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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G21C
管理番号 1348323
審判番号 不服2017-16353  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-11-02 
確定日 2019-01-23 
事件の表示 特願2014-555052「一体型溶融塩原子炉」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 8月15日国際公開、WO2013/116942、平成27年 4月 9日国内公表、特表2015-510588〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)2月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年2月6日(以下、「優先日」という。)、米国)を国際出願日とする出願であって、平成28年10月11日付けの拒絶理由の通知に対し、平成29年1月18日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年6月29日付け(同年7月4日送達)で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされ、これに対して同年11月2日に審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1ないし31に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「原子力発電所を稼働させる方法であって、
前記原子力発電所が、熱を生成する溶融塩原子炉(MSR)と、熱交換器システムと、最終使用システムとを具備し、前記熱交換器システムが、前記MSRによって生成された熱を受け取り、該受け取った熱を前記最終使用システムに提供し、
当該方法が、
前記MSRを稼働させるステップであって、該MSRが、容器と、該容器内に置かれた黒鉛減速材炉心と、少なくとも前記容器内で循環する溶融塩とを具備し、前記熱交換器システムが前記溶融塩から熱を受け取る、ステップと、
停止MSRを得るべく、予め定められた稼働期間後に前記MSRを停止させるステップと、
分断された停止MSRを得るべく、前記停止MSRと、前記容器の外側に配設された前記熱交換器システムの任意の部分との間の任意の動作接続を分断するステップと、
前記分断された停止MSRを隔離するステップと、
交換MSRを、該交換MSRの容器の外側に配設された前記熱交換器システムの任意の部分に動作可能に接続するステップと
を含む、方法。」

第3 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明、及び、引用文献2乃至引用文献3に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

1.特開2011-128129号公報
2.国際公開第2010/129836号
3.特開昭57-1991号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。
(1)「【0001】 この発明は、比較的小発電力量の、規格の統一された大量生産可能な原子炉を、例えば加圧水型等の手馴れた原子炉で提供することにより、配管などの部品、装置類、二次冷却水管接続部やマンマシンインタフェースを規格化することを可能にし、建設時の大幅なコストダウンと、修理等を含む維持管理の容易化、さらにロボットを使用しての点検の平易化、同じくロボットを使用しての解体作業の容易化を提供し、それら費用の節減を提供するものである。
また、囲む筐体を比較的小型にし、規格化しておくことにより、固定された立地のみならず、移動体すなわち、艦船や潜水艦等でも使用可能にしており、さらにまた、二次冷却と、タービンを外付けで比較的小型の筐体に封入することにより、組み合わせの自由度を増加させた規格化された原子炉に関するものである。」

(2)「【0004】 本発明における比較的小発電力量の、規格の統一された大量生産可能な原子炉(1)は、規格化された配管などの部品、装置類(2)、規格化された二次冷却水管接続部(3)などからなり、規格化されたことにより点検用ロボット(4)を使用して点検修理され、同じく規格化されたことにより解体用ロボット(5)を使用して解体され、放射能防護服を着用しての人手による危険な作業を極力排除している。
また、本発明の原子炉は比較的小型の規格化された筐体(6)で囲まれ、規格化されたクレーン用フック(7)等を輸送交換用に上部に設けて、工場(8)におけるライン作業的組み立てを可能としており、固定された立地のみならず移動体、すなわち潜水艦を含む艦船(9)等でも使用可能及び、交換容易で、さらにまた、二次冷却(10)と、タービン(11)を外付けで比較的小型の筐体(12)に封入することにより、組み合わせの自由度を増加させた規格化された原子炉(1)である。」

(3)「【0006】 ・・・(中略)・・・
また、これらをユニット化しておくことにより、すなわち、比較的小型の規格化された筐体(6)で囲み、規格化されたクレーン用フック(7)等準備しておくことにより、筐体(6)ごとの輸送の簡便性を増し、工場(8)におけるライン作業的組み立てをも提供し、固定された立地のみならず、移動体すなわち、潜水艦を含む艦船(9)等でも使用可能及び、交換容易性を増し、交換することによる、安全でかつ早急な修理点検をも可能な形態とする。さらにまた、二次冷却(10)と、タービン(11)を外付けで比較的小型の筐体(12)に封入することにより、冷却水と排水システムを用途に合わせるなど、組み合わせの自由度をも増加させている。」

(4)上記(1)から(3)の記載によれば、引用文献1には、原子力発電所を建設すること、修理等を含む維持管理をすること、交換することによる、安全でかつ早急な修理点検すること、原子炉(1)を構成する筐体(6)ごとに輸送することが記載されているものと認められ、これらは原子炉発電所の稼働方法に含まれるものであるから、引用文献1には、原子炉発電所の稼働方法が記載されていると認められる。

(5)上記(2)及び(3)の記載によれば、引用文献1には、原子炉(1)は、比較的小型の規格化された筐体(6)で囲まれることにより構成され、規格化されたクレーン用フック(7)等を輸送交換用に、筐体(6)の上部に設けることにより、筐体(6)ごとの輸送の簡便性を増し、交換することによる、安全でかつ早急な修理点検をも可能とすることが記載されている。

(6)引用文献1の図1から、技術常識を踏まえれば、以下の図に示すとおり、「原子炉本体」、「熱交換器」、「原子炉本体配管」及び2本の「二次冷却水管」が把握できる。


(7)引用文献1の図1から、技術常識を踏まえれば、原子炉本体で発生した熱は、「原子炉本体配管」を介して「熱交換器」に送られ、さらに「熱交換器」から、「二次冷却水管接続部」に接続された「二次冷却水管」及び二次冷却(10)を介して、タービン(11)に送られていることが理解できる。
よって、「熱交換器」、「二次冷却水管」及び二次冷却(10)は、熱交換のための循環系(以下、「熱交換循環系」という。)を構成している。

2 引用発明
したがって、引用文献1には、以下の発明が記載されている。(以下「引用発明」という。)
「原子炉(1)は、比較的小型の規格化された筐体(6)で囲まれることにより構成され、規格化されたクレーン用フック(7)等を輸送交換用に、筐体(6)の上部に設けることにより、筐体(6)ごとの輸送の簡便性を増し、交換することによる、安全でかつ早急な修理点検をも可能とする、原子力発電所の稼働方法であって、
原子力発電所は、原子炉(1)と、熱交換循環系と、タービン(11)とを備え、
前記原子炉(1)は、筐体(6)と、その中に、前記原子炉本体と、前記熱交換循環系の一部を構成する熱交換器と、前記原子炉本体と前記熱交換器とを循環する原子炉本体配管と、前記熱交換器とを接続する熱交換器配管を備え、
前記筐体(12)内には、タービン(11)と前記熱交換循環系の一部を構成する二次冷却系(10)を備え、
筐体(6)の外面と筐体(12)の外面にそれぞれ設けられた二次冷却水管接続部(3)は、2本の二次冷却水管で接続され、
前記熱交換器、前記二次冷却水管及び二次冷却(10)は、前記原子炉本体で発生した熱をタービン(11)に送る熱交換循環系を構成するものである、
原子力発電所の稼働方法」

3 引用文献2の記載
引用文献2には、以下の事項が記載されている。
「[0024] Referring now to FIGs. 1 and 2, a two-fluid molten salt reactor embodying the principles of the present invention is illustrated therein and designated as 100 (hereinafter reactor 100). The reactor 100 includes a large fluid pool of a blanket salt 102 and a reactor vessel 104 with a reactor core 105, all which are contained in an enclosure 101. The reactor core 105 may include a moderating core and may be made of metal, graphite, carbon-carbon composite, or some other suitable substance. Reactor cores with little carbon in them would have a near-fast or epithermal neutron spectrum. Reactor cores with considerable carbon in them would have a near-thermal neutron spectrum. The pool of blanket salt 102 surrounds and circulates through the reactor core 105.

[0025] As described in greater detail below, the core 105 has respective channels through which the blanket salt and a fluid fuel salt flow without mixing with each other. A set of extension tubes extend from the channels in the core 105 and through a plenum such that the blanket salt flows from the pool through these extension tubes into the respective channels in the core 105. Conversely, the reactor vessel 104 also includes another set of extension tubes and plenums through which the fuel salt flows remain closed to the pool 102. Accordingly, the blanket salt does not mix with the fuel salt. In some implementations, the fuel salt may carry plutonium and minor actinides (in case of a Pu-239 burner) or uranium (in case of a U-233 or U-235 burner), or any combination thereof.

[0026] In addition to keeping the blanket salt separate from the fuel salt, the combination of the reactor core 105 and the surrounding pool 102 allows the heat of the fission reaction in the fuel salt to be transferred to the blanket salt. Thus, the blanket salt plays a dual role as both breed-stock and coolant.

[0027] In a particular arrangement shown in FIG. 2, fuel salt plenums 106-1, 106-2(collectively fuel salt plenums 106) are located at the top and bottom of the reactor vessel 104. The fuel salt plenums 106 distribute fuel to, and collect fuel from, channels in the core 105 made of a moderating medium such as metal, graphite, carbon-carbon composite, or some other appropriate substance. The blanket salt, acting as both a coolant and a breed- stock for new fuel, flows into other channels of the core 105 from the pool 102 through a set of extension tubes 107 that thread through the upper fuel salt plenum 106-2. Note that the number of extension tubes 107 may be greater than or less than the number of extension tubes 107 shown in FIG. 2. That is, any suitable number of extension tubes 107 may be employed depending on the application of the reactor 100.

[0028] The blanket salt is collected in its own blanket salt plenum 108. The blanket salt plenum 108 distributes this molten salt to a number of secondary heat exchangers 110. Although four secondary heat exchangers 110 are shown, any other suitable number of heat exchangers may be employed. The secondary heat exchangers 110 carry heat via inlet pipes 111 and exit pipes 113 to turbines that may be associated with generation of electricity. Alternatively or additionally, the secondary heat exchangers 110 carry heat via the pipes 111 and 113 to plants that use the heat to process various materials.

[0029] After the secondary heat exchange, the blanket salt returns to the top of the pool 102 through an appropriate set of pipes 115. Pumps cause the fuel salt to flow through a set of pipes 117 into a pair of pump bowls 112 located outside of the pool 102 and through a set of pipes 127 from the pair of pump bowls 112. Although two pump bowls 112 are shown, the number of the pump bowls 112 may vary depending on the use of the reactor 100.」

以下、日本語訳。(引用文献2に対応する特表2012-526287号公報を参照。)
「[0024]図1及び2を参照すると、本発明の原理を実施化している二流体型溶融塩原子炉が示されており符号100として示されている(以下、原子炉100と称する)。原子炉100は、ブランケット塩の大きな流体プール102と、炉心105を備えている原子炉容器104とを備えており、これらの全てが閉鎖容器101内に含まれている。炉心105は、減速型の炉心を備えており、金属、グラファイト、炭素-炭素系複合材、又は幾つかの他の適切な物質によって作られている。内部に炭素をほとんど含まない炉心は、近高速中性子又は熱外中性子スペクトルを有している。内部にかなりの量の炭素を含んでいる炉心は、近熱中性子スペクトルを有している。ブランケット塩プール102は、炉心105を取り囲んでおり且つ該炉心中を循環している。

[0025]以下において更に詳細に説明するように、炉心105は、ブランケット塩及び流体燃料塩が相互に混ざり合うことなくその中を流れる各々のチャネルを備えている。一組の延長管107が、炉心105内のチャネルから燃料塩プレナム内を伸長していて、ブランケット塩が該プール102から流れ出てこれらの延長管107内を通って炉心105内の各々のチャネル内へ流れ込むようになされている。これと逆に、原子炉容器104もまた、別の組の延長管109を備えており、燃料塩がその中を流れる燃料塩プレナムは、プール102に対して閉じられたままである。従って、ブランケット塩は燃料塩と混ざり合わない。幾つかの方法においては、燃料塩は、プルトニウム及びマイナーアクチニド(Pu-239燃焼器の場合)又はウラン(U-233若しくはU-235の燃焼器の場合)又はこれらの何らかの組み合わせを搬送する。

[0026]ブランケット塩を燃料塩から隔離して保持することに加えて、炉心105とその周囲のプール102とを組み合わせることによって、燃料塩内での核分裂反応による熱がブランケット塩に伝えられることが可能になる。このようにして、ブランケット塩は、増殖材と冷却材との両方としての二重の機能を果たす。

[0027]図2に示されている特別の構造においては、燃料塩プレナム106-1,106-2(集合的に、燃料塩プレナム106と称される)は、原子炉容器104の頂部及び底部に配置されている。燃料塩プレナム106は、燃料を、減速材、例えば金属、グラファイト、炭素-炭素系複合材、又はその他の何らかの適当な材料によって作られた炉心105のチャネル内へ分配したり、該チャネルから収集したりする。新しい燃料のための冷却材と増殖材との両方として機能するブランケット塩は、上方の燃料塩プレナム106-2を通されている一組の延長管107を介してプール102から炉心105の他のチャネル内へ流れ込む。延長管107の数は、図2に示されている延長管107の数よりも多くても少なくても良いことを注記しておく。すなわち、原子炉100の用途に応じて如何なる適当な数の延長管107をも採用することができる。

[0028]ブランケット塩は、それ自体のブランケット塩プレナム108内に集められる。ブランケット塩プレナム108は、この溶融塩を多数の二次熱交換器110へ分配する。4つの二次熱交換器110が示されているけれども、他の如何なる適当な数の熱交換器を採用しても良い。二次熱交換器110は、熱を、入口パイプ111及び出口パイプ113を介して、発電に関連するタービンに送る。代替的に又は付加的に、二次熱交換器110は、熱を、パイプ111及び113を介して、熱を使用して種々の材料を処理するプラントへと送る。

[0029]二次的な熱交換の後に、ブランケット塩は、パイプ115の適当な組を介してプール102の頂部へ戻る。ポンプは、燃料塩を、一組のパイプ117を介してプール102の外側に配置されている一対の中間ボウル112内へ流入させ且つ一組のパイプ127を介して中間ボウルの対112から流出させる。2つの中間ボウル112が示されているけれども、中間ボウル112の数は、原子炉100の使用方法に応じて変えても良い。」

4 引用文献3の記載
引用文献3には、以下の事項が記載されている。
(1)「本発明は炉心、燃料塩循環系および熱交換系を一つの原子炉容器に収納した小型一流体溶融塩原子炉に関する。一般に、溶融塩原子炉は、炉心が減速材として約20%の空隙を有する固定された黒鉛集合体で構成され、その空隙の間を通って燃料塩が循環する。・・・(中略)・・・炉心を通過する際に熱中性子が殖え核分裂を起して発熱し、発生した熱は燃料塩自体が一次冷却材としてこれを吸収し炉外に設けられた熱交換系においてNaBF_(4)-NaFの混合物から成る二次冷却材に伝熱する。・・・(中略)・・・溶融塩は燃料であると同時にそれ自体が熱を取り出す媒体となっている。」(2ページ左上欄9行-同ページ右上欄10行を参照。)

(2)「以下図面によって、本発明の一流体溶融塩原子炉の構成を1具体例について説明する。
第2図および第3図AおよびBにおいて、1は厚さ15mmのハステロイNで作られた円筒形の原子炉容器本体で、底部2は皿形でその中心部に凸出口3を有し、該円筒容器の上部および下部にそれぞれ1個の開口部4および5がある。底部2に固定された数本の上下貫通支持構造体6によって支持金物7を介して支持された環状のマニホルド8および9が該円筒容器内の周辺に沿って該開口部4および5と同じレベルに設けられ、それぞれ開口部4および5に開通している。マニホルド8および9は第4図に示すごとき態様で間隔約7mmの約1000本の肉厚1mm直径20mmのハステロイ-N製の導管10によって連通している。該導管10から成る環状の導管群11はマニホルド8および9と共に熱交換系を構成し、その内側に、周囲を黒鉛反射体12で囲まれた炉心領域13を形成し、中心部に制御棒通路14を貫通した約20%の空隙を有する黒鉛集合体から成る炉心15を含む。炉心領域13の下方は空間域16でその下は底部2まで黒鉛反射体層17が存在する。該黒鉛反射体層17の中心部には該空間域16を底部の凸出口3に通ずる通路18が貫通している。原子炉容器の蓋部は中央部を円形に打抜いたドーナツ蓋19と該円形部分に対する本蓋20とから成り、ドーナツ蓋19は容器本体1のフランジに取り付けられ、本蓋20はドーナツ蓋19の中央部の円形の口をカバーするように取り付けられる。本蓋20の中心部は制御棒通路14が貫通し固定され、また炉心領域13の上方に設けられた第5図に示すごとき燃料塩循環系における循環ファン21を回転するための3個のフリクションドライブ22を駆動するためのシャフト23が貫通している。ドーナツ蓋19には数本の高圧ヘリウム導入管24およびヘリウムガス導出管25並に燃料塩導入管26が貫通し固定されている。高圧ヘリウム導入管24は支持構造体6とほぼ同一円上にこれと交互に配置され黒鉛反射体12を貫通し空間域16まで延長しほぼ直角に曲り先端の噴出口27は水平方向を向いている。蓋19および20と炉心領域13との間の空所は循環ファン21およびフリクションドライブ22の回転する上部空間域28の部分を除いてほぼ全体が黒鉛反射体層29で占められている。ヘリウムガス導出管25および燃料塩導入管26はこの上部空間域28に開口している。導管、支持体その他原子炉容器内のすべての部材はハステロイNあるいは黒鉛から作られる。
原子炉容器1は支持台102に支えられて原子炉容器1と相似形のステンレススチール製の外殼容器101の中に収納され両者の間に空間部103を形成する。外殼容器101は原子炉容器1の開口部4および5に対応する部分に開口部104および105を有し、両者はそれぞれ導管106および107で連結され、開口部104および105はそれぞれ導管108および109に連結している。外殼容器101の蓋110の中央部にはワイヤロープ釣下方式の制御棒駆動機構111が、制御棒112が制御棒通路14を上下に移動し得るように取り付けられている。また3個の駆動シャフト23が貫通し外部に設けられたモーターに連動している。外殼容器101は周辺部に冷却窒素配管113を設けた粒状断熱材層114でその周囲を囲まれ、さらに重コンクリートの中に収納されている。また、原子炉容器1の凸出口3は凝固弁115を経て下方外部に設けられたドレンタンクのピットに通じている。
原子炉容器内に設けられた熱交換系は前記のごとく上下のマニホルド8および9とこれらを連通する約1000本の導管10から成る環状の導管群11とから構成されているが、各導管10はいずれも第4図に示すごとく原子炉容器の内壁に沿ってこれに平行に弧を画きながら180°旋回した位置で上下のマニホルド8および9を連通し、各導管は平行してマニホルドの巾に相当する巾の環状の導管群11を形成し上下のマニホルドと共に熱交換系を構成する。これは各導管を流れる流体の抵抗を均等にするためであり、また導管の熱膨張に対処するためである。なお、マニホルド8(および9)の容器開口部4(および5)における結合部の構造は本蓋20およびドーナツ蓋19をこれらと一体の部材と共に取り去った後熱交換系を容器1の外に抜き出すことができるごとき構造となっている。また、燃料塩循環系は第5図に示すごとくで、外部の管理区域に設けられたモーターに駆動シャフト23を介して連動している3個のフリクションドライブ22によってシロッコファン式水車型ポンプの循環ファン21が回転する。この循環系においては摩擦部はすべて黒鉛が用いられ、またシール部はすべてヘリウムまたは窒素のガスシールになっている。」(3ページ左下欄6行-4ページ右下欄1行を参照。)

第5 対比
本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
1 引用発明の「筐体(6)」及び「原子炉本体」は、本願発明の「容器」及び「炉心」にそれぞれ相当する。

2 引用発明の「原子炉(1)」と本願発明の「溶融塩原子炉(MSR)」または「MSR」とは、「原子炉」である点で一致する。

3 本願の明細書の段落0043の「原子力発電所2000は最終使用システム2006を含み、最終使用システム2006は熱交換器システム2004から熱を受け取ってその熱を使用して仕事をする。」との記載、及び、同段落0024の「熱交換器ユニット106と、熱交換器ユニット106が具備する熱交換器119と、熱交換器119に接続された入口導管114及び出口導管112とは、全て、例えば蒸気発生器のようなシステム又は装置にIMSRから熱を移すのに使用される熱交換器システムの一部である。」との記載を参酌すれば、引用発明の「熱交換循環系」及び「タービン(11)」は、本願発明の「熱交換器システム」及び「最終使用システム」にそれぞれ相当する。
そして、本願発明と引用発明とは、「原子力発電所が、熱を生成する原子炉と、熱交換器システムと、最終使用システムとを具備し、前記熱交換器システムが、前記原子炉によって生成された熱を受け取り、該受け取った熱を前記最終使用システムに提供」する点で一致する。

4 引用発明は、「筐体(6)ごとの輸送の簡便性を増し、交換することによる、安全でかつ早急な修理点検をも可能とする、原子力発電所の稼働方法」であるから、引用発明において、原子炉を稼働させることや、筐体(6)ごとの交換を含む修理点検の前に、原子炉を停止させること及び筐体(6)と筐体(12)とを分断することは明らかである。
したがって、本願発明と引用発明とは、少なくとも「原子炉を稼働させるステップ」、「停止原子炉を得るべく、原子炉を停止させるステップ」、「分断された停止原子炉を得るべく、任意の動作接続を分断するステップ」、「交換原子炉を、接続するステップ」を含む点で一致する。
また、「原子炉を稼働させるステップ」に関して、上記3の事項を踏まえれば、引用発明は、本願発明と同様に「原子炉が、容器と、該容器内に置かれた炉心とを具備し、前記熱交換器システムが熱を受け取る」との事項を備える。

5 したがって、本願発明と引用発明とは、
「原子力発電所を稼働させる方法であって、
前記原子力発電所が、熱を生成する原子炉と、熱交換器システムと、最終使用システムとを具備し、前記熱交換器システムが、前記原子炉によって生成された熱を受け取り、該受け取った熱を前記最終使用システムに提供し、
当該方法が、
前記原子炉を稼働させるステップであって、該原子炉が、容器と、該容器内に置かれた炉心とを具備し、前記熱交換器システムが熱を受け取る、ステップと、
停止原子炉を得るべく、前記原子炉を停止させるステップと、
分断された停止原子炉を得るべく、前記停止原子炉と、前記容器の外側に配設された前記熱交換器システムの任意の部分との間の任意の動作接続を分断するステップと、
交換原子炉を、該交換原子炉の容器の外側に配設された前記熱交換器システムの任意の部分に動作可能に接続するステップと
を含む、方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1
本願発明では、原子炉は、「溶融塩原子炉(MSR)」であって、「容器内に置かれた黒鉛減速材炉心と、少なくとも前記容器内で循環する溶融塩とを具備」し、熱交換器システムが「溶融塩から」熱を受け取るのに対し、引用発明では、原子炉はそのようなものではない点。

相違点2
原子炉を停止させるステップにおいて、本願発明では、原子炉が「予め定められた稼働期間後に」停止されるのに対し、引用発明ではそのようなことが不明である点。

相違点3
任意の動作接続を分断するステップ及び動作可能に接続するステップにおいて、本願発明では、停止原子炉が、停止原子炉と容器の外側に配設された熱交換器システムの任意の部分との間で分断され、当該部分で交換原子炉を接続するのに対し、引用発明では、そのような部分が明らかでない点。

相違点4
本願発明では、前記分断された停止MSRを隔離するステップを有するのに対し、引用発明では、そのようなことが明らかでない点。

第6 判断
上記相違点について、判断する。
1 相違点1について
上記第4の3に摘記した引用文献2の記載によれば、引用文献2には、「減速型のグラファイト等からなる炉心を備えた二流体型溶融塩原子炉であって、ブランケット塩及び流体燃料塩が相互に混ざり合うことなくその中を流れる各々のチャネルを備え、ブランケット塩を燃料塩から隔離して保持することに加えて、炉心105とその周囲のプール102とを組み合わせることによって、燃料塩内での核分裂反応による熱がブランケット塩に伝えられ、ブランケット塩は、ブランケット塩プレナム108内に集められ、ブランケット塩プレナム108は、この溶融塩を多数の二次熱交換器110へ分配し、二次熱交換器110は、熱を、入口パイプ111及び出口パイプ113を介して、発電に関連するタービンに送るようになされ、二次的な熱交換の後に、ブランケット塩は、パイプ115の適当な組を介してプール102の頂部へ戻る二流体型溶融塩原子炉」が記載されている。
また、上記第4の4に摘記した引用文献3の記載によれば、引用文献3には、「燃料塩循環系および熱交換系を一つの原子炉容器に収納した小型一流体溶融塩原子炉であって、炉心が減速材として約20%の空隙を有する固定された黒鉛集合体で構成され、その空隙の間を通って燃料塩が循環し、炉心を通過する際に、発生した熱が燃料塩自体に吸収され、炉外に設けられた熱交換系において二次冷却材に伝熱される小型一流体溶融塩原子炉」が記載されている。
そして、引用文献2又は3記載の溶融塩原子炉は、熱を生成する原子炉と、原子炉の外部に熱を伝える熱交換器システムを具備している点で、引用発明と共通するものであるから、引用発明の原子炉を、引用文献2又は3記載の発明のような溶融塩原子炉とすることは、当業者であれば容易になし得ることである。

2 相違点2について
修理点検を定期的に行うことは、本願の優先日前に技術常識であるといえ、定期的な修理点検のために、原子炉を「予め定められた稼働期間後に」停止することは、当業者が適宜行い得ることである。

3 相違点3について
引用発明において、熱交換循環系は、筐体(6)と筐体(12)の間に、二次冷却水管を有しており、該二次冷却水管は、筐体(6)の外面と筐体(12)の外面にそれぞれ設けられた二次冷却水管接続部(3)に接続されていることを踏まえれば、引用発明における「筐体(6)ごとの輸送の簡便性を増し、交換することによる、安全でかつ早急な修理点検」を行うにあたり、二次冷却水管接続部(3)の部分の接続を分断することが最も簡易であることは、当業者であれば容易に予測し得ることである。
そうすると、引用発明において、二次冷却水管接続部(3)の部分で原子炉を分断するとともに、交換する新たな原子炉を接続する際にも、二次冷却水管接続部(3)の部分で接続し、もって「停止原子炉が、停止原子炉と容器の外側に配設された熱交換器システムの任意の部分との間で分断され、当該部分で交換原子炉を接続される」ようになすことは、当業者であれば容易になし得ることである。

4 相違点4について
引用発明の分断後の停止原子炉が放射性物質を含んでいることは明らかであるから、クレーン用フック(7)等で吊り上げられ輸送された後の停止原子炉について、なんら放射線に対する対策を講じていない場所に載置するとは通常想定できない。
したがって、引用発明において、該輸送された後の停止原子炉を何らかの隔離された場所に載置するようなステップを設けることは、当業者であれば、適宜に行い得ることである。

5 そして、上記相違点1?4を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明、引用文献2または3に記載された発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

6 したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2または3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、その優先権日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用発明及び引用文献2または3に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-08-21 
結審通知日 2018-08-28 
審決日 2018-09-11 
出願番号 特願2014-555052(P2014-555052)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G21C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山口 敦司  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 西村 直史
山村 浩
発明の名称 一体型溶融塩原子炉  
代理人 伊藤 健太郎  
代理人 三橋 真二  
代理人 伊藤 公一  
代理人 利根 勇基  
代理人 青木 篤  

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