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審決分類 |
審判 判定 判示事項別分類コード:なし 属さない(申立て不成立) E02B |
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管理番号 | 1348766 |
判定請求番号 | 判定2018-600030 |
総通号数 | 231 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許判定公報 |
発行日 | 2019-03-29 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2018-09-21 |
確定日 | 2019-02-08 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第5254944号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | (イ)号図面及びその説明書に示す「防潮壁」は、特許第5254944号の請求項6に係る発明の技術的範囲に属しない。 |
理由 |
第1 請求の趣旨と手続の経緯 本件判定請求の趣旨は、イ号図面及びその説明書に示す「防潮壁」(以下「イ号物件」という。)は、特許第5254944号(以下「本件特許」という。)の請求項6に係る発明(以下「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属するとの判定を求めるものである。 なお、本件特許の請求項6に係る発明は、請求項1?3のいずれかを引用するものであるが、判定請求書の「(3)本件特許発明の説明」において、本件特許発明として請求項1を引用する場合の請求項6について記載されていることから、本件特許発明は、請求項1を引用する場合の請求項6に係る発明であると認める。 本件特許に係る手続の経緯は、平成21年12月18日(優先権主張平成21年4月13日)の出願であって、平成25年4月26日に特許権の設定登録がなされ、平成30年9月21日に本件判定請求がなされ、その後、判定請求書副本が送付され(発送日:同年10月17日)、同年11月13日に判定請求答弁書が提出されたものである。 第2 本件特許発明について 1 本件特許発明 本件特許発明は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項6に記載された事項により特定される次のとおりのものである(当判定において、請求項1と請求項6の記載を併せて記載し、構成要件ごとに分説し、記号A?Dを付した。以下「構成要件A」などという。)。 「A コンクリート製の防潮壁であって、 B コンクリート製の防潮壁に透明樹脂板を組み付けるための防潮壁用部品組であって、透明樹脂板と、その透明樹脂板の縁部を挿入できる溝付きの枠体と、透明樹脂板・枠体間の水密用のパッキンと、枠体の溝の内側に透明樹脂板の縁部を解除可能に拘束する拘束手段とを含むことを特徴とする防潮壁用部品組が使用されることにより、 C 透明樹脂板が取替可能に組み付けられていることを特徴とする D 防潮壁。」 2 本件特許明細書の記載 本件特許明細書には、拘束手段などに関して、以下のように記載されている(下線は当判定で付与。以下同様。)。 (1)「【0007】 本件出願の請求項に係る発明は、透明樹脂板が表面の傷等によって透明度を低下させたとき、その樹脂板を容易に取り替えできるようにした防潮壁、およびそのように防潮壁を構成するための防潮壁用部品組を提供するものである。透明樹脂板の代わりにガラス板が使用されている場合にも、表面が傷付いたり割れたり汚れたりして透明度が低下することがあり得るが、本願発明では、そのような場合にも上記と同様の取り替えができる防潮壁および防潮壁用部品組を提供する。」 (2)「【0011】 上記の拘束手段は、上記枠体の溝の内側面と透明樹脂板の縁部との間で溝の幅方向への寸法を変化させ得るものであるのが好ましい。たとえば、溝の内側面と同樹脂板の縁部との間に拘束手段として楔(くさび)を打ち込むようにすると、その打ち込みの量によって上記のように溝の幅方向への寸法を変化させることができる。両者間にスクリュー式または流体圧式のジャッキを入れたり、流体を充填されて膨らむ袋状の物を両者間にはさんだりする場合にも、それらの各拘束手段について、溝の幅方向への寸法を変化させることができる。そのほか、クリップ等による密着をはかるのもよい。 そのような拘束手段を使用すると、溝の幅方向への上記寸法を変化させて、溝の内側で透明樹脂板の縁部を圧迫し摩擦力を加えることにより、同樹脂板を容易に拘束し固定することができる。同樹脂板に穴をあけたり接着・溶着させたりする必要がないうえ、拘束を解除することもきわめて容易である。 【0012】 上記の拘束手段が、とくに、両端に右ねじと左ねじ(いわゆる逆ねじ)とを有するナット部材またはボルト部材の当該各ねじ部に、右ねじ付きの押し出し部材と左ねじ付きの押し出し部材とをそれぞれはめ付けた(つまりねじ結合させた)ものであると好ましい。たとえば図2(b)は、そのような拘束手段を使用する例である。ナット部材やボルト部材にこのように押し出し部材を結合させるのは、スクリュー式ジャッキを簡易の手動型にしたものともいえる。 そのような拘束手段においては、ナット部材またはボルト部材を回すことにより、ねじの作用にて、上記二つの押し出し部材の間隔(つまり溝の幅方向への寸法)を広めたり狭めたりすることが容易である。ナット部材またはボルト部材と、各ねじ付きの二つの押し出し部材とで構成されるため、構造が簡単であってコストが低い。ナット部材またはボルト部材を回転させながらも上記の各押し出し部材は回転しないようにすることができるため、透明樹脂板や枠体を傷付ける恐れがない、という利点もある。」 (3)「【0026】 拘束手段14は、図2(b)に示すもので、両端に右ねじ16aと左ねじ17aとを有するナット部材15の各ねじ部に、右ねじ16a付きの押し出し部材16と左ねじ17a付きの押し出し部材17とをそれぞれはめ付けたものである。押し出し部材16は枠体12(または13)の内側面に溶接等で固定し、押し出し部材17は、枠体12(または13)に沿った長さを有する長尺体にして、いずれも回転しないようにしている。ナット部材15をスパナ等で回転させると、二つの押し出し部材16・17の間隔が図2(b)の左右に広がったり狭まったりする。そのため、拘束手段14は、枠体12(または13)の溝の内側で透明樹脂板11の縁部(端面から数十mmだけ内側の箇所)を圧迫して拘束し、またはその拘束を解除することができる。 【0027】 上記の部品組10を用いて図1・図2の防潮壁1を構成するにあたっては、つぎのような手順をとる。 1) 防潮壁1のコンクリート壁2における上記の切り欠き部分において、コンクリート内に上記の枠体12を埋め込む。ただし、枠体12の溝の内側にコンクリートが入らないようにする。 2) 透明樹脂板11を、上辺以外の3辺の縁部が上記枠体12の溝にはまるよう、枠体12の上方から挿入する。樹脂板11の下辺端面と接触する枠体12の下辺の底面には、あらかじめクッション材18を接着しておく。また、枠体12の溝をなす一方の部分の内側にパッキン19Aを取り付けておき、拘束手段14の押し出し部材16・17の間隔は極力狭めておく。 3) 透明樹脂板11が枠体12の溝の間に入ると、拘束手段14のナット部材15を回すことにより、枠体12の内側に樹脂板11の縁部を拘束し固定する。そのうえで、樹脂板11と枠体12の一方の部分との間(拘束手段14の内側)にパッキン19Bを押し入れる。 4) 取り付けた透明樹脂板11の上辺と枠体12の上端部とに対して枠体13を被せ、枠体13内にパッキンを取り付けたうえ、拘束手段14を用いて枠体13と樹脂板11とを一体に組み付ける。枠体13により透明樹脂板11の上辺を保護するためである。 【0028】 取替等のために透明樹脂板11を取り出す際には、上記4)で組み付けた上部の枠体13を拘束手段14を緩めて取り外し、枠体12に係る上記3)の拘束を拘束手段14を操作して解除したのち、上記2)とは逆に樹脂板11を上方へ抜き出すとよい。表面がクリアでなくなった透明樹脂板11をこうして取り出したうえ、新しい透明樹脂板11を上記2)?4)の手順で組み付けると、景観や防災性能についての防潮壁1の利点を永続させることができる。」 第3 イ号物件 1 請求人によるイ号物件の特定 請求人は、イ号物件について、以下のように特定している。 「a)コンクリート製の防潮壁pであって、 b)コンクリート製の防潮壁pに透明樹脂板1(判定注;原文は丸の中に数字。以下、符号の数字については同様)を組み付けるための防潮壁用部品組であって、透明樹脂板1と、その透明樹脂板1の縁部を挿入できる溝付きの枠体4(q・r・s)と、透明樹脂板1・枠体4間の水密用のパッキン2と、枠体4の溝の内側に透明樹脂板1の縁部を解除可能に拘束する拘束手段tとを含むことを特徴とする防潮壁用部品組が使用されることにより、 c)透明樹脂板1が取替可能に組み付けられていることを特徴とする d)防潮壁p。」(判定請求書5頁11行?18行) 2 当審によるイ号物件の特定 (1)判定請求書におけるイ号物件の記載について 判定請求書には、イ号物件について、次のように記載されている。 ア 「イ号図面(第3頁(詳細図))中に手書きした符号pの部分は、イ号写真をも参照することによりコンクリート製の防潮壁であると分かる。また、イ号図面において材料表を参照することにより、図中の符号1はアクリル製の窓材すなわち透明樹脂板であり、符号2は、CRゴム製であって水の浸入を防ぐシール材であると分かる。窓材が交換可能であることはイ号図面から読み取れるが、イ号パンフレットにもその旨が記載されている。 符号4は、材料表に「山形鋼枠(アングル)」と記載されている。イ号図面によれば、符合4が付されたアングル材qともう一つのアングル材rとがボルトsによって連結されている。しかし、イ号図面において、2つのアングル材q・rとボルトsとには符合4以外の個別の符合が付されているわけでないため、符合4は、それらアングル材q・rとボルトsとの全体を一体物として指し示していると考えられる。また、イ号パンフレットにおいても、現場施工の際にボルトsによってアングル材q・rを連結しまたは分離すること等は全く記載されていない。日新興業株式会社の説明でも、「アクリル板(透明樹脂板)は窓枠(枠体)ごと防潮壁から取り外し、取り外したアクリル板と窓枠は使い捨てにして廃棄する」とのことである。以上の点から、イ号物件における2つのアングル材q・rとボルトsとは、一体として「透明樹脂板1の縁部を挿入できる溝付きの枠体4」を構成していると考えられる。」(判定請求書5頁20行?6頁3行) イ 上記アの記載とイ号図面の詳細図(水平部)から、アングル材qとアングル材rとがボルトsによって連結されて溝付きの枠体4が構成されており、当該溝にはアクリル製の透明樹脂板1が挿入されていることが看て取れる。なお、各部材には、イ号図面における符号を引用している。以下同じ。 ウ 上記ア、イの記載とイ号図面の詳細図(水平部)から、枠体4の溝の内側に逆Z字状の部材及びネジ状の部材tが配されていること、及びアクリル製の透明樹脂板1と枠体4間に密着して一方のゴム2が配されており、アクリル製の透明樹脂板1と逆Z字状の部材間に密着して他方のゴム2が配されていることが看て取れる。 エ 上記ア?ウの記載とイ号図面の断面図、詳細図(水平部)から、アクリル製の透明樹脂板1、ゴム2、枠体4、逆Z字状の部材、ネジ状の部材tは、コンクリート製の防潮壁にアクリル製の透明樹脂板1を組み付けるための部品組ということができる。 (2)イ号物件の特定 上記(1)を総合して、イ号物件を上記本件特許発明の構成要件A?Dに対応させて整理すると、イ号物件は以下のとおり分説した構成を具備するものと認められる(構成ごとに記号a?dを付した。以下、分説した構成を「構成a」などという。)。 「a コンクリート製の防潮壁であって、 b コンクリート製の防潮壁にアクリル製の透明樹脂板1を組み付けるための部品組であって、アングル材qとアングル材rとがボルトsによって連結されて溝付きの枠体4が構成されており、当該溝にはアクリル製の透明樹脂板1が挿入されており、枠体4の溝の内側に逆Z字状の部材及びネジ状の部材tが配されており、アクリル製の透明樹脂板1と枠体4間に密着して一方のゴム2が配されており、アクリル製の透明樹脂板1と逆Z字状の部材間に密着して他方のゴム2が配されている、部品組を使用して、 c アクリル製の透明樹脂板1が交換可能に組み付けられている、 d 防潮壁」 第4 当事者の主張 1 請求人の主張 判定請求書において、請求人は、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属するとして、以下のように主張している。 (1)「上記した本件特許発明は、つぎのような作用効果を有する。すなわち、・・・ 4)枠体を適切に構成すると、拘束手段による拘束を解除することにより、組み付けた透明樹脂板を枠体から取り出して、別の透明樹脂板を、同じ枠体内に挿入し直して固定することも可能になる。また、透明樹脂板の交換は、枠体等を取り付けたまま行うことももちろん可能である。その場合は、枠体等が使い捨てにされることによるコストアップがあるが、枠体等から透明樹脂板のみを取り出すための作業が不要であるという利点がある。」(判定請求書3頁23行?4頁12行) (2)「イ号物件を以上のように示すことができる理由は以下のとおりである。 イ号図面(第3頁(詳細図))中に手書きした符号pの部分は、イ号写真をも参照することによりコンクリート製の防潮壁であると分かる。また、イ号図面において材料表を参照することにより、図中の符号1はアクリル製の窓材すなわち透明樹脂板であり、符号2は、CRゴム製であって水の浸入を防ぐシール材であると分かる。窓材が交換可能であることはイ号図面から読み取れるが、イ号パンフレットにもその旨が記載されている。 符号4は、材料表に「山形鋼枠(アングル)」と記載されている。イ号図面によれば、符合4が付されたアングル材qともう一つのアングル材rとがボルトsによって連結されている。しかし、イ号図面において、2つのアングル材q・rとボルトsとには符合4以外の個別の符合が付されているわけでないため、符合4は、それらアングル材q・rとボルトsとの全体を一体物として指し示していると考えられる。また、イ号パンフレットにおいても、現場施工の際にボルトsによってアングル材q・rを連結しまたは分離すること等は全く記載されていない。日新興業株式会社の説明でも、「アクリル板(透明樹脂板)は窓枠(枠体)ごと防潮壁から取り外し、取り外したアクリル板と窓枠は使い捨てにして廃棄する」とのことである。以上の点から、イ号物件における2つのアングル材q・rとボルトsとは、一体として「透明樹脂板1の縁部を挿入できる溝付きの枠体4」を構成していると考えられる。 またイ号図面から、符合tを付けた部品は、外周にネジが形成されて一方のアングル材rのネジ穴に挿入されたネジ部材と見て取ることができ、これが、透明樹脂板1の縁部を解除可能に拘束する拘束手段に相当するものと推測できる。イ号図面には表れていないが、たとえば、その部品tの端部(図示右側の端部)にマイナス(-)またはプラス(十)の形の凹溝が形成されているなどして、ドライバー等の旋回用工具でその部品tを回転させ、もってアングル材rから図示左方への突出量を調整すれば、その左方の端部で透明樹脂板1の縁部を押さえ付けて拘束できるはずだからである。部品tを逆向きに回転させれば、その拘束を解除できることも明らかである。なお、日新興業株式会社の出願に係る特開2015-113698号公報の段落【0019】および図4に、上の推測を裏付ける記載がある。」(判定請求書5頁19行?6頁13行) 2 被請求人の主張 被請求人は、判定請求答弁書(以下「答弁書」という。)において、イ号物件は構成要件Bを充足しないとして、以下のように主張している。 (1)「そもそも、イ号図面からも明らかなように、部品tは透明樹脂板1の背面側(海側と反対の陸側)に位置しているのだから、透明樹脂板1が防潮壁に取り付けられている状態では操作することはできない部品である。 従って、イ号物件を分説した判定書の第5頁のb)中の「透明樹脂板1の縁部を解除可能に拘束する拘束手段t」(第5頁15行)が、イ号物件には存在せず、判定請求人のイ号物件の分説におけるb)は、イ号物件を正しく特定したものではない。 カ.この点をより明確にするため、乙第3号証として、イ号図面の原本の作成者であり、上記乙第2号証における出願人である日新興業株式会社が撮影したイ号物件の要部のカットモデルの写真を提示する。 写真には、判定請求人が判定請求書で使用した透明樹脂板1、水密用のパッキン2、溝付きの枠体4(q・r・s)、拘束手段tの符号を対応箇所に付してある。 なお、拘束手段tの先端は、上部の写真に示すようにアングル材rにかしめて固定しており、もともと「解除」は想定されていない。」(答弁書5頁下から9行?6頁6行) (2)「(4)-1 イ号物件が本件特許発明の構成要件Bを充足しないこと ・・・ ウ.本件特許発明の構成要件B5)と、イ号物件の構成要件b5)を対比すると、本件特許発明では、拘束手段(14)が透明樹脂板(11)の縁部を解除可能に拘束するのに対し、イ号物件では前項の(3)イ号物件についてで詳述したように、もともと拘束手段tを操作することでの「解除」は想定しておらず、構造的にも拘束手段tは透明樹脂板1が防潮壁(1)に取り付けられている状態では操作することはできない部品である。 従って、イ号物件が本件特許発明の構成要件Bを充足しないことは明らかである。 ・・・ エ.よって、イ号物件は、本件特許発明の構成要件B)を充足しない。」(答弁書6頁下から7行?8頁6行) 第5 属否の判断 イ号物件が、本件特許発明の構成要件を充足するか否かについて検討する。 1 構成要件A、Dについて ア イ号物件の構成aの「コンクリート製の防潮壁」は、本件特許発明の「コンクリート製の防潮壁」に相当するから、イ号物件の構成aと本件特許発明の構成要件Aは一致している。 同様に、イ号物件の構成dと本件特許発明の構成要件Dは一致している。 イ したがって、イ号物件の構成a、dは、それぞれ本件特許発明の構成要件A、Dを充足する。 2 構成要件Bについて ア イ号物件の構成bの「アクリル製の透明樹脂板1」、「部品組」は、それぞれ本件特許発明の「透明樹脂板」、「防潮壁用部品組」に相当する。 イ イ号物件の構成bの「アングル材qとアングル材rとがボルトsによって連結されて」構成される「溝付きの枠体4」は、「当該溝」に「アクリル製の透明樹脂板1が挿入され」るものであるから、イ号物件の構成bの「溝付きの枠体4」は、本件特許発明の「透明樹脂板の縁部を挿入できる溝付きの枠体」に相当する。 ウ イ号物件の構成bの「アクリル製の透明樹脂板1と枠体4間に密着して」「配され」る「一方のゴム2」と「アクリル製の透明樹脂板1と逆Z字状の部材間に密着して」「配され」る「他方のゴム2」は、水密製を有することは明らかであるから、本件特許発明の「透明樹脂板・枠体間の水密用のパッキン」に相当する。 エ しかしながら、イ号物件の構成bの「枠体4の溝の内側に」「配されている」「逆Z字状の部材及びネジ状の部材t」は、それぞれの部材がどのように機能しているのか、また、それぞれの部材が「アクリル製の透明樹脂板1」の拘束に対してどのように関係しているのか明らかではないから、本件特許発明の「枠体の溝の内側に」(配される)「透明樹脂板の縁部を解除可能に拘束する拘束手段」に相当するとはいえない。 オ したがって、イ号物件の構成bは、本件特許発明の構成要件Bを充足しない。 3 構成要件Cについて ア イ号物件の構成cの「交換可能」は、取替可能であるということであるから、本件特許発明の「取替可能」に相当する。 イ したがって、イ号物件の構成cは本件特許発明の構成要件Cを充足する。 4 小活 よって、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Bを充足しないから、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。 第6 請求人の主張について (1)請求人は、「またイ号図面から、符合tを付けた部品は、外周にネジが形成されて一方のアングル材rのネジ穴に挿入されたネジ部材と見て取ることができ、これが、透明樹脂板1の縁部を解除可能に拘束する拘束手段に相当するものと推測できる。イ号図面には表れていないが、たとえば、その部品tの端部(図示右側の端部)にマイナス(-)またはプラス(十)の形の凹溝が形成されているなどして、ドライバー等の旋回用工具でその部品tを回転させ、もってアングル材rから図示左方への突出量を調整すれば、その左方の端部で透明樹脂板1の縁部を押さえ付けて拘束できるはずだからである。部品tを逆向きに回転させれば、その拘束を解除できることも明らかである。なお、日新興業株式会社の出願に係る特開2015-113698号公報の段落【0019】および図4に、上の推測を裏付ける記載がある。」(第4の1(2)参照)と主張する。 当該主張について検討すると、本件特許発明における「枠体の溝の内側に」(配される)「透明樹脂板の縁部を解除可能に拘束する拘束手段」は、透明樹脂板を拘束する場合だけではなく、取り外す際にも機能する拘束手段であると解される。このような解釈は、「【0007】・・・その樹脂板を容易に取り替えできるようにした防潮壁、およびそのように防潮壁を構成するための防潮壁用部品組を提供するものである」(第2の2(1)参照)という本件特許発明の課題と合致すると共に、本件特許明細書の実施例の記載(第2の2(3)参照)とも対応している。 そして、上記第5の2エで説示したように、イ号物件の「逆Z字状の部材」、「ネジ状の部材t」は、それぞれの部材がどのように機能しているのか、特に「アクリル製の透明樹脂板1」の拘束を解除する時にどのように機能するのか、イ号図面、イ号写真、イ号パンフレットからは読み取れず、本件特許発明の「解除可能に拘束する拘束手段」に相当するとまではいえない。 また、請求人が提示した特開2015-113698号公報(被請求人が提出した乙第2号証。以下「乙第2号証」という。)に記載されたイモネジ20などの構造について、イ号図面、イ号写真、イ号パンフレットからは、イ号物件が乙第2号証に記載されたイモネジ20などの構造と同じであるのか、あるいは被請求人が主張する乙第3号証のような先端がかしめて固定される構造と同じであるのか判別できず、詳細な構造が認定できないことから、イ号物件が乙第2号証に記載されたイモネジ20などの構造と同じ構造であるとまで解することができない。なお、乙第2号証において、硬強度固定式透視窓8の交換時に硬強度透明板13の拘束を解除するためにイモネジ20を用いるとまでは明記されていない。 (2)請求人は、本件特許発明について、「拘束手段による拘束を解除することにより、組み付けた透明樹脂板を枠体から取り出して、別の透明樹脂板を、同じ枠体内に挿入し直して固定することも可能になる。」(第4の1(1)参照)と主張する。 たしかに、本件特許発明は、その文言上、透明樹脂板を枠体に付けたまま壁から取り外した後、拘束手段の拘束を解除して、透明樹脂板を枠体から取り出して、その後、新しい透明樹脂板を取り付けることにより、透明樹脂板を交換可能とするものも含まれると解される。つまり、拘束手段の解除は、枠体が壁に取り付けられた状態のみに限定されるものでないと解される。 また、請求人は、イ号物件について、「日新興業株式会社の説明でも、「アクリル板(透明樹脂板)は窓枠(枠体)ごと防潮壁から取り外し、取り外したアクリル板と窓枠は使い捨てにして廃棄する」とのことである。」(第4の1(2)参照)と主張している。 このことから、イ号物件において、窓枠を捨てるのであれば、アクリル板を窓枠から取り外す必要はないから、部材tは拘束が解除可能でない構造であると解するのが合理的であるともいえる。 よって、請求人の主張は採用できない。 第7 むすび 以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Bを充足しないから、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。 よって、結論のとおり判定する。 |
別掲 |
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判定日 | 2019-01-31 |
出願番号 | 特願2009-288483(P2009-288483) |
審決分類 |
P
1
2・
-
ZB
(E02B)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 草野 顕子 |
特許庁審判長 |
小野 忠悦 |
特許庁審判官 |
井上 博之 須永 聡 |
登録日 | 2013-04-26 |
登録番号 | 特許第5254944号(P5254944) |
発明の名称 | 防潮壁および防潮壁用部品組 |
代理人 | 細見 吉生 |
代理人 | 久門 享 |
代理人 | 久門 保子 |