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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 F16L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 F16L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 F16L 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 F16L |
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管理番号 | 1348703 |
異議申立番号 | 異議2017-700666 |
総通号数 | 231 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-03-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-07-06 |
確定日 | 2018-12-17 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6059777号発明「管継手」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6059777号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?14〕について訂正することを認める。 特許第6059777号の請求項1?4、6?14に係る特許を維持する。また、請求項5についての申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第6059777号は、平成27年8月18日に出願され、平成28年12月16日に特許権の設定登録がされ、平成29年1月11日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成29年7月6日に特許異議申立人 藤本 美都起(以下「異議申立人」という。)による特許異議の申立てがされた。その後の経緯は次のとおりである。 平成29年10月17日付け:取消理由通知書 同年12月22日 :特許権者による意見書の提出及び訂正の請求 平成30年 2月13日 :異議申立人による意見書の提出 同年 4月12日付け:訂正拒絶理由通知書 同年 5月17日 :特許権者による意見書の提出 同年 6月 5日 :取消理由通知書(決定の予告) 同年 8月10日 :特許権者による意見書の提出及び訂正の請求 同年10月12日 :異議申立人による意見書の提出 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 平成30年8月10日にされた訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)の趣旨は、本件特許第6059777号の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下それぞれ「明細書」、「特許請求の範囲」という。また、それらに図面を加えたものを「明細書等」という。)を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?14について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)は、以下のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。)。 なお、特許法第120条の5第7項の規定により、平成29年12月22日にされた訂正請求は取り下げられたものとみなす。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に記載された 「配管(2)が挿入される挿入穴(11)が形成された継手本体(10)」 を 「配管(2)が挿入される挿入穴(11)が形成され、前記挿入穴(11)を画定すると共に径方向外側に凹む溝部(12)が形成された内周面を有する継手本体(10)」 に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?4、6?14も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に記載された 「前記挿入穴(11)内に配置されたストッパー(30,50,60,70,80)」 を 「前記挿入穴(11)内に配置されると共に前記溝部(12)に収容されたストッパー(30,50,60,70,80)」 に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?4、6?14も同様に訂正する)。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項1に記載された 「前記突起部(32,52,62,72,82)は、挿入された前記配管(2)の外周面(2A)への圧接により前記配管(2)に対して仮止め可能な保持力を発生する、管継手(1)。」 を 「前記突起部(32,52,62,72,82)は、挿入された前記配管(2)の外周面(2A)への圧接により前記配管(2)に対して仮止め可能な保持力を発生し、 前記ストッパー(30,50,60,70,80)の軸方向の長さ(L1)は、前記溝部(12)を区画すると共に前記軸方向に対向する一対の面(15,18A)の間の前記軸方向の第1隙間(D1)よりも小さく、 前記環状部(31,51,61,71,81)の一方の端縁が前記一対の面(15,18A)のうち前記配管(2)の挿入方向と反対方向側の面(15)に当接した状態で、前記環状部(31,51,61,71,81)の他方の端縁と前記一対の面(15,18A)のうち前記配管(2)の挿入方向側の面(18A)との間に第2隙間(D2)が形成されている、管継手(1)。」 に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?4、6?14も同様に訂正する)。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項5を削除する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項6に記載された 「請求項1?5の何れか1項に記載の管継手(1)。」 を 「請求項1?4の何れか1項に記載の管継手(1)。」 に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項9?14も同様に訂正する)。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項7に記載された 「請求項1?5の何れか1項に記載の管継手(1)。」 を 「請求項1?4の何れか1項に記載の管継手(1)。」 に訂正する(請求項7の記載を引用する請求項9?14も同様に訂正する)。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項8に記載された 「請求項1?5の何れか1項に記載の管継手(1)。」 を 「請求項1?4の何れか1項に記載の管継手(1)。」 に訂正する(請求項8の記載を引用する請求項9?14も同様に訂正する)。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項9に記載された 「請求項1?8の何れか1項に記載の管継手(1)。」 を 「請求項1?4、6?8の何れか1項に記載の管継手(1)。」 に訂正する(請求項9の記載を引用する請求項10?14も同様に訂正する)。 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項11に記載された 「請求項1?10の何れか1項に記載の管継手(1)。」 を 「請求項1?4、6?10の何れか1項に記載の管継手(1)。」 に訂正する(請求項11の記載を引用する請求項12?14も同様に訂正する)。 (10)訂正事項10 特許請求の範囲の請求項12に記載された 「請求項1?11の何れか1項に記載の管継手(1)。」 を 「請求項1?4、6?11の何れか1項に記載の管継手(1)。」 に訂正する(請求項12の記載を引用する請求項13?14も同様に訂正する)。 (11)訂正事項11 特許請求の範囲の請求項13に記載された 「請求項1?12の何れか1項に記載の管継手(1)。」 を 「請求項1?4、6?12の何れか1項に記載の管継手(1)。」 に訂正する(請求項13の記載を引用する請求項14も同様に訂正する)。 (12)訂正事項12 特許請求の範囲の請求項14に記載された 「請求項1?13の何れか1項に記載の管継手(1)。」 を 「請求項1?4、6?13の何れか1項に記載の管継手(1)。」 に訂正する。 (13)訂正事項13 明細書の段落【0007】に記載された 「本発明の一局面に係る管継手(1)は、配管(2)が挿入される挿入穴(11)が形成された継手本体(10)と、前記挿入穴(11)内に配置されたストッパー(30,50,60,70,80)と、前記配管(2)の周囲を囲む環形状を有し、先端部(41A,42A)を前記配管(2)の外周面(2A)に食い込ませることにより前記配管(2)を固定するフェルール(41,42)と、を備える。前記ストッパー(30,50,60,70,80)は、挿入された前記配管(2)の外周面(2A)を取り囲む環状部(31,51,61,71,81)と、前記環状部(31,51,61,71,81)の内周面(31B,51B,61B,71B,81B)から当該環状部(31,51,61,71,81)の径方向内側に突出する突起部(32,52,62,72,82)と、を有する。前記突起部(32,52,62,72,82)は、挿入された前記配管(2)の外周面(2A)への圧接により前記配管(2)に対して仮止め可能な保持力を発生する。 また上記管継手(1)において、前記ストッパー(30,50,60,70,80)は、前記フェルール(41,42)よりも前記配管(2)の挿入方向の奥側に配置されていてもよい。」 を 「本発明の一局面に係る管継手(1)は、配管(2)が挿入される挿入穴(11)が形成され、前記挿入穴(11)を画定すると共に径方向外側に凹む溝部(12)が形成された内周面を有する継手本体(10)と、前記挿入穴(11)内に配置されると共に前記溝部(12)に収容されたストッパー(30,50,60,70,80)と、前記配管(2)の周囲を囲む環形状を有し、先端部(41A,42A)を前記配管(2)の外周面(2A)に食い込ませることにより前記配管(2)を固定するフェルール(41,42)と、を備える。前記ストッパー(30,50,60,70,80)は、挿入された前記配管(2)の外周面(2A)を取り囲む環状部(31,51,61,71,81)と、前記環状部(31,51,61,71,81)の内周面(31B,51B,61B,71B,81B)から当該環状部(31,51,61,71,81)の径方向内側に突出する突起部(32,52,62,72,82)と、を有する。前記突起部(32,52,62,72,82)は、挿入された前記配管(2)の外周面(2A)への圧接により前記配管(2)に対して仮止め可能な保持力を発生する。前記ストッパー(30,50,60,70,80)の軸方向の長さ(L1)は、前記溝部(12)を区画すると共に前記軸方向に対向する一対の面(15,18A)の間の前記軸方向の第1隙間(D1)よりも小さい。前記環状部(31,51,61,71,81)の一方の端縁が前記一対の面(15,18A)のうち前記配管(2)の挿入方向と反対方向側の面(15)に当接した状態で、前記環状部(31,51,61,71,81)の他方の端縁と前記一対の面(15,18A)のうち前記配管(2)の挿入方向側の面(18A)との間に第2隙間(D2)が形成されている。また上記管継手(1)において、前記ストッパー(30,50,60,70,80)は、前記フェルール(41,42)よりも前記配管(2)の挿入方向の奥側に配置されていてもよい。」 に訂正する。 (14)訂正事項14 願書に添付した明細書の段落【0014】の記載を削除する。 (15)訂正事項15 願書に添付した明細書の段落【0015】の記載を削除する。 本件訂正請求による特許請求の範囲の訂正は、一群の請求項〔1?14〕に対して請求されたものである。また、明細書に係る訂正は、一群の請求項〔1?14〕について請求されたものである。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1、2について 訂正事項1、2は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであって、明細書の段落【0042】の「挿入穴11は、継手本体10の内周面により画定されている。」、同【0047】の「溝部12は、継手本体10の内周面において径方向外側に凹み、当該内周面の周方向に沿って形成された円環状の溝である。溝部12は、ストッパー30を収容するための凹溝として機能する部分である。」との記載からみて、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)訂正事項3について 訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであって、明細書の段落【0047】に「継手本体10には、第1内周面14と、段差面15と、当接面18Aとにより区画される凹状の溝部12が形成されている。溝部12は、継手本体10の内周面において径方向外側に凹み、当該内周面の周方向に沿って形成された円環状の溝である。溝部12は、ストッパー30を収容するための凹溝として機能する部分である。」、同【0056】に「ストッパー30の軸方向の長さL1は、段差面15と当接面18Aとの間の第1隙間D1よりも小さくなっている。ストッパー30は、環状部31の一方の端縁が段差面15に当接した状態で溝部12に収容されている。このため、環状部31の他方の端縁と当接面18Aとの間には第2隙間D2が形成され、」と記載されていること、及び、【図1】より環状部31の一方の端縁が一対の面15,18Aのうち配管2の挿入方向と反対方向側の面15に当接した状態で、環状部31の他方の端縁と一対の面15,18Aのうち配管2の挿入方向側の面18Aとの間に第2隙間D2が形成されていることが看取できることから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 なお、特許権者は、訂正請求書の第12ページ第15行?第13ページ第6行において、訂正事項3における「第2隙間(D2)」は、環状部(31)を非拘束状態にすることにより「回転」可能にするための隙間である旨主張するが、そのようなことは明細書等に記載がない。また、特許権者の主張するような作用を奏するためには、配管を回転させたときのストッパーの外周面と溝部の内周面との間に働く回転方向の力と、配管の外周面と突起部との間に働く回転方向の力との関係が、少なくとも後者の方が前者よりも大きくてはならないところであるが、そのような力関係を示唆する記載も明細書等には一切なく、また、自明ということもできない。 すなわち、訂正事項3に係る発明特定事項の構成自体は、明細書等に実質的に記載されているといえるから、上記のように訂正事項の判断をしたが、特許権者の主張する作用を奏することを前提とする「第2隙間(D2)」を認めるものではない。 (3)訂正事項4について 訂正事項4は、請求項5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (4)訂正事項5?12について 訂正事項5?12は、訂正事項4の請求項5の削除に伴い、請求項5を引用しないようにするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (5)訂正事項13?15について 訂正事項13は、訂正事項3の請求項1の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 また、訂正事項14、15は、訂正事項4の請求項5の削除に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?14〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1?4、6?14に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?4、6?14に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 配管(2)が挿入される挿入穴(11)が形成され、前記挿入穴(11)を画定すると共に径方向外側に凹む溝部(12)が形成された内周面を有する継手本体(10)と、 前記挿入穴(11)内に配置されると共に前記溝部(12)に収容されたストッパー(30,50,60,70,80)と、 前記配管(2)の周囲を囲む環形状を有し、先端部(41A,42A)を前記配管(2)の外周面(2A)に食い込ませることにより前記配管(2)を固定するフェルール(41,42)と、を備え、 前記ストッパー(30,50,60,70,80)は、 挿入された前記配管(2)の前記外周面(2A)を取り囲む環状部(31,51,61,71,81)と、 前記環状部(31,51,61,71,81)の内周面(31B,51B,61B,71B,81B)から当該環状部(31,51,61,71,81)の径方向内側に突出する突起部(32,52,62,72,82)と、を有し、 前記突起部(32,52,62,72,82)は、挿入された前記配管(2)の外周面(2A)への圧接により前記配管(2)に対して仮止め可能な保持力を発生し、 前記ストッパー(30,50,60,70,80)の軸方向の長さ(L1)は、前記溝部(12)を区画すると共に前記軸方向に対向する一対の面(15,18A)の間の前記軸方向の第1隙間(D1)よりも小さく、 前記環状部(31,51,61,71,81)の一方の端縁が前記一対の面(15,18A)のうち前記配管(2)の挿入方向と反対方向側の面(15)に当接した状態で、前記環状部(31,51,61,71,81)の他方の端縁と前記一対の面(15,18A)のうち前記配管(2)の挿入方向側の面(18A)との間に第2隙間(D2)が形成されている、管継手(1)。」 【請求項2】 前記ストッパー(30,50,60,70,80)は、前記フェルール(41,42)よりも前記配管(2)の挿入方向の奥側に配置されている、請求項1に記載の管継手(1)。 【請求項3】 前記突起部(32,52,62,72,82)は、前記配管(2)の挿入方向に沿って突出している、請求項1又は2に記載の管継手(1)。 【請求項4】 前記突起部(32,52,62,72,82)は、挿入された前記配管(2)との接触により弾性変形し、前記弾性変形による復元力(F)により前記配管(2)に対する保持力を発生する、請求項1?3の何れか1項に記載の管継手(1)。 【請求項6】 前記突起部(32)は、 前記環状部(31)の内周面(31B)と連なる連接部(33)と、前記連接部(33)から延出され、かつ挿入された前記配管(2)の外周面(2A)と接触する当接部(34)と、を含み、 前記連接部(33)から前記当接部(34)の延出端に向かって幅(W1)が狭くなる形状を有する、請求項1?4の何れか1項に記載の管継手(1)。 【請求項7】 前記突起部(52,62,72,82)は、前記環状部(51,61,71,81)から離れるに従い一定の幅で延びる部分を含む、請求項1?4の何れか1項に記載の管継手(1)。 【請求項8】 前記突起部(72,82)は、延出端に向かって突出する複数の山部(75,77)と、前記複数の山部(75,77)の間に設けられ、前記環状部(71,81)側に向かって凹む谷部(76)と、を有する、請求項1?4の何れか1項に記載の管継手(1)。 【請求項9】 前記環状部(31,51,61,71,81)は、金属板からなり、 前記突起部(32,52,62,72,82)は、前記環状部(31,51,61,71,81)の一部を切り起こすことにより形成されている、請求項1?4、6?8の何れか1項に記載の管継手(1)。 【請求項10】 前記金属板は、JIS規格SUS304からなる、請求項9に記載の管継手(1)。 【請求項11】 前記継手本体(10)への前記配管(2)の挿入力をAとし、前記継手本体(10)からの前記配管(2)の引抜力をBとしたときに、A:B=1:2?1:6の範囲に設定されている、請求項1?4、6?10の何れか1項に記載の管継手(1)。 【請求項12】 前記継手本体(10)は、前記挿入穴(11)に挿入された前記配管(2)の一方端を当接させるための当接壁(18)を有し、 前記一方端が前記当接壁(18)に当接した状態の前記配管(2)を引き抜くときに、管軸方向(P)における前記配管(2)の前記一方端と前記当接壁(18)との隙間が2mm以下に維持される、請求項1?4、6?11の何れか1項に記載の管継手(1)。 【請求項13】 前記継手本体(10)は、前記挿入穴(11)に挿入された前記配管(2)の一方端を当接させるための当接壁(18)を有し、 管軸方向(P)における前記突起部(32,52,62,72,82)の突出端と前記当接壁(18)との隙間(D3)は、2mm以下である、請求項1?4、6?12の何れか1項に記載の管継手(1)。 【請求項14】 前記突起部(32,52,62,72,82)は、挿入された前記配管(2)を引き抜くときに、前記配管(2)の前記外周面(2A)に食い込む形状を有する、請求項1?4、6?13の何れか1項に記載の管継手(1)。」 第4 取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由について (1)取消理由の概要 本件訂正前の請求項1?14に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 ア 平成29年12月22日の訂正請求は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものではない訂正事項3及び13を含んでおり、訂正事項3及び13は、請求項1?14からなる一群の請求項を訂正するものであるから、その他の訂正事項の適否にかかわらず、訂正は認められない。 イ 各取消理由については以下のとおりである。 (ア)取消理由1:請求項1、2、3、7、8、12、14に係る発明は、下記の引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、請求項1、2、3、7、8、12、14に係る特許は取り消されるべきものである。 (イ)取消理由2:請求項1?14に係る発明は、下記の引用文献1に記載された発明に基いて、あるいは、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法第29条第2項に規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1?14に係る特許は取り消されるべきものである。 記 引用文献1:特開平10-141557号公報 (異議申立人が提出した甲第1号証) 引用文献2:特開2008-232228号公報(同甲第2号証) 引用文献3:特開2006-258219号公報(同甲第3号証) 引用文献4:特開2013-224741号公報(同甲第4号証) 引用文献5:特開2011-185337号公報(同甲第5号証) 引用文献6:特開2015-81624号公報(同甲第7号証) (ウ)取消理由4:請求項5に「前記突起部(32,52,62,72,82)は、挿入された前記配管(2)との接触により塑性変形し、前記塑性変形による復元力(F)により前記配管(2)に対する保持力を発生する」との発明特定事項が記載されているが、一般に塑性変形は永久変形であり弾性変形のような復元力は生じないため、発明特定事項が技術的に不明確であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないので、請求項5に係る特許は取り消されるべきものである。 なお、平成29年10月17日付けの取消理由通知における取消理由3(請求項1において、ストッパーの有する突起部が「仮止め可能な保持力」を発生することを特定していることについて、発明の詳細な説明において「仮止め可能な保持力」を配管を完全に固定する力より小さくするための構成について説明がないため、発明の詳細な説明の記載は、請求項1に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでなく、当該「仮止め可能な保持力」に関連し、配管の挿入力と引抜力の比を数値範囲で特定した請求項11に係る発明についても、発明の詳細な説明の記載は、請求項11に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない旨)については、以下に示すように解消している。 特許権者は、平成29年12月22日の意見書の第9?10ページの「(5)理由3について」において、配管の保持力が突起部の先端形状やその数などの要因により決定されることが本願出願時における技術常識であり、「当業者であれば『配管(2)の軸方向における移動が規制される一方、配管(2)を継手本体(10)に対して挿抜可能な程度に保持する力』を実現すべく、突起部の先端形状やその数を適宜設計するのは可能というべきである。」(第10ページ第8?11行)として、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明等を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものである旨主張している。 上記特許権者の主張を踏まえれば、保持力は、突起部の先端形状やその数などの要因により決定されることは、当業者にとって自明のことであり、「仮止め可能な保持力」を実現する際に、突起部の先端形状やその数は、所望とする保持力に応じて適宜設定可能なことといえ、異議申立人が主張するように当業者が理解することができないという程のものではない。 そうすると、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとまではいえず、請求項11に係る発明についても同様である。 よって、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 (2)引用文献の記載事項及び記載された発明 ア 引用文献1について (ア)記載事項 引用文献1には、次の事項が記載されている。 a 「【請求項1】 接続されるべき管と、 前記管が挿入される孔部を備えた接続主体と、 前記挿入された管を前記接続主体に対して抜止め状態に仮止めする仮止め手段と、 前記接続主体に対して前記仮止めされた管を固定できる固定手段と、 を具備する管接続装置。」 b 「【0004】 【発明が解決しようとする課題】ところが、第1・第2筒体(9a)(9b)に対して管(P)が挿入されてからリング部材(9c)の内周部が管(P)に接触するまでの間では、管(P) が不用意に移動し、第1・第2筒体(9a)(9b)から抜け易い。従って、前記締込み操作に際しては、第1筒体(9a)を保持しつつ第2筒体(9b)を保持して締め込み、加えて、管(P)を前記移動しないように保持しなければならない。これにより、前記締込み操作が面倒なものとなっていた。 【0005】請求項1の発明は、挿入された管が不用意に抜けない管接続装置を提供することを目的とする。」 c 「【0020】図1及び図2に示すように、この実施の形態の管接続装置は、接続されるべき金属製の管(P)と、この管(P)が接続される管継手(100)と、からなる。前記の管継手(100)は、管(P)が挿入される内周孔(1a)を有する筒形状の本体部(1)と、内周孔(1a)に対する内挿状態にて本体部(1)に螺合し且つ管(P)が挿通されるネジ筒(2)と、内周孔(1a)に配置され且つ管(P)を本体部(1)に対して固定する為の可縮リング(3)と、内周孔(1a)に配置され且つ管(P)と本体部(1)との間の気密を確保する為の環状パッキン(4)と、前記挿入された管(P)の挿入位置を定める為のリング体(5)と、前記挿入された管(P)を抜止め状態に仮止めする爪付リング(6)と、を具備する構成である。尚、管(P)としては、比較的薄肉の銅管が採用されている。 【0021】 [各部の構成について] *本体部(1)* 上記の本体部(1) は、外周部に六角形状部を有する第1筒部(15)と、この第1筒部(15)に対して軸方向に連続し且つ外周面にネジが形成された第2筒部(16)と、を具備する構成である。 【0022】又、上記の内周孔(1a)は、本体部(1)に於ける第1筒部(15)側の端縁から内方側(第2筒部(16)側)の一定範囲に形成された第1孔部(11)と、この第1孔部(11)に連続して第2筒部(16)側の端縁までの範囲に形成され且つ第1孔部(11)より小径の第2孔部(12)と、を具備する構成である。前記の第1孔部(11)の外方端縁から一定範囲には、後述のネジ筒(2)を螺合させる為の雌ネジ部(111)が形成されている。又、この雌ネジ部(111)の内方には、内方に向って直径が漸次縮小するテーパ孔部(112)が形成されている。 【0023】そして、第1孔部(11)と第2孔部(12)との間には、軸線に対して直角な環状平面となる境界端面(13)が形成されている。この境界端面(13)は、後述の可縮リング(3) の内方端が当接する大きさに設定されている。前記の第2孔部(12)には、境界端面(13)から内方の一定範囲にてその内方よりも大径となる拡大孔部(14)が形成されている。この拡大孔部(14)の周壁に於ける内方側部分は、内方に向って直径が漸次縮小するテーパ壁部(141) となっている。 【0024】又、第2孔部(12)には、拡大孔部(14)よりも所定距離内方の位置にて内方に向って直径が漸次縮小するテーパ状の段部(122) が形成されている。尚、段部(122) と拡大孔部(14)との間の第2孔部(12)の直径は、管(P) の外径よりも僅かに大きく設定されている。・・・」 d 「【0029】*爪付リング(6)* 上記の爪付リング(6)は、上記した六角頭部(23)の内周面に全周に亙って形成された矩形断面の環状溝部(230) に嵌め込まれている。この爪付リング(6)は、図4及び図5に示すように、内方に向って直径が漸次縮小するテーパ状に形成されている。又、この爪付リング(6)は、環状の主体部(6a)と、その内周縁に於ける周方向の一部から突出する一対の突出部(6b)(6b)と、からなる。 【0030】前記の突出部(6b)(6b)の各々は、その先端縁(60)が外周側に凸の円弧状となるように形成されている。そして、先端縁(60)の周方向の両端がこの爪付リング(6)の爪部(61)(61)となる。更に、爪部(61)(61)は、ネジ筒(2)及び本体部(1)にに挿入された管(P) の外周面に対して圧接される大きさに、設定されている。 [管継手(100) に対する管(P) の接続について] 上記の管継手(100)に管(P)を接続するには、先ず、管(P)を、ネジ筒(2)の内周孔(2a)に挿入する。この挿入時には、管(P)が爪付リング(6)の爪部(61)(61)を外周側に僅かに押し広げた状態で、管(P)が爪部(61)(61)に対して軸方向に摺動する。そして、管(P)を内周孔(1a)の第2孔部(12)にまで到達させる。これにより、管(P)の先端がリング体(5)に当接し、リング体(5)は段部(122)に当接する(図2の状態)。これにより、管(P)の所定以上の前記挿入が阻止された状態(挿入阻止状態)となり、管(P) が本体部(1) に対して位置決めされたものとなる。 【0031】この状態では、爪付リング(6)の爪部(61)(61)が管(P)の外周面に圧接されるから、管(P)がネジ筒(2)及び本体部(1)に対して抜止め状態に仮止めされたものとなる。尚、爪付リング(6)は、その全体が内方に向って直径が漸次縮小するテーパ状に形成されているから、爪付リング(6)に対する管(P)の挿入がスムーズとなっている。又、管(P)に抜け方向の力が作用しても前記の爪部(61)(61)が管(P) の外周面に対して食い込む傾向となるから、前記仮止めが確実となっている。」(なお、段落【0030】の「ネジ筒(2)及び本体部(1)にに挿入された」は「ネジ筒(2)及び本体部(1)に挿入された」の誤記と認める。) e 「【0035】更に、前記変位の継続によって、上記一対のテーパ部の外周端部の各々が相互に当接した時点で、前記圧縮及び前記変位が終了する。この時点で、本体部(1)に対する管(P)の固定が完了する。この状態では、可縮リング(3)の内周部が管(P)に対して全周に亙って食い込んで管(P)の構成壁が内周側に凸に塑性変形したものとなる(図3の状態)。」 f 「【0039】管(P)を挿入するだけで、管(P)が前記仮止めされるから、前記仮止めの為の操作が不要となっている。上記の爪部(61)(61)によって、管(P)の内方への移動時の摩擦抵抗が外方への移動時の摩擦抵抗よりも小さくなり、管(P)の挿入に要する力よりも、管(P)の引抜きに要する力の方が大きくなっている。従って、管(P)の抜け防止効果を確保した上で、前記挿入が容易となっている。 【0040】上記の主体部(6a)の内周縁の一部から突出した突出部(6b)(6b)が管(P)に接触するから、前記内周縁の全域が管(P)に接触するものに比べて、管(P)の挿入に要する力が小さくなっている。突出部(6b)(6b)の爪部(61)(61)のみが管(P)の外周面に対して圧接されるから、突出部(6b)(6b)の先端縁(60)の全域が前記圧接されるものに比べて、管(P)の挿入に要する力が一層小さくなる。又、爪部(61)(61)が管(P)の外周面に食い込む傾向となるから、上記仮止めが確実となっている。」 g 「【0043】 [変形例について] ○1.図6は、本願発明の他の実施の形態に於ける管継手(100)の一部切欠の断面図である。上記の実施の形態では、爪付リング(6)をネジ筒(2)の環状溝部(230)に嵌め込んだが、これを、図6に示すように、本体部(1)の第2孔部(12)に於ける拡大孔部(14)より内方で且つリング体(5)より外方の位置に設けた環状溝部(18)に嵌め込んでもよい。 【0044】このものでも、上記した実施の形態と同様の仮止め効果を奏する。尚、ネジ筒(2)の締込に際しては、可縮リング(3)の圧縮に伴って管(P)が内方に移動しないかぎり、爪付リング(6)と管(P)との相対移動が生じない。このものでは、前記の環状溝部(18)が既述特許請求の範囲に記載の『環状溝部』に相当する。」(なお、段落【0043】において、丸囲みの1を「○1」と表記した。) h 「【0050】○8.上記実施の形態では、可縮リング(3)の内周部が全周に亙って管(P)の構成壁に食い込んで内周側に凸に塑性変形させるものとしたが、管(P)の外周面に食い込むが管(P)の構成壁を内周側に凸に塑性変形させないものでも、前記内周部が管(P)に対して食い込まずに圧接されるものでもよい。この場合、管(P)として、鋼管を採用してもよい。」(なお、丸囲みの8を「○8」と表記した。) i 【図6】は以下のとおりである。 (イ)記載された発明 【図6】等の記載より、「本体部(1)」には、「内周孔(1a)」を画定すると共に径方向外側に凹んでいる「環状溝部(18)」が形成された内周面を有することが明らかといえる。 そして、上記(ア)の各記載事項及び【図1】?【図6】の記載からみて、引用文献1(特に【図6】に係る「変形例」に対応。当該変形例においても、【図1】等に係る「本願発明の実施の形態」と同一符号が付与された部材は同様のものであることは明らかであるので、「本願発明の実施の形態」と同様の用語、表現を用いた。)には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。 「管(P)が挿入される内周孔(1a)を有し、前記内周孔(1a)を画定すると共に径方向凹む環状溝部(18)が形成された内周面を有する筒形状の本体部(1)と、 内周孔(1a)に対する内挿状態にて本体部(1)に螺合し且つ管(P)が挿通されるネジ筒(2)と、 内周孔(1a)に配置され且つ管(P)と本体部(1)との間の気密を確保する為の環状パッキン(4)と、内周孔(1a)に配置され且つ管(P)を本体部(1)に対して固定し、挿入された管(P)に対して全周に亘って食い込んで挿入位置を定める為の鋼製の可縮リング(3)と、挿入された管(P)を抜止め状態に仮止めする爪付リング(6)と、を具備し、 前記本体部(1)は、外周部に六角形状部を有する第1筒部(15)と、この第1筒部(15)に対して軸方向に連続し且つ外周面にネジが形成された第2筒部(16)とを具備し、 前記内周孔(1a)は、前記本体部(1)に於ける第1筒部(15)側の端縁から内方側(第2筒部(16)側)の一定範囲に形成された第1孔部(11)と、この第1孔部(11)に連続して第2筒部(16)側の端縁までの範囲に形成され且つ第1孔部(11)より小径の第2孔部(12)とを具備し、 前記第2孔部(12)には、境界端面(13)から内方の一定範囲にてその内方よりも大径となる拡大孔部(14)が形成され、拡大孔部(14)よりも所定距離内方の位置にて内方に向って直径が漸次縮小するテーパ状の段部(122) が形成され、 前記爪付リング(6)を、前記本体部(1)の第2孔部(12)に於ける拡大孔部(14)より内方で且つリング体(5)より外方の位置に設けた環状溝部(18)に嵌め込み、 前記爪付リング(6)は、内方に向って直径が漸次縮小するテーパ状に形成され、環状の主体部(6a)と、その内周縁に於ける周方向の一部から突出する一対の突出部(6b)(6b)と、からなるものであり、 前記の突出部(6b)(6b)の各々は、その先端縁(60)が外周側に凸の円弧状となるように形成され、先端縁(60)の周方向の両端がこの爪付リング(6)の爪部(61)(61)となり、 挿入された管(P)の先端がリング体(5)に当接し、リング体(5)は段部(122)に当接し、管(P)が本体部(1)に対して位置決めされ、 爪付リング(6)の爪部(61)(61)が挿入された管(P)の外周面に圧接され食い込み、管(P)がネジ筒(2)及び本体部(1)に対して抜止め状態に仮止めされたものとなる、管継手(100)。」 イ 引用文献2について (ア)記載事項 引用文献2には、次の事項が記載されている。 a 「【0001】 本発明は、食込み式管継手、並びに、これを応用した冷凍装置及び温水装置に関し、特に、フェルールによる配管の保持構造に関する。」 b 「【0005】 これをさらに図14を用いて具体的に説明する。この食い込み式管継手は、図14(a)に示すように、接続すべき配管102の先端部を挿入する配管接続口101aを有する継手本体101と、中心部に接続すべき配管102を貫通させる貫通孔103aを備えた袋ナット状の結合用部材103とを備えている。また、結合用部材103の基部103bに対しては、径方向に延びる薄肉部104を介して環状のフェルール105が連結され、この薄肉部104を介してフェルール105と結合用部材103とが一体的に形成されている。また、継手本体101の配管接続口101aの入口部には、フェルール105の先端部を配管102に食い込ませるようにガイドするカム面106が形成されている。 【0006】 そして、フェルール105から薄肉部104にかけての後端面105aに対し空間部107を介在させて、フェルール105の後端面105aを押圧するための押圧面108が形成されている。この管継手において配管102が接続されるときは、結合用部材103を締結するときの締結力により、フェルール105の先端部がカム面106に押し付けられる(図14(a)参照)。そして、この状態からさらに結合用部材103が締め付けられることにより、薄肉部104に軸方向力が作用して薄肉部104が切断されてフェルール105が独立の状態になるとともに、その後端面105aが押圧面108により押圧される(図14(b)参照)。また、その後に押圧面108を介して結合用部材103の締結力がフェルール105の後端面105aにさらに加えられると、フェルール105の先端部におけるテーパ面105bがカム面106に押し付けられるとともに、フェルール3の先端部がカム面106に案内されて配管102に食い込むようになる。この結果、このフェルール105の先端部の食い込みにより、配管102が気密に接続されるように構成されている(図14(c)参照)。」 c 「【0014】 また、前記フェルールは、継手本体と結合用部材とを手回しで締め付けるときに発生する軸方向の押付力により、フェルールの先端部を変形容易とするための切込部を有し、この切込部から先の楔状部を押し込んで接続すべき配管を仮止め可能に形成されているようにしてもよい。このように構成すれば、結合用部材を締結工具で締結しなければならなくなる前に配管を仮止めすることができる。これにより、その後の締結工具を使用した結合用部材2の締結作業を効率化することができる。」 d 「【0022】 このように形成された結合用部材2には、保護筒部23内において基部22から前側へ、つまり、継手本体1側へ突出するように環状のフェルール3が形成されている。フェルール3の軸心の孔は配管pを貫通させる貫通孔31であり、その直径は、前述の配管接続口16及び基部22の軸心に設けられた貫通孔21と略同径である。このフェルール3は、図4から分かるように、環状であって、後端部において径方向に延びる薄肉部4を介し基部22に連結されて、結合用部材2と一体的に形成されている。」 e 「【0025】 また、フェルール3の先端付近の内周面には、先端部の変形を容易にするための切込部35が設けられている。この切込部35が設けられることにより、結合用部材2を手回しで締め付ける段階において、切込部35の前方に薄く形成された楔状部3aを配管pと配管接続口16との間に楔状に差し込んで配管pを仮止め可能としている。フェルール3によるシールのための配管pへの食い込みは、図6に示すように、この切込部35の後側に形成されるエッジ部3bにより行われる。」 f 「【0027】 以上のように構成される本食い込み式管継手による配管接続方法について説明する。 継手本体1に対し配管pを接続するに際し、継手本体1は配管、容器類、閉鎖弁等の所定の装置側機器に取り付けられているものとする。本食い込み式管継手による配管接続は、まず結合用部材2の貫通孔21に配管pを挿貫して、結合用部材2を配管pに外装する。次に、配管pの先端部をフェルール3の貫通孔31を通じて配管接続口16に挿入し、その先端面を段部16aに当接させ、結合用部材2を継手本体1に螺合する。この状態が図1である。 【0028】 次いで、結合用部材2を手回しで締め付けていくと、フェルール3の楔状部3aが配管pと配管接続口16との間に押し込まれ、配管pの仮止めが行われる。・・・」 g 「【0037】 (4)また、フェルール3は、継手本体1と結合用部材2とを手回しで締め付けるときに発生する軸方向の押付力により、フェルール3の先端部を変形容易とするための切込部35を有する。そして、この切込部35から先の楔状部3aを、接続すべき配管pの外周面と配管接続口16の内周面との間の隙間に押し込むか、又は、配管pの表面に食い込ませるように変形させて、接続すべき配管pを仮止め可能に形成されている。したがって、結合用部材2を締結工具で締結しなければならなくなる前に配管pを仮止めすることができる。これにより、その後の締結工具を使用した結合用部材2の締結作業を効率化することができる。」 h 【図6】は以下のとおりである。 ウ 引用文献3について (ア)記載事項 引用文献3には、次の事項が記載されている。 a 「【0002】 この種の管継手として、先に本出願人により図6に示すようなフェルールを用いる形態の管継手を提案した(特願2004-375974)。図6における右半分は締付ナット32の仮締め状態図を、左半分は締付ナット32の本締め完了時の状態図をそれぞれ示している。この管継手は、筒状の継手本体31と、この継手本体31の雄ねじ31aに螺合される締付ナット32と、継手本体31に挿入される金属製の接続管Pを囲むような筒状をなす金属製のフェルール(締付リング)33と、継手本体31の内周に軸方向外方に向かって漸次拡がり状に形成したテーパ面35を有し、締付ナット32の螺進に伴ってフェルール33を縮径方向へ押圧する縮径手段とを備え、この縮径手段により押圧されたフェルール33が塑性変形しつつ縮径することで接続管Pの外周に対し気密状態に密着する形態で締め付ける構成としたものである(図6における左半分の状態図を参照)。この管継手によれば、バーナを使用するロウ付け接着に代わるものとして有用である。」 b 「【0004】 しかしながら、図6における右半分に示すように接続管Pの先端P1が継手本体31の管端ストッパー部36に当たったところで止めるのは、接続管Pの先端P1が管端ストッパー部36に当たることによる手応えにより行われるが、これでは作業者が誤って判断することがあり、そればかりか、一旦、接続管Pの先端P1が継手本体31の管端ストッパー部36に当たるまで挿入してから締付ナット32を本締めするまでの間に、接続管P又は継手本体31が他物と当たるなど何等かの事情により接続管Pが継手本体31から少し抜け出しかけることがある。作業者はこれに気付かないまま締付ナット32を本締めしてしまうことがある。この結果、接続管Pの先端P1が継手本体31の管端ストッパー部36に達していない状態、すなわち挿入不足の状態で接続作業を終えてしまうという施工管理上好ましくない事態が起こることがあった。」 c 「【0012】 図1、図2に示すように、継手本体1は筒状に形成され、これの少なくとも一端部に接続管Pの一端部が挿入される受口部4を開口する。この受口部4の内周に、その軸方向内側から外側に向かって順に、環状の管端ストッパー部5と、この管端ストッパー部5の軸方向外側部から軸方向外方へ真直ぐに形成される第1のストレート面6と、この第1のストレート面6の軸方向外側端から軸方向外方に向かって漸次拡がりに形成される第1のテーパ面7と、この第1のテーパ面7の軸方外方端に連続して軸方向外方へ真直ぐにかつ前記第1のストレート面6より大きい内径に形成される第2のストレート面8と、受口部4の軸方向外側開口端の内周であって第2のストレート面8の軸方向外側端から軸方向外方に向かって漸次拡がりに形成される第2のテーパ面9とが備えられている。第2のテーパ面9の傾斜角度は第1のテーパ面7よりも大きく設定されている。継手本体1の外周における軸方向中間位置にはスパナ等工具が掛けられる多角形の工具受け部10が張り出し形成され、受口部7の外周に対応する位置には雄ねじ11が形成されている。」 d 「【0014】 フェルール3は、継手本体1の第2のストレート面8の内径より少し小さい外径寸法を有し、かつ接続管Pの外径よりも少し大きい内径寸法を有する円筒形状に形成される。フェルール3の先端側部3aの外周は先窄まり状のテーパ面15に形成され、後端部3bは断面円形に形成されている。このフェルール3は真鍮やステンレスなど金属製であって、ステンレス製のフェルール3は銅管又はステンレス管からなる接続管Pに対応でき、真鍮製のフェルール3は銅管からなる接続管Pに対応できる。」 e 「【0024】 上記締付ナット2の本締めに伴い、フェルール押圧段部13によりフェルール3の後端部3bが軸方向内方へ押し込まれることで、該フェルール3が軸方向内方へ推進され、該フェルール3の先端側部3aが第1のテーパ面7により径方向内方に押圧されて縮径変形を加えられながら第1のテーパ面7と接続管Pの外周との隙間に楔状に食い込んで行って接続管Pの外周と第1のテーパ面7にそれぞれ気密状態に密着する。また、そのようにフェルール3の先端側部3aが第1のテーパ面7と接続管Pの外周との隙間に楔状に食い込み終える直前にフェルール3の後端部3bが第2のテーパ面9により径方向内方に押圧されて縮径変形を加えられながら接続管Pの外周に気密状態に密着する状態となる。」 f 【図2】は以下のとおりである。 エ 引用文献4について (ア)記載事項 引用文献4には、次の事項が記載されている。 a 「【0022】 図1および2は、本願に記載する発明態様のいくつかの例示的な実施形態である管継手10を図示している。管継手10は、管12との接続のために使用され、継手本体14を含む。継手本体14は、本発明を使用可能な種々の異なる種類のアセンブリおよび継手の単なる代表例である。例えば、継手本体は、スタンドアロン装置、または弁の一部、または結合体、またはその他任意の種類の流体制御装置もしくは流体流動装置であってもよい。 【0023】 図示されている特定の継手本体14は、主要本体部分16と突出したソケット壁20とを有する。ソケット壁20は、継手本体14内に管端ソケット22の半径方向外周辺を形成する。」 b 「【0027】 図1および2に図示された実施形態において、管端ソケット22の内壁面50は、管捕捉面52、カム作用口部分54、および、管捕捉面52とカム作用口部分54との間に中間壁面部分60(図面中においては、明瞭にするためにその細部が誇張されている場合がある)を含む。例示的な管捕捉面52は肩部24から軸方向に外へ延びているが、その他の実施形態において、管捕捉面52は、肩部24から軸方向に間隔が空いてもよい。管捕捉部分は、多くの異なる形状、角度、輪郭、または幾何学的形状をとり得るが、内壁面50の例示的な管捕捉面52は、肩部24から離れて軸方向に延びるにつれて半径方向に外へテーパーのついた円錐台形(frustoconical)の先細面である。図示された実施形態においては、図1Aに示すように、管捕捉面52は先細角度53を有する。例示的な実施形態において、先細角度53は、軸30に対して約4度(4°)である。管捕捉面52の先細角度53、およびその全径は、継手10の本締め中に管12がソケット22内で回転するのを阻止するために、継手本締め前に管12の端を軽く保持または捕捉するように選択され得る。 【0028】 例示的なカム作用口部54は、管継手10の一部を形成するフェルール(後述)を係合し、当該フェルールに半径方向に内向きにカム作用し、それにより、既知の様式で、管12、フェルール、および継手本体14の間に把持および密閉接続を提供するように適合される。カム作用口部54の角度57は、図1で参照されるように、望ましい把持および密閉接続を提供するために選択され得る。例示的な実施形態において、カム作用口部の角度57は軸30に対して約20°である。」 c 「【0030】 図1および2に示されている特定の管継手10は、継手本体14に加えて、前フェルール80、後フェルール82、およびドライブナット44を含む。本発明は、例えば、2つのフェルールではなく1つのフェルールのみを含む管継手を含む、その他の種類の管把持装置を含む継手にも適用できる。本発明は、その設計の多くが当該技術分野において既知である、異なる構成の前および/または後フェルールならびにドライブナットを含む管継手にも適用できる。」 d 【図1-1】は以下のとおりである。 オ 引用文献5について (ア)記載事項 引用文献5には、次の事項が記載されている。 a 「【0012】 以下、本発明を図を参照しながら詳しく説明する。 本発明の管継手用ロックリングは、管継手内に配設され、管継手に挿入される管体の抜け出しを防止するために用いられる。 ロックリング100は、周方向の1箇所において長さ方向の全長さに亘って設けられたスリット21を有し、円筒状であるロックリング本体2と、ロックリング本体2の長さ方向の中間部の少なくとも1箇所において周方向に設けられ、ロックリング本体2の内方向、且つ管体送出方向に向けて突出している複数の管体保持爪[例えば、挿入側管体保持爪31及び送出側管体保持爪41(図2、3参照)]と、を備える。」 b 「【0018】 [3]管継手用ロックリング 前記「ロックリング100」は、平板状の帯状のステンレス鋼を用いてなる予備成形体1(図1参照)により作製することができる。・・・」 c 【図5】は以下のとおりである。 カ 引用文献6について (ア)記載事項 a 「【0019】 (差込式管継手について) 本発明に係る差込式管継手1は、図1に示すように、左右の両端に開口部3,3が形成された継手本体2の内部に、開口部3から挿入される樹脂パイプ85の外周面に密着するシールリング10と、樹脂パイプ85の外周面に係合して当該パイプの抜け止めを施すためのロックリング12と、ロックリング12のリング部13の後面に先端部を当接させるカラー16と、カラー16の内部に遊嵌された可動リング21とを配置した概要構成とされている。」 b 「【0023】 図2、図3に示すように、ロックリング12は、ステンレス製の厚さ0.5mm程度のの素板をプレス成形によって所定の形態に加工されてなり、リング部13の内周12aから前方側へ約40度の角度で傾斜して延びるバネ弾力を有する複数の、ここでは多数の突片14を一体に設けている。」 c 【図2】は以下のとおりである。 (3)当審の判断 ア 取消理由1(特許法第29条第1項第3号)及び取消理由2(同条第2項)について (ア)本件発明1 a 対比 本件発明1と引用発明を対比する。 (a)後者の「管(P)」は前者の「配管」に相当し、以下同様に、「内周孔(1a)」は「挿入穴」に、「環状溝部(18))」は「溝部」に、「爪付リング(6)」は「ストッパー」に、「環状の主体部(6a)」は「環状部」に、「突出部(6b)(6b)」は「突起部」に、「管継手(100)」は「管継手」にそれぞれ相当する。 そして、前者の「継手本体」は「配管が挿入される挿入穴が形成された」ものであるところ、後者の「本体部(1)」は「管(P)が挿入される内周孔(1a)を有」する「筒形状の」ものであるから、後者の「本体部(1)」は前者の「継手本体」に相当するといえる。 また、後者の「可縮リング(3)」と前者の「フェルール」は、いずれも環状をなし管を固定するものであるから「環状固定部材」の限度で一致するといえる。 (b)後者の「管(P)が挿入される内周孔(1a)を有し、前記内周孔(1a)を画定すると共に径方向凹む環状溝部(18)が形成された内周面を有する筒形状の本体部(1)」は、前者の「配管が挿入される挿入穴が形成され、前記挿入穴を画定すると共に径方向に凹む溝部が形成された内周面を有する継手本体」に相当するといえる。 (c)後者の「内周孔(1a)に対する内挿状態にて本体部(1)に螺合し且つ管(P)が挿通されるネジ筒(2) と、内周孔(1a)に配置され且つ管(P)と本体部(1)との間の気密を確保する為の環状パッキン(4)と、内周孔(1a)に配置され且つ管(P)を本体部(1)に対して固定し、挿入された管(P)に対して全周に亘って食い込んで挿入位置を定める為の鋼製の可縮リング(3)と、挿入された管(P)を抜止め状態に仮止めする爪付リング(6)と、を具備し」ということ、及び、「前記爪付リング(6)を、前記本体部(1)の第2孔部(12)に於ける拡大孔部(14)より内方で且つリング体(5)より外方の位置に設けた環状溝部(18)に嵌め込み」ということと、前者の「前記挿入穴内に配置されると共に前記溝部12に収容されたストッパーと、前記配管の周囲を囲む環形状を有し、先端部を前記配管の外周面に食い込ませることにより前記配管を固定するフェルールと、を備え」ることとは、「前記挿入穴内に配置されると共に前記溝部に収容されたストッパーと、前記配管の周囲を囲む環形状を有し、先端部を前記配管の外周面に食い込ませることにより前記配管を固定する環状固定部材と、を備え」ることの限度で一致するといえる。 (d)後者の「前記爪付リング(6)は、内方に向って直径が漸次縮小するテーパ状に形成され、環状の主体部(6a)と、その内周縁に於ける周方向の一部から突出する一対の突出部(6b)(6b)と、からなるものであり、前記の突出部(6b)(6b)の各々は、その先端縁(60)が外周側に凸の円弧状となるように形成され、先端縁(60)の周方向の両端がこの爪付リング(6)の爪部(61)(61)となり、挿入された管(P)の先端がリング体(5)に当接し、リング体(5)は段部(122)に当接し、管(P)が本体部(1)に対して位置決めされ、爪付リング(6)の爪部(61)(61)が挿入された管(P)の外周面に圧接され食い込み、管(P)がネジ筒(2)及び本体部(1)に対して抜止め状態に仮止めされたものとなる」ことは、前者の「前記ストッパーは、挿入された前記配管の前記外周面を取り囲む環状部と、前記環状部の内周面から当該環状部の径方向内側に突出する突起部と、を有し、前記突起部は、挿入された前記配管の外周面への圧接により前記配管に対して仮止め可能な保持力を発生」するということに相当するといえる。 (e)したがって、両者の一致点、相違点は次のとおりと認める。 [一致点] 「配管が挿入される挿入穴が形成され、前記挿入穴を画定すると共に径方向に凹む溝部が形成された内周面を有する継手本体と、 前記挿入穴内に配置されると共に前記溝部に収容されたストッパーと、 前記配管の周囲を囲む環形状を有し、先端部を前記配管の外周面に食い込ませることにより前記配管を固定する環状固定部材と、を備え、 前記ストッパーは、 挿入された前記配管の前記外周面を取り囲む環状部と、 前記環状部の内周面から当該環状部の径方向内側に突出する突起部と、を有し、 前記突起部は、挿入された前記配管の外周面への圧接により前記配管に対して仮止め可能な保持力を発生する、管継手。」 [相違点1] 「環状固定部材」について、本件発明1が「フェルール」であるのに対し、引用発明は「可縮リング(3)」である点。 [相違点2] 「ストッパー」及び「溝部」について、本件発明1が「前記ストッパーの軸方向の長さは、前記溝部を区画すると共に前記軸方向に対向する一対の面の間の前記軸方向の第1隙間よりも小さく、前記環状部の一方の端縁が前記一対の面のうち前記配管の挿入方向と反対方向側の面に当接した状態で、前記環状部の他方の端縁と前記一対の面のうち前記配管の挿入方向側の面との間に第2隙間が形成されている」という事項を有するのに対し、引用発明の「爪付リング(6)」(ストッパーに相当)及び「環状溝部(18)」(溝部に相当)は当該事項を有していない点。 b 取消理由1の判断 本件発明1と引用発明との間には、少なくとも実質的な相違点である上記相違点2が存在するので、本件発明1は引用発明であるとはいえない。 c 取消理由2の判断 事案に鑑み、上記相違点2について検討する。 取消理由通知(決定の予告)で引用した引用文献2?6には、上記(2)イ?カに示す各記載事項(特に各図面参照。)から明らかなように、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項に対応する事項を有しておらず、引用発明に引用文献2?6に記載された技術的事項を適用したとしても、上記相違点2に係る本件発明1に係る事項を有するものには至らない。 したがって、引用発明において、少なくとも上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることが、当業者にとって容易になし得たとすることはできない。 よって、本件発明1は、引用発明及び引用文献2?6に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 なお、取消理由通知(決定の予告)で引用しなかった他の証拠を検討しても、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項に対応する事項を有するものではない。 d 異議申立人の意見について 平成30年10月12日付けの意見書において、異議申立人は以下の主張をしているので検討する。 (a)訂正事項3について(特許法第29条第2項) 異議申立人は、甲第12号証(特開2013-64491号公報)、甲第13号証(特開2012-189131号公報)、甲第14号証(特開2013-234760号公報)、甲第15号証(特開2008-164090号公報)の記載から、「管が挿入される部材に溝(または凹部)が形成され、この溝にはリングが収容され、リングの軸方向の長さは溝の軸方向長さよりも小さいものであって、リングの一方の端縁が溝において軸方向に対向する一対の面のうち管の挿入方向と反対方向側の面に当接した状態で、リングの他方の端縁と前記一対の面のうち管の挿入方向側の面との間に隙間が形成されている」との構成は周知技術であり、本件発明1は引用発明に当該周知技術を適用することにより、容易に発明をすることができた旨主張する。 まず、本件発明1の「前記ストッパー(30,50,60,70,80)の軸方向の長さ(L1)は、前記溝部(12)を区画すると共に前記軸方向に対向する一対の面(15,18A)の間の前記軸方向の第1隙間(D1)よりも小さく、前記環状部(31,51,61,71,81)の一方の端縁が前記一対の面(15,18A)のうち前記配管(2)の挿入方向と反対方向側の面(15)に当接した状態で、前記環状部(31,51,61,71,81)の他方の端縁と前記一対の面(15,18A)のうち前記配管(2)の挿入方向側の面(18A)との間に第2隙間(D2)が形成されている」という発明特定事項について検討するに、明細書の段落【0056】に「環状部31の他方の端縁と当接面18Aとの間には第2隙間D2が形成され、」と記載されていること、及び、【図1】において、配管2が当接面18Aに当接している状態(左方)でも当接していない状態(右方)でも、ストッパー30が配管2の挿入方向と反対方向側の面15(右方。なお、左方は符号なし。)に当接した状態で記載されていることから理解できるように、本件発明1においては、「管継手」として「第2隙間」が形成されていることが明らかである。 【図1】 次に、上記各証拠について検討する。 ・甲第12号証 甲第12号証の段落【0034】に「まず、図3(a)に示すように、挿し口1を差込む前に、受口2内のロックリング溝2aにロックリング10を収容する。ロックリング10は、両端部10c,10c間の開口の幅(周方向への幅W)を縮小することでやや縮径させた状態とし、その状態を作業者の指で維持しながら、ロックリング10をロックリング溝2aの部分に差し入れる。最後に縮径を解除することで、ロックリング10は自身の弾性力で、前記開口の幅Wを広げながら拡径する。これにより、ロックリング溝2a内の所定の位置に収容される。」、同【0040】に「この管継手構造を備えた管体P群の供用中に、その管継手に、地震等による引き抜き方向の外力が作用すると、挿し口1が受口2に対して抜け出る方向に相対移動する。この相対移動により、図3(d)に実線で示すように、抜け止め突起1aの端壁1cが、ロックリング10の前端に当接する。このとき、ロックリング10は、抜け止め突起1aに押されてやや後退する(受口2の開口側へ近づく)が、リング部10aの後端10eが、ロックリング溝2aの端壁2cに当接することで、それ以上の後退は規制される。これにより、挿し口1は、それ以上受口2から引き抜きされず、抜け止めがなされる。」と記載され、【図3】の記載も参酌すると、甲第12号証に記載のロックリング10のリング部10aの後端10eが、ロックリング溝2aの端壁2cに当接するのは、管体P群を差し込む前又は管体P群の通常の供用中ではなく、供用中において、地震等による引き抜き方向の外力が作用した場合のことであるので、異議申立人が主張する周知技術が開示されているとはいえないし、そもそも、上記ロックリング10は、フェルールとは別途設けた仮止め可能な保持力を発生させるものではなく、本件発明1の「ストッパー」とは管継手における機能が異なるものである。 【図3】 ・甲第13号証 甲第13号証の段落【0017】に「受け側管体1の受け口2の内周には、ロックリング溝5が形成され、このロックリング溝5内には、周方向に一箇所の切れ目6が形成されたロックリング7が縮拡径自在に設けられている。挿し側管体3の挿し口4先端の外周には、突起8が形成されている。この突起8の管軸方向先端には、その先端ほど軸心側に傾斜するテーパ9が形成されるとともに、管軸方向根元側には、管軸に対して垂直に起立する段部10が形成されている。」、同【0023】の「挿し口4が受け口2にしっかりと挿し込まれた状態で、挿し側管体3を引き抜こうとすると、この挿し側管体3に形成した突起8の段部10とロックリング7が当接して、この挿し側管体3とともにロックリング7が引き抜き方向にスライドする。このスライドに伴って、切り欠き部11のエッジ部が凸部12のテーパ13上をスライドし、対向する凸部12、12同士の間隔が次第に狭められ、ロックリング7が縮径する。この縮径によってロックリング7が挿し側管体3の外周面を締め付けて、この挿し側管体3の抜け止めがなされる(図3を参照)。」と記載されており、【図3】の記載も参酌すると、甲第13号証に記載のロックリング7が、挿し側管体3とともにロックリング7が引き抜き方向にスライドした場合にロックリング溝5の管挿入方向と反対方向の側面に当接するとしても、挿し口4が受け口2にしっかりと挿し込まれた状態で、挿し側管体3を引き抜こうとした場合のことである上、【図1】(a)に記載されるロックリング7の凸部12の先端の位置とロックリング溝5の位置関係から明らかなように、ロックリング7の軸方向の長さはロックリング溝5の軸方向長さよりも大きいものであるので、異議申立人が主張する周知技術が開示されているとはいえないし、そもそも、上記ロックリング7は、フェルールとは別途設けた仮止め可能な保持力を発生させるものではなく、本件発明1の「ストッパー」とは管継手における機能が異なるものである。 【図1】(a) 【図3】 ・甲第14号証 甲第14号証の段落【0009】に「管継手1は、継手本体2を備えている。継手本体2の内部には、その一端面(図1において右端面)から他端面まで貫通する通路孔2aが形成されている。この通路孔2aには、その一端開口部から水道用の樹脂管(管体)Tが挿入され、後述するようにして継手本体2に連結される。」、同【0012】に「ガイド部材4の内側の端部(図1において左側の端部)と対向する外孔部2dの内周面には、環状凹部2gが形成されている。この環状凹部2gには、係止リング5が装着されている。係止リング5は、金属製の薄い板材からなるものであり、基部51と、第1、第2食い込み歯(食い込み歯)52,53とを有している。」、同【0013】に「基部51は、円環状をなしており、その軸線を通路孔2aの軸線と一致させた状態で環状凹部2g内に配置されている。基部51は、環状凹部2g内において外孔部2d(通路孔2a)の長手方向へ移動可能であるが、その移動可能な距離は僅かであり、外孔部2dから外部に抜け出ることもなければ、シール部材3を越えて外孔部2dの底部側へ移動することもない。」と記載されており、管継手としては、係止リング5が環状凹部2gに対し長手方向に自由に僅かな距離だけ移動可能な構成となっているものと解される。そうすると、係止リング5の基部51が環状凹部2gの管挿入方向と反対方向の側面に当接するとしても、【図7】等の記載からみて、樹脂管Tが引き抜き方向に移動した場合のことであると解されるので、異議申立人が主張する周知技術が開示されているとはいえないし、そもそも、上記係止リング5は、フェルールとは別途設けた仮止め可能な保持力を発生させるものではなく、本件発明1の「ストッパー」とは管継手における機能が異なるものである。 【図7】 ・甲第15号証 甲第15号証の段落【0030】に「接続筒部10の軸線方向中央部の係止機構20は、図1のように,接続筒部10の外周面に具備されている幅広の環状溝部26に図6?図9に例示した主リング体25を軸線方向スライド可能に配備することによって構成されている。」、同【0045】に「図13のように、接続筒部10に差し込まれた樹脂管100が抜出し方向に引張られていないときには、主リング体25の弾性復元力によってその係歯28が樹脂管100の管壁内面101に強く弾接して係合しているか、あるいは、その弾性復元力によって係歯28が樹脂管100の管壁内面101に喰い込んで係合している。したがって、図14のように接続筒部10に差し込まれた樹脂管100が抜出し方向に引張られると、樹脂管100と共に主リング体25が環状溝部26の傾斜面29に乗り上がってその係歯28が樹脂管100の管壁内面101に喰込んで係合力を増大させる。このため、主リング体25による抜止め作用は、樹脂管100が抜出し方向に引張られれば引張られるほど増大することになる。」と記載されているが、甲第15号証に記載の主リング体25が、樹脂管100が抜出し方向に引張られた場合に環状溝部26の管挿入方向と反対方向の側面に当接することの記載はない。また、主リング体25が、樹脂管100が抜出し方向に引張られた場合を説明する【図14】において、主リング体25と、環状溝部25の管挿入方向と反対方向の側面との間に明確な隙間は記載されていないことから、仮に当接するものであると解釈しても、樹脂管100が抜出し方向に引張られた場合のことであるので、異議申立人が主張する周知技術が開示されているとはいえないし、そもそも、上記主リング体25は、フェルールとは別途設けた仮止め可能な保持力を発生させるものではなく、本件発明1の「ストッパー」とは管継手における機能が異なるものである。 【図14】 以上のとおりであるので、異議申立人の上記主張は採用できない。 (b)本件訂正の不適法性について 異議申立人は、訂正事項3は、ストッパーが軸周りに回転するように収容された態様を新たに含むようにする訂正であるから、ストッパーの技術的意味を実質的に拡張し、又は変更するものである旨主張する。 確かに、異議申立人のいうように、本件の明細書等には、ストッパーが軸周りに回転するように収容されることが開示されているとはいえないが、訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について判断した上記第2 2(2)で説示したとおり、特許権者の主張する作用を奏することを前提とする「第2隙間(D2)」を認めるものではなく、訂正事項3に係る発明特定事項の構成自体は、明細書等に実質的に記載されているといえるから、異議申立人の上記主張は採用できない。 (イ)本件発明2?4、6?14 本件発明2?4、6?14は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定を加えたものである。 したがって、上記ア、イと同様の理由により、本件発明2、3、7、8、12、14は引用発明であるとはいえないし、また、本件発明2?4、6?14は、引用発明及び引用文献2?6に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 取消理由4(特許法第36条第6項第2号)について 取消理由4で記載の不備を指摘した請求項5は、本件訂正請求により削除された。 第5 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?4、6?14に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?4、6?14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない そして、訂正により請求項5は削除されたため、請求項5に係る申立ての対象が存在しなくなった。 よって、結論の通り決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 管継手 【技術分野】 【0001】 本発明は、管継手に関する。 【背景技術】 【0002】 従来の管継手として、配管が挿入される筒形状の継手本体と、当該継手本体に対して外嵌により締結されるナットと、を備えたものが知られている。この管継手では、継手本体に配管が挿入された後、継手本体に外嵌されたナットを軸周りに回転させて締め付けることにより、配管が継手本体に対して固定される。 【0003】 下記特許文献1には、この種の管継手の構造が開示されている。この管継手は、配管が継手本体に挿入された後にナットを締め付けることにより、ナットの内側に配置された係止用リングを配管の外周面に食い込ませて当該配管の抜け止めを防止する構造のものである。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】特開2007-205461号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 管継手では、配管が継手本体に挿入された後、ナットを締め付けて配管を固定する前の状態において、配管の所定の挿入位置からのズレが問題になる場合がある。そのため、配管のズレの有無を確認するためのマーキングが必要となり、また配管のズレを防止するための専用工具が必要となる場合がある。上記特許文献1に開示された管継手では、継手本体の内側に配置されたOリングが配管の外周面に接触するが、引抜力が小さいため、ナットの締付前において配管のズレを確実に防止することが困難であった。 【0006】 本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ナットの締付前において継手本体に挿入された配管のズレを防止することが可能な管継手を提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明の一局面に係る管継手(1)は、配管(2)が挿入される挿入穴(11)が形成され、前記挿入穴(11)を画定すると共に径方向外側に凹む溝部(12)が形成された内周面を有する継手本体(10)と、前記挿入穴(11)内に配置されると共に前記溝部(12)に収容されたストッパー(30,50,60,70,80)と、前記配管(2)の周囲を囲む環形状を有し、先端部(41A,42A)を前記配管(2)の外周面(2A)に食い込ませることにより前記配管(2)を固定するフェルール(41,42)と、を備える。前記ストッパー(30,50,60,70,80)は、挿入された前記配管(2)の外周面(2A)を取り囲む環状部(31,51,61,71,81)と、前記環状部(31,51,61,71,81)の内周面(31B,51B,61B,71B,81B)から当該環状部(31,51,61,71,81)の径方向内側に突出する突起部(32,52,62,72,82)と、を有する。前記突起部(32,52,62,72,82)は、挿入された前記配管(2)の外周面(2A)への圧接により前記配管(2)に対して仮止め可能な保持力を発生する。前記ストッパー(30,50,60,70,80)の軸方向の長さ(L1)は、前記溝部(12)を区画すると共に前記軸方向に対向する一対の面(15,18A)の間の前記軸方向の第1隙間(D1)よりも小さい。前記環状部(31,51,61,71,81)の一方の端縁が前記一対の面(15,18A)のうち前記配管(2)の挿入方向と反対方向側の面(15)に当接した状態で、前記環状部(31,51,61,71,81)の他方の端縁と前記一対の面(15,18A)のうち前記配管(2)の挿入方向側の面(18A)との間に第2隙間(D2)が形成されている。 また上記管継手(1)において、前記ストッパー(30,50,60,70,80)は、前記フェルール(41,42)よりも前記配管(2)の挿入方向の奥側に配置されていてもよい。 【0008】 上記管継手(1)では、継手本体(10)に挿入された配管(2)を、ストッパー(30,50,60,70,80)に形成された突起部(32,52,62,72,82)によって仮止め可能な程度の保持力により保持することができる。これにより、ナット(20)を締め付けて配管(2)を固定する前の状態において、継手本体(10)に挿入された配管(2)が所定の挿入位置から位置ズレすることを防止することができる。つまり、食い込み式の管継手(1)において、配管(2)をフェルール(41,42)により完全に固定する前の仮止め部材として、ストッパー(30,50,60,70,80)を有効に利用することができる。 【0009】 ここで、「仮止め可能な保持力」とは、継手本体(10)に挿入された配管(2)の軸方向における移動を規制する一方で、配管(2)を継手本体(10)に対して挿抜可能な程度に保持する力を意味する。つまり、「仮止め可能な保持力」とは、継手本体(10)に挿入された配管(2)が引き抜かれないように完全に固定する力とは異なる。 【0010】 上記管継手(1)において、前記突起部(32,52,62,72,82)は、前記配管(2)の挿入方向に沿って突出していてもよい。 【0011】 上記構成によれば、配管(2)の挿入が突起部(32,52,62,72,82)により妨害されず、比較的小さな挿入力によって配管(2)を挿入穴(11)に挿入することができる。なお、「突起部(32,52,62,72,82)が配管(2)の挿入方向に沿って突出する」とは、突起部(32,52,62,72,82)の突出方向と、配管(2)の挿入方向とが鋭角を成す状態を含む。 【0012】 上記管継手(1)において、前記突起部(32,52,62,72,82)は、挿入された前記配管(2)との接触により弾性変形し、前記弾性変形による復元力(F)により前記配管(2)に対する保持力を発生させてもよい。つまり、前記突起部(32,52,62,72,82)には、挿入された前記配管(2)との接触により、弾性変形領域における下限値以上でありかつ上限値以下の力が加えられてもよい。 【0013】 上記構成によれば、継手本体(10)に挿入された配管(2)を突起部(32,52,62,72,82)の弾性変形による復元力(F)により仮止めすることができるため、配管(2)のズレ防止の効果をより向上させることができる。 【0014】(削除) 【0015】(削除) 【0016】 上記管継手(1)において、前記突起部(32)は、前記環状部(31)の内周面(31B)と連なる連接部(33)と、前記連接部(33)から延出され、かつ挿入された前記配管(2)の外周面(2A)と接触する当接部(34)と、を含んでいてもよい。前記突起部(32)は、前記連接部(33)から前記当接部(34)の延出端に向かって幅(W1)が狭くなる形状を有していてもよい。 【0017】 上記構成によれば、突起部(32)と配管(2)との接触面積が小さくなるため配管(2)の引抜力が大きくなり、その結果配管(2)のズレ防止の効果を一層向上させることができる。 【0018】 上記管継手(1)において、前記突起部(52,62,72,82)は、前記環状部(51,61,71,81)から離れるに従い一定の幅で延びる部分を含んでいてもよい。 【0019】 上記構成によれば、突起部(52,62,72,82)の剛性をより大きくすることができる。 【0020】 上記管継手(1)において、前記突起部(72,82)は、延出端に向かって突出する複数の山部(75,77)と、前記複数の山部(75,77)の間に設けられ、前記環状部(71,81)側に向かって凹む谷部(76)と、を有していてもよい。 【0021】 上記構成によれば、複数の山部(75,77)において配管(2)の外周面(2A)と接触させることができる。これにより、配管(2)を仮止めする際に当該配管(2)をより安定的に保持することができる。 【0022】 上記管継手(1)において、前記環状部(31,51,61,71,81)は、金属板からなっていてもよい。前記突起部(32,52,62,72,82)は、前記環状部(31,51,61,71,81)の一部を切り起こすことにより形成されていてもよい。 【0023】 上記構成によれば、環状部(31,51,61,71,81)の簡単な切り起こし加工によって突起部(32,52,62,72,82)を容易に形成することができる。 【0024】 上記管継手(1)において、前記金属板は、JIS規格SUS304からなっていてもよい。 【0025】 上記のように、金属板の素材として、配管(2)との接触により容易に変形可能な鋼材を採用することができる。 【0026】 上記管継手(1)において、前記継手本体(10)への前記配管(2)の挿入力をAとし、前記継手本体(10)からの前記配管(2)の引抜力をBとしたときに、A:B=1:2?1:6の範囲に設定されていてもよい。 【0027】 挿入力(A)に対する引抜力(B)の比が2未満である場合には、引抜力が小さくなり過ぎるため、継手本体(10)に挿入された配管(2)の仮止めが不十分になる。一方、挿入力(A)に対する引抜力(B)の比が6を超える場合には、引抜力が大きくなり過ぎるため、突起部(32,52,62,72,82)による配管(2)の保持力が大きくなり過ぎて配管(2)を損傷させてしまう懸念がある。そのため、挿入力(A)に対する引抜力(B)の比は、2以上6以下の範囲に設定されることが好ましい。 【0030】 上記管継手(1)において、前記継手本体(10)は、前記挿入穴(11)に挿入された前記配管(2)の一方端を当接させるための当接壁(18)を有していてもよい。上記管継手(1)では、前記一方端が前記当接壁(18)に当接した状態の前記配管(2)を引き抜くときに、管軸方向(P)における前記配管(2)の前記一方端と前記当接壁(18)との隙間が2mm以下に維持されてもよい。 【0031】 このように、上記管継手(1)では、一方端が当接壁(18)に当接する位置まで挿入された配管(2)において、当該挿入位置から引抜方向への位置ズレを防止することができる。 【0032】 上記管継手(1)において、前記継手本体(10)は、前記挿入穴(11)に挿入された前記配管(2)の一方端を当接させるための当接壁(18)を有していてもよい。上記管継手(1)では、管軸方向(P)における前記突起部(32,52,62,72,82)の突出端と前記当接壁(18)との隙間(D3)は、2mm以下であってもよい。 【0033】 上記構成によれば、突起部(32,52,62,72,82)と当接壁(18)との間に隙間(D3)を設けることにより、一方端が当接壁(18)に当接する位置に挿入された状態において、配管(2)の外周面(2A)に突起部(32,52,62,72,82)を当接させることができる。これにより、配管(2)の位置ズレを効果的に防止することができる。また上記隙間(D3)を2mm以下に設計することにより、配管(2)の上記一方端近傍における外周面(2A)に突起部(32,52,62,72,82)を当接させることができるため、配管(2)の位置ズレをより効果的に防止することができる。 【0034】 上記管継手(1)において、前記突起部(32,52,62,72,82)は、挿入された前記配管(2)を引き抜くときに、前記配管(2)の前記外周面(2A)に食い込む形状を有していてもよい。 【0035】 上記構成によれば、突起部(32,52,62,72,82)を配管(2)の外周面(2A)に食い込ませることにより、挿入された配管(2)をより確実に仮止めすることができる。 【発明の効果】 【0036】 本発明によれば、ナットの締付前において継手本体に挿入された配管のズレを防止することが可能な管継手を提供することができる。 【図面の簡単な説明】 【0037】 【図1】本発明の実施形態に係る管継手の構造を示す断面図である。 【図2】上記管継手に備えられたストッパーの構造を示す平面図である。 【図3】図2中の線分III-IIIに沿ったストッパーの断面図である。 【図4】図3中の領域IVの拡大図である。 【図5】図2中の矢印V方向の矢視図である。 【図6】上記実施形態の変形例1に係るストッパーの構造を示す平面図である。 【図7】図6中の線分VII?VIIに沿ったストッパーの断面図である。 【図8】図7中の領域VIIIの拡大図である。 【図9】図6中の矢印IX方向の矢視図である。 【図10】上記実施形態の変形例2に係るストッパーの構造を示す平面図である。 【図11】図10中の線分XI-XIに沿ったストッパーの断面図である。 【図12】図11中の領域XIIの拡大図である。 【図13】図10中の矢印XIII方向の矢視図である。 【図14】上記実施形態の変形例3に係るストッパーの構造を示す平面図である。 【図15】図14中の線分XV-XVに沿ったストッパーの断面図である。 【図16】図15中の領域XVIの拡大図である。 【図17】図14中の矢印XVII方向の矢視図である。 【図18】上記実施形態の変形例4に係るストッパーの構造を示す平面図である。 【発明を実施するための形態】 【0038】 以下、図面に基づいて、本発明の実施形態につき詳細に説明する。 【0039】 [管継手の構造] まず、本発明の実施形態に係る管継手1の構造について、図1を参照して説明する。図1は、管継手1の管軸方向Pに沿った断面構造を示している。 【0040】 管継手1は、冷媒や水などの流体が流れる配管2の終端部同士を繋ぐためのものである。管継手1は、継手本体10と、ナット20と、フェルール40(フロントフェルール41及びバックフェルール42)と、ストッパー30と、を有する。 【0041】 配管2は、円筒形状からなり、冷媒や水などの流体が流れる内部通路を有する。配管2は、銅、アルミニウム又は鋼などの金属素材からなる。配管2の外径(φ)は、19.05mm以上38.10mm以下である。 【0042】 継手本体10は、黄銅などの金属素材からなり、略円筒形状を有する。継手本体10には、配管2の終端部が挿入される挿入穴11が管軸方向Pに沿って形成されている。挿入穴11は、継手本体10の内周面により画定されている。 【0043】 継手本体10の内周面は、第1内周面14と、段差面15と、第2内周面16と、本体傾斜面17と、を含む。第1内周面14は、管軸方向Pに略平行な面であり、挿入穴11の管軸方向Pにおける略中央部に位置している。 【0044】 第2内周面16は、管軸方向Pに略平行な面であり、第1内周面14よりも管軸方向Pの端部側に位置している。第2内周面16の内径は、配管2の外径よりも僅かに大きく、かつ第1内周面14の内径よりも小さくなっている。第2内周面16は、径方向に略平行な段差面15により第1内周面14に連設されている。つまり、段差面15は、第1及び第2内周面14,16の内径差により生じる段差部に設けられた面である。挿入穴11において第2内周面16よりも径方向内側の領域は、配管2の挿入スペースとなっている。 【0045】 本体傾斜面17は、挿入穴11の内径が端部に向かって拡大されるように管軸方向Pに対して傾斜している。本体傾斜面17は、第2内周面16に連設され、第2内周面16よりも管軸方向Pにおける端部側に位置している。 【0046】 継手本体10は、挿入穴11に挿入された配管2の一方端を当接させるための当接面18Aを含む当接壁18を有する。当接壁18は、配管2の外周面2Aが摺接する第2内周面16よりも内径が小さく、継手本体10の内周面から径方向内側へ突出し、当該内周面の周方向に沿って環状に形成されている。 【0047】 継手本体10には、第1内周面14と、段差面15と、当接面18Aとにより区画される凹状の溝部12が形成されている。溝部12は、継手本体10の内周面において径方向外側に凹み、当該内周面の周方向に沿って形成された円環状の溝である。溝部12は、ストッパー30を収容するための凹溝として機能する部分である。 【0048】 継手本体10は、その外周面にナット20との締結時にスパナやレンチなどの工具により掴まれる本体掴み部19を管軸方向Pの中央部に有する。本体掴み部19は、継手本体10の管軸方向Pの両端部よりも径方向外側に突出するように形成され、管軸方向Pから見たときの形状が六角形状である。 【0049】 継手本体10は、ナット20と螺合する部分である本体ネジ部10Aを有する。本体ネジ部10Aは、継手本体10の外周面において管軸方向Pの両端部に形成されている。つまり、継手本体10は、外周面において本体ネジ部10Aが形成された雄ネジとして機能する部材である。 【0050】 ナット20は、黄銅などの金属素材からなる環状部材であり、配管2が挿入される挿入穴を有する。ナット20は、内周面においてナットネジ部20Aを有する。当該ナットネジ部20Aと本体ネジ部10Aとが螺合する態様で、ナット20は継手本体10に外嵌されている。つまり、ナット20は、内周面においてナットネジ部20Aが形成された雌ネジとして機能する部材である。ナット20は、継手本体10との締結時に工具により掴んで回転させるため、管軸方向Pから見たときの形状が六角形状である。 【0051】 ナット20は、管軸方向Pの外側に向けて内径が徐々に縮径するテーパ面であるナット傾斜面21と、当該ナット傾斜面21に連設され、かつ管軸方向Pに略平行なナット内周面22と、を有する。ナット内周面22の内径は、配管2の外径と略同じである。ナット20の挿入穴は、ナット内周面22により画定されている。 【0052】 フロントフェルール41は、黄銅などの金属素材からなり、継手本体10に挿入された配管2の外周面2Aを取り囲む円環形状を有する。フロントフェルール41は、管軸方向Pにおいて継手本体10とナット20との間に配置されている。フロントフェルール41は、第1先端部41A及び第1後端部41Bを有し、第1後端部41Bから第1先端部41Aに向かって外径が徐々に小さくなる形状を有する。フロントフェルール41は、配管2の外周面2Aと摺接する内周面41Cを有する。フロントフェルール41は、第1先端部41Aを配管2の外周面2Aに食い込ませることにより当該配管2を継手本体10に固定する。 【0053】 バックフェルール42は、黄銅などの金属素材からなり、継手本体10に挿入された配管2の外周面2Aを取り囲む円環形状を有する。バックフェルール42は、フロントフェルール41と略同じ内径の内周面42Cを有し、かつ軸方向の長さがフロントフェルール41よりも短くなっている。バックフェルール42は、管軸方向Pにおいて継手本体10とナット20との間に配置され、かつ管軸方向Pにおいてフロントフェルール41と隣接している。バックフェルール42は、第2先端部42A及び第2後端部42Bを有し、第2後端部42Bから第2先端部42Aに向かって外径が徐々に小さくなる形状を有する。バックフェルール42は、ナット20の締結前の状態において、第2先端部42Aがフロントフェルール41の第1後端部41Bに当接し、かつ第2後端部42Bがナット傾斜面21に当接するように配置されている。バックフェルール42は、第2先端部42Aを配管2の外周面2Aに食い込ませることにより、フロントフェルール41と同様に配管2を継手本体10に固定する。 【0054】 ストッパー30は、継手本体10に挿入された配管2のズレを防止するために、挿入穴11において配管2を仮止めするものである。配管2は、一旦その終端面が当接面18Aに届くまで継手本体10に挿入されても(所定の挿入位置)、配管2が当該挿入位置から抜け出すように移動する場合がある。配管2のズレとは、このように継手本体10に挿入された配管2が所定の挿入位置から抜け出してしまうときに生じる位置ズレであり、ストッパー30によってこれを防止することができる。 【0055】 ストッパー30は、挿入穴11において溝部12に収容されている。ストッパー30は、挿入された配管2の外周面2Aを取り囲む環状部31と、環状部31の内周面31Bから当該環状部31の径方向内側に突出する突起部32と、を有する。 【0056】 ストッパー30の軸方向の長さL1は、段差面15と当接面18Aとの間の第1隙間D1よりも小さくなっている。ストッパー30は、環状部31の一方の端縁が段差面15に当接した状態で溝部12に収容されている。このため、環状部31の他方の端縁と当接面18Aとの間には第2隙間D2が形成され、また突起部32の突出端と当接面18Aとの間には第3隙間D3が形成されている。管軸方向Pにおける第3隙間D3の大きさは、2mm以下となっている。 【0057】 環状部31は、JIS規格SUS304などのステンレスの金属板からなり、その外周面が第1内周面14に接触している。突起部32は、弾性変形又は塑性変形する部分であり、配管2の挿入方向に沿うように、環状部31の内周面31Bに対して所定の角度で斜め方向に突出している。突起部32は、その先端部が第2内周面16よりも径方向内側に突出し、配管2の挿入スペースにまで至っている。つまり、突起部32は、挿入穴11に挿入された配管2と接触するように径方向内側に向かって突出している。 【0058】 突起部32は、その内周面側に挿入穴11に挿入された配管2と接触する接触面32Aを有する。突起部32は、接触面32Aが環状部31の内周面31Bに対して鈍角θを成すように当該環状部31から切り起こされている。ストッパー30は、挿入穴11に挿入された配管2が接触面32Aに接触するように(つまり、接触面32Aを継手本体10の開口部側に向けた状態で)溝部12内に収容されている。 【0059】 [ストッパーによる配管の仮止め] 次に、上記ストッパー30による配管2の仮止め機構について説明する。 【0060】 まず、挿入穴11に配管2(図1中左側の配管2)が挿入されると、配管2の終端面がストッパー30の突起部32(接触面32A)に接触する。突起部32は、上記の通り弾性変形又は塑性変形可能な部分であるため、配管2との上記接触により径方向外側に弾性変形又は塑性変形する。突起部32は、配管2の挿入方向に沿って突出しているため、比較的小さな挿入力によって配管2を挿入穴11に挿入することができる。 【0061】 一方、突起部32は、上記弾性変形又は塑性変形により径方向内側に向かって復元力Fを発生させ、この復元力Fにより配管2の外周面2Aを径方向内側に圧接する。これにより、配管2に対する保持力が発生し、配管2の引抜力が大きくなることで、当接面18Aに終端面が当接した状態で配管2が挿入穴11内において仮止めされる。このように、弾性変形又は塑性変形可能な突起部32を有するストッパー30を板バネとして利用することによって配管2を仮止めし、配管2の管軸方向Pにおける移動を規制することにより、当該配管2の位置ズレを防止することができる。なお、他方の配管2(図1の右側)についても同様である。 【0062】 上記ストッパー30を設けることにより、継手本体10からの配管2の引抜力は、継手本体10への配管2の挿入力よりも大きくなっている。具体的には、継手本体10への配管2の挿入力をAとし、継手本体10からの配管2の引抜力をBとしたときに、A:B=1:2?1:6、の関係が成立している。即ち、配管2の引抜力は、配管2の挿入力の2倍以上6倍以下となっており、好ましくは3倍以上5倍以下となっている。配管2の挿入力は1.0kgf以上5.0kgf以下であり、配管2の引抜力は3kgf以上10kgf以下である。また配管2の引抜力は、配管2に加わる重力よりも大きくなっている。そのため、配管2が挿入された継手本体10をその開口端が重力方向下側に向くように配置した場合でも、配管2が抜け出ることを防止することができる。 【0063】 また上記ストッパー30を設けることにより、上記管継手1では、一方端が当接壁18に当接した状態の配管2を引き抜くときに、管軸方向Pにおける配管2の一方端と当接壁18(当接面18A)との隙間が2mm以下に維持される。つまり、配管2の引抜方向への位置ズレを2mm以下に抑えることができる。また挿入された配管2を引き抜くときに、突起部32の突出端が配管2の外周面2Aに食い込んでもよい。つまり、当該突出端が食い込み部として構成されていてもよい。これにより、配管11の位置ズレをより確実に防止することができる。 【0064】 [ストッパーの構造] 次に、上記ストッパー30のより詳細な構造について、図2?図5を参照して説明する。図2は、ストッパー30の平面構造を示している。図3は、図2中の線分III-IIIに沿ったストッパー30の断面構造を示している。図4は、図3中の領域IVにおけるストッパー30の拡大図である。図5は、図2中の矢印V方向の矢視図である。 【0065】 環状部31は、切欠部31Aを有し、継手本体10の第1内周面14に沿った形状を有する。環状部31は、ステンレスからなる薄い金属板を図2に示すようなC字状に曲げることにより形成される。この形状により、環状部31を径方向内側に圧縮して容易に縮径させることが可能となり、ストッパー30を図1に示すように、挿入穴11の端部開口を通して溝部12内に容易に装着することができる。 【0066】 突起部32は、環状部31の内周面31Bにおいて複数(2つ)形成されている。突起部32は、内周面31Bに沿った周方向において等間隔に(180°の間隔で)形成されている(図2)。つまり、突起部32は、内周面31Bの周方向において互いに最も離れた位置に形成されている。 【0067】 突起部32は、環状部31の内周面31Bと連なる連接部33と、連接部33から延出された当接部34と、を有する(図4,5)。連接部33は、環状部31との接続部分であり、挿入穴11に挿入された配管2(図1)との接触により弾性変形する部分である。連接部33は、環状部31から曲げ起こされた直線状の折曲げ部分と、当該折曲げ部分に連設された根元部分と、からなる。 【0068】 当接部34は、挿入穴11に挿入された配管2(図1)の外周面2Aと接触し、当該外周面2Aへの圧接により配管2に対する保持力を発生させる部分である。当接部34は、配管2の外周面2Aとの接触による損傷の発生を防ぐため、円弧状の第1曲線部34Aを有している。 【0069】 突起部32は、連接部33から当接部34の延出端に向かって幅W1が徐々に狭くなる形状を有する。つまり、当接部34の幅は連接部33の幅よりも小さく、突起部32は環状部31との接続部から離れるに従い幅W1が徐々に狭くなるような略三角形状を有している。第1曲線部34Aは、この三角形状の頂点部分(環状部31から最も離れた部分)が鋭利にならないように円弧状に面取りされた部分である。 【0070】 突起部32は、環状部31を構成する金属板の一部を切り起こすことにより形成されている。具体的には、突起部32は、環状部31の一部を内壁側から外壁側に向けて三角形状に打ち抜き、その打抜部分を打抜方向と逆方向に折り曲げることにより形成されている。これにより、接触面32Aが環状部31の内周面31Bに対して鈍角θを成すように、突起部32を環状部31に対して斜め起立させることができる(図4)。また外壁側に向けて打ち抜いた後に内壁側に折り曲げることで、内壁側においてバリの発生を防ぐことができる。 【0071】 [作用効果] 上記管継手1の特徴的な構成及びその作用効果について説明する。 【0072】 上記管継手1は、配管2が挿入される挿入穴11が形成された継手本体10と、挿入穴11内に配置されたストッパー30と、を備える。ストッパー30は、挿入された配管2の外周面2Aを取り囲む環状部31と、環状部31の内周面31Bから当該環状部31の径方向内側に突出する突起部32と、を有する。突起部32は、挿入された配管2の外周面2Aへの圧接により配管2に対して仮止め可能な保持力を発生する。 【0073】 上記管継手1では、継手本体10に挿入された配管2を、ストッパー30に形成された突起部32によって仮止め可能な程度の保持力により保持することができる。これにより、ナット20を締め付けて配管2を完全に継手本体10に固定する前の状態において、継手本体10に挿入された配管2の所定の挿入位置からの位置ズレを防止することができる。そのため、配管2にマーキングを施してズレを確認することや、配管2のズレを防止するために専用工具を用いることも不要となる。またストッパー30は継手本体10の溝部12に配置するだけで容易に装着することができるため、組立も簡単である。 【0074】 上記管継手1において、突起部32は、配管2の挿入方向に沿って突出している。これにより、配管2の挿入が突起部32より妨害されず、比較的小さな挿入力によって配管2を挿入穴11に挿入することができる。 【0075】 上記管継手1において、突起部32は、挿入された配管2との接触により径方向外側へ弾性変形し、当該弾性変形による復元力Fにより配管2に対する保持力を発生する。これにより、継手本体10に挿入された配管2を突起部32の弾性変形による復元力Fにより仮止めすることができる。その結果、配管2のズレ防止の効果をより向上させることができる。 【0076】 上記管継手1において、突起部32は、挿入された前記配管2との接触により塑性変形し、当該塑性変形による復元力Fにより配管2に対する保持力を発生させてもよい。このように、突起部32が塑性変形する場合でも、配管2の外周面2Aへの圧接により仮止め可能な保持力を発生させることができる。 【0077】 上記管継手1において、突起部32は、環状部31の内周面31Bと連なる連接部33と、連接部33から延出された当接部34と、を含む。突起部32は、連接部33から当接部34の延出端に向かって幅W1が狭くなる形状を有する。これにより、突起部32の幅W1が一定である場合に比べて配管2との接触面積がより小さくなる。その結果、配管2の引抜力が大きくなり、配管2のズレ防止の効果を一層向上させることができる。 【0078】 上記管継手1において、突起部32は、環状部31の一部を切り起こすことにより形成されている。即ち、突起部32は、環状部31の簡単な切り起こし加工によって容易に形成することができる。 【0079】 上記管継手1において、環状部31を構成する金属板は、JIS規格SUS304からなっている。このように、配管2との接触により容易に変形可能な鋼材を当該金属板の素材として採用することができる。 【0080】 上記管継手1では、継手本体10への配管2の挿入力をAとし、継手本体10からの配管2の引抜力をBとしたときに、A:B=1:2?1:6の範囲に設定されている。 【0081】 挿入力(A)に対する引抜力(B)の比が2未満である場合には、引抜力が小さくなり過ぎるため、継手本体10に挿入された配管2の仮止めが不十分になる。一方、挿入力(A)に対する引抜力(B)の比が6を超える場合には、引抜力が大きくなり過ぎるため、突起部32による配管2の保持力が大きくなり過ぎて配管2を損傷させてしまう懸念がある。このような観点から、挿入力(A)に対する引抜力(B)の比は、2以上6以下の範囲に設定されることが好ましい。 【0082】 上記管継手1は、配管2の周囲を囲む環形状を有するフロントフェルール41及びバックフェルール42を備え、これらの先端部41A,42Aを配管2の外周面2Aに食い込ませることにより、配管2を継手本体10に固定する食い込み式の管継手である。すなわち、食い込み式の管継手1において、配管2をフェルール41,42により完全に固定する前に、ストッパー30を仮止め部材として有効に利用することができる。 【0083】 上記管継手1において、継手本体10は、挿入穴11に挿入された配管2の一方端を当接させるための当接壁18を有している。また上記管継手1は、一方端が当接壁18に当接した状態の配管2を引き抜くときに、管軸方向Pにおける配管2の上記一方端と当接壁18との隙間が2mm以下に維持されるように構成されている。このように、上記管継手1では、一方端が当接壁18に当接する位置まで挿入された配管2において、当該挿入位置から引抜方向への位置ズレを有効に防止することができる。 【0084】 上記管継手1において、管軸方向Pにおける突起部32の突出端と当接壁18との隙間D3は、2mm以下に設計されている。 【0085】 このように、突起部32と当接壁18との間に隙間D3を設けることにより、一方端が当接壁18に当接する位置に挿入された状態において、配管2の外周面2Aに突起部32を当接させることができる。これにより、配管2の位置ズレを効果的に防止することができる。また上記隙間D3を2mm以下に設計することにより、配管2の上記一方端近傍における外周面2Aに突起部32を当接させることができるため、配管2の位置ズレをより効果的に防止することができる。 【0086】 上記管継手1において、突起部32は、挿入された配管2を引き抜くときに、配管2の外周面2Aに食い込む形状を有している。これにより、配管2の仮止め力がより向上し、配管2の位置ズレをさらに確実に防止することができる。 【0087】 [変形例1] 次に、上記実施形態の変形例1に係るストッパー50の構造について、図6?図9を参照して説明する。図6は、ストッパー50の平面構造を示している。図7は、図6中の線分VII-VIIに沿ったストッパー50の断面構造を示している。図8は、図7中の領域VIIIにおけるストッパー50の拡大図である。図9は、図6中の矢印IX方向の矢視図である。 【0088】 変形例1に係るストッパー50は、基本的に上記実施形態に係るストッパー30と同様の構成を有しかつ同様の作用効果を有する。しかし、変形例1に係るストッパー50は、突起部52が三角形状ではなく、長方形状に切り起こされ、かつその先端部が三角形状である点で上記実施形態に係るストッパー30と異なっている。 【0089】 ストッパー50は、上記実施形態と同様に、切欠部51Aを有し、挿入穴11に挿入された配管2(図1)の外周面2Aを取り囲む環状部51と、環状部51の内周面51Bから径方向内側に突出する突起部52と、を有する(図6,図7)。以下、上記実施形態と異なる突起部52の構成について詳細に説明する。 【0090】 突起部52は、環状部51の内周面51Bと連なる連接部53と、連接部53から延出された当接部54と、を有する(図8,9)。連接部53は、環状部51との接続部分であり、環状部51から曲げ起こされた主に弾性変形する折曲げ部分と、当該折曲げ部分に連設され、かつ長方形状を有する根元部分と、からなる。当接部54は、挿入穴11に挿入された配管2(図1)の外周面2Aと接触して当該配管2を保持する部分であり、上記根元部分に連設された三角形状を有する。 【0091】 突起部52は、連接部53から当接部54の延出端に向かって幅W2が狭くなる形状を有する。具体的には、突起部52は、連接部53において幅W2を略一定に保持したまま環状部51から離れる方向に延びた後、当接部54において幅W2が徐々に狭くなるように延出端に向かって延びている。 【0092】 上記変形例1のストッパー50では、突起部52が長方形状の連接部53を有し、当該連接部53は環状部51から離れるに従い一定の幅で延びるため、上記実施形態のストッパー30(図5)と比べて突起部52の剛性をより大きくすることができる。 【0093】 [変形例2] 次に、上記実施形態の変形例2に係るストッパー60の構造について、図10?図13を参照して説明する。図10は、ストッパー60の平面構造を示している。図11は、図10中の線分XI-XIに沿ったストッパー60の断面構造を示している。図12は、図11中の領域XIIにおけるストッパー60の拡大図である。図13は、図10中の矢印XIII方向の矢視図である。 【0094】 変形例2に係るストッパー60は、基本的に上記実施形態に係るストッパー30と同様の構成を有しかつ同様の効果を有する。しかし、変形例2に係るストッパー60は、突起部62が略正方形状に切り起こされている点で上記実施形態に係るストッパー30と異なっている。 【0095】 ストッパー60は、上記実施形態と同様に、切欠部61Aを有し、挿入穴11に挿入された配管2(図1)の外周面2Aを取り囲む環状部61と、環状部61の内周面61Bから径方向内側に突出する突起部62と、を有する。以下、上記実施形態と異なる突起部62の構成について詳細に説明する。 【0096】 突起部62は、環状部61の内周面61Bと連なる連接部63と、連接部63から延出された当接部64と、を有する(図12,13)。連接部63は、環状部61との接続部分であり、環状部61から曲げ起こされた主に弾性変形する折曲げ部分と、当該折曲げ部分に連設され、かつ略正方形状を有する根元部分と、からなる。連接部63は、環状部61から離れるに従い一定の幅で延びる。当接部64は、挿入穴11に挿入された配管2(図1)の外周面2Aと接触して当該配管2を保持する部分であり、上記根元部分に連設されている。 【0097】 当接部64は、管軸方向Pに直交する方向に延びる直線部64aと、直線部64aの両側の角部をR形状に面取りした第2及び第3曲線部64b,64cと、を有する。突起部62は、第2及び第3曲線部64b,64cのR形状に相当する分だけ延出端の幅W3が狭くなっている。当接部64は、主に直線部64aにおいて配管2(図1)の外周面2Aに当接することにより、保持力を発生させる。 【0098】 上記変形例2のストッパー60では、突起部62が連接部63を有し、当該連接部63が環状部61から離れるに従い一定の幅で延びるため、上記変形例1と同様に剛性が大きくなっている。また、当接部64の延出端に設けられた直線部64aにおいて配管2(図1)の外周面2Aと接触させることができるため、上記実施形態1の場合に比べて配管2の外周面2Aにおける損傷の発生をより効果的に防ぐことができる。 【0099】 [変形例3] 次に、上記実施形態の変形例3に係るストッパー70の構造について、図14?図17を参照して説明する。図14は、ストッパー70の平面構造を示している。図15は、図14中の線分XV-XVに沿ったストッパー70の断面構造を示している。図16は、図15中の領域XVIにおけるストッパー70の拡大図である。図17は、図14中の矢印XVII方向の矢視図である。 【0100】 変形例3に係るストッパー70は、基本的に上記実施形態に係るストッパー30と同様の構成を有しかつ同様の効果を有する。しかし、変形例3に係るストッパー70は、突起部72の先端部に二つの山部が設けられている点で上記実施形態に係るストッパー30と異なっている。 【0101】 ストッパー70は、上記実施形態と同様に、切欠部71Aを有し、挿入穴11に挿入された配管2(図1)の外周面2Aを取り囲む環状部71と、環状部71の内周面71Bから径方向内側に突出する突起部72と、を有する。以下、上記実施形態と異なる突起部72の構成について詳細に説明する。 【0102】 突起部72は、環状部71の内周面71Bと連なる連接部73と、連接部73から延出された当接部74と、を有する(図16,17)。連接部73は、環状部71との接続部分であり、環状部71から曲げ起こされた主に弾性変形する折曲げ部分と、当該折曲げ部分に連設され、かつ略正方形状を有する根元部分と、からなる。連接部73は、環状部71から離れるに従い一定の幅で延びる。 【0103】 当接部74は、挿入穴11に挿入された配管2(図1)の外周面2Aと接触して当該配管2を保持する部分である。当接部74は、延出端側に向かって突出する複数(2つ)の山部75,77と、環状部71側に向かって凹む谷部76とを有し、谷部76の両側に山部75,77がそれぞれ位置するような形状を有する。つまり、2つの山部75,77の間に谷部76が設けられている。山部75,77は、谷部76を挟んで対称な形状を有している。山部75,77は配管2(図1)の外周面2Aに当接する部分であり、図17に示すように曲線部を有している。 【0104】 上記変形例3のストッパー70では、突起部72が連接部73を有し、当該連接部73が環状部71から離れるに従い一定の幅で延びるため、上記変形例1,2と同様に剛性が大きくなっている。また、当接部74の延出端に設けられた山部75,77において配管2(図1)の外周面2Aと接触することにより、上記実施形態1の場合と同様に配管2を仮止めすることができる。このとき、配管2を二つの位置で保持することができるため、より安定的に配管2を保持することができる。 【0105】 [変形例4] 次に、上記実施形態の変形例4に係るストッパー80の構造について、図18を参照して説明する。図18は、ストッパー80の平面構造を示している。 【0106】 変形例4に係るストッパー80は、基本的に上記変形例3に係るストッパー70と同様の構成を有しかつ同様の効果を有する。しかし、変形例4に係るストッパー80は、突起部82の数において上記変形例3に係るストッパー70と異なっている。 【0107】 突起部82は、環状部81の内周面81Bにおいて3つ形成されている。突起部82は、内周面81Bの周方向に沿って等間隔に(120°の間隔で)形成されている。そのため、変形例4では、突起部72が2つ設けられた上記変形例3に比べて、配管2に対する保持力をより高めることができる。 【0108】 なお、上記変形例3,4のように突起部72,82を2つ又は3つ設ける場合に限定されず、1?4つの突起部が設けられてもよい。 【0109】 [その他変形例] 上記実施形態及びその変形例1?4において、ストッパーは、突起部の弾性変形及び塑性変形に基づく復元力によって配管2の外周面2Aを圧接して保持力を発生するものに限定されず、他の手段によって当該保持力を発生させるものでもよい。 【0110】 上記実施形態及びその変形例1?4において、突起部は、環状部から切り起こされたものに限定されず、当該環状部の内周面に取り付けられたものでもよい。 【0111】 今回開示された実施形態及びその変形例は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。 【符号の説明】 【0112】 1 管継手、2 配管、2A 外周面、10 継手本体、11 挿入穴、30,50,60,70,80 ストッパー、31,51,61,71,81 環状部、31B,51B,61B,71B,81B 内周面、32,52,62,72,82 突起部、33,53,63,73 連接部、34,54,64,74 当接部、F 復元力、W1 幅 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 配管(2)が挿入される挿入穴(11)が形成され、前記挿入穴(11)を画定すると共に径方向外側に凹む溝部(12)が形成された内周面を有する継手本体(10)と、 前記挿入穴(11)内に配置されると共に前記溝部(12)に収容されたストッパー(30,50,60,70,80)と、 前記配管(2)の周囲を囲む環形状を有し、先端部(41A,42A)を前記配管(2)の外周面(2A)に食い込ませることにより前記配管(2)を固定するフェルール(41,42)と、を備え、 前記ストッパー(30,50,60,70,80)は、 挿入された前記配管(2)の前記外周面(2A)を取り囲む環状部(31,51,61,71,81)と、 前記環状部(31,51,61,71,81)の内周面(31B,51B,61B,71B,81B)から当該環状部(31,51,61,71,81)の径方向内側に突出する突起部(32,52,62,72,82)と、を有し、 前記突起部(32,52,62,72,82)は、挿入された前記配管(2)の外周面(2A)への圧接により前記配管(2)に対して仮止め可能な保持力を発生し、 前記ストッパー(30,50,60,70,80)の軸方向の長さ(L1)は、前記溝部(12)を区画すると共に前記軸方向に対向する一対の面(15,18A)の間の前記軸方向の第1隙間(D1)よりも小さく、 前記環状部(31,51,61,71,81)の一方の端縁が前記一対の面(15,18A)のうち前記配管(2)の挿入方向と反対方向側の面(15)に当接した状態で、前記環状部(31,51,61,71,81)の他方の端縁と前記一対の面(15,18A)のうち前記配管(2)の挿入方向側の面(18A)との間に第2隙間(D2)が形成されている、管継手(1)。 【請求項2】 前記ストッパー(30,50,60,70,80)は、前記フェルール(41,42)よりも前記配管(2)の挿入方向の奥側に配置されている、請求項1に記載の管継手(1)。 【請求項3】 前記突起部(32,52,62,72,82)は、前記配管(2)の挿入方向に沿って突出している、請求項1又は2に記載の管継手(1)。 【請求項4】 前記突起部(32,52,62,72,82)は、挿入された前記配管(2)との接触により弾性変形し、前記弾性変形による復元力(F)により前記配管(2)に対する保持力を発生する、請求項1?3の何れか1項に記載の管継手(1)。 【請求項5】 (削除) 【請求項6】 前記突起部(32)は、 前記環状部(31)の内周面(31B)と連なる連接部(33)と、前記連接部(33)から延出され、かつ挿入された前記配管(2)の外周面(2A)と接触する当接部(34)と、を含み、 前記連接部(33)から前記当接部(34)の延出端に向かって幅(W1)が狭くなる形状を有する、請求項1?4の何れか1項に記載の管継手(1)。 【請求項7】 前記突起部(52,62,72,82)は、前記環状部(51,61,71,81)から離れるに従い一定の幅で延びる部分を含む、請求項1?4の何れか1項に記載の管継手(1)。 【請求項8】 前記突起部(72,82)は、延出端に向かって突出する複数の山部(75,77)と、前記複数の山部(75,77)の間に設けられ、前記環状部(71,81)側に向かって凹む谷部(76)と、を有する、請求項1?4の何れか1項に記載の管継手(1)。 【請求項9】 前記環状部(31,51,61,71,81)は、金属板からなり、 前記突起部(32,52,62,72,82)は、前記環状部(31,51,61,71,81)の一部を切り起こすことにより形成されている、請求項1?4、6?8の何れか1項に記載の管継手(1)。 【請求項10】 前記金属板は、JIS規格SUS304からなる、請求項9に記載の管継手(1)。 【請求項11】 前記継手本体(10)への前記配管(2)の挿入力をAとし、前記継手本体(10)からの前記配管(2)の引抜力をBとしたときに、A:B=1:2?1:6の範囲に設定されている、請求項1?4、6?10の何れか1項に記載の管継手(1)。 【請求項12】 前記継手本体(10)は、前記挿入穴(11)に挿入された前記配管(2)の一方端を当接させるための当接壁(18)を有し、 前記一方端が前記当接壁(18)に当接した状態の前記配管(2)を引き抜くときに、管軸方向(P)における前記配管(2)の前記一方端と前記当接壁(18)との隙間が2mm以下に維持される、請求項1?4、6?11の何れか1項に記載の管継手(1)。 【請求項13】 前記継手本体(10)は、前記挿入穴(11)に挿入された前記配管(2)の一方端を当接させるための当接壁(18)を有し、 管軸方向(P)における前記突起部(32,52,62,72,82)の突出端と前記当接壁(18)との隙間(D3)は、2mm以下である、請求項1?4、6?12の何れか1項に記載の管継手(1)。 【請求項14】 前記突起部(32,52,62,72,82)は、挿入された前記配管(2)を引き抜くときに、前記配管(2)の前記外周面(2A)に食い込む形状を有する、請求項1?4、6?13の何れか1項に記載の管継手(1)。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-12-06 |
出願番号 | 特願2015-160789(P2015-160789) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(F16L)
P 1 651・ 113- YAA (F16L) P 1 651・ 536- YAA (F16L) P 1 651・ 121- YAA (F16L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 柳本 幸雄 |
特許庁審判長 |
和田 雄二 |
特許庁審判官 |
一ノ瀬 覚 島田 信一 |
登録日 | 2016-12-16 |
登録番号 | 特許第6059777号(P6059777) |
権利者 | ダイキン工業株式会社 オーケー器材株式会社 |
発明の名称 | 管継手 |
代理人 | 小谷 悦司 |
代理人 | 小谷 悦司 |
代理人 | 平田 晴洋 |
代理人 | 小谷 悦司 |
代理人 | 平田 晴洋 |
代理人 | 小谷 昌崇 |
代理人 | 平田 晴洋 |
代理人 | 小谷 昌崇 |
代理人 | 小谷 昌崇 |