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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C03C
審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:857  C03C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C03C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C03C
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C03C
管理番号 1348691
異議申立番号 異議2017-700933  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-09-29 
確定日 2018-12-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6105176号発明「合わせガラス用中間膜および合わせガラス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6105176号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8、10?20〕、〔9〕について訂正することを認める。 特許第6105176号の請求項1?5、7、9?20に係る特許を維持する。 特許第6105176号の請求項6、8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6105176号の請求項1?20に係る特許についての出願(特願2016-559078号)は、2015年(平成27年)11月10日を国際出願日とする出願(国内優先権主張 平成26年11月10日 平成26年12月 5日)であって、平成29年 3月10日にその特許権の設定登録がされ、同年 3月29日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1?20に係る特許について、特許異議申立人 金口 幸裕 (以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものであり、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年 9月29日 特許異議の申立て
平成30年 1月10日付け 取消理由通知
同年 3月13日 訂正の請求、意見書の提出
同年 7月31日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年10月 2日 訂正の請求、意見書の提出

なお、平成30年 3月13日付けの訂正の請求に対して、申立人に期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、指定期間内に意見書は提出されなかった。


第2 訂正請求について
1 訂正の内容
平成30年10月 2日付けの訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下のとおりである(下線部は、訂正箇所)。
なお、平成30年 3月13日付けの訂正の請求は、取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「熱可塑性エラストマーを含有するA層を少なくとも1層含む合わせガラス用中間膜であって、ASTM D4065-06に基づいて周波数1000Hzの条件で動的粘弾性試験を行うことで測定される70℃におけるA層のせん断貯蔵弾性率が1MPa以上であり、A層の少なくとも片面にA層より高いせん断貯蔵弾性率を有する層を有し、合わせガラス用中間膜の少なくとも一方の表面が賦形された状態である、合わせガラス用中間膜。」
と記載されているのを、
「熱可塑性エラストマーを含有するA層を少なくとも1層含む合わせガラス用中間膜であって、ASTM D4065-06に基づいて周波数1000Hzの条件で動的粘弾性試験を行うことで測定される70℃におけるA層のせん断貯蔵弾性率が1MPa以上で、5MPa以下であり、A層の両面にA層より高いせん断貯蔵弾性率を有する層として、ポリビニルアセタール樹脂を含むB層を有し、B層における可塑剤の含有量がポリビニルアセタール樹脂100質量部に対して25質量部以下であり、B層の厚さの合計に対するA層の厚さの合計の比が1/3以下であり、合わせガラス用中間膜の両面が賦形された状態である、合わせガラス用中間膜。」
に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に
「賦形された表面のエンボス高さが10?150μmである」
と記載されているのを、
「賦形された表面のエンボス高さが20?150μmである」
に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7に
「B層における可塑剤の含有量が熱可塑性樹脂100質量部に対して50質量部以下である」
と記載されているのを、
「B層における可塑剤の含有量がポリビニルアセタール樹脂100質量部に対して6質量部以下である」に訂正する。
また、特許請求の範囲の請求項7に
「請求項6に記載の合わせガラス用中間膜」
と記載されているのを、
「請求項1?5のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜」
に訂正する。
(当審注:訂正請求書の「エ 訂正事項4」に「「請求項6に記載の合わせガラス用中間膜。」と記載されているのを・・・」の記載は、「「請求項6に記載の合わせガラス用中間膜」と記載されているのを・・・」の誤記と認める。)

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項9に
「B層の熱可塑性樹脂がアイオノマー樹脂である、請求項6または7に記載の合わせガラス用中間膜」
と記載されているのを、
「熱可塑性エラストマーを含有するA層を少なくとも1層含む合わせガラス用中間膜であって、 ASTM D4065-06に基づいて周波数1000Hzの条件で動的粘弾性試験を行うことで測定される70℃におけるA層のせん断貯蔵弾性率が1MPa以上で、5MPa以下であり、A層の少なくとも片面にA層より高いせん断貯蔵弾性率を有する層として、熱可塑性樹脂を含むB層を有し、B層の熱可塑性樹脂がアイオノマー樹脂であり、合わせガラス用中間膜の少なくとも一方の表面が賦形された状態である、合わせガラス用中間膜」
に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項10に
「請求項1?9のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜」
と記載されているのを、
「請求項1、2、3、4、5、7又は9に記載の合わせガラス用中間膜」
に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項11に
「請求項1?10のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜」
と記載されているのを、
「請求項1、2、3、4、5、7、9又は10に記載の合わせガラス用中間膜」
に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項12に
「請求項1?11のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜」
と記載されているのを、
「請求項1、2、3、4、5、7、9、10又は11に記載の合わせガラス用中間膜」
に訂正する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項13に
「請求項1?12のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜」
と記載されているのを、
「請求項1、2、3、4、5、7、9、10、11又は12に記載の合わせガラス用中間膜」
に訂正する。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項14に
「請求項1?13のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜」
と記載されているのを、
「請求項1、2、3、4、5、7、9、10、11、12又は13に記載の合わせガラス用中間膜」
に訂正する。

(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項15に
「請求項1?14のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜」
と記載されているのを、
「請求項12に記載の合わせガラス用中間膜」
に訂正する。

(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項17に
「請求項1?16のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜」
と記載されているのを、
「請求項1、2、3、4、5、7、9、10、11、12、13、14、15又は16に記載の合わせガラス用中間膜」
に訂正する。

(14)訂正事項14
特許請求の範囲の請求項19に
「請求項1?18のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜」
と記載されているのを、
「請求項1、2、3、4、5、7、9、10、11、12、13、14、15、16、17又は18に記載の合わせガラス用中間膜」
に訂正する。

(15)訂正事項15
特許請求の範囲の請求項20に
「請求項1?19のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜」
と記載されているのを、
「請求項1、2、3、4、5、7、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18又は19に記載の合わせガラス用中間膜」
に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び一群の請求項について
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1において、「A層のせん断貯蔵弾性率が1MPa以上であり」と特定していたところ、本件訂正により「A層のせん断貯蔵弾性率が1MPa以上で、5MPa以下であり」と特定して、A層のせん断貯蔵弾性率の上限を限定するものである。
また、訂正事項1は、訂正前の請求項1において、「A層の少なくとも片面にA層より高いせん断貯蔵弾性率を有する層を有し」と特定していたところ、本件訂正により「A層の両面にA層より高いせん断貯蔵弾性率を有する層として、ポリビニルアセタール樹脂を含むB層を有し、B層における可塑剤の含有量がポリビニルアセタール樹脂100質量部に対して25質量部以下であり、B層の厚さの合計に対するA層の厚さの合計の比が1/3以下であり、」と特定して、A層の両面にA層より高いせん断貯蔵弾性率を有するB層を有し、B層は可塑剤の含有量が所定量以下であるポリビニルアセタール樹脂を含み、B層の厚さの合計に対するA層の厚さの合計の比が所定値以下であることを限定するものである。
さらに、訂正事項1は、訂正前の請求項1において、「合わせガラス用中間膜の少なくとも一方の表面が賦形された状態である」と特定していたところ、本件訂正により「合わせガラス用中間膜の両面が賦形された状態である」ことを限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
A層のせん断貯蔵弾性率の上限が5MPa以下である点は、本件明細書の段落【0100】の「A層のせん断貯蔵弾性率(周波数1000Hz、70℃)は、5MPa以下であることが好ましく」の記載に基づくものである。 また、A層の両面にポリビニルアセタール樹脂を含むB層を有し、B層における可塑剤の含有量がポリビニルアセタール樹脂100質量部に対して25質量部以下である点は、本件明細書の段落【0109】の「A層より高いせん断貯蔵弾性率(周波数1000Hz、70℃)を有する層としては、熱可塑性樹脂を含むB層が好ましい。」、段落【0112】の「ポリビニルアセタール樹脂等の熱可塑性樹脂を含有する組成物をB層として用いる場合 」、段落【0156】の「可塑剤の含有量は、ポリビニルアセタール樹脂 ・・・ 等の熱可塑性樹脂100質量部に対して、50質量部以下が好ましく、25質量部以下がより好ましく」、段落【0220】の「B層/A層/B層(厚さ330μm/厚さ100μm/厚さ330μm)という3層構成となる中間膜(厚さ760μm)を成形した。」などの記載に基づくものである。
さらに、B層の厚さの合計に対するA層の厚さの合計の比が1/3以下である点は、本件明細書の段落【0190】の「B層の厚さの合計に対するA層の厚さの合計の比(A層の厚さの合計/B層の厚さの合計)が1/1以下であることが好ましく、1/2以下であることがより好ましく、1/3以下であることがさらに好ましい。」の記載に基づくものである。
そして、合わせガラス用中間膜の両面が賦形された状態である点は、本件明細書の【0176】の「エンボスロール法等による賦形は、合わせガラス用中間膜の片面に形成させてもよいし、両面に形成させてもよいが、両面に形成させることがより好ましい。」の記載に基づくものである。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項3において、「賦形された表面のエンボス高さが10?150μmである」と特定していたところ、本件訂正により、「賦形された表面のエンボス高さが20?150μmである」と特定して、賦形された表面のエンボス高さの範囲を減縮するものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
賦形された表面のエンボス高さの下限が20μmである点は、本件明細書の段落【0172】の「エンボスロール法等によって賦形された合わせガラス用中間膜の表面における凹部の深さおよび/または凸部の高さ(以下、エンボス高さということがある)は、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましい。」の記載に基づくものである。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(3)訂正事項3、5について
ア 訂正の目的について
訂正事項3、5は、それぞれ訂正前の請求項6、8を削除するものである。
したがって、訂正事項3、5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
上記アに記載のとおり、訂正事項3、5は、訂正前の請求項6、8を削除するものである。
したがって、訂正事項3、5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項3、5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、訂正前の請求項7が「B層における可塑剤の含有量が熱可塑性樹脂100質量部に対して50質量部以下である」であることを特定していたところ、本件訂正により「B層における可塑剤の含有量がポリビニルアセタール樹脂100質量部に対して6質量部以下である」と特定して、熱可塑性樹脂がポリビニルアセタール樹脂であることを特定し、かつ、可塑剤の含有量の上限を更に限定するものである。
また、訂正事項4は、訂正前の請求項7の「請求項6に記載の合わせガラス用中間膜」の記載を、訂正前の請求項7で引用していた訂正前の請求項6の「A層より高いせん断貯蔵弾性率を有する層として、熱可塑性樹脂を含むB層を有する」ことが請求項1で限定され請求項6が削除されたことに併せて、訂正前の請求項6で引用していた請求項1?5を引用するために、「請求項1?5のいずれかに記載の中間膜」に訂正するものである。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
B層における可塑剤の含有量がポリビニルアセタール樹脂100質量部に対して6質量部以下である点は、本件明細書の段落【0156】の「可塑剤の含有量は、ポリビニルアセタール樹脂 ・・・ 等の熱可塑性樹脂100質量部に対して、 ・・・ 6質量部以下がとりわけ好ましく」の記載に基づくものである。
また、「請求項1?5のいずれかに記載の中間膜」とする点は、訂正前の請求項7で引用していた訂正前の請求項6の「請求項1?5のいずれかに記載の中間膜」の記載に基づくものである。
したがって、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(5)訂正事項6について
ア 訂正の目的について
訂正事項6は、訂正前の請求項9が訂正前の請求項6又は7の記載を引用し、訂正前の請求項6が訂正前の請求項1?5のいずれかを引用する記載であったものを、訂正後の請求項9において、請求項1及び6を引用するものについて請求項間の引用関係を解消し、独立形式請求項に改めるための訂正である。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、訂正事項6は、訂正前の請求項1において、「A層のせん断貯蔵弾性率が1MPa以上」であることを特定していたところ、本件訂正により「A層のせん断貯蔵弾性率が1MPa以上で、5MPa以下であり」と特定して、A層のせん断貯蔵弾性率の上限を限定するものである。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
訂正事項6のうち、請求項間の引用関係を解消して独立形式に改める訂正は、何ら新規事項を追加するものではない。
また、A層のせん断貯蔵弾性率の上限が5MPa以下であることは、上記(1)イに記載したように、本件明細書の段落【0100】の記載に基づくものである。
したがって、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(6)訂正事項7?15について
ア 訂正の目的について
訂正事項7?15は、請求項10?15、17、19、20において選択的に引用する請求項の一部を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
引用する請求項を削除する訂正は、何ら新規事項を追加するものではない。
したがって、訂正事項7?15は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項7?15は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(7)一群の請求項について
訂正前の請求項2?20は、直接又は間接的に請求項1を引用しており、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1-20は、一群の請求項である。

ここで、特許権者は、訂正後の請求項9については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めているところ、上記のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、請求項9を別の訂正単位とすることを認める。

3 小活
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に規定された事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?8、10?20〕、〔9〕について訂正することを認める。


第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された本件特許の請求項1?5、7、9?20に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明5」、「本件発明7」、「本件発明9」?「本件発明20」といい、また、まとめて「本件発明」ということがある。)は、次の事項により特定されるとおりのものであると認められる(下線部は、訂正箇所)。

【請求項1】
熱可塑性エラストマーを含有するA層を少なくとも1層含む合わせガラス用中間膜であって、
ASTM D4065-06に基づいて周波数1000Hzの条件で動的粘弾性試験を行うことで測定される70℃におけるA層のせん断貯蔵弾性率が1MPa以上で、5MPa以下であり、A層の両面にA層より高いせん断貯蔵弾性率を有する層として、ポリビニルアセタール樹脂を含むB層を有し、
B層における可塑剤の含有量がポリビニルアセタール樹脂100質量部に対して25質量部以下であり、
B層の厚さの合計に対するA層の厚さの合計の比が1/3以下であり、
合わせガラス用中間膜の両面が賦形された状態である、合わせガラス用中間膜。
【請求項2】
20℃におけるA層の弾性限度が4N以上である、請求項1に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項3】
賦形された表面のエンボス高さが20?150μmである、請求項1または2に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項4】
A層について、ASTM D4065-06に基づいて周波数1000Hzの条件で動的粘弾性試験を行うことで測定されるtanδが最大となるピークを-10?30℃の範囲に有する、請求項1?3のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項5】
A層について、ASTM D4065-06に基づいて周波数1000Hzの条件で動的粘弾性試験を行うことで測定されるtanδが最大となるピークの高さが1.3以上である、請求項1?4のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜。

【請求項7】
B層における可塑剤の含有量がポリビニルアセタール樹脂100質量部に対して6質量部以下である、請求項1?5のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜。

【請求項9】
熱可塑性エラストマーを含有するA層を少なくとも1層含む合わせガラス用中間膜であって、
ASTM D4065-06に基づいて周波数1000Hzの条件で動的粘弾性試験を行うことで測定される70℃におけるA層のせん断貯蔵弾性率が1MPa以上で、5MPa以下であり、A層の少なくとも片面にA層より高いせん断貯蔵弾性率を有する層として、熱可塑性樹脂を含むB層を有し、 B層の熱可塑性樹脂がアイオノマー樹脂であり、
合わせガラス用中間膜の少なくとも一方の表面が賦形された状態である、合わせガラス用中間膜。
【請求項10】
ガラスの厚さの合計が4mm以下である2枚のガラスで合わせガラス用中間膜を挟持した合わせガラスにおいて、ASTM E90-09の条件で測定される4000Hzにおける音響透過損失が37dB以上である、請求項1、2、3、4、5、7又は9に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項11】
熱可塑性エラストマーがハードセグメントブロックおよびソフトセグメントブロックからなり、ハードセグメントブロックが、ポリスチレンブロックまたはポリメチルメタクリレートブロックである、請求項1、2、3、4、5、7、9又は10に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項12】
合わせガラス用中間膜を構成する少なくとも一層に遮熱材料を含有する、請求項1、2、3、4、5、7、9、10又は11に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項13】
ガラスの厚さの合計が4mm以下である2枚のクリアガラスで合わせガラス用中間膜を挟持した合わせガラスにおいて、可視光透過率が70%以上であり、波長800?1100nmの赤外線平均透過率が70%以下である、請求項1、2、3、4、5、7、9、10、11又は12に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項14】
ガラスの厚さの合計が4mm以下である2枚のグリーンガラスで合わせガラス用中間膜を挟持した合わせガラスにおいて、可視光透過率が70%以上であり、波長800?1100nmの赤外線平均透過率が32%以下である、請求項1、2、3、4、5、7、9、10、11、12又は13に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項15】
遮熱材料が、錫ドープ酸化インジウム、アンチモンドープ酸化錫、アンチモン酸亜鉛、金属ドープ酸化タングステン、フタロシアニン化合物、アルミニウムドープ酸化亜鉛、および六ホウ化ランタンの中から選ばれる少なくとも1種である、請求項12のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項16】
金属ドープ酸化タングステンがセシウムドープ酸化タングステンである、請求項15に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項17】
合わせガラス用中間膜を構成する層のうち少なくとも一層に紫外線吸収剤を含有する、請求項1、2、3、4、5、7、9、10、11、12、13、14、15又は16に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項18】
紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、マロン酸エステル系化合物、およびシュウ酸アニリド系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項17に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項19】
ガラスの厚さの合計が4mm以下である2枚のガラスで合わせガラス用中間膜を挟持した合わせガラスにおいて、ヘイズが5以下である、請求項1、2、3、4、5、7、9、10、11、12、13、14、15、16、17又は18に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項20】
請求項1、2、3、4、5、7、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18又は19に記載の合わせガラス用中間膜が2枚のガラスの間に配置されてなる合わせガラス。

2 取消理由通知に記載した取消理由の概要
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1?20に係る特許に対して、平成30年 1月10日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

理由1: 本件特許の請求項1?8、10、11、13、14、17?20に係る発明は、甲1、甲2又は甲3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

理由2: 本件特許の請求項1?8、10?20に係る発明は、甲1、甲2又は甲3に記載された発明、及び甲4?甲6、甲10、甲11、甲14に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

理由3: 本件請求項1?20に係る特許は、明細書の段落【0025】に記載された全ての熱可塑性エラストマーについて本件発明が実施できるとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

理由4:本件請求項1?20に係る特許は、特許請求の範囲の「熱可塑性エラストマー」について、ブロック重合体でないものを含める全ての熱可塑性エラストマーが発明の詳細な説明に記載したものといえないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(2)証拠方法
申立人による証拠方法は、以下のとおりである。
甲1:国際公開第2011/016494号
甲2:国際公開第2011/016495号
甲3:特開2011-240676号公報
甲4:国際公開第2012/133668号
甲5:特開2005-213068号公報
甲6:特開2011-42552号公報
甲7:特開平9-30846号公報
甲8:特開2014-58409号公報
甲9:特開2009-45874号公報
甲10:国際公開第2013/176258号
甲11:国際公開第2011/024787号
甲12:特開2007-39278号公報
甲13:特開2004-175593号公報
甲14:国際公開第2012/108537号

3 甲1?3を主引用例とする理由1、2
(1)甲1について
甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
ア 甲1の記載事項
甲1には、以下の記載がある。
1a「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアセタールを含む組成物AからなるA層と、
ポリオレフィン、および/または、接着性官能基含有オレフィン系重合体を含有する組成物BからなるB層とを積層してなり、(ポリオレフィン)/(接着性官能基含有オレフィン系重合体)の質量比が、0/100?99.95/0.05である積層体。
・・・
【請求項13】
前記ポリオレフィンが、炭素数2?12の脂肪族不飽和炭化水素および炭素数8?12の芳香族不飽和炭化水素からなる群から選ばれる1種類以上の単量体単位からなる重合体、または、その水添物である、請求項1?12のいずれかに記載の積層体。
【請求項14】
前記ポリオレフィンが、炭素数8?12の芳香族不飽和炭化水素単位からなる重合体ブロック(X)と、炭素数2?12の脂肪族共役ポリエン単位からなる重合体ブロック(Y)とを含むブロック共重合体、または、その水添物である、請求項13に記載の積層体。
・・・
【請求項22】
前記A層が、ポリビニルアセタール100質量部に対して1?100質量部の可塑剤を含有する、請求項1?21のいずれかに記載の積層体。
【請求項23】
請求項1?22のいずれかに記載の積層体を含有する合わせガラス。」

1b「【0117】
本発明において、これら可塑剤は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。その使用量は特に限定されないが、組成物Aに含まれるポリビニルアセタール100質量部に対して1?100質量部、好適には5?70質量部、最適には10?50質量部使用することが好ましい。組成物Aに含まれるポリビニルアセタール100質量部に対して、可塑剤の使用量が1質量部より少ないと、十分な可塑化効果が得られないことがあり、100質量部より多くしても、格段の可塑化効果は得られない。」

1c「【0133】
本発明の積層体を合わせガラス中間膜として使用する場合、積層体の構成は本発明の主旨に反しない限り特に限定されないが、本発明の積層体の最表層にガラスとの接着性が適切な層があることが好ましく、特にガラスとして無機ガラスを使用する場合には、最表層はガラスとの接着性に優れるA層であることが好ましい。最表層がA層である本発明の積層体を具体的に例示すると、A層/B層/A層、A層/B層/C層/B層/A層などが挙げられる。」

1d「【0134】
本発明の積層体を合わせガラス中間膜として使用する場合、積層体の最表面の形状は特に限定されないが、ガラスとラミネートする際の取り扱い性(泡抜け性)を考慮すると、積層体の最表面にメルトフラクチャー、エンボスなど、従来公知の方法で凹凸構造を形成したものが好ましい。」

1e「【0148】
合成例1
(炭素炭素二重結合を有するブロック共重合体の合成)
乾燥窒素で置換された200Lの耐圧容器にシクロヘキサン60kg、重合開始剤としてsec-ブチルリチウム35gを添加し、次いで、スチレン2.9kgを添加し、50?52℃で重合した後、THF0.17kgを加え、次いで、ブタジエン26.2kgおよびスチレン2.9kgを順次添加し、重合させてスチレン-ブタジエン-スチレン型のブロック共重合体を得た。得られたブロック共重合体を、シクロヘキサン中、Pd/C(パラジウム・カーボン)を触媒として、水素圧力2MPa、反応温度100℃で水素添加を行い、炭素炭素二重結合を有するブロック共重合体(ポリオレフィン-1)を得た。得られたポリオレフィン-1の重量平均分子量は100,400、スチレン含有量は18質量%、水添率は97モル%(炭素炭素二重結合の含有量450μeq/g)であった。結果を表1に示す。
・・・
【0151】
合成例4
(炭素炭素二重結合を有するブロック共重合体の合成)
水素添加時の反応時間を延長し、水添率を99モル%(炭素炭素二重結合の含有量150μeq/g)とした以外は合成例1と同様の方法により、炭素炭素二重結合を有するブロック共重合体(ポリオレフィン-4)を得た。結果を表1に示す。」

1f「【表1】



1g「【0159】
(ポリビニルアセタールの調製)
還流冷却器、温度計、イカリ型攪拌翼を備えた10L(リットル)のガラス製容器に、イオン交換水8100g、ポリビニルアルコール(PVA-1)(粘度平均重合度1700、けん化度99モル%)660gを仕込み(PVA濃度7.5%)、内容物を95℃に昇温して完全に溶解させた。次に、120rpmで攪拌下、5℃まで約30分かけて徐々に冷却後、ブチルアルデヒド384gと20%の塩酸540mLを添加し、ブチラール化反応を150分間行った。その後、60分かけて50℃まで昇温し、50℃にて120分間保持した後、室温まで冷却した。析出した樹脂をイオン交換水で洗浄後、過剰量の水酸化ナトリウム水溶液を添加し、再洗浄し、乾燥してポリビニルブチラール(PVB-1)を得た。得られたPVB-1のブチラール化度(平均アセタール化度)は69モル%、酢酸ビニル基の含有量は1モル%であり、ビニルアルコール基の含有量は30モル%であった。PVB-1のブチラール化度、残存する酢酸ビニル基の含有量はJIS K6728にしたがって測定した。
【0160】
(組成物A-1の調製)
40gのPVB-1と、16gのポリエステルジオール(アジピン酸とアジピン酸に対して過剰量の3-メチル-1,5-ペンタンジオールとの共重合体、水酸基価に基づく数平均分子量=500)、0.12gの2-(3,5-ジ-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、0.04gの酢酸カリウムおよび0.05gの2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノールをラボプラストミル(150℃、60rpm、5分)で溶融混錬し、組成物A-1を得た。結果を表3に示す。
【0161】
(組成物A-2の調製)
40gのPVB-1と、0.05gの2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノールをラボプラストミル(180℃、60rpm、5分)で溶融混錬し、組成物A-2を得た。結果を表3に示す。」

1h「【表3】



1i「【0164】
(組成物B-1の調製)
40gのポリオレフィン-4と0.4gの有機金属官能基含有オレフィン系重合体-1、および0.05gの2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノールをラボプラストミル(200℃、60rpm、5分)で溶融混錬し、組成物B-1を得た。組成物B-1における有機金属官能基量は、ホウ素原子換算で2.1μeq/gであった。結果を表4に示す。」

1j「【表4】



1k「【0182】
[実施例1]
組成物A-1を10cm×10cm×1mmの型枠内で熱プレス(150℃、12kg/cm2、30分)して得たフィルム(フィルムA-1)と、組成物B-1を10cm×10cm×1mmの型枠内で熱プレス(200℃、12kg/cm2、5分)して得たフィルムを重ね、12kg/cm2の圧力下、135℃で30分熱処理し、積層体-1(A層/B層)を得た。
【0183】
(接着性の評価)
積層体-1を1cm×10cmの短冊状に切り、23℃、50%RHで一晩調湿した。短冊の長辺方向を端から2cm程度、A層とB層の間で剥離し、オートグラフ(株式会社島津製オートグラフAG-IS)を使用して、100mm/分で180°剥離試験を5回行い、層間接着力の5回の平均値を求めた。評価結果を表5に示す。
・・・
【0185】
[実施例13、14]
組成物A-1に代えて、それぞれ組成物A-2または3を用いた以外は実施例1と同様の方法により積層体を作製し、同様の評価をした。評価結果を表5に示す。
・・・
【0188】
[実施例16]
組成物A-1を10cm×10cm×0.4mmの型枠内で熱プレス(150℃、12kg/cm^(2)、30分)して得たフィルム(フィルムA-1’)2枚と、組成物B-1を10cm×10cm×0.2mmの型枠内で熱プレス(200℃、12kg/cm^(2)、5分)して得たフィルム(フィルムB-1’)1枚を、A-1’/B-1’/A-1’の順に重ね、12kg/cm^(2)の圧力下、135℃で30分熱処理し、積層体-16(A層/B層/A層)を得た。
【0189】
積層体-16とフロート板ガラス(10cm×10cm×2mm)2枚を、フロート板ガラス/積層体-16/フロート板ガラスの順に重ね、50℃下、ニップロールで脱気後、オートクレーブで本接着し(140℃、12bar、2時間)、合わせガラス-16を得た。スガ試験機株式会社製 ヘイズメーターにより合わせガラスのヘイズを評価した。評価結果を表5に示す。」

1l「【表5】



イ 甲1に記載された発明
記載事項1aによると、甲1には、ポリビニルアセタールを含む組成物AからなるA層と、ポリオレフィンを含むB層を積層した積層体に関して記載されている。
そして、記載事項1e?1l(実施例13)によると、当該積層体の具体例として、可塑剤を含有しないポリビニルブチラール(PVB-1)である組成物A-2からなる厚さ1mmのフィルムと、スチレン-ブタジエン-ブロック共重合体(スチレン18重量%)を含む組成物B-1からなる厚さ1mmのフィルムとを重ねて、加圧下で熱処理し、積層体(A層/B層)を得たことが記載されている。
ここで、組成物A-2のフィルム及び組成物B-1のフィルムは、それぞれ厚さ1mmであるから、これらを積層して得られた積層体のA層とB層の厚さの比は1:1であると認められる。

そうすると、甲1には、
「スチレン-ブタジエン-ブロック共重合体(スチレン18重量%)を含有するB層を1層含む積層体であって、
B層の片面にポリビニルブチラールを含むA層を有し、
A層において可塑剤を含有しておらず、
A層の厚さに対するB層の厚さの比が1/1である、
積層体。」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)対比・判断
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「スチレン-ブタジエン-ブロック共重合体(スチレン18重量%)」は、本件明細書【0020】、【0021】によれば、熱可塑性エラストマーに相当する。
また、甲1発明の「B層」、「ポリビニルブチラール」及び「A層」は、それぞれ本件発明1の「A層」、「ポリビニルアセタール樹脂」及び「B層」に相当する。
そして、甲1発明の「積層体」と、本件発明1の「合わせガラス用中間膜」は、それぞれ膜を積層したものであるから、「積層膜」である点で共通しているといえる。

以上のことから、本件発明1と甲1発明とは、
「熱可塑性エラストマーを含有するA層を少なくとも1層含む合わせガラス用中間膜であって、
A層の少なくとも片面に、ポリビニルアセタール樹脂を含むB層を有し、 B層における可塑剤の含有量がポリビニルアセタール樹脂100質量部に対して25質量部以下である、
積層膜。」
の点で一致し、次の点で相違している。

相違点1:本件発明1は、ASTM D4065-06に基づいて周波数1000Hzの条件で動的粘弾性試験を行うことで測定される70℃におけるA層のせん断貯蔵弾性率が1MPa以上で、5MPa以下であり、B層は、A層より高いせん断貯蔵弾性率を有することが特定されているのに対し、甲1発明は、B層(本件発明1のA層)のせん断貯蔵弾性率の値及びB層とA層(本件発明1のB層)とのせん断貯蔵弾性率の関係については明らかでない点。

相違点2:本件発明1は、A層の両面にB層を有し、B層の厚さの合計に対するA層の厚さの合計の比が1/3以下であり、両面が賦形された状態である、合わせガラス用中間膜であるのに対し、甲1発明は、B層(本件発明1のA層)の片面のみにA層(本件発明1のB層)を有し、A層の厚さに対するB層の厚さの比が1/1であり、膜の表面が賦形されている点及び膜の用途は明らかでない点。

上記相違点2について検討する。
まず、上記相違点2は、実質的な相違点であるといえるから、本件発明1及び本件発明1に従属する本件発明2?8、10、11、13、14、17?20に対して、甲1を主引用例とする理由1は、理由がない。

次に、甲1の記載事項1k、1lによると、実施例16において、組成物A-1を熱プレスして得られた0.4mmのフィルムA-1’2枚と、スチレン-ブタジエン-ブロック共重合体を含む組成物B-1を熱プレスして得られた0.2mmのフィルムB-1’1枚とを、A-1’/B-1’/A-1の順に重ね、加圧下で熱処理し、積層体-16(A層/B層/A層)を得ている。
そして、上記積層体-16とフロート板ガラス2枚を、フロート板ガラス/積層体-16/フロート板ガラスの順に重ねて接着して、合わせガラス-16を得ている。
ここで、組成物A-1は、記載事項1hによると、ポリビニルブチラール40gに対して可塑剤が16g含まれるから、A層における可塑剤の含有量がポリビニルブチラール100質量部に対して40質量部である。
さらに、記載事項1dによると、合わせガラス中間膜として使用する場合、積層体の最表面にエンボスなどの凹凸構造を形成することが好ましいとされているから、合わせガラス中間膜はその最表面が賦形されるといえる。

以上から、甲1には、熱可塑性エラストマーを含むB層の両面に、ポリビニルブチラールを含むA層を有し、A層における可塑剤の含有量がポリビニルブチラール100質量部に対して40質量部であり、B層の厚さの合計に対するA層の厚さの合計の比が1/4であり、両面が賦形された状態である、合わせガラス中間膜も記載されていると認められ、当該中間膜は、上記相違点2に係る本件発明1の特定事項である、B層(本件発明1のA層)の両面にA層(本件発明1のB層)を有する点、B層の厚さの合計に対するA層の厚さの合計の比及び両面を賦形する点を充足している。

しかし、上記合わせガラス中間膜と甲1発明とは、A層における可塑剤の含有量が異なっている。
そして、甲1には、他の実施例を含めて、甲1に記載の積層体を、合わせガラス用中間膜として使用する場合に、可塑剤の含有量を40質量部とするものが記載されているのみであって、記載事項1a、1bに、ポリビニルアセタール100質量部に対して1?100質量部の可塑剤の含有量とすることが記載されているが、合わせガラス中間膜として使用する場合に、A層の可塑剤の含有量を25質量部以下にすることは記載されていない。
そうすると、上記合わせガラス中間膜の記載が、A層に可塑剤を含有していない甲1発明に対して、さらにB層を追加し厚みを変更して合わせガラス中間膜とすることを示唆するものとはいえない。

したがって、本件発明1は、上記相違点1について検討するまでもなく、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、他の証拠の記載を検討しても、甲1発明に対して、さらにB層を追加し厚みを変更して合わせガラス中間膜とすることを示唆するものではないから、本件発明1及び本件発明1に従属する本件発明2?8、10?20は、甲1に記載された発明及び他の証拠に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

よって、本件発明1及び本件発明1に従属する本件発明2?8、10?20に対して、甲1を主引用例とする理由2は、理由がない。

(2)甲2について
甲2の、段落【0011】、【0120】、【0212】?【0219】、【0227】?【0229】、表3(実施例2)によると、甲2には、
「スチレン-ブタジエン-スチレントリブロック共重合体の水添物を含有するシートB(PO)を1層含む合わせガラス中間膜であって、
シートBの両面にポリビニルブチラールを含むフィルムA-2を有し、
フィルムA-2における可塑剤の含有量がポリビニルブチラール100質量部に対して32.5質量部であり、
フィルムA-2の合計に対するシートBの厚さの比が5/8であり、
シート表面に凹凸構造を形成した、合わせガラス中間膜。」
の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「スチレン-ブタジエン-スチレントリブロック共重合体の水添物」、「シートB(PO)」、「合わせガラス中間膜」、「ポリビニルブチラール」、「フィルムA-2」、「凹凸構造」は、本件発明1の「熱可塑性エラストマー」、「A層」、「合わせガラス用中間膜」、「ポリビニルアセタール樹脂」、「B層」、「賦形された状態」に、それぞれ相当する。

そうすると、本件発明1と甲2発明とは、少なくとも次の点で相違する。
相違点:本件発明1は、B層における可塑剤の含有量がポリビニルアセタール樹脂100質量部に対して25質量部以下であるのに対して、甲2発明は、ポリビニルブチラール(ポリビニルアセタール樹脂)100質量部に対して32.5質量部である点。

上記相違点は、実質的な相違点であるから、本件発明1及び本件発明1に従属する本件発明2?8、10、11、13、14、17?20に対して、甲2を主引用例とする理由1は、理由がない。

そこで、上記相違点について検討するに、甲2には、ポリビニルアセタール100質量部に対して、可塑剤の含有量を0.5?100質量部とすることが記載されているが(請求項1)、甲2発明は、ポリビニルアセタール組成物からなる層と他の樹脂層との間で可塑剤の移行が起こらない積層体を提供することを目的とし、甲2において用いられる可塑剤は、ポリビニルアセタールとの相溶性に優れ、他の樹脂に対する移行性が低い(段落【0011】、【0013】)というものであって、甲2記載の他の実施例をみても、可塑剤の下限は32.5質量部であり、上限は55質量部である。
そうすると、甲2には、甲2発明において可塑剤の含有量を25質量部以下にする動機がない。
したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、他の証拠の記載を検討しても、甲2発明に対して、可塑剤の含有量を25質量部以下にすることを示唆するものではないから、本件発明1及び本件発明1に従属する本件発明2?5、7、10?20は、甲2に記載された発明及び他の証拠に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

よって、本件発明1及び本件発明1に従属する本件発明2?8、10?20に対して、甲2を主引用例とする理由2は、理由がない。

(3)甲3について
甲3の段落【0005】、【0070】、【0083】、【0084】、【0086】、【0088】、【0100】、【0113】、表2(実施例13)によると、甲3には、
「ポリスチレン-ポリイソプレン-ポリスチレントリブロック共重合体を含有するB層を1層含む合わせガラス中間膜であって、
B層の両面にポリビニルブチラールを含むA層を有し、
A層における可塑剤の含有量がポリビニルブチラール40gに対して可塑剤16gであり、
A層の厚さの合計に対するB層の厚さの比が1/3であり、
積層体の最表面に凹凸構造を形成した、合わせガラス中間膜。」
の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「ポリスチレン-ポリイソプレン-ポリスチレントリブロック共重合体」、「B層」、「合わせガラス中間膜」、「ポリビニルブチラール」、「A層」、「凹凸構造」は、本件発明1の「熱可塑性エラストマー」、「A層」、「合わせガラス用中間膜」、「ポリビニルアセタール樹脂」、「B層」、「賦形された状態」に、それぞれ相当する。
また、甲3発明の「A層における可塑剤の含有量がポリビニルブチラール40gに対して可塑剤16g」とは、A層における可塑剤の含有量がポリビニルブチラール100質量部に対して40質量部であることを意味する。
そうすると、本件発明1と甲3発明とは、次の点で相違する。
相違点:本件発明1は、B層における可塑剤の含有量がポリビニルアセタール樹脂100質量部に対して25質量部以下であるのに対して、甲3発明は、ポリビニルブチラール(ポリビニルアセタール樹脂)100質量部に対して40質量部である点。

上記相違点は、実質的な相違点であるから、本件発明1及び本件発明1に従属する本件発明2?8、10、11、13、14、17?20に対して、甲3を主引用例とする理由1は、理由がない。

そこで、上記相違点について検討するに、甲3には、ポリビニルアセタール100質量部に対して、可塑剤の含有量を1?100質量部とすることが記載されているが(請求項1、段落【0034】)、甲3発明は、層間の接着性に優れる積層体を提供すること目的とするものであって(段落【0005】)、甲3記載の実施例は、甲3発明以外も可塑剤の含有量は40質量部のみである。
そうすると、甲3には、甲3発明において可塑剤の含有量を25質量部以下にする動機がない。
したがって、本件発明1は、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、他の証拠の記載を検討しても、甲3発明に対して、可塑剤の含有量を25質量部以下にすることを示唆するものではないから、本件発明1及び本件発明1に従属する本件発明2?5、7、10?20は、甲3に記載された発明及び他の証拠に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

よって、本件発明1及び本件発明1に従属する本件発明2?8、10?20に対して、甲3を主引用例とする理由2は、理由がない。

4 理由3、4について
本件発明1?5、7、9?20について
本件発明の課題は、「薄くしても遮音性に優れるとともに、光学むらが発生しにくい合わせガラス用中間膜およびそれを用いた合わせガラスを提供する」というものである(本件明細書 段落【0012】)。
上記課題を解決するために、本件発明は、両面(本件発明1?5、7、10?20)又は少なくとも一方の表面(本件発明9?20)が賦形された状態である合わせガラス用中間膜であって、「ASTM D4065-06に基づいて周波数1000Hzの条件で動的粘弾性試験を行うことで測定される70℃におけるA層のせん断貯蔵弾性率が1MPa以上で、5MPa以下」であること、及び「A層の両面にA層より高いせん断貯蔵弾性率を有する層として、ポリビニルアセタール樹脂を含むB層」を有すること(本件発明1?5、7、10?20)又は「A層の少なくとも片面にA層より高いせん断貯蔵弾性率を有する層として、熱可塑性樹脂を含むB層を有し、B層の熱可塑性樹脂がアイオノマー樹脂」であること(本件発明9?20)を特定したものである。
ここで、発明の詳細な説明には、合わせガラスの光学むらの原因としては、「遮音中間膜をエンボス賦形する際に、光学むらは発生しやすい。光学むらは、合わせガラス用中間膜の内層と外層との界面で発生しており、エンボス賦形時の内層への賦形転写が影響していると考えられる。」(段落【0011】)と記載されているところ、本件発明の特定事項について「・・・A層のせん断貯蔵弾性率は、1MPa以上であり、1.1MPa以上であることが好ましい。A層のせん断貯蔵弾性率(周波数1000Hz、70℃)が1MPa未満であると、合わせガラス用中間膜の表面を賦形した際に、合わせガラス用中間膜の各層における界面において光学むらが発生しやすくなる。」(段落【0099】)、「A層のせん断貯蔵弾性率(周波数1000Hz、70℃)は、5MPa以下であることが好ましく、3MPa以下であることがより好ましい。A層のせん断貯蔵弾性率(周波数1Hz、70℃)が5MPa以下であると、室温付近での遮音性が優れる傾向にある。」(段落【0100】)、及び[A層より高いせん断貯蔵弾性率を有する層として、「本発明の合わせガラス用中間膜は、A層の少なくとも片面にA層より高いせん断貯蔵弾性率(周波数1000Hz、70℃)を有する層を有する。A層の少なくとも片面にA層より高いせん断貯蔵弾性率(周波数1000Hz、70℃)を有する層が存在することにより、合わせガラス用中間膜の表面を賦形した際に、合わせガラス用中間膜の各層における界面において光学むらが発生しにくくなる。」(段落【0106】)と記載されている。
そうすると、最表面が賦形された合わせガラス用中間膜の光学むらは、賦形された層と他の層との界面の賦形転写が影響しているところ、本件発明は、熱可塑性エラストマーを含有するA層のせん断貯蔵弾性率を1MPa以上に規定し、ポリビニルアセタール樹脂又はアイオノマー樹脂を含有するB層のせん断貯蔵弾性率がそれより大きいことを規定することにより、層の界面での賦形転写が起こりにくく光学むらが発生しにくくなることが理解でき、また、A層のせん断貯蔵弾性率の上限を5MPa以下と規定することにより、遮音性が優れていることが理解できる。
ここで、本件発明の熱可塑性エラストマーとして、「天然ゴム、イソプレンゴム、ブダジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴムなどのゴムを用いてもよい。」(段落【0025】)と記載されているが、これらは、実施例で用いたブロック共重合体と同様に、熱可塑性エラストマーとして周知のものであるから、これらの材料についても、本件発明で規定する物性を充足するように、技術常識にしたがって組成等を調整すれば上記課題を解決できると理解できる。
以上のとおり、本件発明1?5、7、9?20は、発明の詳細な説明に作用機序が記載されたものであるから、具体例がないというだけでは、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
また、本件発明1?5、7、9?20は、発明の詳細な説明に当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、具体例がないというだけでは、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

5 取消理由通知において採用しなかった申立理由について
申立人は、上記取消理由以外に、以下の理由を申し立てた。
(1)特許法第29条第2項
訂正前の請求項9に係る発明は、甲1?甲8に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(2)特許法第36条第4項第1号及び特許法第36条第6項第1号
訂正前の請求項1において、「合わせガラス用中間膜の少なくとも一方の表面が賦形された状態である」という特定事項は、「賦形」という用語は不明確であり、発明の詳細な説明に限定的に記載されているのみであるから、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に記載したものでなく、また、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
上記主張について検討する。
(1)について
本件発明9は、熱可塑性エラストマーを含有するA層を少なくとも1層含む合わせガラス用中間膜において、A層の少なくとも片面にA層より高いせん断貯蔵弾性率を有する層として、アイオノマー樹脂を特定するものである。
申立人によると、甲6?8には、合わせガラスの中間膜として、アイオノマー樹脂を含有するものが知られているから、甲1?3に記載された合わせガラス中間膜の成分として、アイオノマー樹脂を使用することに困難性はない旨主張している。
しかし、甲1?3に記載の発明は、熱可塑性樹脂としてポリビニルアセタール樹脂を含む層を用いることを必須とするものであるから、合わせガラス用中間膜にアイオノマー樹脂を用いることが知られていたとしても、甲1?3に記載の発明において、熱可塑性樹脂として、ポリビニルアセタール樹脂に替えてアイオノマー樹脂を用いることが容易であるとはいえない。
なお、甲4、5は、ポリビニルアセタール系樹脂を含む合わせガラス用中間膜について記載されてはいるが、アイオノマー樹脂に関しては何ら記載がない。

したがって、本件発明9は、甲1?甲8に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

また、本件発明9に従属する本件発明10?20についても、同様に、甲1?甲8に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)について
本件発明1で特定された「賦形された状態」については、本件明細書の段落【0168】には、「・・・合わせガラス用中間膜の少なくとも一方の表面が賦形されていることにより、合わせガラスを製造する場合に、合わせガラス用中間膜とガラスとの界面にある気泡が合わせガラスの外部に抜けやすくなり、合わせガラスの外観を良好にすることができる。合わせガラス用中間膜の少なくとも一方の表面の賦形は、エンボスロール法やメルトフラクチャー等によって施されることが好ましい。合わせガラス用中間膜の表面が賦形されることにより、合わせガラス用中間膜の表面に凹部および/または凸部が形成される。」と記載されているから、本件発明1の「表面が賦形された状態」とは、周知のエンボスロール法等によって、合わせガラス用中間膜の表面に凹部および/または凸部が形成された状態であることが理解できる。そして、同じく段落【0220】には、弾性ゴムロールを用いて、3層構成とした中間膜の両面にエンボスを形成することが具体的に記載されている。
そうすると、上記「賦形された状態」という特定事項を含む本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。また、本件発明1は当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものであるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

よって、上記(1)、(2)の申立人の主張については採用できない。


第5 むすび
以上のとおり、請求項1?5、7、9?20に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に請求項1?5、7、9?20に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項6、8は、訂正により削除されたため、同請求項に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマーを含有するA層を少なくとも1層含む合わせガラス用中間膜であって、
ASTM D4065-06に基づいて周波数1000Hzの条件で動的粘弾性試験を行うことで測定される70℃におけるA層のせん断貯蔵弾性率が1MPa以上で、5MPa以下であり、A層の両面にA層より高いせん断貯蔵弾性率を有する層として、ポリビニルアセタール樹脂を含むB層を有し、
B層における可塑剤の含有量がポリビニルアセタール樹脂100質量部に対して25質量部以下であり、
B層の厚さの合計に対するA層の厚さの合計の比が1/3以下であり、
合わせガラス用中間膜の両面が賦形された状態である、合わせガラス用中間膜。
【請求項2】
20℃におけるA層の弾性限度が4N以上である、請求項1に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項3】
賦形された表面のエンボス高さが20?150μmである、請求項1または2に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項4】
A層について、ASTM D4065-06に基づいて周波数1000Hzの条件で動的粘弾性試験を行うことで測定されるtanδが最大となるピークを-10?30℃の範囲に有する、請求項1?3のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項5】
A層について、ASTM D4065-06に基づいて周波数1000Hzの条件で動的粘弾性試験を行うことで測定されるtanδが最大となるピークの高さが1.3以上である、請求項1?4のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項6】 (削除)
【請求項7】
B層における可塑剤の含有量がポリビニルアセタール樹脂100質量部に対して6質量部以下である、請求項1?5のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項8】 (削除)
【請求項9】
熱可塑性エラストマーを含有するA層を少なくとも1層含む合わせガラス用中間膜であって、
ASTM D4065-06に基づいて周波数1000Hzの条件で動的粘弾性試験を行うことで測定される70℃におけるA層のせん断貯蔵弾性率が1MPa以上で、5MPa以下であり、A層の少なくとも片面にA層より高いせん断貯蔵弾性率を有する層として、熱可塑性樹脂を含むB層を有し、
B層の熱可塑性樹脂がアイオノマー樹脂であり、
合わせガラス用中間膜の少なくとも一方の表面が賦形された状態である、合わせガラス用中間膜。
【請求項10】
ガラスの厚さの合計が4mm以下である2枚のガラスで合わせガラス用中間膜を挟持した合わせガラスにおいて、ASTM E90-09の条件で測定される4000Hzにおける音響透過損失が37dB以上である、請求項1、2、3、4、5、7又は9に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項11】
熱可塑性エラストマーがハードセグメントブロックおよびソフトセグメントブロックからなり、ハードセグメントブロックが、ポリスチレンブロックまたはポリメチルメタクリレートブロックである、請求項1、2、3、4、5、7、9又は10に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項12】
合わせガラス用中間膜を構成する少なくとも一層に遮熱材料を含有する、請求項1、2、3、4、5、7、9、10又は11に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項13】
ガラスの厚さの合計が4mm以下である2枚のクリアガラスで合わせガラス用中間膜を挟持した合わせガラスにおいて、可視光透過率が70%以上であり、波長800?1100nmの赤外線平均透過率が70%以下である、請求項1、2、3、4、5、7、9、10、11又は12に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項14】
ガラスの厚さの合計が4mm以下である2枚のグリーンガラスで合わせガラス用中間膜を挟持した合わせガラスにおいて、可視光透過率が70%以上であり、波長800?1100nmの赤外線平均透過率が32%以下である、請求項1、2、3、4、5、7、9、10、11、12又は13に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項15】
遮熱材料が、錫ドープ酸化インジウム、アンチモンドープ酸化錫、アンチモン酸亜鉛、金属ドープ酸化タングステン、フタロシアニン化合物、アルミニウムドープ酸化亜鉛、および六ホウ化ランタンの中から選ばれる少なくとも1種である、請求項12に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項16】
金属ドープ酸化タングステンがセシウムドープ酸化タングステンである、請求項15に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項17】
合わせガラス用中間膜を構成する層のうち少なくとも一層に紫外線吸収剤を含有する、請求項1、2、3、4、5、7、9、10、11、12、13、14、15又は16に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項18】
紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、マロン酸エステル系化合物、およびシュウ酸アニリド系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項17に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項19】
ガラスの厚さの合計が4mm以下である2枚のガラスで合わせガラス用中間膜を挟持した合わせガラスにおいて、ヘイズが5以下である、請求項1、2、3、4、5、7、9、10、11、12、13、14、15、16、17又は18に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項20】
請求項1、2、3、4、5、7、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18又は19に記載の合わせガラス用中間膜が2枚のガラスの間に配置されてなる合わせガラス。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-12-04 
出願番号 特願2016-559078(P2016-559078)
審決分類 P 1 651・ 857- YAA (C03C)
P 1 651・ 851- YAA (C03C)
P 1 651・ 121- YAA (C03C)
P 1 651・ 536- YAA (C03C)
P 1 651・ 113- YAA (C03C)
P 1 651・ 537- YAA (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増山 淳子  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 山崎 直也
後藤 政博
登録日 2017-03-10 
登録番号 特許第6105176号(P6105176)
権利者 株式会社クラレ
発明の名称 合わせガラス用中間膜および合わせガラス  
代理人 特許業務法人ライトハウス国際特許事務所  
代理人 特許業務法人ライトハウス国際特許事務所  

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