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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B65D 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B65D |
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管理番号 | 1348134 |
審判番号 | 不服2017-16271 |
総通号数 | 231 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-03-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-11-01 |
確定日 | 2019-01-18 |
事件の表示 | 特願2012-136467「撥水性表面を有する樹脂成形品の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 1月 9日出願公開、特開2014- 968〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成24年6月17日の出願であって、平成28年3月24日付けの拒絶理由通知に対して、平成28年6月6日に意見書及び手続補正書が提出され、平成28年11月10日付けの拒絶理由通知(最後の拒絶理由)に対して、平成29年3月20日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成29年7月24日付けで、平成29年3月20日の手続補正についての補正の却下の決定がされるとともに拒絶査定がされた。 これに対して、平成29年11月1日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同時に手続補正がされたものである。 2.平成29年11月1日の手続補正についての補正の却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成29年11月1日の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] (1)補正の内容 本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(平成28年6月6日の手続補正の請求項1)の、 「撥水性表面を有する樹脂成形品を製造する方法であって、 (1)加熱下で軟化した樹脂の表面に疎水性酸化物微粒子を付与する工程、 (2)前記樹脂を冷却固化することによって前記疎水性酸化物微粒子を樹脂表面に固定する工程を含み、 (3)前記樹脂が射出成形で得られた樹脂成形体であり、樹脂成形品が射出成形品であり、 (4)前記(1)の工程が、a)疎水性酸化物微粒子が溶媒に分散してなる分散液を金型内の表面に予め塗工する工程及びb)加熱下で軟化した樹脂を前記金型内に充填することにより、前記疎水性酸化物微粒子を前記樹脂の表面に付与する工程であり、 (5)前記樹脂がポリプロピレンである、 ことを特徴とする樹脂成形品の製造方法。」(以下、この発明を「本願発明」という。)を、 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の、 「撥水性表面を有する樹脂成形品を製造する方法であって、 (1)加熱下で軟化した樹脂の表面に疎水性酸化物微粒子を付与する工程、 (2)前記樹脂を冷却固化することによって前記疎水性酸化物微粒子を樹脂表面に固定する工程を含み、 (3)前記樹脂が射出成形で得られた樹脂成形体であり、樹脂成形品が射出成形品であり、 (4)前記(1)の工程が、a)疎水性酸化物微粒子が溶媒に分散してなる分散液を金型内の表面に予め塗工する工程及びb)加熱下で軟化した樹脂を前記金型内に充填することにより、前記疎水性酸化物微粒子を前記樹脂の表面に付与する工程であり、 (5)前記樹脂がポリプロピレンであり、 (6)前記の加熱下で軟化した樹脂の表面に充填粒子をさらに付与する、 ことを特徴とする樹脂成形品の製造方法。」(以下、この発明を「本願補正発明」という。)とする補正を含むものである。 (2)補正の適否 本件補正は、樹脂成形品の製造方法について、本件補正前では特に充填粒子に関する特定がなかったものを、「前記の加熱下で軟化した樹脂の表面に充填粒子をさらに付与する」と限定するものであり、かつ、本願発明と本願補正発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。 そこで、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (3)引用文献記載の発明及び技術的事項 ア 原査定の拒絶の理由に、引用文献1として引用された、特表2005-519788号公報(以下、原査定と同様に「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 自己清浄性を有する少なくとも1つの表面を有する射出成形体において、 表面が、突起を形成するミクロ粒子の少なくとも1つのしっかりと固定された部位を有していることを特徴とする、自己清浄性を有する少なくとも1つの表面を有する射出成形体。 ・・・ 【請求項12】 自己清浄性とミクロ粒子により形成された突起とを有している少なくとも1つの表面を有する請求項1から11までのいずれか1項記載の射出成形体を射出成形により製造する方法において、 ミクロ粒子を射出成形工程の前に射出成形用金型上へ施与し、引き続いて射出成形工程を実施し、その際にミクロ粒子を射出成形体の表面へ押し込む ことを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項記載の射出成形体の製造方法。 ・・・」 (イ)「【技術分野】 【0001】 本発明は自己清浄性の表面を有する射出成形体及びその製造方法に関する。 【0002】 表面技術からは表面を処理するための多様な方法が公知であり、前記方法はこれらの表面を防汚性及び撥水性に仕上げる。例えば、表面の良好な自己清浄化を達成するためにこの表面が疎水性表面に加えて特定の粗度も有していなければならないことは公知である。構造と疎水性とからの適している組合せは、僅かな量だけの動く水が表面上へ付着している汚れ粒子を連れて行き、かつ表面が清浄化することを可能にする・・・」 (ウ)「【0008】 本発明の課題は故に、三次元成形体上への自己清浄性の表面の製造方法を提供することであった。その際に、できるだけ単純な技術が使用され、かつ自己清浄性の表面の耐久性が達成されるべきである。 【0009】 意外なことに、射出成形用金型の型内面上への疎水性でナノ構造化された粒子の施与及び引き続きこの射出成形用金型への射出成形部材の吹付けにより、粒子が射出成形体の表面上へしっかりと結びつけられることができることが見出された。」 (エ)「【0016】 本発明による方法の別の利点は、引っかき傷を受けやすい表面が、支持層及び/又は粒子のその後の機械的な施与により損傷されないことにある。」 (オ)「【0034】 射出成形体自体は、材料として、好ましくはポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリアミド、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、線状又は分枝鎖状の脂肪族ポリアルケン、環式ポリアルケン、ポリアクリロニトリル又はポリアルキレンテレフタレートを基礎とするポリマー並びにその混合物又はコポリマーを有していてよい。・・・極めて特に好ましくは射出成形体は表面のための材料として、ポリ(エチレン)、ポリ(プロピレン)、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリエステル、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンターポリマー(ABS)又はポリ(フッ化ビニリデン)を有する。 【0035】 本発明による射出成形体は好ましくは、少なくとも1つの表面を有する射出成形体の本発明による製造方法により自己清浄性とミクロ粒子により形成された突起とを有し、前記方法は、ミクロ粒子が射出成形工程の前に射出成形用金型の内面上へ施与され、引き続いて射出成形工程が実施され、その際にミクロ粒子が射出成形体の表面へ押し込まれることにより特徴付けられる。射出成形用金型は好ましくは従来の射出成形体の製造に通常使用される型である。そのような常用の射出成形用金型は、例えば2つの部材、ダイス型及び心型からなっていてよい。本発明による方法によれば、ミクロ粒子はダイス型(母型)上へ及び/又は心型(父型)上へ施与されることができる。 【0036】 押し込みは好ましくは、粒子の少なくとも一部、好ましくは粒子の少なくとも50%がその直径の最大90%だけで、好ましくは10?70%、より好ましくは20?50%で及び極めて特に好ましくはその平均粒径の30?40%で射出成形体の表面へ押し込まれるように行われる。」 (カ)「【0038】 本発明による方法において射出成形体の表面へ押し込まれるミクロ粒子は、押し込みの部分工程の前に射出成形により射出成形用金型の表面上へ施与される。施与は好ましくは噴霧により行われる。故に射出成形用金型へのミクロ粒子の施与は特に有利である、それというのもミクロ粉末は、射出成形過程の終了後に射出成形体の材料が型に付着することを防止するからであり、材料自体が型と殆どもしくは全く接触状態にならないからであり、ミクロ粒子が突起の好ましい間隔の達成のために型上へ極めて緻密に施与されるからである。 【0039】 型上へのミクロ粒子の噴霧は、例えば、ミクロ粒子粉末を有しており、ミクロ粒子に加えて噴射剤又は好ましくは易揮発性溶剤を有するエーロゾル又は分散液の噴霧により行われてよく、その際に、懸濁液の噴霧が好ましい。溶剤として、使用される懸濁液は、好ましくはアルコール、特にエタノール又はイソプロパノール、ケトン、例えばアセトン又はメチルエチルケトン、エーテル、例えばジイソプロピルエーテル又はまた炭化水素、例えばシクロヘキサンを有する。・・・」 (キ)「【0041】 ミクロ粒子として、本発明による方法において、好ましくはケイ酸塩、鉱物、金属酸化物、金属粉末、ケイ酸、顔料又はポリマーから選択される少なくとも1つの材料を有するものが使用される。好ましくは、0.02?100μm、特に好ましくは0.1?50μm及び極めて特に好ましくは0.1?30μmの粒径を有するミクロ粒子が使用される。500nm未満の直径を有するミクロ粒子も使用されることができる。適しているのはしかしまた、一次粒子から0.2?100μmの大きさを有するアグロメレート又はアグリゲートへ集まっているミクロ粒子である。 ・・・ 【0045】 以下に、好ましくは使用されるミクロ粒子がより詳細に説明される。使用される粒子は多様な分野に由来していてよい。例えば、二酸化チタン、ドープされたケイ酸塩、鉱物、金属酸化物、酸化アルミニウム、ケイ酸又は熱分解法ケイ酸塩、アエロジル(Aerosile)^((R))又は粉末状ポリマー、例えば噴霧乾燥された及び凝集された乳濁液又は低温粉砕されたPTFEであってよい。粒子系として、特に疎水化された熱分解法ケイ酸、いわゆるアエロジル(Aerosile)が適している。自己清浄性の表面の発生のために、構造に加えて疎水性も必要である。使用される粒子自体が疎水性であってよく、例えばPTFEであってよい。粒子は疎水性に仕上げられていてよく、例えばアエロジル(Aerosil) VPR 411^((R))又はアエロジル(Aerosil) R 8200^((R))であってよい。・・・ 【0046】 本発明による方法を用いて、自己清浄性及び突起を有する表面構造を有する表面を有する三次元成形体が入手可能である。成形体は、公知の射出成形法で製造されることができるそれぞれの形を有していてよい。そのような成形体は、特に液体又はペーストの収容するための容器であってよい。特にそのような成形体は、容器、ランプシェード、バケツ、貯蔵容器(Vorratsgefaessen)、樽、シャーレ、メスビーカー、漏斗、桶及びケーシング部材(Gehaeuseteilen)から選択されていてよい。」 (ク)「【0048】 図2には例1により製造された疎水性ケイ酸アエロジル(Aerosil) 8200で被覆された射出成形体の走査電子顕微鏡(REM)写真が示されている。ケイ酸粒子が表面中に固定されていることが十分識別されうる。写真中央では2つの大きなケイ酸粒子アグリゲートが識別されうる。表面上にはしかし約200nmの粒度を有する別の粒子も識別されうる。」 (ケ)「【実施例】 【0050】 例1: 射出成形用金型上へアエロジル(Aerosil) R8200^((R))の懸濁液(エタノール中1質量%)を施与し、引き続いて溶剤(エタノール)を蒸発させる。こうして準備した射出成形用金型を用いて、60℃の金型表面温度及び55barの圧力で標準射出成形機(Engel 150/50 S)で、直径6cm及び厚さ2mmの丸小板を耐衝撃変性されたPVC(68のK-値を有するVinnolit S3268、約6% Baerodur EST 4で耐衝撃性に仕上げた)から射出成形した。溶融物温度は195℃であり、後プレス圧は50barであった。射出成形用金型から得られた射出成形体は表面へ押し込まれた粒子を有していた。こうして製造された射出成形体の表面上で、液滴を表面上へ施与し、射出成形体を一層大きく斜めにすることにより液滴が表面から転落する角度を決定することによって水滴の転落角を決定した。40μlの大きさの水滴について8.6°の転落角及び約150°のぬれ角がもたらされた。」 イ 上記摘記事項(ケ)によれば、引用文献1に記載の「射出成形体の製造方法」は、「射出成形用金型上へアエロジル(Aerosil) R8200^((R))の懸濁液(エタノール中1質量%)を施与」し、懸濁液を施与した「射出成形用金型を用いて、60℃の金型表面温度及び55barの圧力で標準射出成形機」により、「溶融物温度は195℃であり、後プレス圧は50bar」で「耐衝撃変性されたPVC」を射出成形するものである。この「アエロジル(Aerosil) R8200^((R))」は、上記摘記事項(キ)によれば、「疎水性」の「ミクロ粒子」であり、また、上記摘記事項(ク)によれば、その粒子は「ケイ酸」の粒子である。 この射出成形用金型から得られた「射出成形体」は、上記摘記事項(キ)及び(ク)によれば、疎水性ケイ酸アエロジル(Aerosil) 8200^((R))のミクロ粒子で被覆され、「大きなケイ酸粒子アグリゲートが表面中に固定されると共に、約200nmの粒度を有する別の粒子も表面中に固定」されている。この「大きなケイ酸粒子アグリゲート」は、ケイ酸粒子の凝集体を意味するものであり、「約200nmの粒度を有する別の粒子」も、ケイ酸粒子であることは明らかである。 また、上記摘記事項(ケ)によれば、その製造された射出成形体の表面上で、液滴を表面上へ施与し、射出成形体を一層大きく斜めにすることにより液滴が表面から転落する角度を水滴の転落角とすると、「表面は40μlの大きさの水滴について8.6°の転落角及び約150°のぬれ角表面は40μlの大きさの水滴について8.6°の転落角及び約150°のぬれ角」である。 ウ そうすると、引用文献1には、以下の「引用発明」が記載されている。 「射出成形体の製造方法について、射出成形用金型上へ、アエロジル(Aerosil) R8200^((R))の疎水性のケイ酸のミクロ粒子の懸濁液(エタノール中1質量%)を施与し、懸濁液を施与した射出成形用金型を用いて、60℃の金型表面温度及び55barの圧力で標準射出成形機により、溶融物温度は195℃であり、後プレス圧は50barで耐衝撃変性されたPVCを射出成形するものであって、 この射出成形用金型から得られた射出成形体は、アエロジル(Aerosil) R8200^((R))のミクロ粒子で被覆され、大きなケイ酸粒子の凝集体が表面中に固定されると共に、約200nmの粒度を有するケイ酸粒子も表面中に固定されており、製造された射出成形体の表面上で、液滴を表面上へ施与し、射出成形体を一層大きく斜めにすることにより液滴が表面から転落する角度を水滴の転落角とすると、表面は40μlの大きさの水滴について8.6°の転落角及び約150°のぬれ角である、 射出成形体の製造方法。」 (4)本願補正発明と引用発明との対比 引用発明の「耐衝撃変性されたPVC」はポリ塩化ビニルであり、本願補正発明の「樹脂」に相当し、引用発明の「耐衝撃変性されたPVC」を射出成形することにより樹脂の成形体を形成することができ、引用発明の「射出成形体」は、樹脂である耐衝撃変性されたPVC(ポリ塩化ビニル)を射出成形したものであるから、本願補正発明の「射出成形品」である「樹脂成形品」に相当する。 引用発明の「疎水性のケイ酸のミクロ粒子」は、本願補正発明の「疎水性酸化物微粒子」に相当する。 引用発明の「射出成形用金型上へ、アエロジル(Aerosil) R8200^((R))の疎水性のケイ酸のミクロ粒子の懸濁液(エタノール中1質量%)を施与」することは、「施与」することが、引用文献1(段落【0038】)で「施与は好ましくは噴霧により行われる」とされるのに対し、本願補正発明の「a)疎水性酸化物微粒子が溶媒に分散してなる分散液を金型内の表面に予め塗工する工程」の「塗工」することは、「スプレー」の噴霧による塗布(本願明細書の段落【0025】)を含み得るものであるから、引用発明の「射出成形用金型上へ、アエロジル(Aerosil) R8200^((R))の疎水性のケイ酸のミクロ粒子の懸濁液(エタノール中1質量%)を施与すること」は、本願補正発明の「(1)加熱下で軟化した樹脂の表面に疎水性酸化物微粒子を付与する工程」の「a)疎水性酸化物微粒子が溶媒に分散してなる分散液を金型内の表面に予め塗工する工程」に相当する。 また、引用発明の「懸濁液を施与した射出成形用金型を用いて、60℃の金型表面温度及び55barの圧力で標準射出成形機により、溶融物温度は195℃であり、後プレス圧は50barで耐衝撃変性されたPVCを射出成形する」ことは、射出成形が、加熱下で軟化した樹脂を金型内に充填するものであるから、本願補正発明の「(1)加熱下で軟化した樹脂の表面に疎水性酸化物微粒子を付与する工程」の「b)加熱下で軟化した樹脂を前記金型内に充填することにより、前記疎水性酸化物微粒子を前記樹脂の表面に付与する工程」に相当する。 さらに、引用発明の「射出成形用金型から得られた射出成形体」は、射出された樹脂が冷却固化して金型から取り出されるものであるから、引用発明の「射出成形用金型から得られた射出成形体」が「疎水性ケイ酸アエロジル(Aerosil) 8200^((R))のミクロ粒子で被覆され、大きなケイ酸粒子の凝集体が表面中に固定されると共に、約200nmの粒度を有するケイ酸の粒子も表面中に固定」されるようにすることは、本願補正発明の「樹脂を冷却固化することによって疎水性酸化物微粒子を樹脂表面に固定する工程」を有することに相当する。 そして、引用発明の「製造された射出成形体の表面上で、液滴を表面上へ施与し、射出成形体を一層大きく斜めにすることにより液滴が表面から転落する角度を水滴の転落角とすると、表面は40μlの大きさの水滴について8.6°の転落角及び約150°のぬれ角である」ことは、射出成形体の表面が水をはじき、撥水性を有することを意味するから、本願補正発明の「撥水性表面を有する」ことに相当する。 よって、本願補正発明と引用発明は、 「撥水性表面を有する樹脂成形品を製造する方法であって、 (1)加熱下で軟化した樹脂の表面に疎水性酸化物微粒子を付与する工程、 (2)前記樹脂を冷却固化することによって前記疎水性酸化物微粒子を樹脂表面に固定する工程を含み、 (3)前記樹脂が射出成形で得られた樹脂成形体であり、樹脂成形品が射出成形品であり、 (4)前記(1)の工程が、a)疎水性酸化物微粒子が溶媒に分散してなる分散液を金型内の表面に予め塗工する工程及びb)加熱下で軟化した樹脂を前記金型内に充填することにより、前記疎水性酸化物微粒子を前記樹脂の表面に付与する工程である、 樹脂成形品の製造方法。」 で一致し、下記の点で相違する。 (相違点1) 樹脂成形品の樹脂が、本願補正発明では、ポリプロプレンであるのに対して、引用発明では、耐衝撃変性されたPVC(ポリ塩化ビニル)である点。 (相違点2) 本願補正発明が「(6)前記の加熱下で軟化した樹脂の表面に充填粒子をさらに付与する」のに対して、引用発明には、充填粒子の付与について特定がない点。 (5)判断 ア 相違点1について 引用文献1(上記摘記事項(カ))には、射出成形体の樹脂として、ポリ塩化ビニル(PVC)が挙げられるほか、ポリプロピレンが「極めて特に好まし」いとされており、その示唆に基いて、樹脂成形品の樹脂として、引用発明のPVC(ポリ塩化ビニル)に換えて、ポリプロプレンを用いて相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。 イ 相違点2について (ア)本願補正発明の「充填粒子」について、本願明細書では、「樹脂成形品の表面に充填粒子を付与することにより、より優れた耐摩耗性等を樹脂成形品に付与することができる」(段落【0033】)とし、その材料は「有機成分及び無機成分の少なくとも1種を含む充填粒子を採用することができる。無機成分としては、例えば1)アルミニウム、銅、鉄、チタン、銀等の金属又はこれらを含む合金、2)酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄等の酸化物、3)ガラス、4)窒化アルミニウム、窒化硼素、炭化珪素、窒化珪素等のセラミック等を好適に用いることができる」(段落【0033】)ものとされている。同じく「疎水性酸化物微粒子」については、「疎水性を有するものであれば特に限定されず、表面処理により疎水化されたものであっても良い。例えば、親水性酸化物微粒子をシランカップリング剤等で表面処理を施し、表面状態を疎水性とした微粒子を用いることもできる。酸化物の種類も、疎水性を有するものであれば限定されない。例えばシリカ(二酸化ケイ素)、アルミナ、チタニア等の少なくとも1種を用いることができる。」(段落【0016】)とされており、本願明細書において、「充填粒子」と「疎水性酸化物微粒子」の材料として、同じ材料、例えば酸化珪素(シリカ)の粒子を用いることを排除する記載はない。 (イ)一方、引用発明の射出成形体の表面は、疎水性の無数のケイ酸のミクロ粒子で被覆されているが、これらの粒子は、「大きなケイ酸粒子の凝集体」と「約200nmの粒度を有するケイ酸粒子」として表面に固定されている。ここで、「大きなケイ酸粒子の凝集体」は、「約200nmの粒度を有するケイ酸粒子」とともに射出成形体の表面を被覆するものであるから、「大きなケイ酸粒子の凝集体」は、射出成形体の表面の「約200nmの粒度を有するケイ酸粒子」が固定されていない箇所を埋めて充填するものといえ、その逆の関係もいえる。そして、これらの粒子により、射出成形体の表面は撥水性を有するとともに、「自己清浄性の表面の耐久性が達成される」(引用文献1の段落【0008】)、「引っかき傷を受けやすい表面が、支持層及び/又は粒子のその後の機械的な施与により損傷されない」(同じく段落【0016】)との作用・効果が得られるものであり、これらの作用・効果は、本願補正発明の「疎水性酸化物微粒子」と「充填粒子」によるものと軌を一にするものである。 そうすると、引用発明の射出成形体の表面の疎水性のケイ酸のミクロ粒子は、本願補正発明の「疎水性酸化物微粒子」に相当するとともに、「充填粒子」に相当するものをも含むといえるから、引用発明の「射出成形用金型上へ、アエロジル(Aerosil) R8200^((R))の疎水性のケイ酸のミクロ粒子の懸濁液(エタノール中1質量%)を施与し、懸濁液を施与した射出成形用金型を用いて、60℃の金型表面温度及び55barの圧力で標準射出成形機により、溶融物温度は195℃であり、後プレス圧は50barで耐衝撃変性されたPVCを射出成形する」ことは、本願補正発明の「(1)加熱下で軟化した樹脂の表面に疎水性酸化物微粒子を付与する工程」に加え「(6)前記の加熱下で軟化した樹脂の表面に充填粒子をさらに付与する」ことと、実質的に相違しない。 (ウ)仮に、本願補正発明の「充填粒子」が、「疎水性酸化物微粒子」の材料とは別の材料からなる粒子と解するとしても、引用発明の射出成形体の表面を被覆する「ミクロ粒子」の材料について、「好ましくはケイ酸塩、鉱物、金属酸化物、金属粉末、ケイ酸、顔料又はポリマーから選択される少なくとも1つの材料」(段落【0041】)と記載され、ミクロ粒子の材料が1つに限られず、複数の材料からなることも示唆されているから、引用発明の射出成形体の表面を被覆する疎水性のケイ酸からなるミクロ粒子に加えて、射出成形体の表面を埋めるために他の材料の粒子を懸濁液に含有させて、樹脂の表面に付与することは、当業者が容易に成し得たものである。 (エ)請求人は、審判請求書(「(2)拒絶査定の理由について」)において、「他方、引用文献1?3のどこにも、疎水性酸化物微粒子と充填粒子とを樹脂表面に付与する点については記載も示唆もされておりません。」と主張する。 しかし、「充填粒子」について、本願補正発明には、「(6)前記の加熱下で軟化した樹脂の表面に充填粒子をさらに付与する」と特定されるのみであり、「疎水性酸化物微粒子」とは別の材料であるのか、あるいは、粒径に差はあるのかについてさえ特定されていないため、「充填粒子」との事項からは、空間に「充填」するという意味において特定されていると認識されるものであり、その意味においては、引用文献1に記載された引用発明の「疎水性のケイ酸のミクロ粒子」も、射出成形体の表面を埋めて「充填」するものといえるから、請求人の上記主張は採用できない。 (オ)したがって、上記相違点2は、実質的な相違点とはいえない。また、仮に実質的な相違点であるとしても、引用発明及び引用文献1の記載に基いて、当業者が容易に想到することができたものである。 ウ また、本願補正発明により奏される「優れた撥水性とともに高い耐摩耗性(密着性)を兼ね備えた樹脂成形品を製造することが可能となる」(本願明細書の段落【0010】)との効果は、引用発明から予測できるものである。 エ したがって、本願補正発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (6)まとめ 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 よって、上記補正の却下の決定のとおり決定する。 3.本願発明について (1)本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成28年6月6日付けの手続補正の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定され、そのうち、請求項1に係る発明(本願発明)は、前記2.(1)において記載したとおりのものである。 (2)原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、本願発明が、上記引用文献1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないというものである。 (3)引用文献1記載の発明及び技術的事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1記載の発明及び技術的事項は、前記2.(3)に記載したとおりである。 (4)対比・判断 本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明が、「前記の加熱下で軟化した樹脂の表面に充填粒子をさらに付与する」としていたものが、そのような要件を限定しないものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに「前記の加熱下で軟化した樹脂の表面に充填粒子をさらに付与する」という発明特定事項を含む本願補正発明が、前記2.(4)及び(5)で述べたように、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (5)むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2018-11-08 |
結審通知日 | 2018-11-13 |
審決日 | 2018-11-28 |
出願番号 | 特願2012-136467(P2012-136467) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B65D)
P 1 8・ 575- Z (B65D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 家城 雅美 |
特許庁審判長 |
井上 茂夫 |
特許庁審判官 |
門前 浩一 蓮井 雅之 |
発明の名称 | 撥水性表面を有する樹脂成形品の製造方法 |
代理人 | 藤井 淳 |