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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02F
管理番号 1348410
審判番号 不服2017-16284  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-11-02 
確定日 2019-01-31 
事件の表示 特願2014-555694「電子的調光可能光学装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 8月 8日国際公開、WO2013/116460、平成27年 4月16日国内公表、特表2015-511329〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年1月31日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年(平成24年)1月31日、米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成28年 1月15日:手続補正書
平成28年 4月28日:拒絶理由通知書
平成28年11月 9日:意見書・手続補正書
平成28年12月28日:上申書
平成29年 1月25日:拒絶理由通知書
平成29年 4月21日:意見書・手続補正書
平成29年 6月21日:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成29年11月 2日:審判請求書・手続補正書
なお、審判請求書は、平成29年11月2日に手続補正書(方式)によって補正されている。

第2 平成29年11月2日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年11月2日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1の記載を、

「電子的調光可能光学装置であって、
a.電子的に切り替え可能な能動吸収偏光子であって、当該能動吸収偏光子は、印加される電圧に応じて光の選択された偏波の吸収を変更し、これにより、電圧が印加されていない時に前記能動吸収偏光子が両方の偏波の光を透過し、電圧が印加されている時に光のx方向偏波を選択的に吸収する、能動吸収偏光子と、
b.x方向に反射軸を有する第1の静的反射偏光子と、
c.最大電圧が印加された時には影響を与えず、電圧が印加されていない時には入射光の偏極軸を90°だけ回転させるように、電子的に切り替え可能な能動偏極回転子と、
d.x方向に反射軸を有する第2の静的反射偏光子と、
を含む電子的調光可能光学装置であって、
前記装置は、前記能動吸収偏光子及び前記能動偏極回転子に電圧が印加されていない時に最大の反射率を有し、前記能動吸収偏光子及び前記能動偏極回転子に最大電圧が印加された時に最小の反射率を有するよう構成された、光学装置。」

から、

「電子的調光可能光学装置であって、
a.電子的に切り替え可能な能動吸収偏光子であって、当該能動吸収偏光子は、印加される電圧に応じて光の選択された偏波の吸収を変更し、これにより、電圧が印加されていない時に前記能動吸収偏光子が両方の偏波の光を透過し、電圧が印加されている時に光のx方向偏波を選択的に吸収する、能動吸収偏光子と、
b.x方向に反射軸を有する第1の静的反射偏光子と、
c.最大電圧が印加された時には影響を与えず、電圧が印加されていない時には入射光の偏極軸を90°だけ回転させるように、電子的に切り替え可能な能動偏極回転子と、
d.x方向に反射軸を有する第2の静的反射偏光子と、
を含む電子的調光可能光学装置であって、
前記装置は、前記能動吸収偏光子及び前記能動偏極回転子に電圧が印加されていない時に最大の反射率を有し、前記能動吸収偏光子及び前記能動偏極回転子に最大電圧が印加された時に最小の反射率を有するよう構成され、前記装置が最大の反射率を有する時に、光のx方向偏波と、これに直交する方向の偏波の両方を反射する、光学装置。」

へと補正することを含むものである(下線部は補正箇所である。)。

2 本件補正の適否の判断
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「前記装置は、」「最大の反射率を有」することについて、「前記装置が最大の反射率を有する時に、光のx方向偏波と、これに直交する偏波の両方を反射する、」との限定を付加するものである。そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるといえる。よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明の認定
本件補正発明は、上記1において、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1として記載されるとおりのものである。

(2)引用文献1の記載事項
ア 原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2001-318374号公報(平成13年11月16日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載があるものと認められる(下線は当審が付した。以下同じ。)。
(ア)「【特許請求の範囲】」、
「所望の画像を表示するための画像光を出射する画像表示部と、前記画像表示部に重畳して配置された、前記画像光を透過する画像透過状態と外光を反射する鏡状態とに切り替え可能な鏡機能部とを有し、該鏡機能部は、前記画像表示部側から順に配置された、反射型偏光選択手段と、透過偏光軸可変手段と、吸収型偏光選択手段とを含み、前記反射型偏光選択手段は、予め定めた偏光軸の第1の偏光を透過し、前記第1の偏光と偏光軸が交差する第2の偏光を反射し、前記透過偏光軸可変手段は、入射した前記第1の偏光を前記第2の偏光へ変化させて透過する状態と、入射した光の偏光軸を変化させないで透過する状態とに切り替え可能であり、前記吸収型偏光選択手段は、前記第1の偏光および前記第2の偏光のうち一方を透過し、他方を吸収し、前記画像表示部は、前記第1の偏光を透過し、前記第2の偏光を吸収する画像光用偏光選択手段を備え、前記画像光用偏光選択手段を透過した前記第1の偏光を前記画像光として出射することを特徴とする画像表示状態と鏡状態とを切り替え可能な装置。」(【請求項1】)、
「請求項1に記載の装置において、前記鏡機能部を前記画像透過状態と前記鏡状態とで切り替えるための切り替え手段を有し、該切り替え手段は、前記透過偏光軸可変手段を前記第1の偏光を前記第2の偏光へ変化させる状態に切り替えることにより、前記鏡機能部を前記画像透過状態に切り替え、前記透過偏光軸可変手段を前記入射した偏光軸を変化させないで透過する状態に切り替えることにより、前記鏡機能部を前記鏡状態に切り替えることを特徴とする画像表示状態と鏡状態とを切り替え可能な装置。」(【請求項2】)、
「請求項1に記載の装置において、前記鏡機能部を前記画像透過状態と前記鏡状態とで切り替えるための切り替え手段を有し、該切り替え手段は、前記透過偏光軸可変手段を前記入射した偏光軸を変化させないで透過する状態に切り替えることにより、前記鏡機能部を前記画像透過状態に切り替え、前記透過偏光軸可変手段を前記第1の偏光を前記第2の偏光へ変化させる状態に切り替えることにより、前記鏡機能部を前記鏡状態に切り替えることを特徴とする画像表示状態と鏡状態とを切り替え可能な装置。」(【請求項3】)、
「所望の画像を表示するための画像光を出射する画像表示部と、前記画像表示部に重畳して配置された、前記画像光を透過する画像透過状態と外光を反射する鏡状態とに切り替え可能な鏡機能部とを有し、該鏡機能部は、前記画像表示部側から順に配置された、第1の反射型偏光選択手段と、透過偏光軸可変手段と、第2の反射型偏光選択手段と、可変偏光選択手段とを含み、前記第1の反射型偏光選択手段は、予め定めた偏光軸の第1の偏光を透過し、前記第1の偏光と偏光軸が交差する第2の偏光を反射し、前記透過偏光軸可変手段は、入射した前記第1の偏光を前記第2の偏光へ変化させて透過する状態と、入射した光の偏光軸を変化させないで透過する状態とに切り替え可能であり、前記第2の反射型偏光選択手段は、前記第1の偏光および前記第2の偏光のうち一方を反射し、他方を透過し、前記可変偏光選択手段は、前記第1の偏光および第2の偏光のうち一方を吸収し、他方を透過する状態と、全偏光成分を透過する状態とに切り替え可能であり、前記画像表示部は、前記第1の偏光を透過し、前記第2の偏光を吸収する画像光用偏光選択手段を備え、前記画像光用偏光選択手段を透過した前記第1の偏光を前記画像光として出射することを特徴とする画像表示状態と鏡状態とを切り替え可能な装置。」(【請求項4】)、
「請求項4に記載の装置において、前記鏡機能部を前記画像透過状態と前記鏡状態とで切り替えるための切り替え手段を有し、該切り替え手段は、前記透過偏光軸可変手段を、前記第1の偏光を前記第2の偏光へ変化させる状態に切り替えるとともに、前記可変偏光選択手段を、前記第1の偏光を吸収し前記第2の偏光を透過する状態に切り替えることにより、前記鏡機能部を前記画像透過状態に切り替え、前記透過偏光軸可変手段を、前記入射した偏光軸を変化させないで透過する状態に切り替えるとともに、前記可変偏光選択手段を、前記全偏光成分を透過する状態に切り替えることにより、前記鏡機能部を前記鏡状態に切り替えることを特徴とする画像表示状態と鏡状態とを切り替え可能な装置。」(【請求項5】)、
「請求項4に記載の装置において、前記鏡機能部を前記画像透過状態と前記鏡状態とで切り替えるための切り替え手段を有し、該切り替え手段は、前記透過偏光軸可変手段を、前記入射した偏光軸を変化させないで透過する状態に切り替えるとともに、前記可変偏光選択手段を、前記第2の偏光を吸収し前記第1の偏光を透過する状態に切り替えることにより、前記鏡機能部を前記画像透過状態に切り替え、前記透過偏光軸可変手段を、前記第1の偏光を前記第2の偏光へ変化させる状態に切り替えるとともに、前記可変偏光選択手段を、前記全偏光成分を透過する状態に切り替えることにより、前記鏡機能部を前記鏡状態に切り替えることを特徴とする画像表示状態と鏡状態とを切り替え可能な装置。」(【請求項6】)

(イ)「【発明の属する技術分野】」、
「本発明は、表示画面を鏡に切り替えることができる鏡機能付き表示装置およびこれを備えた機器、または、鏡を画像表示画面に切り替えることができる画像表示機能付き鏡およびこれを備えた機器に関する。」(【0001】)

(ウ)「【従来の技術】」、
「外光を反射する鏡状態に切り替え可能な表示装置(或いは表示機能を備えた鏡)としては、例えば特開平11-15392号公報や特開平11-291817号公報等に記載されているように、液晶表示装置等の画像表示部材の前面にハーフミラー素材を配置した表示装置が知られている。これらの表示装置では、照明装置が消灯時、或いは画像が暗表示の場合には、ハーフミラー素材で反射される外光がハーフミラー素材を透過する画像光より多くなるため、鏡状態となる。一方、照明装置が点灯時、或いは画像が明表示の場合には、ハーフミラー素材を透過する画像光はハーフミラー素材で反射する外光より多くなるため、画像表示状態となる。即ち、これらの表示装置では、ハーフミラー素材背面の画像表示部材の明るさを切り替えることで、同一観察面を鏡状態と画像表示状態とに切り替え可能にしたものである。」(【0002】)、
「また、国際公開番号WO99/04315の再公表公報には、画像表示が観察されるシャッタ開状態と画像表示が観察されないシャッタ閉状態とに切り替え可能な液晶表示装置が開示されている。この公報によれば、シャッタ閉状態の際には、外光が反射され”メタル調”になると記載されている。」(【0003】)、
「このWO99/04315の再公表公報の液晶表示装置は、電極を備えた一対の基板の間隙に液晶層を封入した液晶表示パネルを2枚積み重ね、この積み重ねた2枚の液晶表示パネルの上面と、下面と、2枚の液晶表示パネルの間の3カ所に偏光板を配置したものである。これらの偏光板のうち、液晶表示パネルの間に配置する偏光板として、所定の直線偏光は透過し、これと偏光軸が直交する直線偏光は反射する反射型偏光板を用いている。反射型偏光板の透過偏光軸は、積み重ねた2枚の液晶表示パネルの上面の偏光板の透過偏光軸と平行にしている。また、上側(観察者側)の液晶表示パネルとしては、液晶としてツイストネマティック型液晶を用いている。このような構成では、上側の液晶表示パネルの液晶層に印加する電圧が小さい場合には、上面の偏光板を透過した光は、液晶層を透過する際に偏光方向が90度回転して反射型偏光板に至るため、反射型偏光板の反射特性により強く反射される。これにより、”メタル調”のシャッタ閉状態となる。一方、上側の液晶表示パネルの液晶層に印加する電圧が大きい場合には、上面の偏光板と上側の液晶表示パネルと反射型偏光板とが実効的に透明な状態となり、下側の液晶表示パネルの画像表示が観察されるシャッタ開状態となる。すなわち、上側の液晶表示パネルへの印過電圧により、外光が反射され”メタル調”を呈するシャッタ閉状態と、下側の液晶表示パネルの表示が観察されるシャッタ開状態とを切り替えることができる。」(【0004】)

(エ)「【発明が解決しようとする課題】」、
「上記従来の表示装置は、外光を反射する鏡のような状態に切り替え可能であるが、この鏡のような状態は、人が自分の顔や姿を映して観察する鏡として使用するには不十分である。これを具体的に以下説明する。」(【0005】)、
「上記特開平11-15392号公報や特開平11-291817号公報の表示装置は、ハーフミラーを用いているため、外光を反射する鏡状態の明るさは、ハーフミラーの反射率に依存する。このため、人が自分の顔や姿を映し出す鏡として使用できる明るい鏡にするには、ハーフミラーの反射率を高める必要がある。しかしながら、ハーフミラーの反射率を高めると、画像表示状態の際にハーフミラー素材で反射される光の分だけ画像の光量が低下するため、表示画像が暗くなる。すなわち、画像表示状態での画像の明るさと、鏡状態での鏡の明るさはトレードオフの関係にあるため、明るい画像表示と明るい鏡の両立が困難である。このため、ハーフミラーを用いる表示装置の鏡状態の明るさを、人が自分の顔や姿を映して観察する鏡として使用できるほどまで高めることは難しい。」(【0006】)、
「また、このようなハーフミラーを用いる表示装置では、明るい環境下で用いると、画像表示状態であっても、外光の一部がハーフミラーで反射する。このため画像表示状態において外光の映り込みや、外光の反射による画像のコントラスト比の低下といった画質の劣化を生じる。」(【0007】)、
「また、上述の国際公開番号WO99/04315の再公表公報の表示装置では外光の反射機能を、人が自分の顔や姿を映して観察する鏡として機能させようとした場合に以下の問題を生じる。」(【0008】)、
「この表示装置では、2枚の液晶パネルのうち上側(観察者側)の液晶パネルの液晶層に印加する電圧が小さい場合に”メタル調”のシャッタ閉状態となる。このとき、外部から入射した光は、上面の偏光板を透過し、上側の液晶パネルの液晶層を透過し、反射型偏光板で反射されて再び外部へ戻る。これにより、鏡のような反射を呈する。一方、下側の液晶パネルから出射された画像表示光のうち、暗表示部光として偏光の状態を制御された光は、上記反射型偏光板の透過偏光軸と偏光軸が直交しているため、この反射型偏光板により反射され、外部へは出射されない。しかしながら、現実には、透過偏光軸と直交する方向の反射率が100%という完全な反射型偏光板は存在しないため、一部の暗表示部光は反射型偏光板を透過する。反射型偏光板を透過した暗表示光は、上側の液晶パネルの液晶層を通過することにより偏光軸が上面の偏光板の透過偏光軸と一致するため、これを透過して観察者に視認される。すなわち、シャッタ閉の鏡状態の際に、画像の暗表示部から外部に光漏れが生じる。」(【0009】)、
「また、下側の液晶パネルから出射される画像表示光のうち、明表示光として偏光状態を制御された光は、偏光軸が上記反射型偏光板の透過偏光軸と平行であるため、これを透過し、上側の液晶パネルの液晶層を通過する。その際に偏光軸が90度回転するため、偏光軸が上面の偏光板と直交し、上面の偏光板で吸収される。一般的に知られているように、液晶分子が層厚方向に連続的にツイストしたの液晶層に光を通過させて出射させる場合、層厚方向への液晶分子の傾斜やツイストの状態により、液晶層の斜め方向へ出射される光の偏光状態が異なるため、斜め方向へ出射される光には上面の偏光板の透過偏光軸と平行な偏光成分が含まれる。このため、表示装置の正面方向よりも斜め方向から、多くの光漏れが生じて、観察者に視認されることになる。」(【0010】)、
「発明者らが、国際公開番号WO99/04315の再公表公報の表示装置とほぼ同様の表示装置を実際に作成して、シャッタ閉状態における光の漏れを測定した結果を、図44に示す。図44のグラフは、表示装置をシャッタ開状態で画像表示した場合に明表示部で輝度450cd/m^(2)が得られるように下側の液晶パネルで画像表示をさせ、その状態で、上側の液晶パネルをシャッタ閉状態として、表示装置の前面からの光漏れを測定したデータである。図44の横軸は、表示装置の表示部上の位置を示し、縦軸が、正面方向での輝度値を示す。」(【0011】)、
「図44のように、暗表示部の正面方向の光漏れは、輝度値24?28cd/m^(2)であり、明表示部の正面方向の光漏れは、輝度値4?5cd/m^(2)であった。よって、正面方向の光漏れは、暗表示部の方が明表示部よりも約7倍大きかった。また、暗表示部での光の漏れは位置に対して不均一であり、色むらも認められた。なお、輝度値4?5cd/m^(2)という値は、薄暗い環境下であれば十分に視認できる値である。また、斜め方向から観察した場合は、方向によっては明表示部から4?5cd/m^(2)以上の光の漏れが観察された。このように、従来の表示装置のシャッタ閉状態を鏡として機能させようとすると、光の漏れのために反射像のコントラスト比が著しく低減する。このため、人の顔や姿を映し出す鏡としては、十分ではない。」(【0012】)、
「なお、反射型偏光板として、例えば国際出願の国際公開番号:WO95/27919号に開示されている異なる複屈折性高分子フィルムを交互に複数層積層した複屈折反射型偏光フィルムを用いることができる。このような反射型偏光板は、通常、液晶素子の裏面側に配置する偏光板と照明装置(バックライト)との間に配置して、照明光の利用効率を向上する目的に使用する場合に極めて高い効果が得られるものである。しかしながら、本発明が目的とするような鏡性能を実現する場合には所定の偏光に対する光の漏れが大きな問題となるためこのような反射型偏光板だけでは十分な鏡性能を得ることができない。」(【0013】)、
「本発明は、高画質な画像を表示する状態と、人が自分の顔や姿を映して観察するのに適した見やすい反射像が得られる鏡状態とに切り替え可能な装置を提供することを目的とする。」(【0014】)

(オ)「【課題を解決するための手段】」、
「上記目的を達成するために、本発明によれば、以下のような構成の、画像表示状態と鏡状態とを切り替え可能な装置が提供される。」(【0015】)、
「すなわち、所望の画像を表示するための画像光を出射する画像表示部と、前記画像表示部に重畳して配置された、前記画像光を透過する画像透過状態と外光を反射する鏡状態とに切り替え可能な鏡機能部とを有し、該鏡機能部は、前記画像表示部側から順に配置された、反射型偏光選択手段と 透過偏光軸可変手段と、吸収型偏光選択手段とを含み、前記反射型偏光選択手段は、予め定めた偏光軸の第1の偏光を透過し、前記第1の偏光と偏光軸が交差する第2の偏光を反射し、前記透過偏光軸可変手段は、入射した前記第1の偏光を前記第2の偏光へ変化させて透過する状態と、入射した光の偏光軸を変化させないで透過する状態とに切り替え可能であり、前記吸収型偏光選択手段は、前記第1の偏光および第2の偏光のうち一方を透過し、他方を吸収し、前記画像表示部は、前記第1の偏光を透過し、前記第2の偏光を吸収する画像光用偏光選択手段を備え、前記画像光用偏光選択手段を透過した前記第1の偏光を前記画像光として出射することを特徴とする画像表示状態と鏡状態とを切り替え可能な装置である。」(【0016】)

(カ)「【発明の実施の形態】」、
「本実施の形態では、画像表示状態と鏡状態とが切り替え可能な装置(すなわち鏡機能付き表示装置、或いは表示機能付き鏡)を提供する。この装置は、鏡状態では、画像表示光の光漏れを防止して、明るく、コントラスト比の高い反射像を得ることができる。よって、本実施の形態の装置は、鏡状態の場合には、人が自分の顔や姿を映し出し、観察するのに適している。一般的に、人の顔の見え方は、部位の大きさ、輝度値、コントラスト比(輝度対比)等の物理量に依存すると考えられており、コントラスト比(輝度対比)が大きいほど見え易さの評価が高いことが評価実験により確認されている(奥田紫乃、佐藤隆二:人の顔の見え方に対する評価法の構築に関する基礎検討、照明学会誌、第84巻、第11号、pp809-814)。また、本実施の形態の装置は、画像表示状態では、明るい環境下であっても外光の映り込みやコントラスト比の低下といった画質の劣化が少なく、明るい画像が得られる。」(【0017】)、
「以下、本発明の実施の形態の鏡状態への切り替え機能付き表示装置を図1?図6を参照して説明する。」(【0018】)

(キ)「まず、第1の実施の形態の鏡状態への切り替え機能付き表示装置の基本構成と動作を図1及び図2を用いて説明する。」(【0019】)、
「第1の実施の態様の表示装置は、図1のように、順に配置された、画像表示部1000と、反射型偏光選択部材300と、透過偏光軸可変部400と、吸収型偏光選択部材500とを有している。画像表示部1000は、予め定めた方向の直線偏光成分を透過し、それと直交する方向の直線偏光成分を吸収する吸収型偏光選択部材208を含み、この吸収型偏光選択部材208は、反射型偏光選択部材300側に配置されている。本実施の形態では、画像表示部1000は、照明装置と、液晶層と、液晶層を挟む2枚の吸収型偏光選択部材とを含む。2枚の吸収型偏光選択部材のうち出射側ものが、吸収型偏光選択部材208である。液晶層に印加する電圧を明表示領域と暗表示領域とで変化させて、明表示領域からは吸収型偏光選択部材208を透過する直線偏光を出射させ、暗表示領域では吸収型偏光選択部材208で光を吸収させて、光を出射させない。これにより、画像を表示する構成である。よって、画像表示部1000から出射される画像光(明表示光)は、吸収型偏光選択部材208の透過偏光軸と一致した偏光軸を有する直線偏光である。以下、画像光の偏光軸と同じ方向の偏光軸を有する直線偏光を「第1の直線偏光」と称する。また、第1の直線偏光と偏光軸が直交する方向の直線偏光を「第2の直線偏光」と称する。」(【0020】)、
「反射型偏光選択部材300は、予め定めた方向の直線偏光成分を透過し、それと直交する直線偏光成分を反射する部材である。ここでは、反射型偏光選択部材300は、第1の直線偏光成分は透過し、第2の直線偏光成分は反射する向きに配置している。」(【0021】)、
「透過偏光軸可変部400は、入射した直線偏光光が透過する際にその偏光軸を変化させる状態と、偏光軸を変化させない状態とを、電気的な切り替えにより選択できる構造を有する素子である。本実施の形態では、透過偏光軸可変部400として、液晶層407と、液晶層407に電圧を印加するための透明電極403、406とを含む液晶素子を用いている。透明電極403には、電圧のオンオフを切り替える切り替えスイッチ813が接続されている。切り替えスイッチ813により、液晶層407に印加する電圧をオフにしているときには、液晶層407は、入射した直線偏光の偏光軸を変化させる状態であり、電圧をオンにすると偏光軸を変化させない状態となる。本実施の形態では、液晶層407は、液晶分子407aの長軸が、電圧オフのときに、透明電極403と透明電極406との間で連続的に90°捩じれるように構成した、いわゆるツイストネマティック(TN)型液晶である。液晶層407の配向方向は、反射型偏光選択部材300側から入射した第1の直線偏光を第2の直線偏光へ変化させる方向に定めている。一方、電圧オンの場合、液晶層407の液晶分子407aは、図2のように透明電極403、406に対して垂直に立った状態となり、入射した光の偏光軸を変化させない状態となる。」(【0022】)、
「吸収型偏光選択部材500は、予め定めた方向の直線偏光成分を透過し、それと直交する方向の直線偏光成分を吸収する部材である。ここでは、吸収型偏光選択部材500は、入射した光のうち第1の直線偏光成分は吸収して、第2の直線偏光成分は透過するように配置されている。」(【0023】)、
「尚、観察者は、吸収型偏光選択部材500側(図1中の紙面左側)から本表示装置を観察することになる。」(【0024】)、
「つぎに、第1の実施の形態の表示装置の動作を図1および図2を用いて説明する。」(【0025】)、
「本実施の形態の表示装置を画像表示状態で使用する場合には、図1のように、切り替えスイッチ813をオフにして、透過偏光軸可変部400の液晶層407の液晶分子407aが90゜捻れた状態に設定する。この状態で、画像表示部1000から所望の表示の画像光(明表示光)3001を出射させる。画像光3001は、画像表示部1000の吸収型偏光選択部材208を通過している光であるため、第1の直線偏光である。よって、画像光3001の偏光軸は、反射型偏光選択部材300の透過偏光軸と一致しており、反射型偏光選択部材300を透過して、透過偏光軸可変部400に入射する。上述のように、透過偏光軸可変部400の液晶層407はオフ状態に設定されているため、入射した第1の直線偏光の画像光3001は、液晶分子407aの捻れに沿ってその偏光軸が回転して第2の直線偏光となって出射される。第2の直線偏光となった画像光3001は、偏光軸が吸収型偏光選択部材500の透過偏光軸と一致しているため、これを透過して、観察者に観察される。」(【0026】)、
「一方、画像表示状態のときに観察者側から表示装置へ入射する外光3002は非偏光であるが、吸収型偏光選択部材500を透過する際、第1の直線偏光成分は吸収され、第2の直線偏光成分のみが透過する。吸収型偏光選択部材500を透過した第2の直線偏光の外光3002は、透過偏光軸可変部400を透過する際に、第2の直線偏光から第1の直線偏光に変化する。これにより、偏光軸が反射型偏光選択部材300の透過偏光軸と一致するため、反射型偏光選択部材で反射されることなく透過して画像表示部1000に入射する。入射した第1の直線偏光の外光3002は、偏光軸が吸収型偏光選択部材208の透過偏光軸と一致しているため、吸収型偏光選択部材208を透過し、画像表示部1000の液晶層に入射する。このとき、暗表示領域に入射した光は、液晶層よりも照明装置側に配置されている吸収型偏光選択部材によって吸収される。よって、観察者側には戻ってこない。また、明表示領域に入射した光は、光源側の吸収型偏光選択部材も透過して照明装置に至る。照明装置に至った光の一部は、これにより反射されるが、反射された光は照明光と実質的に変わりなく、照明光の一部となるため、画質を劣化させる外光の反射とはならない。すなわち、本実施の形態の表示装置では、画像表示状態のときに、外光が入射しても、画質を劣化させる外光の反射はほとんどない。」(【0027】)、
「このように、本実施の形態の表示装置は、画像表示状態では、画像光3001がほとんど損失することなく観察者へ向かうため明るい画像が得られる。一方、外光3002は表示装置ではほとんど反射されないので、映り込みやコントラスト比の低下等の外光の反射による画質の劣化がほとんどない。」(【0028】)、
「つぎに、本実施の形態の表示装置を鏡状態に切り替えて使用する場合について説明する。この場合、図2のように、切り替えスイッチ813をオンにして、透過偏光軸可変部400の液晶層407の液晶分子407aを立たせた状態に設定する。」(【0029】)、
「このとき、観察者側から本表示装置へ向かう外光3002は非偏光であるが、吸収型偏光選択部材500を透過する際、第1の直線偏光成分は吸収され、第2の直線偏光成分のみが透過し、透過偏光軸可変部400に入射する。透過偏光軸可変部400は、液晶層407の液晶分子407aが立った状態であるため、入射した外光3002は偏光状態が変化することなく第2の直線偏光のまま透過偏光軸可変部400を透過し、反射型偏光選択部材300に至る。反射型偏光選択部材300の反射偏光軸は、第2の直線偏光の偏光軸と一致しているため、外光3002は反射型偏光選択部材300によって反射される。反射型偏光選択部材300で反射した外光3002は、再び透過偏光軸可変部400に入射し、第2の直線偏光のままこれを透過して出射され、さらに吸収型偏光選択部材400も透過して観察者へ向かう。これにより、外光3002の反射像が得られ鏡状態が実現する。」(【0030】)、
「この鏡状態のときに、画像表示部1000から出射される画像光(明表示光)3001は、吸収型偏光選択部材208を透過した第1の直線偏光であるため、反射型偏光選択部材300を透過して透過偏光軸可変部400に入射する。透過偏光軸可変部400はオン状態であるため、画像光3001の偏光状態は変化することなく第1の直線偏光のままこれを透過し、吸収型偏光選択部材500に入射する。第1の直線偏光は、吸収型偏光選択部材500の吸収偏光軸に一致しているため、吸収型偏光選択部材500で吸収されて観察者には観察されない。」(【0031】)、
「つまり、鏡状態の場合には画像表示部材からの光は観察者に至ることがなく、一方、周囲から表示装置に入射する外光3002は理想的には非偏光の半分の光が反射型偏光選択部材300で反射して、観察者側に向かうため明るい鏡として機能する。」(【0032】)、
「なお、鏡状態の場合、本実施の形態の表示装置は、国際公開番号WO99/04315の再公表公報の表示装置と比較して、光漏れを大幅に減少させることができる。国際公開番号WO99/04315では、鏡状態において反射型偏光板の反射性能に起因する暗表示部からの光漏れが問題であったが、本実施の形態の表示装置では、画像表示部1000が吸収型偏光選択部材208を備え、暗表示領域の照明光を吸収しているため、暗表示領域では反射型偏光選択部材300に光が到達しない。このため、反射型偏光選択部材300の性能の如何に関わらず、暗表示領域からの光漏れはほとんど観察されない。」(【0033】)、
「また、本実施の形態の表示装置は、鏡状態のときに、透過偏光軸可変部400をオンにして、液晶分子407aを立たせる構成である。一般にネマティック型液晶は、電圧オンの液晶分子を立たせた状態の方が、電圧オフの液晶分子が捻れた状態のときよりも、斜め方向に出射させる光の偏光軸のずれは小さい。このため、本実施の形態の表示装置は、従来の技術で述べた鏡状態で電圧オフにする構成のものと比較して、鏡状態のときに画像光(明表示光)3001の斜め方向への光漏れが少ないという効果も得られる。」(【0034】)、
「鏡状態における画像表示部1000からの光の漏れを図3及び図4のグラフを用いて具体的に説明する。図3が明表示領域、図4が暗表示領域での光の漏れの大小を輝度値で表している。これらのグラフは、表示装置が画像表示状態の場合に輝度450cd/m^(2)の明表示を行う場合のデータであり、横軸が表示装置の表示部上の位置を示し、縦軸が正面方向、すなわち画面に対して垂直方向での輝度値を示す。また、図3,図4には、画像表示部1000の吸収型偏光選択部材208としてAタイプ偏光板、Bタイプ偏光板、Cタイプ偏光板を用いた構成のそれぞれの光漏れと、画像表示部1000から吸収型偏光選択部材208を取り去って、他の構成は本実施の形態の表示装置と同様にした装置の光漏れとを示した。なお、吸収型偏光選択部材208を取り去った構成であっても、画像表示状態では通常レベルの画像が表示できた。また、A,B,Cタイプ偏光板の詳細は後述する。」(【0035】)、
「図3に示すとおり、鏡状態における明表示領域では、吸収型偏光選択部材208を用いる本実施の形態の表示装置の方が、吸収型偏光選択部材208がない装置よりも、光の漏れが半分程度に抑えられる。このため、本実施の形態の表示装置は、コントラスト比が高い反射像を映し出す鏡が実現できる。また、鏡状態における暗表示領域部では、図4に示すとおり、吸収型偏光選択部材208を用いる本実施の形態の表示装置は、光の漏れがほんとんどないため、コントラスト比がより高く見やすい反射像を映し出す鏡を実現ができる。一方、吸収型偏光選択部材208を用いない表示装置では、図4のように暗表示領域で多くの光漏れが生じている。」(【0036】)、
「これらのことから、本実施の形態の表示装置は、鏡状態のとき、画像表示部1000の表示を暗表示とすることでより、視認性の良い鏡が実現できることを示す。このことは、図3,図4で光漏れを示した吸収型偏光選択部材(偏光板)208を備えない構成の表示装置および図44で光漏れを示した従来の表示装置が、暗表示部の方が明表示部よりも光の漏れが多いことと対照的である。」(【0037】)、
「よって、本実施の形態では、画面全面を鏡状態とする場合には、画像表示部1000全体を暗表示もしくは画像表示部1000の照明装置自体を非発光状態とする。また、透過偏光軸可変部400の一部領域のみを電圧オン状態として、画面の一部のみを鏡状態とする場合には、鏡状態とする領域と重なる領域の画像表示部1000を暗表示もしくは非発光状態とする。これにより、鏡状態の部分からの光漏れを減少させ、高いコントラスト比の反射像を映し出すことができる。」(【0038】)、
「具体的には、鏡状態に切り替えるために、切り替えスイッチ813がオンに切り替えられたならば、切り替えスイッチ813と連動させて画像表示部1000の液晶素子を暗表示にする回路を設けるか、もしくは画像表示部1000の液晶素子の背面の照明装置を消灯させる回路を設ける構成にすることができる。鏡状態の場合に照明装置を消灯させるようにした場合には、表示装置の消費電力の低減が可能となる。なお、画面の一部だけを鏡状態とし、残りの部分に画像を表示する場合には、液晶素子の背面の照明装置を消灯すると画像表示領域の表示が暗くなるため、鏡状態とする領域と重なる領域の画像表示部1000を暗表示とすることが望ましい。これにより、高コントラスト比な反射像を実現する鏡状態の実現と、明るい画像表示を同一画面上に同時に実現することが可能となる。」(【0039】)、
「また、画像表示部1000としては、液晶素子を用いるものの他、有機エレクトロルミネッセンス(EL:electroluminescence)素子のような自発光型の表示部を用いることもできる。EL素子の反射型偏光選択部材300と対向する位置に吸収型偏光選択部材208を備える構成とする。EL素子を用いる場合には、鏡状態への切り替えと連動させて、EL素子の発光自体を止めて暗表示状態にすることにより、原理的に光の漏れをなくすことができる。これにより、高コントラスト比の反射像が得られる高品位な鏡状態を実現できるとともに、表示装置の消費電力の低減が可能となる。」(【0040】)、
「また、画像表示部1000の照明装置の光源としてメタルハライドランプなどの放電ランプを用い、これを液晶素子とを組み合わせることにより、本実施の形態の表示装置を投射型表示装置にすることができる。この場合、放電ランプは点灯と消灯を素早く行うことができないため、鏡状態への切り替えに連動させて、画像表示部1000の表示を暗表示とすることで光漏れを低減させる構成にすることが望ましい。」(【0041】)、
「なお、第1の実施の形態では、図1,図2のように吸収型偏光選択部材500として、透過偏光軸が第2の直線偏光の偏光軸と平行であり、吸収偏光軸が第1の直線偏光の偏光軸と平行なものを用いたが、本発明はこれに限定されるものではなく、透過偏光軸が第1の直線偏光の偏光軸と平行であり、吸収偏光軸が第2の直線偏光の偏光軸と平行なものを用いることができる。この場合、透過偏光軸可変部400を入射した偏光軸を変化させないで透過する状態(電圧オンの状態)に切り替えることにより、表示装置を画像透過状態に切り替え、透過偏光軸可変部400を第1の偏光を第2の偏光へ変化させる状態(電圧オフの状態)に切り替えることにより、表示装置を鏡状態に切り替える構成となる。」(【0042】)(審決注:第1文の「第1の直線偏光」及び「第2の直線偏光」は、それぞれ、「第2の直線偏光」及び「第1の直線偏光」の誤記であると認められるので、誤記を正した上で認定した。)

(ク)「次に、本発明の第2の実施の形態の鏡状態への切り替え機能付き表示装置について、基本構成と動作を図5,図6を用いて説明する。」(【0043】)、
「第2の実施の形態の表示装置は、第1の実施の形態の図1及び図2の表示装置の吸収型偏光選択部材500を、反射型偏光選択部材301と可変偏光選択部材600との組み合わせに置き換えたものである。他の構成は、第1の実施の形態の表示装置と同様であるので、同一部には同じ符号を付け詳細な説明は省略する。」(【0044】)、
「反射型偏光選択部材301は、透過偏光軸可変部400に対向する位置に配置され、反射型偏光選択部材301よりも観察者側に可変偏光選択部材600が配置されている。反射型偏光選択部材301は、第1の直線偏光成分は反射して第2の直線偏光成分は透過する構成である。可変偏光選択部材600は、入射した光のうち第1の直線偏光成分は吸収して第2の直線偏光成分は透過する状態と、全偏光成分を透過する状態とのいずれかを選択可能な構成である。」(【0045】)、
「第2の実施の形態の表示装置は、透過偏光軸可変部400による偏光状態の制御と、可変偏光選択部材600による偏光の吸収または透過の制御とにより画像表示状態と鏡状態とを切り替えられる構成としたものである。尚、観察者は可変偏光選択部材600側から表示装置を観察する。」(【0046】)、
「ここでは、可変偏光選択部材600として、ゲストホスト型の液晶層607と、液層層607に電圧を印加する透明電極603、606と、切り替えスイッチ600aとを含むものを用いる。切り替えスイッチ600aがオフのときには、図5のように液晶層607の液晶分子607aの長軸が第1の直線偏光と平行になるように、液晶層607を配向させている。これにより、可変偏光選択部材600は、オフ状態では、第1の直線偏光成分は吸収し、これと偏光軸が直交する第2の直線偏光成分は透過する。また、切り替えスイッチ600aがオンのときには、図6のように液晶分子607aが透明電極603,606に垂直となるため、可変偏光選択部材600は、全偏光成分を透過する。」(【0047】)、
「第2の実施の形態の表示装置が画像表示状態の場合の動作を図5を用いて説明する。画像表示状態にする場合、切り替えスイッチ813をオフにして透過偏光軸可変部400をオフ状態とするとともに、これと連動させて切り替えスイッチ600aもオフにして可変偏光選択部材600をオフ状態とする。」(【0048】)、
「画像表示部1000から出射した画像光3001は、反射型偏光選択部材300を透過して、透過偏光軸可変部400に入射する。このとき透過偏光軸可変部400はオフ状態であるため、通過する画像光3001は第1の直線偏光から第2の直線偏光に変化する。透過偏光軸可変部400を透過した画像光3001は第2の直線偏光となっているため、偏光軸が反射型偏光選択部材301の透過偏光軸と一致しており、これを透過する。さらに、オフ状態の可変偏光選択部材600の透過偏光軸とも一致しているため、これも透過し、観察者に観察される。」(【0049】)、
「一方、観察者側から画像表示状態の表示装置へ入射する外光3002は、非偏光であるが、可変偏光選択部材600はオフ状態であるため、可変偏光選択部材の吸収偏光軸と一致する第1の直線偏光成分は吸収され、透過偏光軸と一致する第2の直線偏光成分のみが透過する。可変偏光選択部材600を透過した第2の直線偏光の外光3002は、反射型偏光選択部材301を透過し、透過偏光軸可変部400を透過する際、第2の直線偏光光から第1の直線偏光光に変化し、第1の反射型偏光選択部材300を透過して画像表示部1000の液晶層に入射する。このとき、第1の実施の形態で説明したように、暗表示領域に入射した光は、液晶層よりも照明装置側に配置されている吸収型偏光選択部材によって吸収される。よって、観察者側には戻ってこない。また、明表示領域に入射した光は、光源側の吸収型偏光選択部材も透過して照明装置に至り、一部は反射されるが、反射された光は照明光と実質的に変わりなく、照明光の一部となる。すなわち、本実施の形態の表示装置では、画像表示状態のときに、外光が入射しても、画質を劣化させる外光の反射はほとんどない。」(【0050】)、
「従って、画像表示状態では画像光3001はほとんど損失することなく観察者へ向かうため明るい画像が得られる。また、外光3002は表示装置でほとんど反射されないので外光の映り込みやコントラスト比の低下といった画質劣化は生じない。」(【0051】)、
「つぎに、第2の実施の形態の表示装置が鏡状態の場合について、その動作を図6を用いて説明する。鏡状態の場合、切り替えスイッチ813および切り替えスイッチ600aを連動させてオンにし、透過偏光軸可変部400および可変偏光選択部材600はオン状態とする。」(【0052】)、
「鏡状態の場合、観察者側から表示装置へ入射した外光3002は、図6のように、全ての偏光成分が可変偏光選択部材600を透過する。可変偏光選択部材600を透過した外光3002は、反射型偏光選択部材301に入射する。反射型偏光選択部材301に入射した外光3002のうち、第2の直線偏光成分は反射型偏光選択部材301を透過し、第1の直線偏光成分は反射型偏光選択部材301で反射され、再び可変偏光選択部材600を透過して観察者側へ向かう。一方、反射型偏光選択部材301を透過した第2の直線偏光成分は、偏光軸が変化することなく透過偏光軸可変部400を透過し、反射型偏光選択部材300で反射され、再び透過偏光軸可変部400と、反射型偏光選択部材301と可変偏光選択部材600を透過して観察者側へ向う。」(【0053】)、
「このように、第2の実施の形態の表示装置では、入射した外光3002は、反射型偏光選択部材300及び反射型偏光選択部材301により、そのほとんどの偏光成分が反射される。したがって、極めて明るい反射像が得られる鏡状態が得られる。」(【0054】)、
「一方、鏡状態の場合に、画像表示部1000から出射した画像光(明表示光)3001は、第1の実施の形態で説明したように、吸収型偏光選択部材208を通過しているため、第1の直線偏光である。よって、画像光3001は、反射型偏光選択部材300を透過した後、透過偏光軸可変部400を偏光軸が変化することなく第1の直線偏光のまま透過し、反射型偏光選択部材301で反射され、画像表示部1000へ戻るため、ほとんど観察者には観察されない。」(【0055】)、
「なお、鏡状態における画像表示部1000側からの光の漏れをより低減するためには、第1の実施の形態で述べたように、鏡状態となっている領域に相当する画像表示部1000の表示領域を暗表示とすることが望ましい。表示領域全体を鏡領域とする場合には、画像表示部の照明装置を非発光状態にすることにより、光の漏れをなくすようにすることもできる。」(【0056】)、
「このように、第2の実施の形態の表示装置では、鏡状態のときに外光3002のほとんど偏光成分が反射されるため、極めて明るい反射像が得られるとともに、画像光3001の光漏れが少なく、見やすい鏡が得られる。また、画像表示状態の場合には、第1の実施の形態と同様に、外光の映り込みこみが少なく、しかも、明るい画像を表示できる。」(【0057】)、
「なお、第2の実施の形態では、第2の反射型偏光選択部材301として、図5,図6のように反射偏光軸が第1の直線偏光の偏光軸と平行であり、透過偏光軸が第2の直線偏光の偏光軸と平行なものを用いたが、本発明はこの構成に限られるものではなく、反射偏光軸が第2の直線偏光の偏光軸と平行であり、透過偏光軸が第1の直線偏光の偏光軸と平行なものを用いることができる。この場合、透過偏光軸可変部400を、入射した偏光軸を変化させないで透過する状態(電圧オン状態)に切り替えるとともに、可変偏光選択部600を、第2の直線偏光を吸収し第1の直線偏光を透過する状態(電圧オフ状態)に切り替えることにより、表示装置を画像透過状態に切り替え、透過偏光軸可変部400を、第1の直線偏光を第2の直線偏光へ変化させる状態(電圧オフ状態)に切り替えるとともに、可変偏光選択部600を、全偏光成分を透過する状態(電圧オン状態)に切り替えることにより、表示装置を鏡状態に切り替える構成にすることができる。」(【0058】)

(ケ)「(実施例1)」、
「本発明の実施例1の、鏡状態への切り替え機能付き表示装置を図7,図8を用いて説明する。本実施例1の表示装置は、基本構成が第1の実施の形態の図1、図2に示した表示装置と同様である。」(【0073】)、
「第1の実施の形態と同様に、実施例1の図7の表示装置は、順に重ねられた、画像表示部1000と、反射型偏光選択部材300と、透過偏光軸可変部400と、吸収型偏光選択部材500とを有している。これらは、開口1071を有する筐体1070内に収容されている。開口1071が、鏡状態に切り替え可能な画像表示部となる。各部の作用は、第1の実施の形態で説明した通りである。」(【0074】)、
「画像表示部1000は、図7,図8に示したように、表示用液晶素子を含み、光の透過光量を調節することで画像を表示する液晶表示パネル200と、その背面に配置した照明装置100とを有する。液晶表示パネル200としてはTN(Twisted Nematic)モード、STN(Super Twisted Nematic)モード、ECB(Electrically Controlled Birefringence)モード等の表示モードを用いた液晶表示パネルを用いることが望ましい。このような、液晶表示パネルは偏光板を用いて液晶層に入射する光の偏光状態を変調することで表示を行うため、比較的低い駆動電圧で高いコントラスト比が得られる。また、液晶表示パネル200の反射型偏光選択部材300側に配置される吸収型偏光選択部材208として機能する偏光板により、画像光として直線偏光光が出射する。」(【0075】)、
「図8を用いて、実施例1の表示装置の各部の詳しい構成について説明する。」(【0077】)、
「このような構成により、液晶表示パネル200の背面(照明装置100側)から入射する照明光のうち、偏光板209を透過した直線偏光は、液晶層207を通過して吸収型偏光選択部材(偏光板)208に入射する。この際、液晶層207を透過する光の偏光状態は、液晶層207に印加する電圧によって変化させることができる。よって、画像情報発生部(不図示)から伝えられる画像情報に対応した電圧を透明電極203、205に印加して、液晶層207に電界を印加することで、液晶層207を通過する光の偏光状態を変え、吸収型偏光選択部材(偏光板)208を透過する光量を制御することができる。これにより、直線偏光光からなる所望の画像光を形成することができる。」(【0084】)、
「つぎに、反射型偏光選択部材300について説明する。」(【0085】)、
「反射型偏光選択部材300は、画像表示部1000から出射する第1の直線偏光成分は透過し、これと直交する偏光軸を有する第2の直線偏光成分は鏡面反射する機能を有するものを使用する。そのような部材としては、例えば国際出願の国際公開番号:WO95/27919号に開示されている異なる複屈折性高分子フィルムを交互に複数層積層した複屈折反射型偏光フィルム、或いは、コレステリック液晶層の表と裏に1/4波長板を配置したものを用いることができる。複屈折反射型偏光フィルムの場合、所定の直線偏光成分は透過し、これと偏光軸が直交する直線偏光成分は鏡面反射するフィルムが3M社(米国)からDBEFという商品名で市販されており、これを反射型偏光選択部材300として使用することができる。尚、反射型偏光選択部材300は、本表示装置を鏡状態にする場合に鏡面として機能する重要な部材であるため、マット処理等のように反射像をぼかすような処理がなされていないものを使用する。」(【0086】)、
「つぎに、透過偏光軸可変部400について説明する。」(【0095】)、
「透過偏光軸可変部400は、入射した直線偏光光が透過する際に、その偏光状態を変化させて、入射した直線偏光とは偏光軸が直交する直線偏光光へ変化させる状態と、偏光状態を変化させない状態のいずれかを選択可能な構成であり、例えば図8に図示するような液晶素子を用いることができる。」(【0096】)、
「この透過偏光軸可変部400は、ITOからなる透明電極403、及びポリイミド系高分子からなる配向膜404が全面的に積層形成された第1の透明基板401と、同じく透明電極406、及び配向膜405が全面的に積層形成された第2の透明基板402と、液晶層407とを含む。尚、2枚の透明基板401,402にそれぞれ形成された透明電極403、406は、図示しない配線、及び切り替えスイッチ813(図1参照、図8では不図示)を介して電源に接続されている。よって、透明電極403、406に電圧を印加しない状態と、電圧を印加する状態のいずれかの状態を選択可能に構成されている。つまり、透明電極403,406に電位差がなく、液晶層407に電界が印加されない状態と、透明電極403,406に電圧を印加し、液晶層407に電界が印加される状態のいずれかの状態を選択可能に構成されている。」(【0097】)、
「透過偏光軸可変部400の液晶層407は、2枚の透明基板401,402を配向膜の形成面が向かい合うように配置し、図示しないスペーサーを挟むことで2枚の透明基板401、402の間に一定の間隙を設け、この間隙の周囲をシール材410で枠状にシールして空間を形成し、この空間に誘電異方性が正のネマチック液晶を封入することで構成する。」(【0098】)、
「尚、ここでは透過偏光軸可変部400として、2枚の透明基板401,402に形成した配向膜404,405にそれぞれラビング処理等の配向処理を行い、液晶層407の液晶分子長軸を2枚の透明基板401,402間で連続的に90°捩じれるよう構成した、いわゆるTN液晶素子の場合を説明する。」(【0099】)、
「この場合、透明基板402側の液晶分子長軸の配向方向は液晶表示パネル200の吸収型偏光選択部材(偏光板)208の直線偏光透過偏光軸と平行、もしくは直交するように構成し、液晶層407は可視波長域においてウエーブガイドの条件を満たすように構成する。ウエーブガイドの条件は、例えばJ. Phys. D: Appl. Phys. Vol.8 (1975)の第1575?1584頁のC. H. GoochとH. A. Tarryによる論文に記載されている。」(【0100】)、
「ここでは液晶の複屈折をΔn、液晶層の厚さをdとした場合、d・Δn=0.4452(波長633nm)とした。」(【0101】)、
「上記構成により本実施例の透過偏光軸可変部400は、2枚の透明基板401,402にそれぞれ形成された透明電極403,406に電位差がなく、液晶層407に電界が印加されないオフ状態では、画像表示部1000から出射し、反射型偏光選択部材300を透過した第1の直線偏光はこれと偏光軸が直交する第2の直線偏光光へ変化する。 一方、2枚の透明基板401,402にそれぞれ形成された透明電極403,406に電圧を印加し、液晶層407に電界が印加されるオン状態では画像表示部1000から出射し、反射型偏光選択部材300を透過した第1の直線偏光光はその偏光軸が変化することなく透過する。この際、透明電極403,406に印加する電圧は±5V、60Hzであれば十分に機能した。」(【0102】)、
「尚、実施例1では、透過偏光軸可変部400としてTN液晶素子の場合を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち透過偏光軸可変部400は入射した直線偏光光が透過する際にその偏光軸を変化させて入射した直線偏光光とは偏光軸が直交する直線偏光光へ変化させる状態と、偏光軸を変化させない状態のいずれかの状態に選択可能な部であれば良く、上記TN液晶素子の他にECB(Electrically Controlled Birefringence)液晶素子、強誘電液晶素子、反強誘電液晶素子等を用いることができる。」(【0103】)、
「つぎに、吸収型偏光選択部材500について説明する。」(【0104】)、
「吸収型偏光選択部材500は入射した光のうち第1の直線偏光成分は吸収し、これと偏光軸が直交する第2の直線偏光成分は透過する、もしくは第1の直線偏光成分は透過し、第2の直線偏光成分は吸収する機能を有するもので、いわゆる偏光板を用いることができる。つまり、吸収型偏光選択部材500としては、例えば延伸させたポリビニルアルコールにヨウ素を吸収させて偏光機能を付与した膜の両面に、トリアセチルセルロースの保護層を施した偏光板を用いることができる。」(【0105】)、
「次に、本実施例1の表示装置の動作を、図10および図11を用いて説明する。」(【0110】)、
「実施例1の表示装置が画像表示状態の場合について、図10を用いて説明する。表示装置が画像表示状態の場合、透過偏光軸可変部400は、これを構成する液晶層407に電圧を印加しない状態、すなわちオフ状態となるよう、切り替えスイッチ813をオフとする。画像表示部1000の照明装置100から出射し、液晶表示パネル200の吸収型偏光選択部材(偏光板)208を透過した直線偏光は、画像光3001として画像表示部1000から出射される。この第1の直線偏光からなる画像光3001は、反射型偏光選択部材300を透過して、透過偏光軸可変部400に入射する。透過偏光軸可変部400を通過する画像光3001は第1の直線偏光から第2の直線偏光に変化する。透過偏光軸可変部400を透過した第2の直線偏光の画像光3001は、吸収型偏光選択部材500に入射する。吸収型偏光選択部材500は第1の直線偏光成分は吸収し、第2の直線偏光成分は透過するため、第2の直線偏光の画像光3001は吸収型偏光選択部材500を透過して、観察者に観察される。」(【0111】)、
「一方、観察者側(図中左側)から表示装置へ入射する外光3002は、非偏光であるが、吸収型偏光選択部材500を透過する際、第1の直線偏光成分は吸収され、第2の直線偏光成分のみが透過する。吸収型偏光選択部材500を透過した外光3002は透過偏光軸可変部400を透過する際、第2の直線偏光から第1の直線偏光に変化し、反射型偏光選択部材300を透過して画像表示部1000に向かう。この光は、第1の実施の形態で説明した通り、ほとんど観察者側へは戻ってこない。」(【0112】)、
「従って、画像表示状態では、画像表示部1000から出射した画像光3001はほとんど損失することなく観察者へ向かうため明るい画像を得ることができる。さらに、外光3002は鏡状態の場合に鏡として機能する反射型偏光選択部材300で反射されることがないので映り込みや、コントラスト比の低下といった外光に起因した画質の劣化がほとんど起こらない。」(【0113】)、
「図11は、本表示装置が鏡状態の場合を示す。本表示装置が鏡状態の場合、透過偏光軸可変部400は、これを構成する液晶層407に電界を印加するオン状態とするように、切り替えスイッチ813をオンにする。この場合、観察者側から本表示装置へ向かう外光3002は、非偏光であるが、吸収型偏光選択部材500を透過する際、第1の直線偏光成分は吸収され、第2の直線偏光成分のみが透過し、透過偏光軸可変部400に入射する。このとき透過偏光軸可変部400に入射した外光3002は透過偏光軸可変部400を偏光軸が変化することなく第2の直線偏光光のまま透過し、反射型偏光選択部材300に至る。反射型偏光選択部材300は第1の直線偏光成分は透過し、第2の直線偏光成分は鏡面反射するため、外光3002は反射型偏光選択部材300で反射する。反射型偏光選択部材300で反射した外光3002は透過偏光軸可変部400を偏光軸が変化することなく第2の直線偏光のまま透過し、さらに偏光選択部材500も透過して観察者へ向かうため鏡状態が実現する。」(【0114】)、
「この際、本実施例の画像表示部1000では、吸収型偏光選択部材(偏光板)208を備えているため、暗表示領域の画像光は、吸収型偏光選択部材(偏光板)208により吸収され、反射型偏光選択部材300に至ることがない。よって、反射型偏光選択部材300の反射性能の如何に関わらず、暗表示部領域から光の漏れを大幅に低減することができる。」(【0115】)、
「また、画像表示部1000から出射する画像光のうち、明表示領域から出射される画像光3001は、反射型偏光選択部材300を透過して透過偏光軸可変部400に入射する。本表示装置が鏡状態の場合、透過偏光軸可変部400はオン状態であり、このとき透過偏光軸可変部400を透過する画像光3001は、偏光軸が変化することなく第1の直線偏光光のまま透過するため、吸収型偏光選択部材500で吸収されて観察者にはほとんど観察されない。」(【0116】)、
「つまり、鏡状態の場合には画像表示部材からの光は観察者に至ることがなく、一方、周囲から表示装置に入射する外光3002は理想的には非偏光の半分の光が反射型偏光選択部材300で反射して、観察者側に向かうため明るい鏡として機能する。」(【0117】)、
「また、本実施例の表示装置は、鏡状態のときに、透過偏光軸可変部400をオンにして、液晶分子407aを立たせる構成である。一般にネマティック型液晶は、電圧オンの液晶分子を立たせた状態の方が、電圧オフの液晶分子が捻れた状態のときよりも、斜め方向に出射させる光の偏光軸のずれは小さい。このため、本実施の形態の表示装置は、従来の技術で述べた鏡状態で電圧オフにする構成のものと比較して、鏡状態のときに画像光(明表示光)3001の斜め方向への光漏れが少ないという効果も得られる。」(【0118】)、
「上記の通り、本発明の表示装置によれば、反射型偏光選択部材300は、透過偏光軸可変部400による偏光状態の制御により、実効的に透明な状態と、鏡として機能する状態とに切り換えられる。従って、画像表示状態では反射型偏光選択部材300を実効的に透明な状態とすることで明るい画像が得られる。また、周囲が明るい環境であっても、外光は表示装置でほとんど反射されないので、ハーフミラーを使用する場合のような映り込みや、それに伴うコントラスト比の低下といった画質の劣化が生じない。つまり、画像表示状態と鏡状態の切り換えを互いの性能を劣化することなく実現できる。」(【0131】)、
「また、本実施例の画像表示部1000では、吸収型偏光選択部材(偏光板)208を備えているため、暗表示領域の画像光は、吸収型偏光選択部材(偏光板)208により吸収され、反射型偏光選択部材300に至ることがない。よって、反射型偏光選択部材300の反射性能の如何に関わらず、鏡状態における暗表示部領域から光の漏れを大幅に低減することができる。」(【0132】)、
「尚、上記実施例では吸収型偏光選択部材500として第2の直線偏光成分は透過し、これと偏光軸が直交する第1の直線偏光成分は吸収する場合を示したが、吸収型偏光選択部材500として第1の直線偏光成分は透過し、第2の直線偏光成分は吸収するものを用いるようにしてもよい。この場合は、透過偏光軸可変部400が液晶層407に電圧を印加しない状態、すなわちオフ状態で鏡状態となり、透過偏光軸可変部400が液晶層407に電圧を印加する状態、すなわちオン状態で画像表示状態となるようにする。すなわち、表示装置全体の電力が切れている場合に鏡状態とすることができる。このことは本表示装置をハンドヘルドPCや、携帯電話といったできるだけ消費電力を小さくしたい機器に採用する場合、鏡機能を消費電力がない状態で実現できるためとても有利となる。」(【0133】)

(コ)「(実施例2)」、
「本発明の実施例2の、鏡状態への切り替え機能付き表示装置を図15,図16を用いて説明する。本実施例2の表示装置は、基本構成が第2の実施の形態の図5、図6に示した表示装置と同様である。すなわち、本実施例2の表示装置は、実施例1で説明した表示装置の吸収型偏光選択部材500を、反射型偏光選択部材301と可変偏光選択部材600の組み合わせに置き換えたものである。従って、実施例1と同一部分には同じ符号を付け、その部分の詳細な説明は省略する。」(【0135】)(審決注:「基本構成が第2の実施形態の図1、図2」は、「基本構成が第2の実施形態の図5、図6」の誤記であると認められるので、誤記を正した上で認定した。)、
「本表示装置の構成は、図15,図16に示したように、実施例1の表示装置の吸収型偏光選択部材500に代えて、第1の直線偏光成分は反射し、第2の直線偏光成分は透過する反射型偏光選択部材301と 入射した光のうち第1の直線偏光成分は吸収し、第2の直線偏光成分は透過する状態と、全偏光成分を透過する状態のいずれかの状態に選択可能な可変偏光選択部材600とを、透過偏光軸可変部400側から順に配置したものである。」(【0136】)、
「尚、観察者は可変偏光選択部材600側(図中左側)から本表示装置を観察することになる。」(【0137】)、
「画像表示部1000としては光の透過光量を調節することで画像を表示する液晶表示パネル200とその背面に配置した照明装置100とから構成されるものを用いることができきる。」(【0138】)、
「本実施例2では、以下図16を参照して、(実施例1)と同様、照明装置100としてはエッジライト方式、表示パネル200としてはTN液晶表示パネルを用いる場合を説明するが本発明はこれに限定されるものではない。」(【0139】)、
「反射型偏光選択部材300、及び反射型偏光選択部材301は、所定の直線偏光成分は透過し、これと直交する偏光軸を有する直線偏光成分は鏡面反射するものである。このような部材としては(実施例1)で述べた複屈折反射型偏光フィルム、或いは、コレステリック液晶層とその表と裏に1/4波長板を積層した部材を用いることができる。」(【0140】)、
「透過偏光軸可変部400は、入射した直線偏光光が透過する際にその偏光軸を変化させて入射した直線偏光光とは偏光軸が直交する直線偏光光へ変化させる状態と、偏光軸を変化させない状態のいずれかの状態に選択可能な部であり、(実施例1)で説明した液晶素子を用いることができる。」(【0142】)、
「本実施例では、透過偏光軸可変部400は反射型偏光選択部材300と反射型偏光選択部材301との間に配置される。反射型偏光選択部材300と反射型偏光選択部材301は、本表示装置を鏡状態としたときに反射面として機能する部材である。このため、反射型偏光選択部材300及び反射型偏光選択部材301の間隔が大きくなると反射型偏光選択部材300及び反射型偏光選択部材301でそれぞれ反射した像に視差が生じるため、両者の間隔はできるだけ小さくすることが望ましい。つまり、反射型偏光選択部材300及び反射型偏光選択部材301の間に配置される透過偏光軸可変部400の厚さはできるだけ薄くすることが望ましい。」(【0143】)、
「一方、可変偏光選択部材600は、入射した光のうち第1の直線偏光成分は吸収し、これと偏光軸が直交する第2の直線偏光成分は透過する状態と、全偏光成分が透過する状態のいずれかの状態を選択可能な部材である。このような部としてはゲストホスト型の液晶素子を用いることができる。ここで、ゲストホスト型液晶素子を用いた可変偏光選択部材600について図17,18を参照して説明する。」(【0148】)、
「ゲストホスト型液晶素子を用いた可変偏光選択部材600は、ITOからなる透明電極603およびポリイミド系高分子からなる配向膜604が全面的に積層形成された第1の透明基板601と、透明電極606および配向膜605が全面的に積層形成された第2の透明基板602と、これらに挟まれたゲストホスト型の液晶層607とを含む。」(【0149】)、
「尚、2枚の透明基板601,602にそれぞれ形成された透明電極603、606は配線及び切り替えスイッチ600aを介して電源に接続されており、透明電極603、606に電圧を印加しない状態と、電圧を印加する状態のいずれかの状態を選択できる。つまり、透明電極603,606に電位差がなく、液晶層607に電界が印加されない状態と、透明電極603,606に電圧を印加し、液晶層407に電界が印加される状態のいずれかの状態を選択可能に構成されている。」(【0150】)、
「液晶層607は、2枚の透明基板601,602を配向膜形成面が向かい合うように配置し、さらに図示しないスペーサーを挟んで、2枚の透明基板601、602の間に一定の間隙を設け、この間隙の周囲をシール材610で枠状にシールして空間を形成し、この空間にゲストホスト型の液晶を封入することで構成する。」(【0151】)、
「ここで、可変偏光選択部材600の動作について図17、図18を参照して説明する。図17、及び図18は可変偏光選択部材600の一例を示す一部概略断面図である。ゲストホスト型の液晶層607はネマチック液晶6072にゲストとして2色性色素6071を添加したものである。本実施例ではネマチック液晶として誘電異方性が正の液晶を用い、液晶分子長軸の配向方向はラビング処理を施した配向膜604、605によって、基板601,602に対して略水平で、なおかつ2枚の透明基板601、602間で捩じれのない配向、即ちホモジニアス配向とする。このとき2枚の透明基板601、602近傍の配向方向が互いに平行となるようなプレチルトを付けておく。プレチルトの角度はリバースチルトが起こらないよう2°以上付けることが望ましく、ここでは約4°のプレチルトを付けた。」(【0152】)、
「ここで、2色性色素6071は棒状構造をしており、液晶分子に平行な方向に配向する性質がある。このため、例えば液晶分子の配向を基板に対して水平方向から垂直方向へ変化させると、2色性色素もこれに習って水平方向から垂直方向へ配向が変化する。ここでは液晶層607として三菱化成株式会社製のゲストホスト液晶材料LA121/4(商品名)を用い、液晶層607の厚さは5μmとした。」(【0153】)、
「図17は、2枚の透明基板601、602にそれぞれ形成した透明電極603、606の間に電位差がなく液晶層607に電界が印加されていない状態、すなわち切り替えスイッチ600aがオフ状態を示す。この場合、液晶層607のネマチック液晶6072は初期配向状態、即ち基板に略水平(図中紙面の左右方向)なホモジニアス配向であり、2色性色素6071もこれに習って配向している。2色性色素6071は分子軸に略平行な吸収偏光軸を持っており、分子軸に平行な偏光成分は強く吸収し、これと直交する偏光成分は殆ど吸収しないという性質を持っている。このため透明基板面に対してほぼ垂直方向から入射するさまざまな偏波面をもつ入射光5000は液晶層607を通過する際、2色性色素6071の分子軸に平行な電気ベクトルの振動方向を有する直線偏光成分Lpは吸収され、これと直交する直線偏光成分Lsは透過する。」(【0154】)、
「図18は2枚の透明基板601、602にそれぞれ形成した透明電極603、606に電圧を印加し、液晶層607に電界を印加した状態、すなわち切り替えスイッチ600aがオン状態を示す。この場合、ネマチック液晶6072の分子長軸の配向方向は2枚の透明基板601、602に対して水平方向から垂直方向へ変化し、これに伴い2色性色素6071の配向方向も垂直方向へ変化する。このため透明基板面に対してほぼ垂直方向から入射するさまざまな偏波面をもつ入射光5000は殆どの偏光成分が吸収されることなく透過する。この際、本実施例では透明基板601、602の透明電極603、606に印加した電圧は±30V、60Hzとした。」(【0155】)、
「従って、液晶分子の配向方向を第1の直線偏光の偏光軸と一致させれば、入射した光のうち第1の直線偏光成分は吸収してこれと偏光軸が直交する第2の直線偏光成分は透過する状態と、全偏光成分が透過する状態のいずれかの状態を選択可能な可変偏光選択部材を実現できる。」(【0156】)、
「次に、実施例2の表示装置の動作を図面を参照して説明する。図20及び図21は本表示装置の基本構成と動作を説明するための概略構成図である。」(【0159】)、
「本実施例では可変偏光選択部材600が、オフ状態で第1の直線偏光成分(図中紙面上下方向)は吸収し、これと偏光軸が直交する第2の直線偏光成分(図中紙面垂直方向)は透過し、オン状態で全偏光成分を透過する場合を述べる。」(【0160】)、
「また、透過偏光軸可変部400としては、オフ状態では入射した直線偏光光が透過する際にその偏光軸を変化させて入射した直線偏光光とは偏光軸が直交する直線偏光光へ変化させ、オン状態では偏光軸を変化させない場合を述べる。」(【0161】)、
「図20は、画像表示状態の場合を示す。本表示装置が画像表示状態の場合は透過偏光軸可変部400はこれを構成する液晶層407に電圧を印加しない状態、すなわちオフ状態とする。また、可変偏光選択部材600もオフ状態とする。」(【0162】)、
「既に述べた通り、画像表示部1000は液晶表示パネル200とのその背面に配置した照明装置100から構成されており、照明装置100から出射し、液晶表示パネル200の吸収型偏光選択部材(偏光板)208を透過した第1の直線偏光が画像光3001として画像表示部1000から出射する。画像表示部1000から出射した第1の直線偏光光からなる画像光3001は反射型偏光選択部材300を透過して、透過偏光軸可変部400に入射する。」(【0163】)、
「透過偏光軸可変部400を通過する画像光3001は第1の直線偏光光から第2の直線偏光光に変化する。透過偏光軸可変部400を透過した画像光3001は反射型偏光選択部材301へ入射する。反射型偏光選択部材301は、第1の直線偏光成分は鏡面反射するが、第2の直線偏光成分は透過するため、透過偏光軸可変部400により第2の直線偏光光に変化した画像光3001は、反射型偏光選択部材301を透過して、可変偏光選択部材600に入射する。本表示装置が画像表示状態の場合、可変偏光選択部材600はオフ状態であり、これに入射する光のうち第1の直線偏光成分は吸収されるが、第2の直線偏光成分は透過する。従って、画像光3001は可変偏光選択部材600を透過して、観察者に観察される。」(【0164】)、
「一方、観察者側(図中左側)から表示装置へ向かう外光3002は非偏光であるが、表示装置が画像表示状態の場合、可変偏光選択部材600はオフ状態であり、これに入射する光は第1の直線偏光成分は吸収され、第2の直線偏光成分のみが透過する。可変偏光選択部材600を透過した外光3002は反射型偏光選択部材301を透過し、透過偏光軸可変部400を透過する際、第2の直線偏光光から第1の直線偏光光に変化して、反射型偏光選択部材300も透過して、画像表示部1000に向いほとんど観察者側へは戻ってこない。」(【0165】)、
「従って、画像表示状態では、画像表示部1000から出射した画像光3001はほとんど損失することなく観察者へ向かうため明るい画像を得ることができる。さらに、外光3002は表示装置ではほとんど反射されないので映り込みや、コントラスト比の低下といった外光に起因した画質の劣化が起こらない。」(【0166】)、
「図21は本表示装置が鏡状態の場合を示す。本表示装置が鏡状態の場合、透過偏光軸可変部400はこれを構成する液晶層407に電圧を印加してオン状態とする。可変偏光選択部材600もオン状態とする。」(【0167】)、
「この場合も画像表示部1000から出射し、反射型偏光選択部材300を透過した明表示に対応する画像光3001は透過偏光軸可変部400に入射する。このとき透過偏光軸可変部400を透過する画像光3001は偏光軸が変化することなく第1の直線偏光光のまま透過し、反射型偏光選択部材301で反射して画像表示部1000へ戻るため、観察者には観察されない。」(【0168】)、
「一方、観察者側から表示装置へ向かう外光3002は、表示装置が鏡状態の場合、可変偏光選択部材600はオン状態であり、ほとんどの偏光成分に対して透明な状態となるので、外光3002はそのほとんどが可変偏光選択部材600を透過する。可変偏光選択部材600を透過した外光3002は反射型偏光選択部材301に入射する。反射型偏光選択部材301に入射した外光3002のうち、第2の直線偏光成分は、反射型偏光選択部材301を透過し、第1の直線偏光成分は、反射型偏光選択部材301で反射され、再び可変偏光選択部材600を透過て観察者側へ向かう。一方、反射型偏光選択部材301に入射した外光3002のうち、反射型偏光選択部材301を透過した第2の直線偏光成分は偏光軸が変化することなく透過偏光軸可変部400を透過し、反射型偏光選択部材300で反射され、再び透過偏光軸可変部400と、反射型偏光選択部材301と可変偏光選択部材600を透過して観察者側へ向う。」(【0169】)、
「つまり、鏡状態の場合、画像光3001は反射型偏光選択部材301で反射し、画像表示部1000へ戻るため観察者に観察されない。また、外光3002は、第1の反射型偏光選択部材300、及び反射型偏光選択部材301により、そのほとんどの偏光成分が反射されるため、極めて明るい鏡として機能する。」(【0170】)、
「上記の通り、本実施例の表示装置では、反射型偏光選択部材300及び反射型偏光選択部材301は、可変偏光選択部材600による偏光光の吸収の制御と、透過偏光軸可変部400による偏光状態の制御により、実効的に透明な状態と、鏡として機能する状態とに切り換えられる。従って、画像表示状態では反射型偏光選択部材300及び反射型偏光選択部材301を実効的に透明な状態とすることで明るい画像が得られ、さらに周囲が明るい環境であっても、外光は表示装置でほとんど反射されないので、ハーフミラーを使用する場合のような映り込みや、それに伴うコントラスト比の低下といった画質の劣化が生じない。つまり、画像表示状態と鏡状態の切り換えを互いの性能を劣化することなく実現できる。」(【0172】)、
「特に本実施例では、表示装置が鏡状態の場合、可変偏光選択部材600は透明状態となり、さらに反射型偏光選択部材301と反射型偏光選択部材300によって、外光はそのほとんどの偏光成分が反射されるため、実施例1の表示装置の2倍以上の極めて明るい鏡を実現できるという効果がある。」(【0173】)、
「尚、上記実施例では可変偏光選択部材600の液晶層607として、ネマチック液晶に誘電異方性が正の液晶を用いホモジニアス配向としていたが、液晶層607のネマチック液晶として誘電異方性が負の液晶を用い、初期状態(電界無印加状態)において液晶分子長軸の方向が透明基板に対して略垂直となるホメオトロピック配向としたものを用いることもできる。この場合、2枚の透明基板601、602の透明電極603、606に電圧を印加し、液晶層607に電界を印加した際、液晶分子長軸の配向方向は2枚の透明基板601 602に対して垂直方向から水平方向に変化するが、液晶分子が一定方向に配向するように、液晶の初期配向状態にわずかなプレチルト角を付けておくと良い。」(【0175】)、
「液晶層607のネマチック液晶として誘電異方性が負の液晶を用い、ホメオトロピック配向とした場合、2枚の透明基板601、602の透明電極603、606の間で電位差がなく液晶層607に電界が印加されていない状態、すなわちオフ状態では、液晶層607のネマチック液晶はその分子長軸の方向が透明基板に対して略垂直となっており、2色性色素もこれに習って配向しているため、外部からの入射光は液晶層607で殆ど吸収されることなく透過する。」(【0176】)、
「一方、2枚の透明基板601、602の透明電極603、606に電圧を印加し、液晶層607に電界を印加した状態、すなわちオン状態ではネマチック液晶の分子長軸の配向方向は2枚の透明基板601、602に対して垂直方向から水平方向へ変化し、これに伴い2色性色素の配向方向も水平方向へ変化する。2色性色素は分子軸に略平行な吸収偏光軸を持っており、分子軸に平行な偏光成分は強く吸収し、これと直交する偏光成分は殆ど吸収しないという性質を持っている。このため外部からの入射光は液晶層607を通過する際、2色性色素の分子軸に平行な方向に電気ベクトルの振動方向を有する直線偏光成分は吸収され、これと直交する直線偏光成分は透過する。」(【0177】)、
「つまり、液晶層607に電界を印加した状態の液晶の配向方向を第1の直線偏光の偏光軸と一致させれば、入射した光のうち第1の直線偏光成分は吸収し、第2の直線偏光成分は透過する状態と、全偏光成分が透過する状態のいずれかの状態を選択可能な可変偏光選択部材を実現できる。」(【0178】)、
「尚、本実施例2では、反射型偏光選択部材301の観察者側に可変偏光選択部材600を配置する場合を述べた。可変偏光選択部材は画像表示状態では反射型偏光選択部材301での外光の不要反射を抑制し、鏡状態では実効的に透明な状態となって鏡の明るさ向上に貢献する重要な部材である。しかし、本発明は様々な用途を考慮した場合、反射型偏光選択部材301の観察者側に可変偏光選択部材600を配置しない構成を除外するものではない。この場合、画像表示状態では、外光が反射型偏光選択部材301で反射して画像が見にくくなる場合があるが、鏡状態においては反射型偏光選択部材、及び反射型偏光選択部材301での外光の反射を阻害する部材がないため80%以上の極めて高い反射率が得られた。この反射率はアルミニウムの薄膜をガラス基板上に形成した鏡に匹敵する明るさであり、一般の鏡と同等の明るさの鏡が実現できる。」(【0179】)

(サ)「【発明の効果】」、
「上述してきたように、本発明によれば、高画質な画像を表示する状態と、人が自分の顔や姿を映して観察するのに適した見やすい反射像が得られる鏡状態とに切り替え可能な装置を提供することができる。」(【0318】)

(シ)図1?図6、図10、図11、図20、図21は次のとおりである。


(ス)引用文献1において、以下の請求項に記載された発明と各実施の形態及び各実施例との対応関係は次のとおりであると認められる。
請求項1(独立項である。)は、「第1の実施の形態」(上記(キ))と「実施例1」(上記(ケ))に対応する。
請求項3(請求項1の従属項である。)は、第1の実施の形態における【0042】に記載された態様と、実施例1における【0133】に記載された態様に対応する。
請求項4は、「第2の実施の形態」(上記(ク))と「実施例2」(上記(コ))に対応する(ただし、【0179】は、「可変偏光選択手段」に相当する構成が存在しない態様に係るものであるから、除かれる。)。
請求項5(請求項4の従属項である。)は、第2の実施の形態及び実施例2(ただし、【0179】は除く。)と、実施例2における【0175】?【0178】に記載された態様の双方に対応する。
請求項6(請求項4の従属項である。)は、第2の実施の形態における【0058】に記載された態様に対応する。

(セ)請求項4及び請求項6に記載された発明における各手段と、第2の実施の形態及び実施例2に記載されている各部材との対応関係は、次の表のとおりであると認められる。
請求項4・請求項6 第2の実施形態・実施例2
第1の反射型偏光選択手段 第1の反射型偏光選択部材300
透過偏光軸可変手段 透過偏光軸可変部400
第2の反射型偏光選択手段 反射型偏光選択部材301
可変偏光選択手段 可変偏光選択部材600
画像光用偏光選択手段 吸収型偏光選択部材208

イ 上記アの各記載によれば、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。この引用発明は、基本的に、引用文献1の請求項6(請求項4に従属する。)に記載された発明と【0058】に記載された事項に基づいて、認定されている。
なお、引用発明の認定に活用した引用文献1の記載及び図面(図5・図6)に付された番号を、参考までに括弧書きで付記してある。
「(【請求項4】)所望の画像を表示するための画像光(3001)を出射する画像表示部(1000)と、前記画像表示部に重畳して配置された、前記画像光を透過する画像透過状態と外光(3002)を反射する鏡状態とに切り替え可能な鏡機能部とを有し、
該鏡機能部は、前記画像表示部側から順に配置された、第1の反射型偏光選択手段(300)と、透過偏光軸可変手段(400)と、第2の反射型偏光選択手段(301)と、可変偏光選択手段(600)とを含み、
前記第1の反射型偏光選択手段(300)は、予め定めた偏光軸の第1の偏光を透過し、前記第1の偏光と偏光軸が交差する第2の偏光を反射し、
前記透過偏光軸可変手段(400)は、入射した前記第1の偏光を前記第2の偏光へ変化させて透過する状態と、入射した光の偏光軸を変化させないで透過する状態とに切り替え可能であり、
(【0058】)前記第2の反射型偏光選択手段(301)は、前記第1の偏光を透過し、前記第2の偏光を反射し、
(【請求項4】)前記可変偏光選択手段(600)は、前記第2の偏光を吸収し、前記第1の偏光を透過する状態と、全偏光成分を透過する状態とに切り替え可能であり、
前記画像表示部(1000)は、前記第1の偏光を透過し、前記第2の偏光を吸収する画像光用偏光選択手段(208)を備え、
前記画像光用偏光選択手段を透過した前記第1の偏光を前記画像光として出射する画像表示状態と鏡状態とを切り替え可能な装置であって、
(【請求項6】・【0058】)前記鏡機能部を前記画像透過状態と前記鏡状態とで切り替えるための切り替え手段を有し、
該切り替え手段は、前記透過偏光軸可変手段(400)を、前記入射した偏光軸を変化させないで透過する状態(電圧オン状態)に切り替えるとともに、前記可変偏光選択手段(600)を、前記第2の偏光を吸収し前記第1の偏光を透過する状態(電圧オフ状態)に切り替えることにより、前記鏡機能部を前記画像透過状態に切り替え、前記透過偏光軸可変手段(400)を、前記第1の偏光を前記第2の偏光へ変化させる状態(電圧オフ状態)に切り替えるとともに、前記可変偏光選択手段(600)を、前記全偏光成分を透過する状態(電圧オン状態)に切り替えることにより、前記鏡機能部を前記鏡状態に切り替えるものである、
(【請求項4】)装置。」

(3)対比
ア 本件補正発明と引用発明との対比
(ア)本件補正発明と引用発明で用いられているいくつかの用語の関係の整理
a 引用発明の「第1の偏光」の方向及び「第2の偏光」の方向が、それぞれ、本件補正発明の「x方向」「に直交する方向」及び「x方向」に相当する。
引用発明の「第2の偏光」は、本件補正発明の「光のx方向偏波」に相当する。また、引用発明の「第1の偏光」は、本件明細書で用いられている用語に倣えば、「光のy方向偏波」ということになる。
そこで、以下、引用発明の「第1の偏光」の方向を「y方向」といい、同じく「第2の偏光」の方向を「x方向」ということがある。また、引用発明の「第1の偏光」及び「第2の偏光」を、それぞれ、「y方向偏波」及び「x方向偏波」ということがある。

b 後記(イ)のとおり、引用発明の「鏡状態」及び「画像表示状態」は、それぞれ、本件補正発明の「最大反射率」の状態及び「最小反射率」の状態に相当する。

c 後記(ウ)a及び(オ)aのとおり、引用発明の「電圧オフ状態」及び「電圧オン状態」は、それぞれ、本件補正発明の「電圧が印加されていない時」の状態及び「最大電圧が印加された時」の状態に相当する。

(イ)本件補正発明の「電子的調光可能光学装置であって、」について
引用発明の「装置」は、「画像表示部と、」「前記画像光を透過する画像透過状態と外光を反射する鏡状態とに切り替え可能な鏡機能部とを有し」た「画像表示状態と鏡状態とを切り替え可能な装置」であるから、「画像透過状態」において本件補正発明でいう「最小の反射率」を有し、「鏡状態」において本件補正発明でいう「最大の反射率」を有するものであると認められる。そして、引用発明は、「鏡機能部」における「画像透過状態」と「鏡状態」との切り替えを「電圧」制御によって行っている。
よって、引用発明の「画像表示部と、」「前記画像光を透過する画像透過状態と外光を反射する鏡状態とに切り替え可能な鏡機能部とを有し」た「画像表示状態と鏡状態とを切り替え可能な」「装置」は、本件補正発明の「電子的調光可能光学装置」に相当すると認められる。

(ウ)本件補正発明の「a.電子的に切り替え可能な能動吸収偏光子であって、当該能動吸収偏光子は、印加される電圧に応じて光の選択された偏波の吸収を変更し、これにより、電圧が印加されていない時に前記能動吸収偏光子が両方の偏波の光を透過し、電圧が印加されている時に光のx方向偏波を選択的に吸収する、能動吸収偏光子と、」について
a 引用発明の「可変偏光選択手段」は、「(電圧オフ状態)」で「前記第2の偏光を吸収し前記第1の偏光を透過する状態」となり、「(電圧オン状態)」で「前記全偏光成分を透過する状態」になるものである(そのため、当該「電圧オン状態」における電圧は、本件補正発明でいう「最大電圧」であると認められる。)。
よって、引用発明の「前記第2の偏光を吸収し、前記第1の偏光を透過する状態と、全偏光成分を透過する状態とに切り替え可能であ」る「可変偏光選択手段」が、本件補正発明の「電子的に切り替え可能な能動吸収偏光子」に相当する。
加えて、引用発明の「可変偏光選択手段」は、本件補正発明の「印加される電圧に応じて光の選択された偏波の吸収を変更し」との特定事項を備える。

b 引用発明の「可変偏光選択手段」は、本件補正発明で用いられている用語に倣えば、「電圧が印加されていない時に」「光のx方向偏波を選択的に吸収」し、「(最大)電圧が印加されている時に」「両方の偏波の光を透過」するものである。
そうすると、引用発明の「可変偏光選択手段」は、本件補正発明の「能動吸収偏光子」とは異なり、「電圧が印加されていない時に前記能動吸収偏光子が両方の偏波の光を透過し、」「(最大)電圧が印加されている時に光のx方向偏波を選択的に吸収する」ものではないけれども、両者は、「両方の偏波の光を透過」することと「光のx方向偏波を選択的に吸収する」こととを切り替え可能であるという点では一致する。

c 以上によれば、本件補正発明の「能動吸収偏光子」と引用発明の「可変偏光選択手段」とは、「『a.電子的に切り替え可能な能動吸収偏光子であって、当該能動吸収偏光子は、印加される電圧に応じて光の選択された偏波の吸収を変更し、これにより、』『前記能動吸収偏光子が両方の偏波の光を透過』することと『光のx方向偏波を選択的に吸収する』こととを切り替え可能である」との事項を備える点で一致する。

(エ)本件補正発明の「x方向に反射軸を有する第1の静的反射偏光子」について
引用発明の「前記第1の偏光を透過し、前記第2の偏光を反射」する「第2の反射型偏光選択手段」は、y方向偏波を透過し、x方向偏波を反射するから、本件補正発明の「x方向に反射軸を有する第1の静的反射偏光子」に相当する。

(オ)本件補正発明の「c.最大電圧が印加された時には影響を与えず、電圧が印加されていない時には入射光の偏極軸を90°だけ回転させるように、電子的に切り替え可能な能動偏極回転子」について
a 引用発明の「透過偏光軸可変手段」は、「(電圧オフ状態)」で「前記入射した偏光軸を変化させないで透過する状態」となり、「(電圧オン状態)」で「前記全偏光成分を透過する状態」となるものである(そのため、当該「(電圧オン状態)」における電圧は、本件補正発明でいう「最大電圧」であると認められる。)。
よって、引用発明の「入射した前記第1の偏光を前記第2の偏光へ変化させて透過する状態と、入射した光の偏光軸を変化させないで透過する状態とに切り替え可能であ」る「透過偏光軸可変手段」が、本件補正発明の「電子的に切り替え可能な能動偏極回転子」に相当する。
加えて、引用発明の「透過偏光軸可変手段」は、本件補正発明の「最大電圧が印加された時には影響を与えず、電圧が印加されていない時には入射光の偏極軸を90°だけ回転させる」との特定事項を備えるといえる。

b 以上によれば、引用発明は、本件補正発明の「c.最大電圧が印加された時には影響を与えず、電圧が印加されていない時には入射光の偏極軸を90°だけ回転させるように、電子的に切り替え可能な能動偏極回転子」との特定事項を備える。

(カ)本件補正発明の「x方向に反射軸を有する第2の静的反射偏光子」について
引用発明の「予め定めた偏光軸の第1の偏光を透過し、前記第1の偏光と偏光軸が交差する第2の偏光を反射」する「第1の反射型偏光選択手段」は、y方向偏波を透過し、x方向偏波を反射するから、本件補正発明の「x方向に反射軸を有する第2の静的反射偏光子」に相当する。

(キ)本件補正発明の「前記装置は、前記能動吸収偏光子及び前記能動偏極回転子に電圧が印加されていない時に最大の反射率を有し、前記能動吸収偏光子及び前記能動偏極回転子に最大電圧が印加された時に最小の反射率を有するよう構成され、」について
a 引用発明の「該切り替え手段は、
前記透過偏光軸可変手段を、前記入射した偏光軸を変化させないで透過する状態(電圧オン状態)に切り替えるとともに、前記可変偏光選択手段を、前記第2の偏光を吸収し前記第1の偏光を透過する状態(電圧オフ状態)に切り替えることにより、前記鏡機能部を前記画像透過状態に切り替え、
前記透過偏光軸可変手段を、前記第1の偏光を前記第2の偏光へ変化させる状態(電圧オフ状態)に切り替えるとともに、前記可変偏光選択手段を、前記全偏光成分を透過する状態(電圧オン状態)に切り替えることにより、前記鏡機能部を前記鏡状態に切り替えるものである」。
すなわち、引用発明の「鏡機能部」は、次の表のとおりのものである。

鏡状態 画像透過状態
可変偏光選択手段(「能動吸収偏光子」) 電圧オン 電圧オフ
透過偏光軸可変手段(「能動偏極回転子」)電圧オフ 電圧オン

b そうすると、引用発明は、本件補正発明で用いられている用語に倣って表現すると、「前記装置は、前記能動吸収偏光子に最大電圧が印加されるとともに前記能動偏極回転子に電圧が印加されていない時に最大の反射率を有し、前記能動吸収偏光子に電圧が印加されていないとともに前記能動偏極回転子に最大電圧が印加される時に最小の反射率を有するよう構成され」ていることになる(下線は本件補正発明との相違を示している。)。

(ク)本件補正発明の「前記装置が最大の反射率を有する時に、光のx方向偏波と、これに直交する方向の偏波の両方を反射する、」について
a 引用発明の「該切り替え手段は、
前記透過偏光軸可変手段を、前記入射した偏光軸を変化させないで透過する状態(電圧オン状態)に切り替えるとともに、前記可変偏光選択手段を、前記第2の偏光を吸収し前記第1の偏光を透過する状態(電圧オフ状態)に切り替えることにより、前記鏡機能部を前記画像透過状態に切り替え、
前記透過偏光軸可変手段を、前記第1の偏光を前記第2の偏光へ変化させる状態(電圧オフ状態)に切り替えるとともに、前記可変偏光選択手段を、前記全偏光成分を透過する状態(電圧オン状態)に切り替えることにより、前記鏡機能部を前記鏡状態に切り替えるものである」。
そうすると、引用発明の「鏡状態」は、外光につき、第1の偏光(y方向偏波)及び第2の偏光(x方向偏波)をともに反射するものと認められる。
すなわち、鏡状態においては、外光のx方向偏波は、まず、「可変偏光選択手段」をそのまま通過して、その後、「第2の反射型偏光選択手段」(x方向反射、y方向透過)で反射されて、「可変偏光選択手段」をそのまま通過して、出射される。また、同じく鏡状態においては、外光のy方向偏波は、まず、「可変偏光選択手段」をそのまま通過して、その後、「第2の反射型偏光選択手段」(x方向反射、y方向透過)をそのまま通過して、「透過偏光軸可変手段」によってx方向偏波に変化させられて、「第1の反射型偏光選択手段」(x方向反射、y方向透過)によって反射されて、「透過偏光軸可変手段」によってy方向偏波に変化させられて、「第2の反射型偏光選択手段」をそのまま通過して、「可変偏光選択手段」をそのまま通過して、出射される。
そして、引用発明では、「鏡状態」が「最大の反射率を有する」。
そうすると、引用発明は、本件補正発明の「前記装置が最大の反射率を有する時に、光のx方向偏波と、これに直交する方向の偏波の両方を反射する、」との特定事項を備える。

イ 一致点及び相違点の認定
上記アによれば、本件補正発明と引用発明とは、
「電子的調光可能光学装置であって、
a.電子的に切り替え可能な能動吸収偏光子であって、当該能動吸収偏光子は、印加される電圧に応じて光の選択された偏波の吸収を変更し、これにより、前記能動吸収偏光子が両方の偏波の光を透過することと、光のx方向偏波を選択的に吸収することとを切り替え可能である、能動吸収偏光子と、
b.x方向に反射軸を有する第1の静的反射偏光子と、
c.最大電圧が印加された時には影響を与えず、電圧が印加されていない時には入射光の偏極軸を90°だけ回転させるように、電子的に切り替え可能な能動偏極回転子と、
d.x方向に反射軸を有する第2の静的反射偏光子と、
を含む電子的調光可能光学装置であって、
前記装置が最大の反射率を有する時に、光のx方向偏波と、これに直交する方向の偏波の両方を反射する、光学装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]「印加される電圧に応じて光の選択された偏波の吸収を変更し、これにより、前記能動吸収偏光子が両方の偏波の光を透過することと、光のx方向偏波を選択的に吸収することとを切り替え可能である、能動吸収偏光子」について、本件補正発明は、「電圧が印加されていない時に」「両方の偏波の光を透過し、電圧が印加されている時に光のx方向偏波を選択的に吸収する」のに対し、引用発明は、「電圧が印加されていない時に」「光のx方向偏波を選択的に吸収」し、「電圧が印加されている時に」「両方の偏波の光を透過」するものである点。
[相違点2]本件補正発明は、「前記装置は、前記能動吸収偏光子及び前記能動偏極回転子に電圧が印加されていない時に最大の反射率を有し、前記能動吸収偏光子及び前記能動偏極回転子に最大電圧が印加された時に最小の反射率を有するよう構成され」ているのに対し、引用発明は、「前記装置は、前記能動吸収偏光子に最大電圧が印加されるとともに前記能動偏極回転子に電圧が印加されていない時に最大の反射率を有し、前記能動吸収偏光子に電圧が印加されていないとともに前記能動偏極回転子に最大電圧が印加される時に最小の反射率を有するよう構成され」ている点。

(4)容易想到性の判断
[相違点1]及び[相違点2]は関連するものであるから、以下、まとめて判断する。

ア まず、引用発明にどのような変更を加えれば相違点1及び相違点2に係る構成に至るのかについて確認する。
(ア)上記(3)で認定した一致点並びに相違点1及び相違点2からすると、引用発明と相違点1及び相違点2に係る構成との間には、次の表のとおりの関係があるものと認められる。

光学装置 能動吸収偏光子 引用発明 相違点1及び2に係る構成
最大反射率 xy透過状態 最大電圧 電圧無印加
最小反射率 x吸収状態 電圧無印加 最大電圧

(審決注:上記の表において、「xy透過状態」とは「両方の偏波の光を透過」する状態を意味し、「x吸収状態」とは「光のx方向偏波を選択的に吸収する」状態を意味する。また、以下、「光のy方向偏波を選択的に吸収する」状態を「y吸収状態」ということがある。)

すなわち、本件補正発明と引用発明とは、光学装置が最大反射率(引用発明の「鏡状態」)又は最小反射率(引用発明の「画像表示状態」)を有するときに、能動吸収偏光子(引用発明の「可変偏光選択手段」)に発現させている光学作用(すなわち、xy透過状態又はx吸収状態)が何であるのかについては一致しているけれども、その光学作用を発現させるために能動吸収偏光子に印加させている電圧がどうなっているのかについては逆転している関係にある。

(イ)そのため、引用発明の「可変偏光選択手段」において、鏡状態及び画像表示状態のときに発現させている上記の各光学作用を変更せずに、上記の各光学作用を発現させるための印加電圧のみを逆転させれば、本件補正発明に至るということになる。

イ そこで、引用発明が、引用文献1の請求項6に記載された発明に対応する(上記(2)ア(ス))ことを踏まえて、当該請求項6に記載された発明が、「可変偏光選択手段」及び「透過偏光軸可変手段」に対して特定した各光学作用をいかなる印加電圧によって発現させるのかという関係(以下、この関係を「特定光学作用・印加電圧関係性」という。)に対して、どのような立場をとっているのかについて確認すると、次のとおり、両手段の特定光学作用・印加電圧関係性を任意としているものと認められる。
(ア)まず、引用文献1(の全体)に記載された発明の技術的意義をみると、次の事項が認められる。なお、わかりやすさの観点から、上記(3)ア(ア)aで定義した「x方向」や「x方向偏波」などの用語を用いた説明を適宜行っている。
a 引用文献1に記載された発明は、表示画面を鏡に切り替えることができる鏡機能付き表示装置、または、鏡を画像表示画面に切り替えることができる画像表示機能付き鏡に関する。(【0001】)。

b 外光を反射する鏡状態に切り替え可能な表示装置(或いは表示装置を備えた鏡)の従来技術としては、画層表示装置の前面にハーフミラー素材を配置した表示装置が知られている。しかし、この表示装置は、鏡状態の明るさがハーフミラーの反射率に依存するので、明るい画像表示と明るい鏡の両立が困難である。また、この表示装置が明るい環境下で用いられると、画像表示状態であっても、外光の一部がハーフミラーで反射されるので、外光の映り込みや、外光の反射による画像のコントラスト比の低下といった画質の劣化が生じる。(【0002】・【0006】・【0007】)

c 別の従来技術として、画像表示が観察されるシャッタ開状態と画像表示が観察されないシャッタ閉状態とに切り替え可能な液晶表示装置が知られている。(【0003】)
この液晶表示装置では、電極を備えた一対の基板の間隙に液晶層を封入した液晶表示パネルが2枚積み重ねられており、この積み重ねられた2枚の液晶表示パネルの上面と、下面と、2枚の液晶表示パネルの間の3カ所に偏光板が配置されている。上面の偏光板は吸収型偏光板(x方向吸収、y方向透過)であり、液晶表示パネルの間に配置される偏光板は反射型偏光板(x方向反射、y方向透過)である。上側(観察者側)の液晶表示パネルには、液晶としてツイストネマティック型液晶が用いられている。(【0004】・【0010】)
この液晶表示装置を画像表示が観察されないシャッタ閉状態で使用する場合には、上側の液晶表示パネルの液晶層に印加する電圧を小さくする。そうすると、外光が、上面の偏光板(y方向透過)を透過し、液晶層を透過する際に偏光方向が90度回転して反射型偏光板(x方向反射、y方向透過)に至り、反射型偏光板(x方向反射)により強く反射されるので、メタル調となる。(【0004】・【0009】)
一方、この液晶表示装置を画像表示が観察されるシャッタ開状態で使用する場合には、上側の液晶表示パネルの液晶層に印加する電圧を大きくする。そうすると、上面の偏光板(y方向透過)と上側の液晶表示パネルと反射型偏光板(y方向透過)とが実効的に透明な状態となり、下側の液晶表示パネルの画像表示(y方向偏波)が観察される。(【0004】)
しかし、この液晶表示装置を、人が自分の顔や姿を映して観察する鏡として機能させようとすると、メタル調のシャッタ閉状態としたときに問題がある。すなわち、下側の液晶表示パネルから出射された画像表示光のうちの暗表示部光(x方向偏波)は、本来、反射型偏光板(x方向反射)により反射されるので外部に出射されないはずであるが、当該反射型偏光板が実際には完全でないので、外部に漏れる。また、上記画像表示光のうちの明表示光(y方向偏波)についても、正面方向及び斜め方向ともに光が漏れるし、その際、上側の液晶パネルの液晶層の液晶分子が層厚方向に連続的にツイストしているため、表示装置の正面方向よりも斜め方向から、多くの光漏れが生じる。(【0008】?【0012】)

d そこで、引用文献1に記載された発明は、高画質な画像を表示する状態と、人が自分の顔や姿を映して観察するのに適した見やすい反射像が得られる鏡状態とに切り替え可能な装置を提供することを目的とする。(【0014】)

e 第1の実施の形態の表示装置は、図1のように、順に配置された、画像表示部1000と、反射型偏光選択部材300(x方向反射、y方向透過)と、透過偏光軸可変部400と、吸収型偏光選択部材500(x方向透過、y方向吸収)とを有している。画像表示部1000は、出射側に吸収型偏光選択部材208(x方向吸収、y方向透過)を含んでいるので、画像表示部1000からの明表示光3001は、y方向偏波である。透過偏光軸可変部400は、印加する電圧をオフにしているときには、入射した直線偏光の偏光軸を変化させる状態となり、印加する電圧をオンにすると偏光軸を変化させない状態となる。(【0020】?【0023】)
この表示装置を画像表示状態で使用する場合は、透過偏光軸可変部400に印加する電圧をオフにして、入射した直線偏光の偏光軸を変化させる状態としている。そのため、明表示光3001は、吸収型偏光選択部材208(x方向吸収、y方向透過)、反射型偏光選択部材300(y方向透過)、透過偏光軸可変部400(y方向偏波をx方向偏波に変化)及び吸収型偏光選択部材500(x方向透過)の各部材を透過して、観察者に観察される。他方、外光3002については、そのうちy方向偏波は、吸収型偏光選択部材500(y方向吸収)によって吸収され、また、そのうちx方向偏波は、吸収型偏光選択部材500(x方向透過、y方向吸収)、透過偏光軸可変部400(x方向偏波をy方向偏波に変化)、反射型偏光選択部材300(y方向透過)及び吸収型偏光選択部材208(y方向透過)の各部材を透過して、ほとんど反射されることはない。(【0026】・【0027】)
一方、この表示装置を鏡状態で使用する場合には、透過偏光軸可変部400に印加する電圧をオンにして、偏光軸を変化させない状態としている。そのため、明表示光3001は、吸収型偏光選択部材208(x方向吸収、y方向透過)、反射型偏光選択部材300(y方向透過)及び透過偏光軸可変部400(y方向偏波のまま変化させない)を透過した後に吸収型偏光選択部材500(y方向吸収)によって吸収され、観察者には観察されない。また、外光3002については、そのうちy方向偏波は、吸収型偏光選択部材500(y方向透過)によって吸収されるが、そのうちx方向偏波は、吸収型偏光選択部材(x方向透過)及び透過偏光軸可変部400(x方向偏波のまま)の各部材を透過した後に、反射型偏光選択部材300(x方向反射)で反射されて観察者側に向かう。このように、第1の実施の形態の表示装置は、鏡状態では、画像表示部材からの光は観察者に至ることがなく、一方、周囲から表示装置に入射する外光3002は理想的には非偏光の半分の光が反射型偏光選択部材300で反射して、観察者側に向かうため明るい鏡として機能する。(【0029】?【0032】)

f 第1の実施の形態の表示装置は、画像表示状態では、画像光3001がほとんど損失することなく観察者に向かうため明るい画像が得られ、一方、外光3002は表示装置ではほとんど反射されないので、映り込みやコントラスト比の低下等の外光の反射による画質の劣化がほとんどない。(【0028】)
第1の実施の形態の表示装置は、鏡状態のときに、透過偏光軸可変部400をオンにして、液晶分子を立たせる構成にしているので、従来の技術で述べた鏡状態で電圧オフにする構成のものと比較して明表示光3001の斜め方向への光漏れが少ない。(【0034】)
また、第1の実施の形態の表示装置では、吸収型偏光選択部材208(x方向吸収、y方向透過)が用いられているので、鏡状態における明表示領域では光の漏れが半分程度に抑えられ、暗表示領域では光の漏れがほとんどなく、よって、コントラスト比がより高い見やすい反射像を映し出す鏡が実現できる。(【0033】・【0035】・【0036】)

g 第1の実施の形態では、吸収型偏光選択部材500として、x方向透過、y方向吸収のものを用いたが、x方向吸収、y方向透過のものを用いてもよい。その場合、画像透過状態で使用する場合には、透過偏光軸可変部400を、入射した偏光軸を変化させないで透過する状態(電圧オンの状態)に切り替え、また、鏡状態で使用する場合には、透過偏光軸可変部400を、y方向偏波をx方向偏波へ変化させる状態(電圧オフの状態)に切り替える。表示装置全体の電力が切れている場合に鏡状態とすることができるので、本表示装置をハンドヘルドPCや、携帯電話といったできるだけ消費電力を小さくしたい機器に採用する場合、鏡機能を消費電力がない状態で実現できるためとても有利となる。(【0042】・【0133】)

h 第2の実施の形態の表示装置は、第1の実施の形態の図1及び図2の表示装置の吸収型偏光選択部材500(x方向透過、y方向吸収)を、反射型偏光選択部材301(x方向透過、y方向反射)と可変偏光選択部材600(電圧オフ状態でx方向透過・y方向吸収となり、電圧オン状態で全偏光成分透過となる。)との組み合わせに置き換えたものであり、これらの部材以外の構成は、第1の実施の形態の表示装置と同様である。(【0044】・【0045】)
画像表示状態では、可変偏光選択部材600を電圧オフ状態とするとともに、透過偏光軸可変部400を第1の実施の形態と同様に電圧オフ状態とする。そうすると、可変偏光選択部材600は、第1の実施の形態の吸収型偏光選択部材500(x方向透過、y方向吸収)と同様に、x方向透過、y方向吸収の作用をもつことになる。よって、第2の実施の形態の画像表示状態は、第1の実施の形態の画像表示状態と同様に動作する。(【0048】?【0051】)
鏡状態では、可変偏光選択部材600を電圧オン状態とするとともに、透過偏光軸可変部400を第1の実施の形態と同様に電圧オン状態とする。そのとき、可変偏光選択部材600は全偏光成分透過の作用をもつことになる。x方向偏波は、可変偏光選択部材600及び反射型偏光選択部材301(x方向透過)を透過するので、第1の実施の形態の鏡状態と同様に、反射型偏光選択部材300(x方向反射)によって反射される。y方向偏波は、第1の実施の形態の鏡状態では、吸収型偏光部材500(y方向吸収)によって吸収されていたのに対し、第2の実施の形態の鏡状態では、反射偏光選択部材301(y方向反射)によって反射される。そのため、第2の実施の形態の鏡状態は、第1の実施の形態の鏡状態の2倍以上の明るさとなる。(【0052】?【0057】・【0173】)

i 第2の実施の形態の表示装置は、画像表示状態では、画像光3001がほとんど損失することなく観察者に向かうため明るい画像が得られ、一方、外光3002は表示装置ではほとんど反射されないので、映り込みやコントラスト比の低下等の外光の反射による画質の劣化がほとんどない。(【0051】)
第2の実施の形態の表示装置は、吸収型偏光選択部材208(x方向吸収、y方向透過)が用いられているので、明表示光3001は、y方向偏波である。そして、鏡状態の場合に、明表示光3001は、反射型偏光選択部材300(x方向反射、y方向透過)を透過した後、透過偏光軸可変部400を偏光軸が変化することなくy方向偏波のまま透過し、反射型偏光選択部材301(x方向透過、y方向反射)で反射され、画像表示部100へ戻るため、ほとんど観察者には観察されない。(【0056】)。

j 第2の実施の形態では、反射型偏光選択部材301として、x方向透過、y方向反射のものを用いたが、x方向反射、y方向透過のものを用いてもよい。この場合、透過偏光軸可変部400を、入射した偏光軸を変化させないで透過する状態(電圧オン状態)に切り替えるとともに 可変偏光選択部600を、x方向偏波を吸収しy方向偏波を透過する状態(電圧オフ状態)に切り替えることにより、表示装置を画像透過状態に切り替え、透過偏光軸可変部400を、y方向偏波をx方向偏波へ変化させる状態(電圧オフ状態)に切り替えるとともに、可変偏光選択部600を、全偏光成分を透過する状態(電圧オン状態)に切り替えることにより、表示装置を鏡状態に切り替えることができる。(【0058】)

k 実施例2(第2の実施の形態と基本構成が同様である。)の可変偏光選択部材600は、電圧オフ状態でx方向透過・y方向吸収の状態となり、電圧オン状態で全偏光成分透過の状態であったが、電圧オフ状態で、外部からの入射光が液晶層で殆ど吸収されることなく透過し、電圧オン状態で、2色性色素の分子軸に平行な方向に電気ベクトルの振動方向を有する直線偏光成分は吸収され、これと直交する直線偏光成分は透過するものを用いることもできる。液晶層に電界を印加した状態の液晶の配向方向をy方向と一致させれば、x方向透過・y方向吸収の状態と、全偏光成分透過が透過する状態を選択可能な可変偏光選択部材を実現できる。(【0175】?【0178】)

l 引用文献1に記載された発明によれば、高画質な画像を表示する状態と、人が自分の顔や姿を映して観察するのに適した見やすい反射像が得られる鏡状態とに切り替え可能な装置を提供することができる。(【0318】)

(イ)上記(ア)の認定によれば、引用文献1の請求項6に記載された発明は、「可変偏光選択手段」及び「透過偏光軸可変手段」の特定光学作用・印加電圧関係性について、次のとおり、任意としているものと認められる。
a 上記(ア)dのとおり、引用文献1に記載された発明は、高画質な画像を表示する状態と、人が自分の顔や姿を映して観察するのに適した見やすい反射像が得られる鏡状態とに切り替え可能な装置を提供することを目的としている。
そして、その課題解決原理は、上記(ア)e?g及び上記(ア)h?kにも照らせば、画像表示部100(吸収型偏光選択部材208を含んでいる。)、反射型偏光選択部材300、透過偏光軸可変部400及び吸収型偏光選択部材500(「吸収型偏光選択部材500」は、第2の実施形態では、「反射型偏光選択部材301」及び「可変偏光選択部材600」に置き換えられている。)を順に配置した上で、これらの各部材の光学作用、すなわち、いずれの偏光成分を透過し、いずれの偏光成分を反射し、いずれの偏光成分を吸収するのか、を上記目的が達成できるようにしかるべく組み合わせたことにあると認められる。
そうすると、引用文献1に記載された発明の「可変偏光選択手段」及び「透過偏光軸可変手段」については、それらの光学作用を適切に組み合わせることこそが目的達成ないし課題解決との関係において本質であるというべきである。しかるところ、これらの特定光学作用・印加電圧関係性は、当該各光学作用を適切に組み合わせた後になってようやく問題となる事情にすぎない以上、任意であるというべきである。
そして、同様の理由により、引用文献1の請求項6に記載された発明の「可変偏光選択手段」及び「透過偏光軸可変手段」の特定光学作用・印加電圧関係性も、また、任意であるといえる。

b 上記aの結論は、引用文献1の請求項5に記載された発明との関連性からも導き出されることである。すなわち、当該請求項5に記載された発明は、第2の実施の形態及び実施例2(ただし、【0179】は除く。)と、実施例2における【0175】?【0178】に記載された態様の双方に対応すると認められる(上記(2)ア(ス))ところ、前者と後者とは、可変偏光選択部材600の特定光学作用・印加電圧関係性(次の表を参照。)でのみ異なるものと認められる。

可変偏光選択部材の状態 第2の実施の形態・実施例2 【0175】等
xy透過状態 電圧オン状態 電圧オフ状態
y吸収状態 電圧オフ状態 電圧オン状態

そうすると、当該請求項5に記載された発明は、可変偏光選択手段の特定光学作用・印加電圧関係性を任意としているものと認められる。そして、当該請求項5に記載された発明は、可変偏光選択手段の特定光学作用・印加電圧関係性を文言上特定していないところ、これは、上記のことを反映しているものと解され、そうだとすれば、透過偏光軸可変手段の特定光学作用・印加電圧関係性についても、可変偏光選択手段と同様に文言上特定されていないのであるから、任意であると理解される。
ここで、当該請求項5に記載された発明は、当該請求項4に記載された発明の従属項であり、その意味では、当該請求項6に記載された発明も同じである。そうすると、当該請求項5において、可変偏光選択手段及び透過偏光軸可変手段の特定光学作用・印加電圧関係性が任意である以上、当該請求項6についても同様であると解されるのであり、その理解に反する引用文献1の記載はない。
したがって、当該請求項5に記載された発明との関連性の観点からも、当該請求項6に記載された発明は、「可変偏光選択手段」及び「透過偏光軸可変手段」の特定光学・作用印加電圧関係性を任意としているといえるのである。

ウ 以上を踏まえ、引用発明に接した当業者が相違点1及び2に係る構成に容易に想到し得るか否かについて検討する。
(ア)a まず、引用文献1の請求項6に記載された発明は引用発明の上位概念に当たるから、引用発明に接した当業者は、引用発明を当該請求項6に記載された発明の一形態であると理解する。
そして、当該請求項6に記載された発明には、その文言上、「可変偏光選択手段」及び「透過偏光軸可変手段」の特定光学・作用印加電圧関係性が特定されていないところ、かかる関係性は、当該発明を理解するに当たり当然に決定されなければならないことである。そうすると、当業者は、上記イのとおり、当該請求項6に記載された発明では、「可変偏光選択手段」及び「透過偏光軸可変手段」の特定光学作用・印加電圧関係性が任意であるとの理解に至り、その結果、当業者は、引用発明がどのような位置づけにあるのかにつき、次の理解、すなわち、引用発明は、「可変偏光選択手段」及び「透過偏光軸可変手段」の特定光学作用・印加電圧関係性が本質的には任意であるという技術思想を基礎にもつものであり、その上で、特定光学作用・印加電圧関係性として一定の関係性を特定した発明であるとの理解、に至る。
そうだとすれば、引用発明に接した当業者は、「可変偏光選択手段」及び「透過偏光軸可変手段」に対して具体的に特定されている特定光学作用・印加電圧関係性について、他の可能な選択肢を採用することを適宜なし得るというべきである。

b そこで、引用文献1の記載をみると、【0175】?【0177】(上記(2)ア(コ))には、可変偏光選択部材600(可変偏光選択手段)の特定光学作用・印加電圧関係性を、ネマチック液晶の誘電異方性の符号の選択と初期状態における配向状態の選択に基づき、逆転させることができる旨の記載があると認められる。
そうすると、引用発明に接した当業者は、引用発明で特定されている「可変偏光選択手段」の特定光学作用・印加電圧関係性を逆転させることを適宜なし得たものといえる。

c 以上のとおりであるから、引用発明に接した当業者は、引用文献1に記載された事項に基づいて、相違点1及び相違点2に係る構成に容易に至るのである。

(イ)そして、上記(ア)の結論は、以下の点からも裏付けられる。
すなわち、引用文献1に記載された発明は、表示画面を鏡に切り替えることができる鏡機能付き表示装置に関するものであるが、鏡を画像表示画面に切り替えることができる画像表示機能付き鏡でもある(上記イ(ア)a、上記(2)ア(イ)の【0001】)。そして、引用文献1に記載された発明は、表示装置全体の電力が切れている場合に鏡状態とすれば、鏡機能を消費電力がない状態で実現できるため有利であるともされている(上記イ(ア)g、上記(2)ア(ケ)の【0133】)。
そうすると、当業者であれば、引用発明において、鏡機能を消費電力がない状態で実現しようとするべく、引用発明における可変偏光選択手段(鏡状態においてxy透過状態・電源オン状態、画像表示状態においてx吸収状態・電源オフ状態)の特定光学作用・印加電圧関係性を逆転させて、鏡状態においてxy透過状態・電源オフ状態であり、画像表示状態においてx吸収状態・電源オン状態である可変偏光選択手段を採用することは、容易に想到し得たことである。
したがって、引用発明に接した当業者は、引用文献1に記載された事項に基づいて、相違点1及び相違点2に係る構成に容易に至るのである。

エ そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献1に記載された事項から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

オ したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)小括
以上のとおり、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反する。

3 本件補正についてのむすび
上記2のとおりであるから、本件補正は、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記第2のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成29年4月21日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?22に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2の[理由]1において本件補正前の請求項1として記載されたとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1及び15に係る発明は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2の[理由2]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、上記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「前記装置が最大の反射率を有する時に、光のx方向偏波と、これに直交する偏波の両方を反射する、」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2の[理由]2に記載したとおり、引用発明及び引用文献1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-08-22 
結審通知日 2018-08-28 
審決日 2018-09-10 
出願番号 特願2014-555694(P2014-555694)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02F)
P 1 8・ 121- Z (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岸 智史弓指 洋平三笠 雄司  
特許庁審判長 西村 直史
特許庁審判官 山村 浩
野村 伸雄
発明の名称 電子的調光可能光学装置  
代理人 小越 勇  
代理人 小越 一輝  

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