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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C12N 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C12Q |
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管理番号 | 1348731 |
異議申立番号 | 異議2018-700659 |
総通号数 | 231 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-03-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-08-07 |
確定日 | 2019-01-25 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6275145号発明「まれな変異およびコピー数多型を検出するためのシステムおよび方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6275145号の請求項1ないし29に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6275145号の請求項1?29に係る発明についての出願は、平成25年9月4日を国際出願日(パリ条約による優先権主張 2012年9月4日 米国、2012年9月21日 米国、2013年3月15日 米国、2013年7月13日 米国)とする出願であって、平成30年1月19日にその特許権の設定登録がされた。 その後、その特許に対し、平成30年8月7日に、特許異議申立人野田澄子により特許異議の申立てがなされたものである。 第2 本件発明 特許第6275145号の請求項1?29に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?29に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」などという。)、その請求項1は次のとおりのものである。 【請求項1】 コピー数多型を検出するための方法であって、該方法は、 a.被験体の身体サンプル由来の細胞外ポリヌクレオチドまたはそのフラグメントを、ユニークでなくタグ化する工程であって、それにより、ユニークでなくタグ化された細胞外ポリヌクレオチドの集団を生成する、工程; b.前記ユニークでなくタグ化された細胞外ポリヌクレオチドを配列決定する工程であって、該細胞外ポリヌクレオチドの各々は、複数の配列決定リードを生成する、工程; c.指定の閾値を満たさないリードを除外する工程; d.工程(b)から得られた配列決定リードを、リードを除外した後に、参照配列に対してマッピングする工程; e.該参照配列の予め定義された複数の領域におけるマッピングされたリードまたはユニークな配列決定リードを定量するかまたは列挙する工程;および f. i.該予め定義された複数の領域の各々における配列決定リードの数を互いに対しておよび/または該予め定義された複数の領域におけるユニークな配列決定リードの数を互いに対して正規化する工程;および/または ii.該予め定義された複数の領域の各々における配列決定リードの数および/または該予め定義された複数の領域におけるユニークな配列決定リードの数を、コントロールサンプルから得られた正規化された数と比較する工程 によって、該予め定義された複数の領域の1つ以上におけるコピー数多型を決定する工程 を含む、方法。 第3 申立理由の概要 特許異議申立人(以下「申立人」という。)が申し立てた理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。 1 本件発明1?10、13、14、15、20、21、23及び29は、甲1号証に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないものであり、また、本件発明1?29は、甲1号証に記載された発明、及び甲2号証?甲9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、取り消されるべきものである。 2 本件発明1?29は、甲5号証に記載された発明、並びに甲3号証、甲4号証及び甲7号証?甲9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、取り消されるべきものである。 [証拠方法] 甲1号証: Chiu, et al., "Non-invasive prenatal assessment of trisomy 21 by multiplexed maternal plasma DNA sequencing: large scale validity study", BMJ (2011) p.1/9-9/9及びWeb extra appendices (p.1-8), 甲2号証: Chiu, et al., "Noninvasive prenatal diagnosis of fetal chromosomal aneuploidy by massively parallel genomic sequencing of DNA in maternal plasma", Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2008) vol.105, no.51, p.20458-20463及びSupporting Information (p.1/17-17/17) 甲3号証:"Multiplexed Sequencing with the Illumina Genome Analyzer System" (2008) p.1-4, 甲4号証: Kinde, et al., "Detection and quantification of rare mutations with massively parallel sequencing", Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2011) vol.108, no.23, p.9530-9535及びSupporting Information (p.1/10-10/10) 甲5号証: 米国特許第8195415号明細書 甲6号証: Wang, et al., "Digital karyotyping", Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2002) vol.99, no.25, p.16156-16161 甲7号証: CASAVA v1.8.2 User Guide (2011), 甲8号証: Shaw, et al., "Genomic analysis of circulating cell-free DNA infers breast cancer dormancy", Genome Res. (published online OCT 2011) vol.22, p.220-231 甲9号証: Nord et al., "Accurate and exact CNV identification from targeted high-throughput sequence data", BMC Genomics (2011) p.1/10-10/10, 第4 認定事実 甲1号証?甲9号証の記載の概要は以下のとおりである(英語から日本語への翻訳は当審が行った。)。 1 甲1号証 (1)甲1号証の記載 本件優先日前に頒布された刊行物である甲1号証には、高リスク妊娠中の胎児トリソミー21を除外するために、多重化母系血漿DNA配列分析により、21番染色体由来のDNA分子の割合を測定し、21番染色体DNA分子のzスコアが3より大きい場合、トリソミー21胎児と診断したことが記載されている(1頁左欄19?25行、1頁右欄1?3行)。 また、甲1号証には、多重化の導入以外は、文献24(当審注:甲2号証に相当。)に記載されたプロトコルと同様のものを使用して、母体血漿由来のDNA分子を抽出し配列決定したことが記載されている(2頁右欄21?24行)。そして、甲1号証には、当該プロトコルの概略として、1つの母体血漿試料毎に1つのインデックスを使用し、試料の署名として機能する、6つの塩基対のユニークな合成DNAである「バーコード」を各血漿DNA分子の一末端に導入し、複数の母体に由来する血漿DNA調製物からなる多重試料混合物を同時に配列決定をしたこと(2頁右欄41?51行)、当該配列決定は、Genome Analyzer II(Illumina)又はGenome Analyzer IIx(Illumina)で行い、配列決定後、DNA分子に付着されたインデックス配列を選別することによって、特定の試料に属する実際のDNA分子を他の試料に属するものと区別したこと(2頁右欄52?59行)が記載されている。 さらに、甲1号証には、試料の分析が1組の品質管理基準に通った場合のみ、配列決定結果が有効であるとみなしたこと(2頁右欄59行?3頁左欄2行)、配列決定された「リード」の染色体起源を、イルミナ株式会社によって提供されるELANDプログラムと称されるソフトウェアパッケージを使用し、Ensemblウェブサイトから入手可能な参照ヒトゲノムと比較することによって同定したこと(3頁左欄7?11行、Appendix2の3?9行)、次いで、各母体血漿試料中の21番染色体のパーセンテージを計算したこと(3頁左欄11?12行)、試験試料中の21番染色体のzスコアを、テストケースの21番染色体のパーセンテージから、正倍数性妊娠(対照)の参照セットの21番染色体の平均パーセンテージを差し引き、参照試料セット間の21番染色体のパーセンテージ値の標準偏差で割ることで得、3よりも大きいzスコアを、21番染色体のパーセンテージが増加し胎児トリソミー21が存在したかを決定するカットオフ値としたこと(3頁左欄12行?右欄11行)、診断カットオフポイントとして21番染色体のzスコア3を用いることにより、トリソミー21胎児を、100%感度及び97.9%特異性で検出したこと(4頁右欄22?27行)が記載されている。 (2)甲1発明 前記(1)に示された事項からみて、甲1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。 「胎児トリソミー21を検出するための方法であって、当該方法は、 ア 母体血漿由来のDNA分子を抽出する工程、 イ 各母体血漿試料毎に、各試料の署名として機能する、6つの塩基対のユニークな合成DNAを各血漿DNA分子の一末端に導入し、各試料毎のインデックスとする工程、 ウ 複数の母体に由来する血漿DNA調製物からなる多重試料混合物を同時に配列決定する工程、 エ 配列決定後、DNA分子に付着されたインデックスにより、特定の試料に属するDNA分子を他の試料に属するものと区別する工程、 オ 試料の分析が1組の品質管理基準に通った場合のみ、配列決定結果が有効であるとみなす工程、 カ 配列決定されたリードの染色体起源を、参照ヒトゲノムと比較することによって同定する工程、 キ 各母体血漿試料中の21番染色体のzスコアを、テストケースの21番染色体のパーセンテージから、正倍数性妊娠(対照)の参照セットの21番染色体の平均パーセンテージを差し引き、参照試料セット間の21番染色体のパーセンテージ値の標準偏差で割ることで得る工程、 ク zスコアが3よりも大きい場合に、胎児トリソミー21が存在すると決定する工程 を含む、方法。」 2 甲2号証 本件優先日前に頒布された刊行物である甲2号証は「母体血漿中のDNAの大規模並列ゲノム配列決定による胎児染色体異数性の非侵襲的出生前診断」と題された学術文献であるところ、甲2号証は、前記1で示したとおり、甲1号証が文献24として引用したものである。そして、甲2号証には、母体血漿由来のDNAの配列を解析することにより、胎児トリソミー21の存在を決定したことが記載されている。 3 甲3号証 本件優先日前に頒布された刊行物である甲3号証には、イルミナ社の多重配列解析システムの概要が記載されている。 4 甲4号証 本件優先日前に頒布された刊行物である甲4号証は「大規模並列シーケンシングによる希少変異の検出と定量」と題された学術文献であるところ、甲4号証には、大規模並列シーケンシング機器によって、少数のDNA鋳型に存在する変異を確実に識別することを目的として、大規模並列シーケンシング機器の感度を大幅に向上させるSafe-Sequencing System(Safe-SeqS)と呼ばれる方法が記載されている(9530頁要旨)。 そして、甲4号証には、Safe-SeqSでは、分析される各DNA鋳型分子にユニークな識別子(UID)を割り当てる工程1、及び各ユニークなタグ付けをされた鋳型を増幅し、同一の配列を有する多くの娘分子が生成される(UIDファミリー)工程2が実施されること、並びに増幅のために使用される鋳型分子に予め変異が存在していれば、その後の複製及びシーケンシングにエラーが無い限り、当該変異はそのUIDを含む全ての娘分子に存在するはずであることが記載されている(9530頁右欄32行?9531左欄2行)。 また、甲4号証には、UIDとして、内因性UID(9531頁左欄3?14行)及び外因性UID(9532頁左欄1?17行)を用いること、並びにSafe-SeqSは推定配列決定誤差を少なくとも70倍減少させたこと(9531頁左欄31?38行)が記載されている。 さらに、甲4号証には、3人の正常で無関係な個体のCTNNB1遺伝子の一塩基置換について、従来の方法又はSafe-SeqSで分析したことが記載されている(図3、図4)。 加えて、甲4号証には、この戦略の利点の1つは、解析された鋳型の数、及びバリアント塩基を含有する鋳型の断片が得られることが記載されている(9534頁左欄2?4行)。 5 甲5号証 (1)甲5号証の記載 本件優先日前に頒布された刊行物である甲5号証には、配列決定による胎児の異数性の非侵襲的診断(発明の名称)について記載されており、具体的には、妊婦の血漿からの無細胞DNAの直接配列決定で、患者サンプルあたり平均5百万の配列タグを得、得られた配列を特定の染色体位置にマッピングし、異数性胎児からの染色体の過小又は過剰発現を測定することにより、18の正常および異数性妊娠のコホートにおいて、トリソミー21(ダウン症候群)の9症例、トリソミー18の2症例、及びトリソミー13の1症例を成功裏に同定したこと(20欄30?46行)が記載されている。 そして、甲5号証には、母体の末梢血の血漿中に存在する胎児DNAを分析対象とすること(3欄35?39行)、末梢血に含まれる胎児及び母体のDNAを、多数の短いリードを与える方法にて配列決定すること(3欄43?47行目)、短いリードは配列タグとして作用し、当該リードの相当部分は、ヒトゲノムに存在することが既知である、特定の染色体若しくは染色体位置にマッピングされるのに十分にユニークであること(3欄47?50行)、各染色体(1?22番、X及びY)にマッピングされた配列タグの数を計数することによって、異数体の胎児によって寄与される混合DNA中の任意の染色体または染色体部分の過大提示または過小提示を検出することができること(3欄50?56行)常染色体毎の配列の数の中央値カウントを、配列タグの合計数の差を明らかにするための正規化定数として使用し、これは、試料間および染色体間の比較のために使用されること(4欄1?5行)が記載されている。 また、甲5号証には、混合試料における複数の染色体部分からのDNA断片の配列決定により、決定される配列の長さがゲノム内の一の染色体部位に割り当てるのに十分な長さであり、異常な分布を反映するのに十分な数である、多数の配列タグを得ること(4欄34?40行)、具体的には、1つの試料毎に平均して約1000万の25bpの配列タグを得たこと(14欄60?64行)、配列タグは、染色体1-22、X又はYのうちの1つに特異的に割り当てることができる十分な長さのDNA配列であること(8欄50?61行)、当該配列決定は、イルミナ株式会社によって提供される、Illumina/Solexa 1G Genome Analyzerにより行うこと(9欄25?29行)が記載されている。 さらに、甲5号証には、配列を参照ゲノム配列と比較することによって対応する染色体に配列タグを割り当てること(4欄40?46行)、その際に、最大1ミスマッチで、ヒトゲノムにユニークにマッピングされた配列タグを選択すること(23欄11?13行)、染色体上の配列の定義されたウインドウ(好ましい実施形態ではウインドウは約50kb)内に存在する配列タグの数を計数し、各染色体毎に合計配列タグカウントの中央値を得るとともに、すべての常染色体値の中央値を得て、この値を正規化定数として使用して、異なる試料について得られる配列タグの合計数の差を明らかにすることにより、配列タグ密度の値が試料内で正規化されること、及びこのように計算された配列タグ密度は、二染色体的な染色体については約1となることが理想的であり得ること(8欄50行?9欄4行)が記載されている。 (2)甲5発明 前記(1)に示された事項からみて、甲5号証には、以下の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認める。 「胎児の異数性を配列決定により非侵襲的に診断する方法であって、当該方法は、 ア 母体の末梢血の血漿中に存在する胎児DNAを分析対象とし、当該末梢血に含まれる胎児及び母体のDNAを、1つの試料毎に平均して約1000万の25bpの短いリードを与える方法にて配列決定する工程、 イ 当該短いリードを配列タグとして利用し、最大1ミスマッチで、ヒトゲノムにユニークにマッピングされた配列タグを選択し、ヒトゲノムの各染色体(1?22番、X及びY)にユニークにマッピングする工程、 ウ 染色体上の配列を約50kbで区切ったウインドウ内に存在する配列タグの数を計数する工程、 エ 各染色体上の各ウィンドウ内に存在するタグの数を計数し、各染色体毎に合計配列タグカウントの中央値を得るとともに、すべての常染色体値の中央値を得て、この値を正規化定数として使用して、異なる試料について得られる配列タグの合計数の差を明らかにすることにより、配列タグ密度の値を試料内で正規化する工程、 オ 異数体の胎児によって寄与される混合DNA中の任意の染色体または染色体部分の過大提示または過小提示を検出する工程 を含む、方法。」 6 甲6号証 本件優先日前に頒布された刊行物である甲6号証は「デジタル核型分析」と題された学術文献であるところ、甲6号証には、ゲノムDNAを単離し、マッピング酵素(SacI)により開裂することにより、ゲノムタグを有する断片を得る工程1、当該断片の両端にビオチン化リンカーにライゲートする工程2、断片化酵素(NlaIII)によって開裂後、ストレプトアビジン磁気ビーズで単離する工程3、タグ化酵素サイト(MmeI)を含むリンカーにライゲートする工程4、タグ化酵素(MmeI)を用いてゲノムタグを遊離する工程5、ライゲートによるダイタグ形成、PCR増幅、連結及び配列決定を行う工程6、各染色体へタグマッピングし、タグ密度を評価する工程7の工程からなるデジタル核型分析方法が記載されている(図1)。 7 甲7号証 本件優先日前に頒布された刊行物である甲7号証は、イルミナ社の配列解析ソフトウェア「CASAVA v1.8.2」の使用説明書である。 8 甲8号証 本件優先日前に頒布された刊行物である甲8号証は「循環無細胞DNAのゲノム解析は乳癌休眠を推測する」と題された学術文献であるところ、甲8号証には、血漿から単離されたcfDNAのゲノム解析により、乳癌患者と診断された患者において、診断から12年後まで、原発性腫瘍を反映した特定のCNVが検出されたことが記載されている(220頁の要旨)。 9 甲9号証 本件優先日前に頒布された刊行物である甲9号証は「標的化ハイスループット配列データからの正確かつ精密なCNV同定」と題された学術文献であるところ、甲9号証には、CNVであることの決定は、CNV切断点にまたがる配列の痕跡をテストすることにより確認すること(1/10頁の要旨)、この方法により、87%の感度で200bpのCNV、及び80%の感度で100bpのCNVを検出可能であること(2頁右欄30?49行)が記載されている。 第5 当審の判断 1 本件発明1について 甲1発明を主引用発明とした場合の本件発明1の新規性及び進歩性についてまず検討し、次に、甲5発明を主引用発明とした場合の本件発明1の進歩性について検討する。 (1)甲1発明を主引用発明とした場合 ア 対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「母体血漿由来のDNA分子」は、本件発明1の「被験体の身体サンプル由来の細胞外ポリヌクレオチド」に相当する。そして、甲1発明の「各母体血漿試料毎に、各試料の署名として機能する、6つの塩基対のユニークな合成DNAを各血漿DNA分子の一末端に導入し、各試料毎のインデックスとする工程」は、甲1発明において、当該インデックスにより、「特定の試料に属するDNA分子を他の試料に属するものと区別する」ことを可能とするものであって、一の母体血漿に由来するDNA分子には一のインデックス、すなわち一の合成DNAが用いられていることから、一の母体血漿に由来するDNA分子には同一の合成DNAが導入されているとえ、したがって、甲1発明の「各母体血漿試料毎に、各試料の署名として機能する、6つの塩基対のユニークな合成DNAを各血漿DNA分子の一末端に導入し、各試料毎のインデックスとする工程」は、本件発明1の「被験体の身体サンプル由来の細胞外ポリヌクレオチドまたはそのフラグメントを、ユニークでなくタグ化する工程であって、それにより、ユニークでなくタグ化された細胞外ポリヌクレオチドの集団を生成する、工程」に相当する。 そして、甲1発明の「複数の母体に由来する血漿DNA調製物からなる多重試料混合物を同時に配列決定する工程」により、複数の配列決定リードが生成されることは明らかであるから、上記工程は、本件発明1の「前記ユニークでなくタグ化された細胞外ポリヌクレオチドを配列決定する工程であって、該細胞外ポリヌクレオチドの各々は、複数の配列決定リードを生成する、工程」に相当する。 また、甲1発明の「試料の分析が1組の品質管理基準に通った場合のみ、配列決定結果が有効であるとみなす工程」は、一定の品質管理基準を通らない配列決定結果すなわち配列決定リードを有効ではない、すなわち無効とみなす工程であると換言できるから、上記工程は、本件発明1の「指定の閾値を満たさないリードを除外する工程」に相当する。 さらに、甲1発明の「配列決定されたリードの染色体起源を、参照ヒトゲノムと比較することによって同定する工程」は、その前工程で、一定の品質管理基準を通らない配列決定リードを無効とした後に実施されるものであるから、本件発明1の「リードを除外した後」に「工程(b)から得られた配列決定リード」を「参照配列に対してマッピングする工程」に相当する。 加えて、甲1発明の「各母体血漿試料中の21番染色体のzスコアを、テストケースの21番染色体のパーセンテージから、正倍数性妊娠(対照)の参照セットの21番染色体の平均パーセンテージを差し引き、参照試料セット間の21番染色体のパーセンテージ値の標準偏差で割ることで得る工程」において、「テストケースの21番染色体のパーセンテージ」を算出する工程は、本件発明1の「該参照配列の予め定義された複数の領域におけるマッピングされたリードまたはユニークな配列決定リードを定量する工程」に相当し、「正倍数性妊娠(対照)の参照セット」は、本件発明1の「コントロールサンプル」に相当するとともに、当該「正倍数性妊娠(対照)の参照セット」は、21番染色体について、その平均パーセンテージ及びパーセンテージ値の標準偏差が算出されていることから、正規化されているといえる。そうすると、「テストケースの21番染色体のパーセンテージから、正倍数性妊娠(対照)の参照セットの21番染色体の平均パーセンテージを差し引き、参照試料セット間の21番染色体のパーセンテージ値の標準偏差で割ること」で「母体血漿試料中の21番染色体のzスコア」を得る工程は、本件発明1の「コントロールサンプルから得られた正規化された数と比較する工程」に相当する。 一方、甲1発明の「胎児トリソミー21」は、ゲノムレベルの異常の一つではあるものの、本件優先日当時の技術常識からみて、「異数性」というべきものであり、「コピー数多型」には相当しない。また、この点は、本件明細書の【0013】において「いくつかの実施形態において、被験体は、妊婦であり得、その妊婦における異常な状態は、…、コピー数多型、…、異数性、…からなる群より選択される胎児の異常であり得る。」と記載され、また、本件明細書の【0095】において「いくつかの実施形態において、被験体は、妊婦である。いくつかの実施形態において、コピー数多型または稀な変異または遺伝的バリアントは、胎児の異常を示す。いくつかの実施形態において、その胎児の異常は、…、コピー数多型、…、異数性、…からなる群より選択される。」と記載されるように、本件明細書において、「コピー数多型」と「異数性」を分けて記載されていることとも整合する。 したがって、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は以下のとおりと認める。 (一致点)「ゲノムレベルの異常を検出するための方法であって、該方法は、 a.被験体の身体サンプル由来の細胞外ポリヌクレオチドまたはそのフラグメントを、ユニークでなくタグ化する工程であって、それにより、ユニークでなくタグ化された細胞外ポリヌクレオチドの集団を生成する、工程; b.前記ユニークでなくタグ化された細胞外ポリヌクレオチドを配列決定する工程であって、該細胞外ポリヌクレオチドの各々は、複数の配列決定リードを生成する、工程; c.指定の閾値を満たさないリードを除外する工程; d.工程(b)から得られた配列決定リードを、リードを除外した後に、参照配列に対してマッピングする工程; e.該参照配列の予め定義された複数の領域におけるマッピングされたリードまたはユニークな配列決定リードを定量するかまたは列挙する工程;および f. i.該予め定義された複数の領域の各々における配列決定リードの数を互いに対しておよび/または該予め定義された複数の領域におけるユニークな配列決定リードの数を互いに対して正規化する工程;および/または ii.該予め定義された複数の領域の各々における配列決定リードの数および/または該予め定義された複数の領域におけるユニークな配列決定リードの数を、コントロールサンプルから得られた正規化された数と比較する工程 によって、該予め定義された複数の領域の1つ以上におけるゲノムレベルの異常を決定する工程 を含む、方法。」 (相違点)検出対象とするゲノムレベルの異常が、本件発明1は「コピー数多型」であるのに対し、甲1発明は「胎児トリソミー21」である点。 イ 相違点についての判断 (ア) 上記相違点について検討する。前記第4の2及び5に示すとおり、甲2号証及び甲5号証には、「異数性」の検出についての記載はあるものの、「コピー数多型」の検出に関する記載はない。そして、前記第4の3及び7に示すとおり、甲3号証及び甲7号証にも、「コピー数多型」の検出に関する記載はない。 また、前記第4の4に示すとおり、甲4号証には、大規模並列シーケンシングによる希少変異の検出と定量が可能なSafe-SeqSと呼ばれる方法が記載されており、また、当該Safe-SeqSにおいて、分析される各DNA鋳型分子にユニークな識別子である内因性UID及び外因性UIDを用いることにより、推定配列決定誤差を少なくとも70倍減少させたことが記載されてはいる。しかし、甲4号証において具体的に記載されていることが、3人の個体に由来するCTNNB1遺伝子という特定の遺伝子の一塩基多型をSafe-SeqSで分析したことであることも考慮すれば、当該Safe-SeqSは、一塩基多型などの遺伝子中の塩基配列の変異を正確に検出するためのものであって、「コピー数多型」を検出するためのものとはいえない。甲4号証には、当該Safe-SeqSにより、解析された鋳型の数が得られることが記載されてはいるものの、甲4号証の記載全体からみて、「解析された鋳型の数が得られる」との記載からは、塩基配列の変異を有する遺伝子の数が1であるか2であるか、すなわち、当該遺伝子変異が、ヘテロなのかホモなのかという情報が得られることまでは理解できるものの、コピー数多型の検出ができることが示唆されているとまではいえない。 さらに、前記第4の6に示すとおり、甲6号証に記載された方法は、「核型分析」すなわち染色体の数と形態を全体的に捉える方法であり、「コピー数多型」を検出することを目的とする方法ではないから、甲6号証に記載された方法により、コピー数多型の検出ができることが示唆されているとまではいえない。 以上からみて、甲2号証?甲7号証には、「コピー数多型」を検出することが記載も示唆もされてないといえる。 (イ) 次に、甲8号証及び甲9号証に記載された事項について検討すると、いずれもコピー数多型についての記載はあるものの、前記第4の8に示すとおり、甲8号証には、腫瘍に由来するコピー数多型が、血漿中で長期間にわたり検出可能であったことが記載されているに留まり、また、前記第4の9に示すとおり、甲9号証には、CNV切断点にまたがる配列の痕跡をテストすることにより、コピー数多型であることを決定する方法が記載されているに留まっており、甲8号証及び甲9号証の記載から、コピー数多型を検出することが本願優先日前から広く行われていたことは理解できるものの、「コピー数多型」の検出と「異数性」の検出が同一の方法で実行可能であることが理解できる記載はないから、甲1発明の方法において、「異数性」というべき「胎児トリソミー21」を検出することにかえて、「コピー数多型」を検出することを、甲8号証及び甲9号証の記載から動機づけられるとまではいえない。 (ウ) したがって、甲1発明の方法において、「異数性」というべき「胎児トリソミー21」を検出することにかえて、「コピー数多型」を検出することを、甲2号証?甲9号証の記載に基づいて、当業者が容易に想到し得たとまではいえない。 ウ 申立人の主張について 申立人の主張は、トリソミー21などの「異数性」が「コピー数多型」に相当することを前提としているところ、前記アで検討したとおり、本件優先日当時の技術常識からみても、本件明細書の記載からみても、当該前提に誤りがあるというべきである。そして、前記イで検討したとおり、申立人が提示した甲2号証?甲9号証は、甲1発明の方法において、「異数性」というべき「胎児トリソミー21」を検出することにかえて、「コピー数多型」を検出することを当業者が容易に想到し得たことを示す証拠とはなり得ない。 エ 小括 前記アで検討したとおり、本件発明1と甲1発明との間には相違点が存在するから、本件発明1は、甲1号証に記載された発明であるとはいえず、また、前記イで検討したとおり、本件発明1は、甲1号証に記載された発明、及び甲2号証?甲9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)甲5発明を主引用発明とした場合 ア 対比 本件発明1と甲5発明とを対比する。 甲5発明の「母体の末梢血」に含まれる「胎児及び母体のDNA」は、本件発明1の「被験体の身体サンプル由来の細胞外ポリヌクレオチド」に相当する。 そして、甲5発明の「1つの試料毎に平均して約1000万の25bpの短いリードを与える方法にて配列決定する工程」は、本件発明1の「細胞外ポリヌクレオチドを配列決定する工程であって、該細胞外ポリヌクレオチドの各々は、複数の配列決定リードを生成する、工程」に相当する。 また、甲5発明の「最大1ミスマッチで、ヒトゲノムにユニークにマッピングされた配列タグを選択」する工程は、ヒトゲノムに2以上のミスマッチでマッピングされた配列タグ、及びヒトゲノムにユニークではなく、すなわち、複数部位にマッピングされた配列タグを除外する工程であると換言できるから、本件発明1の「指定の閾値を満たさないリードを除外する工程」に相当する。そうすると、甲5発明の「当該短いリードを配列タグとして利用し、最大1ミスマッチで、ヒトゲノムにユニークにマッピングされた配列タグを選択し、ヒトゲノムの各染色体(1?22番、X及びY)にユニークにマッピングする工程」は、本件発明1の「リードを除外した後」に「工程(b)から得られた配列決定リード」を「参照配列に対してマッピングする工程」に相当する。 さらに、甲5発明の「染色体上の配列を約50kbで区切ったウインドウ内に存在する配列タグの数を計数する工程」は、本件発明1の「該参照配列の予め定義された複数の領域におけるマッピングされたリードまたはユニークな配列決定リードを定量する工程」に相当する。 加えて、甲5発明の「各染色体上の各ウィンドウ内に存在するタグの数を計数し、各染色体毎に合計配列タグカウントの中央値を得るとともに、すべての常染色体値の中央値を得て、この値を正規化定数として使用して、異なる試料について得られる配列タグの合計数の差を明らかにすることにより、配列タグ密度の値を試料内で正規化する工程」は、コントロールサンプルを用いることなく、試料内で正規化を行っていることからみて、本件発明1の「該予め定義された複数の領域の各々における配列決定リードの数を互いに対しておよび/または該予め定義された複数の領域におけるユニークな配列決定リードの数を互いに対して正規化する工程」に相当する。 一方、甲5発明の「異数性」は、ゲノムレベルの異常の一つではあるものの、本件優先日当時の技術常識からみて、「コピー数多型」には相当しない。また、この点は、本件明細書の【0013】において「いくつかの実施形態において、被験体は、妊婦であり得、その妊婦における異常な状態は、…、コピー数多型、…、異数性、…からなる群より選択される胎児の異常であり得る。」と記載され、また、本件明細書の【0095】において「いくつかの実施形態において、被験体は、妊婦である。いくつかの実施形態において、コピー数多型または稀な変異または遺伝的バリアントは、胎児の異常を示す。いくつかの実施形態において、その胎児の異常は、…、コピー数多型、…、異数性、…からなる群より選択される。」と記載されるように、本件明細書において、「コピー数多型」と「異数性」を分けて記載されていることとも整合する。 したがって、本件発明1と甲5発明との一致点及び相違点は以下のとおりと認める。 (一致点)「ゲノムレベルの異常を検出するための方法であって、該方法は、 a.被験体の身体サンプル由来の細胞外ポリヌクレオチドの集団を生成する、工程; b.前記細胞外ポリヌクレオチドを配列決定する工程であって、該細胞外ポリヌクレオチドの各々は、複数の配列決定リードを生成する、工程; c.指定の閾値を満たさないリードを除外する工程; d.工程(b)から得られた配列決定リードを、リードを除外した後に、参照配列に対してマッピングする工程; e.該参照配列の予め定義された複数の領域におけるマッピングされたリードまたはユニークな配列決定リードを定量するかまたは列挙する工程;および f. i.該予め定義された複数の領域の各々における配列決定リードの数を互いに対しておよび/または該予め定義された複数の領域におけるユニークな配列決定リードの数を互いに対して正規化する工程;および/または ii.該予め定義された複数の領域の各々における配列決定リードの数および/または該予め定義された複数の領域におけるユニークな配列決定リードの数を、コントロールサンプルから得られた正規化された数と比較する工程 によって、該予め定義された複数の領域の1つ以上におけるゲノムレベルの異常を決定する工程 を含む、方法。」 (相違点1)検出対象とするゲノムレベルの異常が、本件発明1は「コピー数多型」であるのに対し、甲5発明は「異数性」である点。 (相違点2)配列決定される細胞外ポリヌクレオチドに対し、本件発明1は、「ユニークでなくタグ化する工程」を有するのに対し、甲5発明は、そのような工程を有さない点。 イ 相違点についての判断 相違点1について検討すると、前記(1)イ(ア)で検討したとおり、甲3号証、甲4号証及び甲7号証には、「コピー数多型」を検出することが記載も示唆もされていない。また、前記(1)イ(イ)で検討したとおり、甲8号証及び甲9号証の記載から、コピー数多型を検出することが本願優先日前から広く行われていたことは理解できるものの、「コピー数多型」の検出と「異数性」の検出が同一の方法で実行可能であることが理解できる記載はないから、甲5発明の方法において、「異数性」を検出することにかえて、「コピー数多型」を検出することを、甲8号証及び甲9号証の記載から動機づけられるとまではいえない。 そうすると、甲5発明の方法において、「異数性」を検出することにかえて、「コピー数多型」を検出することを、甲3号証、甲4号証及び甲7号証?甲9号証の記載に基づいて、当業者が容易に想到し得たとまではいえない。 ウ 申立人の主張について 申立人の主張は、「異数性」が「コピー数多型」に相当することを前提としているところ、前記アで検討したとおり、本件優先日当時の技術常識からみても、本件明細書の記載からみても、当該前提に誤りがあるというべきである。そして、前記イで検討したとおり、申立人が提示した甲3号証、甲4号証及び甲7号証?甲9号証は、甲5発明の方法において、「異数性」を検出することにかえて、「コピー数多型」を検出することを当業者が容易に想到し得たことを示す証拠とはなり得ない。 エ 小括 以上からみて、相違点2の容易想到性について検討するまでもなく、前記イで検討したとおり、本件発明1は、甲5号証に記載された発明、並びに甲3号証、甲4号証及び甲7号証?甲9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2 本件発明2?29について 本件発明2?29は、請求項1を引用し、本件発明1をさらに限定するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲1号証に記載された発明、及び甲2号証?甲9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、さらに、甲5号証に記載された発明、並びに甲3号証、甲4号証及び甲7号証?甲9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 3 むすび 以上からみて、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?29に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?29に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2019-01-15 |
出願番号 | 特願2015-530152(P2015-530152) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C12N)
P 1 651・ 113- Y (C12Q) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 松岡 徹 |
特許庁審判長 |
中島 庸子 |
特許庁審判官 |
小暮 道明 澤田 浩平 |
登録日 | 2018-01-19 |
登録番号 | 特許第6275145号(P6275145) |
権利者 | ガーダント ヘルス, インコーポレイテッド |
発明の名称 | まれな変異およびコピー数多型を検出するためのシステムおよび方法 |
代理人 | 石川 大輔 |
代理人 | 森下 夏樹 |
代理人 | 飯田 貴敏 |
代理人 | 山本 秀策 |
代理人 | 山本 健策 |