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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01B
管理番号 1348279
審判番号 不服2017-16069  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-30 
確定日 2019-02-12 
事件の表示 特願2013-216507「シールド電線及びシールド電線の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月23日出願公開,特開2015- 79665,請求項の数(4)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成25年10月17日の出願であって,平成29年6月12日付け拒絶理由通知に対し,同年7月31日に意見書が提出されたが,同年8月23日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされ,これに対し,同年10月30日に拒絶査定不服審判の請求がされたところ,平成30年8月9日付けで当審から拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)が通知され,これに対し,同年10月10日に意見書が提出されるとともに,手続補正(以下,「本件補正」という。)がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の理由の概要は以下のとおりである。
(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1?3,5及び6
・引用文献 1,2
<引用文献等一覧>
1.特開2002-358841号公報
2.特開2003-242840号公報

第3 本願発明
本願請求項1ないし4に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は,本件補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1ないし4は,以下のとおりである。

「【請求項1】
絶縁被覆されたコア電線及び導体が露出したドレン線と,
前記コア電線及び前記ドレン線に縦添えされ,外側に絶縁層が形成され導体面となる内面同士を向き合わせるようにして前記コア電線及び前記ドレン線を包み,長手方向両端のみが前記コア電線及び前記ドレン線に固定されて前記コア電線及び前記ドレン線と共にツイストされたシールドテープと,を備えることを特徴とするシールド電線。
【請求項2】
絶縁被覆された複数のコア電線及び導体が露出したドレン線と,
ツイストされた前記複数のコア電線と前記ドレン線とに縦添えされ,外側に絶縁層が形成され導体面となる内面同士を向き合わせるようにして前記複数のコア電線及び前記ドレン線を包み,長手方向両端のみが前記複数のコア電線及び前記ドレン線に固定されて前記複数のコア電線のツイストの撚り戻りがキャンセルされるまで前記複数のコア電線及び前記ドレン線と共に前記複数のコア電線のツイスト撚り戻し方向にツイストされたシールドテープと,を備えることを特徴とするシールド電線。
【請求項3】
絶縁被覆されたコア電線及び導体が露出したドレン線がツイストされ,
前記コア電線及び前記ドレン線に縦添えされ,外側に絶縁層が形成され導体面となる内面同士を向き合わせるようにして前記コア電線及び前記ドレン線を包み,長手方向両端のみが前記コア電線及び前記ドレン線に固定されて前記コア電線及び前記ドレン線と共に更にツイストされたシールドテープと,を備えることを特徴とするシールド電線。
【請求項4】
絶縁被覆されたコア電線に導体が露出したドレン線を添える工程と,
外側に絶縁層が形成され内面が導体面となるシールドテープを前記コア電線及び前記ドレン線に縦添えする工程と,
前記シールドテープの内面同士を向き合わせるようにして前記コア電線及び前記ドレン線を包む工程と,
前記コア電線及び前記ドレン線と共に前記シールドテープの長手方向両端を固定してツイストする工程と,を有することを特徴とするシールド電線の製造方法。」

第4 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で加筆した。以下,同様。)。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,高速サーバやコントローラ,移動体通信基地局等の内部及び外部接続などに使用される差動ケーブルで,特に高速LVDS(低電圧差動信号)伝送に代表されるような高速データ伝送用のフラット構成の高速差動ケーブルに関するものである。」

イ 「【0002】
【従来の技術】情報技術産業の成長が益々加速している昨今,大きな記憶媒体を備えた強力なPC(パソコン)が急増し,また高度な電気通信装置の実現化に伴って,さらに高速度で長距離間のデータ伝送が可能なケーブルに対するニーズが生じてきている。このニーズに対応したケーブルとして高速データ伝送用の差動ケーブルがある。従来の差動ケーブルについて図7?10を用いて説明する。
【0003】先ず従来の差動ケーブルの第1例(従来1型)としては,図7の断面図に示すように,中心導体1の外周に低密度絶縁体からなる誘電体層2を設けて信号線4,4とし,この2本を2芯平行に並べ,さらに一方の信号線4の外側にドレイン線5の1本を縦添えで配置し,3芯フラット構造を保持しつつアルミポリエステルテープを金属面内側で縦添え若しくは螺旋巻きして外部導体6を形成し,ジャケット層7を設けた構成の差動ケーブル60がある。
【0004】また従来の差動ケーブルの第2例(従来2型)としては,図8の断面図に示すように,従来1型と同じ構造で2芯平行に並べた信号線4,4の2芯の中央谷間部に1本のドレイン線5を縦添えで配置し,その外側にアルミポリエステルテープを金属面内側で縦添え若しくは螺旋巻きして外部導体6を形成し,ジャケット層7を設けた構成の差動ケーブル70がある。
【0005】また従来の差動ケーブルの第3例(従来3型)としては,図9の断面付き斜視図に示すように,従来1型と同じ構造の信号線4,4の2芯にドレイン線5の1芯を加えて3芯撚りし,その外側にアルミポリエステルテープを金属面内側で縦添え若しくは螺旋巻きして外部導体6を形成し,ジャケット層7を設けた構成の差動ケーブル80がある。
【0006】更に従来の差動ケーブルの第4例(従来4型)としては,図10の断面図に示すように,従来1型と同じ構造の信号線4,4の2芯の電気的平衡度を重視し,ビットレートの高速化に対応したハイスペック品として,信号線2芯を平行に並べそれらの両外側にドレイン線5,5を配置し,4芯フラット構造を保持しつつアルミポリエステルテープを金属面内側で縦添え若しくは螺旋巻きして外部導体6を形成し,ジャケット層7を設けた構成の差動ケーブル90がある。これら差動ケーブル60,70,80,90の中心導体サイズとドレイン線サイズは同じで,AWG(アメリカンワイヤーゲージ)30番(7/0.102mm),28番(7/0.127mm)が通常使用されており,また低密度絶縁体にはオレフィン系樹脂の発泡体が通常使用されており,この場合のデータ伝送能力は最良時1.0Gbpsの差動信号を10m伝送可能という。」

【図9】は,「従来の差動ケーブルの第3例(従来3型)を示す断面付き斜視図」であり,上記イの【0005】の記載によれば,アルミポリエステルテープが,金属面を内側にして,信号線4及びドレイン線5を包んでいること,外部導体6のさらに外側にジャケット層7が設けられていることが看取できる。

(2) 引用発明
したがって,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「中心導体1の外周に低密度絶縁体からなる誘電体層2を設けた信号線4,4の2芯に,ドレイン線5の1芯を加えて3芯撚りし,その外側にアルミポリエステルテープを金属面内側で縦添え若しくは螺旋巻きして,前記信号線4,4及び前記ドレイン線5を包むことにより外部導体6を形成し,さらに外側にジャケット層7を設けた差動ケーブル80。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,シールドケーブルに関し,特に自動車等の車両の電装品等への電気的接続に用いて好適なシールドケーブルに関するものである。」

「【0007】
【発明の実施の形態】以下,本発明の実施の形態を好ましい実施例により説明する。本発明の一実施例に係るシールドケーブルの構造を図2に示す。図2(a)は該シールドケーブルの断面図,図2(b)は2本の絶縁被覆付信号線とドレイン線を撚り合わせた様子を示す図である。これらの図に示すように,本実施例のシールドケーブル11は,2本の絶縁被覆付信号線12とドレイン線13を撚り合わせたものの周りを,シールド層14で被覆し,さらにその周りを絶縁性シース15で被覆した構造であるが,ドレイン線13の撚りピッチを2本の絶縁被覆付信号線12の撚りピッチと異ならせている。本実施例では,ドレイン線13の撚りピッチを2本の絶縁被覆付信号線12の撚りピッチの2倍としてある。信号線12は導線12aと絶縁被覆12bから構成される。なお,本実施例は説明の簡潔化のため,最も簡単な構造のものを示してあるが,絶縁被覆付信号線12の本数は,用途に応じて3本以上適宜の本数に設定することができる。また,本実施例では,ドレイン線13の撚りピッチは絶縁被覆付信号線12の撚りピッチの2倍に設定してあるが,両撚りピッチが異なっていれば,本発明の所期の目的は達成できる。両撚りピッチが整数倍の関係にあると,端末加工時の撚り戻し作業が容易となる利点がある。また,絶縁被覆付信号線12の撚りピッチとドレイン線13の撚りピッチを異ならせたものを作るには,同時に両者の撚りを行って作ってもよく,最初に絶縁被覆付信号線12同士を撚って,後でドレイン線13を撚るようにしてもよい。さらに,絶縁被覆付信号線12の撚り方向とドレイン線13の撚り方向を同一とすると,やはり端末加工時の撚り戻し作業が容易となる利点がある。」

第5 対比及び判断
1 本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。

ア 引用発明の「信号線4,4」は,「中心導体1の外周に低密度絶縁体からなる誘電体層2を設けた」ものであるから,本願発明1の「コア電線」に相当する。
イ 引用発明の「ドレイン線5」は,本願発明1の「ドレン線」に相当する。
ウ 引用発明の「アルミポリエステルテープ」は,「金属面内側で縦添え若しくは螺旋巻きして,前記信号線4,4及び前記ドレイン線5を包」んでいるから,シールド効果を有しているということができる。そうすると,本願発明1の「シールドテープ」とは,「前記コア電線及び前記ドレン線に縦添えされ,導体面となる内面同士を向き合わせるようにして前記コア電線及び前記ドレン線を包」んでいる「シールドテープ」である点で共通する。
エ 上記ウのとおり,引用発明の「差動ケーブル80」は,「信号線4,4」及び「ドレイン線5」を「シールドテープ」で包んでいるから,「シールド電線」ということができる。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「絶縁被覆されたコア電線及び導体が露出したドレン線と,
前記コア電線及び前記ドレン線に縦添えされ,導体面となる内面同士を向き合わせるようにして前記コア電線及び前記ドレン線を包むシールドテープと,を備えるシールド電線。」

(相違点)
「シールドテープ」について,本願発明1は,「外側に絶縁層が形成され」ており,「長手方向両端のみが前記コア電線及び前記ドレン線に固定されて前記コア電線及び前記ドレン線と共にツイストされ」ているのに対し,引用発明は,「外側に絶縁層が形成され」ているか不明であり,「長手方向両端のみが前記コア電線及び前記ドレン線に固定されて前記コア電線及び前記ドレン線と共にツイストされ」ているのかも不明である点。

(2) 相違点についての判断
上記相違点について検討すると,引用文献1及び引用文献2には,「シールドテープ」が「長手方向両端のみが前記コア電線及び前記ドレン線に固定されて前記コア電線及び前記ドレン線と共にツイストされ」ていることは記載も示唆もされていない。
なお,引用文献1の【図9】をみると,いわゆるツイスト状態の「ジャケット層7」が記載されており,一見,「信号線4,4」及び「ドレイン線5」が,「アルミポリエステルテープ」とともにツイストされているとも思われる。
しかしながら,同図において,「信号線4,4」,「ドレイン線5」及び「アルミポリエステルテープ」は,その断面図のみしか記載されておらず,「ジャケット層7」内の形状は不明であるから,ツイスト状態の「ジャケット層7」が記載されているからといって,直ちに「信号線4,4」,「ドレイン線5」及び「アルミポリエステルテープ」がともにツイストされているということはできない。
そして,同図についての説明である,引用文献1の【0005】(上記第4の1(1)イ)の「図9の断面付き斜視図に示すように,・・・信号線4,4の2芯にドレイン線5の1芯を加えて3芯撚りし,その外側にアルミポリエステルテープを金属面内側で縦添え若しくは螺旋巻きして外部導体6を形成し,ジャケット層7を設けた」との記載をみても,まず,「信号線4,4」(2芯)及び「ドレイン線5」は,3芯撚り,すなわち,ツイストされ,その後,その外側に「アルミポリエステルテープ」が「縦添え若しくは螺旋巻き」されているといえるから,「信号線4,4」,「ドレイン線5」及び「アルミポリエステルテープ」がともにツイストされているということはできないし,「アルミポリエステルテープ」の「長手方向両端のみ」が「信号線4,4」及び「ドレイン線5」に固定されているともいえない。
一方,本願発明1は,上記相違点に係る構成を採用することにより,「シールド電線」を「品質を落とすことなく低コストで容易に製造できる」(本願明細書【0020】)という格別の有利な効果を奏するものである。

(3) まとめ
したがって,本願発明1は,当業者であっても引用発明,引用文献1及び引用文献2に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし4について
本願発明2ないし4も,本願発明1の「シールドテープ」と同様の構成を備えるものであるから,上記1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用文献1及び引用文献2に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第6 原査定について
本件補正で補正された本願発明1ないし4は,上記第5のとおり,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1及び2に記載された発明に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由を維持することはできない。

第7 当審拒絶理由について
当審では,本件補正前の請求項2に係る発明は,「シールド電線」という物の発明であるが,「前記ドレン線が,前記シールドテープとツイストされる前に前記コア電線に予め巻き付けられている」という,その物の製造方法が記載されているものと認められるから,明確であるとはいえず,本願は,特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていないとの当審拒絶理由を通知したところ,本件補正において,本件補正前の請求項2は削除されたから,上記当審拒絶理由は解消した。

第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-01-28 
出願番号 特願2013-216507(P2013-216507)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01B)
P 1 8・ 537- WY (H01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 神田 太郎  
特許庁審判長 深沢 正志
特許庁審判官 小田 浩
梶尾 誠哉
発明の名称 シールド電線及びシールド電線の製造方法  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  
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