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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60K
管理番号 1348421
審判番号 不服2018-2238  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-16 
確定日 2019-02-19 
事件の表示 特願2014-134196「車両の駆動装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年1月21日出願公開、特開2016-11072、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年6月30日の出願であって、平成29年6月1日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の同年8月1日に意見書が提出されたが、同年12月18日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。発送日:平成30年1月9日)がされ、これに対し、同年2月16日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正書が提出され、その後、当審において同年10月17日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、その指定期間内の同年11月21日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

本願の請求項1?6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献A?Cに記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献A 特開2003-284204号公報(本審決の引用文献4)
引用文献B 国際公開第2014/054723号(同引用文献1)
引用文献C 特開2008-11683号公報(同引用文献2)

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

本願の請求項1?4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1?4に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1 国際公開第2014/054723号(以下「引用文献1」という。)
引用文献2 特開2008-11683号公報(以下「引用文献2」という。)
引用文献3 特開2013-66326号公報(以下「引用文献3」という。)
引用文献4 特開2003-284204号公報(以下「引用文献4」という。)

第4 本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、平成30年11月21日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものと認められる。

「【請求項1】
車両の駆動装置であって、
エンジンと、
前記エンジンの出力軸に連結された入力軸を有する自動変速部と、
前記自動変速部の入力軸に連結され、電力制御回路から供給される電力で作動するモータジェネレータと、
前記電力制御回路から供給される電力とは異なる電力で作動することによって前記エンジンを始動することが可能な回転電機と、
前記エンジンと前記モータジェネレータとの間の動力伝達を遮断可能なクラッチ部と、
前記エンジン、前記回転電機および前記クラッチ部を制御可能な制御部とを備え、
前記制御部は、前記電力制御回路が短絡故障している場合、前記クラッチ部を解放した状態で前記回転電機を作動することによって前記エンジンを始動する始動制御を実行し、
前記クラッチ部は、前記モータジェネレータと前記自動変速部の入力軸との間に設けられた第1クラッチと、前記エンジンの出力軸と前記自動変速部の入力軸との間に設けられた第2クラッチとを含み、
前記始動制御は、前記第2クラッチを解放した状態で前記回転電機を作動することによって前記エンジンを始動する制御であるとともに、
前記駆動装置は、電動オイルポンプをさらに備え、
前記制御部は、前記第2クラッチを解放した状態で前記エンジンを始動した後、前記エンジンの回転速度が第1回転速度未満の値に低下した場合に、前記電動オイルポンプの吐出油圧を用いて前記第2クラッチを係合し、
前記第1回転速度は、前記第2クラッチの係合によって前記モータジェネレータが回転させられることによって生じる逆起電力によって前記モータジェネレータと前記電力制御回路との間を流れる電流が許容値未満となる回転速度である、車両の駆動装置。
【請求項2】
前記第1クラッチは、油圧が供給されていない時に係合され、所定油圧以上の油圧が供給されている時に解放されるように構成され、
前記駆動装置は、前記自動変速部の入力軸に接続された機械式オイルポンプをさらに備え、
前記制御部は、前記エンジンを始動した後に前記電動オイルポンプの吐出油圧を用いて前記第2クラッチを係合したことによって前記自動変速部の入力軸の回転速度が第2回転速度よりも大きい値に増加した場合に、前記機械式オイルポンプの吐出油圧を用いて前記第1クラッチを解放し、
前記第2回転速度は、前記機械式オイルポンプの吐出油圧が前記所定油圧よりも大きくなる回転速度である、請求項1に記載の車両の駆動装置。」

第5 引用文献、引用発明
1 引用文献1
本願の出願前に頒布された国際公開第2014/054723号(引用文献1)には、「始動制御装置」に関して、図面(特に、図1?図3、図6参照)とともに、次の事項が記載されている。

(1)「[0010] 前記パラレル式のハイブリッド車両の駆動系は、図1に示すように、エンジンEngと、第1クラッチ(クラッチ)CL1と、モータ/ジェネレータ(強電モータ)MGと、第2クラッチCL2と、無段変速機CVTと、ファイナルギヤFGと、左駆動輪LTと、右駆動輪RTと、を備えている。」

(2)「[0014] 第1クラッチCL1は、エンジンEngとモータ/ジェネレータMGとの間の位置に介装される。この第1クラッチCL1としては、例えば、ダイアフラムスプリングによる付勢力にて常時開放(ノーマルオープン)の乾式クラッチが用いられ、エンジンEng?モータ/ジェネレータMG間の締結/半締結/開放を行なう。この第1クラッチCL1が完全締結状態ならモータトルク+エンジントルクが第2クラッチCL2へと伝達され、開放状態ならモータトルクのみが、第2クラッチCL2へと伝達される。なお、半締結/開放の制御は、油圧アクチュエータに対するストローク制御にて行われる。
[0015] モータ/ジェネレータMGは、交流同期モータ構造であり、発進時や走行時に駆動トルク制御や回転数制御を行うと共に、制動時や減速時に回生ブレーキ制御による車両運動エネルギーのバッテリBATへの回収を行なうものである。
[0016] 第2クラッチCL2は、無段変速機CVT及びファイナルギヤFGを介し、エンジンEng及びモータ/ジェネレータMG(第1クラッチCL1が締結されている場合)から出力されたトルクを左右駆動輪LT,RTへと伝達するものであり、サンギアSG、複数のピニオンギア(図示せず)、リングギアRG、プラネットキャリアPCを備えたシングルピニオン式の遊星歯車PGと、フォワードクラッチFCと、リバースブレーキRBとを有している。
[0017] そして、遊星歯車PGのリングギアRGはモータ/ジェネレータMGのモータ出力軸MGoutに連結され、遊星歯車PGのサンギアSGは無段変速機CVTの変速機入力軸inputに連結されている。さらに、フォワードクラッチFCはモータ出力軸MGoutとサンギアSGとの間に介装され、リバースブレーキRBはプラネットキャリアPCと図示しないクラッチケースとの間に介装されている。」

(3)「[0020] なお、フォワードクラッチFCはノーマルオープンの湿式多板クラッチであり、リバースブレーキRBはノーマルオープンの湿式多板ブレーキである。それぞれクラッチ押付力(油圧力)に応じて伝達トルク(クラッチトルク容量)が発生する。また、フォワードクラッチFC及びリバースブレーキRBは、それぞれ熱容量が小さく設定されている。」

(4)「[0022] さらに、モータ出力軸MGoutには、チェーンCHを介して機械式オイルポンプO/Pの入力ギアが接続されている。この機械式オイルポンプO/Pは、モータ/ジェネレータMGの回転駆動力によって作動するポンプであり、例えばギアポンプやベーンポンプ等が用いられる。ここで、この機械式オイルポンプO/Pは、モータ/ジェネレータMGの回転方向に拘らずオイル吐出が可能となっている。また、オイルポンプとしては、サブモータS/Mの回転駆動力によって作動する電動オイルポンプM/O/Pが設けられている。
[0023] そして、この機械式オイルポンプO/Pと電動オイルポンプM/O/Pは、第1,第2クラッチCL1,CL2への制御圧及び無段変速機CVTへの制御圧を作り出す油圧源となっている。この油圧源では、機械式オイルポンプO/Pからの吐出油量が十分であるときはサブモータS/Mを停止して電動オイルポンプM/O/Pを停止させ、機械式オイルポンプO/Pからの吐出油圧が低下すると、サブモータS/Mを駆動して電動オイルポンプM/O/Pのモータを作動させて電動オイルポンプM/O/Pからも作動油を吐出するように切り替えられる。
[0024] さらに、実施の形態1では、エンジンEngには、始動用モータとしてのスタータモータSTMが設けられている。なお、スタータモータSTMは、このスタータモータSTMを含む補機類の電源としての補助バッテリ31に接続されている。また、補助バッテリ31は、DC/DCコンバータ32を介してバッテリBATに接続されている。
[0025] 実施の形態1におけるパラレル式のハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、インバータINVと、バッテリBATと、統合コントローラ10と、変速機コントローラ11と、クラッチコントローラ12と、エンジンコントローラ13と、モータコントローラ14と、バッテリコントローラ15と、バッテリ電圧センサ15aと、バッテリ温度センサ15bと、エンジン回転数センサ(エンジン側回転数検出部)21と、フォワードクラッチ温度センサ22と、リバースブレーキ温度センサ23と、アクセル開度センサ24と、変速機出力回転数センサ25と、モータ回転数センサ(強電モータ側回転数検出部)26と、第2クラッチ出力回転数センサ28と、作動油温センサ29と、を備えている。
[0026] インバータINVは、直流/交流の変換を行い、モータ/ジェネレータMGの駆動電流を生成する。また生成する駆動電流の位相を逆転することでモータ/ジェネレータMGの出力回転を反転する。
バッテリBATは、モータ/ジェネレータMGからの回生エネルギーを、インバータINVを介して蓄積する。
[0027] 統合コントローラ10は、バッテリ状態(例えば、バッテリコントローラ15から入力)、アクセル開度(例えば、アクセル開度センサ24により検出)、及び車速(例えば、変速機出力回転数に同期した値、変速機出力回転数センサ25により検出)から目標駆動トルクを演算する。そして、その結果に基づき各アクチュエータ(モータ/ジェネレータMG、エンジンEng、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、無段変速機CVT)に対する指令値を演算し、各コントローラ11?15へと送信する。」

(5)「[0029] エンジンコントローラ13は、エンジン回転数(エンジン回転数センサ21により検出)を入力すると共に、統合コントローラ10からのエンジントルク指令値を達成するようにエンジントルク制御を行なう。 モータコントローラ14は、統合コントローラ10からのモータトルク指令値やモータ回転数指令値を達成するようにモータ/ジェネレータMGの制御を行なう。
バッテリコントローラ15は、バッテリBATの充電状態(SOC)を管理し、その情報を統合コントローラ10へと送信する。」

(6)「[0030] (始動制御)
次に、図2、図3のフローチャートに基づいて、エンジンEngの始動制御について説明する。なお、この始動制御は、統合コントローラ10、エンジンコントローラ13、モータコントローラ14において実行される。
本実施の形態1では、エンジンEngの始動は、モータ/ジェネレータMGの駆動中は、第1クラッチCL1を締結させてモータ/ジェネレータMGを駆動させて始動を行う。しかしながら、モータ/ジェネレータMGの停止時には、以下に説明する始動可能条件が不成立の場合には、スタータモータSTMによる始動を行う。」

(7)「[0048] (実施の形態1の作用)
実施の形態1においてスタータモータSTMによりエンジンEngの始動を行った場合の動作を、図6のタイムチャートにより説明する。なお、この動作例では、停車状態でエンジンEngを始動させる場合を説明する。この場合、モータ/ジェネレータMGも停止し、第1クラッチCL1は非締結状態となっている。また、エンジンEng始動後、モータ/ジェネレータMGでは、エンジン回転を入力して回生を行う例を示している。
[0049] 図においてt11の時点で、スタータモータSTMによる始動と判定されて、スタータモータSTMがOFFからONに切り換えられている。なお、この時点で、電動オイルポンプM/O/Pの起動は禁止され、待機状態となる(ステップS301→S302)。
[0050] このスタータモータSTMのONにより、t11の時点から、エンジン回転数が上昇する。そして、エンジンEngの予め設定されたエンジン回転数を越える回転状態が、設定時間以上継続することにより自立判定(ステップS213)が成され、その時点、すなわち、t12の時点で、スタータモータSTMは停止(OFF)される。
[0051] その後、ステップS215,S216の処理に基づいて、t13の時点で、モータ/ジェネレータMGが駆動(回生)状態となるとともに、第1クラッチCL1の締結が開始される。こにより、t13の時点以降、モータ回転数が上昇し、これに伴って、機械式オイルポンプO/Pの吐出圧が高まり、第1クラッチ油圧が立ち上がる。
[0052] よって、第1クラッチCL1が締結状態となり、これに伴って、エンジン回転数ωengとモータ回転数ωmotとが、図示のように近付く。そして、両回転数ωeng,ωmotが一致するt14の直前に両回転数の差ΔNが駆動開始設定値以下となることで、電動オイルポンプM/O/Pの起動許可判定が成される(ステップS303(a))。その結果、t14の時点で、電動オイルポンプM/O/Pが起動され、電動ポンプ回転数が上昇する。また、これに伴って、第1クラッチ油圧も、その指示圧であるCL1指示圧に一致する。
[0053] この場合、モータ/ジェネレータMGが駆動しているため、エンジン再始動が必要になった場合、モータ/ジェネレータMGを力行駆動させて始動させることができる。このため、スタータモータSTMによる始動が不要であり、電力が十分確保された状態で電動オイルポンプM/O/Pを起動させることが可能である。」

(8)上記(4)の[0026]及び[0027]並びに図1からみて、モータ/ジェネレータMGは、統合コントローラ10、モータコントローラ14、バッテリBAT及びインバータINV等からなる制御装置から供給される電力で作動するといえる。

(9)上記(4)の[0027]、[0029]及び[0030]並びに図1からみて、ハイブリッド車両の始動制御装置は、エンジンEng、スタータモータSTMおよび第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2を制御可能な統合コントローラ10、クラッチコントローラ12及びエンジンコントローラ13等からなる制御機構を備えているといえる。

上記記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「ハイブリッド車両の始動制御装置であって、
エンジンEngと、
前記エンジンEngの出力軸に連結された入力軸を有する無段変速機CVTと、
前記無段変速機CVTの入力軸に連結され、統合コントローラ10、モータコントローラ14、バッテリBAT及びインバータINV等からなる制御装置から供給される電力で作動するモータ/ジェネレータMGと、
補助バッテリ31からの電力で作動することによって前記エンジンEngを始動することが可能なスタータモータSTMと、
前記エンジンEngと前記モータ/ジェネレータMGとの間の動力伝達を遮断可能な第1クラッチCL1、及び前記モータ/ジェネレータMGと無段変速機CVTの入力軸との間の動力伝達を遮断可能な第2クラッチCL2と、
前記エンジンEng、前記スタータモータSTMおよび前記第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2を制御可能な統合コントローラ10、クラッチコントローラ12及びエンジンコントローラ13等からなる制御機構とを備え、
前記制御機構は、前記モータ/ジェネレータMGの停止時に始動可能条件が不成立の場合には、前記第1クラッチCL1を解放した状態で前記スタータモータSMTを作動することによって前記エンジンEngを始動する始動制御を実行し、
前記始動制御装置は、電動オイルポンプM/O/Pをさらに備える、ハイブリッド車両の始動制御装置。」

2 引用文献2
本願の出願前に頒布された特開2008-11683号公報(引用文献2)には、「モータ駆動装置」に関して、図面(特に、図1?図3参照)とともに、次の事項が記載されている。

「【0075】
インバータ異常検出部36は、モータジェネレータMG2の駆動制御時においてインバータ14に発生した異常を検出する。インバータ14の異常検出は、たとえば、インバータ14の各IGBT素子Q3?Q8に内蔵された電流センサの検出値に基づいて行なわれる。このとき、インバータ異常検出部36は、電流センサの検出値のいずれかに過電流が検出されたことに応じて、IGBT素子Q3?Q8の短絡故障による異常と判定し、その判定した結果を示す信号FINVを生成する。そして、インバータ異常検出部36は、その生成した信号FINVを短絡箇所検出部38およびインバータ用駆動信号変換部34へ出力する。
【0076】
なお、インバータ14の異常検出は、各IGBT素子Q3?Q8に内蔵された温度センサの検出値に基づいて行なうこともできる。この場合、温度センサの検出値のいずれかが高温であり、IGBT素子の過熱が検出されたことに応じて、IGBT素子Q3?Q8の短絡故障による異常が判定される。
【0077】
短絡箇所検出部38は、インバータ異常検出部36から信号FINVを受けると、電流センサ24からのモータ電流Iu,Iv,Iwに基づいて短絡故障が発生したIGBT素子の特定を行なう。短絡箇所検出部38は、後述する方法により、短絡故障が発生した相と、その相における短絡故障が生じたアーム(上アームおよび下アームのいずれか)とを特定する。そして、短絡箇所検出部38は、その特定した短絡箇所を示す信号DEを生成して動力伝達制御部42およびインバータ用駆動信号変換部34へ出力する。
【0078】
動力伝達制御部42は、短絡箇所検出部38から信号DEを受けると、クラッチ51を切断して、モータジェネレータMG2と駆動軸52との間の動力伝達を遮断する。これは、モータジェネレータMG2が車輪54からの動力伝達を受けて高回転となり、大きな逆起電力を発生してモータ駆動電流を増大させるのを回避するためである。そのため、動力伝達制御部42は、意図的にクラッチ51を切断してモータ回転数を直ちに低下させることとする。
【0079】
なお、動力伝達制御部42は、後述するように、一旦モータ回転数MRN2が所定値以下に低下すると、再びクラッチ51を連結させる。これにより、車両はモータジェネレータMG2を駆動力源とした退避走行に移行する。」

上記記載事項及び図面の図示内容を整理すると、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2に記載された事項」という。)が記載されている。

「動力伝達制御部42は、インバータ14が短絡故障している場合、クラッチ51を切断すること。」

3 引用文献3
本願の出願前に頒布された特開2013-66326号公報(引用文献3)には、「車両および車両の制御方法」に関して、図面(特に、図1、図2参照)とともに、次の事項が記載されている。

「【0055】
[インバータ短絡故障発生時の問題点]
このような車両100において、走行中に、たとえばインバータ130のU相アーム131のスイッチング素子Q3が導通状態のままとなってしまう短絡故障が生じた場合に、そのままスイッチング動作を継続して走行を行なうと、U相の下アームのスイッチング素子Q4が導通状態にされたときに、電力線PL2およびNL1間が短絡し、電力線PL2からNL1に向かう方向に大きな短絡電流が流れる。この短絡電流が継続的に流れることにより、故障していないスイッチング素子Q4についても破損してしまったり、電力線PL2,NL1などの電力経路が発熱したりするおそれがある。
【0056】
そのため、上記のようなインバータ130の異常が生じた場合には、速やかにインバータ130を停止することが望ましい。
【0057】
しかしながら、インバータ130を停止した場合には、車両100が自力で車両を安全な場所まで移動することができないため、たとえば、他の車両による牽引や人力で移動することが必要となる。
【0058】
ところが、図1のような構成の車両100においては、モータジェネレータ140の出力軸がクラッチ等によって物理的に切り離されない限りは、車両100の移動により駆動輪160が回転すると、それに伴ってモータジェネレータ140も回転し得る。このとき、モータジェネレータ140が、上述のような回転子に永久磁石を有する永久磁石型の回転電機である場合には、ロータが回転することによって、各相コイルに誘導電圧が発生する。」

上記記載事項及び図面の図示内容を整理すると、引用文献3には、次の事項(以下「引用文献3に記載された事項」という。)が記載されている。

「車両100において、走行中に、インバータ130が短絡故障すること。」

4 引用文献4
本願の出願前に頒布された特開2003-284204号公報(引用文献4)には、「車両のハイブリッドシステム」に関して、図面(特に、図1参照)とともに、次の事項が記載されている。

(1)「【0013】図1に示すように、車両のパワートレインは、エンジン1、エンジンクラッチ3、トランスミッション4を備え、エンジン1の出力がエンジンクラッチ3を介してトランスミッション4の入力軸に伝えられ、トランスミッション4の出力軸の回転が図示しないプロペラシャフトからデファレンシャルギア5およびドライブシャフトを介して左右の後輪(駆動輪)7に伝達される。」

(2)「【0019】さらに、車両のパワートレインは、モータ2、モータクラッチ12、ギア装置13を備え、モータ2の回転がモータクラッチ12及びギア装置13を介してトランスミッション入力軸に伝達される。
【0020】モータ2は三相同期電動機または三相誘導電動機等の交流機であり、インバータ15によって駆動される。インバータ15は電気二重相キャパシタ(蓄電要素)16に接続され、キャパシタ16の直流充電電力を交流電力に変換してモータ2へ供給するとともに、モータ2の交流発電電力を直流電力に変換してキャパシタ16に充電する。」

上記記載事項及び図面の図示内容を整理すると、引用文献4には、次の事項(以下「引用文献4に記載された事項」という。)が記載されている。

「ハイブリッド車両において、電動機及び発電機であるモータ2とトランスミッション4の入力軸との間に設けられたモータクラッチ12と、エンジンの出力軸とトランスミッション4の入力軸との間に設けられたエンジンクラッチ3とを備えること。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比すると、後者の「ハイブリッド車両の始動制御装置」は前者の「車両の駆動装置」に相当し、以下同様に、「無段変速機CVT」は「自動変速部」に、「前記エンジンEngと前記モータ/ジェネレータMGとの間の動力伝達を遮断可能な第1クラッチCL1、及び前記モータ/ジェネレータMGと無段変速機CVTの入力軸との間の動力伝達を遮断可能な第2クラッチCL2」は「前記エンジンと前記モータジェネレータとの間の動力伝達を遮断可能なクラッチ部」に、「統合コントローラ10、モータコントローラ14、バッテリBAT及びインバータINV等からなる制御装置」は「電力制御回路」に、「補助バッテリ31からの電力で作動する」ことは「電力制御回路から供給される電力とは異なる電力で作動する」ことに、「スタータモータSTM」は「回転電機」に、「前記エンジンEng、前記スタータモータSMTおよび前記第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2を制御可能な統合コントローラ10、クラッチコントローラ12及びエンジンコントローラ13等からなる制御機構」は「前記エンジン、前記回転電機および前記クラッチ部を制御可能な制御部」に、「電動オイルポンプM/O/P」は「電動オイルポンプ」にそれぞれ相当する。

したがって、両者は、
「車両の駆動装置であって、
エンジンと、
前記エンジンの出力軸に連結された入力軸を有する自動変速部と、
前記自動変速部の入力軸に連結され、電力制御回路から供給される電力で作動するモータジェネレータと、
前記電力制御回路から供給される電力とは異なる電力で作動することによって前記エンジンを始動することが可能な回転電機と、
前記エンジンと前記モータジェネレータとの間の動力伝達を遮断可能なクラッチ部と、
前記エンジン、前記回転電機および前記クラッチ部を制御可能な制御部とを備え、
前記駆動装置は、電動オイルポンプをさらに備える、車両の駆動装置。」
で一致し、次の点で相違する。

〔相違点〕
本願発明1は、「前記制御部は、前記電力制御回路が短絡故障している場合、前記クラッチ部を解放した状態で前記回転電機を作動することによって前記エンジンを始動する始動制御を実行し、前記クラッチ部は、前記モータジェネレータと前記自動変速部の入力軸との間に設けられた第1クラッチと、前記エンジンの出力軸と前記自動変速部の入力軸との間に設けられた第2クラッチとを含み、前記始動制御は、前記第2クラッチを解放した状態で前記回転電機を作動することによって前記エンジンを始動する制御であるとともに」、「前記制御部は、前記第2クラッチを解放した状態で前記エンジンを始動した後、前記エンジンの回転速度が第1回転速度未満の値に低下した場合に、前記電動オイルポンプの吐出油圧を用いて前記第2クラッチを係合し、前記第1回転速度は、前記第2クラッチの係合によって前記モータジェネレータが回転させられることによって生じる逆起電力によって前記モータジェネレータと前記電力制御回路との間を流れる電流が許容値未満となる回転速度である」のに対し、
引用発明は、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2は「前記エンジンEngと前記モータ/ジェネレータMGとの間の動力伝達を遮断可能な第1クラッチCL1、及び前記モータ/ジェネレータMGと無段変速機CVTの入力軸との間の動力伝達を遮断可能な第2クラッチCL2」であり、「前記制御機構は、前記モータ/ジェネレータMGの停止時に始動可能条件が不成立の場合には、前記第1クラッチCL1を解放した状態で前記スタータモータSTMを作動することによって前記エンジンEngを始動する始動制御を実行する」点。

そこで、相違点について検討する。
引用文献2に記載された事項は、「動力伝達制御部42は、インバータ14が短絡故障している場合、クラッチ51を切断すること」である。
引用文献3に記載された事項は、「車両100において、走行中に、インバータ130が短絡故障すること」である。
引用文献4に記載された事項は、「ハイブリッド車両において、電動機及び発電機であるモータ2とトランスミッション4の入力軸との間に設けられたモータクラッチ12と、エンジンの出力軸とトランスミッション4の入力軸との間に設けられたエンジンクラッチ3とを備えること」である。
相違点に係る本願発明の発明特定事項のうち、制御部が、エンジンを始動した後エンジンの回転速度が第1回転速度未満の値に低下した場合に、電動オイルポンプの吐出油圧を用いて第2クラッチを係合する際の「前記第1回転速度は、前記第2クラッチの係合によって前記モータジェネレータが回転させられることによって生じる逆起電力によって前記モータジェネレータと前記電力制御回路との間を流れる電流が許容値未満となる回転速度である」ことは、引用文献1から自明であるとはいえず、また、引用文献2?4に記載されていないから、当業者が容易に想到することができたともいえない。
したがって、本願発明1は、引用発明及び引用文献2?4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本願発明2について
本願発明2は、本願発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明及び引用文献2?4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第7 原査定についての判断
平成30年11月21日の手続補正により補正された請求項1及び2は、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項を有するものとなった。当該発明特定事項は、原査定における引用文献A、B及びC(当審拒絶理由における引用文献4、1及び2)には記載されておらず、本願の出願前における周知技術でもないので、本願発明1及び2は、原査定における引用文献A、B及びCに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-02-04 
出願番号 特願2014-134196(P2014-134196)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 将一  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 冨岡 和人
粟倉 裕二
発明の名称 車両の駆動装置  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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