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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1348722
異議申立番号 異議2017-700284  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-17 
確定日 2019-01-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6003529号発明「圧電光偏向器、光走査装置、画像形成装置及び画像投影装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6003529号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、4、5〕、〔3、6〕について訂正することを認める。 特許第6003529号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6003529号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成24年10月24日の出願であって、平成28年9月16日にその特許権の設定登録がされ、同年10月5日に特許掲載公報が発行されたところ、特許掲載公報の発行の日から6月以内である平成29年3月17日に特許異議申立人市東勇(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年5月25日付けで取消理由が通知され、同年7月28日に意見書が提出され、同年11月6日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ、平成30年1月9日付けで意見書の提出及び訂正請求がされ、同年3月8日付けで申立人から意見書が提出され、同年6月5日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ、同年8月7日付けで意見書の提出及び訂正請求がされ、同年10月10日付けで申立人から意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成30年8月7日付けの訂正請求(以下「本件訂正請求」という。また、その訂正を「本件訂正」という。)は、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし6について訂正することを求めるものであって、以下の訂正事項1及び訂正事項2からなる(なお、下線は、請求人が付したものである。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記上部電極及び前記下部電極に電圧を印加し、前記駆動梁が曲げ変形することで、前記弾性支持部材に捻り変形が発生して、前記可動部が回転する圧電光偏向器において、」と記載されているのを、「前記上部電極及び前記下部電極に電圧を印加し、前記駆動梁が曲げ変形することで、前記弾性支持部材に捻り変形が発生して、前記可動部が回転する圧電光偏向器において、前記駆動梁は、少なくとも前記上部電極、前記圧電部材及び前記下部電極が絶縁層で覆われており、前記絶縁層は、前記駆動梁が駆動すると前記圧電部材と共に伸縮し、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、4、5も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記圧電部材の前記上部電極と前記下部電極の少なくとも一方の電極の先端の角が円弧形状又はテーパー形状になっている」と記載されているのを、「前記駆動梁の一端は前記弾性支持部材と接続され、前記駆動梁の他端は前記固定ベースに接続されており、前記圧電部材の前記上部電極と前記下部電極の少なくとも一方の電極の前記駆動梁の前記一端の側の先端の角が円弧形状又はテーパー形状になっている」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、4、5も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「前記第2の駆動梁の圧電部材の前記上部電極及び下部電極に電圧を印加し、前記第2の駆動梁が曲げ変形することで、前記第2の弾性支持部材に捻り変形が発生して、前記可動枠が回転して、前記可動部が第2の方向に回転する圧電光偏向器において、」と記載されているのを、「前記第2の駆動梁の圧電部材の前記上部電極及び下部電極に電圧を印加し、前記第2の駆動梁が曲げ変形することで、前記第2の弾性支持部材に捻り変形が発生して、前記可動枠が回転して、前記可動部が第2の方向に回転する圧電光偏向器において、前記第1の駆動梁は、少なくとも前記第1の駆動梁における前記上部電極、前記圧電部材及び前記下部電極が絶縁層で覆われており、前記絶縁層は、前記第1の駆動梁が駆動すると前記第1の駆動梁における前記圧電部材と共に伸縮し、」に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項6も同様に訂正する。)。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3に「少なくとも前記第1の駆動梁における前記圧電部材の前記上部電極と下部電極の少なくとも一方の電極の先端の角が円弧形状又はテーパー形状になっている」と記載されているのを、「前記第1の駆動梁の一端は前記第1の弾性支持部材と接続され、前記第1の駆動梁の他端は前記可動枠に接続されており、少なくとも前記第1の駆動梁における前記圧電部材の前記上部電極と下部電極の少なくとも一方の電極の前記第1の駆動梁の前記一端の側の先端の角が円弧形状又はテーパー形状になっている」に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項6も同様に訂正する。)。

2 訂正の目的、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び一群の請求項
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否について
訂正後の請求項1に係る発明は、訂正前の請求項1に係る発明に対し、「前記駆動梁は、少なくとも前記上部電極、前記圧電部材及び前記下部電極が絶縁層で覆われており、前記絶縁層は、前記駆動梁が駆動すると前記圧電部材と共に伸縮し、」という構成要素を付加することによって特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
請求項1を引用する請求項2、4、5においても同様である。

イ 新規事項の有無について
「絶縁層」に関し、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0016】には、「なお、駆動梁30a,30b全体は絶縁層(絶縁膜)で覆われているが、図1及び図2では省略してある。」との記載があり、段落【0017】には、「図3は、駆動梁30aとその近傍の固定ベース40を拡大して示した模式図で、(a)は駆動梁30aを絶縁層で覆う前の平面図、(b)は絶縁層で覆った後の平面図、(c)は(b)のA-A’線の断面図である。なお、駆動梁30bも同様の構成であるので、図示は省略する。」、段落【0018】には、「図3に示すように、駆動梁30aは、固定ベース40から突出して形成された梁状部材31a上に、接着層33a、下部電極35a、圧電部材32a、上部電極34a、絶縁層36aの順でスパッタにより成膜し積層して構成される。」との記載があり、段落【0023】には、「ところで、駆動梁30a,30bを駆動すると、圧電部材32a,32bと共に駆動梁30a,30bを覆っている絶縁層(絶縁膜)も伸縮し、」との記載があるから、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、本件特許の願書に添付した明細書を「本件特許明細書」という。また、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面を「本件特許明細書等」という。)の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものでない。
したがって、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1は、「絶縁層」という構成要件の直列的付加であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
また、訂正事項1は、請求項1を引用する請求項2、4、5において、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否について
訂正前の請求項1では、いずれの先端の角が円弧形状又はテーパー形状であるかについては特定していなかったところ、訂正後の請求項1では、駆動梁の前記一端の側(弾性支持部材と接続された側)の先端の角と特定するものであるから、訂正事項2は、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
請求項1を引用する請求項2、4、5においても同様である。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
本件特許の願書に添付した明細書の段落【0013】には、「図1に、実施例1に係る圧電光偏向器の斜視図、図2に平面図を示す。図1,図2において、10は可動部であり、レーザ光等を反射させる光反射面としてのミラー部15を有している。可動部10の両端は、該可動部10を回転可能に支持する一対の弾性支持部材としてのトーションバー20a,20bが接続されている。このトーションバー20a,20bの可動部10と反対側の端部は、該トーションバー20a,20bの長手方向と直交する向きを長手方向とした一対の梁状部材31a,31bの一端と接続されている。梁状部材31a,31bの他端は固定ベース40に接続されている。」との記載があり、図1及び図2には、上部電極34a、34bの梁状部材31a,31b(駆動梁30a、30b)の一端の側(トーションバー20a,20bと接続された側)の先端の角が円弧形状であることが記載されている。
したがって、訂正事項2は、本件特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものでない。
したがって、訂正事項2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項2は、請求項1において、「先端の角」に駆動梁の前記一端の側(弾性支持部材と接続された側)という発明特定事項を付加するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
また、訂正事項2は、請求項1を引用する請求項2、4、5において、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否について
訂正後の請求項3に係る発明は、訂正前の請求項3に係る発明に対し、「前記第1の駆動梁は、少なくとも前記第1の駆動梁における前記上部電極、前記圧電部材及び前記下部電極が絶縁層で覆われており、前記絶縁層は、前記第1の駆動梁が駆動すると前記第1の駆動梁における前記圧電部材と共に伸縮し、」という構成要素を付加することによって特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
請求項3を引用する請求項6においても同様である。

イ 新規事項の有無について
「絶縁層」に関し、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0016】には、「なお、駆動梁30a,30b全体は絶縁層(絶縁膜)で覆われているが、図1及び図2では省略してある。」との記載があり、段落【0017】には、「図3は、駆動梁30aとその近傍の固定ベース40を拡大して示した模式図で、(a)は駆動梁30aを絶縁層で覆う前の平面図、(b)は絶縁層で覆った後の平面図、(c)は(b)のA-A’線の断面図である。なお、駆動梁30bも同様の構成であるので、図示は省略する。」、段落【0018】には、「図3に示すように、駆動梁30aは、固定ベース40から突出して形成された梁状部材31a上に、接着層33a、下部電極35a、圧電部材32a、上部電極34a、絶縁層36aの順でスパッタにより成膜し積層して構成される。」との記載があり、段落【0023】には、「ところで、駆動梁30a,30bを駆動すると、圧電部材32a,32bと共に駆動梁30a,30bを覆っている絶縁層(絶縁膜)も伸縮し、」との記載がある。
そして、段落【0036】には、「図6に、実施例4に係る圧電光偏向器の全体斜視図を示す。これまで説明した圧電光偏向器は、いずれも1軸方向に光を偏向するものであったが、本実施例は2軸方向に光を偏向する構成としたものである。」との記載がある。
そうすると、2軸方向に光を偏向する図6の記載の圧電光偏向器においても、1軸方向に光を偏向する図1等の圧電光偏向器と同様、第1の駆動梁130a,130b全体が絶縁層で覆われていると当業者には理解できる。
したがって、訂正事項3は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項3は、「絶縁層」という構成要件の直列的付加であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
また、訂正事項3は、請求項3を引用する請求項6において、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的の適否について
訂正前の請求項3では、いずれの先端の角が円弧形状又はテーパー形状であるかについては特定していなかったところ、訂正後の請求項3では、第1の駆動梁の前記一端の側(第1の弾性支持部材と接続された側)の先端の角と特定するものであるから、訂正事項4は、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
請求項3を引用する請求項6においても同様である。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
本件特許明細書の段落【0037】には、「【0037】図6において、10は光を反射させる光反射面としてのミラー部を有する可動部であり、この可動部10の両側には、該可動部10を回転可能に支持する一対の第1の弾性支持部材としての第1のトーションバー120a,120bが接続されている。この第1のトーションバー120a,120bの可動部10と反対側の端部は、該第1のトーションバー120a,120bの長手方向と略直交する向きを長手方向として一対の第1の駆動梁130a,130bが接続されている。第1の駆動梁130a,130bは、梁状部材の片面に圧電部材が積層され、平板短冊状のユニモルフ構造を形成している。この第1の駆動梁130a,130bは、中央に穴が開いている枠状の可動枠140の内側の一辺から同一方向に突出するように配置されて、可動枠140と接続されている。そして、この第1の駆動梁130a,130bは、第1のトーションバー120a,120bの片側にのみ配置され、該駆動梁130a,130bで可動部10と第1のトーションバー120a,120bを可動枠140に対して片持ち支持した構成となっている。」との記載があり、図6には、上部電極134a、134bの第1の駆動梁130a、130b)の一端の側(トーションバー120a,120bと接続された側)の先端の角が円弧形状であることが記載されている。
したがって、訂正事項4は、本件特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものでない。
したがって、訂正事項4は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項4は、請求項3において、「先端の角」に第1の駆動梁の前記一端の側(第1の弾性支持部材と接続された側)という発明特定事項を付加するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
また、訂正事項4は、請求項3を引用する請求項6において、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(3)一群の請求項について
訂正事項1、2に係る訂正前の請求項1、2、4、5について、請求項2は請求項1を引用し、請求項4は請求項1又は2を引用し、請求項5は、請求項4を引用しているものである。そして、これらの請求項は、訂正事項1、2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
また、訂正事項3、4に係る訂正前の請求項3、6について、請求項6は請求項3を引用しているものである。そして、請求項6は、訂正事項3、4によって記載が訂正される請求項3に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項〔1、2、4、5〕に対応する訂正後の請求項〔1、2、4、5〕、及び訂正前の請求項〔3、6〕に対応する請求項〔3、6〕は、それぞれ特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
よって、訂正事項1、2に係る訂正の請求は、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

(4)独立特許要件について
本件においては、訂正前の全ての請求項1?6について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1ないし4に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。

3 訂正の適否についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第4項の規定、並びに、同条第9項で準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1、2、4、5〕、請求項〔3、6〕について訂正を認める。

第3 特許異議申立てについて
1 本件特許発明
上記第2のとおり、本件訂正の訂正事項1ないし4による訂正を認めるから、本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明6」という。)は、本件訂正により訂正された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、その本件特許発明1ないし6は以下に記載したとおりのものである。なお、下線部は、訂正箇所を示す。
「【請求項1】
固定ベースと、光反射面を有する可動部と、前記可動部を回転可能に支持する弾性支持部材と、前記可動部及び前記弾性支持部材を前記固定ベースに対して支持する駆動梁とを有し、
前記駆動梁は、梁状部材と該梁状部材上に設けられた圧電部材とからなり、前記圧電部材は上部電極及び下部電極を有し、
前記上部電極及び前記下部電極に電圧を印加し、前記駆動梁が曲げ変形することで、前記弾性支持部材に捻り変形が発生して、前記可動部が回転する圧電光偏向器において、
前記駆動梁は、少なくとも前記上部電極、前記圧電部材及び前記下部電極が絶縁層で覆われており、
前記絶縁層は、前記駆動梁が駆動すると前記圧電部材と共に伸縮し、
前記駆動梁の一端は前記弾性支持部材と接続され、前記駆動梁の他端は前記固定ベースに接続されており、前記圧電部材の前記上部電極と前記下部電極の少なくとも一方の電極の前記駆動梁の前記一端の側の先端の角が円弧形状又はテーパー形状になっていることを特徴とする圧電光偏向器。
【請求項2】
一対の駆動梁により、前記可動部及び前記弾性支持部材が前記固定ベースに対して片持ち支持され、
前記電極の前記駆動梁の自由端側の先端の角が円弧形状又はテーパー形状になっていることを特徴とする請求項1に記載の圧電光偏向器。
【請求項3】
可動枠と、光反射面を有する可動部と、前記可動部を回転可能に支持する第1の弾性支持部材と、前記可動部及び前記第1の弾性支持部材を前記可動枠に対して支持する第1の駆動梁と、
固定ベースと、前記可動枠を回転可能に支持する第2の弾性支持部材と、前記可動枠及び前記第2の弾性支持部材を前記固定ベースに対して支持する第2の駆動梁とを有し、
前記第1の駆動梁及び前記第2の駆動梁は、各々、梁状部材と該梁状部材上に設けられた圧電部材とからなり、前記圧電部材は上部電極及び下部電極を有し、
前記第1の駆動梁の圧電部材の前記上部電極及び下部電極に電圧を印加し、前記第1の駆動梁が曲げ変形することで、前記第1の弾性支持部材に捻り変形が発生して、前記可動部が第1の方向に回転し、
前記第2の駆動梁の圧電部材の前記上部電極及び下部電極に電圧を印加し、前記第2の駆動梁が曲げ変形することで、前記第2の弾性支持部材に捻り変形が発生して、前記可動枠が回転して、前記可動部が第2の方向に回転する圧電光偏向器において、
前記第1の駆動梁は、少なくとも前記第1の駆動梁における前記上部電極、前記圧電部材及び前記下部電極が絶縁層で覆われており、
前記絶縁層は、前記第1の駆動梁が駆動すると前記第1の駆動梁における前記圧電部材と共に伸縮し、
前記第1の駆動梁の一端は前記第1の弾性支持部材と接続され、前記第1の駆動梁の他端は前記可動枠に接続されており、少なくとも前記第1の駆動梁における前記圧電部材の前記上部電極と下部電極の少なくとも一方の電極の前記第1の駆動梁の前記一端の側の先端の角が円弧形状又はテーパー形状になっていることを特徴とする圧電光偏向器。
【請求項4】
光源と、光源からの光ビームを偏向走査させる請求項1又は2に記載の圧電光偏向器と、該圧電光偏向器で偏向走査された光ビームを被走査面にスポット状に結像する走査光学系とを備えることを特徴とする光走査装置。
【請求項5】
請求項4に記載の光走査装置と、光ビームの走査により潜像を形成する感光体と、潜像をトナーで顕像化する現像手段と、トナー像を記録紙に転写する転写手段とを有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項6】
請求項3に記載の圧電光偏向器を有し、該圧電光偏向器により光ビームを偏向・走査して、投影面に画像を投影することを特徴とする画像投影装置。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし6に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
(1)平成29年5月25日付け取消理由通知の取消理由
請求項1ないし6に係る発明は、いずれも下記の甲第1号証又は甲第2号証を主引例として、これに下記の他の証拠に記載の構成を組合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

甲第1号証:特開2011-18026号公報
甲第2号証:特開2011-209362号公報
甲第3号証:特開2009-152989号公報
甲第4号証:特開2006-286774号公報
甲第5号証:特開平3-233983号公報
甲第6号証:新版 高電圧工学 第61頁及び奥付 昭和55年5月15日発行
甲第7号証:JIS C 2110-1:2010 固体電気絶縁材料-絶縁破壊の強さの試験方法-第1部:商用周波数交流電圧印加による試験(作成日:平成29年3月15日)(http://kikakurui.com/c2/C2110-1-2010-01.html)

(2)平成29年11月6日付け取消理由通知(決定の予告)の取消理由
請求項1、3ないし6に係る発明は、いずれも甲第1号証に記載された発明(主引例)及び甲第2号証に記載された課題及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(3)平成30年6月5日付け取消理由通知(決定の予告)の取消理由
請求項1ないし6に係る発明は、いずれも甲第1号証に記載された発明(主引例)及び絶縁破壊に関する周知の課題及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

3 引用文献の記載
(1)甲1の記載事項、及び、甲1に記載された発明
ア 甲1の記載事項
取消理由で通知した特開2011-18026号公報(以下「甲1」という。)には次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。以下、同様。)
a 「【請求項1】
固定ベースと、光反射面を有するミラー部と、前記ミラー部を揺動可能に支持する一対の弾性支持部材と、梁状部材に圧電部材が固着された一対の駆動梁とを有し、
前記弾性支持部材の長手方向と前記駆動梁の長手方向とが略直交して配置されて、両者が接続され、前記駆動梁の他端は固定ベースに固定されて、一対の前記駆動梁で、前記ミラー部と一対の前記弾性支持部材とが前記固定ベースに対して片持ち支持され、
前記駆動梁が曲げ振動することで、前記弾性支持部材に捻り変形が発生して、前記ミラー部が回転振動することを特徴とする光偏向器。
【請求項2】
・・・(途中省略)・・・。
【請求項10】
可動枠と、光反射面を有するミラー部と、前記ミラー部を揺動可能に支持する一対の第1の弾性支持部材と、梁状部材に圧電部材が固着された一対の第1の駆動梁と、前記可動枠を揺動可能に支持する一対の第2の弾性支持部材と、梁状部材に圧電部材が固着された一対の第2の駆動梁と、固定ベースとを有し、
前記第1の弾性支持部材の長手方向と前記第1の駆動梁の長手方向とが略直交して配置されて、両者が接続され、前記第1の駆動梁の他端は可動枠に固定されて、一対の前記第1の駆動梁で、前記ミラー部と前記一対の第1の弾性支持部材とが前記可動枠に対して片持ち支持され、
前記第2の弾性支持部材の長手方向と前記第2の駆動梁の長手方向とが略直交して配置されて、両者が接続され、前記第2の駆動梁の他端は固定ベースに固定されて、一対の前記第2の駆動梁で、前記可動枠と一対の前記第2の弾性支持部材とが前記固定ベースに対して片持ち支持され、
前記第1の駆動梁が曲げ振動することで、前記第1の弾性支持部材に捻り変形が発生して、前記ミラー部が第1の方向に回転振動し、
前記第2の駆動梁が曲げ振動することで、前記第2の弾性支持部材に捻り変形が発生して、前記可動枠が回転振動し、前記ミラー部が第2の方向に回転振動することを特徴とする光偏向器。
【請求項11】
・・・(途中省略)・・・
【請求項12】
光源と、光源からの光ビームを偏向させる請求項1乃至9のいずれか1項記載の光偏向器と、偏向された光ビームを被走査面にスポット状に結像する結像光学系とを備えることを特徴とする光走査装置。
【請求項13】
請求項12記載の光走査装置と、光ビームの走査により潜像を形成する感光体と、潜像をトナーで顕像化する現像手段と、トナー像を記録紙に転写する転写手段とを有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項14】
光源と、
前記光源からの光ビームを画像信号に応じて変調する変調器と、
前記光ビームを略平行光とするコリメート光学系と、
前記略平行光とされた光ビームを偏向して投影面に投射する請求項1乃至11のいずれか1項記載の光偏向器とを有することを特徴とする画像投影装置。」

b 「【0001】
本発明は、レーザ光等の光ビームを偏向・走査する光偏向器、詳しくは圧電力を用いた光偏向器に関し、さらに、この光偏向器を備えた光走査装置、この光走査装置を光書込みユニットとして備える画像形成装置、この光偏向器を投影面の走査ユニットとして備える画像投影装置に関する。」

c 「【0010】
本発明は、従来の圧電力を用いる光偏向器の上記のような問題を解決し、小型で駆動効率が良く、大きな回転振幅が得られる光偏向器を提供することにある。」

d 「【0031】
図1に、本発明の光偏向器の実施例1の全体斜視図、図2に平面図を示す。図1,図2において、10は光を反射させる反射面を有するミラー部であり、このミラー部10の両端には、該ミラー部10を回転(揺動)可能に支持する一対の弾性支持部材としてのトーションバースプリング20a,20bが接続されている。なお、実施例1では、ミラー部10の中心(重心)は、トーションバースプリング20a,20bの中心軸に対して一致させる。このトーションバースプリング20a,20bのミラー部10と反対側の端部は、該トーションバースプリング20a,20bの長手方向と略直交する向きを長手方向として一対の梁状部材31a,31bの一端と接続されている。この梁状部材31a,31bの他端は固定ベース40に接続されている。
【0032】
梁状部材31a,31bは、トーションバースプリング20a,20bの片側にのみ配置されており、この梁状部材31a,31bでミラー部10とトーションバースプリング20a,20bとを固定ベース40に対して片持ち支持した構成となっている。この梁状部材31a,31bの片面に、圧電部材32a,32bが積層され、梁状部材と圧電部材とで、平板短柵状のユニモルフ構造の駆動梁30a,30bを形成している。
【0033】
例えば、MEMS(micro electro mechanical systems)プロセスによって加工することで、ミラー部10、トーションバースプリング20a,20b、駆動梁30a,30bを一体で形成する。ミラー部10は、シリコン基板の表面にアルミニウムや金などの金属の薄膜を形成することによって反射面を形成する。
【0034】
ここで、図3により駆動梁の詳細な構成を説明する。図3は、駆動梁30aとその近傍の固定ベース40を拡大して示した模式図で、(a)は絶縁層で覆う前の平面図、(b)は絶縁層で覆った後の平面図、(c)は(b)のA-A’線部分の断面図である。なお、駆動梁30bも同様の構成であるので、図示は省略する。
【0035】
図3に示すように、駆動梁30aは、固定ベース40から突出して形成された梁状部材31aの上に、接着層33a、下部電極35a、圧電材料(圧電部材)32a、上部電極34a、絶縁層36aの順でスパッタにより成膜し積層して構成され、ランド部37a,38aなどの必要な部分だけが残るようにエッチング加工されている。接着層33aの材料はチタン(Ti)、上部電極34a、下部電極35aは白金(Pt)、圧電材料32aはチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などが使用される。
【0036】
ランド部37a,38aから配線を引き出し、上部電極34aと下部電極35aの間に電圧を印加すると、圧電材料32aは、その電歪特性により、梁状部材31a表面の面内方向に伸縮することで、駆動梁30a全体が反って、曲げ変形する。駆動梁30bについても、圧電部材32aと同相の電圧を印加することで、駆動梁30b全体が、駆動梁30aと同一方向に曲げ変形する。駆動梁30a.30bの圧電部材32a,32bに印加する電圧の波形は、パルス波や正弦波などのいずれでもよい。
【0037】
ここで、図1、図2に示すように、トーションバースプリング20a,20bと駆動梁30a,30bの長手方向が略直交して配置されて接続されていることにより、駆動梁30a,30bの曲げ振動による該駆動梁30a,30bの先端の上下振動がトーションバースプリング20a,20bの捻り中心軸に対して垂直に働くため、駆動梁30a,30bの曲げ振動がトーションバースプリング20a,20bの回転振動(捻り振動)に効率よく変換され、ミラー部10が大きく回転振動する。また、駆動梁30a,30bはトーションバースプリング20a,20bとミラー部10を片持ちした構成となっているため、駆動梁30a,30bの先端は自由に振動することができ、ミラー部10はより大きな角度振幅を得ることができる。さらに、梁状部材31a,31bは、トーションバースプリング20a,20bの片側にのみ配置されているため、小型化が可能である。これらの作用・効果は、以後の各実施例においても基本的に同様である。
・・・(途中省略)・・・
【0042】
なお、本実施例では、下部電極、上部電極と共に、スパッタにより圧電材料を成膜した構成を示したが(図3)、圧電材料はバルク材料を所定のサイズに切断したものを接着剤により貼り付けても良いし、またエアロゾルデポジション法(AD法)で形成しても良い。また、駆動梁は、梁状部材の片面に圧電材料が配置されたユニモルフ構造としたが、梁状部材の両面に圧電材料を配置したバイモルフ構造としてもよい。これは、以後の各実施例においても同様である。」

e 「【実施例9】
【0080】
図26に、本発明の光偏向器の実施例9の全体斜視図を示す。これまで説明した光偏向器は、いずれも1軸方向に光を偏向するものであったが、本実施例は2軸方向に光を偏向する構成としたものである。
【0081】
図26において、10は光を反射させる反射面を有するミラー部であり、このミラー部10の両側には、該ミラー部10を揺動可能に支持する一対の第1の弾性指示部材としての第1のトーションバースプリング120a,120bが接続されている。この第1のトーションバースプリング120a,120bのミラー部10と反対側の端部は、該第1のトーションバースプリング120a,120bの長手方向と略直交する向きを長手方向として一対の第1の駆動梁130a,130bが接続されている。第1の駆動梁130a,130bは、梁状部材の片面に圧電材料が積層され、平板短冊状のユニモルフ構造を形成している。この第1の駆動梁130a,130bは、中央に穴が開いている枠状の可動枠140の内側の一辺から同一方向に突出するように接続され、第1のトーションバースプリング120a,120bの片側にのみ配置され、該駆動梁130a,130bでミラー部10と第1のトーションバースプリング120a,120bを可動枠140に対して片持ち支持した構成となっている。
【0082】
さらに、可動枠140の両側には、該可動枠140を揺動可能に支持する一対の第2の弾性支持部材としてのトーションバースプリング220a,220bが接続されている。第2のトーションバースプリング220a,220bの可動枠42と反対側の端部は、第2のトーションバースプリング220a,220bの長手方向と略直交する向きを長手方向として一対の第2の駆動梁230a,230bが接続されている。第2の駆動梁230a,230bも梁状部材の片面に圧電材料が積層され、平板短冊状のユニモルフ構造を形成している。この第2の駆動梁230a,230bは、固定ベース240から同一方向に突出するように接続され、第2のトーションバースプリング220a,220bの片側にのみ配置されており、該第2の駆動梁230a,230bで、可動枠240と第2のトーションバースプリング220a,220bを固定ベース240に対して片持ち支持した構成となっている。」

f 「【実施例11】
【0088】
本実施例は、実施例1?8の1軸方向に光を偏向する光偏向器を用いて画像形成装置の光書き込みユニットとしての光走査装置を提供するものである。
・・・(途中省略)・・・
【実施例12】
【0093】
本実施例は、実施例11の光走査装置を光書込みユニットの構成部材として実装した画像形成装置を提供するものである。
・・・(途中省略)・・・
【実施例13】
【0100】
本実施例は、実施例9、10のような2軸方向に光を偏向する光偏向器を実装した画像投影装置を提供するものである。
・・・(途中省略)・・・
【符号の説明】
【0105】」

g 「【図1】



h 「【図3】



i「




イ 甲1に記載された発明(甲1発明)
上記dの【0035】、【0036】及び図3の記載から、「駆動梁30aは、固定ベース40から突出して形成された梁状部材31aの上に、接着層33a、下部電極35a、圧電材料(圧電部材)32a、上部電極34a、絶縁層36aの順で積層して構成され、前記上部電極、前記圧電部材及び前記下部電極が絶縁層で覆われており、下部電極35aと上部電極34aの積層部分の形状は四角形をしており、上部電極34aと下部電極35aの間に電圧を印加すると、駆動梁30a全体が反って、曲げ変形」することが読み取れる。
さらに、上記aの【請求項1】の記載から、甲1には、
「固定ベースと、光反射面を有するミラー部と、前記ミラー部を揺動可能に支持する一対の弾性支持部材と、梁状部材に圧電部材が固着された一対の駆動梁とを有し、
前記弾性支持部材の長手方向と前記駆動梁の長手方向とが略直交して配置されて、両者が接続され、前記駆動梁の他端は固定ベースに固定されて、一対の前記駆動梁で、前記ミラー部と一対の前記弾性支持部材とが前記固定ベースに対して片持ち支持され、
前記駆動梁が曲げ振動することで、前記弾性支持部材に捻り変形が発生して、前記ミラー部が回転振動する光偏向器であって、
駆動梁30aは、固定ベース40から突出して形成された梁状部材31aの上に、接着層33a、下部電極35a、圧電材料(圧電部材)32a、上部電極34a、絶縁層36aの順で積層して構成され、前記上部電極、前記圧電部材及び前記下部電極が絶縁層で覆われており、下部電極35aと上部電極34aの積層部分の形状は四角形をしており、上部電極34aと下部電極35aの間に電圧を印加すると、駆動梁30a全体が反って、曲げ変形する
光偏向器。」
の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

ウ 甲1に記載された発明(甲1発明(2軸光偏向器))
上記aの【請求項10】、上記eの【実施例9】、上記dの【0035】、【0036】、【0042】及び図3、図26の記載から、甲1には、
「可動枠と、光反射面を有するミラー部と、前記ミラー部を揺動可能に支持する一対の第1の弾性支持部材と、梁状部材に圧電部材が固着された一対の第1の駆動梁と、前記可動枠を揺動可能に支持する一対の第2の弾性支持部材と、梁状部材に圧電部材が固着された一対の第2の駆動梁と、固定ベースとを有し、
前記第1の弾性支持部材の長手方向と前記第1の駆動梁の長手方向とが略直交して配置されて、両者が接続され、前記第1の駆動梁の他端は可動枠に固定されて、一対の前記第1の駆動梁で、前記ミラー部と前記一対の第1の弾性支持部材とが前記可動枠に対して片持ち支持され、
前記第2の弾性支持部材の長手方向と前記第2の駆動梁の長手方向とが略直交して配置されて、両者が接続され、前記第2の駆動梁の他端は固定ベースに固定されて、一対の前記第2の駆動梁で、前記可動枠と一対の前記第2の弾性支持部材とが前記固定ベースに対して片持ち支持され、
前記第1の駆動梁が曲げ振動することで、前記第1の弾性支持部材に捻り変形が発生して、前記ミラー部が第1の方向に回転振動し、
前記第2の駆動梁が曲げ振動することで、前記第2の弾性支持部材に捻り変形が発生して、前記可動枠が回転振動し、前記ミラー部が第2の方向に回転振動する光偏向器であって、
前記第1の駆動梁は、少なくとも前記第1の駆動梁における前記上部電極、前記圧電部材及び前記下部電極が絶縁層で覆われており、
上部電極34aと下部電極35aの間に電圧を印加すると、駆動梁30a全体が反って、曲げ変形し、
前記第1及び第2の駆動梁は、前記固定ベースから突出して形成された前記梁状部材の上に、接着層、下部電極、圧電材料(圧電部材)、上部電極、絶縁層の順で積層して構成され、前記下部電極と前記上部電極の積層部分の形状は四角形をしている光偏向器。」
の発明(以下「甲1発明(2軸光偏向器)」という。)が記載されている。

エ 甲1に記載された発明(甲1発明(光走査装置))
上記aの【請求項12】及び上記fの【実施例11】の記載から、甲1には、
「光源と、光源からの光ビームを偏向させる甲1発明の光偏向器と、偏向された光ビームを被走査面にスポット状に結像する結像光学系とを備える光走査装置。」
の発明(以下「甲1発明(光走査装置)」という。)が記載されている。

オ 甲1に記載された発明(甲1発明(画像形成装置))
上記aの【請求項13】、上記fの【実施例12】及び上記オの記載から、甲1には、
「甲1発明(光走査装置)の光走査装置と、光ビームの走査により潜像を形成する感光体と、潜像をトナーで顕像化する現像手段と、トナー像を記録紙に転写する転写手段とを有する画像形成装置。」の発明(以下「甲1発明(画像形成装置)」という。)が記載されている。

カ 甲1に記載された発明(甲1発明(画像投影装置))
上記aの【請求項14】、上記fの【実施例13】及び上記ウの記載から、甲1には、
「光源と、
前記光源からの光ビームを画像信号に応じて変調する変調器と、
前記光ビームを略平行光とするコリメート光学系と、
前記略平行光とされた光ビームを偏向して投影面に投射する甲1発明(2軸光偏向器)の光偏向器とを有する画像投影装置。」
の発明(以下「甲1発明(画像投影装置)」という。)が記載されている。

(2)甲2の記載事項、甲2に記載された課題及び発明
ア 甲2の記載事項
取消理由で通知した特開2011-209362号公報(以下「甲2」という)には次の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、駆動効率を向上させつつ、放電による電極間の短絡を防止することができる圧電アクチュエータ、かかる圧電アクチュエータを備えた光スキャナ、かかる光スキャナを備えた光走査型画像表示装置、かかる光スキャナを備えた画像形成装置に関する。」

「【0008】
一般的に、圧電素子の厚みを薄くすると、圧電素子が接着された基板の変位量は大きくなる。その結果、所望の基板の変位量を得るために必要な駆動電圧(以下、駆動効率と称する)を小さくすることができる。しかしながら、圧電素子の厚みを薄くすると、相対的に電極同士が対向する方向の電極間の距離が近くなる。このため、駆動電圧が電源から電極に印加された際に、一方の電極の導電性接着層から他方の電極へ放電が起こり、電極間の短絡が起こってしまう可能性がある。圧電アクチュエータの電極間に短絡が起こってしまうと、圧電アクチュエータが動作しなくなる恐れがある。これを踏まえ、電極間の短絡を防止する方法を考える。」

「【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、駆動効率を向上させつつ、放電による電極間の短絡を防止することができる圧電アクチュエータを提供することを目的とする。」

「【0026】
〔光スキャナ概観〕
まず図1を用いて、光スキャナと水平走査ドライバとについて説明する。図1は、本発明の光スキャナと水平走査ドライバとの概観を示す斜視図である。まず、光スキャナについて説明する。図1に示される光スキャナ1は、基板10と、筐体20と、圧電素子40と、接着層50と、を備える。本実施形態における光スキャナ1は、本発明の光スキャナの一例である。
【0027】
本実施形態における方向を定義する。同一平面上において直交する方向をそれぞれX軸方向、Y軸方向とする。また、そのX軸Y軸がなす平面に直交する方向をZ軸方向とする。本実施形態におけるZ軸方向は、順に本発明の所定の方向の一例である。
【0028】
基板10は、導電性を有す部材であるステンレスにて形成される。基板10は、厚みが100μmの四角い板形状を有す。基板10は、ミラー部11と、梁部12、13と、枠板部14と、を備える。ミラー部11は、四角い板形状を有している。さらに、ミラー11mが、ミラー部11の両面のうち一方の面に形成されている。梁部12、13は、ミラー部11からX軸方向に延び、ミラー部11を支持している。枠板部14は、四角い枠形状を有している。さらに、枠板部14は、ミラー部11と、梁部12、13とを囲むように形成され、梁部12、13と連結されている。後述するが、枠板部14の片側の面に接着層50が塗布される。この枠板部14の片側の面を枠板部14の接着面14aと称する。本実施形態における接着面14aは、本発明の片側の面の一例である。本実施形態における基板10、ミラー部11、ミラー11m、枠板部14は、順に本発明の基板、ミラー部、ミラー、枠板部の一例である。本実施形態における梁部12、13は、本発明の1対の梁部の一例である。
【0029】
筐体20は、支持部21と、ベース部22と、を備える。支持部21は、Z軸方向に長い直方体形状を有している。基板10のY軸方向における両端のうち一端が、支持部21と接続される。ベース部22は、直方体形状を有している。支持部21とベース部22とは接続されている。本実施形態における筐体20は、本発明の筐体の一例である。
【0030】
次に、同じく図1を用いて水平走査ドライバについて説明する。図1に示される水平走査ドライバ30は、駆動電圧を制御する装置である。そして、水平走査ドライバ30は、配線31を経由して基板10に電気的に接続される。さらに、水平走査ドライバ30は、配線32を経由して、圧電素子40に電気的に接続される。
【0031】
〔圧電アクチュエータ概観〕
次に、図2、図3、図4を用いて、光スキャナ1の圧電アクチュエータ39について説明する。図2は、光スキャナ1の圧電アクチュエータ39を示す平面図である。図3は、図2のA-A線に従う矢視断面図である。図4は、圧電アクチュエータ39の側面を示す断面図である。圧電アクチュエータ39は、圧電素子40と、接着層50と、基板10の枠板部14の一部と、を含む。本実施形態における枠板部14の一部は、本発明の振動板の一例である。本実施形態における圧電アクチュエータ39は、本発明の圧電アクチュエータの一例である。
【0032】
圧電素子40のX軸方向の距離を圧電素子40の横幅Px、圧電素子40のY軸方向の距離を圧電素子40の縦幅Py、圧電素子40のZ軸方向の距離を圧電素子40の厚みPzと称する。図2に示すように、圧電素子40は、接着面14aに形成される。圧電素子40は、圧電素子40の横幅Pxが3mm、圧電素子40の縦幅Pyが3mm、圧電素子40の厚みPzが0.06mmである四角い板形状を有す。また、絶縁性接着層52が圧電素子40の側面に形成されている。
【0033】
さらに、図3に示すように、圧電素子40は、圧電体41と、1対の電極42と、を備える。圧電体41の材料は、圧電材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(以下、PZTと称する)を含む。圧電体41は、板形状を有す。1対の電極42は、圧電体41のZ軸方向における両面に設けられる。1対の電極42は、導電性を有する材質である金にて形成される。1対の電極42は、第1の電極43と第2の電極44とを有す。第2の電極44は、図示しない配線32を経由して、図示しない水平走査ドライバ30と接続されている。図4に示すように、第1の電極43は圧電体41の両面のうち他方の面41bに設けられ、第2の電極44は圧電体41のZ軸方向における両面のうち一方の面41aに設けられる。本実施形態における圧電素子40、圧電体41、第1の電極43、第2の電極44、一方の面41a、他方の面41bは、順に本発明の圧電素子、圧電体の第1の電極、第2の電極、一方の面、他方の面の一例である。」

「【0045】
〔光スキャナの動作〕
光スキャナ1の動作について説明する。水平走査ドライバ30内にて駆動電圧が生成される。第2の電極44側では、駆動電圧が、水平走査ドライバ30から配線32を経由して第2の電極44へ印加される。基板10側では、駆動電圧が、水平走査ドライバ30から配線31を経由して基板10に印加される。基板10と第1の電極43とは、導電性接着層51により電気的に接続されている。ゆえに、駆動電圧が、基板10から導電性接着層51を経由して圧電素子40の第1の電極43へ印加される。駆動電圧が圧電素子40の第1の電極43と第2の電極44とに印加されると、逆圧電効果が第1の電極43と第2の電極44とに挟まれた圧電体41内に生じる。圧電素子40と基板10の枠板部14とは導電性接着層51及び絶縁性接着層52で接着されている。このため、圧電素子40の伸縮が、導電性接着層51及び絶縁性接着層52を経由して、枠板部14に伝えられ、枠板部14がたわむ。このたわみが枠板部14から梁部12、13を介してミラー部11へと伝わり、結果的にミラー部11が梁部12、13の長手方向を揺動軸15として共振揺動される。ミラー11mが揺動された状態で光束がミラー11mに入射される。すると、光束がミラー11mに反射され、結果的に1方向に走査される。このように、光スキャナ1に水平走査ドライバ30から駆動電圧を印加することで、光束を走査することができる。本実施形態における揺動軸15は、本発明の揺動軸の一例である。」

「【0062】
また、絶縁性接着層52は、第1の電極43のZ軸方向に沿った側面43eと圧電体41のZ軸方向に沿った側面41eとを覆っている。このため、駆動電圧が圧電素子40に印加された際に、第1の電極43と第2の電極44との間に放電による短絡が起こらない。ゆえに、短絡により光スキャナ1が動作しなくなる恐れがなくなる。従って、放電による電極間の短絡が起こらない圧電アクチュエータを提供することができる。本実施形態における光スキャナ及び光走査型画像表示装置は放電によるこの圧電アクチュエータを用いているため、同様の効果が得られる。即ち、放電による電極間の短絡が起こらない光スキャナ、光走査型画像表示装置を提供することができる。
【0063】
さらに、絶縁性接着層52は、圧電体41の側面41e全面を覆い、第2の電極44の側面44eまで延びている。これにより、絶縁性接着層52を通して、圧電体41の側面41e全面の伸縮を直接枠板部14に伝えることができる。ゆえに、絶縁性接着層52が圧電体41の側面41e全面に形成されていない場合と比較して、一層たわむ。即ち、圧電アクチュエータ39の駆動効率を、絶縁性接着層52が圧電体41の側面41e全面を覆わない場合と比較して、一層高くすることができる。」

「【図1】



「【図3】




イ 甲2に記載された課題
以上の【0001】、【0008】の記載から、甲2には、以下の課題が記載されている。
「圧電アクチュエータを備えた光スキャナにおいて、一般的に、圧電素子の厚みを薄くすると、相対的に電極同士が対向する方向の電極間の距離が近くなるため、駆動電圧が電源から電極に印加された際に、電極間の短絡が起こってしまい、圧電アクチュエータが動作しなくなる恐れがある。」

ウ 甲2に記載された発明(甲2発明)
上記アの記載から、甲2には、
「光スキャナ1は、基板10と、筐体20と、圧電素子40と、接着層50と、を備え、
圧電アクチュエータ39は、圧電素子40と、接着層50と、基板10の枠板部14の一部と、を含み、
基板10は、ミラー部11と、梁部12、13と、枠板部14と、を備え、
梁部12、13は、ミラー部11からX軸方向に延び、ミラー部11を支持し、
枠板部14は、ミラー部11と、梁部12、13とを囲むように形成され、梁部12、13と連結されており、
筐体20は、支持部21と、ベース部22と、を備え、
基板10のY軸方向における両端のうち一端が、支持部21と接続され、
圧電素子40は、圧電体41と、1対の電極42と、を備え、
1対の電極42は、圧電体41のZ軸方向における両面に設けられ、
1対の電極42は、第1の電極43と第2の電極44とを有し、
圧電素子40と基板10の枠板部14とは導電性接着層51及び絶縁性接着層52で接着され、
圧電素子40の伸縮が、導電性接着層51及び絶縁性接着層52を経由して、枠板部14に伝えられ、枠板部14がたわみ、このたわみが枠板部14から梁部12、13を介してミラー部11へと伝わり、結果的にミラー部11が梁部12、13の長手方向を揺動軸15として共振揺動され、
絶縁性接着層52は、第1の電極43のZ軸方向に沿った側面43eと圧電体41のZ軸方向に沿った側面41eとを覆っており、
放電による電極間の短絡を防止することができる圧電アクチュエータを備えた光スキャナ。」
の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。

(3)甲3の記載事項及び技術事項
ア 甲3の記載事項
取消理由で通知した特開2009-152989号公報(以下「甲3」という。)には次の事項が記載されている。

「【0001】
本発明は、圧電振動片と、パッケージ内に圧電振動片を収容した圧電デバイスとの改良に関する。」

「【0007】
圧電振動片の静電荷は、放電突起を通して雰囲気中の粒子を介して静電気放電反応を起こす。このため、領域DCに放電による短絡が発生しやすい理由は、接続電極123b又は接続電極125bの一部に90度の角部が存在していることが考えられる。
【0008】
本発明の目的は、圧電振動片又は圧電デバイス内の電子素子が静電気の放電反応により損傷されることを回避するために、放電が起きにくい圧電振動片又は圧電デバイスを提供する。」

「【0022】
この第1側面電極23c及び第2側面電極25cは、第1接続電極23b及び第2接続電極25bを介して第1基部電極23a、第2基部電極25aに接続されている。図1(a)で示すように、第1基部電極23a及び第2基部電極25a、並びに第1接続電極23b及び第2接続電極25bは、角部が無い電極形状になっている。このため、第1基部電極23a及び第1接続電極23bと、第2基部電極25a及び第2接続電極25bとの間で放電が発生しにくくなっている。」

イ 甲3に記載された技術事項

「放電が起きにくい圧電振動片又は圧電デバイスを提供するために、短絡が発生しやすい電極の角部を角部が無い電極形状にすること。」

(4)甲4の記載事項及び技術事項
ア 甲4の記載事項
取消理由で通知した特開2006-286774号公報(以下「甲4」という)には次の事項が記載されている。

「【0001】
本発明は積層型圧電アクチュエータおよび積層型圧電アクチュエータ接着体に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電セラミックス層と電極層とを交互に積層した圧電駆動部を有し、電極層を一層おきに接続して一対の駆動電極を構成し、この駆動電極に所定の電圧を印加することにより、圧電セラミックス層を積層方向に伸縮させる積層型圧電アクチュエータが知られている。
【0003】
このような積層型圧電アクチュエータの伸縮方向端には、一般的に、圧電不活性な保護層部が設けられており、これにより、積層型圧電アクチュエータの各種装置への組み込みや複数の積層型圧電アクチュエータどうしの伸縮量を増大させるような接着を容易としている。
【0004】
ここで、積層型圧電アクチュエータどうしをその端面全体で接着してしまうと、圧電駆動部が収縮した際の撓みに保護層部が追従することができずに、圧電駆動部と保護層部の境界近傍に大きな応力が発生し、これによって圧電駆動部の端部(つまり、保護層部との境界近傍)においてクラックが生じ、絶縁破壊を起こすことが知られている。また、この現象は積層型圧電アクチュエータを単体で所定の治具に接着固定した場合にも同様に発生する。このような絶縁破壊は積層型圧電アクチュエータの通常の駆動電圧で発生し、製品寿命を短くしてしまうという問題がある。そこで、この問題を解決する方法として、保護層部の外周に輪環状のスリットを形成して、圧電駆動部と保護層部との境界近傍に発生する応力を緩和する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、特許文献1では圧電板と金属板を接着剤を用いて積層接着した構造のアクチュエータしか示されておらず、このような接着型の積層型圧電アクチュエータと、所謂、一体焼成型の積層型圧電アクチュエータとでは、接着剤層と金属板の存在の有無に起因して、積層型圧電アクチュエータにおける応力分布に差が生じるものと考えられる。そのため、特許文献1で規定するスリット形成条件が、一体焼成型の積層型圧電アクチュエータにはそのまま適用できないおそれがある。
【特許文献1】特開2000-49396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、一体焼成型の積層型圧電アクチュエータの圧電駆動部の端部における絶縁破壊の発生を抑制し、かつ、機械的強度を適切に維持した積層型圧電アクチュエータおよび積層型圧電アクチュエータ接着体を提供することを目的とする。
【0007】
すなわち、本発明の第1の観点によれば、圧電セラミックス層と電極層とが交互に積層されてなる圧電駆動部と、圧電セラミックス層どうしがその中央部で接合され、その外周部は圧電セラミックス層どうしが不連続となることで応力を吸収する応力吸収層部と、圧電不活性な保護層部とを有し、前記電極層が1層おきに接続されてなる、一体焼成型の積層型圧電アクチュエータであって、
前記応力吸収層部において圧電セラミックス層どうしを接合している接合部におけるその中心から外周までの距離cと、前記電極層の中心から外周までの距離aとは、0.73≦c/a≦0.95、の関係を満たすことを特徴とする積層型圧電アクチュエータ、が提供される。」

「【0021】
ここで応力吸収層部を有しないアクチュエータの変形に着目すると、図3に模式的に示すように、そのようなアクチュエータ99では、圧電駆動部97が伸長すると、保護層部98の外周部が圧電駆動部97側に引き込まれるような変形が生じる。このような変形が生じた場合には、圧電駆動部97と保護層部98の境界近傍に大きな引張応力が発生し、これにより剥離が生じ、さらに絶縁破壊が生じる。」

「【0026】
表1に示す「素子幅」は、図2に示す圧電セラミックス層11の一辺の長さ(形状)を示している。表1中の「電極幅a」は図2中の“a”と同じである。表1に示す各試料では、内部電極層の形状を長方形に設定しているために、内部電極層における中心から短辺への距離を「電極幅b」で示している。表1中の「曲率R1」は、四角形状の内部電極層の4隅に設けた曲率を示しており、比較例および実施例1,2には曲率は設けられておらず、実施例3?5では2mmの曲率が設けられている。」

「【0030】
内部電極層に曲率R1を設けることによって、内部電極層の四隅での電荷集中が抑制されて絶縁破壊が起こり難くなり、また、接合部に曲率R2を設けることで、応力集中を緩和することができると考えられる。このような効果は、比c/aによる効果と合わさって絶縁破壊電圧に現れるために、表1からその単独の効果については確認はできないが、比c/aの値が小さく、しかも、曲率R1,R2を設けることで、絶縁破壊電圧の標準偏差が小さくなっており、絶縁破壊特性のばらつきが小さくなることがわかる。」

イ 甲4に記載された技術事項
段落【0004】の記載から、甲4には、
「積層型圧電アクチュエータどうしをその端面全体で接着してしまうと、圧電駆動部が収縮した際の撓みに保護層部が追従することができずに、圧電駆動部と保護層部の境界近傍に大きな応力が発生し、これによって圧電駆動部の端部(つまり、保護層部との境界近傍)においてクラックが生じ、絶縁破壊を起こすことが知られており、このような絶縁破壊は製品寿命を短くしてしまうという問題がある。」との技術事項が記載されているといえる。

段落【0006】、【0007】の記載から、甲4には、
「所定の寸法関係を有する応力吸収層部を設けることで、絶縁破壊の発生を抑制し、かつ、機械的強度を適切に維持する」との技術事項が記載されているといえる。

段落【0021】の記載から、甲4には、
「応力吸収層部を有しないアクチュエータの変形に着目すると、圧電駆動により保護層部の外周部が変形し、圧電駆動部と保護層部の境界近傍に応力が生じ、これにより剥離が生じ、さらに絶縁破壊が生じる」との技術事項が記載されているといえる。

段落【0030】の記載から、甲4には、
「積層型圧電アクチュエータに関し、内部電極層に曲率を設けることによって、内部電極層の四隅での電荷集中を抑制し絶縁破壊が起こり難くすること。」の技術事項が記載されているといえる。

(5)甲5の記載事項及び技術事項
ア 甲5の記載事項
取消理由で通知した特開平3-233983号公報(以下「甲5」という。)には次の事項が記載されている。

「〔概 要〕
プリンタのアクチュエータとして用いられる積層型圧電素子に関し、
素子の絶縁破壊を防止して信頼性を向上させることを目的とし、
多数の圧電セラミックスを内部電極を挟んで積層した素子本体の周面に、前記各内部電極と交互に接続する1対の外部電極を設けて成る積層型圧電素子において、前記素子本体の角部に面取りを施した構成とする。」(第1頁左下欄第14行?右下欄第3行参照。)

「〔発明が解決しようとする課題〕
このような構成1作用を有する従来の積層型圧電素子では、内部電極露出部分に設けた半円柱状の電気絶縁層14と素子本体10の外周に施した絶縁層13とより成る絶縁構造がとられている。
しかし、素子本体10の形状は柱状であるため、角部でアーク放電が発生し、内部電極間や内部電極、外部電極間でショートして素子自体を破壊することがあった。
本発明は、素子の絶縁破壊を防止して信頼性を向上させることのできる積層型圧電素子を提供することを目的としている。」(第2頁左下欄第1行?第12行参照。)

「〔作 用〕
素子本体の角部に面取りが施されているので、従来問題となっていた高電圧印加時における素子本体角部でのアーク放電は発生しない。
また、素子本体外周面に絶縁層をコーティングする際の塗りむらがなくなり、絶縁の効果が一層向上する。」(第2頁右下欄第1行?第7行参照。)

「〔実施例〕
以下、第1図に関連して本発明の詳細な説明する。
第1図は本例の積層型圧電素子21の構造を示す斜視図で、該積層型圧電素子21は、素子本体22の外周面に1対の外部電極23.24を設け、さらにこれらの表面を絶縁層25で被覆して構成されている。
素子本体22は、多数の圧電セラミックス26を内部電極27を挟んで積層して構成され、角部にはR形状の面取り28が施されている。この素子本体22の形成要領は、面取り28の形成以外は従来と同様である。」(第2頁右下欄第8行?第20行参照。)

イ 甲5に記載された技術事項
「アクチュエータとして用いられる積層型圧電素子に関し、圧電セラミックスを内部電極を挟んで積層した素子本体の周面の角部に面取りを施した構成とすることで、角部でアーク放電が発生し電極間でショートして素子自体を破壊するのを防止する。」

(6)甲6の記載事項
取消理由で通知した新版 高電圧工学 第61頁及び奥付 昭和55年5月15日発行(以下「甲6」という。)には次の事項が記載されている。
「「平等電界における火花放電」とは静電界的に平等電界中の放電という意味であるが、実用上の機器では幾何学的平等電界を実現できないことが多い。実験上でも、電極端の電界が大となると火花が生ずるのはギャップ中ではなく端の部分ということになる。電界端が内部よりも電界の強さが強くならないよう端部を丸めた電極にRogowski電極、Harrison電極などがある。より簡単に平等電界を近似するには球電極が利用される。すなわち、いわゆる球-球ギャップ放電では、ある程度のd以内では、この間を平等電界とみなすことができる。」(第61頁第5行目?第14行参照。)

(7)甲7の記載事項
取消理由で通知したJIS C 2110-1:2010 固体電気絶縁材料-絶縁破壊の強さの試験方法-第1部:商用周波数交流電圧印加による試験(作成日:平成29年3月15日、当審注:甲7は、JIS規格であり、JIS規格番号は「JIS」で始まり、分野を表すアルファベット、番号、発行年で表示されることから、甲7の内容であるJIS規格は、2010年発行のものと認められる。)(http://kikakurui.com/c2/C2110-1-2010-01.html)(以下「甲7」という)には次の事項が記載されている。

「材料が薄い場合には、2?3枚の試験片を用い、試験片の長辺が互いに適切な角度となるよう配置し、その上に上部電極を支持可能となるようにする。2枚の金属平板電極は、試験片の両端を超えて15mm以上余裕のある寸法とし、長辺側の全面にわたって電極表面とよく接触するように注意する。電極縁端間のフラッシオーバを避けるために、電極縁端に適切な丸み(半径3?5mm)を付ける(図6参照)。」(「5.3.2.1 板及びシート」第4行?第7行参照。)

(8)甲3?5に記載された周知技術
上記(3)?(5)の甲3ないし甲5に記載された技術事項から、以下の技術事項は、周知技術であるといえる。

「圧電デバイスの電極間の放電、短絡(絶縁破壊)を防止するために、『電極の角部を丸くしたり面取りする』対策を講じる。」

(9)甲8の記載事項及び技術事項
ア 甲8の記載事項
申立人が平成30年3月8日付け意見書に添付した特開平11-4025号公報(以下「甲8」という。)には次の事項が記載されている。

「【0004】また、このように電極84の隅角部が角張った矩形形状をしていると、矩形電極の隣合う二つの隅角部から圧電素子基材の電極が形成されていない部分の中心部へ向かって亀裂86が発生し、圧電素子の疲労強度の低下を招来し、繰り返し使用によってその耐用寿命を短縮させるという問題があった。」
「【0008】本発明の解決しようとする課題は、圧電セラミックス素子基材の表面に設けられる表面電極に電圧を印加して圧電駆動を繰り返すに際し、その繰り返し使用による疲労強度の低下を抑制することにより、耐用寿命の長い圧電セラミックス素子を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】この目的を達成するために本発明の圧電セラミックス素子は、圧電セラミックス材料による圧電素子基材の表面に平面多角形状の電極が形成されたものであって、該表面電極の隅角部を円弧形状としたことを要旨とするものである。」

イ 甲8に記載された技術事項
上記記載から、甲8には、
「電極の隅角部が角張った矩形形状をしていると、圧電素子の疲労強度の低下を招来し、繰り返し使用によってその耐用寿命を短縮させるという問題があることから、
圧電セラミックス材料による圧電素子基材の表面に平面多角形状の電極が形成された圧電セラミックス素子において、該表面電極の隅角部を円弧形状とした。」との技術事項が記載されている。

(10)甲9の記載事項及び技術事項
ア 甲9の記載事項
申立人が平成30年3月8日付け意見書に添付した特開平7-55865号公報(以下「甲9」という。)には次の事項が記載されている。

「【0003】この圧電積層体は、焼成前の圧電セラミックを電極ペースト等とともに一体に組付けた後に焼成したり、焼成後の圧電素子を内部電極とともに組付けたりして製造される。かかる圧電積層体は、使用中に放電を生じれば、絶縁部や圧電セラミックに破壊を生じてしまうという欠点がある。かかる破壊は、圧電積層体の両外部電極に数十?数百Vの電圧を印加する際、互いに異極をなす外部電極と内部電極との境界の絶縁処理が不十分な場合に生じやすい。また、圧電セラミック自体は10^(10)Ω以上の絶縁抵抗があるが、この圧電セラミックは脆性材料であるため、クラックを生じやすく、使用中の振動によりクラックが進展すれば、内部電極の両極間にミクロ放電が発生し、かかるミクロ放電が過剰になった場合にも破壊を生じてしまう。さらに、内部電極として一般に使用されているAg等は温度等によりイオン化する場合があり、この場合にはマイグレーションを起こして両電極間を移動し、やはり破壊を生じてしまう。」

イ 甲9に記載された技術事項
上記記載から、甲9には、
「圧電セラミック自体は10^(10)Ω以上の絶縁抵抗があるが、この圧電セラミックは脆性材料であるため、クラックを生じやすく、使用中の振動によりクラックが進展すれば、内部電極の両極間にミクロ放電が発生し、かかるミクロ放電が過剰になった場合にも破壊を生じてしまう。」との技術事項が記載されている。

(11)甲10の記載事項及び技術事項
ア 甲10の記載事項
申立人が平成30年10月10日付け意見書に添付した特開平7-211953号公報(以下「甲10」という。)には次の事項が記載されている。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、圧電特性を得るための、圧電素子の分極方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、圧電素子は、絶縁性、耐熱性に優れたシリコーンオイル中で、常温または100℃前後の温度で、数kV/mm nの直流電圧を印加して分極していた。また、空気中で行う分極方法もある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記、従来の方法では、シリコーンオイルを用いた分極方法は、必ずシリコーンオイルの洗浄工程が必要であり、この洗浄に用いられている洗浄剤は、1,1,1-トリクロロエタン、トリクロロエチレン、パークロロエチレン等であった。1,1,1-トリクロロエタンは、オゾン層破壊物質であり、モントリオール議案書に基づき、国内では、1995年末に全廃が予定されており、トリクロロエチレン、パークロロエチレンも水質汚濁法に基づき、各県で公害防止条例が定められている。そのため、石油系、水系洗浄剤等の代替洗浄剤の検討がなされているが、未だ、洗浄力不足等の問題点を有している。また、空気中で分極する方法は、空気の絶縁耐圧が低いため、放電現象や、沿面放電により絶縁破壊が発生する等の問題点を有していた。」

イ 甲10に記載された技術事項
上記記載から、甲10には、
「圧電素子を空気中で分極する方法は、放電現象や、沿面放電により絶縁破壊が発生する等の問題点を有している。」との技術事項が記載されている。


(12)甲4引用特許文献1(甲11)の記載事項及び技術事項
ア 甲4引用特許文献1の記載事項
甲4の明細書中に引用された特許文献1であり、申立人が平成30年10月10日付け意見書に添付した甲第11号証である特開2000-49396号公報(以下「甲4引用特許文献1」という。)には次の事項が記載されている。

「【0003】積層型圧電アクチュエータでは、圧電的に活性な部分(積層体)の上下両端に圧電的に不活性な部分(不活性体)を強固に接合した構造を有する。この不活性体は圧電素子の機械的エネルギーを外部に伝える役割と、外部との絶縁を図る役割を果している。」
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述した積層型圧電アクチュエータでは、圧電的に活性な積層体と不活性体とが強固に接合されているために、積層型圧電アクチュエータに高電圧を高周波数で印可し長時間駆動した場合には、積層体が軸長方向の伸縮とともに径方向へも伸縮することにより、不活性体と積層体との境界部分に大きな応力集中が起こり、不活性体または積層体の圧電板が破損してしまうという問題があった。これにより、不活性体が剥離したり、積層型圧電アクチュエータが作動しなくなるという問題があった。」
「【0010】
【課題を解決するための手段】本発明の積層型圧電アクチュエータは、複数の圧電板と複数の電極とを交互に積層した積層体と、該積層体の上下にそれぞれ接合されたセラミック製の不活性体とを具備するとともに、前記電極が交互に電気的に接続された積層型圧電アクチュエータであって、前記不活性体の外周面に環状のスリットを形成するとともに、該スリットを形成した部分の不活性体縮径部の断面積S_(1)が、前記電極の面積S_(2)の25?50%であることを特徴とする。」
「【0026】そして、積層体1の上下面には、圧電的に不活性で機械的エネルギーを伝達するセラミックスからなる円柱状の不活性体18が絶縁性接着剤22によりガラス接合されている。この不活性体18は圧電板11と同一径とされており、例えば、圧電体11と同一材料でも良いし、Al_(2)O_(3)等でも良い。」

イ 甲4引用特許文献1に記載された技術事項
上記記載から、甲4引用特許文献1には、
「積層型圧電アクチュエータでは、圧電的に活性な積層体と、外部との絶縁を図る役割を果す不活性体とが強固に接合されているために、長時間駆動した場合には、積層体が軸長方向の伸縮とともに径方向へも伸縮することにより、不活性体と積層体との境界部分に大きな応力集中が起こり、不活性体または積層体の圧電板が破損してしまうという問題があった。これにより、不活性体が剥離したりするという問題があった。」との技術事項が記載されている。

(13)甲4及び甲4引用特許文献1に記載された周知の課題
甲4に記載の「保護層部」は、甲4引用特許文献1に記載の外部との絶縁を図る役割を果す「不活性体」に対応するものであることに鑑みるに、上記甲4(特に段落【0004】、【0021】参照。)及び甲4引用特許文献1(特に、段落【0003】、【0006】参照。)に記載された技術事項から、以下の事項は、周知の課題であるといえる。

「積層型圧電アクチュエータにおいて、圧電駆動部に接合される、絶縁を図る役割を果す「不活性体」(保護層部)は、圧電駆動の際に、撓みに追従することができなかったり、外周部が変形したりし、圧電駆動部と保護層部の境界近傍に応力が生じる。この圧電駆動を長時間駆動した場合には、該境界部分に大きな応力集中が起こり、保護層部または積層体の圧電板が破損したり、保護層部が剥離したりし、絶縁破壊を起こすという問題がある。」

4 対比、判断
(1)本件特許発明1について
ア 甲1発明との対比、判断
(ア)本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「固定ベース」、「光反射面を有するミラー部」、「前記ミラー部を揺動可能に支持する一対の弾性支持部材」は、それぞれ本件特許発明1の「固定ベース」、「光反射面を有する可動部」、「前記可動部を回転可能に支持する弾性支持部材」に相当する。

甲1発明において「前記弾性支持部材の長手方向と前記駆動梁の長手方向とが略直交して配置されて、両者が接続され、前記駆動梁の他端は固定ベースに固定されて」いるから、甲1発明の「駆動梁」は、本件特許発明1の「前記可動部及び前記弾性支持部材を前記固定ベースに対して支持する駆動梁」に相当する。

甲1発明の「駆動梁30aは、固定ベース40から突出して形成された梁状部材31aの上に、接着層33a、下部電極35a、圧電材料(圧電部材)32a、上部電極34a、絶縁層36aの順で積層して構成され、前記上部電極、前記圧電部材及び前記下部電極が絶縁層で覆われて」いることは、本件特許発明1の「前記駆動梁は、梁状部材と該梁状部材上に設けられた圧電部材とからなり、前記圧電部材は上部電極及び下部電極を有し」、「前記駆動梁は、少なくとも前記上部電極、前記圧電部材及び前記下部電極が絶縁層で覆われて」いることに相当する。

甲1発明の「上部電極34aと下部電極35aの間に電圧を印加すると、駆動梁30a全体が反って、曲げ変形する光偏向器」は、本件特許発明1の「前記上部電極及び前記下部電極に電圧を印加し、前記駆動梁が曲げ変形することで、前記弾性支持部材に捻り変形が発生して、前記可動部が回転する圧電光偏向器」に相当する。
そして、甲1発明は、駆動梁30a全体が反って、曲げ変形するから、駆動梁30a上に積層される絶縁層は、前記駆動梁が駆動すると前記圧電部材と共に伸縮することは明らかであるから、甲1発明の「絶縁層」は、本件特許発明1の絶縁層と同様に、「前記駆動梁が駆動すると前記圧電部材と共に伸縮」するものであるといえる。

甲1発明の「前記弾性支持部材の長手方向と前記駆動梁の長手方向とが略直交して配置されて、両者が接続され、前記駆動梁の他端は固定ベースに固定されて」いることは、本件特許発明1の「前記駆動梁の一端は前記弾性支持部材と接続され、前記駆動梁の他端は前記固定ベースに接続されて」いることに相当する。

(イ)一致点
よって、本件特許発明1と甲1発明とは、
「固定ベースと、光反射面を有する可動部と、前記可動部を回転可能に支持する弾性支持部材と、前記可動部及び前記弾性支持部材を前記固定ベースに対して支持する駆動梁とを有し、
前記駆動梁は、梁状部材と該梁状部材上に設けられた圧電部材とからなり、前記圧電部材は上部電極及び下部電極を有し、
前記上部電極及び前記下部電極に電圧を印加し、前記駆動梁が曲げ変形することで、前記弾性支持部材に捻り変形が発生して、前記可動部が回転する圧電光偏向器において、
前記駆動梁は、少なくとも前記上部電極、前記圧電部材及び前記下部電極が絶縁層で覆われており、
前記絶縁層は、前記駆動梁が駆動すると前記圧電部材と共に伸縮し、
前記駆動梁の一端は前記弾性支持部材と接続され、前記駆動梁の他端は前記固定ベースに接続されている圧電光偏向器。」の点で一致し、次の点で相違する。

(ウ)相違点
本件特許発明1は、「前記圧電部材の前記上部電極と前記下部電極の少なくとも一方の電極の前記駆動梁の前記一端の側(弾性支持部材と接続された側)の先端の角が円弧形状又はテーパー形状になっている」のに対し、甲1発明は、「下部電極35aと上部電極34aの積層部分の形状は四角形」をしており、その電極の角は、円弧形状又はテーパー形状になっていない点(以下、「相違点1」という。)。

(エ)判断
相違点1について検討する。
a 本件特許発明1について
本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【0006】
ところで、光偏向器は、その使用環境によっては小型化に加えて薄型化が要求されることがある。圧電光偏向器を薄型化するためには、圧電部材を薄膜化にすればよいが、そうすると、圧電部材の上下電極間の距離が近くなるため、該上下電極に駆動電圧を印加した際に、上下電極の端部から放電がおこり、電極間が短絡(沿面放電)する可能性が生じる。圧電部材の上下電極間が短絡すると、圧電光偏向器の動作は不安定になり、動作不能に陥ることにもなる。
【0007】
従来、圧電アクチュエータや圧電光偏向器などにおいて、圧電部材の上下電極間の短絡を防止するために、圧電部材及び上下電極の側面等を絶縁膜で覆うことが知られている(例えば、特許文献2)。しかしながら、上下電極に駆動電圧を印加して圧電部材を駆動すると、圧電部材と共に絶縁膜も伸縮する。この結果、長時間の駆動中には絶縁膜にクラックや膜欠陥(絶縁破壊)が生じ、絶縁耐力が低下して、沿面放電を引き起こしかねない。そのため、高い信頼性が求められるデバイスに用いられる圧電光偏向器では、信頼性の面でさらなる対策が不可欠である。」
「【0024】
駆動梁30a,30bを覆っている絶縁層に、絶縁膜の欠陥やクラックが起きて、絶縁耐力が低下すると、圧電部材32a,32bの上下電極間で沿面放電を誘発する。そして、圧電部材32a,32bが薄膜になればなるほど、沿面放電が誘発しやすくなる。
【0025】
ここで、電極の先端形状が鋭角であるほど、電極先端に電気力線が集中し、沿面放電が起きやすくなる。すなわち、電気力線は等電位面に対して垂直に入るため、電極の先端形状が鋭角の場合、電極先端に電界が集中し、沿面放電が発生しやすくなる。逆に、電極の先端形状を円弧形状(鈍角状)にすれば、電極先端に電界が集中するのを防止でき、沿面放電の発生を抑制することが可能になる。
【0026】
特に、図1に示すように、圧電駆動部が片持ち梁構成の圧電光偏向器の場合、上部電極31a,34bの先端角(駆動梁30a,30bの自由端側の先端角)を円弧形状(鈍角状)とすることで、該上部電極34a,34bの先端に電界が集中するのを防止でき、長時間駆動等で駆動梁30a,30bの自由端で絶縁破壊が起きても、沿面放電を抑制することが可能になる。」

以上の記載から、本件特許発明1は、圧電部材の上下電極間の短絡(沿面放電)を防止するために、「上部電極、圧電部材及び下部電極」を絶縁層で覆ってはいるが、長時間駆動等で駆動梁30a,30bの自由端で絶縁膜にクラックや膜欠陥(絶縁破壊)が生じ、絶縁耐力が低下して、沿面放電を引き起こしかねないことから、相違点1に係る構成である「前記圧電部材の前記上部電極と前記下部電極の少なくとも一方の電極の前記駆動梁の前記一端の側(弾性支持部材と接続された側)の先端の角が円弧形状又はテーパー形状になっている」構成を採用し、電極の先端に電界が集中するのを防止し、沿面放電を抑制したものである。

b 甲2について
甲2は、本件特許明細書で引用された先行技術文献である特許文献2であり(上記aの【0007】参照。)、圧電アクチュエータや圧電光偏向器などにおいて、圧電部材の上下電極間の短絡を防止するために、圧電部材及び上下電極の側面等を絶縁膜で覆うことが記載されているにとどまるものである。

c 甲3について
甲3には、「放電が起きにくい圧電振動片又は圧電デバイスを提供するために、短絡が発生しやすい電極の角部を角部が無い電極形状にすること。」との技術事項が記載されている。
しかしながら、「【0006】音叉型圧電振動片120の基部129には、基部電極123a、125aが形成されており、外部から基部電極123a、125aに電流が供給される。基部電極123a、125aから、溝電極123d及び溝電極125dと側面電極123c及び側面電極125cへ電流を供給するため、接続電極123b,125bが形成される。隣り合う接続電極123bと接続電極125bとの幅は、非常に狭く、例えば0.01mmから0.03mm程度しかないため、放電による短絡が生じやすい。特に円で囲まれた領域DCにて、放電による短絡が生じている。」と記載されているように、甲3において、放電による短絡が生じやすいと認識されているのは、隣り合う接続電極の場所であり、音叉型圧電振動片の先端側(自由端側)の電極の角部ではない。また、電極を絶縁膜が覆う構造ではないから、絶縁膜に生じるクラックや膜欠陥との関連においいて、放電による短絡が生じやすい場所を特定する技術思想は存在しない。

d 甲4及び甲4引用特許文献1について
甲4及び甲4引用特許文献1の記載から、
「積層型圧電アクチュエータにおいて、圧電駆動部に接合される、絶縁を図る役割を果す「不活性体」(保護層部)は、圧電駆動の際に、撓みに追従することができなかったり、外周部が変形したりし、圧電駆動部と保護層部の境界近傍に応力が生じる。この圧電駆動を長時間駆動した場合には、該境界部分に大きな応力集中が起こり、保護層部または積層体の圧電板が破損したり、保護層部が剥離したりし、絶縁破壊を起こすという問題がある。」ということは、周知の課題であるといえる。

そして、絶縁破壊に関する周知の課題を有する甲4において、「内部電極層に曲率を設けることによって、内部電極層の四隅での電荷集中を抑制し絶縁破壊が起こり難くする」という対策が講じられることが記載されている。

しかしながら、甲4において、本件特許発明1の「絶縁層」に相当する保護層部4と、圧電セラミックス層11と内部電極層12とが交互に積層されてなる圧電駆動部3との間に応力吸収部層が設けられているから、保護層部4は、圧電セラミックス層11と内部電極層12を覆う層ではない。
そして、甲4には、「【0030】内部電極層に曲率R1を設けることによって、内部電極層の四隅での電荷集中が抑制されて絶縁破壊が起こり難くなり、また、接合部に曲率R2を設けることで、応力集中を緩和することができると考えられる。」との記載があるものの、内部電極層を覆う保護層部は存在しないから、保護層部に生じるクラックや膜欠陥との関連において、曲率を設ける内部電極層の角部の場所を特定する技術思想は存在しない。甲4特許文献1についても、前記技術思想は、記載も示唆もない。

e 甲5について
甲5には、「アクチュエータとして用いられる積層型圧電素子に関し、圧電セラミックスを内部電極を挟んで積層した素子本体の周面の角部に面取りを施した構成とすることで、角部でアーク放電が発生し電極間でショートして素子自体を破壊するのを防止する。」との技術事項が記載されている。
しかしながら、素子本体の周面の角部に面取りを施しており、電気絶縁層14、絶縁層13に生じるクラックや膜欠陥との関連において、面取りを施す内部電極の角部の場所を特定するという技術思想は存在しない。

f 甲6から甲10までについて
甲6から甲10までのいずれの文献には、上部電極、圧電部材及び下部電極を覆っている絶縁層に生じるクラックや膜欠陥との関連において、円弧形状又はテーパー形状とする電極の角部の場所を特定する技術思想についての記載も示唆もない。

g 以上のとおり、甲2から甲10までのいずれの文献にも上部電極、圧電部材及び下部電極を覆っている絶縁層に生じるクラックや膜欠陥との関連において、円弧形状又はテーパー形状とする電極の角部の場所を特定する技術思想は記載も示唆もされていないから、甲1発明において、「前記圧電部材の前記上部電極と前記下部電極の少なくとも一方の電極の前記駆動梁の前記一端の側(弾性支持部材と接続された側)の先端の角が円弧形状又はテーパー形状になっている」という相違点1に係る構成を採用する動機付けがあるとはいえない。よって、本件特許発明1は、甲1発明、甲2ないし甲10及び甲4引用特許文献1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 甲2発明との対比、判断
(ア)甲2発明との対比
甲2発明の「ミラー部11」、「圧電素子40」は、それぞれ本件特許発明1の「光反射面を有する可動部」、「圧電部材」に相当する。

甲2発明において「梁部12、13は、ミラー部11からX軸方向に延び、ミラー部11を支持し、」「ミラー部11が梁部12、13の長手方向を揺動軸15として共振揺動され」るから、甲2発明の「梁部12、13」は、本件特許発明1の「前記可動部を回転可能に支持する弾性支持部材」に相当する。

甲2発明において「基板10は、ミラー部11と、梁部12、13と、枠板部14と、を備え、梁部12、13は、ミラー部11からX軸方向に延び、ミラー部11を支持し、枠板部14は、ミラー部11と、梁部12、13とを囲むように形成され、梁部12、13と連結されており、筐体20は、支持部21と、ベース部22と、を備え、基板10のY軸方向における両端のうち一端が、支持部21と接続され、」ているから、甲2発明の「筐体20」及び「枠板部14」は、それぞれ本件特許発明1の「固定ベース」及び「前記可動部及び前記弾性支持部材を前記固定ベースに対して支持する駆動梁」に相当する。

甲2発明の「圧電素子40と基板10の枠板部14とは導電性接着層51及び絶縁性接着層52で接着され」ており、「圧電素子40の伸縮が、導電性接着層51及び絶縁性接着層52を経由して、枠板部14に伝えられ、枠板部14がたわみ」を生じるから、甲2発明の「枠板部14」は、本件特許発明1の「前記駆動梁は、梁状部材と該梁状部材上に設けられた圧電部材とからな」っている構成を有しているといえる。

甲2発明の「圧電素子40は、圧電体41と、1対の電極42と、を備え、1対の電極42は、圧電体41のZ軸方向における両面に設けられ、1対の電極42は、第1の電極43と第2の電極44とを有し」ていることは、本件特許発明1の「前記圧電部材は上部電極及び下部電極を有し」ていることに相当する。

甲2発明の「圧電素子40の伸縮が、導電性接着層51及び絶縁性接着層52を経由して、枠板部14に伝えられ、枠板部14がたわみ、このたわみが枠板部14から梁部12、13を介してミラー部11へと伝わり、結果的にミラー部11が梁部12、13の長手方向を揺動軸15として共振揺動され」る「光スキャナ」は、本件特許発明1の「前記上部電極及び前記下部電極に電圧を印加し、前記駆動梁が曲げ変形することで、前記弾性支持部材に捻り変形が発生して、前記可動部が回転する圧電光偏向器」に相当する。

甲2発明の「絶縁性接着層52は、第1の電極43のZ軸方向に沿った側面43eと圧電体41のZ軸方向に沿った側面41eとを覆って」いることと、本件特許発明の「前記駆動梁は、少なくとも前記上部電極、前記圧電部材及び前記下部電極が絶縁層で覆われて」いることとは、共に、「前記駆動梁は、少なくとも前記上部電極、前記圧電部材及び前記下部電極の側面部において絶縁層で覆われて」いる点で共通する。
また、甲2発明の絶縁性接着層52は、圧電体41のZ軸方向に沿った側面41eを覆っているから、圧電体41の駆動に伴い伸縮することは明らかである。

してみると、本件特許発明1は、甲2発明とは、
「固定ベースと、光反射面を有する可動部と、前記可動部を回転可能に支持する弾性支持部材と、前記可動部及び前記弾性支持部材を前記固定ベースに対して支持する駆動梁とを有し、
前記駆動梁は、梁状部材と該梁状部材上に設けられた圧電部材とからなり、前記圧電部材は上部電極及び下部電極を有し、
前記上部電極及び前記下部電極に電圧を印加し、前記駆動梁が曲げ変形することで、前記弾性支持部材に捻り変形が発生して、前記可動部が回転する圧電光偏向器において、
前記駆動梁は、少なくとも前記上部電極、前記圧電部材及び前記下部電極の側面部において絶縁層で覆われており、
前記絶縁層は、前記駆動梁が駆動すると前記圧電部材と共に伸縮する圧電光偏向器。」
において一致し、
本件特許発明1は、「前記駆動梁の一端は前記弾性支持部材と接続され、前記駆動梁の他端は前記固定ベースに接続されており、前記圧電部材の前記上部電極と前記下部電極の少なくとも一方の電極の前記駆動梁の前記一端の側の先端の角が円弧形状又はテーパー形状になっている」のに対し、甲2発明は、圧電素子40と接着された枠板部14は「駆動梁」とはいえるものの、枠板部14の(端部ではなく)中間に2つの梁部12、13(本件特許発明1の「弾性支持部材」に相当。)と連結されており、本件特許発明2のように「前記駆動梁の一端は前記弾性支持部材と接続され」ているものではなく、「前記圧電部材の前記上部電極と前記下部電極の少なくとも一方の電極の前記駆動梁の前記一端の側(弾性支持部材と接続された側)の先端の角が円弧形状又はテーパー形状になっている」ものではない点で相違する(以下、「相違点2」という。)。

また、「前記上部電極、前記圧電部材及び前記下部電極」を覆う「絶縁層」において、覆っている場所が、本件特許発明1は、側面部に限定されていないのに対し、甲2発明は、側面部である点で相違する(以下、「相違点3」という。)。

(イ)相違点2についての判断
甲2には、「圧電アクチュエータを備えた光スキャナにおいて、一般的に、圧電素子の厚みを薄くすると、相対的に電極同士が対向する方向の電極間の距離が近くなるため、駆動電圧が電源から電極に印加された際に、電極間の短絡が起こってしまい、圧電アクチュエータが動作しなくなる恐れがある。」との課題が記載されている。そして、その課題を解決するために、甲2発明は、「絶縁性接着層52は、第1の電極43のZ軸方向に沿った側面43eと圧電体41のZ軸方向に沿った側面41eとを覆って」いる構成を採用している。
しかしながら、上下電極に駆動電圧を印加して圧電部材を駆動すると、圧電部材と共に絶縁膜も伸縮する結果、長時間の駆動中には絶縁膜にクラックや膜欠陥(絶縁破壊)が生じ、絶縁耐力が低下して、沿面放電を引き起ことまで、甲2には、記載も示唆もない。また、甲1、甲3ないし甲10及び甲4引用特許文献1にも記載も示唆もない。
さらに、たとえ「電極の角部を丸くしたり面取りする」対策を講じるとしても、甲2発明は、駆動梁の一端は弾性支持部材と接続されるものではないから「電極の前記駆動梁の前記一端の側(弾性支持部材と接続された側)の先端の角が円弧形状又はテーパー形状になっている」構成にはならないから、甲2発明において、相違点2に係る構成を得ることはできない。
よって、相違点3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明、甲1、甲3ないし甲10及び甲4引用特許文献1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件特許発明2について
ア 甲1発明との対比、判断
本件特許発明2と甲1発明とを対比すると、相違点は、上記相違点1に帰着する。
そして、上記相違点1についての判断は、上記4「(2)相違点1についての判断」に記載したとおりである。
よって、本件特許発明2は、甲1発明、甲2ないし甲10及び甲4引用特許文献1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 甲2発明との対比、判断
本件特許発明2は、本件特許発明1の構成を全て備え、さらに限定した発明であるから、本件特許発明2と甲2発明との対比において、少なくとも上記相違点2がある。
そして、相違点2についての判断は、「(1)イ」「(イ)相違点2についての判断」に記載したとおりである。
よって、本件特許発明1と同様に、本件特許発明2は、甲2発明、甲1、甲3ないし甲10及び甲4引用特許文献1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件特許発明3について
ア 甲1発明との対比、判断
本件特許発明3と甲1発明(2軸光偏向器)とを対比すると、相違点は、上記相違点1に帰着する。
そして、上記相違点1についての判断は、上記4「(2)相違点1についての判断」に記載したとおりである。
よって、本件特許発明3は、甲1発明(2軸光偏向器)、甲2ないし甲10及び甲4引用特許文献1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 甲2発明との対比、判断
本件特許発明3と甲2発明とを対比すると、相違点は、上記相違点2に帰着する。
そして、相違点2についての判断は、「(1)イ」「(イ)相違点2についての判断」に記載したとおりである。
よって、本件特許発明1と同様に、本件特許発明3は、甲2発明、甲1、甲3ないし甲10及び甲4引用特許文献1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件特許発明4について
ア 甲1発明との対比、判断
本件特許発明4は、光源と、光源からの光ビームを偏向走査させる本件特許発明1又は2の圧電光偏向器と、該圧電光偏向器で偏向走査された光ビームを被走査面にスポット状に結像する走査光学系とを備える」「光走査装置」の発明である。
本件特許発明4と甲1発明(光走査装置)とを対比すると、相違点は、上記相違点1又は上記相違点2に帰着する。
そして、上記相違点1についての判断は、上記4「(2)相違点1についての判断」に記載したとおりである。
よって、本件特許発明4は、甲1発明(光走査装置)、甲2ないし甲10及び甲4引用特許文献1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 甲2発明との対比、判断
本件特許発明4と甲2発明とを対比すると、相違点は、上記相違点2に帰着する。
そして、相違点2についての判断は、「(1)イ」「(イ)相違点2についての判断」に記載したとおりである。
よって、本件特許発明1と同様に、本件特許発明4は、甲2発明、甲1、甲3ないし甲10及び甲4引用特許文献1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)本件特許発明5について
ア 甲1発明との対比、判断
本件特許発明5は、本件特許発明4の「光走査装置と、光ビームの走査により潜像を形成する感光体と、潜像をトナーで顕像化する現像手段と、トナー像を記録紙に転写する転写手段とを有する」「画像形成装置」の発明である。
本件特許発明5と甲1発明(画像形成装置)とを対比すると、相違点は、上記相違点1又は上記相違点2に帰着する。
そして、上記相違点1についての判断は、上記4「(2)相違点1についての判断」に記載したとおりである。
よって、本件特許発明5は、甲1発明(画像形成装置)、甲2ないし甲10及び甲4引用特許文献1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 甲2発明との対比、判断
本件特許発明5と甲2発明とを対比すると、相違点は、上記相違点2に帰着する。
そして、相違点2についての判断は、「(1)イ」「(イ)相違点2についての判断」に記載したとおりである。
よって、本件特許発明1と同様に、本件特許発明5は、甲2発明、甲1、甲3ないし甲10及び甲4引用特許文献1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(6)本件特許発明6について
ア 甲1発明との対比、判断
本件特許発明6は、本件特許発明3の「圧電光偏向器を有し、該圧電光偏向器により光ビームを偏向・走査して、投影面に画像を投影する」「画像投影装置」の発明である。
本件特許発明6と甲1発明(画像投影装置)とを対比すると、相違点は、上記相違点1に帰着する。
そして、上記相違点1についての判断は、上記4「(2)相違点1についての判断」に記載したとおりである。
よって、本件特許発明6は、甲1発明(画像投影装置)、甲2ないし甲10及び甲4引用特許文献1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 甲2発明との対比、判断
本件特許発明6と甲2発明とを対比すると、相違点は、上記相違点2に帰着する。
そして、相違点2についての判断は、「(1)イ」「(イ)相違点2についての判断」に記載したとおりである。
よって、本件特許発明1と同様に、本件特許発明6は、甲2発明、甲1、甲3ないし甲10及び甲4引用特許文献1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(7)申立人の意見について
申立人は、訂正発明1(本件特許発明1)は、甲1発明、絶縁破壊に関する周知の課題及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができた旨主張しているので、以下検討する。

ア 周知技術について
上記周知技術とは、甲3?5に記載された「圧電デバイスの電極間の放電、短絡(絶縁破壊)を防止するために、『電極の角部を丸くしたり面取りする』対策を講じる。」というものである。

イ 沿面放電を避けるという課題について
甲7の「電極縁端間のフラッシオーバを避けるために、電極縁端に適切な丸み(半径3?5mm)を付ける」との記載や、甲10の「圧電素子を空気中で分極する方法は、空気の絶縁耐圧が低いため、放電現象や、沿面放電により絶縁破壊が発生する等の問題点を有していた。」との記載から、沿面放電を避けるという課題は一般的であるといえる。そして、甲2発明は、絶縁性接着層を電極と圧電体の側面を覆うことで、放電による電極間の短絡を防止している。甲1発明も上部電極、圧電部材及び下部電極を絶縁層で覆う構成を有していることから、甲2発明と同様に放電(沿面放電)による電極間の短絡を防止しているものである。
一方、本件特許明細書の段落【0007】に「従来、圧電アクチュエータや圧電光偏向器などにおいて、圧電部材の上下電極間の短絡を防止するために、圧電部材及び上下電極の側面等を絶縁膜で覆うことが知られている(例えば、特許文献2)。しかしながら、上下電極に駆動電圧を印加して圧電部材を駆動すると、圧電部材と共に絶縁膜も伸縮する。この結果、長時間の駆動中には絶縁膜にクラックや膜欠陥(絶縁破壊)が生じ、絶縁耐力が低下して、沿面放電を引き起こしかねない。そのため、高い信頼性が求められるデバイスに用いられる圧電光偏向器では、信頼性の面でさらなる対策が不可欠である。」(当審注:上記特許文献2は、甲2である。)
つまり、圧電部材及び上下電極の側面等を絶縁膜で覆う構成を有している甲1発明や甲2発明は、沿面放電を避けるという一般的な課題については解決しているものである。
よって、甲1発明において、沿面放電を避けるという一般的な課題に基づいて、周知技術を適用する動機付けは存在しない。
そして、本件特許発明は、長時間の駆動中には絶縁膜にクラックや膜欠陥(絶縁破壊)が生じるという、一般的な課題を踏まえたさらなる課題の認識があるものである。

ウ 甲4及び甲4引用特許文献1に記載された周知の課題について
周知の課題とは、「積層型圧電アクチュエータにおいて、圧電駆動部に接合される、絶縁を図る役割を果す「不活性体」(保護層部)は、圧電駆動の際に、撓みに追従することができなかったり、外周部が変形したりし、圧電駆動部と保護層部の境界近傍に応力が生じる。この圧電駆動を長時間駆動した場合には、該境界部分に大きな応力集中が起こり、保護層部または積層体の圧電板が破損したり、保護層部が剥離したりし、絶縁破壊を起こすという問題がある。」(上記「第3 3(13)」参照。)というものである。
つまり、周知の課題は、積層型圧電アクチュエータにおける周知の課題であって、甲1発明の「駆動梁」が有する「固定ベース40から突出して形成された梁状部材31aの上に、接着層33a、下部電極35a、圧電材料(圧電部材)32a、上部電極34a、絶縁層36aの順で積層して構成され、前記上部電極、前記圧電部材及び前記下部電極が絶縁層で覆われて」いる構成とは異なるタイプのアクチュエータにおける課題である。
甲4及び甲4引用特許文献1に記載された積層型圧電アクチュエータの「不活性体」(保護層部)は、甲1発明のように上部電極、圧電部材及び下部電極を覆うものではないから、甲4及び甲4引用特許文献1に記載された積層型圧電アクチュエータにおいて、上部電極、圧電部材及び下部電極を覆う保護層部に生じるクラックや膜欠陥との関連において、曲率を設ける内部電極層の角部の場所を特定する技術思想は存在しない。
してみると、甲4及び甲4引用特許文献1に記載された積層型圧電アクチュエータの周知の課題は、積層型圧電アクチュエータとは異なるタイプの甲1発明においても存在する周知の課題であるとはいえない。
よって、甲1発明において、甲4及び甲4引用特許文献1に記載された積層型圧電アクチュエータの周知の課題に基づいて、周知技術を適用することにはならない。

エ 申立人の意見についてのまとめ
沿面放電を避けるという一般的な課題や甲4及び甲4引用特許文献1に記載された周知の課題があるにしても、上記イ、ウのとおり、甲1発明に甲3?5に記載された周知技術を適用することにはならない。
また、上部電極、圧電部材及び下部電極を覆っている絶縁層に生じるクラックや膜欠陥との関連において、円弧形状又はテーパー形状とする電極の角部の場所を特定する技術思想はいずれの文献にも記載も示唆もされていないから、甲1発明に周知技術を適用しても、訂正発明1(本件特許発明1)の構成を得ることはできない。
よって、訂正発明1(本件特許発明1)は、甲1発明、絶縁破壊に関する周知の課題及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとする申立人の主張は採用することができない。

第4 まとめ
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件特許発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定ベースと、光反射面を有する可動部と、前記可動部を回転可能に支持する弾性支持部材と、前記可動部及び前記弾性支持部材を前記固定ベースに対して支持する駆動梁とを有し、
前記駆動梁は、梁状部材と該梁状部材上に設けられた圧電部材とからなり、前記圧電部材は上部電極及び下部電極を有し、
前記上部電極及び前記下部電極に電圧を印加し、前記駆動梁が曲げ変形することで、前記弾性支持部材に捻り変形が発生して、前記可動部が回転する圧電光偏向器において、
前記駆動梁は、少なくとも前記上部電極、前記圧電部材及び前記下部電極が絶縁層で覆われており、
前記絶縁層は、前記駆動梁が駆動すると前記圧電部材と共に伸縮し、
前記駆動梁の一端は前記弾性支持部材と接続され、前記駆動梁の他端は前記固定ベースに接続されており、前記圧電部材の前記上部電極と前記下部電極の少なくとも一方の電極の前記駆動梁の前記一端の側の先端の角が円弧形状又はテーパー形状になっていることを特徴とする圧電光偏向器。
【請求項2】
一対の駆動梁により、前記可動部及び前記弾性支持部材が前記固定ベースに対して片持ち支持され、
前記電極の前記駆動梁の自由端側の先端の角が円弧形状又はテーパー形状になっていることを特徴とする請求項1に記載の圧電光偏向器。
【請求項3】
可動枠と、光反射面を有する可動部と、前記可動部を回転可能に支持する第1の弾性支持部材と、前記可動部及び前記第1の弾性支持部材を前記可動枠に対して支持する第1の駆動梁と、
固定ベースと、前記可動枠を回転可能に支持する第2の弾性支持部材と、前記可動枠及び前記第2の弾性支持部材を前記固定ベースに対して支持する第2の駆動梁とを有し、
前記第1の駆動梁及び前記第2の駆動梁は、各々、梁状部材と該梁状部材上に設けられた圧電部材とからなり、前記圧電部材は上部電極及び下部電極を有し、
前記第1の駆動梁の圧電部材の前記上部電極及び下部電極に電圧を印加し、前記第1の駆動梁が曲げ変形することで、前記第1の弾性支持部材に捻り変形が発生して、前記可動部が第1の方向に回転し、
前記第2の駆動梁の圧電部材の前記上部電極及び下部電極に電圧を印加し、前記第2の駆動梁が曲げ変形することで、前記第2の弾性支持部材に捻り変形が発生して、前記可動枠が回転して、前記可動部が第2の方向に回転する圧電光偏向器において、
前記第1の駆動梁は、少なくとも前記第1の駆動梁における前記上部電極、前記圧電部材及び前記下部電極が絶縁層で覆われており、
前記絶縁層は、前記第1の駆動梁が駆動すると前記第1の駆動梁における前記圧電部材と共に伸縮し、
前記第1の駆動梁の一端は前記第1の弾性支持部材と接続され、前記第1の駆動梁の他端は前記可動枠に接続されており、少なくとも前記第1の駆動梁における前記圧電部材の前記上部電極と下部電極の少なくとも一方の電極の前記第1の駆動梁の前記一端の側の先端の角が円弧形状又はテーパー形状になっていることを特徴とする圧電光偏向器。
【請求項4】
光源と、光源からの光ビームを偏向走査させる請求項1又は2に記載の圧電光偏向器と、該圧電光偏向器で偏向走査された光ビームを被走査面にスポット状に結像する走査光学系とを備えることを特徴とする光走査装置。
【請求項5】
請求項4に記載の光走査装置と、光ビームの走査により潜像を形成する感光体と、潜像をトナーで顕像化する現像手段と、トナー像を記録紙に転写する転写手段とを有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項6】
請求項3に記載の圧電光偏向器を有し、該圧電光偏向器により光ビームを偏向・走査して、投影面に画像を投影することを特徴とする画像投影装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-12-27 
出願番号 特願2012-235001(P2012-235001)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 右田 昌士  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 近藤 幸浩
森 竜介
登録日 2016-09-16 
登録番号 特許第6003529号(P6003529)
権利者 株式会社リコー
発明の名称 圧電光偏向器、光走査装置、画像形成装置及び画像投影装置  
復代理人 山口 昭則  
代理人 伊東 忠彦  
復代理人 山口 昭則  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  

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