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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B32B
管理番号 1348718
異議申立番号 異議2017-700966  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-10-11 
確定日 2018-12-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6111559号発明「遮熱化粧シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6111559号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。 特許第6111559号の請求項1?3に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6111559号(以下「本件特許」という。)の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成24年8月28日の出願であって、平成29年3月24日にその特許権の設定登録がされ(特許掲載公報 平成29年4月12日発行)、その後、特許異議の申立て期間内である同年10月11日に特許異議申立人成田隆臣(以下「申立人」という。)により請求項1?3に係る特許について特許異議の申立てがされ、同年11月22日付けで取消理由が通知され、平成30年1月24日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、同年3月22日に申立人から意見書が提出されたものである。その後、当審において平成30年6月13日付けで取消理由(決定の予告)を通知したが、その指定された期間内に、特許権者からは応答がなかった。

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求は、「特許第6111559号の明細書及び特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?3について訂正する」ことを求めるものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、訂正箇所を下線を付して示すと、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「前記絵柄模様層は、印刷絵柄模様を構成する印刷インキの黒色顔料が可視部で吸収、赤外部で反射を有する粒子径が0.1?0.3μmのアゾメチンアゾ系顔料である」とあるのを、
「前記絵柄模様層は、印刷絵柄模様を構成する印刷インキの黒色顔料が、大日精化工業(株)製「クロモファインブラックA-1103」から成る、可視部で吸収、赤外部で反射を有する粒子径が0.1?0.3μmのアゾメチンアゾ系顔料である」に訂正する。(請求項1を引用する請求項2及び3についても同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
明細書の段落【0006】に
「本発明はこの課題を解決したものであり、すなわちその請求項1記載の発明は、 着色フィルムの上に絵柄模様層とオーバーレイフィルムとを少なくともこの順に積層してなり、前記着色フィルムは、イソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、酸化チタンから選択される赤外線反射する顔料を含み、前記絵柄模様層は、印刷絵柄模様を構成する印刷インキの黒色顔料が可視部で吸収、赤外部で反射を有する粒子径が0.1?0.3μmのアゾメチンアゾ系顔料であることを特徴とする遮熱化粧シートである。」とあるのを、
「本発明はこの課題を解決したものであり、すなわちその請求項1記載の発明は、 着色フィルムの上に絵柄模様層とオーバーレイフィルムとを少なくともこの順に積層してなり、前記着色フィルムは、イソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、酸化チタンから選択される赤外線反射する顔料を含み、前記絵柄模様層は、印刷絵柄模様を構成する印刷インキの黒色顔料が、大日精化工業(株)製「クロモファインブラックA-1103」から成る、可視部で吸収、赤外部で反射を有する粒子径が0.1?0.3μmのアゾメチンアゾ系顔料である可視部で吸収、赤外部で反射を有する粒子径が0.1?0.3μmのアゾメチンアゾ系顔料であることを特徴とする遮熱化粧シートである。」に訂正する。

(3)訂正事項3
明細書の【実施例1】の段落【0018】?【0027】を削除する。

2.訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1の印刷絵柄模様を構成する印刷インキの黒色顔料について、「大日精化工業(株)製「クロモファインブラックA-1103」から成る」ものであると限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
また、訂正事項1は、本件訂正前の明細書の段落【0019】の「前記着色フィルム1の表面に、ウレタン樹脂と塩化ビニル=酢酸ビニル共重合樹脂を7:3の割合で混合したもの100重量部に、ヘキサメチレンジイソシアネートとイソホロンジイソシアネートを2:8の混合からなる硬化剤を3重量部添加して、顔料としてトーヨーカラー株式会社のイソインドリノン、ポリアゾ、フタロシアニンブルーを添加してインキとし、木目柄を印刷した。さらにウレタン樹脂と塩化ビニル=酢酸ビニル共重合樹脂を7:3の割合で混合したもの100重量部に、ヘキサメチレンジイソシアネートとイソホロンジイソシアネートを2:8の混合からなる硬化剤を3重量部添加し、黒色顔料として平均粒経0.2μmのアゾメチンアゾ系顔料(大日精化工業(株)製「クロモファインブラックA-1103」)を添加してインキとし、導管模様を印刷して、絵柄模様層2を設けた。」という記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
また、訂正事項2は、本件訂正前の明細書の段落【0019】の記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、実施例1に関する段落【0018】?【0027】の記載があることによって、請求項1?3に係る発明が不明瞭になっているのを削除によって明瞭とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(4)一群の請求項及び明細書の訂正に係る請求項について
訂正前の請求項2、3は、訂正前の請求項1を引用するものであるから、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対して請求されたものである。
また、訂正事項2、3に係る明細書の訂正は、請求項1?3について行われたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。

3.小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第4項、第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1.本件特許発明
上記のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1?3に係る発明(以下「本件発明1?3」という。また、本件発明1?3をまとめて「本件発明」ということもある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
着色フィルムの上に絵柄模様層とオーバーレイフィルムとを少なくともこの順に積層してなり、前記着色フィルムは、イソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、酸化チタンから選択される赤外線反射する顔料を含み、前記絵柄模様層は、印刷絵柄模様を構成する印刷インキの黒色顔料が、大日精化工業(株)製「クロモファインブラックA-1103」から成る、可視部で吸収、赤外部で反射を有する粒子径が0.1?0.3μmのアゾメチンアゾ系顔料であることを特徴とする遮熱化粧シート。
【請求項2】
前記絵柄模様層は、印刷絵柄模様を構成する印刷インキがイソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、酸化チタンから選択される赤外線反射する顔料を含むことを特徴とする請求項1記載の遮熱化粧シート。
【請求項3】
前記オーバーレイフィルムが、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤を添加したホモまたはランダムポリプロピレン系樹脂からなり、前記オーバーレイフィルムの表面側に、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤を添加したアクリルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネートからなるコーティング層を設けてなることを特徴とする請求項1または2に記載の遮熱化粧シート。」

2.取消理由の概要
本件発明1?3に対して平成29年11月22日付けで通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。
以下、甲第1号証等、甲第1号証等に記載された発明、甲第1号証等に記載された事項を、それぞれ「甲1」等、「甲1発明」等、「甲1記載事項」等という。
(理由1)本件発明1?3は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(理由2)本件特許は、明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
(理由3)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(理由4)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(理由1)について
本件発明1?3は、甲3発明及び甲4?14記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
<刊行物>
甲3:特開2012-82602号公報
甲4:特開2009-143050号公報
甲5:伊藤征司郎監修「機能性顔料とナノテクノロジー」株式会社シーエムシー出版(平成18年10月31日第1刷発行)第50?52頁
甲6:特開2002-264254号公報
甲7:特開2002-60698号公報
甲8:特開平5-321159号公報
甲9:特開2005-61042号公報
甲10:特開2005-76019号公報
甲11:特開2005-96266号公報
甲12:特開2002-12679号公報
甲13:特開2004-276345号公報
甲14:特開2010-89441号公報

(理由2)について
請求項1?3及び本件特許明細書における「遮熱化粧シート」との記載における「遮熱」及び本件特許明細書の段落【0027】における「遮熱性」に関し、一般的には「遮熱」とは熱の伝達を遮断するものであり、「遮熱性」とはその性能のことと思われるが、本件において「遮熱」とは何から何への熱の伝達を遮断するものであるのかが明確でない。
なお、遮熱化粧シートの表面から裏面への熱の伝達を遮断するもののようにも思われるが、段落【0026】の表2において、実施例・比較例ともに裏面の温度は表面よりも高くなっており、遮熱化粧シートの表面から裏面への熱の伝達を遮断するものではないと考えられる。
このため、本件発明が、本件特許明細書の段落【0003】にある「表裏の温度差によって反りが発生する慢性的な問題」を解決するためにはどのように実施すればよいのかが発明の詳細な説明に記載されていない。
よって、本件発明をどのように実施すればよいのかが発明の詳細な説明に記載されていない。
(理由3)について
上記(理由2)により、本件発明によって、本件特許明細書の段落【0003】にある「表裏の温度差によって反りが発生する慢性的な問題」が必ずしも解決されるとは考えられない。
(理由4)について
(1)上記(理由2)(理由3)を踏まえると、請求項1?3における「遮熱化粧シート」との記載における「遮熱」の定義が明確でない。
(2)請求項1における「可視部で吸収、赤外部で反射を有する粒子径が0.1?0.3μmのアゾメチンアゾ系顔料」との記載は明確でない。
また、アゾメチンアゾ系顔料は、赤外部の反射性のある顔料とされるものもあれば、赤外部の透過性のある顔料とされるものもある。本件特許におけるアゾメチンアゾ系顔料とは、具体的にどのような反射性能、性質を有するアゾメチンアゾ系顔料であるのかが明確でない。

3.当審の判断
事案に鑑み、まず理由2?理由4について検討する。
(1)理由2(特許法第36条第4項第1号違反)について
ア.本件特許明細書には、「遮熱」について明確な定義は記載されていない。「遮熱」は、化粧シートが用いられる建具等の分野では、「断熱」と区別するために用いられる用語とされている。具体的には、「遮熱」とは、「日光照射等に起因する表面温度の上昇を防ぐために熱(あるいは熱の発生原因、例えば赤外線)を遮断する」という程度の意味で用いられる用語である(例えば、特開2003-138847号公報の段落【0007】、甲3の段落【0001】及び【0003】参照)。この「遮熱」の解釈は、本件特許明細書の段落【0003】の「太陽光の赤外光領域の熱の吸収によって、蓄熱作用が発生し、結果として基材に伝わる事で、熱膨張が発生し、表裏の温度差によって反りが発生する慢性的な問題については、解決されないままであった。」との記載、同【0008】の「太陽光の赤外光領域の熱の吸収によって、蓄熱作用が発生し、結果として基材に伝わる事で、熱膨張が発生し、表裏の温度差によって反りが発生する。・・・絵柄模様層の黒色顔料としてアゾメチンアゾ系顔料を用いることで、赤外光領域の反射率を一定以上に上げる事が可能となり、光線遮蔽効果を得て、反りの発生を防止することを可能とした。」との記載とも整合する。したがって、「遮熱」の定義が明細書に記載されていないからといって、「遮熱」を発明特定事項とする本件発明について、当業者が正確に理解し実施をすることができないとまではいえない。
また、本件訂正により、本件特許明細書の段落【0026】の【表2】によれば、「遮熱」の効果を奏しない実施例1に関する段落【0018】?【0027】が削除された。他方、それにより、実施例1に関する「遮熱」の効果についての記載不備は解消されたが、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、実施例の記載がないものとなった。

イ.そこで、本件発明1について検討すると、「着色フィルムの上に絵柄模様層とオーバーレイフィルムとを少なくともこの順に積層してなり、」という遮熱化粧シートは、発明の詳細な説明の段落【0011】?【0017】及び図1、特に段落【0011】の「以下、本発明を図面に基づき詳細に説明する。図1に本発明の遮熱化粧シートの一実施例の断面の形状を示す。着色フィルム1、絵柄模様層2、オーバーレイフィルム3からなり、適宜コーティング層4を設けてなる。」との記載及び図1を参照して、当業者が実施することができるものであるということができる。
また、本件発明1の「前記着色フィルムは、イソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、酸化チタンから選択される赤外線反射する顔料を含み、」という事項も、発明の詳細な説明の段落【0011】?【0017】及び図1、特に段落【0012】及び【0013】を参照して、当業者が実施することができるものであるということができる。
また、本件発明1の「前記絵柄模様層は、印刷絵柄模様を構成する印刷インキの黒色顔料が、大日精化工業(株)製「クロモファインブラックA-1103」から成る、可視部で吸収、赤外部で反射を有する粒子径が0.1?0.3μmのアゾメチンアゾ系顔料である」という事項も、発明の詳細な説明の段落【0006】、【0011】?【0017】及び図1、特に段落【0006】、【0014】?【0016】を参照し、かつその大日精化工業(株)製「クロモファインブラックA-1103」は本件出願前に当業者に周知の顔料(甲6、甲7、甲9)であることを踏まえると、黒色顔料として大日精化工業(株)製「クロモファインブラックA-1103」を採用することは、当業者が実施し得ることである。
よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1の実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものということができる。

ウ.本件発明2について検討すると、「前記絵柄模様層は、印刷絵柄模様を構成する印刷インキがイソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、酸化チタンから選択される赤外線反射する顔料を含む」という事項は、発明の詳細な説明の段落【0011】?【0017】及び図1、特に段落【0015】の「本発明における絵柄模様層2に用いる顔料としては、イソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、酸化チタンなどが好適に用いられる。特に黒色顔料においてはアゾメチンアゾ系顔料を用いる。これにより絵柄模様層2への赤外線の吸収を少なく、蓄熱機能を抑え、化粧シートとしての赤外線反射率を高くすることが可能となる。」との記載を参照して、当業者が実施し得ることである。
よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明2の実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものということができる。

エ.本件発明3について検討すると、「前記オーバーレイフィルムが、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤を添加したホモまたはランダムポリプロピレン系樹脂からなり、前記オーバーレイフィルムの表面側に、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤を添加したアクリルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネートからなるコーティング層を設けてなる」という事項は、発明の詳細な説明の段落【0011】?【0017】及び図1、特に段落【0017】の「本発明におけるオーバーフィルム3としては、さらにこの表面にコーティング層4を設ける場合は、前記着色フィルム1や絵柄模様層2との層間密着を考慮して樹脂を選択すればよく、具体的には前記着色フィルム1がホモまたはランダムポリプロピレン系樹脂またはポリエチレン樹脂であるなら同様のホモまたはランダムポリプロピレン系樹脂またはポリエチレン樹脂が好ましく、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤を添加するのが好適である。」との記載を参照して、当業者が実施し得ることである。
よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明3の実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものということができる。

オ.小括
以上のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできないから、本件発明1?3に係る特許は、特許法第113条第4号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。

(2)理由3(特許法第36条第6項第1号違反)について
ア.本件特許明細書の段落【0005】の記載より、本件発明の課題は、「短納期で安価に製造可能であり、耐候性や耐摩耗性、耐水性等の各物性に優れ、かつ赤外線反射効果を有しながら、しかも絵柄の深み等の意匠性にも優れた遮熱化粧シートを提供すること」といえる。
また、本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【0006】
本発明はこの課題を解決したものであり、すなわちその請求項1記載の発明は、 着色フィルムの上に絵柄模様層とオーバーレイフィルムとを少なくともこの順に積層してなり、前記着色フィルムは、イソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、酸化チタンから選択される赤外線反射する顔料を含み、前記絵柄模様層は、印刷絵柄模様を構成する印刷インキの黒色顔料が、大日精化工業(株)製「クロモファインブラックA-1103」から成る、可視部で吸収、赤外部で反射を有する粒子径が0.1?0.3μmのアゾメチンアゾ系顔料であることを特徴とする遮熱化粧シートである。
また、請求項2記載の発明は、前記絵柄模様層は、印刷絵柄模様を構成する印刷インキがイソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、酸化チタンから選択される赤外線反射する顔料を含むことを特徴とする遮熱化粧シートである。
また、請求項3記載の発明は、前記オーバーレイフィルムが、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤を添加したホモまたはランダムポリプロピレン系樹脂からなり、前記オーバーレイフィルムの表面側に、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤を添加したアクリルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネートからなるコーティング層を設けてなることを特徴とする遮熱化粧シートである。」
「【発明の効果】
【0008】
太陽光の赤外光領域の熱の吸収によって、蓄熱作用が発生し、結果として基材に伝わる事で、熱膨張が発生し、表裏の温度差によって反りが発生する。特に黒色顔料としてカーボンブラックを用いる事が多かったが、近赤外光領域(781nm?2500nm)においての反射率が低かった為、赤外光領域の熱の吸収によって、蓄熱作用が発生していた。
本発明はその請求項1記載の発明により、絵柄模様層の黒色顔料としてアゾメチンアゾ系顔料を用いることで、赤外光領域の反射率を一定以上に上げる事が可能となり、光線遮蔽効果を得て、反りの発生を防止することを可能とした。
【0009】
またその請求項2記載の発明により、オーバーレイフィルムに用いる樹脂と添加剤を特定し、さらにその表面側に特定の樹脂のコーティング層を設けることで経時の耐候性と光線遮蔽効果の維持とを可能とした。」
「【0013】
前記着色フィルム1に用いる顔料としては、イソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、酸化チタンなどが好適である。これらを用いることで着色フィルム1への赤外線の吸収を少なく、蓄熱機能を抑え、化粧シートとしての赤外線反射率を高くすることが可能となる。
・・・
【0015】
本発明における絵柄模様層2に用いる顔料としては、イソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、酸化チタンなどが好適に用いられる。特に黒色顔料においてはアゾメチンアゾ系顔料を用いる。これにより絵柄模様層2への赤外線の吸収を少なく、蓄熱機能を抑え、化粧シートとしての赤外線反射率を高くすることが可能となる。
【0016】
本発明におけるアゾメチンアゾ系顔料としては、テトラクロロフタルイミドとアミノアニリンの反応化合物であるジアゾニウム基を有するものであり、特には粒子径が0.1?0.3μmのものが好適である。これらを用いることで、可視部で吸収、赤外部で反射といった特性を顕著に現すものとなる。
【0017】
本発明におけるオーバーフィルム3としては、さらにこの表面にコーティング層4を設ける場合は、前記着色フィルム1や絵柄模様層2との層間密着を考慮して樹脂を選択すればよく、具体的には前記着色フィルム1がホモまたはランダムポリプロピレン系樹脂またはポリエチレン樹脂であるなら同様のホモまたはランダムポリプロピレン系樹脂またはポリエチレン樹脂が好ましく、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤を添加するのが好適である。」

本件発明1の構成が、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることは、上記【0006】、【0008】、【0013】、【0015】及び【0016】の記載から明らかといえる。
本件発明2の構成が、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることは、上記【0006】、【0008】、【0009】、【0013】、【0015】及び【0016】の記載から明らかといえる。
本件発明3の構成が、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることは、上記【0006】、【0008】、【0013】、及び【0015】?【0017】の記載から明らかといえる。
したがって、本件発明1?3は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるといえる。

イ.小括
よって、本件特許の請求項1?3の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできないから、本件発明1?3に係る特許は特許法第113条第4号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。

(3)理由4(特許法第36条第6項第2号違反)について
ア.「遮熱」の定義について
「遮熱」の定義については、本件特許明細書に明確な定義はないものの、当業者の技術常識を踏まえれば、3.(1)ア.に示したとおりのものと理解できるから、本件発明1?3を不明確にしているとまではいえない。

イ.本件訂正により、請求項1?3は、印刷絵柄模様を構成する印刷インキの黒色顔料について、「印刷絵柄模様を構成する印刷インキの黒色顔料が、大日精化工業(株)製「クロモファインブラックA-1103」から成る、可視部で吸収、赤外部で反射を有する粒子径が0.1?0.3μmのアゾメチンアゾ系顔料である」と特定された。その大日精化工業(株)製「クロモファインブラックA-1103」は本件出願前に当業者に周知の顔料(甲6、甲7、甲9)であり、その「可視部で吸収」(可視部での吸収率)及び「赤外部で反射」(赤外部での反射率)の性能についてもよく知られている(甲15)。
したがって、請求項1?3の「印刷絵柄模様を構成する印刷インキの黒色顔料が、大日精化工業(株)製「クロモファインブラックA-1103」から成る、可視部で吸収、赤外部で反射を有する粒子径が0.1?0.3μmのアゾメチンアゾ系顔料である」との記載が明確でないとはいえない。

ウ.申立人の主張について
平成30年3月22日付け意見書の段落(3-2)において申立人は、甲15を挙げて、大日精化工業(株)製「クロモファインブラックA-1103」は、赤外線をその表面で反射するだけでなく、透過させるものであり、上記特定は矛盾を含む記載であり不明確である旨を主張する。
しかし、顔料は、程度の差こそあれ、光を吸収、反射、透過するものであって、光を全て吸収したり、あるいは光を全て反射又は透過するものではないことが技術常識であることに鑑みれば、本件発明1における「赤外部で反射を有する」との記載が、赤外部を全て反射することを必ずしも意味しないこと、また、赤外部をある程度透過するものを全く含まないことを必ずしも意味しないことは明らかであるから、当該記載が明確でないとまではいえない。
したがって、申立人の主張は当を得たものではなく、採用することができない。

エ.小括
よって、本件特許の請求項1?3の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとすることはできないから、本件発明1?3に係る特許は特許法第113条第4号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。

(4)理由1(特許法第29条第2項違反)について
ア.刊行物の記載事項
(ア)甲3記載事項及び甲3発明
甲3には、以下の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と顔料とを含有する組成物をシート状に成形加工したシート層と、該シート層表面に形成される印刷層とを備え、
前記顔料は、少なくともカーボンブラックを含まず、赤外線反射顔料を含み、 前記印刷層は、少なくともカーボンブラックを含まず、赤外線透過顔料を含むことを特徴とする遮熱化粧シート。
【請求項2】
前記赤外線反射顔料は赤外線反射酸化チタンであることを特徴とする請求項1記載の遮熱化粧シート。・・・」
「【0001】
本発明は、熱を遮蔽する機能を有する化粧シートに関するものである。」

「【0002】
化粧シートは、建築基材などの表面に貼り付けて、基材表面に各種の色や絵柄などを付与することで意匠性を高めるために用いられる。一般に、ドアや外壁材の表面には明るい色より比較的暗い落ち着いた色を付与することが好まれる。それ故に、ドアや外壁材などの表面に貼り付けられる化粧シートには黒色の顔料を含む塗料でベタ印刷や柄印刷がなされている。
【0003】
一般に用いられる黒色の顔料は、熱を吸収し易いカーボンブラックを含んでいる。太陽熱などの赤外線に曝される外表面に貼り付けられる化粧シートに黒色顔料を含む塗料が印刷されていると、化粧シート自体が熱を含んで温度が高くなり、この熱が建築基材を介して建築物内部に伝搬することになるので、建築物内部の温度管理に悪影響を及ぼす問題が生じる。」
「【0007】
しかしながら、シート表面に絵柄などの更に高度な意匠を付与することを考えた場合には、やはり表面に印刷を施すことが必要になる。この場合、シート自体が高い遮熱性能を有していたとしても、印刷層の塗料に蓄熱性のあるカーボンブラックが含まれていると、シート自体で反射した熱が印刷層で蓄熱されることになり、シート全体で効果的に熱を遮蔽することができない問題があった。
【0008】
特に、ドアの外表面や建築物外壁の外表面に施される化粧シートには意匠として木目調などの柄模様が好まれる傾向があり、また、シートの熱可塑性樹脂に顔料を混合する場合には、シートの成形性などで混合する顔料の種類が制約されて所望の色味を持たせることができないことがある。このような事情で、化粧シートに高い意匠性を付与するためにはシート表面へ印刷を施さざるを得ない場合があり、このような場合に、化粧シートとしての高い意匠性と遮熱性を両立させることができない問題があった。
【0009】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、本発明の目的は、シート表面に柄印刷やベタ印刷などの印刷層を形成するものであっても高い遮熱性能を得ることができる遮熱化粧シートを提供することにある。」
「【0011】
熱可塑性樹脂と顔料とを含有する組成物をシート状に成形加工したシート層と、該シート層表面に形成される印刷層とを備え、前記顔料は、少なくともカーボンブラックを含まず、赤外線反射顔料を含み、前記印刷層は、少なくともカーボンブラックを含まず、赤外線透過顔料を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
このような特徴を有する遮熱化粧シートは、シート表面に柄印刷やベタ印刷などの印刷層を形成することで高い意匠性を得ることができる。そして、シート層は、カーボンブラックを含まず赤外線反射顔料を含むので、蓄熱することが無く効果的に熱を反射することができる。また、シート層表面に形成される印刷層が、カーボンブラックを含まず赤外線透過顔料を含むので、シート層で反射した熱が印刷層で蓄熱されることもない。このように本発明の遮熱化粧シートは、高い遮熱性能と高い意匠性を両立させることができる。」
「【0014】
以下、図面等を参照しながら本発明の実施形態を説明する。図1は本発明の一実施形態に係る遮熱化粧シートを示した概念図である。遮熱化粧シート1は、シート層10と印刷層11を少なくとも備え、必要に応じて印刷層の保護や艶調整を行うための表面コート層12を備えている。印刷層11はシート層10の表面全体に施されるものであっても、シート層10の表面の一部に施されるものであってもよい。
【0015】
シート層10は、熱可塑性樹脂と顔料とを含有する組成物をシート状に成形加工した層である。加工方法としては、カレンダー成形や押し出し成形などが採用される。印刷層11は、シート層10の表面にベタ印刷や柄印刷を施すことで形成される層であり、遮熱化粧シート1に高い意匠性を付与するための層である。
【0016】
シート層10の基材となる熱可塑性樹脂は、シート状に成形加工可能なものであれば特に限定されないが、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル系共重合樹脂、オレフィン樹脂、オレフィン系共重合樹脂、ウレタン樹脂、ウレタン系共重合樹脂、アクリル樹脂、アクリル系共重合樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル系共重合樹脂、スチレン樹脂、スチレン系共重合樹脂、ポリエステル樹脂、及びポリエステル系共重合樹脂、フッソ系共重合樹脂などの単独、もしくは、2種以上の混合樹脂からなるものが好ましい。・・・」
「【0017】
このような熱可塑性樹脂の基材中に含有される顔料は、少なくとも蓄熱機能が高いカーボンブラックを含まない顔料であり、更には赤外線を比較的高い反射率で反射する赤外線反射顔料20を含むものとする。シート層10中にカーボンブラックを含有させないことでシート層10自体に熱が蓄熱するのを抑止することができ、シート層10中に赤外線反射顔料20を含有させることで、シート層10を熱が通過して遮熱化粧シート1が貼り付けられた基材が加熱されるのを抑止することができる。シート層10の表面には印刷層11が形成されるので、シート層10自体に高い意匠性を求める必要はないが、印刷層11がシート層10の全面に形成されない場合や、印刷層11と透過して下地が視認できる場合を考慮して、シート層10中の顔料は印刷層11の意匠性を低下させないものが好ましい。このような観点から、シート層10中に含有される赤外線反射顔料20の例としては、赤外線反射酸化チタンが好ましい。
【0018】
印刷層11は、少なくともカーボンブラックを含まず、赤外線透過顔料21を含むものとする。ここでいう赤外線透過顔料21とは、赤外線の吸収機能と反射機能が少ない顔料である。赤外線透過顔料21は、無機顔料であっても有機顔料であってもよい。無機顔料としては、カーボブラックを除いた天然無機顔料、クロム、酸化クロム、酸化亜鉛(亜鉛華)、合成酸化鉄赤、カドミウム黄、ニッケルチタン黄、ストロンチウム黄、アルミン酸コバルト、合成ウルトラマリン青などの合成無機顔料などを用いることができる。特には、赤外線透過機能が高いクロム及び鉄の複合酸化物が適する。有機顔料としては、多環式系、アゾ系の顔料があり、多環系顔料としては、ペリレン、ペリノン、フタロシアニン、カルボニウム、キナクリドン、イソインドリノンなど、アゾ系顔料としては、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、縮合アゾ顔料などを用いることができる。また、このような赤外線透過顔料21はシート層10内に含有させても良い。」
「【0020】
表面コート層21は、表面保護や艶調整のために設けられる。表面コート層12は、アクリル系樹脂(例えば、アクリル樹脂/塩酢ビ樹脂/セルロース樹脂/シリカの混合物)などによって、印刷層11の形成後にグラビア印刷などで形成することができる。表面コート層21の艶調整は、混合するシリカの量によって調整できるが、ウレタンビーズやアクリルビーズなどの付加でも艶の付与調整を行うことができる。
【0021】
図2は表面コート層12を塗工後の表面にエンボスEを施した例である。印刷層11として木目印刷を行った場合には木目のエンボス加工を施すことで効果的な意匠効果を得ることができる。・・・」
「【0022】
表1は、本発明の実施例(例1,例3)と比較例(例2,例4)の構成例と遮熱効果を示している。例1と例2は、視覚的に同等の木目調の印刷柄を有するものであり、例3と例4は、視覚的に同等の柿渋調の印刷柄を有するものである。よって、例1と例2或いは例3と例4は印刷層によって同等の意匠性が付与されている。 ・・・
【0028】
前述したように例1と例2(木目調)或いは例3と例4(柿渋調)は印刷層によって同等の意匠性が付与されている。このような印刷層を得るために、例1と例3の印刷層には赤外線透過顔料含有塗料(SX-860;(株)昭和インク工業所)が用いられ、例2と例4の印刷層にはカーボンブラック(CB)含有塗料(SX-851;(株)昭和インク工業所)が用いられている。例1?例4の表面コート層はいずれもアクリルコート(SX-256;(株)昭和インク工業所)である。 ・・・
【0030】
例1と例2の比較では、例2に対して例1のシート表面温度が16.0℃低く、例2に対して例1の槽内温度が5.3℃低い結果になり、例3と例4の比較では、例4に対して例3のシート表面温度が12.2℃低く、例4に対して例3の槽内温度が2.7℃低い結果になった。この試験結果から明らかなように、シート層の顔料が少なくともカーボンブラックを含まず赤外線反射顔料を含み、印刷層が少なくともカーボンブラックを含まず赤外線透過顔料を含む、例1と例3の遮熱化粧シートは、例2と例3(当審注:「例3」は「例4」の誤記と思われる。)化粧シートに対して高い遮熱性能を有していることが判る。」
「【0031】
【表1】


「【図1】


【0018】の「・・・また、このような赤外線透過顔料21はシート層10内に含有させても良い。」との記載及び図1より、シート層10は、赤外線反射顔料20及び赤外線透過顔料21を含むといえる。

上記記載事項より、甲3には、下記の甲3発明が記載されている。
「熱可塑性樹脂と顔料とを含有する組成物をシート状に成形加工したシート層10と、絵柄あるいは木目の印刷を施した印刷層11と、表面コート層12とをこの順に積層してなり、
前記顔料は、少なくともカーボンブラックを含まず、赤外線反射顔料20及び赤外線透過顔料21を含み、
前記印刷層11は、少なくともカーボンブラックを含まず、赤外線透過顔料21を含み、
前記赤外線反射顔料20は赤外線反射酸化チタンであり、
前記赤外線透過顔料21は、ペリレン、ペリノン、フタロシアニン、カルボニウム、キナクリドン、イソインドリノン、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、縮合アゾ顔料である、
遮熱化粧シート1。」

(イ)甲6記載事項
甲6には、次の事項が記載されている。
「【0027】近赤外線吸収率の低い着色顔料には、・・・平均粒径0.2μmの黒色顔料D(大日精化製クロモファインブラックA‐1103,近赤外線吸収率:18%)を使用した。比較のため、近赤外線吸収率の高い着色顔料として、平均粒径0.5μmの黒色顔料E(大日精化製ダイピロキサイドカラーブラック#9510,近赤外線吸収率:94%)を使用した。」

(ウ)甲7記載事項
甲7には、次の事項が記載されている。
「【0009】赤外線透過層形成用組成物に含まれる顔料としては、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用可能である。・・・特に、暗い色調を発色させる場合には、カーボンブラックに代わる黒色顔料として、大日精化工業株式会社製商品名「A-1130 ブラック」などのアゾメチン系有機顔料や、BASF製商品名「ペリレンブラックS-0084」などのペリレン系顔料が好適であり、これらを単独で、または他の顔料と混合したうえで樹脂成分に分散させて使用する。・・・」

(エ)甲9記載事項
甲9には、次の事項が記載されている。
「【0014】
・・・市販の濃色系顔料について上記条件に該当するかどうかを確認することによって、本発明の第2の塗膜層に用いうる顔料かどうかを知ることが可能である。市販されている顔料で上記の条件を満足するものとしては、クロモファインブラックA-1103なる商品名をもつアゾメチアゾ系黒色顔料(大日精化工業(株)製)等を挙げることができる。・・・」

(オ)甲11記載事項
甲11には、次の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、玄関ドア、店舗引き戸、住宅やビルの窓枠、テラス、車庫等の屋外に使われる耐候性の高い高耐候性化粧シートに関する。」
「【0007】
本発明は、着色ベースフィルム層、印刷層、オーバーレイフィルム層からなる熱可塑性化粧シートにおいて、着色ベースフィルム層が重合度500から2000の半硬質塩化ビニル樹脂フィルムにバリウム、亜鉛系の熱安定剤、可塑剤(TOTM トリ2-エチルヘキシルトリメリテート)、顔料としてキナクリドン、チタンイエロー、カーボンブラック、酸化チタン、フタロシアニンブルーのうちのひとつ以上の顔料からなり、印刷層のバインダー樹脂がアクリル樹脂と塩化酢酸ビニル樹脂、顔料が少なくともイソインドリノン、キナクリドン、カーボンブラック、フタロシアニンブルーの一つ以上からなり、オーバーレイフィルム層がポリメチルメタアクリル樹脂に紫外線吸収剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤からなることを特徴とする高耐候性化粧シートに関する(図1.)。
【0008】
また、着色ベースフィルム層、印刷層、オーバーレイフィルム層、コーティング層からなる熱可塑性化粧シートにおいて、ベースフィルム層がランダムまたはホモ系ポリプロピレン樹脂、または、ポリエチレン樹脂にヒンダードフェノール系酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、着色顔料に少なくとも酸化鉄、カーボンブラック、酸化チタン、フタロシアニンブルー、イソインドリノンの一つ以上からなり、印刷層のバインダー樹脂にポリオールにイソシアネートを反応させてもわずかにのこった水酸基にさらにヘキサメチレンジイソシアネートとイソホロンジイソシアネートの混合からなる硬化剤を印刷直前に添加する樹脂に顔料として少なくともイソインドリノン、ジケトピロロピロール、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、ジスアゾ系顔料の一つ以上からなり、オーバーレイフィルムとしてホモまたはランダムポリプロピレン系樹脂に紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤を添加し、コーティング剤としてコーティング直前に紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤の入ったアクリルポリオールにヘキサメチレンジイソシアネート硬化剤を添加してなることを特徴とする高耐候性化粧シートに関する(図2.)。」
「【0011】
ベースフィルム層1は、重合度500から2000の半硬質塩化ビニル樹脂フィルムにバリウム、亜鉛系の熱安定剤、可塑剤(TOTM トリ2-エチルヘキシルトリメリテート)、顔料としてキナクリドン、チタンイエロー、カーボンブラック、酸化チタン、フタロシアニンブルーのうちのひとつ以上の顔料からなる。また、ベースフィルム層がランダムまたはホモ系ポリプロピレン樹脂、または、ポリエチレン樹脂にヒンダードフェノール系酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤を添加したものに、着色顔料に少なくとも酸化鉄、カーボンブラック、酸化チタン、フタロシアニンブルー、イソインドリノンの一つ以上からなる。また、共重合ポリエステル樹脂、発泡タイプのポリエステル系樹脂、アクリル樹脂系等も使える。厚みは、25μmから200μmの範囲のものが使える。
【0012】
印刷層2としては、印刷層のバインダー樹脂がアクリル樹脂と塩化酢酸ビニル樹脂、顔料が少なくともイソインドリノン、キナクリドン、カーボンブラック、フタロシアニンブルーの一つ以上からなるものからなる。また、印刷層のバインダー樹脂にポリオールにイソシアネートを反応させてもわずかにのこった水酸基にさらにヘキサメチレンジイソシアネートとイソホロンジイソシアネートの混合からなる硬化剤を印刷直前に添加する樹脂に顔料として少なくともイソインドリノン、ジケトピロロピロール、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、ジスアゾ系顔料の一つ以上からなるものが使える。また、印刷層のバインダー樹脂がアクリル樹脂と塩化酢酸ビニル樹脂、顔料が少なくともイソインドリノン、ジケトピロロピロール、カーボンブラック、フタロシアニンブルーの一つ以上からなるものが使える。より強固な接着性が必要な場合は、熱接着剤層3を使う。2液ウレタン樹脂系やポリエステル樹脂とアクリル樹脂及び塩化酢酸ビニル樹脂系の混合物も使える。
【0013】
オーバーレイフィルム層4としては、ポリメチルメタアクリル樹脂に紫外線吸収剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤からなフィルム、ホモまたはランダムポリプロピレン系樹脂に紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤を添加したフィルム、ポリメチルメタアクリル樹脂に紫外線吸収剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤からなるフィルム等が使える。厚みは25μmから200μmのものが使える。
【0014】
コーティング層5としては、コーティング直前に紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤の入ったアクリルポリオールにヘキサメチレンジイソシアネート硬化剤を添加してなる塗液を乾燥後の重さで2g/m^(2)から20g/m^(2)の塗布量のものが使える。」
「【図1】



「【図2】




イ.本件発明1について
本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「シート層10」は、熱可塑性樹脂と顔料とを含有するので、本件発明1の「着色フィルム」に相当する。
また、甲3発明の「絵柄あるいは木目の印刷を施した印刷層11」は、本件発明1の「絵柄模様層」に相当する。
ここで、甲3発明の「シート層10」の「前記顔料は、少なくともカーボンブラックを含まず、赤外線反射顔料20及び赤外線透過顔料21を含み、」「前記赤外線反射顔料20は赤外線反射酸化チタンであり、」と、本件発明1の「前記着色フィルムは、イソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、酸化チタンから選択される赤外線反射する顔料を含み」とは、「前記着色フィルムは、赤外線反射する顔料を含み」である限りにおいて一致する。
また、甲3発明の「印刷層11は、少なくともカーボンブラックを含まず、赤外線透過顔料21を含み」、「前記赤外線透過顔料21は、ペリレン、ペリノン、フタロシアニン、カルボニウム、キナクリドン、イソインドリノン、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、縮合アゾ顔料である」 と、本件発明1の「絵柄模様層は、印刷絵柄模様を構成する印刷インキの黒色顔料が、大日精化工業(株)製「クロモファインブラックA-1103」から成る、可視部で吸収、赤外部で反射を有する粒子径が0.1?0.3μmのアゾメチンアゾ系顔料である」とは、「絵柄模様層は、印刷絵柄模様を構成する黒色顔料が少なくともカーボンブラックを含まない」という限りにおいて一致する。
したがって、本件発明1と甲3発明は、
「着色フィルムの上に絵柄模様層を少なくともこの順に積層してなり、前記着色フィルムは、赤外線反射する顔料を含み、前記絵柄模様層は、印刷絵柄模様を構成する黒色顔料が少なくともカーボンブラックを含まない、遮熱化粧シート。」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
着色フィルムの上に絵柄模様層を少なくともこの順に積層した上に、本件発明1は、オーバーレイフィルム層を積層しているのに対して、甲3発明は、表面コート層12を積層している点。
(相違点2)
着色フィルムの顔料として、本件発明1では、イソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、酸化チタンから選択される赤外線反射する顔料を含むのに対して、甲3発明は、顔料は、少なくともカーボンブラックを含まず、赤外線反射顔料20及び赤外線透過顔料21を含み、前記赤外線反射顔料20は赤外線反射酸化チタンであり、前記赤外線透過顔料21は、ペリレン、ペリノン、フタロシアニン、カルボニウム、キナクリドン、イソインドリノン、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、縮合アゾ顔料である点。
(相違点3)
絵柄模様層の印刷絵柄模様を構成する印刷インキの黒色顔料として、本件発明1では、大日精化工業(株)製「クロモファインブラックA-1103」から成る、可視部で吸収、赤外部で反射を有する粒子径が0.1?0.3μmのアゾメチンアゾ系顔料であるのに対して、甲3発明は、少なくともカーボンブラックを含まず、赤外線透過顔料21を含み、前記赤外線透過顔料21は、ペリレン、ペリノン、フタロシアニン、カルボニウム、キナクリドン、イソインドリノン、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、縮合アゾ顔料である点。

上記相違点1について検討する。
甲11には、高耐候性化粧シートとして、着色ベースフィルム層(着色フィルム)、印刷層(絵柄模様層)、オーバーレイフィルム層を少なくともこの順に積層する化粧シートが記載されており(【0001】、【0007】、【0011】?【0013】及び図1)、また、表面にコーティング層を備える化粧シートとする場合には、着色ベースフィルム層(着色フィルム)、印刷層(絵柄模様層)、オーバーレイフィルム層、コーティング層を少なくともこの順に積層することが記載されている(【0001】、【0008】、【0011】?【0014】及び図2)。いずれの場合も、オーバーレイフィルム層は、印刷層を保護し、高耐候性化粧シートの高耐候性の向上に寄与するものといえる。
そして、甲3発明の化粧シートは、ドアや外壁材などの表面に貼り付けられるものであるところ(【0002】)、当該化粧シートには耐候性が求められるとの課題が内在することは明らかであるし、甲3発明の表面コート層は印刷層の保護を行うためのものでもあることが示されている(【0014】、【0020】)。
そうすると、甲3発明の化粧シートの層構成について、印刷層を保護し、かつ耐候性を発揮させるために、印刷層を保護するための表面コート層に代えて甲11記載のオーバーレイフィルム層を適用し、着色ベースフィルム層(着色フィルム)、印刷層(絵柄模様層)、着色フィルム、オーバーレイフィルム層を少なくともこの順に積層する化粧シートとすること、あるいは、その表面コートに加えて甲11記載のオーバーレイフィルム層を適用し、着色ベースフィルム層(着色フィルム)、印刷層(絵柄模様層)、オーバーレイフィルム層、コーティング層を少なくともこの順に積層する化粧シートとすること、すなわち、上記相違点1における本件発明1に係る構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。

次に、上記相違点2について検討する。
着色フィルムの顔料としては、本件発明1と甲3発明とは、「赤外線反射する顔料として酸化チタン」が共通し、それ以外にも「イソインドリノン、ジスアゾ、キナクリドン、フタロシアニン」が共通するものである。甲3には、「このような熱可塑性樹脂の基材中に含有される顔料は、少なくとも蓄熱機能が高いカーボンブラックを含まない顔料であり、更には赤外線を比較的高い反射率で反射する赤外線反射顔料20を含むものとする。・・・有機顔料としては、多環式系、アゾ系の顔料があり、多環系顔料としては、ペリレン、ペリノン、フタロシアニン、カルボニウム、キナクリドン、イソインドリノンなど、アゾ系顔料としては、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、縮合アゾ顔料などを用いることができる。また、このような赤外線透過顔料21はシート層10内に含有させても良い。」(【0017】?【0018】)とあるが、ある顔料を「赤外線反射する顔料」と称するか「赤外線透過顔料」と称するかは、そのいずれの機能に着目するかによる表現の違いであって、カーボンブラックのように赤外線を吸収して蓄熱してしまうものではない点で軌を一にするものであるところ、着色フィルムの顔料として上記赤外線反射酸化チタンのほか、「イソインドリノン、ジスアゾ、キナクリドン、フタロシアニン」を選択して、上記相違点2における本件発明1に係る構成をなすことは、当業者が容易になし得ることである。(なお、甲12の【請求項1】、甲13の【請求項1】、甲14の【請求項1】及び【0044】に記載されているように、着色フィルムに日射反射率の高い顔料を含ませることは、本件出願前に周知の技術である。)

そして、上記相違点3について検討する。
甲3発明は、建築基材などの表面に貼り付けて、基材表面に各種の色や絵柄などを付与することで意匠性を高めるために用いられる化粧シート(【0002】)の分野において、太陽熱などの赤外線に曝される外表面に貼り付けられる化粧シートに黒色顔料を含む塗料が印刷されていると、化粧シート自体が熱を含んで温度が高くなり、この熱が建築基材を介して建築物内部に伝搬することになるので、建築物内部の温度管理に悪影響を及ぼす問題が生じる(【0003】)ものであり、シート自体が高い遮熱性能を有していたとしても、印刷層の塗料に蓄熱性のあるカーボンブラックが含まれていると、シート自体で反射した熱が印刷層で蓄熱されることになり、シート全体で効果的に熱を遮蔽することができない問題があった(【0007】)ことから、印刷層について、少なくともカーボンブラックを含まず、アゾ系顔料などの、赤外線の吸収機能が少ない赤外線透過顔料を含むものとするものである(【0018】)。
一方、甲6、甲7、甲9に記載されているように、近赤外線吸収率の低い着色顔料として、平均粒径0.2μmの黒色顔料である大日精化製クロモファインブラックA-1103は、本件出願前に周知の黒色顔料である。また、黒色顔料としてのアゾメチンアゾ系顔料が遮熱効果を奏することも、甲4(【請求項3】及び【0010】)、甲5(51頁の6.2 アゾメチンアゾ系遮熱顔料)、甲8(【請求項2】及び【0014】)、甲10(【0002】)に記載されているように、本件出願前に周知の事項である。
甲3発明において、少なくともカーボンブラックを含まず、赤外線透過顔料を含むとする点は、カーボンブラックのような赤外線を吸収して蓄熱してしまう顔料以外のものを用いることを意図することが明らかであるところ、赤外線の吸収機能が少ない黒色顔料として軌を一にする周知の黒色顔料(大日精化製クロモファインブラックA-1103、平均粒径0.2μm)を用いるようにして相違点3における本件発明1に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件発明1の奏する作用効果は、甲3発明、甲11記載事項及び周知の技術から当業者が予測し得る範囲内のものにすぎず、格別なものではない。

よって、本件発明1は、甲3発明、甲11記載事項並びに、甲4?10及び甲12?14に例示される周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ.本件発明2について
本件発明2と甲3発明を比較すると、上記相違点1?3のほか、以下の点で相違する。
(相違点4)
本件発明2は、「前記絵柄模様層は、印刷絵柄模様を構成する印刷インキがイソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、酸化チタンから選択される赤外線反射する顔料を含む」のに対して、甲3発明では、「前記印刷層11は、少なくともカーボンブラックを含まず、赤外線透過顔料21を含み、」「前記赤外線透過顔料21は、ペリレン、ペリノン、フタロシアニン、カルボニウム、キナクリドン、イソインドリノン、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、縮合アゾ顔料である、」である点。

上記相違点4を検討する。
絵柄模様層の顔料としては、本件発明2と甲3発明とは、「イソインドリノン、ジスアゾ、キナクリドン、フタロシアニン」が共通するものであり、ある顔料を「赤外線反射する顔料」と称するか「赤外線透過顔料」と称するかは、そのいずれの機能に着目するかによる表現の違いであって、カーボンブラックのように赤外線を吸収して蓄熱してしまうものではない点で軌を一にするものであるところ、絵柄模様層の顔料として「イソインドリノン、ジスアゾ、キナクリドン、フタロシアニン」を選択して、上記相違点4における本件発明2に係る構成をなすことは、当業者が容易になし得ることである。
よって、本件発明2は、甲3発明、甲11記載事項並びに、甲4?10及び甲12?14に例示される周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

エ.本件発明3について
本件発明3と甲3発明を比較すると、上記相違点1?3のほか、以下の点で相違する。
(相違点5)
本件発明3は、オーバーレイフィルムが、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤を添加したホモまたはランダムポリプロピレン系樹脂からなり、前記オーバーレイフィルムの表面側に、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤を添加したアクリルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネートからなるコーティング層を設けてなるのに対し、甲3発明には、そのようなオーバーレイフィルム及びコーティング層を有さない点。

上記相違点5について検討する。
「オーバーレイフィルムが、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤を添加したホモまたはランダムポリプロピレン系樹脂からなり、前記オーバーレイフィルムの表面側に、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤を添加したアクリルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネートからなるコーティング層を設けてなる」点は、甲11(【0013】?【0014】及び図1)に記載されている。そして、上記相違点1について述べたように、甲11のオーバーレイフィルム層は、印刷層を保護し、高耐候性化粧シートの高耐候性の向上に寄与するものといえる。 同様に、甲11のコーティング層も、印刷層を保護し、高耐候性化粧シートの高耐候性の向上に寄与するものといえる。
そして、甲3発明の化粧シートは、ドアや外壁材などの表面に貼り付けられるものであるところ(【0002】)、当該化粧シートには耐候性が求められるとの課題が内在することは明らかであるし、甲3発明の表面コート層は印刷層の保護を行うためのものでもあることが示されている(【0014】、【0020】)。
そうすると、甲3発明の化粧シートの層構成について、印刷層を保護し、かつ耐候性を発揮させるために、印刷層を保護するための表面コート層に代えて甲11記載のオーバーレイフィルム層及びコーティング層を適用し、上記相違点5における本件発明3の構成となすことは、当業者が容易になし得ることである。
よって、本件発明3は、甲3発明、甲11記載事項並びに、甲4?10及び甲12?14に例示される周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

オ.小括
以上のことから、本件発明1?3は、甲3発明、甲11記載事項並びに、甲4?10及び甲12?14に例示される周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本件発明1?3は、甲3発明、甲11記載事項並びに、甲4?10及び甲12?14に例示される周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?3に係る特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
遮熱化粧シート
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に住居や店舗、船舶等の外装扉の表層に用いるのをはじめとし、窓枠、テラス、車庫等の屋外に使われる、耐侯性が高く、紫外線遮蔽効果を有し、且つ赤外線反射効果を有する遮熱化粧シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、玄関扉の表層等については耐候性のあるオレフィン系化粧シートが使われてきたが、実際の屋外暴露や促進耐候性試験にて耐侯性は評価しており、太陽光の紫外光領域に対しては処方を施した設計ではあったが、赤外光領域の熱の吸収に対しては、考慮されていなかった。
【0003】
実際に使用されていると、耐候性としては満足されるものであったが、太陽光の赤外光領域の熱の吸収によって、蓄熱作用が発生し、結果として基材に伝わる事で、熱膨張が発生し、表裏の温度差によって反りが発生する慢性的な問題については、解決されないままであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-089441
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような問題を解決するためになされたものであり、すなわちその課題とするところは、短納期で安価に製造可能であり、耐候性や耐摩耗性、耐水性等の各物性に優れ、かつ赤外線反射効果を有しながら、しかも絵柄の深み等の意匠性にも優れた遮熱化粧シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はこの課題を解決したものであり、すなわちその請求項1記載の発明は、 着色フィルムの上に絵柄模様層とオーバーレイフィルムとを少なくともこの順に積層してなり、前記着色フィルムは、イソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、酸化チタンから選択される赤外線反射する顔料を含み、前記絵柄模様層は、印刷絵柄模様を構成する印刷インキの黒色顔料が、大日精化工業(株)製「クロモファインブラックA-1103」から成る、可視部で吸収、赤外部で反射を有する粒子径が0.1?0.3μmのアゾメチンアゾ系顔料であることを特徴とする遮熱化粧シートである。
また、請求項2記載の発明は、前記絵柄模様層は、印刷絵柄模様を構成する印刷インキがイソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、酸化チタンから選択される赤外線反射する顔料を含むことを特徴とする遮熱化粧シートである。
また、請求項3記載の発明は、前記オーバーレイフィルムが、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤を添加したホモまたはランダムポリプロピレン系樹脂からなり、前記オーバーレイフィルムの表面側に、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤を添加したアクリルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネートからなるコーティング層を設けてなることを特徴とする遮熱化粧シートである。
【0007】
またその請求項2記載の発明は、前記オーバーレイフィルムが、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤を添加したホモまたはランダムポリプロピレン系樹脂からなり、前記オーバーレイフィルムの表面側に、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤を添加したアクリルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネートからなるコーティング層を設けてなることを特徴とする請求項1記載の遮熱化粧シート、である。
【発明の効果】
【0008】
太陽光の赤外光領域の熱の吸収によって、蓄熱作用が発生し、結果として基材に伝わる事で、熱膨張が発生し、表裏の温度差によって反りが発生する。特に黒色顔料としてカーボンブラックを用いる事が多かったが、近赤外光領域(781nm?2500nm)においての反射率が低かった為、赤外光領域の熱の吸収によって、蓄熱作用が発生していた。
本発明はその請求項1記載の発明により、絵柄模様層の黒色顔料としてアゾメチンアゾ系顔料を用いることで、赤外光領域の反射率を一定以上に上げる事が可能となり、光線遮蔽効果を得て、反りの発生を防止することを可能とした。
【0009】
またその請求項2記載の発明により、オーバーレイフィルムに用いる樹脂と添加剤を特定し、さらにその表面側に特定の樹脂のコーティング層を設けることで経時の耐候性と光線遮蔽効果の維持とを可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の遮熱化粧シートの一実施例の断面の形状を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を図面に基づき詳細に説明する。図1に本発明の遮熱化粧シートの一実施例の断面の形状を示す。着色フィルム1、絵柄模様層2、オーバーレイフィルム3からなり、適宜コーティング層4を設けてなる。
【0012】
本発明における着色フィルム1としては、塩化ビニル樹脂代替として取り扱いが容易なホモまたはランダムポリプロピレン系樹脂またはポリエチレン樹脂が好適に用いられる。また、ヒンダートフェノール系酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダートアミン系光安定剤などを適宜添加するのが好適である。
【0013】
前記着色フィルム1に用いる顔料としては、イソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、酸化チタンなどが好適である。これらを用いることで着色フィルム1への赤外線の吸収を少なく、蓄熱機能を抑え、化粧シートとしての赤外線反射率を高くすることが可能となる。
【0014】
本発明における絵柄模様層2は、前記着色フィルム1にグラビア印刷などにより設けることが可能であり、前記着色フィルム1に印刷適性のあるインキで印刷して設ければ良い。具体的には前記着色フィル1がポリプロピレン樹脂であれば、ウレタン樹脂と塩化ビニル=酢酸ビニル共重合樹脂の混合物が好適に用いられる。
【0015】
本発明における絵柄模様層2に用いる顔料としては、イソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、酸化チタンなどが好適に用いられる。特に黒色顔料においてはアゾメチンアゾ系顔料を用いる。これにより絵柄模様層2への赤外線の吸収を少なく、蓄熱機能を抑え、化粧シートとしての赤外線反射率を高くすることが可能となる。
【0016】
本発明におけるアゾメチンアゾ系顔料としては、テトラクロロフタルイミドとアミノアニリンの反応化合物であるジアゾニウム基を有するものであり、特には粒子径が0.1?0.3μmのものが好適である。これらを用いることで、可視部で吸収、赤外部で反射といった特性を顕著に現すものとなる。
【0017】
本発明におけるオーバーフィルム3としては、さらにこの表面にコーティング層4を設ける場合は、前記着色フィルム1や絵柄模様層2との層間密着を考慮して樹脂を選択すればよく、具体的には前記着色フィルム1がホモまたはランダムポリプロピレン系樹脂またはポリエチレン樹脂であるなら同様のホモまたはランダムポリプロピレン系樹脂またはポリエチレン樹脂が好ましく、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤を添加するのが好適である。
【実施例1】
(削除)
【0018】
(削除)
【0019】
(削除)
【0020】
(削除)
【0021】
(削除)
【0022】
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【0023】
(削除)
【0024】
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【0025】
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【0026】
(削除)
【0027】
(削除)
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の遮熱化粧シートは、主に住居や店舗、船舶等の外装扉の表層に用いるのをはじめとし、窓枠、テラス、車庫等の屋外に利用可能である。
【符号の説明】
【0029】
1…着色フィルム
2…絵柄模様層
3…オーバーレイフィルム
4…コーティング層
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色フィルムの上に絵柄模様層とオーバーレイフィルムとを少なくともこの順に積層してなり、前記着色フィルムは、イソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、酸化チタンから選択される赤外線反射する顔料を含み、前記絵柄模様層は、印刷絵柄模様を構成する印刷インキの黒色顔料が、大日精化工業(株)製「クロモファインブラックA-1103」から成る、可視部で吸収、赤外部で反射を有する粒子径が0.1?0.3μmのアゾメチンアゾ系顔料であることを特徴とする遮熱化粧シート。
【請求項2】
前記絵柄模様層は、印刷絵柄模様を構成する印刷インキがイソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、酸化チタンから選択される赤外線反射する顔料を含むことを特徴とする請求項1記載の遮熱化粧シート。
【請求項3】
前記オーバーレイフィルムが、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤を添加したホモまたはランダムポリプロピレン系樹脂からなり、前記オーバーレイフィルムの表面側に、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤を添加したアクリルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネートからなるコーティング層を設けてなることを特徴とする請求項1または2に記載の遮熱化粧シート。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-10-30 
出願番号 特願2012-187390(P2012-187390)
審決分類 P 1 651・ 536- ZAA (B32B)
P 1 651・ 121- ZAA (B32B)
P 1 651・ 537- ZAA (B32B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 清水 晋治  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 蓮井 雅之
千壽 哲郎
登録日 2017-03-24 
登録番号 特許第6111559号(P6111559)
権利者 凸版印刷株式会社
発明の名称 遮熱化粧シート  

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