• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01S
管理番号 1349116
審判番号 不服2016-19269  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-22 
確定日 2019-02-12 
事件の表示 特願2014-257210「利得切替可能な光増幅器」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月 9日出願公開,特開2015-128157〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成26年12月19日(パリ条約による優先権主張2013年12月20日)の出願であって,平成27年11月25日付けで拒絶理由が通知され,平成28年4月1日に手続補正がされ,同年8月17日付けで拒絶査定がされ,これに対して同年12月22日に審判請求がされると同時に手続補正がされ,その後,平成30年1月31日付けで当審より拒絶理由が通知され,同年6月5日に手続補正がされたものである。

2 本願発明
本願発明は,平成30年6月5日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載されている事項により特定されるとおりのものであり,そのうち請求項1に係る発明は,特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される以下のとおりのもの(以下「本願発明」という。)である。

「【請求項1】
入力ポートと,
前記入力ポートに光学的に結合されたバークロススイッチと,
前記バークロススイッチの第1のポートと出力ポートとの間に光学的に結合された第1の利得段と,
前記バークロススイッチの第2のポートと第3のポートとの間に光学的に結合された二次利得段と,
光ビームの入力パワーを測定し,それを入力としてコントローラに提供する入力フォトダイオードと,
光ビームの出力パワーを測定し,それを入力としてコントローラに提供する出力フォトダイオードと
を備える光増幅器であって,前記バークロススイッチのバー状態では,前記二次利得段がバイパスされ,クロス状態では,前記二次利得段および前記第1の利得段が入力光ビームに適用され,
前記コントローラは,1つ又は複数のポンプ源,ならびに前記バークロススイッチのスイッチ状態を制御するために,前記光ビームの入力パワーと前記光ビームの出力パワーの測定値を使用し,
前記二次利得段が,各々が個別の利得平坦化フィルタと,アイソレータと,希土類ドープファイバとを備える複数のカスケード接続利得段を備え,
前記カスケード接続利得段の1つまたは複数が,前の段からの残余ポンプ光を使用する,光増幅器。」

3 刊行物に記載された発明
(1)引用例1: 特開2011-243803号公報
当審において通知した拒絶理由に引用され,本願の優先日前に日本国内において頒布された特開2011-243803号公報(以下「引用例1」という。)には,図1,図3,及び図6とともに以下の記載がある(下線は当審で付加。以下同様。)
「【0004】
ここで,一般的な光ファイバ増幅装置の構成について,図6を参照して説明する。なお,図6に示す光ファイバ増幅装置5の構成は,後述する本発明の光ファイバ増幅装置と基本的な構成部分が同じであるため,ここで,その構成と動作について説明しておく。
図6に示す光ファイバ増幅装置5は,光部品群と励起レーザとで構成され,伝送する信号光を増幅する光モジュール部100Bと,この光モジュール部100Bを制御する電子制御部200Bと,に分類することができる。
【0005】
光モジュール部100Bは,光コネクタ101及び102と,光カプラ111?114と,光検出器であるPD104及び105と,信号光を光直接増幅する媒体であるEDF103と,励起レーザであるLD106及びLD107とで構成される。
この光モジュール部100Bにおいては,光コネクタ101とEDF103の入力端とが光ファイバの伝送路115を通して接続され,また,EDF103の出力端は,光ファイバの伝送路116を通して光コネクタ102に接続される。この光ファイバの伝送路115上には,光検出器であるPD104に信号光を分波するための光カプラ111と,励起レーザであるLD106から出力される励起光を合波するための光カプラ112とが設けられている。また,光ファイバの伝送路116上には,光検出器であるPD105に信号光を分波するための光カプラ114と,励起レーザであるLD107から出力される励起光を合波するための光カプラ113とが設けられている。
【0006】
光カプラ111はPD104と光ファイバにより接続されており,光カプラ111により分波された光信号がPD104に入力される。PD104は,光カプラ111から入力される光信号を検出することにより,光コネクタ101から光モジュール部100Bに入力される光信号のパワー強度を検出する。また,光カプラ114はPD105と光ファイバにより接続されており,光カプラ114により分波された光信号がPD105に入力される。PD105は,光カプラ114から入力される光信号を検出することにより,光コネクタ102から出力される信号光のパワー強度を検出する。
また,光カプラ112はLD106と光ファイバにより接続されており,この光カプラ112を通して,LD106から出力される励起光をEDF103に注入する。また,光カプラ113はLD107と光ファイバにより接続されており,この光カプラ113を通して,LD107から出力される励起光をEDF103に注入する。」
「【0014】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり,本発明の光ファイバ増幅装置は,入力した信号光を第1のEDFにより増幅する光ファイバ増幅装置に,前記第1のEDFのファイバ長を増大させるための増設用の第2のEDFと,前記信号光の伝送経路を変更するための光スイッチとを追加し,前記光スイッチを制御することにより,前記第1のEDFに前記増設用の第2のEDFを直列に接続して信号光を伝送するか,または,前記増設用の第2のEDFを迂回して信号光を伝送するかを選択することを特徴とする。
本発明の光ファイバ増幅装置においては,増設用の第2のEDFと光スイッチとを追加し,この光スイッチを制御することにより,常時使用される第1のEDF(固定的に使用されるEDF)と増設用の第2のEDFと直列に接続し,この増設用の第2のEDFによりファイバ長を延長して光信号を増幅するか,または,増設用の第2のEDFを迂回し,第1のEDFのみより光信号を増幅するかを選択可能にする。
これにより,運用状態においても信号光を遮断することなく,光ファイバ増幅装置の光増幅強度を増大させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光ファイバ増幅装置においては,第1のEDFに対して,第1のEDFのファイバ長を増大させるための増設用の第2のEDFを直列に接続して光信号を伝送するか,または,増設用の第2のEDFを迂回して信号光を伝送するかを,光スイッチにより選択できるようにしたので,これにより,信号光を遮断することなく光増幅強度を増大できる光ファイバ増幅装置を提供できる。」
「【0017】
以下,本発明の光ファイバ増幅装置の実施の形態について,図面を参照して説明する。
図1は,本発明の実施形態に係わる光ファイバ増幅装置の構成を示す図である。図1に示す光ファイバ増幅装置1は,本発明の代表的な構成例として,EDFを用いた光直接増幅器の例を示したものである。
図1に示す光ファイバ増幅装置1が,図6に示す一般的な光ファイバ増幅装置5と構成上異なるのは,図6に示す光ファイバ増幅装置5に,図1に示す光スイッチ108と,光スイッチ109と,符号120で示すEDF増設ポートX1とを新たに追加した点である。このEDF増設ポートX1には,符号130で示す増設EDFモジュールZ1が挿入される。他の構成は図6に示す光ファイバ増幅装置4と同様である。このため,同一の構成部分には同一の符号を付している。
【0018】
図1に示す光ファイバ増幅装置1において,光モジュール部100では,光コネクタ101から信号光を入力し,EDF103(またはEDF103と増設EDFモジュールZ1内のEDF133)により信号光を増幅し,この増幅された信号光を光コネクタ102から出力する。EDF103とEDF133は信号光を光直接増幅する媒体である。PD104及びPD105は,光モジュール部100の入出力信号(光信号)の信号光パワーを検出するための光検出器である。励起レーザであるLD106及びLD107は,EDF103に励起光を注入すると共に,EDF増設ポートX1(120)に実装される増設EDFモジュールZ1(130)内のEDF133に励起光を注入する。
【0019】
光スイッチ108及び光スイッチ109は,信号光および励起光の伝送方向を切り替えるための光スイッチである。また,光コネクタ121及び光コネクタ122は,EDF増設ポートX1に実装される増設EDFモジュールZ1に対して,光信号を入出力するための光コネクタである。光カプラ111及び光カプラ114は,光ファイバの伝送路115及び116に流れる光信号を分波するための光カプラであり,分波した光信号を光検出器であるPD104及びPD105のそれぞれに対して出力する。また,光カプラ112及び光カプラ113は,LD106及びLD107から出力される励起光を,光ファイバの伝送路115及び116において合波するための光カプラである。
【0020】
また,増設EDFモジュールZ1は,EDF増設ポートX1の光コネクタ121と接続するための光コネクタ131と,EDF増設ポートX1の光コネクタ122と接続するための光コネクタ132とを有している。この増設EDFモジュールZ1は,光増幅強度を増大させるためのEDF133が搭載されており,このEDF133の入力端は光コネクタ131に,出力端は光コネクタ132に接続されている。
【0021】
また,上記光スイッチ108は,1つの入力ポートCMと2つの出力ポートA,Bとを有し,入力ポートCMから入力された信号光を2つの出力ポートA,Bの内のいずれかのポートを選択して出力する,1×2の光インターフェースを有する光スイッチである。また,光スイッチ109は,2つの入力ポートC,Dと1つの出力ポートCMとを有し,2つの入力ポートC,Dの内のいずれかのポートから入力される信号光を選択して1つの出力ポートCMに出力する,2×1の光インターフェースを有する光イッチである。
【0022】
この光スイッチ108の入力ポートCMにEDF103の出力端が接続され,光スイッチ108の出力ポートAは,光コネクタ120及び光コネクタ131を介して,増設EDFモジュールZ1内のEDF133の入力端に接続される。光スイッチ108の出力ポートBは,光スイッチ109の入力ポートDに接続される。また,光スイッチ109の入力ポートCは,光コネクタ122及び光コネクタ132を介して,増設EDFモジュールZ1内のEDF133の出力端に接続される。光スイッチ109の入力ポートDは,光スイッチ108の出力ポートBに接続される。
【0023】
また,電子制御部200内の変換部201は,光検出器PD104から出力される光電流の信号を数値データ化するための変換回路であり,変換部202は,光検出器PD105から出力される光電流の信号を数値データ化するための変換回路である。LD制御部203は,LD106から出力される励起光パワーを制御するための回路であり,LD制御部204は,LD107から出力される励起光パワーを制御するための回路である。演算制御部211は,変換部201及び変換部202から出力される光信号の数値データを受信し,信号光を増幅するために必要な励起光パワーを算出し,制御線Sを通してLD制御部203及びLD制御部204に制御データを設定するための演算制御部である。また,演算制御部211は,光スイッチ108と制御線S1で接続されており,この制御線S1を通して,光スイッチ108におけるポート切り替えを制御する。同様に,演算制御部211は,光スイッチ109と制御線S2で接続されており,この制御線S2を通して,光スイッチ109におけるポート切り替えを制御する。
【0024】
図1に示す光ファイバ増幅装置1の構成において,光スイッチ108はEDF103から入力される信号光を,EDF増設ポートX1の光コネクタ121に出力するか,またはEDF増設ポートX1を迂回して光スイッチ109のポートDに出力するかを選択する。光スイッチ109は,EDF増設ポートX1の光コネクタ122から入力される信号光,または光スイッチ108のポートBから入力される信号光のいずれか選択し,光コネクタ102から出力する。
【0025】
光ファイバ増幅装置1が,初期の光増幅強度で信号光を増幅している運用状態においては,光スイッチ108のポートB,光スイッチ109のポートDを選択することにより,EDF103だけで増幅された信号光を光コネクタ102から出力される。ここで,光ファイバ増幅装置1の信号光パワーの光増幅強度を増大させる場合,EDF増設ポートX1に増設EDFモジュールZ1を実装し,光スイッチ108のポートA,光スイッチ109のポートCを選択する。これにより,増設EDFモジュールZ1(130)に,信号光と,LD106及びLD107からの励起光パワーとが流入し,EDF103と,増設EDFモジュールZ1内のEDF133の両方で信号光が増幅される。このように,本発明の光ファイバ増幅装置1では,光スイッチ108及び109を制御することにより,運用状態においても信号光を遮断することなく,光ファイバ増幅装置1における光増幅強度を増大させることが可能となる。」
「【0028】
また,図1に示す例では,光スイッチ108及び光スイッチ109は,1×2及び2×1の光インターフェースを有する光スイッチで構成されているが,信号光の伝送方向を切り替えることが可能な構成な光スイッチであれば,どのような構成のものであってもよい。また,光スイッチ108及び109の制御方式については,演算制御部211からのスイッチ切り替え制御が可能な方式であれば,どのような制御方式を用いてもよい。」
「【0032】
また,EDF103及び増設EDFモジュールZ1内のEDF133の前後に,信号光の信号品質を維持するために光利得等化器(GEQ),光減衰器(VOA),光利得傾斜器(VASK),光アイソレータ等の光デバイスを接続する構成とすることもできる。なお,光デバイスを用いた光ファイバ増幅装置の特性,および機能などは当業者にとって良く知られており,また本発明とは直接関係しないので,その詳細は省略する。なお,信号光パワーおよび励起光パワーが低減しないように,光スイッチ108,光スイッチ109,光カプラ111,光カプラ112,光カプラ113,及び光カプラ114の光学的損失は出来るだけ小さい方が良い。同様に,光コネクタ101,光コネクタ102,光コネクタ121,光コネクタ122,光コネクタ131,及び光コネクタ132の光学的損失は出来るだけ小さい方が良い。」
「【0040】
[第2の実施形態]
次に,本発明の第2の実施形態について説明する。図3は,本発明の第2の実施形態に係わる光ファイバ増幅装置の構成を示す図である。図3に示す光ファイバ増幅装置2の構成は,図1に示す光ファイバ増幅装置1と比較して,基本的な構成は同じであるが,更に,光スイッチ141と,光スイッチ142と,符号150で示すEDF増設ポートX2とを追加した点が異なる。他の構成は図1に示す光ファイバ増幅装置1と同様である。このため,同一の構成部分には同一の符号を付し,重複する説明は省略する。
【0041】
・・・(中略)・・・
【0045】
図3に示す光ファイバ増幅装置2では,まず初期構成において演算制御部211により光スイッチ141及び光スイッチ142を制御し,光スイッチ141のポートF,および光スイッチ142のポートHを選択しておく。そして,初期構成の運用状態から,EDF増設ポートX1に増設EDFモジュールZ1を実装して拡張構成の運用状態とした後に,更に光ファイバ増幅装置2の光増幅強度を増大したい場合は,EDF増設ポートX2に増設EDFモジュールZ2を実装する。
そして,演算制御部211から光スイッチ141及び光スイッチ142を制御し,光スイッチ141のポートEおよび光スイッチ142のポートGを選択する。この構成により,EDF103と,EDF133と,EDF163とがあたかも直列に接続される構成となり,これらのEDF103,133,163のそれぞれにLD106及びLD107から励起光を注入することが可能となる。これにより,EDF103と,EDF133と,EDF163とを用いて信号光を増幅することができる。
【0046】
上記構成により,光ファイバ増幅装置2が増設EDFモジュールZ1を用いた拡張構成にて運用状態であっても,更に増設EDFモジュールZ2を増設することが可能となり,信号光を遮断することなく,光増幅強度を増大させることが可能となる。なお,第2の実施形態では,EDF増設ポートX1とEDF増設ポートX2とを2段に直列に接続する構成例を示したが,更に拡張して,EDF増設ポートを多段(3段以上)に直列に接続する構成とすることもできる。この場合,多段のEDF増設ポートに対して,所望の個数の増設EDFモジュールを装着することにより,光ファイバ増幅装置における増幅強度を可変に設定することができる。」

ここで,図1は以下のものである。


イ 以上の記載から,引用例1には以下の発明が記載されているものと認められる(以下「引用発明」という。)。

「光ファイバ増幅装置1であって,光モジュール部100及び電子制御部200からなり,
光モジュール部100では,光コネクタ101から信号光を入力し,EDF103(またはEDF103と増設EDFモジュールZ1内のEDF133)により信号光を増幅し,この増幅された信号光を光コネクタ102から出力し,
EDF103とEDF133は信号光を光直接増幅する媒体であり,
PD104及びPD105は,光モジュール部100の入出力信号(光信号)の信号光パワーを検出するための光検出器であり,
励起レーザであるLD106及びLD107は,EDF103に励起光を注入すると共に,EDF増設ポートX1(120)に実装される増設EDFモジュールZ1(130)内のEDF133に励起光を注入するものであり,
光スイッチ108及び光スイッチ109は,信号光および励起光の伝送方向を切り替えるための光スイッチであって,
光スイッチ108はEDF103から入力される信号光を,EDF増設ポートX1の光コネクタ121に出力するか,またはEDF増設ポートX1を迂回して光スイッチ109のポートDに出力するかを選択し,光スイッチ109は,EDF増設ポートX1の光コネクタ122から入力される信号光,または光スイッチ108のポートBから入力される信号光のいずれか選択し,光コネクタ102から出力するものであり,
電子制御部200内は,変換部201,変換部202,LD制御部203,LD制御部204,演算制御部211を備え,
変換部201は,光検出器PD104から出力される光電流の信号を数値データ化するための変換回路であり,
変換部202は,光検出器PD105から出力される光電流の信号を数値データ化するための変換回路であり,
LD制御部203は,LD106から出力される励起光パワーを制御するための回路であり,
LD制御部204は,LD107から出力される励起光パワーを制御するための回路であり,
演算制御部211は,変換部201及び変換部202から出力される光信号の数値データを受信し,信号光を増幅するために必要な励起光パワーを算出し,制御線Sを通してLD制御部203及びLD制御部204に制御データを設定するための演算制御部であり,また,演算制御部211は,光スイッチ108と制御線S1で接続されており,この制御線S1を通して,光スイッチ108におけるポート切り替えを制御し,同様に,演算制御部211は,光スイッチ109と制御線S2で接続されており,この制御線S2を通して,光スイッチ109におけるポート切り替えを制御するものであり,
光スイッチ108及び109を制御することにより,運用状態においても信号光を遮断することなく,光増幅強度を増大させることが可能である,
光ファイバ増幅装置1。」

(2)引用例2:国際公開第2005/018065号
ア 当審において通知した拒絶理由に引用され,本願の優先日前に外国において頒布された国際公開第2005/018065号(以下「引用例2」という。)には,第1図とともに以下の記載がある。
「図1は,本発明の実施形態にかかる光増幅装置1の構成を示す図である。光増幅装置1は,入射した光を増幅して出射する。
光増幅装置1は,第一前置光ファイバ増幅器12,第一前置励起光源14,第一WDMカプラ(第一前置励起光導入手段)16,第一後置光ファイバ増幅器18,第二前置光ファイバ増幅器22,第二前置励起光源24,第二WDMカプラ(第二前置励起光導入手段)26,第二後置光ファイバ増幅器28,後置励起光源34,後置WDMカプラ(後置励起光導入手段)36,光アイソレータ42,44,46,光スイッチ(光接続手段)50を備える。
・・・(中略)・・・
第二前置光ファイバ増幅器22は,端子51と端子54とが接続されている場合に,第一後置光ファイバ増幅器18の出射光を増幅して出射する。第二前置光ファイバ増幅器22は,例えば,Er(Erbium:エルビウム)添加光ファイバである。
・・・(中略)・・・
第二後置光ファイバ増幅器28は,第二前置光ファイバ増幅器22の出射光を増幅して出射する。第二後置光ファイバ増幅器28は,例えば,Er(Erbium:エルビウム)添加光ファイバである。ただし,第二後置光ファイバ増幅器28の励起光は,後置励起光源34(端子52と端子53とが接続されている場合)からもたらされる。
・・・(中略)・・・
光スイッチ50は,(1)端子51と端子52とを接続する,あるいは(2)端子51と端子54とを接続すると共に,端子52と端子53とを接続する。
(1)端子51と端子52とを接続する場合,第一後置光ファイバ増幅器18の出射側と,後置WDMカプラ36とが接続される。
(2)端子51と端子54とを接続すると共に,端子52と端子53とを接続する場合,第一後置光ファイバ増幅器18の出射側と,第二前置光ファイバ増幅器22の入射側とが接続されると共に,後置WDMカプラ36と第二後置光ファイバ増幅器28の出射側とが接続される。」

イ ここで,図1は以下のものである。


上記図1から,第二前置光ファイバ増幅器22及び第二後置光ファイバ増幅器28は,光スイッチの端子53と54の間に直列に配置されていることが見て取れる。

ウ 以上の記載から,引用例2には以下の発明が記載されているものと認められる。
「光増幅装置1であって,
第一前置光ファイバ増幅器12,第一前置励起光源14,第一WDMカプラ(第一前置励起光導入手段)16,第一後置光ファイバ増幅器18,第二前置光ファイバ増幅器22,第二前置励起光源24,第二WDMカプラ(第二前置励起光導入手段)26,第二後置光ファイバ増幅器28,後置励起光源34,後置WDMカプラ(後置励起光導入手段)36,光アイソレータ42,44,46,光スイッチ(光接続手段)50を備え,
第二前置光ファイバ増幅器22及び第二後置光ファイバ増幅器28は,光スイッチ50の端子53と54の間に直列に配置され,
光スイッチ50は,
(1)端子51と端子52とを接続する,あるいは
(2)端子51と端子54とを接続すると共に,端子52と端子53とを接続し,
(1)端子51と端子52とを接続する場合,第一後置光ファイバ増幅器18の出射側と,後置WDMカプラ36とが接続され,
(2)端子51と端子54とを接続すると共に,端子52と端子53とを接続する場合,第一後置光ファイバ増幅器18の出射側と,第二前置光ファイバ増幅器22の入射側とが接続されると共に,後置WDMカプラ36と第二後置光ファイバ増幅器28の出射側とが接続されるものであり,
第二前置光ファイバ増幅器22は,端子51と端子54とが接続されている場合に,第一後置光ファイバ増幅器18の出射光を増幅して出射する,例えば,Er(Erbium:エルビウム)添加光ファイバであり,第二後置光ファイバ増幅器28は,第二前置光ファイバ増幅器22の出射光を増幅して出射する,例えば,Er(Erbium:エルビウム)添加光ファイバである,
光増幅装置1。」

4 対比
(1)本願発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「光コネクタ101」及び「光コネクタ102」は,それぞれ本願発明の「入力ポート」及び「出力ポート」に相当する。

イ 引用発明においては,「光コネクタ101から信号光を入力し,EDF103(またはEDF103と増設EDFモジュールZ1内のEDF133)により信号光を増幅」するところ,「EDF103とEDF133は信号光を光直接増幅する媒体であ」るから,「EDF103から入力される信号光を,EDF増設ポートX1の光コネクタ121に出力するか,またはEDF増設ポートX1を迂回して光スイッチ109のポートDに出力するかを選択」する「光スイッチ108」は,光コネクタ101に光学的に結合されたものといえる。よって,引用発明の「光スイッチ108」は,本願発明の「前記入力ポートに光学的に結合されたバークロススイッチ」とは,「前記入力ポートに光学的に結合された光スイッチ」である点で一致する。

ウ 引用発明の「光スイッチ108はEDF103から入力される信号光を,EDF増設ポートX1の光コネクタ121に出力するか,またはEDF増設ポートX1を迂回して光スイッチ109のポートDに出力するかを選択」するものであるから,引用発明の「EDF増設ポートX1(120)に実装される増設EDFモジュールZ1(130)内のEDF133」と,本願発明の「前記バークロススイッチの第2のポートと第3のポートとの間に光学的に結合された二次利得段」とは,「前記光スイッチを介して光学的に結合された二次利得段」である点で一致する。

エ 引用発明においては,「PD104及びPD105は,光モジュール部100の入出力信号(光信号)の信号光パワーを検出するための光検出器であり」,「変換部201は,光検出器PD104から出力される光電流の信号を数値データ化するための変換回路であり,」「変換部202は,光検出器PD105から出力される光電流の信号を数値データ化するための変換回路であり,」「演算制御部211は,変換部201及び変換部202から出力される光信号の数値データを受信」するから,前記「PD104」及び「PD105」は,それぞれ,本願発明の「光ビームの入力パワーを測定し,それを入力としてコントローラに提供する入力フォトダイオード」及び「光ビームの出力パワーを測定し,それを入力としてコントローラに提供する出力フォトダイオード」に相当する。

オ 引用発明においては,「光スイッチ108はEDF103から入力される信号光を,EDF増設ポートX1の光コネクタ121に出力するか,またはEDF増設ポートX1を迂回して光スイッチ109のポートDに出力するかを選択し,光スイッチ109は,EDF増設ポートX1の光コネクタ122から入力される信号光,または光スイッチ108のポートBから入力される信号光のいずれか選択し,光コネクタ102から出力するものであ」ることと,本願発明の「前記バークロススイッチのバー状態では,前記二次利得段がバイパスされ,クロス状態では,前記二次利得段および前記第1の利得段が入力光ビームに適用され」ることとは,「前記光スイッチの接続状態には,前記二次利得段がバイパスされる接続状態と,前記二次利得段が入力光ビームに適用される接続状態があ」る点で一致する。

カ 引用発明の「演算制御部211は,変換部201及び変換部202から出力される光信号の数値データを受信し,信号光を増幅するために必要な励起光パワーを算出し,制御線Sを通してLD制御部203及びLD制御部204に制御データを設定するための演算制御部であり,また,演算制御部211は,光スイッチ108と制御線S1で接続されており,この制御線S1を通して,光スイッチ108におけるポート切り替えを制御し,同様に,演算制御部211は,光スイッチ109と制御線S2で接続されており,この制御線S2を通して,光スイッチ109におけるポート切り替えを制御するものであ」ることと,本願発明の「前記コントローラは,1つ又は複数のポンプ源,ならびに前記バークロススイッチのスイッチ状態を制御するために,前記光ビームの入力パワーと前記光ビームの出力パワーの測定値を使用」することとは,「前記コントローラは,1つ又は複数のポンプ源,ならびに前記光スイッチのスイッチ状態を制御するために,前記光ビームの入力パワーと前記光ビームの出力パワーの測定値を使用する」点で一致する。

キ 引用発明の「光ファイバ増幅装置1」は,本願発明の「光増幅器」に相当する。

(2)以上から,本願発明と引用発明とは,以下の点で一致する。
「入力ポートと,
前記入力ポートに光学的に結合された光スイッチと,
前記光スイッチを介して光学的に結合された二次利得段と,
光ビームの入力パワーを測定し,それを入力としてコントローラに提供する入力フォトダイオードと,
光ビームの出力パワーを測定し,それを入力としてコントローラに提供する出力フォトダイオードと
を備える光増幅器であって,前記光スイッチの接続状態には,前記二次利得段がバイパスされる接続状態と,前記二次利得段が入力光ビームに適用される接続状態があり,
前記コントローラは,1つ又は複数のポンプ源,ならびに前記光スイッチのスイッチ状態を制御するために,前記光ビームの入力パワーと前記光ビームの出力パワーの測定値を使用する,
光増幅器。」

(3)一方,両者は以下の各点で相違する。
《相違点1》
本願発明は「前記入力ポートに光学的に結合されたバークロススイッチ」を備えるのに対して,引用発明は「前記入力ポートに光学的に結合された光スイッチ」は備えるものの,「バークロススイッチ」を備えることまでは特定されていない点。

《相違点2》
本願発明は「前記バークロススイッチの第1のポートと出力ポートとの間に光学的に結合された第1の利得段」を備えるが,引用発明は当該構成を備えない点。

《相違点3》
本願発明は「前記バークロススイッチの第2のポートと第3のポートとの間に光学的に結合された二次利得段」を備えるのに対して,引用発明は「光スイッチを介して光学的に結合された二次利得段」は備えるものの,本願発明に係る前記構成は備えない点。

《相違点4》
本願発明においては,「前記バークロススイッチのバー状態では,前記二次利得段がバイパスされ,クロス状態では,前記二次利得段および前記第1の利得段が入力光ビームに適用され」るものであるのに対して,引用発明においては,「光スイッチの接続状態には,前記二次利得段がバイパスされる接続状態と,前記二次利得段が入力光ビームに適用される接続状態があ」るものの,本願発明に係る前記構成は備えない点。

《相違点5》
本願発明においては,「前記コントローラは,1つ又は複数のポンプ源,ならびに前記バークロススイッチのスイッチ状態を制御するために,前記光ビームの入力パワーと前記光ビームの出力パワーの測定値を使用する」ものであるのに対して,引用発明においては,「前記コントローラは,1つ又は複数のポンプ源,ならびに前記光スイッチのスイッチ状態を制御するために,前記光ビームの入力パワーと前記光ビームの出力パワーの測定値を使用する」ものであるものの,「前記バークロススイッチのスイッチ状態を制御するために,前記光ビームの入力パワーと前記光ビームの出力パワーの測定値を使用する」ものではない点。

《相違点6》
本願発明においては,「前記二次利得段が,各々が個別の利得平坦化フィルタと,アイソレータと,希土類ドープファイバとを備える複数のカスケード接続利得段を備え」るのに対して,引用発明は「二次利得段」に対応する構成は備えるものの,「各々が個別の利得平坦化フィルタと,アイソレータと,希土類ドープファイバとを備える複数のカスケード接続利得段を備え」ない点。

《相違点7》
本願発明においては,「前記カスケード接続利得段の1つまたは複数が,前の段からの残余ポンプ光を使用する」のに対して,引用発明は当該構成を備えない点。

5 判断
(1)まず,相違点1,3?5について,まとめて検討する。
例えば,3(2)で摘記した引用例2における「光スイッチ50」のほか,以下の各周知文献に記載されているように,バー状態とクロス状態を切り換えることにより光路の切替を行う光スイッチ(本願発明における「バークロススイッチ」)は周知のものである。

周知例1:特開2007-65034号公報
当審において通知した拒絶理由に引用され,本願の優先日前に日本国内において頒布された特開2007-65034号公報(以下「周知例1」という。)には,図10とともに以下の記載がある
「【0002】
各種光学機器には,図10に示すようなクロス型の光スイッチ10が使用されているものがある。クロス型の光スイッチ10は,4本の光ファイバF1?F4のうち,図10の(a)のように光ファイバF1,F2の端部間および光ファイバF3,F4の端部間が光学的に接続された第1状態と,図10の(b)のように,光ファイバF1,F4の端部間および光ファイバF2,F3の端部間が光学的に接続された第2状態の切り換えが可能になっている。」
ここで,図10は以下のものである。


周知例2:特開昭57-109903号公報
当審において通知した拒絶理由に引用され,本願の優先日前に日本国内において頒布された特開昭57-109903号公報(以下「周知例2」という。)には,第2図(イ)(ロ)とともに以下の記載がある。
「・・・,サブステーションSTの非作動時には第2図(イ)に示す如く端子AとBとを光学的に接続し,バイパスラインBLをトランクラインTLから切り離しておき,サブステーションSTの動作時には第2図(ロ)に示す如く端子AとC及び端子DとBを夫々光学的に接続し,トランクラインTLにバイパススラインBLを介入させてトランクラインTLの光信号をバイパススラインBLの信号処理装置SPに導き,・・・」
ここで,第2図(イ)(ロ)は以下のものである。


そして,引用発明は,「信号光および励起光の伝送方向を切り替えるための光スイッチ」として「光スイッチ108及び光スイッチ109」を用いるものであるところ,引用例1には,「光スイッチ108及び光スイッチ109は,1×2及び2×1の光インターフェースを有する光スイッチで構成されているが,信号光の伝送方向を切り替えることが可能な構成な光スイッチであれば,どのような構成のものであってもよい」(段落【0028】)と記載されているから,1×2及び2×1の光インターフェースを有する光スイッチ以外の光スイッチを用い得ることは明らかである。
それゆえ,引用発明において,「信号光および励起光の伝送方向を切り替えるための光スイッチ」として,「光スイッチ108及び光スイッチ109」を用いるものに代えて,前記周知のものである,バー状態とクロス状態を切り換えることにより光路の切替を行う光スイッチ(以下「バークロススイッチ」という。)を用いることは,当業者が適宜になし得たことである。
この際,前記バークロススイッチが備える4つのポートのうちの二つのポートは,それぞれ入力側及び出力側に接続され,残り二つのポートの間(本願発明における「第2のポートと第3のポートとの間」)に「光学的に結合された二次利得段」を備え(相違点3),「前記バークロススイッチのバー状態では,前記二次利得段がバイパスされ,クロス状態では,前記二次利得段および前記第1の利得段が入力光ビームに適用され」る(相違点4)ことになり,また,「コントローラ」が「前記バークロススイッチのスイッチ状態を制御するために,前記光ビームの入力パワーと前記光ビームの出力パワーの測定値を使用する」もの(相違点5)となることは明らかである。
よって,引用発明において,相違点1,3?5に係る構成を備えることは,当業者が適宜になし得たことである。

(2)相違点2について検討する。
引用発明においては,入力側にEDF103を設け,これに続いて光スイッチ108とともにEDF133を設け,一つのEDFで増幅するか,あるいは二つのEDFで増幅するかを切り換えるものであって,前記各EDFの配置順を入れ替えて,光スイッチとともに設けるEDFを入力側に設けても同様の動作ができることは明らかである。また,上記(1)のとおり,引用発明において光スイッチとして「バークロススイッチ」を採用することは当業者が適宜になし得たことであるから,引用発明において,入力側にバークロススイッチとともにEDF133を設け,これに続いてEDF103を設けて,「前記バークロススイッチの第1のポートと出力ポートとの間に光学的に結合された第1の利得段」を設けることは当業者が適宜になし得たことである。

(3)相違点6について検討する。
前記3(2)ウに記載したとおり,引用例2には,
「第二前置光ファイバ増幅器22及び第二後置光ファイバ増幅器28は,光スイッチ50の端子53と54の間に直列に配置され,
光スイッチ50は,
(1)端子51と端子52とを接続する,あるいは
(2)端子51と端子54とを接続すると共に,端子52と端子53とを接続し,
・・・(中略)・・・
第二前置光ファイバ増幅器22は,端子51と端子54とが接続されている場合に,第一後置光ファイバ増幅器18の出射光を増幅して出射する,例えば,Er(Erbium:エルビウム)添加光ファイバであり,第二後置光ファイバ増幅器28は,第二前置光ファイバ増幅器22の出射光を増幅して出射する,例えば,Er(Erbium:エルビウム)添加光ファイバである」構成を備える光増幅器が記載されている。
すなわち,引用例2には,光スイッチによってバイパスする,あるいは適用するかを選択できる利得段を,複数の「Er(Erbium:エルビウム)添加光ファイバ」(すなわち希土類ドープファイバ)を備える技術が記載されており,引用発明においても,必要な光増幅度を得るために,上記引用例2に係る構成を採用することは当業者が適宜になし得たことである。
また,希土類ドープファイバとともに利得平坦化フィルタ(等価器)を用いることは,引用例1の段落【0032】に「EDF103及び増設EDFモジュールZ1内のEDF133の前後に,信号光の信号品質を維持するために光利得等化器(GEQ),・・・(中略)・・・等の光デバイスを接続する構成とすることもできる。」と記載されているほか,以下の周知例3にも示されているように,周知の技術である。

周知例3:特開2003-46174号公報
当審において通知した拒絶理由に引用され,本願の優先日前に日本国内において頒布された特開2003-46174号公報(以下「周知例3」という。)には,図6とともに以下の記載がある。
「【0017】 ・・・(中略)・・・図6は,EDFに対して利得等化器41を挿入してEDFAを構成した例である。この例では,利得等化器41を挿入することによって,EDFによる利得を平坦化することができる。」

さらに,光増幅器において,希土類ドープファイバの前のアイソレータと利得平坦化フィルタを迂回する構成のポンプバイパス構造を設けることは,以下の各周知例にも記載されているように,周知の技術である。

周知例4:特開2009-272570号公報
当審において通知した拒絶理由に引用され,本願の優先日前に日本国内において頒布された特開2009-272570号公報(以下「周知例4」という。)には,図3とともに以下の記載がある。
「【0034】
励起光源160から出射した1440nmの励起光は,P-EDF101の前段に配置した合波器111で信号光と合波される。その後,P-EDF101とP-EDF102で励起光の一部が吸収され,P-EDF102を出射した励起光は,分波器109で信号光と分離され,合波器112に導かれた後,合波器121で信号光と合波される。その後,P-EDF103で励起光の一部が吸収され,P-EDF103で励起光の一部が吸収され,P-EDF103を出射した励起光は,P-EDF103の後段に設置した合分波器110で信号光と分離され,合分波器110の励起光通過用ポートに接続した励起光反射器170で反射され,合分波器110を逆戻りして,再びP-EDF103を励起する。」

周知例5:特開2003-298157号公報
当審において通知した拒絶理由に引用され,本願の優先日前に日本国内において頒布された特開2003-298157号公報(以下「周知例5」という。)には,図3とともに以下の記載がある。
「【0018】第2波長選択結合器350は,第1エルビウム添加光ファイバ340から入力される光信号および残余ポンピング光を分離し,分離した分離光信号を第2アイソレータ360に出力し,分離した残余ポンピング光は第3波長選択結合器370に出力する。第2アイソレータ360は,第2波長選択結合器350から入力された光信号をそのまま通過させ,その逆方向から入力される光信号は遮断する。利得平坦化フィルタ500は中間フィルタであって,第2アイソレータ360から入力された光信号の利得を平坦化する。」

そして,希土類ドープファイバの前にアイソレータを設けることにより,自然放出雑音(ASE)の影響が減少することは,以下の周知例にも記載されているように,当業者に周知の事項である。

周知例A:特開平6-85370号公報
本願の優先日前に日本国内において頒布された特開平6-85370号公報(以下「周知例A」という。)には,図1とともに以下の記載がある。
「【0017】ところで,信号光入力側の光増幅ファイバ6によって発生した自然放出光は,信号光と同じ波長帯なので,合分波器9,光アイソレータ11および合分波器10を介して信号光出力側の光増幅ファイバ7に伝搬されて信号光とともに増幅されて出力されるが,信号光出力側の光増幅ファイバ7によって発生した自然放出光は,同じく信号光と同じ波長帯なので,合分波器10を通過して光アイソレータ11によって遮断され,信号光入力側の光増幅ファイバ6へは伝搬しない。
【0018】本実施例の光ファイバ増幅器では,信号光入力側の光増幅ファイバ6による増幅と信号光出力側の光増幅ファイバ7による増幅との2段の増幅を行っているので,全体の雑音指数を決定する度合が大きい信号光入力側の光増幅ファイバ6に信号光出力側の光増幅ファイバ7によって発生した自然放出光を伝搬させないことは,全体の雑音指数を小さくする上で大きな役割を果たす。」
ここで,図1は以下のものである。


周知例B:米国特許第6424457号明細書
本願の優先日前に外国において頒布された米国特許第6424457号明細書(以下「周知例B」という。)には,FIG.3とともに以下の記載がある。
「A pump coupler such as a wavelength division multiplexing coupler 38 or any other suitable coupler may be used to couple pump power from pump 36 into coil 40 . Residual pump power from coil 40 may be separated from the main fiber path using coupler 42 and provided to coil 50 via bypass fiber 48 and coupler 46 . An isolator 44 may be used to prevent backwards-propagating light due to spontaneous emission in coil 50 from adversely affecting the noise figure in coil 40 .」(4欄25?33行)
(日本語訳:ポンプ36からのポンプパワーをコイル40に結合するために,波長分割多重カップラ38などのポンプカプラまたは他の適切なカプラを使用することができる。コイル40からの残留ポンプ電力は,カプラ42を用いて主ファイバ経路から分離され,バイパスファイバ48およびカプラ46を介してコイル50に供給される。コイル50における自然放出による後方伝播光がコイル40におけるノイズ指数に悪影響を及ぼすのを防止するために,アイソレータ44を使用することができる。)
ここで,FIG.3は以下のものである。


したがって,引用発明の二次利得段において,引用例2に記載された発明に係る複数の希土類ドープファイバとともに,それぞれ周知技術である,アイソレータ及び利得平坦化フィルタを組み合わせて,「各々が個別の利得平坦化フィルタと,アイソレータと,希土類ドープファイバとを備える複数のカスケード接続利得段を備え」ることは,当業者が適宜になし得たことである。
よって,引用発明において,相違点6に係る構成を備えることは,当業者が適宜になし得たことである。

(4)相違点7について検討する。
複数の希土類ドープファイバからなる,多段(すなわち「カスケード接続利得段」)の光増幅器において,一つの励起光源を入力側において結合し,前記複数の希土類ドープファイバの励起を,前記一つの励起光源により行うことは,前記周知例4(例えば図22参照。)のほか,以下の各周知例にも記載されているような周知技術であって,当該周知技術においては,前段の希土類ドープファイバを励起した残余の励起光が,後段の希土類ドープファイバを励起することは当然のことである。

周知例4には,図22とともに,更に以下の記載がある。
「【0076】
励起光源160から発した励起光は,P-EDF101,分波器109,合波器604,P-EDF605,分波器606,合波器112を経て,P-EDF103に入射する。(後略)」

周知例6:特開2001-313433号公報
当審において通知した拒絶理由に引用され,本願の優先日前に日本国内において頒布された特開2001-313433号公報(以下「周知例6」という。)には,図5,6とともに以下の記載がある。
「【0079】図6には,図5の構成に於いて所定利得を得るための必要な増幅媒体1を複数に分割して,その間にそれぞれ利得等化器を配置し,光増幅器内の全体の増幅媒体で長手方向に分布的又は分散的に利得等化器を配置けた場合を示している。
【0080】図中11,12,13はシリカ系エルビウムドープファイバ(EDF),21,22,23は利得等化器(GEQ),31及び32は光アイソレータ,4は励起光源,5は波長多重カプラ,8は入力端,9は出力端,71,72は光分岐カプラ,81は入力モニタPD,82は出力モニタPD,50は利得一定制御回路(AGC)をそれぞれ示す。」
ここで,図6は以下のものである。


周知例7:特開平10-135544号公報
当審において通知した拒絶理由に引用され,本願の優先日前に日本国内において頒布された特開平10-135544号公報(以下「周知例7」という。)には,図1とともに以下の記載がある。
「【0021】図1は本発明の光増幅器の一実施の形態を示すブロック図である。尚,図5に示した従来例と同様の部材には共通の符号を用いた。
【0022】同図に示すように信号光Liが入力される光ファイバ1が光アイソレータ2を介して第1の希土類添加光ファイバ3の入力側に接続されると共にその間に,光合分波器4が接続され,光合分波器4には励起光源5が接続されている。希土類添加光ファイバ3の出力側は第2の希土類添加光ファイバ11の入力側が接続されると共にその間に,他の光合分波器12が接続されている。第2の希土類添加光ファイバ11の出力側は第3の希土類添加光ファイバ13の入力側が接続されると共にその間に,さらに他の光合分波器14が接続されている。光合分波器14は第2の光合分波器12と光ファイバ15で接続されている。希土類添加光ファイバ13の出力側には増幅された信号光Loが出力される光ファイバ7が光アイソレータ6を介して接続されて光増幅器16が構成されている。
・・・(中略)・・・
【0024】従って,励起光は第1の希土類添加光ファイバ3と第3の希土類添加光ファイバ13とを通過しこれらを励起するが,第2の希土類添加光ファイバ11は迂回するので第2の希土類添加光ファイバ11を励起することはない。一方,信号光Liは第1の希土類添加光ファイバ3,第2の希土類添加光ファイバ11及び第3の希土類添加光ファイバ13の順に通過するので,増幅される途中で,励起されていない第2の希土類添加光ファイバ11において一部吸収される。この結果,光増幅器16の波長利得特性が平坦化される。」

そして,引用発明においても複数の希土類ドープファイバからなる,多段の光増幅器であるところ,各希土類ドープファイバについて個々の励起光源を設けることに代えて,前記周知技術を用いることは,当業者が適宜になし得たことである。
ここで,前記(3)のとおり,二次利得段において,複数の希土類ドープファイバとともにそれぞれ利得平坦化フィルタ及びアイソレータを組み合わせたものであっても,より前段の希土類ドープファイバを励起した残余の励起光が,より後段の希土類ドープファイバを励起することは明らかである。
よって,引用発明において,相違点7に係る構成を備えることは,当業者が適宜になし得たことである。

(5)以上検討したとおり,引用発明において,相違点1?7に係る構成を備えることは,いずれも当業者が適宜になし得たことである。
したがって,本願発明は,周知技術を勘案して,引用発明及び引用例2に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6 むすび
以上のとおりであるから,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-09-07 
結審通知日 2018-09-10 
審決日 2018-09-26 
出願番号 特願2014-257210(P2014-257210)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 秀樹  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 星野 浩一
近藤 幸浩
発明の名称 利得切替可能な光増幅器  
代理人 実広 信哉  
代理人 阿部 達彦  
代理人 村山 靖彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ