60の範囲であり、
下記のビッカース微小硬さ計((株)ミツトヨ製HM-211型)を使用した方法により測定される前記点火手段室カップの平均ビッカース硬度(Vh2)が55?105である、ガス発生器。
前記点火器カラーの平均ビッカース硬度(Vh1)は、前記点火器カラーを軸方向に切断した後、切断面を研磨機で平滑になるように研磨したものを測定試料として、室温にてビッカース微小硬さ計((株)ミツトヨ製HM-211型)を使用して試験荷重300gで測定した。測定個所は、点火器カラーが点火手段室カップの開口部側の内周壁面と接触する部分の高さの異なる3点における板厚の中間位置である。
前記点火手段室カップの平均ビッカース硬度(Vh2)は、前記点火手段室カップを点火器カラーと接触する開口部側の内周壁面で半径方向に切断した後、切断面を研磨機で平滑になるように研磨したものを測定試料として、室温にてビッカース微小硬さ計((株)ミツトヨ製HM-211型)を使用して試験荷重300gで測定した。測定個所は、周方向に等間隔の3点における板厚の中間位置である。
【請求項2】
Vh2/Vh1が0.35?0.55の範囲である、請求項1記載のガス発生器。
【請求項3】
ハウジング内において、第1点火器本体の周囲が第1点火器カラーで包囲された第1点火器と伝火薬が収容された点火手段室と、第2点火器本体の周囲が第2点火器カラーで包囲された第2点火器とガス発生剤が収容された燃焼室を有しているガス発生器であって、
前記点火手段室が、
前記伝火薬が充填された点火手段室カップの開口部側の内周壁面が前記第1点火器の第1点火器カラーの外周壁面に密着した状態になるように圧入されて形成されたものであり、
前記第1点火器カラーの下記のビッカース微小硬さ計((株)ミツトヨ製HM-211型)を使用した方法により測定される平均ビッカース硬度(Vh1)と前記点火手段室カップの下記のビッカース微小硬さ計((株)ミツトヨ製HM-211型)を使用した方法により測定される平均ビッカース硬度(Vh2)の比(Vh2/Vh1)が0.30?0.60の範囲であり、
前記燃焼室が、
前記ガス発生剤が充填された燃焼室カップの開口部側の内周壁面が前記第2点火器の第2点火器カラーの外周壁面に密着した状態になるように圧入されて形成されたものであり、
前記第1点火器カラー、前記点火手段室カップ、前記第2点火器カラーおよび前記燃焼室カップが、炭素鋼、炭素鋼にニッケル、クロム、タングステン、マンガン、ケイ素、モリブデンから選ばれる合金元素を添加した合金鋼からなるものであり、
前記第2点火器カラーの下記のビッカース微小硬さ計((株)ミツトヨ製HM-211型)を使用した方法により測定される平均ビッカース硬度(Vh1)と前記燃焼室カップの下記のビッカース微小硬さ計((株)ミツトヨ製HM-211型)を使用した方法により測定される平均ビッカース硬度(Vh2)の比(Vh2/Vh1)が0.30?0.60の範囲であり、
下記のビッカース微小硬さ計((株)ミツトヨ製HM-211型)を使用した方法により測定される前記点火手段室カップと前記燃焼室カップの平均ビッカース硬度(Vh2)が55?105である、ガス発生器。
前記第1点火器カラーの平均ビッカース硬度(Vh1)または前記第2点火器カラーの平均ビッカース硬度(Vh1)は、前記第1点火器カラーまたは前記第2点火器カラーを軸方向に切断した後、切断面を研磨機で平滑になるように研磨したものを測定試料として、室温にてビッカース微小硬さ計((株)ミツトヨ製HM-211型)を使用して試験荷重300gで測定した。測定個所は、前記第1点火器カラーが前記点火手段室カップの開口部側の内周壁面と接触する部分の高さの異なる3点における板厚の中間位置であり、前記第2点火器カラーが前記燃焼室カップの開口部側の内周壁面と接触する部分の高さの異なる3点における板厚の中間位置である。
前記点火手段室カップまたは前記燃焼室カップの平均ビッカース硬度(Vh2)は、前記点火手段室カップを第1点火器カラーと接触する開口部側の内周壁面で半径方向に切断した後、または前記燃焼室カップを第2点火器カラーと接触する開口部側の内周壁面で半径方向に切断した後、切断面を研磨機で平滑になるように研磨したものを測定試料として、室温にてビッカース微小硬さ計((株)ミツトヨ製HM-211型)を使用して試験荷重300gで測定した。測定個所は、いずれも周方向に等間隔の3点における板厚の中間位置である。
【請求項4】
Vh2/Vh1が0.35?0.55の範囲である、請求項3記載のガス発生器。」

第4 当審の判断

1 引用文献の記載事項等

(1) 引用文献1の記載事項等

引用文献1には、図面とともに以下の記載がある(下線は当審で付した。)。

(1a)
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ガス発生剤等の使用量の変更への対応が容易であり、かつ全体を小型軽量化できるガス発生器を提供することを課題とする。」

(1b)
「【0026】
(1)図1、図2のガス発生器
図1は、本発明のガス発生器の軸方向の断面図である。図2は、図1のガス発生器の軸方向に対して垂直方向への断面図であるが、一部構造や肉厚等は簡略化して示している。
【0027】
ガス発生器10は、ディフューザシェル12とクロージャシェル13とが接合部16で溶接されたハウジング11により、外殻が形成されている。
【0028】
ディフューザシェル12の周面には、複数のガス排出口14が設けられており、ガス排出口14は、アルミニウム又はステンレスからなるシールテープ15で内側から閉塞されている。
【0029】
クロージャシェル13の底面には2つの穴が設けられ、それぞれに第1点火手段21と第2点火手段25が配置されている。第1点火手段21は、第1点火器カラー22に固定された第1点火器23を有している。第2点火手段25は、第2点火器カラー26に固定された第2点火器27を有している。
【0030】
第1点火器カラー22と第2点火器カラー26、第1点火器23と第2点火器27は、同一形状、同一寸法のものを使用している。
【0031】
ハウジング11内部には、筒状のフィルタ45が配置されており、フィルタ45の外周面とガス排出口14及びシールテープ15の間には環状の間隙が設けられている。
【0032】
フィルタ45内部には第1燃焼室31が形成され、図示していない第1ガス発生剤(公知のガス発生剤)が充填されている。第1燃焼室31内には、第1カップ部材32と第2カップ部材41が隣接配置されている。
【0033】
第1カップ部材32は、開口部32a側の第1拡径周壁部32cと底面32b側の第1縮径周壁部32dを有しており、開口部32a側から第1点火器23を覆うようにして第1点火器カラー22に嵌め込まれている。第1カップ部材32の肉厚は均一である。
【0034】
第1拡径周壁部32cと第1縮径周壁部32dの境界部には第1環状斜面32eが形成されており、第1縮径周壁部32dには複数の第1連通孔34が形成されている。図1では、第1連通孔34は第1環状斜面32eに近い位置に形成されているが、第2カップ部材41と対向しない位置であれば、より底面32bに近い位置に形成されていてもよい。
【0035】
第1カップ部材32内部はエンハンサ室33となり、図示していないガス発生剤(公知のエンハンサ剤又はガス発生剤を使用できる。本発明では、前記エンハンサ剤もガス発生剤に含まれる。)が充填されている。ガス発生剤は、適宜種類、組成、形状を選択することにより、第1燃焼室31内のガス発生剤を着火燃焼させる作用と、それ自体の燃焼により発生するガスも利用するようにもできる。
【0036】
第2カップ部材41は、開口部41a側の第2縮径(当審注:「第2縮径周壁部」の誤記と認める。)41dと底面41b側の第2拡径周壁部41cを有しており、開口部41a側から第2点火器27を覆うようにして第2点火器カラー26に嵌め込まれている。第2カップ部材41の肉厚は均一である。
【0037】
第2縮径周壁部41dと第2拡径周壁部41cの境界部には第2環状斜面41eが形成されており、第2拡径周壁部41cには複数の第2連通孔42が形成されている。複数の第2連通孔42は、外側からシールテープで閉塞されている。
図1では、第2連通孔42は底面41bに近い位置に形成されているが、第1カップ部材32と対向しない位置であれば、より第2環状斜面41eに近い位置や第2環状斜面41eに形成されていてもよいし、底部41bに形成されいてもよい。底部41bに形成するときには、底部41bとディフューザシェル12の天板12aとの間に間隔を形成する。
【0038】
第2カップ部材41内部は第2燃焼室35となり、図示していない第2ガス発生剤(公知のガス発生剤を使用できる)が充填されている。」

上記(1b)の記載から、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「 ガス発生器10は、ディフューザシェル12とクロージャシェル13とが接合部16で溶接されたハウジング11により、外殻が形成され、
前記クロージャシェル13の底面には2つの穴が設けられ、それぞれに第1点火手段21と第2点火手段25が配置され、
前記第1点火手段21は、第1点火器カラー22に固定された第1点火器23を有し、
前記第2点火手段25は、第2点火器カラー26に固定された第2点火器27を有し、
前記第1点火器カラー22と前記第2点火器カラー26、前記第1点火器23と前記第2点火器27は、同一形状、同一寸法のものを使用し、
前記ハウジング11内部には、筒状のフィルタ45が配置されており、前記フィルタ45の外周面とガス排出口14及びシールテープ15の間には環状の間隙が設けられ、
前記フィルタ45内部には第1燃焼室31が形成され、第1ガス発生剤が充填され、前記第1燃焼室31内には、第1カップ部材32と第2カップ部材41が隣接配置され、
前記第1カップ部材32は、開口部32a側の第1拡径周壁部32cと底面32b側の第1縮径周壁部32dを有しており、前記開口部32a側から前記第1点火器23を覆うようにして前記第1点火器カラー22に嵌め込まれ、
前記第1カップ部材32内部はエンハンサ室33となり、ガス発生剤が充填され、
前記第2カップ部材41は、開口部41a側の第2縮径周壁部41dと底面41b側の第2拡径周壁部41cを有しており、前記開口部41a側から前記第2点火器27を覆うようにして前記第2点火器カラー26に嵌め込まれ、
前記第2カップ部材41内部は第2燃焼室35となり、第2ガス発生剤が充填されている、
ガス発生器10」

(2) 引用文献2の記載事項

引用文献2には、以下の記載がある。

(2a)
「【技術分野】
【0001】
本発明は電磁弁装置に関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、一般に2つの金属面に荷重をかけて接触させると、接触部分で金属が凝着しあう。特に同一または同種金属による凝着力は大きくなる傾向がある。そのため、ハウジング202および固定コア206を同一または同種の磁性材で形成すると、嵌合孔203に固定コア206の一端を圧入するときの圧入荷重(以下、単に圧入荷重という)は大きくなる。圧入荷重が大きいと、円筒状の非磁性部材210が変形して固定コア206が可動コア208側に移動する恐れがある。この固定コア206の移動によって固定コア206と可動コア208とのギャップが小さくなると、可動コア208とともに往復移動する弁部材209の動特性がばらつくという問題がある。
一方、嵌合孔203の内径と固定コア206の一端の外径との公差を厳しく管理することにより、圧入荷重を低減することができる。しかし、ハウジング202および固定コア206の加工コストが増加する。また嵌合孔203に固定コア206の一端を圧入してい
るときに互いが凝着しあうので、圧入前の嵌合孔203の内径と固定コア206の一端の外径との公差を管理しても、圧入荷重を適正な大きさに保つことは容易ではない。
また、嵌合孔203の側壁205または固定コア206の一端の側壁207に潤滑油等を塗布することにより圧入荷重を低減できる。しかしながら、溶接する部位に塗布した潤滑油が例えばハウジング202とフランジ部材212との溶接箇所に付着すると、その溶接箇所にブローホールが発生するため、ハウジング202とフランジ部材212との溶接品質が低下するという問題がある。
【0004】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、ハウジングおよび固定コアを容易に加工でき、固定コアと可動コアとの間に適正な間隔を確保可能な電磁弁装置を提供することを目的とする。」

(2b)
「【0016】
次に、固定コア20および非磁性部材32の外周に樹脂カバー44を嵌め込む。
次に、ハウジング12の嵌合孔15から固定コア20の小径部21が露出し、樹脂カバー44の突部48とハウジング12の切り欠き14とが嵌合する姿勢で、脚部16の端部16aがフランジ部材18に当接するまで、ハウジング12を固定コア20の方向に押し込む。これにより、ハウジング12の嵌合孔15に固定コア20の小径部21が圧入される。このとき小径部21の側壁21aの硬度は、嵌合孔15の側壁15aの硬度と比較して高くなっているため、ハウジング12の嵌合孔15に固定コア20の小径部21を圧入するときに生じる凝着力は小さい。
次に、ハウジング12とフランジ部材18とを端部16aで溶接などにより接合する。
【0017】
以上説明した本発明の一実施形態では、ハウジング12の嵌合孔15の側壁15aと小径部21の側壁21aとに硬度差を設けているので、嵌合孔15に固定コア20の小径部21を圧入する際に生じる凝着力を低減できる。そのため、嵌合孔15に固定コア20の小径部21を圧入する際の圧入荷重を適正に保つことができる。したがって、非磁性部材32は圧入荷重により変形することがなく、固定コア20が可動コア30側に大きく移動することがないため、固定コア20と可動コア30との間に適正なギャップを確保することができる。また嵌合孔15の内径と固定コア20の小径部21の外径との公差を厳しく管理する必要がないので、ハウジング12および固定コア20を容易に加工することができる。
また、本発明の一実施形態では、固定コア20の小径部21の側壁21aに対してショットブラスト加工を施して、小径部21の側壁21aの硬度をハウジング12の嵌合孔15の側壁15aの硬度と比較して高くすることにより、嵌合孔15の側壁15aと小径部21の側壁21aとに硬度差を設けることができる。」

(3) 引用文献3の記載事項

引用文献3には、以下の記載がある。

(3a)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、屋内仕様のプラグに装着して使用されるプラグ用防水カバー、及びその防水カバーをプラグに装着する際に使用される装着用ガイド、並びにプラグ用防水カバーの装着方法に関する。」

(3b)
「【0013】この場合、請求項2の発明のように、カバー本体は、先端部側が比較的硬度が高くなるように形成すると共に、基端部側が伸縮性が高くなるように形成することが好ましい。これによれば、カバー本体の先端部側を比較的硬度を高くすることで、カバー本体先端部の嵌合部をコンセント側の受口に対して嵌合させやすくなると共に、受口に対する密着状態を良好に維持できるようになる。また、カバー本体の基端部側を伸縮性を高くすることで、プラグ用防水カバーをプラグに装着する際に、カバー本体の基端部側が広がりやすく、装着しやすい。また、装着状態では、そのカバー本体の基端部がプラグの基端部外周部もしくは電気コードの外周部に密着しやすくなる。
・・・
【0031】次に、このようなプラグ用防水カバー22を装着したプラグ17を防水仕様のコンセント12に接続する際の手順を、主に図1及び図2を参照して説明する。プラグ用防水カバー22を装着したプラグ17を防水仕様のコンセント12に接続するには、図1に示すように、上記装着用ガイド28をプラグ17から外しておく。そして、プラグ17の各端子20を、コンセント12側の各差し込み孔13に前方から臨ませ、その差し込み孔13を通してコンセント12に差し込むと共に、プラグ用防水カバー22の先端部における嵌合凸部26を、コンセント12側の受口15における嵌合凹部15aに嵌合させる(図2参照)。これに伴い、嵌合凸部26は、受口15の内周部に全周にわたって密着状態で嵌合するようになる。
・・・
【0034】この場合、プラグ用防水カバー22におけるカバー本体23の先端部23b側を比較的硬度が高くなるように形成しているので、カバー本体23先端部23bの嵌合凸部26をコンセント12側の受口15に対して嵌合させやすくなると共に、受口15に対する密着状態を良好に維持できるようになる。」

3 対比・判断

3-1 本願発明1について

(1) 対比

本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「ハウジング11」、「第1点火器23」及び「第1点火器カラー22」が、本願発明1の「ハウジング」、「点火器本体」及び「点火器カラー」にそれぞれ相当し、引用文献1の図1の記載も踏まえれば、引用発明の「第1点火器23」の周囲が「第1点火器カラー22」で包囲されているといえる。

イ 引用発明の「第1点火手段21」が、本願発明1の「点火器」に相当する。

ウ 本願発明1の「伝火薬」及び「点火手段室」に関し、本願明細書段落【0002】及び【0014】には、「伝火薬(または伝火薬として機能するガス発生剤)」と記載され、段落【0035】には、「第1カップ部材32内部はエンハンサ室(点火手段室)33となり、図示していないガス発生剤(公知のエンハンサ剤またはエンハンサ剤として機能するガス発生剤を使用できる。)が、必要に応じてアルミニウム製の袋容器内に収容された状態で充填されている。」と記載されていることを踏まえると、引用発明の「ガス発生剤」及び「エンハンサ室33」が、本願発明1の「伝火薬」及び「点火手段室」にそれぞれ相当する。

エ 引用発明の「ガス発生器10」が、本願発明1の「ガス発生器」に相当する。

オ 上記ア?エを踏まえると、引用発明の「ディフューザシェル12とクロージャシェル13とが接合部16で溶接されたハウジング11により、外殻が形成され、」「前記ハウジング11内部には、筒状のフィルタ45が配置されており、」「前記フィルタ45内部には第1燃焼室31が形成され、」「前記第1燃焼室31内には、第1カップ部材32・・・が隣接配置され、」「前記第1カップ部材32は、開口部32a側の第1拡径周壁部32cと底面32b側の第1縮径周壁部32dを有しており、前記開口部32a側から前記第1点火器23を覆うようにして前記第1点火器カラー22に嵌め込まれ、」「前記第1カップ部材32内部はエンハンサ室33となり、ガス発生剤が充填され」た「ガス発生器10」が、本願発明1の「ハウジング内において、点火器本体の周囲が点火器カラーで包囲された点火器と伝火薬が収容された点火手段室を有しているガス発生器」に相当する。

カ 引用発明の「第1カップ部材32」の内部は「エンハンサ室33」となっていることから、上記ウを踏まえると、引用発明の「第1カップ部材32」が、本願発明1の「点火手段室カップ」に相当する。

キ 引用発明の「ガス発生剤が充填され」た「エンハンサ室33」が、「開口部32a側の第1拡径周壁部32cと底面32b側の第1縮径周壁部32dを有して」いる「第1カップ部材32」の「前記開口部32a側から前記第1点火器23を覆うようにして前記第1点火器カラー22に嵌め込まれ」て形成されている構成と、本願発明1の「前記点火手段室が、前記伝火薬が充填された点火手段室カップの開口部側の内周壁面が前記点火器の点火器カラーの外周壁面に密着した状態になるように圧入されて形成された」構成は、上記ア、ウ及びカを踏まえると、「前記点火手段室が、前記伝火薬が充填された点火手段室カップの開口部側の内周壁面が前記点火器の点火器カラーの外周壁面に嵌め込まれて形成された」構成の限度で共通する。

上記ア?キを総合すると、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「ハウジング内において、点火器本体の周囲が点火器カラーで包囲された点火器と伝火薬が収容された点火手段室を有しているガス発生器であって、
前記点火手段室が、前記伝火薬が充填された点火手段室カップの開口部側の内周壁面が前記点火器の点火器カラーの外周壁面に嵌め込まれて形成されたものである、
ガス発生器」

<相違点>
「点火手段室が、前記伝火薬が充填された点火手段室カップの開口部側の内周壁面が前記点火器の点火器カラーの外周壁面に嵌め込まれて形成され」ている事項に関し、本願発明1は、「密着した状態になるように圧入され」ていることに加え、「前記点火器カラーと前記点火手段室カップが、炭素鋼、炭素鋼にニッケル、クロム、タングステン、マンガン、ケイ素、モリブデンから選ばれる合金元素を添加した合金鋼からなるものであり、
前記点火器カラーの下記のビッカース微小硬さ計((株)ミツトヨ製HM-211型)を使用した方法により測定される平均ビッカース硬度(Vh1)と前記点火手段室カップの下記のビッカース微小硬さ計((株)ミツトヨ製HM-211型)を使用した方法により測定される平均ビッカース硬度(Vh2)の比(Vh2/Vh1)が0.30?0.60の範囲であり、
下記のビッカース微小硬さ計((株)ミツトヨ製HM-211型)を使用した方法により測定される前記点火手段室カップの平均ビッカース硬度(Vh2)が55?105であ」り、
「前記点火器カラーの平均ビッカース硬度(Vh1)は、前記点火器カラーを軸方向に切断した後、切断面を研磨機で平滑になるように研磨したものを測定試料として、室温にてビッカース微小硬さ計((株)ミツトヨ製HM-211型)を使用して試験荷重300gで測定した。測定個所は、点火器カラーが点火手段室カップの開口部側の内周壁面と接触する部分の高さの異なる3点における板厚の中間位置である。
前記点火手段室カップの平均ビッカース硬度(Vh2)は、前記点火手段室カップを点火器カラーと接触する開口部側の内周壁面で半径方向に切断した後、切断面を研磨機で平滑になるように研磨したものを測定試料として、室温にてビッカース微小硬さ計((株)ミツトヨ製HM-211型)を使用して試験荷重300gで測定した。測定個所は、周方向に等間隔の3点における板厚の中間位置である。」という構成を有するのに対し、引用発明は、かかる構成を有していない点。

(2)判断
本願発明1は、「点火器の点火器カラーにカップ部材を圧入したときの密着強度をより高くできるガス発生器を提供することを課題とする」(本願明細書段落【0008】)ものであり、その課題を解決するための構成として、特に、上記相違点に係る「前記点火器カラーの下記のビッカース微小硬さ計((株)ミツトヨ製HM-211型)を使用した方法により測定される平均ビッカース硬度(Vh1)と前記点火手段室カップの下記のビッカース微小硬さ計((株)ミツトヨ製HM-211型)を使用した方法により測定される平均ビッカース硬度(Vh2)の比(Vh2/Vh1)が0.30?0.60の範囲であり、下記のビッカース微小硬さ計((株)ミツトヨ製HM-211型)を使用した方法により測定される前記点火手段室カップの平均ビッカース硬度(Vh2)が55?105である」構成を採用したものである。
そこで、当業者が、引用発明において、本願発明1の上記課題を認識することができたか否かについて検討する。
引用文献1は、「ガス発生剤等の使用量の変更への対応が容易であり、かつ全体を小型軽量化できるガス発生器を提供することを課題とする」(摘示(1a))ものであり、「第1カップ部材32」と「第1点火器カラー22」に
よる「エンハンサ室33」の形成に関しても、単に「嵌め込」むことを特定しているに過ぎず、上記「圧入したときの密着強度をより高くできるガス発生器を提供すること」を課題とすることが記載または示唆されているとはいえない。
また、引用文献2には、「電磁弁装置」において、「ハウジングおよび固定コアを容易に加工でき、固定コアと可動コアとの間に適正な間隔を確保可能な電磁弁装置を提供すること」を課題として(摘示(2a))、「固定コア20」の「小径部21の側壁21aの硬度」を、「ハウジング12」の「嵌合孔15の側壁15aの硬度と比較して高く」する技術(摘示(2b)、以下「引用文献2技術」という。)が記載されているものの、該記載は、引用発明が属する「ガス発生器」の技術分野における、「第1カップ部材32」を「第1点火器カラー22」に「嵌め込」む部位に関して、当業者が上記課題を認識することが可能であることを示すものでない。
さらに、引用文献3には、「屋内仕様のプラグに装着して使用されるプラグ用防水カバー」において(摘示(3a))、「プラグ用防水カバー22の先端部」を「比較的硬度が高くなるように形成し」、その先端部における「嵌合凸部26を、コンセント12側の受口15における嵌合凹部15aに嵌合させる」技術(摘示(3b)段落【0031】、以下「引用文献3技術」という。)が開示されており、該技術により、「カバー本体23先端部23bの嵌合凸部26をコンセント12側の受口15に対して嵌合させやすくなると共に、受口15に対する密着状態を良好に維持できるようになる。」という効果(摘示(3b)段落【0034】)を奏することが記載されているが、当該記載も、引用発明が属する「ガス発生器」の技術分野における、「第1カップ部材32」を「第1点火器カラー22」に「嵌め込」む部位に関して、当業者が上記課題を認識することが可能であることを示すものではない。
仮に、「第1点火器23」の「第1点火器カラー22」に「第1カップ部材32」を圧入するとともに、そのときの密着強度をより高くできるガス発生器を提供するという課題が、「エンハンサ室33」の機能・構成を踏まえれば引用発明においても内在する課題であり、当業者が認識可能であるといえたとしても、引用発明と引用文献2技術、引用発明とは引用文献3技術とは、それぞれその技術分野が異なることから、その適用に関して動機付けが十分であるということはできないし、その適用が当業者にとって容易であったとしても、引用発明において上記相違点に係る構成、特に平均ビッカース硬度に係る構成を採用することに至るものではない。
また、原査定に示されているように「筒状の部材の内周に部材を嵌合させて固定する固着構造において、嵌合させやすくするために、筒状部材の硬度を内周に嵌合する部材の硬度に比して低くする設計手法は、例えば引用文献2-3(引用文献2[0016]、[図1]、引用文献3[0013]、[図2]-[図3]参照。)に記載されるように、周知の設計手法」であり、その適用が当業者にとって容易であったとしても、引用発明において上記相違点に係る構成、特に平均ビッカース硬度に係る構成を採用することに至るものではない。
したがって、本願発明1は、引用発明、引用文献2及び3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

3-2 本願発明2について

本願発明2は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものであるから、本願発明1と同様に当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

3-3 本願発明3について

本願発明3は、上記相違点に係る本願発明1の構成と実質的に同じ構成を備えているものである。
したがって、上記「3-1」と同様の理由から、本願発明1と同様に当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

3-4 本願発明4について

本願発明4は、本願発明3の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものであるから、本願発明3と同様に当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第5 むすび

以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-01-21 
出願番号 特願2014-2229(P2014-2229)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 野口 絢子岡▲さき▼ 潤  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 出口 昌哉
仁木 学
発明の名称 ガス発生器  
代理人 古谷 聡  
代理人 義経 和昌  

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